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monthly TAX views -No.70-「政府税調のアジェンダとなった日本版IRA(TEE型税制支援) 」

monthly TAX views -No.70- 「政府税調のアジェンダとなった日本版IRA(TEE型税制支援)」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   年末の税制改正大綱公表に向けて政府税制調査会の議論が始まった。10月23日の会合を見ると、「老後に備える資産形成」について議論が行われている。 安倍総理の3選目の政策テーマは「人生100年時代」であり、それに対応したものであろう。 わが国高齢者世帯の経済状況を見ると、その収入の65%は公的年金となっている。さらには、50%の世帯が公的年金のみで生活しているという状況である(国民生活基礎調査)。 しかし公的年金は、賦課制度の下で人口構成が変化していくので、マクロ経済スライドが発動され、その所得代替率は、平成62年(2050年)度には50%に落ち込む(厚生労働省試算)。 このような状況は他の先進諸国も似たり寄ったりであり、彼らは私的年金を充実させることで公的年金の不足を埋めようとしてきた。しかし、わが国の私的年金制度は歴史が浅く、高齢世帯の収入に占める割合もごく一部である。 *  *  * 昨今ではiDeCo(個人型DC)が人気を集めているが、加入期間が60歳までであったり払い込みの上限が低かったりと課題もある。iDeCoは後述するように、EET型、つまり払い込み時には所得控除があり、給付時には公的年金等控除があるので、大きな減税メリットがある。これは裏を返せば、税収が大きく脱漏しているということであり、税制当局としてはiDeCoの一方的な拡充には応じられないということでもある。 また、現行私的年金制度は、縦型に分立しており、働き方改革で多様になる勤労形態にフィットしていない。 そこで、現在ある貯蓄・投資非課税制度も含めて、見直し・充実していく必要がある、というのが問題意識だ。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省説明資料(個人所得課税)」P13より *  *  * 税制の支援方法には、2種類ある。 第1が「拠出時課税」「運用・給付時非課税」のTEE型であり(Tは課税、Eは非課税)、第2が「拠出時非課税」「運用時非課税」「給付時課税」のEET型である。 なお、下図のとおり、おおむね私的年金はEET型、貯蓄・投資非課税制度はTEE型となっている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省説明資料(個人所得課税)」P14より 米国では、EET型のIRAとTEE型のロスIRAが併存し、勤労者の選択に応じて選択できるようになっている。税率が同じであれば、EET 型とTEE 型の経済的価値は同値である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省参考資料(個人所得課税)」P23より かつて金融庁は、TEE型の日本版IRAを検討してきた。 筆者は、金融界・証券界・経済界の有志と、ここ10年来、日本版IRAの提言を行ってきた。ようやくこの問題が政府税調でも取り上げられるのか、と感慨深いものがある。 なお、毎年の提言内容は、ジャパン・タックス・インスティチュートのホームページから入手できるので、是非一読在りたい。 (了)

