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国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第26回】「国際相続における相続法の適用」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第26回】 「国際相続における相続法の適用」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 顧問先(日本人)がアメリカに不動産を購入する予定なのですが、この方の相続発生時において、日本で作成した遺産分割協議書の英文を添付して現地の法務局に提出すれば、相続の手続はできますか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国際相続で適用される相続法はどの国のものか 税理士が国際相続の相続税の申告を受注する際、日本の相続法や相続税法を理解しているだけでは、適切な申告処理や相談に対応することは難しい。 例えば、日本に住んでいる日本人が海外の不動産を有している場合や、日本に住んでいる外国人が日本の不動産を有している場合で、これらの者について相続が発生した場合、日本の相続法が適用できるとは限らない。 そこで以下では、このような相続の事案が生じた場合、どの国の相続法が適用されるのかを検討する。   ▷法の適用に関する通則法 国際間で人や物の動きがあると、その動きに関係する国が複数生じることになるが、この場合、どの国の法律が適用されるかが重要になる。日本人や日本にある資産がその動きに関わるからといって、日本の法律が必ず適用されるとは限らない。どこの法律を適用するかについて、日本では「法の適用に関する通則法」の定めに従う。 法の適用に関する通則法36条によると「相続は、被相続人の本国法による。」となっている。これはつまり、被相続人が日本人の場合は、日本の相続法で相続関係の処理を行うという意味である。たとえ財産が外国に所在していても、日本の相続法に基づいて処理することになる。 他方、被相続人が外国人の場合は、日本に財産が所在していたとしても、被相続人の本国の相続法に基づいて処理をするという意味である。例えば、日本の相続法には「遺留分の減殺請求」という制度があるが、他の国等の相続法ではこの制度がないところもあるため、日本にある相続財産についても、相続人が遺留分の減殺請求を訴えることができない場合もある。   ▷「相続統一主義」と「相続分割主義」 上述のとおり、日本では「被相続人がどこの国籍か」によって適用される相続法が決まるが、このように「被相続人がどのような種類の人か」によって相続法の適用が決まる考え方を『相続統一主義』という。日本は相続統一主義であり、被相続人の国籍を基準にして判定する国であるが、被相続人の国籍ではなく被相続人の住所地を基準にして判定する国もある。 また、「どのような財産がどこにあるか」を基準に相続法の適用を判定する国もある。例えば、動産については被相続人の住所地法を基準とし、不動産については不動産の所在地法を基準として判断する国もある。このように財産の種類に応じて相続法の適用が決まる考え方を『相続分割主義』という。米国の場合、相続法は連邦で定められるのではなく各州で定められているが、原則的には相続分割主義となっている。   ▷日本居住の米国人が日本に不動産を遺して死亡した場合の相続法の適用は では上記を踏まえ、日本に居住している米国人が日本に不動産を遺して死亡した場合、どの国の相続法が適用されるのかを検討してみたい。 米国人が日本で亡くなった場合の相続法の適用を「法の適用に関する通則法」にあてはめてみると、被相続人は米国籍であることから、米国の相続法となる。米国には連邦相続法はなく州法となるので、被相続人と関係の深い州の州法に基づいて検討していくことになる。そこで仮に、被相続人と関係の深い州を特定して相続法を調べると、「不動産については所在地の法律に従う」と定められていたとしよう。この場合は、不動産の所在地が日本であるから、不動産に関しては日本の相続法に従うことになる。 ここで法の適用に関する通則法41条によると、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」とされていることから、日本の相続法による相続の手続が行われることになる。このため、相続の登記をする場合も日本の相続法に基づいて相続が行われる。この41条のような状況になることを「反致」(はんち)という。   ▷日本居住の日本人が米国に不動産を遺して死亡した場合の相続法の適用は 次に本事例のように、日本に居住している日本人が米国に不動産を購入した後に死亡した場合、相続法の適用はどの国の準拠法になるかを検討する。 この場合、日本人の相続であることから、日本の相続法が適用となる。つまり、被相続人の遺産が米国にある場合も、日本の相続法によって処理せよということである。 ところで、米国の州法は基本的に相続分割主義であり、不動産については所在地の法律に従えとなっている。このため、米国にある不動産について相続の登記をしようとして、日本の相続法を前提に作成された遺産分割協議書等のコピーに英文の翻訳を添付して提出したとしても、おそらく受け付けてもらえない。 なぜなら、米国における相続というのは、遺産分割協議や遺言だけで財産の移転ができないからである。 遺産は包括承継という形で権利が移るのではなく、一旦、遺産財団に被相続人の財産が移転し、管財人が遺産や債務を精査し、債務を遺産から返済し、税金を納付し、最後に相続人に財産を渡すというシステムになっている。そして、原則的には、プロベート(probate)といい裁判所が介入して相続の手続を進行していく。たとえ遺言があったとしても、である。 このため、相続の登記をする際に、その地の相続法のルールに従って相続手続が行われたことを証する書類がなければ、現地の登記官も適正な相続が行われていないと判断することが予想される。日本では法の適用に関する通則法により日本法での相続と定められていると反論しても、受け入れられることは難しいと考える。 このように、法の適用に関する通則法とは異なり、相続の手続がスムーズに行われるように、米国の不動産については現地の相続法に従って相続を行い、登記をすることになるのが現実的な対応といえる。   (了)

