相続税の実務問答 【第56回】 「共同申告をしない相続人がいる場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続人や受遺者の中に共同申告を行わない者がいる場合には、その共同申告をしない者の氏名やその者に係る課税価格などの金額を相続税の申告書第1表に記載する必要はありませんが、合計欄には共同申告をしない者の課税価格等も合計した金額を記載しなければなりません。 なお、申告書第1表に共同申告を行わない者の氏名や課税価格等の金額を記載しても差し支えありませんが、その場合には、その者の氏名や課税価格等の金額が記載された欄を斜線で抹消するなどして、その者はその申告書によっては申告をしないことを明確に表示することが必要です。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の計算方式 相続税法は、相続税の計算方法について、法定相続分課税方式による遺産取得者課税の仕組みを採用しています。具体的には、まず、相続税の納税義務者、すなわち相続又は遺贈により課税対象の財産を取得した者(以下「相続人等」といいます)ごとに相続税の課税価格を計算し、その各相続人等の課税価格の合計額を基に相続税の総額を算出し、その総額を各相続人等の課税価格に応じて配分することにより、それぞれの相続税額を計算する方法です。 このような相続税額の計算方法が採られていることから、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての相続人等について相続税の課税価格を確定させなければ、各相続人等の相続税額を算出することはできません。そのため、相続税の申告書には、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額及び当該合計額を基礎として算出したこれらの者に係る相続税の総額その他相続税額の計算の基礎となる事項を記載することとされています(相規13①二)。 2 相続税の申告書 (1) 申告書の様式と共同申告 相続税の申告書の様式は国税庁で定めており(注1)、通常はこの様式を使用して相続税の申告が行われています。相続税法は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が2名以上いる場合には、これらの者は、共同して相続税の申告書を提出することができると規定していますので(相法27⑤)、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が2名以上いる場合には、この申告書の様式を使用し、1通の申告書に各相続人等がそれぞれの課税価格や税額などを記載し、それぞれの記載欄に押印することにより申告を行うのが一般的であり、これは納税者及び課税当局の双方の便宜に資するものであるといえます。国税庁で定めている申告書の様式は、この共同申告に適応するものです。 (注1) 国税庁ホームページ「相続税の申告書等の様式一覧(令和2年分用)」 (2) 共同申告をしない場合 しかしながら、何らかの事情により、相続人等が、共同して1通の申告書を提出するのではなく、相続人等ごとに別々に申告を行ったり、あるいは3名以上の相続人等のうちの一部の者のみが共同して申告することがあります。納税義務者である全ての相続人等の課税価格及び相続税額などが申告書の様式のそれぞれの相続人等の欄に記載がされますと、そこに記載された相続人等のうち一部の者がその申告書によっては申告をする意思がない場合であっても、あたかもその申告書によって申告を行ったかのような外観を呈することとなってしまいます。 これまでは、原則として、その申告書第1表の各相続人等の氏名が記載された欄にその者が押印しているかどうかによりその者が他の相続人等と共同して申告を行ったものであるのかどうかの判断がされてきました。つまり、実務上、税務署長に提出された申告書に押印のある者のみが申告書を提出したとし、その申告書に課税価格や相続税額の記載があったとしても押印のない者については、その者の申告書とは扱わないとされていました。 このような取扱いがされてきたのは、相続税をはじめとする国税に関する申告書、申請書、届出書、調書その他の書類(以下「税務書類」といいます)を提出する者は、各税務書類にその氏名(法人にあってはその名称)、住所又は居所及び番号を記載し、かつ、当該税務書類を提出する者等が押印しなければならないこととされていることから(通法124①②)、押印のない者については、申告の意思がないものと考えられたためです。 (3) 押印が行われない場合の申告者の判定 ところが、法令等又は慣行により、国民や事業者等に対して押印を求めている行政手続については、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(令和2年7月17日閣議決定)及び「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、各府省は、原則として全ての見直し対象手続について、規制改革推進会議が提示する基準に照らして順次、必要な検討を行い、法令、告示、通達等の改正を行うこととされ、これを受けて、令和2年12月21日に閣議決定された「令和3年度税制改正の大綱」において税務関係書類の押印義務の原則廃止が明記されるとともに、「施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする」とされました。 