《速報解説》 中小企業庁、経営者の高齢化や新型コロナの影響に対応し 「中小M&A推進計画」を取りまとめる ~今後5年間に実施すべき官民の取組を示す~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 中小企業庁は、2021年4月28日に「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」における検討を踏まえ、中小M&Aを推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組を「中小M&A推進計画」として取りまとめた。 本計画は、経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響に対応し、中小企業の貴重な経営資源の散逸を回避するとともに、事業再構築を含めて生産性の向上等を実現するため、中小企業の貴重な経営資源を将来につないでいくことを目的に策定されたものである。 1 中小M&Aの意義 本計画は「経営資源の散逸の回避」、「生産性向上等の実現」、「リスクやコストを抑えた創業」の3つの観点から、中小M&Aを推進する意義を説明している。 2 中小M&A対応の方向性 中小M&Aの実施件数は右肩上がりで増加しており、潜在的に対象となり得る事業者数は約60万者との試算もなされている。よって、中小M&Aは拡大途上にあると考えられ、希望する中小企業が円滑にM&Aを実施できる環境を速やかに整備することが必要である。 しかしながら、M&A支援機関が提供している支援について、案件規模によって内容や地域等に差があることから、中小M&Aを一緒くたに取り扱うのではなく、案件規模に応じて課題を把握し対応するとともに、中小M&Aの推進に向け制度的な課題にも対応していくために、本計画では以下の区分によって対応の方向性が示されている。 ① 小規模・超小規模M&Aの円滑化 (※) 経済産業省「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ概要」より ② 大規模・中規模M&Aの円滑化 (※) 経済産業省「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ概要」より ③ 中小M&Aに関する基盤の構築 (※) 経済産業省「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ概要」より (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 会計士協会が「非財務情報の充実と情報の結合性に 関する実務を踏まえた考察」を研究資料として公表 ~情報開示における結合性の必要性と結合性強化のための枠組みの考えを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月15日付けで(ホームページ掲載日は2021年4月30日)、日本公認会計士協会は、「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察」(会計制度委員会研究資料第6号)を公表した。 近年、非財務情報を含む企業報告の質を高める動きが加速し、非財務情報と財務情報又は非財務情報相互間における開示内容が有機的に結合し、経営者の認識に基づいた一貫した企業報告に対する投資家の期待の高まりがみられる。 そこで、開示される情報間の「結合性」に焦点を当て、結合性が求められる要因と求められる結合性の側面を考察し、研究資料として公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究資料は、目次を含めて70ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説する。 1 情報開示における結合性の必要性 次の考えが示されている。 2 結合性強化のための枠組み 結合性を高めるべき視点として、次のことが記載されている。 味の素、カルビー、ユニリーバ及びBASFの4社について、上記①から④の視点から分析を行っている。 結合性に関する実務上のヒントも記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会から「合意された手続業務に関する 実務指針」の改正(公開草案)が公表される ~実施結果報告書における独立性に関する記載、見出しの追加、配布及び利用制限等について言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月30日、日本公認会計士協会は、「専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)「国際関連サービス基準(ISRS)4400「Agreed-Upon Procedures Engagements」」(2020年4月3日)の公表に伴うものである。 