空き家をめぐる法律問題 【事例17】 「台風・強風によって空き家の屋根瓦等が飛散した場合の法的責任」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、A市で生活をしていますが、隣のB市に空き家となった実家を所有しています。自宅は、昭和40年代に建築された木造瓦葺の建物です。父は実家の修繕工事をしていたようですが、相当に経年劣化しています。 先日、台風17号(仮称)がB市を縦断し、実家の屋根瓦が一部落下したほか、屋根に残っている瓦も剥がれそうな状態になりました。私は、応急処置としてブルーシートを貼って瓦の落下や雨漏りを防いでいますが、修繕工事の目途は立っていません。天気予報によれば、間もなく大型の台風18号(仮称)がB市を縦断するようです。 もし、この台風によって瓦が飛散して、第三者に損害を与えた場合、私にはどのような法的責任がありますか。 1 はじめに 先日、台風15号が関東地方を縦断し、千葉県を中心に甚大な被害を発生させた。平成30年にも台風21号や大阪府北部地震が発生し、空き家に絡む被害が生じることとなった。本連載【事例3】においても「地震が発生した場合の空き家の管理責任」を取り上げたところである。 さて、台風15号においては、民家の屋根瓦が強風で飛散する等の被害も少なからず見受けられたことから、今回は、台風・強風によって空き家の屋根瓦が飛散した場合の法的責任について検討することとしたい。 2 自然災害と工作物責任(民法第717条) (1) 民法第717条の工作物責任の範囲 民法第717条第1項は、工作物の設置又は保存の瑕疵によって生じた損害について、その占有者に第一次的責任を負わせ、占有者が責任を負わない場合に、所有者に無過失責任を負わせている。 同項に規定する工作物の「設置又は保存の瑕疵」とは、建物に代表される工作物が、その種類に応じて、通常備えているべき安全性を欠いていることをいう(最判昭和45年8月20日民集24巻9号1268頁参照)。「通常備えているべき安全性」との定義からもわかるように、異常な自然力(不可抗力)によって生じた危険に対する安全性まで備えている必要はないと解されており、当該工作物の客観的性状から見て判断をしていくことになる(客観説)。 (2) 屋根瓦の工法と安全性判断 一般的に、屋根瓦については、引掛け桟瓦葺き工法(屋根の下地の上に、ルーフィングと呼ばれる下葺材・防水材を敷き、その上に桟木を打ち付け、これと瓦を釘等で打ち付ける工法)が主として用いられているものと推察される。このような工法が採用されていないか、採用されていても釘等が錆びて脆くなっていたような場合には、台風・強風による瓦の飛散について、「設置又は保存の瑕疵」が認められるものと思料される(台風による瓦の飛散事故について、民法第717条第1項の責任を認めた事例として、福岡高判昭和55年7月31日判タ429号130頁参照)。 昨今、風水害の威力が以前に比して強くなっている旨指摘されており、このような傾向に対処することが今後求められていくものと思われる。この点に関して、工作物の占有者や所有者が、いつの時点を基準にして工作物の安全性を保つべきか問題となりうる。この問題に関しては、事故が生じた時点を基準に判断していくものと解されており、事故後に明らかになった新たな技術や工法等まで考慮して安全性を判断するのではない。 もっとも、新たな工法については普及の程度等にも留意が必要である。例えば、一般社団法人全日本瓦工事業連盟は、「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」を公表し、台風・強風に強いガイドライン工法を推奨しているところ、このような工法が、事故発生当時に、相当程度標準化されて全国的・当該地域に普及しているような事情がある場合には、「設置又は保存の瑕疵」を判断する基準に含まれる余地があるものと思われる(点字ブロックの普及具合等を考慮することを指摘した事例として、最判昭和61年3月25日民集40巻2号472頁)。 (3) 設置又は保存の瑕疵と時間軸との関係 一見、工作物の安全性に欠如があると認められる場合でも、「設置又は保存の瑕疵」が否定される場合がある。例えば、道路管理者が夜間の道路掘削工事のために設置した工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が、第三者によって道路上に倒されたまま放置されていた場合に、「道路の安全性に欠如があったといわざるをえないが、それは夜間、しかも事故発生の直前に先行した他車によって惹起されたものであり、時間的に被上告人において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であった」として道路管理の瑕疵を否定した事例がある(最判昭和50年6月26日民集29巻6号851頁参照)。