2018年11月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.294を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第61回】 「シェアリングエコノミー・仮想通貨等の所得把握に向けた検討状況」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇政府税調での議論が進む「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備」 10月10日に政府税制調査会第17回総会が開かれてから11月7日の第20回総会まで、4回の総会が開催された。 特に10月23日の第19回総会では、経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について、今後の総会における議論の素材を整理するため、「納税環境整備に関する専門家会合」を設置することが決定され、その後、第20回総会までの2週間で、専門家会合が3回(10月24日、29日、11月5日)、集中的に開催され、第20回総会では「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」が報告された。 経済社会のICT化等への対応については、平成30年度与党税制改正大綱でも、「経済のICT化等の動向や諸外国の制度も踏まえ、適正な記帳の確保に向けた方策を講じつつ、事業所得等の適正な申告、所得把握に向けた取組みを進める」とされていたところであり、早ければ平成31年度税制改正のテーマの1つにもなりうる。 専門家会合での議論の対象は主に、「シェアリングエコノミー」、「仮想通貨取引」、「金地金取引」の3点であった。 〇シェアリングエコノミーの実態 すでに昨年の政府税制調査会では、経済のICT化に関連して次のように述べられていた。 (2017年11月20日「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告②(税務手続の電子化等の推進、個人所得課税の見直し)」より) 本年7月に、内閣府経済社会研究所が発表した『シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究』報告書によれば、シェアリング・エコノミー全体の生産額規模(2016年)は約4,700億円~5,250億円程度と試算され、そのうち「SNA(国民経済計算)の生産の境界内ではあるが、捕捉できていないと考えられるもの」の規模は950億円~1,350億円程度とされている。 〇仮想通貨取引 仮想通貨の世界的な市場規模は急速に拡大しており、仮想通貨全体の時価総額は平成26 年から平成30 年にかけて約1,000 倍に増加している。 また、本年5月の国税庁の報道発表資料によれば、確定申告をした者で、公的年金等以外の雑所得に係る収入金額が1億円以上ある者(平成29年分549人)のうち、仮想通貨取引による収入があると判別できた者は331人(速報値)であった。 しかし、仮想通貨はインターネットを通じて簡易に口座間の移転を行うことができ、複数の交換業者を利用している顧客も少なからずおり、交換業者をまたがって口座間の移転が行われた場合、移転先の口座を管理する交換業者においては、移転元における仮想通貨の取得価額が把握できないため、当該仮想通貨における損益の計算もできないという現状にある。 こうしたことから、国税庁では、仮想通貨関連団体とともに納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備について検討するため、「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」を本年4月から開始している。 当面の協議事項例として、仮想通貨取引所利用者に対する所得計算上必要な情報の提供といった申告利便向上策が挙げられている。 〇金地金取引 金地金取引については、近年、金の密輸入事件が多発し社会的に大きな問題となっていることを受け、平成30年度税制改正において、金の密輸に対する抑止効果を高め、密輸者に一層の経済的不利益を与える観点から、関税法上の無許可輸出入罪の罰則及び輸入に係る消費税等のほ脱罪の罰則を強化したところである。 国内で金地金を貴金属取扱業者に売却する際、1回200 万円超の取引であれば、業者から税務当局に対して買取額等を記載した法定調書が提出されるが、200万円を下回るよう小口に分割して売却された場合には、調書による報告の対象とはならないという限界が指摘されている。 〇税制上の方策 今回、政府税制調査会総会で報告された「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」では、自主的な適正申告の実現に向けた方策として、 の3点が掲げられている。 ただし、①納税者に対する更なる情報提供及びその活用に関しては、 といった中長期的な方策の指摘が中心であり、また、③源泉徴収に関しては、 との指摘もあり、乗り越えるべき課題は多い。 一方、②税務当局による必要な情報の取得等については、仮想通貨取引やシェアリングエコノミーに関して、 といった、制度設計につながる指摘が見られるところであり、まずは、こうした対応から制度化が行われるのではないかと見られる。 (了)
〈平成30年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「配偶者控除等申告書の記載方法」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【第1回】で解説したとおり、平成30年分の年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、その年最後に給与等の支払いを受ける日の前日までに、配偶者控除等申告書を給与等の支払者に提出する必要がある(所法195の2①)。 また、配偶者控除及び配偶者特別控除の改正により、源泉徴収簿や源泉徴収票の様式の一部も変更されている。 以下、配偶者控除等申告書の記載方法と、源泉徴収簿及び源泉徴収票の様式が変更された部分について解説を行う。 【1】 配偶者控除等申告書の記載方法 配偶者控除額及び配偶者特別控除額は、配偶者控除等申告書に必要事項を記載することにより求めることができる。 配偶者控除等申告書は、以下の1から5の順番で記載すると、控除額をスムーズに算出することができる。なお、配偶者控除等申告書は、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるために提出するものであることから、合計所得金額が1,000万円を超える所得者は、配偶者の合計所得金額に関わらず提出する必要はない。