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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第9回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法上の目的論的事実認定の過形成②-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第9回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法上の目的論的事実認定の過形成②-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、「租税法律主義と実質主義との相克」について、税法上の目的論的事実認定の過形成①として、私法上の法律構成による否認論の意義及び狙い・位置づけを述べた上で、租税法律主義の見地からその許容性を否定する私見を述べたが、今回は、私法上の法律構成による否認論について判例がどのような立場に立っているかを検討することにしたい。 既に前回、下級審において①映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁、②ガーンジー島法人所得税制事件・東京高判平成19年10月25日訟月54巻10号2419頁、③住所国外移転[武富士]事件・東京高判平成20年1月23日訟月55巻2号244頁等で、私法上の法律構成による否認論(②③については、これより射程の広い事実認定による否認論)が採用されたものと解される旨を述べたが、今回は、それらの事件の上告審において、最高裁がどのような判断を示したのかを検討することにする(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第3章第2節参照)。 前記の3つの事件のうち②及び③においては、最高裁が高裁の判断を直接否定したものと解される判断を示した(【73】【75】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。まず、これらの事件からみておこう。 なお、前々段落では括弧内で、事実認定による否認論の方が私法上の法律構成による否認論よりも射程が広い旨を述べたが、それは、②ではガーンジー島の法人所得税の性質決定が、③では住所の判定という、私法上の法律関係ないしその法形式に係る契約解釈とは異なる、課税要件事実の認定が、それぞれ問題にされていたからである(課税要件事実の認定の意義については【56】参照)。私法上の法律構成による否認論は、私法上の法律関係ないしその法形式という課税要件事実についてその認定(契約解釈)が問題にされる場合における、事実認定による否認論である。以上のことを考慮して、以下の見出し等では、「事実認定・私法上の法律構成による否認論」と表記することにする。   Ⅱ 事実認定・私法上の法律構成による否認論「直接否定」判例 1 ガーンジー島法人所得税制事件 本件は、内国法人がタックス・ヘイブンとして有名なガーンジー島(英国王室領)に所在する子会社に、課税方式や税率の選択を認める同島法人所得税制において、当時のタックス・ヘイブン対策税制(租特66条の6)のいわゆるトリガー税率(25%)を若干上回る税率(26%)を選択させることによって、同税制の適用を回避しようとした事案である。課税庁はガーンジー島法人所得税(本件外国税)について、「税という名称にもかかわらず、その実質は、外国法人に本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるサービスを提供するための対価といい得るもの」と認定することによって、タックス・ヘイブン税制のトリガー税率に係る「外国法人税」該当性を否定した。 つまり、課税庁は、本件外国税の性質決定という事実認定によって本件外国税の「外国法人税」該当性、したがって「外国法人税」の納付の事実そのものを否定し、もってタックス・ヘイブン対策税制の適用要件の充足を主張したのであるが、これは事実認定による否認論に基づく主張である。東京高裁は、次のように判示して課税庁のこの主張を認めた(下線筆者)。 これに対して、最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁は、ガーンジー島法人所得税の「外国法人税」該当性の判断に当たって、❶確立された判例上の租税概念、すなわち、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付」(旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁。大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁も同旨。第3回Ⅱ参照)に照らして、「本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。」と判断した上で、❷関係法令の解釈によって「外国法人税」該当性を肯定した。 最高裁は、前記❶の判断に関して次のように判示している(下線筆者)。 この判示においては、2段落目の「しかし」以下の2つの文章が同じく判例上の租税概念の要素を肯定する判示でありながら、両者の間に、それぞれの表現の点で消極的肯定(「否定することはできない」)と積極的肯定(「明らかである」)という際立った違いが認められる。このことは、最高裁が2段落目の2つ目の文章で、本件外国税の非対価性は「明らかである」として租税該当性に関する積極的肯定の判断を示すことによって、原審とは異なり、本件外国税をタックス・ヘイブン対策税制適用回避の対価として性質決定するという、事実認定による否認論を採用しないことを明らかにしたものと解される。 2 住所国外移転[武富士]事件 本件は、国外に移転した財産の贈与に対する贈与税の課税を、受贈者が住所を香港に移転することによって、回避しようとした事案である。本件において、課税庁は当初から、贈与税回避の目的で香港に渡航したことは贈与税の課税における「住所」の認定において十分に考慮されなければならない旨を主張していたが、これも事実認定による否認論に基づく主張である。 東京高裁は「住所」該当性の判断基準について次の❶の判示を行った上で、「租税回避の目的等」について次の❷の認定を行った。 東京高裁は、❶にいう「外部から客観的に認識することができる居住者の居住意思」の認定において❷の事実をも考慮することによって「被控訴人の居住意思の面からみても、香港を生活の本拠としようとする意思は強いものであったとは認められない」として、客観的事実との総合判断の結果、被控訴人の住所は国内にあると認定し、課税庁の前記の主張を認めた。 これに対して、最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁は、「住所」該当性の判断基準について判例に従って次の❶の判示を行った上で、次の❷の判示(下線筆者)に基づき原審による住所の認定を否定した。 最高裁は上記❷の下線部で住所の認定における「贈与税回避の目的」(租税回避目的)の考慮を明示的に否定していることからすると、租税回避目的を事実認定において「重要な間接事実」として考慮する、事実認定による否認論(前回Ⅱ1参照)を採用しない立場を明確に示したものと解される。 なお、最判平成29年1月31日民集71巻1号48頁は養子縁組無効確認請求事件において以下のとおり判示したが(下線筆者)、この判断は租税事件における判断ではないものの、住所の認定に関する最高裁の前記の判断の系譜に属するものと考えられる。   Ⅲ 事実認定・私法上の法律構成による否認論「間接否定」判例 最後に、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件をみておこう。本件は、いわゆるセール・アンド・リースバック取引を基本とする、循環金融との複合的な「売買契約」(本件売買契約)により「取得」した映画フィルム(本件映画)の減価償却費を利用したタックス・シェルター(費用・損失控除等の租税利益を人為的あるいは殊更に発生させ、これによって課税所得を打ち消す(shelter)ことを目的とする投資をいい、租税回避の一種である。【69】参照)の事案である。 本件において、課税庁は「本件売買契約は事実認定・私法上の法律構成による否認により、売買契約としては不成立ないし無効であるとして、本件映画が減価償却資産には当たらない」と主張した。この主張は、本件売買契約の不成立・無効を認定することによって本件映画の「取得」を否認し、もって本件映画の減価償却費の損金算入を否認するための主張であると解されるが、大阪高裁は次のように判示して課税庁のこの主張を認めた。 これに対して、最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁は、結論としては原審と同じく本件映画の減価償却費の損金算入を否定したものの、理由づけに関しては、原審が採用したと解される事実認定・私法上の法律構成による否認論に(少なくとも明示的には)言及することなく、次のように判示して(下線筆者)、法人税法31条1項の解釈に基づき本件映画の減価償却資産該当性を否認し、もって上記の結論を導き出した。 この判決に関する調査官解説では、「本判決は、租税回避行為につき、税法に明文の根拠のない一般的な否認法理を用いることなく、個別の税法の規定の要件解釈により対処するという方向性を示したものということができ、重要な意義を有するものと考えられる。」(谷口豊「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成18年度(上)163頁、184頁。下線筆者)という評価がなされている。 この調査官解説にいう「税法に明文の根拠のない一般的な否認法理」は事実認定・私法上の法律構成による否認論を指すものと解されるが、同解説は、最高裁が同否認論を「用いることなく」と述べているだけであって、同否認論を否定したとは述べていない。したがって、「私法上の法律構成による否認を否定するものではなく、そのことについての判断を避けた上で、減価償却資産の別な課税要件の存否で決したものと考えられる。」(今村隆「判批」ジュリスト1333号(2007年)146頁、148頁)との見方も成り立ちはするかもしれない。 しかし、大阪高裁が事実認定・私法上の法律構成による否認論によって本件映画の「取得」を否認したのに対して、最高裁は本件映画の「取得」それ自体は否認していないと解される。というのも、最高裁は本件映画に関する権利について「移転している」、「失っている」と説示しているが、そのような説示は、論理的には、本件映画に関する権利の「取得」を前提としているはずであるからである。「取得」していないものについて、もし「移転している」、「失っている」と判断しているとすれば、その判断が論理的に破綻していることは明らかである。 本件映画の「取得」に関しては、確かに、判決文では「・・・・・・を取得したとしても」という表現が用いられており、その点を捉えて「仮定的に判断している」(今村・前掲147頁)と理解することもできるかもしれない。しかし、その表現を用いた説示が傍論の中での説示であれば格別、判決理由(民訴253条1項3号)の中での説示である以上、「仮定的に判断している」という理解は妥当でない。というのも、仮定的な判断は、判決理由すなわち「判決において主文の判断を導くに至った前提をなす事実の認定や法の適用を示して主文に至る判断経路を明らかにする部分」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)1087頁)においては、不要な判断であるからである。もし最高裁が仮定的な判断を前提にして主文の判断を導くようなことをするのであれば、その主文の判断はまさに「砂上の楼閣」の如き判断といわざるを得ないことになろうが、そのような判断を最高裁がするとは到底考えられない。 そうすると、「・・・・・・を取得したとしても」という表現は、「仮定的に判断している」ことを意味するものではなく、その表現を用いた説示を含む一文の前後の文脈からすると、本件映画に関する権利のほとんどは他に「移転している」、本件組合は実質的には本件映画についての使用収益権限及び処分権限を「失っている」、というような状態に至っては、その前に「本件映画に関する所有権その他の権利を取得した」という事実の認定は、もはや、主文に至る判断にとって直接的には重要でないということを意味するものと解される。 以上により、最高裁は、事実認定・私法上の法律構成による否認論を直接正面からは否定してはいないが、事実認定のレベルでは本件映画の私法上の「取得」を肯定する認定を前提としつつも、「[法人税法31条1項という]個別の税法の規定の要件解釈」によって定立した減価償却資産に係る規範に本件映画は当てはまらないと判断したものと解され、その意味で事実認定・私法上の法律構成による否認論を少なくとも間接的には否定したものということができるように思われる。   Ⅳ おわりに 事実認定・私法上の法律構成による否認論について、筆者が否定的な立場に立つことは前回述べたところであるが、今回の検討からして、判例も直接的又は間接的に否定的な立場に立つものと考えられる。 このことは、判例が前記の調査官解説にいう「税法に明文の根拠のない一般的な否認法理」を採用しなかったという意味で、租税回避論において重要な判断を示したものといえる(租税回避論については、いずれ改めて詳しく検討することにしたい)とともに、税法上の目的論的事実認定の過形成(前回Ⅳ参照)を阻止したという意味で、税法上の事実認定論において重要な意味をもつといえよう。 (了)

