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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第5回】「毎年同額の金額を贈与する際の注意点」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第5回】 「毎年同額の金額を贈与する際の注意点」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私は不動産賃貸業を営んでいます。将来は子供に私の事業と資産を引き継いでいくつもりですが、まだ子供は大学生なので、事業に関与させることはできません。そこで、まずは相続対策として、毎年1,000万円ずつ子供に贈与していこうと考えています。 ところが、このような贈与を行った場合、何年後かに、「もともと決まっていた贈与(1,000万円×贈与年数)を1,000万円ずつ分割して支給しただけだ」と税務署から指摘され、多額の贈与税が課税されるリスクがある、と知人から聞きました。 そのようなリスクはあるのでしょうか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 贈与税率 毎年の贈与による財産の移転は、長期的には大きな効果を得ることができるので、事業承継・相続対策において有効な手段の1つとされています。 税制面でいうと、直系尊属からの贈与で、受贈者(贈与を受ける者)が贈与の年の1月1日で20歳以上(令和4年(2022年)4月1日以後は18歳以上)の場合には、以下のように税率も優遇されています(特例贈与、措法70の2の5)。 〈贈与税の速算表〉   [2] 贈与時の注意点 贈与において一般的に考えられる税務上のリスクは、以下の2点です。 そもそも税法には「贈与」という行為が明文化されていないので、その定義は民法から借用することになります。民法549条には と規定されています。つまり、実際の贈与の際、民法の規定通りに双方が合意していれば、上記①②のような税務上のリスクとなることはありません。 ただし、事業承継・相続対策においては、贈与する側が税理士等の専門家と相談するなど様々なケースを想定したうえで「贈与」という選択を行いますが、贈与を受ける側の意思(相手方の受諾)というものが軽視される傾向があるため、ここに税務上のリスクが生ずることになります。 したがって、ご相談の場合、贈与の都度、「お互いが合意した」という証拠を対外的に説明できる状態で残しておけば、後々、税務上の問題となることはありませんので、実務上は以下の点を注意すればよいでしょう。 類似する事例が国税庁のHPに掲載されていますので、参考にしてください。 なお、実際の贈与の際には、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 318(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/05/16

金融・投資商品の税務Q&A 【Q45】「非上場の外国籍会社型投資法人が公募発行する投資証券の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q45】 「非上場の外国籍会社型投資法人が公募発行する投資証券の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 「上場株式等」vs「一般株式等」 日本の税務上、株式等が「上場株式等」に該当するか「一般株式等」に該当するかで、株主に対する課税上の取扱いが異なります。 「上場株式等」とは、租税特別措置法第37条の11に列挙されているものをいいます。株式等(株式・出資、投資信託を含む)に関しては、主に以下のものが上場株式等として取り扱われます。 ①は、日本の金融商品取引所に上場されている株式等又は海外の金融商品取引所において売買されている株式等となります。 ②は、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」)第2条第3項に規定する投資信託(いわゆる日本の投資信託)及び投信法第2条第24項に規定する外国投資信託のうち、公募発行のものをいいます。 ③の「特定投資法人」とは、その規約に投信法第2条第16項に規定する投資主の請求により投資口の払戻しをする旨が定められており、かつ、その設立の際の投資口の募集が公募により行われた投資法人をいいます。すなわち、日本の投信法に基づき設立された投資法人の投資口のうちオープンエンド型のものをいいます。   2 本件へのあてはめ 本件の外国籍の投資法人の投資証券(株式)は、国内外の金融商品取引所において上場されていないことから、上記①には該当しません。また、本件の投資法人は法人格のある投資法人であり、投信法第2条第24項に規定する外国投資信託には該当しません。したがって、公募発行されているものの、②には該当しません。さらに、国外で設立された外国籍の投資法人であり、③の特定投資法人には該当しません。 したがって、本件の投資法人の投資口は、「上場株式等」としては取り扱われず、「一般株式等」として取り扱われることになります。 本件の配当は、居住者たる個人が国外の証券会社経由で、国外で直接受け取るということですので、水際源泉の適用はなく、日本の源泉税は課されません。 一般株式等の配当所得については、原則として申告が必要であり、総合課税の対象となります。上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税の適用はありません。 外国籍の投資法人株式の配当については、外国法人から受けるものであるため、配当控除の適用はありません。 また、一般株式等の配当所得に該当するため、株式等(一般、上場とも)の譲渡所得等との損益通算はできません。   (了)

