《速報解説》 国税庁、令和7年4月施行に向け 「プラットフォーム課税」の特設ページを開設 ~国外事業者及びプラットフォーム事業者向けのQ&A等を掲載~ Profession Journal 編集部 令和6年度税制改正では、国外事業者がプラットフォームを介して行う消費者向け電気通信利用役務の提供のうち、一定の規模を有するプラットフォーム事業者を介して対価を収受するものについては、そのプラットフォーム事業者が行ったものとみなして、国外事業者に代わり納税義務が課される制度(プラットフォーム課税)が導入された(令和7年4月1日以後に行われる電気通信利用役務の提供について適用)。 このほど国税庁ホームページ内に消費税のプラットフォーム課税に係る特設ページが設けられ、令和6年度税制改正で手当てされたプラットフォーム課税の導入等に対応した「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」(「国外事業者用」及び「プラットフォーム事業者用」)等が掲載されている。 特設ページでは「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」のほかプラットフォーム課税に係るリーフレットや、国外事業者等に向けた英語等による情報も掲載されている。今後、プラットフォーム課税に係る情報については本ページに集約されることが想定されるため、情報更新に注視しておきたい。 また、プラットフォーム課税の導入及び昨年10月から開始されたインボイス制度の開始を受け、上記「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」の公表と同じくして、「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」の他、リーフレットの改訂が行われている。 なお、既報のとおりプラットフォーム課税導入の取扱いや届出書の様式等を示した消費税法基本通達等の改正については、今年4月に公表されている。 (了)
2024年8月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.583を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第41回】 「源泉徴収の法律関係に関する判例法理」 -最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁による「源泉徴収法」の創造- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 所得税の源泉徴収は所得税法と国税通則法で規定されている。すなわち、所得税法は第4編(源泉徴収)において、居住者に対する利子所得に係る利子等及び配当所得に係る配当等(第1章)、給与所得に係る給与等(第2章)、退職所得に係る退職手当等(第3章)、公的年金等(第3章の2)及び報酬、料金等(第4章)の支払、並びに非居住者又は外国法人に対する一定の国内源泉所得及び内国法人に対する一定の所得の支払(第5章)について源泉徴収義務を中心に規定を設けるほか、所得税の納期の特例(第6章)並びに所得税の納付及び徴収(第7章)を定め、また、国税通則法は源泉徴収義務を「納税義務」としてその成立及び確定に関する規定の中に取り込み(15条1項・2項2号・3項2号)、その上で所得税の源泉徴収を、納税の告知(36条1項2号)を起点として国税の徴収(第3章第2節)等の手続に組み込んでいる。 このように所得税の源泉徴収については所得税法及び国税通則法で規定が整備されているが、ただ、それらの規定は源泉徴収制度を自己完結的な制度(いわば「閉じた制度」)として定めるものではない。わが国の所得税は総合課税を原則とし、その納税義務の確定及び履行について納税者の自主性・自発性に依拠・依存する申告納税制度を基本としているため、これのみでは税務行政の負担軽減及び租税の効率的な賦課徴収という同制度の趣旨の実現は期待できないことから、源泉徴収制度は、申告納税制度の上記の趣旨を実現しこれを補完する制度(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【121】【151】参照)という意味で、原則として(租税特別措置法が定める源泉分離課税を除き)、申告納税制度に対していわば「開かれた制度」となっている。つまり、源泉徴収をめぐる紛争の解決は申告納税制度の枠内で図られることを建前とする制度となっているのである(ただし、その建前を貫徹するための規定が税法上整備されているわけでない)。 その結果、源泉徴収制度は、その側面において、源泉徴収の当事者(国・支払者・受給者)の間で意見の対立ないし紛争が生じた場合これを自己完結的に解決するための規定を備えていない制度となっており、その意味で「法の欠缺」を内包した制度となっているのである。そのような「法の欠缺」を「判例による法の創造」(中野次雄編『判例とその読み方〔三訂版〕』(有斐閣・2009年)219頁)によって補充したのが、最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁(以下「本判決」という)である。 本判決は、「裁判例・学説とも比較的乏しく、判例としてなお未開拓の分野に属する・・・・・・源泉徴収に関する法律関係についての、やや異例ともいうべき長文の見解」(可部恒雄「判解」最判解民事篇(昭和45年度(下))1093頁、1097頁。下線筆者)をもって、源泉徴収の当事者間での意見対立・紛争の解決のための規定を備えたいわば「源泉徴収法」ともいうべき法を創造したといえる。つまり、法の支配の要請において裁判所による紛争解決ルールの確立は法が備えるべき不可欠の要素の1つであると考えられるが(長谷部恭男『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)19頁参照)、本判決はその要素を源泉徴収制度に組み込み「源泉徴収法」を創造したといえるのである。 