金融・投資商品の税務Q&A 【Q61】 「源泉徴収選択口座内に上場株式等に係る譲渡損失と配当がある場合の確定申告」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 源泉徴収選択口座における所得計算 (1) 確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得 特定口座のうち、源泉徴収選択口座を開設して、上場株式等を保有する場合、その源泉徴収選択口座内でその年中に譲渡した上場株式等に係る譲渡所得等の金額(特定口座内保管上場株式等の譲渡による事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額)は、確定申告にあたって所得金額から除外して税額計算することができます。 また、譲渡について損失が生じた場合も同様に、確定申告における所得金額の計算から除外することが認められています。 (2) 源泉徴収選択口座における配当等の取扱い 源泉徴収選択口座内で発生する上場株式等の配当等(源泉徴収選択口座内配当等)については、当該源泉徴収選択口座内配当等以外の配当等に係る配当所得の金額とは区分して、所得計算することとされています。そして、当該源泉徴収選択口座に係る上場株式等の譲渡について損失が生じた場合には、源泉徴収選択口座内配当等の額の総額から、譲渡損失の金額を控除した残額に対して、源泉徴収税額を計算することとされています。 したがって、上場株式等に係る譲渡損失は、源泉徴収選択口座内で、その年中の配当等の金額と損益通算されることになりますので、上記 (1) に記載したとおり、確定申告を要しない、ということになるわけです。 また、源泉徴収選択口座内配当等は、上場株式等の配当などに対する申告不要制度を適用することができます。この申告不要制度の適用の選択は、その年中に交付を受けた源泉徴収選択口座内配当等に係る利子所得の金額及び配当所得の金額の合計額ごとに行うこととされています。つまり、一回に支払いを受ける配当等の額ごとではなく、口座単位で選択することとされています。 (3) (1)の申告不要を選択しないで確定申告する場合の取扱い 源泉徴収選択口座内で保有している上場株式等の運用結果によっては、当該源泉徴収選択口座内で配当等と損益通算したとしても、なお控除しきれない損失が残ることがあります。その損失を、一般口座で保有する上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額と通算しようとする場合には、上記 (1) の申告不要を選択しないで、源泉徴収選択口座内で生じた上場株式等の譲渡に係る譲渡損失を確定申告の対象とする必要があります。 確定申告をして、源泉徴収選択口座で生じた譲渡損失を一般口座で保有する上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額と通算する場合には、上記 (2) に記載した口座単位での少額配当等の申告不要制度の選択適用は認められず、源泉徴収選択口座内で生じた配当等についても確定申告の対象とすることになりますので注意が必要です。これは、確定申告の対象としないと、当該配当等が源泉徴収選択口座内で源泉徴収をされないまま残ることになるためと考えられます。 2 本件へのあてはめ 源泉徴収選択口座内で生じた上場株式等の譲渡に係る譲渡損失(70万円)を、一般口座で保有する上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額(100万円)と通算するためには、源泉徴収選択口座内で生じた譲渡損失を確定申告する必要があります。そして、確定申告に際しては、譲渡損失だけではなく、配当もその対象とすることになり、下記の所得計算となります。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第20回】 「家屋の所有者が居住用財産の譲渡損失以外の特例を受ける場合」 -居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)とY(妻)は、共に12年程前から住んでいたX所有の家屋とY所有の土地を、本年3月に売却しました。 買換資産については、XとYがそれぞれ住宅ローンを組んで、同年5月に購入し、居住の用に供しています。 その他の適用要件が具備されている場合で、土地の売却については譲渡損失が発生したことから、Yに「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を適用して申告し、家屋については利益が発生したことから、Xについては「居住用財産の3,000万円特別控除(措法35②)」を適用して申告しようと考えています。 Xの申告は認められるでしょうか。 A Xは、「居住用財産の3,000万円特別控除」の特例を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る譲渡家屋の所有者以外の者が、その譲渡家屋の敷地の用に供されている土地等で、その譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超えているものの全部又は一部を所有している場合において、租税特別措置法通達41の5-11(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い)に掲げる要件の全てを満たすときは、これらの者がともに同特例を受ける旨の申告をしたときに限り、その申告を認めるとされています。 そして、上記通達に掲げる注書2において、土地の所有者が「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受ける場合で、家屋の所有者が居住用の他の特例を受ける場合の注意点が示されています。 ※下線については筆者加筆。 したがって、家屋の所有者に譲渡損失がなく、土地の所有者に譲渡損失がある場合(【第19回】を参照)と違い、家屋の所有者であるXは「居住用財産の3,000万円特別控除」の特例を受けることができません。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第69回】 「歩道状空地事件」 ~最判平成29年2月28日(民集71巻2号296頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第49回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (8) 売上割戻しの計上時期を定める法人税基本通達2-1-1の12 国税庁は、売上割戻しについて、変動対価の要因となるその他の事実の範囲に含まれ、いわば収益認識会計基準を適用して売上割戻しの金額を販売事業年度において適切に見積もって計上した場合にはこれを認める(引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映する)こととしている。つまり、収益認識会計基準において、売上割戻しは、変動対価として、売上時にこれを見積もって売上高(収益)から控除することとされており、税法上も合理的と認められる範囲でその処理を認めることとされている(法法22の2④⑤、法令18の2①~③、法基通2-1-1の11)というのである。 それでは、売上割戻しについて、上記法人税基本通達2-1-1の11の取扱いを適用しない場合にはどうなるか。 この点については、法人税基本通達2-1-1の12がその取扱いを定めている。本通達は、販売した棚卸資産に係る売上割戻しについて同通達2-1-1の11の取扱いを適用しない場合には、当該売上割戻しの金額をその通知又は支払をした日の属する事業年度の収益の額から減額することとしている。販売時には販売額で売上金額を計上した上で、売上割戻しの確定時(通知又は支払の時)に収益から減額する処理も従来と同様に認められるということである。ただし、同通達2-1-1の13を適用する場合は後で検討する。 収益認識会計基準を適用しない場合には、売上割戻しはこれが確定した時点で認識するという従来の会計慣行があり、これも一般に公正妥当と認められる会計処理の基準といえると考えたことによるものであり、同基準の導入前の公正な会計慣行を踏まえた旧通達2-5-1の取扱いのうち、法人税基本通達2-1-1の11に該当しない部分を実質的に存続することとしたものである(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」33頁)。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。資産の販売等に係る収益の計上額を規律する法人税法22条の2第4項は、同項に優先して適用されることになる同項の「別段の定め」から同法22条4項を除いている。このような状況の中で、その22条4項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。 もっとも、従来は、売上割戻しの額を収益(売上高)から控除する方式のみならず、旧通達2-5-1において、法人税法22条3項2号括弧書き所定の債務確定基準により損金算入を認めることとしていた。損金の問題であれば法人税法22条4項の適用は必ずしも排除されていない。しかしながら、この法人税基本通達2-1-1の12は収益(売上高)から控除する方式を想定しているため、一筋縄ではいかない。 いずれの方式によるかによって軸となる根拠規定が異なり得ることから種々の理論的関心を引き起こすが、法人税法の課税所得の計算上は、基本的に両方式で差異はないことから、実務上は、この点が問題となることは少ないであろう。 (9) 一定期間支払わない売上割戻しの計上時期を定める法人税基本通達2-1-1の13・14 法人税基本通達2-1-1の13は、法人が売上割戻しについて同通達2-1-1の11の取扱いを適用しない場合において、当該売上割戻しの金額につき、相手方との契約等により特約店契約の解約、災害の発生等特別な事実が生ずる時まで又は5年を超える一定の期間が経過するまで、相手方名義の保証金等として預かることとしているため、相手方がその利益の全部又は一部を実質的に享受することができないと認められる場合には、その売上割戻しの金額については、同通達2-1-1の12にかかわらず、これを現実に支払った日(その日前に実質的に相手方にその利益を享受させることとした場合には、その享受させることとした日)の属する事業年度の売上割戻しとして取り扱うことを定めている。 また、この場合の「相手方がその利益の全部又は一部を実質的に享受すること」の意義が法人税基本通達2-1-1の14に定められている。 この法人税基本通達2-1-1の13の趣旨は、次のとおりである(上記趣旨説明34~35頁参照)。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に言及する上記下線部分について、その明文上の法的根拠として法人税法22条4項を想定しているのであろうか。そうであれば、前述のとおり、この場面で同項を持ち出すことが可能であるかなどの疑問を提起することはできよう。 本通達は「5年を超える一定の期間」という数値基準を示しているが、このような数値基準を一種の割切基準として画一的に適用するのであれば、せめて通達ではなく政令で行うべきであろう。今後、限界事例において、通達でそのような割切基準を設けて適用することの法的根拠・拘束力や、5年という基準の根拠・その合理性が争点化することが予想される。 (了)
