《速報解説》 会計士協会、「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」を公表 ~会計上の論点に加えスキーム別の会計処理にも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年5月27日、日本公認会計士協会は、「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(会計制度委員会研究報告第15号)を公表した。これにより、2018年12月14日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、インセンティブ報酬の会計上の取扱いについて研究したものである。 なお、公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告の概要 研究報告は、目次を含めて104ページに及ぶものであり、以下では、主な内容について解説する。 1 インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論) インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論)として、次のことが記載されている。 「② 費用計上額の測定日(事後的な時価の見直しの要否)」に関しては、費用計上額に焦点を当てて考えたときの時価測定の時点は、付与日(契約締結日)ということになり、また、発行されるオプション又は株式に焦点を当てて考えてみたときにおいても、時価測定の時点は、付与日(契約締結日)ということになると記載している(18ページ)。 2 インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点(各論) インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点(各論)として、次のことが記載されている。 3 株価連動型金銭報酬 「⑥ 株価連動型金銭報酬における取扱い」に関して、株価連動型金銭報酬とは、株式の発行や自己株式の処分は伴わず、金銭(現金)によって役員等に給付される報酬であるものの、当該報酬の額が自社ないし親会社等の株価に連動して決定されるような報酬をいい、我が国の会計基準等において、株価連動型金銭報酬の会計処理は特に定められておらず、会計上の定義についても明文の定めはないと記載されている(52ページ)。 一般的に、株価連動型金銭報酬に区分される報酬制度としては、仮想的に株式を交付するか否かによって、次の2つに区分されるとのことである(52ページ)。 4 時価発行新株予約権信託 公開草案では記載されていた、「Ⅴ インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点(各論)」「9.信託を用いるスキームにおける取扱い」「(3) 時価発行新株予約権信託」については削除されている(コメント対応No.1、2)。 5 強制行使条項 強制行使条項とは、一定の条件を満たした場合、新株予約権等を強制的に行使させる条項であり、株価の一定値までの下落を条件とする条項が一般的である(51ページ)。 この場合、新株予約権等の引受側が損失を被らないよう、強制行使条項が発効する際に当初条件から行使価格の切下げが行われる場合もあれば、行使価格が変わらずに権利行使の際に損失が生じる場合もある。 強制行使条項は、株価に連動した条項ではあるものの、業績条件(株価条件)に該当するかどうかは判然としないとのことである(51ページ)。 このように、会計基準上の取扱いは明示されておらず、実務上は、強制行使条項が付された経緯なども勘案することが考えられるが、当該会計処理について会計基準等において明確化されることが望まれるとのことである(51ページ。コメント対応No.19、20も参照)。 6 インセンティブ報酬のスキーム別の会計処理上の論点 インセンティブ報酬のスキーム別の会計処理上の論点として、次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 新たな会計基準開発を提言した 「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年5月27日、日本公認会計士協会は、「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」(会計制度委員会研究報告第16号)を公表した。これにより、2018年12月14日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 我が国には、偶発事象に関する会計基準は存在せず、偶発債務等の注記は規定されているが、偶発事象(偶発損失及び偶発利益)の定義や会計上の取扱いに関するルールが定められていないとのことである。 研究報告は、企業活動の複雑化に伴い、企業が責任や損失負担を求められる可能性が増加している現状を踏まえ、偶発事象に関する会計上の取扱いの考察や偶発事象の開示又は認識時点の適時性に関する検討を行ったものである。 なお、公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告の概要 研究報告は、目次を含めて40ページに及ぶものであり、以下では、主な内容について解説する。 1 偶発事象の定義 偶発事象について、現行の日本基準では特に定義はないとのことである。 