意見募集期間は2021年6月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 合意された手続業務では、業務依頼者が実施される手続を業務の目的に照らして適切であると認めた場合に、業務実施者が、業務実施者と業務依頼者が合意した手続を実施する(6項)。 合意された手続業務は、監査業務、レビュー業務又は監査及びレビュー業務以外の保証業務ではない(8項)。 合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見又は保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない(8項)。 主な改正点は次のとおりである。 1 合意された手続業務における職業的専門家としての判断の明瞭化 業務実施者は、業務の状況を考慮して、合意された手続業務の契約の新規の締結及び更新、並びに実施及び報告において職業的専門家としての判断を行使しなければならない(19項)。 2 独立性に関する事項 独立性が要求されていない合意された手続業務についても、実施結果報告書において独立性に関する記載を行う(独立性の保持が要求されていない旨の記載。33項(12))。 3 「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しの追加 合意された手続業務(契約)の目的の明瞭化のため、改正版専門実4400では、実施結果報告書に「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しが追加されている。 4 実施結果報告書の配布及び利用制限 改正版専門実4400では、関係者のみに実施結果報告書を配布及び利用する旨の要求事項はない。 配布及び利用制限については、業務実施者の判断に基づいて決定する。 Ⅲ 適用時期等 2022年1月1日以降に契約を締結する合意された手続業務に適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 (法規・制度委員会研究報告第1号)の改正を公表 ~リモートワーク定着化を考慮した対応、「その他の記載内容」に関する規定の新設等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月25日付けで(ホームページ掲載日は2021年4月30日)、日本公認会計士協会は、「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(法規・制度委員会研究報告第1号)の改正を公表した。 これは、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(2021年1月14日)、リモートワークの定着化を考慮した対応などに関連して改正するものである。 なお、2021年1月召集の第204回通常国会に提出されている「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」を構成する公認会計士法において、監査報告書の電子署名が盛り込まれているが、当該改正の対応については、法案成立後に行うとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」に伴う対応 監査基準委員会報告書 720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」に対応して、監査約款に、「その他の記載内容」(監査した財務諸表等を含む開示書類のうち当該財務諸表等と監査報告書とを除いた部分の記載内容)の検討に関する規定を設けている。 2 リモートワークの定着化を考慮した対応 リモートワークの定着化によって、各種契約書をはじめとした脱押印に対応し、電子契約にも考慮した文言の見直しを行っている。 例えば、「電子契約の場合は、電子署名等の、記名押印に相当する電磁的な処理操作」と記載されている。 3 無限責任監査法人の指定社員の通知 2021年1月召集の第204回通常国会において、無限責任監査法人の指定社員の通知について、被監査会社の承諾を得た場合に電磁的方法によることを可能とする改正法案が提出されている(「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」8条による公認会計士法34条の10の4第7項の追加)。 同改正法が成立・施行された場合は、監査契約上で、指定社員の通知を電磁的方法により行うことについて改正法に基づく被監査会社(委嘱者)の承諾を得ることが考えられる。 4 監査手法・監査ツールの開発や改良に際して秘密情報を利用する場合を想定した監査約款の「守秘義務」規定の見直し 監査法人(受嘱者)が AI・デジタル技術を活用した監査手法・監査ツールを利用する場合、当該監査手法・監査ツールの開発や改良に際して被監査会社(委嘱者)の秘密情報を利用することがありうる(AIによる機械学習での被監査会社のデータ利用など)。 このため、監査手法・監査ツールの開発・改良を目的として入手した秘密情報の利用目的を明確化するために 、「Ⅲ 監査及び四半期レビュー契約書の作成例」 「2.契約書の記載内容」の「(13)守秘義務その他受領情報の取扱い」に、新たに⑧として記載例を追記している。 (了)
