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基礎から身につく組織再編税制 【第28回】「適格分割型分割、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の株主の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第28回】 「適格分割型分割、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の株主の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格分割型分割、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の株主の取扱いについて解説します。   1 適格分割型分割があった場合の分割法人の株主の取扱い (1) 分割法人株式の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2④)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 (2) 分割法人株式の帳簿価額の付け替えと分割承継法人株式の取得価額 分割法人の株主は、適格分割型分割を行った場合には、移転する資産・負債に対応する分割法人株式を部分的に帳簿価額で譲渡し、対価として分割承継法人株式を取得したものと考えて、分割法人株式の帳簿価額の付け替え計算を行う必要があります。 適格分割型分割を行った場合の分割承継法人株式の取得価額、分割法人株式の帳簿価額については、次のとおりとなります。 (3) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当が計上されます(法法24)。 適格分割型分割が行われた場合には、分割法人の利益積立金額のうち移転する資産・負債に対応する部分は分割承継法人に引き継がれ、分割法人の株主には交付されないため、分割法人の株主においてみなし配当は計上されません。 (4) 具体例 〔前提〕 〔分割法人の株主の仕訳〕 2 非適格分割型分割があった場合の分割法人の株主の取扱い (1) 分割法人株式の譲渡損益 非適格分割型分割の場合、分割法人の株主は、移転する資産・負債に対応する分割法人株式を部分的に時価で譲渡し、対価として分割承継法人株式を取得したものと考えて、分割法人株式の譲渡損益の計算を行う必要があります。ただし、分割対価が株式のみの場合には、投資が継続しており、帳簿価額で譲渡したものと考えるため、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2④)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 したがって、非適格分割型分割の場合でも、分割法人の株主が金銭等の交付を受けていないときは、分割法人株式の譲渡損益は繰り延べられます。 (2) 分割法人株式の譲渡損益の計算と分割承継法人株式の取得価額 非適格分割型分割を行った場合の分割法人株式の譲渡損益の計算と分割承継法人株式の取得価額については、次のとおりとなります。 ① 金銭等が交付される場合 ② 株式のみ交付される場合 (3) みなし配当 非適格分割型分割が行われた場合には、分割法人の利益積立金額、資本金等の額のうち移転する資産・負債に対応する部分は分割承継法人に引き継がれず、分割法人の株主に交付されることとなるため、分割対価として交付された金銭等が払込資本を超える部分については、みなし配当として認識する必要があります(法法24①二)。 〈みなし配当の金額〉 交付を受けた金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額から資本金等の額のうち交付基因株式に対応する部分の金額を控除した金額とされています。   3 具体例 【具体例①(分割承継法人株式+現金を交付)】 〔前提〕 〔分割法人の株主の仕訳〕 【具体例②(株式のみ交付)】 〔前提〕 〔分割法人の株主の仕訳〕   ◆適格分割型分割、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の株主の取扱いのポイント◆ 分割法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格分割型分割か非適格分割型分割かに関わらず、投資の継続で判定します。 非適格分割型分割が行われた場合でも、分割承継法人株式のみが交付されるときには、分割法人株式の譲渡損益は認識せず、分割承継法人株式の取得価額は分割時の時価とはならないので留意が必要です。 適格分割型分割、非適格分割型分割があった場合の分割法人の株主の取扱いをまとめると下記のとおりです。   (了)

#No. 420(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/05/20

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第30回】「親族の範囲」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第30回】 「親族の範囲」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q X(夫)とY(妻)は、家屋とその敷地を共有(各持分1/2)し、居住の用に供していましたが、本年4月、Xの転勤に伴いその家屋と敷地を売却することにしました。 たまたまYの妹の夫であるZの経営するA社(Zの持株割合が80%)が住宅を探していたことを知り、その家屋と敷地をA社に売却しました。 売却については、地価の下落による多額の譲渡損失が発生し、XとYは銀行に住宅ローンを組んで、転勤地にマンションを共有(各持分1/2)で購入し、本年10月から居住の用に供しています。 なお、X・YとZは生計も住居も別です。 他の適用要件が具備されている場合、XとYは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A いずれの持分に係る譲渡損失についても、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある親族などに該当する場合の適用除外規定(【第29回】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、XとYの妹の夫であるZの間には、親族関係(民法725(親族の範囲))がありませんから、特殊関係にはありません(措法41の5⑦一、措令26の7③)。 また、Yと妹の夫であるZの関係は、姻族2親等の親族関係にありますが、生計も住居も別であることから、ZのA社における持株割合が50%超であっても、YとA社の間には特殊関係はないこととなります(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 したがって、XとYのいずれの持分に係る譲渡損失についても、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 〔参考〕 親族・親等図表 (了)

