〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第8回】 「もし桃太郎がきびだんごを忘れてしまったら ~資産負債アプローチという考え方」 公認会計士 石王丸 周夫 1 桃太郎がきびだんごを忘れてきてしまった! 『桃太郎』のお話を少し変えてみましょう。 桃太郎がイヌとサルを連れて歩いていると、キジがやってきました。 「桃太郎さん、きびだんごを1つ、私にくださいな!」 「いいとも。鬼退治について来るならあげよう。」 「ぜひ家来にしてください!」 「では、一緒に行こう。それで申し訳ないんだが・・・実はきびだんごを持ってくるのを忘れてしまったんだ・・・」 「えっ!!」 「きびだんごは鬼退治から帰ってきたら必ずあげるから、このまま一緒についてきてくれるかな。」 「・・・しかたがないですね。あとでいただくという約束で、鬼退治について行きましょう。」 これが桃太郎とキジの契約場面です。 この時のキジの貸借対照表を見てみましょう。 【第2回】にイヌのケースで見たものと同じですね。「きびだんご受取権」と「鬼退治同行義務」がそれぞれ生じますが、未履行のため、会計的には相殺され何もない状態です。 通常の『桃太郎』では、このあとすぐに、キジは桃太郎からきびだんごをもらいますが、今回のお話は上記のとおり、そうなりません。きびだんごをもらえるのは、鬼を退治して、宝物を無事に持って帰ってきたあとです。 2 貸借対照表から収益をとらえる考え方 ここで、宝物を無事に持って帰ってきた時点(鬼退治完了時)における、キジの財務諸表を見てみましょう。 鬼退治完了時の貸借対照表と損益計算書の上に、参考のため、契約時の貸借対照表も掲載しました。 契約時において、潜在的に負債に存在していた「鬼退治同行義務」は、キジが履行義務を果たしたことにより消滅します。同時に、潜在的に資産として存在していた「きびだんご受取権」は、履行義務の充足に伴って、きびだんごを確実に入手できる状態になり、貸借対照表上で営業未収金として顕在化します(便宜上、きびだんご1つを100円として貨幣額に換算しています)。 この段階で貸借対照表を見てみると、資産は営業未収金100円、負債は0円ということで、差額は100円。その差額は純資産です。純資産の額は、契約時の貸借対照表では0円でしたので、キジが鬼退治を履行したことによって、100円増えたことがわかります。この純資産の増分がキジの利益です。 貸借対照表に計上した営業未収金は、将来、キジにきびだんごをもたらすものです。したがって、損益計算書でこれに応ずるように収益を計上します。今回、キジはきびだんごを食べずに鬼と戦いましたので、戦いのためのエネルギー投入は0とみなして、原価は0。したがって、損益計算書においても利益は100円と計算されます。言うまでもなく貸借対照表の利益剰余金につながっています。 以上の流れから、あることが分かります。それは、収益の認識に係る話であるにもかかわらず、貸借対照表が主導するかのように損益が計上されていることです。 このように貸借対照表から収益をとらえる方法は、収益認識会計基準の極めて特徴的な考え方を示しています。 難しい用語ですが、『資産負債アプローチ』といいます。 要は、収益を損益計算書で直接とらえるのではなく、貸借対照表で権利と義務を認識するプロセスからとらえていくという考え方です。 会計処理の実務に必須の知識ではありませんが、予備知識として、上に述べた程度のことを知っていてもよいでしょう。 ▷今回のまとめ 収益の認識は、『貸借対照表の資産・負債の増減からとらえる』という考え方で説明されます。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第14回】 「事業分離の会計処理②」 -受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、事業分離等会計基準における「受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 分離元企業における移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定 分離元企業では、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額は、事業分離日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した適正な帳簿価額のうち、移転する事業に係る金額を合理的に区分して算定する(事業分離等会計基準10項)。 この際、適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれる(結合分離適用指針89項)。 また、【第13回】で述べたように、移転した事業について、「投資が清算されたとみる場合」と「投資が継続しているとみる場合」がある。 「投資が継続しているとみる場合」には、適正な帳簿価額の算定は、「事業分離が行われないものと仮定」して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を適用する(結合分離適用指針90項)。 具体的には、次のように適用する。 Ⅲ 受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理 1 子会社を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、子会社へ事業分離する場合、分離元企業(親会社)は次の処理を行う(事業分離等会計基準14項、結合分離適用指針95項、223項、225項、設例26-1)。 当該取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である(結合分離適用指針223項)。 また、当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(結合分離適用指針223項)。 分離元企業の会計処理において、現金等の財産とは、移転した事業と明らかに異なる資産が該当し、分離先企業の株式は含まれない(結合分離適用指針95項、事業分離等会計基準10項(1))。 これには、分離先企業の支払能力に左右されない資産や、分離先企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、分割比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない(結合分離適用指針95項)。 2 関連会社を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、関連会社へ事業分離する場合、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準15項、結合分離適用指針96項)。 3 子会社や関連会社以外を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、子会社や関連会社以外へ事業分離する場合、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する(事業分離等会計基準16項、結合分離適用指針96項)。 移転した事業に係る株主資本相当額との差額は、原則として、移転損益として認識する。 (了)