そのため国税庁は同日付けで、上記見直しの対象となる税務関係書類については、税制改正前であっても、押印を求めないとする取扱いを公表しました(注2)。このため、これまでのような押印の有無により相続税の申告を行った者であるのかどうかの判断をすることができないこととなりました。 (注2) 国税庁ホームページ「税務署窓口における押印の取扱いについて」 そこで国税庁では、相続税の申告に関して次の取扱いを明らかにしました(注3)。 (注3) 国税庁ホームページ「複数の相続人等がいる場合の相続税の申告書の作成方法~押印をせずに相続税の申告書を提出する場合~」 3 ご質問の場合 妹さんを除くあなた方3名の申告書には、妹さんの課税価格も含めた相続税の課税価格の合計額を記載する必要がありますが、申告書第1表に共同申告をしない妹さんの氏名や金額等の記載を行う必要はありません。 なお、あなた方が提出する申告書第1表に妹さんの氏名や課税価格及び税額などを記載すること自体は問題ありませんが、その場合には、妹さんの氏名や金額を記載した欄を斜線で抹消するなどして、妹さんはその申告書によっては申告をしないことを明示してください。 (了)
〔令和3年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 「「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」 「中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長」 「時価評価制度の見直し」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和2年度税制改正における改正事項を中心として、令和3年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第2回】は「5G導入促進税制の創設」、「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」、「交際費等の損金不算入制度の特例の見直しと延長」及び「少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例の見直しと延長」について解説した。 【第3回】は「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」、「中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長」及び「時価評価制度の見直し」について解説する。 1 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置 新型コロナウイルス感染症による経済への影響が非常に大きいことから、法人税申告に関しても緊急の措置が講じられている。 (1) 青色欠損金の繰戻し還付の特例 「青色欠損金の繰戻し還付」とは、法人が青色申告書を提出する事業年度において欠損金が生じた場合に、その欠損金を、その事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して、法人税の還付を受けることができる制度である。 ただし、本来は資本金(又は出資金)の額が1億円以下の中小企業者等を除き、適用が停止されている。 これが、新型コロナウイルス感染症対策のため、一時的に適用対象が拡大されている。具体的には、次のような法人以外には適用が認められている。つまり、資本金(又は出資金)の額が1億円超10億円以下の法人にも、一時的に適用が認められていることになる。 この緊急措置は、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金について適用される。したがって、令和3年3月期の決算申告においては適用されることになる。 還付請求を行う場合は、欠損金の生じた事業年度の確定申告書の申告期限までに、還付請求書を提出する必要がある。なお、当該措置の対象となる法人が、令和2年7月1日前に確定申告書を提出している場合の請求期限は、令和2年7月31日となる。 ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、期限までに申告や還付請求の手続が難しい場合は、その期限を個別に延長することが可能である。 (2) テレワーク等のための中小企業の設備投資税制 新型コロナウイルス感染症対策のため、「中小企業経営強化税制」の対象が拡大されている。「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得し指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。 当該税制の対象設備に、従来の「生産性向上設備」及び「収益力強化設備」に加えて、次のような「テレワーク等のための設備」が追加されている。 この緊急措置は、令和2年4月30日から令和3年3月31日までに「テレワーク等のための設備」を取得等し、事業供用した場合に適用される。したがって、令和3年3月期の決算申告においては適用がある。 2 中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長 「青色欠損金の繰戻し還付」は、前述の通り本来は資本金(又は出資金)の額が1億円以下の中小企業者等を除き、適用が停止されている。これが令和2年度税制改正により、令和4年3月31日までに終了する事業年度まで延長されている。 