《速報解説》 ASBJ、「グループ通算制度を適用する場合の 会計処理及び開示に関する取扱い(案)」を公表 ~法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理等への対応示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月30日、企業会計基準委員会は、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第61号。以下「実務対応報告(案)」という)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされたことに対応するものである。 意見募集期間は2021年6月11日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 グループ通算制度 連結納税制度は企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は次の特徴をもつ(実務対応報告(案)38項)。 2 実務対応報告(案)の基本的な方針 グループ通算制度を適用する場合の実務対応報告(案)の開発にあたっては、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除いて、次のものを踏襲している(実務対応報告(案)39項)。 また、実務対応報告(案)は、実務対応報告(案)に定めのあるものを除いて、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号。以下「法人税等会計基準」という)又は「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という)等の定めに従うこととし(実務対応報告(案)6項、8項)、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示している(実務対応報告(案)40項)。 3 適用範囲 グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(実務対応報告(案)3項)。 実務対応報告(案)は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については取り扱っていない(実務対応報告(案)3項)。 4 法人税及び地方法人税に関する会計処理 次のとおりである(実務対応報告(案)6項、7項)。 5 税効果会計に関する基本的な会計処理 次のとおりである(実務対応報告(案)8項)。 6 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性 個別財務諸表において次のとおりである(実務対応報告(案)13項)。 連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体について回収可能性適用指針6項から34項に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は、連結上修正する(実務対応報告(案)14項)。 7 投資簿価修正 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は、一時差異と同様に取り扱うとし、個別財務諸表及び連結財務諸表の会計処理が規定されている(実務対応報告(案)19項、20項)。 8 適用時、加入時及び離脱時の取扱い グループ通算制度を新たに適用する場合の取扱い、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合の取扱い(加入)、株式の売却等によって、通算子会社でなくなる場合の取扱い(離脱)が規定されている(実務対応報告(案)21項から23項)。 Ⅲ 適用時期等 税効果会計の会計処理及び開示に関する経過的な取扱いなどが規定されているので、実際の適用に際して注意する(実務対応報告(案)32項、33項)。 (了)
《速報解説》 ASBJ、電気・ガス事業における検針日基準の取扱いに対応した 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の改正を確定 ~適用は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月26日、企業会計基準委員会は、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(改正企業会計基準適用指針第30号)を公表した。 これにより、2020年12月25日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、電気事業及びガス事業において、毎月、月末以外の日に実施する検針による顧客の使用量に基づき収益計上が行われる実務(いわゆる検針日基準)の取扱いを規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 原則的な処理 検針日基準による収益認識を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない(収益認識適用指針164項)とは認められないと判断し、収益認識会計基準の定めどおり、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積もることが必要である(収益認識適用指針176-3項)。 2 重要性等に関する代替的な取扱い 決算日時点での販売量実績が入手できないことにより、見積りと実績を事後的に照合する形で見積りの合理性を検証することができないなど、見積りの適切性を評価することが困難であるとの意見がある(収益認識適用指針176-3項)。 このため、次のように、「重要性等に関する代替的な取扱い」(電気事業及びガス事業における毎月の検針による使用量に基づく収益認識)を設ける(収益認識適用指針103-2項、176-4項)。 Ⅲ 適用時期等 2020年改正の収益認識会計基準の適用時期等と同様に、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年3月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.412を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第4回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 5 検討 (1) 不当性要件該当性について わが国では、法人税法上、特定の状況における一般的「租税回避」否認規定として、〈1〉同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)、〈2〉組織再編成の行為計算否認規定(法人税法132条の2)、〈3〉連結法人の行為計算否認規定(法人税法132条の3)、及び〈4〉外国法人の恒久的施設帰属所得の行為計算否認規定(法人税法147条の2)が設けられているが、近年、〈1〉及び〈2〉に関し、複数の事案が裁判所で争われており、そこでは、各条文共通の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(いわゆる不当性要件)の文言の解釈が問題とされている。