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プロフェッションジャーナル No.405が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年2月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.405を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/02/04

monthly TAX views -No.97-「カーボンプライシング導入に向けた「炭素税」の論点とは」

monthly TAX views -No.97- 「カーボンプライシング導入に向けた「炭素税」の論点とは」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   菅総理が「2050年温暖化ガス排出量実質ゼロ」を表明して以降、わが国でも急速に脱炭素社会の実現に向けた動きが広まっている。 SDGsの流れもあり、気候変動をもたらす原因であるCO2の排出を抑えることは、いわば世界共通の責務ともいえよう。環境後進国の汚名返上に向けてのチャンスでもある。 *  *  * 総理は昨年12月、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相に、二酸化炭素(CO2)の排出量に経済的な負担を上乗せすることにより排出量を抑制する「カーボンプライシング(CP)」の導入に向けた検討を指示、両省は本年度中にCP活用の方向性を取りまとめることになった。 この背景には、「2050年排出量ゼロ」という大変チャレンジングな目標達成が、個別企業の努力やイノベーションに頼るだけでは難しいという判断があったのであろう。 カーボンプライシングには、CO2排出量に応じて課税する「炭素税」と、CO2排出枠を取引する「排出量取引」がある。価格を固定する炭素税は「価格アプローチ」、排出枠を固定する排出量取引は「数量アプローチ」と位置づけられているが、ここでは炭素税の論点を取り上げてみたい。 *  *  * 第1に、わが国には、ガソリン・軽油などの自動車燃料や原油、石炭などの化石燃料に対して、揮発油税、軽油引取税、航空機燃料税、石油ガス税、石油石炭税など多くの個別間接税が課せられている。さらに2012年からは石油石炭税の税率の上乗せとして「地球温暖化対策税」も導入された。それでもその水準をCO2あたりで比較すると、わが国の水準は先進国中、最も低くなっており、CO2一単位当たりの税率の引上げについて、燃料別のCO2排出量と整合性をとる形で議論する必要がある。 第2に国際競争力の問題である。グローバル経済の下では、炭素税による価格上昇は輸出品の競争力を弱めるだけでなく、環境税が導入されておらず価格に税負担のない国からの輸入品と比べて競争力が低下してしまう。またわが国企業が、コスト高を嫌って環境税のない国に工場を移転すれば、世界規模で見れば排出量は変わらず、わが国の雇用が減少するだけということにもなりかねない。炭素税導入にはすでに鉄鋼業界が強く反発するなど、今後の議論は容易ではない。 これを防ぐための方法として、国境調整を行うことが考えられ、EUの炭素税はそれを取り込んで検討をしている。また米国バイデン大統領もこの税制の検討を行うとしている。具体的には、輸入段階で海外製品に対して国内生産品に相当する炭素税を賦課し、輸出段階で輸出企業の炭素税負担を還付するというもので、環境対策の不十分な中国などからの輸入抑制につながる。ただしWTO違反の恐れもあり、十分な検討が必要である。 *  *  * 最後に、ポリシーミックスの必要性である。炭素税収を投資に振り向ければ、地球温暖化に資するだけでなく、経済活性化につなげることができる。欧米ではグリーンイノベーションとして、コロナ後の経済対策として期待されている。今後のわが国の成長を牽引していく起爆剤ともなりうる。 昨年12月25日に閣議決定されたグリーン成長戦略には、「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長戦略に資するものについて、既存制度の強化や対象の拡充、更には新たな制度を含め、躊躇なく取り組む」とされている。 わが国の重厚長大産業の抵抗が予想されるが、産業構造の大転換を図るという観点から、大きな議論をしていくことが必要だ。 (了)

#No. 405(掲載号)
#森信 茂樹
2021/02/04

〔令和3年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】「「オープンイノベーション促進税制の創設」「賃上げ・投資促進税制(大企業向け)の見直し」」

〔令和3年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】 「「オープンイノベーション促進税制の創設」 「賃上げ・投資促進税制(大企業向け)の見直し」」   公認会計士・税理士 新名 貴則   令和2年度税制改正における改正事項を中心として、令和3年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は、「オープンイノベーション促進税制の創設」及び「賃上げ・投資促進税制(大企業向け)の見直し」について、令和3年3月期決算申告において留意すべき点を解説する。   1 オープンイノベーション促進税制の創設 企業が競争力を強化するために、ベンチャー企業に積極的に投資することを後押しする制度として、令和2年度税制改正において「オープンイノベーション促進税制」が創設されている。 ① 制度概要 青色申告書を提出する法人が、一定のベンチャー企業に対して出資を行う場合に、その投資額の25%相当額の所得控除を認める制度である。ただし、株式取得の日から5年以内に当該株式を売却等した場合は、その部分を益金に参入することになるので注意が必要である。 ② 適用要件 適用のための要件は次の通りである。 (※) 当該法人が主体となるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)による出資も対象。 ③ 出資対象となるベンチャー企業の要件 出資対象としてのベンチャー企業には、主に次のような要件を満たすことが求められる。 ④ 特定株式の要件 対象法人が取得する特定株式には、主に次のような要件を満たすことが求められる。 ⑤ 税制優遇措置 特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定として経理した場合、特別勘定として経理した金額の合計額を損金に算入できる。ただし、その事業年度の所得の金額を上限とする。 また、1件当たりの取得価額の上限額は100億円であり、一事業年度の損金算入限度額は125億円とされている。 ⑥ 特別勘定の取崩し 特定株式の取得から5年を経過するまでに、特別勘定の取崩し事由に該当することとなった場合は、その事由に応じた金額を取り崩して益金に算入する。具体的には、次のような場合である。 ⑦ 適用時期 この改正は、令和2年4月1日から令和4年3月31日までに特定株式を取得した場合に適用される。したがって、令和3年3月期決算申告においては適用が開始されている。   2 賃上げ・投資促進税制(大企業向け)の見直し 平成30年度税制改正において、所得拡大促進税制の対象を中小企業者等とそれ以外(大企業)に区分し、大企業に対しては設備投資の要件を追加して「賃上げ・投資促進税制」(中小企業者等も選択適用可能)として改組していた。令和2年度税制改正において、この「賃上げ・投資促進税制」における設備投資要件が厳格化されている。なお、中小企業者等向けの所得拡大促進税制については、変更はない。 この改正は令和2年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、令和3年3月期決算申告には適用されることになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 405(掲載号)
#新名 貴則
2021/02/04