#No. 314(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/04/11

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第1回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第1回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   連載に当たって 収益をいつ、いくらの金額で計上すべきであるかは、法人税法上の所得金額を適正に計算するために、極めて基本的かつ重要な論点の1つである。これまで、かかる収益の年度帰属(計上時期)及び収益の額の論点を規律する最も重要な規定は、法人税法22条という所得計算の通則規定であったが、平成30年度税制改正では、法人税法22条よりも、資産の販売等に係る収益に関して明確で具体的な内容を有する法人税法22条の2がここに加えられた。 法人税法22条の原型は、1965年(昭和40年)の法人税法全文改正で作られた。同条に関する改正を振り返ると、1967年(昭和42年)に公正処理基準に従った計算を要請する規定(現行法4項)が挿入され、その後、1998(平成10)、2000(平成12)、2006(平成18)、2010(平成22)年で資本等取引(現行法5項)に関する細かな改正がなされたのみである。よって、インパクトのあるものとしては、今回の改正は1967年(昭和42年)以来のものといってよい。 今回の改正は、2018年3月30日に民間の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)によって公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」又は「基準」という)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」又は「指針」といい、設例部分を「指針設例」という)に伴うものである。 租税法の代表的な教科書においては、「収益および費用の年度帰属をめぐって、きわめて多くの租税争訟が生じているが、これらの個別の問題の大部分については、企業会計上その取扱は白紙の状態である」ことが指摘されてきたが(金子宏『租税法〔第23版〕』350頁(弘文堂2019)の脚注20)、収益の認識については、わが国にも包括的で詳細な会計基準が誕生したことになる。 連結財務諸表のみならず個別財務諸表にも適用されるこの収益認識会計基準は、実現主義や販売基準などの収益に係る諸原則を定める企業会計原則に優先するものとされている。仮に、収益認識会計基準と法人税法それぞれにおける収益認識のルールが相違する場合には、企業は法人税の申告に当たり、煩雑な申告調整を強いられる可能性もある。 中小企業は、収益認識会計基準を強制適用されるわけではないが、任意に適用することは可能である。とはいえ、平成30年度税制改正で導入された資産の販売等に係る収益に関する改正規定は、その適用に当たり、直接的には、収益認識会計基準を適用しているか否かを問うものではない。すなわち、中小企業にも適用されうるものである。また、平成30年度税制改正では、返品調整引当金や長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例といった既存の規定を廃止等する改正も行われている。これらの点で、中小企業にも改正の影響があることはいうまでもない。 では、改正法はその具体的内容という面において、どのような、どの程度の影響力があるというべきか。この点は即答が難しい。資産の販売等に係る収益に関する改正規定が実務の中でどのようにワークし、実際の適用場面でいかなる問題を提起するのか、という点について、現段階で詳説することは困難である。しかしながら、政令を含む改正規定及び改正された関係通達の下で、実務は動き出している。 本連載は、このような状況に鑑み、資産の販売等に係る収益に関する改正規定(法人税法22条の2)の逐条解説や収益の計上に関する事例の研究等を通じて、今後、様々な場面で起こりうる問題又は紛争の予防ないし解決にいくらかでも貢献することを目的とする。 - 留 意 点 - 本連載は、財務省主税局又は国税庁の解説や通達等の内容をそのまま情報提供することを意図するものではない。主税局が公表する税制改正の解説は時に立案担当者の説明として重視されるものであるし、国税庁が公表する通達やQ&Aなどは、一般に、難解で抽象的な税法の条文をわかりやすく具体的に解説する点で納税者にとって有益なものである。 しかしながら、これらはあくまで法令の内容を理解するための参考資料にすぎない。租税法の世界には、租税の賦課・徴収は必ず法律の根拠に基づいて行われなければならないという峻厳なる租税法律主義の原則が存在する(憲法30、84)。かかる原則の面前では、法律ではなく、また、法律からの委任によって制定されたものではない当局の解説や通達等が直接的には法規範性を有していないことの意義を軽視することはできない。 以上を踏まえて、本連載では、新しく制定された法人税法22条の2及び関連する条文等に軸足を置いて、法的な観点から考察を進める。 《本連載の構成(予定)》 本連載は次のような構成で進めることを予定している。   第Ⅰ部 収益認識会計基準の概要 第Ⅰ部では、収益認識会計基準の内容を概観する。収益認識会計基準及び適用指針の詳細については、本誌掲載の他の解説を参照されたい。 1 目的と適用範囲 収益認識会計基準は、同基準第3項及び第4項の範囲に定める収益に関する会計処理及び開示について定めることを目的とする。かかる範囲に定める収益に関する会計処理については、「企業会計原則」に定めがあるが、本会計基準が優先して適用される(基準1)。収益認識会計基準の適用に当たっては、適用指針も参照する必要がある(基準2)。 収益認識会計基準は、次のものを除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(基準3)。 顧客との契約の一部が上記(1)から(6)に該当する場合には、上記(1)から(6)に適用される方法で処理する額を除いた取引価格について、収益認識会計基準を適用する(基準4)。 このほか、次の点に留意する。   2 基本原則と収益認識ステップ 本会計基準の基本となる原則は、次のとおりである(基準16)。 理解を深めるために、あえて分解すると次のようになる。 この基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用する(基準17)。 【図表:ステップの見取図】 ステップ2は、契約中に財又はサービスの移転に係る約束が2つ以上含まれている場合に、これを履行義務として、区別して、識別するものである。基本的に、契約中に1つの約束しかない場合には行う必要がない(ステップ4も同様)。もっとも、ステップ5において、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識することになるから、いずれにしても契約を履行義務として捉えておく必要がある。 かように、収益認識会計基準は、契約単位ではなく履行義務単位で収益を認識するのである。 指針設例1を参考に、各ステップのフローを説明すると、次のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   3 適用時期 収益認識会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される(基準81)。 次のとおり、早期適用も可能である。   4 適用対象企業 収益認識会計基準が適用されるのは、上場会社など金融商品取引法の規制の適用対象会社及び大会社など会社法上の会計監査人を設置している会社である。 中小企業においては、企業会計原則、中小企業の会計に関する指針又は中小企業の会計に関する基本要領等が適用される。中小企業に収益認識会計基準が強制適用されるわけではない。もっとも、中小企業が企業会計基準を適用することは妨げられないため、収益認識会計基準を適用することも可能である。 また、連結財務諸表の連結範囲に含まれる子会社である中小企業について、「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一する」とされていることに注意が必要である(企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」17)。なお、収益認識会計基準は、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めることとしている(基準99)。   5 第Ⅰ部のまとめ 第Ⅰ部では、次回以降における考察に差し当たり必要な範囲で収益認識会計基準の概要を確認した。同基準の内容について、現段階で理解しておきたいことを要約すると、次のとおりとなる。 (了)