今回は、本判決が創造した「源泉徴収法」の内容を整理し検討することにするが(Ⅲ)、その前に、「源泉徴収法」の創造に関する判断の過程に即して、本判決の内容を整理しておくことにする(Ⅱ)。本判決は、前述のとおり、「源泉徴収に関する法律関係についての、やや異例ともいうべき長文の見解」を示したものであるが、「源泉徴収法」の創造に関する判断の過程及び内容を明らかにするために、やや長くなるとはいえ、本判決の判示をできるだけそのまま引用しておくことにしよう。 Ⅱ 本判決の内容 1 支払者・受給者間の紛争 本判決の事案(金員支払請求事件)は次のとおりである。すなわち、法人X(原告・被控訴人・被上告人)の役員Y1及びY2(被告・控訴人・上告人)がXから簿外定期預金の払出しを受け(Y1)、また、X所有不動産の譲渡を受けた(Y2)ことにつき、所轄税務署長NがY1及びY2の退任後、Xの過年度分の所得調査に当たり、昭和39年3月10日、払い出された本件簿外定期預金相当額をY1の所得として、本件不動産の譲渡を低廉譲渡とみてこれによる売却損に相当する経済的利益をY2の所得としてそれぞれY1及びY2に対する役員賞与を認定した上で、当該認定賞与に係る所得税の源泉徴収・納付がされていなかったとして、源泉徴収義務者たるXに対し、旧所得税法(昭和22年法律第27号)43条1項(現行所得税法221条1項)に基づき源泉徴収による所得税の本税並びに不納付加算税及び旧利子税の支払を請求し、その旨の納税の告知をしたところ、Xは上記各税の全額を期限内に納付した上で、Nによる役員賞与の認定に対して不服申立てをしたものの不首尾に終わったので、それまで以上の事実をY1及びY2に知らせることがなかったものの、昭和40年3月8日頃、内容証明郵便をもって上記不服申立ての結果を通知するとともに、旧所得税法43条2項(現行所得税法222条)に基づき上記納付税額の支払をY1及びY2に請求し、その後その請求に係る本訴を提起した。 本訴におけるY1及びY2の抗弁について、本判決は次のとおり要約している。 上記の抗弁のうち抗弁(一)は、本件簿外定期預金の払出し及び本件所有不動産の譲渡に係るY1及びY2の納税義務の不存在を前提としたものであるが、その納税義務の不存在は、本件簿外定期預金の払出し及び本件所有不動産の譲渡に係るY1に対する所轄税務署長Hの一時所得認定処分が、Y1による異議申立てを受けて昭和39年4月1日、Hにより全部取り消されたことによって、確定されていたことを理由とするものである(上告理由民集24巻13号2257頁、原々審・名古屋地判昭和41年12月22日民集24巻13号2260頁におけるY1及びY2の主張参照)。また、抗弁(二)(三)は、本件納税の告知を受け期限内に全額を納付したXによるY1及びY2に対する求償権行使の適否とY1及びY2による支払拒絶の適否をめぐるものである。 前記の抗弁(一)(二)(三)はいずれも上記名古屋地判及び原審・名古屋高判昭和42年12月18日民集24巻13号2269頁によって排斥されたが、本判決は「論旨は、前記抗弁(二)(三)を排斥した原判決の判断を非難するものである」として、前記抗弁(二)(三)の当否について次の2でみる順に判断した。 2 源泉徴収の法律関係とこれをめぐる意見対立・紛争の解決 本判決は、「本件においては、論旨の検討に先だつて、源泉徴収の法律関係を考察する必要がある。」と述べ、まず、所得税法に基づく源泉徴収義務を前提として、その成立及び確定に関する国税通則法の規定内容について次のとおり判示し(下線筆者。以下「判旨A」という)、源泉徴収の基本的法律関係に関する理解を明らかにした。 本判決は上記の理解を前提にして、「この場合、納税義務の存否またはその範囲いかんにつき、支払者と税務署長との間に意見の対立があるときは、支払者はいかなる手続によりこれを争うべきかの問題を生ずる。」(下線筆者)と述べ、この問題に関する判断の決め手として「納税の告知」の法律的な性質について次のとおり判示した(下線筆者。以下「判旨B」という)。 本判決は、判旨Bを受けて、支払者の納税義務(源泉徴収義務)と受給者の源泉納税義務との関係を、「5、以上のとおり、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。」(下線筆者)と整理した上で、これに「したがつて」で接続して、受給者と支払者との対立調整について争訟方法を含め次のとおり判示した(以下「判旨C」という)。 以上の判示に基づき、本判決は、次のとおり判示して抗弁(二)(三)を「失当」と判断した(下線筆者。以下「判旨D」という)。 なお、本判決は判旨Dの判示に先立ち、判旨Bに照らして次のとおり本件における納税の告知の法律的性質に関する原判決の「誤解」を指摘している。 Ⅲ 「源泉徴収法」の内容 1 法律関係二分法 源泉徴収の法律関係を理解するには、まず、源泉徴収制度が補完する申告納税制度に立ち返って、受給者(ここでは居住者を想定して検討を進める)の納税義務の意味を明らかにする必要がある。受給者は、給与所得(所税28条1項)に係る課税要件の充足をもって給与所得に係る所得税の納税義務を負うとともに、給与所得に該当する給与等の支払を受ける場合(同183条1項)に源泉徴収との関係で当該給与等に係る所得税の納税義務を負う。後者の納税義務を本判決は「源泉納税義務」と呼び、前者の納税義務(以下では最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁の用語法に従い「申告所得税の納税義務」という)と区別して、源泉徴収制度において給与等の支払者が負担する「徴収義務」と「表裏をなす関係」にある納税義務と観念している(判旨B参照)。