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空き家をめぐる法律問題 【事例15】「マンション空き家と滞納管理費に関する諸問題」

筆者:羽柴 研吾

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空き家をめぐる法律問題

【事例15】

「マンション空き家と滞納管理費に関する諸問題」

 

弁護士 羽柴 研吾

 

- 事 例 -

築40年を超える区分所有権のあるマンションの管理組合は、外壁に亀裂が入るなど老朽化したマンションの修繕工事を行うことを検討している。そこで、従前からの管理費や修繕積立金の支払状況を確認したところ、過去6年分の管理費や修繕積立金を支払っていない区分所有者がいることが明らかになった。当該区分所有者は、現在、専有部分に居住しておらず、連絡先も明らかではない。

【1】 管理組合が滞納された管理費を請求できる期間はどれくらいか。

【2】 区分所有者から任意の支払いを受けられない場合、管理組合はどのような方法によって管理費を回収することができるか。

【3】 上記【2】の方法によって回収できない場合に、管理組合がとり得る手段はあるか。

 

1 はじめに

国土交通省の「築後30、40、50年超の分譲マンション数」によれば、平成30年度末に存在した築40年超のマンションは、81.4万戸であったところ、10年後には約2.4倍の197.8万戸に、20年後には約4.5倍の366.8万戸にまで及ぶものとされている。また、平成30年度マンション総合調査結果によれば、平成30年度における完成年次別内訳をみると、完成年次が古いマンションほど、空室のあるマンションの割合が高くなる傾向があると指摘されている。

区分所有建物には複数の者が居住しており、建物の維持管理は区分所有者全体の責務でもあることから、今回は、区分所有建物の一部が空き家となり、管理費等が滞納になっている事案への対処方法を検討することとしたい。

 

2 滞納管理費を請求できる期間について(小問【1】

マンションの管理規約の中には、管理費や特別修繕費(以下「管理費等」という)の支払義務を規定しているものがある。管理費等の支払請求権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われることになる。

そのため、管理費等の支払請求権の消滅時効期間は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、5年間(民法第169条)と考えられている(最判平成16年4月23日民集58巻4号959頁)。もっとも、消滅時効は、その期間の経過によって当然に権利の消滅効が生ずるものではなく、債務者の援用によって初めて効力を生ずるものであるから、5年分以上の管理費等の滞納がある場合であっても、管理組合としては、滞納債務者に対して、全額を請求するべきである。

なお、いわゆる債権法改正後の民法第166条においては、消滅時効期間について、主観的起算点から5年間、客観的起算点から10年間と規定されており、民法第169条は削除されている。したがって、前記平成16年最高裁判決は、改正民法施行後に意味を失うことになるが、消滅時効期間に関する取扱いに影響はないものと考えられる。

 

3 管理組合による滞納管理費の一般的な回収方法(小問【2】

管理費等の支払請求権は、先取特権の被担保債権とされている(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)第7条)。そのため、管理組合には、滞納された管理費等を改修する方法として、滞納者に対して訴訟を提起し、債務名義を取得して強制執行によって回収する方法と、先取特権に基づき滞納者の有する区分所有権や建物に備え付けられた動産の競売によって回収する方法とが考えられる。

なお、後者の場合、建物に備え付けられた動産の競売によっては全額が回収できない場合に、区分所有権の競売が可能となるが(民法第335条第1項)、空き家になっている場合は、換価性の高い動産類が残置されていることは少ないであろうから、この要件を満たす可能性は高いように思われる。

もっとも、区分所有物件には、先取特権に優先する住宅ローンによる抵当権が設定されていることもあり、区分所有権の買受可能価額が優先債権の見込額に満たない場合には、競売手続の無剰余取消し(民事執行法第63条)(※)が行われることになる。また、管理費等を滞納している者は、優先権のある租税公課等も滞納しているケースが多いと考えられることから、これらの競売による回収可能性は低い場合が多いであろう。

(※) 無剰余取消し・・・差押債権者の債権に優先する債権がない場合に、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えない場合や、優先債権がある場合に、不動産の買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満たないときに、一定の場合を除いて、競売手続が取り消される制度

なお、行方不明者に対する訴訟や強制執行については、通常の送達方法が奏功しない場合でも、公示送達による方法で対処することができる。

 

4 区分所有法第59条に基づく競売請求による回収(小問【3】

上記の強制執行や先取特権の実行によっては、滞納された管理費等を回収できない場合、区分所有法第59条に基づく区分所有権の競売請求を行うことが考えられる。同条の競売請求は、区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合に、区分所有権をはく奪することを目的とした例外的な救済制度である。

この競売請求が認められるためには、手続的要件として、区分所有者及び議決権の4分の3以上の決議に加えて、実体的要件として、区分所有者が、区分所有者の共同生活上の障害が著しい行為を行っていること、他の方法によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であることが必要となる。

まず、要件①については、滞納された管理費等の額が相当額に及んでいることが最も重要な要素であり、これに実害の有無(必要な修繕工事が行えているかどうか等)も考慮して要件を判断することになる。

次に、要件②については、主として、競売の請求に至るまでに取得した債務名義に基づいて行った強制執行や先取特権に基づく担保不動産競売が奏功しなかった場合や、無剰余取消しによって競売手続が取り消されたような場合に、認められる傾向にある。

もっとも、裁判例によっては、競売による回収が奏功しない場合でも、滞納債務者が一括又は分割弁済の協議を申し出ているような場合には、他の回収方法の存在があるものと判断される可能性もあるが、滞納額と滞納者の提案した金額との差や、滞納債務者の資力によることになる。

そのため、管理組合としては、強制執行や競売手続の顛末の分かる書類を整えることに加えて、空き家の区分所有者の資力を調査した資料等を十分に証拠化しておくことが求められる。

管理組合の競売請求が認められた場合でも、滞納者に対する強制執行等では回収できないことが前提となっていることから、管理組合に対する配当は予定されていない。そこで、管理組合としては、競売による買受人(特定承継人)に対して、滞納された管理費の支払いを請求することができる(区分所有法第8条)。買受人は滞納管理費があることも想定して買い受けているため、買受人からの回収可能性は高い。

管理組合としては、区分所有法上、種々の方法によって管理費等を回収する方法が存在するが、最終的な回収までは、時間的にも手続的にも相当の負担があることから、普段から入居者と管理費等の支払の有無を適切に管理しておくことが必要である。

(了)

「空き家をめぐる法律問題」は、毎月第1週に掲載します。

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筆者紹介

  • 羽柴 研吾

    (はしば・けんご)

    弁護士
    弁護士法人東町法律事務所(神戸事務所所属)

    企業法務、金融法務、自治体法務(固定資産税含む)を中心に一般個人案件にも従事。
    現在は、企業の事業承継問題、研究開発税制、不動産投資を含む空家対策問題に関心を寄せる。

    【略歴】
    京都府出身
    平成17年 立命館大学法学部卒業
    平成19年 立命館大学法科大学院修了、新司法試験合格
    平成20年 弁護士登録
    平成24年 仙台国税不服審判所(国税審判官)
    平成27年 東京国税不服審判所(国税審判官)
    平成28年 日弁連法務研究財団「国税不服審査制度に関する研究」研究員

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