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計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第38回】「3連続ゼロ(000)に要注意」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第38回】 「3連続ゼロ(000)に要注意」   公認会計士 石王丸 周夫   1 単純な入力ミスでは済まない 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例38-1】 数字の下3桁を誤って入力している。 (出所) 株式会社スプリックス「第24期定時株主総会招集ご通知」 【事例38-1】は単純な入力ミスでした。 下3桁が間違っていただけですね。 この事例の会社は、【事例38-1】を含む「第24期定時株主総会招集ご通知」を公表した翌日に一部訂正を行っています。このようなミスが起きてしまうのはやむを得ないことなので、判明すれば速やかに訂正するということで対処するしかないのかもしれません。 しかし、原因が単純でも、重大なミスです。決算書本表(注記ではなく)のミスである上に、第三者が見てもはっきりわかってしまうミスだからです。やはり、外部に公表される前に社内で何とか発見しておきたかったでしょう。   2 株主資本等変動計算書は計算チェック箇所が多くて面倒 このミスを事前に発見することは、決して難しいことではありません。計算チェックを行えばすぐにわかることです。むしろ、なぜこのミスが発見されずに公表に至ってしまったのかと思えるほどです。 発見のチャンスは何度もあったと考えられます。たとえば以下のとおりです。 これらのうちいずれか1回でも計算チェックが行われていれば、発見されているはずです。しかし、発見されなかったということは、いずれの計算チェックも行われなかったのか、あるいは何か別の原因でミスが直されずに進んでしまったということでしょうが、本当のところは外部からはわかりません。 この事例に限らず、株主資本等変動計算書というのは、計算チェックすべき箇所が貸借対照表や損益計算書に比べて多いため、計算チェックという作業自体が面倒なのは確かです。株主資本等変動計算書はマトリクス形式の表になっているので、縦も横も計算チェックしなければならず、チェックに手間がかかるのです。【事例38-1】でミスを見逃してしまったのは、そうした理由もあるのかもしれません。   3 「000」の異常性に気がつけばよい では、どうすれば確実にこのミスを発見できるのでしょうか。 「とにかく頑張って計算チェックしろ」というのが原則ではあるのですが、今回の事例に関しては、別の方法もないわけではありません。計算チェックとは別の観点からチェックをするのです。注目したいのは「数字の異常性」であり、この例でいえば、0が3つ並んでいる点です。 【事例38-1】で間違っていた数字は、「1,168,000」でした。決算書に出てくる数字で、下3桁が0というケースは決して多くはありません。 特にこの事例の「1,168,000」は、この会社の「当期純利益」にあたる数字ですが、「当期純利益」は、複数の項目の数字の集計値(差引含む)として出された数字であり、下3桁が0になることは珍しいです。 ちなみに、この事例が載っている定時株主総会招集通知に収録されている6つの決算書(連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書)について調べてみたところ、下3桁が「000」となっている項目は以下の2つだけでした。 このうち関係会社株式については、残高が丸い(切りのいい)数字というのはよくあることです。出資が丸い数字でなされることは普通だからです。それに対して、当期純利益が丸い数字というのは、「おやっ」と思えるのではないでしょうか。 したがって、下3桁が「000」のように異常がみられる項目を探し、それが見つかった場合は、項目の性質を考えて確認してあげればよいのです。そのようなチェックを行えば、今回のようなミスを発見することができます。 また、それを誰がやるかということも重要です。 先ほど列挙した計算チェックを実施すべき人とは別の人がやるべきでしょう。たとえば監査法人であれば、主査や社員、審査担当者といった人たちが考えられます。 もちろん、後からでなら何とでもいえるので、第三者が立ち入ったことを述べるべきではありませんが、一般論として、作成者と異なる視点から別のものがチェックをするという仕組みを意識することは、覚えておきたいポイントです。   〈今回のまとめ〉 作成者と異なる視点から別のものがチェックすることが大切です。 (連載了)