#No. 318(掲載号)
#箱田 晶子
2019/05/16

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第3回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第3回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   3 法人税基本通達等の改正 (1) 国税庁による通達改正の背景等の説明 国税庁は、平成30年度税制改正及び収益認識会計基準の公表に対応するために、2018年5月30日付けで法人税基本通達等の一部を改正している。法人税基本通達等の改正の背景等について、要旨次のとおり説明している。 (2) 通達の整備方針 次のような観点から法人税基本通達等の整備が実施された(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」参照。) また、別の資料では、通達の整備方針について次のように要約されている(国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係~」16頁)。 これらの説明からは、収益認識会計基準に対して準拠又は許容する姿勢と、逆に準拠又は許容しない姿勢を垣間見ることができる。後者の姿勢は、公正な所得計算を確保するために最終的な手綱を税法ないし国税庁の側で確実に握ろうとする、国税庁なりの慎重さの現れかもしれない。 実務的には、中小企業は従前の取扱いによることも可能とすることが明言されていることが重要である。もっとも、これはあくまで行政機関である国税庁における通達の整備方針にすぎないのであって、かかる方針が法令と整合するかという点は別途検討を要する。 (3) 通達の内容 整備された通達の規定内容自体は次回以降、随時取り上げる。ここでは、最も基本的な4つの通達の要旨のみを確認しておく(国税庁「収益等の計上に関する改正通達(法人税基本通達第2章第1節部分)の構成及び新旧対応表」参照)。 〇収益の計上の単位の通則(法基通2-1-1) 資産の販売等に係る収益の額は、原則として個々の契約ごとに計上するのであるが、次に掲げる場合に該当する場合には、それぞれ次に定めるところにより区分した単位ごとにその収益の額を計上することができる。 〇資産の引渡しの時の価額等の通則(法基通2-1-1の10) 販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とは、原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額をいう。 〇棚卸資産の引渡しの日の判定(法通達2-1-2) 棚卸資産の販売に係る収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。 〇履行義務が一時点で充足されるものに係る収益の帰属の時期(法通達2-1-21の3) 役務の提供のうち履行義務が一定の期間にわたり充足されるもの以外のものについては、その引渡し等の日が法人税法22条の2第1項に規定する役務の提供の日に該当し、その収益の額は、引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入される。   4 国税庁による「収益認識基準による場合の取扱いの例」の公表等 国税庁は、収益認識会計基準に沿って会計処理を行った場合に、会計・法人税・消費税のいずれかの処理が異なることとなる典型的なものの例を集めた「収益認識基準による場合の取扱いの例」を公表し、要旨次のとおり、注意喚起している(国税庁「収益認識基準による場合の取扱いの例」参照)。   5 第Ⅱ部のまとめ 法人税法22条の2を俯瞰すると、①収益の計上時期に係る定めと②収益の計上額に係る定めという2つの柱で構成されていることがわかる。 具体的には、①について、目的物引渡日又は役務提供日に、資産の販売等に係る収益を計上することを原則化した(法法22の2①)。②について、資産の販売等に係る収益の計上額は、販売・譲渡をした資産の引渡時の価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額であることを明定した(法法22の2④)。 法人税法22条の2の規律したところを、第Ⅰ部(連載【第1回】)で掲載した収益認識会計基準における収益認識のための5つのステップの見取図の図表に落とし込んでみると、次のようになる。 かように、収益に関する平成30年度税制改正は、収益認識会計基準におけるステップ3及びステップ5に対応するものと理解できよう。 さて、本連載第Ⅰ部では、収益認識会計基準の内容について、現段階で理解しておきたいことを次のように要約した。 収益の計上時期及び収益の計上額に関して定める法人税法22条の2は上記②及び③に対応するものであることがわかる。消去法的にいえば、①に対応する法令の改正はなされていない。ただし、上記のとおり、法人税基本通達2-1-1 に「収益の計上の単位の通則」に関する定めが新設されており、①については通達で手当てがなされている。 (了)

#No. 318(掲載号)
#泉 絢也
2019/05/16

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第47回】「まからずや事件」~最判昭和42年9月19日(民集21巻7号1828頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第47回】 「まからずや事件」 ~最判昭和42年9月19日(民集21巻7号1828頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 318(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/05/16