「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第3回】 「残業時間の上限規制(その1)」 -改正前後における36協定の手続きの変更点- Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、労働基準法の改正により、残業時間に上限が設定されます。 ということは、今までは残業時間に上限はなかったのでしょうか。 実は、今までも残業時間に上限は設定されていました。しかし、法律で定められているのではなく、「36協定」という会社と従業員の間の約束事の中で決めていたのです。 今回は法改正により新たに法定された残業時間の上限規制と、それに伴い変更となった36協定の手続きについて触れ、次回では上限規制を前提とした従業員の残業時間の管理等について解説していきます。 ▷36協定とは 36協定とは、法定労働時間を超える労働(時間外労働)及び法定休日における労働(休日労働)について、そのできる範囲を会社と従業員の間で取り交わす約束事のことをいいます。この約束事を文書にして所轄労働基準監督署に届け出ることによって「時間外労働」及び「休日労働」が可能となるのです。 つまり36協定とは、従業員が「時間外労働」と「休日労働」を行うためになくてはならないものといえます。 ここでいう「時間外労働」と「休日労働」について、以下でもう少し詳しく解説していきます。 まず、「時間外労働」とは「法定労働時間」である「1日8時間」及び「1週40時間」を超えて行う労働のことをいいます。例えば、所定労働時間が9時から17時30分(休憩1時間)の会社においては、8時間を超えた18時以降の労働があてはまります。 ちなみに17時30分から18時までの間の労働も「時間外労働」ではあるのですが、8時間以内の労働となりますので「法定内時間外労働」として、「時間外労働」とは区別します。 また、「休日労働」とは、週1日の「法定休日」に働くことをいいます。例えば、土曜日、日曜日を休日とする週休2日制の会社においては、いずれか一方の休日を「法定休日」とし、もう一方の休日を「所定休日」といいます。どちらを法定休日とするのかは、就業規則等に定めることが望ましいとされています。 なお、この法定休日が定められていない場合には、「後の休日」を法定休日とすることになります。原則として、週のスタートは日曜日となっているので、土日休みの場合には、土曜日が法定休日となります。 ▷36協定における時間外労働の限度時間 36協定においては、「1日」「1日を超えて3ヶ月以内の期間」「1年」について、時間外労働ができる時間を定めることとしています。また、休日労働に関する事項として、「1ヶ月における法定休日に労働できる日数の上限」とその場合の始業・終業の時間(もしくは労働時間)を定めることとしています。 これが、法改正後は「1日」「1ヶ月」「1年」について、時間外労働ができる時間を定めることとし、「1ヶ月45時間」「1年360時間」を限度時間とすることを法律に明記しました。 また、「臨時的な特別な事情」が生じ、この限度時間を超えて時間外労働を行わせる場合(特別条項)であっても、「1年720時間」を上限とします。 なお、特別条項の適用を受けるかどうかにかかわらず、常に時間外労働と休日労働の合計は、 としなければなりません。 また、特別条項の回数は1年間に6回までと定められています。 このように、例えば、1ヶ月の時間外労働が44時間である場合であっても(特別条項の対象でなくても)、その月の休日労働は56時間未満に抑えなければ法律違反となります。 ▷36協定の書式が変わる 2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降に36協定が有効期限を迎え、新たに締結する場合は、新しい書式を用いて所轄労働基準監督署長に届け出ることとなります。 もちろん、中小企業が経過期間中(2020年4月1日以前)であっても上限規制を適用しようとする場合には、この新書式による届出も可能となっています。また、新書式において特別条項付き36協定(後述)を締結する場合には、書式が異なるため注意が必要です。 下記の厚生労働省のサイトでは36協定作成支援ツールが公表されているので、活用してみてください(36協定の新書式のダウンロードも可能)。 なお、旧書式と新書式の大きな違いは以下のとおりとなっています。 ▷特別条項付き36協定の場合 臨時的な特別の事情があるため、「原則となる時間外労働の限度時間」を超えて時間外労働を従業員に行わせる場合については、以下の事項についても協定が必要です。 ⑤の手続きについては、労使協議の上、通告、労働者代表に対する事前申し入れ等が挙げられます。この手続きを経ないで限度時間を超えてしまうと法律違反となるので注意が必要です。 * * * 次回は、上限規制を前提とした従業員の残業時間の管理等について解説します。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例12】 「空き家となった借家契約を終了させる場合の留意点」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、父から建物を相続していますが、その建物は築後70年以上経過した木造の建物で、若干歪んでいます。当該建物には入居者はおらず、私とは面識のない方が昭和の頃から物置として利用しています。毎月、低廉な賃料を振り込んでいただいておりますが、建物も危険な状態ですので、補助金等を使って取り壊したいと考えています。賃借人との借家契約を終了させるに当たっての留意点を教えてください。 