#No. 413(掲載号)
#石王丸 周夫
2021/04/01

空き家をめぐる法律問題 【事例33】「無道路地にある空き家と通行権の問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例33】 「無道路地にある空き家と通行権の問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私には、相続によって取得した空き家がありますが、その空き家は、かつては通路があったようですが、今では周囲を他の所有者の土地に囲まれ、公道に接続していない状況になっています。 建物も老朽化しており、周囲への悪影響を避けるために取壊しや売却を検討していますが、公道に接続していないため売却することは難しいといわれています。隣地に通路があれば売却しやすくなると思うのですが、通路を設定する方法はありますか。   1 はじめに 数次の相続が発生し、管理が適切に行われていない土地の中には、時間の経過の中で、周囲を土地に囲まれ、公道に接続していない土地(以下「袋地」という)になっているものもある。そのため、袋地の所有者が再築や売却を試みようとしても、公道に接続していないため、建物を再築できない、売却できないといった様々な不利益が生じる。これらの不利益を回避するために、袋地の所有者としては公道への接続を試みることになる。 そこで、今回は、無道路地になった空き家に関する通行権の問題を取り上げることにしたい。   2 通行権の種類 袋地の所有者が公道に出るためには、正当な権原をもって他人の土地を通行する必要がある。そのための方法として、①通行地役権を設定する方法、②債権的通行権(賃貸借契約等)を設定する方法、③囲繞地いにょうち通行権を設定する方法の3種類が考えられる。 通行権の設定は、現在の当事者間で改めて合意を締結できる場合や、過去の合意に関する資料がある場合には、問題になることは比較的少ないと思われるが、数次の相続が発生した土地のように、隣接する土地の所有者間に面識等がなく、当時の事実関係も明らかではない場合には、過去に何らかの合意があったとしても立証上の問題が残ることになる。 合意を立証できない場合、袋地の所有者が隣地の賃借権や、地役権の取得時効の主張をすることも考えられる。賃借権の取得時効が認められるためには、賃借の意思に基づいて不動産を使用収益し、その使用収益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることが要件となり(最判昭和43年10月8日民集22-10-2154)、そのためには賃料を継続して支払っていることが必要となる。しかしながら、管理が放棄されたような事案においては、賃料が支払われていないこともあり、このような場合には賃借権の取得時効は認められないことになる。 また、地役権の取得時効についても、地役権が継続的に行使されており、そのことが外形上認識できることが要件となる(民法第283条)。そのためには隣地に通路を開設して利用していることが必要となるが、外形上、通路すら確認できないような場合もあり、地役権の取得時効が認められないことも少なからずあるように思われる。   3 囲繞地通行権と建築基準法との関係 地役権や債権的合意による通行権を主張立証できない場合には、囲繞地通行権を主張できないかを検討することになる。 囲繞地通行権とは、袋地の所有者が公道まで囲繞地を通行する法定上の通行権(民法第210条)である。この権利は、隣接する土地の利用の調整を目的として、特定の土地がその利用に関する往来通行について、袋地に当たる場合に、囲繞地の所有者に袋地の所有者が囲繞地を通行することを受忍させる義務を課し、これによって袋地の効用を全うさせようとするものである。 これによって、袋地の所有者は、必要最小限の範囲で囲繞地を利用することができる反面、囲繞地の所有者に対して償金を支払う義務を負うことになる。なお、ここでいう袋地は、必ず袋地の周囲が全て他の所有者の土地で囲まれている必要まではなく、公道に接続する通路が存在する場合でも、当該土地の利用のために不十分と判断されるようなときには、当該土地を袋地として評価して囲繞地通行権が認められるような場合もある。 問題は、袋地の所有者が空き家を建て替えるような場合に、どの程度の範囲で囲繞地通行権が認められるかである。換言すれば、建築基準法に規定される次の接道条件を満たす囲繞地通行権は認められるかということである。 建築基準法は、昭和25年11月23日に施行された法律であり、道路と敷地との関係について、建築物の敷地が道路に2m以上接していることを要件としている(建築基準法第43条第1項、接道条件)。もっとも、この規定は、同法施行前から存在する建物や敷地に対しては適用が除外されているため(同法第3条第2項、既存不適格)、建物が昭和25年11月23日前から存在していたものであれば、接道条件を満たしている必要まではない。 しかしながら、新たに建物を建築する場合には、接道条件を満たす必要が生じるため、袋地の所有者が建物を建て替えようとする場合や建替えを想定して売却するような場合には、接道条件を満たす囲繞地通行権が発生している旨を主張できないかが問題となる。 この問題に関して、囲繞地通行権が認められている趣旨が相隣関係を調整することにあるのに対して、建築基準法の接道条件が設けられた趣旨は、主として避難又は通行の安全を期することにある。このように、両者の趣旨や目的等は異なっているため、単に特定の土地が接道要件を満たさないことをもって、当該土地の所有者のために、隣接する他の土地につき接道要件を満たす囲繞地通行権は当然に認められないものと解されている(最判平成11年7月13日集民193-427、本判決は「公法私法相違論」を前提としたものと理解されている)。 もっとも、上記平成11年判決については、接道条件を満たす目的のためだけに、接道条件を満たす囲繞地通行権の発生を否定したにとどまると理解することも可能である。また、上記平成11年判決は、囲繞地通行権を認めることによって、囲繞地の所有者の土地利用の現状を変更し、このことがかえって建築基準法違反の事態を招くおそれがあることを、接道条件を考慮しない理由として指摘していることから、現状を変更しないような場合には、考慮することも可能であると判決の射程を限定する考え方もあるようには思われる。 ただし、現在の判例は、一般論としては、囲繞地通行権の範囲において、建築基準法上の接道条件を考慮することを否定しているといわざるを得ない。そこで、囲繞地通行権を主張する必要性があるような場合には、当該事案を個別具体的に検討し、囲繞地の所有者の所有権に係る主張を権利濫用等の一般条項で制限し、接道条件を満たす囲繞地通行権の発生を認めようとする考え方等が示されている。   4 本件の場合 本件においては、空き家の所有者が新たに建物を建て替えるためには、建築基準法の接道条件を満たす必要がある。第一次的には、囲繞地の所有者との間で、地役権の設定や、債権的合意を締結するための交渉を行うことになると考えられるが、奏功しない場合には、囲繞地通行権の主張を行うことも検討せざるを得ない。 この場合、現状の判例からすると、接道条件を満たす囲繞地通行権の発生は認められにくい。そうすると、実際には、補助金等を利用して解体を前提に隣地の所有者に売却を試みることが現実的な手段になってくるものと思われる。 (了)