一方で、国道上に駐車中の故障した大型貨物自動車を約87時間放置していたことが道路管理の瑕疵にあたるとされた事例もある(最判昭和50年7月25日民集29巻6号1136頁)。 上記各判例は、道路管理が問題になった国家賠償法第2条の営造物責任に関する事例であり、民法第717条の土地工作物責任にまで直ちに射程が及ぶというものではない。もっとも、上記各判例からすると、「設置又は保存の瑕疵」の判断は、当該工作物の客観的性状のみから判断するのではなく、時間軸等も考慮して、より規範的に判断するべきことを示唆しているように考えられる。 すなわち、本来、国家賠償法第2条の営造物責任や民法第717条の土地工作物所有者の責任は、一般に無過失責任と解されており、あくまでも事故発生時の当該営造物や土地工作物の客観的な性状のみが瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)の判定の基準となるが、個別具体的な事案の妥当な解決のために、設置者又は所有者側の予見可能性や結果回避可能性といった規範的な判定基準を設けることによって、実質的に過失責任的な要素が盛り込まれているということである。 3 本件の場合 本件において、B市の実家は、台風第17号によって、瓦が剥がれたような状態となっている。これが瓦の剥離を防げたにもかかわらず、工法や管理が不適切であったため剥離が生じたものなのであれば、台風第18号によって瓦が飛散して第三者に損害が生じた場合には、「設置又は保存の瑕疵」が認められる可能性が高いと考えられる。 これに対して、台風第17号が稀に見る大型台風であり、通常有すべき安全性を備えていても瓦の剥離を防げなかった場合には別の考慮が必要になるように思われる。被害が広範囲に及んでおり、瓦職人の人手が不足し、ブルーシートで応急処置に留めざるを得ず、この間に台風第18号がB市を縦断し、瓦が飛散して第三者に損害が生じたというような場合には、上記2の(3)で見た各判例の理解によっては、「設置又は保存の瑕疵」を否定する場合もありうるように思われる。 なお、上記にいう「稀に見る大型台風」か否か、すなわち異常な自然力(不可抗力)によるものか否かは、わが国が「台風立国」であり、例年一定規模の台風の襲来が避けられない以上、数十年に一度の規模であれば、不可抗力の判断に傾くと考えられるが、その一方で、数年に一度程度の規模であれば、不可抗力の認定には慎重な考慮が必要であろう。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫 ◆むすびに代えて◆ ~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~ 【中編】 「弁護士が『違反を知りながら表明保証』させたらどうなるか」 (つづく)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第25話】 「保険契約の名義変更」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「それにしても統括官・・・大変でしたね。」 浅田調査官が出勤してきた中尾統括官に声をかける。 中尾統括官は、鞄を机に置きながら、苦笑する。 「いやぁ・・・本当に痛かった・・・」 顔をしかめながら、浅田調査官に答える。 中尾統括官は、お盆で、富山に帰省中、救急車に運ばれた。 原因は、「尿管結石」である。 「まだ、石は出てこないのですか?」 浅田調査官はニヤニヤしながら尋ねる。 「うん・・・あれから一週間経つけど、まだ石は出てこない・・・医者からは1ヶ月ほど様子を見てみようということで、それで駄目であれば、体外衝撃波砕石術(ESWL)又は・・・内視鏡治療を行うと言われているんだ・・・」 中尾統括官は、机の上に書類を重ねながら言う。 「・・・ところで、昨日、納税者から問い合わせがあったのですが・・・」 浅田調査官は急にメモ書き用紙をポケットから取り出して尋ねる。 「・・・同族会社の役員甲が退職することになって、これまで契約者を会社、被保険者を役員甲、死亡保険金受取人を会社とする終身保険に加入していたのですが、これを役員甲の退職金の一部として、現物支給(名義変更)するということなのです・・・」 浅田調査官は、一枚目のメモ書きを中尾統括官に見せる。 「・・・それで、役員退職金が4,000万円(源泉所得税400万円)、会社が資産計上している保険積立金(契約変更時)が1,000万円、解約返戻金900万円の場合・・・会社は、次のような処理をすることになります。」 浅田調査官は2枚目のメモ書きを見せる。 「・・・この現金支出の2,700万円は、役員退職金の4,000万円から解約返戻金900万円と源泉所得税400万円を控除した金額です・・・契約者の名義変更することによって、会社は経理上、100万円の雑損失が発生します。」 浅田調査官がメモ書きの記載内容を確認する。 