日本公認会計士協会が過去に公表していた監査基準委員会報告書第2号(中間報告)「特記事項」(1992年(平成4年)11月11日公表、2003年(平成15年)2月18日廃止)の偶発事象の定義や、「監査マニュアル」(監査第一委員会研究報告第1号)の「4090偶発債務に関する監査手続書」を用いて検討している。 すでに廃止された監査基準委員会報告書第2号(中間報告)「特記事項」では、偶発事象を次のように定義していた。 なお、IFRSのIAS 第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」では引当金、偶発負債及び偶発資産についての定義は定められているものの、偶発事象の定義は定められていないとのことである(4ページ)。 2 日本公認会計士協会の提言 日本公認会計士協会として、偶発債務の我が国の会計上の取扱いについて、次の取扱いを検討すべきではないかと考えるとのことである(22ページ)。 我が国においては存在していない偶発事象全般に関する会計基準を新たに開発することを検討することが望ましいと考えられるとのことである(30ページ)。 (了)
《速報解説》 国税庁HPで令和対応の「税務代理権限証書」様式がアップされる ~令和元年5月1日以降提出分から新様式を使用~ Profession Journal編集部 5月1日から新元号「令和」が始まり、既報の通り改正省令によって税務関係の申告書等様式も改められることになったが、このほど国税庁ホームページ上において、新元号に対応した「税務代理権限証書」の様式がアップされた(PDFファイルで入手可能)。 改訂された新様式では、提出日付における令和の記載に加え、「1 税務代理の対象に関する事項」として各税目の「年分等」を記載する欄が「平成」と「令和」を選択する形になっている。 冒頭紹介の改正省令附則や国税庁HP「新元号に関するお知らせ」では当面の間、旧様式を使用しても有効なものとして取り扱うとしているが、原則として令和元年5月1日以降に提出する場合はこの新たな様式を使用することとされているため、日本税理士会連合会もホームページ上で周知を図っている。 3月決算法人の法人税申告期限が近づいているところだが、留意しておきたい。 (了)
2019年5月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.319を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第67回】 「政府税調専門家会合で検討進む「連結納税制度の見直し案」」 ~第3回会合資料(2019.4.18)から~ 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇連結納税制度に関する第3回専門家会合 4月18日に、政府税制調査会の連結納税制度に関する専門家会合(第3回)が開かれた。第3回会合では、2月に開かれた前回(第2回会合)資料で「次回以降の検討項目(案)」(【連2-4】14ページ)として掲げられた3点のうち、 の2点について検討が行われた。 残された課題である「連結固有のグループ調整計算の要否」については、次回(第4回会合)で検討される予定である。なお、すでに第3回会合の資料(【連3-2】17ページ)では、「グループ調整計算の見直しに当たっての基準」として次の事項が提示されている。 連結納税制度を採用している企業グループにおいては、研究開発税制や外国税額控除など、グループ計算のメリットが重視されており、これらの取扱いが注目される。 〇連結親法人の連結開始前欠損金 現行の連結納税制度のもとでは、連結開始前の連結親法人の欠損金は、連結欠損金とみなされて、連結納税制度適用後は、連結グループ全体の損益通算の対象となる。 しかし、今回提示された方向は、連結親法人の連結開始前欠損金は、特定連結子法人の欠損金と同様、当該連結法人の個別所得金額の範囲内で損金算入を認めるというものになっている。その理由として、次の事項が指摘されている(【連3-2】10ページ)。 〇連結子法人の連結開始・加入前の欠損金、時価評価 一方、連結子法人の連結開始・加入前の欠損金や時価評価に関しては、組織再編税制との整合性を踏まえ、また、欠損金の利用を主目的とした恣意的な税負担の調整が行われないよう必要な措置を講ずる観点から、欠損金の切捨て・時価評価課税の対象を縮小するとともに、組織再編税制と同様に、含み損益の利用制限を適用するカテゴリーを設けることが提案されている。 現行の連結納税制度のもとでは、特定連結子法人に該当しない限り時価評価課税の対象となるが、今回の提案を見ると、連結納税開始の場合には、開始時において連結親法人との間で完全支配関係があり、かつ、完全支配関係が継続することが見込まれていれば、時価評価課税を免れることとなると考えられる。 また連結納税グループへの加入に際しても、一定の要件(完全支配関係継続、従業者継続、事業継続等)を充足すれば、金銭買収による加入であっても時価評価課税の対象から外れることとなる。また、加入の場合、特定連結子法人の1つとして、適格合併・適格株式交換等に係る被合併法人等の5年超保有連結子法人(いわゆる連れ子)があるが、今回の提案では「5年超保有」が求められなくなる(【連3-2】13ページ)。 ただし、時価評価課税の対象とならない場合であっても、支配関係が5年以内であり、かつ、共同事業性がない場合にあっては、開始・加入前の欠損金の切捨てとともに、開始・加入前の含み損益の利用制限が適用されることに注意しなければならない。 (了)