#No. 413(掲載号)
#羽柴 研吾
2021/04/01

〈知識ゼロからでもわかる〉ブロックチェーン技術とその活用事例 【第7回】「サプライチェーン×ブロックチェーン」

〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第7回】 「サプライチェーン×ブロックチェーン」   東京ハッシュ株式会社 代表取締役 段 璽   サプライチェーンとは、自社だけでなく、他社をまたいでモノの流れを捉え、製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ全体を指す用語である。 現状は小売店、卸売、製造で分断されている在庫情報や生産者情報、また、川下に集中していた最終消費者への販売情報が、ブロックチェーン技術を用いることにより、管理者不在で中立的に運営が可能な状態で、共有・追跡が可能となる。これによりサプライチェーン全体が効率化するとともに、川上の交渉力の強化につながる。 また、今後は系列を飛び越えた新たなサプライチェーンシステムの構築も進む可能性があり、最終消費者と川上の製造者がより直接的につながる流通プラットフォームが誕生すれば、大規模な中間流通業者の存在意義が相対的に薄れる可能性もあるであろう。   1 食品業 食中毒や、産地偽装、食品偽装という不正・不祥事が多い食品業界では、ブロックチェーンは主にサプライチェーンにおけるトレーサビリティを保証するために利用されている。はるか遠く離れた産地から食材を新鮮でかつ安全に消費者に提供することは容易なことではなく、加工食品であれば、原材料の生産から加工、輸送し、卸売りを経て小売店に届くまでのサプライチェーンは更に複雑なものとなる。サプライチェーンのどこかで1つでも事故が生じれば、多数の死者が出る可能性がある。 また、トレーサビリティを保証するために利用する以外でも、ブロックチェーンベースの農産物の取引プラットフォームの構築や、種苗や農産品そのもととなる植物に関する権利管理でブロックチェーン技術を利用することが可能である。   2 医薬品業 近年、医薬品業界では医薬品が製造販売承認に基づき製造され、市場出荷された状態を維持し、品質の劣化、改ざん、破壊されないことが厳格に求められている。そのため、適切な温度管理や改ざん防止対策を講じなければ、製造・物流過程において医薬品の完全性を保証することができないことになる。 ブロックチェーンを活用することで、会社をまたいだ共有台帳を構築し、会社に依存しない情報連携が行えるため、温度逸脱や偽造品流入の疑いがあるときに関係者に即時アラート、及びトレースバックが可能となる。   3 貿易取引 貿易取引では、輸出入業者、船会社、銀行、保険会社など、多数の企業の間で代金支払いを確約する信用状(L/C)、船会社が貨物を引き受けたことを証明する船荷証券(B/L)、貨物破損に備えた保険証券など多くの書類をやりとりする必要がある。このように貿易実務は、書面管理の煩雑さ、一元的な情報トレースの難しさ、紙に依存した権限管理などの課題を抱えている。これらの課題を、ブロックチェーンのトレーサビリティや改ざん耐性といった特性を活用することで、解決できる可能性がある。 また、不正や過失の防止、輸送時間の短縮、在庫管理の最適化ができ、業務効率化とコスト削減が期待できる。   4 貴金属・宝石類 金やダイヤモンドなどの貴金属・宝石について、加工工程から単品管理していくためにブロックチェーン技術を活用することで、購入者が加工の履歴まで確認することができるようになり、商品価値の信頼性が向上できる。 また、美術品や工芸品に作成者の署名を付してブロックチェーンで管理することにより、その美術品が転々と流通していった先においても、真正性を確認できるようになり、著作権管理の効率化が実現され、美術品等に関連した贋作事件等も減少する可能性がある。 (了)

