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〔平成28年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】「受取配当金の益金不算入の見直し・貸倒引当金の見直し・地方拠点強化税制」

〔平成28年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 「受取配当金の益金不算入の見直し・貸倒引当金の見直し・ 地方拠点強化税制」   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成27年度税制改正における改正事項を中心として、平成28年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第2回】は、「法人事業税及び地方法人特別税の見直し」及び「欠損金の繰越控除限度額の見直し」について解説した。 【第3回】は、「受取配当金の益金不算入の見直し」、「貸倒引当金の見直し」及び「地方拠点強化税制」について、平成28年3月期決算において留意すべき点を解説する。   1 受取配当金の益金不算入の見直し 平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以後に開始する事業年度について、受取配当金の益金不算入制度の内容が見直されている。したがって、3月決算法人においては、平成28年3月期決算申告より適用されることになる。 ① 対象となる配当金の範囲 公社債投資信託以外の証券投資信託の収益分配が、制度対象から外れた。したがって、全額が益金算入となる。 ② 株式等の区分 改正前は株式等がその保有割合に応じて3つに区分され、それぞれについて益金不算入となる割合と、負債利子控除の有無が決められていた。この区分が改正後は4つとなり、また負債利子控除の有無も変更されている。   次のような事例においては、改正前と改正後で益金不算入額が大きく異なるので、注意が必要である。 ③ 負債利子控除額の簡便法における基準年度 負債利子控除額の算定に簡便法を用いる場合の基準年度が、次の通り改正されている。 平成28年3月期決算申告においては、実質的に原則法と同様の計算が必要となる。   2 貸倒引当金の見直し ① 経過措置の終了 平成23年度税制改正により、以前は大法人にも認められていた貸倒引当金は、一部の中小法人等及び一部業種の法人等(金融保険業等を営む法人、リース業を営む一定の法人等)を除いて、損金算入が認められないこととされた。 ここでいう中小法人等とは、次の法人を意味する。 普通法人のうち、資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の法人の100%子法人は除く) 公益法人等または協同組合等 人格のない社団等 改正によって貸倒引当金の損金算入が認められなくなる法人にも、次の通り経過措置が設けられていたが、平成28年3月期以後は、繰入限度額はゼロになるので注意が必要である。 ② 法定繰入率を用いる際の簡便計算における基準年度 法定繰入率を用いる際に、「実質的に債権とみられない額」の算定に簡便法を用いる場合の基準年度が、次の通り改正されている。 平成28年3月期決算申告においては、実質的に原則法と同様の計算が必要である。   3 地方拠点強化税制の創設 地域雇用の増加や周辺地域への経済効果の波及を狙って、平成27年度税制改正により地方拠点強化税制が創設された。企業が地方にある本社機能を強化したり、大都市圏にある本社機能を地方へ移転したりした場合に、優遇税制(雇用促進税制、オフィス取得減税)の適用を受けることができる制度である。 ① 拡充型 もともと地方にある本社機能を強化した場合に受けられる優遇税制である。 ② 移転型 東京23区内にある本社機能を、3大都市圏(東京圏、中部圏中心部、近畿圏中心部)以外の地域に移転した場合に受けられる優遇税制である。 (※1) 法人の雇用増加率が10%未満でも、1人につき20万円の税額控除がある。 (※2) このうち30万円については、最大3年間控除される。 具体的な計算は次の通りである。この事例では、雇用促進税制4,000万円及びオフィス取得減税7,000万円の、合計1億1,000万円の減税を受けることができる。 地方拠点強化税制の適用を受けるためには、平成30年3月31日までに、地方拠点強化実施計画について知事の承認を受ける必要がある。 (了)