#No. 420(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/05/20

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第113回】SBIソーシャルレンディング株式会社「第三者委員会調査報告書(公表版)(2021年4月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第113回】 SBIソーシャルレンディング株式会社 「第三者委員会調査報告書(公表版)(2021年4月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【SBIソーシャルレンディング株式会社第三者委員会の概要】   【SBIソーシャルレンディング株式会社の概要】 SBIソーシャルレンディング株式会社(以下「SBISL」と略称する)は、2008(平成20)年1月設立。ソーシャルレンディングサービスにおける出資募集業務、貸金業務を主たる事業とする。会社の機関として株主総会のほか、取締役会と監査役及び会計監査人を設置しており、2021年2月18日時点における取締役は5名(うち1名は社外取締役)、監査役は2名である(調査報告書10ページ)。営業貸付金残高42,184百万円、営業収益3,236百万円、税引前当期純利益244百万円(いずれも2020年3月期実績)。資本金1,000万円(SBIグループ100%)。本社所在地は東京都港区。 親会社であるSBIホールディングス株式会社(以下「SBIHD」と略称する)は、1999(平成11)年7月設立。株式等の保有を通じた企業グループの統括・運営等を事業内容とする。連結収益368,055百万円、税引前利益65,819百万円、従業員数8,003人、連結子会社268社、持分法適用会社34社(2020年3月期実績)。東京証券取引所市場第1部上場。本店所在地は東京都港区。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。   【調査報告書の概要】 まず、本件で問題となったSBISLのソーシャルレンディングに係るビジネスモデルについて、調査報告書から引用する(調査報告書10ページ)。 SBISLは、このビジネスモデルによって、A社に関連するファンドの組成を繰り返し、A社関連ファンドとして、2017年5月から2020年10月までの間に合計39ファンド、383億9,505万円の募集及び融資を実行した。A社に関連する本件ファンドの融資残高が、SBISL全体の融資残高に占める割合は、2017年3月時点では0%であったが、その後急拡大し、2018年3月時点で全貸付残高の32.1%、2019年3月時点で43.8%、2020年3月時点で43.8%、2021年1月時点で39.2%となっている(調査報告書25ページ)。 ここまでSBISLが融資を拡大していった理由について、調査報告書の内容を検討したい。   1 SBISLによるファンドの組成と資金の流れ SBISLのA社に対する貸付のためのビジネススキームは大きく分けて、「発電所案件」と「不動産案件」に大別され、「発電所案件」にはバイオマス発電と太陽光発電に関するものが存在していた。SBISLとA社間の資金の流れは、いずれのビジネススキームでも同じで、下図のとおりとなる。 〈SBISLとA社間の資金の流れ〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ところが、第三者委員会が15のプロジェクトについて進捗状況を調査した結果、調査対象のプロジェクトの多くで、地上権の設定や電力会社との間における電力供給契約上の地位の取得は完了しているものの、実際の発電設備(不動産案件の場合は建物)の工事や設備の発注は行われないままに、貸付金の返済期限を迎えていることが判明している。 具体的には、発電所案件では、調査対象の8プロジェクトのうち、4プロジェクトは発電所が完成しないまま返済期限を迎え、プロジェクト自体をB社に売却することによって返済を完了させており、その他の4プロジェクトは工事未着工が2件、工事ストップと大幅遅延ながら造成工事中が各1件となっている。 一方、不動産案件では調査対象の7プロジェクトのうち、大幅に遅延しながらも建物を完成させたプロジェクトが1件あるものの、4件は更地状態のまま、他の2件も大幅遅延のまま建築中と工事ストップが各1件という状態であった。   2 資金使途違反金額(調査報告書別紙3) 第三者委員会は、SPCからA社に流れた資金が、本来の使途である設備・工事代金以外に費消されている実態を調査し、その合計額を「調査報告書別紙3」にまとめている。それによると、融資額合計20,728百万円のうち、12,927百万円が資金使途に違反しており、その割合は、62.4%に達している。 この金額の算定根拠について、第三者委員会は次のように説明している(調査報告書54ページ以下)。   3 第三者委員会による原因分析(調査報告書69ページ以下) 第三者委員会は、SBISLにおいて本件事象が発生した原因を以下のように総括している。 そのうえで、原因として、次の項目を挙げている。 いくつか特徴的な項目を見ておきたい。 まず、「第1 プロフェッショナリズム・投資者保護意識の著しい欠如」から、第三者委員会は、ソーシャルレンディング事業について、「SBISLは、仮にプロジェクトが失敗に終わり、投資者に対する元利金の分配が実現しなかったとしても、投資者に対する元本償還や利益分配の義務を負うことはなく、この点において、ソーシャルレンディング事業は、SBISL自身にとってリスクのない事業である」と説明したうえで、その経営姿勢を批判している。 