#No. 314(掲載号)
#泉 絢也
2019/04/11

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第4回】「親族内に後継者がいない場合の事業承継対策」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第4回】 「親族内に後継者がいない場合の事業承継対策」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私Aは、健康食品の製造販売を営む非上場会社Y社の3代目社長です。創業者である祖父B、2代目社長の父CからY社の事業を承継し、20年かけて事業を拡大させてきた結果、従業員数は200人を超え、売上・利益ともに順調に拡大を続けています。 私も60代後半となり、後継者へのバトンタッチを考えなければならない年齢に差し掛かっているのですが、私には子供がおらず、親族の中にも会社経営を任せることができるような者が見当たりませんので、同族経営にはこだわらず、当社を経営していく意志と能力のある人に会社を継いでもらいたいと考えています。 メインバンクからはM&Aの提案も受けましたが、従業員の雇用の維持や、取引先にも迷惑をかけたくないので、事業をスムーズに継続することができるように、社内の役員・従業員の中から後継者を決めて事業承継を行いたいと考えています。 この場合、どのような方法で自社株の承継を進めればよいでしょうか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 役員・従業員への事業承継 近年の少子化や価値観の多様化により、経営者に子供がいない、または、子供がいても会社を継がないケースが増加しています。子供や親族への事業承継は「親族内承継」、親族以外の後継者への事業承継は「親族外承継」といわれていますが、親族内の後継者を確保することができない等の理由から、親族内承継の割合が減少し、親族外承継の割合が増加しています。 親族外承継には、大きく分けて、①役員・従業員への事業承継、②M&Aによる事業承継の2つがあり、いずれも増加傾向にありますが、なかでも役員・従業員承継の割合は近年、急増していると言われています(中小企業庁「事業承継ガイドライン」(平成28年12月)P16)。 オーナー経営者の下で長期間働いてきた役員・従業員への事業承継は、経営方針の一貫性が保たれやすく、オーナー経営者が築き上げてきた企業理念や文化もそのまま承継されることが多いようです。また、従業員の雇用や取引先との関係なども維持されることが多く、利害関係者の不安も少ないことから、M&Aに比べて理解が得られやすい方法とされています。 役員・従業員への親族外承継における大きな課題であった後継者の株式購入資金の問題については、持株会社を活用するMBO(Management Buy-Out:マネジメント・バイアウト)や、従業員持株会、投資育成会社などの安定株主対策を活用するスキームなどが普及してきたこと、事業承継税制の対象に親族外の後継者が加えられたこと、などもあり、後継者の負担を抑えつつ事業承継を行うことが可能な環境が整いつつあります。   [2] MBOによる場合 親族外承継におけるMBOとは、会社の役員又は従業員(従業員が行うものをEmployee Buy out:エンプロイー・バイアウトと呼び、EBOと略されることもあります)である後継者が、オーナー経営者から株式の譲渡を受ける事業承継スキームです。 後継者となる役員・従業員が、オーナー経営者から株式を買い取ることを目的とした持株会社を設立し、金融機関から資金調達をしてオーナー経営者の保有株式を取得することが一般的です。 持株会社は、対象会社からの配当金を原資として借入金を返済するか、あるいは、持株会社と対象会社を合併させて、対象会社の現金預金を原資として借入金返済を行う場合もあります。 スキームの概要は下図のようになります。 【MBOによる親族外承継】   [3] 安定株主対策により後継者の負担を少なくする場合 親族外の後継者は、たとえ後継者に指名されるような人物であっても資産の蓄えがないことが多く、オーナー経営者から株式を取得するために多額の株式購入資金を準備することが容易ではありません。また、金融機関から多額の融資を受けることや、債務保証を受けることに難色を示すことも想定されます。 そこで、オーナー経営者が株式の譲渡対価に執着しない場合や、金銭面よりも会社の存続を優先したい場合には、役員持株会や従業員持株会に配当還元価額などの比較的低い価格で株式を保有してもらう安定株主対策を活用した承継スキームを採用するケースが増加してきています。 次世代経営陣による役員持株会、従業員持株会、外部株主ではあるものの経営方針に賛同し、長期間にわたって株式を保有してくれる投資育成会社(※)のような安定株主に一定割合の株式を保有してもらうことで、後継者となる役員・従業員が承継すべき株式の数を減らし、株式の取得に要する費用を抑えることが可能です。 (※) 地方自治体や金融機関が主要株主である政策実施機関で、安定的な配当を条件に株式を引き受け、長期間にわたって株式を保有しながら、中小企業の成長発展を支援する法人です。 スキームの概要は下図のようになります。 【安定株主対策による親族外承継】   [4] 親族外の後継者への事業承継税制の適用 親族外の後継者に対して贈与税の納税猶予(措法70の7の5)を適用した場合、後継者は贈与税・相続税の負担なく自社株式を承継することが可能です。 一方、オーナー経営者の相続人は、後継者に贈与された自社株式が相続税の課税対象に含められ、相続税負担が増加する結果となります。贈与税の納税猶予の対象となった株式の贈与者であるオーナー経営者に相続があった場合、株式の贈与を受けた後継者(役員・従業員)が遺贈により株式を取得したものとみなして、相続税を計算することとされているためです(措法70の7の7)。 相続税の計算にあたっては、自社株式を他の相続財産と合算し、相続税の総額を計算することとなりますので、納税猶予の適用を受けられない相続人は、自社株式の高い評価額を加味した税率により算定された相続税額を応分に負担しなければなりません。 オーナー経営者に自社株式を承継しない相続人がいる場合には、遺留分への対応や、オーナー経営者の相続人と親族外の後継者が共同して相続税の申告を行う相続税申告の過程において、オーナー経営者の遺産内容が後継者に知れてしまうという問題についてもあらかじめ考慮しておかなければなりませんので、事業承継税制を活用することは現実的ではありません。   [5] 結論 オーナー経営者が相応の譲渡対価を得る必要がある場合には、役員・従業員へのMBOによる親族外承継か、従業員承継が難しい場合にはM&Aによる株式売却を選択せざるを得ないでしょう。親族への事業承継でない以上、相応の対価を求めるのは自然なことと言えます。 一方、オーナー経営者が金銭面に執着せず、会社存続のためなら配当還元価額などの比較的低い価格で株式を手放しても構わないと考える場合には、「安定株主対策」による親族外承継により、後継者たる役員・従業員が少ない負担で株式を承継することが可能となります。 【事業承継スキーム選択フロー】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 上記は一例であり、様々な条件によって、必ずしも最適な選択になるとは限りません。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 314(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/04/11

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第46回】「萬有製薬事件」~東京高判平成15年9月9日(高等裁判所民事判例集56巻3号1頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第46回】 「萬有製薬事件」 ~東京高判平成15年9月9日(高等裁判所民事判例集56巻3号1頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 314(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/04/11