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【2】 配偶者控除等申告書の記載例 【1】をもとに配偶者控除等申告書の記載例を示すと、次のとおりである。 《例1》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《例2》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【3】 源泉徴収簿の様式変更 配偶者控除及び配偶者特別控除の改正に伴い、源泉徴収簿の⑮欄と⑯欄が次のとおり変更された。 平成29年分以前は、⑮欄には配偶者特別控除額のみ記載し、配偶者控除額は⑯欄に他の控除額と合わせて記載していた。 平成30年分以後は、配偶者控除等申告書に記載された配偶者控除額又は配偶者特別控除額を⑮欄に記載することとされた。 (※) 国税庁ホームページより 【4】 源泉徴収票の様式変更 平成30年分以後は、源泉徴収票についても配偶者に関わる部分の様式が変更される。変更箇所は、次の1から5である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 配偶者控除等申告書の記載にあたっては、所得者及び配偶者の合計所得金額を算出しなければならないため、従業員から計算方法や用語について説明を求められる可能性もある。合計所得金額や各種所得金額の計算方法について、あらかじめ理解しておきたい。 * * * 連載最終回となる【第3回】は、改正された配偶者控除及び配偶者特別控除に関する実務上のポイントをQ&A方式で解説する。 (了)
事業年度中の消費税率引上げに関する企業対応 税理士 金井 恵美子 1 10月1日の税率引上げ 消費税の税率は、2019年10月1日に10%(※1)となる。 これまで、消費税法の施行、3%から5%への税率引上げ、5%から8%への税率引上げは、下記のように、その施行日がすべて4月1日であった。したがって、3月末決算法人は、事業年度(※2)の途中で消費税の税率を変更した経験がない。 このため2019年度においては、期中における税率変更と軽減税率の導入という、初めての、2つのハードルを同時に越えなければならない。これに対応するため、検討すべき事項を確認してみよう。 (※1) 国税である消費税7.8%と地方消費税2.2%の合計税率。以下「税率」は、合計税率を示すこととする。 (※2) 原則として、法人の事業年度が消費税の課税期間となる(消法19①二)。 2 価格改定計画の策定 商品の価格は、自由競争の下で市場条件を反映して決定されるものであるから、全ての商品について、税率引上げに見合う一律に単純な値上げができるわけではない。商品ごとの利益率、値上げによる需要の変化、コストの動向、競合他社の動向等を調査した上で、事業全体で利益を確保するための価格設定や販売計画を立案する必要がある。 対消費者取引では、価格の設定の方法として、次の2つが考えられる。 特に、②の方法である場合や、①の方法から②の方法に変更する場合には、消費税率の引上げに対して、いつ、どのような価格改定を行うのか、事業計画は、2019年10月1日の税率引上げの時期を含む事業年度が開始する前に検討しておくべきである。販売システムの改修、広告や値札の変更、追加作業のシミュレーションといった計画に沿った準備と資金調達が必要となるからである。システムの不具合や担当者の不適切な対応は、顧客の離反やクレームを招くおそれがある。 過去の経験から駆け込み需要と反動減の影響を分析し、顧客のニーズと競合価格を考慮しつつ、価格の改定を検討しなければならない。税率引上げの時期にこだわらない柔軟な検討も必要となろう。 さらに従業員への周知と教育は必須であり、また、価格交渉における営業担当者の裁量の範囲等についても検討しておく必要がある。 3 財務会計システムの改修 消費税の税率引上げに当たっては、財務会計システムの改修が必至である。この改修は、2019年10月1日を含む事業年度が開始する前、3月末決算法人においては、2019年3月31日までに完了しておくことが望ましい。 新税率は、旧税率を適用する経過措置の適用があるものを除き、施行日以後に国内において行う資産の譲渡等に適用される(税制抜本改革法附則2)。つまり、それぞれの課税資産の譲渡等を認識すべき日(適正な売上計上の日)において施行されている税率が、適用すべき税率である。 そのため、一般に、財務会計システムは、入力された計上日により適用税率をデフォルトしているが、2019年10月1日以後は複数税率となるため、取引ごとに標準税率又は軽減税率のいずれかを選択しなければならない。 改修前に2019年10月1日以後の日付で計上した仕訳があると、改修後に、適用税率を確認する作業、あるいは訂正する作業が必要となる。 会計ソフトの多くは、新税率対応版へのバージョンアップを来年3月配信に設定しているようであり、これは3月末決算法人の新年度のスタートの時期にあわせたものだろう。10月末決算法人は、すでに税率引上げの時期を含む事業年度が開始しており、システム改修後に、適用税率の再確認を行う必要がある。 4 新旧税率の整理のための経理処理 棚卸資産の販売に適用する税率は、その棚卸資産の引渡しの日がいつであるかによって判断し、施行日以後に引き渡した商品の売上げには新税率が適用される。経過措置の対象となる取引でない限り、契約締結の日や代金受領の日は、税率の適用関係に影響しない(経過措置通達2)。 一の請求書に、施行日前に販売した商品と施行日以後に販売した商品とがある場合には、施行日の前日までに販売した商品には旧税率を、施行日以後に販売した商品には新税率を、それぞれ適用することになる。10月1日をまたぐ請求書については、その内容を区分して税率を適用し、その税率ごとに財務会計システムへの入力を行うこととなる。 役務の提供については、その役務を完了した日に施行されている税率が適用される。仕事の全部が一括して完了する場合にはその一括して完了する日、継続して役務提供する場合には、契約の内容に応じて、個々のサービスが完了する日に施行されている税率を適用することとなる。 したがって、新旧税率の整理のため、2019年9月30日までに認識するべき取引とその後に認識するべき取引を区分する、決算に準じた経理処理が必要となろう。 また、課税仕入れについても、施行日前後の区別が必要である。課税仕入れについては、原則として、課税仕入れを行った日の税率によって控除対象仕入税額の計算を行うこととなるからである。 