#No. 156(掲載号)
#新名 貴則
2016/02/10

財産債務調書の実務における留意点 【第3回】「財産債務調書の記載・提出に当たり特に留意すべき事項」

財産債務調書の実務における留意点 【第3回】 (最終回)  「財産債務調書の記載・提出に当たり特に留意すべき事項」   デロイト トーマツ税理士法人 ディレクター 税理士 飯塚 信吾   財産債務調書の対象となる財産には、様々な生活用動産が含まれることなどから、その記載について取扱通達で実務に即して配慮されているなど留意すべき事項があり、また、財産債務調書の提出に関して設けられている加算税の加重減免措置や国外転出時課税制度の適用との関係についても留意すべき事項がある。 これらの財産債務調書の具体的な記載・提出に当たり特に留意すべき事項を以下解説する。   1 「用途別」(一般用、事業用の別)の記載 財産債務調書では、その財産を用途別(事業用・一般用)に記載する必要があるが、「事業用」の財産とは、財産債務調書を提出する者の事業所得、山林所得及び不動産所得を生ずべき事業又は業務の用に供する財産をいい、所得税における事業と業務のいずれの用に供するものも含み、「一般用」とは、事業又は業務以外の用に供する財産のことをいう。 なお、その用途が「一般用」と「事業用」の兼用である場合には、「用途」欄を「一般用、事業用」として、その価額も用途別に区分することなく記載することが認められている(取扱通達6の2-4、6の2-6)。   2 事業の用に供する債権・債務などの記載 財産債務調書では、その財産を所在別に記載する必要があり、複数の賃貸物件があるような場合には、これに関わる債権や債務をその所在別に記載する必要がある。ただし、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業又は業務の用に供する債権、債務で、「未収入金」、「未払金」、「その他の財産」及び「その他の債務」に区分され、年末の価額が100万円未満のものについては、所在別ではなく、その件数と総額を記載することが認められている(取扱通達6の2-4、6の2-6)。   3 家庭用動産に関する記載 家庭用動産については、財産の区分で「現金」、「書画骨とう及び美術工芸品」又は「貴金属類」に区分されるものを除き、「その他の動産」に区分され、一個又は一組の価額が10万円未満のものについては記載を要しないとされている。 そして、家庭用動産のうち、一個又は一組の価額が100万円未満のものについては、その動産の12月31日における見積価額が10万円未満のもと取り扱って差し支えない(取扱通達6の2-9)とされているので、取得価額が100万円未満の家庭用動産については、現金、書画骨とうなどを除き、記載を要しないことになる。   4 証券会社の特定口座で保有する有価証券等の記載 財産債務調書には、財産をその「種類別」、「用途別」、「所在別」に記載することとされており、有価証券の種類別とは、「株式、公社債、投資信託、特定受益証券発行信託、貸付信託などの別」及び「銘柄別」とされているが、特定口座内に保管している上場株式等については、「銘柄別」の記載を行わず、株式、公社債、投資信託などの別に一括して記載することが認められている(取扱通達6の2-4)。   5 生命保険に関する権利の価額の記載 保険に関する権利の価額は、その年の12月31日に解約した場合に受け取ることのできる解約返戻金の額をその財産の価額として差し支えない(取扱通達6の2-9(13))とされており、保険契約が満期返戻金を年金形式で受け取ることのできるものでも同様である。   6 共有財産の価額に関する記載 財産債務調書に記載する財産が共有財産である場合には、次のとおり記載することとされている(取扱通達6の2-12)。   7 外貨で表示されている財産の邦貨換算 外貨で表示されている財産債務の邦貨換算は、原則として財産債務調書の提出義務者の取引金融機関が公表する12月31日における最終の為替相場によることとされており、使用する為替相場は財産の場合と債務の場合で、それぞれ以下のとおりである(取扱通達6の2-15)。   8 加算税の加重軽減措置等 財産債務調書に記載がある財産あるいは債務について、所得税・相続税の申告漏れが生じたときでも、財産債務調書が期限内に提出されていれば、過少申告加算税等が 5%軽減され、財産債務調書に記載すべきであった財産が記載されていない場合や期限内に提出されていない場合に、その財産について所得税の申告漏れが生じたときには過少申告加算税等が 5%加重される。 この場合に、加算税の加重軽減の要件となる財産債務調書は、原則として、その修正申告等に係る年分の財産債務調書となる(国外送金等調書法6③、6の3③)。 また、提出期限後に財産債務調書を提出した場合であっても、その財産債務に関する所得税等の調査を予知して提出したものでなければ、その財産債務調書は期限内に提出されたものとみなして加算税の加重軽減措置の規定を適用する(国外送金等調書法6④、6の3③)こととされており、いったん提出した財産債務調書に記載漏れがあったような場合には、調書を再作成して提出することができるとされている。 なお、国外財産調書については、偽りの記載、不提出に関し、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が定められているが、財産債務調書には定めがなく、加算税の加重・軽減のみが規定されている。 例えば、財産債務調書の提出義務があるにもかかわらず提出していなかった者が不動産所得の申告を怠っているような場合には、修正申告等に係る過少申告加算税等について5%の加重が行われることになり、期限後申告の場合には、財産債務調書を提出しない場合には自主申告であっても、原則的には5%の無申告加算税に5%の加重措置が行われ10%の加算税が課されることになるが、財産債務調書を提出すれば加算税の軽減が行われ加算税が課されないことになるので、このような財産債務調書の提出による加算税の加重軽減措置には十分に留意する必要がある。   9 国外転出時課税制度の適用と財産債務調書の提出義務との関係 財産債務調書は、その年の12月31日において非居住者であっても、①確定申告書(年の中途で出国する場合の確定申告書を含む)を提出する義務があり、②その総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、③価額の合計額が3億円を超える財産か1億円以上の国外転出特例財産を12月31日において保有している場合には提出義務がある。 年の中途で国外転出を行い国外転出時課税の適用がある場合には、国外転出特例財産を譲渡したものとみなして税額計算が行われることになるが、その年の12月31日において引き続きその財産を保有しており、他の所得金額の要件も満たしている場合には、なお財産債務調書の提出義務があると考えられる。 *   *   * (文中、意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する組織の見解ではないので、ご留意いただきたい。) (連載了)