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第23回】「事業環境の分析(その1)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   《第2章》 -収益力の把握と事業計画の検討- 第1節 事業環境の分析 【第23回】 「事業環境の分析(その1)」   ▷事業環境分析の必要性 M&Aによって他の会社を買収する場合、実態純資産の把握を通じて、買収後、自社に帰属する資産負債の内容や性質を把握すると同時に、買収対象会社の収益性についても評価する必要がある。 買収対象会社の有する収益力の源泉を把握した上で、これを活用することで得られる効果を分析することは、M&Aの対価の決定に直結する事項であると同時に、M&Aの効果を今後の自社の事業計画に織り込むという意味で、買収後の「のれん」の評価にも関連する重要な事項である。 買収対象会社の収益力は損益計算書やキャッシュフロー計算書に表示されているはずであるから、過年度の損益計算書等を分析する必要があることは当然であるが、それでは買収対象会社の過年度の損益計算書に表示されている収益性は、買収後も同様に継続すると言えるであろうか。 こうした疑問に答えを出すためには、買収対象会社が過去に獲得した収益について、獲得当時の事業環境を把握した上で、当該収益環境が今後も同様に継続するか否か、について分析する必要があるだろう。 また、例えば買収対象会社の過去の業績に一時的な経済要因等に基づく「特需」のようなものが混在している場合、当該経済要因が再び生じない限り、同じ水準の業績は達成できないかもしれない。 このように、買収対象会社の過去における業績達成に至る事業(収益)環境を把握し、当該環境要因の変化の有無等について分析することで、今後の事業環境を予測し、どの程度の収益環境が継続しそうと言えるか、について把握・分析するプロセスが「事業環境分析」であると言える。   ▷同業種の買収にも事業環境分析は必要か 例えば、自社と全く同種の製品等を製造しているライバルメーカーを買収する場合であれば、対象会社の事業を取り巻く環境は自社と同一であるから、今後の収益環境はわかっているので事業環境分析は要しない、というケースも場合によってはあるかもしれない。 しかしながら、たとえ同一業種に属する会社の買収であっても、個々の会社の事業環境は、例えば地域によって特殊性を有しているかもしれないし、ターゲットとしている顧客層や販売戦略も実際は異なっているかもしれない。収益の源泉である「強み」や、人員構成・設備能力に起因するコスト構造にも何らかの違いがあるかもしれない。さらに、これらの要因は、買収を通じて何らかの変化を余儀なくされるかもしれない。 現状の収益環境を形成している前提条件とも言うべき事業環境要因の把握・分析は、同業種のM&Aであったとしても必要と言えよう。   ▷事業(収益)環境の分析対象領域 分析の対象となる事業(収益)環境は、M&Aの対象会社が展開しているビジネスモデルがどのようなものであるか、どういった領域で強みを有していて、収益の源泉がどこにあるのか、それは競合他社とはどのように異なっていて、該当する市場内でのポジションはどのように評価されているのか等、広範な領域に関する考察が必要となる。 分析対象とすべき領域を例示すれば以下のとおりである。 分析対象とすべき事業環境は、自社でコントロール可能な領域とそうではない領域、環境変化が自社に直接影響する領域とそうではない領域等、多岐にわたっていることから、事業環境の分析に際しては以下のようなフレームワークを用いることが一般的である。   ▷外部環境分析のフレームワーク 外部要因を分析するためのフレームワークには様々なものがあるが、代表的なフレームワークとして、例えば以下のような手法が挙げられよう。 〈PEST分析〉 企業を取り巻くマクロ経済環境の中から、企業の経済活動に影響を及ぼす要素とその影響度などを把握・分析するもので、マクロ環境を「政治」、「経済」、「社会」、「技術」の4つの要素に分解して把握するものである。 例えば政治的要因として、受動喫煙に対する条例が施行されることで飲食業を営む買収対象企業の業績にどのような影響が生じるか、経済的要因として為替相場が円安方向に振れた場合、製品をドル建てで輸入している小売業の採算にどのような影響が生じるか、等をM&A実行前の段階で把握しておくことは、M&A実行後の事業計画の精度向上、計画の実現可能性の向上に重要であることは言うまでもないであろう。 また、例えば買収対象企業がB to Cのビジネルモデルである場合、社会的要因として商圏人口の減少が顕著である場合には、業績維持には来店機会の向上施策等が不可欠となろう。 〈5Forces分析〉 企業の競争戦略立案のために考案されたミクロ環境分析のための手法で、自社を取り巻く5者のプレーヤー、「競合他社」、「新規参入」、「代替品」、「売り手(供給業者)」、「買い手(ユーザー)」の相互の力関係を把握・分析するものである。 一般的には工業用の原材料や一般顧客向けの汎用品等は競合との競争が激しく、代替品の脅威も恒常的に高いものの、生産者はメーカーであることから規模が大きい場合が多く、参入障壁が高く、売り手や買い手との価格交渉力も相応に有しているケースも多いであろうし、他社の追随を許さない独創的な製品を提供する中小企業の場合は、新規参入や代替品の脅威が低い代わりに、価格交渉力も相対的に低い場合があるかもしれない。 M&Aで当該事業を買収した場合、こうした力関係がどのように変化するか、例えば相対的に低い価格交渉力を高めることが期待できる場合、そのM&Aは弱点を埋めることのできる有望な案件と言えるかもしれない。 (了)

#No. 314(掲載号)
#石田 晃一
2019/04/11

改めて確認したいJ-SOX 【第3回】「内部統制の評価範囲の決定方法」

改めて確認したいJ-SOX 【第3回】 「内部統制の評価範囲の決定方法」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   今回より、内部統制報告制度(以下、「J-SOX」という)の概要について説明します。 上場会社の経営者は、金融商品取引法に基づき、財務報告に係る内部統制について評価し、評価結果を公表しなければなりません。財務報告に係る内部統制の有効性は、財務報告そのものの信頼性に影響するため、財務報告に関連する内部統制はすべて評価することが望ましいでしょう。 しかし、現実にはそのような実務は行われておらず、「重要」と考えられる内部統制だけを評価しています。 今回は、こういった疑問にお答えすべく、内部統制の評価範囲をどのように決定するかをテーマに説明します。   1 評価範囲の決定方法の概要 内部統制の評価範囲の決定方法は、大きく分けて2つアプローチの仕方があります。 1つは、「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価範囲とする方法」であり、もう1つは、「財務報告への影響の大きい業務プロセスを評価範囲とする方法」です。 【図表1】 評価の範囲の決定方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。 まず、前者のアプローチで評価対象とする業務プロセスを決定し、次に、後者のアプローチで不足がないよう網羅的に業務プロセスを拾い上げるといったイメージです。 実際に評価の範囲を決定する際は、【図表1】に記載されている以外にさまざまな留意事項があるため、以下ではそれぞれの項目ごとに詳細を説明します。   2 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチ (1) 全社的な内部統制の評価 ① 評価に関する考え方 評価する内部統制を決定するにあたって、まず、全社的な内部統制を評価することが求められます。 なぜ、評価する内部統制をすぐには決定せず、先に全社的な内部統制を評価するかというと、評価が必要な内部統制を絞り込み、トータルでの実務上の負担を軽くするためです。 これが、J-SOXの特徴の1つである「トップダウン型のリスク・アプローチ」と呼ばれるものです。 全社的な内部統制の評価が良好であれば、財務報告に係るすべての内部統制を評価しなくても、重要な事業拠点の内部統制のみ評価すれば、財務報告の信頼性を確保する内部統制が概ね有効に機能しているといえる、という考えです。 そのため、ふるいにかけるという意味で、原則的には全社的な内部統制はすべての事業拠点について評価すべきです。 ただ、J-SOXでは実務上の負荷に配慮して、次のように取り扱っています。 【図表2】 全社的な内部統制の評価 多くのグループ企業を抱える企業では、すべての事業拠点について全社的な内部統制を評価することは大変手間がかかり、現実的ではありません。 また、仮に零細な事業拠点で、全社的な内部統制が良好でなく、財務諸表に誤りがあるのではないかといったことが懸念されるような状況であったとしても、全体でみれば微々たるもので、財務報告の信頼性を揺るがすものではないと考えられます。 そのため、【図表2】のように取り扱われています。 ② 評価範囲から外す際の留意点 財務報告に対する影響の重要性が僅少な事業拠点に該当するかどうかについて、どの程度なら「重要性が僅少」といえるのかが、実務上迷うところだと思います。 この点について、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅱ2(2)の(注1)では、次のように例示されています。 実務的には、この例示に従って、売上高を各社合算し、その合計額の95%以内にない事業拠点を「重要性が僅少」とするケースが多いようです。 売上高だけで判定せず、「総資産や利益額など他の項目で見ても全体の95%以内にないかどうか」といった確認をしているケースも見受けられます。 【図表3】 全社的な内部統制の評価対象の決定イメージ 「売上高」や「95%」はあくまで例示のため、①で説明したように、仮に問題があったとしても財務報告の信頼性を揺るがすほどのものではないといった結果にたどり着けるように、指標や数値は必要に応じて見直す必要があります。 また、監査法人などの監査人が必要と考える評価範囲と異なっていると、二度手間となってしまうため、最終的には監査人と協議のうえ決定することが効率面から望ましいと思います。 なお、実務上は前年度において全社的な内部統制を評価していることが多く、特に状況に変化がなければ、前年度の評価結果が当年度も継続すると仮定して、全社的な内部統制を評価する前に内部統制の評価の範囲を暫定的に決定することが多いと考えられます。 (2) 重要な事業拠点の選定 全社的な内部統制を評価した後は、評価対象とする内部統制を絞り込むため、事業拠点を絞り込みます。絞り込まれた重要な事業拠点の内部統制のみを評価対象とすれば、効率的に財務報告に係る内部統制の有効性を評価できるという考えです。 この検討をする際には、次の2つの迷いどころがあります。 以下では、それぞれについて説明していきます。 ① 事業拠点の概念 事業拠点の分け方にはさまざまな切り口があり、会社単位の法形式に着目した分け方や支社・支店といった地理的な分け方、さらには事業部といった事業単位の分け方などが挙げられます。 どういった切り口で分けていくかは、各社で検討する必要があるため、一概には言えませんが、「どの単位で業績を把握しているか、管理しているか」といった視点がヒントになるのではないでしょうか。 例えば、1つの企業に複数の事業部があり、事業部ごとに業績を毎月把握しているのであれば、事業部がその企業の事業拠点になると考えられます。 ② 重要な事業拠点の選定 次に、どうやって事業拠点を絞り込むかについては、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅱ2(2)①の例示が参考になります。 「一定の割合」については「概ね2/3程度」と例示されており、実務上はこれに従っているケースが多くなっています。 【図表4】 重要な事業拠点の選定イメージ ただし、ここで注意しなければならない点があります。この「概ね2/3程度」とは、全社的な内部統制が良好と評価されていることが前提とされており、全社的な内部統制に不備がある場合には、割合を引き上げたり、不備のある事業拠点は別途評価対象に含めるといった対応が必要となります。 なお、概ね2/3程度は毎期必ず達成しなければならない割合とはされておらず、評価にローテーションを組み込むことによって、結果的に概ね2/3を相当程度下回ることもあるとされています。 (3) 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスの特定 事業拠点を絞り込んだ後は、具体的に評価対象とする業務プロセスを特定します。評価対象とする業務プロセスは次のように決定します。 【図表5】 評価対象とする業務プロセスの決定手順 「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」が何かは、各社で決定する必要がありますが、一般的には次のように言われています。 企業の事業目的に大きく関わる勘定科目の数字を形成する業務プロセスは、原則として、すべて内部統制の有効性を評価しなければなりません。 しかし、J-SOXでは必ず全部の内部統制を評価しなければならないとはされておらず、【図表6】の【容認】のように、例外も認められています。 【図表6】 業務プロセスの評価範囲 なお、重要な事業拠点における事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象としないとした場合、(ア)評価対象としなかった業務プロセス、(イ)評価対象としなかった理由について記録しておく必要があります。 以上が「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチ」による場合の評価範囲の決定方法です。 【図表7】 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチによる評価範囲の決定方法(まとめ)   3 財務報告の影響の大きい業務プロセスを評価対象とするアプローチ 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチだけでは、財務報告への影響の大きい業務プロセスがもれてしまう可能性があります。 これを防ぐため、J-SOXでは直接重要性を勘案して、個別に業務プロセスを評価対象に追加することを求めています。 その項目と例を示すと下図のとおりです。 【図表8】 個別に評価対象に追加する業務プロセス 個別に評価対象に【図表8】のbしか追加していない企業も多いと思いますが、b以外の項目についても必要に応じて評価対象に追加すべきかどうかを検討し、記録しておく必要があります。   4 評価範囲の決定における留意点 評価範囲はその後の評価のスケジュールにも影響します。そのため、なるべく事業年度の早期に評価範囲を検討・決定し、その妥当性について監査人と協議しておくことが望ましいでしょう。 *  *  * 評価範囲の決定にあたっては、考慮すべき事項も多いため、実務的にとても時間のかかる部分ではありますが、【図表1】のように段階的に進めれば、大きく誤ることはないと思います。 次回以降は、具体的な内部統制の評価の方法に入ります。連載第4回目となる次回は、全社的な内部統制の評価について説明します。 (了)