ただし、仕入税額控除は前段階で課税された税額を控除する手続きであるから、適用する税率は、課税資産の譲渡等を行う事業者と一致していなければならない。課税資産の譲渡等を行う事業者が9月30日までに認識した取引については、経理処理の基準の違いから仕入側が10月1日以後に課税仕入れを認識した場合であっても、課税資産の譲渡等を行う事業者が適正に判断した税率8%を適用して控除対象仕入税額を計算することとなる。 なお、施行日以後の販売については、経過措置の適用がない限り、当事者間で旧税率を適用する旨の合意をして取引を行った場合や、請求書に旧税率を適用すると明記した場合であっても、そのことによって旧税率が適用されることはない。旧税率で取引額を計算したものであっても、受領した金額は、新税率を含む税込対価となる点に留意する必要がある。 5 旧税率を適用する経過措置 次の経過措置は、指定日の前日までに契約を締結しているなど、指定日を基準に一定の要件を設けて適用するものである。 税率10%への引上げに係る指定日(31年指定日)は、2019年4月1日である。上記の経過措置の適用を受けるためには、31年指定日の前日、2019年3月31日までに契約を締結しておかなければならない。慣習として「4月1日」を契約日としている場合には、これを「3月31日」とするべきかどうか、検討する必要がある。 なお、国税庁は、11月2日に、「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【基本的な考え方編】」及び「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【具体的事例編】」を公表している。 これらは、税率5%から8%への引上げ時に公表されたQ&Aをベースとしているが、今回、追加された項目もある。 例えば、新たに、「家電リサイクル法に規定する特定家庭用機器廃棄物の再商品化等に関する経過措置の概要」(【基本的な考え方編】問47)、通信販売等に関する経過措置として「インターネット通販に係る経過措置の適用関係」や「販売価格が変動しうることを示している場合」が示された(【具体的事例編】問33、問34)。 (了)
相続税の実務問答 【第29回】 「未支給年金の支給を受けた場合」 税理士 梶野 研二 [答] 被相続人の死亡後に支給時期の到来する未支給年金は、相続税の課税対象とはなりません。ただし、支給を受けたお母様の所得税の課税対象となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 未支給年金の相続性 国民年金は、偶数月の15日(15日が土曜日、日曜日又は祝日のときは、その直前の平日)にその前の月までの分が支払われます。そのため相続開始をした日を含む月分及びその前月分(相続開始の日によっては前月分及び前々月分)の年金は、相続開始日においては、未支給の状態となっています。 この相続開始日において未支給の状態となっていた年金(以下「未支給年金」といいます)は年金受給者の相続財産を構成するのかどうかについて、従来、見解が分かれていましたが、最高裁判所第三小法廷平成7年11月7日判決は、未支給年金の相続性を否定しました。 国民年金法は、年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものが、自己の名でその未支給の年金の支給を請求することができると定めており(国民年金法19①)、未支給年金を受けるべき者の順位は、民法に規定されている相続人となる者の順序とは異なり、死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹及びこれらの者以外の三親等内の親族の順序とされている(国民年金法19④、国民年金法施行令4の3の2)ことがその理由です。 【平成7年11月7日最高裁判所第三小法廷判決】 この最高裁判所の判決を踏まえ、現在では、国民年金法が未支給年金を支給請求することのできる者の範囲及び順位について民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは異なった定め方をしているのは、民法の相続とは別の被保険者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とした立場から未支給の年金給付の支給を一定の遺族に対して認めたからであり、未支給年金請求権は、当該遺族固有の権利であって、年金受給者の財産ではないと解されています。 なお、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、独立行政法人農業者年金基金法等の規定に基づく年金の未支給年金についても同様に解されます(厚生年金保険法37、国家公務員共済組合法44、地方公務員等共済組合法47、私立学校教職員共済法25、独立行政法人農業者年金基金法22)。 2 未支給年金に対する課税関係 上記1のとおり、国民年金の未支給年金は、国民年金法の定めにより、被相続人の遺族が固有の財産として原始的に取得するものですから、相続財産には該当しません。また、相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産にも該当しません。 (注) 未支給年金請求権は、国民年金法の規定に基づき一方的に付与されるものであることから契約に基づかない権利(請求権)ですが、相続税法第3条第1項第6号に規定する「これに係る一時金」には、継続受取人が受給を受けるべき「定期金が特別に又は選択的に一時金とされる場合の一時金のみが含まれる」こととされている趣旨からすると、未支給年金については、定期金ではなく最初から一時金のみを支給するものであるため、同号に規定するみなし相続財産にも該当しないと考えられます(国税庁 質疑応答事例「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」)。 したがって、未支給年金は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入しません。 なお、遺族が支給を受けた当該未支給の年金は、その遺族の一時所得の収入金額となりますので(所基通34-2)、所得税の申告が必要となる場合があります。 3 ご質問の場合 お父様は、4月に2月分及び3月分の年金を受領し、4月分及び5月分の年金は6月に受給することとなっていたものと思われます。しかし、お父様が5月にお亡くなりになられたことから、お父様がこの年金は受給することができなくなりました。そこで、お母様が、国民年金法の規定に基づき、お父様の死亡届を行うとともに未支給年金の請求を行ったものであり、この未支給年金をお母さまの固有の権利として取得したこととなります。 