したがって、本来なら令和3年3月期の決算申告においては、資本金(又は出資金)の額が1億円超の法人は「青色欠損金の繰戻し還付」を適用できないところである。しかし、新型コロナウイルス感染症対策の緊急措置により、資本金(又は出資金)の額が1億円超10億円以下の法人は、一時的に適用が可能になっている。 (※) 大規模法人と完全支配関係のある法人等は除く。 3 時価評価制度の見直し 「時価の算定に関する会計基準」が導入されたことに伴い、令和2年度税制改正において、有価証券等の時価評価についていくつかの見直しがなされている。 (1) 売買目的有価証券の時価評価 売買目的有価証券の時価評価額について、次のとおり見直しが行われている。 (2) 有価証券に係る評価損の計上事由 有価証券に係る評価損の計上事由について、著しく価額が低下したことを計上事由とする有価証券の範囲に、「市場有価証券以外の有価証券(株式又は出資を除く)」が加えられた。 (3) 短期売買商品等(暗号資産を除く)の時価評価 短期売買商品等(暗号資産を除く)の時価評価について、売買目的有価証券と同様の見直しが行われた。 (4) デリバティブ取引 未決済デリバティブ取引に係るみなし決済損益額の算定に用いた合理的な方法の採用理由や、その他の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存しなければならないとされた。 (5) 貸倒引当金 対象となる金銭債権から債券が除外された。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第23回】 「退任後に再就任した場合の役員退職給与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 上場企業等において、退任した元代表取締役の復帰に関するニュースが散見される。その多くは、その企業に多大な貢献があった人物の手腕が買われ、業績低迷等の状況を打破するための突破口としての役割が期待されることを理由とする。 このような元代表者や貢献のあった役員の復帰は、実は中小企業の方がよくあるケースであると思われる。というのも、上記の例題は後継となる代表者が逝去した場合を取り上げたが、企業の存続のために、金融機関や株主、場合によっては従業員等からの要請により前代表者等が再登板することは、往々にして生じるケースではないだろうか。例えば、以下のようなケースが考えられる。 これらの場合において、退任時に役員退職給与を支給していた場合は、その損金算入性について再考する必要がある。この点について参考となる裁決例があるため、以下に要旨を紹介する。 (1) 裁決例:国税不服審判所平成16年4月23日裁決(※1) (※1) 非公開裁決(TAINS:F0-2-353)。 (2) 役員退職給与の可否とその後の留意点 役員退職給与は、その損金算入性が問題となる場合、当該役員の勤務実態等に着目された結果、退職の事実がないものとして否認されるというケースが圧倒的に多い。 退職の事実が認められる場合、会社法361条や法人税基本通達9-2-28を根拠として株主総会等にて決議していたかどうかという形式面が、そして法人税法施行令70条2号を根拠として同業類似法人等の諸事情に比して過大であるかどうかという実質面がそれぞれ注目される。これらの点はこれまで本連載にて触れてきたとおりである。 上記(1)の裁決例では、株主変更に伴って取締役が退任後、その翌日・・に復帰したケースであり、課税庁が退職の事実の有無について問題視した理由もよく分かる。当該裁決例は、法人との委任関係が完全に解消したという事実が立証されたために役員退職給与の損金算入性が是認されたものであるが、もとより再就任が約束されていたり、後日付で議事録のみ整えられていたりした等、役員退職給与を支給するためだけに行った経緯があれば、異なる結果となっていたとも考えられる(※2)。 (※2) 当該裁決例を、「形式要件と実質要件を満たす限りは、役員退職給与の支給自体は問題ないことを明らかにした」ものと評価する意見として、衛藤政憲「同一事業年度中に退職と再就任をした役員に支給した退職給与の損金算入の可否」国税速報6514号(2018)42頁がある。 したがって、役員退職給与は、その退職の事実を説明できるようにしておくことが改めて重要であるとともに、真に退職の事実があり、再就任もやむなしという事情があれば同一年度中の復職も認められる可能性も存在すると思われる。 とはいえ、上記事例が国税不服審判所にまで持ち込まれていることからも、役員退職給与を支給した年度と同一年度の再就任は、実務感覚で言えば極めて危険な行為そのものである。退任済の役員の復帰をやむを得ず検討する場合には、退職の事実が認められることについて入念な確認をしておきたい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第25回】 「適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて確認しました。 今回は、適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについて解説します。 1 資産・負債の引継ぎ 適格分割型分割があった場合の分割法人から分割承継法人への資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとされ、分割法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の2②)。 