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相続空き家の特例 [一問一答] 【第38回】「「相続空き家の特例」を受けることができない被相続人居住用家屋の敷地等(土地及び建物が同一の被相続人からの相続により取得したものでない場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第38回】 「「相続空き家の特例」を受けることができない被相続人居住用家屋の敷地等 (土地及び建物が同一の被相続人からの相続により取得したものでない場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、10年前に死亡した父親から相続した居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)を、昨年2月に死亡した母親からの敷地相続後に取り壊し、その敷地を更地にして、本年11月に5,400万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、母親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 土地及び建物共に、同一の被相続人からの相続により取得したものでなければ、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、当該相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の取壊し等をした後における当該相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡に適用されます(措法35③二)。 したがって、本事例の場合、その居住用家屋は父親から相続したものであり、その敷地は母親から相続したものであるため、同一の被相続人からの相続により取得したものでないことから、本特例の適用を受けることができません。 (了)

#No. 344(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/11/14

金融・投資商品の税務Q&A 【Q49】「株式交付信託による取得株式を譲渡した場合の税務手続」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q49】 「株式交付信託による取得株式を譲渡した場合の税務手続」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 株式交付信託を通じて取得した株式の取得価額 株式交付信託(キーワード参照)を利用したインセンティブプランを導入する企業は、委託者となって信託銀行との間で信託契約を締結し、将来、自社の役員又は使用人(以下、「対象者」といいます)に交付する株式を管理するための信託を設定します。この信託は、税務上の受益者等課税信託として設定され、対象者に対して株式を交付するまでの間は、受益者は存在せず、委託者が税務上のみなし受益者となって、信託財産を保有するものとして取り扱うのが一般的です。 このインセンティブプランの対象者は、個人の業績等に応じて会社から株式交付に係るポイントを付与され、一定期間後にそのポイント数に応じた数の株式の交付を受けます。この交付に際しての当該信託に係る手続きとしては、当該対象者を信託の受益者として確定し、当該受益者に対する信託財産の分配として、株式を交付することになります。 対象者に対する所得課税のタイミングという観点では、ポイント付与時か株式交付時のいずれであるかを検討する必要があります。インセンティブプランの設計によりますが、将来、退職等の事実が生じる場合等にポイントが消滅する可能性があるということであれば、ポイント付与時点では株式の交付を受けることが確定しているわけではないことから、課税関係は生じないものと考えられます。 この場合、実際に株式の交付が確定した際(実務上は、信託契約等で定められた受益権の帰属が確定する日)に所得の発生を認識し、交付を受ける株式の時価をベースに給与所得(退職を基因として株式の交付を受ける場合には、退職所得)として課税することとなります。したがって、当該株式の取得価額は、所得課税のベースとなる金額と同額の、交付時の時価であるものと考えられます。   2 一般口座と特定口座 株式交付信託を通じて交付される株式が上場株式である場合には、証券会社で保管する口座は、一般口座の他、特定口座を利用することも可能です。特定口座を利用する場合には、株式の交付を受ける段階で、対象者が自己の口座を指定する必要があります。 一般口座で保管する場合には、上場株式の譲渡益は申告分離課税の対象となり、確定申告することとなります。譲渡損失が生じる場合には、上場株式等に係る配当所得等との損益通算や譲渡損失の繰越控除の適用も可能です。 一方、特定口座で保管し、源泉徴収を選択する場合には、原則として、確定申告は不要となりますが、源泉徴収を選択しない場合や、選択していても特定口座内で譲渡損失が生じ、その口座外の上場株式等に係る譲渡所得等の金額や配当等の金額と通算する場合には、確定申告する必要があります。   3 本件へのあてはめ まずは、株式の交付を受けた際に、当該株式を保管する証券会社の口座が、一般口座なのか特定口座なのかを確認する必要があります。特定口座で源泉徴収を選択する場合は、原則として確定申告を要しませんが、それ以外は確定申告する必要があります。 確定申告をする際の譲渡所得の計算にあたっては、株式の交付を受けた日の時価の情報が必要です。これは、株式に係る給与所得の収入金額と同額であるため、勤務先から通知される金額を参照することになります。   (了)