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例26】「中古自動車販売業の代表者に対する役員報酬の過大性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例26】 「中古自動車販売業の代表者に対する役員報酬の過大性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、東海地方を拠点に主として中古自動車等の輸出入業務を行う自動車販売業を営む株式会社Aにおいて、総務管理部長を拝命しております。わが社は元レースドライバーで代表取締役のBが創業した会社で、Bは自動車に関する豊富な知識と人脈を最大限に生かしてわが社の事業規模を拡大してきました。海外社製の中古自動車はトラブルも多く、売りっ放しでは顧客の信頼をつかむことが難しい商品ですが、Bは販売後のクレーム処理やアフターサービスにもきめ細かく対応するため、顧客からの信頼も極めて厚いと業界内では評判です。 ところがBは数年前から、わが国の高い所得税の負担に業を煮やして、東南アジアに移住し、現地で顧客に対する受注獲得業務を担当しております。Bは国外脱出後も、わが国に居住していた時期と同様に、A社の売上の大部分を稼ぎ出しているところです。すなわち、Bの指示の下、A社の日本国内の従業員は、中古自動車のオークションに関する落札業務を担当するほか、Bが開拓した顧客との契約書等のやり取り、中古自動車の輸出入に係る手続き、経理・税務申告業務等に従事しています。 A社にとってBがこれまで果たしてきた職責は極めて重く、その成果は目覚ましいものであったため、Bに対する役員給与は、日本国内に居住していた時も海外に移住してからも、それにふさわしい水準であったものと考えられます。ところが、A社が最近受けた税務調査で、税務署の調査官から、Bに対する役員給与は、会社の業績が横ばいであるにもかかわらず大幅に伸びているばかりでなく、同業他社の役員給与の水準と比較しても大きく上回っているため、不相当に高額であるといわざるを得ないと指摘されました。 A社の業績に対するBの寄与度は絶大であり、その独特の役割や貢献を反映した役員報酬につき、同業他社の通常の役員の水準と比較して高低を論じること自体がナンセンスであると考えておりますが、法人税法上どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 〇 A社の売上・営業利益とBに対する役員給与の推移(Bの東南アジア移住後) 【A】 法人が役員に対して支給した給与の額がその役員の職務に対する対価として不相当に高額であるかどうかは、その職務の内容、職務に従事する程度、経験年数、当該法人の業種、規模、所在地、収益の状況、使用人に対する給与の支給状況、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模、収益の状況が類似するものの役員に対する給与の支給状況等を総合的に勘案して判断することとなりますが、売上高や営業利益の水準が減少する中で役員給与が増加しているような場合、それを正当化するには相当の理由が必要であるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員給与の損金性 平成18年度の税制改正後の法人税法の規定では、内国法人が支給する役員給与については、原則として損金に算入されない(損金不算入)こととなるが、以下の3つの形態に該当する場合には、損金に算入される(法法34①)。   (2) 過大役員給与の損金不算入 しかし、上記ア~ウに該当する役員給与であっても、「不相当に高額な部分の金額」は、いわゆる「隠れた利益処分」に該当するため(※1)、損金の額に算入されない(法法34②)。すなわち、役員給与の支給額(役員退職給与を除く)について以下の「形式基準」と「実質基準」とで判定し、そのうちいずれか大きい金額が損金不算入となるのである(法令70一)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)398頁参照。 ① 形式基準 定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により定めた役員給与の限度額等を超える部分の金額(法令70一ロ)。 使用人兼務役員の使用人部分給与を含めないで限度額を定めている場合は、その使用人分に対する適正額を除外して判定する。 支給限度額を個々の役員ごとに定めている場合には、形式基準の適用にあたり、個々の役員ごとに行うこととなる。 ② 実質基準 その役員の職務内容、その法人の収益及び使用人の給与の支給状況、その法人と同種の事業を営む事業規模が類似する法人の役員に対する給与の支給状況といった状況等に照らし、その役員の職務対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額(法令70一イ)。 実質基準の判定の際には、みなし役員に対する給与も含めて判定することとなる。   (3) 実質基準の適用事例 過大役員給与の損金不算入に関しては、(2)の2つのうち②の「実質基準」が問題となるケースがほとんどである(東京地裁平成22年9月10日判決・訟月58巻6号2425頁(TAINSコード:Z260-11507)、岐阜地裁昭和56年7月1日判決・訟月27巻12号2327頁(TAINSコード:Z120-4823)等)。そこで、「実質基準」の適用が争われた最近の裁判例として、東京地裁令和2年1月30日判決(TAINSコード:Z888-2295)があるので以下でみていきたい。 ① 事案の概要 自動車の輸出入事業等を目的とする内国法人である原告A社は、平成23年7月期から平成27年7月期までの各事業年度の法人税並びに平成25年7月期及び平成26年7月期の各課税事業年度の復興特別法人税について、原告の代表取締役の1人であるBに支給した当該年度に係る給与(退職給与以外のもの)の全額を損金の額に算入して申告した。 これに対し、春日部税務署長(処分行政庁)は、本件役員給与の額には法人税法第34条第2項に規定する不相当に高額な部分があり、同部分の額を損金の額に算入することはできないなどとして、原告に対し、本件各事業年度に係る法人税等の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。 本件は、原告A社が、本件役員給与の額に不相当に高額な部分はないなどと主張して、被告を相手に、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の一部取消しを求める事案である。 なお、課税庁が提示した比較対象法人の役員給与(平均値)の支給状況と原告A社のBに対する役員給与の支給状況は以下の表のとおりである。 〇 比較対象法人の役員給与(平均値)と原告A社のBに対する役員給与の支給状況 ② 本件の争点 本件の争点は、本件役員給与のうち「不相当に高額な部分」(法人税法第34条第2項)の有無及びその金額である。本件役員給与については、形式基準の金額を超える部分が存在しないため、実質基準の金額(同業類似法人の役員給与の支給状祝等に照らして相当と認められる金額)を超える部分の有無及びその金額が問題となる。 ③ 裁判所の判断 ④ 当裁判例からいえること (ア) 類似法人の最高額との比較 当裁判例の判示で注目されるのは、実質基準により類似法人の役員給与と比較する際に、被告・課税庁側が主張していた「本件各抽出法人の役員給与の平均額」を使用することが排斥され、「原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績等の本件における事情」を考慮した結果、「本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分」を使用すべきとされた点である。 一口に「役員給与」といっても、経営基盤や環境が安定した企業の従業員から昇格した役員に対する報酬と、企業の創業者でその類まれな経営手腕や能力、人脈等を最大限に活用し企業の業績に多大なる貢献を行ってきた役員に対する報酬とを単純に比較することは、全くもってナンセンスで意味をなさないということは、社会常識に属することであろう。当裁判例の原告の代表者のような、「原告のオーナー経営者として、原告の主たる業務(マレーシアへの輸出業務)全般を差配するとともに、クライアントに対する営業を行って受注の大半を自ら獲得するなどして原告の収益に多大な貢献をしたと評価することができる」場合には、「類似法人の役員給与の平均額」のような、平均的な役員給与の水準を適用して「不相当に高額な部分の金額」を算定することはできないといえる。 (イ) 実質基準と法人の収益 一方で、裁判所は、営業利益の水準に比して「不自然に高額な本件役員給与によって、原告が本件各事業年度において納付した法人税の額は、本来よりも大きく圧縮されることとなっているのであるから、原告が本件役員給与の全額を損金の額に算入したことにより、課税の公平性は著しく害されている」として、「類似法人の役員給与の最高額」を超える部分の金額は「不相当に高額な部分の金額」として損金不算入としている。当該判示に対しては、役員給与の水準はその役員の果たしている職務の内容を基準に算定すべきであり、法人税額の多寡を考慮するのは不適切であるという指摘もある(※2)。 (※2) 森照雄「過大な役員給与の損金不算入」『税理』2021年2月号216頁参照。 実質基準の規定は平成18年度の税制改正前後で変わったものではなく、施行令第70条第1号イでは「法人の収益」が勘案すべき基準の1つに挙げられているが、これを根拠に、法人の収益の状況に比して役員給与の水準が高いと、課税所得が大幅に低下し、結果として法人税額が減少することをもって「課税の公平性は著しく害されている」という解釈が導き出されるのだと考えられる。もっとも、わが国においては、法人税よりも所得税(累進課税)の方が税負担が重いのであるから、役員給与の水準が高いことはトータルの税負担を不当に減少させることにはつながらないともいえる。ただし、本件の場合は、役員の居住地が海外であるため、20%の源泉税のみで完結する点は考慮すべきであろう。いずれにせよ、実質基準にかかる「法人の収益」の考え方は、未だ実質基準の解釈として確立しているとはいえないことから、上級審の判断が待たれるところである。 ここではとりあえず、本裁判例における裁判所の判断に基づき、法人の収益の状況に比して役員給与の水準が著しく高い場合には、実質基準が適用され、「類似法人の役員給与の最高額」を超える部分の金額は「不相当に高額な部分の金額」として損金不算入となると解しておきたい。   (4) 本件への当てはめ 法人が役員に対して支給した給与の額がその役員の職務に対する対価として不相当に高額であるかどうかは、その職務の内容、職務に従事する程度、経験年数、当該法人の業種、規模、所在地、収益の状況、使用人に対する給与の支給状況、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模、収益の状況が類似するものの役員に対する給与の支給状況等(いわゆる「実質基準」)を総合的に勘案して判断することとなるが、売上高や営業利益の水準が減少する中で役員給与が増加しているような場合には、そのような増加を正当化するのに十分な理由がない場合には「不相当に高額な部分の金額」があるとして損金不算入となる金額が生じるものと考えられる。 (了)