#No. 308(掲載号)
#菅野 真美
2019/02/28

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第7回】「「公益の分配が適正に行われること」とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第7回】 「「公益の分配が適正に行われること」とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 措置法40条の適用要件における「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」ためには、公益の分配が特定の人に限られることなく適正に行われることが必要とされますが、この「公益の分配が適正に行われること」とは、具体的にどういうことですか。   - 回 答 - 当該贈与又は遺贈を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業などにより制限されることなく、公益を必要とするすべての者(やむを得ない場合にはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われることを指します。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」という要件を満たすと判断されるには4つの要件を満たす必要があり(【第5回】参照)、そのうちの1つに、「寄附を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益の分配が、その公益を必要とする全ての人に与えられるなど、特定の人に限られることなく適正に行われること」というものがあります。 これは、公益法人の事業の結果生じる公益が、それを必要とする者に対し、職業、勤務先などに制限されることなく、必要とする全ての者に対し公平に与えられることを意味しています(措置法40条通達12(2))。 したがって、例えば、助成金を支給する事業であれば、特定の企業に属する研究者のみを対象としていては、公益の分配が公平とは考えられません。 また、奨学金の支給を行う事業であれば、広く一般から公募せずに法人の利害関係者のみを対象にしていては、やはりこれも公益の分配が公平とは考えられません。 公益法人として認定を受けるための要件、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか」と同じ考え方であるといえます。   (了)

#No. 308(掲載号)
#中村 友理香
2019/02/28

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第20回】「関連当事者との取引(その2)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第20回】 「関連当事者との取引(その2)」   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷関連当事者取引の類型 関連当事者取引は、一過性の特殊な取引として行われることもあれば、定型的な取引として営業活動の一環となっている場合もある等、取引相手となる「関連当事者」の属性が広範であることから、取引の内容や種類も多岐にわたることが多い。 今回は関連当事者取引の主な類型について、取引の属性ごとに整理してみよう。 ➤ 営業上の継続的な取引 主要製品の販売先や、主要原材料の仕入先が関連当事者に該当する場合、当該会社の営業利益の大部分が関連当事者との取引から構成されていることとなり、事業上の合理性や、場合によっては当該会社の存在意義も含めて検討が必要となるであろう。 そのほか、典型的な営業上の取引として、例えば次のような取引が挙げられよう。 ➤ グループ間の横断的な取引 経営の合理化/効率化のため、グループ内の共通業務を別会社化したり、外部に業務委託したりする、いわゆるアウトソーシングも近年はよく見受けられる。グループ内の経営資源を集約することで一元管理を可能とし、経営の効率化を図る一方で、管理機能や所有資産の共有化が図られることで、以下のようなグループ間における横断的な取引関係も増加していくことだろう。 ➤ 財務的な取引や一過性の単発取引 企業グループ内での資金管理を一元化することで手許資金のスリム化を図ったり、親会社が自社の信用力を背景に一元的に資金を調達することもよく見受けられる。 このような財務的な取引については、一過性の取引として行われたり、反復的に行われるとしてもいったん反対取引で解消されることが多いと言える。単発の取引であることから当該取引を行う必要性等に関する動機が比較的把握しやすい反面、一過性のものであることから、取引の有無そのものの把握が困難な場合もある。   ▷経済合理性の認められない取引 関連当事者との取引は、例えば関連当事者との資本関係や相互の取引関係の強弱等に起因して、明らかに低廉な価格で取引がなされたり、不合理で複雑な取引条件で実行されたりするケースも多いが、場合によっては当該取引そのものに経済的な合理性が認められないような場合もあり得る。 取引自体の経済合理性が疑われるような関連当事者取引としては、例えば以下のようなものが挙げられる。 ◎年間を通して反復して頻繁に行われる取引や決算期前後の多額な取引 ◎取引価格に合理性がなく、取引を通じて多額の利益/損失が生じて(又はこれらを回避して)いる取引 【実務事例20-1】 部品販売会社のB社では、親会社であるA社で開発の頓挫した試作品を親会社の決算直前に帳簿価額で買い取り、自社の決算期を跨いで数ヶ月後に短期間で廃棄していた。B社役員の説明では「試作品でいいから買いたいという顧客がいたので仕入れたが、結果的に商談が成立しなかったので廃棄した」とのことであった。 ◎取引条件が恣意的に決定されていたり、手続等の前後関係が不透明な取引 ◎特定株主・役員や創業者等の傍系会社からの大量購入や独占的発注 【実務事例20-2】 電子部品の輸入商社を営むE社では、社長が高級外車に乗っており、車検費用や保険料が法人の経費として修繕費に毎年計上されていた。ある年、得意先接待の帰りに生じた自動車事故の多額の修理費用が広告宣伝費に計上されていた(E社の当該年度の広告宣伝費は予算が余っていた)。   経済合理性の認められない取引は異常な取引であると言え、M&Aに際しては是が非でも検出することが不可欠であると言えるが、こうした取引の実態に関しては暗黙的な箝口令が敷かれ、取引当事者の口が一様に重いことが常である。 こうした取引の実態について、買収対象会社が意図的な隠蔽を行うようなことがあれば、弁護士等の法務デューデリジェンスチームと連携して、売買契約書等における表明保証条項による補償についても検討すべきであろう。 売買契約書等における表明保証条項による補償については[法務編]【第8回】を参照されたい。 (了)