2021年5月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.418を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.100- 「消費税電子インボイスと事業者の生産性向上に向けた官民の取組み」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 筆者は2014年3月、欧州諸国のインボイス導入状況等の調査を目的に、英国やフランスなど各国の税制当局や会計事務所を訪問した。そこで見たのは、2013年1月のEU指令以降、急速に普及した消費税電子インボイスの状況であった。 電子インボイスは、VAT支払いのためだけでなく、調達や受発注など一連の証票と連動し、会計処理や税務処理、さらには調達システムの効率化に役立つ。そして、それらのサービスを全般的に提供する、オラクルに代表される一大産業群の存在がある。 * * * わが国でも2023年10月から、適格請求書等保存方式、つまり欧州型インボイス制度が開始する。従来の請求書などに「登録番号」「適用税率」「税率ごとの消費税額」の記載を義務付け、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝える機能がある。 適格請求書(インボイス)を交付することができるのは適格請求書発行事業者(登録事業者)のみで、本年10月1日から登録事業者の申請受付が開始される。制度開始から登録事業者となるためには、23年3月末までに申請を行う必要がある。 売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、適格請求書(インボイス)を交付しなければならず、自ら適格請求書(インボイス)の写しを保存しておく必要がある。買手は仕入税額控除の適用を受けるために、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けた適格請求書(インボイス)の保存等が必要となる。 * * * この制度が導入されたのは、複数税率制度の下で、仕入税額控除を正確かつ効率的に行うことを可能にするためであるが、適格請求書(インボイス)を発行することにより、点々流通する過程で取引の相手方に価格転嫁がスムーズに行えるようになるというメリットがある。 わが国の事業者にとっては、インボイスの電子化を進め、バックオフィスの業務全体をデジタル化により効率的にして、業務全体の生産性の向上を図るようにしていくことが重要ではないか。 そのための取組みが、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」(代表幹事法人:弥生株式会社)において始まっており、SAPジャパン、TKC、弥生などが参加し、電子インボイスの標準仕様策定等に向けた協議が行われている。 ホームページを見ると、「中小・小規模事業者から大企業に至るまで幅広く、容易に、かつ低コストで利用でき、加えてグローバルな取引にも対応できる仕組みとするために、準拠する標準規格としてPeppolを選定し、日本の法令や商慣習などに対応した『日本標準仕様』を策定することを決定した」と書かれている。 また、平井デジタル改革担当大臣も、「国としても一緒にやらせていただきたい。Peppolで進めていくことは大賛成」と前向きな姿勢を示し、「受発注から請求、会計、税務処理と、ものすごく生産性が上がる可能性がある。ちょうど(来年創設される)デジタル庁の初仕事になるので、フラッグシッププロジェクトとしてやらせていただく」と話したことが記されている。 * * * デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日 閣議決定)を見ると、「8.4 事業者のバックオフィス業務の効率化のための請求データ標準化」の項で、以下のように記載されている。 「デジタル敗戦」にならないためにも、電子インボイスの導入、事務効率の向上に向けて検討を急ぐ必要があるようだ。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例29】 「ガソリンスタンドに対する売掛金の減額処理の寄附金該当性」 国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関西で石油製品卸売業を営むA株式会社で経理部長をしております。わが社が扱っている石油製品は主としてガソリンや灯油などの民生用エネルギーであり、特約店・販売店と呼ばれる石油販売業者を通じて一般消費者に販売されます。 