こうした不誠実な経営陣について、SBISLにおけるA社関連ファンドの貸付残高が、2019年3月末時点で全貸付残高の43.8%の規模に膨らんでいたことから、第三者委員会は、一般論という限定を付けながら、「当該債務者からの融資申込みを断れば同債務者の他の貸付の返済に支障が生じる可能性もあるため、貸付者と当該債務者はいわば「運命共同体」の関係となりがちである(借りて貰うことを頼みやすく、貸すことを断りにくい状態)」となっていたとして、こうした状態を「情実融資」「貸付モラルの低下」と評価している。 また上場準備の段階にあったSBISL経営トップについては、「第2 経営トップの営業優先・過大な収益目標の設定」の項目で、その企業風土を次のように評価している。 そして、「このような企業風土の中ではリスク管理を唱えても会社業務の邪魔をするものとの評価を受けかねず、それを強く主張することはできないものと推察」している。 さらに、「第4 審査・モニタリング体制の欠陥」の項目の中で注目されるのが、「人員不足」である。第三者委員会は、A社関連ファンドの担当者が、案件組成の検討、対外折衝、審査・モニタリングを含めて原則一人の人員で案件を担当していることに加えて、A社案件以外の多くの業務も担当していたことを挙げて、原因分析をしている(下線は筆者による)。   4 再発防止のための提言(調査報告書73ページ) 第三者委員会は、上記の原因分析の結果、次のように再発防止策を提言している。 「経営陣の意識改革」や「適切なガバナンス機能」が必要なのは言うまでもないことなので、第三者委員会が、「SBISLの組織上、体制上の問題である」と結論づけた審査・モニタリング体制について、「組織体制の強化・見直し」の項目から、再発防止の具体策について、内容を確認しておきたい。 第三者委員会がまず提言しているのが、「貸付審査部門の新設」である。審査部門を新設しても、実際に専門的知見が備わった担当者を配置することが難しい場合の策として、 などの具体策が示されている。 次いで、「モニタリング体制の整備」として、モニタリング業務についても、ファンド組成・審査の担当者から独立した別部門にて実施することが望ましいとしたうえで、今回の事案に対する具体的な施策として、次のようにまとめている。 第三者委員会は、最後に、「適切な貸付条件設定ルールの設定」を提言して、再発防止策を締め括っている。   【調査報告書の特徴】 SBISLが第三者委員会の設置を公表して間もなく、週刊新潮は2021年2月25日号に1本の記事を掲載した。『金融庁が調査厳命! クリーン装い200億円調達の果て日没した「太陽光発電会社」の広告塔は「小泉純一郎」』とタイトルを付けられたこの記事では、SBISLのソーシャルレンディング事業によって200億円近い資金を調達した会社を、株式会社テクノシステム(代表取締役:生田尚之氏)と特定したうえで、同社が、小泉純一郎元総理大臣を広告塔に仕立て上げ、調達した資金を次から次へと過去の借入金の返済原資としている様子が、元社員の証言などを引用する形で明らかにされている(※)。 (※) 週刊新潮の記事(2021年2月25日号)は、本稿執筆時点では、デイリー新潮のサイトで閲覧することが可能である。 調査報告書が公表された翌日4月29日付の東京新聞では、「東京地検、太陽光関連会社を捜索 融資金、数億円を詐取か」とタイトルを付けられた短い記事が掲載され、以下のように報道された。   1 SBISLがA社に対する融資を拡大していった理由 本稿はじめで、調査報告書を読むポイントとして、「SBISLが融資を拡大していった理由」は何か、それが第三者委員会によってどこまで詳らかにされているかに注目していた。 第三者委員会は、原因分析の中で、「経営トップの営業優先・過大な収益目標の設定」を挙げ、上場のために過大な営業目標を掲げる経営トップの姿勢を批判し、担当者は、「過大な営業目標を達成するための安易な方策として、A社案件が産み出す手数料収入を得ることに更に傾注することとなり、A社の持参するスケジュールの極めてタイトな大型案件に、厳格な審査を行わず、次々と取り組むこととなった」と評価分析をしている。 SBISL経営陣や担当者とA社社長との間にどのような関係があったのか、A社からの利益供与(キックバック)などはなかったのかなどについて、調査報告書には言及はない。   2 A社の資金はどこに流出したのか 第三者委員会が、資金使途違反として認定した約130億円のうち、他のファンドからの借入金返済や利息の支払に充てられたことが判明している金額は約50億円であり、残り約80億円については、各貸付対象事業を遂行する目的に使用されたとはいえないことから資金使途違反金額に加算されたものであるが、この約80億円の資金使途についても、調査報告書には一切言及がない。 第三者委員会は、A社関連ファンドの関係者13名に対してヒアリングを実施したこととしているが、この中にA社社長が含まれているかどうかについても説明はない。 上記1の指摘にも共通することであるが、共犯関係や資金流用の実態などの調査結果については、本件が東京地検特捜部の捜査対象となっている(すでに引用した東京新聞の記事より)ことを踏まえ、捜査への影響を考慮して、「公表版」では削除されているのかもしれない。   3 未償還元本相当額の償還に向けた取り組み SBISLは、調査期間中の4月2日、「未償還元本相当額の償還に向けた取り組みに関するお知らせ」をリリースして、以下のように、投資家を保護する姿勢を示している。 こうした未償還元本相当額の償還により、SBIHDが4月28日に公表した2021年3月期の決算説明会資料における「連結業績の概況」によれば、約145億円の損失が発生し、これを同期に処理したという記載がある。   4 SBISLが講ずる措置及び再発防止策 SBISLは、第三者委員会による調査報告書の提出を受けて、4月28日、「当社貸付先の重大な懸案事項に関する第三者委員会の調査報告と再発防止策等について」というリリースを出し、再発防止策と関係者の処分を次のように公表した。 (了)