#No. 314(掲載号)
#竹本 泰明
2019/04/11

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第85回】テラ株式会社「第三者委員会調査報告書(2018年9月12日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第85回】 テラ株式会社 「第三者委員会調査報告書(2018年9月12日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【テラ株式会社の概要】 テラ株式会社(以下「テラ」と略称する)は、2004(平成16)年6月、樹状細胞ワクチン療法の研究開発及びそれに基づく新たな医療支援サービスの提供を目的として設立。細胞医療、医療支援及び医薬品事業を行っている。資本金2,084百万円、売上高957百万円、経常損失261百万円、従業員数29名(数字はいずれも平成29年12月期)。連結ベースでは平成25年12月期から5期連続して経常損失を計上している。本店所在地は東京都新宿区。JASDAQ上場。   【調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 2018(平成30)年8月10日付の「第三者委員会設置及び平成30年12月期第2四半期決算発表延期に関するお知らせ」の中で、テラは、設置の経緯について、以下の2点につき、代表取締役を除く取締役及び監査役会から、深度ある調査の必要性を指摘されたため、と説明している。 2 第三者委員会による調査の概要 第三者委員会は、テラから示された調査目的について、矢﨑氏を除く取締役及び監査役会並びに会計監査人である太陽有限責任監査法人(以下「太陽監査法人」と略称する)と協議を行い、6項目について、具体的に調査を要する事項として特定した。 以下、項目ごとに、問題点、特定の理由、調査結果の概要をまとめておきたい。 (1) 矢﨑氏の2017年2月におけるテラ株式売却(以下「2017年株式売却」という)に係る事実関係 本件は、譲渡価格が市場価格から大幅にディスカウントされた価格である等外形的に異常が認められたため、当時、会計監査において重要な問題点となり、テラは売却理由や売却先の属性等について2017年2月~5月にかけて外部法律事務所に委託して調査を行っているほか、2018年株式売却との関係も確認する必要があるため調査の対象とした。 第三者委員会が認定した本件の事実関係としては、次のとおりである。 2017年1月頃、矢﨑氏をはじめ、テラ経営陣は、営業キャッシュ・フローを改善して上場廃止基準への抵触を避けるため、医療法人社団医創会(報告書では「B会」。以下「B会」と略称する)に対する滞留債権(約1.8億円)を回収する必要があることを認識し、矢﨑氏が設立する会社(D社)を経由してB会に融資を行い、それを原資として、滞留債権を回収することを検討した。 融資資金の原資に充てるため矢﨑氏の保有するテラ株式をU社に譲渡したが、テラ社内で本件滞留債権回収スキームに違法性があるとの疑義が出て、スキームは取りやめになり、株式譲渡代金は矢﨑氏の個人的な債務の弁済に充てられた。 U社への譲渡価額が低額だったことから、U社から矢﨑氏へ何らかの利益供与があったのではないかということで、外部の弁護士らが調査を行ったが、確認できなかった。 (2) 2018年株式売却に係る事実関係 本件は、テラにおいて社内規程違反の疑義を認識し、インサイダー取引規制違反の有無の確認が必要と判断しているとともに、変更報告書提出が大幅に遅滞している等の異常が存在するため、調査が必要であると判断した。 第三者委員会は、2018株式売却に際しては、未公表の重要事実が存在していた可能性は否定できないとしながら、売却は市場外の相対取引であり、その譲渡実行日は決算発表日以降とされており、譲渡価格も実行日の終値ベースとされているため、仮に契約締結時点において未公表の重要事実が存在しても、譲渡価格は当該重要事実が価格に織り込まれたものとすることが企図されており、インサイダー取引により利得を得ようとする意図がなかったことは認められると締め括った。 ただし、上場企業の役員として、決算発表直前には自社株式の株式譲渡契約を締結してしまったことは、軽率であり、矢﨑氏は、上場企業の役員としてインサイダー取引未然防止のために求められる注意を怠ったと評価した。 また、矢﨑氏が、2018年株式売却に係る変更報告書を法定の期限までに開示しなかった点については、大量保有報告制度は会社の支配関係を開示して市場の透明性と公正性を図る重要な制度という認識に欠けており、上場企業の経営者として求められるコンプライアンス意識の水準に達していないものと評価している。 (3) GFA Capital株式会社(報告書上は「A社」。以下「A社」と略称する)との間の4月2日付FA契約の締結に係る事実関係 本件は、テラにおいて、A社をファイナンシャル・アドバイザーに選任したFA契約の締結に際して必要な取締役会決議を欠いていた可能性があるとの疑義を認識しているため、調査の対象とした。 第三者委員会は、調査の結果、FA契約の締結に際し、テラの取締役会規程及び決裁権限基準上、取締役会決議が必要であったかは必ずしも明らかではないとしながら、増資において、FAの選定は重要な要素の1つであったことから、慎重を期して取締役会による承認、少なくとも、取締役会への報告を行うべきであったと考えられると判断して、テラでは、取締役会で資金調達が報告議案となった際にも、FA契約については報告すらもされていないと締め括っている。 (4) 本件ファイナンスの実行・中止に係る意思決定過程に係る事実関係 本件は、テラにおいてFA契約の締結のみならず本件ファイナンスの割当先の決定過程に社内規程違反の疑義を認識しているために調査の対象とするものである。 第三者委員会は、調査の結果、本件ファイナンスの割当先の選定について、具体的な社内規程に違反している事実は認められないとしたものの、本件ファイナンスの割当先の選定過程については、テラ及びテラ株主の利益にとって最良の割当先候補を選定すべきであるにもかかわらず、特定のファンドありきで進められていたものと認められることから、選定過程は極めて不適切であると言わざるを得ないと結論を述べている。 同時に、テラが、自主規制法人から受けた照会に対して、事実と異なる説明を行っている点について、上場会社は、取引所及び自主規制法人による照会に対し、直ちに正確に報告する義務を負っているところ、テラの回答は、報告義務に違反するものであって、重大なコンプライアンス違反であり、直ちに事実関係を改めて報告する必要があると指摘した。 (5) テラと医療法人社団B会との関係及びB会との取引に係る事実関係 本件については、B会はテラの最重要取引先であり創業以来の密接な関係にあること、テラは2017年12月のB会に対する多額の滞留債権の回収により営業キャッシュ・フローが黒字化したことで上場廃止基準に抵触するリスクを免れていること等を踏まえ、取引内容や滞留債権回収と2017年株式売却や2018年株式売却との関係性を確認する必要があるために調査の対象とした。 第三者委員会は、調査の結果、矢﨑氏は、B会の法人印や銀行印・通帳を保管し、B会を事実上コントロールしていたと評価できるにもかかわらず、矢﨑氏は、かかる事情を報告せず、公には、自身とB会は何の関係もなくテラの一取引先に過ぎないとの態度を取り続けた結果、テラの過去の意思決定過程において、テラの利益と、B会又は矢﨑氏の個人的利益とが相反していた状況にあったにも関わらず、十分な検討がなされなかった可能性が否定できないと評価した。 そのうえで、法令上、上場企業は、その財務諸表において関連当事者との取引について注記が必要にもかかわらず、矢﨑氏とB会との関係がテラに詳細には伝わっていないことから、B会が関連当事者に該当して財務諸表への注記が必要となるのかどうかの検討をする機会を逸する結果ともなったと判断を示した。 (6) テラ少額短期保険株式会社(以下「テラ少短」という)の売却に係る事実関係 本件は、テラが過去に実施した調査において、矢﨑氏がテラによるテラ少短売却後も支配力を維持できないか検討していた形跡が認められていたため、調査の対象としたものである。 第三者委員会は、調査の結果、矢﨑氏は、テラ少短の筆頭株主であり、株主としての関係性を有しているものの、テラ少短の経営については特段の関与は認められないとの判断を示した。 