空き家をめぐる法律問題 【事例31】 「相続開始後の空き家の賃貸と取得時効に関する問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 父は、自宅建物を所有しておりましたが、20年以上前に亡くなりました。父の死後、しばらく空き家となっておりましたが、5年ほど前から賃貸を行って賃料収入を得ています。 父の相続人は、私と兄妹2人の合計3人ですが、兄妹は父の生前から音信不通のため、父の死後、私が自宅の建物の修繕管理や固定資産税を支払い続けてきました。 ところが、最近になって、兄妹2人が、私が賃料を不当に取得しているといって支払いを求めてきました。 1 はじめに 現行の相続法制度においては、相続登記が義務化されていないため、相続開始後も、遺産分割協議が行われず、長期間にわたって被相続人名義のままの状態となっている不動産が存在する。権利関係が不確定の状態のまま事実関係が積み重ねられると、事後的に共同相続人間で財産の清算をめぐって争いになることもある。 そこで、今回は、相続開始後、長期間事態を放置したことによって生じた問題を取り上げることで、注意喚起を図ることとしたい。 2 相続財産の管理と法定果実の取扱い 相続が開始し、相続人が複数存在する場合、遺産分割協議が成立するまでの間、共同相続人は相続財産を共有することになるため、共有の理論に従って遺産の管理を行う必要がある。 具体的には、①民法第602条に定める期間を超えない範囲で相続財産を賃貸することは管理行為にあたるため、共同相続人は法定相続分の過半数で決定する必要があり、②それを超える期間の賃貸をすることは処分行為にあたるため、共同相続人全員で決定する必要がある。 本件のように共同相続人が3人存在し、かつ、法定相続分の割合も同じであるような場合には、各人の持ち分が過半数を超えないため、たとえ管理行為であったとしても、自らの判断で相続財産を賃貸に供することはできないことになる。そうすると、共同相続人の1人が、他の共同相続人との協議を得ることなく、賃貸したことによって賃料収入を得た場合、他の共同相続人に対する関係で不当利得又は不法行為があるとして、賃料収入の法定相続分相当額を請求される可能性があることになる。 3 取得時効による建物所有権の取得の可否 それでは、賃料収入の法定相続分相当額を請求された場合、建物の管理を行ってきた共同相続人は、相続開始時から20年以上にわたって建物を占有し続けたことを理由に、時効取得の主張を行うことで、当該請求を排斥することができるだろうか。 一般論としては、共同相続人の1人が単独で相続財産を現実に占有していたとしても、他の共同相続人の共有持分は、権原の性質上、客観的に見て所有の意思を欠くことになるため、自主占有をしているとは認められないはずである。そのため、自主占有が認められるためには、民法第185条に規定する①自主占有の意思があることを表示するか、②新権原に基づいて自主占有を始める必要がある。 この点に関して、数人の共同相続人の共有に属する相続財産の不動産について、その1人が他に相続持分権を有する共同相続人のいることを知らないため、単独で相続権を取得したと信じて当該不動産の占有を始めた場合など、その者に単独の所有権があると信ぜられるべき合理的な事由がある場合には、例外的に自主占有への転換が認められる可能性があると解されている。 この基準からすると、現在の相続法制のもとにおいて、共同相続人の1人が、他に共同相続人がいることを認識しているにもかかわらず、自己に単独の相続権があると信ぜられるべき合理的な事由が認められる場合は、相当限定された場合になるものと考えられる。 例えば、他の共同相続人が相続放棄をしたものと誤信していたような事例も考えられるが、前記の基準からすると、自己に単独の相続権があると誤信したことについて合理的な理由が必要となるため、単に誤信したというだけでは足りないものと考えられる。 また、自宅の建物の修繕管理や固定資産税を支払い続けていたことについても、他の共同相続人の存在を認識した状態で管理行為を継続していたということであるから、修繕管理や固定資産税の支払いの事実のみをもって、自主占有への転換を認めることは難しいように思われる。 4 本件の場合 本件において、相談者が5年前から第三者に賃貸したことによって賃料収入を得ていた場合、他の兄妹からの法定相続分相当額の請求は認容される可能性がある。 また、相続開始時点において、単独で建物の自主占有をしていたものとは認められる事情を見出しがたいことから、時効取得によって相続開始時点から単独所有していることを理由に、上記請求を排斥することも難しいように思われる。 このような問題が生じたのは、相続開始後も遺産分割協議を怠り、漫然と事実関係を積み重ねてきたことに由来するものである。相続人間の紛争を予防する意味でも、早期に遺産分割協議を行い、権利関係を確定させておくことが望まれる。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第3回】 「ブロックチェーン技術の活用事例の全体像」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 1 ブロックチェーンの特徴まとめ 前2回のまとめとしてブロックチェーン技術を踏まえ、従来型の中央集権管理との比較において、ブロックチェーンの主な特徴を整理すると、下記のとおりである。 