#No. 292(掲載号)
#森信 茂樹
2018/11/01

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第61回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第61回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第11章》 平成22年度から平成28年度までの議論 1 日本租税研究協会が公表した研究報告 日本租税研究協会から平成24年に「外国における組織再編成に係る我が国租税法上の取扱いについて」、平成26年に「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)における課税上の取扱いについて」がそれぞれ公表された。いずれとも、外国で組織再編が行われた場合において、我が国の課税関係がどのようになるのかについて解説した内容である(なお、後者の報告書については、現地における連結納税制度、パススルー課税も対象とされている)。 例えば、米国子会社同士が合併した場合において、その株主が日本法人であるときに、当該日本法人が、株主として、日本でどのような課税関係になるのかについて検討されている。もちろん、米国における課税関係は米国法の問題であるため、本報告書の対象からは除外されている。 やや実務のニーズに対応するために強引な解釈をした報告書であるという批判もないわけでもないが、アカデミックな分析は置いておいて、実務においては、参考にすべき報告書であるということが言える。 2 国税局の見解 (1) 平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例 平成22年度から平成28年度までに公表された改正法人税基本通達では、条文から明確なものがほとんどであり、特記すべき事項はなかった。 そして、平成22年8月10日に公表された「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」、同年10月6日に公表された「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制その他の資本に関係する取引等に係る税制関係)」では、平成22年税制改正において導入されたグループ法人税制の取扱いが詳細に解説されている。 これらについても、基本的に、条文から明らかなものがほとんどであったが、後者の質疑応答事例のうち、問11では、実在性のない資産が貸借対照表に計上されている法人が解散した場合における期限切れ欠損金の取扱いについて記載されているため、一読しておく価値はあると思われる。 (2) 文書回答事例 国税庁文書回答事例として、平成22年2月22日「企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて」が公表された。特記すべき事項としては、非適格現物出資により受け入れた債権の評価について明らかにされている点である。 具体的には、「債権者が有する債権のうちにDESの対象とされなかった債権が存在する場合、DESの対象となる債権が債務者の株式に変わるため、DESの対象とされなかった債権は、DESの対象となった債権(株式)に優先して回収される」ことを理由として、 と解説されている。 なお、本文書回答事例は、経済産業省経済産業政策局産業再生課長の私的研究会である「事業再生に係るDES研究会」が公表した「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」に基づいて行われたものである。 そして、平成25年9月26日「同一の者による支配関係がある法人間において、一方が民事再生計画に基づき、『100%減資』及び『債権の現物出資を受けて新株を発行するDES』を同日に行った場合の支配関係の継続について」では、100%減資前に支配関係があり、100%減資+DESにより完全支配関係が成立した事態に対して、100%減資により一瞬だけ支配関係が途切れたと解するのではなく、100%減資前から支配関係が継続していたと考えることが明らかにされている。 そのほか、平成23年12月26日「被合併法人から適格合併により移転を受けた減価償却資産に係る償却限度額の計算について」、平成24年8月3日「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」、平成25年1月17日「複数回の適格合併等により移転を受けた特定資産の取得日の判定について」、平成26年11月12日「持株会社を株式交換完全親法人とする株式交換における事業関連性の判定について」が公表され、平成29年度でも、平成29年3月8日「議決権のない株式を発行した場合の完全支配関係・支配関係について」、平成29年3月30日「医療法人が行う吸収合併の登記が遅れた場合の取扱いについて」、平成29年11月7日「株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて(支配関係の継続により引継制限の判定をする場合)」、平成29年11月29日「グループ法人税制で繰り延べた譲渡利益の戻入の要否」、平成29年12月12日「株式の保有関係が変更している場合の支配関係の継続要件の判定について」、平成30年1月26日「合併法人の株主に公益財団法人が含まれている場合の支配関係の判定について」が公表されているが、条文により明らかにされているもの又は国税庁から既に公表されている公式見解で明らかなものがほとんどであったため、本稿では、詳細な解説は省略する。 (3) 質疑応答事例 国税庁質疑応答事例として、「分割と合併を同日に行う場合に当該分割により移転する資産及び負債に係る譲渡損益の取扱いについて」「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」が公表された。 このうち、前者は、非適格分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をした場合には、原則的には、当該分割を行った日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入されるものの、分割の日と同日に、分割法人が合併により解散してしまうと、その最後事業年度は、事業年度開始の日から本件合併の日(本件分割の日と同日)の前日までの期間となってしまい、分割を行った日の属する事業年度がないという問題が生じる。この点につき、最後事業年度(本件合併の日の前日の属する事業年度)の益金の額又は損金の額に算入することが明らかにされている。 そして、後者については、本連載【第54回】で解説した通り、賞与引当金に相当する金額につき、短期重要負債調整勘定として処理することができないことが明らかにされている。 それ以外の質疑応答事例については、条文により明らかにされているもの又は国税庁から既に公表されている公式見解で明らかなものがほとんどであったため、本稿では、詳細な解説は省略する。 (※) ややマニアックな論点であるが、「被合併法人から引継ぎを受ける未処理欠損金額に係る制限の適用除外について」では、法人税法施行令112条2号イ~ハの最後に記載されている「同日が当該5年前の日以前である場合を除く。」の文言の読み方が解説されている。興味のある読者は、一読されたい。   3 ヤフー、IDCF事件 法人税法132条の2に規定されている包括的租税回避防止規定が最初に適用された事件であるヤフー・IDCF事件の最高裁判決(最一小判平成28年2月29日TAINSコードZ888-1984、最二小判平成28年2月29日TAINSコードZ888-1983)が公表された。 従来の経済合理性基準ではなく、制度濫用基準に基づいて租税回避を捉えていたため、多くの判例評釈が公表されている。特に、東京地裁判決が公表された後には、多くの批判があり、租税回避の定義が変わる可能性があるとも言われていた。 しかしながら、「行為・計算の不自然性が全く認められない場合や、そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等が十分に存在すると認められる場合には、他の事情を考慮するまでもなく、不当性要件に該当すると判断することは困難である(徳地淳・林史高「判解」ジュリスト1497号86頁(平成28年))」という調査官解説が公表されたことにより、アカデミックにはともかくとして、実務上は、従来の経済合理性基準と変わらないということになり、本稿校了段階では、実務上、本件の最高裁判決の影響はほとんど見受けられない。 *   *   * 最終回となる次回では、第12章として平成29年度及び平成30年度税制改正について解説を行い、終章として本連載の総括を行う予定である。 (了)

