〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第9話】 「年金受給権と一時所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・死亡した人の公的年金で、その人の死亡後に支給期の到来するものは、当然、その死亡した人の所得だと思っていたのですけど・・・」 浅田調査官は、中尾統括官に尋ねる。 所得税の調査報告書を読んでいた中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・公的年金?」 浅田調査官は頷く。 「ええ、死亡後に受け取った公的年金などは・・・死亡した人の所得ではなく、支給を受けた遺族の一時所得であると・・・」 浅田調査官は、不満そうに、所得税基本通達34-2を開く。 「この9-17というのは・・・何だったかな?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「これは、相続税の課税と所得税の課税の調整を図るために・・・死亡した人の給与や退職金について、その人の死亡後に支給期の到来するもののうち、相続税が課されるものについては、死亡した人の所得として課税しない・・・という内容です。」 浅田調査官は、再び通達をめくり、所得税基本通達9-17を確認する。 浅田調査官は、中尾統括官の机上にある罫紙に図を描く。 「したがって、その死亡後に支給期限が到来するもののうち、相続税で課税されるものは、所得税を課税しない・・・ということなんですね。」 浅田調査官は、図を見ながら言う。 「そうだな。死亡した人の給与等、公的年金等又は退職手当等で、その死亡後に支給期の到来するものについては、死亡した人に所得税を課さないことを明らかにしているのだろう。」 中尾統括官は付け加える。 「しかし・・・これって亡くなった人の所得だと思うのですが・・・」 浅田調査官は頸を傾げる。 「それに関しては、いろいろと議論はあるが・・・相続税の課税と所得税の課税の調整を図るために、便宜的に、このような取扱いをしていると考えればいいのではないかな。」 中尾統括官は、淡々と言う。 「・・・所得税基本通達34-2は、亡くなった人に課税せず、相続税の課税価格の計算の基礎にも算入されなかったものについては、その支払を受ける遺族の一時所得として課税することを明らかにしている・・・これは、課税漏れを防ぐ意味もあると思いますが・・・」 浅田調査官は通達集を見ながら思案している。 中尾統括官は、机の上に置かれているパソコンを開く。 「国税庁のホームページには、次のようなタックスアンサーがあるよ。」 そう言いながら、中尾統括官は、「No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権」を浅田調査官に見せながら、次の図を描く。 「例えば、被相続人の死亡後3年経過後に確定した退職手当等のように、被相続人の所得に該当せず、相続税の対象にもならないもの(相法3①二)については、その相続人等の一時所得として取り扱うことをこの通達で明示しているんだ。」 中尾統括官はそう言いながら、大きく頷く。 (つづく)
《速報解説》 生産性向上特別措置法、施行日は平成30年6月6日に ~中小企業向け固定資産税の減免措置、コネクテッド・インダストリーズ税制がスタート~ Profession Journal編集部 平成30年度税制改正で創設された設備投資減税に係る施策のうち、①中小企業が一定の設備投資を行った際に固定資産税が3年間減免(課税標準⇒0~1/2)される特例措置(地法附15条47項)、及び、②IoT等の革新的情報産業活用設備を取得等した場合の特別償却又は税額控除(措法42条の12の6)、いわゆるコネクテッド・インダストリーズ税制の適用に必要な認定制度等を定めた「生産性向上特別措置法」は今国会で成立し5月23日に公布されていたが、このほど施行期日を定める政令の公布(平成30年6月5日官報第7277号)により、施行期日が平成30年6月6日で確定、同日より両制度の適用が開始されることとなった。 平成30年6月5日付の官報では、次の関連する法令告示もあわせて公布されている。 コネクテッド・インダストリーズ税制に係る租税特別措置法の省令ついては、3月31日公布の所得税法等の一部を改正する法律では規定されていなかったが、6月6日付けの官報第7278号で租税特別措置法施行規則の一部を改正する省令が公布され、これらの規定が整備されている。 なお①固定資産税の減免措置については、6月14日公開の本誌No.272より連載がスタートする(②については8月下旬より連載開始予定)。 また、生産性向上特別措置法と同日に公布された産業競争力強化法等の一部を改正する法律については、現在、関連する法令告示がパブリックコメントに付されており(意見・情報受付締切日は2018年6月26日)、7月上旬の施行が予定されている。 【①の参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 【②の参考図】 (※) 経済産業省ホームページより (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁、「収益認識に関する会計基準」に対応した 改正法人税基本通達等を公表 ~中小企業は従前の取扱いによることも可能とする等の整備方針を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年5月30日、国税庁は、「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)を公表した。 これは、平成30年度の法人税関係法令等の改正のうち「収益認識に関する会計基準」の導入に伴う改正に対応し、所要の整備を図ったものである。 