「それで質問というのが、その後、役員甲がこの保険契約を解約した場合の一時所得の計算における収入を得るために支出した金額は、いくらになるかということなのです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「これについては・・・たしか有名な最高裁の判決があったと思う・・・」 そう言うと、中尾統括官はパソコンで、最高裁のホームページを開く。 「この最高裁平成24.1.13判決だな。」 中尾統括官は、判決要旨を読む。 「すなわち、所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」は・・・当該収入を得た個人において自ら負担して支出したといえるもの・・・ということで、会社が損金経理した2分の1については、控除できないと判断している。」 中尾統括官は、画面を見ながら罫紙に図を描く。 「・・・それに、所得税基本通達34-4(2)では、控除できるものとして・・・当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの・・・と規定している・・・」 中尾統括官は、手元にある通達集を広げる。 「そして、少額な保険料等については、本質的には給与課税を行うべきであるため、たとえ給与課税がなされなくても、控除する保険料等に含まれることを・・・この通達の注書きで記載している。」 そのとき、中尾統括官は急に少し顔をしかめて、「ちょっと・・・」と言って席を立つ。 「大丈夫ですか?」と浅田調査官は、後ろ姿の中尾統括官に声をかける。 しばらくすると、中尾統括官は安堵の表情で戻ってきた。 「出たよ!!」 中尾統括官は、小さなビニール袋に入っている、8ミリぐらいの黒っぽい小石を浅田調査官に見せる。 (つづく)
《速報解説》 有料老人ホームの飲食料品の提供に対する軽減税率の適用について、 東京局より文書回答事例が公表される Profession Journal 編集部 本日(2019年10月1日)より消費税の税率は8%から10%へと引き上げられ、それと同時に8%の軽減税率が導入された。 軽減税率が適用されるのは酒類を除く飲食料品と週2回以上発行される新聞(定期購読契約によるもの)であり、レストランやフードコートなどでの食事は、飲食料品を飲食させる役務の提供として標準税率(10%)が適用されるのだが、学校給食や有料老人ホームでの入所者への食事の提供については、一定の条件の下、軽減税率が適用される。 上記のうち有料老人ホームの入所者に対する食事の提供については、軽減税率の対象となる費用の限度額が財務省告示(※1)及び厚生労働省告示(※2)によって定められており、「有料老人ホーム等の設置者又は運営者が、同一の日に同一の者に対して行う飲食料品の提供の対価の額(税抜き)が1食につき640円以下であるもののうち、その累計額が1,920円に達するまでの飲食料品の提供」であること、すなわち1食当たり640円(基準額)以下、1日当たりの累計額が1,920円(限度額)までとされている。 (※1) 「消費税法施行令等の一部を改正する政令附則第3条第2項の規定に基づく財務大臣の定める基準」(平成28年財務省告示第100号) (※2) 「入院時食事療養費に係る食事療養及び入院時生活療養費に係る生活療養の費用の額の算定に関する基準」(平成18年厚生労働省告示第99号) そしてこのほど東京国税局は、上記の取扱いに関連する文書回答事例を公表した。 本事例の照会者は、老人福祉法第29条第1項の規定による届出が行われている有料老人ホームで、入所者に対する食事の提供(法令の要件を充たすもの)を行っているのだが、その提供の対価は下記のように、日額の食材費(食材の調達費)と月額の業務委託費(調理に係る費用)で構成されている。 ※ 1 業務委託費は、欠食(1日3食とも食べないことをいう。)の有無にかかわらず、月額31,000円となる(消費税別)。 2 食材費は1日3食800円となる。本件入居者は800円(消費税別)に喫食(欠食以外のことをいう。)日数を乗じた金額を当月分の食材費として支払う。 3 欠食の場合に限り、1日分の食材費は発生しない。 上記の場合の1食当たりの基準額及び1日当たりの限度額の計算に当たっては、「食材費」は食材を調達するための費用で、「業務委託費」は調理に係る費用であり、ともに飲食料品の提供を行うために要するものであることから、食材費と業務委託費が区分されている場合であっても、食材費と業務委託費の合計額が飲食料品の提供の対価の額になるとした。 その上で、月額で定められた業務委託費を含む飲食料品の提供の対価の額が1食につき基準額(640円)以下であり、かつ1日の累計額が限度額(1,920円)以下であるかどうかの判定を行う合理的な方法として、①業務委託費の額を月の日数で除して食材費を含む「1日当たりの食費の累計額」を算定し、②その累計額を1日当たりの食数で除して「1食当たりの金額」を算定する考え方を示し、この方法で「1日当たりの食費の累計額」及び「1食当たりの金額」を計算すると、下表のとおり、いずれの場合においても限度額及び基準額以下となることから、軽減税率の対象となるという見解を示した。 なお、有料老人ホームが提供する飲食料品の軽減税率については、1日3食の他に間食を提供している場合の累計額の取扱い(問80)や、給食事業者が有料老人ホームとの委託契約により食事の調理を行っている場合の取扱い(問83)など、国税庁の「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」の関連問答も合わせて確認しておきたい。 (了)
