「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例137(法人税)】
分割があった場合の「試験研究費の認定申請書」の提出を失念したため、試験研究費の特別控除につき「調整計算の特例」の適用ができなくなってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
令和5年3月期の法人税の「試験研究を行った場合の法人税額の特別控除」(以下単に「試験研究費の特別控除」という)の適用に当たり、令和4年4月1日に会社分割を行い、分割承継法人に事業を一部移転したため、「分割等による移転試験研究費の額の計算方法の認定申請書」及び「分割等による移転売上金額の計算方法の認定申請書」(以下単に「試験研究費の認定申請書」という)を提出して所轄税務署の認定を受け、分割法人及び分割承継法人の「分割等による試験研究費の額の区分に関する届出書」及び「分割等による売上金額の区分に関する届出書」(以下単に「試験研究費の届出書」という)を提出して、比較試験研究費の額及び平均売上金額を調整(以下「調整計算の特例」という)した方が有利であったにもかかわらず、「試験研究費の認定申請書」を提出しないまま「試験研究費の届出書」のみを提出したため、所轄税務署から「調整計算の特例」は適用できないとの指摘を受け、修正申告することになってしまった。
これにより「試験研究費の特別控除」が減少し、法人税等につき追徴税額が発生し、損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 令和4年4月
会社分割により、分割法人(依頼者)の事業を分割承継法人に一部移転。 - 令和4年5月
有利な「調整計算の特例」を適用するため、所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」と「試験研究費の届出書」を提出すべきところ、誤って「試験研究費の届出書」のみを提出。 - 令和5年5月
令和5年3月期の「試験研究費の特別控除」を「調整計算の特例」を適用して申告。 - 令和5年6月
所轄税務署から「試験研究費の認定申請書」を提出していないため「調整計算の特例」は適用できないとの指摘を受ける。 - 令和5年7月
関与先に報告し、賠償請求を受ける。 - 令和5年8月
令和5年3月期の「試験研究費の特別控除」を「調整計算の特例」を適用せずに修正申告。
《基礎知識》
◆分割が行われた場合の調整計算の原則
分割を行った法人が「試験研究費の特別控除」の適用を受ける場合には、分割前の事業年度に係る分割法人の比較試験研究費の額及び平均売上金額は、その全額を分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算する。
◆分割が行われた場合の調整計算の特例
分割を行った法人が分割の日以後2ヶ月以内に、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額及び売上金額とを区分する合理的な方法について納税地の所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」を提出し、分割法人及び分割承継法人が納税地の所轄税務署にこの規定の適用を受ける旨の「試験研究費の届出書」を提出したときは、その移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を、分割法人の試験研究費の額及び売上金額から控除するとともに、分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算することができる。
◆分割が行われた場合の調整計算の見直し(措令27の4⑭)
(1) 改正の内容
令和5年度の税制改正により、分割が行われた場合の「調整計算の特例」について、分割法人による移転事業に係る試験研究費の額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額とを区分する合理的な方法について税務署長の承認を受ける「試験研究費の認定申請書」の提出及び当事者全てによる「試験研究費の届出書」の提出が不要とされ、特例を受ける法人がその適用を受ける事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより適用を受けることができることとされた。
(2) 適用時期
上記改正は令和5年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される。なお、改正前の制度が適用される事業年度において「調整計算の特例」を受けなかった場合には、調整計算の見直しの適用もないが、改正後の制度が適用される事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより、その事業年度において改正後の調整計算の適用を受けることができる。
《税理士の落とし穴》
「試験研究費の認定申請書」を提出しないまま「試験研究費の届出書」のみを提出したため、「調整計算の特例」が適用できなくなってしまった。
《税理士の責任》
依頼者は令和4年4月1日に会社分割を行い、分割承継法人に事業を一部移転した。税理士は、令和5年3月期の「試験研究費の特別控除」に有利な「調整計算の特例」の適用を受けるため、分割の日以後2ヶ月以内に所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」と「試験研究費の届出書」を提出する必要があった。
しかし、税理士は「試験研究費の認定申請書」を提出しないまま「試験研究費の届出書」のみを提出し、「調整計算の特例」を適用して「試験研究費の特別控除」を計算して申告した。
このため、所轄税務署から「調整計算の特例」は適用できないとの指摘を受け、修正申告することになってしまった。期限内に「試験研究費の認定申請書」を提出してから「試験研究費の届出書」を提出していれば、「調整計算の特例」は適用できたことから、税理士に責任がある。
なお、令和5年度の税制改正により、令和6年3月期以降は上記申請書と届出書の提出が不要になり、確定申告書等に所定の書類を添付することで、「調整計算の特例」が適用できるようになったことから、損害期は令和5年3月期の1期のみである。
《予防策》
[ポイント①]
「調整計算の特例」の存在を知っておく
一般試験研究費の特別控除の計算においては、試験研究費割合で控除額が決まるため、比較試験研究費の額や平均売上金額が重要になる。適用年度以前に分割等があった場合には、今までは、分割の日以後2ヶ月以内に、有利判定を行い、「試験研究費の認定申請書」と「試験研究費の届出書」を提出する必要があった。
しかし、令和5年度の税制改正により、今後は、決算時点で、有利判定を行えば、「調整計算の特例」が適用できるようになった。分割等の組織再編があった場合には、「調整計算の特例」が有利にならないかどうか必ず確認するようにしたい。
[ポイント②]
情報収集を心がける
本事例とほぼ同様の内容で、納税者が敗訴している判例があるので参考にされたい(一審二審で敗訴、上告棄却・不受理)。
東京地方裁判所令和元年(行ウ)第357号 令和3年9月9日判決
法人税及び地方法人税更正処分等取消請求事件(棄却)(控訴)
【試験研究費の特別控除/期限後に行われた移転試験研究費等に係る認定申請及び届出】
(了)
次回は9/26に掲載します。