2 適格分割型分割により引き継ぐ「減価償却資産」の取扱い 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に減価償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その減価償却資産について分割の日までの減価償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち適格分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法31②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 3 適格分割型分割により引き継ぐ「繰延資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に繰延資産を移転する場合において、分割事業年度に、その繰延資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法32②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への引継ぎ 適格分割型分割により分割承継法人に引き継ぐことができる繰延資産は、次のとおりです(法法32④二・⑤、法令66、法規22)。 4 適格分割型分割により引き継ぐ「一括償却資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に一括償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その一括償却資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法令133の2②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への引継ぎ 適格分割型分割により分割承継法人に引き継ぐことができる一括償却資産は次のとおりです(法令133の2⑦、法規27の19)。 5 適格分割型分割により引き継ぐ「貸倒引当金」の取扱い 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に貸倒引当金を移転する場合において、分割事業年度に、期首から分割の日までの期間に貸倒引当金を計上したときは、その期中損金経理額のうちその期間の繰入限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法52⑤⑥)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 6 適格分割型分割により減少する「資本金等の額」 分割法人において適格分割型分割により減少する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十五)。 7 適格分割型分割により減少する「利益積立金額」 分割法人において適格分割型分割により減少する利益積立金額は、次のとおりです(法令9①十)。 ① 加算項目 ② 減算項目 適格分割型分割により減少する資本金等の額、利益積立金額の算式を図にすると、下記のようになります。 8 具体例 下記では具体例を用いて、適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについてみていきます。 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割法人の移転仕訳〕 〇資産・負債 適格分割型分割の場合は簿価で引き継ぐこととなります。 〇減少する資本金等の額 分割法人の適格分割型分割直前の資本金等の額に移転割合を乗じて計算します。 〇減少する利益積立金額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額と減少する資本金等の額を減算して計算します。 ◆適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いのポイント◆ 資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡をしたものとされ、分割法人において譲渡損益は生じません。 事業年度の中途に適格分割型分割があった場合に、減価償却費等の期中損金経理額を分割法人において損金の額に算入するためには、一定の届出が必要となります。 分割法人において移転する資産・負債に対応する資本金等の額及び利益積立金額が減少します。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第11回】 「回転率を参考に価格を決める」 ~リレー選手の秘訣~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 《ドライフラワー・アイテム別資料(一部)》 ※売上原価 = 期首在庫 + 仕入高 - 期末在庫 粗利益 = 売上高 - 売上原価 * * * 在庫の保管や管理のためのコストのうち仕入高に含めなかったものは、財務会計上は一般管理費などとして処理されます。これらのコストは、どのアイテムのためにいくらずつかかったかを紐づけて認識できない場合が多いですが、在庫水準が大きいアイテムには、これらのコストも多くかかっているはずです。 つまり、在庫水準の大きいアイテムは、こうしたコストをカバーできるように、より多くの粗利益を獲得することが望ましいと考えることができます。 * * * * * * アイテムごとの利益への貢献度を表す指標の1つとして、GMROI(「ジーエムロイ」Gross Margin Return On Inventory Investment:商品投下資本粗利益率)があります。 GMROIは、在庫に投資することでどれくらい効率的に粗利益を稼いだかを表しています。ROA(Return On Assets:総資本利益率)は、総資本を利用することでどれくらい効率的に利益を稼いだかという指標ですが、両者の発想は同じですね。 各アイテムのGMROIを計算してみましょう(ここでは期首在庫と期末在庫の平均値を平均在庫金額とします)。 * * * * * * 小学校の運動会でリレーを観戦すると、リレー選手は身長の大きな子ばかりではなく、小柄な子もいることに気付きます。小柄なリレー選手は、歩幅(ストライド)は小さいものの、回転(ピッチ)がかなり早いのです。速さ(一定時間に走れる距離)は、歩幅と回転をかけ合わせたものなので、歩幅が小さくても回転が早ければ、足が速いというわけですね。 〈速さは「歩幅」と「回転」の2つの要素からなる〉 GMROI(1円当たりの在庫金額で稼げる粗利益)も、同じように2つの要素に分けて考えることができます。 粗利益率が低いアイテムでも回転率が高い(=仕入れてすぐに次々と販売される)ならば、目標GMROIを達成できます。逆に、回転率が低いアイテムでも、粗利益率を上げれば目標GMROIを達成できます。 ドライフラワーのGMROIを2つの要素に分けると、次のようになります。 * * * * * * ミモザについて、現状の在庫回転率8.3を前提として、GMROIを4にしたいならば、粗利益率を48%とすればよいと逆算できます。つまり、粗利率48%になるように、販売価格を値上げすればよいのです。 GMROIの目標値と在庫回転率から、粗利益率の目安を算定し、それを参考に販売価格を設定すると、在庫への投資によって効率的に利益を確保することにつながります。多数のアイテムについて簡易的に利益管理や価格見直しをしたい場合には、有用な考え方です。 * * * * * * なお、GMROIの要素としての在庫回転率は、「売上高 ÷ 在庫金額」ですが、経営分析で用いる在庫回転率は「売上原価 ÷ 在庫金額」として求めるのが一般的ですので、留意しましょう。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第14回】 「鑑定評価では「用途地域」よりも「用途的地域」が重視される」 ~地域相場を捉える大きなポイント~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 用途的地域とは一体何のこと? 税理士の皆様も、都市計画法や建築基準法の規制に関連して、「用途地域」ということばを耳にしたことがあると思います。 ところで、用途地域とは、市町村(特別区の存する区域は東京都)により、主に市街化の図られている区域のなかで、秩序ある街づくりの観点から何種類かに分けて指定されている地域区分です。各々の地域のイメージは都市計画法の規定に織り込まれていますが、例えば、用途地域が第1種低層住居専用地域であれば、そのイメージは「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」となります。そして、都市計画で用途地域が定められた場合、これが建築基準法の規定につながり、用途地域ごとに建築可能な建物の用途や建蔽率及び容積率が指定される仕組みとなっています。 これに対して、鑑定評価を行う際には、都市計画法上の用途地域とは全く別の概念である「用途的地域」という視点から対象地の属する地域の特性を分析し、その相場を把握した上で個々の土地の特徴(間口・奥行・形状等)を反映させて価格を求めています。なお、ここにいう「用途的地域」は用途地域とは似て非なるものであり、不動産鑑定評価基準に特有の概念です。そして、その意味するところは、“(鑑定評価を実施する時点で)対象不動産と現実の土地利用状況が似ているひとかたまりの地域”を指します。 例えば、都市計画法上の用途地域が第2種中高層住居専用地域に指定されている地域では、街づくりの上からは中高層住宅の敷地としての利用が望ましいといえますが、現実には周囲一帯が戸建住宅の敷地として利用されているケースも珍しいことではありません。このような地域では、用途地域は第2種中高層住居専用地域に属するものの、用途的地域という観点から捉えれば、そこには戸建住宅の敷地としての利用を前提とした土地価格の水準(相場)が形成されているといってよいでしょう。 鑑定評価においては、このような視点から地域の価格水準(相場)を把握することが重要ですが、税理士の皆様からすれば、抽象的で何だか取っ付き難い印象を受けるかも知れません。そこで、以下、用途地域及び用途的地域について詳しく述べてみたいと思います。 2 都市計画における用途地域 都市計画法では、用途地域を次の13種類に区分し、それぞれ定義を置いています(同法第9条)。 (1) 住居系の用途地域 ① 低層住居にかかるもの ② 中高層住居にかかるもの ③ 上記以外のもの (2) 商業系の用途地域 (3) 工業系の用途地域 このように、用途地域の規制は、市町村等が街づくりの観点から、今後の土地利用を計画する際にはこのような利用の仕方が望ましい(あるいはこのような利用に限る)ということを大まかにイメージしたものです。 