#No. 413(掲載号)
#段 璽
2021/04/01

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第43話】「コロナ対策と還付申告義務の見直し」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第43話】 「コロナ対策と還付申告義務の見直し」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・こんな税制改正って・・・あるのかな・・・」 中尾統括官は、机の上に置かれた令和3年度税制改正の資料を見ている。 資料には「申告義務のある者の還付申告書の提出期間の見直し(案)」とあり、次のような記述がある。 中尾統括官は、じっとその文章を見つめている。 「何を真剣に考えているのですか?」 浅田調査官は、怖そうな顔をしている中尾統括官に声をかける。 「いや・・・」 中尾統括官は表情を崩し苦笑いを浮かべる。 「令和3年度の税制改正ですか・・・」 浅田調査官は、机の上に置いてある冊子を覗く。 「この改正のことなんだが・・・」 中尾統括官は、考え込んでいた令和3年度税制改正の内容を見せる。 「へえ・・・還付申告にも申告義務があったのですか?」 浅田調査官は、驚いたように目を丸くする。 「ああ・・・申告義務があるのだから、その提出期間は翌年の1月1日から3月15日までとなっていたのだが・・・今回の改正で、申告義務のない還付申告と同様に、提出期間は翌年の1月1日から5年間になる。」 中尾統括官は、改正内容を見ながら説明する。 「・・・ということは、今まで、①控除しきれなかった外国税額控除の額があるとき、②控除しきれなかった源泉徴収税額があるとき、又は③控除しきれなかった予納税額があるときは、納税者は、3月15日までに申告しなければならなかった、ということですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 中尾統括官は、「そうだ」と言いながらうなずく。 「・・・少なくとも条文ではそうなっている。」 中尾統括官は、令和2年版の『税務六法』を広げる。 「所得税法120条では、確定所得金額について、次のように規定している。」 そう言うと、中尾統括官は、条文の一部を飛ばしながら、読み上げる。 「今回の改正前の所得税法120条1項の前段はこのように書かれていたので・・・所得税の合計額が配当控除の額を超えるときには、居住者は、確定申告書を提出しなければならなかった・・・」 中尾統括官は、自らうなずきながら、説明を続ける。 「ところが、令和3年度の税制改正では・・・「配当控除の額を超えるとき」の次に、括弧書きが挿入された。」 と言って、中尾統括官は「法律案新旧対照表」を見せる。 所得税法120条の「改正案」の下線(改正部分)には、次のような文言が記されている。 「この括弧書きの挿入によって、申告義務のある者の還付申告の提出期間が見直され・・・所得税の申告義務のない人の還付申告の提出期間(翌年1月1日から5年間)と同じになったわけですね。」 浅田調査官は、小さくうなずく。 「ところで・・・私がこの改正について一言コメントしたいのは、納税者の大切な義務である申告義務というものを、新型コロナウイルスの対応として、確定申告会場への来場者を分散させるという理由で、なくすという点だ・・・この改正は、本末転倒なのではないかと思う・・・確定申告会場への来場者を分散させるためならば、このような改正をするより、確定申告において、e-Taxを普及させた方がどれほど良いかと思うんだ。」 中尾統括官は、興奮した顔で、浅田調査官を見る。 「たしかに、この改正自体、令和4年1月1日以後に確定申告書の提出期限が到来する所得税から適用とされていますし・・・」 浅田調査官は、改正資料を見ながらつぶやく。 (つづく)