これからの国際税務 【第13回】 「無形資産についての移転価格課税」 -平成31年度税制改正- 21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二 1 改正の背景 BEPS最終報告書の中で最も時間をかけて検討されたテーマの1つが、無形資産についての移転価格課税である。 グローバルに大規模展開するデジタル企業に典型的にみられるように、高度のR&D投資により取得された無形資産は、グループに巨大な超過収益をもたらす一方、従来の移転価格課税手法では的確な課税が困難といわれてきた。 BEPSプロジェクトはこれに対し、①比較対象取引が特定できない場合に予測キャッシュフロー等の評価技術を追加、②一定の評価困難な無形資産取引に対し、価格算定の基礎となる予測と実際が乖離した場合の税務当局による是正権限の付与、を勧告した。 我が国の平成31年度税制改正は、これらを反映したものである。 2 改正内容 (1) ディスカウント・キャッシュフロー法の採用 多国籍企業のM&A対価算定に際して普及しているディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法を独立企業間価格の算定方法として追加した(措法令39条の12第8項)。これにより、伝統的な基本三法、取引単位営業利益法及び利益分割法の5方式の下では対応が困難であった無形資産取引の独立企業間価格について、確実なバックアップとなる算定方法がそろったと評価される。 ただし、この手法の下では、将来事業計画の見透しと合理的と認められる割引率の採用などについて実施上のガイダンスが必要とされ、国税庁の対応が待たれる。 (2) 特定無形資産についての所得相応性基準の採用 DCF法の追加に伴い、そのもとで当初の見透しの前提となった事項と異なる事実が事後的に判明した場合に税務署長に更正権限を与える「特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置」も新設された(措法66条の4第8~11項)。 これは、納税者と課税当局間にある無形資産に係る情報の非対称性に鑑み、米国移転価格税制が先行採用してきた「所得相応性基準」と呼ばれる結果に基づく価格調整措置に相当するものである。なお、本制度の前提として、移転価格税制上の無形資産とは、「有形資産及び金融資産を除く特許権、実用新案権等の資産で譲渡・貸付けに際し対価が支払われるべきもの」と定義されている。 本制度の適用に際してポイントとなるのは、①対象となる「特定無形資産」の範囲と、②価格調整措置の「適用免除要件」の2点である。 ①については、固有の特性を持つ高付加価値創出の無形資産で、DCF法により独立企業間価格が算定されたが、その算定のための前提事項に著しく不確実な要素を持っていたもの、とされている。要は、情報の非対称性がもたらす課税当局にとって高リスクの取引に適用を限定する趣旨である。 また、②については、「発生可能性勘案要件」と「利益相違要件」の2つの適用除外要件が規定された。 前者は前提となる事項について相違が発生したが、それが災害その他これに類するものであって納税者において取引時に発生の予測が困難であるか、または、発生の可能性を適切に勘案して対価算定を行っていたことを証する書類が提出された場合とされている。 後者については、収入が計上された最初の5年間において予測利益と実際利益の差が累計で20%以内にとどまっていることを証する書類を提出すれば、5年経過後に価格調整措置は発動されることはないとするもので、いわゆる“セーフハーバー”と呼ばれる閾値である。 所得相応性基準について、従来のOECD移転価格ガイドライン(第9章)においては、後知恵に基づく更正としてその適用には慎重なスタンスがとられてきたが、BEPSにより発動のメカニズムについての検討・合意が進んだことを受け、各国でも我が国同様、国内法化が促進されるものと推測される。 ただし、導入済みの米国においてもその事後的な発動数は多くはないとされており、その背景には、納税者が上記の文書化等により事前確認(APA)を通じた独立企業間価格の事前確定をするなどの方向で、評価困難な無形資産に関する税務に取り組んでいる実態がうかがわれる。 我が国納税者がAPAでの合意あるいは調査による事後的な適用除外基準の主張をするにあたって、特に発生可能性勘案要件に関して文書化による適切な証明責任を果たすためには、当局発出の実務ガイダンスが必要であると考えられ、それにより今後の実務事例が集積されれば、立証責任の相場観が確立していくものと期待される。 (3) その他 長期的な見透しを根拠としたDCF法の採用への対応も勘案して、更正の請求、更正・決定の各期間及び徴収権の消滅時効について、従来6年とされていたものが7年に延長された。また、比較対象取引に係る差異の調整方法として、統計的手法に基づく方法(4分位法)の採用も認められている。 ◆ ◆ ◆ なお、以上の改正内容は施行準備の必要性を勘案し、令和2年4月1日以降開始の事業年度分の法人税から適用されることとされた。 (了)