この両者(源泉納税義務と申告所得税の納税義務)の区別については、「ここ[=本判決]にいわゆる『源泉納税義務』とは、もとより、都度計算主義による当該源泉徴収かぎりでの、租税負担義務にほかならず、期間計算主義による所得税一般の『納税義務』[=申告所得税の納税義務]を意味するものでないことは、改めていうまでもないところである。」(可部・前掲「判解」1101頁。下線筆者)という説明もみられる。 このように、受給者の納税義務について、所得税法においては2種類のものが定められていることになるが、明文の規定で定められているのは申告所得税の納税義務だけであり、源泉納税義務は、支払者の徴収義務(源泉徴収義務)と「表裏をなす関係」において源泉徴収制度の枠内でのみ通用する「不文の納税義務」ともいうべきものである。なお、受給者の源泉納税義務は従来「単に源泉徴収されることを受忍する受忍義務」と観念されていたところ、「源泉徴収義務者である支払者において徴収義務を負担するのは、受給者においてまず源泉納税義務を負うことが前提となっており、両者は表裏の関係にあることを明らかにし」、「源泉徴収制度の法構造を明確ならしめた」という点は、本判決の「重要な意義」の1つである(以上の引用は村上義弘「判批」別冊ジュリスト120号(租税判例百選〔第3版〕・1992年)170頁、171頁。可部・前掲「判解」1114頁(注8)も参照)。 本判決は、源泉徴収制度の枠内で、以上で述べたようなその「表」にある支払者の源泉徴収義務とその「裏」にある受給者の源泉納税義務を前提にして、国税通則法に則して、その「表」の義務(支払者の源泉徴収義務)の方を、国(課税権者)に対する義務という意味で「納税義務」と称した上で、その成立及び確定をいわゆる自動確定方式(前掲拙著【119】参照)により観念することとし(15条)その履行の実現を税務署長による納税の告知(36条)という「徴収処分」によって図ることとする公法上の義務として、構成したものと解される(判旨A・B参照)。 他方、本判決は、納税の告知が徴収処分であり、支払者の納税義務の存否・範囲はこれにより公定力をもって確定されるものではなく徴収処分の前提問題にすぎないと判示するが(判旨B・C参照)、そうである以上、「支払者の『徴収すべき税額』と受給者の『徴収されるべき税額』との一致は、法が自明の前提として予定するところ」(可部・前掲「判解」1102頁)という場合の「自明の前提」は、支払者の源泉徴収義務と受給者の源泉納税義務との「表裏をなす関係」が私法上の求償関係を成立させるための「自明の前提」であることを意味するものと解される。なお、支払者による求償権の行使について所得税法が規定(222条)を置いているのは、賃金全額払の原則(労基24条1項本文)との関係で求償権行使に強制力を付与するためであって、私法上の求償関係の性格を変更するものではない(前掲拙著【152】参照)。 本判決は、以上のような法律関係二分法(公法上の法律関係と私法上の法律関係)によって「源泉徴収に関する法律関係の基本構造」(可部・前掲「判解」1098頁)を明らかにしたものと解される(前掲拙著【152】、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1022頁等参照)。 2 源泉徴収に関する紛争解決方法 本判決は、源泉徴収に関する紛争解決方法を、前記の法律関係二分法に基づく①支払者と国との法律関係と②支払者と受給者との法律関係との区分に応じて、提示している。 まず、①支払者と国との法律関係においては、源泉徴収義務を全部又は一部しか履行しなかったとして支払者に対して納税の告知がされる場合が問題となるが、その場合、支払者は納税の告知に対して不服申立て及び抗告訴訟を提起することができるものとされている(判旨B)。 納税の告知は「課税処分」ではなく「徴収処分」であるが、「前記により[いわば自動(働)的に]確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため」、不服申立て及び抗告訴訟の対象とされたのである。その意味で、納税の告知は形式的行政処分に属する行為であると考えてよかろう(芝池義一『行政救済法』(有斐閣・2022年)52頁参照)。 次に、②支払者と受給者との法律関係において、㋐未徴収又は過少徴収の場合は、支払者からの求償を受給者が拒絶することができるかが問題になるが、この問題については、それが私法上の求償関係の問題であることを前提にして、受給者は源泉納税義務の存否又は範囲を争って、支払者の請求を全部又は一部拒絶することができるものとされ、他方、㋑過大徴収の場合は、受給者は過大徴収税額相当額の控除後の残額の支払につき債務の一部不履行として当該控除額に相当する債務の履行を請求することができるかが問題になるが、この問題についても、同様に私法上の求償関係において、その請求をすることができるものとされている(判旨C前段落)。 以上に関連して、前記の①及び②のいずれにおいても当事者となる支払者がいずれの訴訟においても敗訴した場合を想定して、本判決は、「支払者は、かかる不利益を避けるため、右の抗告訴訟にあわせて、またはこれと別個に、納税の告知を受けた納税義務の全部または一部の不存在の確認の訴えを提起し、受給者に訴訟告知をして、自己の納税義務(受給者の源泉納税義務)の存否・範囲の確認について、受給者とその責任を分かつことができる。」(判旨C後段落)と判示している。受給者に対する訴訟告知に関するこの判示は、支払者の源泉徴収義務と受給者の源泉納税義務とが「表裏をなす関係」にあることを前提にして、前者に係る不存在確認の訴えにおいて「紛争の一回的解決」を図ることを考慮した判示であると解される。 Ⅳ おわりに 今回は、本判決による「源泉徴収法」の創造について、その判断の過程及び内容を整理し検討した。 「源泉徴収法」の創造に関する本判決の立場は、「(a)制度に従った処理を原則として認めつつ、しかし(b)その制度が権利救済に欠けるものであれば、制度に従った処理からの逸脱を辞さないという最高裁の立場」(高橋祐介「源泉徴収過程における過誤の是正に関する一考察」税法学571号(2014年)183頁、190頁)の現れといえるかもしれないが、少なくとも司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点からは肯定的に評価すべきであろう。