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2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い   2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づき金利指標改革が進められ、LIBORの停止が議論され、2021年3月5日にLIBOR運営機関であるICE Benchmark Administrationより、一部を除き、LIBORについて、2021年12月をもって公表を停止することが公表された。そして、LIBORが停止された場合に、ヘッジ会計の取扱いをどのようにするのかが論点として挙げられる。そこで、ASBJより、2020年9月29日に実務対応報告第40号「LIBOR を参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(以下、「LIBOR取扱い」という)」が公表されている。 なお、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、ASBJにおいて、LIBOR取扱いの公表から1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認される予定である(LIBOR取扱いの「公表にあたって」参照)。 【用語(LIBOR取扱い4(3)~(5))】   1 適用範囲 LIBOR を参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる「金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品」及び「この契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替(既存の契約をその満了前に中途解約し、直ちに新たな契約を締結すること)に関する金融商品」が適用範囲となる。また、LIBOR取扱い公表後に、新たにLIBOR を参照する契約を締結する場合、その金融商品も適用範囲に含まれる(LIBOR取扱い3、4)。 なお、LIBOR取扱いは、LIBOR を対象としているが、LIBOR 以外の金利指標でも、金利指標改革に伴い公表停止が見込まれる場合には、当該金利指標を参照している金融商品についても、LIBOR取扱いを参考にすることが考えられる(LIBOR取扱い28)。 【LIBOR取扱い適用対象の例(LIBOR取扱い30、31、32、33)】 (※1) 金融リスクのみにさらされている金融商品だけでなく、固定金利と変動金利を交換する通貨スワップ(金利通貨スワップ)のように商品性として為替リスクも包含する金融商品の契約条件の変更又は契約の切替も含む。 (※2) LIBOR取扱いの適用対象外の金融商品については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」及び企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」等が適用される。 (※3) スプレッドの変更が行われた場合、LIBOR と後継の金利指標の差分を調整するためのスプレッド調整であるのか、信用リスクのスプレッドの変更であるのかの判断が難しいことも想定される。経済効果が概ね同等となることを意図したものであるか否かの判断にあたっては、一律に定量的な分析が求められるわけではなく、定性的な分析を行うことが想定されている。   2 LIBOR取扱いにおける会計処理 LIBOR取扱いにおいては、「金利指標置換前」、「金利指標置換時」、「金利指標置換後」と3つの時点、それぞれについて特例的な会計処理を定めている。 (1) 金利指標置換前 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 予定取引 ヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断する際に、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い6)。 ③ ヘッジ有効性の評価 ④ 包括ヘッジ 包括ヘッジを適用する場合、金利指標置換前においては、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができる(LIBOR取扱い9)。 例えば、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲内にあるかどうかにより、個々の資産又は負債はリスクに対する反応がほぼ一様であるかどうかを判断している場合、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲外となった場合であっても、包括ヘッジの適用を継続することができる(LIBOR取扱い44)。 ⑤ 時価ヘッジ 金利指標置換前においては、繰延ヘッジを適用する場合について定めた上記③及び④と同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 ⑥ 金利スワップの特例処理 金利スワップの特例処理を適用する場合、金利スワップの特例処理の適用条件のうち以下の条件を満たしているかどうかの判断にあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い11)。 金利スワップの特例処理の適用条件の1つである「金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること」の条件については、当初契約時に金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致しているかどうかの判断を行うことが想定されている。 例えば、金利スワップの契約の切替が発生した場合には、金利スワップの新たな契約期間とヘッジ対象の満期が一致しないことが考えられるが、金利スワップとヘッジ対象の残存期間が同一であれば、当該条件を満たすとみなすことができると考えられる(LIBOR取扱い47)。 ⑦ 振当処理 振当処理を適用する場合、金利指標置換前においては、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い12)。 (2) 金利指標置換時 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 繰延ヘッジ 当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い13)。 ③ 時価ヘッジ 上記②と同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 (3) 金利指標置換後 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 繰延ヘッジ 事後テストに関するLIBOR取扱い第8項の取扱い(上記(1)③〔事後テスト〕参照)を適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い14)。 ③ 包括ヘッジ 金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、包括ヘッジに関するLIBOR取扱い第9項(上記(1)④)の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで包括ヘッジの適用を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、包括ヘッジの適用を継続することができる(LIBOR取扱い18)。 ④ 時価ヘッジ 金利指標置換後においてはLIBOR取扱い第14項、第15項、第16項及び第18項(上記②及び③参照)の取扱いと同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 ⑤ 金利スワップの特例処理 金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利スワップの特例処理に関するLIBOR取扱い第11項(上記(1)⑥参照)の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。 また、この特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、金利スワップの特例処理の適用を継続することができる(LIBOR取扱い19)。 ⑥ 振当処理 LIBOR取扱い第12項(上記(1)⑦)の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで振当処理の適用を継続することができる。 また、この特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、振当処理の適用を継続することができる(LIBOR取扱い19)。   3 注記事項 LIBOR取扱いを適用することを選択した場合、以下を注記する必要がある(LIBOR取扱い20)。また、当該注記は、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで行う必要がある(LIBOR取扱い21)。 連結財務諸表において注記している場合、個別財務諸表での注記は要しない(LIBOR取扱い20)。 また、LIBOR取扱いは、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるため、一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記する(LIBOR取扱い20、23)。 なお、計算書類においても、重要性に応じて注記が必要かどうか検討する必要がある。   4 適用時期 公表日以後適用することができる。ただし、公表日より前にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係には、LIBOR取扱い第17項(上記2(3)②【その他留意事項】参照)を除き適用することができる。 Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い   2019年12月に成立した改正会社法により、上場株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められた(会社法202の2)。これを受けてASBJでは、2021年1月28日に実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(以下、「株式取扱い」という)」を公表した。 