したがって、この未支給年金請求権は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入する必要はありません。 ただし、この未支給年金の額は、お母様の一時所得の収入金額となりますので、その他の一時所得の収入金額と併せて一時所得の特別控除額(50万円)を超える場合には、所得税の申告が必要になる場合がありますのでご注意ください。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第8回】 「外国法人に支払った特許ライセンス使用料に係る源泉徴収の検討」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社(製造メーカー)は、外国法人であるA社から、同社が日本において保有する特許権についての実施権(ライセンス)の設定を受けました。 この場合の税務上の留意点について教えてください。 [A] 特許権についての実施の対価として支払うことになる使用料(ロイヤルティ)については、源泉徴収の対象になる可能性がありますので、その検討が必要になります。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 特許に限らず、商標、著作権などを使用する権利を設定してもらい、その対価として使用料を支払う旨のライセンス契約がなされることは多い。このような契約が国外の企業と締結される国際ライセンス契約の場合、ライセンスを受けた日本の居住者から国外の居住者(日本の非居住者)に使用料が支払われる。これは非居住者からすれば、日本の国内で使用料所得を稼得したことになる。 このようにして非居住者が日本の国内で稼得した使用料所得については、日本の国内源泉所得として、日本が課税上の利害関係を有する。しかしながら、非居住者に対して申告納税義務を課すというのは現実的ではない場合も多い。 そこで、日本の国内法上、非居住者に使用料の支払をする場合、支払者が一定の割合で源泉徴収して納税することが定められている。 もっとも、このような源泉徴収については、租税条約が適用されることで減免されることがあり得る。したがって、非居住者に使用料を支払う場合、国内法のほか、租税条約の規定も踏まえて、源泉徴収義務を適切に判断する必要がある。 2 国内法の規定 国内法上、国内の事業者が非居住者に対して国内業務に係る特許等の使用料を支払う場合、その支払の際に所得税を徴収して納付しなければならないとされている(所得税法212条1項、161条1項11号イ)。その税額は、支払額に20%の税率を乗じて計算した金額である(所得税法213条1項1号)。これに復興特別所得税を合わせると、非居住者に使用料を支払う場合、20.42%の割合で源泉徴収しなければならないことになる。 もっとも、租税条約が適用されることで、源泉徴収の税率が軽減され、又は免除されることがあり得るので、その検討が必要である。 3 租税条約の確認と手続 所得の受領者が居住している国(居住地国)と日本との間で租税条約が締結されていれば、その租税条約が適用され得る。そこで、支払者としては、まずは支払の相手方がいずれの国の居住者であるかを確認することが必要である。実務においては、商業登記、納税者番号、居住者証明書などの公的書類によって確認することが多い。 その上で、相手方の居住地国が日本との間で租税条約を締結しているかを確認することになる。租税条約がある場合、「使用料所得条項」を確認して、限度税率が定められているか、あるいは課税免除が定められているかを確認する。 限度税率が定められている場合、国内法上の20.42%の税率は限度税率にまで軽減されることになる。課税免除が定められている場合、源泉徴収義務も免除されることになる。ただし、これらの減免の適用を受けるためには、所得の受領者が支払者を通じて税務署に対して租税条約の適用について届出をする必要がある。 最初に使用料の支払がなされる日の前日までに届出書の提出がなされた場合、支払者は租税条約の適用を踏まえた税額を源泉徴収することになる。これに対して、上記までに届出書の提出がない場合、支払者としては国内法上の税率に基づく源泉徴収をすることになる。この場合、所得の受領者において事後的に税務署に租税条約の適用の届出をして還付の請求をすることができるとされている(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令)。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第11回】 「法人税申告書別表(明細記載を要する部分)のデータ形式の柔軟化(CSV形式)」 「添付書類の提出方法の拡充(光ディスク等による提出)」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 従来から、法人税申告書等を電子的に提出するためには、電子申告で送信可能なデータ形式(XML形式又はXBRL形式)に変換して送信することが必要でした。 例えば、企業が税務申告ソフトや表計算ソフト等により作成した法人税申告書データを、国税庁が提供する無償の「e‐Taxソフト」や「市販の電子申告対応ソフト」を利用してXML形式又はXBRL形式に変換するか、「国税庁が指定するCSVフォーマット(2016年4月以降~)」を活用してXML形式又はXBRL形式に変換することが必要でした。 平成30年度税制改正では、e‐Taxのさらなる利便性向上を図る観点から、 について、国税庁が提供する標準フォーム(※)(Excel形式)を利用して簡単に作成したCSV形式によりデータ提出が可能となる予定で、①法人税申告書別表の明細書のうち「明細記載を要する部分」及び②勘定科目内訳明細書については2019年4月以後の申告から、③財務諸表については2020年4月以後の申告から利用可能となる予定です。 (※) 標準フォームについては、今後e‐Taxホームページ等で公開される予定で、会社がExcel等で作成したデータを、当該標準フォームで指定された並び順に置き換えて保存し、CSV形式で提出可能となります。 なお、法人税申告書別表の明細書のうちCSV形式による提出が認められる明細記載を要する部分というのは、例えば、別表6(1)「所得税額の控除に関する明細書」のうち、控除対象となる配当等に係る銘柄名・収入金額・所得税額等の明細記載を要する部分などが対象となります。具体的に対象となる別表の明細記載部分については、「CSV形式による提出が認められる明細記載を要する部分がある法人税申告書別表等の一覧」としてe‐Taxホームページに掲載されています。 