3 鑑定評価における用途的地域 既に述べた内容と一部重複しますが、その地域に現に存在するすべての土地が都市計画法上の用途地域の意図するイメージに合致して利用されているとは限りません(用途地域に関する都市計画法上の規制が定められる以前から街並みは形成されており、用途の混在している地域も少なからず存在するため、ある1つの用途に純化して地域を区分することは困難な場合が多いからです)。 そのため、都市計画法の用途地域の区分によるだけでは、現実の土地利用の状況を的確に把握することができないケースもあることに留意しなければなりません。 このような理由により、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際には、都市計画法上の用途地域を調査するとともに、その地域における土地利用の実態を調査し(=用途的地域という視点から)、これを基に当該地域の価格水準(相場)を把握しているわけです。 なお、鑑定評価書には「近隣地域」とか「類似地域」という用語が登場してきますが、これらの用語も用途的地域と深く関連しています。すなわち、不動産鑑定評価基準における次の定義からして、都市計画法上の用途地域とは明らかに異なるアプローチの方法を採用していることが読み取れます(下線は筆者)。 このように、近隣地域とは、対象不動産と利用状況が似ており、相互に代替的な関係にある他の不動産の存する地域を1つにまとめたものです。その区分は、都市計画法の用途地域のように条文に基づいた基準によるものではなく、不動産鑑定士の判断に基づく人為的なものです。その結果、状況によっては近隣地域の範囲をやや広めに把握したり、その反対にやや狭い範囲で把握するケースもあり得ます。このことは類似地域についても然りです。 なお、近隣地域と類似地域の大きな相違点は以下のとおりです。 ➤相違点 近隣地域=利用状況が似ているひとまとまりの地域であり、対象不動産を含む。 類似地域=利用状況が似ているひとまとまりの地域であるが、対象不動産を含まない。 4 まとめ 最後に、今まで述べてきたことを整理する意味でイメージ図を以下に掲げておきます(上記1では住居系の用途地域との関連を前提に説明しましたが、ここでは工業系の用途地域を例に取り上げます)。 〔イメージ図〕 例えば、都市計画法上の用途地域が準工業地域に指定されており、現実に利用されているひとかたまりの地域も工場の敷地という場合には、その地域では工業地としての価格水準が形成されています。 一方、準工業地域のなかにあっても、現実に利用されているひとかたまりの地域が住宅の敷地であれば、そこには住宅地としての価格水準が形成されています(準工業地域は、上記2(3)に記載した定義のとおり、「主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域」とされていますが、住宅をはじめ工業系以外の用途で利用できる建築物も多いからです(詳細は建築基準法別表第二を参照ください)(=用途地域だけでなく、現実の土地利用状況を踏まえた場合に、その地域における最もふさわしい利用方法(=最有効使用の方法)が何かを把握することが鑑定評価の基本となります)。 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様のなかには鑑定評価書に接する機会のある方も少なくないと存じます。本稿が日頃の疑問点の解消に少しでも役立つことがあれば幸いです。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第4回】 「公共サービス×ブロックチェーン(前編)」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 繰り返しになるが、ブロックチェーンは、全ての取引履歴を信頼性のある形で保存し続けるための技術であり、透明性が高く、データの改ざんが極めて難しく、かつ仕組みが停止する可能性が極めて低い等の利点があることが実証されている。今回から複数回に分けて、ブロックチェーンの活用事例を紹介しながら、概説を行うこととする。 1 デジタル投票(オンライン投票) 適正なオンライン投票・デジタル投票をするためには、①投票者の正当性の確認、②投票内容の秘匿、③複数投票の防止、及び④投票結果の改ざんを禁止することを実現する必要がある。ブロックチェーンの活用により、国政選挙だけに限らず、上場企業の株主総会や組織体の多数決にも適正なオンライン投票・デジタル投票の実現が可能である。 また、国政選挙等の投票率の低下を改善するためにも、ブロックチェーンを活用したデジタル投票が増加するものと考えられる。 【ブロックチェーン投票システムの例】 2 公文書管理 公文書や行政文書に限らず、様々な文書や、行政機関に提出する各種の届出書の作成、更新の履歴等をブロックチェーンで管理することが考えられる。例えば、住民票をブロックチェーン化すれば、本人と転居前後の自治体の電子署名により、移転の手続が完了できるであろう。 3 不動産登記事務 日本の不動産登記事務は、不動産の所在地を管轄する法務局等が行うことになっており(不動産登記法6条1項)、不動産登記にあたっては、管轄法務局へ出頭して申請するか、又は郵送やインターネットを使って申請を行い、登記官の確認を経て、登記官が登記簿に登記事項を記録することによって行う(同法11条他)。そのため、登記申請から登記記録が公開されるまで1週間以上の時間がかかってしまう。 日本に限らず不動産登記記録は、多くの国で当該不動産の過去の権利関係の移転の履歴及び最新の権利に関する公開情報であり、正確性を担保されていなければならない情報である。特に発展途上国では、切実な課題である。よって、不動産登記情報をブロックチェーンで管理することで、関連する業務の効率化、正確性などが図れると考えられる。 4 徴税管理 税金の徴収においては、スマートコントラクト機能を応用することで事務手数料などの煩わしい料金を減額でき、税務当局はリアルタイムで税金を徴収することが可能となる。また、ブロックチェーンは、税金の透明性を提供し、税務当局が税金をどこで利用しているのかを正確に見ることも可能となるため、徴税の在り方自体の変革も可能となる。例えば、ごみの量に応じての徴税や道路の利用量に応じた徴税なども可能となる。 ブロックチェーンを使って納税者と税務当局との関係を変えるだけでなく、税金の登録方法を変更することによって、信頼できるリアルタイムの税金情報を管理できる。将来的には、国を越えた情報の提出と保存も可能となるであろう。 (了)