2 ブロックチェーン技術の展開が有望な事例とその市場規模 少し古いデータではあるが、経済産業省が公表した「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」によると、ブロックチェーン技術を様々な分野に活用・応用することで、取引やデータ管理の効率化・自動化が進むと期待されており、影響を及ぼす可能性のある市場規模は67兆円と試算されている。 【図3-1】ブロックチェーンが影響を及ぼす可能性がある市場規模 (出典:「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」より筆者作成) なお、この市場規模67兆円は市場規模が新たに誕生するという金額を示しているのではなく、既存のビジネスに影響を及ぼす金額である。特に、暗号資産(仮想通貨)に代表される金融業だけでなく、記録したデータを改ざんすることができないなどのブロックチェーンの仕組みや特徴が、様々な業界で注目され活用が開始されている。以下、同報告書の内容を簡単に紹介する。 A; オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現 この分野では、製品の原材料から製造過程と流通・販売までをブロックチェーン上で追跡を行い、サプライチェーン全体が活性化・効率化するとともに、川上の交渉⼒の強化につなげることで、32兆円(全体の47.7%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、製造、卸売、小売店と、従来は分断されていた在庫情報の共有や、小売店に集中していた商流情報が共有できることになる。そのため、電化製品等においては、IoTの進展や製品保証とも連携することで、最終消費者への販売後のプロダクトライフサイクルをトラッキング可能となり、売切りではないビジネスへ転換することが容易になる。なお、小売り、貴金属管理、美術品等真贋認証等でブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 B; プロセス・取引の全自動化・効率化の実現 この分野では、契約条件、履行内容、将来発生するプロセスなどをブロックチェーンで記録し管理することで、20兆円(全体の29.9%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、各企業におけるバックオフィス業務(契約や取引の執⾏、⽀払・決済、稟議などの意思決定フロー等)の⼤半を置きかえることが可能である。また、IoTとスマートコントラクトによるマイクロペイメントを組み合わせることで、受益者負担をより正確に反映した公共サービス等のコスト負担の仕組み(例えば、ゴミの量や道路の利⽤量に応じた課税など)が構築可能である。なお、デリバティブ商品の決済、電力サービス(エネルギー管理)、遺言管理、IoTなどでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 C; 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現 この分野では、対象資産等の利用権移転情報や金銭授受情報、利用者等の評価情報をブロックチェーンで記録し管理することで、13兆円(全体の19.4%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、遊休資産の稼働率管理や、⼊場券、客室、レンタカー、レンタルビデオ等の利⽤権限管理が効率化でき、究極的にはC2C取引が、現在のシェアリングエコノミーのプラットフォーム事業者を介在せずに⾏われる環境を構築することが可能である。これにより、企業と個人、生産者と消費者の垣根がなくなることで、「プロシューマ」というあり⽅が⼀般化する可能性がある。なお、デジタルコンテンツの管理、チケットサービス、C2C取引などで、ブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 D; 価値の流通・ポイント化、プラットフォームのインフラ化 この分野では、自治体等が発行する地域通貨を、ブロックチェーンで記録し管理することで、1兆円(全体の1.5%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、ポイントが、発⾏体以外との取引にも利⽤されるようになり、ポイントが転々流通することで通貨に近い利⽤が可能となり、ポイント発⾏額以上の経済波及効果が⽣じる。なお、地域通貨、国際送金、証券取引、電子クーポン、ポイントサービスなどでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 E; 権利証明行為の非中央集権化の実現 この分野では、土地の物理的現況や権利関係の情報を、ブロックチェーンで記録し管理することで、1兆円(全体の1.5%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、⼟地の登記や特許など、国管理のシステムをオープンな分散システムで代⽤可能になり、届出管理等の地⽅⾃治体業務減少といった、政府の業務負担減少が可能となる。また、本⼈証明としての印鑑⽂化や、各種契約時(スマホ、銀⾏⼝座開設等)の際の本⼈確認のための書類提出等のプロセスが変化・代替される可能性がある。なお、土地登記、電子カルテ、各種登録(出生、婚姻、転居)などでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 3 ブロックチェーンの活用可能性 日本国内では実用化に向けて法整備も進めてきており、経済産業省も「あらゆる産業分野における次世代プラットフォームとなる可能性をもつ」として調査を行っている。