また、財務諸表については、標準フォームとあわせて、国税庁が勘定科目コードを策定・公表する予定で、その際には、有価証券報告書等の電子開示システム(EDINET)で使用されている約6,400の勘定科目ごとに勘定科目コードが策定・公表される予定です。 これが実現すれば、現在e‐Taxソフトで作成できる財務諸表の勘定科目(約1,600科目)が約4倍に拡張されることになりますので、例えば、「e‐Taxで提出する財務諸表に自社が使用している勘定科目が存在しないため、しかたなく類似する勘定科目へ置き換えて財務諸表データを作成・送信し、会計監査や税務調査の際には実際に自社が使用している勘定科目で作成した財務諸表を提示している。」というような事例も解消されるでしょう。 【法人税申告書別表(明細記載を要する部分)等のデータ形式の柔軟化(CSV形式)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) 【財務諸表のデータ形式の柔軟化(CSV形式)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) ◆ ◆ ◆ ●○●○解説○●○● e‐Taxにより法人税申告を行う場合には、他税目に比して添付書類等が大容量となるケースがあることから、2020年4月以後の申告から、当該添付書類等を光ディスク、磁気テープ又は磁気ディスク(以下、「光ディスク等」といいます)により提出することが可能になりました。 具体的に、光ディスク等による提出が可能となる添付書類等とは、 が対象となります。 したがって、法人税申告書の別表そのものを光ディスク等に格納して提出することは認められません。 なお、光ディスク等により添付書類等のデータ提出が認められるのは、原則として、当該添付書類等が大容量でe‐Taxで送信できないような場合に限られます。 【添付書類の提出方法の拡充(光ディスク等による提出)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第79回】 スルガ銀行株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成30年9月7日付)」 (後編) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本稿では、【前編】に引き続き、スルガ銀行第三者委員会調査報告書について、スルガ銀行取締役・監査役の法的責任、経営責任についての第三者委員会の評価を検証するとともに、調査報告書公表後の事態の推移を見ておきたい。 合わせて、インターネット上で報じられている被害の実態について、第三者委員会の調査により事実関係が確認できている部分と、それ以外の部分とに分けて、解説したい。 【第三者調査委員会の概要】(再掲) 【調査報告書の概要(その2)】 1 スルガ銀行が計上した損失 第三者委員会調査報告書によれば、スルガ銀行はシェアハウスローンに関して、2018年3月期に42,049百万円の貸倒引当金を計上するとともに、他の投資用不動産関連融資についてもシェアハウスローンと類似のリスクがあることから、16,226百万円の貸倒引当金を計上した。 この結果、スルガ銀行は2018年6月期までに、収益不動産ローン全般で71,796百万円の貸倒引当金を計上しているということである。 2 役員の責任 第三者委員会による関係者の法的責任・経営責任の有無の判断は、次の通りである。 第三者委員会は、7名の現取締役全員について経営責任を認める判断をしたうえで、そのうち2名については善管注意義務違反も認めている。また、常勤監査役2名についても、善管注意義務違反を指摘している。 一方、2018年6月28日開催の第207期定時株主総会開催直前時における3名の社外取締役及び3名の社外監査役については、いずれも法的責任は認められないものと判断した。その理由として、社外取締役については、シェアハウスビジネスの構造上の問題が取締役会に報告されたのは、2018年2月7日に危機管理委員会の設置の報告がされたのが最初であったことから、社外取締役が本質的な問題を具体的に知り又は知り得たにもかかわらず、これを放置したといった事情が見当たらないことを挙げ、社外監査役については、こうした事情に加えて、常勤監査役において問題の端緒を把握しながら社外監査役に報告していなかった点を挙げている。 3 社内監査役の責任と監査役のあり方 すでに述べたとおり、本調査報告書の特徴の1つが、社内出身の常勤監査役に対する厳しい責任追及である。「公表版」から、「善管注意義務に反する」と例示された行為の概要は次のとおりである。 第三者委員会は、監査役として調査しなかったこと、他の監査役に伝達しなかったことのいずれも問題であるとし、「監査役の職務放棄といわれてもしょうがない」とまで断罪している。そのうえで、原因として、「常勤監査役には監査役として職務を遂行する覚悟がなかったこと」を挙げている。 そして、違法だと確信が持てない場合には、「社外監査役で弁護士などの法律家に相談するとか、監査役専属の顧問弁護士を依頼するなどして、理論的な補強、アドバイスをもらうこと」を薦めるとともに、「問題があればまず調査をすること」「調査段階から監査役会で緊密に連携をとること」など、実務的な対応方法を提案している。 現役監査役にとっては、大変厳しい第三者委員会の指摘であるが、「監査役のあり方」について正面から論じられている貴重な報告書であると考える。 【調査報告書公表後の動き】 スルガ銀行とスマートデイズによる不正融資問題は、第三者委員会調査報告書に、取締役や監査役に対する厳しい責任追及の記述があり、また、被害者であるシェアハウスオーナーの数も多いことから、新聞や雑誌の報道、web上の記事など、反響が広がっている。 調査報告書公表後の動きを時系列に沿ってまとめておきたい。 1 取締役の辞任 スルガ銀行は、第三者委員会調査報告書の公表と同日、「代表取締役及び役員の異動に関するお知らせ」と題されたリリースを出し、代表取締役会長岡野光喜、代表取締役社長米山明広及び代表取締役専務白井稔彦の3名の代表取締役が辞任して、新たに、有國三知男代表が代表取締役社長に就任するとともに、専務取締役望月和也、常務取締役柳沢昇昭の2人も、9月7日をもって、辞任することを公表した。 2 責任調査委員会の設置 次いで、スルガ銀行は、9月14日、「「取締役等責任調査委員会」及び「監査役責任調査委員会」の設置について」を公表する。 その目的について、取締役等責任調査委員会は、シェアハウス関連融資その他における不適切な取扱いをはじめとする一連の問題に関して、現旧取締役がその職務執行につき善管注意義務違反等により当社に対する損害賠償責任を負うか否か等について、法的な側面から調査・検討を行うことを挙げ、委員会の構成は、本年6月の定時株主総会において新たに選任された社外監査役2名及び独立性を確保した利害関係のない立場にある外部弁護士としている。 