#No. 156(掲載号)
#飯塚 信吾
2016/02/10

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第11回】「電子帳簿保存法適用法人の税務調査対応」

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第11回】 「電子帳簿保存法適用法人の税務調査対応」   税理士 袖山 喜久造   これまで10回にわたり税法等で備付け、保存が義務付けられている帳簿書類の電磁的記録による保存方法等に関して解説してきた。 【第11回】では、電子帳簿保存法で規定されている帳簿書類の保存方法の特例を適用している法人が税務調査でどのような対応をするべきかについて解説する。   1 税務調査・会計監査の電子化 電子帳簿保存法に規定された帳簿書類の保存方法の特例の承認を受けた企業等は、承認後の税務調査において、承認を受けた帳簿書類を紙ではなくデータで準備する必要がある。税務調査の現場では一般的な光景であった帳簿の入っている段ボールの山積みや、大量の証憑類の持込みは必要ないのである。 電子帳簿保存法の承認を受けていない場合であっても、大規模法人の場合には、税務調査において帳簿データの提出を依頼されることが通常となっている。これは、紙の帳簿をめくって調査するよりも、データで調査を行った方が圧倒的に効率的だからである。 したがって、承認を受けていない納税者の場合は、紙の帳簿書類の保存が義務付けされているため、アウトプットして編綴し保存することになるが、税務調査においては、提示はするがほとんど調査されることのない事態になるわけである。 大企業の中には、データによる調査を忌避するために、あえて電子帳簿保存法の承認を受けずに紙の帳簿、若しくは一部のデータのみを提示する納税義務者も見受けられるが、結果的にデータの提出を求められること、不要な紙の帳簿書類の保管が必要となることになる。 また、会計監査の効率化観点からも帳簿書類の電子化は有効である。 被監査法人は、内部統制が図られている環境において、適正な処理により作成され保管されている帳簿書類であれば、監査人の監査を受検する際には、監査人側の監査の効率化のみならず、監査の対応を行う企業側の対応等も効率化されるとされている。 ただし監査基準委員会報告500の「監査証拠」第6項によれば、 とされており、原本が紙であるほうが証拠能力は高いとされている。その一方で、 とされており、決められた手順において正しくそれが運用されるような統制がとれた環境があるかないかが、その文書の真正性が確保できるかどうかであるということも言われている。 昨年9月に日本公認会計士協会から発遣された審理通達(日本公認会計士協会審理通達第3号「平成27年度税制改正における国税関係書類に係るスキャナ保存制度見直しに伴う監査人の留意事項」)においては、監査は原則として原本で行うことが望ましいとされているが、スキャナ保存制度で認められている手順において作成されたスキャンデータであれば、原本と同等の真正性を保持されるものとされ、無用に原本破棄ができないこととすることは望ましいとは言えない。   2 税務コンプライアンスについて 現在、大規模法人の税務調査に当たっては、企業の税務コンプライアンスの判定を行うようになっている。これは国税庁が税務に関するコーポレートガバナンス(以下、「税務CG」という)の状況が良好であり調査必要度が低いと認められる法人に対しては、調査の頻度を緩和する取組みを行っているからである。 企業のトップマネジメントが、税務・会計にどのような関与をし、税務CGの向上を図っているか、経理や監査部門の体制や機能、内部牽制の図られる会計処理手続の整備、不適切な行為を行った社員等の処分規定の有無などを総合勘案されて、税務CGの度合いを判定される。判定の結果が「優良」とされれば、調査頻度は緩和されるのである。 企業にとっては、税務調査による追徴課税を受けるという税務リスクが軽減されるメリットや、税務調査対応による経理職員等の人員投入負担などがなくなるというメリットがある。一方で、国税当局側も限られた税務職員を、より調査必要度の高い法人に対する税務調査に投入できるほか、複雑困難事案や緊急性のあるハイリスク分野等の案件に振り分けることが可能となり、行政側と納税者の双方でメリットがあるのである。   3 税務調査対策とは 「調査」とは、国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為、すなわち証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用などをいう(※1)。 (※1) 国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達(以下、「関係通達」)1-1において定義される。 そして「実地の調査」とは、国税の調査のうち、当該職員が納税義務者の支配・管理する場所(事業所等)等に臨場して質問検査等を行うものをいう(※2)とされている。この実地の調査が一般的に「税務調査」と呼ばれているものであろう。 (※2) 関係通達3-4において定義される。 この調査において質問検査等の対象となるものには、本法令の規定により備付け、保存が義務付けされている帳簿書類のほか、国税に関する調査の目的を達成するために必要と認められるその他の物件も含まれている(※3)。調査担当職員には、物件の提示や提出を求める権限が与えられ、物件の提示を求められた際には遅滞なくその物件の内容を示す必要がある(※4)。これらの質問検査権に係る法的拘束力は強く、罰則規定もある。 (※3) 国税通則法74の2~74の6においては、各法律の質問検査権について定められている。 (※4) 関係通達1-6においては、「物件の提示」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該物件(その写しを含む)の内容を当該職員が確認し得る状態にして示すことを、「物件の提出」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該職員に当該物件(その写しを含む)の占有を移転することをいう、とされている。 税務調査にあたってどのような対策を行うか。調査をいかに忌避するか、調査をいかに妨害するかというような行動は、税務調査対策とはならない。税務調査には受忍義務が規定されており、調査担当職員の質問に対して答弁をしない又は偽りの答弁をしたり、検査等の実施を拒んだり妨げる若しくは忌避した納税義務者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が処されることになるのである(※5)。 (※5) 国税通則法127条2項では、第74条の2、第74条の3(第2項を除く)、第74条の4(第3項を除く)、第74条の5(第1号ニ、第2号ニ、第3号ニ及び第4号ニを除く)若しくは第74条の6(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者については、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すると規定される。 本来の税務調査への対策とは、自社の会計情報を分析し、会計上若しくは税務上問題となる事項について抽出し、当該案件についての説明責任を果たすことである。このため事前に自社の会計データを分析し、調査担当職員がどのような視点で項目を絞り、どの取引について質問するのかを予想し、対応方法を事前に検討することも必要となろう。 上記2で述べた税務コンプライアンスの判定の中には、トップマネジメントにおいて、自社で行われる可能性のある不適切取引について的確に把握し改善する体制があるかどうか、という点も含まれる。自社のすべての取引について法令遵守に基づいた決められた手順通り行うことが望ましいが、そうでない場合、そうした不適切取引を把握する管理能力及び改善できる体制があるかが問われることとなる。   4 電子帳簿保存法適用法人の税務調査時の対応 電子帳簿保存法で規定する帳簿書類の保存方法の特例の承認を受けている法人等については、例えば、帳簿であれば訂正削除の履歴が残るシステムにおいて作成された電磁的記録を帳簿のデータとして保管している。また、スキャナ保存制度の承認を受けている法人等についても、書類の受領や作成から電子化するまでの手順について定められたフローや規程に基づいて作成されたデータを保管している。これら保管された帳簿書類のデータは、紙の帳簿書類に代えて当該データが原本となる。 税務調査においては、これらの承認を受けている帳簿書類のデータを法令要件に従った形で、整然とした形式で明瞭な状態で出力できなければならない。したがって、税務調査においては、少なくとも閲覧用のパソコンや出力するためのプリンタの準備が必要となる。調査担当職員は、承認済の帳簿書類のデータにより調査を進めることとなるのである。 *   *   * 本連載の最終回となる次回は、帳簿書類を電子化する際の企業が行う検討項目等について解説する。 (了)