#No. 405(掲載号)
#安部 和彦
2021/02/04

令和2年度税制改正における国外財産調書制度の見直し 【第2回】

令和2年度税制改正における 国外財産調書制度の見直し 【第2回】   税理士 谷口 勝司   Ⅱ 令和2年度税制改正の内容 令和2年度税制改正においては、国外取引や国外財産についての適正・公平な課税を実現するため、納税者側から一層の情報開示を促すための仕組み等が重要である等の観点から、国外財産調書について以下の改正が行われた。 なお、本連載の最後(第5回)に、改正前後における加算税割合の一覧表を掲げておくので、改正内容と併せて参照いただきたい。   1 相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書等の記載の柔軟化 相続開始年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する相続人は、相続開始年の年分の国外財産調書については、その相続又は遺贈により取得した国外財産(以下「相続国外財産」という)を除外して、国外財産調書を提出することができることとされた(調書法5②)。 この場合において、相続開始年の年分の国外財産調書の提出義務については、国外財産の価額の合計額から相続開始年に取得した相続国外財産の価額の合計額を除外して判定することとされた(調書法5②後段)。 国外財産調書の提出義務はその年の12月31日において判断することから、改正前の制度では、相続人の国外財産調書の提出及び記載については、相続国外財産を含めてその判断を行うことになり、その年の12月31日において遺産分割が行われていない場合については法定相続分で按分した価額により判断し、遺産分割により相続人それぞれの持分が定まっている場合にはそれぞれの持分に応じた価額により判断することとされていた。 改正後、相続開始年における相続人は、上記のとおり、相続国外財産を除外して国外財産調書の提出及び記載の判断を行うことができる、という柔軟化措置が講じられることとなった。 この柔軟化措置によって、相続開始年における相続人は相続国外財産を考慮する必要が無くなったといえる。ただし、この柔軟化措置は、相続開始年のみの措置であって、相続開始年の翌年以後は、改正前と同様に、国外財産調書の提出及び記載の判断を行うことになる。 今回の改正によって、相続国外財産を有する相続人は、国外財産調書の提出及び記載の判断について、改正前は相続開始年に行っていたが、改正後は相続開始年の翌年に行うことができ、1年後倒しになったといえよう。 なお、この柔軟化措置は、「・・・できる。」と規定されていることからも明らかなように任意適用であって、改正前と同様の判断を行った上、相続開始年において相続国外財産を除外しないで国外財産調書の提出及び記載をすることができると考えられる。 簡単な事例で、相続開始年の国外財産調書の記載及び提出について説明しよう。 ◎相続開始年の国外財産調書の提出及び記載 ※相続開始年の12月31日現在。 上記事例の場合、改正後において、相続開始年の国外財産調書の提出及び記載は以下のとおりとなる。 相続人乙は、相続国外財産を除外しても5,000万円を超える国外財産(乙の固有国外財産)を有しているから国外財産調書の提出義務があるが、国外財産を8,000万円と記載して(相続国外財産6,000万円を除外して)提出することができる(国外財産を1億4,000万円と記載して提出することもできる)。 相続人丙は、相続国外財産を除外すると固有国外財産が5,000万円を超えないため、国外財産調書を提出しないことができる(国外財産を7,000万円と記載して提出することもできる)。 相続人丁は、国外財産が5,000万円を超えないため、国外財産調書の提出義務はない。 (注) 相続開始年の翌年以後は、相続国外財産を含めた国外財産が5,000万円超である場合は、全ての国外財産について国外財産調書の提出及び記載を要することに注意する必要がある。   (了)

#No. 405(掲載号)
#谷口 勝司
2021/02/04

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第15回】「居住の用に供されなくなった家屋が災害により滅失した場合」-災害跡地の譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第15回】 「居住の用に供されなくなった家屋が災害により滅失した場合」 -災害跡地の譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、6年前の12月に居住用家屋とその敷地を東京に取得しました。一昨年の4月に大阪へ転勤となり、その家屋は空き家となっていましたが、昨年の9月の大型台風でその家屋は滅失してしまいました。 本年の5月にその敷地を売却しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。なお、災害で滅失したその家屋の取得から滅失までの所有期間は、5年超の要件を満たしていません。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● その居住の用に供している家屋でその居住の用に供されなくなったものが「災害」により滅失した場合において、その居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡したときは、その譲渡は、譲渡資産の譲渡に該当するものとして取り扱うことができるとされています。 この場合において、その家屋の所有期間の判定にあたっては、その譲渡のときまでその家屋を引き続き所有していたものとして取り扱われます(措法41の5⑦一ロ、措通41の5-7(居住の用に供されなくなった家屋が災害により滅失した場合))。 なお、「災害」については、震災、風水害、火災その他政令で定める災害をいうものと規定されています(所法2①二十七、所令9、措通31の3-13(「災害」の意義))。 したがって、本事例の場合の土地の譲渡は、災害で滅失した家屋が居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡され、そして、その滅失した家屋の取得の日からその土地の譲渡の時までの期間、つまり、その家屋が現存すると仮定した場合の所有期間が5年超であることから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 おって、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(同条⑦一ロ、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