#No. 344(掲載号)
#西川 真由美
2019/11/14

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第16回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第16回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   (5) 収益認識会計基準との比較検討 法人税法22条の2第1項は、収益の計上時期(時間的帰属)の規範を定めたものであり、法人税法における資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的な基準として、引渡・役務提供基準を採用している。 これに対して、収益認識会計基準は、収益の認識時期のルールについて、履行義務充足基準ともいうべき基準を採用している。すなわち、収益認識会計基準においては、収益を認識するために5つのステップが設けられており、そのステップ5では、履行義務の充足による収益の認識配分の作業を行うこととしている。つまり、約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識するのである(本連載第1回参照)。 引渡・役務提供基準と履行義務充足基準は、内容的に同一のものであろうか、あるいは別のものであろうか。法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準に基づいて収益を計上することを定めている。その文面上、履行義務充足基準を定めたものではなく、収益認識会計基準をそのまま取り込むものではないことは明らかである。近接日基準の採用を認める法人税法22条の2第2項についても同様のことがいえる。 履行義務充足基準を、例えば、資産に対する支配の顧客への移転基準(基準39、40参照)として表現し直してみても、同様である。すなわち、収益認識会計基準は、「一定の期間にわたり充足される履行義務」に係る収益の認識について、次のように定めている。 そして、一時点で充足される履行義務に係る収益認識について、次のとおり、上記(1)から(3)の要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、「資産に対する支配を顧客に移転」することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識する、としている(基準39)。 この場合の「資産に対する支配」とは、「当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)」をいい、このことを考慮して、「資産に対する支配を顧客に移転」した時点を決定することとされている(基準40前段)。 また、支配の移転を検討する際には、例えば、次の①~⑤の指標を考慮することとされている(基準40後段)。 上記のうち、差し当たり②、③、⑤を念頭に置くと、収益認識会計基準が採用する履行義務充足基準と法人税法22条の2第1項が採用する引渡・役務提供基準とは、内容的に似通ったものではないか、両者の距離はさほど離れていないのではないか、という見立ても生まれてくるが、少なくとも文面上は同一の基準ではないことは明白である。 いずれにしても、かかる収益認識会計基準との関係については、第Ⅳ部で更に検討することとしたい。 なお、企業会計認識基準でいう「財」又は「サービス」と法人税法22条の2でいう「資産」又は「役務の提供」の範囲が完全に一致するかという論点もある。   (了)

#No. 344(掲載号)
#泉 絢也
2019/11/14

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第53回】「給与回収のための強制執行と源泉徴収義務事件」~最判平成23年3月22日(民集65巻2号735頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第53回】 「給与回収のための強制執行と源泉徴収義務事件」 ~最判平成23年3月22日(民集65巻2号735頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 344(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/11/14

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第92回】株式会社平山ホールディングス「第三者委員会調査報告書(2019年9月6日付)」 