#No. 156(掲載号)
#袖山 喜久造
2016/02/10

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第8回】「創設規定と確認規定②」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第8回】 「創設規定と確認規定②」   公認会計士 佐藤 信祐   前回では、最高裁昭和37年6月29日判決の解説を行った。本稿では、大阪高裁昭和39年9月24日判決の解説を行うこととする。 本判決は、他の合理的な経済目的から合法的になされた私法上の行為に対して、法人税法上の明文規定なくして否認することは認められないということについて判示されたという意味で、非常に重要な判決である。   (3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314) ①  原審(大阪地裁昭和31年7月30日判決・TAINSコード:Z023-0382) ②  裁判所の判断 ③  評釈 このように、大阪地裁が課税庁の主張を認めたのに対し、大阪高裁は納税者の主張を認める結果となった。 本事件は、原告が主張するように、 という事実関係がある。 このような事実関係があることから、 といった大阪高裁の判断に繋がっていったと考えられる。 このように、 と判示されていることから、本事件が、実質主義について争われた事件なのか、同族会社等の行為計算の否認について争われた事件なのかはやや曖昧であるともいえる。しかしながら、課税庁が同族会社等の行為計算の否認を根拠として争っていない点をみると、実質主義について争われた事件であるということがいえる。その点だけ見てみると、大阪高裁の判断は妥当であったともいえる。 しかしながら、その後の清水惣事件(大阪高裁昭和53年3月30日判決)と比較してみると、無利息貸付けについてのロジックがやや不明瞭であった時代の事件であるともいえる。 さらに、経済合理性が認められ、法人税の負担を減少させることを目的としていない取引についてまで否認されただけでなく、同族会社等の行為計算の否認に依らずに実質主義により否認を行っていたということを考えると、租税法に対する実務や学問が発達した現在では考えにくい事件である。 言うまでもなく、実質主義の適用は、法形式が真実の事実関係と異なる場合についてのみ適用されるものであり、私法上の法律構成による否認論もその範囲を超えるものではない。しかしながら、本事件における課税庁の主張を見てみると、増資新株引受人に対する無利息貸付けについて、いったん利息を収受したうえで、当該利息相当額を配当したかのように課税処分を行うべきであると主張をしているが、租税法が整備される前の事件であるとはいえ、やや強引な主張であったと言わざるを得ない。 次回では、最高裁昭和45年7月16日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 156(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/02/10