1 はじめに 借家は、居住目的のように特定の目的をもって利用されるのが通常である。ところが、居住目的で契約が締結されたにもかかわらず、現在は物置等として利用されているなど、当初の目的とは異なる目的で利用されているものが存在する。 このような借家は、老朽化しているにもかかわらず、管理自体が曖昧になっていることがあるため、建物の現在の所有者(賃貸人)が、予期せず、民事上の責任や行政上の責任を負うリスクがある。このようなリスクを避ける方法の1つは、建物の取壊しを見据えて借家契約を終了させることである。 そこで今回は、空き家になっている借家契約の終了時の留意点について解説することにしたい。 2 適用法上の留意点 借家契約や建物所有目的の借地契約については、平成4年8月1日から施行された借地借家法が適用されるところ、同法は、施行前に締結された契約であっても適用される(借地借家法附則第4条)。もっとも今回の事例のように、同法施行前にされた借家契約の更新の拒絶の通知や解約申入れについては、旧借家法が適用される(借地借家法附則第12条)。 建物が老朽化し、空き家となっている状態の借家契約の中には、平成4年以前から賃貸されているものが少なからず存在する。しかも、契約締結当時の賃貸人及び賃借人のいずれにも相続が発生している場合には、現在の契約当事者は、契約内容を把握しておらず、契約書等の証拠も有していないことがある。このような事例においては、旧借家法が適用されるとしても、契約内容を特定すること自体に困難を伴うことになる。 このような場合に、合意解約をできれば問題ないが、そうでない場合には、調停申立てや訴訟提起を見据えて、解約申入通知を契約終了日から6ヶ月前までに送付することになるものと考えられる。そこで問題となるのが、旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」の有無である。 (※) 下線筆者 3 建物老朽化事例における解約申入れの正当事由について 旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」は、借地借家法第28条に規定する「正当の事由」の解釈や判断とおおむね同様であり、賃貸人及び賃借人が建物を使用する必要性を基本的要素として、これら以外の事情(立退料の支払等)を補充的要素として判断することになる。そうすると、賃貸人に建物を使用する必要性自体がない場合には、正当事由が認められないことになるが、建物が老朽化した事例については、やや異なる考慮がされている。 まず、旧借家法下の裁判例においては、建物が倒壊する現実的な危険性がある場合や、衛生面等で周辺住民に具体的な害悪を及ぼしているような場合には、賃貸人に建物を使用する必要性がない場合であっても、正当事由の存在が認められている(最判昭和29年7月9日民集8巻7号1338頁等)。 次に、建物は老朽化しているものの、上記のような危険や害悪が生じているとまで認められない場合には、建物取壊しの必要性という賃貸人側の事情と、賃借人が建物を使用する必要性を比較衡量して判断されていると考えられる。 今回の事例においては、建物自体は、倒壊する現実的な危険があるとまでは認められないものと考えられるが、借家人は当該借家を物置・倉庫代わりとして使用しており、空き家の状態であるため、借家人が当該建物を使用する必要性は低く、正当事由は比較的認められやすいといえる。もっとも、賃貸人に建物を取り壊す必要性がある場合であっても、賃借人は、当該借家から退去して所有物等を移動させる必要があるため、立退料の支払による補充が必要になる場合もあると考えられる。 これに対し、老朽化によって入居募集を停止しており、1室以外は空き室となっているような共同住宅の場合には、空き家状態になっていることは、当該入居者との関係では重視されない。例えば、建築後75年を経過し耐用年数を大幅に経過した木造建物の明渡請求事件においては、借家人が転居することが容易でないこと等を理由に、立退料の支払なしに正当事由を認めることはできない旨判示されている(東京地判平成29年5月11日)。 なお、裁判においては、立退料を支払うことによって正当事由の存在が認められ、賃貸人にも一定の立退料の支払意思があるような場合には、立退料の支払と明渡しとが引換給付の関係になる。そのため、建物の老朽化等によるリスクを回避するために多額の修繕費用を支払う場合に比べて、立退料を支払った方が経済的合理性がある場合もあるように思われる。 4 明渡請求訴訟と正当事由の判断基準時について 賃貸人が賃借人に対して解約申入れをする場合、正当事由は、解約申入れ時に具備していることが理想的であるが、必ずしも解約申入れ時に満たしている必要はない。交渉がまとまらず、賃貸人が賃借人に対して明渡請求訴訟を提起し、その間に正当事由を具備した場合には、解約申入れは、訴訟係属中も黙示的・継続的に行われているものとして、正当事由を具備してから6ヶ月を経過した時点で借家契約は終了することになる(最判昭和41年11月10日民集20巻9号1712頁)。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第19話】 「配偶者控除と配偶者特別控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「平成30年分の確定申告で、納税者から、配偶者控除が適用できなくなった理由について質問されることが多いんですよ。」 昼休みの時間に、浅田調査官は中尾統括官に伝える。 「そうか・・・たしか平成29年度の改正で・・・」 そう言いかけると、中尾統括官は税務六法をめくる。 「所得税法83条1項では・・・次の金額が・・・配偶者控除として認められている・・・」 「・・・ということは、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると、即、配偶者控除が適用されなくなったと・・・」 中尾統括官は条文を見ながら言う。 「中尾統括官も高額所得者ですから、配偶者控除の適用はないのでしょうね。」 浅田調査官は笑いながら尋ねる。 「私は高額所得者ではないが・・・平成30年分の年末調整では、残念ながら、配偶者控除の適用はされなかったよ。」 中尾統括官は苦笑する。 「しかし、配偶者控除もこんなふうに細分化して控除額を定めるなんて、専ら税法を複雑にしているように・・・私なんか・・・思うのですが・・・」 浅田調査官は不満そうに言う。 「地方税(住民税)も同じように・・・納税者本人の所得金額に応じて制限が設けられていて・・・地方税法314条の2第1項10号には控除金額が書かれている。」 