《速報解説》 10月1日からの特別法人事業税の創設等、 地方法人課税の偏在是正措置に留意 ~財産評価基本通達も一部改正へ~ Profession Journal編集部 消費税率の2度にわたる引上げ延期の影響で、ここまで適用が延期されてきた地方法人課税の偏在是正措置もいよいよ適用が開始される。具体的には、令和元年10月1日以後開始事業年度から、以下の改正が行われることになる。 このほど国税庁は9月25日付で「地方法人税の税率の改正のお知らせ」を公表、平成31年4月1日以後終了課税事業年度分の申告書様式は、改正前後に対応させるために「4.4%」と「10.3%」の両方の税率を記載している旨等、上記改正①②に関する周知を図っている。 また上記改正③~⑤に関しては、9月27日付で「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」を公表、取引相場のない株式等を評価する場合の純資産価額方式における法人税額等相当額について定めた財産評価基本通達186-2を改正した(改正のあらまし(情報)も同時に公表)。 改正通達では、186-2に定めた「法人税率等の合計割合」の算定根拠について該当する部分が次のとおり改正されている(令和元年10月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した取引相場のない株式等の評価に適用)。 なお下表のとおり、今回の改正による令和元年10月1日以後の「法人税率等の合計割合」は改正前と同じ割合となることから、その割合については37%のまま改正されていない。 【参考】令和元年10 月1日以後に開始する事業年度等の「法人税率等の合計割合」の内訳 (※) 国税庁ホームページより さらに上記改正通達を受け評価明細書の様式等について定めた「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」も一部改正が行われている。 冒頭の①~⑤は過年度の税制改正から今年度改正にわたって行われてきたことから、認識が薄れている可能性もあり、消費税率引上げに注目が集まる中で、上記改正への対応も失念しないよう留意したい。 (了)
2019年9月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.337を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第63回】 「デジタル経済の中の税務」 税理士 山本 守之 1 BEPSプロジェクトの流れ BEPSプロジェクトとは、多国籍企業の活動実態と国際課税のルールの間に生じたずれや隙間を狙った過度な租税回避を抑制し、また、企業の公平な競争条件を確保するといった観点から、国際課税のルールを見直して、各国が協調して、こうしたずれや隙間をなくしていこうという国際的な取組みです。 OECDは、2012年にBEPSプロジェクトを立ち上げました。G20のメンバーの支持を得て、2015年9月に「最終報告書」がとりまとめられました。現在129ヶ国・地域が参加しています。 BEPSプロジェクトは次のようになっています。 (出所) 財務省資料 2 BEPS最終報告書 (出所) 財務省資料 上表のAの行動1については、消費税に関するガイダンスがまとまり、その後日本は行動10まで2015年度改正(平成27年度)で対応しました。しかし、法人税の問題は2015年でまとまらず、2020年までにまとめようとして議論が進んでいます。 3 国際的課税逃れ対策 次の図は、国際的課税逃れ対策(BEPS・税の情報交換)の2つの検討状況を示したものです。 (出所) 財務省資料 上図の左側(BEPS)は租税回避に対処しようとするもので、右側(税の透明性・情報交換)は主に脱税防止を念頭においた議論です。税の透明性・情報交換の関係については非居住者の金融口座情報の自動的交換が各国で行われており、このような進展を踏まえ、昨年、税の透明性の基準が改定されました。この新基準を満たしていない非協力的な国のリストを更新していこうという取組みをしているところです。 