#No. 292(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/11/01

企業の[電子申告]実務Q&A 【第9回】「利便性向上のための施策の全体像」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第9回】 「利便性向上のための施策の全体像」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● 平成30年度税制改正では、ICTの活用を推進しデータの円滑な利用を進めることにより、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図る観点から、法人税等の電子申告について、「大法人の電子申告の義務化」とともに、「中小法人も含めて申告データを円滑に電子提出するための環境整備の見直し」が行われました。 申告データの円滑な電子提出のための環境整備については、主に法人税や消費税の電子申告を対象として、(1)提出情報等のスリム化、(2)データ形式の柔軟化、(3)提出方法の拡充、(4)提出先の一元化、(5)認証手続の簡便化という観点から、制度・運用両面について見直しが行われました。 上記以外にも、下表に掲げる通り、様々な利便性向上のための施策を順次実施することとされています。 【利便性向上施策等一覧】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 292(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/11/01

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第64回】「印紙税法上の「判取帳」(第20号文書)に該当するか否かが争われた事例(平成26年10月28日裁決)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第64回】 「印紙税法上の「判取帳」(第20号文書)に該当するか否かが 争われた事例(平成26年10月28日裁決)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   [事例のポイント] ① 「一の文書」に該当するか 印紙税法における一の文書とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいい、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問わない。 したがって、本件各文書が冊子形態であるからといって、直ちに全体として一の文書といえるものではないが、「お客様返金伝票(売場控)」には切取り線がなく、お客様返金伝票のみが本件伝票綴りに綴られており、各伝票には、連番となった伝票番号が印字されていたこと等を踏まえ、お客様返品伝票(売場控)のみが残された伝票綴りは1冊の冊子として、その伝票綴り全体をもって「一の文書」に該当すると判断する。 ② 「第17号に掲げる文書に証されるべき事項につき2以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成」(第20号文書)されたものといえるか 返品・商品交換の申出に対応する際には売場担当者は、お客様返金伝票に「受付日」、「お買上日」、「返品商品の金額」及び「返品理由」を記入し、現金を顧客に渡し「ご返金受領サイン」欄に署名がされる。 顧客から返品伝票(売場控)に署名を受けることにより、顧客が返品した品物の代金額に相当する金銭を受領したことについて付け込み証明があったと認められる。また、顧客からも、返金された現金を受け取り、「ご返金受領サイン」欄に自ら署名することから、返品した代金相当額の金銭を受領したことを明らかにする趣旨で署名を行ったと認められる。 したがって、課税物件表第17号に掲げる目的をもって作成されたものと認められる。 ③ 「帳簿」(課税物件表第20号)に当たるか否か 伝票綴りは、返品を希望する不特定多数の顧客に対して返金をする都度、返金を受けた顧客から金銭を受領したことについて付込証明を受け、顧客の署名が記載されたお客様返金伝票(売場控)が綴られることが予定されていることから、継続的に顧客から金銭の受領について記載証明を受けることを目的として伝票綴りを使用している。 したがって、伝票綴りを用いて作成された文書は、継続的又は連続的に、課税事項である金銭の受領事実を記載証明する目的で作成された文書であるから、課税物件表の第20号に規定する「帳簿」に該当する。 ④ 「判取帳」に該当するか 当文書は、商品の販売という営業上の取引の一環として作成されたもので、金銭の受領事実を付け込んで証明する目的で作成する文書であり、第20号文書の「判取帳」に該当する。 (了)

#No. 292(掲載号)
#山端 美德
2018/11/01

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第22回】「遺留分減殺請求が行われた場合に、各相続人に承継される被相続人の納税義務(税額)が影響を受けるのかについて判断した事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第22回】 「遺留分減殺請求が行われた場合に、各相続人に承継される被相続人の 納税義務(税額)が影響を受けるのかについて判断した事例」   税理士 佐藤 善恵     〔概要等〕 本件の被相続人は、本件の原告(相続人A)以外の相続人らに特定の財産を「相続させる」旨の遺言をしたため、相続人Aは、自己の遺留分が侵害されているとして遺留分の回復を求める訴えを提起して和解により終結した。 相続人Aは、被相続人に係る準確定申告書を提出していなかったところ、原処分庁(税務署長)は、原告の法定相続分(10分の1)で按分して計算した金額は原告が被相続人の納税義務を承継したとして原処分を行った。その後、国税不服審判所の裁決において原告の承継した納税義務は遺留分減殺請求の結果20分の1であるとして、処分が一部取り消された。 裁判での争点は、次の2点である。   〔原処分庁の主張〕 (争点①) (争点②)   〔納税者(相続人A)の主張〕 (争点①) (争点②)   〔裁判所の判断〕 (争点①) (争点②)   〔判断の分水嶺〕 本件では事実関係に争いはなく、判断の分水嶺は、本件遺言の解釈と遺留分減殺請求の法的性質についての解釈である。 まず、本件遺言が「相続分を定めたもの」か「遺産の分割の方法を定めたもの」かについて検討され、「相続分を定めたもの」と判断された(争点①)。 そして、争点②については、遺留分減殺請求によって遺留分権利者に帰属した権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないとの解釈のもと、結論が導かれたものである。   〔本判決が示唆するもの〕 本件は、遺留分減殺請求により取り戻された財産の性質について真正面から判断を示した事例といえる。原処分庁は、相続財産性は失われないと主張したが、裁判所は、その主張を採用しなかった。 なお、本件では遺言の解釈として相続分の指定を行うものと判断されたが、遺言解釈については、個々のケースにおいて慎重に判断する必要がある。この入口部分の判断が異なると、結論は異なることになるであろう。   〔審理室のコメント〕 (了)