以下では、不当性要件が争われた最近の重要判例について見ていく。 A) ヤフー/IDCF事件 〈ア〉 最高裁が定立した判断枠組み 後述するように、行為計算否認規定適用の是非が争われたIBM事件では、〈1〉の不当性要件について、通説的な経済合理性基準が示された(※10)が、同時期に〈2〉の不当性要件該当性が争われたヤフー/IDCF事件の第一審(※11)及びその控訴審(※12)では、経済合理性基準のほか、制度濫用基準の考え方を基礎とする趣旨目的基準を含むとする旨の解釈(※13)が示された。 (※10) 金子宏教授は、「租税法〔第20版〕」471頁及び「同〔第21版〕」477~478頁で、「法132条1項の『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』の意義については、裁判例の中には、①非同族会社では通常なし得ないような行為・計算、すなわち同族会社であるがゆえに容易になし得る行為・計算がこれに当たるとする考え方(筆者注:「非同族会社基準説」と呼ばれる)と、②純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算がこれに当たるとする考え方の2つの立場があり、かつては①の考え方も有力であったが、近時は②の考え方(筆者注:「経済合理性基準説」と呼ばれる)が支配的であるとされている」と述べている。 (※11) ヤフー事件第一審は、東京地裁平成26年3月18日判決(判時2236号25頁、TAINSコード:Z264-12435)、IDCF事件第一審は、東京地裁平成26年3月18日判決(判時2236号47頁、TAINSコード:Z264-12436)。 (※12) ヤフー事件控訴審は、東京高裁平成26年11月5日(訟月60巻9号1967頁、TAINSコード:Z264-12563)、IDCF事件控訴審は、東京高裁平成27年1月15日(裁判所HP、TAINSコード:Z265-12585)。 (※13) ヤフー事件第一審判決は、「取引が経済的取引として不自然・不合理である場合(筆者注:経済合理性基準)」に加え、「組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成にかかる税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの(筆者注:趣旨目的基準)も含む」と判示していた。 しかしながら、趣旨目的基準については、一般の納税者にとって、組織再編税制の趣旨・目的や個別規定の趣旨・目的は必ずしも明確なものではないことから、多くの学者及び実務家から、趣旨目的基準の下では納税者の予測可能性を確保することが困難であり、租税法律主義(課税要件明確主義)の趣旨に反するという批判(※14)があった。 (※14) 代表的なものとして、北村導人「ヤフー・IDCF事件判決の概要と検討」旬刊経理情報1383号46頁、谷口勢津夫「ヤフー事件東京地裁判決と税法の解釈適用方法論-租税回避アプローチと制度(権利)濫用アプローチを踏まえて-」税研177号20頁等。 そこで、ヤフー/IDCF事件の最高裁判決(※15)は、組織再編成は、必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけではなく、多数の企業が関与して複雑かつ巧妙な租税回避行為が行われた場合、そもそも純経済人の行為として自然かつ合理的な組織再編とは何かという議論の出発点からその審理判断に困難を来し、その不当性を適切に判断し得ない場合もあり得るとし、法人税法132条の2の不当性要件該当性の判断基準として経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切でない(※16)として、組織再編税制の立法時の趣旨(※17)に照らし、不当性要件の解釈につき、制度濫用基準(※18)の考え方を示した。 (※15) ヤフー事件は、最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(裁判所HP、TAINSコード:Z266-12813)、IDCF事件は、最高裁平成28年2月29日第二小法廷判決(裁判所HP、TAINSコード:Z266-12814)。 (※16) 最高裁判所判例解説69巻5号1526(296)頁。 (※17) ここでいう立法趣旨とは、法人税法132条の2の導入に際し、政府税制調査会法人課税小委員会が平成12年10月に公表した「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」において、「組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転とするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、組織再編税に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要がある(下線筆者)」と述べていることを指す。 (※18) ヤフー事件の最高裁判決では、制度濫用基準について、「法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべき」と述べている。 その上で最高裁は、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情も考慮(※19)した上で、濫用の有無を判断する(※20)と判示した。 (※19) 前掲(※16)1527(297)頁では、「これらの考慮事情は、経済合理性基準の具体的な内容に係る通則的見解とされている『〔行為・計算が〕異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合』(略)に含まれている2つの要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に考慮事情として位置付けたものであるといえよう。このような本判決の判断の方法は、制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る上記の通説的見解の考え方を取り込んだものと評価することができるように思われる」と述べている。 (※20) 前掲(※16)1529(299)頁では、「本判決は、上記①及び②等の事情を『・・・・・・考慮した上で』としている。このような言い回しは、濫用の有無の判断に当たっては、上記①及び②等の事情を必ず考慮すべきであるという趣旨が含意されているものと考えられ、更にその趣旨を推し進めると、①行為・計算の不自然性と、②そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等の不存在は、単なる考慮事情に止まるものではなく、実質的には、法132条の2の不当性要件該当性を肯定するために必要な要素と見ることができるのではなかろうか(下線筆者)」と述べている。 〈イ〉 2つの考慮事情と租税回避の意図 ここで注意すべきは、ヤフー事件の最高裁が、上記①②の考慮事情に続けて、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である(下線筆者)」と判示している点である。 最高裁が租税回避の意図を要求している点について、そもそも、同族会社の行為計算否認規定が、昭和25年の税制改正以前は、「法人税を免れる目的があると認められるものがある場合(下線筆者)」となっていたところ、同改正により、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき(下線筆者)」に改められた(※21)ことから、一般に、法人税法132条の不当性要件の判断基準としていわゆる「租税回避の意図」は必要ないと解釈されていた(※22)こととの整合性が問題となる。 (※21) 朝長英樹税理士は、「検証・IBM裁判〔第3回〕」(T&A master No.558 2014.8.11 9頁)で、「(昭和25年の改正は)『租税回避』に該当するかどうかの判断基準を『目的』から『結果』に変更する改正であったわけですが、『経済合理性基準』は『結果』ではなく『目的』によって租税回避の有無を判断するという性格の強い基準です。『事業上の理由』や『事業目的』があるのか否かを問うのが『経済合理性基準』だからです。このような点からすると、『経済合理性基準』は、昭和25年度税制改正後の132条の解釈として妥当かどうかという点に疑問なしとしない部分がある、と考えています」と述べている。 (※22) 昭和25年の改正は、その後、昭和40年の法人税法の全文改正時にも踏襲された。その結果、課税庁側は、租税回避の意図の立証は不要であり、結果として法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められれば、租税回避の意図の有無にかかわらず、法人税法132条を適用することができると解していた。 これについて、ヤフー事件の最高裁判所判例解説は、「法132条の2は前述のような立法趣旨(※23)の下で設けられた規定であることから、制度の濫用という概念を中心に解釈すべきであり、制度の濫用と評価するためには、行為者に一定の主観的要素が必要であるとの常識的な考え方を基礎として、租税回避の意図を要求したものと考えられる」(※24)と述べており、制度濫用基準の適用に際し、行為者の主観的要素としての租税回避の意図に触れざるをえないと考えていると解される(※25、26)。特に考慮事情②の合理的な事業目的の有無を判断する場合に検討すべき要素として位置付ける(※27)のが相当と思われる。 (※23) 前掲(※17)参照。 (※24) 前掲(※16)1530(300)頁。 (※25) 今村隆教授は、「ヤフー事件及びIBM事件最高裁判断から見えてきたもの(上)」税務弘報64巻7号57頁で、「『税負担を減少させる意図』といっても、法人税法132条の2の規定上要件となっているのではなく、あくまでも『不当』を判断するための観点(基準)の一つとの意味であり、『不当』か否かを判断するに当たり、『税負担を減少させる意図』の有無も判断すべきであるとの意味であり、『税負担を減少させる意図』が要件となっているとの意味ではないと考えられる」と述べている。なお、今村教授は、「観点」の用語について、「これは『基準』とほぼ同じ意味であるが、『基準』よりもルールとしての拘束性が少し弱いとのニュアンスで用いられているものと考えられる」と述べている。 (※26) 前掲(※10)に続けて、金子教授は、「本書17版以降、従来の節を修正し、3つの基準を挙げてきたが、第3の基準(租税回避の意図があったか否かの基準)は、第2の基準の主観的側面であり、いわば繰り返しであるから、この版以降は削除する」と記載している点が興味深い。 (※27) 品川芳宣教授は、「同族会社間の高額借入れと同族会社の行為計算の否認」(T&A master No.855 2020.10.26 20頁)で、「『意図』の有無については、租税回避の否認が脱税のように『故意』の立証を必要としないことを考慮すると、必要条件ではなく、十分条件として考えるべきであろう」と述べている。 〈ウ〉 最高裁判決が定立した判断枠組みの射程 ヤフー/IDCF事件以後、法人税法132条の2にいう組織再編に係る行為計算否認規定適用の是非が争われたTPR事件では、その第一審(※28)及び控訴審(※29)ともに、不当性要件の判断枠組みについて、ヤフー/IDCF最高裁判決が定立した判断枠組みがそのまま引用されている。当該事案は現在最高裁に上告され、未だ確定していないものの、少なくとも法人税法132条の2の解釈に当たっては、今後もヤフー/IDCF事件最高裁判決における考え方が踏襲されていくものと思われる。同判断枠組みの法人税法132条への応用については後述する。 (※28) 東京地裁令和元年6月27日判決(平成28年(行ウ)第508号、TAINSコード:Z888-2251)。 (※29) 東京高裁令和元年12月11日判決(令和元年(行コ)第198号、TAINSコード:Z888-2287)。 (続く)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第50回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (10) 値増金の益金算入時期を定める法人税基本通達2-1-1の15 法人税基本通達2-1-1の15は、法人が請け負った建設工事等に係る工事代金につき、資材の値上がり等に応じて一定の値増金を収入することが契約で定められている場合において、同通達2-1-1の11の取扱いを適用しないときの取扱いを定めている。 具体的には次のようになる。 この法人税基本通達2-1-1の15の趣旨は次のとおりである(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」36~37頁参照)。