2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 ASBJより「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実を目的として、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(以下、「改正遡及基準」という)」が公表された。 従来は重要な会計方針に関する注記は企業会計原則注解(注1-2)で定められていたが、改正遡及基準は、この規定を引き継いでいる。 また、2020年6月12日に、金融庁より「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」が公表され、財務諸表等規則及び連結財務諸表規則などが改正されている。 1 開示目的 改正遡及基準では、重要な会計方針に関する注記の開示目的が明らかにされている(改正遡及基準4-2)。 なお、今回の改正は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにする一方、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における重要な会計方針に関する注記について、これまでの実務を変更することを意図するものではない(改正遡及基準44-3)。 2 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいう(改正遡及基準4-3)。例えば、以下が該当する(改正遡及基準44-4、44-5)。 3 重要な会計方針に関する注記 (1) 注記項目 財務諸表には、重要な会計方針を注記する(改正遡及基準4-4)。重要な会計方針に関する注記例としては、企業会計原則等にも記載されていた以下の項目が挙げられている。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる(改正遡及基準4-5、財務諸表等規則ガイドライン(以下、「財ガ」という)8の2 2、連結財務諸表規則ガイドライン(以下、「連結ガ」という)13-5 2)。 (2) 会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合 会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができる(改正遡及基準4-6)。 (3) 企業の対応 改正の趣旨を踏まえ、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続(上記2参照)が、重要な会計方針に関する注記の開示目的に照らし必要な開示が十分なされているか否かを再度、検討し、新たに重要な会計方針として注記を加える必要がないか検討する必要がある。 4 未適用の会計基準等に関する注記 (1) 改正内容 未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、これまで会計方針の変更の取扱いの一部として定められていたため、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しては適用されないと解されていた。 しかし、未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等「全般」に適用されることを明確にしている(改正遡及基準28-3)。そのため、今後は、表示及び注記事項を定めた会計基準等で未適用のものがある場合は、当該会計基準等についても「未適用の会計基準等に関する注記」が必要となる。 (2) 注記内容 既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、以下について注記する。なお、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関しては、以下の③の事項の注記を要しない。また、連結財務諸表で注記を行っている場合は、個別財務諸表での注記を要しない(改正遡及基準22-2)。 (3) 未適用の会計基準等 今回の決算では、早期適用していない場合、以下の会計基準等が未適用の会計基準等に該当する。 ①-1 収益認識に関する会計基準等の事例(オーエスジー(株):2020年11月期 有価証券報告書) ①-2 収益認識に関する会計基準等の事例((株)ミロク:2020年10月期 有価証券報告書) ② 時価の算定に関する会計基準等の事例((株)マネーフォワード:2020年11月期 有価証券報告書) 5 適用初年度の取扱い 改正遡及基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しない。ただし、改正遡及基準を新たに適用したことにより、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに注記する場合には、追加情報としてその旨を注記する(改正遡及基準25-3)。 6 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(改正遡及基準25-2)。 7 計算書類 改正遡及基準の公表は、現状の実務を変更するものではないため、会社計算規則は改正されていない。 なお、改正遡及基準では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も、関連する会計基準等の定めが明らかな場合と同じく、採用した会計処理の原則及び手続の概要を重要な会計方針として注記する。そのため、当該採用した会計処理の原則及び手続が計算書類を理解するために重要であると考えられる場合には、会社計算規則第101条第1項第5号の「その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項」に該当し、その概要を注記する必要がある(法務省「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方10)。 また、上記4の未適用の会計基準等に関する注記及び上記5の追加情報については、計算書類においても重要性がある場合、注記する必要がある。 Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準 ASBJより2020年3月31日に「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を目的として、企業会計基準第31項「「会計上の見積りの開示に関する会計基準(以下、「見積基準」という)」が公表された。 また、2020年6月12日に、金融庁より「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」が公表され、財務諸表等規則及び連結財務諸表規則などが改正されている。 1 開示目的 見積基準では、次のように開示目的を定めている(見積基準4)。 2 開示対象項目の識別 会計上の見積りの開示を行うにあたり、まず、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(開示対象項目)を識別する。識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債である。また、翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断する(見積基準5)。 開示対象項目を識別する際のポイントをまとめると、以下のとおりである(見積基準5、23、24)。 3 注記 (1) 注記項目 会計上の見積りの注記は独立して、注記する(見積基準6)。そして、上記2で識別した開示対象項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積基準6)、各項目ごとに以下の事項を注記する(見積基準7、8、27、29、30)。また、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載する(見積基準6)。 なお、会計上の見積りに関する注記の検討においては、米国基準及びIFRS適用会社の事例が参考になるため、以下に例示する。 ① ソニー(株):【米国基準】2020年3月期 有価証券報告書(項目:営業権及びその他の無形固定資産の減損) ② (株)LIFULL:【IFRS基準】2020年9月期 有価証券報告書(項目:繰延税金資産の評価) ③ コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(株):【IFRS基準】2019年12月期 有価証券報告書(項目:非金融資産の減損) (2) 連結財務諸表を作成している場合 連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において当該注記を行うときは、上記(1)の注記事項について連結財務諸表における記載を参照することができる(下記表の容認開示①)。 なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって上記(1)②の注記事項に代えることができる。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができる(見積基準9)(下記表の容認開示②)。 (3) KAMとの関係 KAM(【第1回】Ⅲ参照)として、見積り項目が選ばれる可能性が多いと考えられる。そして、監査人からKAMの記載にあたって、注記内容のさらなる充実を求められる可能性がある。そのため、あらかじめ、会計上の見積りに関する注記のドラフトを作成し、監査人と事前に十分に協議することで、決算の早期化に役立てることができると考えらえる。 