#No. 405(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/02/04

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第3回】「国外関連取引に「重要な無形資産」が存在するか否かの判断」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第3回】 「国外関連取引に「重要な無形資産」が存在するか否かの判断」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 残余利益分割法は、内国法人及びその国外関連者の双方に重要な無形資産がある場合に用いられる方法であるが、国外関連者が有する重要な無形資産をどのように把握するのか。 〔A〕 国外関連取引の内容や法人及び国外関連者の活動・機能、市場の状況等を十分に検討し、国外関連取引に無形資産が関連しているか、また、所得の源泉になっているかを総合的に勘案する。 ●●●〔解説〕●●● 1 移転価格税制上の無形資産の考え方について 国税不服審判所令和元年7月2日裁決(※1)は、「(残余利益分割法とは)平成7年の『多国籍企業と税務当局のための移転価格の算定に関するガイドライン』(OECD移転価格ガイドライン)の公表に伴う平成12年9月8日付課法2-13ほかによる措置法通達の改正により、当時の措置法施行令で規定する利益分割法に含まれることが明らかにされた方法であり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合に適用される方法である(下線筆者)」と述べている。 (※1) 名裁(法)令元-1(TAINSコード:F0-2-890) そこで問題となるのが、移転価格税制上の無形資産とは何かについてである。規定上は、「(有形資産及び金融資産以外の資産で)これらの資産の譲渡若しくは貸付け又はこれらに類似する取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合にその対価の額が支払われるべきもの」と定義されている(租税特別措置法66条の4第7項2号及び租税特別措置法施行令39条の12第13項)。 また「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「事例集」)の【事例11】の《解説》では、「法人又は国外関連者の所得の源泉となる無形資産は、主に無形資産のうち重要な価値があると認められるものであるため、無形資産として『重要な価値』を有するかどうかの判断が必要となる。その判断に当たっては、国外関連取引の内容や法人及び国外関連者の活動・機能、市場の状況等を十分に検討する必要がある」と述べている。 さらに、「調査に当たっては、重要な価値を有し所得の源泉となるものを幅広く検討対象とし、国外関連取引にこれらの無形資産が関連しているか、また、所得の源泉になっているかを総合的に勘案する必要がある(事務運営指針3-12前段部分)」として、①技術革新を要因として形成される特許権、営業秘密等、②従業員等が経営、営業、生産、研究開発、販売促進等の企業活動における経験等を通じて形成したノウハウ等、及び③生産工程、交渉手順及び開発、販売、資金調達等に係る取引網等を掲げている。 事例集は、続けて、「法人又は国外関連者の有する無形資産が所得の源泉となっているかどうかの検討に当たっては、例えば、国外関連取引の事業と同種の事業を営み、市場、事業規模等が類似する法人のうち、独自の機能を果たさない法人(基本的活動のみを行う法人)を把握できる場合には、法人又は国外関連者の国外関連取引に係る利益率等の水準と基本的活動のみを行う法人の利益率等の水準との比較を行うとともに、法人又は国外関連者の無形資産の形成に係る活動、機能等(例えば、本事例における研究開発や広告宣伝に係る活動・機能など)を十分に分析する必要がある(事務運営指針3-12後段部分)」としている。 事例集では、具体例として、①研究開発及びマーケティング活動により形成された無形資産【事例11】、②販売網及び品質管理ノウハウに関する無形資産【事例12】、③従業員の事業活動を通じて企業に蓄積されたノウハウ等の無形資産【事例13】、④無形資産の形成・維持・発展への貢献【事例14】、⑤無形資産の形成費用のみ負担している場合の取扱い【事例15】、及び⑥出向者が使用する法人の無形資産【事例16】についてそれぞれ解説している。   2 残余利益分割法に係る裁判例 残余利益分割法を適用するに際し、実務上問題となるのが果たして国外関連者が無形資産を有するか否かの検証であろう。この点に関し、残余利益分割法の適用が争点となった上村工業事件(※2)を取り上げる。 (※2) 第一審は東京地裁平成29年11月24日判決(平成25年(行ウ)第263号・税資第267号-141(順号13090))(TAINSコード:Z267-13090)。控訴審は東京高裁令和元年7月9日判決(平成29年(行コ)第382号・判例集未掲載)(TAINSコード:Z888-2290)。 《上村工業事件》 (1) 事件の概要 本件は、めっき薬品の製造販売等を業とするX(原告・控訴人)が、国外関連者であるB社(Xが発行済株式総数の50%超を有する台湾子会社)及びC社(Xが発行済株式総数の100%を有するマレーシア子会社)との間でめっき薬品の製造・販売に係る技術やノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引(本件国外関連取引)を行い、当該取引について当該国外関連者から支払を受けた対価の額を益金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、所轄税務署長Yから、上記支払を受けた対価の額は独立企業間価格に満たないとして、更正処分及び賦課決定処分を受けたところ、Xはかかる処分等を不服として、申告額等を超える部分の取消しを求めた事案である。 なお、B社は製造しためっき製品について直接あるいはD社(Xが発行済株式総数の100%を有するシンガポール子会社)を通じて非関連者に販売し、C社は同製品をD社を通じて非関連者に販売していた。 (2) 裁判所の判断 本件において、Xは、Xの関係会社ではない韓国所在のE社とのめっき製品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供取引を比較対象取引(Eライセンス取引。いわゆる内部コンパラ)であると主張したが、第一審である東京地裁は、本件国外関連取引とEライセンス取引を比較すると、その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し、その影響を具体的に把握することは極めて困難であって、生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから、両取引が『同様の状況』の下でされたものということはできないとしてEライセンス取引は本件国外関連取引の比較対象取引になるということはできないとした。 そして、X及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができると判示した。本件控訴審である東京高裁判決も、かかる第一審の結論判旨を支持した。 (3) 国外関連者が有する重要な無形資産の認定について 本件第一審は、「X及びその国外関連者においてXのライセンス製品の製造、販売等により所得(利益)を得ているのは、①Xが、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、顧客のニーズに沿っためっき薬品を開発した上、国外関連者に対して当該めっき薬品の製造、販売等に関する技術情報やノウハウを提供するほか、国外関連者やその顧客に対する技術支援も行うことによって、Xのライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させていること、並びに、②B社及びD社においても、Xからノウハウの提供や技術支援を受けながら、顧客に対する営業及び技術サポートを行うことで、台湾やASEAN諸国においてXのライセンス製品を市場に浸透させて付加価値を創出し、その販売先となる顧客を開拓、維持していること(例えば、B社は、ユーザーに対する徹底的な技術サポートによって商品に付加価値をつけ、D社も、日系企業に対する営業・技術サポートを行うことにより、当該日系企業を販売先として確保するなどしている)によるものということができる」とし、さらに「このうち①はXの、②はB社及びD社のそれぞれ重要な無形資産(※3)であって、これらの無形資産が総合的に活用されることにより、本件国外関連取引は事業成果を上げ、所得(利益)を生み出しているものといえる」と事実認定することで、「Xとその国外関連者双方に重要な無形資産が存在する」と結論付けた。 (※3) なお、C社はその製造した製品等をすべてD社を通じて販売しているため、B社やD社の有する②のような無形資産は有していないと判断している。 (了)