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第92回】 株式会社平山ホールディングス 「第三者委員会調査報告書(2019年9月6日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【株式会社平山ホールディングス等の概要】 株式会社平山ホールディングス(以下「平山HD」と略称する)は、1955年12月創業、1967年5月設立。技術者・スタッフの派遣事業を中核に、コンサルティング事業などを主たる事業とする。2017年3月持株会社体制に移行。連結子会社12社及び非連結子会社、持分法適用関連会社各1社を有する。売上高20,841百万円、経常利益245百万円、資本金435百万円。従業員数1,878名(いずれも2019年6月期、連結ベース)。本店所在地は東京都港区。JASDAQ上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」と略称する)。 売上取引に係る実在性に疑義を指摘されたFTF社は、2006年創業。①アウトソーシング事業、②有料職業紹介事業、③労働者派遣事業、④労務コンサルティング業、⑤営業コンサルティング業を主な事業内容としており、2018年7月から平山HDの傘下に入っている。 FTF社の取引の相手先である大松自動車は、三重県を拠点とし、自動車整備事業を営むとともに介護施設事業などを営んでいたが、資金繰り悪化に伴い、平山HDをスポンサー候補とするプレパッケージ型の民事再生手続を実施、2018年8月31日付で東京地方裁判所に民事再生手続の開始申立てを行い、同日付で監督命令・保全命令を受けた。その後、2019年5月22日の再生計画の認可決定を経て、平山HDは、同年7月18日に大松自動車の増資を引き受けて、全株式を取得、商号を「株式会社大松サービシーズ」に変更した。   【調査報告書の概要】 平山HDの会計監査人であるトーマツは、2019年6月期決算に係る監査の過程で、連結子会社であるFTF社のコンサルティング業務に関する売上計上について、その実在性に疑義を指摘した。このため、平山HDは、2019年8月2日、臨時取締役会の決議により、第三者委員会を設置して、事実関係を解明するとともに、会計処理の妥当性を検証することを委嘱した。 1 調査委員会による調査結果 (1) 大松自動車の連結子会社化をめぐる経緯 平山HDが、民事再生手続きに入っていた大松自動車を連結子会社としたのは2019年6月期決算終了後の7月18日である。FTF社を傘下に入れてからの流れを時系列で整理しておきたい。 (2) 取引の実在性に疑義があると指摘された2社間の取引 トーマツが、取引の実在性に疑義を指摘したのは下記の図で①と示したコンサルティング業務に係るものであったが、第三者委員会の調査の過程で、②から④についても、売上計上の妥当性について、検討が行われている。 なお、こうした一連の取引を主導したのは、平山HD執行役員で、グループ戦略本部長とグループ管理本部長を兼務するとともに、FTF社の取締役でもあるM氏であった。 《FTF社による大松自動車に対する売上高約54百万円の内訳》 (3) 一連の取引に対する第三者委員会の評価 第三者委員会は、上記図②の派遣取引、③の有料職業紹介、④の転籍派遣取引については、いずれも、「形式的には売上計上が認められない事実関係は存在していない」としながらも、②及び③については、収益認識基準のうち、経済的実質要件に抵触し、収益計上が認められないと判断される可能性もあると評価し、さらに④については、経済実質に変化がなく、リスクの移転もないため、収益認識基準に照らし、FTF社の収益計上根拠に疑義が生じることから、収益計上は認められないものと考えるとの評価を示した。 そして、本件調査の発端となった①のコンサルティング契約についても、契約書がM氏によってバックデートで作成され、FTF社と大松自動車間で対価の金額を含め契約条件等の交渉は一切行われていないことから、契約そのものが成立していないとして、収益計上は認められないものと思料すると結論づけた。 (4) M氏の動機 第三者委員会は、一連の取引を主導したM氏の動機について、次のように述べている(報告書36ページ)。 そして、可能性として、 などを挙げているが、結論としては、M氏の真意については理解することができなかったとまとめている。 2 発生原因の分析(報告書40ページ以下) 第三者委員会は、発生原因について、大きく次の3点を挙げている。 第三者委員会は、まず、「グループ戦略本部に対する牽制機能の問題」としては、本件取引を主導したM氏について、グループ戦略本部長とグループ管理本部長を兼務する体制となっていたこと、FTF社にとっては親会社の声を代弁する存在として、その指示に盲目的に従っていたこと、大松自動車にいたっては、代表印兼銀行印を預かって、恣意的に取引を行うことが可能な状況にあったことを指摘している。 そのうえで、こうした牽制機能の問題の根本原因として、「人材不足による脆弱な管理体制」があるとし、その結果、平山HDグループ全体で複数の役職を兼務するケースが多く見られることを挙げている。 3 再発防止策の提言(報告書42ページ以下) 発生原因の分析を受けて、第三者委員会がまとめた再発防止策は、次のとおりである。 第三者委員会は、「グループ管理体制の強化」の中で、M氏の処遇について、以下のようにコメントしている。   【調査報告書の特徴】 本件は、会計監査人の指摘により、財務情報を掲載した決算短信の公表や有価証券報告書等の開示が行われる前に発覚していることから、平山HDでは、「市場に誤った情報を開示する前に検討・是正する機会を得ている」(報告書40ページ)ことから、会計監査人のいわば「職業的懐疑心」によって、有価証券報告書等の虚偽記載が未然に防止された事案である。 