4 G20のロードマップ 2019年6月8日のG20にて承認された経済協力開発機構(OECD)「経済のデジタル化によって生じる租税問題を解決するためのロードマップ」は、全ての企業(デジタル企業以外も)を対象と考えています。 デジタル経済の発達に伴い、シェアリングエコノミー(ヒト・モノ・場所・乗り物・お金など、個人が所有する活用可能な資産を、インターネットを介して個人間で貸し借りや交換)という新たな経済が生まれています。 ギグ・ワーカーも増えており、ギグ・エコノミー(インターネットを通して単発の仕事を受注)と呼ばれています。 わが国では、「働き方改革」で副業・兼業が増え、同じような状況が生じています。ギグ・ワーカー、ギグ・エコノミーに、税制や社会保障は適切に対応していかなければなりませんが、追いついていないのが実情です。税負担の公平性、タックス・ギャップの拡大といった問題に、わが国の対応は遅れています。 デジタル経済の中で税務はどう対応していくかを研究しなければなりません。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第20回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -実質主義と租税回避との相克- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回まで、「租税法律主義と実質主義との相克」という主題の下、税法の解釈適用の「過形成」を検討してきたが、その検討を始めるに当たって、第6回で「税法の解釈適用論上の原理的課題」という副題の下、実質主義について、特に租税法律主義との相克の場面を念頭に置いて、その概要を述べた(特にⅡ参照)。 そこでは、「税(法)は私的経済活動の上に建てられた『家』のようなものである」ことを前提にして、「軟弱地盤の上に建つ家」にみられるが如き「建付けの悪さ」をいわば「建材の柔軟化」によって解消しようとする考え方として、実質主義を比喩的に描写した(【42】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018)の欄外番号。以下同じ)。 そのような実質主義に基づく課税すなわち実質課税の必要性について、的確な整理・指摘を行うものとして、次の見解(品川芳宣「実質課税の原則」金子宏ほか編『実践租税法大系(上)基本法編』(税務研究会・1981年)53-55頁。下線筆者)がある。少し長くなるが、そのまま引用しておこう。 上記の見解は、確かに、実質課税の必要性について的確な整理・指摘を行うものではあるが、しかし、「公平の原則」に租税の賦課徴収のための税法の解釈適用上「最高の優位性」を承認することを前提にして実質課税の必要性を説く点において、第2回のⅢで述べたように「含み公平観」を前提にして税法の解釈適用を行うべきであるとする私見とは、明らかに異なる。このような前提の違いが実質主義を論じる場合のスタンスの違いにつながるのであるが、そのことは、これまで「租税法律主義と実質主義との相克」という主題の下で税法の解釈適用の「過形成」に関して検討してきたところからも明らかであろうと思われ、また、これから租税回避に関する検討を通じても明らかにしていきたいと考えているので、今回は、そのことを指摘するにとどめることにする。 Ⅱ 実質主義の沿革 さて、前記の見解が説くように税法にとって必要とされる実質主義は、いつ頃から、どのような形で登場してきたのであろうか。実質主義の沿革については、その「発想の整理の必要」を説く立場から、次のような簡潔な整理がされている(忠佐市「租税法における実質主義の原則」法学新報86巻1・2・3号(1979年)7頁、8-9頁。下線筆者)。 上記の整理のうち、同族会社の行為計算否認規定をどのように性格づけるか、実質主義とどのように関係づけるかという点については(清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)324-327頁[初出・1962年]、拙稿「同族会社税制の沿革及び現状と課題」税研192号(2017年)34頁、36頁参照)、租税回避論の沿革との関連で別途検討を要すると考えられるので、後の回に租税回避論の沿革をみる際に検討することにして、ここでは、差し当たり、上記の整理を前提にして、「国税通則法の制定に関する答申」(税制調査会第二次答申)の概要をみておこう。 同答申は、「国税通則法制定の機会において、各税を通ずる基本的な課税の原則として次のようにこれを明らかにするものとする。」(4頁。下線筆者)として、「実質課税の原則」規定の制定について次のように答申した(4頁。下線筆者)。 