改正通達の公表に際して、特設ページ「「収益認識に関する会計基準」への対応について」が公表され、主な改正項目に関する詳細な説明や、「収益認識に関する会計基準」に沿って会計処理を行った場合に会計・法人税・消費税のいずれかの処理が異なることとなる典型的なケースを示した「収益認識基準による場合の取扱いの例」等を確認することができ、改正法人税基本通達の理解に資するものと思われる。 また、平成30年5月29日には、「消費税法基本通達の一部改正について」(法令解釈通達)も公表されている。これは、消費税関係法令の一部が改正されたことに伴い所要の整備を図るものであり、こちらも「収益認識に関する会計基準」に係る改正が行われている。 本稿は、これらのうち主な事項について解説を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 法人税基本通達等の整備方針 整備方針は次のとおりである(「「収益認識に関する会計基準」への対応について」16ページ)。 ① 「収益認識に関する会計基準」は収益の認識に関する包括的な会計基準である。 ② 履行義務の充足により収益を認識するという考え方は、法人税法上の実現主義又は権利確定主義の考え方と齟齬をきたすものではないことから、改正法人税基本通達には、原則として「収益認識に関する会計基準」の考え方を取り込んでいく。 ③ 一方で、「収益認識に関する会計基準」について、過度に保守的な取扱いや、恣意的な見積りが行われる場合には、公平な所得計算の観点から問題があるため、税独自の取扱いを定める。 ④ 中小企業については、引き続き従前の「企業会計原則」等に則った会計処理も認められることから、従前の取扱いによることも可能とする。 Ⅲ 法人税基本通達等の主な改正内容 1 概要 次のものが改正されている。 「I 法人税基本通達関係」に関する項目は次のとおりである(上記のⅡからⅣまでは割愛する)。 2 収益の計上の単位の通則(法人税基本通達2-1-1) 資産の販売等に係る収益の額は、原則として個々の契約ごとに計上する。 ただし、次に掲げる場合には、それぞれに定めるところにより区分した単位ごとにその収益の額を計上することができる。 3 資産の販売等に伴い保証を行った場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の3) 資産の販売等に伴いその販売もしくは譲渡する資産又は提供する役務に対する保証を行った場合において、当該保証がその資産又は役務が合意された仕様に従っているという保証のみであるときは、当該保証は当該資産の販売等とは別の取引の単位として収益の額を計上することにはならない。 4 ポイント等を付与した場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の7) 資産の販売等に伴い、自己発行ポイント等を相手方に付与する場合において、一定の要件のすべてに該当するときは、継続適用を条件として、当該自己発行ポイント等について当初の資産の販売等とは別に、将来の取引に係る収入の一部又は全部の前受けとすることができる。 5 資産の販売等に係る収益の額に含めないことができる利息相当部分(法人税基本通達2-1-1の8) 資産の販売等を行った場合において、次に掲げる額及び事実並びにその他のこれらに関連するすべての事実及び状況を総合的に勘案して、当該資産の販売等に係る契約に金銭の貸付けに準じた取引が含まれていると認められるときは、継続適用を条件として、当該取引に係る利息相当額を当該資産の販売等に係る収益の額に含めないことができる。 6 資産の引渡しの時の価額等の通則(法人税基本通達2-1-1の10) 販売もしくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とは、原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額をいう。 なお、資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度終了の日までにその対価の額が合意されていない場合は、同日の現況により引渡し時の価額等を適正に見積もるものとする。 7 変動対価(法人税基本通達2-1-1の11) 資産の販売等に係る契約の対価について、値引き等の事実により変動する可能性がある部分の金額(変動対価)がある場合において、一定の要件のすべてを満たすときは、変動対価について引渡し等事業年度の確定した決算において収益の額を減額し、又は増額して経理した金額(引渡し等事業年度の確定申告書に当該収益の額に係る益金算入を減額し、又は増額させる金額の申告の記載がある場合の当該金額を含む)は、引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映するものとする。 8 相手方に支払われる対価(法人税基本通達2-1-1の16) 資産の販売等に係る契約において、いわゆるキャッシュバックのように相手方に対価が支払われることが条件となっている場合(損金不算入費用等に該当しない場合に限る)には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度において、その対価の額に相当する金額を当該事業年度の収益の額から減額する。 9 検針日による収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-4) ガス、水道、電気等の販売をする場合において、週、旬、月を単位とする規則的な検針に基づき料金の算定が行われ、法人が継続してその検針が行われた日において収益計上を行っているときは、当該検針が行われた日は、その引渡しの日に近接するものとする。 