1 平山HDによる再発防止策 平山HDは、調査報告書の公表時に「当社の対応方針」として、以下のリリースを公表している。 さらに、9月11日付の「第53期定時株主総会招集ご通知」では、「対処すべき課題」の1つとして「グループ会社の連携とコーポレートガバナンスの強化」の項で、以下のように述べている。 いずれも具体的な施策については触れられていない。 2 関係者の処分等 第三者委員会による調査報告書公表後、本稿執筆現在に至るまで、平山HDは、本件取引を主導したM氏をはじめ、経営陣について、何らかの処分を行ったかどうか、人事異動などがあったのかどうかを公表していない。 3 平山HDの内部監査体制 第三者委員会報告書によれば、平山HDには、代表取締役社長直轄の組織として内部監査室が設置されており、専任者1名のみが配置され、その業務分掌は、①内部監査に関する業務、②内部統制の評価とされ、当社及び子会社を対象として、業務活動の合理性、効率性、適正性を諸規程に準拠して評価し、代表取締役社長に報告することで不正や誤謬の防止及び業務改善に資する取組みを行っているということである(報告書10ページ)。 持株会社の内部監査部門のあり方については、本連載【第90回】、「最近の子会社不正をめぐる傾向と防止策」連載【第2回】などでも検討をしてきたが、平山HDについても、グループ会社14社、従業員数1,878名(臨時雇用者を含めると約9,700名)の規模の事業会社の内部監査を1人に任せるのは、いかにも負担が大きいと言えるだろう。 平山HDは、第三者委員会の再発防止策の提言に沿った運用を行う旨公表し、さらに管理体制の強化、コンプライアンス体制の整備に取り組むとしているが、前述のとおり、第三者委員会による原因分析、再発防止策ともに、内部監査部門についての直接の言及はなく、筆者としては、内部統制システムの整備として最優先されるべきであると思われる内部監査機能の強化が図られないのではないかという懸念を有しているところである。 また、平山HDの従業員数も、持株会社移行期から3名⇒4名⇒8名(2019年6月期末)と増加傾向にはあるものの、グループ従業員数と比較すると、きわめて少ないと言えよう。持株会社として行うべき管理業務の多くは連結売上高の約60%を占める中核的事業会社である株式会社平山(以下「平山」と略称する)が担っていることが推測できるが、なぜ、「持株会社に移行したのか」と理由を考える場合に、持株会社の管理体制が脆弱では、事業会社を管理統括することは不可能であり、結果的に、事業会社による不適切な取引を防止できないのではないだろうか。 なお、平山のサイトでは、「コンプライアンス体制」が公表されており、平山にも「内部監査室」が設置され、体制図の中では、「コンプライアンス確認」として、「関係法規制遵守」「公正取引」という表記が見られる。また、「内部牽制」については、次のような説明の記載がある。 ここで説明されている機能が平山単体の説明なのか、平山HDを含むグループ全体のものなのかは不明であるが、事業会社である平山の内部統制は機能しているが、持株会社による子会社の統制には問題があったということかもしれない。 4 財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備 2019年9月27日、平山HDは「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」を公表した。平山HDが認めた、全社的な内部統制に整備上及び運用上の開示すべき重要な不備は次のとおりである。 そして、「開示すべき重要な不備の是正方針」として、次の改善策を明らかにした。 5 会計監査人の異動について 2019年9月30日、平山HDは、会計監査人であるトーマツが退任し、爽監査法人が一時会計監査人に就任することを公表した。異動の理由については、次のように説明されている。 平山HDの2019年6月期有価証券報告書によれば、「監査公認会計士等に対する報酬」は、前連結会計年度である2018年6月期が24,000千円、当期が34,980千円となっている。さらに当期には「非監査業務に基づく報酬」2,500千円の記載があり、これは「財務報告に係る内部統制システムに関する助言・指導業務」であると説明されている(有価証券報告書42ページ)。 当期の監査報酬の増額の理由は不明であるが、第三者委員会設置の原因となった本件取引について追加監査の必要があったのかもしれない。上記の説明文からは、トーマツの監査報酬の提示額は、当期の監査報酬をさらに上回るものであったことが推測され、これが、平山HD監査役会をして、会計監査人の異動を決めた理由であると考えられよう。また、「内部統制システム」に関して助言・指導を行いながら、上記4で触れたように、「開示すべき重要な不備」を決算期末までに是正させることができなかった点に、平山HD監査役会が不満を有していたとも考えられる。 とはいえ、第三者委員会が再発防止策の1つとして挙げた「会計監査人とのコミュニケーションの円滑化」に対する平山HD側の回答が会計監査人の交代であったことは、会計不正を防止し、または早期に発見することの重要性について解説する機会の多い筆者にとっては、残念な結果である。 平山HDとトーマツとの間では、本件の実在性に疑義のある取引に関する指摘だけではなく、子会社ののれんの減損処理についての確執もあったようだが、有価証券報告書の虚偽記載という法律違反を未然に防いだのは、紛れもなく、トーマツによる厳格な会計監査のおかげであったことを再度、付言しておきたい。 (了)