3 発生原因の分析 第三者委員会は、調査結果について、以下のようにまとめている。 そのうえで、発生原因として、次の5項目を挙げている。 ここでは、2018(平成30)年5月23日に辞任した元取締役CFO小塚祥吾氏(以下「小塚氏」と略称する)に対する、第三者委員会からの批判について、まとめておきたい。 小塚氏は、2017年株式売却について外部弁護士による調査が行われた際に、B会に対する滞留債権回収目的で計画されたものであったことを申告することはなく、調査に誠実に対応しなかったとの評価を免れることはできない。また、 FA契約締結に際して、契約内容を精査することもなく、FAという資本市場でのレピュテーションにも直結する業務に新規先を選定するに際して当然行うべき各種のチェックを行わず、しかも社内の稟議手続を経ることもなく、契約締結を指示している。 第三者委員会は、小塚氏のこれらの行為について、上場企業のCFOとして求められる水準のコンプライアンスの観点からは、対応が不十分であったと言わざるを得ないと評価したものである。 4 再発防止策 第三者委員会が提言した再発防止策は次のとおりである。   【調査報告書の特徴】 公表された調査報告書に対して、第三者委員会報告書格付け委員会が評価を公表し、マスコミやネット上で批判的な意見が出たりすることはあったが、本件調査報告書をめぐっては、調査を依頼した会社側から2度にわたって、第三者委員会調査報告書への批判と会社側による追加説明が行われるという前代未聞の展開となった。また、一部の雑誌では、調査委員会の舞台裏も報じられており、合わせて検討したい。 1 「9月13日開示に係る当社第三者委員会調査報告書の訂正及び補足説明」 第三者委員会報告書を公表した当日(9月13日)、テラは、「代表取締役の異動に関するお知らせ」というリリースを出して、矢﨑氏の代表取締役の解職及び代表取締役副社長の遊佐精一氏(以下「遊佐氏」と略称する)の代表取締役就任を、取締役会で決議したことを公表した。 続いて10月3日、テラは、「9月13日開示に係る当社第三者委員会調査報告書の訂正及び補足説明」を公表し、第三者委員会調査報告書の内容に、多数の訂正すべき記述及び重大な誤解を生じさせる記述が発見されたこと、一部については、第三者委員会も訂正の必要性を認めたことなどを公表するとともに、テラの指摘に対する第三者委員会側の反論、矢﨑氏及び遊佐氏が調査報告書の検討を依頼した郷原信郎弁護士名による文書「テラ第三者委員会をめぐる問題に関わった経緯及び受託業務」を合わせて適時開示を行った。 (1) テラ側の主張の概要 テラは、本リリースにおいて、調査報告書について、第三者委員会が訂正の必要を認めた記述について補足説明するほか、重大な誤解を生じかねない記述のうち、テラとして看過し難く、現時点において文書で公表し是正することが不可欠と考えている記述に限定して、テラの責任において、補足説明することとし、それ以外の点については、委員会側の説明を踏まえ、引き続き当社としての対応を検討するとしている。 また、調査報告書についての「訂正すべき記述」及び「重大な誤解を生じさせる記述」の判断については、第三者委員会についての専門的知見及び経験を有する郷原信郎弁護士の意見を踏まえて検討したものであり、当社取締役会にも報告したものであるとしている。 (2) 第三者委員会による補足説明書の概要 第三者委員会は、テラ側の指摘に対し、委員会としては、9月10日付調査報告書の提出に先立って、テラ役職員に段階的に記載内容に係る事実関係の確認を求め、また、同月11日から12日にかけてはテラからの訂正申入れに対応し、非開示措置の範囲に係るテラの要望にも最大限配慮したと認識していると、これまでの経緯を説明した。 そのうえで、25日になってさらに本調査報告書の表現の妥当性に係る批判的評価等にまで及ぶ詳細な照会を受けたことにつき困惑を禁じ得ないものであるが、調査報告書の重要性に鑑み、照会事項を真摯に検討した結果、いずれの点についても照会に係る本調査報告書記載内容の修正要請に応ずる必要性を認めなかったと回答している。 (3) 郷原弁護士の調査報告書に対する見解の概要 郷原弁護士は、調査報告書について、9月12日に開催された定例取締役会での同氏の説明を引用する形で、報告書は、曖昧な記述、誤解を招きかねない記述が多々ある上、当職の指摘を受けて一部が非公表とされたこともあって、公表版は、その趣旨が一層わかりにくいものとなっており、報告書公表によって株主、投資家等に誤解を生じないよう慎重に対応する必要があると評価している。 2 「9月13日開示に係る当社第三者委員会調査報告書の補足説明(その2)」 10月16日、テラは、「9月13日開示に係る当社第三者委員会調査報告書の補足説明(その2)」をリリースして、矢﨑氏の行動や責任にも関連する調査報告書の記述について問題を指摘する必要があると判断したことから、補足説明及び意見を公表したこと、第三者委員会からの意見に対するテラの意見については、郷原信郎弁護士の意見を踏まえて検討した結果であることを公表して、以下の点について、調査報告書の内容には重大な問題があり、看過できないと判断したと説明している。 テラと第三者委員会の意見はいずれも平行線をたどっているが、テラの取締役会及び監査役会も意見が一致している状況ではないようであり、そうした点につき、見ておきたい。 「FA契約についての取締役会の対応」の中で、テラは、FA契約のドラフトなどは取締役会に先立って、全取締役・監査役あてにメール送信されていることから、「FA契約について異議があれば、取締役会の場でいくらでも議論することができたにもかかわらず、その議論はなされずに承認されたことは明らかである」と主張しているが、社外取締役である吉川友貞氏は、次のように意見を述べている。 また、リリースの最後には、「監査役会の意見」も添附されており、その中で、監査役会は、10月16日付補足説明におけるテラの意見に賛成しておらず、また、本補足説明を公開することにも賛成していないことが明らかにされている。その理由は、以下のとおりである。 3 FACTA掲載記事 FACTAは、2018年12月号で、本件第三者委員会を取り上げ、「森・濱田松本の呆れた第三者委『ボッタクリ』」と題した記事を掲載し、郷原弁護士の発言を引用する形で、第三者委員会が請求した費用が1億1,700万円であることを報じ、調査補助者に若手弁護士10人を投入した森・濱田松本法律事務所について、「頭数でタイムチャージを稼ぐボッタクリ商法としか見えない」と批判した。 またその翌月の2019年1月号では、「元証券監視委『美人エース』 テラ第三者委で馬脚現す」と題する記事を掲載、第三者委員の一人である公認会計士の那須美帆子氏の所属するPwCビジネスアシュアランス合同会社からの請求額が4,400万円であることを報じた。 ボッタクリであるかどうかは判断の分かれるところであろうが、テラが11月14日付の「特別損失(特別調査費用)の計上に関するお知らせ」の中で、第三者委員会による調査費用と監査費用の合計である173百万円を特別損失に計上したことを公表しているので、FACTAが報じた第三者委員会の請求した費用については、事実と大きな乖離はなさそうである。 4 B会との取引停止 次いで、12月12日、テラは、「主要取引先との取引停止に関するお知らせ」を出して、医療法人社団医創会(調査報告書上の表記は「B会」)との取引について、契約違反を理由として契約解除をすることを公表し、同会に対する債権108百万円については、全額を貸倒引当金として計上していることを公表した。 5 取締役・監査役の異動 テラは、平成31年2月28日付「監査等委員会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」の中で、遊佐氏以外の3人の取締役及び全監査役は、3月27日開催予定の定時株主総会をもって退任して、新たな取締役2名及び監査等委員である取締役3名の候補者を公表した。 株主総会での決議を経て、新任の取締役である平智之氏が代表取締役となり、遊佐氏は取締役として新規事業の強化に専念することが発表された。 6 会計監査人の異動 3月8日、テラは、「公認会計士等の異動に関するお知らせ」を公表して、会計監査人が太陽監査法人から有限責任開花監査法人に異動すること、異動の理由は任期満了によるものであることを説明している。 (了)