中尾統括官は「所得税」と「地方税」の「控除対象配偶者」と「老人控除対象配偶者」の金額を表にまとめて書いた。 「確かに・・・こんなに細分化することが適正な課税になるのか・・・甚だ疑問だな。」 中尾統括官は自ら書いた机上の表を見ながら、頸を傾げる。 「さらに配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額によって・・・所得税法83条の2第1項で、もっと細かく定められています・・・」 浅田調査官は口を尖らせながら言う。 中尾統括官は苦笑しながら、税務六法を再びめくる。 「この条文は、居住者本人の3つの合計所得区分を前提とし、さらに、配偶者の合計所得金額に応じて、控除額を細かく定めている・・・所得税法83条の2第1項1号のロの規定は、このようになっているけど・・・この条文を読んでも、すぐには理解できないな・・・」 そう言って、中尾統括官は条文を読み上げる。 「例えば、本人の合計所得金額が900万円以下で配偶者が110万円だったとすると・・・」 中尾統括官は、ペンをとって計算を始める。 1,100,000円-830,001円=269,999円 50,000円×5(整数倍)-30,000円=220,000円 380,000円-220,000円=160,000円(配偶者特別控除額) 「すなわち・・・条文のカッコ書きによって計算された22万円(5万円×5-3万円)を38万円から控除することになる・・・そうすると、配偶者特別控除額は16万円になる・・・」 中尾統括官は何度も条文を読みながら、計算の結果を確認する。 「地方税にも同じような控除額の規定がありますが・・・こんなに細かく区分する必要があるのでしょうか?」 浅田調査官は、しきりに頸を傾げる。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、「監査及びレビュー等の契約書の作成について」を改正 ~監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用等に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年3月29日(ホームページ掲載日は4月1日)、日本公認会計士協会は、「監査及びレビュー等の契約書の作成について」(法規委員会研究報告第16号)の改正を公表した。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日)に関連して2019 年2月28日付けで公表された監査基準委員会報告書の新設及び改正並びに2018 年7月24日付で公表された倫理規則の改正に対応するものである。 なお、2013年10月1日から2019年3月31日までに締結した監査契約に基づき、2019年10月1日以後に目的物の引渡しを行う監査については、経過措置により「8%」の消費税率が適用されるとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 監査上の主要な検討事項の記載 「監査上の主要な検討事項」を任意適用(早期適用)する場合は、監査契約書に、例えば次のような文言を記載する(「3.監査及び四半期レビュー契約書の作成例」の様式1~3を参照)。 2 財務諸表に対する意見の形成と監査報告 適正表示の枠組みに関する監査人の責任の表現に関して、「関連する注記事項を含めた財務諸表の表示、構成及び内容、並びに財務諸表が基礎となる取引や会計事象を適正に表示しているかどうかを評価する」と改正されている。 また、監査契約書に記載する監査人の責任に関して、表示及び注記事項の検討が追加されている(監基報700第36項(2)⑤)。 3 守秘義務 受嘱者の一般的な守秘義務と、これが解除される正当な理由について合意するに関して、「法令又は我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準により必要となる場合」が追加されている。 これには、受嘱者が監査報告書において、監査上の主要な検討事項を報告する場合等も含まれると考えられるが、委嘱者との間で認識の齟齬が生じることがないよう、想定される具体的な状況を委嘱者に対して説明し、その理解を得ておくことが望ましいとのことである。 4 監査約款 監査約款では、受嘱者の責任や監査の性質及び限界について大きく改正されている。 (了)
《速報解説》 企業内会計士等に向けた「倫理規則」「違法行為への対応に関する指針」等の改正が公表される ~誤解を生じさせる情報への関与を回避するよう求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年3月20日(ホームページ掲載日は3月29日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これにより、2018年12月26日から意見募集していた公開草案が確定することになる。公開草案に対しては、「会計参与」の取扱いに関するコメントが寄せられている。 倫理規則の改正は、日本公認会計士協会の定期総会の承認が必要なので、今般公表する「倫理規則」は定期総会に議案提案する予定の改正規定案であり、2019年7月22日開催の定期総会の承認後に確定となる。 また、「違法行為への対応に関する指針」及び「職業倫理に関する解釈指針」の改正は、「倫理規則」の改正が定期総会で承認されることを前提としている。 今回の改正は、「企業等所属の会員」に対する規定を対象としていることに注意が必要である。「企業等所属の会員」とは、従業員、共同経営者、取締役等の役員、自営業者、ボランティア等様々な形で、企業等の組織のために働く場合又は企業等の組織の指示の下で働く場合の当該会員をいう(「倫理規則」注解24第1項)。 「会計事務所等所属の会員」を対象とする改正については、2018年4月27日に公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「倫理規則」の主な改正点 1 情報の作成及び提供 企業等所属の会員が作成や提供に関与する情報には、財務情報及び非財務情報が含まれる。また、所属する組織外に公表する情報や組織内での内部利用を目的とする情報が含まれる(「倫理規則」注解27第3項)。 企業等所属の会員は、情報の作成及び提供に関与する場合、基本原則を遵守しなければならず、情報の作成及び提供に当たっては、例えば、次のような行動が求められている(「倫理規則」36条1項)。 