#No. 413(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/04/01

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和2年7月~9月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和2年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2021(令和3)年3月24日、「令和2年7月から9月までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、国税通則法及び国税徴収法が各2件、所得税法及び相続税法が各1件、合わせて6件となっている。 今回の公表裁決では、6件のうち5件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、棄却は1件のみとなっている。 【表:公表裁決事例令和2年7月から9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、国税不服審判所が、原処分庁の賦課決定処分の一部又は全部を取り消すという判断を示した裁決2件について、検討したい。 なお、複数の争点がある裁決についても、その一部を割愛して、重加算税の賦課決定処分の可否に争点を絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 役務提供のない支払手数料を計上したことに事実の仮装は認められないとした事例・・・② 本件は、不動産の売買、仲介業務及び管理業務等を目的とする法人である審査請求人が、不動産の取得に係る役務提供の対価として計上していた支払手数料について、損金の額に算入することは認められないとの原処分庁の調査による指摘に従い法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人が当該支払手数料を計上したことにつき事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はないことから、重加算税を課されないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 事実関係 (2) 争点 請求人に国税通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、国税通則法第68条に規定する重加算税は、「不正手段による租税徴収権の侵害行為に対し、制裁を課すること」を定めた規定であり、同条に定める「事実を隠ぺいする」ことを次のように定義した。 そのうえで、審判所は、Gについて、GとKが、本件不動産の取得を含む複数の不動産取引を共同事業として手掛けようとしていた時期があり、結果的に、H社から請求人に対し本件不動産の取得のための資金調達に係る役務提供はなかったとしても、Gが本件不動産に関して、Kが資金提供以外の何らかの役務提供を行っていたとGが認識し、それに対して対価を支払う必要があると考えていた可能性が全くないとまではいえないことから、Gが、Kに対して本件金員を支払う必要はないと認識していたにもかかわらず本件金員を支払手数料勘定に計上させたことを直ちに認定することはできないという判断を示した。 そして、結論として、GがN税理士に指示し、本件金員を総勘定元帳の支払手数料勘定に計上させた行為が、故意に事実をわい曲したものと評価することは困難であり、その他、仮装と評価すべき行為を認めるに足りる証拠もないことからすれば、請求人に、国税通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったものとして同項を適用することはできないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。   2 取得財産に算入する遺留分減殺請求に基づく価額弁償金につき相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(2)に定める方法により計算すべきとした事例・・・④ 本件は、審査請求人が、相続税の申告において、不動産の評価誤りがあったこと及び遺留分減殺請求に基づく価額弁償金につき取得財産の価額に算入した金額に相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(2)の適用漏れがあったことを理由として更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、不動産の評価誤りのみを認める更正処分をしたことから、請求人がこの更正処分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 (2) 相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》 争点②で、審査請求人と原処分庁のそれぞれの主張の根拠となった相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(以下、「本件通達」という)の規定は次のとおりである(一部括弧書きを省略している)。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、争点①について、本件更正処分は、行政手続法第8条第1項本文の規定する理由の提示に不備はなく、違法ではないとの判断を示した。 次いで、争点②については、まず、本件通達の定めは、(1)、(2)ともに合理的なものであると認めたうえで、どちらに該当するかを事実認定に基づいて判断した。 本件通達(1)に規定する、「共同相続人及び包括受遺者の全員の協議」について、審判所は、請求人の訴訟代理人及び関与税理士、請求人の兄の訴訟代理人及び関与税理士のいずれもが、本件訴訟中から本件申告までの間に、直接やり取りをしていたのは訴訟代理人同士であること、そして、訴訟代理人間において、本件価額弁償金をいくらで申告するかについて協議がされていないことについては一致する答述をしていることから、本件価額弁償金の具体的な申告額についての協議はなかったものと認めるのが相当であり、本件申告において請求人の取得財産の価額に算入した本件価額弁償金の金額3億3,000万円は、共同相続人の全員の協議に基づいて申告されたものではないから、本件通達(1)の場合には該当しないと判断した。 一方、本件価額弁償金の各対象財産の価額弁償時の評価額は、平成28年11月の訴訟提起から平成30年3月26日の和解成立までの長い期間にわたって、対立する当事者である請求人と兄との間で、それぞれの立場から算定した評価額に基づく金額について調整を重ね、裁判所から示唆された金額や、本件和解時に最も接着した時点の平成29年分の路線価を用いて算定した各対象財産の評価額も踏まえて最終的に合意された額であり、両当事者においてその主張が対立する中で、両者が歩み寄って合意したときは、その合意した価額を通常の取引価額とみることに一般的な合理性があるといえることから、本件価額弁償金は、対象財産が特定され、当該財産の本件和解時における通常の取引価額を基として決定されているものであり、本件価額弁償金は、本件通達(2)に定める要件を満たすものと認めることが相当であると判断した。 こうした判断に基づき、国税不服審判所は、請求人の本件相続税の取得財産の価額に算入すべき本件価額弁償金の金額は、要件を満たす本件通達(2)に従って計算すると、受領した本件価額弁償金の金額3億3,000万円に各対象財産の本件相続開始日における価額の合計16億2,459万1,610円を乗じ、当該各対象財産の本件和解時における価額の合計24億1,866万6,331円で除して求めた金額2億2,165万7,375円となるため、本件申告により納付すべき税額が過大であった金額は、本件更正の請求におけるものをも上回ることとなることから、本件更正の請求の本件通達(2)の適用を求める部分は、国税通則法第23条第1項第1号の規定に該当すると認められるべきものであり、本件更正の請求における納付すべき税額を認めなかった本件更正処分は、違法であり、その全部を取り消すべきであるとの裁決を行った。 (了)

#No. 412(掲載号)
#米澤 勝
2021/04/01

《速報解説》ASBJ、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」を公表~法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理等への対応示す~

《速報解説》 ASBJ、「グループ通算制度を適用する場合の 会計処理及び開示に関する取扱い(案)」を公表 ~法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理等への対応示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年3月30日、企業会計基準委員会は、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第61号。以下「実務対応報告(案)」という)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされたことに対応するものである。 意見募集期間は2021年6月11日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 グループ通算制度 連結納税制度は企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は次の特徴をもつ(実務対応報告(案)38項)。 2 実務対応報告(案)の基本的な方針 グループ通算制度を適用する場合の実務対応報告(案)の開発にあたっては、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除いて、次のものを踏襲している(実務対応報告(案)39項)。 また、実務対応報告(案)は、実務対応報告(案)に定めのあるものを除いて、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号。以下「法人税等会計基準」という)又は「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という)等の定めに従うこととし(実務対応報告(案)6項、8項)、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示している(実務対応報告(案)40項)。 3 適用範囲 グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(実務対応報告(案)3項)。 実務対応報告(案)は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については取り扱っていない(実務対応報告(案)3項)。 4 法人税及び地方法人税に関する会計処理 次のとおりである(実務対応報告(案)6項、7項)。 5 税効果会計に関する基本的な会計処理 次のとおりである(実務対応報告(案)8項)。 6 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性 個別財務諸表において次のとおりである(実務対応報告(案)13項)。 連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体について回収可能性適用指針6項から34項に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は、連結上修正する(実務対応報告(案)14項)。 7 投資簿価修正 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は、一時差異と同様に取り扱うとし、個別財務諸表及び連結財務諸表の会計処理が規定されている(実務対応報告(案)19項、20項)。 8 適用時、加入時及び離脱時の取扱い グループ通算制度を新たに適用する場合の取扱い、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合の取扱い(加入)、株式の売却等によって、通算子会社でなくなる場合の取扱い(離脱)が規定されている(実務対応報告(案)21項から23項)。   Ⅲ 適用時期等 税効果会計の会計処理及び開示に関する経過的な取扱いなどが規定されているので、実際の適用に際して注意する(実務対応報告(案)32項、33項)。 (了)