#No. 314(掲載号)
#米澤 勝
2019/04/11

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第5回】「税務訴訟における裁判所の価値判断②」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第5回】 「税務訴訟における裁判所の価値判断②」   弁護士 下尾 裕   今回は、前回に引き続き、税務訴訟における裁判所の価値判断を取り扱うが、その中でも租税回避に対する裁判所の判断枠組みについて考察してみたい。   1 租税回避とは何か 「租税回避」とは、論者によってその定義は様々であるが、「私法上の形成可能性を異常または変則的な態様で利用すること(濫用)によって、税負担の軽減または排除を図る行為」(金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)第133頁~第144頁)などと定義されている。 小難しい定義であるが、要は、私法の世界では当事者間において自由に取引関係を形成できることを前提に、税負担軽減のために経済合理性のない法形式を採用すること等を租税回避として評価するということであり、課税等に関する要件の明確化を求める課税要件明確主義を逆手にとった行為であると言える。 また、【第2回】において、課税庁は、経済的実質を重視する傾向があるのではないかという問題提起を行ったが、そこでも述べた通り、その一因はこの租税回避行為の存在にあると考えられる。法律的実質を形式的にそのまま課税要件に当てはめると税負担が軽減するよう考案されているのが租税回避行為であり、課税庁においてこうした行為を捕捉しようとするケースでは、経済的実質(上記定義に沿う形でいえば「通常ないし通則的な態様」の取引)を検討せざるを得ないということである。 前回において、裁判所は、課税要件明確主義に忠実な判断を行う傾向があることに言及したが、こうした傾向を徹底すると租税回避を助長し、納税者間の公平を害することにつながることから、裁判所としても相反しうる2つの要請を踏まえた難しい判断を求められる場面である。   2 「租税回避=租税法規の濫用」という裁判所の思考 では、裁判所はどのような行為を租税回避と捉えているのであろうか。これに一言で答えるとすれば、近年の最高裁判例を踏まえた裁判所にとっての租税回避とは、「租税法規の濫用行為」であるといえる。 租税法規の濫用という考え方が判例において最初に登場したのは、都市銀行外国税額控除事件である。改めて解説するまでもなくご存知の読者も多いと思われるが、都市銀行外国税額控除事件は、都市銀行が外国税額控除の猶予枠を利用して収益を得ていた事件である。 具体的には、日本の都市銀行が、本来は外国法人が負担すべき外国税額を当該税負担を下回る対価で引き受けた上、外国税額控除を用いて都市銀行の日本における税額を減少させることにより、最終的に利益を得ていたというものである。 この取引では、本来はB社がグループ会社であるA社に資金を貸し付けることが想定されていたところ、このスキームを用いることにより、A社において負担するクック諸島における源泉税の負担をB社が預金利息を受け取ることにより実質的に免れることができ、都市銀行も外国税額控除を利用して最終的に収支を黒字にできるというWinーWinの状態になるのがポイントである。 (※) 旧大和銀行の外国税額控除事件における第1回取引を前提に筆者作成(単位は1万USD)。 一連の事件のうち、旧大和銀行の外国税額控除事件に関する最高裁平成17年12月19日付判決は、以下のように述べて同銀行の外国税額控除を否認した(下線筆者)。 この事件では、租税法規を形式的に当てはめれば、都市銀行の負担した外国税額について外国税額控除が認められるべき状況にあるが、最高裁は、租税法規の濫用という理論により外国税額控除の範囲を限定したものであり、前回で述べた課税要件明確主義の考え方からすれば例外の位置づけに立つものである。 言い換えれば、最高裁は、このケースにおいて上記「税負担の公平」(租税公平主義)を優先し、課税要件明確主義の原則を後退させたという評価が可能である。   3 「租税回避」における納税者の予測可能性の考え方 前回で述べた通り、課税要件明確主義とは、納税者たる国民に義務を課す(その権利を制限する)ことになる租税賦課等に関して、納税者からの予測可能性を担保するためのものであった。では、裁判所は、租税回避の場面において課税要件明確主義を後退させて租税法規の濫用という理論を持ち出すに際し、上記予測可能性との関係についてどのように考えているのであろうか。 かかる場面での裁判所の思考を理解する直近の素材としては、ヤフー・IDCF事件最高裁判決が挙げられる。 これもまたご存知の方も多いと思われるが、ヤフー・IDCF事件とは、ヤフーがソフトバンクからIDCソリューション(以下「IDCS」という)という会社を買収するに際し、単純に同社の株式を購入するのではなく、会社分割及び合併を介在させることにより、ヤフーにおいてIDCSが有していた繰越欠損金の引継ぎを行うとともに、分割承継会社であるIDCフロンティア(以下「IDCF」という)において資産調整勘定(税務上ののれん)の計上をそれぞれ行ったのに対し、国税当局がこれら会社分割等について法人税法第132条の2に基づく課税を行ったという事案である。 〈関係図〉 これに対し、最高裁平成28年2月29日判決判タ1424号68頁は以下のように、法人税法第132条の2が適用されるのは租税法規の濫用の場面であると判示して、上記IDCFの資産調整勘定の計上及びヤフーにおける繰越欠損金の引継ぎをそれぞれ否認した(下線筆者)。言い換えれば、最高裁は、ヤフー・IDCF事件を上記都市銀行外国税額控除事件と同様に、租税回避事案として把握したということである。 また、最高裁判所調査官によるヤフー・IDCF事件の解説では、租税法律主義との関係について以下のような説明がなされており、裁判所が、租税回避事案について、関係者において当該事案につき課税がなされるべき事案であることが明らかであるとの理由付けにより、課税要件明確主義との抵触は生じないと整理している(下線筆者)。 上記のような考え方は、都市銀行外国税額控除事件の時点で既に示されていたものであるが、改めてヤフー・IDCF事件においても同様に整理された。これにより、裁判所は、租税回避事案については、関係者においてあるべき課税が十分予測可能であるとして、課税要件明確主義を後退させるという価値判断を有していることがより明白になったといえる。 *  *  * 次回以降は、前回及び今回において分析した裁判所の価値判断を前提に、さらに判断過程を細分化して、裁判所の事実認定及び法令解釈の傾向について、分析してみることとする。 (了)