#No. 405(掲載号)
#霞 晴久
2021/02/04

〔強制適用前におさえておきたい〕監査上の主要な検討事項(KAM)への対応と留意点 【第2回】「早期適用事例の分析」

〔強制適用前におさえておきたい〕 監査上の主要な検討事項(KAM)への対応と留意点 【第2回】 「早期適用事例の分析」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   2020年3月期より、KAMが早期適用されている。早期適用している会社が複数あるため、今回は、その事例の分析結果を解説する。 (注) キャノン(株)については、US基準のため(米国は日本よりもKAMの適用が早いため)、2019年12月期の有価証券報告書における監査報告書においてKAMを記載している。   1 KAMの早期適用 (1) 早期適用会社 早期適用会社は合計で50社(上場会社46社、非上場会社4社)ある。このうち、連結財務諸表においてKAMを記載した会社は48社で、KAMの総数は104個(平均2.2個)であった。個別財務諸表においてKAMを記載した会社は39社で、KAMの総数は50個(平均1.3個)であった。 連結財務諸表作成会社でKAMがないとしている事例はなかった。個別財務諸表においては、純粋持株会社やこれに準ずる会社(以下、「純粋持株会社等」という)の個別財務諸表の監査報告書10件(監査基準委員会研究資料第1号「「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート」(以下、「監基研1」という)3(2)③ウ)及び鳴門ゴルフ(株)でKAMの記載がなかった。 なお、純粋持株会社等でもKAMを記載している事例は6件ある(監基研1.3(2)③ウ)(※)ため、純粋持株会社等の個別財務諸表において、KAMを記載するかどうかは、各社ごとに判断が異なっている。 (※) (株)AOKIホールディングス、(株)りそなホールディングス、(株)日本取引所グループ、第一生命ホールディングス(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱UFJ証券ホールディングス(株)。 【KAMを早期適用している会社一覧】 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (2) 項目別のKAMの個数 KAMの項目ごとの個数は、以下のとおりである。 【KAMの項目ごとの個数】 特徴としては、以下が挙げられる。 KAMは、会計処理について記載されることが多いと考えられるが、ITシステムの評価(内部統制)について記載している事例もあった。ITシステムの評価(内部統制)は連結で3個(3社)、個別で3個(3社)で合計4社(連結のうち2社では個別でも記載している)で記載があった。このうち、3社は収益認識に係るITシステムの評価であり、残りの1社は人事システムの評価であった。 また、開示(注記)について記載している事例(上記の表では「その他」に含まれている)もあった。 (3) 参考事例 早期適用事例の会社では、今後のKAMの記載にあたって、参考になる事例がある。ここでは、その事例を紹介する。 ① (株)AOKIホールディングス-重要な虚偽表示リスクと監査への影響について、表形式で記載している事例及び新型コロナウイルス感染症の影響について記載している事例 (株)AOKIホールディングスの事例では、重要な虚偽表示リスクと監査への影響について、表形式で説明し、潜在的影響額と発生可能性が共に「高」の項目についてKAMとして記載している。監査上、どこにどれだけのリスクがあると想定しているかがわかり、この会社で監査人が注力している項目もわかる事例である。また、新型コロナウイルス感染症の影響が監査上のどの項目に影響したかわかる事例である。 〈(株)AOKIホールディングス:2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ② 三井物産(株)-KAMを1つの事象をベースに記載している事例及びKAMの内容及び選定理由の記載が金額をもとに丁寧に記載されている事例 三井物産(株)の事例では、KAMが将来の油価という1つの事象をベースに、関連する会計処理について記載している。また、KAMの決定理由が金額をもとに丁寧に記載されている。 〈三井物産(株):2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ③ 綜合警備保障(株)-のれんの評価の監査手続が具体的に記載されている事例 綜合警備保障(株)の事例では、のれんの評価の監査手続が具体的に記載されている。また、事業ごとの将来の事業計画の重要な仮定が記載されている。 〈総合警備保障(株):2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ④ ソフトバンク(株)-ITシステムの信頼性について記載している事例 ソフトバンク(株)の事例では、ITシステムの信頼性をKAMとして記載している。 〈ソフトバンク(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ⑤ 三菱地所(株)-個別財務諸表のKAMが連結財務諸表と同じ場合の事例 三菱地所(株)では、連結財務諸表のKAMと個別財務諸表のKAMが同じため、個別財務諸表のKAMにおいては、連結財務諸表と同一である旨を記載している。 〈三菱地所(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ⑥ 野村不動産ホールディングス(株)-個別財務諸表においてKAMがない事例 野村不動産ホールディングス(株)では、個別財務諸表においてKAMがないため、監査報告書において、その旨を記載している。 〈野村不動産ホールディングス(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 (4) まとめ   2 会社法におけるKAM 会社法では、任意でKAMを記載することができるが、早期適用会社のうち、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループのみ会社法でもKAMを記載していた。内容は、有価証券報告書に記載のKAMと同様である。 〈(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ:2020年3月期の連結計算書類に係る監査報告書(抜粋)〉 〈(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ:2020年3月期の計算書類に係る監査報告書(抜粋)〉 (了)