また、以下の会計基準の改正も公表した。   1 適用範囲 会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としている(株式取扱い3)。また、当該取引は、「事前交付型」と「事後交付型」が想定されている(株式取扱い4(7)(8))。   2 会計処理 会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、ストック・オプションと類似しているため、ストック・オプション基準に準じて会計処理を行う(株式取扱い38)。 一方、会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引には、「事前交付型」と「事後交付型」があるため、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点については、取引の形態ごとに異なる会計処理を行う(株式取扱いの公表に当たって「■会計処理」参考)。 (1) 事前交付型の会計処理 事前交付型の会計処理について、「新株発行」の場合と「自己株式の処分」の場合に分けて規定されている(株式取扱い5~14、40、42、46)。 (※) 「没収」とは、事前交付型において、権利確定条件が達成されなかったことによって、企業が無償で株式を取得することが確定することをいう(株式取扱い4(16))。 設例① P社(3月決算)は、X5年6月の定時株主総会において、取締役に対して、会社法第202条の2に基づく新株発行又は自己株式の処分(いずれも譲渡制限あり)を行うことを決議した。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 10,000株 × 10名 × @4,000円 = 400,000,000 (※2) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 9ヶ月/60ヶ月 = 60,000,000 (※3) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 21ヶ月/60ヶ月 - 60,000,000= 80,000,000 (※4) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 33ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000)= 80,000,000 (※5) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 45ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000)= 80,000,000 (※6) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 57ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000)= 80,000,000 (※7) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-3名)× 60ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000)= △30,000,000 (※8) 10,000株 × 3名 × @4,000円 = 120,000,000 (2) 事後交付型の会計処理 事後交付型の会計処理について、「新株発行」の場合と「自己株式の処分」の場合に分けて規定されている(株式取扱い15~18)。 設例② P社(3月決算)は、X5年6月の定時株主総会において、一定の条件を達成した場合に、取締役に対して、会社法第202条の2に基づく新株発行又は自己株式の処分を行うことを決議した。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 9ヶ月/60ヶ月 = 60,000,000 (※2) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 21ヶ月/60ヶ月 - 60,000,000= 80,000,000 (※3) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 33ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000)= 80,000,000 (※4) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 45ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000)= 80,000,000 (※5) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-2名)× 57ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000)= 80,000,000 (※6) 10,000株 × @5,000円 ×(10名-3名)× 60ヶ月/60ヶ月 -(60,000,000+ 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000 + 80,000,000)= △30,000,000 (※7) 10,000株 × 7名 × @4,000円 = 280,000,000 3 注記事項 会計処理はストック・オプション基準に準じているため、注記についてもストック・オプション基準及びストック・オプション指針を基礎として、注記事項が定められている(株式取扱い52)。 (1) 注記事項 年度の財務諸表において、以下の事項を注記する(株式取扱い20)。 注記に関する具体的な内容や記載方法、株式取扱いに定めのない会計処理に係る注記については、ストック・オプション指針第27項、第28項(2)、第29項、第30項、第33項及び第35項に準じて注記を行う(株式取扱い21)。 (2) 1株当たり情報 (3) 関連当事者注記 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、資本取引の側面よりも報酬等としての側面を重視して、関連当事者との取引に関する開示は要しない(株式取扱い55)。 (4) 後発事象注記 改正会社法は、2021年3月1日施行であり、株式取扱いはその日以後に生じた取引から適用される(以下4参照)。一方、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する場合には株主総会の決議が必要となるため、2021年3月31日までに発行されることは稀であると考えられる。 ただし、2021年3月期の定時株主総会で決議する場合には、重要な後発事象の注記が必要ないかどうか検討する必要がある。   4 適用時期 改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用する。なお、その適用については、会計方針の変更には該当しない(株式取扱い23)。 Ⅸ 会社計算規則等の改正   1 会社計算規則の改正 2020年8月12日に「会計上の見積りの開示に関する会計基準」等の公表に伴い、会社計算規則が改正されている。2021年3月期に関係する改正については、【第2回】のⅣ及びⅤを参照されたい。   2 会社法施行規則の改正 (1) 2020年会社法施行規則の改正 改正会社法の成立及び公布に伴い、2020年11月27日に会社法施行規則が改正され、原則2021年3月1日から施行されている。 ① 株主総会参考書類の記載の改正 株主総会参考書類の記載について、以下の改正が行われている。 (注) 上記以外にも、有価証券報告書提出会社で監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)については、社外取締役が義務化されたため、社外取締役を置いていない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由を株主総会参考書類に記載しなければならない規定が削除された。当該改正は、2022年3月期から適用される。 ② 事業報告の記載の改正 (注) 上記以外にも、有価証券報告書提出会社で監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)については、社外取締役が義務化されたため、社外取締役を置いていない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告に記載しなければならない規定が削除された。当該改正は、2022年3月期から適用される。 (2) 2021年会社法施行規則等の改正 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、2021年1月29日に会社法施行規則及び会社計算規則が改正されている。 ◎ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正 (ⅰ) 改正内容 2020年5月に会社法施行規則及び会社計算規則が改正され、ウェブ開示によるみなし提供の拡充が行われたが、当該改正の効力は2020年11月15日をもって失われている。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響は収まっていないため、引き続きウェブ開示によるみなし提供を拡充する必要があることから、会社法施行規則及び会社計算規則が改正された。みなし提供制度の拡充対象は、以下のとおりである(前回と同様である)。 なお、上記を提供する際には、株主の利益を不当に害することがないよう特に配慮しなければならない。 (ⅱ) 施行期日 施行日(2021年1月29日)から2021年9月30日までに招集の手続が開始された定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に適用される。   3 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 改正会社法の成立に伴い、2021年2月3日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、有価証券報告書の記載が拡充されている。当該改正は、改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行される。主な改正点は、以下のとおりである。 (了)