2 情報の作成及び提供への関与 企業等所属の会員は、関与している情報が誤解を生じさせるものである場合又は誤解を生じさせるものであるとの疑いを持ち、かつ、疑う理由がある場合、当該事項に対処するために適切な対応を行わなければならない(「倫理規則」36条6項)。 適切な対応には、例えば、企業等所属の会員の上司、所属する組織内の適切な階層の経営者又は監査役等と協議することなどがある(「倫理規則」注解27第9項)。 いかなる対応を行っても、企業等所属の会員が依然として情報が誤解を生じさせると考える理由がある場合、情報への関与を回避しなければならない(「倫理規則」36条8項)。 倫理規則36条8項に関し、企業等所属の会員は、情報への関与を回避するために、所属する組織を辞職することを検討する場合もあり得る(「倫理規則」注解27第10項)。 3 不適切な裁量の例 倫理規則36条3項における職業的専門家としての判断に際して企業等所属の会員の裁量を伴う場合に関して、不適切な裁量の例として、次のものが挙げられている(「倫理規則」注解27第6項)。 4 基本原則に違反するプレッシャー 企業等所属の会員は、他者からのプレッシャーにより基本原則に違反してはならない(「倫理規則」37条1項、付録5)。 また、他者に対してプレッシャーを与えることにより他者が基本原則に違反することが明らかな場合又はそのように考える理由がある場合には、会員は、そのようなプレッシャーを他者に与えてはならない(「倫理規則」37条1項、付録5)。 基本原則への違反をもたらすプレッシャーが除去されていないと企業等所属の会員が判断する場合、会員は、基本原則への違反をもたらす専門業務の実施を行わないか、又は継続してはならない(「倫理規則」37条2項)。 企業等所属の会員は、プレッシャーが基本原則への違反をもたらし得ると判断する場合、企業等所属の会員が、プレッシャーを与えている個人又は組織とこれ以上関与しないように、担当業務の変更又は人事異動などを要請することなどが考えられる(「倫理規則」注解28第4項)。 Ⅲ 「違法行為への対応に関する指針」の主な改正点 1 構成 2016年7月の国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)の倫理規程(Code of Ethics for Professional Accountants)により、職業会計士は、違法行為又はその疑いに対して見て見ぬふりをせず、公共の利益に資する行動をすることが期待されている。 IESBA倫理規程を踏まえて検討を行った結果、会計事務所等所属の会員に対する規定を先行して導入し、会計事務所等所属の会員に対する規定は、2018年7月に導入済みである。 今回の改正の対象は企業等所属の会員に対する規定である。 「違法行為への対応に関する指針」では、第1部において「会計事務所等所属の会員における違法行為への対応」について規定し、第2部において「企業等所属の会員における違法行為への対応」について規定するとともに、第2部を次の構成としている。 2 違法行為 違法行為は、故意もしくは過失又は作為もしくは不作為を問わず、所属する組織、その経営者、監査役等、従業員等又は所属する組織の指示の下で働く委託先業者等のその他の者によって行われる、法令違反となる行為である(第2部第2項)。 企業等所属の会員が行う職業的専門家としてのすべての業務が対象となる(第2部第1項)。 第2部は、違法行為又はその疑いに関する情報に気付いた場合に適用されるものであり、それらを発見することを要求するものではない(第2部第1項)。 3 上級職の会員 上級の職にある企業等所属の会員は、取締役、監査役等並びに人的、財務的、技術的、物的及び無形の経営資源の取得及び配分並びに経営資源に対する支配に関して重要な影響力を行使し決定できる職位にある会員である(第2部第13項)。 会員は、所属する組織における役割、地位及び影響力に鑑み、所属する組織のその他の会員に比し、違法行為又はその疑いに対して公共の利益のために適切な行動をとることを、より期待されている(第2部第13項)。 4 上級職以外の会員 上級の職以外の企業等所属の会員は、専門業務を実施する過程で違法行為又はその疑いに関する情報に気付いた場合、行為の内容及び当該行為が発生した、又は発生し得る状況など、当該事項を理解することに努めなければならない(第2部第28項)。 会員には、専門的な知識を有し、職業的専門家としての判断及び専門的能力を行使することが求められているが、所属する組織の中でその役割を果たすために要求される水準以上の法令に関する理解を有することまでは求められていない(第2部第29項)。 Ⅳ 「職業倫理に関する解釈指針」の主な改正点 「違法行為への対応に関する指針」第2部を適用するに当たってのQ&Aを追加している(Q34)。 Ⅴ 適用時期等 2020年4月1日から施行する。 ただし、会員の判断において早期適用することを妨げるものではない。 (了)
《速報解説》 国税庁等、改元及び10連休に係る対応を公表 ~「平成31年6月1日」等、平成表記の日付による書類も有効として取り扱う(e‐Taxも同様)~ Profession Journal編集部 〇改元への対応を公表 昨日(平成31年4月1日)正午前、菅官房長官の記者発表により、「平成」に続く新元号を「令和(れいわ)」とすることが公表され、同日の官報特別号外第9号にて「元号を改める政令」が公布、天皇の退位等に関する皇室典範特例法の施行の日(平成31年4月30日)の翌日、すなわち5月1日から施行することとされた。 これに伴い本日(4月2日)、国税庁はホームページ上で「新元号に関するお知らせ」を公表、新元号への移行に伴い国税庁ホームページや申告書等の各種様式を順次更新するとした上で、納税者から提出された書類については、例えば「平成31年6月1日」と平成表記の日付で提出されたものであっても有効なものとして取り扱うことを明らかにした(国税不服審判所も同様に、平成表記の日付で提出された審査請求書を有効なものとして取り扱うとしている)。 またe‐Taxのホームページでは、e‐Taxへ送信する申告・申請データにおいて、利用している民間の税務会計ソフトの改元対応が完了していない等の理由により「平成」を用いて作成した場合でも、当面の間、正常にデータ送信することが可能であることを公表している。 (※) 国税庁が提供するe‐Taxソフト等は本年5月7日の更新をもって改元対応を行うことを予定しており、同日以後は新元号を入力して申告・申請データを作成・送信することができるとのこと。 