相続税の実務問答 【第35回】 「相続人以外の者が相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の納税義務者は、相続又は遺贈により被相続人の財産を取得した個人とされています。ご質問の場合、あなたが、従兄の乙さんから相続分の贈与を受け、伯母様の遺産を手にすることになったとしても、伯母様の財産を相続又は遺贈により取得することとなるわけではありませんので、相続税の申告をする必要はありません。 ただし、あなたが乙さんから相続分の贈与を受けた場合に、あなたが取得することとなる伯母様の財産は、乙さんから贈与を受けたものとなりますので、贈与税の申告が必要となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続人以外の者が相続分を譲り受けた場合の相続税の申告 相続人は、共同相続人間で遺産分割が調う前に自分の相続分の全部又は一部を他の共同相続人又は共同相続人以外の者に有償又は無償で譲渡することができます。 相続人が、自分の相続分の全部を共同相続人以外の者に贈与した場合、その相続人は、いったん自分の相続分の割合に応じて遺産を相続し、その全部を相続人以外の者に贈与(無償譲渡)したと考えられますから、その相続人が相続税の納税義務者であり、相続人から相続分を譲り受けた相続人以外の者は、相続分の譲渡を受けたことによって相続税の納税義務者となることはありません(前回参照)。 したがって、相続人から相続分の譲渡を受けた相続人以外の者は、相続税の申告をする必要はありません。 2 相続分を譲り受けた者に対する課税 相続人以外の者が相続人から相続分の譲渡を受け、その後、遺産分割の手続きを経て、相続財産を取得することとなった場合、直接、被相続人からその相続財産を取得するのではなく、相続分の譲渡をした相続人を経由して取得することとなります。 相続分の譲受けが無償で行われた場合には、当該財産をその相続分の譲渡をした相続人から贈与により取得したと解されます。したがって、相続分の贈与を受けた者(相続分を無償で譲り受けた者)には贈与税が課税されることとなります。 (注1) 相続分を有償で譲り受けた場合であっても、その対価の額が譲り受けた相続分の価額に比して著しく低い価額の対価である場合には、当該対価の額と相続分に対応する財産の時価との差額に相当する金額の利益を受けたこととなりますので、相続税法第7条の規定により贈与税が課されることとなると考えられます。 3 相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税価格の計算等 (1) 贈与税の課税価格の計算 相続分の贈与を受けた日を含む年の贈与税の申告書の提出期限までに、遺産分割がされ、相続分の贈与を受けた者が取得する財産が具体的に確定している場合には、当該財産の価額を贈与税の課税価格に算入することとなると考えられます。この場合、財産の価額は、相続開始時の価額ではなく、相続分の贈与を受けた時の価額となります。 しかしながら、贈与税の申告書の提出期限までに、遺産分割がされなかった場合には、被相続人の財産の価額(債務がある場合には債務を控除した後の価額)のうち贈与を受けた相続分に対応する部分の価額を贈与税の課税価格に算入することとなると考えられます。この場合においても財産の価額は、相続開始時の価額ではなく、相続分の贈与を受けた時の価額となります。 (2) 申告後に遺産分割がされた場合 遺産分割がされていない状況で相続税の申告を行った後、遺産分割が行われ、相続分の贈与を受けた者が取得する財産が確定した場合には、当該財産の価額をもって贈与税の課税価格を計算することが相当であると考えられます。 したがって、遺産分割により実際に取得することとなった財産の価額を基に贈与税の計算をした結果、申告書に記載した贈与税額に不足を生じることとなった場合には、修正申告を行うこととなる一方、申告書に記載した税額が過大となった場合には、国税通則法第23条第1項の更正の請求を行うことができるものと思われます。 (注2) 相続分の贈与を受けた場合の贈与税の課税価格の計算方法等に関しては、課税当局の公式の見解が示されていません。今後、本稿とは異なる見解が示されることもあり得ますのでご注意ください。 4 ご質問の場合 あなたは、従兄の乙さんから相続分の贈与を受け、伯母様の遺産を手にすることになったとしても、伯母様の遺産を、直接、相続又は遺贈により取得することとなるわけではありませんので、相続税の申告をする必要はありません。 ただし、乙さんの相続分の贈与を受けた場合には、あなたが取得することとなる伯母様の財産は、乙さんから贈与を受けた財産ということになりますので、あなたは贈与税の申告をしなければなりません。なお、贈与税を計算する場合の財産の価額は、伯母様の相続開始時の価額ではなく、あなたが相続分の贈与を受けた時の価額によることとなります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第2回】 「『実質的な退職』の判断」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 退職給与は、その人の過去の勤労に対する対価であったり、それまでの功労に報いるためのものであったりと、その性格は多岐にわたり、画一的な理解は困難であると一般に説明されている。 法人税法上においては、過大とされた役員退職給与は損金として認められないが、これに該当しない役員退職給与は損金算入が認められる。一般に役員退職給与は功績倍率法に基づいて支給されるケースが多いが、功績倍率法による役員退職給与は法基通9-2-27の2にて、法法34の役員給与の損金不算入の規定から除かれることが示されている。 そして、実際に退職を伴わない場合でも、例外的に分掌変更等が行われたことにより役員退職給与を支給することが可能である。すなわち、法基通9-2-32にて、役員の分掌変更等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものであれば、これを退職給与として取り扱うことができると示されている。 その具体的な判断の例示として、 という内容が示されている。 