#No. 292(掲載号)
#佐藤 善恵
2018/11/01

海外移住者のための資産管理・処分の税務Q&A 【第8回】「移住後に内国法人から役員報酬を受け取る場合」

海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第8回】 「移住後に内国法人から役員報酬を受け取る場合」   税理士・行政書士 島田 弘大   Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。現在、日本の非上場会社の代表取締役として役員報酬を受け取っていますが、移住後、税務上の非居住者になった後も継続して内国法人から役員報酬を受け取る予定です。 その役員報酬について、移住後の課税関係を教えて下さい。   Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が日本の内国法人の取締役として役員報酬を受け取っており、移住後も引き続き取締役として役員報酬を受領するケースはよく見られる。 【第6回】では移住後に日本の非上場会社から配当を受け取った場合の課税関係を、【第7回】では移住後に非上場会社の株式譲渡を行う場合の課税関係についてそれぞれ検討したが、今回は移住後に内国法人から役員報酬を受け取った場合の課税関係を検討する。   2 非居住者が内国法人である非上場会社から役員報酬を得る場合の課税関係 今回もクロスボーダーの課税関係であるため、【第6回】・【第7回】と同様の流れで検討できる。まずは日本の所得税法(国内法)を確認し、さらに居住地国の所得税法を、最後に日本と居住地国との間の租税条約を確認して、各国での課税関係の結論を導き出すことになる。 なお、検討の流れが分かりやすいように、今回も具体的に移住先がシンガポールであった場合を例にとって説明したい。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 日本の所得税法上、居住者は原則として、日本国内だけでなく国外も含めた全世界所得が課税対象とされるが、非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲 上記①の通り、非居住者は「国内源泉所得」のみが課税対象になるが、平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記の通りである(所法161①~⑰)。 ⑫にあるように、給与等に対する報酬は原則として、日本国内において行う勤務に基因するものが国内源泉所得とされているが、括弧書きにて、役員報酬については「国外において行う勤務も含む」とされている(所法161⑫イ)。 つまり、非居住者が受領する内国法人からの役員報酬はその勤務場所を問わず、国内源泉所得に該当することになる。 ③ 課税方法と税率 上述の通り、内国法人から受領する役員報酬は原則としてその全額が国内源泉所得に該当し、20.42%の税率により源泉徴収する必要がある。源泉分離課税であるため、20.42%の源泉徴収により課税関係は完結し、所得税の確定申告を行う必要はない。 なお、この非居住者が受領する役員報酬に係る源泉徴収20.42%について、「確定申告をすることによって、役員報酬の給与所得と日本の不動産所得(損失)とを相殺して所得税の還付を受け取ることができるか?」という質問をよく受けるが、現行制度において、そのような処理は認められていない。詳細については、【第3回】(事業的規模の不動産所得があり移住前に検討が必要な場合)をご参照いただきたい。 ④ 使用人兼務役員については注意が必要 上記取扱いについて、使用人兼務役員の場合には注意が必要である。例えば、日本本社の取締役が海外支店の支店長として海外赴任する場合である。 上記⑫(所法161⑫イ)を受けた所得税法施行令285条1項1号では、下記の通り規定されている。 したがって、海外支店長という立場で国外において使用人として常時勤務を行う場合に受領する報酬については国内源泉所得から除かれることになるため注意が必要である。 (2) 居住地国(シンガポール)の所得税法 次に、居住地であるシンガポールの所得税法を確認する。 シンガポールの居住者が日本の内国法人から受領する役員報酬について、シンガポールの所得税法上、課税対象には含まれていない。つまり、シンガポール側では受領した役員報酬について課税は生じない。 (3) 日本・シンガポール租税条約 最後に、日本・シンガポール租税条約の規定を確認する。役員報酬については下記の通り規定されている。 つまり、租税条約においても法人の所在地国(この場合は日本の内国法人からの役員報酬であるため、日本)での課税を認めている。つまり、租税条約の規定により取扱いが変わることはなく、日本の所得税法に従って課税できるということになる。 (4) 質問に対する回答 ① 日本側の課税関係 まずは日本の国内法であるが、内国法人からの役員報酬は国外での勤務についても国内源泉所得に含まれ、20.42%の源泉徴収(源泉分離課税)が必要になる。 次に、日本・シンガポール租税条約であるが、租税条約においても日本での課税が認められていることから、そのまま日本の国内法の規定が適用される。つまり、20.42%の源泉徴収(源泉分離課税)が必要である。 ② シンガポール側の課税関係 シンガポールの居住者が日本の内国法人から受領する役員報酬について、シンガポールの所得税法ではそもそも課税されないことになっている。したがって、特にシンガポール側で課税が生じることはない。 (了)

