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[無料公開中]ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第1回】「代表的なハラスメントの定義とその特徴」

筆者:柳田 忍

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ハラスメント発覚から紛争解決までの

企 業 対 応

【第1回】

「代表的なハラスメントの定義とその特徴」

 

弁護士 柳田 忍

 

1 はじめに

昨今、「ハラスメント」という言葉を聞かない日はないと言っても過言ではない。どの業界、どの企業もハラスメント問題とは無縁ではなく、このような状況を受けてハラスメント対策を掲げた記事やセミナーは数多く掲載・開催されているが、多くの企業において、ハラスメントに対して適切に対応できていないのが現状であるように思う。

企業において、適切なハラスメント対策ができていない理由は、ハラスメント問題が孕むリスクの把握と、リスクが現実化した場合の損失を踏まえたうえで、意思決定を行っていないことが一因であると思われる。

そこで、本連載においては、調査・紛争・事後対応(再発防止策)の各段階において、ハラスメント問題が有するリスクとこれにより引き起こされるおそれのある損失を踏まえたうえで、企業として対応すべき事項について説明する。

なお、本連載の意見等にわたる部分については筆者個人によるものであり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。

 

2 ハラスメントとは

まず、職場において特に問題となることが多いパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントについて、定義及び実務上の留意点について説明する。また、最近、特に問題となることが増えてきている「SOGIハラスメント」についても若干の解説を行うものとする。

(1) パワー・ハラスメント(パワハラ)

職場のパワハラは、優越的な関係に基づいて行われること、業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること、その雇用する労働者の就業環境を害すること、の3つを満たすものと定義されている(2020年6月施行予定の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第30条の2第1項)。

そして、これら3つをすべて満たす代表的なものとして、次の6つの類型が挙げられている(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日厚労省告示第5号))。

 暴行・傷害(身体的な攻撃)

 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

パワハラに該当する言動はこの6類型に限られないが、特に最近は、職場における「不当」な取扱いがあれば、とりあえず「パワハラ」と整理して主張がなされることが多い。

従業員からパワハラ被害の申告を受けると動揺する企業が多いが、そのような申告の中には、パワハラと称していても実態は人事権の行使に対するクレームに過ぎないものも多く、それぞれの申告の本質を踏まえた対処を行うことが肝要である。

また、パワハラに当たるかどうかの判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつ、個別の事案の判断に際しては、労働者の「心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」すべきであるとされている(前掲指針)。

ここで言う「平均的な労働者」とは、現在の平均的な労働者を意味するものと考えられるため、「自分が若い頃はこの程度の指導は普通だった」というのは、「平均的な労働者の感じ方」には当たらないということもありうる。

(2) セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)

セクハラは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること」(対価型)及び「当該性的な言動により当該労働者の職業環境が害されること」(環境型)と定義されている(男女雇用機会均等法第11条第1項)。

セクハラに当たるかどうかの判断に際しても、パワハラと同様、当該労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要であると考えられており、被害を受けた労働者が女性である場合は「平均的な女性労働者の感じ方」を、男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされている(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号))。したがって、「被害者が嫌だと思ったらセクハラになる」というのは必ずしも正しい理解とは限らない。

(3) マタニティ・ハラスメント(マタハラ)

マタハラとは、女性労働者が妊娠・出産した場合に休業や軽易業務への転換等の制度利用を行う場合や、労働者が育児等のために休業や時短勤務等の制度利用を行う場合に、当該女性労働者や労働者に対して職場における解雇その他の不利益取扱いを行ったり、職場環境を害する行為を行ったりすることを指す。

マタハラを引き起こす原因になりうるのが、従業員が妊娠・出産・育児等により休業等の制度利用を行うことによって当該従業員の業務のいわゆる「しわ寄せ」を受ける従業員の存在であり、使用者がこれらの従業員への対処を誤ると、これらの従業員の不満の矛先が制度利用を行った労働者に向かうことになりかねないため、これらの従業員への対応も重要なポイントである。

また、女性従業員がマタハラの加害者になることも少なくなく、使用者としては「女性同士だから分かり合えるはずだ」などという安易な考えを持つべきではない。

(4) SOGIハラスメント(SOGIハラ)

「SOGI」とは、Sexual Orientation(好きになる人の性別(性的指向))とGender Identity(自分がどの性別かという認識(性自認))の頭文字をとった言葉で、SOGIハラスメントとは、性的指向や性自認に関連して行われる差別や嫌がらせ、不利益な取扱い等を指す。

SOGIハラとして特に問題となるのが、身体上の性別と自認する性が一致しない者(トランスジェンダー)による自認する性と一致したトイレや更衣室の利用の要求への対応である。

2019年12月12日に、東京地方裁判所において、経済産業省がトランスジェンダーである職員に対して女性用トイレの利用を認めない措置をとったことが違法である旨の判断がなされたが、判決文によると、当該経産省の措置は顧問弁護士のアドバイスに従ったものであったようである。

この問題に関する対応策は未だ確立したとは言えないところであり、ある時点における最適解が短期間で最適解でなくなってしまうことがありうる点に留意すべきである。

(5) その他のハラスメント

上記以外にも、カスタマー・ハラスメント(顧客や取引先による嫌がらせ・カスハラ)、スメル・ハラスメント(臭いに関する嫌がらせ・スメハラ)、就活ハラスメント(就活生に対する嫌がらせ)といった様々な「ハラスメント」が存在する。これらの中には、法的問題に発展するものもあれば、法的問題には至らない「不快な言動」に留まるものもあろう。

この点、職場におけるハラスメントの多くが優越的地位を背景に行われる差別や嫌がらせであり、上記の代表的なハラスメントの定義や判断基準等がこのような現状を踏まえて策定されていることに照らすと、これらのその他のハラスメントが職場において行われる場合は、上記のパワハラ、セクハラ等の判断基準を応用して法的問題に至っているか否かを判断できる場合が多いのではないかと思われる。また、このような問題は、個人を尊重する意識の欠如に端を発することが多いということも念頭に置くべきである。

(了)

「ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応」は、毎月第2週に掲載されます。

連載目次

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応

▷総論

▷Q&A解説

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筆者紹介

  • 柳田 忍

    (やなぎた・しのぶ)

    弁護士
    牛島総合法律事務所 スペシャル・カウンセル
    https://www.ushijima-law.gr.jp/attorneys/shinobu-yanagita

    北海道大学法学部卒業、2005年牛島総合法律事務所入所。
    労働審判、労働訴訟等の紛争案件のほか、人員削減・退職勧奨、M&A・統合・組織再編に伴う人事労務、懲戒処分、ハラスメント、競争企業間の移籍問題、人事労務関連の情報管理やHRテクノロジー等を中心に、国内外の企業からの相談案件等を多く手掛けている。また、労働者派遣・職業紹介の領域についても明るい。特にハラスメント問題に関しては、女性ならではの視点をもった対応が好評を博しており、各種団体におけるハラスメントに関する講演経験も豊富である。

    The Legal 500 Asia Pacific 2019のLabour and Employment部門で高い評価を得ており、また、The Best Lawyers in Japan(2020 Edition及び2021 Edition)のLabor and Employment Law部門において選出されている。

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