わが国においては、少子高齢化の進行や人口減少、若者の自動車離れといった経済構造の変動に加え、昨年来の新型コロナウイルス感染症の蔓延という現象も相まって、わが社が扱っているガソリンや灯油の需要が低迷しており、その結果として、わが社の取引先である中小規模のガソリンスタンドの多くが経営危機に陥っております。そのような状況下において、取引先のガソリンスタンドの中には、わが社に対する債務の支払いが長期間滞っているばかりでなく、後継者難等で将来的にその経営状況が改善する見込みが極めて薄い特約店・販売店も存在することから、そのような特約店については、事業の継続を断念してもらい、代わりに廃業に伴い発生する様々な資金の援助を行うようにして、わが社が被る負担を最小限に留める方策を採っております。 ところが先日受けた税務調査で、経営危機に陥っている特約店等に対する売掛金について減額処理を行ったものにつき、回収可能性が消滅したわけではない当該売掛金を一方的に減額処理したとするわが社の税務処理が問題視され、単純な費用ではなく寄附金に該当することから、全額損金に算入することはできない旨言い渡されました。 わが社が売掛金を減額処理した特約店は、いずれも深刻な経営難に陥っており、経営者が高齢化して後継者も不在であることから、将来的にも経営が改善する見込みはないのであり、そのような特約店との取引をズルズル継続することは、更なる負担増につながることが懸念されるところです。そのような判断に基づき、特約店との話し合いにより行った廃業要請に伴う売掛金の減額処理は、わが社の事業遂行上、真にやむを得ない措置であり、税務上も寄附金に該当する余地はないものと理解しております。わが社の判断に問題がないか、アドバイスをお願いします。 【A】 現在及び将来予想される石油業界の厳しい経済環境を踏まえ、主としてA社側の経営遂行上の必要性から、経営状況が思わしくなく後継者にも恵まれないことから将来性が極めて乏しい取引先である特約店等に対して、積極的に廃業を促しそのための資金援助の一環として売掛金を減額処理する今回のA社の経理及び税務処理は、そのような対応をしなければ今後さらに大きな損失を被ることが予想されるなど、客観的にみて経済合理性を有することから、その費用につき損金に計上した金額は、寄附金には該当しないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 石油製品の流通 石油製品の流通に関しては、一般に、主として重油・ナフサなどの産業用エネルギーに関し、出光興産やENEOSといった石油元売会社(又は総合商社)から直接需要家に販売されるいわゆる「直売方式」と、ガソリンや灯油などの民生用エネルギーに関し、特約店・販売店と呼ばれる石油販売業者を通じて需要家(一般消費者)に販売される「小売方式」とに分類される。 後者の小売方式の場合、特約店・販売店は石油元売会社の系列で元売会社のブランドマーク(ENEOS等)を使用するケースと、元売会社とは異なる独自ブランド(JA、ホームセンター等)によるサービスステーションを運営するケースとがある。 〇 石油製品の流通形態 〈直売方式〉・・・主に重油、ナフサなど 〈小売方式〉・・・主にガソリン、灯油など なお、経済産業省によれば、主要な石油製品の今後の需要見通しは、以下の表の通りとなっており、今後の需要はどの製品も概ね右肩下がりの状況が続くものと見込まれている。 〇 主要な石油製品需要見通し ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 2017年度は実績、2018年度は実績見込、2019年以後の年度は見通し。 (出典) 経済産業省「2019~2023年度石油製品需要見通し(案)」(平成31年3月29日)を元に筆者作成。 (2) 売掛金の減額に係る寄附金該当性 本件は、上記(1)の流通形態のうち、ガソリン・灯油などの販売を行う小売方式のケースで、石油製品卸売業者であるA社がその取引先である特約店・販売店に対して有している売掛金につき、将来それらの特約店等の経営が好転する見込みが薄いとして、当該売掛金を減額処理した場合、当該減額処理により発生する費用が損金に算入されるのか、それとも損金算入限度額が設定されている寄附金に該当するのかという点が問題となっている。 本件については、A社がその取引先である特約店・販売店に対して行った売掛金の減額処理が、法人税基本通達9-4-1にいう「損失負担等につき相当な理由があると認められる」場合には、当該減額処理の金額は寄附金の額に該当しないこととなる。法人税基本通達9-4-1の本文では、子会社等を整理する場合において損失負担等をしたケースで、それをしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが明らかであると認められるため、やむを得ずそれを行ったときには寄附金には該当しないとしているが、ここでいう「子会社等」には、親子会社のような資本関係を有するケースのみならず、取引関係、人的関係、資本関係等において事業関連性を有する者が含まれる旨が、上記通達の注書きにおいて明らかにされている。