10 役務の提供に係る収益の帰属の時期の原則(法人税基本通達2-1-21の2、2-1-21の3) 役務の提供に係る収益の額は、その役務の提供が、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当する場合には、役務の提供の期間において履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度の益金の額に算入し、履行義務が一時点で充足されるものに該当する場合には、引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 11 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係る収益の額の算定の通則(法人税基本通達2-1-21の5) 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係るその履行に着手した日の属する事業年度から引渡し等の日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する収益の額は、提供した役務につき通常得べき対価の額に相当する金額に当該各事業年度終了の時における履行義務の充足に係る進捗度を乗じて計算した金額から、当該各事業年度前の各事業年度の収益の額とされた金額を控除した金額とする。 12 請負に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-21の7) 請負による収益の額は、原則として引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、当該請負が、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当する場合において、その履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度において進捗度に応じて算定される額を益金の額に算入しているときは、これを認める。 13 知的財産のライセンスの供与に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30) 知的財産のライセンスの供与に係る収益の額については、次に掲げる知的財産のライセンスの性質に応じ、それぞれ次に定める取引に該当するものとする。 14 知的財産のライセンスの供与に係る売上高等に基づく使用料に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30の4) 知的財産のライセンスの供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づく使用料が知的財産のライセンスのみに関連している場合又は当該使用料において知的財産のライセンスが主な項目である場合には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度において当該使用料についての収益の額を益金の額に算入する。 15 工業所有権等の使用料の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30の5) 法人税基本通達2-1-21の2及び2-1-21の3並びに2-1-30の4にかかわらず、工業所有権等又はノウハウを他の者に使用させたことにより支払を受ける使用料の額について、法人が継続して契約によりその使用料の額の支払を受けることとなっている日において収益計上を行っている場合には、当該支払を受けることとなっている日は、その役務の提供の日に近接する日に該当するものとする。 16 商品引換券等の発行に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-39) 商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合における当該対価の額は、原則としてその商品の引渡し等に応じてその商品の引渡し等のあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、その商品引換券等の発行の日から10年が経過した日(同日前に一定の事実が生じた場合には、当該事実が生じた日。「10年経過日等」という)の属する事業年度終了の時において商品の引渡し等を完了していない商品引換券等がある場合には、当該商品引換券等に係る対価の額を当該事業年度の益金の額に算入する。 17 非行使部分に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-39の2) 商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合において、その商品引換券等に係る権利のうち相手方が行使しないと見込まれる部分の金額(非行使部分)があるときは、その商品引換券等の発行の日から10年経過日等の属する事業年度までの各事業年度においては、当該非行使部分に係る対価の額に権利行使割合を乗じて得た金額から既に益金の額に算入された金額を控除する方法その他のこれに準じた合理的な方法に基づき計算された金額を益金の額に算入することができる。 18 返金不要の支払の帰属の時期(法人税基本通達2-1-40の2) 資産の販売等に係る取引を開始するに際して、相手方から中途解約のいかんにかかわらず取引の開始当初から返金が不要な支払を受ける場合には、原則としてその取引の開始の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、当該返金が不要な支払が、契約の特定期間における役務の提供ごとに、それと具体的な対応関係をもって発生する対価の前受けと認められる場合において、その支払を当該役務の提供の対価として、継続して当該特定期間の経過に応じてその収益の額を益金の額に算入しているときは、これを認める。 19 本人と代理人の区分 法人税は、利益に対して課する税金であるため、総額表示か純額表示かによって、課税所得が変わることは基本的にはない。 