#No. 411(掲載号)
#西田 友洋
2021/03/18

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第12回】「値上げする対象を選ぶ」~学割を使えるうちに~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第12回】 「値上げする対象を選ぶ」 ~学割を使えるうちに~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * あくまでも一般論ですが、商品やサービスの価格が高くなれば需要は減り、価格が低くなれば需要は増えます。単純化すると次のようなイメージです。 レッスン1回の受講料が@6,000円で、40人が申し込んで受講したとします。レッスン1回を運営するための変動費(花材代など)は@2,000円です(単純化のため固定費については考慮外とします)。需要曲線上に、これを表してみましょう。 *  *  * *  *  * 顧客が商品やサービスに対して支払ってもよいと考える金額を「顧客支払意思額(Willingness to Pay:WTP)」と言います。WTPは、顧客によってバラバラです。受講料としてリミちゃんが支払ってもよいと考える金額は@4,000円でも、あるマダムが支払ってもよいと考える金額は@8,000円かもしれません。 上記の需要曲線を前提とすると、受講料が@4,000円の場合、リミちゃんのような顧客まで取り込むことはできますが、限界利益は減ってしまいます。 一方、受講料が@8,000円の場合、お客さんはさらに絞られて、やはり限界利益は減ってしまいます。 *  *  * *  *  * ここで、各図をよく眺めてみましょう。いずれも、限界利益に取り込めなかった2つの空白ができています。 *  *  * *  *  * 商品やサービスの販売価格を1つに設定する場合、 はどうしても生じてしまいます。 *  *  * *  *  * 仮に、顧客一人一人に、いくらまでなら支払う意思があるかを聞いて、マダムは@8,000円、リミちゃんは@4,000円・・・、と、個々の支払意思額に対応した金額を受講料とする(!)なら、この取り損ないをなくして、大きな利益を獲得できます。ただし、現実的な方法ではないですね。 利益を増やす現実的な手段の1つとして、顧客をいくつかのカテゴリーに分け、それぞれに異なる価格設定を行うことが挙げられます。【第7回】でも取り上げた「価格差別」です。 *  *  * *  *  * 価格を3つに設定した場合を図にしてみます。 複数の価格を設定すると、利益のエリアが広がることがわかります。顧客をいくつかのカテゴリーに分け、カテゴリーを選んで値上げ(もしくは値下げ)することで、利益を増やせる可能性があるのですね。 *  *  * (了)