4 適用初年度の取扱い 適用初年度において、見積基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。ただし、改正遡及基準第14項の定め(表示方法の変更による組替え)にかかわらず、見積基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる。 5 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(改正遡及基準25-2)。 6 計算書類 2020年8月12日に、「会社計算規則の一部を改正する省令」が公表された。見積基準が公表されたことに伴い、会社計算規則が改正されている。 (1) 注記項目 計算書類においても、以下の注記が必要である(会社計算規則102の3の2)。 (※) 会社計算規則では「可能性」と記載されているが、見積基準の「リスク」と同義であると考えられる。 (2) 会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報について 会社法上の計算書類においても注記を求められることによる実務上の負担等も考慮し、各社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、注記項目は、概括的に、「上記①に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」とされている。したがって、見積基準第8項(上記3(1)②参照)において具体的に例示された事項であったとしても、各社の実情を踏まえ、計算書類においては当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、計算書類において当該事項について注記しないことも許容される(法務省「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方7)。 (3) 注記が必要な会社 「会計上の見積りに関する注記」が必要な会社は、以下のとおりである。 Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。 1 上場有価証券の評価 新型コロナウイルス感染症により業績が低迷している会社については、株価が下落している場合もある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要となる場合もあると考えられる。 (※) 回復可能性がある場合とは、時価の下落が一時的なもので、期末日後、概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みのある場合をいうが、これを立証することは、通常難しいと考えられる。 【会計処理】 2 関係会社株式の評価 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社(子会社及び関連会社)の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。この場合、関係会社株式の評価を慎重に検討する必要がある。非上場の関係会社株式の評価における具体的な検討は、以下のとおりである。なお、上場の関係会社株式の評価は、上記1のとおりである。 (1) 株式の評価 関係会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく下落(下記②参照)した場合は、減損処理する。 ① 財政状態の悪化 期末の1株当たり純資産が、関係会社株式を取得したときの1株当たり純資産と比較して相当程度下回っている場合 ② 実質価額の著しい下落 実質価額(=1株当たり純資産 × 所有株式数)と株式の取得原価を比較し、実質価額が50%程度以上下落している場合 【会計処理】 ただし、実質価額について、関係会社の事業計画等をもとに回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理は不要である。 事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行う。 したがって、回復可能性を監査人に説明する際には、5ヶ年の実行可能で合理的な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのか、具体的に説明する必要がある。 (2) 投資損失引当金の計上 関係会社株式の減損処理を行う必要はないが、以下のとおり、健全性の観点から、投資損失引当金を計上できる場合がある。 【会計処理】 (3) 債務超過に対する引当金 関係会社が債務超過である場合、実質価額がマイナスであるため、関係会社株式はゼロまで減損処理する。 一方、関係会社株式は、減損においてはゼロまでしか評価を切り下げることはできないが、子会社等の債務超過額は、最終的には、親会社が負担(子会社の場合は全額負担、関係会社の場合は他の株主との契約で決められた分の負担)する可能性が高いと考えられる。そのため、債務超過額のうち、負担する部分について関係会社事業損失引当金等で損失処理する必要がある。 【会計処理】 関係会社に対する債権がある場合及び関係会社に対して債務保証を行っている場合 関係会社に対する債権がある場合や関係会社に対して債務保証を行っている場合、関係会社に対する債権部分には貸倒引当金を計上し、債務保証部分には、債務保証損失引当金を計上する。そして、この2つの引当金の合計と債務超過額の差額を関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる(下図参照)。 一方、貸倒引当金や債務保証損失引当金としては計上せずに、債務超過額全額を関係会社事業損失引当金等で表示することも考えられる。 3 非上場株式の評価 関係会社以外の非上場の会社についても新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している可能性がある。業績が悪くなっている場合、非上場株式の評価についても慎重に検討する必要がある。 非上場会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく下落(下記②参照)した場合は、減損処理する。 ① 非上場会社の財政状態の悪化 期末の1株当たり純資産が、非上場株式を取得したときの1株当たり純資産と比較して相当程度下回っている場合 ② 実質価額の著しい下落 実質価額(=1株当たり純資産×所有株式数)と株式の取得原価を比較し、実質価額が50%程度以上下落している場合 【会計処理】 4 固定資産(のれんを含む)の減損 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している事業拠点(会社全体、店舗、支店、工場等)が多くなっている可能性がある。業績が悪くなっている場合、固定資産(のれんを含む)の減損についても慎重に検討する必要がある。具体的な検討は、以下のとおりである。 【会計処理】 5 貸倒引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、得意先(関係会社を含む)の業績が悪化し、売上債権の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。また、関係会社へ貸付を行っている場合も貸付金の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。そのため、貸倒引当金についても慎重に検討する必要がある。 具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の回収状況や法的整理等の情報を適時に入手した上で、債権を以下の3つに区分し、それぞれの区分ごとに貸倒引当金を算定する必要がある。特に、「貸倒懸念債権」又は「破産更生債権等」に該当する得意先、関係会社がないか慎重に検討する必要がある。 【会計処理】 貸倒引当金繰入額は、原則、その性質に応じて販管費又は営業外費用への計上であるが、新型コロナウイルス感染症の影響により発生した貸倒引当金繰入額は、非常に特殊な事象であるため、金額が多額に発生する場合には、特別損失に計上することも考えられる。 6 債務保証損失引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社の業績が悪化し、経営難に陥り、関係会社において取引先に対する仕入債務の返済や金融機関への借入金の返済が滞る可能性がある。このような場合に、関係会社の仕入債務や借入金について、親会社が債務保証を行っている場合、債務保証に係る損失が発生する可能性がある。そのため、債務保証損失引当金についても慎重に検討する必要がある。 具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の関係会社の仕入債務の支払状況や金融機関への借入金の返済状況に関する情報を適時に入手し検討する必要がある。 【会計処理】 債務保証損失引当金繰入額は、発生事由等に応じて営業外費用又は特別損失に計上することが考えられる。 7 リストラクチャリング関連の引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化し、経営難に陥った場合、将来に向けた立て直しのためにリストラ(支店・店舗・工場の閉鎖、早期退職の募集等)を決定することが考えられる。このような場合、例えば、以下のような損失について見積もった上で、リストラクチャリング関連の引当金の計上を検討する必要がある。 (※) 従業員が早期退職制度に応募し、金額を合理的に見積もることができる時点で費用処理する。 【会計処理】 上記の勘定科目は例示であるため、実態に応じて適切な名称を付す必要がある。 8 繰延税金資産の回収可能性 新型コロナウイルス感染症の影響により、会社の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。その場合、繰延税金資産の回収可能性の検討において、以下の点について、慎重に検討する必要がある。 (1) 税効果の企業の分類 業績の悪化により、課税所得が減少する場合、税効果の企業の分類を変更しなければいけない可能性がある。 (2) 一時差異等加減算前課税所得の見積り 分類3及び分類4の会社の繰延税金資産の回収可能性の検討に当たっては、一時差異等加減算前課税所得は非常に重要である。 