#No. 314(掲載号)
#下尾 裕
2019/04/11

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第13回】「スマートフォン等の紛失・置き忘れによる情報漏えいの防止策」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第13回】 「スマートフォン等の紛失・置き忘れによる情報漏えいの防止策」   弁護士 影島 広泰   -Question- 従業員が、取引先の氏名と電話番号が保存されているスマートフォンを紛失してしまいました。どうすればよいでしょうか。 -Answer- 居酒屋などに置き忘れてきたのであれば、すぐに回収しに行きましょう。 また、回収できるかどうか分からなかったり、回収まで時間がかかるような場合には、可能であれば、遠隔操作で内容を消去することを考えるべきでしょう。 【第11回】で解説したとおり、2017年の統計によれば、個人情報漏えいの原因として2番目に多いのは「紛失・置き忘れ」である。今回は、「紛失・置き忘れ」を防止するための方策と、「紛失・置き忘れ」が発生してしまった場合の対応を考える。   1 紛失・置き忘れによる情報漏えいの防止策 スマートフォンの紛失は、近時頻発しているインシデントである。また、書類が入ったカバンを電車に置き忘れたという事例や、酔っ払って駅で寝てしまっていたところ、PCが入ったカバンを盗まれたという、情報管理の教科書に出てくるような典型的な事例は、近時もあいかわらず発生し続けている。 これらにどのように対応すべきであろうか。 (1) 書類やPCの紛失・置き忘れの防止 まず、書類やPCが入ったカバンの紛失・置き忘れの防止策としては、重要な個人情報が含まれた書類やPCを持ち歩く時には、立ち寄りせずに目的地に直行・直帰するという方策が考えられる。これは単純な方策であるが、紛失・置き忘れのリスクを減らすものとして多くの企業が取り入れているルールである。 また、万が一紛失・置き忘れが発生してしまった場合に、被害発生のリスクを減らす方策も講じておかなければならない。これは、個人情報保護法のガイドラインにより講じることが義務付けられており、通則ガイドラインによると、物理的安全管理措置の一環として、個人データが記録された電子媒体又は書類等を持ち運ぶ場合には、「容易に個人データが判明しないよう、安全な方策を講じなければならない」とされている。 詳細は【第4回】で述べたとおりであるが、そのための方策としてガイドラインでは、「施錠できる搬送容器を利用する」が例示されている。これをカバンの紛失・置き忘れに関連付けると、施錠できるカバンを利用することが典型的な方策として考えられるであろう。 また、ガイドラインでは「持ち運ぶ個人データの暗号化、パスワードによる保護等を行った上で電子媒体に保存する」も例示されており、PCについては、ハードディスク等を暗号化し、起動やログイン時等に必要なパスワードを設定しておくことが典型的な方策ということになる。 (2) スマートフォン・携帯電話の紛失・置き忘れの防止 スマートフォンや携帯電話は、書類やPCが入ったカバンと違って小さいため紛失しやすく、レストランや居酒屋のテーブルの上などに置き忘れる可能性も高い。したがって、紛失・置き忘れが発生してしまったときに、被害発生のリスクを減らす方策がより重要となる。 具体的には、個人情報保護法の物理的安全管理措置の一環として、【第4回】で述べたとおり、スマートフォンや携帯電話については、起動時のパスワードを設定しておくことが重要であると考えられる。 (3) PCやスマートフォン内に重要な個人データを保存しない方策 また、より根本的な対策として、PCやスマートフォン内に重要な個人データを保存しないようにすることが考えられる。具体的には、「シンクライアント(※)」を導入して端末側にデータを残さないようにしたり、業務用のメールや連絡先については端末側に情報を保存しないシステム(アプリ)を導入する。近時、このようなソリューションの中には中小企業にとっても導入のハードルが低い安価なものも多くあるため、積極的に検討する価値がある。 (※) シンクライアント(Thin Client)とは、サーバ側で大部分の処理を行い、クライアント端末では最低限の処理しか行わせないシステムのこと。このため、通常、クライアント端末にはデータが残らない。   2 紛失・置き忘れが発生した場合の対応 情報漏えいが発生した場合の対応の全体像については【第10回】で述べたとおりである。今回は、委員会への報告を要しない「報告の軽微基準」から逆算して、PCやスマートフォンの紛失・置き忘れに備える事前対策と、紛失・置き忘れが発生した場合の事後対応を検討する。 個人情報保護委員会の告示によれば、以下の場合は、「報告の軽微基準」にあたり、委員会への報告を要しない。 まず、「高度の暗号化等の秘匿化がされている場合」とはどのような場合かについて、個人情報保護委員会の「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A」のQ12-10では、①第三者が見読可能な状態にすることが困難となるような暗号化等の技術的措置が講じられるとともに、②そのような暗号化等の技術的措置が講じられた情報を見読可能な状態にするための手段が適切に管理されていることが必要であるとしている。 このうち、「第三者に閲覧されないうちに全てを回収した場合」が今回のテーマとの関係で重要である。例えば、スマートフォンを居酒屋に置き忘れてしまった場合でも、起動時のパスワード設定がされていて、かつ、すぐに取り戻したケースでは、「第三者に閲覧されないうちに全てを回収した場合」に該当する可能性が高いからである。 事前対策として、【第10回】で述べたとおりスマートフォンは起動時にパスワードを設定するよう社内でルール付けておき、万が一紛失・置き忘れが発生した場合の事後対応として、すぐに取り戻しに行くよう徹底しておくことが重要なのである。 これに対し、どこで紛失したのかが分からない場合など、すぐに取り戻すことが難しいような状況であれば、被害の拡大防止のため、遠隔操作でスマートフォン内のデータを消去すること(リモートワイプ)が重要となる。 スマートフォンにはリモートワイプの機能を標準で備えているものもあるが、会社の業務に私物のスマートフォンを利用させる(BYOD:Bring Your Own Deviceと言われる)のであれば、リモートワイプの機能をもった管理ソフトウェア(「モバイルデバイス管理」(MDM)と呼ばれる)を導入することをBYODの際の条件とすることも考えられる。 (了)

#No. 314(掲載号)
#影島 広泰
2019/04/11

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第4回】「アメリカ在住の一人娘への生前贈与」~終活とインバウンドの恩恵~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【第4回】 「アメリカ在住の一人娘への生前贈与」 ~終活とインバウンドの恩恵~   財務コンサルタント 木山 順三   前回に引き続き、推定相続人の1人が海外(今回はアメリカ)在住となっているケースをご紹介します。   〔話の背景〕 Aさんは82歳と高齢で、夫人も74歳でいつ身体の変化が起きてもおかしくない歳になり、「終活」について真剣に対処することになりました。同氏は元関西財界の著名人であり、長年にわたり私の事務所のクライアントです。 Aさんは妻と2人の同居で、一人娘は独身のままアメリカに在住しており米国国籍も取得しています。今後の相続対応を考えると、いざ「相続開始」ともなれば、時間的にも物理的にもスムーズに手続きができるとは考えられません。 そこで相続事態の発生前に、できるだけ関係者の意向確認と事前対応を図るため、長女の帰国の機会を待って面談をすることにしました。 Aさんの希望は次のとおり。 以上の意向を推定相続人2人に示したところ、妻・長女とも異議なく了承したことを当事者全員で確認しました。   〔事前対策〕 ① 娘への生前贈与 まずAさんの希望である、アメリカ在住の娘への今年の生前贈与を行いました。Aさんの希望では、年間1,000万円を贈与したいとのことです。この場合、米国での課税は米国内の有形財産を贈与した場合のみですので、Aさんは非課税となります(米国では、納税義務者は贈与者)。 次に日本での課税は、Aさんが日本居住者のため、受贈者である長女は、日本の贈与税の課税を受けることになります。なお、米国居住者が日本の贈与税の申告納税をするためには、納税管理人を選任する必要があります。 また、ここで気をつけなければならないことは、アメリカにおいて外国からの贈与や遺贈があった場合にその事実を報告する、「FORM 3520」の規定があることです(詳しくは後述参照)。 ② 不動産の処分提案 次にマンション売却の提案をしました。理由は元気な間の「介護付き高級老人ホーム」への転出です。また、長女が米国国籍を取得しており日本への帰国の意思がなく、いずれ次の夫人の相続の際に米国国籍の娘が当該マンションを保有・管理することが容易ではないからです。 そして幸いなことに、関西にも及んでいるインバウンドの影響で、15年前に8,500万円で取得した高級マンションが1億円以上で売却できる見込みです。またその時、夫婦間贈与(贈与税の配偶者控除の特例)の適用を受けており、譲渡益が発生しても夫婦それぞれに「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用が可で、譲渡所得税はかからない模様です。 これらことから夫人の多少の抵抗はありましたが、Aさんが説得し売却のはこびとなりました。 ここで、本件の手続きに際して注意する事柄がありますので、概要を次に述べておきます。   〔老コンサルタントのつぶやき〕 長年お世話しているクライアントですので、気持ち的には楽なのですが、万一相続開始ともなれば、Aさんの希望通り「完全なる家族葬」を確保するには、かなりの負担を強いられることが予想されます。 すなわち関係者から、「どうして連絡してくれなかったのか!」「大変お世話になったのでお参りしたかったのに!」という叱責が目に見えるようです。 もっともこれからの高齢化社会においては、「一に義理欠き、二に義理欠き」をすること・させることが長生きの秘訣らしいですから、その折は故人のご意向を丁寧に説明し、自分自身も割り切ってお世話するつもりです。 その前に私の方が義理を欠いて、先に逝くかもしれませんしね・・・。 (了)

#No. 314(掲載号)
#木山 順三
2019/04/11
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