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第86回】社会福祉法人明照会「第三者調査委員会調査報告書(2019年3月29日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第86回】 社会福祉法人明照会 「第三者調査委員会調査報告書(2019年3月29日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者調査委員会の概要】   【社会福祉法人明照会の概要】 社会福祉法人明照会(以下「明照会」と略称する)は、1992(平成4)年2月設立。介護保険事業、公益事業、委託事業を兵庫県伊丹市、宝塚市及び尼崎市内で営む。現在は、兵庫県により選任された役員(一時理事)のもとで運営されている。法人本部所在地は兵庫県伊丹市。 明照会を設立したのは宗教法人明照山円徳寺(以下「円徳寺」と略称する)第15世住職河原俊亨氏(報告書上の表記は「B」又は「元理事長」。以下「元理事長」という)であったが、現在は、元理事長の子である河原顕誓氏(報告書上の表記は「D」。以下「D」という)が円徳寺第16世住職に就任している。本件発覚時の明照会理事長河原至誓氏(報告書上の表記は「前理事長」又は「A」。以下「前理事長」という)も、元理事長の子である。 明照会と円徳寺の人的関係の詳細は、以下の関係者家系図を参照いただきたい(明照会での肩書は本件発覚時のもの)。 《社会福祉法人明照会/宗教法人明照山円徳寺 関係者家系図》   【調査報告書の概要】 1 第三者調査委員会設置の経緯 (1) 兵庫県による指導調査(平成28年2月) 平成28年2月の兵庫県による明照会の指導監査で、平成27年3月期の決算において下記のような点を指摘され、改善指導された。 (2) 経営指導強化事業の現地調査(平成29年3月) 前記の指導調査での指摘事項を踏まえ、平成29年3月「経営指導強化事業」の現地調査が行われ、下記事項が指摘された。 明照会はこれに対して速やかな対応を実施することができず、その実施責任者である前理事長の責任の追及についても理事会は軽い処分で済ませようとした。 (3) 兵庫県による特別調査(平成29年12月) これを受けて、兵庫県が平成29年12月に特別監査を実施した結果、明照会運営が著しく適正を欠き、緊急に是正又は改善を要すると認められたので、社会福祉法第56条第4項の規定に基づき、平成30年4月に勧告を行った。 勧告の内容は、前理事長は関係者等との取引等による不適切な業務委託契約、及び関係者との取引等で鑑定評価額をはるかに超える不当に高額な不動産賃貸借契約等により明照会に損害を与え、かつ明照会の社会的信用を著しく毀損したので、その責任は重大であることから、評議員会及び理事会において厳しく責任を追及するとともに、これらの事項を改善できる役員体制への抜本的見直しを勧告した。なお、明照会が受けた損害については、理事会が約89百万円と認定した。 《理事会が認定した損害額》 (4) 兵庫県による一時役員の選任と第三者調査委員会の設置 監査結果に関し、明照会の理事6名・監事2名は平成30年7月5日までに責任を取って全員辞任した。しかし翌月7日までに前理事長を含む5名の理事が辞任を撤回した。8月20日の理事会で、5名の撤回者のうち前理事長親族1名・その他1名を留任することを条件に前理事長他2名は辞任し、新任の理事4名を含む理事6名の選任を承認した。 兵庫県は、これら一連の動きを受け、親族の留任や明照会側の「妨害行為が顕著になった」ことを理由に平成30年8月29日、社会福祉法第45条の6の規定に基づく職権で一時役員を選任し、通知した。 一時役員会は諸課題の改善を実施するため、特定の役員、当該役員の親族その関係者(以下「特定理事等」という)に対する特別の利益供与に係る実態の把握、原因の究明、明照会ないし関係行政庁の損害額の把握と回復措置並びに責任の明確化を行い、今後取り組むべきガバナンスの課題や方策を検討し、再発防止に資することを目的として、平成30年10月23日に第三者調査委員会(以下「当委員会」という)を設置した。 2 第三者調査委員会による調査の概要 第三者調査委員会は、調査目的である「特定理事等への特別の利益供与に係る実態の把握」に関して、社会福祉法第27条における関係者として4人の理事等を特定するとともに、3社の関連会社を挙げている。 そのうえで、委員会は、利益供与として判断した支出を次の5つの類型に分けて、それぞれ、明照会の支出が高額過ぎるため、特別の利益供与に当たると指摘した。 (1) 関係者等を貸主とし、明照会が借主となっている不動産賃貸借契約に係る賃借料 委員会は、関係者等を貸主とし、明照会が借主となっている不動産賃貸借契約に係る賃貸料について、不動産鑑定士による不動産鑑定報告書に基づく賃貸料との比較分析を行った結果、5件の不動産賃貸借契約について、不相当に高額であり、特別の利益供与に該当する金額として約94百万円を認定した。 同時に、委員会は、前理事長について、「定款違反、善管注意義務違反により締結した前記各賃貸借契約に基づき明照会に発生した損害について、債務不履行に基づく損害賠償の責任を負う」という見解を示している。 (2) 関係者等とのコンサルタント契約等に基づく報酬等 委員会は、元理事長との間で締結した委託契約、C(元理事)に対する名誉報酬、茲恭舎との間で締結したコンサルタント契約などに基づく支払いについて、契約の履行状況が確認できないなどを理由に、約37百万円を特別の利益供与として認定した。 そのうえで、委員会は、前理事長について、日常業務とはいえない各コンサルタント契約等を理事会の承認を経ずに専決し、契約の締結あるいは報酬の支払いを行ったこと、各契約に関して相手方当事者の履行の確認を行ったとは認められないことなど、定款違反、善管注意義務違反が認められることから、明照会における損害額につき、賠償する責任があると判断をした。 (3) 関係者等の業務委託契約、物品購入契約等 委員会は、明照会と恵芭又はアド・サービスの間で締結された業務委託契約、物品購入契約等について、委託料が委員会による算定額より多額であること、車両のリースや物品購入に際して、恵芭又はアド・サービスが介入することによって、メーカー等から直接購入するよりも高額な支出が行われている点を問題視して、約43百万円を特別の利益供与等と認定した。 (4) 公用車の私的利用 兵庫県による指導監査において、明照会が、恵芭とリース契約している公用車のうち、前理事長がほぼ日常的に占有している公用車にかかる費用については、明照会経費から支出することは不適切であるとの指摘を受けたため、明照会は調査の結果、前理事長使用公用車(BMW)のリース料金のうち、土曜・日曜の2日相当分を私的利用として1,749,685円を前理事長に対する特別の利益供与に当たると判断し、これを請求して、平成30年3月22日に回収している。 委員会はこの判断を是認して、法的責任問題等については、割愛している。 (5) その他の問題 第三者調査委員会は、上記以外の問題点として、社会福祉法人親和福祉会の事業承継、子育て支援ハウスの建設及び尼崎中央デイサービスの運営に関しては、不合理な経営判断が行われてきたこと、独自の退職共済基金の運営にあたり、元理事長、前理事長の独断で主に株式で運用を行ったこと、平成27年3月期の決算において債務が確定している給食委託費8,897千円他合計で18,932千円の未払費用を債務に計上しないまま決算書を作成したこと(粉飾決算)を挙げている。 3 原因分析 第三者調査員会は、原因分析として、以下の6項目を挙げている。 委員会の原因分析のうち、いくつか特徴的な項目を見ておきたい。 「理事会の形骸化」の項目で取り上げたのは、創業家親族が代表取締役を務めていた恵芭との取引である。委員会は、形骸化の一例として、「恵芭は、実質的に、利益相反取引の危険性を含んでいる。にもかかわらず、理事会は、恵芭との取引の結果、費用が安く済んだという前理事長の説明に納得し、制限どころか詳細を確認することもしていない」と指摘している。 また、委員会は、「監事監査の形骸化」として、「借入過多により経営破綻が危惧されることになっても、不正経理等で県から特別監査が入っても、監事が何らかの動きを見せている様子は、理事会議事録、あるいは、監事にとって報告義務のある評議員会議事録を見る限り、見受けられない」として、「監事が充分にその職責を果たしていなかったと言っても過言ではない」と結論づけている。 さらに、「評議員会の怠慢」として、委員会は、「理事の選任・解任は評議員会の責務であることから、理事長に対する退任勧告が出されたときに評議員会が動くべきであったにも関わらず理事会からの報告を待ち続けるというのは、評議員会としてその職務をどのように考えているのか疑問が残るところである」と指摘している。 そのうえで、委員会は、「本来であれば、コンプライアンス違反に対して、評議員会、理事会、監事と何重にも監視の目があるが、それぞれが職務についての理解が不十分であるために組織としての自浄作用を持ち得ていなかった」ことが問題であると締め括っている。 4 再発防止策のための提言 第三者調査委員会が提言した再発防止策は次のとおりである。 委員会は、「創業家の関与を排除すること」と同時に、「役員等に対して社会福祉法人制度についての理解を深めることができるような研修を受講する機会を法人として確保することが必要」であるとしたうえで、その研修の中で、創業家は、「出資」をしたのではなく、「寄付」を行ったのであり、社会福祉法人の財産は、創業家のものではないことをはっきりと認識させるべきであると強調している。 また、「不正を指摘できる環境」の整備においては、「顧問弁護士等の外部の第三者を通報先とする公益通報制度」を構築して、「声を寄せた職員が不利益を被らないようにすること、その声にきちんとレスポンスをとること」の重要性を指摘している。   【調査報告書の特徴】 兵庫県内の社会福祉法人における創業家の不正では、本連載【第52回】で姫路の夢工房の事案を取り上げたところであるが、ほかにも、三田市にある「三翠会」でも、創業家が法人資金約2億7,000万円を流出させた問題につき、法人が創業家を訴えた損害賠償請求事件が和解によって決着したことが、神戸新聞によって報道されている。 本事案で見られたような創業家による社会福祉法人の私物化は、おそらく兵庫県以外の各地で見られる事象であろうかと考えるが、兵庫県健康福祉部が、社会福祉法人改革に熱心に取り組み、積極的に情報公開を行っていることが、こうした不正が公になる機会につながっているのではないかと思料する次第である。 1 兵庫県による社会福祉法人に対する指導 兵庫県健康福祉部が公開している「兵庫県が所管する社会福祉法人に関する指導指針」を読むと、明照会の役員及び評議員の選任については、同指針中の「資格等チェックリスト」に記載された「他の評議員又は各役員の配偶者又は3親等以内の親族でないこと」に抵触していることがわかる。 また、同指針では、社会福祉法人は、社会福祉法第44条(役員の資格等)に規定する資格等に合致することを確認する書類の提出を受ける等の方法により、その妥当性を確認することが「指摘事項」と定められているが、明照会において、こうした指針がどこまで遵守されていたのか、残念ながら、報告書には記載がない。 なお、社会福祉法第44条については、以下のとおりである。 2 創業家(元理事長・前理事長)の動機は何か 第三者調査委員会は、調査方法として、創業家の役員ら(報告書上の表記でA、B、C及びD)に対するヒアリングを行ったことを挙げているが、創業家が、明照会との間で締結していた不動産賃貸借契約に係る賃貸料が、不動産鑑定評価より高額であり、結果的に委員会から不当な経済的利益の供与とみなされたことについて、明照会から高額な賃貸料を受領することにした創業家側の動機については、報告書には記載がない。 これは、明照会が恵芭やアド・サービスとの間で、不相当に高額な業務委託契約を締結し、購買取引に介入させ、あるいは実態のないコンサルティング契約を締結して、こうした関連会社に経済的利益を供与した理由についても、こうした取引を推進した前理事長の動機については何も説明されていない。 3 なぜ、理事会、幹事及び評議員会は、創業家による不正を防止できなかったのか 第三者調査委員会は、創業家以外の理事、監事、評議員についても、善管注意義務違反が認められることから、明照会に対する損害賠償責任を負うとの見解を示すとともに、理事会及び監事監査の形骸化、評議員会の怠慢を原因分析として挙げている。 その判断に異を挟むつもりはないものの、ここでも、なぜ、理事会や監事監査が形骸化し、評議員会が機能しなかったのかという、根本的な原因の分析まで踏み込まれていない。創業家支配下の理事、監事及び評議員が、創業家の意向をくむ人選であったことが原因であったのか、理事、監事又は評議員としての適格性を欠いていたのか、こうした分析なしに、「形骸化」「機能不全」という指摘を行うだけでは、再発防止策の提言についても、表層的なものにならざるを得ないと考える。 4 兵庫県が選任した一時役員について 明照会のホームページでは、平成31年3月18日現在の役員名簿が公開されている。そこでは一時理事6名と一時監事2名の氏名のみが記載されており、彼らがどうして選任されたのか、彼らが社会福祉法第44条第4項及び第5項に規定するどのような資格を有しているかは判然としない。 明照会が真に信頼回復を企図しているのであれば、情報公開についても、より積極的な姿勢を示すべきであり、一時理事及び一時監事についても、その選任理由を発信することが、利用者をはじめとする利害関係者の信頼回復につながるのではないだろうか。 5 特別の利益の意義 第三者調査委員会は、調査の目的である「特定理事等への特別の利益供与に係る実態の把握」における「特別の利益」について、法人税基本通達1-1-8を基準としていることを明言しているため、通達の規定を引用しておきたい。 本件で、第三者調査委員会が指摘した「特定の利益」は、同通達の(4)、(5)又は(6)に該当していると判断した模様である。 (了)