しかし、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、合理的で説明可能な事業計画を作成することが難しいため、一時差異等加減算前課税所得を見積もることが困難となる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要である。 また、事業計画を監査人に説明する際には、合理的で説明可能な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのかを、具体的に説明する必要がある。 【会計処理(繰延税金資産を取り崩す場合)】 9 棚卸資産の評価 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。 新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が伸びず棚卸資産の滞留が増加したり、赤字でないと販売できなくなるなどの状況が発生した場合には、多額の棚卸資産評価損を計上しなければいけない可能性がある。そのため、期末日前後の販売に関する情報を収集し、正味売却価額を合理的に見積もった上で、棚卸資産評価損を計上する必要がある。 【会計処理】 棚卸資産評価損は、原則、売上原価に計上するが、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が新型コロナウイルス感染症による臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上できる。 10 助成金の収益計上 新型コロナウイルス感染症等の影響に伴い、国や地方公共団体から助成金等の交付を受けた場合の税務上の収益計上時期は、以下のとおりである(国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係 問7)。 (1) 基本的な考え方 助成金等については、国や地方公共団体により助成金等の交付が決定された日に、収入すべき権利が確定すると考えられるため、原則として、その助成金等の交付決定がされた日の属する事業年度の収益として計上する。 (2) 特定の経費を補填する場合 その助成金等が、経費を補填するために法令の規定等に基づき交付されるものであり、あらかじめその交付を受けるために必要な手続(例えば、休業手当について雇用調整助成金を受けるための事前の休業等計画届の提出等)をしている場合には、その経費が発生した事業年度中に助成金等の交付決定がされていないとしても、その経費と助成金等の収益が対応するように、その助成金等の収益計上時期はその経費が発生した日の属する事業年度と同じ期である。 なお、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置により、事前の休業等計画届の提出は不要とされているため、この場合の雇用調整助成金の収益計上時期は、原則どおり(上記(1)のとおり)、交付決定日の属する事業年度となる。 11 追加情報 前期において新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定(重要性がないものは除く)は、追加情報として開示されていた。 しかし、当期末より、見積基準が適用されるため、新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、見積基準で求められる注記(上記Ⅴ3参照)に含まれることが多いと想定される(翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある)ため、当該注記で記載することになる。 なお、新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、この判断について注記することが財務諸表利用者にとって有用な情報となる場合には、引き続き追加情報として開示することが追加情報の趣旨に沿った取扱いになる(ASBJ 第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)議事概要)。 【新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定の注記判断フロー】 なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、有価証券報告書の「経理の状況」より前及び事業報告においても記載が必要になる。 12 後発事象の注記 後発事象には、以下の2つがある。 新型コロナウイルス感染症の影響で、期末日後に様々な事象が発生したり、意思決定が行われるものと考えられる。後発事象の発生時点や内容により、修正後発事象又は開示後発事象のいずれに該当するかが異なるため、上記のいずれかに該当しそうな事象がある場合、適宜、監査人に確認することが望まれる。 《新型コロナウイルス感染症に関連する開示後発事象の例示》 (注) 上記項目は、開示後発事象としての例示であるが、発生時点等によっては、修正後発事象に該当する可能性もある。 13 継続企業の前提に関する注記 (1) 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 新型コロナウイルス感染症の影響で、業績が悪化している場合、新たに「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下、「事象又は状況」という)」が存在する場合に該当する可能性がある。 そのため、「事象又は状況」が存在する場合に該当していないかどうかを慎重に検討する必要がある。 《継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示》 (2) 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるとき 期末において、「事象又は状況」が存在する場合には、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策(効果的で実効可能なもの)を検討する必要がある。新型コロナウイルス感染症の影響により、以下の対応が必要であると考えられる。 そして、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められるときは、継続企業の前提に関する以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 なお、貸借対照表日後において、「事象又は状況」が解消し、又は改善したため、継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められなくなったときには上記の注記を行う必要はない。ただし、この場合には、当該「事象又は状況」を解消し、又は改善するために実施した対応策が重要な後発事象として注記対象になることも考えられる。 (3) 有価証券報告書の「経理の状況」より前における記載 上記(2)の注記が必要でない(「重要な不確実性」がない)場合であっても、「事象又は状況」が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨及びその内容等を開示する。 また、上記(2)の注記をする場合でも、当該注記に係る「事象又は状況」が発生した経緯及び経過等について、「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載する。 (4) 事業報告における記載 会社法に基づく事業報告においても、株式会社の現況に関する事項(会社法施行規則120①Ⅳ、Ⅷ、Ⅸ等)に、適切な開示をすることが望まれる。 (5) 後発事象の注記 貸借対照表日後に「事象又は状況」が発生した場合で、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすときは、重要な後発事象として、以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 上記のような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後、その状態が一層明白になったものについては、継続企業の前提に関する注記の要否を検討する必要がある。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第111回】 大分県農業協同組合(JAおおいた) 「不祥事第三者委員会調査報告書(2020年12月24日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【JAおおいた不祥事第三者委員会の概要】 【大分県農業協同組合(以下「JAおおいた」と略称する)の組織概要】 (※) 令和2年3月31日現在(事業量のうち購買品、販売品は令和元年度中の取扱高) ◎JAおおいたにおける過去の不祥事 【調査報告書の概要】 1 不正貸付発覚の経緯(調査報告書1ページ) JAおおいた東部事業部国東支店において、令和2年7月22日、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明し、内部調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した(以下「本件不正貸付」という)。 本件不正貸付は、JAおおいたの不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者である本店リスク管理部長に報告する必要があったにもかかわらず、同事業部の担当部署の所属長、その上司であった総務部長、同事業部担当の常務理事らは、本店リスク管理部長に報告せず、本件不正貸付を隠蔽した(以下「本件不正貸付の隠蔽」という)。この本件不正貸付の隠蔽は、令和2年8月26日、本店コンプライアンス統括課への内部通報を端緒として、東部事業部の事実確認により発覚したものである。 2 不正貸付の概要(調査報告書18ページ以下) JAおおいた東部事業部では、貸付申込書等の原本が存在しなくても、共済課の端末で共済約款貸付の実行ができる状況にあった。A氏は、借金返済の資金や生活費や遊興費(パチンコ)に窮していたが、東部事業部のずさんな運用(業務処理一覧表と貸付申込書等の原本を突合して確認する作業手順が行われていない)を悪用して、共済契約者から共済約款貸付の申込みがあったことを仮装し、自ら端末を操作して共済約款貸付を実行し、自己の指定する口座に振り込ませて共済貸付金を不正取得しようと考えた。A氏の妻、実母の夫、妻の父親及び飲食店を経営するh社(代表者は妻の父親)が共済に加入していることから、A氏は、これら親族の共済契約を利用して本件不正貸付を行うことにした。 