また、諸外国では金融業以外でも実用化されたサービスが開始されている。暗号資産(仮想通貨)以外のあらゆる業界への応用が始まっているブロックチェーンであるが、実際の活用事例を分析すると、下記の条件を複数満たす場合、ブロックチェーンを有効に活用でき、価値を生み出せる可能性が高いと考えられる。 具体的には、民間企業においては、様々なサービスにおいて、『中間的な第三者』が介在しない形でのサービスを提供できる業務など、すでに様々な分野への活用が開始されている。また、行政機関などにおいては、既存の業務をブロックチェーンに置き換えることにより、業務コストの削減ができることから、いくつかの国では、実際に公共インフラとしての採用を開始している。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第41話】 「押印義務の見直し」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「大丈夫かな・・・」 中尾統括官は眼鏡を外して、怪訝そうに、机上に開かれた、分厚い「令和3年度税制改正大綱」の冊子を見つめている。 「何がですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の持っている冊子を覗きながら、尋ねる。 「これだよ・・・」 中尾統括官は、大綱95頁の「納税環境整備」に書かれている「税務関係書類における押印義務の見直し」の項目を指す。 「ということは・・・納税者から提出される確定申告書には、押印の必要がなくなる・・・ということですね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官から冊子を受け取り、大綱の内容を確認する。 「そうなるな・・・私なんか・・・納税者が確定申告書に押印するのは・・・当然のことだと考えていたから・・・」 中尾統括官は、机の上にある「税務六法」を手に取り、国税通則法124条のページをめくる。 「ええっと・・・国税通則法124条では・・・国税に関する法律に基づき税務署長その他の行政機関の長又はその職員に申告書、申請書、届出書、調書その他の書類を『税務書類』といい、同条2項で、『税務書類』については、押印しなければならないと規定している。」 そう言うと、中尾統括官は、国税通則法124条2項を読み上げる。 「・・・納税者が税務書類に記名、押印をするということは、その書類が真正に作成されたことを示す上で当然に要求されることであって・・・法律云々以前に、社会常識だと思うのだが・・・」 中尾統括官は、不満そうにつぶやく。 「ただ・・・電子申告では、押印は必要とされていませんよね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の様子を伺いながら話す。 「もっとも電子申告の場合、本人認証のために、利用者識別番号と暗証番号が必要になります。そして・・・これの方が押印よりも信憑性は高い・・・」 浅田調査官は、付け加える。 「・・・確かに、確定申告書の押印は三文判でもかまわないから・・・その書類が本人によって作成された真性なものかどうか・・・わからないが・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「ところで、今回の改正のきっかけだと思うのですが、規制改革推進会が、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、また、デジタル時代を見据えたデジタルガバメントの実現のために、『行政手続における書面主義、押印原則、対面主義の見直しについて(再検討依頼)』(令和2年5月22日)を『各府省規制改革担当』に提出していて・・・その中で・・・押印が求められている趣旨とそれに対するコメントが次のように記載されています。」 浅田調査官は、自席のパソコンで資料を検索している。 「・・・そうすると・・・押印すること自体、あまり意味がない・・・ということか・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の説明を聞きながら、ため息をつく。 「さらに規制改革推進会は、緊急対応として、押印を求めている根拠条文等に応じて、次の対応を行うことを求めています。」 浅田調査官は、パソコンに表示された資料を読み上げる。 「要するに・・・根拠条文等のレベルによって、その対応のニュアンスが異なる・・・ということですね。」 浅田調査官がコメントする。 「ところで、この押印原則不要の改正は、令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用することとされているが、大綱の(注3)には、「改正の趣旨を踏まえ、押印を要しないこととする税務関係書類については、施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする」と明記している。」 中尾統括官は、不満そうに言う。 「そして、この閣議決定された大綱を受けて、国税庁はホームページで、「全国の税務署窓口においては、本件見直しの対象となる税務関係書類について押印がなくとも改めて求めないこととします」・・・と告知しているのだが、そもそも令和3年度税制改正の改正法がまだ成立していない段階で、国税庁が国税通則法に定められた取扱いの変更をすることができるのか、租税法律主義の観点からは、はなはだ疑問だと思うな・・・」 中尾統括官は、あらためて大綱の冊子を見つめながら、つぶやく。 (つづく)