このため、販売するのが本人であっても代理人であっても、履行義務の充足のタイミングについては変わらないと考えられるため、法人税基本通達では対応しない。 Ⅳ 消費税法基本通達の主な改正内容 第9章 資産の譲渡等の時期の「第3節 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例」が第9章 資産の譲渡等の時期の「第3節 リ-ス譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」へ改正されるなど、「長期割賦販売等」から「リ-ス譲渡」へ改正されている(消費税法基本通達9-3-1、9-3-4など)。 また、「法人が行う長期割賦販売等の範囲」、「長期割賦販売等の要件」が削除されている(消費税法基本通達9-3-2、9-3-3)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される ~パブコメを受けESG要素への言及も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年6月1日、株式会社東京証券取引所は、改訂コーポレートガバナンス・コードを公表し、また、金融庁は、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表した。 これにより、平成30年3月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、平成30年3月の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言を受けたものである。 「「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメントに対する考え方」という)と「投資家と企業の対話ガイドライン案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」も公表されているので、コーポレートガバナンス・コード及び「投資家と企業の対話ガイドライン」の理解に資するものと思われる。 パブリック・コメントにおいて、「ESGに関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』についてコードに盛り込むべき」との意見が複数寄せられたことを受け、本年3月30日公表の制度要綱で示したコード改訂案に加えて、コードの第3章「考え方」において、「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化している(「コメントに対する考え方」(番号295~303))。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの改訂 主に次の事項が改訂されている。 「コメントに対する考え方」(番号35、36、214、215)では、「資本コスト」は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられ、適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられると記載されている。 また、原則5-2において、資本コストの数値自体の開示は求められていないが、「投資家と企業の対話ガイドライン」1-2において「目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか」との点が示されていることも踏まえ、同原則が求める「収益力・資本効率等に関する目標を提示」する中で、投資家に対して、自社の資本コストについての考え方や経営における活用状況などを分かりやすく説明することが求められるものと考えると記載されている。 Ⅲ 投資家と企業の対話ガイドライン 「投資家と企業の対話ガイドライン」は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものであり、両コードの附属文書として位置付けられるものである。 次の5つの事項が述べられている。 Ⅳ 適用時期等 コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、本年6月1日から施行する。 上場会社は、改訂後のコードの内容を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第速やかに、遅くとも本年12月末日までに提出するものとする。 「コメントに対する考え方」(番号20)では、改訂されたコーポレートガバナンス・コードの原則について、実施する意思があっても、本年12月末日までに実施することが難しい場合にあっては、「コードの各原則を実施しない理由」の説明において、今後の取組み予定や実施時期の目途を記載することが考えられると記載されている。 また、「コメントに対する考え方」(番号24)では、利用者への配慮の観点から、コーポレート・ガバナンスに関する報告書更新の際には、新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する等の対応が上場会社においてなされることが期待されると記載されている。 (了)