#No. 318(掲載号)
#米澤 勝
2019/05/16

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第25回】「事業環境の分析(その3)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   【第25回】 「事業環境の分析(その3)」   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   ▷事例の紹介 前回、前々回では、主に事業環境の分析におけるフレームワークの解説を行った。本稿では近年人気業種である外食産業のうち、「居酒屋業界」を例にとり、PEST分析の手法を一部だけ概説する。 重要なことは、PEST分析というフレームワークを通して、対象会社を取り巻く事業環境を把握し、どのように事業戦略を策定し実行しているかを、さらに深堀りして調査することである。事業環境が変化した場合に、対象会社の業績にどのようなインパクトを与えることになるかを、デューデリジェンスを通じて把握するのである。   (A) 政治的環境の変化(Politics) ➤ 主な調査手続 法令や規制、税制などは国や地方自治体レベルの決定事項であり、対象会社の力の及ぶところではないが、対象会社の活動に多大な影響を与えるという特徴を持っている。そのため、対象会社に関連する法令や規制、税制の改正などの動向を注視し、それが施行された場合は、どのような影響があるかを把握し、追加コストの発生や事業戦略の変更が必要であるかなどを事前にシミュレーションしておく必要がある。 下記は、居酒屋業界に影響を与える可能性がある、政治的環境の変化の主な項目である。 ① 消費マインドの変化による影響 ◆消費者態度指数(消費マインド、左軸)及び日経平均株価(右軸、円) (出典:内閣府「消費動向調査」より筆者作成) 居酒屋業界は、外食産業であるため、マクロ的には人口の推移(成人)や消費マインドの推移に影響を受けることになるため、まずは両者の統計を分析する必要がある。消費マインドの推移を例にとると、2020年東京オリンピック開催に伴い公共投資増加等で消費者のマインドの高まりが期待されており、消費者態度指数は上昇傾向にある。 なお、消費者態度指数は、内閣府が毎月の消費動向調査の中で公表している消費者マインドを指数化した経済指標である。通常、本指数は、50が「良い」「悪い」の1つの目安とされ、また前月と比べて数値が「良くなったのか」「悪くなったのか」も判断の材料となる。 ② 改正「健康増進法」による影響 多くの人が使う施設で喫煙を規制する改正「健康増進法」が2018年7月に成立している。同法は、すべての人に罰則付きで禁煙場所での喫煙を禁じ、これまで努力義務だった受動喫煙防止を義務化し、東京オリンピック開催前の2020年4月に全面施行する。 富士経済の調査レポートによると、2016年10月に厚生労働省が公表した「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」で示された喫煙規制や罰則が実際に施行された場合、外食市場に与える影響を外食店へのアンケート調査をもとに算出し、「居酒屋、バー・スナック」市場においては、▲6,554億円の影響(市場規模の減少)があると試算している。 ③ 「酒税法」改正による影響 今後、酒税の「税率」や「品目」の改正が予定されている。 税率に関しては、発泡性酒類、醸造酒類及び混成酒類など酒税の基本税率が改正され、その他の発泡性酒類の特別税率が改正されるほか、発泡酒、清酒及び果実酒の品目ごとの特別税率については、経過措置として段階的に税率が変更された後、経過措置期間後は特別税率ではなく発泡性酒類又は醸造酒類の基本税率が適用されることになる。また、租税特別措置法においては、発泡性を有しない低アルコール分の蒸留酒類等に係る酒税の税率の特例についても改正され、2026年10月から変更される。 品目に関しては、2018年4月より、ビールの定義が改正され、ビールの麦芽比率の下限が100分の50まで引き下げられるとともに、使用する麦芽の重量の100分の5の範囲内で使用できる副原料として、果実及び香味料が追加される。また、果実酒の範囲に「果実酒にオークチップを浸してその成分を浸出させたもの」が追加される。2023年10月より、発泡酒の範囲に「ホップ又は一定の苦味料を原料の一部とした酒類」及び「香味、色沢その他の性状がビールに類似するもので苦味価及び色度の値が一定以上のもの」で発泡性を有するものが加えられる。2026年10月より、その他の発泡性酒類の範囲が「アルコール分が11度未満」(改正前は10度未満)に改正される。 2017年5月に改正された酒税法では、原価割れでビール等を販売した小売店には「社名の公表」や「酒類の販売免許取消し」等の極めて厳しい処分が科されることになっているため、税率が下げられるにも関わらず、値上げという状況になっている。そのため、対象会社におけるアルコール類の価格設定の戦略の方向性を確認しておく必要がある。 例えば、アサヒビールは、2018年3月の出荷分から、業務用を中心としたビール系飲料の値上げを実施している。値上げは、すべての商品で実施した2008年以来10年ぶりで「大びん価格で10%前後上がる見通し」だと報じられている。また、居酒屋チェーン『鳥貴族』は、2017年10月からドリンク全品が280円から298円に18円値上げ、『日高屋』を展開するハイデイ日高も2017年9月から生ビールを20円値上げ、ペッパーフードサービスが経営する『いきなり!ステーキ』も日高屋同様にビールを20円値上げすると報じられている。 ④ 「働き方改革関連法」の施行による影響 2019年4月1日から、働き方改革関連法が順次施行される。居酒屋業界に特に関わる項目としては、「残業時間の上限規制」「年5日の有給休暇取得」「勤務時間インターバル制度の普及」などが挙げられ、勤務時間や有給休暇取得の管理、人員確保、作業効率の向上などに努め、従業員にとって働きやすい環境を作ることが求められるため、対象会社の状況を把握しておく必要がある。 ⑤ 消費税増税による影響 2019年10月に消費税及び地方消費税が合わせて10%に上がる予定である。過去の消費税増税と同様、増税直前の駆け込み需要と増税直後の一時的な需要の落ち込みが想定される。   (B) 経済的環境の変化(Economy) ➤ 主な調査内容 近年の訪日外国人観光客増加に伴う影響により、居酒屋の利用客にも外国人が増加している。中長期的には、人口の減少が始まるなか、いかにして外国人観光客を取り込むことができるかも、売上拡大の戦略の一部となるであろう。 一方で、居酒屋業界は、原材料費や労務費の増加に直面しており、また、格安居酒屋チェーンの台頭により競争は益々激しくなるであろう。そのため、対象会社の過去の経営成績や買収後の事業計画がこのような状況を適切に反映しているかを、見極める必要がある。 下記は、居酒屋業界に影響を与える可能性がある、経済的環境の変化の主な項目である。 ① 訪日外国人の増加 訪日外国人による飲食費総額は、2015年で6,420億円であり、外食市場規模の約2.5%に留まっているものの、飲食費総額、シェアともに拡大基調にて推移している。みずほ銀行「外食企業の持続可能な成長戦略とは(2016年8月12日)」の調査によると、訪日外国人の政府目標を達成した場合には、訪日外国人による飲食費総額は2020年に約1.3兆円(外食市場規模の5.0%)、2030年に2.0兆円(同 7.6%)に達することを予測している。 ◆全国訪日外国人飲食支出額(億円)及び外食市場に占める割合 (※) 2020年以降はみずほ銀行が推計 (出典:みずほ銀行「外食企業の持続可能な成長戦略とは(2016年8月12日)」を参考に筆者作成) このような状況は、メニューの外国語化や外国人労働者を雇用して、訪日外国人をいかにして取り込むかという戦略が必要となることを意味している。おいしい料理や丁寧なサービスを提供する日本の居酒屋は、多くの訪日外国人に好評である。 (つづく)