問題は、形式的にこれらのいずれかの要件を満たせば直ちに損金算入が可能、というわけではない点にある。 例えば東京地裁平成20年6月27日判決(※1)では、「役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要がある(下線部筆者)」と示しており、他の裁判例を俯瞰してもその役員の勤務実態等、実情を重視した判断がなされている傾向が見受けられる。 (※1) 判例タイムズ1292号161頁。 したがって、上記通達を形式的に満たすこと、例えば非常勤取締役となり、かつ、給与を50%以上減額しさえすれば、当該退職給与の損金算入が必ず認められるというわけではない。 この実質判断は、最高裁平成19年3月13日判決(地裁:京都地裁平成18年2月10日判決、高裁:大阪高裁平成18年10月25日判決)においても示されており(※2)、上記通達の①~③までの「いずれかに当たる事実がありさえすれば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨と解することはできない。」とした。 (※2) 地裁:税務訴訟資料256号順号10309、高裁;税務訴訟資料256号順号10553、最高裁:税務訴訟資料257号順号10652。 この最高裁判決は、上記通達のうち③の括弧書き「分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」というくだりが付け加えられる通達改正の契機ともなり、それまで実務上浸透していた「単に代表権を外し、役員報酬を半額以下にすれば退職給与を支給(損金算入)できる」という認識に対し、釘を刺す形となった。 役員退職給与は、単純な分掌変更を理由として支給される場合の他、法人税等の節税や株式価値の圧縮手段として活用されるケースも多々あるだろう。特に事業承継の場面では、後継者が経営を担う自信を未だ持つことができていない等を理由に、退職給与の支給を受けた役員が事実上留まることも想定される。このようなケースにおいて、給与を3分の1程度に減額して形式を整えてはいたが、稟議書の「相談役」欄に捺印し、金融機関等との折衝を担っていた等を理由として、役員としての地位又は職務内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められないとされた事例もある(東京地裁平成29年1月12日判決、東京高裁平成29年7月12日判決(※3))。 (※3) 判例集等未搭載、地裁:TAINS Z888-2115、高裁:TAINS Z888-2128。 したがって、実際に役員退職給与を支給する場合、対象となる役員について、取引先や金融機関との折衝、経営参画や部下への助言指導を行うなどの行為は控え、支給される者は経営から決別する心構えで支給を受けるべきであると考える。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第4回】 「無対価適格組織再編成」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は無対価組織再編成とはどのようなものか、また、無対価組織再編成が適格組織再編成になるケースについて解説します。 1 無対価組織再編成の概要 無対価組織再編成とは、対価が交付されない組織再編成のことをいいます。従来から下図のように、親法人が子法人を合併する場合や100%兄弟会社が合併する場合などにおいて、対価の交付を省略するケースが実務的に存在していましたが、税務上の取扱いが明確ではなかったため、平成22年度税制改正により適格組織再編成に該当する資本関係が見直され、無対価適格組織再編成の課税上の取扱いが整備されました。 (親法人が子法人を合併する場合) (100%兄弟会社が合併する場合) 平成22年度税制改正の概要としては、対価の交付がなかった場合についても対価の交付の省略があったと認められる場合、つまり、対価の交付をしなくても、組織再編成の前後で株主構成や資本関係が同じものについては、税務上も対価の交付があった場合と同様の取扱いをすることとなりました。 無対価適格組織再編成に該当するかどうかを検討する場合には、適格組織再編成となる資本関係が限定されている点に留意が必要です。 上図のような合併については、対価を交付してもしなくても組織再編成後の株主構成や資本関係が同じになるため、適格合併があった場合と同じように処理します。 2 無対価組織再編成が適格組織再編成になるケース 合併を無対価組織再編成で行った場合に、適格組織再編成になるケースは下記の通りです。 平成30年度税制改正により適格組織再編成になる無対価組織再編成の類型が追加されたので、下記では、改正前の類型と改正後の類型の両方を記載しています(以後の図は財務省資料を一部加工して作成しています)。 平成30年度税制改正前 ① 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、合併法人が被合併法人の発行済株式を100%保有している親子関係をいいます。 (※) 資産取得法人を「合併法人」、資産移転法人を「被合併法人」といいます(以下同じ)。 ② 一の者が被合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、株主(一の者)が被合併法人と合併法人の発行済株式を100%保有している兄弟会社間の関係をいいます。 ③ 合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、合併法人と株主(合併法人の発行済株式等の全部を保有する者)で被合併法人の発行済株式を100%保有する関係をいいます。 ④ 被合併法人及び被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係 下図のように、被合併法人と株主(被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者)で合併法人の発行済株式を100%保有する関係をいいます。 平成30年度税制改正 平成30年度税制改正では、株主構成が等しい法人間の無対価組織再編成についても、適格組織再編成の対象となりました。条文上は、株主構成が等しい関係と上記②から④を合わせて1つの類型としています。 ⑤ 〈追加された類型〉株主の全てが、その保有する被合併法人の株式の数の発行済株式等のうちに占める割合と合併法人の株式の数の発行済株式等のうちに占める割合とが等しい関係 具体例としては下図のように、株主Xの被合併法人株式の保有割合と合併法人の保有割合が同一割合(いずれも40%)であり、株主Yの被合併法人株式の保有割合と合併法人の保有割合が同一割合(いずれも60%)である、したがって、株主の全てが同一割合という要件を満たす関係(株主構成が等しい法人間の関係)をいいます。 ➤ 〈上記②から④〉 上記③と④については、合併法人間の保有株式を除くことで、株主が有する被合併法人及び合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合が等しくなり、上記②と同様になります。 下図のように、被合併法人が保有する合併法人株式の40%を除いて判定することで、株主が被合併法人株式と合併法人株式の全てを保有していると読み替えて、上記の②と同じ形になったものとします。 平成30年度税制改正後に無対価合併が適格組織再編成に該当するためには、下記(1)(2)のような関係が必要とされています(法令4の3②)。 改正後の条文は複数の類型(上記②~⑤)を1つの条文で表しており、とても複雑になっていますが、重要なポイントは、括弧書きにある合併法人、被合併法人相互で保有するものを除いて判定することで、株主構成が等しい法人間の関係になるかどうかを判定する、ということです。 3 無対価組織再編成が適格組織再編成に該当しないケース 合併を無対価組織再編成で行った場合に、適格組織再編成とならないケースは下記の通りです。下記のケースはいずれも対価の交付の省略があったとは認められず、上記(1)(2)の関係に該当しないことから、適格組織再編成にはなりません。 上記の合併はいずれも、対価の交付をしなくても、組織再編成の前後で株主構成や資本関係が同じものとはならず、対価の交付の有無で資本関係が変わってくるため、省略することはできません。 4 株主が個人の場合の適格判定 〔事例〕 X社を合併法人、Y社を被合併法人とする合併を行い、X社は個人Aによる完全支配関係があり、Y社は個人A、個人B(Aの父)及び個人C(Aの妻)による完全支配関係があります。Y社の株主(個人A、個人B及び個人C)に対して対価を交付しない無対価合併の手法により行うこととします。 〔適格判定〕 株主が個人の場合には、その個人の保有する株式だけでなく、特殊の関係のある個人(親族等)が保有する株式を含めて、完全支配関係があるかどうかを判定します(法令4の2②)。 このため、X社とY社には完全支配関係がありますが、上記(2)の関係に該当するかどうかの判定における「株主等」は、株主又は合名会社、合資会社若しくは合同会社の社員、その他法人の出資者をいう(法法2十四)と規定されており、株主等と特殊の関係のある個人(親族等)の保有する株式を株主等が保有しているものとして判定することとはされていません。 したがって、このようなケースは、上記(1)(2)のいずれの関係にも該当しないことから、無対価適格合併には該当しません(国税庁質疑応答事例「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」参照)。 ◆無対価適格組織再編成のポイント◆ 無対価適格組織再編成となる資本関係は限定されています。 平成30年度税制改正により、適格組織再編成となる類型が追加されています。 「株主等」には特殊の関係のある個人(親族等)を含めないで判定するため、株主が個人の場合には、無対価の組織再編成が非適格となるケースがあるため、留意が必要です。 (参考) (了)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第6回】 「不動産鑑定評価について(その4)」 -鑑定評価の基本的手法②- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第4回目となる今回は、鑑定評価の基本的手法について、前回でご紹介した原価法及び取引事例比較法に続いて、収益還元法及び開発法について確認してみることにします。 解決への指針 不動産の価格を求める不動産鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別されます。また、これらの手法以外に、これらの三手法の考え方を活用した開発法があります。 これらの手法について、それぞれの意義及び適用方法を土地の価格を求める鑑定評価を前提としてまとめると、次のとおりとなります。なお、原価法及び取引事例比較法については既に、前回でご紹介済みです。 (3) 収益還元法 ① 意義 収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法です。