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。資産の販売等に係る収益の計上額を規律する法人税法22条の2第4項は、同項に優先して適用されることになる同項の「別段の定め」から同法22条4項を除いている。このような状況の中で、その22条4項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。法人税法施行令18条の2の解釈の適用の問題として論ずることはありうる。 (11) キャッシュバックなど相手方に支払われる対価の取扱いを定める法人税基本通達2-1-1の16 ア 概要 収益認識会計基準では、取引価格を算定する際には、例えばクーポンなど顧客に支払われる対価の影響を考慮する(基準48)。 顧客に支払われる対価は、企業が顧客あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払う又は支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対する債務額に充当できるもの(例えば、クーポン)の額を含む。この対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額することになる(基準63)。 要するに、リベート、クーポンなどを顧客に支払う場合、費用として計上するのではなく、取引価格(収益)から減額するということである。 顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の①又は②のいずれか遅い方が発生した時点で又は発生するにつれて、収益を減額する(基準64、指針設例14)。 以上が顧客に支払われる対価に係る収益認識会計基準の取扱いであるが、法人税法の取扱いはどうなるか。この点に関して、法人税基本通達2-1-1の16は、資産の販売等に係る契約において、いわゆるキャッシュバックのように相手方に対価が支払われることが条件となっている場合(損金不算入費用等に該当しない場合に限る)の取扱いを定めている。具体的には次のとおりである。 キャッシュバック以外の商品等の販売に要する景品等の費用については、法人税基本通達9-7-1~4に取扱いが定められている。 イ 本通達の趣旨 この法人税基本通達2-1-1の16の趣旨は、次のとおりである(上記趣旨説明38頁参照)。 収益認識会計基準や「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。そうであれば、前述のとおり、法人税法22条4項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。 もっとも、従来は、売上割戻の額を収益(売上高)から控除する方式のみならず、旧通達2-5-1において、法人税法22条3項2号括弧書き所定の債務確定基準により損金算入を認めることとしていた。損金の問題であれば法人税法22条4項の適用は排除されていない。しかしながら、この法人税基本通達2-1-1の16は収益(売上高)から控除する方式を想定しているため、一筋縄ではいかない。 キャッシュバックなど相手方に支払われる対価の取扱いについて、これまでのように費用として処理すべきであるのか、あるいは本通達のように収益から控除すべきなのか。この点は、会計の規範に委ねるべき問題であるのか、法人税法固有の観点から決定すべき問題であるのかといった観点から考察を深めることができそうである。キャッシュバック以外の商品等の販売に要する景品等の費用については、法人税基本通達9-7-1~4に取扱いが定められており、これまでどおり、費用の問題として取り扱われている。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例96(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆簡易課税制度選択不適用届出書(消法37⑤⑥) 簡易課税制度の適用を受けている事業者が簡易課税の適用をやめようとするときは、適用をやめようとする課税期間の初日の前日までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、簡易課税制度の適用を受けることとなった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出することができない。 ◆災害等があった場合の簡易課税制度の届出に関する特例(消法37の2) (1) 簡易課税制度選択不適用届出書の特例 災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた事業者が、その被害を受けたことにより、その災害その他やむを得ない理由の生じた日の属する課税期間(その課税期間の翌課税期間以後の課税期間のうち一定の課税期間を含む。以下「不適用被災課税期間」という)につき簡易課税制度の適用を受けることの必要がなくなった場合において、その不適用被災課税期間につき所轄税務署長の承認を受けたときは、「簡易課税制度選択不適用届出書」をその承認を受けた不適用被災課税期間の初日の前日にその税務署長に提出したものとみなす。 この場合においては、簡易課税制度の2年間の継続適用要件は考慮しない。 (2) 適用要件 特例の承認を受けようとする事業者は、特例の規定の適用を受けることが必要となった事情その他一定の事項を記載した「災害等による消費税簡易課税制度選択不適用届出に係る特例承認申請書」及び「簡易課税制度選択不適用届出書」を、災害その他やむを得ない理由のやんだ日から2月以内(当該災害その他やむを得ない理由のやんだ日がその申請に係る不適用被災課税期間の末日の翌日以後に到来する場合には、当該不適用被災課税期間に係る確定申告書の提出期限まで)に、その納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。 (3) 収入の著しい減少は不要 上記特例は、消費税法37条の2に定められた簡易課税制度に係る災害特例であり、新型コロナ税特法による特例ではないため、事業としての収入の著しい減少(前年同時期と比べて概ね50%以上減少)があったという要件は必要ない。 《参考》「課税事業者選択(不適用)届出書」の特例(新型コロナ税特法10①③) (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第22回】 「配偶者等を一時的に住まわせた後で譲渡した場合」 -配偶者等の居住用家屋の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q 会社員Xは、7年前に名古屋から東京へ転勤したので、妻子を名古屋の自宅に残したまま単身赴任し、東京の賃貸マンションに住んでいました。 