2018年5月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.270を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第7回】 「平成30年度税制改正における恒久的施設定義の見直し」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 BEPS勧告に忠実な日本 平成30年度税制改正のうち国際課税に関する項目は、ここ数年と同様、G20・OECDが主導する「税源浸食・利益移転(BEPS)プロジェクト」の国際合意を実践するための施策を中心に構成された。すなわち、外国法人課税において帰属主義を適用する上での閾値となる恒久的施設(PE)の定義を、BEPS合意の内容を体現した2017年版OECDモデル条約第5条の規定にほぼ沿った形で、改正したのである。 PEの定義については、租税条約の合意がオーバーライドするため、必ずしも国内法の規定が常に有効となるわけではないが、PE該当性を免れる租税回避の懸念に答えたBEPS勧告を忠実に反映した国内法改正は、我が国のBEPS対応への積極性を誇示するものといえよう。 なお、条約面でPE定義の拡大を目指す条項を含む多国間協定(MLIと略す。我が国は2017.6署名、2018.5国会承認を終え今後批准書をOECDへ寄託の予定)においても、我が国は契約分割対応を除き留保なしで国内法と同趣旨の改正を受入選択しており、この点でも、MLIに未参加の米国や参加しつつもPE規定につき留保が多い英国等の主要国よりも一歩前へ進んでいる。 ところで、PEの定義に関する上記の二元主義立法体系の下では、仮に、MLIより狭く国内法がPE定義を行ったとすると、MLIへの参加は、国内法の求める要件の下で成立する納税義務よりも拡大した納税義務を外国法人等に求めることになってしまう。憲法が保障する租税法律主義の下では、このような事態の発生は許容されないと考えられる。かといって、我が国の国内法のPE規定が、改正前と同様の広範な定義(例えば在庫保有代理人を含む)を残存させると、BEPS勧告の趣旨に違反することになり信用を失う。 以上のことから、今回の条約条項を率直に反映した改正は妥当なものと思われる。 2 具体的改正の内容 PEは、外国法人のみならず非居住者課税の閾値でもあるが、以下では前者に関係する法人税法改正に沿って解説する。 (1) PE定義の改定 支店等PE、建設PE及び代理人PEの3区分の枠組みは維持された。支店PEと代理人PEに係る定義については、法律レベルの改正はなく、いずれも既存の委任条項を活用した政令改正でBEPS対応改正が行われたのに対し、建設PEについては、従来法律レベルで1年超の閾値を含めて定義しきっていたため、新たに政令委任条項を法律に付加して、BEPS防止対応策の細目(存続期間要件等)を政令で規定した。その詳細は以下の通り。 ① 支店PEの見直し 特定活動のみを行う場所をPE除外とする条項も、OECDモデル条約5条4項の規定ぶりに合わせた。すなわち、物品の保管、引渡し、情報収集、基礎研究等の例示活動の定性的な評価のみで判断せず、その活動全体が準備的・補助的活動と判断されるかで判断することとなり、大規模多機能倉庫を利用する業態へのPE認定余地が開かれたのである。なお、例示された活動内容は、すべてモデル条約5条4項と同一のものである。 なお、検証対象が特定活動に一次的に該当しないように法的に構成されていても、個々の「細分化活動」が一体的な業務の一部として補完的な機能を果たす場合には、細分化活動の組み合わせによる活動の全体が当該外国法人の事業の遂行にとって準備的又は補助的な性格のものかどうかが判断されることも明記されている。本取扱いは、支店等PEのみならず建設PEにも同様に適用される。 ② 建設PEの見直し 建設PEについては、存続期間の閾値(1年超)を政令事項としたほか、建設工事等に係る契約が分割して締結されていた場合には、BEPS防止目的で「1年超」の要件を満たすかどうかの判定は、期間の合算により行うことが明示された(ただし、正当な理由により契約を分割した場合は除外)。 契約の分割への対処について、MLIは、建設工事等に係る契約がPE該当を免れることを「主たる目的の1つ」として分割された場合に期間合算すると規定しており、そのような立法方式も想定されたが、我が国では一般的否認規定(GAAR)の特徴を持つそのような規定を国内法レベルに持ち込むことは、時期尚早と判断されたのかもしれない。GAARの採用は、今後の課題と思われる。 ③ 代理人PEの見直し 代理人PEも、モデル条約5条5項の規定に忠実な改正となった。すなわち、従来の契約締結代理人の枠組み(外国法人のために、その事業に関し契約締結権限を有し、かつ、これを反復継続して行使する者)を広げて、「国内において外国法人に代わって、その事業に関し、反復して一定の契約を締結し又は当該外国法人によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される一定の契約の締結のため反復して主要な役割を果たす者」を新たに「契約締結代理人等」と規定した。 併せて、対象となる一定の契約の中身については、①当該外国法人の名において締結される契約、②当該外国法人が、所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約、③当該外国法人による役務の提供のための契約、の3種を特定している。 また、独立代理人を除外する規定も、モデル条約5条6項と同様に別途独立して規定され、内容もそれを忠実に反映したもの(もっぱら又は主として1又は2以上の自己と特殊の関係にある者に代わって行動するものを除外)とされている。 (2) 置換規定の設置 国内法と条約の間に、PE定義に乖離があった場合の優先適用順序につき、解釈上の疑義を立法的に解決する条項(置換条項)を新設した。当該条項は、PEの定義規定である法2条12の19号に概要以下の通り規定されている。 当該条文は、ソースルールに関する139条と同様、条約の規定を国内法化して適用する旨定めるものであり、同一の課税要件につき両法制に抵触があった場合の解釈上の疑義を抜本的に解決するものと期待される。 (了)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第4回】 「不動産鑑定評価について(その2)」 -対象確定条件- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第2回目となる今回は、鑑定評価を求める不動産の対象確定条件(依頼内容に応じて対象不動産の内容等を確定させるための条件をいいます。)について確認します。 解決への指針 不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定することのみならず、鑑定評価の対象となる所有権及び所有権以外の権利を確定させる必要があります。 この対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を「対象確定条件」といいます。 対象確定条件は、次に掲げる事項を確定するために必要な条件となります。 上記(1)及び(2)に掲げる対象不動産の内容の確定に当たっては、依頼内容に応じて次のような条件により行われるものとされており、税理士等が評価通達によらないいわゆる時価申告を行うに当たって、対象不動産の客観的な時価(交換価値)を不動産鑑定士等に算定してもらう際には必須の伝達情報となるものと考えられます。 (イ) 現状所与の鑑定評価 不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすることをいいます(【図1】をご参照)。 【図1】 現状所与の鑑定評価 (注) アミかけ部分が、不動産鑑定評価の対象とされているところ。 (ロ) 独立鑑定評価 不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすることをいいます(【図2】をご参照)。 【図2】 独立鑑定評価 (注) アミかけ部分が、不動産鑑定評価の対象とされているところ。 (ハ) 部分鑑定評価 不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすることをいいます(【図3】をご参照)。 【図3】 部分鑑定評価 (注) アミかけ部分が、不動産鑑定評価の対象とされているところ。 (ニ) 併合鑑定評価 不動産の併合を前提として、併合後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすることをいいます(【図4】をご参照)。 【図4】 併合鑑定評価 (注) アミかけ部分が、不動産鑑定評価の対象とされているところ。 (ホ) 分割鑑定評価 不動産の分割を前提として、分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすることをいいます(【図5】をご参照)。 【図5】 分割鑑定評価 (注) アミかけ部分が、不動産鑑定評価の対象とされているところ。 * * * 不動産鑑定士等が上掲の対象確定条件について順守しなければならない事項は、次のとおりです。 一方、税務時価評価(評価通達の定めによらずに、当該評価対象財産の価額を時価(客観的な交換価値)により求めるための評価)を不動産鑑定に求める場合には、対象不動産が上記【ロ】に掲げるような状況((A)対象不動産が土地及び建物の結合により構成される場合、(B)対象不動産の使用収益を制約する抵当権等の権利が付着している場合)であっても、独立鑑定評価を行う必要があり現状所与の鑑定ではその目的を達することはできませんので留意する必要があります。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第39回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第5章》 平成18年度税制改正) 7 非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金不算入 (1) 導入の経緯 平成18年度税制改正前は、退職給付引当金を含む負債性引当金の取扱いが明確ではなかった(※1)。さらに、平成18年度から企業結合会計、事業分離等会計が導入された結果、会計上、「営業権」と「のれん」の概念が明確に区別され、貸借対照表における表示のほとんどは「のれん」に改められた。 (※1) 『平成18年版改正税法のすべて』365頁。 このような会計上の取扱いの変化に対応し、法人税法において、資産調整勘定及び負債調整勘定という新たな概念が導入されることになった(※2)。具体的には、以下のものが規定されている。 (※2) 前掲(※1)365-366頁。 これらの基本的な考え方は、パーチェス法における以下の概念に対比していると考えられる。 上記のうち、法人税法62条の8第1項では、資産調整勘定の概念について規定されており、非適格合併等により交付した合併法人株式等、金銭その他の資産(以下、「合併対価資産」という)の合計額から、移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を控除した金額として計算が行われる。すなわち、合併対価資産の時価を個別の資産及び負債の取得価額に「配分」し、配分残余の部分について「資産調整勘定(又は差額負債調整勘定)」に「配分」するという考え方が採用されている。そのため、資産調整勘定は、単なる差額概念であり、それ単独で評価されるものではないということが言える。 このように、合併対価資産の時価から資産調整勘定の金額を算定するという考え方は、法人税法施行令8条に規定されている増加資本金等の額の計算の考え方と整合的であると言える。 〈合併における受入処理(イメージ図)〉 ただし、非適格合併を行った場合には、被合併法人から合併法人に対して資産及び負債を移転し、合併法人から被合併法人に対して合併対価資産が交付されたとみなすため(法法62①)、時価と異なる合併比率であった場合に、寄附金又は受贈益を認識した後の合併対価資産の時価により資産調整勘定を計算すべきなのかが問題となる。 この点については、条文上、寄附金又は受贈益を認識した後の合併対価資産の適正な時価に基づいて資産調整勘定を認識することが明らかにされている。