#No. 412(掲載号)
#阿部 光成
2021/03/31

《速報解説》 ASBJ、電気・ガス事業における検針日基準の取扱いに対応した「収益認識に関する会計基準の適用指針」の改正を確定~適用は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から~

《速報解説》 ASBJ、電気・ガス事業における検針日基準の取扱いに対応した 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の改正を確定 ~適用は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年3月26日、企業会計基準委員会は、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(改正企業会計基準適用指針第30号)を公表した。 これにより、2020年12月25日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、電気事業及びガス事業において、毎月、月末以外の日に実施する検針による顧客の使用量に基づき収益計上が行われる実務(いわゆる検針日基準)の取扱いを規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 原則的な処理 検針日基準による収益認識を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない(収益認識適用指針164項)とは認められないと判断し、収益認識会計基準の定めどおり、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積もることが必要である(収益認識適用指針176-3項)。 2 重要性等に関する代替的な取扱い 決算日時点での販売量実績が入手できないことにより、見積りと実績を事後的に照合する形で見積りの合理性を検証することができないなど、見積りの適切性を評価することが困難であるとの意見がある(収益認識適用指針176-3項)。 このため、次のように、「重要性等に関する代替的な取扱い」(電気事業及びガス事業における毎月の検針による使用量に基づく収益認識)を設ける(収益認識適用指針103-2項、176-4項)。   Ⅲ 適用時期等 2020年改正の収益認識会計基準の適用時期等と同様に、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 412(掲載号)
#阿部 光成
2021/03/29

プロフェッションジャーナル No.412が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年3月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.412を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/03/25