#No. 318(掲載号)
#松澤 公貴
2019/05/16

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第6回】「税務訴訟における裁判所の判断過程の特徴等」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第6回】 「税務訴訟における裁判所の判断過程の特徴等」   弁護士 下尾 裕   【第4回】及び【第5回】においては、税務訴訟における裁判所の価値判断について説明してきたが、今回からはこうした価値判断を踏まえた裁判所の判断過程、具体的には、事実認定及び法令適用(法令解釈)について順次検討する。 その手始めとして、本稿では、税務訴訟における裁判所の判断過程の特徴について説明するとともに、裁判所における事実認定の在り方について見てみることとする。   1 税務訴訟における裁判所の判断過程の特徴 裁判所は、①事実認定(前提事実の確定)、②前提事実に対する法令の適用、③法令の適用から導かれる結論(法律効果)の確定という作業を行うことにより、個別の紛争等についてその判断を示している。こうした裁判所の判断過程の大枠は、税務訴訟とそれ以外の裁判手続とで大きく変わるところはない。 ここで、税務訴訟における判断過程の特徴を挙げるとすれば、以下のような点が挙げられると考えられる。 上記の中でも特に重要なのは、(2)の特徴である。税理士目線で見た時に、税務訴訟の判断が時として理解しにくいものになるのは、私法上の考え方が事実認定及び法令適用の両面に強く影響するという特徴に起因するものであるからである。 ここで改めて【第1回】で紹介した、レポ取引に関する東京地判平成19年4月17日を見てみたい。すでに説明したとおり、この裁判例は、レポ取引における差益が当時の所得税法第161条第6号における「利息」に該当するか否かが問題になった事案である。 この事例を例に判断過程をあえて分解すると、裁判所は、①まず事実認定として、当事者間で行われた「レポ取引」の内容等を認定するにあたり、この取引が売買契約及び再売買契約であるのか、それとも金銭消費貸借契約に類似した契約であるのかという私法上の契約評価を行うことになる(※)。 (※) 読者の中には、こうした契約上の評価の問題は事実認定ではなく、法令解釈の問題なのではないかとの疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれないが、訴訟において認定の対象となる事実には、多かれ少なかれ評価の要素が混入しているものであり、特に売買等、日常的に登場する契約類型の評価(日常的法律概念と呼ばれるもの等)については事実と一体のものとして考えるのが裁判実務となっている(司法研修所編「民事訴訟における事実認定」17頁~18頁参照)。 次に、裁判所は、②認定した契約を前提にその差益が上記「利息」に該当するのかを判断することになるが、ここでは「利息」が借用概念であることを前提に、「利息」の解釈に私法上の概念を持ち込むことになる。この説明からも、私法上の考え方が、①事実認定としての契約評価及び②法令適用における「利息」の解釈の両面に影響を及ぼしていることがお分かりいただけるであろう。 〈イメージ図〉 このように税務訴訟においては、案件にもよるものの、私法上の概念の影響を多かれ少なかれ意識せざるをえないのであり、本連載のテーマである「法曹マインド」は、こうした私法上の考え方を検討していく上で有用となるものである。   2 事実認定の枠組み では、裁判所における事実認定の判断プロセスとは、具体的にはどのようなものなのだろうか。これに対する答えをやや乱暴に言えば、裁判官が「経験則」に従って、まず間違いないであろう事実の存在を認めるプロセスである。 ここでの「経験則」とは、「人間は一定の場合に通常このような行動をとる」といった蓋然性を意味し、この経験則を前提とすることにより、完全ではないものの、案件を担当する個々の裁判官の判断過程について一定の統一性を担保する構造になっている。 この「経験則」というものを理解する例として、不動産売買契約の成立の有無が問題となっている事例を考えてみたい。 ご承知のとおり、民法上は、保証契約等を除き、一般に契約書を書面にすることは要求されてないが、現実には取引金額が大きく、登記申請も必要となる不動産取引では契約書を取り交わすのが通常である。こうした「通常」こそが経験則であり、裁判所も、このような「通常」を想定して、証拠として不動産売買契約書が提出されなければ、特段の事情のない限り、不動産売買契約の成立を認めない方向で判断を行うことになる。 また、我々が日常生活していく中では、当事者間の合意内容を確認する意味で契約書の取り交わしが行われる場合が多く、こうした経験則を踏まえ、契約書等の証拠は裁判所の事実認定において非常に重要な意味を持つことになる。 現に、判例においても、契約書等が当事者の意思に基づいて作成したことに争いがない場合、特段の事情がない限り、記載どおりの事実を認定すべきものとされている(最高裁昭和45年11月26日判決集民101号565頁)。 一方で、契約書が存在しない場合又は契約書に条項の記載がない場合に、契約又は特定の合意の存在が一切認められないかというとそうとは限らない。例えば、当事者間で取引されたのが100円のパンであった場合、当事者間でわざわざ売買契約書を作成しないのが通常であり、契約書が存在するのはむしろ不自然である。このような場面では、「契約書が存在しない」という事実の位置付けが全く異なってくることになる。 また、仮に不動産取引であっても、例えば、敵対する第三者に契約書を開示する必要があるなど、当事者間において合意内容のすべてを契約書に記載することができない特別な事情が明らかになれば、同じく、契約書に一定の合意の記載がないことの意味合いは変わってくるであろう。 以上の説明からもお分かりいただけるかと思うが、事実認定における「経験則」とはあくまで「通常」という一定の傾向であって絶対的なものではありえず、常に例外的場面があることが前提になっている。 税務訴訟を戦っていく上で重要なのは、裁判所の事実認定における「経験則」の位置付け及び契約書等の一般的重要性をよく理解するとともに、例えば、不動産取引において契約書に定めのない合意を主張する場合など、経験則に照らして例外的状況を主張する場合には、なぜ一般的傾向が当てはまらないのかということの合理的理由等を積極的に説明していく必要があることを、念頭に置いておくことである。 *  *  * 次回は、税務訴訟における法令適用(法令解釈)について具体的に検討してみたい。 (了)