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針』の要点・留意点 【第1回】「適用指針の読み方」

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針』の 要点・留意点 【第1回】 「適用指針の読み方」   公認会計士 阿部 光成   平成27年12月28日、企業会計基準委員会は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号。以下「適用指針」という)を公表した。 適用指針は、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会。以下「監査委員会報告第66号」という)などを基本的に引き継ぐものであるが、新たに規定された部分及び公開草案から変更された部分については、実務に大きく影響するものと考えられる。 「企業会計基準適用指針公開草案第54号『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」が公表されているので、適用指針を読む際の参考になるものと思われる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 適用指針を読むときのポイント 前述のように、適用指針は、監査委員会報告第66号の内容を引き継ぐ部分と新たに規定する部分に分かれている。 適用指針を読む場合には、次の3つのことに注意するとその趣旨を理解しやすくなるものと思われる。 また、公開草案の審議では、次の事項が議論されていたので、これらの規定に関する実務への適用に際しても注意が必要と考えられる。   Ⅱ 定義 定義では、「一時差異等加減算前課税所得」と「課税所得」がポイントになると考えられる(適用指針3項(7)(9)、58項。[設例1])。 「一時差異等加減算前課税所得」と「課税所得」については、これらを使用する場面の相違に注意する必要があると考えられる。 課税所得の見積りに、将来減算一時差異などを加減するのかどうかについては、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)21項において、次のように規定されている。   Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性の判断等 基本的に、従来の考え方を踏襲している。 適用指針の公表に際して、「【参考】企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」と監査委員会報告第66 号等の比較」が公表されている。 当該【参考】を読むと、多くの事項が改正されているように思われるが、上記のように、基本的には、監査委員会報告第66号などを踏襲していることが理解できると思われる。 このため、「踏襲している」や「見直さないこととした」などの説明が付されている事項については、実務に対して大きな影響は与えないものと思われる。   Ⅳ 企業の分類の枠組み 監査委員会報告第66号は、過去の業績等に基づいて、会社を例示区分に分類し、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断することとしている。 一方、適用指針は、次のように規定し、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲した上で、当該取扱いの一部について必要な見直しを行っている(適用指針15項、16項、64項)。 適用指針は、企業の分類に関する「要件」を定めており、「要件に基づき企業を分類し」と規定しているので、企業は(分類1)から(分類5)のいずれかに分類されることになる。 監査委員会報告第66号では、例示区分に直接該当しない場合であっても、それぞれの例示区分の趣旨を斟酌し、会社の実態に応じて、それぞれの例示区分に準じた判断を行う必要があると規定している(5(1))。 前述のように、適用指針は、企業を分類する要件を規定したが、分類の実行可能性の観点から、必要と考えられる分類の要件を示しているので、各要件のいずれも満たさない企業が存在することが考えられる(適用指針65項)。 当該企業については、諸事情を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとなる(適用指針16項)。 ただし、適用指針16項における判断は、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図するものではないと述べられている(適用指針65項なお書き)。 (了)