#No. 292(掲載号)
#島田 弘大
2018/11/01

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第3回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第3回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   6 【STEP2】履行義務の識別 収益認識基準等では、契約書単位ではなく、履行義務単位で会計処理(収益を認識)する。 【STEP2】では、契約の中に含まれている履行義務を識別する。 (1) 履行義務の識別 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、以下の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(基準32、33、128)。 (2) 別個の財又はサービス 別個の財又はサービスは履行義務として認識するが、「別個」として識別するための要件がある。 顧客に約束した財又はサービスは、以下の①性質の観点及び②契約の観点の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする(基準34、130、131、適用指針5、6、112)。 (3) 複数の約束が区分して識別できない場合 財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因として、例えば、以下の①から③がある(適用指針6、112、113)。 以下のような場合には、顧客に約束した財又はサービスは1つのもの(1つの履行義務)として結合する。言い換えると、以下の①から③に該当しない場合には、それぞれ別個の財又はサービス(別個の履行義務)として識別する。 (注) ①から③の要因は、相互に排他的なものではなく、複数が該当する可能性がある。 (4) 履行義務の識別(代替的な取扱い等) ① 重要性が乏しい場合 約束した財又はサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができる。言い換えると、重要性が乏しい場合、履行義務として別に認識する必要がないということである。 顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかの判定は、約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮し、契約全体における約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討する(適用指針93)。 ② 契約を履行するための活動 契約を履行するための活動は、当該活動により財又はサービスが顧客に移転する場合を除き、(別個の)履行義務ではない。例えば、サービスを提供する企業が契約管理活動を行う場合、当該活動によりサービスが顧客に移転しないため、当該活動は履行義務ではない(適用指針4)。 ③ 支配獲得後の出荷及び配送活動 顧客が商品又は製品に対する支配(※)獲得後に行う出荷及び配送活動は、当該商品又は製品の移転とは別の履行義務として識別される。しかし、実務におけるコストと便益を比較衡量し、顧客が商品又は製品に対する支配獲得後に行う出荷及び配送活動は、商品又は製品を移転する約束を履行するための活動(上記②参照)とし、履行義務として識別しないことができる(適用指針94、167)。 (5) 履行義務の識別(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)

#No. 292(掲載号)
#西田 友洋
2018/11/01

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《税効果会計》編 【第3回】「繰延税金資産の回収可能性」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《税効果会計》編 【第3回】 (最終回) 「繰延税金資産の回収可能性」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 「中小企業会計指針」においても、繰延税金資産の計上には、上場企業等の場合と同様にその回収可能性について厳格かつ慎重な判断が要求されます。 《税効果会計》編の最終回となる今回は、繰延税金資産の回収可能性が認められなくなったと判断した年度の会計処理をご紹介します。 【設例3】 (1) 当社(3月31日決算、資本金30,000,000円)の×8年3月期(当期)における課税所得は、次のとおりです。 (2) 当期末貸借対照表の未払法人税等残高に含まれている未払事業税は0円です。 (3) ×7年3月末の繰延税金資産は、流動資産(賞与引当金に係るもの)10,880,000円、固定資産(退職給付引当金に係るもの)20,400,000円です。繰延税金負債はありません。 (4) 簡便的に、×8年3月期の実効税率は34%です。 (5) ×8年3月期の法人税等は、簡便的に0円とします。 (6) ×8年3月末時点において、業績回復の目途がたたず、将来減算一時差異や繰越欠損金が、将来の税金負担額を軽減する効果を有するとは見込まれません。 1 仕訳 ×8年3月期の期末における仕訳は、次のとおりです。 (ⅰ) 賞与引当金に係る繰延税金資産 (ⅱ) 退職給付引当金に係る繰延税金資産の取崩 繰延税金資産の計上により利益剰余金が増加し、その増加に対して会社法に配当制限の定めはないことなどにより、中小企業もその回収可能性を厳格かつ慎重に検討することが必要です。 「繰延税金資産の回収可能性がある場合」とは、将来減算一時差異又は税務上の繰越欠損金等が、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれる場合をいいます(中小企業会計指針63)。 具体的には、将来減算一時差異の解消見込年度及びその解消見込年度を基準とした税務上の欠損金の繰戻・繰越期間に、一時差異等加減算前課税所得が十分に生じるものと見込まれる場合、または、含み益のある資産売却等のタックス・プランニングに基づき一時差異等加減算前課税所得が十分に生じるものと見込まれる場合です。 この設例では、業績回復の目途がたたず、将来減算一時差異や繰越欠損金が、将来の税金負担額を軽減する効果を有するとは見込まれないため、繰延税金資産の計上はできなくなったもの(下表⑥)とします。過年度に計上した繰延税金資産についても、将来の税金負担額を軽減する効果を有するとは見込まれなくなったため、当期において繰延税金資産を取り崩します。   2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 ×8年3月期 〈貸借対照表〉 〈損益計算書〉 繰延税金資産の取崩しにより、当期純利益のマイナスに追い討ちをかける結果となりました。   3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の法人税申告書別表四において、法人税等調整額31,280,000円を加算・留保します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 ⑧の計=31,280,000:法人税等調整額 (《税効果会計》編 終了)

