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改めて確認したいJ-SOX 【第3回】「内部統制の評価範囲の決定方法」

筆者:竹本 泰明

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めて確認したいJ-SOX

【第3回】

「内部統制の評価範囲の決定方法」

 

仰星監査法人
公認会計士 竹本 泰明

 

今回より、内部統制監査制度(以下、「J-SOX」という)の概要について説明します。

上場会社の経営者は、金融商品取引法に基づき、財務報告に係る内部統制について評価し、評価結果を公表しなければなりません。財務報告に係る内部統制の有効性は、財務報告そのものの信頼性に影響するため、財務報告に関連する内部統制はすべて評価することが望ましいでしょう。

しかし、現実にはそのような実務は行われておらず、「重要」と考えられる内部統制だけを評価しています。

  • なぜ、このような実務が行われているのか?
  • 評価する内部統制をどうやって決めればいいのか?

今回は、こういった疑問にお答えすべく、内部統制の評価範囲をどのように決定するかをテーマに説明します。

 

1 評価範囲の決定方法の概要

内部統制の評価範囲の決定方法は、大きく分けて2つアプローチの仕方があります。

1つは、「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価範囲とする方法」であり、もう1つは、「財務報告への影響の大きい業務プロセスを評価範囲とする方法」です。

【図表1】 評価の範囲の決定方法

※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。

まず、前者のアプローチで評価対象とする業務プロセスを決定し、次に、後者のアプローチで不足がないよう網羅的に業務プロセスを拾い上げるといったイメージです。

実際に評価の範囲を決定する際は、【図表1】に記載されている以外にさまざまな留意事項があるため、以下ではそれぞれの項目ごとに詳細を説明します。

 

2 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチ

(1) 全社的な内部統制の評価

① 評価に関する考え方

評価する内部統制を決定するにあたって、まず、全社的な内部統制を評価することが求められます。

なぜ、評価する内部統制をすぐには決定せず、先に全社的な内部統制を評価するかというと、評価が必要な内部統制を絞り込み、トータルでの実務上の負担を軽くするためです。

これが、J-SOXの特徴の1つである「トップダウン型のリスク・アプローチ」と呼ばれるものです。

全社的な内部統制の評価が良好であれば、財務報告に係るすべての内部統制を評価しなくても、重要な事業拠点の内部統制のみ評価すれば、財務報告の信頼性を確保する内部統制が概ね有効に機能しているといえる、という考えです。

そのため、ふるいにかけるという意味で、原則的には全社的な内部統制はすべての事業拠点について評価すべきです。

ただ、J-SOXでは実務上の負荷に配慮して、次のように取り扱っています。

【図表2】 全社的な内部統制の評価


多くのグループ企業を抱える企業では、すべての事業拠点について全社的な内部統制を評価することは大変手間がかかり、現実的ではありません。

また、仮に零細な事業拠点で、全社的な内部統制が良好でなく、財務諸表に誤りがあるのではないかといったことが懸念されるような状況であったとしても、全体でみれば微々たるもので、財務報告の信頼性を揺るがすものではないと考えられます。

そのため、【図表2】のように取り扱われています。

② 評価範囲から外す際の留意点

財務報告に対する影響の重要性が僅少な事業拠点に該当するかどうかについて、どの程度なら「重要性が僅少」といえるのかが、実務上迷うところだと思います。

この点について、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準Ⅱ2(2)の(注1)では、次のように例示されています。

(中略)・・・例えば、売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして、評価の対象からはずすといった取扱いが考えられる・・・(略)

実務的には、この例示に従って、売上高を各社合算し、その合計額の95%以内にない事業拠点を「重要性が僅少」とするケースが多いようです。

売上高だけで判定せず、「総資産や利益額など他の項目で見ても全体の95%以内にないかどうか」といった確認をしているケースも見受けられます。

【図表3】 全社的な内部統制の評価対象の決定イメージ

「売上高」や「95%」はあくまで例示のため、①で説明したように、仮に問題があったとしても財務報告の信頼性を揺るがすほどのものではないといった結果にたどり着けるように、指標や数値は必要に応じて見直す必要があります。
また、監査法人などの監査人が必要と考える評価範囲と異なっていると、二度手間となってしまうため、最終的には監査人と協議のうえ決定することが効率面から望ましいと思います。

なお、実務上は前年度において全社的な内部統制を評価していることが多く、特に状況に変化がなければ、前年度の評価結果が当年度も継続すると仮定して、全社的な内部統制を評価する前に内部統制の評価の範囲を暫定的に決定することが多いと考えられます。

(2) 重要な事業拠点の選定

全社的な内部統制を評価した後は、評価対象とする内部統制を絞り込むため、事業拠点を絞り込みます。絞り込まれた重要な事業拠点の内部統制のみを評価対象とすれば、効率的に財務報告に係る内部統制の有効性を評価できるという考えです。

この検討をする際には、次の2つの迷いどころがあります。

  • 事業拠点とは具体的にはどういったものなのか?
  • 事業拠点をどうやって絞り込めばいいのか?