この点について、同答申の別冊「国税通則法の制定に関する答申の説明」は、第2章(実質課税の原則等)第1節(実質課税の原則の考え方)の冒頭(9頁)で、そして同章第2節(実質課税の原則に関する諸問題)の冒頭の「2・1 実質課税の原則の宣明」の中(11頁)で、それぞれ次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、前記「国税通則法の制定に関する答申の説明」は、「実質課税の原則に関する諸問題」として①「租税回避の問題」、②「特殊関係者等の行為計算の否認」及び③「帰属の問題」、並びに「実質課税の原則に関連する問題」として④「無効な法律行為又は取り消しうべき法律行為と課税」及び⑤「不法原因所得と課税」を取り上げ、それぞれについて詳細な説明を加えている(11-25頁)。 そこでは、前記の①は「広義の実質課税の原則の一環」(13-14頁)として、②は「特殊関係者間の行為計算という特殊な分野に限られた問題」(19頁)としてそれぞれ説明され、また、③については①及び②との「差異」(20頁)を前提にして説明がされ、さらには、④及び⑤は「実質課税の原則に関連する問題」(22頁)ではあるが少なくとも立法的対応としてはこの原則の枠内での検討はされていないことからすると、「国税通則法の制定に関する答申」においても、「それ[=実質課税の原則]についての考え方が必ずしも統一されていない」(先に引用した、同答申の「説明」9頁)ように思われる。 しかも、実質課税の原則については、国税通則法の制定時に「その制度化につき将来の検討に委ねることを適当とするもの」(大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁)の1つとして制度化が見送られた以上、同答申後十数年を経た後においても、「論者の説くところは一人一説の感すらあるように多彩である。」(忠・前掲論文8頁)と評されるのも自然の成り行きであろう。 とはいえ、同答申において税制調査会が前記の①~⑤の問題を実質主義に関する問題あるいは関連する問題として議論の俎上に載せたのは、ドイツにおける経済的観察法(wirtschaftliche Betrachtungsweise)に関する議論の影響を受けたものと考えられる。確かに、わが国における実質主義の嚆矢ないし淵源ともいうべき行政裁判所の判決は所得の人的帰属に関するものであり(「実質主義の沿革」に関する前記引用参照)、「この発想はドイツ法の影響というよりも英米法の影響によるものと考えられそうである。」(忠・前掲論文26頁)という見方もできるかもしれないが、しかし、次のとおり(同26-27頁。下線筆者)、少なくとも戦後は、とりわけ同答申については、ドイツ税法の影響は否定できないと思われる。 もっとも、上記引用の最後にいう「税法独立主義」を含め、次のとおり全面的にドイツ税法の影響を説く論者もいた(田中勝次郎『法人税法の研究』(税務研究会・1965年)684頁)。 ちなみに、ドイツの経済的観察法に関するわが国の論文(清永・前掲書59頁以下[初出・1966年])末尾の「追記[1994年]」(同71頁)では、その議論の射程について次のとおり述べられている(同364-369頁[初出・1967年]も参照)。 Ⅲ 実質主義の「真骨頂」 実質主義の沿革に関する以上の概観からも窺い知ることができるように、実質主義が「その意味するところが常に曖昧で非常にとらえどころのないもの」(清永・前掲書362頁[初出・1967年])であることは確かであろう。ただ、そうであるが故に、いや、そうであるからこそ、実質主義の「真骨頂」は、「あまりにも漠然とした、そして問題に応じて国庫に対して税収を確保するための理論的な武器として用いられがちであった弾力的な実質主義の原則」(同頁)、すなわち、いわゆる経済的実質主義(【42】)に見出されるのである。 そして、その最も先鋭な矛先は租税回避に向けられてきた。その代表的な見解は次のようなものである(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)89頁。初版[1968年]では字句が若干異なる箇所があるが85頁。下線筆者)。 この見解は、租税回避の否認による課税について、その否認の根拠となる法律の規定の有無よりも公平負担の原則を決定的な基準とする点において、実質主義の「真骨頂」を体現するものといってよかろう(租税回避の否認に関する否認規定不要説については【72】参照)。換言すれば、この見解は、前回までの主題である「租税法律主義と実質主義との相克」という厳しい状況の下で、実質主義の側に立つことを宣明したものといえよう。そのような見解は裁判例においても採用されたことがある(①大阪高判昭和39年9月24日行集15巻9号1716頁、②東京地判昭和46年3月30日行集22巻3号399頁[東京高判昭和49年5月29日税資75号569頁も是認])。 Ⅳ おわりに 筆者は、以前、実質主義について、既にみた「一人一説」の如き状況の後の状況を総括して、「そうこうするうちに、おそらくは1980年代半ば以降、税法の解釈適用においても租税法律主義を重視する傾向が強まってくるに伴って、実質主義が実質主義それ自体として議論されることは徐々に少なくなってきたように思われる。」