まず、A氏は、平成30年8月3日、A氏の妻が8万円の共済約款貸付の申込みをしてきたことにして、本件不正貸付を行うことにし、A氏の妻名義の貸付申込書と請求書を無断で作成した。請求書には、貸付金の振込口座としてJAおおいた湊支店の自己名義の口座を指定し、事後的に残高通知書が自宅に送付されて本件不正貸付が発覚するのを防ぐため、残高通知書を直送しない設定を選択した。この場合、残高通知書は、共済課に送付されることになるが、A氏は、共済課に送付された残高通知書を無断で抜き取って廃棄していた。 次に、A氏は、平成31年1月28日、A氏の妻が4万円の共済約款貸付の申込みをしてきたことにして、再び本件不正貸付を行うこととし、A氏の妻名義の貸付申込書等を作成せず、共済課の端末に直接この共済約款貸付に関するデータを入力して、全国本部払いで自己名義の口座に貸付金4万円を振り込む手続を行った。組合払いの場合、伝票セットもプリントアウトし、支店において伝票セットと貸付申込書等を突合して振込口座に貸付金を振り込む処理を行うことになっていたことから、本件不正貸付の発覚を防ぐためには貸付申込書等を作成する必要があったのに対し、全国本部払いの場合、全共連から貸付金が直接振り込まれ、支店において伝票セットと貸付申込書等を突合することがないため、これらの書類を作成する必要はなかったためである。 以後、このように、A氏は、A氏の妻、実母の夫、妻の父親及び飲食店を経営するh社名義を使って、次々と貸付申込書等を作成せず、端末上で虚偽の共済約款貸付の申込みをして、自己名義の口座に貸付金を振り込ませるという本件不正貸付を繰り返した結果、本件不正貸付は、平成30年8月3日から令和2年3月31日までの間、合計28回繰り返され、被害総額は983万7,000円に及んだ。 3 不正貸付の隠蔽(調査報告書22ページ) 令和2年7月22日、国東支店において、共済コンプライアンス点検が実施されたが、その際、「点検対象契約一覧表(証書貸付)」に記載されている書類のうち、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明した。A氏は、貸付申込書等を作成せずに本件不正貸付を行っていたことから、このように「点検対象契約一覧表(証書貸付)」に記載されている貸付申込書が存在しないという事態が生じた。国東支店長H氏は、A氏に、貸付申込書がないと伝えたが、A氏は、申込書を提出していると虚偽の説明をした。H氏は、A氏に対し、今から支店へ来るよう伝えたが、A氏は、嘘をつき続けてその場を逃れようと考え、これを拒否したため、連休明けの同月27日に事情を聴くということになった。 A氏は、連休中である同月25日、H氏へ電話連絡して、相談をしたい旨を申し出たことから、H氏は、26日16時30分から、総務課長であったI氏とともに、A氏と国東支店において面談した。A氏は、本件不正貸付の事実を自供し、貸付申込書等の書類なく本件不正貸付を行ったこと、その際、名義を無断で使用したこと、パチンコで多額の現金を費消したのが動機であることなどを話した。I氏は、自分の上司である総務部長、A氏の上司である暮らし応援部長と金融・共経課長に電話連絡をして、A氏の本件不正貸付について報告し、その翌日の同月27日午前7時30分から、A氏から再度詳しく事情を聴くことになった。この日以降、A氏は、自宅待機とされた。 A氏からの事情聴取が終わった後、総務部長は、金融・共経課長や国東支店長らに対し、時系列を整理し、今回の共済契約者が誰で金額はいくらなのか、他に類似案件がないかを確認するように指示した。総務部長以下の参加者は、まずは本件不正貸付の事実確認をして共済契約者に説明することを優先すべきものと考え、本店に本件不正貸付を報告すべきという話にはならなかった。 A氏がA氏の妻らの名義を無断で使用して貸付申込書等の書類を作成し(又は貸付申込書等を作成せず)、JAおおいたに対して虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得した行為は、私文書偽造罪及び詐欺罪という犯罪行為であり、不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者であるリスク管理部長に報告する必要があったが、JAおおいたでは不祥事が多発しており、今回のA氏の本件不正貸付が公表されれば、JAおおいたの社会的信頼はさらに著しく毀損されるおそれがあった。 そこで、東部事業部担当常務理事、総務部長、暮らし応援部長、金融共済課長らは、親族がA氏に代わって共済貸付金を返済するのであれば、被害回復はなされること、親族も本件不正貸付を公表しないように強く懇願していることなどの状況から、本件不正貸付を本店へ報告せず、本件不正貸付が公表されないようにするという対応をとることとした。 4 第三者委員会によるアンケート調査結果(調査報告書45ページ以下) 不祥事第三者委員会は、調査と並行して、JAおおいたの職員等2,054人を対象とするアンケート調査を行い2,041通の回答を得ている(回収率99%)。全12問からなるアンケート項目のうち、【質問5】及び【質問6】は、職員等による原因分析となっているので、その質問及び回答並びに第三者委員会によるコメントを検討したい。 【質問5】(複数回答可) あなたは、今回の東部事業部における共済貸付金の着服事件の原因は何だと思いますか。その原因として感じておられるものはどれですか。あてはまるものに〇をつけてください。 このアンケート結果に対して、第三者委員会は、「一般に不祥事が生じた場合にこのようなアンケートを行うと、当事者の個人的資質や、全体としてのコンプライアンス意識の欠如などが、原因として多く挙げられる傾向がある」としたうえで、JAおおいたの場合、「共済契約獲得等のノルマが厳しく、職員の負担が大きいから」を原因として挙げる者が多いという点を「きわめて特徴的である」と評している。厳しいノルマと不正の関係について、第三者委員会は、「共済ノルマの負担が重たいことが不祥事発生の原因となる」ということは、自由記載欄を読むことで理解することができるとしているので、「自由記載欄」の分析を追記しておきたい。自由記載欄で圧倒的多数の意見は、「共済、その他ノルマの軽減、廃止」を求めるものであり、全体数に対する割合は19.4%であったということである。第三者委員会は、アンケート自由記載欄のコメントを37件、報告書に記載しているが、その中で、ノルマが不正につながると指摘しているコメントを引用しておきたい。 【質問6】(複数回答可) あなたは、今回の東部事業部における共済貸付金の着服事件が隠蔽された原因は何だと思いますか。あてはまるものに〇をつけてください。 この調査結果について、第三者委員会は、「内輪で穏便に済ませようとする内向きの意識や、これまでJAおおいたが不祥事続きであり、『これ以上不祥事を起こすことができない』という危機意識に、幹部職員のコンプライアンス意識の低さが相まって、『これ以上不祥事を表沙汰にすることができない』という誤った意識が生まれ、結果として、今回の本件不正貸付の隠蔽が起きた、と職員は考えていることが窺える」と評価している。 5 不祥事第三者委員会による原因論(調査報告書77ページ以下) 第三者委員会は、上記のアンケート結果も踏まえたうえで、原因論として、「不正貸付」と「不正貸付の隠蔽」とを分けて分析しているので、それぞれの項目を挙げておきたい。 6 第三者委員会による再発防止策(調査報告書89ページ以下) 上記の「原因論」を踏まえ、第三者委員会は、再発防止策を次のように提言している。 特徴的な再発防止策の詳細を検討する。 まず、「(7) 牽制の利いた仕組み、体制の確立」では、今や一般金融機関で定着しているスリーライン・ディフェンスという考え方について、JAにおいても信用事業、共済事業においてはスリーライン・ディフェンスに近い体制をとることを目指すべきであるとしたうえで、JAおおいた東部事業部共済課においては、第一線からして全く機能していなかったことを挙げ、「ひとたび職員が悪心を起こせば、いつでも不正が可能となってしまう」と結論づけている。 さらに、「(10) 内部通報制度の活性化」では、「内部通報制度が活性化されていると、隠蔽に対する牽制が強く働くことになり、『所詮不祥事の隠蔽(不祥事を表沙汰にしないこと)はできないから、内部からの情報漏洩で発覚するぐらいならば、公式に報告をするべし』という覚悟が、組織の中に根付くことになる」とその利点を挙げ、外部の弁護士事務所の受付窓口を職員の「よろず相談窓口」のようなものから、明確に通報に特化したものとするべきであると提言している。 そして、「(11) ノルマの見直し」については、共済契約獲得をはじめ、各種ノルマの負荷によって苦しんでいる職員が多くいること、また、ノルマ達成のために自爆営業をして可処分所得が減っている職員がいること(そのような職員は、金銭の取扱いには不適格な人材となってしまう)、ノルマによって職員に達成感がなくモチベーションが下がってしまっているということに照らすならば、現行のノルマを現実的な数値にするように見直すとともに、本来業務の妨げにならないようなシステムに再構築することが必要であると考えられるとしている。 【調査報告書の特徴】 本調査報告書を読んでいて驚かされたのは、JAおおいた幹部職員による不祥事隠蔽体質の根深さであった。ノルマを果たすための「自爆営業」という表現も初めて目にするものであった。農業協同組合として、JAおおいたが特殊なのかどうかまで、第三者委員会は言及していないが、大分県知事による「業務改善命令」では、「平成20年6月1日発足以降、不祥事に関して業務改善命令と幾度にもわたる報告徴求を発出してきた」と書かれているように、不祥事が頻発していたことは間違いないようである。 1 悉皆調査委員会の設置 JAおおいたでは、不祥事第三者委員会の調査中に、複数の新たな不祥事が発覚したことを契機に、第三者委員会とは別に、「悉皆調査委員会」を設置して、まだ発覚していない不正行為や不適切行為を「総ざらい」するという異例の事態になっている。悉皆調査委員会は、2021(令和3)年3月末を目途に調査結果をまとめる予定であると公表している。 2 「自爆」営業とは 報告書には、繰り返し「自爆営業」という用語が使われている。そこで、第三者委員会による定義を確認しておきたい。 第三者委員会もこうした「自爆営業」が不正の原因となっているとして、アンケートの自由記載欄を参照して、次のようなJAおおいたの業務実態を紹介している(調査報告書79ページ)。 そのうえで、結論として、「過大なノルマによる可処分所得の減少やモチベーションの低下などが、本件不正貸付を含むJAおおいたで立て続けに起きている不祥事の背景となっていることは間違いないところであると考えられる」とも述べている。 