#No. 344(掲載号)
#米澤 勝
2019/11/14

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第12回】「法曹マインドを踏まえた税務訴訟における留意点」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第12回】 (最終回) 「法曹マインドを踏まえた税務訴訟における留意点」   弁護士 下尾 裕   最終回となる今回は、連載の総括として、読者である税理士等が弁護士とともに税務訴訟を戦っていく上での留意点等について整理してみたい。   1 税務訴訟スタート段階での留意点 納税者の立場からすれば、課税庁の更正処分等に納得がいかないケースも多いとは思うものの、もし税務訴訟となれば、弁護士費用等は勿論のこと、訴訟を進めていく上での事務負担等も多く発生することになる。 その意味では、納税者の立場としてまず最初に行うべきは、こうした時間的・経済的負担を加味しても、税務訴訟を提起する意義があるか(さらにいえば勝算があるか)ということを慎重に検証することにある。 現状の税務争訟においては、審査請求までは税理士が代理人として手続を進めている例が多いと思われるところ、納税者自身が上記検証を行うのは困難な場合が多いことを踏まえると、代理人を務めてきた税理士にこそ主導的役割を果たすことが求められる。 実際に税理士が主導的役割を果たすにあたっては、本連載のテーマである法曹マインドが有用であり、前回でも述べたとおり、遅くとも審査請求段階において、その時点での納税者としての主張を尽くすことにより、課税庁との間での争点及びこれに対する証拠の状況を把握した上で、税務訴訟における勝算等を分析すべきである。 また、税務訴訟は、数ある訴訟類型の中でも非常に専門性の高い訴訟であることから、弁護士であれば誰でも扱えるという性質のものではない。その意味では、納税者において税務訴訟の弁護士を依頼する場合でも、税理士等が税務訴訟に関する専門的知見を有する弁護士(最低でも税理士等と適切に協働して税務訴訟を進めることができる弁護士)を選任できるよう、普段から税務に強い弁護士との関係構築を行っておくのが望ましい。   2 税理士等による税務訴訟支援 いざ税務訴訟を提起し、裁判所及び訟務検事との間で主張を行うにあたっては、今度は、納税者(原告)の代理人である弁護士が主導的役割を果たすことになる。 しかしながら、税務に強いとされる弁護士であっても、日常的に税務に携わっていない場合もあることから、税理士等としては、顧客である納税者のために、適宜、弁護士の訴訟活動を支援できる体制を整えておくのが望ましい。【第1回】で述べたとおり、弁護士と税理士等ではその専門性の違い故に、実質の捉え方に差異がある場合があるが、税理士等の目線からのアドバイスが弁護士の訴訟活動に新たな気づきを与えるケースも多くあることから、疑問点があれば遠慮なく弁護士に指摘すべきである。 また、ご承知の読者も多いと思うが、税務訴訟においては、税理士が弁護士と一緒に訴訟活動に関与できる「補佐人」(税理士法第2条の2)という制度がある。 税務訴訟の期日では、裁判官や訟務検事と、税法や通達の解釈適用、さらには会計処理等についてやりとりを行う場合があるが、その場に出廷している弁護士等がこうしたやり取りの意図を正確に理解できなければ、その後の訴訟活動に支障をきたす可能性がある。 一方、課税庁側は、税務訴訟の期日において、法曹である訟務検事に加えて税務の専門家である国税職員(国税訟務官室の訟務官等)が必ず同席することにより、こうした懸念を払拭していることを踏まえると、納税者側においても同様の体制を整える価値は十分にあるはずである。 実際に「補佐人」として税理士が法廷に出廷すべきかどうかは、事前に税務訴訟を担当する弁護士と協議する必要はあるものの、こういった制度があるということは頭の片隅に置いておくのがよいと思われる。   3 税務訴訟における訴訟活動 税務訴訟における訴訟活動では、訴訟提起前までに明らかになった争点及び証拠関係を前提に主張を展開することに尽きる。改めて強調するならば、税務訴訟の判断権者は裁判官という「法曹」であり、経済的実質よりは法律的実質、さらに言えば、【第4回】及び【第5回】で述べたような価値判断を有していることから、これらの点を踏まえた主張を組み立てる必要があるという点である。 【第4回】で述べたとおり、近年の裁判所は、租税公平主義に起因する課税上の弊害等を一定程度考慮しつつも、租税法律主義に基づく文理解釈重視の姿勢を強くしており、さらに最近では、こうした姿勢を財産評価通達に基づく財産評価においても反映させる裁判例(みなし譲渡課税に関する東京高裁平成30年7月19日判決)も登場するに至っている。 〈東京高裁平成30年7月19日判決の判示内容〉 以上を踏まえると、税務訴訟段階での訴訟活動においては、こうした最近の裁判所の姿勢を踏まえ、課税当局の更正処分が租税法、さらには通達の文言に沿ったものであるのかという観点から主張を整理していくといったアプローチが有用である。   連載終了にあたって 本連載では、税理士等と法曹では税務に関する物の見方に相違があることを前提に、やや五月雨式ではありながらも、法曹マインド、とりわけ税務における裁判所の価値判断等のポイントについて順次明らかにしてきた。 重要なのは、こうした税理士等と法曹の物の見方に優劣があるわけではなく、【第10回】でも述べたとおり、両者の違いの所在を理解していくことで、税務調査等の場面において、より適切な見通しを立てることが可能になるということである。 さらに言えば、税務訴訟の場面においては、両専門家が協力・相互に補完して対応することにより、本当の意味で納税者を支援することが可能になる。 本連載が税理士等を中心とする読者の皆様において法曹マインドを理解し、納税者を支援等する上での一助となれば望外の喜びである。 (連載了)