#No. 405(掲載号)
#西田 友洋
2021/02/04

税効果会計を学ぶ 【第22回】「表示と注記」

税効果会計を学ぶ 【第22回】 (最終回) 「表示と注記」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 最終回となる今回は、繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法と注記事項について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 繰延税金資産と繰延税金負債の表示は次のように行われる(「「税効果会計に係る会計基準」の一部改正」(企業会計基準第28号)2項)。 土地再評価差額金に係る繰延税金資産又は繰延税金負債は、他の繰延税金資産又は繰延税金負債とは区別して、貸借対照表の投資その他の資産又は固定負債の区分に、再評価に係る繰延税金資産など又は再評価に係る繰延税金負債など、その内容を示す科目をもって表示する(税効果適用指針63項)。   Ⅲ 注記事項 連結財務諸表規則では、次の事項について注記すると規定している(連結財務諸表規則15条の5)。 注記事項を検討する際には、連結財務諸表規則などの開示に関する規定だけでなく、「税効果会計に係る会計基準」、「「税効果会計に係る会計基準」の一部改正」なども参照していただきたい。 税効果会計の会計処理は、財務諸表における繰延税金資産又は繰延税金負債として表示されることになるが、下記に記載する注記事項についても、税効果会計の会計処理と同時に作成することをおすすめする。注記事項が適切に記載できない場合には、会計処理自体が誤っている可能性が考えられるためである。 1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳 繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)がある場合には、次の事項を併せて注記しなければならない。 (1) 当該評価性引当額 (2) 当該評価性引当額に重要な変動が生じた場合には、その主な内容 (3) 繰越欠損金を記載する場合であって、当該繰越欠損金が重要であるときは、次の事項を併せて注記しなければならない。 ① 繰越期限別の繰越欠損金に係る次に掲げる事項 イ 繰越欠損金に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額 ロ 繰越欠損金に係る評価性引当額 ハ 繰越欠損金に係る繰延税金資産の額 ② 繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産を回収することが可能と判断した主な理由 2 当該連結会計年度に係る連結財務諸表提出会社の法人税等の計算に用いられた税率(法定実効税率)と法人税等を控除する前の当期純利益に対する法人税等(税効果会計の適用により計上される法人税等の調整額を含む)の比率(税効果会計適用後の法人税等の負担率)との間に差異があるときは、当該差異の原因となった主な項目別の内訳 ※法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の100分の5以下である場合には、注記を省略することができる。 3 法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額 4 連結決算日後に法人税等の税率の変更があった場合には、その内容及び影響   Ⅳ 終わりに 「税効果会計を学ぶ」は、今回の【第22回】で終了することとなる。 税効果会計は税法の知識、繰延税金資産の回収可能性の判断など難しい論点が複数あり、会計処理等の誤りが生じやすいものである。 また、2013年に「税効果会計を学ぶ」の旧シリーズを公開してから行われた会計基準等の移管及び見直しを踏まえて、本シリーズでは改めて税効果会計の基本的な考え方から解説しているので、今回の連載が少しでも実務に役立てば幸いである。   (連載了)