#No. 411(掲載号)
#石王丸 香菜子
2021/03/18

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第36回】「「ダブルチェック」ではなく、「クロスチェック」を実践せよ」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第36回】 「「ダブルチェック」ではなく、「クロスチェック」を実践せよ」   公認会計士 石王丸 周夫   1 明らかにどちらかが間違っている 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例36-1】 貸借対照表の自己株式の残高が株主資本等変動計算書の残高と合わない。 (出所) 株式会社木曽路「第71回定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 (出所) 株式会社木曽路「第71回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」 【事例36-1】は、同じ会社、同じ年度の貸借対照表と株主資本等変動計算書ですが、自己株式の残高が異なっています。 ここは必ず一致しなければいけない箇所です。「例外なく」です。したがって、明らかにどちらかの数字が間違っているのですが、どちらが間違っているのかを特定するのは容易ではありません。 計算チェックをすればわかりそうなものですが、この【事例36-1】ではうまくいきません。なぜなら差額が小さいからです。表示単位が百万円の決算書では、2百万円の差額は、それが数字の間違いによるものか、端数の切り捨てによるものかが、計算チェックではわからないのです。 結局、元データである試算表を持ってきて、自己株式の残高が「△927」なのか「△929」なのかを確認する必要があります。   2 「クロスチェック」は「ダブルチェック」とどう違うのか 【事例36-1】の会社は、【事例36-1】を含む定時株主総会招集通知を2020年6月2日に公表し、2020年6月10日に記載事項の一部訂正を行っています。それによると、貸借対照表の自己株式の残高は「△927」ではなく、「△929」が正しいとのことでした。 こうしたミスを決算書公表前に発見するには、上で見たように、異なる書類の一致すべき数値を突合すればよいのですが、これは「クロスチェック」とも呼ばれます。突合の結果、一致していれば問題なし、不一致ならばいずれかが間違いというわけです。 この「クロスチェック」というのは、「ダブルチェック」とは違うものだということは覚えておいてください。 ダブルチェックというのは、作成者が一度チェックしたことを、別の誰かがもう一度チェックすることです。たとえば、計算書類作成者が貸借対照表の計算チェックを行った後、別の誰かが同じ計算チェックを行うことです。 これに対してクロスチェックというのは、何らかのチェックをした後、その方法とは異なる方法でもチェックをするところにポイントがあります。その場合、作成者自身が両方のチェックを行っても十分に効果が期待できます。たとえば、貸借対照表の計算チェックを行った後、純資産の部の残高を株主資本等変動計算書と突合するというもので、これらのチェックを作成者が1人で行っても構わないのです。   3 実は予想できたミスだった ところで、【事例36-1】のミスは、起こることが予想できたミスでした。後出しじゃんけん的な指摘になりますが、実は【事例36-1】のミスは、この連載の【第1回】で紹介済みなのです。以下の事例です。 【事例36-1】で、貸借対照表の間違った数字「自己株式 △927」が何の数字だったかお気づきでしょうか。この「△927」は前期末の自己株式残高なのです。株主資本等変動計算書の期首残高を見るとわかります。 おそらく、貸借対照表の数字を手入力していく際に、前期の貸借対照表のデータに上書きしていったのでしょう。「△927」は「△929」とぱっと見には似ているので、上書きし忘れてしまったと考えられます。 自己株式というのは、前期末と当期末の残高がほとんど変わらないことがよくあるので、上書き忘れが起こりやすいのです。そして、その後のチェックでも見逃しやすく、計算チェックをしてもわかりません。それゆえ、自己株式残高に前期末の数字が残っているというミスが起きるのです。それが【事例1-4】でした。 うっかりミスというのは、一度経験した事例であれば、回避できる可能性も高まります。【事例1-4】を知っていれば、【事例36-1】は回避できたかもしれません。そう思いたくなるのが今回の事例でした。   〈今回のまとめ〉 書類間の数値突合(クロスチェック)をしっかりやりましょう。 (了)

#No. 411(掲載号)
#石王丸 周夫
2021/03/18

給与計算の質問箱 【第15回】「社会保険の料率の変更」~令和3年度対応~

給与計算の質問箱 【第15回】 「社会保険の料率の変更」 ~令和3年度対応~   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 来月から新年度(令和3年度)になりますが、各種社会保険の料率の変更はあるでしょうか。 A 労災保険、雇用保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の料率の変更はない。健康保険、介護保険(第2号被保険者)の料率は変更がある。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから、給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 雇用保険 一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.6%、従業員負担が0.3%である。従業員は、給料の総支給額×0.3%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.3%=900円の雇用保険料を給料から天引きされる。 〔令和3年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省「令和3年度の雇⽤保険料率について」より (3) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生年金保険料を給料から天引きされる。 〔令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより (4) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから、給料計算には関係しない。 子ども・子育て拠出金の料率は、0.36%である。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。 例えば厚生年金保険の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。   2 料率の変更があるもの (1) 健康保険 協会けんぽに加入の東京の会社の令和3年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.87%を折半して会社負担が4.935%、役員・従業員負担が4.935%だった。令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、 0.03%引下げの9.84%を折半して会社負担が4.92%、役員・従業員負担が4.92%になった。 役員・従業員は、標準報酬月額×4.92%=健康保険料を給料から天引きされる。例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×4.92%=14,760円の健康保険料を給料から天引きされる。 (2) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京の会社の令和3年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.79%を折半して会社負担が0.895%、役員・従業員負担が0.895%だった。令和3年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、 0.01%引上げの1.8%を折半して会社負担が0.9%、役員・従業員負担が0.9%になった。 役員・従業員は、標準報酬月額×0.9%=介護保険料を給料から天引きされる。例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.9%=2,700円の介護保険料を給料から天引きされる。 (了)