#No. 318(掲載号)
#下尾 裕
2019/05/16

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第14回】「書類等の管理ミスによる情報漏えいの防止策」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第14回】 「書類等の管理ミスによる情報漏えいの防止策」   弁護士 影島 広泰   -Question- お客様の名前と住所が記載された伝票の束が、入れておいたはずのキャビネットからなくなっていることに気づきました。社内の者が廃棄したのか、あるいは外部へ持ち出されたのかは不明です。当社のような場合は「漏えい」に当たりますか。 また、このような事態の発生を防止するために、会社として、どのように対応すべきでしょうか。 -Answer- 個人情報保護委員会が定める「漏えい等事案」に当たります。 防止策としては、「台帳」の整備と、削除・廃棄の記録の整備が重要です。 【第11回】で述べた2017年の統計によれば、「うっかりミス」による個人情報漏えいの原因として3番目に多いのは「管理ミス」である。 今回の事例のような、あるべき書類があるべき場所に無いことが発覚したが、紛失したのか廃棄したのかが分からない、というのは「管理ミス」の典型例である。   1 紛失した可能性があるだけで「漏えい」なのか 今回の事例のように「紛失したのか廃棄したのかが分からない」、あるいは「おそらく廃棄したのだと思うが、紛失したのかもしれない」という状態で、個人情報保護委員会への報告などを考える必要があるのであろうか。 これまで繰り返し述べてきたとおり、個人情報保護法20条では、個人データについての安全管理措置が定められている。 この条文から分かることは、安全管理措置を講じて防止しなければならないものには、「漏えい」だけではなく、「滅失」と「毀損」も含まれているということである。今回の事例のような「紛失」は、「漏えい」に当たらないとしても「滅失」と「毀損」のいずれかには当たるであろうから、防止する措置を講じる義務があることになる。 また、個人データが漏えい等した際にやるべきことを定めている個人情報保護委員会「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について(平成29年個人情報保護委員会告示第1号)」は、対象とする事案について以下のとおり定めている。 ここでも対象は「漏えい」、「滅失」、「毀損」が対象となっているが(上記(1))、その「おそれ」も対象になっていることに注意する必要がある(上記(3))。 つまり、漏えい、滅失又は毀損したことが確実でなくても、その「おそれ」があるだけで「漏えい等事案」に当たることになり、上記告示に従った対応を要することになるのである。 以上から、 ① 管理ミスによる紛失については、個人情報保護法20条により防止策を講じる義務があり、 かつ、 ② 紛失(滅失・毀損)が発生した「おそれ」があれば、個人情報保護委員会の告示の「漏えい等事案」に当たるものとして対応しなければならない ということになる。   2 管理ミスによる紛失の防止策 通則ガイドラインが定める安全管理措置のうち、管理ミスによる紛失を防止するために重要と考えられるものが2つある。 (1) 「個人データの取扱状況を確認する手段の整備」(組織的安全管理措置) まず、組織的安全管理措置(【第2回】参照)の一環として、「個人データの取扱状況を確認する手段の整備」が義務付けられている。これについて、通則ガイドラインは以下のとおり定めている。 ここで例示されている手法をそのまま実践すれば、以下のような表を作成することになる。 このような表のことを、一般に「個人情報取扱台帳」や「個人データ管理台帳」などと呼ぶ。これにより、どの部署にどのような個人データがあるのかを一覧表にして把握することができるのである。 通則ガイドライン上は、台帳を作ることは単なる「手法の例示」に過ぎず、台帳を作らなければ必ず義務違反になるわけではないが、何らかの「個人データの取扱状況を確認する手段の整備」は義務付けられている。また、個人情報保護委員会も「中小企業向けQ&A(抜粋版)(平成30年7月)」において以下のとおり、台帳は「有効な取組である」としている。 したがって、「台帳」を整備することは、中小企業においても積極的に検討すべき事項であるといえるであろう。 このような台帳を整備して随時更新しておけば、どこの部署にどのような情報があるのかを把握することができ、管理ミスを防止する体制のベースができることとなる。 (2) 「個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄」(物理的安全管理措置) 次に、物理的安全管理措置(【第3回】・【第4回】参照)の一環として義務付けられている「個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄」について、通則ガイドラインは以下のとおり定めている。 ここで注目すべきは、削除や廃棄をした場合に「記録を保存すること」が「重要である」とされている点である。「重要である」とされているに過ぎないから、記録を保存していないからといって直ちに義務違反となるわけではないが、管理ミスの防止策としては大いに参考になる(※)。なぜなら、削除・廃棄したかどうかが分からないというのは、削除・廃棄の記録を残していないから発生する事象だからである。 (※) なお、マイナンバー法のガイドラインでは、削除・廃棄の際の記録は義務付けられている。このことからも、削除・廃棄の際の記録の重要性が分かる。 以上から、「管理ミス」への対応としては、①台帳の整備と、②削除・廃棄の記録の整備の2つが重要であるといえるであろう。 (了)