以下では、それぞれについて説明していきます。

① 事業拠点の概念

事業拠点の分け方にはさまざまな切り口があり、会社単位の法形式に着目した分け方や支社・支店といった地理的な分け方、さらには事業部といった事業単位の分け方などが挙げられます。

どういった切り口で分けていくかは、各社で検討する必要があるため、一概には言えませんが、「どの単位で業績を把握しているか、管理しているか」といった視点がヒントになるのではないでしょうか。

例えば、1つの企業に複数の事業部があり、事業部ごとに業績を毎月把握しているのであれば、事業部がその企業の事業拠点になると考えられます。

② 重要な事業拠点の選定

次に、どうやって事業拠点を絞り込むかについては、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準Ⅱ2(2)①の例示が参考になります。

(中略)・・・例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。

「一定の割合」については「概ね2/3程度」と例示されており、実務上はこれに従っているケースが多くなっています。

【図表4】 重要な事業拠点の選定イメージ

ただし、ここで注意しなければならない点があります。この「概ね2/3程度」とは、全社的な内部統制が良好と評価されていることが前提とされており、全社的な内部統制に不備がある場合には、割合を引き上げたり、不備のある事業拠点は別途評価対象に含めるといった対応が必要となります。

なお、概ね2/3程度は毎期必ず達成しなければならない割合とはされておらず、評価にローテーションを組み込むことによって、結果的に概ね2/3を相当程度下回ることもあるとされています。

(3) 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスの特定

事業拠点を絞り込んだ後は、具体的に評価対象とする業務プロセスを特定します。評価対象とする業務プロセスは次のように決定します。

【図表5】 評価対象とする業務プロセスの決定手順

「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」が何かは、各社で決定する必要がありますが、一般的には次のように言われています。

《一般的な事業会社の場合》

(例) 売上、売掛金及び棚卸資産

《預金・貸出業務等を中心とする銀行等の場合》

(例) 預金、貸出金、有価証券

企業の事業目的に大きく関わる勘定科目の数字を形成する業務プロセスは、原則として、すべて内部統制の有効性を評価しなければなりません。

しかし、J-SOXでは必ず全部の内部統制を評価しなければならないとはされておらず、【図表6】【容認】のように、例外も認められています。

【図表6】 業務プロセスの評価範囲


なお、重要な事業拠点における事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象としないとした場合、(ア)評価対象としなかった業務プロセス、(イ)評価対象としなかった理由について記録しておく必要があります。

以上が「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチ」による場合の評価範囲の決定方法です。

【図表7】 事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチによる評価範囲の決定方法(まとめ)

 

3 財務報告の影響の大きい業務プロセスを評価対象とするアプローチ

事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とするアプローチだけでは、財務報告への影響の大きい業務プロセスがもれてしまう可能性があります。

これを防ぐため、J-SOXでは直接重要性を勘案して、個別に業務プロセスを評価対象に追加することを求めています。

その項目と例を示すと下図のとおりです。

【図表8】 個別に評価対象に追加する業務プロセス

個別に評価対象に【図表8】のbしか追加していない企業も多いと思いますが、b以外の項目についても必要に応じて評価対象に追加すべきかどうかを検討し、記録しておく必要があります。

 

4 評価範囲の決定における留意点

評価範囲はその後の評価のスケジュールにも影響します。そのため、なるべく事業年度の早期に評価範囲を検討・決定し、その妥当性について監査人と協議しておくことが望ましいでしょう。

*  *  *

評価範囲の決定にあたっては、考慮すべき事項も多いため、実務的にとても時間のかかる部分ではありますが、【図表1】のように段階的に進めれば、大きく誤ることはないと思います。

次回以降は、具体的な内部統制の評価の方法に入ります。連載第4回目となる次回は、全社的な内部統制の評価について説明します。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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筆者紹介

  • 竹本 泰明

    (たけもと・やすあき)

    仰星監査法人 シニアマネージャー 公認会計士

    関西大学社会学部卒。大学在学中に公認会計士試験論文式試験に合格。
    2009年3月に中小監査法人に入所後、2014年7月に仰星監査法人に入所。
    金融商品取引法監査、会社法監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。

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