#No. 308(掲載号)
#石田 晃一
2019/02/28

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第147回】退職給付会計⑬「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第147回】 退職給付会計⑬ 「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 ◎ X1年3月期の会計処理   〈会計処理の解説〉 1 リスク分担型企業年金とは リスク分担型企業年金とは、簡単にいうと、これまで事業主又は加入者の一方が負っていた「資産運用リスク」を、両者で負担しあう企業年金制度です。 《リスク負担のイメージ図》 具体的には、年金資産の運用に伴う財政悪化を想定し、あらかじめ退職給付債務を超える掛金の積み立てを行うことで、財政悪化が想定の範囲内であれば、企業は追加の掛金拠出を負うことなく、また、加入者も将来支給される年金の額が減少することもありません。 リスク分担型企業年金制度においては、通常、企業は、①標準掛金、②特別掛金、③リスク対応掛金の3つの掛金から構成される固定された掛金を拠出します。このリスク対応掛金が、財政悪化に備えて積み立てられる掛金です。この金額の多寡によって企業・加入者のリスク負担が一方に偏る可能性があるため、あらかじめ労使合意により固定的な金額が決定されることが一般的です。 2 会計処理 リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、次の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下、「退職給付会計基準」という)第4項に定める確定拠出制度に分類されます。 退職給付会計基準では、退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度については、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理するとされています(退職給付会計基準第31項)。そのため、退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額を、各期において費用として処理することになります(実務対応報告第 33 号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」第7項)。 なお、上記以外のリスク分担型企業年金は、退職給付会計基準第5項に定める確定給付制度に分類され、退職給付会計基準第13項から第26項に定める会計処理が必要となります。 (了)

#No. 308(掲載号)
#竹本 泰明
2019/02/28

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《棚卸資産》編 【第1回】「棚卸資産の評価方法(1)~総平均法、移動平均法」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《棚卸資産》編 【第1回】 「棚卸資産の評価方法(1)~総平均法、移動平均法」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに 「中小企業会計指針」における棚卸資産の評価方法は、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法等、一般に認められる方法によることとされ、また、期間損益の計算上著しい弊害がない場合には、最終仕入原価法を用いることもできるとされています(中小企業会計指針28)。 今回は、これらの評価方法のうち、「総平均法」、「移動平均法」による具体的な棚卸資産の算定方法をご紹介します。 【設例1】 A社(12月31日決算)は、様々な商品を仕入して販売する会社です。その様々な取扱商品のうちの1つである「商品B」の当期(×1年1月1日~×1年12月31日)の仕入状況と売上状況は、次のとおりです。 仕入状況(当期仕入計10個、620円)⇒ 仕入時に仕入計上しています。 2月18日:8個×@60円/個=480円 8月6日:2個×@70円/個=140円 売上状況(当期売上計9個、900円)⇒ 売上時に売上計上のみ仕訳しています。 3月25日:4個×@100円/個=400円 9月30日:5個×@100円/個=500円 「商品B」の前期末棚卸高、当期末棚卸高は、下記のとおりです。 前期末棚卸高(×0年12月31日):2個、100円(いずれの評価方法でも@50円/個) 当期末棚卸高(×1年12月31日):3個 1 決算整理仕訳 A社の「商品B」に係る決算整理仕訳は、次のとおりです。 〈×1年12月31日〉 (※) 総平均法の場合:180、移動平均法の場合:183 棚卸資産は、上場企業等が適用する「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、期末における正味売却価額等時価が帳簿価額より下落している場合には、時価をもって貸借対照表価額としなければなりません(いわゆる「低価法」)。 一方、中小企業会計指針では、取得価額を貸借対照表価額とすること(いわゆる「原価法」)を原則とし、金額的重要性がある場合に、いわゆる「低価法」を適用することとされます(中小企業会計指針27)。 今回の《棚卸資産》編では、中小企業会計指針において原則とされるいわゆる「原価法」での各評価方法を、ご紹介します。 (1) 総平均法 「総平均法」は、棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、その事業年度開始の時において有していた種類等を同じくする棚卸資産の取得価額の総額とその事業年度において取得をした種類等を同じくする棚卸資産の取得価額の総額との合計額をこれらの棚卸資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法です(法令28①一ハ)。 この設例では、期末棚卸高の単価は下記の算式により算出されます。 したがって、期末棚卸高は@60円/個×3個=180円と算定されます。 この結果、当期の売上原価は、期首商品棚卸高100円+当期仕入620円-期末商品棚卸高180円=540円となります。 他の評価方法と比較するためにあえて当期の商品Bの受払記録簿を作成すると、下記のようになります。期末棚卸高が算定された後に売上原価を算出するため、期中の払出単価・金額は、その都度の算定ができません。 (2) 移動平均法 「移動平均法」は、棚卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて、当初の一単位当たりの取得価額が、再び種類等を同じくする棚卸資産の取得をした場合にはその取得の時において有するその棚卸資産とその取得をした棚卸資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によって改定されたものとみなし、以後種類等を同じくする棚卸資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その事業年度終了の時から最も近い時において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法です(法令28①一ニ)。 この設例では、まず、2月18日仕入時に、移動平均単価を下記のように改定します。 次の売上時(3月25日)の払出直後の残高単価は、この移動平均単価になります。 3月25日の残高の金額は、6個×@58円/個=348円です。 その次の仕入時(8月6日)には、移動平均単価を下記のように再び改定します。 これ以降、期末まで仕入がなく、期末棚卸高は@61円/個×3個=183円と算定されます。 この結果、当期の売上原価は、期首商品棚卸高100円+当期仕入620円-期末商品棚卸高183円=537円となります。当期の商品Bの受払記録簿を作成すると、下記のようになります。期中の払出単価・金額は、その都度算定されるため、その都度の記録ができます。   2 決算書 決算書の金額のうち「商品B」に係る部分は、次のとおりです。 【×1年12月31日決算期】   3 法人税法上の取扱い (1) 棚卸資産の評価方法の届出書 新たに設立した会社の場合、その設立した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限(合併により設立された法人が仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限)までに、また、設立後新たに他の種類の事業を開始し又は事業の種類を変更した会社の場合、その開始又は変更した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限(法人が仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限)までに、所定の「棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄税務署長へ提出して、棚卸資産の評価方法の選定を行うことになっています。 (2) 法定評価方法 この届出をしなかった場合、最終仕入原価法により算定された取得原価による原価法が選定されたものとされます。 (3) 棚卸資産の評価方法の変更承認申請書 選定した棚卸資産の評価方法を変更するには、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに所定の「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」(合理的な理由が必要)を所轄税務署長へ提出してその承認(合併・分割等特別な事情により認められる場合を除いて、現に評価方法を採用してから3年以上経過していないときは、原則として評価方法の変更は認められないとされています)を受けなければなりません。 (了)