ただ、それは「まがりなりにも、権利救済の途が存すること」(村上・前掲「判批」171頁)を示したにすぎないとの評価を受けても致し方ない面があることも認めざるを得ない。 本判決の問題点は、このように、源泉徴収をめぐる紛争の解決方法にもあるが(この点については差し当たり原田大樹「判批」別冊ジュリスト253号(租税判例百選〔第7版〕・2021年)220頁、221頁等参照)、そもそも、本判決が源泉徴収制度を申告納税制度と切り離して自己完結的な制度(いわば「閉じた制度」)として措定し「源泉徴収法」を創造したことそれ自体にあるように思われる。この問題点は、本判決に関する次の解説(可部・前掲「判解」1098-1099頁。下線筆者)からも窺われる。 上記の「その一」の場合には、本判決の創造した「源泉徴収法」によれば、当該支払者が過大徴収していた場合における受給者の権利救済もされないことになる。また、上記の「その二」の場合に関する「源泉徴収法」は、最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁で明示的に確認された。 更に根本的には、源泉徴収制度それ自体が紛争を惹起しやすい構造をもつ制度であることも、本判決の問題点を検討する上では忘れてはならない。本判決の事案で問題になった認定賞与とりわけ低廉譲渡に係る認定賞与について次のように述べられているところである(可部・前掲「判解」1112頁(注5)。下線筆者)。 以上のように考えてくると、本判決が判例法理として創造した「源泉徴収法」は、申告納税制度との関係も含め所得税法及び国税通則法の全体構造の中で整合的な紛争解決・権利救済ルールとして、立法によって明文の規定をもって整序・修正すべきであろう。その際、源泉徴収義務者の納税義務について、いわば「納税義務の成立を二重写しにするだけ」(忠佐市『租税法の基本原理 租税法律主義論・租税法律関係論』(大蔵財務協会・1979年)209-210頁)の自動確定の観念を用いることが妥当か否か、どの範囲で用いるのが妥当かという問題も併せて検討すべきであろう。本判決が「源泉徴収法」を創造するに当たって納税義務の自動確定を所与の前提としていることも問題であると考えるところである。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例137(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆分割が行われた場合の調整計算の原則 分割を行った法人が「試験研究費の特別控除」の適用を受ける場合には、分割前の事業年度に係る分割法人の比較試験研究費の額及び平均売上金額は、その全額を分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算する。 ◆分割が行われた場合の調整計算の特例 分割を行った法人が分割の日以後2ヶ月以内に、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額及び売上金額とを区分する合理的な方法について納税地の所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」を提出し、分割法人及び分割承継法人が納税地の所轄税務署にこの規定の適用を受ける旨の「試験研究費の届出書」を提出したときは、その移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を、分割法人の試験研究費の額及び売上金額から控除するとともに、分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算することができる。 ◆分割が行われた場合の調整計算の見直し(措令27の4⑭) (1) 改正の内容 令和5年度の税制改正により、分割が行われた場合の「調整計算の特例」について、分割法人による移転事業に係る試験研究費の額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額とを区分する合理的な方法について税務署長の承認を受ける「試験研究費の認定申請書」の提出及び当事者全てによる「試験研究費の届出書」の提出が不要とされ、特例を受ける法人がその適用を受ける事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより適用を受けることができることとされた。 (2) 適用時期 上記改正は令和5年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される。なお、改正前の制度が適用される事業年度において「調整計算の特例」を受けなかった場合には、調整計算の見直しの適用もないが、改正後の制度が適用される事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより、その事業年度において改正後の調整計算の適用を受けることができる。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第8回】 「講習会事業・資格事業(法人税)」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 講習会事業と収益事業 講習会事業が収益事業に該当するか否かにあたっては、まず、法人税法施行令が掲げる34の特掲事業(法令5①)のうち、技芸教授業(法令5①三十)に該当するか否かで判断することになる。 技芸教授業とは、技芸の教授、学力の教授及び公開模試学力試験を行う事業をいう。そして、技芸教授業における技芸とは、具体的に次の22種類をいう(法令5①三十)。 