#No. 344(掲載号)
#下尾 裕
2019/11/14

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第20回】「自社の情報漏えいに気がつくためのポイント」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第20回】 「自社の情報漏えいに気がつくためのポイント」   弁護士 影島 広泰   -Question- 自社から情報が漏えいしているかもしれないと思うと不安ですが、実際に漏えいしているかどうかを把握することは容易ではありません。 情報漏えいの兆候は、どこに気をつければ把握することができるでしょうか。 -Answer- システムのログを確認することが重要です。また、退職者が競合他社に転職していないかどうかを確認することも重要です。 これまで本連載で述べてきたような情報漏えいの防止策を講じていても、漏えいを100%防ぐことはできない。それでは、漏えいが発生していることに気づくためには、どこに気をつければよいであろうか。 経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」では、漏えいの兆候を把握するための具体的な方法が記載されている。今回は、これに基づいて漏えいの兆候を把握する方法を解説する。   1 情報漏えいの兆候をどのようにキャッチするか (1) 従業員等の兆候 従業員等の情報漏えいの兆候としては、以下のものが考えられるとされている。 このうち、③~⑤は、特定の従業員が「怪しい動き」をしているということの把握であり、情報漏えいに限らず、不正行為一般についての兆候であるといえよう。 これに対し、①及び②は、情報漏えい特有のシステム的な対応である。すなわち、システムのアクセスログを適切に保存し、定期的に分析していれば、①「最近アクセス数が妙に多い」や、②「特定の従業員が必要のないフォルダにアクセスしている」といったことが分かるはずだ。システムのログは、単に保存しておくだけではなく、定期的に確認することが重要なのである。 (2) 退職者等の兆候 退職者等の情報漏えいの兆候としては、例えば以下のものが考えられるとされている。 本連載の【第17回】で述べたとおり、営業秘密の漏えいは、退職者によるケースが非常に多い。キーパーソンといえる重要な従業員については、退職前後を通じた動き(転職先企業の業務内容を含む)の把握が重要となるといわれている。 前記(1)で述べたシステムのログの確認は、退職の意向を示した従業員に対しては、特に重点的に行う必要があるといえよう。 (3) 取引先の兆候 取引先の漏えいの兆候としては、例えば以下のものが考えられるとされている。 以上のような兆候があった場合には、自社からの営業秘密が漏えいしていないかをしっかりと確認する必要がある(※)。 (※) なお、秘密情報の保護ハンドブックでは、その他に「外部者」による漏えいについても記載されている。必要に応じて参照されたい。   2 「情報漏えいの疑い」を確認する方法 情報漏えいにつながり得る兆候を把握した場合には、放置することなく、漏えいが発生しているかどうかを確認する必要がある。その具体的な方法は、以下のとおりである。 (1) 従業員等による漏えいの疑いの確認の具体例 なお、従業員のメール等をモニタリングする際には、従業員のプライバシーを侵害しないよう、就業規則でルールを定め、必要な範囲でのみ実施するなど、慎重な配慮が必要である(東京地裁平成13年12月3日「F社Z事業部事件」参照)。 (2) 退職者等による漏えいの疑いの確認の具体例 退職者等による情報漏えいの疑いの確認としては、転職先の把握が特に重要である。退職者の競合他社への転職の事実が確認できた場合には、現実的な情報漏えいのリスクがあるからである。 (3) 取引先による漏えいの疑いの確認の具体例 取引先による漏えいには、取引先の従業員が転職先に持ち込むような悪意で漏えいするケースと、取引先の情報管理態勢が杜撰で漏えいしてしまうケースがある。後者には、取引先において上記(1)の対応を社内で講じるよう、守秘義務契約書(NDA)や業務提携契約書などの契約で義務づけておくことが有効であると考えられる。 以下では、悪意で漏えいするケースの具体例を述べる。 以上のとおり、情報漏えいの兆候を把握した上で、漏えいの疑いがあればそれを放置せず直ちに確認する必要がある。 その上で、漏えいの可能性が現実的に存在する場合に初動として何をすべきかについては、次回詳しく解説する。 (了)

#No. 344(掲載号)
#影島 広泰
2019/11/14

プロフェッションジャーナル No.343が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年11月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.343を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/11/07

monthly TAX views -No.82-「中期答申に明記された租税回避スキームの義務的開示」

monthly TAX views -No.82- 「中期答申に明記された租税回避スキームの義務的開示」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   9月26日に公表された、政府税制調査会中期答申「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」(以下、答申)を一読した。新味の少ない答申だが、筆者が興味を惹かれたのは、「納税環境」の部分である。 *  *  * ICTの発達したデジタル経済に課税が追い付いていないという問題は、これまで何度も指摘されてきた。これに対応していくためには、OECDで行われているように税制を見直すことも重要だが、あわせて税務手続・税務行政も見直していくことが必要だ。納税者の利便性の向上、タックス・ギャップを少なくする税務行政など、税務手続面を変えて納税環境を整えていくことがますます重要な役割を持つ。 答申でとりわけ注目される部分は、「富裕層や多国籍企業等による複雑なタックスプランニングについては、BEPSプロジェクトでベストプラクティスとして取り上げられた義務的開示制度(MDR:Mandatory Disclosure Rules)など、諸外国の取組等も参考にしつつ、税務当局が的確に把握できるような仕組みの構築に向けて、検討を行っていくことが重要である」と主張している点だ。 実は、さかのぼる平成29年度の与党税制改正大綱にも、補論だが、租税回避スキームの開発・販売・利用者に税務当局への報告を義務付ける『義務的開示制度』の検討が記されており、宿題となっていた。 この制度は、米国、英国、カナダなどで導入されており、濫用的な(行き過ぎた)租税回避スキームの牽制・抑止を目指すものである。BEPS最終報告書では、開示義務者(プロモーター、利用者・納税者)、開示内容(守秘義務の伴うスキーム、成功報酬のあるスキーム、損出しスキーム等)、開示手続(開示のタイミング等)の3項目について、各国の自主性も尊重しながら導入することを義務付けるという勧告が行われている。 *  *  * 本年7月の本連載に、「一般的否認規定の検討を」と題して、ソフトバンクグループ(SBG)の租税回避問題を取り上げ、「わが国も、鼬ごっこのように続く租税回避に適正に対応するには、他の主要先進国が導入している一般的否認規定(GAAR)の導入に向けた検討を進めていくことが必要」と述べた。 このSBGの租税回避については、来年度税制改正で、抜け穴を防ぐべく法改正を行う議論が行われている。しかし、このようなパッチワーク的対応には限界があり、先行者に大きな利益をもたらす。より根本的な解決は、手続きを明確にした一般的否認規定(GAAR)の導入であり、それに向かう第一歩が義務的開示制度の導入である。 わが国の大部分の正直な納税者が馬鹿を見るようなことはあってはならない。 (了)