《速報解説》 経産省、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の 別冊として実施事例集を策定 ~策定案への意見に対する経産省の考え方も併せて公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月3日、経済産業省は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド (別冊)実施事例集」を公表した。これにより、2020年12月23日から意見募集していた案が確定することになる。実施事例集(案)に対する意見とそれに対する経済産業省の考え方も公表されている。 今般、ハイブリッド型バーチャル株主総会のさらなる実務への浸透を図るため、2020年の株主総会における実施状況等を踏まえつつ、実施ガイドの別冊として、実施事例集を策定したものである。 経済産業省は、2020年2月26日に、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 実施事例集は、表紙を含めて36ページのものである。 以下では主な内容について解説する。 1 ハイブリッド型バーチャル株主総会 バーチャル株主総会は、取締役や株主等がインターネット等を活用して遠隔地から株主総会に参加・出席することを許容する形態である(5ページ)。 「バーチャルオンリー型」と「ハイブリッド型」の2つの形態があるが、「バーチャルオンリー型」については、現行の会社法下においては解釈上難しいとの見解が示されている。 2020年6月に開催された株主総会では、上場会社のうち、ハイブリッド「出席型」は9社、ハイブリッド「参加型」は113社の実施であった(7ページ)。 2 実施事例集(論点別) 参加型・出席型共通の論点として次の事項を取り上げ、各論点に関する考え方や2020年株主総会における実施事例を簡潔に記載している。 また、出席型の論点として次の事項を取り上げ、各論点に関する考え方や2020年株主総会における実施事例を簡潔に記載している。 (了)
《速報解説》 令和2年分所得税の確定申告期限、緊急事態宣言の延長を受け全国一律「令和3年4月15日(木)」まで延長 Profession Journal編集部 令和3年2月2日、政府が公表した栃木県を除く10都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県)に対する緊急事態宣言の延長(3月7日まで)を受け、同日、国税庁は、緊急事態宣言期間が令和2年分所得税の確定申告期間(令和3年2月16日~3月15日)と重なることを踏まえ、確定申告会場の混雑回避の徹底を図るため、申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・納付期限について、全国一律で令和3年4月15日(木)まで延長することを公表した(法人税等の申告期限延長は公表されていない)。 上記に伴い、申告所得税及び個人事業者の消費税の振替納税の振替日についてもそれぞれ延長される。 延長後の申告期限・納付期限、振替日は下記のとおり。 〔申告期限・納付期限〕 〔振替日〕 今回の期限延長に当たり、既報のとおり「令和2年分の確定申告を行うまで」とされている令和元年分の申告期限も自動的に延長されることになるが、本稿公開時点で国税庁FAQの更新は行われていない。 なお国税庁は確定申告会場における換気・消毒・距離確保に加え時間指定の入場整理券の導入等の感染防止対策を行うとともに、確定申告会場へ来場することなく申告が可能なe‐Taxの利用を呼びかけている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁公表の「新型コロナFAQ」、昨年末より続く「追加・更新情報」に留意 Profession Journal編集部 新型コロナウイルス感染拡大が国内で深刻化し始めた昨年3月に、当面の税務上の取扱いとして国税庁が公表した「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」は公表当初35問で構成されていたが、その後、設問の追加・更新が繰り返され、本稿公開時点で56問と大幅に増問されている。 既報のとおり昨年10月にはPCR検査費用等、医療費控除の適用に係る設問が追加されていたが、所得税等の確定申告や3月決算法人の申告時期を前に、昨年12月、本年1月に続き本日(2月2日)と続けて設問の追加・更新が行われ、新たな取扱いが示されている。 昨年12月15日に追加された「問1 令和元年分の確定申告について」では、期限を区切らず、期限後であっても柔軟に確定申告書を受け付けるとしていた「令和元年分の申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の申告・納付」について、その期限を令和2年分の確定申告を行うまで(令和2年分の確定申告と同時でも可)とすることが明らかにされている。 また本年1月13日に追加された「問9-2 助成金等の収入計上時期の取扱い」では助成金等の収入計上時期について、所得税の計算上、ある収入の収入計上時期については、「その収入すべき権利が確定した日の属する年分」となるとしつつ、その助成金等が、支給要綱などで定められた特定の支出(例:医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業の補助金におけるマスクや消毒液の購入費用や清掃委託費用等)を補填するものについて、その支給を受けるために必要な手続をしているときには、その支出と同時に、実質的に、助成金を受給する権利が確定していると考えられることから、その収入計上時期は「その支出が発生した日の属する年分」として取り扱うとしている。 