〈技芸22種類〉 上記22種類の技芸に該当する講習会の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない講習会の場合は収益事業(技芸教授業)に該当しない。学会が行う講習会の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の講習会が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。 2 資格事業と収益事業 技芸教授業に関しては、「技芸に関する免許の付与その他これに類する行為を含む」とされているため(法令5①三十かっこ書き)、資格事業が収益事業に該当するか否かの判断は、講習会と同様、その内容が22種類の技芸に該当するか否かで行うことになる。 そのため、上記22種類の技芸に該当する資格の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない資格の場合は、収益事業(技芸教授業)に該当しない(法基通15-1-66)。学会が行う資格事業の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の資格事業が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。 ◆法人税基本通達15-1-66(技芸教授業の範囲) 3 公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合 上記22種類の技芸に該当する講習会や資格の場合は、技芸教授業に該当することになるが、たとえ技芸教授業に該当するような場合であっても、公益法人の学会が、公益目的事業の一環として、講習会事業や資格事業を実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第40回】 「相続開始日の前日に持分放棄をした場合、相続人は不動産を承継しないからその相続人に対する賦課決定処分は違法であるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷課税台帳主義とその例外 固定資産税は、賦課期日に固定資産を有している者に対して課されるものである(地法343①、359)。この場合の固定資産の所有者というのは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律2条2項の区分所有者とする)として登記又は登録がされている者(地法343②前段)とされる。つまり、固定資産の所有者であっても、固定資産課税台帳に所有者として登録されない限り、固定資産税を課されることはない(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)771頁 また、賦課期日である1月1日に売買して所有権が移転したとしても、固定資産課税台帳に所有者として名前が記載されている限り固定資産税の納税義務を免れることはない(本連載【第36回】「1月1日に売却した家屋のその年の固定資産税等の納税義務者は売主であるとされた事例」参照)。 しかし、納税義務者が死亡した場合、死者に課税することはできない。そこで、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている地方税法348条1項の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとされている(地法343②後段)。 土地又は、建物の所有者が死亡したが、登記名義はそのままになっていた場合において、その土地又は建物が複数の相続人の共有に属している場合には、各共有相続人は、その土地又は建物に対する固定資産税の全額について納税義務を負うことになる(※2)。 (※2) 金子・前掲(※1)書、777頁 では、共有不動産の持分所有者が死亡日の前日に共有持分を放棄した場合は、その持分に係る固定資産税の納税義務者は、死亡した者の相続人になるのだろうか。今回は、この件で争われた事例を検討する。 ▷どのような事例か この事例は、平成30年1月25日に亡くなった者が共有の不動産(以下「本件不動産」)を有していたが、死亡日の前日に本件不動産の持分を放棄する旨の意思表示をしていた。なお、放棄に基づく持分移転の登記はなされていなかった。 相続により相続人(子)(以下「審査請求人」)は単純承認をしていた。 処分庁は、平成31年1月1日時点における本件不動産の所有者は、相続人代表者指定届を提出した相続人である子であるとして賦課決定処分を行った。 これに対して審査請求人は、賦課期日である平成31年1月1日時点において、現に所有している者に該当しないから、不動産に係る固定資産税等の納税義務を負わないとして審査請求を行ったのが本事例である。 ▷争点及び審査請求人・処分庁の主張 争点は2つあったが、今回は、固定資産税等の賦課期日において、地方税法343条2項後段の「現に所有している者」は、登記名義人の相続人であるか否かの争点のみを検討する。また、本事例は、固定資産税だけでなく、都市計画税についても争われたが、固定資産税の論点に絞って検討する。 審査請求人は、不動産共有持分は被相続人の死亡する日の前日をもって共有持分の放棄の意思表示を行っており、民法255条の規定により、不動産に係る被相続人の共有持分は、死去の前日に、他の共有者に帰属することになったため、審査請求人は、本件不動産に係る賦課期日(平成31年1月1日)において、不動産の所有者でないから固定資産税の納税義務を負わないと主張した。 一方、処分庁は、本件不動産について、登記簿上、被相続人が共有者として登記されたままであって、被相続人の持分について移転登記されていないことから、その相続人代表者である審査請求人が本件不動産を現に所有している者であると主張した。 ▷答申書の審理員意見書と裁決 審査請求があった場合、審査庁に属する職員が審理手続きを行う審理員に指名され、処分について審理した上で、審理員意見書を作成提出する。その後、行政不服審査会へ諮問し、その答申を受け、裁決が行われる。 本事例の意見書の要旨は以下のとおりである。 答申書の結論は、審査請求人の主張に関する部分については認容すべきであるとし、裁決ではこれを受けて処分を取り消すとした。 ▷処分庁の主張に対する審査庁の判断 処分庁は、平成27年7月17日最高裁判所第二小法廷判決(平成26年(行ヒ)第190号固定資産税等賦課徴収懈怠違法確認等請求事件(TAINSコード:Z999-8352)、以下「平成27年最高裁判決」という)に基づき、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきではなく、平成27年最高裁判決の事案においても地方税法343条2項後段の類推適用が否定されたと主張するが、平成27年最高裁判決において、「現に所有している者」というためには、当該土地の所有権が当該者に現に帰属していることが必要であるとし、所有権の帰属を確定する必要がある旨判示している。 地方税法343条2項後段の「現に所有している者」という規定を文言に基づいて解釈すれば、実体法上所有権を有している者と解することが相当であり、同項前段から「登記簿(中略)に所有者として登記されている者」である相続人をもって、本件不動産を「現に所有している者」と解することは困難と言わざるを得ない。 処分庁は、審査請求人らが本件不動産の持分移転登記をなし得たこと、持分放棄により登記名義人が納税義務を免れるとすれば課税事務に多大な影響を及ぼすこと等を主張するが、たとえ処分庁が主張するような課税又は徴収上の不都合が生ずることがあったとしても、平成27年最高裁判決にもあるとおり、租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れた解釈をするべきではなく、課税実務上の不都合の存在を理由として、規定の文言から離れた解釈をすることは許されないものと解することが相当であると判断した。 * * * 登記名義人が生存している場合は、不動産等を売却したとしても賦課期日現在の課税台帳の名義人という形式で納税義務者が決まるが、死亡している場合は、真の所有者が納税義務者となる。本事例では、登記名義人が死亡したのは平成30年1月25日で、賦課期日が平成31年1月1日であることから、持分放棄の登記をするための時間的な余裕は十分にあった。それにもかかわらず、登記なく持分放棄が認められたことに対する処分庁の主張は納得できる。しかし、法が改正されない限り、同じような事例で悪用されても処分庁の主張が認められる可能性は低いのだろうか。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第53回】 「サンリオ事件 -外国子会社合算税制における適用除外規定の適用- (地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その2)」 ~法人税法69条15項、(旧)租税特別措置法66条の6第3項(現行2項)、7項~ 税理士 吉村 優 5 考察 (1) A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当し、外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないか否か(主たる争点①) 裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と判示し、実体審理を行わなかった。 外国子会社合算税制の適用除外要件該当性については、次の主たる争点②において考察するが、結論としては「適用除外記載書面の添付漏れ」という状況により外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないことが確定する。したがって、A社及びB社の主たる事業がいかなるものであれ、外国子会社合算税制の適用に関する判断が変わることはなく、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 (2) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していなくても、外国子会社合算税制の各適用除外規定の適用を受けられるか否か(主たる争点②) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 私見として、当時の措置法66条の6第7項(※1)を文理解釈すると、「確定申告書への適用除外記載書面の添付が本件各適用除外規定の適用要件とされていることは明らかといえる。」という裁判所の判断は正しいと考える。 (※1) 平成29年度税制改正により外国子会社合算税制は大幅に改正されている。この改正により適用除外記載書面の確定申告書への添付義務は廃止されている。 Xは上記主張のほか、香港子会社A社及びB社に係る申告及び納税スケジュールを踏まえると税負担割合の算定ができなかったとことにつき「やむを得ない事情」があったと主張しているが、この主張は却下されている。平成27年度税制改正により宥恕規定が制定されているが、宥恕規定における「やむを得ない事情」に、香港子会社に係る申告及び納税スケジュールがXの申告期限と合わないことが該当するとは考え難い(※2)。また宥恕規定を、過去にさかのぼって適用することが許されないことは明らかである。 (※2) 控訴審判決では、「平成27年度税制改正後の措置法66条の6第8項所定の『やむを得ない事情』は、一般的に『天災等、本人の責めに帰さない突発的事情』と理解されており、『特定外国子会社等の所在地国が賦課課税制度を採用していることにより内国法人の確定申告時までに正確な租税負担割合を算定できないこと』は、一般的に『やむを得ない事情』に当たらない。」