#No. 420(掲載号)
#米澤 勝
2021/05/20

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第14回】「費用構造をふまえて値上げする」~サブスク人気に乗っかりたい!~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第14回】 「費用構造をふまえて値上げする」 ~サブスク人気に乗っかりたい!~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 近年、いたるところで「サブスクリプション」という言葉を見かけますね。「サブスク」という言葉が独り歩きし、その意味するところが曖昧なことも多いですが、サブスクリプションは、利用者から利用期間に応じた料金を受け取り、継続的に製品やサービスの利用権を提供するビジネス・モデルです。 音楽や動画の配信サービスなどがすぐに思いつきますが、洋服やバッグなどのサブスクリプションも人気です。海外ではプライベート・ジェットのサブスクリプションまであり(!)、サブスクリプションの波はあらゆるビジネスに押し寄せています。この「Profession Journal」もサブスクリプションの典型ですね。 *  *  * *  *  * 従来からある「販売」というビジネス・モデルでは、製品やサービスを「所有する権利」が顧客に移転します。こうした「売り切り」のビジネス・モデルの場合、基本的には、企業と顧客との関係はその都度完結するので、企業は各取引で大きな利益を獲得することを目指します。企業は、取引ごとに「収益-費用=利益」という構造で損益を把握することができます。 一方、サブスクリプションの場合、製品やサービスの所有権そのものは顧客に移転せず、製品やサービスを「利用する権利」を顧客に提供します。企業と顧客との関係は長期にわたって継続していくので、企業は、顧客との長い継続的な関係の中で、小さな利益を何度も積み重ねていくことを目指します。 *  *  * *  *  * サブスクリプションのビジネス・モデルでは、新規顧客を獲得するために初期費用を投じる必要があります。この顧客獲得費用(CAC:Customer Acquisition Cost)を毎月の利益で回収し、さらに利益を積み重ねていくことが企業の目標です。 *  *  * *  *  * 毎月1件ずつ新規顧客を獲得していくことを想定し、全体の損益を考えてみましょう。 全体で考えると、黒字に転換するのはさらに先です。実際に、サブスクリプションを展開する企業では、スタートアップの段階で大幅な赤字を計上していることが多いようです。 *  *  * *  *  * サブスクリプションは、顧客と継続的な関係を構築し、長い時間をかけて費用を回収し利益を出していくビジネス・モデルなので、顧客を獲得することによる損益を長期的な視点で考えるのが合理的です。そのため、顧客が契約開始から終了までの期間を通じて企業にもたらす利益や収益として「顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)」を把握する方法がよく利用されています。顧客生涯価値の具体的な算定方法は様々で、一義的ではありませんが、ここでは、毎月1,000円の利益を前提として算定してみます。仮に顧客の契約継続期間が18ヶ月ならば、 となります。この場合、顧客生涯価値(LTV)18,000円が顧客獲得費用(CAC)6,000円を上回っているので、長期的に見て利益が出るビジネスであることがわかります。 また、顧客生涯価値(LTV)÷ 顧客獲得費用(CAC)の値は、顧客当たりの収益性を表す指標として活用することができます。 この指標は「ユニット・エコノミクス」と呼ばれています。この指標が大きいほど、少ない元手で多くの利益を稼げることを意味しますので、収益性の高いビジネスです。 *  *  * *  *  * サブスクリプションのビジネス・モデルの場合、定額料金の設定が非常に難しいと言えます。大きな費用が先行し、小さな収益でこれを回収するという構造を踏まえ、長期的に見て採算の取れる価格に設定する必要がありますが、顧客の契約継続期間や解約率などを正確に見積もることは困難なことが多いでしょう。 また、定額料金が高い場合、顧客にとっての魅力が薄れて顧客の獲得や維持が難しくなります。一方、定額料金が低い場合、長期的には利益を計上できる見込みであっても、先行して支出した資金を回収できない期間が長期化し、資金ショートを起こす可能性も否定できません。単にサブスク人気に乗っかるだけではなく、多角的な検討や分析を十分に行ったうえで料金設定することが求められます。 (了)