#No. 343(掲載号)
#森信 茂樹
2019/11/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例11】「関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例11】 「関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は北関東のとある地方都市で建築資材の製造を行っている株式会社Aにおいて、10年ほど経理を担当しております。私の勤務するA社は、建築資材を総合的に取り扱っているB社の100%子会社で、B社からの注文により多品種小ロットの資材の生産を行い、それらを全てB社に販売しています。 A社はその親会社B社との間で、両社間の取引内容や方法等について覚書を取り交わしており、これまでそれに基づき取引が行われてきました。当該覚書によれば、B社がA社から購入する建設資材の価格は、原則として合理的な原価計算に基づき、両社が協議の上決定すること、及び発注量の大幅な増減、経済的事情の著しい変動が生じたときは、両社が協議の上で購入価格を決定する旨が定められています。 実際の取引価格の決定方法ですが、期中はとりあえず期首に暫定的に決定した「当初取引価格」により取引を行うものの、半年程度経過後において、その時点における実際原価に一定の上乗せ利益を加算した「期末決定価格」を決定していました。このような価格決定方法を採る理由は、両社間の取引は多品種少量の受注生産であり、固定費が約3割を占め、適切な原価計算を行うことが困難であることから、期首においては暫定価格とせざるを得ないためです。 親会社であるB社は、各年度の期末近くになると、A社を含む子会社や関連会社に対し、上記「期末決定価格」と「当初取引価格」との差額に基づき期末における値増・値引調整を決定し、その調整額(期末調整額)を通知していました。 上記に基づき、A社はB社に対する売上に関しては、実際に支払を受けた当初取引価格で計上し、また、期末決定価格の方が当初取引価格よりも低いことに伴い発生する期末調整額につき、売上値引によって経理し、売上計上額から減算処理しています。 ところが、今般受けた税務調査で、当社が売上値引と経理処理した金額について、子会社の利益を親会社に付け替えたものであり、寄附金に該当すると指摘されました。親会社が子会社の経営支援をする際に寄附金の問題が生じ得ることは理解しておりましたが、子会社が親会社に対して寄附をするなどということは理解しがたい主張であり、到底受け入れることはできません。そもそも、当社が親会社との間で行っている取引に関し生じる期末調整額は、実際原価に基づく合理的な原価計算の結果発生するものであり、本来あるべき公正な取引価格への修正と考えられるもので、寄附や贈与とは全くかけ離れた取引実務といえます。 本件についてどのように考えるのが税務上適切なのでしょうか、教えてください。   【A】 A・B社間による本件取引に関し、売上の基礎となる価格(契約価格)は、合理的な原価計算に基づき両社間による協議の上決定される「期末決定価格」と考えられることから、当該「期末決定価格」と「当初取引価格」との差額である期末調整額を売上値引とした場合には、当該値引は寄附金には該当しないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 多品種少量の受注生産取引に係る価格決定方法 親子会社間の取引については、支配・従属関係があり、専ら親会社の意向により取引価格等を決定することが可能となるケースが多いため、両社間による利益や損失の付け替えにより利益調整が可能となるとして、寄附金課税が問題となってきた。 実務上のガイドラインとしては、例外的に、子会社等を整理する場合の損失負担等(法基通9-4-1)や子会社等を再建する場合の無利息貸付け等(法基通9-4-2)があるものの、適用範囲は限定的であり、実務家の頭を悩ます問題となっている。 ところで、本件の寄附金該当性を検討するにあたっては、本件親子会社間取引における価格の決定方法の検討が不可欠であるため、まずこれを確認することとする。 A社は、その親会社B社の注文により多品種小ロットの建築資材の生産を行い、それらを全てB社に販売している。その際の販売価格の決定方法は、以下のステップとなっている。 〇 本件取引関係図 本件のようなA・B社間の取引については、個々の製品の原価構成に様々なバリエーションが生じ得るという多品種小ロット生産という性格から、実際に生産を行わない限り、原価に基づく取引価格の算定が困難であるということが言えそうである。したがって、上記取引価格の算定方法は一定の経済合理性があるものと考えられる。   (2) 裁判例の検討 本事例は、実際の裁判例(東京地裁平成26年1月24日判決・判時2247号7頁・TAINSコード:Z264-12394、確定)に基づいて設定されたものである。したがって、この裁判例の内容について、以下で検討することとしたい。 ① 前提事実 原告は、F社がその住宅用外壁部材等(以下「外壁」という)の製造部門を分社化して設立した同社の100%出資の子会社であり、O事業所及びP事業所の2工場で外壁を製造している。 原告とF社は、平成12年4月1日頃、同日付け「取引基本契約書」及び「購入価格及び支払方法に関する覚書」(以下「本件覚書」という)を取り交わし、外壁の製造・売買に関する合意をした。 Fグループ各社では、各半期の決算月である9月と3月に、「生産会社方針検討会」を開催し、F社の関係役員と本件各子会社の代表者が参加して、主に、本件各子会社の当半期の実績見込み、次半期の生産見込棟数及びその見込棟数を基にした生産原価の改善施策等について協議していた。また、Fグループ各社では、10月と4月に開催される「コスト検討会」において、本件各子会社の業務部長等が参加して、原価の削減等に関して協議していた。 各半期における「生産会社方針検討会」の開催後、F社は、原告に対し、「購入価格暫定通知の件」などと題する書面により、各半期の期初の前日までに、原告から購入する外壁について、期初における取引価格(以下「当初取引価格」)を設定して通知していた。 F社は、本件各子会社に対し、各半期の期末において、期末における値増・値引調整を決定して、「期末値増・値引調整決定の件」、「ユニット購入単価決定通知の件」などと題する書面により、その調整額(以下「期末調整額」)を通知し、これに基づくユニット購入単価の変更を依頼していた。また、F社は、原告に対し、平成16年3月期下期から平成17年3月期下期までの間、半期の中間において、「購入単価変更依頼について」などと題する書面により、単価の変更依頼を行い、その調整額(以下「期中調整額」)を通知していた。 F社と原告は、①各半期の期首以降、外壁の代金として、当初取引価格による金額を支払い、原告はこれを売上として処理した上、②平成15年3月期上期から平成16年3月期上期までは、各半期の期末において、期末調整額につき、売上値引きにより処理を行い、平成16年3月期下期から平成17年3月期下期までは、各半期の中間以降において、期中調整額につき、単価変更又は売上値引きにより処理をした。 ② 争点 本件売上値引き及び本件単価変更に係る金額が、法人税法37条に規定する寄附金に該当するか。 具体的には、 という点である。 ③ 裁判所の判断 ④ 裁判所の判断に対するコメント [1] 期末調整額の性格に対する評価 本裁判例は、裁判所が親子会社間取引に係る取引価格の決定方法を、事実関係に即して丁寧に認定し、当初取引価格と期末決定価格との関係を正確にとらえた上で、その差額である期末調整額の性格を適切に判断しているものと評価できる(※)。 (※) 金子名誉教授は、本裁判例に関し、「期首までに暫定的に定めた当初取引価格を両社間の合意に基づき期末決定価格により減額した場合の差額は、市場における価格の低落その他の合理的な理由がある場合には、親会社に対する寄附金ではなく、損金にあたると解すべきであろう」と述べている。金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)410頁。 被告・課税庁は、当初取引価格は合理的な原価計算に基づき決定されたものであるから、本件販売契約において合意された取引価格であると主張する。当該主張に基づき、本件売上値引及び本件単価変更は、単に原告の利益をF社に付け替えるだけのものであって、通常の経済取引として是認できる合理的理由はないとし、その結果生じる売上の減算額は寄附金に該当するとした。 課税庁の当該主張に対し、裁判所は、 ことから、「有償支給価格及びこれに1.000を乗じて定められた当初取引価格が、本件各事業年度の各半期における合理的な原価計算の基礎に立つものとして決定されたものであると認定することは、当事者の客観的な意思解釈としても、相当困難があるといわざるを得ない」と被告の主張を斥けている。 すなわち、当初取引価格は次に見るとおり「暫定的」なものであり、期中の市場動向の変化により価格は変動するので、それを反映した適正かつ合理的な原価計算により正確な価格算定を行う必要性が是認されるのである。 [2] 当初取引価格の暫定性 当初取引価格の「暫定性」は、裁判所が指摘する通り、 等から明確に認められるものであり、課税庁の主張の「粗」が目立つ結果となった。   (3) 本件への当てはめ A社(子会社)とB社(親会社)間による本件取引に関し、売上の基礎となる価格(契約価格)は、暫定的な性格を有する「当初取引価格」ではなく、合理的な原価計算に基づき両社間による協議の上決定される「期末決定価格」と考えられることから、当該「期末決定価格」と「当初取引価格」との差額である期末調整額を売上値引とした場合には、当該値引は寄附金には該当しないものと考えられる。 (了)

#No. 343(掲載号)
#安部 和彦
2019/11/07
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