#No. 308(掲載号)
#前原 啓二
2019/02/28

改正相続法に対応した実務と留意点 【第3回】「権利義務の承継と第三者保護に関する留意点」

改正相続法に対応した実務と留意点 【第3回】 「権利義務の承継と第三者保護に関する留意点」   弁護士 阪本 敬幸   今回は、権利義務の承継と第三者保護に関し、具体例を交えて解説する。なお本改正事項については、下記拙稿を合わせて参照されたい。   1 権利の承継と第三者保護 (1) 改正後民法899条の2〔新設〕の概要 法定相続分を超えて権利の承継があった場合、当該相続人と第三者との間で優劣の問題が生じることがある。改正後民法899条の2は、このような場合の相続人と第三者との関係を、登記・登録・債務者に対する通知等の対抗要件の先後により決するとしたものである。 (2) 具体例 以下のような事例を考えてみる。 被相続人Aには、相続人として子B・Cがいる。Aの相続財産は、100万円の預貯金と1,000万円の不動産である。またAは、Xに対して500万円の債務を負っていた。 Bは相続により、不動産の5分の4の共有持分を取得することとなった。 この場合に、Bが法定相続分を超えて権利取得したことにつき、登記手続がされていなかったとすると、「Cも相続分に応じて不動産を相続した」と信じたXが、不動産のCの法定相続分を差し押さえ、「Bが法定相続分を超えて権利取得した部分」に関して、BとXとの間で優劣関係が生じることがあり得る(Bの法定相続分については、BX間で優劣関係とはならないことは当然である)。 この場合、改正前民法の規律の下では、BとXとの優劣関係の処理は以下のように行われてきた。 しかし、③④の場合に相続人が優先する点については、遺言内容に関与できない債権者保護に欠けるのではないかという批判があったところであり、今回の改正で変更されることとなった。 「相続させる」旨の遺言は多用されており、上記④についてもご存知の方が多いと思われるが、改正後民法施行後は③④の場合も、すべて登記の先後で決することになるので注意が必要である。自動車所有権等、登録制度が存在する権利の場合も同様である。 債権については、債権譲渡の対抗要件である、確定日付のある証書による通知(民法467条2項)の先後により決することとなる。 また、債権の場合には、遺言の内容を明らかにして債務者に承継の通知をした場合には、共同相続人全員が通知をしたとみなすとする、899条の2第2項が存在することも、頭に置いておくことをお勧めする。 (3) 施行時期 上記の改正は、2019年7月1日以後に開始した相続に関して適用され、同日前に開始した相続については、改正前の取扱いとなる(改正法附則1条、2条)。ただし、899条の2第2項に関しては、2019年7月1日より前に開始した相続に関し遺産の分割による債権の承継がされた場合において、同日以後にその承継の通知がされるときにも適用される(改正法附則3条)。   2 義務の承継と第三者保護 (1) 改正後民法902条の2〔新設〕の概要 相続債務について相続分の指定があった場合でも、遺言内容に関与できない債権者を保護することを考え、債権者は各共同相続人に対して法定相続分に応じた権利行使が可能と定めたものである。最高裁平成21年3月24日判決の判断を明文化したものである。 (2) 具体例 改正前民法の下での最高裁判決を明文化したものであるから、改正後民法施行後も取扱いに変更はないが、具体例を元に考えてみる。 被相続人Aには、相続人として子B・Cがいる。Aの相続財産は、1,000万円の不動産である。またAは、Xに対して500万円の債務を負っていた。 Aは、「Bに不動産の5分の4、債務の5分の4を相続させる」旨の遺言を作成していた。 この場合、改正後民法902条の2により、上記遺言にかかわらず、XはCに対しても、Aに対して有していた債権にCの法定相続分2分の1を乗じた250万円を請求することができる。 そして上記1で説明したように、相続される不動産について、Bが5分の4を相続したことの登記がない場合、Xは、Cの法定相続分2分の1についてBより先に登記を得る(Cの共有持分につき差押を行う)ことにより、Bに優先することになる。 (了)