3 JAおおいたによる業務改善計画 2月8日、JA大分は、「業務改善計画書の提出について」を重要なお知らせとして、大分県から受けていた業務改善命令に伴う業務改善計画書を提出したことを公表した。大分県から出されていた5項目の業務改善命令と、JAおおいたの業務改善計画の概要を検討したい。なお、大分県から「業務改善命令」を受けたことについては、10月9日付で、JAおおいたのサイトで「重要なお知らせ」として掲載されていたのだが、その後、削除された模様である。当初のリリースには、5項目の改善命令の前提として、以下の文言が置かれていた。 なお、大分県のサイトから、業務改善命令を行う理由を合わせて引用しておきたい。 【大分県業務改善命令項目1】 東部事業部の不祥事件に係る役職員の責任の明確化 【大分県業務改善命令項目2】 過去の不祥事件の検証に基づくコンプライアンス研修を強化 【大分県業務改善命令項目3】 職員の適格性に基づく適正な人事管理と広域人事異動の拡充等による本店のガバナンス強化 【大分県業務改善命令項目4】 電算システムを含めた事務処理手法の見直しを通じた内部牽制機能の強化 【大分県業務改善命令項目5】 役員と職員が一体となった法令等を遵守する健全な組織風土の改革 JAおおいたによる業務改善計画は、関係者に厳正な処分を行い、内部通報制度の改善では、弁護士による外部窓口の設置と制度の周知を行うこととし、スリーライン・ディフェンス機能を強化するなど、業務改善につながる項目に言及されており、一定の効果は期待できる内容であると評価できる。また、ノルマ(個人目標)の大幅な削減が実現すれば、役職員のモチベーション向上に寄与する可能性は高い。とはいえ、本項目の冒頭で記したように、「業務改善命令」を受けたことをサイトから削除して、これを隠すようにも見える姿勢は、これまでの不祥事の隠蔽行為の延長にあるように感じるところである。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第35回】 「基本に返って計算チェックを徹底せよ」 公認会計士 石王丸 周夫 1 合計が合わないミス 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例35-1】 貸借対照表の流動資産の合計が合わない。 (出所) 株式会社インターワークス「第30回 定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 【事例35-1】には、間違いが2つあります。 まず1つ目は、前回取り上げたミスと同じものです。同じ勘定科目が2つ掲載されているというミスです。 この貸借対照表では「前払費用」が2つもあります。【事例35-1】の会社は、2020年6月8日にこの事例を含む定時株主総会招集通知を公表し、2020年6月17日に記載事項の一部訂正を行っています。それによると、正しくは、下の方の「前払費用」が「未収入金」だったそうです。このようなミスを見逃したまま決算書を公表してしまわないように、「勘定科目の素読をしましょう」というのが、前回の話でした。 次に2つ目のミスです。これが今回のテーマになります。流動資産の部を見てください。「現金及び預金」から始まって、「貸倒引当金」まで記載されていますが、これらの金額を足し合わせても、ゴシックで記載されている「流動資産」の合計値に一致しないのです。 この決算書の表示単位は千円で、千円未満の端数は切り捨てて表示されています。したがって、記載された金額を単純に足し合わせても、ピタリとは一致しませんが、それは問題ではありません。問題は、切捨て表示の影響を明らかに超えるような不一致があることです。 流動資産の各科目を足し合わせた金額が1,736,465千円ですが、ゴシック表示の流動資産の合計値は1,802,815千円となっています。差額が66,350千円(ゴシック表示の流動資産合計値が過大)です。 流動資産の内訳科目について切り捨てられた端数金額の合計を推定すると、最大で4,995円になります。次のような計算です。まず、切り捨てられる金額は千円未満の端数なので、1科目につき最大999円です。この貸借対照表の流動資産には6科目ありますが、貸倒引当金は貸方残の科目(控除項目)なので、これ以外の5科目について999円ずつ切り捨てられたとします。そうすると、「999円 × 5科目 = 4,995円」です。 以上から、前掲の差額66,350千円は、端数切捨ての影響を明らかに越えた差額だとわかります。つまり異常値です。 2 異常値の原因を特定する 不一致の差額が異常値だとわかったら、次はどこが間違いなのかを探らなければなりません。 合計が一致しない場合、可能性としては以下の3つが考えられます。 このうち①に該当する場合は、他の合計計算にも影響が出ているはずなので、簡単にわかります。流動資産合計値と固定資産合計値を足し合わせた金額が資産合計の金額に一致するかどうかを確かめればよいのです。そうすると、ここでは1千円ずれていますが、それは端数切捨ての影響と考えられるため、異常なしということになります。 したがって、原因は上記②となります。②の場合、どの科目の残高が間違っているかは見ただけではわかりません。転記元の書類又はデータと突合し、転記ミスを見つける必要があります。 3 基本の徹底を 結論を言うと、【事例35-1】では、転記ミスの数字は流動資産の「その他 7,372」でした。これが、正しくは「その他 73,721」だったのです。 転記するケタを間違えたと思われます。このようなミスはよく見かけます。類似事例としては、この連載の【第9回】の【事例9-2】、【第11回】の【事例11-1】、【第22回】の【事例22-5】があります。 これらのミスを防止することは難しく、【第22回】で紹介したような、転記作業のシステム化(自動化)や決算書の表示単位の変更(千円から百万円に変更して、表示する数字の個数を減らす)といった対策もありますが、会社の置かれた環境によっては採用に制約があります。したがって、起きてしまったミスを決算公表前に発見することが重要になってきます。方法としては「計算チェック」になります。【第12回】でも述べましたが、計算チェックを習慣化すべきです。 決算書の作成業務というのは、昔に比べればシステム化が進んでいるとはいえ、手作業に依存している部分もまだまだあります。「会計ソフトを使っているのだから、転記ミスなど起こるはずはない」と思っている人もかなりいますが、それは違います。【事例35-1】のような基本的かつ影響甚大なミスが公表決算書において起こっている事実を直視すべきでしょう。まさに「論より証拠」です。 なお、ミスの防止には類似事例の蓄積も大事なので、以下に一例を紹介しておきます。 【事例35-2】 項目合計欄における数字の転記ミス。 (出所) 株式会社立花エレテック「第91回 定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 訂正後の固定負債合計は「2,452」となっていました。 つまり、この事例では、数字の並びを間違えて転記してしまったようです。 貸借対照表の合計欄でミスが起こることは【第12回】の【事例12-2】でも触れましたが、いずれも計算チェックで発見可能です。基本の徹底を心がけましょう。 〈今回のまとめ〉 決算書のチェックは、基本に立ち返り、計算チェックを習慣化しましょう。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第12回】 「オンライン会議時に常にカメラをオンにするよう命令したらリモートハラスメントに該当するのか」 弁護士 柳田 忍 【Question】 コロナ禍をきっかけに、当社でもオンライン会議システムを導入しましたが、従業員から「オンライン会議時に常にカメラをオンにするよう命令することはリモートハラスメント(リモハラ)だ」との指摘がありました。どのように対応すべきでしょうか。 また、リモートハラスメント(リモハラ)防止のために気をつけるべき点は何ですか。 【Answer】 常にカメラをオンにするように命じるのではなく、カメラをオンにすべき打ち合わせの対象を限定するなどの運用が望ましいと思われます。リモハラ防止対策としては、「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」のタイプのハラスメントの防止に重点を置いた対策も有用であると思われます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 リモートハラスメントとは リモートハラスメント(リモハラ)とは、リモートワーク(テレワーク)中やリモートワーク(テレワーク)に伴って行われるハラスメントを指すと言われている。コロナ禍をきっかけにリモートワークやテレワークを実施することになったが、従前の働き方とは異なる配慮が必要になる場面が多く、対応に苦慮している企業も多いようであり、特に、オンライン会議システムの利用については、利用に不慣れであるといった事情やプライバシーの観点などからトラブルが生じやすい。 質問における従業員の意見については、使用者サイドとしては、「勤務時間中の業務のためのオンライン会議についてカメラをオンにするよう義務づけることの何が悪いのか。現実の会議に出席するのと同様であろう」という意見が多いようだが、話はそう簡単ではないように思われる。 ある言動がリモハラに該当するか否かについては、コロナハラスメントと同様、パワハラ、セクハラ、マタハラといった典型的なハラスメントの基準が参考になるのではないかと思われる(拙稿第3回参照)。例えば、在宅勤務中に私服で出席したウェブ会議において、服装について性的なコメントがなされ、その結果、就業環境が害されたような場合には、環境型のセクハラ(拙稿第1回参照)に該当する可能性がある。 2 「個の侵害」に該当するか否か ウェブ会議中に常にカメラをオンにするよう命じることの問題点を検討するに際しては、パワハラの6類型の6つ目の「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」のタイプのパワハラ(拙稿第1回参照)が参考になると思われる。勤務時間中の業務のための打ち合わせであっても、在宅勤務中のオンライン会議は個の領域にわたらざるを得ないものであり、個の侵害のおそれが常についてまわるものだからである。 いわゆる「パワハラ指針」(令和2年1月15日厚労省告示第5号)においても「労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること」が「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」に該当すると考えられる例としてあげられている。