《速報解説》 東証、改正会社法の施行に伴い 上場制度の整備に係る有価証券上場規程等を一部改正 ~社外取締役の確保義務や株式交付制度の創設に係る制度整備等を定める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月12日、東京証券取引所は、「令和元年会社法改正に伴う上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 これは、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)の施行に伴うものである。これにより、2020年12月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要及びそれに対する取引所の考え方も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 社外取締役の確保 上場会社は、社外取締役を1名以上確保しなければならない。 2 電磁的方法による株主総会資料の早期提供に関する努力義務 上場会社は、招集通知、株主総会参考書類、計算書類・連結計算書類及び事業報告等を、株主総会の日の3週間前よりも早期に、電磁的方法により提供するよう努める。 3 株式交付制度の創設に係る制度整備 株式交付に関し、次の場合に適時開示を求める。 4 その他 ストック・オプションの付与に係る適時開示事由を株式又は新株予約権の募集等に係る適時開示事由に統合するなど、所要の改正を行う。 Ⅲ 施行日 2021年3月1日から施行する。 社外取締役の確保については、施行日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会から 監基報540「会計上の見積りの監査」等の改正の確定が公表される ~経営者が行った見積りの方法の評価等を規定する監査基準の改訂を受けて反映~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は2021年2月12日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」及び関連する監査基準委員会報告書の改正について」を公表した。当該監査基準委員会報告書の改正を受けて、関連する監査基準委員会報告書の適合修正も行われている。 これにより、2020年10月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 本改正は、監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)により、監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、経営者が行った見積りの方法(経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを含む)の評価などが規定されたことから、それらを反映するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書540(以下「監基報540」という)の主な改正点は次のとおりである。 1 定義 「会計上の見積り」とは、適用される財務報告の枠組みに従って、金額の測定に見積りの不確実性を伴うものをいう(11項(1))。 「見積りの不確実性」とは、正確に測定することができないという性質に影響される程度をいう(11項(3))。 「固有リスク要因」とは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴 である(A8項。《付録1 固有リスク要因》を参照)。 2 適切な運用 監基報540において、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるとは、次の事項を含め、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項が適切に適用されていることを意味する。この「適切に適用されている」という用語は、適用される財務報告の枠組みに準拠しているだけでなく、その枠組みにおける測定基礎の目的に合致した判断が行われることを意味している(9項、A13項)。 3 リスク評価手続 企業及び企業環境を理解する際、監査人は、企業の会計上の見積りに関連する事項を理解しなければならない。 例えば次の事項である(12項)。 そして、監査人は、当年度における重要な虚偽表示リスクの識別と評価に役立てるために、過年度の会計上の見積りの確定額又は該当する場合には再見積額について検討しなければならない(13項)。 