#No. 308(掲載号)
#阪本 敬幸
2019/02/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例32】株式会社ハードオフコーポレーション「代表取締役の異動に関するお知らせ」(2019.1.10)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例32】 株式会社ハードオフコーポレーション 「代表取締役の異動に関するお知らせ」 (2019.1.10)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社ハードオフコーポレーション(以下「ハードオフ」という)が平成31年1月10日に開示した「代表取締役の異動に関するお知らせ」である。平成31年4月1日付で、同社の「代表取締役会長兼社長」である山本善政氏(以下「善政氏」という)が「代表取締役会長」に、同社の「取締役副社長」である山本太郎氏(以下「太郎氏」という)が「代表取締役社長」になるという内容である。 「異動の理由」は、次のように記載されている。代表取締役が2人になることが「経営体制の一層の強化を図ること」なのかどうか、筆者には分からないが。   2 経営者の世襲 姓が同じなので容易に推測できるが、ハードオフの有価証券報告書(第46期)の「役員の状況」の記載によると、太郎氏は善政氏の長男とのことである。よくあることではあるが、上場会社において経営者の世襲が行われたのである。 今回の開示に記載された「新代表取締役社長の略歴」によると、太郎氏は、大学卒業後、約2年半、株式会社ファーストリテイリングに勤めた後、ハードオフに入社している。そして、社長室次長を経て、約3年半で常務取締役に就任している。現在38歳である。 その経歴から、新たな代表取締役となったのが、たまたま太郎氏だったわけではなく、太郎氏が代表取締役となるのは既定路線であったことが分かるだろう。 同社が平成30年12月13日に開示しているコーポレートガバナンス報告書の「コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由」には、次のような記載がある。しかし、同社において「総合的な後継者計画の策定」がなされることは、おそらくないだろう。   3 無借金経営 ハードオフの本社がある新潟県には、同県に本社を持つ上場会社の経営者が集まる「新潟県上場企業経営者の会」というものがあり、善政氏はその発起人代表とのことである。同氏は、上場会社の経営者であることをかなり誇りに思われているようだが、その考え方は、経営者の世襲を行うことも然りだが、どうも上場会社の経営者らしくない。 同社の貸借対照表を見ると、有利子負債がなく、自己資本比率は80%を超えていることが分かる。いわゆる無借金経営を方針としているようである。同社の有価証券報告書(第46期)の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」には、次のような記載がある。   4 配当方針を変更したが ハードオフの自己資本利益率(ROE)は低下傾向にあり、平成30年3月期は4.3%である。株主が会社に求めるのは、「蓄積に努める」ことではないだろう。特にこの低金利の下、無借金経営は、株主が望む方針では決してないはずである。 批判をかわすためだろうか、同社が平成30年5月10日に開示した「2018年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」の添付資料の「利益配分に関する基本方針および当期・次期の配当」には、次のような記載がある。 これをよほど強調したかったのだろう。同社は、同日、加えて「配当方針の変更に関するお知らせ」も開示している。その「理由」は、次のように記載されている。   5 開示に対する姿勢 ハードオフの株主の中には、そうした開示を見て、配当が上がるのだと思ってしまう方がいるかもしれない。しかし、そうではない。配当方針変更後の配当予想額は1株当たり40円とされており、変更前のこれまでの額と変わらないのである。 「配当方針の変更に関するお知らせ」には、配当性向を引き上げることのみが記載されており、配当額については記載されていない。この開示だけを見ると、投資判断を誤ってしまう可能性がある。 同社は、同じ平成30年5月10日に「通期業績予想と実績値との差異及び通期個別業績と前年実績値との差異並びに特別損失の計上に関するお知らせ」も開示しているのだが、これも望ましい開示とは言えない。決算短信とともに、業績予想と実績の差異に関して開示しているのだが、本来であれば、それよりも前に業績予想の修正として開示すべきである。 同社の開示に対する姿勢は、東証一部上場の会社としては見劣りするものだと言わざるを得ない。   6 学歴の過小申告? 筆者は、上場会社における経営者の世襲自体を否定するわけではない(それが無批判に何となく受け入れられてしまう状況に対しては、強い違和感を抱いてしまうが)。しかし、それを行う場合、株主に対して、抽象的な説明でごまかすのではなく、きちんと説明して、理解を得る必要があるはずである。 なお、今回の開示で筆者が最も気になったのは、実は「新代表取締役社長の略歴」の中の「最終学歴」の記載である。「早稲田大学商学部卒業」と記載されているのだが、太郎氏の最終学歴はそれではない。その後、経営大学院で学んでいるのである。正しい最終学歴は「事業創造大学院大学事業創造研究科修了」である。ちなみに、事業創造大学院大学は、筆者が現在勤務している大学である。 これは誤りではなく、意図的なものだろう。某社の前代表の「報酬の過小申告」が最近話題になったが、こちらは「学歴の過小申告」と言える。筆者にとって極めて残念な虚偽記載である。 (了)