〇10連休中の申告・納付等手続は 天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律が昨年12月14日に公布・施行され即位の日及び即位礼正殿の儀が行われる日が休日となることから、本年は4月27日(土)から5月6日(月)までの期間が休祝日となり、この期間、税務署は閉庁となる(10連休中のe‐Taxの利用可能期間については[こちら]を参照)。 このため、この10連休中(4/27~5/6)に到来する申告・納付等期限については、法令により、日曜日、国民の祝日、その他一般の休日等の日の翌日が期限となることから、10連休明けの5月7日(火)となる(本年4月支払分の給与等にかかる源泉所得税の納付期限は原則どおり5月10(金))。 ただし、10連休中に納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなる場合など、一定の行為や事実をもって期限が定まるもの等は、その時が期限となるため、国税庁は、10連休中に期限が到来する場合は4月26日(金)までに申告等必要な手続を行うよう注意喚起を行っている。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成30年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成31年3月26日、「平成30年7月から9月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全9件で、相続税法が3件、法人税法が2件、国税通則法が2件、所得税法と登録免許税法が各1件となっている。9件の公表裁決のうち、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が7件、棄却された裁決が2件となっている。 【表:公表裁決事例平成30年7月~9月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、国税通則法関係の2件及び法人税法の1件について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 第三者が作成した内容虚偽の確定申告書の作成行為について、請求人の行為と同視することはできないとした事例・・・① 本件は、平成28年中に賃貸用の不動産を取得した会社員である審査請求人が、不動産の販売を代理した法人であるG社の従業員により作成された平成27年分の所得税等の確定申告書等を提出したところ、原処分庁が、請求人が平成27年中に当該不動産を取得したかのように装った確定申告書等を当該従業員らに作成させ、それらを提出したとして、所得税等の重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、確定申告書等はG社の従業員らが独断で作成したものであり、請求人に仮装行為はないなどとして、重加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 G社の従業員が作成した本件申告書等について、請求人が押印したうえで、原処分庁に提出したことは、国税通則法第68条第1項の賦課要件を満たすか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、通則法68条1項に規定する「隠ぺい仮装行為」を納税者以外の者が行った場合について、次のように判断を示した。 そのうえで、認定した事実関係に基づき、請求人は、 ことから、G社の従業員が虚偽の内容の申告書等を作成した行為を追認したと認められないことはもとより、申告書等に事実と異なる内容が記載されていることを認識していたとか、それを予想することができたと認めることもできないと判断した。 そして、国税不服審判所は当該判断に基づき、G社の従業員が申告書等を作成した行為は、請求人の行為と同視することはできないため、通則法68条1項の賦課要件を満たさないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 2 当初から所得を過少に申告することを意図していたと認めることはできないとして、重加算税の賦課要件を満たさないとした事例・・・② 本件は、共同審査請求人E及びGが、3棟の建物の敷地の用に供されていた請求人ら共有の土地を更地にして譲渡したことによる譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を適用して所得税等の確定申告をしたのに対し、原処分庁が、2棟の建物は請求人らが居住の用に供していなかったからその敷地部分については当該特例を適用できず、また、請求人Eが虚偽答弁をしたなどとして所得税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分等をしたところ、請求人らが、3棟の建物は併せて一構えの家屋で全てが請求人らの居住の用に供していた家屋に該当するから敷地の全てに当該特例を適用でき、また、請求人Eが虚偽答弁をした事実はないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、本件土地のうち本件特例を適用できる範囲は、全てか一部か(争点1)と、請求人らの行為は、通則法第68条第1項及び第2項の各賦課要件をそれぞれ満たすか否か(争点2)の2つであるが、本稿では、重加算税の賦課要件を満たすか否かという(争点2)について、国税不服審判所の判断を検討する。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、国税通則法68条1項及び2項の重加算税賦課要件について、次のように解釈を示した。 そのうえで、争点に対する主張において、「原処分庁と請求人らの間において、請求人らの行為には、いわゆる積極的な隠蔽又は仮装の行為がない点については争いがない」ことを認め、請求人らが、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図していたか否かについて認定した事実として、 を挙げて、請求人Eが、「母屋及び各別棟は併せて一構えの家屋ではないから特例の適用要件を満たさない」ということを当初から認識しながら過少に申告をしたとまでは認めることはできないと判断した。 