#No. 292(掲載号)
#前原 啓二
2018/11/01

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第78回】スルガ銀行株式会社「第三者委員会調査報告書(平成30年9月7日付)」(前編)

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第78回】 スルガ銀行株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成30年9月7日付)」 (前編)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   9月7日、スルガ銀行株式会社(以下「スルガ銀行」と略称する)が公表した第三者委員会調査報告書(公表版)は本文300ページを超える膨大な分量もさることながら、長期にわたり行われてきた不正な融資の実態や不正融資を引き起こした企業風土、行内におけるパワーハラスメントの実態などが詳細に綴られていた。 本稿では、スルガ銀行第三者委員会調査報告書について、まず【前編】として、第三者委員会により認定されたスルガ銀行の不正融資の手口とその発生原因について検証したうえで、次いで【後編】(11月15日公開)として、スルガ銀行取締役・監査役の法的責任、経営責任についての第三者委員会の評価を検証するとともに、調査報告書公表後の事態の推移を見ておきたい。   【第三者調査委員会の概要】   【スルガ銀行株式会社の概要】 スルガ銀行は、1887年4月、岡野喜太郎によって結成された貯蓄組合「共同社」を前身とする地方銀行。2004年10月に、駿河銀行からスルガ銀行へと商号変更。連結経常収益156,278百万円、連結経常利益10,525百万円、従業員数1,907名(数字は、いずれも2018年3月期)。本店所在地は静岡県沼津市。東証1部上場。   【調査報告書の概要(その1)】 1 調査に至る経緯 株式会社スマートデイズ(本店所在地:東京都中央区。旧社名はスマートライフ。以下、旧社名であった時も含めて、「スマートデイズ」と略称する)が運営しているシュアハウスのサブリース料をオーナーに支払えない事態に陥っていることが表面化したのは2018年1月下旬だった。 その後、スマートデイズの物件に関しては、オーナーの購入資金の多くをスルガ銀行が融資していたことが明らかになり、オーナーからスルガ銀行に対する返済停止が発表された。スマートデイズは、4月9日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請、同日、監督命令を受けたことが報じられたが、同月18日になって、民事再生手続きは棄却され、破産手続きへの移行が決まった。 スルガ銀行が、スマートデイズ物件に関して開示を行ったのは、5月15日の「「シェアハウス関連融資問題」に関する経過のご報告と今後の対応について」(以下、「5月15日付リリース」と略称する)が最初であった。この日は、「危機管理委員会による調査結果の要旨」(以下、「危機管理委員会調査」と略称する)と第三者委員会の設置を公表した。 2 5月15日付リリースの内容 スルガ銀行は、リリース冒頭の謝罪に続き、シェアハウス関連融資の全体像として、スマートデイズ物件以外も含めたシェアハウス案件についての融資対象者は1,258名、融資残高は203,587百万円(いずれも2018年3月末時点)であることを開示し、2017年12月に設置した「お客さま対応チーム」により、融資対象者からの問合せや今後のご返済条件の見直しについての相談などを行っており、返済に延滞が生じたとしても法的措置等の対応はとっていないことを明言した。 また、「現時点での問題認識と対応策」として、(1)営業及び審査の体制、(2)コンプライアンス体制、(3)経営管理体制に分けて説明を行い、特に、コンプライアンス体制における問題点として、①自己資金の確認が疎かになっていたこと、②土地売買契約において二重契約があったこと、③フリーローンを「融資の条件」とするセット販売が行われていたことなどを挙げ、「営業成績を重視した結果、目先の成績の追求に走りコンプライアンス意識が低下し、お客さま本位の業務運営が不十分になった」という認識を示した。 