本日(2月2日付)の更新では新たな設問の追加はないものの、特例猶予の申請期限が2月1日までとされていたことによる一部表記の見直しや、令和3年度税制改正大綱に明記され1月22日付け官報第417号で改正政令が公布された「特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税」の期限延長(令和3年1月31日→令和4年3月31日)に伴う記載変更が行われている。 今後も設問の追加・更新により新たな取扱いが示される可能性があるため、ホームページに掲載された最新の情報を確認するよう十分留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 会計士協会より「内部監査人の作業の利用」等の改正が公表される ~ダイレクトアシスタンス防止のため海外の構成単位の監査人との意思疎通の必要性を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は1月29日)、日本公認会計士協会は、監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」等を公表した。これにより、2020年10月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 従来から、我が国では内部監査人による監査人の直接補助(ダイレクトアシスタンス)を禁止しているが、海外の構成単位の監査においても内部監査人が構成単位の監査人を直接補助することがないようにする。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 我が国では、法令により、監査人がその職務を行うに当たり、被監査会社の使用人等を補助者として使用することが禁じられている。 このため、本報告書は、監査人が監査手続を実施するに当たり、内部監査人が監査人を直接補助する場合を取り扱わないこととしている。 そこで、構成単位の監査においても内部監査人が構成単位の監査人を直接補助することがないようにするため、海外の構成単位の監査人とコミュニケーションを行うことが必要になることがあるとしている(A4-1)。 Ⅲ 適用時期等 改正後の本報告書は、2022年3月31日以後終了する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「プロフォーマ財務情報の作成に係る 保証業務に関する実務指針」の公開草案を公表 ~プロフォーマ財務情報作成時の注意点や保証業務実施上の留意事項等を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月29日、日本公認会計士協会は、保証業務実務指針3420「プロフォーマ財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針」(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」(2017年12月19日)等の公表に伴い、東証意見表明業務に関する従来の監査・保証実務委員会研究報告第17号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める結合財務情報に関する書類に対する公認会計士又は監査法人の報告業務について(中間報告)」に代わるものである。 意見募集期間は2021年3月1日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 プロフォーマ財務情報 プロフォーマ財務情報とは、重要な事象又は取引が未調整財務情報に及ぼす影響を示すために、それらが実際よりも早い日付で発生又は行われたという仮定に基づく調整とともに示される財務情報をいう(11項(3))。 実務指針は、プロフォーマ財務情報は、①未調整財務情報、②プロフォーマ調整及び③調整後のプロフォーマ財務情報欄から成る表形式で表示されると仮定している。 目論見書に記載又は添付されるプロフォーマ財務情報は、事業体の未調整財務情報に重要な影響を及ぼす事象又は取引について説明することを目的として、選択された基準日以前に当該事象又は取引が発生したという仮定に基づき作成されるものである(4項)。 次のことに注意する(4項、5項)。 2 適用範囲 実務指針は、主題に責任を負う者によって目論見書に記載又は添付されるプロフォーマ財務情報の作成に関して、監査事務所が、合理的な保証を提供する保証業務に関する実務上の指針である(1項)。 また、実務指針は、プロフォーマ財務情報の作成に関して、監査事務所が限定的な保証を提供する保証業務に関する実務上の指針も提供する(1項)。 実務指針は、以下の場合に適用される。 3 業務実施者の責任 実務指針に準拠して実施される保証業務において、業務実施者は、主題に責任を負う者のためにプロフォーマ財務情報を作成する責任を負わない。当該責任は、主題に責任を負う者が負うものである(2項)。 業務実施者の責任は、プロフォーマ財務情報が、すべての重要な点において適用される規準に準拠して作成されているかどうかについて報告することにある。 実務指針は、業務実施者が、主題に責任を負う者のために過去財務情報を調整する非保証業務については取り扱わない。 