〈判例評釈〉ユニバーサルミュージック高裁判決 【第4回】

〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第4回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   5 検討 (1) 不当性要件該当性について わが国では、法人税法上、特定の状況における一般的「租税回避」否認規定として、〈1〉同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)、〈2〉組織再編成の行為計算否認規定(法人税法132条の2)、〈3〉連結法人の行為計算否認規定(法人税法132条の3)、及び〈4〉外国法人の恒久的施設帰属所得の行為計算否認規定(法人税法147条の2)が設けられているが、近年、〈1〉及び〈2〉に関し、複数の事案が裁判所で争われており、そこでは、各条文共通の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(いわゆる不当性要件)の文言の解釈が問題とされている。以下では、不当性要件が争われた最近の重要判例について見ていく。 A) ヤフー/IDCF事件 〈ア〉 最高裁が定立した判断枠組み 後述するように、行為計算否認規定適用の是非が争われたIBM事件では、〈1〉の不当性要件について、通説的な経済合理性基準が示された(※10)が、同時期に〈2〉の不当性要件該当性が争われたヤフー/IDCF事件の第一審(※11)及びその控訴審(※12)では、経済合理性基準のほか、制度濫用基準の考え方を基礎とする趣旨目的基準を含むとする旨の解釈(※13)が示された。 (※10) 金子宏教授は、「租税法〔第20版〕」471頁及び「同〔第21版〕」477~478頁で、「法132条1項の『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』の意義については、裁判例の中には、①非同族会社では通常なし得ないような行為・計算、すなわち同族会社であるがゆえに容易になし得る行為・計算がこれに当たるとする考え方(筆者注:「非同族会社基準説」と呼ばれる)と、②純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算がこれに当たるとする考え方の2つの立場があり、かつては①の考え方も有力であったが、近時は②の考え方(筆者注:「経済合理性基準説」と呼ばれる)が支配的であるとされている」と述べている。 (※11) ヤフー事件第一審は、東京地裁平成26年3月18日判決(判時2236号25頁、TAINSコード:Z264-12435)、IDCF事件第一審は、東京地裁平成26年3月18日判決(判時2236号47頁、TAINSコード:Z264-12436)。 (※12) ヤフー事件控訴審は、東京高裁平成26年11月5日(訟月60巻9号1967頁、TAINSコード:Z264-12563)、IDCF事件控訴審は、東京高裁平成27年1月15日(裁判所HP、TAINSコード:Z265-12585)。 (※13) ヤフー事件第一審判決は、「取引が経済的取引として不自然・不合理である場合(筆者注:経済合理性基準)」に加え、「組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成にかかる税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの(筆者注:趣旨目的基準)も含む」と判示していた。 しかしながら、趣旨目的基準については、一般の納税者にとって、組織再編税制の趣旨・目的や個別規定の趣旨・目的は必ずしも明確なものではないことから、多くの学者及び実務家から、趣旨目的基準の下では納税者の予測可能性を確保することが困難であり、租税法律主義(課税要件明確主義)の趣旨に反するという批判(※14)があった。 (※14) 代表的なものとして、北村導人「ヤフー・IDCF事件判決の概要と検討」旬刊経理情報1383号46頁、谷口勢津夫「ヤフー事件東京地裁判決と税法の解釈適用方法論-租税回避アプローチと制度(権利)濫用アプローチを踏まえて-」税研177号20頁等。 そこで、ヤフー/IDCF事件の最高裁判決(※15)は、組織再編成は、必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけではなく、多数の企業が関与して複雑かつ巧妙な租税回避行為が行われた場合、そもそも純経済人の行為として自然かつ合理的な組織再編とは何かという議論の出発点からその審理判断に困難を来し、その不当性を適切に判断し得ない場合もあり得るとし、法人税法132条の2の不当性要件該当性の判断基準として経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切でない(※16)として、組織再編税制の立法時の趣旨(※17)に照らし、不当性要件の解釈につき、制度濫用基準(※18)の考え方を示した。 (※15) ヤフー事件は、最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(裁判所HP、TAINSコード:Z266-12813)、IDCF事件は、最高裁平成28年2月29日第二小法廷判決(裁判所HP、TAINSコード:Z266-12814)。 (※16) 最高裁判所判例解説69巻5号1526(296)頁。 (※17) ここでいう立法趣旨とは、法人税法132条の2の導入に際し、政府税制調査会法人課税小委員会が平成12年10月に公表した「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」において、「組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転とするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、組織再編税に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要がある(下線筆者)」と述べていることを指す。 (※18) ヤフー事件の最高裁判決では、制度濫用基準について、「法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべき」と述べている。 その上で最高裁は、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情も考慮(※19)した上で、濫用の有無を判断する(※20)と判示した。 (※19) 前掲(※16)1527(297)頁では、「これらの考慮事情は、経済合理性基準の具体的な内容に係る通則的見解とされている『〔行為・計算が〕異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合』(略)に含まれている2つの要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に考慮事情として位置付けたものであるといえよう。このような本判決の判断の方法は、制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る上記の通説的見解の考え方を取り込んだものと評価することができるように思われる」と述べている。 (※20) 前掲(※16)1529(299)頁では、「本判決は、上記①及び②等の事情を『・・・・・・考慮した上で』としている。このような言い回しは、濫用の有無の判断に当たっては、上記①及び②等の事情を必ず考慮すべきであるという趣旨が含意されているものと考えられ、更にその趣旨を推し進めると、①行為・計算の不自然性と、②そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等の不存在は、単なる考慮事情に止まるものではなく、実質的には、法132条の2の不当性要件該当性を肯定するために必要な要素と見ることができるのではなかろうか(下線筆者)」と述べている。 〈イ〉 2つの考慮事情と租税回避の意図 ここで注意すべきは、ヤフー事件の最高裁が、上記①②の考慮事情に続けて、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である(下線筆者)」と判示している点である。 最高裁が租税回避の意図を要求している点について、そもそも、同族会社の行為計算否認規定が、昭和25年の税制改正以前は、「法人税を免れる目的があると認められるものがある場合(下線筆者)」となっていたところ、同改正により、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき(下線筆者)」に改められた(※21)ことから、一般に、法人税法132条の不当性要件の判断基準としていわゆる「租税回避の意図」は必要ないと解釈されていた(※22)こととの整合性が問題となる。 (※21) 朝長英樹税理士は、「検証・IBM裁判〔第3回〕」(T&A master No.558 2014.8.11 9頁)で、「(昭和25年の改正は)『租税回避』に該当するかどうかの判断基準を『目的』から『結果』に変更する改正であったわけですが、『経済合理性基準』は『結果』ではなく『目的』によって租税回避の有無を判断するという性格の強い基準です。『事業上の理由』や『事業目的』があるのか否かを問うのが『経済合理性基準』だからです。このような点からすると、『経済合理性基準』は、昭和25年度税制改正後の132条の解釈として妥当かどうかという点に疑問なしとしない部分がある、と考えています」と述べている。 (※22) 昭和25年の改正は、その後、昭和40年の法人税法の全文改正時にも踏襲された。その結果、課税庁側は、租税回避の意図の立証は不要であり、結果として法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められれば、租税回避の意図の有無にかかわらず、法人税法132条を適用することができると解していた。 これについて、ヤフー事件の最高裁判所判例解説は、「法132条の2は前述のような立法趣旨(※23)の下で設けられた規定であることから、制度の濫用という概念を中心に解釈すべきであり、制度の濫用と評価するためには、行為者に一定の主観的要素が必要であるとの常識的な考え方を基礎として、租税回避の意図を要求したものと考えられる」(※24)と述べており、制度濫用基準の適用に際し、行為者の主観的要素としての租税回避の意図に触れざるをえないと考えていると解される(※25、26)。特に考慮事情②の合理的な事業目的の有無を判断する場合に検討すべき要素として位置付ける(※27)のが相当と思われる。 (※23) 前掲(※17)参照。 (※24) 前掲(※16)1530(300)頁。 (※25) 今村隆教授は、「ヤフー事件及びIBM事件最高裁判断から見えてきたもの(上)」税務弘報64巻7号57頁で、「『税負担を減少させる意図』といっても、法人税法132条の2の規定上要件となっているのではなく、あくまでも『不当』を判断するための観点(基準)の一つとの意味であり、『不当』か否かを判断するに当たり、『税負担を減少させる意図』の有無も判断すべきであるとの意味であり、『税負担を減少させる意図』が要件となっているとの意味ではないと考えられる」と述べている。なお、今村教授は、「観点」の用語について、「これは『基準』とほぼ同じ意味であるが、『基準』よりもルールとしての拘束性が少し弱いとのニュアンスで用いられているものと考えられる」と述べている。 (※26) 前掲(※10)に続けて、金子教授は、「本書17版以降、従来の節を修正し、3つの基準を挙げてきたが、第3の基準(租税回避の意図があったか否かの基準)は、第2の基準の主観的側面であり、いわば繰り返しであるから、この版以降は削除する」と記載している点が興味深い。 (※27) 品川芳宣教授は、「同族会社間の高額借入れと同族会社の行為計算の否認」(T&A master No.855 2020.10.26 20頁)で、「『意図』の有無については、租税回避の否認が脱税のように『故意』の立証を必要としないことを考慮すると、必要条件ではなく、十分条件として考えるべきであろう」と述べている。 〈ウ〉 最高裁判決が定立した判断枠組みの射程 ヤフー/IDCF事件以後、法人税法132条の2にいう組織再編に係る行為計算否認規定適用の是非が争われたTPR事件では、その第一審(※28)及び控訴審(※29)ともに、不当性要件の判断枠組みについて、ヤフー/IDCF最高裁判決が定立した判断枠組みがそのまま引用されている。当該事案は現在最高裁に上告され、未だ確定していないものの、少なくとも法人税法132条の2の解釈に当たっては、今後もヤフー/IDCF事件最高裁判決における考え方が踏襲されていくものと思われる。同判断枠組みの法人税法132条への応用については後述する。 (※28) 東京地裁令和元年6月27日判決(平成28年(行ウ)第508号、TAINSコード:Z888-2251)。 (※29) 東京高裁令和元年12月11日判決(令和元年(行コ)第198号、TAINSコード:Z888-2287)。 (続く)