と判示されている。 ただし、適用除外記載書面の添付漏れという理由のみにより適用除外要件の対象外となってしまうということは、本来外国子会社合算税制の適用を受ける必要がない納税者に対してまで課税を拡大することとなり、国際的二重課税を助長し、納税者に不当な負担を生じさせるという一面もある。外国子会社合算税制の趣旨を鑑みれば、法の建付けそのものが納税者に対して厳しすぎるものであるように感じられる。 (3) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していない旨のYの主張は違法な理由の差し替えであって許されるか否か(主たる争点③) 裁判所は、この争点について、理由付記が求められる趣旨との関係で検討する必要があるとし、「上記追加主張を許すことによって、課税庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する機能が害され、又は、相手方に不服の申立てに便宜を与える機能が害されたりするとまではいえない。」、「上記追加主張を許すことにより、理由付記が求められる趣旨が没却されるということはできない。」と述べ、追加主張を認めることにより、理由付記が求められている趣旨が阻害されていることにはならないと判断している。この判断は妥当なものであると考える。 (4) A社及びB社が納付した外国法人税の額について、外国税額控除が適用されるか否か(主たる争点④) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 上記の納税者の主張に対し、裁判所は、こちらも確定申告書への明細書の添付漏れを理由として外国税額控除の適用を認めなかった。 法人税法69条15項の外国税額控除の手続き規定については、確定申告書への明細書の添付は必要とされており、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 納税者が外国子会社合算税制の適用を想定していない場合(又は適用対象外であると判断している場合)、当然外国税額控除の適用に関する書面を添付していない。このような状況の下で、外国子会社合算税制の適用を受けた場合、外国税額控除の適用まで認められないとすれば、国際的二重課税の状態となり、納税者にとって過度の負担が生じることとなるが、制度上はやむを得ないと考える。 6 事業基準における適用除外要件該当性についての検討 岡村忠生氏は、「著作権の提供とは何か」という重要な争点について裁判所が判断を行わなかった点について以下のように述べている(※3)。 (※3) 岡村忠生「サンリオ事件判決への疑問」国際税務42巻4号(2022)47頁 青山慶二氏は、「キャラクタービジネスにおける、相乗効果を伴った3種類の事業活動は、伝統的で静的なライセンス付与・ロイヤルティ収受業務とは異なり、進出先における顧客ニーズを踏まえた積極的な営業活動等と結びついた独自の事業と認定できる余地があると思われる。」と述べ(※4)、事業基準該当の積極認定の可能性を示唆している。 (※4) 青山慶二「外国子会社合算税制における適用除外基準(現行法下では経済活動基準)のうち著作権の提供に適用される事業基準について」TKC税研情報31巻2号(2022)75頁 A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当するのかどうかに関する検証は、一連の問題の重要争点であるにもかかわらず、裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と端的に述べ、実体審理を行わなかった。 本件は、平成29年度税制改正前の事案であり、適用除外記載書面の添付漏れという手続き要件不備による外国子会社合算税制の適用は免れないとしても、キャラクタービジネス分野における外国子会社合算税制の対象となる「著作権の提供」の範囲について、司法の判断が示されなかったことは心残りである。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第26回】 「その他の注記③」 -企業結合・事業分離に関する注記- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における企業結合・事業分離に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、企業結合・事業分離に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも企業結合・事業分離に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 (※) 個別注記表では、上記の「連結注記表」を「個別注記表」に読み替えた形式で記載上の注意が示されています。 2 注記事項の解説 (1) その他の注記(企業結合・事業分離に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき企業結合・事業分離に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 企業結合・事業分離に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 例えば、企業結合に関する注記を記載する場合、「企業結合に関する会計基準」第49項で定める以下の項目を参考に注記することが実務的には多いです。 他にも、企業結合や事業分離では様々な場合に注記を求めていますが、いずれの場合も「企業結合に関する会計基準」や「事業分離等に関する会計基準」で定める注記事項に沿って注記を作成することが考えられます。