一方、監査役責任調査委員会については、設置目的として、シェアハウス関連融資その他における不適切な取り扱いをはじめとする一連の問題について、現旧監査役が取締役の職務執行の監査につき善管注意義務違反等により当社に対する損害賠償責任を負うか否か等について、法的な側面から調査・検討を行うことを挙げ、独立性を確保した利害関係のない立場にある外部弁護士を委員として選任している。 3 金融庁による行政処分 10月5日、金融庁は、スルガ銀行に対する行政処分を発表した。 処分内容は、10月12日から6ヶ月間の新規投資用不動産融資の停止であり、その間において、当行の役職員が融資業務や法令等遵守に関して銀行員として備えるべき知見を身につけ、健全な企業文化を醸成するため、全ての役職員に対して研修を行うこと及び健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行するとともに、改善計画の提出、3ヶ月ごとの進捗・改善状況を報告することが求められている。 金融庁は、処分の理由の中で、スルガ銀行によるファミリー企業に対する融資について、「不適切な運用管理の実態」「信用リスク管理上の問題」が認められるとしているが、同日、スルガ銀行が公表した「当社に対する行政処分について」というリリースの中で説明されている「再発防止策」には、以下のとおり、ファミリー企業向け融資に関する記述はない。 4 行政処分を受けたスルガ銀行の現状認識 金融庁による行政処分が公表された同日、スルガ銀行が「当社に対する行政処分について」と題されたリリースには、別紙として、「当社が現状把握している内容」が添附されている。シェアハウス融資問題以外の問題も含まれているが、全文を引用しておきたい。 第三者委員会による調査では、2014年以降795件発見されていた書類の偽装が、金融庁による検査を通じて、さらに増加していることがわかる。 5 日本監査役協会会長声明 スルガ銀行第三者委員会による社内監査役に対する厳しい責任追及を受けて、公益社団法人日本監査役協会は、10月15日、会長声明として、「最近の企業不祥事について」を公表した。 声明では、まず、第三者委員会が、善管注意義務に違反すると指摘した内容を以下のようにまとめている。 続いて、声明は、監査役の責務を果たすためには、「不正等の兆候に直面した場合、躊躇せずに経営陣に対して毅然とした態度で臨む覚悟が求められます」としたうえで、適切かつ実効性ある監査を行うためには、三様監査の間の連携、社外役員との緊密な連携関係の構築、十分なスタッフの確保が必要不可欠であるとしている。 【インターネット上に溢れるシェアハウスオーナーの被害の実態】 本件不正融資事件をめぐっては、楽待不動産投資新聞というサイト上の記事を中心に、被害者であるシェアハウスオーナーに取材したものと考えて差支えのない情報が、インターネット上に溢れている。 本項目では、そうした未確認情報も含めて、どういう取引が行われ、なぜ被害が拡大したのか、検証してみたい。 1 シェアハウス関連融資取引図 スルガ銀行第三者委員会調査報告書に加え、新聞報道、インターネットの情報などをもとにスマートデイズをめぐる一連の不正融資事件を図示すると、以下の通りとなる。 物件の建築を請け負った会社からスマートデイズが何らかの金員を受け取っていたかどうかは、第三者委員会による調査スコープの範囲外であるため、「?」をつけている。一方、スルガ銀行職員の一部が、スマートデイズからとは限らないものの、飲食の饗応を受け、キックバックを得ていたという点は、第三者委員会によるアンケート調査で明らかとなっている。ただし、第三者委員会は、こうしたアンケートについて、次のように結論づけている。 2 被害の実態 楽待不動産投資新聞には、2018年1月、スマートデイズがサブリース賃料の支払いを停止して以来、多くの記事が掲載され、被害者となったシェアハウスオーナーの生の声が寄せられている。そこで語られていることの真偽は不明であるが、彼らの証言が事実であるとしたら、次のような被害の構図が推測できる。 こうしたスマートデイズの手口により損害を被ったのは、第一義的には、物件価値を大きく上回る借入金を負ったうえ、返済原資であるサブリース料の支払いを停止されたシェアハウスオーナーであるが、融資を行ったスルガ銀行もまた、不動産融資の返済が滞っているにもかかわらず、担保価値に乏しいため、競売申立等の換価処分ができないまま、多額の貸倒引当金の設定を余儀なくされたという点では、大きな損害を被ったことになろう。 3 被害弁護団の結成 本事件に関しては、3月2日に、スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団が結成されており、その目的が次のように掲げられている。 また、弁護団で行う諸手続きは次の通りと紹介されている。 なお、被害弁護団が、10月5日に公表した声明 によると、スルガ銀行は、第三者委員会の調査報告書が公表された後、それまで続けていた被害弁護団との交渉を一方的に打ち切ったままとなっているとのことである。 4 続発する類似事件 8月31日、東京都港区に本店を置く株式会社TATERU(旧社名「株式会社インベスターズクラウド」)が、「本日の一部報道について」というリリースを出し、同日付の日本経済新聞電子版が報じた、「従業員が顧客から提供を受けた預金残高データを改ざんし、実際より多く見せて西京銀行に提出し、融資審査を通りやすくしていた」との報道を認め、9月4日には、特別調査委員会の設置を公表した 。 また、10月10日には、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)が、「第三者委員会の設置に関するお知らせ」をリリースして、連結子会社であるJR九州住宅株式会社で、従業員が主導して金融機関へ提出する住宅ローンの融資に関する資料を偽造し、実際の工事請負金額よりも水増しした金額を施主にローン申請させ、金融機関に過剰な融資を行わせた疑いが判明し、第三者委員会を設置して調査を行うことを明らかにした。 JR九州住宅の不正融資は、対象が住宅ローンであり、収益用不動産融資に絡む不正とはいささか性格が異なるものではないかと考えるが、金融機関による不動産担保融資をめぐって、同じような不正が同時期に複数露見しているのは異常事態だと言えよう。 5 旧経営陣に対する損害賠償請求 スルガ銀行は、11月12日に、「シェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関する当社現旧取締役及び旧執行役員に対する損害賠償請求訴訟の提起等に関するお知らせ」というリリースによって、旧経営陣9人に対する損害賠償請求訴訟を提起したことを公表した。 