#No. 420(掲載号)
#石王丸 香菜子
2021/05/20

社長のためのメンタルヘルス  【第1回】「「社長のためのメンタルヘルス」の考え方」

社長のためのメンタルヘルス 【第1回】 「「社長のためのメンタルヘルス」の考え方」   特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊     1 「社長」についての考え方 本連載のタイトルは経営トップに強く訴える効果を求めて、インパクトのある「社長」という言葉を使っている。一方、本連載では以下の理由により、「社長」はより広範な概念として用いる。例えば、経営の最高責任者が実質的には会長であることもあろうし、労働法で守られていないという意味においては、役員全般も個々人で健康管理を行う必要がある。 同様に、地方や海外の拠点のトップは、その限られた地域の企業活動においては、営業や人事など日常的に、社長に準ずる責務を負う。また、法人格はなくとも、個人事業主で従業員を雇用している場合、健康管理上は社長と同様の配慮が必要となる。 詳しくは次回の話題とするが、「社長ならではの大変さ」というものは、登記上の代表取締役ばかりではなく、上記のような事業経営に責任を有する方々が共通して背負うものがあり、本連載においては、そのような社長に準じる立場の方々も広く含めて、便宜的に「社長」と表現する。   2 「他覚」についての考え方 本項の「他覚」についての考え方も、前出の「社長」と同様、本連載に限っての発想を含んだ広範囲のものとして取り扱う。「自覚」は日常用語であるが、その対語である「他覚」は、労働安全衛生法における法律用語である。各社で行われている定期健康診断を規定した同法第66条には次のような定めがある。 上掲のカッコ内にある「第66条の10第1項」にある検査とは、ストレスチェック制度のことで、これが除かれているのは、「医師による」ばかりではなく、例えば保健師でも合法であることによる。また、同条において詳細は「厚生労働省令で定める」と規定されている。この省令は、労働安全衛生規則という。次に同規則の第44条の関連個所をみる。 後半は省略したが、健診項目は全部で11点ある。そのうちの第1項が「既往歴及び業務歴の調査」、第2項が「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」であり、第1項及び第2項の「自覚症状」については、近年では一般に、事前に検診機関から送られてくるマークシート方式の自己申告で診断が行われている。 一方、「他覚症状」であるが、厚生労働省がホームページに公表している「定期健康診断等における各検査の概要(現状)」という資料をみると、過去の通達を引用しつつ、次のとおり解説がなされている。定期健康診断は法律において「医師による」と定められているため、ここにおいても、「医師の判断」でなされることになっている。通常、健診会場では「内診」などと呼ばれ、医師が聴診器ほかの器具による「問視診」により、健康状態を調べる。 このように法定の健康診断においては、「他覚」の「他」とは医師のことであるが、本連載は基本的に、医療にアクセスする前の段階における現場での予防を目的としている。したがって、他覚とは本人以外の上司や同僚、経営・人事や健康管理部門、広くは家族や友人まで、周囲の人たち全員を意味する。 具体的にいうと、うつ状態の前駆症状としてよく挙げられる「服装や髪型の乱れ」であるとか、簡単な文章での「誤字脱字の増加」といった、必ずしも本人が自覚していなくとも、周囲の他者が気付くような兆候も、メンタルヘルスでは重要な判断要素となる。この点は後の回でも改めて触れることになるが、労働法令では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にある「ラインによるケア」に類似する。   3 士業の皆様へ 本誌「Profession Journal」の読者層には、税理士や公認会計士ほか、いわゆる士業の方々が多いと聞いている。前述のように、個人事業であっても従業員を雇用している場合は、本連載における「社長」に当たるのみならず、個人のみの経営であっても顧問契約に基づく活動をしている場合、顧客の経営者に接する際に、前述した「他覚症状」のおそれを感じることもあり得る。 また、経営が多忙で自身の健康管理になかなか手が回らない社長に対し、日常的な接点があり信頼関係も築いている顧問から、メンタルヘルスを含む健康保健に関する情報提供や助言を行うことができれば、顧問契約の本業に加えて、健康管理という別の視点からも社長に、ひいては顧客の事業全体に対し役立ち得る。 このような観点から、本連載においては、健康管理とは直接関係のない分野で活躍中の士業各位におかれても活用可能な情報を提供できるように配慮する。もちろんご自身の健康管理にもお役立ていただければ幸いである。   4 最後に ~今後の連載予定について~ 今後の連載概要について、今の時点の予定としては、前半に総論的な事柄、後半には各論(ただし、なるべく多くの方に共通すると思うもの)を記事とすべく準備している。総論的な事柄としては、社長ならではの大変さ(経営者に多いストレス要因)、メンタル不調とは何か(うつばかりではない)、予防の考え方などを予定している。 各論においては、例えば、すでに労働者に対し各社で実施中の労災防止やストレスチェック等において、その対象を社長にまで広げるという効率的な方法を検討いただく意義について触れたい。また、この先の動向次第であるが、時事的な課題としては、コロナ禍や、それに伴うテレワーク等におけるストレスの対処についても話題とすることも検討しており、日常の業務・生活習慣の管理にお役立ていただければと思う。 (了)

#No. 420(掲載号)
#寺本 匡俊
2021/05/20

給与計算の質問箱 【第17回】「死亡した従業員の給与計算」

給与計算の質問箱 【第17回】 「死亡した従業員の給与計算」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社の従業員Aが2021年5月15日に急死しました。当社の給与計算の締め日は末日、支給日は翌月25日です。4月末締めの給料を5月25日に支給、5月末締めの給料を6月25日に支給します。給与計算にあたり税金・社会保険の注意点を教えてください。 A 死亡した従業員の給与計算における税金・社会保険の注意点は、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 所得税 支給日が死亡日5月15日後の2021年5月25日支給、6月25日支給の給料は所得税の課税対象にならないので源泉所得税は天引きしない。なお、これらの給料は相続財産になる。 支給日が死亡日5月15日以前の2021年1月25日支給から4月25日支給の給料をもとに会社は年末調整を行い、給与所得の源泉徴収票を作成し、死亡した従業員の相続人に交付する。   2 住民税 給料から天引きできなくなった住民税は相続人が納付する。会社は特別徴収から普通徴収に切り替えるため、給与所得者異動届出書を市区町村役場へ提出する。   3 雇用保険 2021年5月25日支給、6月25日支給の給料から雇用保険料を天引きする。 会社は「雇用保険被保険者資格喪失届」を死亡日5月15日の翌日から10日以内にハローワークへ提出する。   4 健康保険・厚生年金保険 社会保険料は4月分まで発生する。そのため、2021年5月25日支給から4月分の社会保険料を天引きするが、6月25日支給の給料から社会保険料は天引きしない。 会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を死亡日5月15日から5日以内に年金事務所へ提出する。 また、埋葬を行った従業員の家族に健康保険から埋葬料5万円が支給される。従業員に家族がいないときは埋葬を行った人に埋葬料5万円の範囲内で埋葬費が支給される。 なお、受給するためには、埋葬を行った家族や埋葬を行った人が「埋葬料支給申請書」を協会けんぽ等へ提出する必要がある。 (了)