#No. 308(掲載号)
#鈴木 広樹
2019/02/28

プロフェッションジャーナル No.307が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年2月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.307を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/02/21

日本の企業税制 【第64回】「電子経済課税に関する動向」

日本の企業税制 【第64回】 「電子経済課税に関する動向」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   経済のデジタル化に対応した国際的な法人課税のあり方に関する検討が急ピッチで進んでいる。本年6月にはG20財務大臣会合が福岡で開催されるが、そこでは2020年に予定される国際的合意に基づく長期的解決策の取りまとめに向け、一定の方向性を見出し、ゴールに向けた作業計画を策定することとされている。   〇昨年3月公表の「中間報告書」 これまでの議論のベースとなってきたのは、2018年3月にブエノスアイレスで開催されたG20財務大臣会合においてOECDから提出された「経済の電子化に伴う課税上の課題に関する中間報告書」である。 この中間報告書のポイントは次の3点であった。 第1に、デジタル経済の特徴として、①国境を越え物理的拠点を伴わないビジネス、②知的財産など無形資産への大きな依存、③データ及びユーザー参加の重要性、を提示した。 第2に、今後、デジタル化に伴う課税上の課題に対応すべく、グローバルな長期的解決策を取りまとめること、そして、必要に応じ、2つの国際課税原則を見直していくことで合意した。2つの国際課税原則とは、①ネクサス原則(各国の非居住者である企業に対する課税権の決定ルール:「PEなければ課税なし」)と②利益配分原則(課税対象所得の算定及び配分ルール:「独立企業原則」)である。 第3に、グローバルな長期的解決策が合意に至るまで、暫定的措置で対応することを志向する国があることを踏まえ、暫定的措置の導入にあたっての6つの「考慮すべき事項」を提示した。   〇2月公表の「コンサルテーションペーパー」で示された2つの柱 本年2月13日、OECDは、現在検討中の長期的解決策に係る提案について説明した「経済の電子化に伴う課税上の課題に関するコンサルテーションペーパー」を公表した。 今回のコンサルテーションペーパーで示された長期的解決策は、次の2つの柱から構成されている。 【第一の柱】 ネクサス原則及び利益配分原則について、次のいずれか(相互に排他的ではない)の概念を踏まえて見直すことが提示された。 ①の場合、ネクサスを見直す観点から、ユーザーの積極的な参加が考えられる「高度に電子化されたビジネス(Highly Digitalized Businesses:HDB)」においては、ユーザーの所在地国に課税権を配分しようとするものである。 なお、ユーザーの積極的な参加が考えられる「高度に電子化されたビジネス(HDB)」として、ソーシャルメディア・プラットフォーム、検索エンジン、オンライン・マーケットプレイスが挙げられている。これは、イギリスが2020年からの導入を目指しているデジタル・サービス・タックス(Digital Services Tax:DST)の課税対象と重なっている。 ②の場合、利益配分を見直す観点から、個々の企業ではなく市場国に帰属するマーケティング上の無形資産(MIs)に応じて残余利益を配分しようというものである。ブランドや商標、顧客データなどのマーケティング上の無形資産(MIs)はそれぞれの市場国と一体の関係にあると見られることに着目して移転価格を算定するもので、HDBに限らず、伝統的な消費者向けビジネスも含めて、対象を広くとっている点が特徴である。 ③の場合、ネクサスを見直す観点から、非居住者であっても、市場国から定期的に収入を得、かつ一定の要件(例えば、現地通貨又は現地の支払方法での請求や回収、現地語でのホームページの維持、等)を満たす場合に、市場国での課税権を認めるというものである。 【第二の柱】 第一の柱と相互補完的な関係にあるものとして、無税・低税率国への利益移転を防止する措置として、①所得合算ルール(income inclusion rule)及び、②税源浸食的支払いの損金不算入(tax on base eroding payments)が提示された。 これらは、すでに米国でトランプ税制改革の一環として導入された、CFCの課税所得のうちCFCが保有する有形償却資産額の10%を超える額を合算対象とするGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)、国外関連者への特定支払額に対する追加課税(ミニマムタックス)であるBEAT(Base Erosion and Anti-Abuse Tax)と類似するように見える。 (了)