転勤から2年後、Xは妻子を東京へ呼び寄せて同居し、名古屋の自宅を他人に貸し付けていました。しかし、昨年になって、約3年間住んだ借家人が立ち退いたことから、再び妻子を住まわせました。 本年、名古屋の自宅を売却したところ譲渡損失が発生し、東京の買換物件については銀行で住宅ローンを組んで購入しました。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 名古屋の家屋に妻子を入居させたことが、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けるためのみの目的で行われたものであると認められる場合には「特例」の適用を受けることができませんが、そうでない場合には「特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋は、居住の用に該当しません(措通31の3-2(居住用家屋の範囲)(2)イ、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 ただし、譲渡した家屋における居住用期間が短期間であっても、その入居目的が一時的でない場合には、その家屋は上記に掲げる家屋には該当しないこととされています(措通31の3-2(2)イ(注))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第3回】 「固定資産を年の中途で取得した場合の2分の1償却は違法か否かで争われた判例」 税理士 菅野 真美 ▷償却資産税の基となる資産の評価額 固定資産税というのは、保有している資産の1月1日現在の価値に基づいて賦課される税金である。この固定資産税の対象となるものは、土地・家屋・償却資産となるが、土地・家屋と償却資産の大きな違いとして、土地・家屋は1月1日に所有している場合は、事業の用に供するか否かに関わらず課税対象となるが、償却資産については、事業用という縛りがあることから、生活の用に供している備品や車両については、課税対象外となる。償却資産税の基となる資産の評価額は固定資産税評価基準に基づいている。 償却資産は減価償却が前提であるが、実は、所得税法や法人税法のルールに従って減価償却費を必要経費や損金として処理したとしても、償却資産税の計算上、その処理が認められないこともある。 たとえば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」によって、取得価額30万円未満のものについて一括で必要経費として損金算入することは、償却資産税の計算上は認められていない。 また、償却方法は、原則的には定率法と同様の償却方法で減価償却費を計算しなければならないことから、定額法で減価償却費を計算している場合は、差異が生ずる。さらに、前年中に償却資産を取得した場合は、耐用年数に応ずる減価率の2分の1で償却費を計算しなければならないことから、減価償却費を月割で計算した場合は差異が生ずる。 このように所得税や法人税と減価償却方法が異なり、前年取得資産について2分の1で償却する方法を定めていることは違法であると訴えた事案があるので、以下で紹介する。 ▷どのような事案か スナックを経営する納税者が、事業のために購入した機械及び装置並びに工具器具及び備品の償却資産について申告をしたところ、行政庁が価格を合計6,035,809円と決定して通知したことから、審査を申し出たが棄却の決定がされたため、これを不服として納税者が地裁に訴えた。 なぜ、納税者が訴えたかというと、償却資産税の課税標準となる固定資産の評価について、年の中途で取得した場合は、いつ取得したとしても2分の1償却をしなければならないのは不合理と考えたからである。 たとえば、1,000,000円で耐用年数5年(定率法0.369)の資産を2月に購入した場合、所得税の計算上、月割りで減価償却をした場合は、減価償却費が338,250円だから12月末の残高は661,750円となるが、償却資産税の計算は、2分の1償却で償却費が184,500円だから12月末の残高は815,500円となる。この場合、償却資産税の課税標準になるのは815,500円である。 他方、11月に取得した場合の月割りによる減価償却費は、61,500円だから、12月末の残高は938,500円となる。2分の1償却をした場合は減価償却費が184,500円だから、12月末の残高は815,500円となるが、償却資産税の課税標準は、815,500円とはならない。なぜならば、当時、地方税法第414条があり(現在は削除)、所得税で必要経費となった減価償却費を控除した未償却残高以下の金額を評価額とすることができなかったからである。 なお、平成20年度税制改正時に減価償却制度が見直されたことから、地方税法第414条の規定が廃止され、評価額だけで償却資産を計算することになった。 ▷地裁の判断 償却資産税は、固定資産の価値の総和を担税力としており、固定資産税評価基準に基づく償却資産の価格の算定方式は、簡易なものであって、かつ、固定資産税課税の根拠に極めてよく合致しているから違法、違憲ということはできないとして、地裁は納税者の請求を破棄した。 この地裁の判決を不服として納税者は控訴した。 ▷高裁の判断 高裁も、固定資産評価基準の2分の1償却は、固定資産税の性格に適合し、納税者に公平であり、評価事務が簡便で、地方税法の正しい解釈に合致する合理的なものだから、固定資産税評価基準が、租税法律主義に反し、国民の財産権を不当に侵害する違法なものではないとして納税者の請求を破棄している。 * * * この判決自体は、税理士目線で眺めると、不当な判決とは考えにくい。しかし、税理士は所得税や法人税については、細部にいたるまで入念に検討していることが多いが、償却資産税についても所得税や法人税と同等レベルの検討をして申告をしているだろうか。 税理士にとって償却資産税の申告実務は付属的なものと捉えているかもしれないが、納税者からみたら税理士はすべての税務に精通しているから顧問料を支払っているという意識もある。 償却資産税は、税理士にとって侮れない伏兵の1つなのかもしれない。 (了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第11回】 「青色申告制度及び推計課税を理解する」 弁護士 下尾 裕 本稿では、直接には法人税法・所得税法における議論であるものの、手続的要素が強く、かつ、実務上の重要性が高い青色申告制度及び推計課税制度について取り上げる。 1 青色申告制度の概要 青色申告制度とは、適正納税の担保となる複式帳簿等を作成し、保存することを条件に、納税者に対し、主に以下のような特典を付与するものである。 