そのうえで、国税不服審判所は、請求人Eについて、通則法68条1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさず、請求人Gについても、請求人Eと格別に判断すべき事情は認められないことから、同条2項の賦課要件を満たすとは認められないとし、過少申告加算税相当額を超える部分は違法であるとして、賦課決定処分の一部取消しを認める裁決を行った。 3 設備の賃借及び転貸はいずれも法人税法上のリース取引に該当し、売買があったものとして処理することが相当とした事例・・・⑤ 本件は、不動産管理業を営む法人である審査請求人が、リース契約に基づき支払ったリース料を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該リース契約に基づく取引は売買として取り扱われるリース取引に該当するため、当該リース契約に係る資産は減価償却資産であり、上記リース料のうち当該資産の償却限度額を超える部分の金額は損金の額に算入されないなどとして、法人税等の更正処分などを行ったことに対し、請求人が、当該リース契約に基づく取引は売買として取り扱われるリース取引に該当しないとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 本事案の争点は、原処分庁がした法人税各更正処分の理由付記に不備があるか否か(争点1)及び本件リース取引が法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引に該当するか否か(争点2)であるが、国税不服審判所は、(争点2)において審査請求には理由があると判断したため、(争点1)については判断を示していない。よって、本稿でも(争点2)について、その判断を検討したい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人がN社と締結したリース契約は法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引に該当すると判断して請求人の主張を斥けたうえで、請求人がM社との間で締結した転リース契約もまた、同項に規定するリース取引であることから、いずれもリース資産を売買により譲渡したものとして、各事業年度の所得の金額を計算することとなるという、原処分庁による更正処分とも異なる判断をした。 そのうえで、法人税基本通達2-4-2(売買があったものとされたリース取引)を引用する形で、賃貸人が受取リース料を収益の額に計上している場合において、法人税法第64条の2第1項の規定によりリース資産の売買があったものとされたときは、賃貸人は、そのリース取引に係る収益の額及び費用の額の計算につき、同法第63条第1項(長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度)を適用することができる旨、リース取引が行われた日の属する事業年度後の事業年度において、そのリース取引について売買があったものとして処理すべきことが明らかになった場合には、その明らかになった日の属する事業年度前の各事業年度についてのそのリース取引に係る収益の額及び費用の額は、原則として延払基準の方法により計算した収益の額及び費用の額とする旨の定めを相当と認めた。 国税不服審判所は、この規定を請求人に当てはめて、請求人の各事業年度についての本件転リース取引に係る収益(本件転リース契約に基づくM社からのリース料)の額及び費用(本件リース契約に基づくN社へのリース料)の額は、上記通達規定の定めにより、延払基準の方法により計算した収益の額及び費用の額とし、本件各事業年度の課税所得を計算することとなるとして、法人税各更正処分はいずれも違法であるから、その全部を取り消すべきであると結論づけた。 なお、原処分庁は、原処分に係る調査において、転リース契約書の提出を求めたにもかかわらず、請求人がこれを提出しなかったことから、転リース契約書は原処分時に存在せず、転リース契約は締結されていない旨主張したが、審判所は、請求人が、原処分に係る調査の前から、転リース取引に係るリース料について転リース契約書の記載内容と一致する会計処理をしていたことから、原処分庁の主張は採用することができないという判断を示した。 (了)
《速報解説》 日本建設業連合会より「建設業における『収益認識に関する会計基準』の研究報告」が公表される ~業界として一定方向へ会計処理できるよう解釈・注意点等を取りまとめ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年3月28日(ホームページ掲載日は3月29日)、日本建設業連合会 会計・税制委員会 会計部会の収益認識基準ワーキンググループは、「建設業における『収益認識に関する会計基準』の研究報告」を公表した。 これは、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)は、抽象的な表現が多く、解釈に幅が出る可能性があることから、建設業界として一定程度は同じ方向の会計処理ができるようにするために取りまとめたものである。PDF版とエクセル版がある。 研究報告の取りまとめに際しては、ワーキンググループ各社の会計監査を担当している公認会計士の協力・助言を得ているが、実際の収益認識会計基準の対応については、担当の監査法人と十分に協議してほしいとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究報告は、①会計基準等の概要を記載した上で、②建設業へ当てはめた場合の解釈と③各社で今後注意・検討すべき事項を記載する構成となっている。 以下では主に②建設業へ当てはめた場合の解釈と③各社で今後注意・検討すべき事項について記載する。 1 定義 建設業では、「契約」は工事請負契約であり、「顧客」は施主、注文者、発注者となる。 そのほか、次のことが記載されている。 完成工事未収入金のうち発注者に請求済みのものは「債権」に該当し、未請求のものは「契約資産」に該当すると解釈できる。 海外においては出来高払い(施主による出来高の確認、承認を経て請求する)が一般的であり、収益認識会計基準(=IFRS第15号を出発点としたもの)は主に海外における出来高払いの実務慣行の下での「債権」と「契約資産」の区分が定義されていると考えられる。 しかしながら、日本の建設業の取引慣行においては、出来高払いのほかに、施主の出来高の確認、承認を伴わない請求(支払)(いわゆる前払金、中間金などの「出来高に関わらず、契約で定められた支払条件(支払期日、着工時、上棟時等の条件による)」に基づく請求)が一般的であり、これらの請求が「対価に対する無条件の権利(=対価に対する法的な請求権)」に該当するかどうかは慎重に検討する。 