そして、法人税法62条1項に規定する被合併法人又は分割法人における譲渡損益の計算においても、寄附金又は受贈益を認識した後の適正な時価に基づいて譲渡損益を認識すべきであると考えられる。 そして、「当該資産の取得価額の合計額が当該負債の額の合計額に満たない場合には、その満たない部分の金額を加算した金額」と規定されている。 このような規定が設けられた理由は、時価純資産価額が資産の取得価額から負債の額を控除して算定することから、時価純資産価額がマイナスになることはあり得ないため、負債の額が100であり、資産の取得価額が30であり、合併対価資産の時価が300である場合に、時価純資産価額を超える金額(300)に満たない部分の金額(70)を加算することで、資産調整勘定を370として計算できるようにしたものであると考えられる(※3)。 (※3) 前掲(※1)366頁参照。 (2) 非適格合併等の範囲 非適格合併を行った場合には、資産調整勘定及び負債調整勘定を認識すべきであることは明らかであるが、非適格分割、非適格現物出資、事業譲受けについては、非適格分割等の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割等により当該非適格分割等に係る分割承継法人等に移転するものに限定されている。 このような規定が設けられた趣旨として、 と解説しているものの(※4)、「この制度が負債に関する実務的な問題に対応する観点から設けられているといった趣旨を踏まえ、広範な適用が望まれるところです。」(※5)としていることからも、単なる従業員の転籍に伴う退職給付引当金の引継ぎについてはともかくとして、一般的に資産調整勘定、差額負債調整勘定が生じる取引については、なるべく資産調整勘定、差額負債調整勘定の認識を認めようとしていることが分かる。 (※4) 前掲(※1)366頁。 (※5) 前掲(※1)367頁。 そのため、「当該非適格分割等の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割等により当該非適格分割等に係る分割承継法人、被現物出資法人又は譲受け法人に移転をするもの」としているが、税制適格要件における主要資産等引継要件のような厳格なものではないと考えられる(※6)。 (※6) 『平成18年度改正税法のすべて』367頁では、主要な資産を引き継ぐのではなく、賃貸する場合であっても、法人税法施行令123条の10第1項の要件を満たすことが明らかにされている。 (3) 資産等超過差額 資産調整勘定を認識した場合には、5年間の均等償却により、将来の課税所得を圧縮することができる(法法62の8④⑤)。しかし、法人税法施行規則27条の16では、下記の場合には、資産調整勘定としてなじまないことから、資産等超過差額として処理することにより、将来の課税所得の圧縮を行うことができないこととしている。 しかし、上記ロについては、条文構成上、寄附金の規定が資産等超過差額の規定よりも優先的に適用されるため、実際に適用されることは稀であると考えられる。 なお、資産等超過差額は、資産調整勘定のように損金の額に算入することは認められていないが、資産としての扱いまでは否定されていない(※7)。このことから、資産調整勘定を資産として捉えたうえで、組織再編税制上、時価純資産超過額が繰越欠損金を超える場合の特例(法令113、123の9)における時価純資産超過額の算定上、資産調整勘定を含めて計算すべきであるという解釈に繋がっていくことになる。この点については、本連載のどこかで解説する予定である。 (※7) 前掲(※1)368頁。 * * * 次回では、第6章として、平成19年度税制改正について解説を行う予定である。 (了)
小規模宅地等の特例に関する 平成30年度税制改正のポイント 【第2回】 「貸付事業用宅地等の見直し」 税理士 風岡 範哉 平成30年度税制改正により、平成30年4月1日以後の相続等から、いわゆる“家なき子特例”や“貸付事業用宅地”に係る小規模宅地等の特例の要件が厳格化された。 前回に続き、今回は貸付事業宅地等の特例の見直しについて確認していきたい。 1 貸付事業用宅地等の特例の概要 小規模宅地等の特例は、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要となる。 このうち「貸付事業用宅地等」とは、相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、下記〔図表2〕の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(措法69の4③四)。 なお、貸付事業とは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)が該当する(措令40の2⑥)。 貸付事業用宅地等に該当する場合は、被相続人が所有する全ての土地のうち限度面積200㎡まで50%の減額をすることができる(措法69の4①二・②)。 〔図表2〕 貸付事業用宅地等の要件 2 問題点 貸付用不動産は、居住用不動産や事業用不動産に比べて、制約が少ないことから、購入しやすく売却もしやすい。 そこで、一時的に現金を不動産に換え、特例を適用して相続税負担を軽減するケースが問題とされていた。 3 改正点 今回の税制改正において、相続開始前3年以内に貸付けを開始した不動産については、小規模宅地等の特例の対象から除外することとされた。 ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模(※)で貸付事業を行っている者が貸付事業の用に供しているものを除く。 4 適用時期 上記の改正は、前回の特定居住用宅地等の特例の見直しと同様に、平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する宅地等に係る相続税について適用される(H30所法等附118①)。ただし、経過措置が設けられているため留意が必要である。なお、両改正の経過措置については次回で解説することとする。 (了)