#No. 307(掲載号)
#小畑 良晴
2019/02/21

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第7回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法の目的論的解釈の過形成①-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第7回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成①-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回から何回かにわたって、前回と同じ主題(「租税法律主義と実質主義との相克」)の下で、税法の解釈適用の「過形成」について、裁判例を素材にして検討していくことを、前回の最後(Ⅳ)で予告しておいたが、今回は、税法の目的論的解釈の「過形成」として、課税減免制度濫用の法理(【47】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)を取り上げることにする。 課税減免制度濫用の法理については、既に第2回のⅢ2で簡単に前触れしたところであるが、外国税額控除規定(法税69条)を利用した租税回避事案(外国税額控除余裕枠利用事件のうちりそな銀行事件)において同規定の適用を否認した最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁を検討していく中で、同判決の基礎にある考え方をそのように呼ぶようになったのである(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第2章第1節[初出・2007年]も参照)。この判決は次のとおり判示している(下線筆者。最判平成18年2月23日訟月53巻8号2461頁も参照)。 この判決を検討した頃から、税法の目的論的解釈の「過形成」に関する筆者の研究が(当初は「過形成」という言葉は用いていなかったものの)本格化したのであるが、以下では、その前段階の研究も含めて「過形成」研究を簡単に振り返りながら、課税減免制度濫用の法理の論理構造及び本質的性格を明らかにすることにしよう。   Ⅱ 課税減免規定の限定解釈 筆者が外国税額控除余裕枠利用事件を検討する契機となったのは、租税法学会第32回総会(2003年10月19日・岡山大学)で「司法過程における租税回避否認の判断構造-外国税額控除余裕枠利用事件を主たる素材として-」と題する報告(租税法研究32号(2004年)53頁[前掲『租税回避論』第1章第2節所収])をすることになったことである。この報告では、同事件のうち特に三井住友銀行事件・大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁を検討した。 この判決は、外国税額控除規定について「その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」をとる余地を認めた。そのような解釈は課税減免規定の限定解釈(【46】)と呼ばれるが、これは、課税減免規定に係る適用除外規定の欠缺(いわゆる隠れた欠缺)を補充する「解釈」であり、厳密にいえば、狭義の法解釈(可能な語義の枠内での法解釈)とは区別されるべき一種の法創造である。もっとも、当該課税減免規定の趣旨・目的が、文言による表現に匹敵するほどの明確性をもって、一般に認識可能である、というような厳格な要件を充たす場合には、その趣旨・目的に照らして当該課税減免規定の限定解釈を行うことは、一般論としては、租税法律主義の下でも許容されよう。 これを外国税額控除規定についてみると、同規定の趣旨・目的が国際的二重課税の排除であることは、文言による表現に匹敵するほど明確であると考えられるので、同規定における外国法人税の「納付」という要件から、その趣旨・目的に合致しない場合(例えば国際的二重課税の発生のみを目的とする取引に基因する外国法人税の「納付」。今回取り上げる事件における外国法人税の「納付」も見方によってはこれに該当する)を除外するとの解釈をとることは、租税法律主義の下でも許容されよう。そのような解釈は、狭義の法解釈の限界を超える一種の法創造であるとはいえ、それでもなお依然として要件の文言を「解釈」しようとする方法論的立場を堅持しているのである(「解釈的」方法による法創造)。   Ⅲ 課税減免制度濫用の法理 これに対して、前掲りそな銀行事件・最判は、先に引用した判示から明らかなように、外国法人税の「納付」という要件についてその文言の解釈には(少なくとも判決文上は)全く言及していない。 この点については、確かに、次の見解(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)140-141頁)にみられるように、同最判を課税減免規定の限定解釈の「例」としてその射程内に位置づける理解も示されてはいる。 しかし、繰り返しになるが、同最判は、端的に、「本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは,外国税額控除制度を濫用するものであり,さらには,税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」(下線筆者)と判示するのみである。もっとも、この判示部分のうち「外国税額控除制度を濫用するもの」は、外国税額控除制度の趣旨・目的に反する同制度の利用を意味するが、このことから直ちに、「本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすること」が「許されない」と判断しているわけではない点については、更に立ち入った検討が必要である。 同最判は、上記の判断において「税負担の公平を著しく害するもの」という判示を介在させている。租税負担の公平は、租税理論・政策上も租税憲法(租税平等主義)上も租税法律の内容を構成し規定する基本的要素であり(含み公平観。【21】・第2回Ⅱ参照)、これを(著しく)害するものは、租税法律の観点から(著しく)不当と評価されるべきものである(【69】も参照)。「租税負担の公平=租税正義」(ドイツ語ではいずれもSteuergerechtigkeit)という「等式」が成り立つ所以である。つまり、同最判は、「外国税額控除制度を濫用するもの」に対して不当という税法的評価を加え、「外国税額控除制度を濫用するもの」をその不当性に基づき「許されない」と判断したものと解される。 