上記の原則的な解釈に従えば、個々の完成工事未収入について、発注者への請求の有無、支払条件等に基づいて、「契約資産」と「債権」に区分する必要があり、その判定のためのデータ把握(請求状況や契約上の支払期日)や判定手続に関する実務負担が多大になると考えられる。 2 契約の識別 「顧客が対価を支払う意思の評価にあたっては、顧客又は同種の顧客グループの過去の慣行を含むすべての事実及び状況を考慮する必要がある」が、現状の実務においても顧客の信用調査等を行い、顧客から対価を回収できると判断したうえで受注していることから、今後も、対価の回収可能性の判断に関する実務は、現状と大きく変わらないものと考えられる。 工期自体がごく短い場合は、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)95項に従って、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することになると考えられる。 各社において、工事完成基準の適用の条件となる「期間がごく短い」工事契約については、社内規程、JSOX文書、マニュアル等で定義する必要があると考えられる。 3 履行義務の識別 建設業では、竣工後の定期点検があるが、収益認識適用指針34項にある合意された仕様に従っている保証の一環である場合には、履行義務には該当しないと考えられる。 設計施工案件の場合、設計業務に監理を含むときは施工と一体の履行義務、設計業務が設計図書を納めて完了するようなときは、施工とは別個の履行義務として扱うことが考えられる。 マンション工事等におけるアフターサービスについては、製品保証の範囲に含まれ、単一の履行義務である場合が多いと考えられるが、個々の状況に応じて個別に判断する必要がある。 4 一定の期間にわたり充足される履行義務 通常の(一般的な)工事契約であれば収益認識会計基準38項(2)又は(3)に該当すると思われ、原則として工事進行基準の適用が可能と考える。 また、工事契約1件ごとに判定の証跡を残す必要はないが、求められた際には通常の工事契約が会計基準に照らして一定の期間にわたり充足される履行義務であると判断した根拠を示す必要があるため、一般的な工事契約と異なる項目がある場合などの判断基準は整備しておく必要があると考えられる。 2020年4月1日施行予定の民法634条や最高裁昭和56年2月17日判決についても触れている。 5 一時点で充足される履行義務 施工を伴わない設計業務のみの受託や開発事業における確認申請業務の受託は、設計図書の納入、確認申請手続の完了をもって履行義務の充足と考えられるため、一時点で充足される履行義務と考えられる。 設計監理業務は収益認識会計基準38項(1)に照らして、監理の進捗に応じて顧客が「施工者が顧客の仕様通りに施工しているかの監理」という便益を享受していると考え、一定期間にわたり充足される履行義務と判断する。 建設業の付帯事業である、設計業務、不動産事業、コンサルティング業務などについては、各社の実情に合わせて一時点で充足される履行義務として収益を認識するのか、一定期間にわたり収益を認識するのか、各業務の定義を明確にした上で、実務上の負担と金額的重要性も勘案し、収益認識方法について会計監査人と協議する必要がある。 6 履行義務の充足に係る進捗度 請負工事における収益認識は、通常は工事進行基準によるが、進捗度を合理的に見積れない場合は、原価回収基準となる。 工事完成基準は、原則として、認められない。 進捗度の測定方法については、インプット法が一般的である。 収益認識適用指針設例9にある現地に引き渡されたエレベーター(建物には未設置)のような現地に納入されただけで発注者が支配を獲得し、かつ、調達原価が合計予想原価の総額に比して重要である場合は、極めて稀であると考えられる。 7 変動対価 スライド条項(全体スライド・単品スライド・インフレスライド)は、工事契約(契約約款を含む)に請負金額を変更する旨の条項がある場合に、変動対価に該当する。 原則として、遅延損害金は変動対価として収益の減として認識する。 契約上想定されていない損害賠償金等は、契約実態に応じて、変動対価として収益の減として認識するか、費用又は損失として認識するかということも含めて、慎重に検討する必要がある。 8 契約における重要な金融要素 収益(未収入金)計上後1年超の支払期限を含む工事契約については、当該工事契約が該当するかどうかを契約時点で判断し(収益認識会計基準58項)、もし該当する場合には工事進行基準で収益認識する段階から対価の金額に含まれる金利相当額を調整する必要がある。 重要性の判定基準については、各社の各(四半)期末の収益推移に対して、契約時点で算出される個別工事の金融要素の多寡について検討するものと考えられる(契約時点での金利水準、個々の工事の工事価格の多寡、契約時点で想定される金融要素の多寡等を総合的に考慮するものと考えられる)。 システム対応、消費税との関係、金融商品関係注記との関係についても触れている。 9 履行義務への取引価格の配分 一般的な請負工事は、重要な統合サービス(収益認識会計基準34項(2)、収益認識適用指針6項(1))を提供すると考えられるため、契約で約束した財及びサービスのすべてを区分して識別できず、単一の履行義務として処理するものと考えられる。 発注者との契約が分割されている場合、また、例えば、解体と新築とを別々に入札行為で提出し、後に契約した場合など、履行義務を複数認識する必要がある場合も想定され、その場合には独立販売価格に基づく取引価格・値引き・変動対価の配分に注意する。 10 有償支給取引 一般的な建設工事では、元請であるゼネコンが専門工事を専門工事業者へ外注するにあたり、使用する資材等を支給する場合などが考えられており、現行の処理でも支給材分の収益を認識していないと考えられることから、従来の会計処理に変更はない。 11 顧客による検収 建設工事において収益認識適用指針80項により、検収により財又はサービスの支配が移転したと判断する場合、契約において合意された仕様に従っているかどうかは、竣工検査等の顧客による判断が求められることから、基本的には「検収が形式的なもの」になるとは考えにくい。 このため、従来どおり、顧客の検収を経て収益を認識することが必要と考えられる。 12 本人と代理人の区分 コストオン工事における元請会社(ゼネコン)の役割と責任を踏まえて、本人と代理人の区分について詳細に検討している。 (了)