#No. 405(掲載号)
#阿部 光成
2021/02/04

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第11回】「買い手・売り手の特徴の違いを見逃さない」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第11回】 「買い手・売り手の特徴の違いを見逃さない」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒売り手の特徴をつかみ、M&A後の計画や戦略に活かす。 売り手企業 ⇒買い手が売り手の特徴のどこを気にするかを理解し、M&Aの際に参考にする。 支援機関(第三者) ⇒買い手・売り手双方の特徴に着目してM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒買い手・売り手の特徴の違いから対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。   1 統合後の姿を描く 中小企業のM&A実務を経験すると、買い手と売り手が全く同じ業種だったとしても双方の企業の特徴は大きく違う場合があると気づくことが多いのではないでしょうか。M&Aの成否を決めるのは統合後の姿を具体的に描けるかどうかにかかっていますが、そのための前提として、買い手と売り手の特徴の違いをよく理解しておくのが必要です。 大別すると統合後のグループ組織は、買い手と売り手双方が従来の形のまま存続するか、あるいは買い手の組織寄りに売り手の仕組みを変更するかに分けられます。 いずれの場合も、買い手と売り手の特徴の違いをつかんだ上で統合後の組織をイメージできるのが大事ですから、M&Aの過程で入手する情報や資料はこのために積極的に活用し検討しましょう。 今回は、中小企業のM&Aを成功に導くために、M&Aの過程で買い手と売り手の特徴の違いをつかむにはどのような点に着目すればよいかについて解説します。   2 買い手と売り手の特徴の違いを“知ろうとする" 買い手と売り手双方の特徴を数え上げればきりがないですが、本稿ではM&Aに関連するものを一例として紹介します。ポイントは、違いを“知ろうとする"意識です。相手を知ることは自分の特徴を再認識する意味でも役立ちますが、そもそも知ろうとしなければ何も見えてこないものばかりです。多くの場合、相手企業に対する興味や関心の度合いが高いほど、互いの特徴が見えてくる傾向にあります。 以下では、一例ですが中小企業のM&Aで特に意識したい相手企業の特徴例と、こうした特徴を発見した場合の検討事項を挙げましたので参考にしてください。 【中小企業のM&Aで意識したい特徴例と検討事項】 ◆決算期 決算期が異なると比較する対象月がずれますので、業績の変化を正しく捉えることや、相乗効果を見極めるのが難しくなるおそれがあります。連結やグループ全体での決算の見やすさ、わかりやすさを優先したいなら、決算期統一を将来の選択肢の1つとして考慮します。連結決算が義務付けられない企業でも、経営管理上や管理会計上の観点から連結会計の導入をお勧めします。 ◆本社や主要拠点の所在地 距離が遠い企業間のM&Aは、統合後の独立性が保たれやすい一方で、統合効果を実感しにくい面があります。グループの一体性を重視するならば、買い手主導のもと主従の関係を明確にするのも有効です。 人材採用を有利に進められそうな場所に、本社や主要拠点を置きたい意向がある場合や、経営資源の集約による効率化を目指す場合には、戦略的に買い手・売り手の拠点の移転や、将来のホールディングス化を視野に入れる場合もあります。 ◆従業員の平均年齢・平均年収 企業の特徴の違いが大きく出る事項の1つです。給与体系や人事評価は従業員の仕事や生活に直接影響するので、規程のあり方、昇給や昇格、各種手当、賞与や退職金制度、福利厚生関係についての今後の方針は、早い段階で検討しなければなりません。 ◆経営理念・経営方針 企業文化の要であり、相手企業の社風を知る手がかりとなります。M&A後のグループ意識の統一に向けては、理念・方針の変更や代表取締役の交代が効果的ですが、一方的な変更や急な変更を従業員の意識変化が追い付かないまま行うと、既存の従業員の離散を招くなどマイナスの効果になりやすい点に注意が必要です。 ◆社内インフラ 広く言えば経営管理や業務管理をするための土壌、狭く言えばシステム、社内ルール(仕組み)、設備や備品などです。こうした社内インフラは、共通化への対象企業の考え方や幅が出やすいものの1つです。 M&Aにあたっては目先の買収コストを意識しがちですが、実は社内インフラの共通化コストをどこまでかけるべきかも合わせて検討しなければなりません。特にシステム関係は、買い手側でも老朽化で更新時期が近い場合が多く、共通化を目指して新規導入を検討する機会にもなります。 ◆文書管理 契約書、請求書、納品書、領収書といった取引関係書類や、会議体の議事録、稟議制度などの文書管理は、制度の有無や管理体制のレベルに違いが生じやすい事項です。M&Aを機に管理レベルの底上げを念頭に置いた様式やルールの変更を行う場合のほか、取引先と契約のまき直しを行う場合があります。 ◆与信管理 金融機関からみた与信、取引先に対する与信は、企業規模の違いと管理レベルの違いが表れやすい点の1つです。なかでも得意先に対する与信管理は、債権回収のレベルにもつながりますから、信用力の低い取引先との関係整理が必要な場合があります。 ◆会計方針 見えている決算内容は、多少なりとも自社とは異なるアプローチで作られたものであり、相手企業の属する業種特性に応じた商慣行や会計慣行が反映されやすいものとなっています。なかには修正しなければ内容の吟味(良し悪しの判断)ができない取引内容もあります。 このため、M&Aの過程で相手企業の財務内容を調べる手続きを実施しますが、通常、会計方針については、統合後に買い手の方針に合わせる調整が求められます。   3 統合後の戦略を人任せにしない 中小企業のM&Aでは、M&A仲介会社、金融機関、コンサルティング会社といった外部の第三者が何らかの形で関与するケースが多く見受けられます。M&Aの入り口から出口までの間はこれらのプレイヤーと悩みを共有し、妥当な解決策を探るために同じ方向に進むことができますが、案件が終わると、基本的には買い手と売り手のみが取り残されます。ですから、M&Aの当事者である買い手と売り手には、M&A当初からM&A後の戦略と実行までを見据えてこれらを担う人材又は部署を配置するのが望まれます。 この場合、買い手に依存するのが正しいとは限らず、売り手側が統合後の成功のカギを握るケースもあります。そこで、M&Aの過程で両者の特徴を整理する際には、統合後の組織体のあり方について、検討事項ごとに買い手と売り手のより優れた特徴ができるだけ多く採用されるように協力することが、M&Aの成功に近づくためのポイントです。 (了)

#No. 405(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/02/04
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