本リリースに添付されている取締役責任調査委員会及び監査役責任調査委員会による調査報告書については、本連載第80回として、来月取り上げる予定である。 (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第5回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 8 【STEP4】履行義務への取引価格の配分 【STEP4】では【STEP3】で算定した取引価格を、【STEP2】で識別した履行義務に配分する。 履行義務に対する取引価格の配分は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行う(基準65)。 そして、【STEP4】では、以下の4つを検討する。 なお、単一の履行義務の場合、基本的に【STEP4】の検討は不要であるが、基準第32項(2)(6(連載第3回)(1)参照)に従って一連の別個の財又はサービスを移転する約束が単一の履行義務として識別され、かつ、対価に変動性のある金額が含まれている場合には、上記のうち(3)の検討が必要である(基準67)。 (1) 独立販売価格に基づく配分 取引価格の履行義務への配分は、独立販売価格の比率に基づき行う。ただし、基準第70項から第73項の定め(下記(2-1)及び(3)参照)を適用する場合は除く(基準66、68)。 そして、独立販売価格とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう(基準9)。 言い換えると、単品又はサービス単体で通常、販売する際の価格である。 独立販売価格により配分する必要があるため、独立販売価格を算定する必要がある。具体的には、以下のとおり算定する。 ① 直接観察可能かどうか まず、独立販売価格が直接観察可能かどうかを判定する。直接観察可能な場合、下記②を検討する。直接観察可能ではない場合、下記③を検討する。 ② 独立販売価格が直接観察可能な場合 独立販売価格が直接観察可能な場合、直接観察可能な独立販売価格を利用する。 ③ 独立販売価格が直接観察可能ではない場合 独立販売価格が直接観察できない場合、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力数値を最大限利用して、独立販売価格を見積る。類似の状況においては、見積方法は首尾一貫して適用する(基準69)。 見積り方法には、「調整した市場評価アプローチ」、「予想コストに利益相当額を加算するアプローチ」、「残余アプローチ(一定の条件に該当する場合のみ)」がある(適用指針31)。なお、財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合に、当該財又はサービスのうち複数の独立販売価格が大きく変動する又は確定していない場合には、3つの見積り方法のうち、複数の方法を組み合わせて、独立販売価格を見積る(適用指針32)。 なお、履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、当該財又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的なものであり、重要性が乏しいと認められるときには、当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを使用することができる(適用指針100)。 (2-1) 値引きの特定の履行義務への配分 契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には、契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして、当該値引きについて、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分する(基準70)。 一方、値引きをすべての履行義務に配分すると、実態を適切に表さない可能性がある。そこで、企業は、以下の①から③の要件のすべてを満たす場合、契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし、すべてではない)に値引きを配分する(基準71)。 なお、上記(基準第71項)に従い、値引きを契約における1つ又は複数の履行義務に配分する場合、当該値引きを配分した後に、残余アプローチ(上記(1)参照)により、財又はサービスの独立販売価格を見積る(適用指針33)。 (2-2) 独立販売価格に基づく配分・値引きの特定の履行義務への配分(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (3) 変動対価の配分 変動対価についてもすべての履行義務に対して比例的に配分する。 しかし、変動対価は、契約全体に帰属する場合もあれば、以下の①、②のように契約の特定の一部に帰属する場合もある(基準148)。 そのため、変動対価を全ての履行義務に配分すると、実態を適切に表さない可能性がある。そこで、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の要件のいずれも満たす場合には、変動対価及びその事後的な変動(下記(4)参照)のすべてを、「1つの履行義務」又は「基準第32項(2)(6(連載第3回)(1)参照)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービス」に配分する(基準72)。 なお、要件を満たさない残りの取引価格については、基準第65項から第71項の定め(上記(1)及び(2-1)参照)を適用して配分する(基準73)。 (4) 取引価格の変動 取引価格は、契約における取引開始日後にさまざまな理由で変動する可能性がある(基準149)。具体的には、変動対価の見積りの事後的な変動や事後的な契約変更がある。 ① 変動対価の事後的な変動 取引価格の事後的な変動については、契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を考慮せず、契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分する。 取引価格の事後的な変動のうちすでに充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正する(基準74)。 充足されていない履行義務に配分された額については、充足する期間に合わせて収益を認識する。 また、基準第72項(上記(3)(ⅰ)(ⅱ)参照)の要件のいずれも満たす場合、取引価格の変動のすべてについて、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかに配分する(基準75)。 ② 事後的な契約変更 契約変更によって生じる取引価格の変動は、基準第28項から第31項(5(連載第2回)(4-1)参照)に従って会計処理する(基準76)。 なお、契約変更が基準第30項の要件(5(連載第2回)(4-1)(1)参照)を満たさず、独立した契約として会計処理されない場合、当該契約変更を行った後に生じる取引価格の変動について、基準第74項、75項(上記①参照)に従い、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかの方法で配分する(基準76)。 (了)