#No. 411(掲載号)
#上前 剛
2021/03/18

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第15回】「現況地目が「農地」でも鑑定評価では「宅地」として扱われることがある」~その根拠は?~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第15回】 「現況地目が「農地」でも鑑定評価では「宅地」として扱われることがある」 ~その根拠は?~   不動産鑑定士 黒沢 泰   前回の連載では、鑑定評価における地域の捉え方には特徴的なものがある旨を述べ、その典型例として用途的地域(用途地域とは異なります)につき解説いたしました。 今回も、前回の延長線上にある内容ですが、鑑定評価において欠かすことのできない地域分析の基本について述べてみたいと思います。冒頭に掲げたタイトルは何とも理解し難い内容のように受け止められるかも知れませんが、鑑定評価における地域分析の考え方を把握していただくことにより、その根拠を明確にすることができると存じます。 ところで、税理士の皆様をはじめ世間一般では、土地を評価する際、現況地目が農地であれば、すべて農地という前提で評価するのが通常であると思われているのではないでしょうか。これは、一面では当を得ています。 しかし、鑑定評価で価格を求める際には、その農地の属する地域一帯ではどのような利用方法が一般的であり、どのような利用をすればその土地の効用を最大限に発揮し得るか(=最有効使用の方法は何か)という視点からアプローチしていくため、現況が農地であるからといって、価格的にも農地としての水準がストレートに当てはまるとはいえない点に留意が必要です。 以下、鑑定評価の特徴を検討する意味で、固定資産税や相続税の財産評価における地目別評価の規定と対比させつつ、鑑定評価における地域分析の特徴を取り上げていきます。   1 固定資産税等における地目別評価 固定資産税や相続税の財産評価では、土地は地目別に評価することとされており、その根拠規定は以下のとおりです。 (1) 固定資産税の評価 「土地の評価は、次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ、以下に定める評価の方法によって行うものとする。(以下省略)」(固定資産評価基準第1章第1節通則「一 土地評価の基本」) (2) 相続税の財産評価 「土地の価額は、次に掲げる地目の別に評価する。(中略)地目は、課税時期の現況によって判定する。」(財産評価基本通達7) なお、同通達7の(注)では、「地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付民二第456号法務省民事局長通達)第68条及び第69条に準じて行う」ことが規定されています。   2 鑑定評価における地域分析の特徴 不動産鑑定評価基準では、次のとおり、「地域の種別」及び「土地の種別」という特有の概念を設けています(下線は筆者)。 このように、不動産鑑定評価基準では、宅地、農地等の区分を土地の地目ではなく、その土地の属する用途的地域の種別に基づいて判定しています(用途的地域とは、都市計画法上の用途地域とは別の概念であり、現実に利用状況の類似するひとかたまりの地域を指すことは前回述べたとおりです)。 すなわち、不動産の属する地域を、(上記規定に沿い)宅地地域、農地地域等の種別により分類し、その地域が宅地地域にあればこれに属する土地を宅地、農地地域にあればこれに属する土地を農地として判定しています。 ちなみに、宅地地域の場合、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域と定義されることから、宅地地域に属する土地は現況の地目に関係なく、鑑定評価上の土地の種別は宅地とみなされます。すなわち、宅地地域にあっては、現に耕作の用に供されている土地(いわゆる現況農地)であっても、鑑定評価上は農地としてではなく、宅地として取り扱われた上で、価格のアプローチがなされることになります。以下の図はそのイメージを示したものです。 その結果、宅地地域に属する農地の価格を求める際には、宅地としての価格から宅地化に要する費用を控除して価格を試算する等の手法も併用しているわけです(この他に、状況の類似する土地の取引事例が収集できれば、実証性という観点から説得力が増すことはもちろんです)。   3 まとめ 以上述べた内容を整理すれば、たとえ現況が農地であるといっても、それだけで画一的に価格水準を判定するわけにはいかないということになります。 その土地が不動産鑑定評価基準にいう宅地地域のなかにある場合もあれば、農地地域のなかにある場合もあります。同じ現況農地といっても、前者の場合には宅地としての価格形成要因が織り込まれ、後者の場合は純粋な農地として(すなわち耕作を前提に)土地利用を行うという視点から価格を求めることが基本となり、この点に大きな相違がみられます。 ◆  ◆  ◆ 本文では直接述べませんでしたが、例えば財産評価基本通達(第2章第3節)では、農地をその利用状況に基づき、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地など、いくつかの形態に分類し、それぞれに応じた評価方法を採用しています。これに対して、鑑定評価では「地域の種別」という視点を重視して宅地地域、農地地域等の区分を行い、評価対象となっている農地が宅地地域に属する土地であれば、「土地の種別」を宅地として捉えた上で価格にアプローチしている点に留意が必要です。 これを念頭に置くことにより、冒頭の疑問点の解消に少しでも役立てられれば幸いです。 (了)