(拙稿「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題』(ミネルヴァ書房・2015年)1頁、5頁)と述べたことがあるが、そのような過程においてみられる、租税法律主義と実質主義との相克は、前記Ⅲでみたような実質主義と租税回避との相克とどのような関係にあると考えるべきであろうか。この問題は、突き詰めれば、租税法律主義と租税回避との関係をどのように捉えるべきかという問題であるといえよう。 租税法律主義と租税回避との関係は、単純な形式論理的思考によれば、実質主義を共通の「敵」とするもの同士の間における「敵の敵は味方」的な関係になりそうであるが、そうではなく、結論を先取りしていえば、相克(敵対性)と調和(同質性)を内包する関係として捉えるべきであると考えるところである。そのような関係の意味するところを、今後、租税回避を検討する中で、明らかにしていくことにしたい。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第42回】 「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の 特別償却の償却限度額の計算に関する付表」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、近年の自然災害が頻発している状況下において、サプライチェーンや地域の雇用等を支える中小企業及び小規模事業者の事業継続力を強化し、防災・減災設備への投資を促す観点から、平成31年(令和元年)度の税制改正により導入されたいわゆる「中小企業防災・減災投資促進税制」における「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却)を適用する場合に記載する。 本制度は、青色申告を提出する中小企業者(※1)が、改正中小企業等経営強化法(以下、「中小企業強靱化法」という)の施行の日(令和元年(2019年)7月16日)から令和3年(2021年)3月31日までの間に、中小企業強靭化法による経済産業大臣の認定を受けた「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」(※2)に基づいて、一定の設備(以下「特定事業力強化設備等」という)を新規取得し事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の20%の特別償却ができる制度である。 (※1) 中小企業等経営強化法の中小企業者であって、租税特別措置法第42条の4第8項第6号の中小企業者その他これに準ずる法人に該当するものをいう。 (※2) 「事業継続力強化計画」は中小企業が単独で取り組む場合、「連携事業継続力強化計画」は複数の中小企業が連携して取り組む場合をいう。 本制度の対象となる特定事業力強化設備等をまとめると次のようになる。 なお制度の詳細については、中小企業庁のホームページを参考にしていただきたい。 Ⅲ 「特別償却の付表(15)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の付表が適用される事業年度 令和元年(2019年)7月16日以後終了する事業年度。 (3) 付表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 付表の各記載欄の説明 「適用要件等」 「中小企業者又は中小連結法人の判定」 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例78(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆医療法人の持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例(措法70の7の14) 認定医療法人(平成29年10月1日から令和2年(2020年)9月30日までの間に厚生労働大臣認定を受けた医療法人に限る)の持分を有する個人がその持分の全部又は一部の放棄(当該認定医療法人がその移行期限までに新医療法人への移行をする場合におけるその移行の基因となる放棄に限るものとし、その個人の遺言による放棄を除く)をしたことによりその認定医療法人が受けた経済的利益については、その認定医療法人に対し贈与税は課税されない。 なお、この特例は、認定医療法人が、その認定医療法人の持分を有する個人からその持分の全部又は一部を放棄することにより受けた経済的利益に係る贈与税の申告書を期限内に提出し、その申告書にその経済的利益についてこの特例の適用を受けようとする旨を記載し、一定の書類を添付した場合に限り適用される。 (了)