個の領域の側面からは、オンライン会議は「職場外」と言い得るし、打ち合わせの頻度等次第では「継続的に監視」しているに近い状態になり得る。 また、オンライン会議においては、現実の会議と異なり、自分の映像を自分で管理することができない。すなわち、相手方がオンライン会議の様子を本人に知られずに録画したりスクリーンショットを撮影したりすることができるものであり、オンライン会議でカメラをオンにするということは、これらの肖像権の侵害になり得る行為の対象となるリスクにさらされるということを意味する。 オンライン会議において顔を映さないのは失礼であるという考えはそれなりに一般的なものであるし、互いの顔を見ながら打ち合わせをすることは円滑なコミュニケーションを図るための合理的な手段であると言えることから、原則として、使用者は従業員に対してオンライン会議でカメラをオンにするよう命じることができるものと思われる。しかし、上記の観点からは、カメラをオンにすべき打ち合わせの対象を、外部の取引先や依頼者との間の会議と一部の内部の打ち合わせに限定するなどの運用が望ましいものと思われる。 3 今後を見据えたハラスメント対策を講じる リモハラの対策についても、コロナハラスメントと同様、基本的には典型的なハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)について法や指針により義務づけられている対策が有用であると思われる(拙稿第3回参照)。もっとも、従前のハラスメント対策においては「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」タイプのハラスメントの対策についてはあまり重点が置かれていなかったように思われる。 もともとリモートワーク・テレワークが働き方改革を推進する働き方の一環として推奨されていたことに照らすと、リモートワーク・テレワークはコロナ禍後もある程度実施されるものと思われる。よって、今後を見据えて「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」タイプのハラスメントの防止にも重点を置いて対策を講じるのがよいのではないかと思われる。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第15回】 「改正会社法の概要と留意点」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘 〔質 問〕 令和3年3月1日施行の改正会社法(令和元年法律第70号)における主な改正内容はどういったものでしょうか。 〔回 答〕 会社法の改正により、株主総会に関する規律、取締役等に関する規律その他の事項について見直しがなされました。主な改正内容は以下のとおりです。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務執行の一層の適正化を図ることを目的として、令和元年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)が令和3年3月1日に施行された(ただし、一部については令和4年の施行予定)。主な改正事項は以下のとおりである(以下、改正後の会社法を「新法」という)。 1 株主総会資料の電子提供制度の創設 (1) 電子提供制度 株主総会資料の電子提供制度(法令上の用語は「電子提供措置」)が定められたことにより(新法325条の2以下)、株式会社は、定款で定めることによって株主総会資料等の電子提供措置を採用することができることとなった。 「電子提供措置」とは、 電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置のことをいい、ウェブサイトでの掲載等がこれに当たる。 (2) 招集手続の見直し 株式会社が電子提供措置を採る場合には、公開会社であるか非公開会社であるかを問わず一律に、総会の日の2週間前までに招集通知を発しなければならない(新法325条の4第1項)。また、株主総会の招集通知を書面で行う必要がある場合(会社法299条2項各号)には、①株主総会の日の3週間前又は②株主総会招集通知(書面)を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3ヶ月を経過するまでの間、総会の日時・場所・目的事項等や計算書類・事業報告記載事項等の一定の情報について電子提供措置を行わなければならない(新法325条の3)。 (3) 書面交付請求 電子提供措置制度を採用する株式会社であっても、インターネットを利用することが困難である株主の利益に配慮するため、書面交付請求制度が設けられている(新法325条の5)。これにより、株主は、株式会社に対し、株主総会資料に記載すべき事項を記載した書面の交付を請求することができる。 2 株主提案権の濫用的行使を制限するための措置の整備 株主提案権の濫用事例(特定の株主が大量の議案を提出する等)を防止するため、新法においては、株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数が制限(上限10個)された(新法305条4項)。株主が提出しようとする議案数が10を超える場合には、超過部分については議案要領の通知請求権(会社法305条1項)が認められないこととなる。 なお、議場において提案する議案数に制限が加えられたわけではないことに注意が必要である。 3 取締役の報酬に関する規律の見直し 取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ、また、株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、主に以下のような見直しがなされた。 4 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備 役員等にインセンティブを付与するとともに、役員等の職務の執行の適正さを確保するため、役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償することを約する補償契約や、役員等のために締結される保険契約に関する規定が設けられた。 (1) 補償契約 新法にいう「補償契約」とは、新法430条の2第1項各号に掲げる費用等の全部又は一部を、役員等に対して当該株式会社が補償することを約する契約をいう(新法430条の2第1項)。補償の対象となるものとしては、例えば責任追及の訴え等の対応に必要な弁護士費用、会社法429条の責任(役員等の第三者に対する損害賠償責任)によって生じる損失等が挙げられる。 なお、補償契約によっても、全ての費用が補償の対象とされるわけではなく、通常要する費用額を超える部分等、一定の費用・損害については補償を受けることはできない(新法430条の2第2項)。 株式会社が役員等と補償契約を締結するには、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議を経なければならない(新法430条の2第1項)。なお、補償契約については、利益相反取引ないし自己代理には該当しない(新法430条の2第6項、第7項)。 (2) 役員などのために締結される保険契約(D&O保険) 役員等のために締結される保険契約(役員等賠償責任保険契約。D&O保険)は、会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務執行に関して責任を負うこと、又は責任の追及にかかる請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が補填することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいう(新法430条の3第1項)。職務執行の結果、役員が会社や第三者に対して責任を負うことになったような場合に保険者が役員に生じた責任を補填するものである。 旧法下でも解釈上有効であるとされていたが、新法では明文が設けられた。 会社は、役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議によらなければならない(新法430条の3第1項)。また、役員等賠償責任保険契約の締結については、利益相反の規定や自己代理の規定の適用は排除される(新法430条の3第2項、第3項)。 5 業務執行の社外取締役への委託に関する規律見直しや社外取締役設置の義務付け (1) 業務執行の社外取締役への委託に関する規律見直し 改正前は、業務を執行した社外取締役は社外性を失うこととされていたが、新法では、一定の要件下であれば業務を執行しても社外性を失わないこととされた(新法348条の2)。 一定の要件とは、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の場合である。 なお、社外取締役に業務執行を委託するときは、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)による必要がある(新法348条の2) (2) 社外取締役設置の義務付け 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるものに限る)である上場会社については、社外取締役の設置が義務付けられた(新法327条の2)。 6 株式交付制度の創設 企業買収に関する手続の合理化を図るため、株式会社が他の株式会社を子会社化するに当たって、買収会社が、被買収会社を子会社とするため、自社株式を被買収会社の株主に対して交付することができる制度(株式交付)が創設された(新法2条32号の2、新法774条の2から同774条の11、新法816条の2から同816条の10)。 自社株式を対価として他の会社を子会社化する手段には「株式交換」があるが、これは完全子会社化するためのものでありニーズが限られていた。株式交付は、完全子会社化を予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするために自社株式を交付することを認める制度といえる。 なお、株式交付においては、株式を交付する会社(対象会社を子会社化しようとする会社)を「株式交付親会社」といい、被買収会社を「株式交付子会社」という(新法774条の3第1項かっこ書)。 7 施行時期 前記2から6は令和3年3月1日に施行されたが、1(株主総会資料の電子提供制度の創設)については未施行(令和4年中の施行予定)であることに注意が必要である。 (了)