したがって、本件のような取引先に対して行った売掛金の減額処理も、当該通達の適用対象となり得る。 裁判例においても、関連会社に対する売上値引きの寄附金該当性(経済的利益の無償の供与)が争われた事例で、裁判所は、債権の回収が不能であるためこれを放棄する場合、それから発生する損失を負担しなければより大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ず負担を行う場合など、その経済的利益の供与が十分に首肯しうる合理的な理由がある場合には、当該経済的利益の供与は寄附金には当たらないとされている(東京高裁平成4年9月24日判決・行裁例集43巻8=9号1181頁(TAINSコード:Z192-6972)参照、なお争われた事例については寄附金とされている)。 (3) 特約店に対する売掛金の減額処理の損金性が争われた事例 本件と同様に、特約店に対する売掛金の減額処理の損金性ないし寄附金該当性が争われた裁決事例(国税不服審判所平成11年6月30日裁決(TAINSコード:J57-3-24))があるので、それを以下で確認しておきたい。 ① 事例の概要 原処分庁は、石油製品卸売業を営む法人である請求人がその特約店であるK社、L社、M社及びN社の4社に対し、平成9年3月31日に商品売上高及び消費税相当額の売掛金37,649,767円を減額した処理について、法人税法第37条(寄附金の損金不算入)第6項(本稿執筆現在は第7項)に規定する寄附金に該当すると認定し、法人税法施行令第73条(寄附金の損金算入限度額)第1項の規定により、寄附金の損金算入限度額の再計算を行い、損金算入限度額を超える37,151,895円は本件事業年度の損金の額に算入できないとして、本件法人税の更正処分を行った。 しかしながら、本件売掛金の減額処理は、請求人の経営改善策の一方策として請求人の将来の損失を少なくするためのやむを得ない事情に基づき処理したものであり、このことは、事業遂行上、真にやむを得ない費用であり、経済的利益の無償の供与の性格のものではなく、原処分庁は本件規定の適用を誤っているので、請求人がその取消しを求めたものである。 請求人が特約店に対する売掛金の減額処理を行った背景として、請求人は以下の通り説明している。 なお、審判所は本件取引に関連し、以下の事実を認定している。 ② 本件の争点 請求人がその特約店に対し、平成9年3月31日に売掛金の減額処理を行ったことが、法人税法に規定される寄附金に該当するか否か。 ③ 審判所の判断 ④ 本裁決事例からいえること 本件は、経営が悪化した取引先である特約店に対する支援の方法として、売掛金の減額処理の方法を採ったものであるが、これは実質的には債権放棄と認められる点が審判所により指摘されており、妥当な判断と考えられる。したがって本件は、経営が悪化した取引先である特約店に対する債権放棄が、経営遂行上、真にやむを得ない費用であり、客観的にみて経済的合理性を有し、社会通念上も妥当視される処理と認められるのであれば、法人税法上寄附金には該当せず、損金処理が認められることとなる。 本件において、審判所は、「経営遂行上、真にやむを得ない費用であり、客観的にみて経済的合理性を有し、社会通念上も妥当視される処理と認められる」かどうかを判断するに当たっては、「社会、経済環境をも十分に配慮した検討がなされるべきである」旨を指摘している。本件が争われた時期(平成9年3月期)よりも現在の方が石油業界を取り巻く環境はより厳しくなっているものともいえようが、本件により審判所が示した判断基準は、今後の実務の参考になるものと考えられる。 (4) 本件へのあてはめ 現在及び将来予想される石油業界の厳しい経済環境を踏まえ、主としてA社側の経営遂行上の必要性から、経営状況が思わしくなく後継者にも恵まれないことから将来性が極めて乏しい取引先である特約店等に対して、積極的に廃業を促しそのための資金援助の一環として売掛金を減額処理する今回のA社の経理及び税務処理は、そのような対応をしなければ、今後A社自身がさらに大きな損失を被ることが予想されるなど、客観的にみて経済合理性を有するといえる。 したがって、A社が売掛金の減額処理に伴う費用につき損金に計上した金額は、寄附金には該当しないものと考えられる。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第6回】 「残余利益分割法を採用した場合、合算利益にロケーション・セービングの問題があるときの対応」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 残余利益分割法を採用した場合、合算利益にロケーション・セービングの問題があるときはどのように対応すべきか。 〔A〕 関連者の果たす機能、引き受けるリスク及び使用する資産などと関連する事実関係全ての分析に基づいて比較可能性を調整すべきである。 ●●●〔解説〕●●● 1 OECD移転価格ガイドラインによるアプローチ 「OECD 多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン(2017年版)」(以下「ガイドライン」という)では、「ロケーション・セービングは、多国籍企業グループが業務の一部を、当初の業務遂行地よりもコスト(人件費、不動産コスト等)の安価な場所に移管する場合に生じる」(パラグラフ9.126)としている。多国籍企業グループが業務の一部を国外の特定の市場に移管し、その結果、組織再編後に重大なロケーション・セービングが得られる場合、当該利益を複数の関連者間でどのように配分するかについて、ガイドラインは次の検討が必要になると述べている(パラグラフ1.141)。 (※1) 井藤正俊『移転価格の実務Q&A』(清文社・2020年)243頁は、「原価低減部分を、非関連者又はサプライヤーに完全に配分されているか否かを確認します。(中略)ロケーション・セービングのメリットを販売価格に反映させ、進出市場の販売価格を低価とすることで、競合する他社との競争に打ち勝ち、市場を一気に席巻するなどの事業・価格戦略をとる場合などです」と述べている。 識別されたロケーション・セービングの利益について、顧客又はサプライヤーへ配分されず、グループ内に残された場合、機能分析により、信頼し得る比較対象取引が把握可能であれば、それを用いて独立企業間価格を算定することとなる。ガイドラインは、「信頼し得る現地市場の比較対象が存在し、独立企業間価格の算定に利用可能である場合、ロケーション・セービングのためだけの比較可能性の差異調整は特に必要ない」(パラグラフ1.142)と述べる。ただし、比較対象が存在しない場合は、「関連者の果たす機能、引受けるリスク及び使用する資産など関連する事実関係全ての分析に基づくべきである」(パラグラフ1.143)(※2)としている。 (※2) 同パラグラフは2017年版ガイドラインにて新設された。 ガイドラインは、ロケーション・セービングの利益の取扱いの具体例として、次の(1)、(2)を挙げている(パラグラフ9.128~9.131)。 (1) ロケーション・セービングの利益が国外関連者に配分されないケース (2) ロケーション・セービングの利益が国外関連者に配分され得るケース 2 裁判例 《本田技研工業事件》(※3) (※3) 第一審は、東京地裁平成26年8月28日判決(平成23年(行ウ)第164号、TAINSコード:Z264-12520)。その控訴審は東京高裁平成27年5月13日判決(平成26年(行コ)第347号、TAINSコード:Z265-12659)。いずれも判例集未登載。 前回に引き続き、残余利益分割法の適用が争われた本田技研工業事件を取り上げる。事案の概要については、前回記事を参照されたい。 (1) 判決の要旨(基本的利益の算定について) 残余利益分割法の第一段階である基本的利益の算定に際し、比較可能性のある比較対象法人を選定することが基本となるところ、処分行政庁は、マナウス税恩典利益を享受するP1社等の比較対象法人として、マナウスフリーゾーン外のサンパウロ近郊の企業(※4)を選定した。本件の第一審である東京地裁は、マナウス税恩典利益を享受していない企業は、P1社等との比較可能性を有しないと判示した(※5)。 (※4) マナウスは、ブラジル経済の中心地サンパウロから遠く離れたアマゾン川流域の都市とのことである。マナウスでは、外資誘致のため、憲法上の自由貿易地域として税恩典が講じられている。このような地域の企業とサンパウロの企業の営業利益率が同等であるべきとするのは、社会通念上相当に無理があるという見解が多い(水野忠恒・国際税務35巻3号65頁、佐藤修二・租税判例百選[第6版]143頁等)。 (※5) 本件控訴審である東京高裁平成27年5月13日判決(平成26年(行コ)第347号)も、原審判断を支持した。その後、国側が上告しなかったため、本件控訴審判決は確定した。 (2) 処分行政庁の主張について 処分行政庁は、マナウス税恩典利益が基本的利益の算定ではなく、残余利益として認識することが適当な理由として、以下の主張をした。 処分行政庁の考え方は、マナウス税恩典利益を、ロケーション・セービングによる利益として認識し、残余利益分割法の適用上、分割対象となる残余利益に含め、内国法人と国外関連者が有する無形資産の寄与の程度に応じて分割すべしというものと思われる。 しかし、東京地裁は、①マナウス税恩典利益を享受する法人は、事業規模の大小にかかわらず、そのような税恩典利益を享受できない場合と比較して、より高い営業利益率を得られることは明らか、②P1社等がマナウス税恩典利益の享受によって得た利益は、X及びP1社等の有する重要な無形資産の貢献によって初めて得られたものであるとか、X及びP1社等の有する重要な無形資産の貢献と極めて密接な関係にあるということはできない、及び③P1社等が事業規模を拡大するに当たり、X及びP1社等の有する無形資産が寄与したということはできるとしても、そうであるからといって、マナウス税恩典利益を基本的利益の算定において考慮せずに、これを残余利益として認識し、本件国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するのは、残余利益分割法の適用を誤るものというべきであるとして、いずれも処分行政庁の主張を排斥した。 (3) まとめ 本件では、残余利益分割法の適用上、マナウス税恩典利益について、事業活動を行う市場の条件に基づくものとして基本的利益として認識し、国外関連者に帰属し得るものとして捉えるべきか、あるいは、残余利益として認識し内国法人と国外関連者が有する無形資産の寄与の程度に応じて配分すべきかが問題とされ、判決では、基本的利益の算定に係る比較可能性の問題として整理されたと考えることができよう(※6)。 (※6) 本田光宏『ホンダ移転価格課税事件』税務事例(Vol.47 No.4)2015年4月号25頁参照。 (了)
街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第4回】 「長屋等のつながっている建物における判断(後編)」 ~ケーススタディ~ 城東税務勉強会 税理士 大塚 進一 問 題 父親所有の土地(面積200㎡)の上に、二世帯住宅があり、父母世帯と長男世帯がそれぞれ別個の独立部分に居住し、家賃や地代の支払はなしとします。父親が死亡した場合に土地と建物をすべて長男が相続し、相続税の申告期限まで居住し所有する時、小規模宅地等の特例はどのようになりますか。なお、母親は存命で長男は「家なき子」ではないとします。 回 答 次のように場合分けし、下記国税庁タックスアンサーの表の左側から適用の有無を考察します。なお、特に記述がない場合、建物内部で行き来できないものとします。 考 察 * * * ◎特定居住用宅地等の要件(3の経過措置除く) (注1) 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分②に該当する部分を除きます。)を含みます。 (注2) 「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族」とは、次の(1)又は(2)のいずれに該当するかに応じ、それぞれの部分に居住していた親族のことをいいます。 (1) 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が、区分所有建物である旨の登記がされている場合 被相続人の居住の用に供されていた部分 (2) (1)以外の建物である場合 被相続人又は被相続人の親族の居住の用に供されていた部分 * * * (※) 国税庁タックスアンサー「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」より抜粋し、筆者一部改変。 (了)
〔Q&Aで解消〕 診療所における税務の疑問 【第6回】 「医療法人所有不動産の固定資産税の非課税・減免制度」 税理士法人赤津総合会計 税理士・医業経営コンサルタント 赤津 剛史 【Q】 医療法人が所有する不動産には固定資産税がかからないものがあると聞きました。その内容について教えてください。 【A】 医療法人が所有する不動産のうち固定資産税が非課税となるものは、地方税法第348条第2項に規定されています。また、自治体によっては、診療所建物に独自の減免制度を設けている場合もあります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● ① 固定資産税が非課税となるもの 医療法人が所有する不動産で下記の用に供されるものは非課税とされます。 ② 固定資産税が減免されるもの 地方税法では定めがないものの、自治体が独自に減免制度を設けている場合があります。例えば、東京都では、「保険医療機関が診療の用に供する家屋」については、固定資産税の減免を受けることができます(※)。 (※) 東京都主税局ホームページ参照。 固定資産税の「非課税」や「減免」の適用を受けるためには、申請が必要となります。該当の可能性がある不動産を取得する際は、申請方法を確認することが重要です。 ③ 生産性向上特別措置法に基づく固定資産税の減免適用対象者 上記①、②以外にも、生産性向上特別措置法に基づき「先端設備導入計画」の認定を受けた設備は、固定資産税の課税標準を取得後3年間ゼロとする特例規定があります。この適用については、診療所を経営する個人医師は対象となります。一方、医療法人は対象外となりますので注意が必要です。 先端整備等導入計画の認定を受けられる中小企業者は、一定の要件を満たす会社及び個人事業者等です。中小企業者の範囲は中小企業等経営強化法第2条第1項に基づきます。当該条項に該当しない、「一般社団法人」「一般財団法人」「医療法人」」「社会福祉法人」「NPO法人」「農業協同組合」「農事組合法人」「森林組合」「漁業組合」などは、認定対象となりません。 (了)