#No. 411(掲載号)
#黒沢 泰
2021/03/18

〈知識ゼロからでもわかる〉ブロックチェーン技術とその活用事例 【第6回】「契約×ブロックチェーン」

〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第6回】 「契約×ブロックチェーン」   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   第2回で解説したとおり、「スマートコントラクト」を利用できる業務は、ブロックチェーンを有効に活用でき、価値を生み出せる可能性が高いと考えられる。契約条件、履行内容、将来発生するプロセス等をブロックチェーン上に記録し、第三者を介在させずに取引などを実現させることが可能になる。 前回の内容と一部重複する記載もあるが、「契約×ブロックチェーン」という側面から概説を行う。 1 保険契約 保険契約は、保険会社と保険をかける個人や法人との間で締結される契約であるが、契約条件、履行内容、将来発生するプロセスなど、様々なステークホルダーが保険契約に関わることになる。現在において、未だに紙でやりとりされる情報も少なくなく、契約審査、請求、事故調査、及び保険金の支払いなどには多くの手間と時間がかかっている。 このような状況で、情報を電子化しステークホルダーで共有し、保険にまつわるプロセスを効率化する必要がある。保険会社のシステムを通じて情報を共有することも可能であるが、保険において保険金支払いの根拠となる情報が改ざんされるリスクもあることから、一度記録されたデータが限りなく改ざん不可能に近く、権利処理と相性のよいブロックチェーンに注目が集まっている。   2 不動産契約 不動産契約は、スマートコントラクトとブロックチェーンを活用することで、不動産取引を行うための契約、決済、送金等をオンライン上で行うことが可能となり、必要事項を入力し、あとは自動で取引が履行されることになる。また、ブロックチェーンの非改ざん性の高さや過去の全ての取引を閲覧できるといったプロセスの透明性が確保でき、従来の不動産取引の際の信用を弁護士などの第三者機関に依存する必要がなくなることになる。 これにより、従来の契約プロセスと比較して、途中のプロセスを省略することができ、契約を自動的に履行することが可能となるため、素早く低コストで契約できることになる。現行法制度上の対抗要件(不動産取引の場合は登記)との調整が今後の課題として挙げられる。   3 デリバティブ契約 先物取引、スワップ取引、オプション取引などのデリバティブ取引では、様々な条件で資金のやりとりが行われる。それらの条件をスマートコントラクトによって定めておけば、自動的に条件判断と決済処理を行うことが可能になると考えられる。 例えば、先物取引では、顧客は取引金額の一部を契約時に証拠金として金融機関に差し入れることになるが、その後の原資産価格の変動により、追加証拠金の差入れが必要となる場合がある。そこで、スマートコントラクトにあらかじめ追加証拠金の計算方法を設定しておくと、スマートコントラクトが自動的に取引所などから原資産価格のデータを入手して追加証拠金額を計算し、顧客への請求を行う。請求された追加証拠金は、証拠金にあてる現金の所有権を管理するブロックチェーン上で顧客から金融機関に支払われる。 このようにデリバティブ取引の複雑な業務を、スマートコントラクトを用いて自動化することで、金融機関がオペレーションコストを削減できるであろう。   4 遺言・相続財産管理 登記の対象にならない二者間の契約関係についても、ブロックチェーンで共有・追跡可能となり、その結果、契約上の権利についても事実上の対抗力を持たせることが可能となる。将来的な法整備が進んだ場合には、権威や信用力をもつエンティティが存在しなくても、権利証明等が対抗力を持つことになり、行政機関などの役割を代替可能となる可能性がある。 例えば、遺言をあらかじめスマートコントラクトとして定めておくことにより、当人が死亡したことをきっかけとして、遺言が自動的に執行されるようにすることが可能になると考えられる。これにより、第三者による遺言の改ざんを防ぎ、秘匿性のある遺言を残すことができる。また、相続財産の預金や株式など相続財産の目録を電子管理することにより、手続の短縮と業務の効率化につながるであろう。 (了)

#No. 411(掲載号)
#松澤 公貴
2021/03/18

《速報解説》 所有者不明土地問題解決を図る民法・不動産登記法等の改正法案が明らかに~施行日前開始の相続から適用される改正事項も~

《速報解説》 所有者不明土地問題解決を図る民法・不動産登記法等の改正法案が明らかに ~施行日前開始の相続から適用される改正事項も~   Profession Journal編集部   国内で拡大する所有者不明土地問題を解決するため、法務省の法制審議会(民法・不動産登記法部会)が2月にまとめた「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱」に基づき、このほど3月5日付けで既存法の改正及び新法の法律案が今国会に提出され、法務省のホームページでその内容が明らかになった。 今回の法律案の趣旨は冒頭述べた通り、所有者不明土地の発生を未然に防止することとされ、相続登記の義務化(相続財産については原則相続開始から3年以内の所有権移転登記を義務化。違反の場合は10万円以下の過料(改正不動産登記法案第76条の2))や、相続財産の国庫への帰属(相続放棄)が注目されている(法律案では後者の制度が新法で規定されている)。 ここで、これら未然防止策の1つとして、未分割遺産に係る制度見直しなど、相続実務に影響のある民法改正も織り込まれている点に注意したい。具体的には、特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)については、相続開始から10年経過後にする遺産分割については、一定の場合の除き、適用を認めないこととされる(改正民法案904条の3(下記参照))。他に、遺産分割の禁止(民法908条)についても相続開始から10年の期限が設けられる。 また、法律の施行時期については2法案共に、原則公布日から2年以内(相続登記義務化は3年以内)とされているが、上記の第904条の3は施行日前に相続が開始した遺産分割についても適用される(改正民法等改正法案附則第3条(下記参照))。経過措置は設けられているが、遺産分割協議が5年以上続いているようなケースでは改正法の影響を受ける可能性もあるため、改正内容だけでなく施行時期についても留意が必要だ。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 410(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/03/11