#No. 420(掲載号)
#上前 剛
2021/05/20

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第17回】「「減価修正」と「減価償却」の本質的な違い」~鑑定と会計・税務~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第17回】 「「減価修正」と「減価償却」の本質的な違い」 ~鑑定と会計・税務~   不動産鑑定士 黒沢 泰   「減価償却」ということばは、税理士の皆様にとって非常に馴染み深いものと思われます。そして、会計や税務において、建物等の固定資産の帳簿価額を計算する上で欠かすことのできない要素とされていることは、改めて述べるまでもありません。これに似ていて本質が大きく異なる「減価修正」ということばが、鑑定評価では用いられています。 それぞれのことばの登場場面は以下のとおりです。 〔会計や税務において〕 〔鑑定評価において〕 以上のとおり、減価償却と減価修正とは、計算式の上では概念的に共通するものがありますが、これから述べるように様々な点で相違があります。この点を理解することが、会計や税務と鑑定評価の、似て非なる点を理解することにつながります。   1 減価修正とは 減価修正とは、不動産の鑑定評価手法の1つである原価法のなかに登場する価値計算の要素で、上記のとおり対象不動産に発生していると考えられる減価額を再調達原価から控除することを意味しています。 建築後、数年あるいは数十年を経過した建物は、時の経過や損傷、その他の要因により価値が減少しており、相応の減価を伴うのが通常です。これを目的として実施される手続きが減価修正に他なりません。   2 減価償却と減価修正の相違 (1) 目的の相違 ここで留意すべきは、減価修正の計算手法は会計や税務上の減価償却費の計算手法と似ていますが、その目的は大きく異なっているという点です。 すなわち、減価償却費の計算は固定資産の取得価額を耐用年数の全期間にわたって配分する方法であり、その目的は適正な期間損益計算を実施することにあります。また、償却の方法は定額法であれ定率法であれ、毎期継続して同じ方法を用いる限り最終的な累計額は同額となるわけですから、いずれも期間損益計算の見地からは合理的といえます。 なお、会計や税務では法定耐用年数を用いることが通常であり、減価償却費の計算は取得価額を基に規則的に行われるため、現実に建物が損傷している場合でも、その程度が減価償却費の計算に反映されることはありません。 これに対して、鑑定評価で実施される減価修正は、定額法等の手法を用いる点においては減価償却費の計算と異なるものはありませんが、費用配分を行うことがその目的ではありません。その目的は、実際に発生している価値減少の程度を見積もり、これを再調達原価から控除して適切な価格(積算価格)を求めるところにあります。 したがって、建物の損傷度合いが激しい場合にはその補修に必要な費用を別途に見積もり、これを再調達原価からさらに控除する必要が生じます(鑑定評価では、これを「観察減価」と呼んでいます)。すなわち、規則的に発生する減価の状況を定額法等により計算に反映させるだけでなく、現実の維持管理の程度等の要因も建物の価格に反映されるということです。 (2) 減価修正におけるいくつかの減価要因 鑑定評価の特徴的な点は、減価修正に当たっては建築後何年経過しているかという視点から価値の減少分を査定するだけでなく、既に述べた観察減価という手法を併用し、物理的、機能的、経済的な減価要因の有無をさらに検討するところにあります。 そして、観察減価の有無を検討する際には、対象不動産の各構成要素についてその実態を調査することにより、具体的に以下の点から減価を要するものがないかどうかを念頭に置く必要があります。 ① 物理的な減価要因の有無 ② 機能的な減価要因の有無 ③ 経済的な減価要因の有無 このように、減価修正の対象となる要因には様々なものがあり、規則的な減価償却費の計算には反映されない(反映できない?)ものも多く含まれます。   3 まとめ 以上述べてきた内容を再確認するため、不動産鑑定評価基準に規定されている減価修正の目的に関連する個所を掲げておきます。 (了)