要するに、外国税額控除制度という課税減免制度の趣旨・目的を探知すれば、当該制度の利用が当該制度の濫用(趣旨・目的に反する利用)に該当するかどうかを認識することはできるが、しかし、濫用の認識から直ちに、当該制度の濫用を「許されない」とする価値判断を導き出すことはできず、濫用の認識に不当という税法的評価が付加されて初めて、「許されない」とする価値判断が成立するのである。 同最判による外国税額控除否認の判断構造は、以上のようなものであると解されるが、そうすると、それは、課税減免規定の限定解釈による外国税額控除否認の判断構造とは明らかに異なるので、筆者としては、同最判の基礎にある考え方を課税減免制度濫用の法理と呼んで、課税減免規定の限定解釈とは一線を画することにしたのである。すなわち、課税減免制度濫用の法理は、課税減免規定の限定解釈とは異なり、当該規定をその趣旨・目的に照らして限定的に解釈することによって当該規定に係る適用除外規定を創造する考え方ではなく、課税減免制度の趣旨・目的それ自体を「規範」として用い、当該制度の濫用(趣旨・目的に反する利用)を認識し、その認識に不当という税法的評価を付加することによって、当該制度の濫用を否認するための「法規範」を創造する考え方であると考えるところである。 前述のとおり、「租税負担の公平=租税正義」という「等式」が成り立ち、しかも課税減免制度の濫用が、当該制度の趣旨・目的に従って当該制度の適用を受ける者及び受けない者との間で「不公平」を発生させる以上、税法の解釈適用者(税務官庁や裁判官)の「気持ち」が、課税減免制度の濫用を「(正義に反するという意味で)不当」とみて、その濫用を否認するための「法規範」を創造しようとする方向に動くのも、理解できないわけではない(【67】も参照)。 さらには、次の見解(平野嘉秋「外国税額控除余裕枠の利用の可否(大阪地裁平成13年5月18日判決)」税務弘報50巻4号(2002年)60頁、71-72頁)が指摘するような国家財政に対する悪影響、一般の納税者の納税道義の低下のおそれ等も、税法の解釈適用者の前記のような「気持ち」の動きを後押ししたのかもしれない(杉原則彦「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成17年度(下)990頁、997頁も参照)。 課税減免制度濫用の法理の下で行われる法創造は、「解釈的」方法による法創造ではなく、「租税法規の趣旨・目的の法規範化」による法創造ともいうべきものである(【47】)。これを認める考え方を筆者は「租税法規の趣旨・目的の法規範化論」と呼んでいるが、課税減免制度濫用の法理はその(代表的な)1つである(拙稿「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(ミネルヴァ書房・2015年)1頁、13頁以下参照)。   Ⅳ おわりに 最後に、租税法規の趣旨・目的の法規範化論、とりわけ課税減免制度濫用の法理について、租税法律主義及び実質主義との関係を述べておこう。 租税法規の趣旨・目的の法規範化論は、租税法規の要件の解釈によって法規範を定立しこれを事案に適用するのではなく、租税法規の趣旨・目的それ自体を法規範として事案に適用し、その趣旨・目的に反する納税者の行為を租税法規の適用上否認する考え方である。とりわけ課税減免制度濫用の法理は、課税減免制度の濫用(趣旨・目的に反する利用)に租税負担の公平の観点から不当という税法的評価を付加し、もって課税減免制度の趣旨・目的からいわば「不文の濫用規制要件」ともいうべき法規範を創造し、これを事案に適用して課税減免制度の適用を否認する考え方である。 課税減免制度にそのような「不文の濫用規制要件」が内在することを認めこれを適用して課税減免制度の濫用を否認することを容認することは、課税に租税法律上の明文の根拠を要求する租税法律主義にとって「自己否定」ともいうべきものである。換言すれば、租税法律主義の下では、「租税負担の公平=租税正義」という「等式」は、租税法律上の明文の規定の存在を前提にして、その規定の枠内においてのみ、成立すべきものなのである(含み公平観。【21】・第2回Ⅱ参照)。要するに、租税法律主義の下では、課税減免制度の濫用を否認するためには、平成13年度税制改正によって新たに定められた濫用規制要件(法税69条1項括弧書・同令141条4項[現行142条の2第5項])のような明文の否認規定が不可欠である。 他方、前記のような「不文の濫用規制要件」を創造するために租税負担の公平の観点から課税減免制度の濫用に対して不当という税法的評価を加えるという思考過程は、経済的実質主義への「先祖返り」(前回Ⅲ2参照)の道に通じるものである。その道程の「分岐点」にあるのが、税法の目的論的解釈である。 税法の目的論的解釈と実質主義との関係について、実質主義を定める規定の創設が税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月。公益社団法人日本租税研究協会ウェブサイト「税制調査会答申集」)4頁で答申されたにもかかわらず国税通則法の制定に当たっては結局のところ見送られたことを受けて、以下のような見解が示されるようになった(①植松守雄「税法上の実質主義について」税経通信23巻10号(1968年)129頁、130頁、②広瀬時江『判例を中心とする税金問題の研究』(財経詳報社・1971年)63頁、③下村芳夫「租税法律主義をめぐる諸問題-税法の解釈と適用を中心として」税務大学校論叢6号(1972年)1頁、28頁)。 しかし、次の見解(前記②66頁)が正当にも指摘するように、先に述べた「分岐点」にある税法の目的論的解釈を誤って「過形成」してしまうと、租税法律主義の下では許容されない解釈方法をその「分岐点」において選ぶことになり、経済的実質主義への「先祖返り」の道を進むことになるのである。 この見解は、目的論的解釈の「過形成」に関する研究の必要性(前回Ⅳ参照)を指摘するものとして、現代においてもなお傾聴すべき価値を失っていない、いやむしろ課税減免制度濫用の法理など最近の判例の考え方をみるとその価値を増している、とさえ考えるところである。 (了)

#No. 307(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/02/21
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