(この手法による試算価格を「収益価格」といいます。) 収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効です。 また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものとされていることから、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり、自用の住宅地といえども賃貸を想定することにより適用されるべきものであるとされています。 なお、市場における土地の取引価格の上昇が著しいときは、その価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきであるとされています。 ② 適用上の留意点 (イ) 収益価格を求める方法 収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」といいます。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格をその発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(以下「DCF法」といいます。)があります。これらの方法は、基本的には、次の式により表されます。 ㋑ 直接還元法 ㋺ DCF法 (注) 復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の算式により表される。 (ロ) 純収益について ㋑ 純収益の意義 純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除きます。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除きます。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいいます。 ㋺ 純収益の算定 対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとされています。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要があります。 なお、直接還元法による純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならないものとされています。 純収益の算定に当たっては、対象不動産からの純収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきであるとされています。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければなりません。特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要であるとされています。 なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産若しくは同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要であるとされています。 (ハ) 還元利回り及び割引率について ㋑ 還元利回り及び割引率の意義 還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものですが、基本的には次のような違いがあります。 還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一定期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものです。 割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものです。 ㋺ 還元利回り及び割引率の算定 還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならないものとされています。 さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要であるとされています。 (ニ) 直接還元法及びDCF法の適用のあり方 直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要であるとされています。 (4) 開発法 更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法(建物等の価格を収益還元法以外の手法によって求めることができる場合に、敷地と建物等からなる不動産について敷地に帰属する純収益から敷地の収益価格を求める方法)による収益価格を関連づけて決定するものとされています。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきであるとされています。当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとされています。(この手法を「開発法」といいます。) (イ) いわゆる「マンション開発法」 一体利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格 (ロ) いわゆる「戸建開発法」 分割利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格 (了)