平成30年度税制改正における 所得控除の見直しと実務への影響 【第2回】 「源泉等実務における留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回解説したように、平成30年度税制改正により給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除の控除額に見直しが行われた。これらの見直しは、源泉徴収と年末調整の実務に影響を与える。 控除額の見直しは、平成32年(2020年)分以後の所得税に適用される改正事項であり、実際に対応するのは少し先になるが、ここ数年、源泉徴収と年末調整の実務に影響する改正が多かったため、全体を整理し早めの準備を心がけたい。 【1】 源泉徴収実務への影響(平成32年(2020年)1月以後の源泉徴収) 控除額の見直しにより、源泉徴収実務に次の影響がある。 ◇税額表等の改正(所法別表第2、第3、第4) ・「給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)」 ・「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」 ◇同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、勤労学生の所得金額要件の改正 ・同一生計配偶者、扶養親族:合計所得金額48万円以下(改正前38万円以下) ・源泉控除対象配偶者:合計所得金額95万円以下(改正前85万円以下) ・勤労学生:合計所得金額75万円以下(改正前65万円以下) (1) 税額表等の改正 給与所得控除の見直しに伴い、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)」及び「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」が改正された。平成32年(2020年)1月以後の源泉徴収においては、改正後の表を適用する。 (2) 同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、勤労学生の所得金額要件の改正 前回解説したとおり、この改正は、控除額の見直しの前後で扶養親族等の範囲が変わらないようにするための措置である。したがって、改正前後で扶養親族等の対象となる者の範囲に変更はない。 なお、扶養親族等のうちに公的年金等の受給者がいる場合には、当該扶養親族等の合計所得金額の計算において、公的年金等控除の見直しが影響する点に注意が必要である。 【2】 年末調整実務への影響(平成32年(2020年)分以後の年末調整) 控除額の見直しにより、年末調整実務に次の影響がある。 ◇「年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の改正(別表第5) ◇「給与所得者の基礎控除申告書」の受理 ◇所得金額調整控除の適用に係る申告書の受理 (1) 「年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の改正 給与所得控除の見直しに伴い、「年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」が改正された。平成32年(2020年)分以後の年末調整には、改正後の表を適用する。 (2) 「給与所得の基礎控除申告書」の受理 平成32年(2020年)分以後の所得税においては、合計所得金額が2,400万円を超えると基礎控除の控除額が逓減し、2,500万円を超えると基礎控除は適用されないこととなる(所法86①)。 この見直しに伴い、年末調整で基礎控除の適用を受ける場合には、合計所得金額の見積額を申告することとされた。具体的には、新たに設けられる「給与所得者の基礎控除申告書」を、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に提出する(※)。 (※) 所得税法上は、「給与所得者の扶養控除等申告書」等と同様に、給与等の支払者経由で納税地の所轄税務署長に提出することとされている。なお、本稿公開日現在において様式は未公表。 「給与所得者の基礎控除申告書」には、以下の事項を記載することとされている(所法195の3①三、所規74の5①)。 (3) 所得金額調整控除の適用に係る申告書の受理 給与収入が850万円を超える所得者で、本人が特別障害者に該当するか、23歳未満の扶養親族、又は特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族(以下、扶養親族等という)を有する場合には、控除額の見直しにより税負担が増えないよう、給与所得から所得金額調整控除の金額を控除することとされた(措法41の3の3)。 所得金額調整控除は、年末調整で適用を受けることが可能である。年末調整で適用を受ける場合には、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に対し一定の申告書を提出する(※)(措法41の3の4)。 (※) 所得税法上は、「給与所得者の扶養控除等申告書」等と同様に、給与等の支払者経由で納税地の所轄税務署長に提出することとされている。なお、本稿公開日現在において様式は未公表。 この申告書には、以下の事項を記載することとされている(措法41の3の3の4①、措規18の23の3①)。 * * * 平成32年(2020年)分の年末調整では、控除額の見直しだけでなく、年末調整手続の電子化への対応も必要となる。源泉徴収と年末調整の実務が大きく変わることを意識しておきたい。 (連載了)