プロフェッションジャーナル No.410が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年3月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.410を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/03/11

〈判例評釈〉ユニバーサルミュージック高裁判決 【第3回】

〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第3回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   4 控訴審判決要旨 (1) 行為・計算要件について 国(控訴人)側は、「(本件組織再編に係る)本件一連の行為が一体として税負担減少結果を生じさせたものとして(法人税法132条1項にいう)『その法人の行為又は計算』に当たり(主位的主張)、少なくとも本件一連の行為のうち本件設立を除く各行為が『その法人の行為又は計算』に当たる(予備的主張1)」と主張したのに対し、東京高裁は、「本件各事業年度におけるXの法人税につき、これを容認した場合には法人税の負担を減少させる結果となる『その法人の行為又は計算』は、本件借入れであると認められる」から、「本件借入れを除けば、これを容認したとしても、本件各事業年度における被控訴人の法人税の負担を減少させる結果となるとは認められない」と判示し、「本件借入れ以外の控訴人主張に係る各行為は、本件各更正処分の適法性を検討するに当たり、法人税法132条1項に基づく同族会社等の行為計算の否認の対象となる『その法人の行為又は計算』に当たるとはいえない」として、国側の主張を排斥した。 (2) 不当性要件の判断枠組みについて 法人税法132条1項の不当性要件の判断枠組みについて、東京高裁は、 とし、従来からの通説的見解である経済合理性基準の立場を明確にしている。 その上で、東京高裁は、「経済的合理性を欠く同族会社等の行為又は計算が、同族会社であるためにされた不自然、不合理な租税負担の不当回避行為として、不当性要件に該当することになる」とし、不当性要件の判断枠組みとして、ヤフー/IDCF事件最高裁判決(※9)が採用した考え方を引用している。 (※9) ヤフーについては、最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(平成27年(行ヒ)第75号、TAINSコード:Z266-12813)、IDCFは、最高裁平成28年2月29日第二小法廷判決(平成27年(行ヒ)第177号、TAINSコード:Z266-12814)。 すなわち、 と判示している。 (3) 当てはめ A) 本件8つの目的について 東京高裁は、「本件8つの目的を〈ア〉日本の関連会社の経営の合理化、〈イ〉ユニバーサル・ミュージック部門(UMG部門)のオランダ法人の負債軽減及び〈ウ〉日本の関連会社の財務の合理化という観点から分けて検討してみても、不自然なものではない」とし、「税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえ、被控訴人(ひいては、その完全子会社になった後、Xに吸収合併されることになるU社)に税負担の減少以外の経済的利益をもたらすものといえる」と判示した。 B) 本件借入れに関する事情 U社は、Xに吸収合併される前の3事業年度において、営業利益を約74~111億円計上していたことから、東京高裁は、本件借入れにより生ずる支払利息(年約40億円)は、①本件合併によりU社の事業を承継するXがその営業利益によって賄うことができる範囲内のものとされたこと、②20年の返済期間は、被控訴人の平成20年度の税引き後利益の予想に基づく試算に基づいて決定されたこと、③現にXによる本件借入れの利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれないことから、「本件借入れに当たり、元本の返済又は利息の支払が困難になるおそれがあったとは認められず、本件借入れの融資条件は、被控訴人にとって不当に不利益となるものとは認められない」と判示した。 また、XがIF社から本件借入れを行うに当たり、担保を提供していないことについて、東京高裁は、「Xは、その設立後、V社グループのCMSに参加したこと、本件借入れの目的が平成20年8月31日当時において約1,144億円の価値を有していたU社株式を含むV社グループ傘下の各日本法人の株式を取得することとされていたこと、本件借入れの条件が本件合併によりU社を承継したXの営業利益によって返済可能な範囲で定められたことを踏まえたものであり、本件借入れが無担保で行われたことは不自然ではなく、合理的な理由があるということができる」と判示した。 (4) 結論 以上から、東京高裁は、 とした。 (続く)