#No. 420(掲載号)
#黒沢 泰
2021/05/20

プロフェッションジャーナル No.419が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年5月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.419を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/05/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第95回】「節税義務なるものの正体(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第95回】 「節税義務なるものの正体(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに これまで、プロフェッションジャーナルにおいて、連載投稿をさせていただいていましたが、全くの小職の身勝手な申し出でその連載を一時お休みさせていただいておりました。読者の皆さまにご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。 この度、連載を再開致しますことをご報告申し上げます。 そこで、比較的長期間のスケジュールで、「租税回避」について考えてみたいと思っております。そもそも、租税回避とは何か、課税庁による租税回避の試みに対する否認構成はどのような形でなされるのかといった点について、多くの事例を紹介しながら、独自の目線で述べていきたいと考えております。 再開第1回目の今号からは、租税回避を考えるに当たって、租税専門家に課されているといわれることがある「節税義務」ないし「節税措置義務」なるものの正体を明らかにしたいと考えます。 まずは、素材となる事案を使って考えていきましょう。   Ⅰ 節税措置義務〔東京地裁平成9年10月24日判決〕 1 事案の概要 X(原告)は、平成4年分の確定申告の際、A取引に係る不動産の譲渡所得を申告しなかったため、平成6年になって、かねてから税務申告手続を依頼しているY税理士(被告)に、A取引に係る譲渡所得の修正申告手続を依頼するとともに、B取引に係る譲渡所得の税務申告手続を依頼した。Y税理士は、Xのために、A取引についてのみ、平成4年分の譲渡所得として修正申告手続を行い、B取引については、平成6年3月に、平成5年分の譲渡所得として確定申告手続を行った。 その後、納税を終えたXは、これらの取引を一括して申告していたならば居住用不動産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例による軽減措置を受けられたはずであるのに、その軽減を受けられなかったのは、Y税理士に過失があると主張して、課税軽減を受けられたはずの金額の損害賠償を求め、訴えを提起した。これに対し、Y税理士は、同一年分の所得として申告手続をせず、別の年分の所得として税務申告手続をとった点に過失はないと主張した。 2 東京地裁平成9年10月24日判決(判タ884号198頁) 東京地裁は、まず、税理士の義務について次のように説示する。 そして、東京地裁は、Y税理士がXから税務申告手続の依頼を受けた当時、両取引に係る譲渡所得を平成4年分の譲渡所得として一括して修正申告することが可能であったこと、その場合、Xは、実際に納付した税額に比べ3,016万円以上の課税軽減を受けられたことが明らかであったとした。 そして、そもそも、両取引を一括して修正申告することには困難を伴わず、現にYも一旦は一括修正申告に思い至ったが、もっぱら加算税を賦課されることに気をとられてともかく早期に修正申告することばかりを念頭に置いたため、深く検討しないまま、平成4年分の譲渡所得として、A取引についてのみ修正申告手続をし、一括修正申告手続をしなかったと認定した。 上記のような認定を行った上で、結論において、Yには損害賠償義務があるとしている。 3 検討 岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決(判時1243号112頁:①事件)は、税理士の節税措置義務について否定的な説示を下している。 このように、過去の裁判例においては、「依頼者の租税に関してあらゆる有利を計らなければならない準委任上の義務を負うものでな〔い〕」として節税措置義務についてやや否定的な判断を下したものがある。 しかしながら、その後の判決の動向は、むしろ税理士の節税措置義務を認める傾向にあるといえよう。 例えば、そのような立場を採用するものとして、東京高裁平成7年6月19日判決(判タ904号140頁:②事件)を挙げることができる。 また、税理士が顧問先の会社の消費税について簡易課税を選択して申告したところ、本則課税を選択した方が有利だったとして、顧客が税理士に対して損害賠償を請求した事件として、東京地裁平成9年9月2日判決(判タ986号245頁:③事件)がある。そこでは、次のような判示がなされた。 また、相続税の申告に当たり、2億円余りの相続債務があることを税理士が念頭に置かなかったために、債務を配偶者が負担するとする遺産分割協議書を作成し、これに基づく申告をした税理士の責任を追及した事件として、東京地裁平成10年9月18日判決(判タ1002号202頁:④事件)は税理士の職務上の義務について説示している。 更に進んで、東京地裁平成10年11月26日判決(判タ1067号244頁:⑤事件)は、以下のように示し、積極的な節税対策の考案についてまで、税理士の義務が及ぶ旨の言及をしている。 税務相談の目的を達成すべき債務の中に節税措置を読み込む事件なども見られるところである。 かような判断を示すものとして、神戸地裁平成5年11月24日判決(判時1509号114頁:⑥事件)は、買換特例の適用を受けて不動産売却益を次の年度まで繰り越していたなら法人税等を節税できたとして、顧客の税理士に対する損害賠償請求を次のように認めている。 このように多くの裁判例では、税理士に課される高度の注意義務から税理士の節税措置義務を判示しているようである。特に②事件では、民法644条《受任者の注意義務》にいう善管注意義務を当然の前提とした上で、税理士法上の義務として「依頼者の利益に配慮する義務」があるとしている。 これらの判決から窺い知れるところは、税理士が、受任者であり、かつ、租税の専門家であることから節税を措置することまでが期待されているという前提に立って、税理士に要求される高度の注意義務から節税措置義務が導出されているという点である。 (続く)