2021年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 いよいよ株主総会準備のシーズンとなった。今年は長引くコロナ禍への対応に加え、3月1日より改正会社法が施行になったことから、株主総会についても改正会社法への対応が中心となる。本稿では3月決算・6月株主総会を前提とした対応を中心に解説する。 1 「取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針」の決定 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)で有価証券報告書提出会社と監査等委員会設置会社については、取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針として、法務省令に掲げる事項(会社法施行規則98条の5)を取締役会で決定しなければならないこととなった(会社法361条7項)。 この報酬等の決定方針は施行日(2021.3.1)までに決定しておくことになるが、そうでなければ、できるだけ早いタイミングで決定しておくことが望ましいであろう。 なお、法務省令に委任された事項の解釈については、会社法施行規則等の改正に際しての意見募集の結果(以下、パブコメ結果という)に示されているものが参考となる。 報酬等の決定方針は改正対応における注目ポイントの1つであり、事業報告による開示も必要となるので留意されたい。実務的には、それまでの有価証券報告書における報酬についての開示内容を参考にして対応することになろう。 2 招集通知関係 今回の改正会社法における招集通知の対応事項は多岐にわたっているので、漏れのないように注意が必要である。 3月決算会社については概ね適用となるが、法務省令には詳細な経過措置が設けられているため、以下ではそのポイントを解説する。 (1) 経過措置 ① 事業報告 原則として施行日(2021.3.1)前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告の記載は従前の例による(改正法務省令附則2条11項)とされているので、3月決算会社の事業報告から、改正後の会社法の対応が必要となる。 なお、補償契約及び役員等賠償責任保険契約の記載と、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載については、後述のとおり例外規定が設けられている。 ② 株主総会参考書類 原則として施行日(2021.3.1)までに招集の手続が開始された株主総会に係る株主総会参考書類の記載は、従前の例による(改正法務省令附則2条9項)とされている。 ここで「招集の手続が開始された」とは、株主総会参考書類の記載事項を含めて会社法第298条第1項各号に掲げる事項が取締役会の決議によって決定された時点を指すとされている(パブコメ結果60頁)。このため3月決算・6月株主総会の会社は改正法の適用を受けることになるが、補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する記載と、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載については、例外規定が設けられている。 (2) 事業報告 今回の改正により事業報告の記載事項として追加されたのは、以下の項目である。 変更事項についての詳細な説明は割愛するが、改正事項を反映した全株懇モデルが公表されているので、作成にあたってはそれらも参考にされたい。 役員等賠償責任保険契約と補償契約に関する事項については、施行日(2021.3.1)以後に締結された役員等賠償責任保険契約と補償契約について、3月決算会社の事業報告から記載することとなっている(改正法務省令附則2条10項)。 締結には更新も含むとされているものの、3月1日以降3月末までの間に役員等賠償責任保険契約を締結するケースは少ないであろう。ただ、実際には事業報告に記載する事例が多いのではないかと思われる。 社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った事項については、すでに社外役員の主な活動状況として開示されている、取締役会への出席状況や取締役会における発言状況等(会社法施行規則124条4号イ~ニに掲げるもの)を除くものとされている。 従前の記載とは異なる内容での社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要の記載が求められているが、すでに開示している事項(会社法施行規則124条4号イ~ニ)と重複する場合であっても、社外取締役が果たすことが期待される役割との関連性を示した上で、当該社外役員が行った職務の概要をより具体的に記載することとされている(パブコメ結果47頁)。本件について、総会場にて株主から質問があった場合には、当該社外取締役が回答することが考えられるので、想定問答への対応も行っておきたい。 なお、社外取締役を置くことが相当でない理由(改正前会社法施行規則124条2項)については、施行日(2021.3.1)以後に到来する最初の事業年度の事業報告への記載が必要であるが(改正法務省令附則2条11項)、対象会社は極めて少ないので、影響はほとんどないであろう。 (3) 株主総会参考書類 株主総会参考書類における追加事項は、(2)で述べた事業報告における追加事項とほぼ同じものである。 会社役員の報酬議案については、確定額報酬(会社法361条1項1号)も含め、改定等の議案を提出するに際して、相当とする理由の説明が必要である(会社法361条4項)。当該議案の上程に際しては、改正会社法により定めることとなった取締役の報酬等の決定方針との平仄に留意したうえで、相当とする理由を説明することとなる。 役員等賠償責任保険契約及び補償契約に関する事項は、施行日(2021.3.1)以後に締結されるものについて適用されることとなっている(改正法務省令附則2条6項)。締結には更新も含まれており、任期中には更新のタイミングを迎えることになるので、新任役員で選任後に役員等賠償責任保険契約に加入することが予定されている場合なども含め、対象となる場合には選任議案に記載することになる。 社外取締役が果たすことが期待される役割に関する事項については、改正前においても、「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」、「経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由」(会社法施行規則74条4項2号・5号)が記載事項とされている。従来の記載事項においても、果たすことが期待される役割に関連した内容での記載が想定されるところである。社外取締役への期待は年々高まっていることもあり、社外取締役の招聘に際しても期待事項を明確にし、社外取締役候補者と事前にすり合わせておくことが重要となってくるであろう。 なお、社外取締役への具体的な期待事項については、昨年7月に経済産業省から公表された「社外取締役ガイドライン」なども参考になる。 3 新型コロナに対応した株主総会の準備 昨年以来、株主総会の準備のメインが新型コロナ対応となって、早一年が経過した。株主総会での留意点としては、「感染防止対策の徹底」と「円滑な議事運営による総会時間の短縮化」などがある。また、昨年経済産業省・法務省より「株主総会運営に係るQ&A」が公表されており、今年の総会運営においても参考としたい。 なお、緊急事態宣言の発出・解除の動向等で状況は常に変化しており、緊急度合いに応じて対応も異なってくるので、常に情報収集には留意したい。 (1) 株主総会場での感染防止対策 下記の対応による感染防止対策は、ほぼ定着しており、今年もそれを踏襲することになる。 当社調査(当社の委託会社からのアンケート調査、以下同じ)によれば、昨年(2020年)6月総会における「1社あたりの平均出席株主数」は33名と、前年(2019年)の190名から82.6%という大幅減となった。本稿公開時点でもコロナの収束が未だ見えない状況ではあるが、おそらくはこれが来場者数の底となり、今年はほぼ昨年並みでの来場者数になるのではないかと推測される。 なお、難しい判断ではあるが、昨年の総会で来場者が大幅に減少した場合には、会場スペースの見直しも検討したい。 (2) 議事運営上の対応 昨年は総会時間を極力短縮するため、議事運営の簡素化・省略化が進められた。その中でも事業報告の簡略化等があり、当社調査でも昨年は65.7%の会社が実施した。そのほか「連結・単体計算書類の説明の簡略化等(60.1%)」、「監査報告の省略(40.1%)」などの取組みも行われている。 シナリオの見直しについては、新型コロナの影響や対応のほか、中長期戦略について説明することで、来場株主の満足度は確保できると思われる。 昨年は感染防止のために極力短時間で終わらせる運営が中心であり、当社調査では6月総会の平均時間も34分となって、前年の55分からは21分も短縮化されている。なお、今年についてはお土産を廃止した会社が相次ぐ中ではあるが、やはり1年に一度、株主総会に参加したいとの出席意欲のある株主も相当程度存在することから、その株主への満足度向上のためにも、質問を受けた場合については従来どおりの丁寧な説明が望まれる。このため総会時間については昨年を下限として、今年は若干伸びる傾向になるのではないかと思われる。 (3) 招集通知の対応 従来、いわゆる狭義の招集通知においては、株主へ総会の開催日時を通知し、出席を依頼する文言となっていた。コロナ禍においては、株主の来場に際して慎重な対応を依頼していることから、招集通知の文言も昨年4月に経団連より公表された「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」により、来場いただく株主の数を一定程度制限することを想定したパターンを採用する会社がほとんどであった。本年もこの傾向は続くであろう。併せて、事前の議決権行使方法を丁寧に説明することになろう。 (4) バーチャル株主総会への対応 昨年より注目が集まったバーチャル株主総会であるが、経済産業省からは本年2月に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」が公表され、バーチャルオンリー型の実施も可能とする改正産業競争力強化法が今国会に提出されるなど、環境整備が進められている。昨年6月総会でも100社を超える実施事例が出ており、今年も導入事例は増えると思われる。 いわゆるハイブリッド参加型が主流と思われるが、配信業者の手配や収集通知等への追加の記載もあるので、早めに方針を決めることが望ましい。 (了)