#No. 156(掲載号)
#阿部 光成
2016/02/10

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第7回】「これは気づかない!「罫線の引き忘れ」」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第7回】 「これは気づかない!「罫線の引き忘れ」」   公認会計士 石王丸 周夫     1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例7-1】 連結損益計算書のフォームで、罫線を引き忘れているところが1ヶ所ある。 上の事例で、罫線を引き忘れているところがどこか、わかりますか? 会社法計算書類では、決算書のフォームが定められているわけではありませんので、必ずしも「このフォームでなければ」というものはありませんが、経理の実務としては、罫線を引いておくべきところが決まっています。 そういう意味で、【事例7-1】では罫線が1本足りません。なんとか見つけ出してください。 ヒントは「真ん中より下の方」です。   2 罫線は結構大事 では、答えを見てみましょう。 答えを見てみれば「な~んだ」と思いますよね。しかし、言われないとなかなか気がつきません。 経理実務では、罫線というのは「合計を求める際の区切り」のように使用されます。上の事例では、特別利益合計を求める際に「特別利益の内訳科目はここまでですよ」という区切りとして、投資有価証券売却益「12」の下に罫線を引きます。 今回の事例では、特別利益の内訳科目が1科目だけなので、「12」の下に罫線がなくても違和感がありません。だから間違っていても気がつかないのです。 内訳が1科目の場合、この罫線はなくてもよいのではないかと思うかもしれません。しかしそうではありません。この罫線がないと、その下の特別損失の合計を求めるところでおかしなことになります。 特別損失の合計は固定資産売却損1と減損損失3の合計として求めます。ところが、投資有価証券売却益「12」の下に罫線がないと、その12も特別損失の合計に含めているような表示になってしまうのです。 ですから、この罫線はやはり必要なのです。   3 どうしてこのミスが起きたのか このミスが起きてしまった原因も考えておきましょう。 【事例7-1】の作成者は、罫線の引くべきところを知らなかったわけではありません。前年の連結損益計算書では正しく罫線を引いていたのです。ところが、今年の連結損益計算書を作成したときに投資有価証券売却益「12」の下の罫線を誤って消してしまいました。 具体的にはこういうことです。 作成者は、今期の連結損益計算書を作るにあたって、前期の連結損益計算書のデータをコピーして、当期の数字を順に上書きしていったのです。 前期の連結損益計算書では、特別利益の内訳科目が2つでした。投資有価証券売却益と固定資産売却益です。 特別損益の項目というのは非経常的なものです。必ずしも毎期発生するわけではない項目です。したがって、特別損益の内訳科目というのは、前期と当期で全く同じにはならないことが多いのです。 この会社の場合も、今期の特別利益は投資有価証券売却益のみになりました。その結果、固定資産売却益の行が不要になります。そこでこれを削ります。 ミスはそこで起こりました。そのときに罫線も一緒に消してしまったのです。   4 こんな類似事例も 罫線のミスは他にも結構あります。 【事例7-1】は引き忘れのミスでしたが、これとは逆に引きすぎてしまうミスもあります。 次の【事例7-2】です。 【事例7-2】 連結損益計算書のフォームで、罫線を引きすぎているところが1ヶ所ある。 営業外収益合計「6」の下の罫線は不要です(営業外収益のその他「4」の下の罫線は必要です)。 「6」の下に罫線があると、この下でいったん合計を出すという意味合いになってしまいます。ここでは営業利益に営業外収益を足して営業外費用を引いたものを経常利益として表示するので、罫線は営業外費用合計「8」の下にあればよいのです。 このミスも一見わかりません。上のように矢印で示しているからわかるようなもので、普通に見せられたら見落としてしまうのではないでしょうか。 罫線の引き間違いが面倒なのは、修正されない限り、そのミスが何年も引き継がれることです。決算書のフォームをリサイクルして計算書類を作成している場合、間違ったフォームに気づかずに、今年もまた使用してしまうということになります。 そんなことにならないよう、ぜひ気をつけてください。   〈今回のまとめ〉 罫線を所与のものと考えずに、その意味を考えながら、フォームの正しさを確認することが大切です。 (了)