4 経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討 監査人は、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを検討する場合、次の事項に関連する重要な虚偽表示リスクについて十分かつ適切な監査証拠を入手する必要がある。そのために、リスク対応手続として、22項から25項に従って立案し実施する手続を含めなければならない(21項)。 5 会計上の見積りに関する注記事項 監査人は、会計上の見積りに関する注記事項(25項(2)及び28項(2)に記載されている見積りの不確実性に関する注記事項を除く)について、アサーション・レベルで評価した重要な虚偽表示リスクに関する十分かつ適切な監査証拠を入手するためのリスク対応手続を立案し実施しなければならない(30項)。 6 コミュニケーション 監査役等、経営者とのコミュニケーションに際し、監査人は、会計上の見積りに関してコミュニケーションを行うべき事項があれば検討し、重要な虚偽表示リスクの原因が見積りの不確実性に関するものかどうか、又は会計上の見積り及び関連する注記を行う上での複雑性、主観性もしくはその他の固有リスク要因の影響に関するものかどうかについて考慮しなければならない(37項)。 7 適用の柔軟性 監基報540の要求事項の適用の柔軟性に関する指針が規定されている(3項、A7項、A20項からA22項、A63項、A67項及びA84項)。 Ⅲ 適用時期等 なお、上記以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査については、改正前の監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」(報告書:第44号、2015年5月29日改正)に基づく従前の取扱いによるので、注意が必要である。 (了)
《速報解説》 監査基準の改訂に対応した 監基報720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」等の改正が確定 ~2022年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は2021年2月12日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正及び関連する監査基準委員会報告書の改正について」を公表した。当該監査基準委員会報告書の改正を受けて、関連する監査基準委員会報告書の適合修正も行われている。 これにより、2020年10月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 本改正は、監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)により、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(その他の記載内容)について、監査人の手続を明確にするなどが行われたことから、それらを反映するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書720(以下「監基報720」という)は、その名称を監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」と改正する。 監査報告書の文例も示されている。 監基報720の主な改正点は次のとおりである。 1 定義 「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容をいう(11項(1))。 その他の記載内容は、通常、財務諸表及びその監査報告書を除く、企業の年次報告書に含まれる財務情報及び非財務情報である。 付録1では、その他の記載内容に含まれる可能性がある数値又は数値以外の項目の例が記載されている。 「年次報告書」とは、法令等又は慣行により経営者が通常年次で作成する単一又は複数の文書であり、企業の事業並びに財務諸表に記載されている経営成績及び財政状態に関する情報を所有者(又は類似の利害関係者)に提供することを目的としているものをいう(11項(3))。 監基報720は、決算短信等の財務情報の速報には適用されない(7項)。 2 その他の記載内容の通読及び検討 監査人は、その他の記載内容を通読しなければならず、通読の過程において、次のことを行わなければならない(13項)。 また、監査人は、13項に従ってその他の記載内容を通読する過程において、財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払わなければならない(14項)。 3 重要な相違があると思われる場合など 監査人は、重要な相違があると思われる場合(又は重要な誤りがあると思われるその他の記載内容に気付いた場合)、当該事項について経営者と協議し、必要に応じてその他の手続を実施する(15項)。 4 監査報告書 監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」又は他の適切な見出しを付した区分を設けなければならない(20項)。 「その他の記載内容」区分には次の事項を含めなければならない(21項)。 ただし、12項に基づいて実施した手続の結果、その他の記載内容が存在しないと判断した場合には、その他の記載内容が存在しないと判断した旨及びその他の記載内容に対していかなる作業も実施していない旨を記載する(21項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)