#No. 412(掲載号)
#霞 晴久
2021/03/25

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第50回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第50回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (10) 値増金の益金算入時期を定める法人税基本通達2-1-1の15 法人税基本通達2-1-1の15は、法人が請け負った建設工事等に係る工事代金につき、資材の値上がり等に応じて一定の値増金を収入することが契約で定められている場合において、同通達2-1-1の11の取扱いを適用しないときの取扱いを定めている。 具体的には次のようになる。 この法人税基本通達2-1-1の15の趣旨は次のとおりである(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」36~37頁参照)。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。資産の販売等に係る収益の計上額を規律する法人税法22条の2第4項は、同項に優先して適用されることになる同項の「別段の定め」から同法22条4項を除いている。このような状況の中で、その22条4項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。法人税法施行令18条の2の解釈の適用の問題として論ずることはありうる。   (11) キャッシュバックなど相手方に支払われる対価の取扱いを定める法人税基本通達2-1-1の16 ア 概要 収益認識会計基準では、取引価格を算定する際には、例えばクーポンなど顧客に支払われる対価の影響を考慮する(基準48)。 顧客に支払われる対価は、企業が顧客あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払う又は支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対する債務額に充当できるもの(例えば、クーポン)の額を含む。この対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額することになる(基準63)。 要するに、リベート、クーポンなどを顧客に支払う場合、費用として計上するのではなく、取引価格(収益)から減額するということである。 顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の①又は②のいずれか遅い方が発生した時点で又は発生するにつれて、収益を減額する(基準64、指針設例14)。 以上が顧客に支払われる対価に係る収益認識会計基準の取扱いであるが、法人税法の取扱いはどうなるか。この点に関して、法人税基本通達2-1-1の16は、資産の販売等に係る契約において、いわゆるキャッシュバックのように相手方に対価が支払われることが条件となっている場合(損金不算入費用等に該当しない場合に限る)の取扱いを定めている。具体的には次のとおりである。 キャッシュバック以外の商品等の販売に要する景品等の費用については、法人税基本通達9-7-1~4に取扱いが定められている。 イ 本通達の趣旨 この法人税基本通達2-1-1の16の趣旨は、次のとおりである(上記趣旨説明38頁参照)。 収益認識会計基準や「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。そうであれば、前述のとおり、法人税法22条4項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。 もっとも、従来は、売上割戻の額を収益(売上高)から控除する方式のみならず、旧通達2-5-1において、法人税法22条3項2号括弧書き所定の債務確定基準により損金算入を認めることとしていた。損金の問題であれば法人税法22条4項の適用は排除されていない。しかしながら、この法人税基本通達2-1-1の16は収益(売上高)から控除する方式を想定しているため、一筋縄ではいかない。 キャッシュバックなど相手方に支払われる対価の取扱いについて、これまでのように費用として処理すべきであるのか、あるいは本通達のように収益から控除すべきなのか。この点は、会計の規範に委ねるべき問題であるのか、法人税法固有の観点から決定すべき問題であるのかといった観点から考察を深めることができそうである。キャッシュバック以外の商品等の販売に要する景品等の費用については、法人税基本通達9-7-1~4に取扱いが定められており、これまでどおり、費用の問題として取り扱われている。   (了)

#No. 412(掲載号)
#泉 絢也
2021/03/25
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