納税者が青色申告を行おうとする場合には、原則として、青色申告の適用を受けようとする事業年度開始日の前日(個人の場合は青色申告を行う年度の3月15日)までに、青色申告に関する承認を申請し、承認を得る必要があるが、申請後一定期間の経過をもってみなし承認となる旨の定め(所得税法第147条、法人税法第125条)がある。 【青色申告の主な特典】 2 推計課税 推計課税とは、所得税法第156条・法人税法第131条に基づき、納税者の財産又は債務の増減、収入又は支出の状況、若しくは生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模を基礎に、納税者の所得又は損失を推計して課税する制度である。所得に対する課税は、本来は、実額の所得を前提になされるのが原則であり、こうした推計課税は租税公平主義からの例外として位置づけられるものであるので、無条件に行うことができず、推計の必要性及び推計方法の合理性がある場合に限り許容されるものと解されている。 このうち、推計の必要性は、過去の裁判例等を踏まえると、納税者が帳簿書類等実額の認定に足りる資料を備え付けていない場合や、資料があっても内容が不正確で信頼できない場合等に適用される。 次に、推計方法の合理性とは、大きくは、推計の基礎となる売上等の事実把握の相当性及びこれらを踏まえた推計方式の合理性から構成される。推計課税における推計方式としては、大きく以下のような方法が存在するが、事案に応じて最も適切な方法を選択することが求められる。 3 青色申告承認の取消し (1) 国税当局における青色申告承認の取消しの必要性 国税当局において、納税者の所得隠し等を前提に更正を行うに当たっては、当該課税漏れの金額を認定する必要があるが、こうした所得隠し等の金額については帳簿等から除外されており、正確な金額の把握が困難な場合が多く、このような場合、上記で述べた推計課税を行う必要がある。 しかしながら、上記のとおり当該納税者が青色申告の承認を受けている場合には、推計課税の適用が排除されていることから、更正に当たって青色申告の承認を取り消すという処理が行われる。この取消しの効力については、取消事由が発生した時点に遡及するものとされていることから、取消しがなされた場合には上記で述べた青色申告の特典も遡及的に失われることになる。 (2) 承認取消事由としての帳簿書類の備付け等の不備の意味合い 青色申告の取消しは、多くの場合、青色申告に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が法人税法又は所得税法の定めるところに従って行われていなかったことを理由とするが(所得税法第150条第1項、法人税法第127条第1項)、ここでの帳簿保存の不備は、文字どおりの帳簿書類の備付けの有無ではなく、消費税法上の仕入税額控除における帳簿保存要件と同様に、納税者が税務職員の税務調査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかったことを意味するものとされている(最高裁平成17年3月10日判決(TAINSコード:Z255-09954))。 よって、青色申告を行う納税者の立場としては、税務調査における帳簿提示等の対応が重要となることを念頭に置いておく必要がある。 * * * 次回は、1年間にわたる本連載の最終回として、改めて税理士等が国税通則法の知識等をどのように業務に活かしていくかについて整理したい。 (了)
2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回) RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 2020年3月27日(2020年5月29日更新)に金融庁より「平成31年度有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」が公表された。これは、金融庁による平成31年度の有価証券報告書レビューの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たって留意点等を取りまとめたものである。 レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の2021年3月期決算においても参考となる箇所がある。 なお、本解説の執筆時点では、公表されていないが、近日中に「令和2年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」が公表される可能性があるため、公表された際には、適宜、確認されたい。 ※本解説では以下の名称につき略称にて記載する。 1 有価証券報告書の【役員の報酬等】の記載 2 有価証券報告書の【株式等の保有状況】の記載 3 税効果会計 4 関連当事者取引 5 ストック・オプション 6 ESOP 7 会計上の見積り Ⅺ その他留意事項及び参考情報 ここまで解説した以外に、2021年3月期の決算において留意すべき事項及び参考情報として以下が挙げられる。 1 大法人の電子申告義務化 平成30年度の税制改正において、大法人(資本金1億円超の普通法人等)について2020年4月1日以後開始する事業年度から電子申告が義務化された。 そのため、対応が未了である会社は、準備を急ぐ必要がある。 2 欠損金の繰戻しによる還付 (1) 制度の概要 ① 従来 中小企業者等(※1)は、欠損金が生じた場合、翌事業年度以降に繰り越すこともできるが、確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金がある場合には、法人税(地方法人税を含む)について、前期に繰り戻して還付請求できる。つまり、当期の欠損金を前期の課税所得と相殺して、前期に支払った法人税の還付を受けることができる。この場合、前期の課税所得が限度となる。また、「当期の欠損金(△5,000)>前期の課税所得(3,000)」の場合、差額の△2,000については、翌期に繰り越すことができる。 (※1) 中小企業者等とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の普通法人等で、以下の法人に該当するものを除いたものをいう。 ➤資本金の額又は出資金の額5億円以上等の大法人との間に完全支配関係がある普通法人 ➤100%グループ内の複数の大法人に発行済株式又は出資の全部を直接又は間接に保有されている法人など なお、地方税(事業税及び住民税)は対象外であるため、法人税について還付を受けた場合でも、事業税及び住民税については、その事業年度で生じた欠損金について翌期以降に繰り越す。 ② 新型コロナ税特法の特例 従来、上記①の制度は、中小企業者等のみで利用可能であったが、新型コロナ税特法の特例により、資本金の額が1億円超10億円以下の法人(※2)、についても、2020年2月1日から2022年1月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については、繰戻し還付の制度を適用することができる。 (※2) ただし、大規模法人(資本金の額又は出資金の額が10億円を超える法人等)の100%子会社及び 100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を直接又は間接に保有されている法人等は除く。 (2) 税効果会計 欠損金の繰戻し還付は、法人税のみに認められているが、事業税及び住民税については、認められていない。そのため、税金ごとに税効果会計の取扱いが異なることになると考えられる。 3 事業報告及び計算書類の参考情報 2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則及び会社計算規則が改正されていることから、2021年1月22日に株懇WEBより、「会社法改正に伴う各種モデルの改正」が公表されている。また、2021年3月9日に経団連より「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」の改訂版が公表されている。 事業報告及び計算書類等を作成する上で、有用な情報のため、適宜参考にしていただきたい。 4 招集通知の参考情報 新型コロナウイルス感染症の影響下での株主総会の開催に役立てるために、2020年4月28日に経団連より「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」が公表されている。 現時点でも新型コロナウイルス感染症の影響は大きいため、招集通知の作成にあたって、参考になると考えられる。 5 日本監査役協会の公表資料 日本監査役協会より、以下の資料が公表されている。 KAMに関する情報及び監査役等の対応、改正会社法における監査役等の対応についてまとめられているため、監査役等の実務において参考になる情報である。 6 株主総会の参考情報 経済産業省及び法務省より以下の株主総会に関する情報が公表されている。 現時点でも新型コロナウイルス感染症の影響は大きいため、株主総会の開催にあたって、参考になると考えられる。 7 有価証券報告書の提出期限延長 2021年1月8日に金融庁より、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により有価証券報告書・内部統制報告書・四半期報告書、半期報告書の提出期限が延長できる旨が公表された。 また、臨時報告書についても、新型コロナウイルス感染症の影響により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われる。 8 有価証券報告書の開示情報 金融庁のホームページにおいて、有価証券報告書の記載の充実に関する情報が紹介されている。 有価証券報告書の作成の際に参考となる情報が多くあるため、有価証券報告書の作成にあたって、参考にしていただきたい。 9 新型コロナウイルス感染症関連の税務の参考情報 国税庁より「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ(2021年3月5日更新)」が公表されている。 当該FAQは申告や納税に関する取扱いが記載されているため、税務を検討する際や申告書を提出する際に役立つものである。 10 株式交付制度 (1) 制度の概要 改正前の会社法では、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度があったが、完全子会社とする場合でなければ利用することができなかった。一方、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資を行う場合には、手続が複雑でコストが掛かるという指摘がされていた。そのため、改正会社法により、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる「株式交付制度」が新たに創設された。 (出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」) (2) 会計処理 株式交付制度が創設されたが、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」は改正されていない。 株式交付制度は、株式交換と同じような仕組みであるため、株式交換に準じた会計処理を行うことが考えらえる。 (3) 後発事象注記 株式交付制度を利用するためには、株主総会の決議が必要である。そして、改正会社法は、2021年3月1日施行であることから、2021年3月31日までに当該制度が利用されることは稀であると考えられる。 ただし、2021年3月期の定時株主総会で決議する場合には、重要な後発事象の注記が必要ないかどうか検討する必要がある。 11 株主総会資料の電子提供制度 改正前の会社法では、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要であり、株主総会資料の電子提供はあまり進んでいなかった。そのため、改正会社法では、以下の改正が行われた。 (出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」) なお、当該改正は、改正会社法の公布の日(2019年12月11日)から起算して3年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。 Ⅻ 今後の会計基準の改正 来期以降適用される会計基準として、以下がある。 1 収益認識関係 2018年3月30日にASBJより企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準(以下、「収益認識基準」という)」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針(以下、「収益認識指針」という)」が公表された。そして、2020年3月31日に表示及び注記に関する改正が行われた。 その後、電気事業連合会及び一般社団法人日本ガス協会からの提起に基づき、2020年12月25日に企業会計基準適用指針公開草案第70号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「収益認識指針案」という)」が公表された。 ここでは、収益認識指針案の概要について解説する。 (1) 改正の発端 電気及びガス事業においては、実務上、毎月、月末以外の日に実施する検針による顧客の使用量に基づき収益計上(検針日基準)が行われていた。一方、収益認識基準第35項(履行義務の充足による収益の認識)に従えば、決算月の検針日から決算日までに生じた収益を見積ることになる。 