#No. 318(掲載号)
#影島 広泰
2019/05/16

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第5回】「特別寄与料制度は前途多難」~費用対効果を考えれば生前贈与か遺贈がベター?~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【第5回】 「特別寄与料制度は前途多難」 ~費用対効果を考えれば生前贈与か遺贈がベター?~   財務コンサルタント 木山 順三   〔民法改正で息子の嫁にも日が当たる?〕 平成30年に行われた民法改正によって、今年の7月から「特別寄与料の請求権」(民法1050条)が創設されます。 いわゆる従来は相続人にしか認められていなかった寄与者が、六親等内の血族および三親等内の姻族まで「特別寄与者」として認められ、一定の要件により、相続人に対して金銭の支払を請求できるようになりました。すなわち、同居内の義父母の介護をする息子の嫁にも日の目が当たることになったのです。 ただし、これですべてが解決とは言えず、これまで数多くの相続事例を目の当たりにしてきた筆者としては、かえって揉めごとが増える一因になるのでは・・・と懸念しています。 今回は、人様のお世話をする立場を他人と身内に分け、各々の利害関係者の心の内をそっと覗いてみたいと思います。   〔面倒見の良いお手伝いさんを息子が勝手に解雇、そのワケは?〕 私が信託銀行員として勤務していた当時のお話です。Aさんは高齢かつ身体障害者で、阪神間にお一人で住んでいました。かつては一流企業の副社長として活躍されておられたAさんも、奥さまに先立たれ、家族は東京在住の長男一人でした。 そんな折、お世話をしていた私のもとにAさんから連絡がありました。 「木山さん、悪いけど400万円、預金から引き出して持参してください。理由は来られてから説明しますから。」 すぐにお伺いし理由を聞きますと、どうやら息子が勝手に解雇したお手伝いさんへの退職金のようです。 「どうしたのですが? あれだけ気に入っていた方ですのに。」 今までも真夜中に発熱すれば、住込みの契約時間に関係なく一晩中看護してくれるお手伝いさんでした。普通に考えれば安心して面倒を任せられ、喜ぶところです。 ただし、どうやら長男から見ると心配の模様です。 すなわち、「親父が気に入って後妻に迎えたらどうしよう・・・当然財産の取り分は減る・・・今のうちに出て行ってもらうのが賢明だ!」と。 次に来たお手伝いさんは、長男にとって安心できる人でした。たとえ父親が真夜中に熱を出そうが出すまいが、夜の8時以降は自分の部屋から出てくることはありませんでした・・・。 このように親への寄与者であっても、自分の不利になる恐れがあれば、親孝行よりも自己中心になるのですね。 では、従来の相続人間の寄与分をめぐり揉める事例とは、どのようなものだったのでしょうか。   〔相続人の寄与分申立てのベタな「言い分」〕 相続人による寄与分の申立ては、遺言書がなく、遺産分割協議による相続手続において、よく発生します。 すなわち、協議の場で相続人同士がこんな言い争いをします。 「私はお父さんが入院中、毎週1回は見舞いに行っていたよ。あなたはちっとも来なかったじゃない!」 「でも私は必ず、お父さんが欲しがる食べ物を差入れしていたわ! それから月1回は一日中病院にいて、体のマッサージをしていたわ! だから私の方が寄与しているわ。」 ・・・こうなると、遺産分割協議はなかなかまとまりません。 そのような時、私は相続人たちを一喝します(「喝(カーツ!)」と)。 だからこそ、今まで日の当たらなかった「息子の嫁」の立場に考慮したのが、今回創設される特別寄与制度です。ただし、これもこれからいろいろ問題が出てくるものと思われます。   〔特別寄与制度に感じる運用の難しさ〕 上記のような相続人たちがいた場合、真の寄与者である兄嫁(又は弟嫁)の貢献を理解してくれるのでしょうか? すなわち、無償の奉仕であるのならともかく、特別寄与料として自分たちの取り分から差し引かれるわけですから、肉親・姻戚間の確執とひがみが寄与者・寄与分の合意の難しさになると思います。もちろん、その後の親戚付き合いも、ギクシャクすることでしょう。 したがって本制度の活用は、むしろ元気なうちに生前贈与か遺贈遺言書作成で対応することで、特別寄与者への感謝の気持ちを表すのが一番だと思います。 問題は、被相続人の「認知症状態」での遺言書作成や、生前贈与ができない状況です。 寄与分の金額算定については、一応、被相続人への療養介護や扶養、金銭労務の提供等の事実に基づき計算するわけですが、筆者としては、真の特別寄与者は今後の親戚付き合い等の関係を考慮することなく、割り切って正々堂々と、特別寄与料を請求することをお勧めします。   〔結論は『馬の鼻先ニンジン作戦』!?〕 寄与分の制度は、寄与する立場の人が寄与行為に見合う見返りを請求するものです。しかし本来は、寄与される立場の人が、「いかにして感謝の気持ちを表すか」「いかにして自分に寄与してくれたかを他の人に示すか」という意思をしっかりと示すことだと思います(自らの意思で、生前贈与や遺言による遺贈で対応)。 したがって認知症になる前に、「自分に尽くしてくれたら、自分自身の意思であげる」という、いわば『馬の鼻先ニンジン作戦(?)』の方が、直接お礼を言われ、喜ばれ、親切にされるという体験ができるのではないでしょうか。 費用対効果からみて、この方が賢いお金の使い方だと思いますが・・・。 (了)

#No. 318(掲載号)
#木山 順三
2019/05/16

《速報解説》 経産省、MBO指針を全面改訂した「公正なM&Aの在り方に関する指針」(公開草案)を公表~支配株主・一般株主間の公平性担保措置を提示~

《速報解説》 経産省、MBO指針を全面改訂した 「公正なM&Aの在り方に関する指針」(公開草案)を公表 ~支配株主・一般株主間の公平性担保措置を提示~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年5月14日、経済産業省は、「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-(案)」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 経済産業省は、2007年9月4日、MBO(マネジメント・バイアウト)に関する公正なルールの在り方を提示するため、「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」を策定したが、その後の動向を踏まえ、2018年11月に発足した「公正なM&Aの在り方に関する研究会」における議論を経て、同指針を全面改訂し、「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」とするものである。 意見募集期間は2019年6月12日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 目次を含めて51ページに及ぶものである。 主な内容は次のとおりであり、以下では特定の項目について解説する。 1 MBO及び支配株主による従属会社の買収の課題 次の課題が述べられている(8、9ページ)。 そこで、M&Aを行うプロセスや一般株主に対する情報提供に際して特段の実務上の対応を講じ、上記の構造的な利益相反の問題と情報の非対称性の問題に対応することにより、企業価値の向上と公正な取引条件の実現が担保されるべきであると述べられている(10ページ)。 2 M&Aを行う上での尊重されるべき原則 M&Aを行う上での尊重されるべき原則として次の原則が述べられている(14、15ページ)。 3 公正性担保措置 公正性担保措置のうち、一般に有効性が高いと考えられる典型的な措置として、次のものを取り上げ、その機能や望ましいプラクティスの在り方について述べている。 (了)

#No. 317(掲載号)
#阿部 光成
2019/05/16
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