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社フジシールインターナショナル 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社フジシールインターナショナル「第66期定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」15~16頁より抜粋。 [株式会社セブン銀行 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社セブン銀行「第23回定時株主総会招集ご通知交付書面への記載を省略した事項」19頁より抜粋。 [SBテクノロジー株式会社 2024年3月期 連結注記表] ※SBテクノロジー株式会社「第36期定時株主総会招集ご通知」70~71頁より抜粋。 * * * 次回の第27回は、「その他の注記(資産除去債務に関する注記)」をテーマに解説します。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第5回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第3【設備の状況】の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 【設備投資等の概要】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の1【設備投資等の概要】では、当連結会計年度の設備投資の目的、内容及び投資金額をセグメント情報に関連付けて概括的に記載する。また、重要な設備の除却、売却等があった場合には、その内容及び金額をセグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:ヤマトホールディングス(株)2024年3月期の有価証券報告書】 2 【主要な設備の状況】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の2【主要な設備の状況】では、当連結会計年度末における主要な設備(連結会社以外の者から賃借しているものを含む)について、提出会社、国内子会社、在外子会社の別に、会社名(提出会社の場合を除く)、事業所名、所在地、設備の内容、設備の種類別の帳簿価額(土地については、面積も記載)及び従業員数を、セグメント情報に関連付けて記載する 【事例:フリービット(株)2024年4月期の有価証券報告書】 3 【設備の新設、除却等の計画】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の3【設備の新設、除却等の計画】では、連結会社において当連結会計年度末に重要な設備の新設、拡充、改修、除却、売却等の計画がある場合には、その内容(例えば、事業所名、所在地、設備の内容、投資予定金額(総額及び既支払額)、資金調達方法(増資資金、社債発行資金、自己資金、借入金等の別をいう)、着手及び完了予定年月、完成後における増加能力等)を、セグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:(株)デサント 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第21回】 「就業規則の作成義務」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 就業規則とは、労働時間や賃金、休暇等の労働条件について規定したものですが、常時10人以上の労働者を雇用する事業所には、作成・届出義務があります。今回は、就業規則の作成等に関する留意点について解説します。 * * 解 説 * * 1 就業規則の作成・届出義務 常時10人以上の労働者を雇用している事業所は、就業規則の作成義務と労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。常時10人以上というのは正規・非正規労働者を問いません。 ご質問のように、正職員5人でパート職員が5人であれば、合計10人になり、就業規則を作成して届け出る義務が生じます。 2 就業規則の記載内容 就業規則には、主に労働時間や賃金等の労働条件を記載しますが、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)と事業所にその定めがあれば記載しなければならない事項(相対的記載事項)があります。 3 就業規則の作成手続き 使用者は、就業規則の作成又は変更については、過半数を代表する者(※)の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。 (※) 過半数を代表する者とは、その事業所に労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表する者をいいます。 労働基準監督署には、就業規則(本体)と就業規則届 (〈記載例1〉参照)に意見書(〈記載例2〉参照))を添付して、届出をします。それぞれ2部作成し、受付印が押された就業規則の控えを受け取ります。 〈記載例1〉 〈記載例2〉 4 就業規則の周知義務 使用者には、就業規則を周知する義務が課せられています(労働基準法第106条第1項)。労働者に就業規則の内容を知らせなければなりません。 就業規則の周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2に定められており、次の3つの方法のいずれかを行う必要があります。 5 留意点 労働基準法第2条では、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」と規定されています。就業規則は、労働者及び使用者それぞれに遵守義務があります。 したがって、使用者が就業規則を守らない場合は、労働基準法違反になり、逆に労働者が就業規則を守らない場合は、就業規則の定めにより服務規律違反等の処分の対象になります。 (了)