企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第8回】 「ココロのアンカーにご用心①」 公認会計士 石王丸 香菜子 *資料* 第1事業部では、オフィス向けのキャビネットを製造・販売している。最大で6,000個を製造することが可能だが、今後1年間の製造・販売予定は5,000個である。キャビネットの売価と原価は以下の通りである。 第2事業部では、整理収納トレーを製造・販売している。最大で6,000個を製造することが可能だが、今後1年間の製造・販売予定は5,000個である。トレーの売価と原価は以下の通りである。 先日、第1事業部の得意先であるS社より、キャビネット1個にトレー1個を組み込んだ多機能キャビネットを、1,000個納入してもらえないかと予定外のオファーがあった。S社からの引き合い価格は、1個当たり7,500円である。キャビネットにトレーを組み込むためには、第1事業部で1個当たり200円の変動費が追加で発生する。 事業部間の取引は、事業部間で売買したものとして扱う。S社からのオファーを受ける場合、第1事業部は第2事業部からトレー1,000個を購入することになる。 * * * 1 イカリをおろした船は・・・ こんなチラシがポストに入っていることはありませんか? これが次のようなチラシだったらどうでしょうか。 上のチラシのほうが、魅力的に感じますよね。その理由は、通常価格が先に示されているからです。540,000円という価格を先に示されると、リフォームの妥当な価格をその前後と考えてしまうので、380,000円はお得と感じるのですね。 このように、ある未知の数値(リフォームの妥当な価格)を見積もる前に、何らかの特定の数値(リフォームの「通常価格」)を示されると、その特定の数値によって判断がゆがめられて、後から判断する数値が、先に示された特定の数値に近づいてしまう傾向を、と呼びます。 アンカーは船のイカリを意味し、船がイカリを下ろすとその周囲しか動けない状態をなぞらえたものです。チラシの例では、通常価格540,000円がアンカーとなっています(ある判断の直前にルーレットを回して偶然出た数など、判断とは無関係な数値が示されるケースでさえ、アンカリング効果があると言われています。なんという強力な効果!)。 ・・・さて、第2事業部長は、第1事業部との売買価格を判断するにあたって、外部販売価格4,200円というアンカーにしっかりとつながれているようですが、事業部間の適切な売買価格はいくらなのでしょうか。 2 イカリを外して正しい方向に誘導する 事業部間での売買価格を考える前に、カズノ君の言う通り、そもそもPN社全体として、S社からのオファーを受けるべきか否かを考えてみましょう。各事業部で生じる固定費は、オファーを受けても受けなくても生じる埋没原価ですので、考慮しないことに注意してください。オファーを受けると、現状と比べていくら差額利益(もしくは差額損失)が生じるかを計算します。 【PN社全体の差額利益】 PN社全体で考えると、@1,200円×1,000個=1,200,000円利益が増加しますので、このオファーを受けるべきです。 次に、第2事業部から第1事業部への適切な売買価格を考えてみましょう。今回のように、社内の事業部を独立しているととらえ、事業部間で製品などをやり取りする際に付す価格は、と呼ばれます。内部振替価格の決定にあたっては、全社ベースでの正しい意思決定と整合するように、各事業部の意思決定を誘導することが必要です。 仮に、第2事業部から第1事業部へのトレーの内部振替価格を外部販売価格と同じ@4,200円とする場合、第1事業部長はどのような意思決定を行うでしょうか。 【第1事業部だけの差額利益】 第2事業部から@4,200円でトレーを購入すると、第1事業部では△@500円×1,000個=△500,000円の損失が生じてしまいます。これでは、第1事業部長はS社からのオファーを断ってしまいますね。しかし、このオファーを断るのは、PN社全体としては望ましくありません。 第1事業部長が、S社からのオファーを引き受けるという正しい意思決定をするためには、第1事業部だけで考えた場合にも差額利益が生じるように工夫する必要があります。第1事業部で差額利益が生じるためには、内部振替価格がいくら未満であればよいか、逆算してみます。 【第1事業部だけの差額利益】 逆算すると、内部振替価格が@7,500円-@3,600円-@200円=@3,700円未満であれば、第1事業部で利益が生じることがわかります。 一方、第2事業部長の立場を考えると、あまり低い価格で第1事業部に販売すると損失が生じるため、第1事業部への販売を拒否するはずです。そこで、第2事業部だけで考えた場合にも、第1事業部にトレーを販売することで差額利益が生じるように内部振替価格を設定する必要があります。 【第2事業部だけの差額利益】 第2事業部で差額利益が生じるためには、内部振替価格は最低でもトレーの変動費@2,500円を上回っている必要があります。 以上より、内部振替価格を@2,500円超@3,700円未満の範囲内で設定すれば、両方の事業部で差額利益が出るので、2人の事業部長を正しい意思決定に誘導することができます。仮に、この範囲の中央値@3,100円を内部振替価格とすれば、全社ベースで得られる差額利益1,200,000円を、両事業部で均等に600,000円ずつ分けることができます。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ ある未知の数値を見積もる前に、何らかの特定の数値を示されると、その特定の数値によって判断がゆがめられて、後から判断する数値が、先に示された特定の数値に近づいてしまう傾向のこと。 ▷ 社内の事業部などを独立しているととらえ、事業部間で製品などをやり取りする際に付す価格のこと。 (了)