最後に、経営責任については、第三者委員会の調査結果及び金融庁の検査結果を待って、厳しい対応をとる所存であることを述べて、リリースを締め括っている。 3 危機管理委員会調査結果の要旨 スルガ銀行危機管理委員会は、危機管理委員会調査の中で、「危機管理委員会の調査スコープ」「問題として指摘した事項(例)」「今回の事態を招いた原因として考えられる事項」について、調査内容を報告している。 最終項の「顧客本位の業務運営(コンダクトリスク)に対する意識の欠如」の中で、危機管理委員会は、次のようなコメントを出している。 融資実行残高至上主義の営業現場と営業優位という状況下で、牽制機能を十分に発揮できていなかった審査部門、コンプライアンス部門、内部監査部門を評して、危機管理委員会は、スルガ銀行では「3つのディフェンスライン」は機能不全状態にあったと断じている。 4 不正行為の概要(第三者委員会調査報告書要旨p.1) 第三者委員会による調査報告書は、9月7日に「第三者委員会の調査報告書の受領と今後の当社の対応について」と題されたリリースに添付された「調査結果要旨」と、同日に「公表版」として開示された調査報告書全文との2つが公表されている。 第三者委員会は、調査報告書要旨で、個別の不正行為等を(1)直接的な偽装行為、(2)偽装以外の不正行為等、(3)不正行為等の温床を醸成する行為の3種類に分類して例示している。 (1) 直接的な偽装行為 (2) 偽装以外の不正行為等 (3) 不正行為等の温床を醸成する行為 5 発生した問題の原因(第三者委員会調査報告書要旨p.4) 第三者委員会は、発生した問題の原因を以下の6つの観点から分析している。もっとも紙幅を割いて分析を行っているのは「審査体制の問題」である。 (1) 審査体制の問題 (2) 営業の問題 第三者委員会は、営業の問題として、「プレッシャー」「効率性志向とチャネルへの依存」「業者の管理の不徹底」「不法行為等の多様化」を挙げたうえで、こうした要素は、いずれもシェアハウスローンに固有のものというわけではなく、収益不動産ローン全般で見られた数々の問題点がシェアハウスにも等しく合致したことが、現在のような事態が生じている原因であると考えられるとまとめている。 (3) 内部監査体制の問題 第三者委員会は、内部監査について、以下のように指摘して、形式的・事務的なチェックリストの確認にとどまったことが、実効的な監査を阻害したと考えられると断じた。 そのうえで、実効的な監査が行われなかった要因を4項目、追加で指摘している。 (4) 統制環境(企業風土) 第三者委員会は、スルガ銀行において極端なコンプライアンス意識の欠如が認められ、統制機構(企業風土)の著しい劣化があったこと、また、人事評価制度にも問題があり、人事異動が恣意的に行われた結果、営業偏重の人事が行われてきたことを指摘している。 (5) ガバナンスの問題 第三者委員会は、取締役会について、①経営者に対するモニタリング、②内部統制システムの構築と監視、③重要な業務執行事項の意思決定の何れの点に関しても、十分な責務を果たしていなかったと指摘するとともに、監査役についても、往査に赴いた際にリスクの端緒を把握しながら適切な調査をしていない点、社外監査役への伝達を怠っている点等、少なからず問題があったと評価している。 (6) 本件の構図-パーソナル・バンクの聖域化とその本質的課題- 第三者委員会は、スルガ銀行では、パーソナル・バンクが業績を1人で背負っていたといっても過言でない状況があり、強度の依存構造があったことから、パーソナル・バンクの発言力が高まり、経営層自らは執行の現場に深入りしてこなかった点を指摘し、営業本部が逸脱行為を繰り返したことの大元の原因は、経営層による意図的と評価されてもやむを得ない断絶と放任・許容にあったとして、本件は、作り出された「限定的な聖域化」、「無責任・営業推進態勢」という経営層に都合のいい態勢の結末であったというべきであると断じている。 (後編に続く)