4 保証業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」が公布 ~ウェブ開示によるみなし提供制度及び「その他の記載内容」等に係る監査基準の改訂に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年1月29日、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第1号)が公布された。これにより、2020年12月4日から意見募集されていた省令案が確定することになる。省令案に寄せられた意見に対する法務省の考え方も公表されている。 これは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、事業報告に表示すべき事項の一部並びに貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするため、及び、「その他の記載内容」等に関する監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正 ウェブ開示によるみなし提供制度に関して次の改正を行うほか、所要の整備を行う(会社法施行規則133条の2、会社計算規則133条の2)。 Ⅲ 監査基準の改訂を受けた改正 会社計算規則126条1項各号に掲げる事項に「第2号の意見があるときは、事業報告及びその附属明細書の内容と計算関係書類の内容又は会計監査人が監査の過程で得た知識との間の重要な相違等について、報告すべき事項の有無及び報告すべき事項があるときはその内容」を追加するほか、所要の整備を行う。 Ⅳ 施行時期等 1 施行期日 2 失効 3 会社計算規則の一部改正に伴う経過措置 (了)
《速報解説》 ASBJ、「取締役の報酬等として株式を無償交付する 取引に関する取扱い」等の確定を公表 ~適用は「会社法の一部を改正する法律」の施行日(2021年3月1日)以後に生じた取引から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月28日、企業会計基準委員会は、次のものを公表した。これにより、2020年9月11日から意見募集を行っていた公開草案が確定することになる。 これは、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、会社法202条の2において、金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないと規定されたことを受けたものである。 基本的に、ストック・オプション会計基準に準じた会計処理となっている(38項)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い 1 適用範囲 実務対応報告は、会社法202条の2に基づく、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とする(3項)。 ここで注意すべきことは、実務対応報告は、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引については適用されないことである(3項、26項)。 実務対応報告の適用対象としている取締役の報酬等として株式を無償交付する取引については、①事前交付型と②事後交付型が想定されている(35項)。 2 事前交付型の会計処理 事前交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限が付された株式の発行等が行われ、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除されるが、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引をいう(4項(7))。 なお、事前交付型において、権利確定条件が達成されなかったことによって、企業が無償で株式を取得することが確定することを、「没収」という(4項(16))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて会計処理を規定している。 3 事後交付型の会計処理 事後交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる(会社法における割当日)取引をいう(4項(8))。 「割当日」とは、会社法202 条の2第1項2号に基づいて定められる株式の発行等が行われる日(会社法209条4項)である(4項(6))。 なお、「失効」とは、事後交付型において、権利確定条件が達成されなかったことによって、取締役等に株式が交付されないことが確定することをいい、「失効」と前述の「没収」を合わせて「失効等」という(4項(16))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて規定しており、純資産の部の株主資本以外の項目に「株式引受権」が新設されている。このため、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」等において、株式引受権が新設されている。 なお、2020年11月27日に「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第52号)が公布されており、改正会社計算規則2条3項34号において、「株式引受権」が新たに定義されるとともに、純資産の部における区分などの関連する規定が改正されている。 4 注記 次の注記項目を定める(20項、21項、52項)。 5 1株当たり情報 6 関連当事者との取引 関連当事者との取引に関する開示は要しない(55項)。 7 適用時期等 (了)