#No. 419(掲載号)
#酒井 克彦
2021/05/13

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第1回】「更正決定処分をするための税務署側の手続」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第1回】 「更正決定処分をするための税務署側の手続」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   ◆連載開始にあたって◆ クライアントの税理士に対する期待は、税務調査において特段の指摘事項を受けることがないように各事業年度の税務申告を履行することであって、弁護士が扱うような紛争処理を期待されているのではない。 とはいえ、税務調査の過程において誤った法令解釈や事実認定がなされることにより、また、法令解釈に対して事実を誤って当てはめられることにより更正・決定処分がなされ、納税者が不測の経済的損害を被る場面に立ち会うこともあり得る。 そのような場面においては、税理士は、国税に関する法律専門家として、納税者の権利救済を積極的に担うべきであるし、少なくとも不服申立て制度の枠内においては代理人として活動することが認容されている。 本稿では、税理士の関与する納税者が国税に関する不利益処分を実際に受けた場合にどのような権利救済の途があり、それをどのように選択して行使すべきかについて解説することを目的としている。 併せて、読者各位は、本稿の記述内容を把握することにより、実際に不利益処分を受けた後の「事後の段階」の救済のみならず、税務調査の進行中において不利益処分をこれから受けるかもしれないという「事前の段階」においてこそ活かすことにより、納税者を無用な税務争訟に巻き込ませないように行動してほしいと願うものである。 *  *  * 1 争点整理表 (1) 更正決定等をすべき指摘事項か否かの峻別 調査担当者は、調査により非違が疑われる事項を識別した際には、課税要件を認定するための証拠資料や聴取書等に基づいて上司である統括国税調査官等に復命して指示を仰ぐとともに、当該事項に対する納税義務者や税理士による反論を吟味して諾否を判断することになる。 そして、最終的な調査結果の説明時において、更正決定等をすべきと認められる事項として取り上げるべき項目とそうでない項目を選り分けることになるが、その際に重要となる署内作成資料に「争点整理表」がある。 (2) 争点整理表とは 争点整理表とは、いわゆる争点整理表通達により下記(4)の基準に該当する事案について調査担当者が作成することとされている様式をいい、これには次の役割がある。 〈争点整理表〉 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より抜粋。 (3) 争点とは 争点整理表における争点とは、調査において当局と納税者との間で見解の相違等が存する事項や具体的に見込まれる各不利益処分に係る主な非違事項をいう。 (4) 争点整理表作成事案の基準 争点整理表作成事案とは、調査により不利益処分が見込まれる事案のうち、次のいずれかの基準に該当するものをいう。 (5) 争点整理表作成のイメージ (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より筆者一部改変。   2 税務当局は「法的三段論法」を意識している (1) 争点整理表の作成における基本的作業 争点整理表を作成するためには、「法令解釈」「事実認定」「課税要件の充足性の判断」を行う必要があり、この一連のプロセスを「法的三段論法」という。 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より筆者一部改変。 (2) 法令解釈 論点となっている事実の法的根拠を明らかにし、不利益処分に係る課税要件を抽出する。 課税要件とは、租税法規が定める「課税される」又は「課税されない」とするための要件(条件)をいう。 ◆ポイント 例えば、勤務実態のない従業員に対して給与が支払われている場合の重加算税を賦課する要件は、「労務の提供を受けていないこと」「労務の提供を受けたように事実を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出したこと」と解される。 (3) 事実認定 上記(2)で抽出した課税要件に照らして、調査によって抽出した証拠(納税者の主張を含む)について事実関係時系列表により整理を行い、直接証拠(事実を直接示している証拠)や間接証拠(事実の存在を推認できる証拠)から事実認定を行う。 なお、税務当局が認定した事実及び主張する事実については、全てその根拠(証拠)が必要であり、税務当局側が立証責任を負うこととなる。 〈事実関係時系列表〉 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より抜粋。 ◆ポイント 事実認定を行う場合においては、「認定した事実が複数ある場合に、全体として矛盾点や不合理な点がないか」「事実を認定する根拠(証拠)は十分か」「調査担当者の思い込みで事実を認定していないか」といった吟味がなされるべきであろう。 (4) 納税者の主張 争点整理及び事実認定を行うためには、納税者の主張を具体的に聴き取ることが重要であり、主張と事実が異なる場合などの疑問がある場合には、その矛盾が解消されるまで聴き取りを行う必要がある。 また、どのような答述であったとしても、調査担当者の描く筋を基にして、頭から決め付けを行うことや否定を行うべきではなく、いったんはそれを受け入れた上で税務当局の収集した証拠との比較検討や証拠力の高低を吟味する必要がある。 (5) 課税要件を満たしているか否かの判断(当てはめ) 認定された事実が課税要件を満たしているか否かの判断(課税等要件事実があるか否かの判断)を行う。 課税等要件事実とは、課税等要件に該当する具体的な事実のことをいい、課税する(しない)ことができるか否かは、課税等要件事実の有無によることになる。   3 調査経過記録書 調査担当者は、通常、納税者又は関与税理士に対する調査連絡時(いわゆる反面調査など調査連絡時より前に先行して調査に着手している場合にはその実質的な着手時)以降、不利益処分までの間の調査経過を時系列に「調査経過記録書」に記録している。 これには、納税者又は関与税理士に対する架電又は受電の概要などが記載されて(詳細に記録する場合には別途「電話聴取書」が作成されて)いるほか、審理担当者との協議や税務署としての最終的な意思決定会議である「重要事案審議会」の開催といった署内の各種手続も記録されている。 不利益処分が審査請求に発展した場合、国税不服審判所の担当審判官は、原処分をした税務署に臨場して調査資料を検査することになるが、税務調査手続の違法が争点になっていない事案であっても、この調査経過記録書を確認することが通常である。 そして、担当審判官が調査経過記録書を職権で証拠収集した場合には、審査請求人はその内容の閲覧・謄写を請求することができる。   4 税務署の最終的意思決定 上記3の「重要事案審議会」は、調査結果の説明における修正(期限後)申告の勧奨に納税者が承服せず、最終的に不利益処分を行うことに先立って、署長・担当副署長・総務課長・第1部門と所轄部門の統括官・審理専門官・調査担当者による会議の場において、署長に事案を報告してその裁可を受けるための会議であり、これによる意思決定を経て、「調査決議書」「処分の理由書」を起案し、署長の決裁を得て「処分の通知書」が納税者に送達される。 なお、この「重要事案審議会」の審議資料及び議事録についても調査資料綴に編綴され、担当審判官が調査資料の検査時に確認することがあるが、これについては国税庁と国税不服審判所において証拠収集しない申し合わせがある。 その理由は、国税不服審判所側からすれば、課税等要件事実があるか否かの判断は国税不服審判所が主体的に行うべきものであって原処分庁の拘束を受ける立場にない(判断に影響を受けない)からとされている。 しかし、いずれにせよ、原処分庁は、上記でみた「法的三段論法」を意識して、その後の不服申立ての判断に耐え得る(不服申立てにおいて原処分が維持される)心証が相当程度高く得られることを前提にして不利益処分を行うことになる。 (了)

#No. 419(掲載号)
#大橋 誠一
2021/05/13
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