#No. 292(掲載号)
#米澤 勝
2018/11/01

空き家をめぐる法律問題 【事例8】「共同相続した空き家の管理・費用に関する問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例8】 「共同相続した空き家の管理・費用に関する問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 父の相続が開始してから数年経過していますが、私は、共同相続人の兄弟と遺産分割協議をしていません。というのも、父の相続財産は生前1人で居住していた自宅くらいで、相続税の申告も不要のため、私も兄弟も、相続放棄をする必要も遺産分割をする必要も特に感じていなかったからです。 ただ、築年数も古く、空き家となった父名義の自宅をこのまま放置するわけにもいかず、今後どのように管理していくか悩んでいます。空き家の管理に関する法律上のルールについて、教えてください。   1 はじめに 相続人が複数存在する相続が開始した場合、共同相続人は、被相続人の一身に専属したものを除いて、同人に属した一切の権利義務を承継する。この場合、共同相続人は、相続財産を共有することになるが、この共有の性質は、民法第249条以下に規定する「共有」と同じものと解されている。もっとも、相続財産の共有を解消して個々の相続人の単独所有とするためには、遺産分割協議等を経なければならない。 空き家の相続に関して、共同相続人間で遺産分割協議が行われない場合や、他の相続財産との関係で遺産分割協議が紛糾している場合では、空き家の共有状態が長期間にわたって継続するため、その管理の方法等が問題となる。 そこで今回は、共同相続が生じた場合の空き家の管理に関する法的問題を取り上げることとしたい。   2 相続財産の管理について 共有されている相続財産の管理方法について、民法の相続編に特別の規定はない。そのため相続財産の管理は、民法第251条及び同法第252条に基づいて行われることとなる。 (1) 保存行為 共有物の保存行為は、単に現状を維持する行為を意味し、各共有者が単独で行うことができる(民法第252条ただし書)。例えば、空き家が老朽化して危険な状態になっている場合に行う修繕行為や、空き家に不法に侵入している者に対して明渡し等を求めるなどの行為がこれに当たる。 このような保存行為は、本連載の【事例1】から【事例4】で見たような法的責任や不利益を回避する意味で、重要である。 なお、共同相続人の1人が単独で相続登記の申請を行うことができるのは、当該行為が保存行為に当たると解されているからである(東京高判昭和35年9月27日下民11巻9号1993頁など)。 (2) 管理行為 共有物の管理行為は、共有物の変更にならない程度に共有物を利用し、改良するなどしてその価値を高めることをいうところ、共有者は、持分価格の過半数で管理行為を決する必要がある(頭数の割合ではないことに留意。民法第252条本文)。例えば、建物の短期(3年以下)賃貸借の締結(民法第602条)や賃貸借契約の解除が管理行為に当たると解されている。 なお、ここでいう「持分」は、相続の場合、法定相続分又は指定相続分の割合を意味する。 では、近年、空き家の管理を代行する事業者が増加しているが、空き家の管理を事業者に委託する行為は管理行為に当たるのだろうか。 この点、相続財産の管理委託が管理に関する事項であることから管理行為と見る余地もある。しかしながら、本来、相続財産は、遺産分割の終了までの間、共同相続人の共同管理に服するものであり、少数派の相続人の管理権を尊重する必要もあることから、管理人を選任すること自体は、処分行為に準じて全員の同意が必要と考えるべきであろう(共同相続人の中から遺産管理人を選任する場合に、全員の同意が必要と判断した裁判例として、東京地判昭和47年12月22日判例時報708号59頁がある)。 (3) 変更行為 共有物を物理的に変更することや法律的に処分する行為は、全員の同意が必要となる(民法第251条)。例えば、空き家の解体、大規模な修繕、長期の賃貸借契約(上記(2)の短期賃貸借以外のもの)を締結するような行為がこれに当たる。 ところで、近時、空家等対策の推進に関する特別措置法第14条に基づく除却命令や代執行が話題となっているが、空き家の相続人が多数にのぼり、一部の相続人の所在を特定できないと、除却命令を発令することが困難となる。このような場合、行政機関によっては、同条第10項に基づく略式代執行が行われ、その後、共有者として把握されている相続人の一部に対して代執行費用に係る求償請求が行われる可能性があるので、留意が必要である。 なお、特定の相続人が全員同意を得ることなく解体を行ったことによって、他の相続人に損害が生じた場合、損害賠償請求の対象となりうる。   3 相続財産の管理費用の清算方法について 相続財産の管理費用(固定資産税、水道光熱費等)は、原則として、相続財産の中から支出される(民法第885条)。しかしながら、相続財産の中に管理費用に充てられるだけのものがない場合も少なからずある。このような場合は、原則に戻って、共同相続人の法定相続分又は指定相続分の割合に基づいて、各自がそれぞれ負担することとなる(民法第253条)。 もっとも、特定の相続人が、被相続人の死亡後、空き家を自分用の倉庫代わりに利用しているような場合には、空き家の管理費用を他の相続人にも負担させることが相続人間の公平性を欠くこともありうる。このような場合には、空き家を利用している相続人が空き家の使用利益を得ているものと見て、管理費用も負担させるべきであろう。 なお、遺産分割協議や遺産分割調停・審判において、空き家の管理費用の清算が問題になることがある。というのも、原則論としては、相続財産の管理費用は、相続開始後に生じたものであるため、遺産分割の対象にならないからである。 この点、遺産分割協議や遺産分割調停のように、当事者間の合意をベースにしている手続については、相続財産の管理費用も遺産分割の内容に含めることは可能である。 これに対して、遺産分割審判の場合、原則に戻って、相続財産の管理費用の清算は行われないものとされている(もっとも、当事者の合意があれば、審判で清算することも可能とする見解もある)。   4 対応方法 本件の場合、共同相続人間では遺産分割協議が行われていないため、空き家は共有状態のままである。空き家の遺産分割を行うことが好ましいが、管理不足による不利益を回避するため、当面の対応として、共同相続人の間で、空き家の管理方法を協議するべきである。 また、共同相続人が被相続人の自宅から遠方に居住しているような場合には、特定の共同相続人が管理をすることは過重な負担となることもあるため、全員同意の上で、第三者の専門業者等に管理を委託することも検討されてよいと思われる。ただし、管理事業者に委託した範囲以外の管理権限は共同相続人にあり、自ら対応する必要が生ずる場合があるため留意されたい。 (了)

#No. 292(掲載号)
#羽柴 研吾
2018/11/01
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