#No. 410(掲載号)
#霞 晴久
2021/03/11

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第27回】「親族外承継における分割型分割の活用」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第27回】 「親族外承継における分割型分割の活用」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は、汎用部品の製造業を営むS社の社長Yです。当社は創業オーナーで会長のM氏が株式の全てを保有しています。M氏には息子がいますが、当社の経営には関与しておらず、M氏も息子に事業を承継する意思がないことから、1年後を目途に非同族の私YがM氏から株式を承継する方向で事業承継計画を検討しています。 M氏は、事業承継にあたってS社株式の売却による多額の収入を得ることは望んでいません。一方で、S社の保有資産のうち、M氏が社宅として使用している土地・建物、社用車、安定収入が見込める賃貸アパートの承継を望んでおり、S社からこれらの資産を分離して、M氏が新たに設立するL社に保有させたいと考えています。 【図1】M氏の希望する会社形態 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 これらの資産をS社から切り離してL社に保有させることで、私YがS社株式を取得する際の資金負担を抑えることができると思いますし、M氏やご家族にとっても、法人で安定収入が見込めるこのような形態が良いのではないかと考えています。 M氏の希望する資産をS社から切り離すにあたっては、私がM氏にS社株式の売買代金を支払い、その売買代金でS社から土地・建物、社用車、賃貸アパートをM氏に取得してもらう方法が良いでしょうか。また、他に税負担を少なくできる方法はないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 親族外承継における個人財産の承継 (1) 譲渡による場合 非上場の同族会社が、親族外の役員・従業員の中から後継者を選定して事業承継を行う場合、オーナー経営者の個人財産の処遇が問題になりやすいところです。 S社が保有する個人財産をM氏又はL社に譲渡する場合、不動産を譲渡するS社は含み益が固定資産売却益として実現するため、法人税が課税されることになります。 また、Y氏がS社株式を先に取得する場合には、不動産の時価が株式の評価額にも反映されることになります。したがって、株式を譲渡するM氏には株式の売却益に対する譲渡所得税が余分に課税されることになりますし、S社から不動産(土地を除く)を時価で取得する際には消費税も負担しなければなりません。 (2) 会社分割による場合 【図2】のように、個人財産を分割型分割によりL社に切り離す場合には、会社分割後にS社の株式を譲渡する見込みであっても完全支配関係が継続しているものとして税制適格要件を満たすことが可能です。 【図2】分割型分割実行後の株式譲渡 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成29年度の税制改正により、分割法人(S社)の支配株主(M氏)が、分割承継法人(L社)の発行済株式の全部を直接又は間接に継続して保有することが見込まれていれば、分割後にS社の株式を継続保有する必要はなく、S社株式をY氏に譲渡することが見込まれていたとしても完全支配関係が継続しているものとして税制適格要件を満たすことになりました(法令4の3⑥二ハ(1))。 したがって、M氏の希望する資産をL社が承継しても、S社やM氏に課税関係が生じることはなく、M氏は個人財産の承継により価値が減少したS社株式の譲渡による所得税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)だけで課税関係が終了することになります。   [2] 不動産の移転コスト 会社分割においては、不動産の移転コスト(主に名義変更による登録免許税と不動産取得税)がなるべく生じないように分割承継資産を決定することが一般的です。 分割型分割により個人財産の承継を行う場合には、税制適格要件を満たすためにオーナーが株式を保有し続ける分割承継法人(L社)に個人財産を移転させる必要があります。したがって、不動産の移転コストについても留意が必要です。 ① 登録免許税 分割型分割により不動産を承継する場合、不動産を購入した場合と同様に固定資産税評価額の2%(1,000分の20)の登録免許税が課税されます(登録免許税法第9条、同法別表第一の一(ニ)ハ)。 ② 不動産取得税 不動産を購入した場合には、固定資産税評価額の3%(非住宅の家屋については4%)の不動産取得税が課税されますが、以下の要件を満たす分割型分割については、不動産取得税が非課税となります(地方税法第73条の7第2号、地方税法施行令第37条の14)。 本事例においては、分割事業である不動産賃貸業に係る主要な資産(社宅・賃貸アパート)が分割承継法人L社に移転して引き続き営まれる見込みであること、M氏が分割事業に係る従業者(※)としてL社の業務に従事することが見込まれているため、不動産取得税の非課税要件を満たすことが可能です。 (※) 「従業者」として認められる者とは、役員、使用人その他の者で、分割の直前において分割事業に現に従事していた者のことをいいます。また、M氏1名しか分割事業に従事していない場合、M氏が分割承継法人へ異動しているか、又はS社とL社の取締役を兼務していれば非課税要件が満たされます(出所:東京都主税局「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について」を筆者加工)。   [3] 結論 親族外承継を行うにあたって、オーナーの個人財産を事業会社から移転させる必要があるときは、移転コストを抑えることができる分割型分割が有効な選択肢の1つといえるでしょう。 S社が保有する個人財産を分割型分割でL社に承継すれば、社宅や賃貸アパートに含み益があってもS社やM氏に課税関係が生じることはなく、M氏はS社株式の譲渡所得に対する所得税と登録免許税の負担だけで、L社への個人財産の承継という希望を叶えることが可能です。 ただし、分割承継法人(L社)に承継させたい個人財産に金融機関の担保設定がなされていたり、個人財産の分離により分割法人(S社)の債務の履行に支障を及ぼす可能性がある場合など、金融機関をはじめとする債権者の理解を得ることが難しい場合には再考が必要でしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 410(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/03/11
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