しかし、電気及びガス事業業界から、この方法が実務的に困難であることから、検針日基準を代替的な取扱いとして認めて欲しい旨の意見が寄せられたため、代替的な取扱いを認めるかどうかに関する改正案が公表された。 (2) 検針日基準による収益認識を認めない理由 収益認識基準及び収益認識指針では、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲内で、代替的な取扱いが認められている(収益認識指針164)。ここで、検針日基準による収益認識を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせることから、検針日基準は認めず、決算月の検針日から決算日までに生じた収益を見積る必要がある(収益認識指針案176-3)。 (3) 見積方法の代替的な取扱い 上記(2)のように収益を見積る場合、決算日時点での販売量実績が入手できないため、見積りと実績を事後的に照合する形で見積りの合理性を検証することができない等の場合がある。この場合、見積りの適切性を評価することが困難であることから、見積方法について財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、以下の代替的な取扱いが定められた(収益認識指針案103-2、176-3、176-4)。 (4) 適用時期 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(収益認識指針案107)。 2 時価基準関係 2019年7月4日にASBJより企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準(以下、「時価基準」という)」及び企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(以下、「時価指針」という)」が公表された。また、関係するその他の会計基準等が改正された。 その後、「投資信託の時価の算定」及び「貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価注記」の取扱いを明らかにするために、2021年1月18日に企業会計基準適用指針公開草案第71号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「時価指針案」という)が公表された。 ここでは、時価指針案の概要について解説する。 (1) 投資信託の時価の算定 ❶ 投資信託財産が金融商品である投資信託の場合 (ⅰ) 時価の算定方法 (※) 海外の法令に基づいて設定される投資信託(海外の投資信託)に対して、「基準価額を時価とみなすことができる」規定を適用する際、情報の入手が困難である可能性があることを踏まえ、時価の算定日と基準価額の算定日との間の期間が短い(通常は1ヶ月程度と考えられるが、投資信託財産の流動性などの特性も考慮する)場合に限り、基準価額を時価とみなすことができる(時価指針案24-5)。 (ⅱ) 注記 時価指針案24-3を適用した投資信託については、インプットのレベルが把握されないことから、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(以下、「金融商品時価指針」という)」5-2に定める事項)を注記せずに、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-7)。 ❷ 投資信託財産が不動産である投資信託の場合 (ⅰ) 時価の算定方法 時価基準においては、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されておらず、市場価格のない株式等を除き、時価をもって貸借対照表価額とする。また、投資信託財産が不動産である投資信託でも、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながると考えられる。 以上から、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、経過措置である時価指針第26項を削除し、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」に従い、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理を統一している(時価指針案49-9)。具体的な算定方法は、以下のとおりである。 (ⅱ) 注記 時価指針案24-9の取扱い(基準価額を時価とみなす取扱い)を適用した投資信託については、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(金融商品時価指針5-2に定める事項)の注記は不要である。ただし、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-11)。 (2) 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記 組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めてられていないため、時価の注記も不要である。ただし、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-15)。 (3) 適用初年度の取扱い 時価指針案の適用初年度においては、時価指針案が定める新たな会計方針(会計基準の定める時価を新たに算定する場合や取得原価をもって貸借対照表価額としていたものから時価をもって貸借対照表価額とする場合など)を将来にわたって適用する。そして、その変更の内容を注記する(時価指針案27-2、53)。 (4) 適用時期 時価基準及び時価指針は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されるが、時価指針案の適用時期は、以下のとおりである(時価指針案25-2)。 なお、時価指針案を年度末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する場合は、適用初年度における「時価指針案24-7(3)(上記(1)❶(ⅱ)③参照)」及び「時価指針案24-11(3)(上記(1)❷(ⅱ)③参照)」の注記を省略することができる。また、この場合、適用初年度の翌年度においては、「時価指針案24-7(3)」及び「時価指針案24-11(3)」の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度及び前事業年度に関する注記は必要ない(時価指針案27-3)。 (連載了)