#No. 156(掲載号)
#石王丸 周夫
2016/02/10

[子会社不祥事を未然に防ぐ]グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第9回】「グループ企業への具体的な関与(その3)」~監査機能の課題と重要性①~

[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第9回】 「グループ企業への具体的な関与(その3)」 ~監査機能の課題と重要性①~   公認会計士 松藤 斉   本稿では、企業グループで起こり得る不祥事や不正のリスク対応の観点で、監査機能を担う監査役(会)及び監査委員(会)、内部監査部門、会計監査人の個々の課題や状況、監査機能の強化について私見を述べる。その前に、不正リスク対策等について少し触れておく。   1 不正リスク対策 ① 潜在不正 不正や不祥事はいつかは発覚するとも言えるが、発覚せずに断続的に再発したり、現在も継続している可能性がある。アンケート調査(有限責任監査法人トーマツ グループ「Japan Fraud Survey2014」)によると、回答企業の約25%で不正が発覚しているが、全ての企業にとって隠れた不正は知る由がなく、「当社ではそのようなことはない」という認識ではなく、「いつかは当社でも発覚する、すでに発生している恐れがある」との前提に立ち、不正リスクをどの程度削減できるか、起こった場合の対処を誤らないことが肝要である。 ② 管理対象の不正動機 日本企業では、「自分の代で問題を作りたくない、会社や組織に迷惑をかけたくない、上司・先輩を裏切りたくない」という経営トップから従業員に至るまでの意識、心情が不祥事に発展する事例も多い。その結果、相談を受け事実を知った上司や後任が不正や損失を放置したり、関与を始めてダメージがますます膨らむのである。 このように直接的な悪意や個人利益以外の消極的動機(保身、現状維持など)、間違った正当化も念頭に置いて対策を練る必要がある。 ③ 内部統制と不正の抑止 不正対策は、ガバナンス、リスク評価、防止、発見、調査及び是正措置(対処)からなると概念付けられており(注1)、勿論、日本版SOX法(注2)や贈収賄対策のガイドライン(注3)との共通項が多い。すなわち、反贈収賄コンプライアンス・プログラムは贈収賄リスクに特化した不正対策であり、法対応の内部統制は財務報告及び事業全般のリスクを管理対象としている。既存の内部統制においては、統制環境、リスク評価等において、相当の不正対策効果が期待されるが、不正の実行者(不正の機会と動機を持つ者)の行動を直接抑止するには限定がある。 (注1) 米国公認会計士協会、内部監査人協会、公認不正検査士協会、の3団体が2008年7月に共同公表した「企業不正リスク管理のための実務ガイド(Managing the Business Risk of Fraud: A Practical Guide)」に記載されている不正リスクマネジメントの5原則をいう。 (注2) 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準では、4つの目的(業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全)と6つの基本的要素(統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)、及びIT(情報技術)への対応)がある。 (注3) 2012年に米国海外腐敗行為防止法(US Foreign Corrupt Practices Act)(以下「FCPA」という)の解釈および執行に関する指針、「FCPAガイドライン」が発表された。これは、これまでの米国当局の見解を再確認するもので、具体的事例・ケーススタディが盛り込まれており、米国当局の見解がかなり明確になった(A Resource Guide to the US Foreign Corrupt Practices Act)。 すなわち、不正や誤謬(失敗)は組織の内外の人間のなせる行為であり、意図的な隠ぺいや共謀については、特定の統制手段を除き、その発見、防止には直接作用するものではない。 ④ 直接的な不正リスク統制 直接的な不正リスク統制、すなわち、不正発見統制としては、通報制度や告発(tips)が最も効果的であると考えられ、次に期待されるのは内部監査や、独立した組織や機関による継続的、あるいは臨時的な調査である。 米国ACFE(不正検査士協会)の2014グローバル調査(Report to The Nations, 2014 Global Fraud Study)においても、tipsが42%を占め、内部監査(internal audit, 14%)、独立調査・レビュー(management review, 16%)が次に効果的な統制手段とされている(内部統制での統制手続(承認、検証、照合・調整、IT統制)の効果は合わせて10%強)。 このように、通報制度、内部監査、さらに管理者によるレビュー・牽制・モニタリングといった直接統制の効果を認識し、その不足を工夫しながら埋めることは経済効率性の点でも意義が大きく、重要である。また、従業員の強制休暇制度や突然調査(surprise audit)、それらに類する統制行為も運用面で大いに効果があることも忘れてはならない。 不正実行者は、組織内外で不正の端緒や兆候を見破られないように、注意深く不正を実行、隠ぺいしようと神経を注ぐが、彼らにとって告発や調査は突然に、知らぬ間に行われ、大変な脅威となるのである。   2 不正リスク対応の監査体制の課題 ① 内部監査部門 ▷ 監査目標・対象の多様化と現状 最近、内部監査部門が取引のリスクや異常性を把握し、不正の早期発見に繋げた事例も見受けられる。内部監査部門がJ-SOX(財務報告内部統制報告制度)評価業務を担っている場合は、その運用面を含め一段落し、その余裕をテーマ監査(海外子会社のガバナンス体制や贈収賄リスク管理など)に振り分けている企業もあるのではないか。 一方で、企業を取り巻く様々なリスクに関する知見や不正対応の経験は不十分かもしれない。海外子会社監査においては、現地子会社や統括子会社による監査体制がなければ、言語、法制、文化等の違いもあり、課題が多い。また、チェックリスト型の監査は監査要員の能力、経験に左右され、なかなか実効性を確保することが難しい。 多くの企業における現状としては、人員不足等もあり、各グループ企業におけるリスクの洗い出しより、むしろ社内規則、業務プロセスについてのヒアリングや確認作業で手一杯となり、本来期待されている監査対象項目の再検証や課題の指摘まで至っていないのかもしれない。 ▷ 直属、指示、報告、連携体制 次の図は、監査役会設置会社のごく一般的な組織体制を示している。内部監査に関連する特徴、課題や懸念があるとしたら、どこに着目すべきであろうか。 【図表1】 監査機能強化体制 (監査役会設置会社の例) まず、委員会設置会社(監査等委員会設置会社を含む)では、社外取締役監査委員を中心とした独立性の高い監査委員会に内部監査部門が直属し、その承認、指示の下で委員会の監査機能を発揮する体制に変更している会社も増えつつある。一方、社長直属の内部監査部門においては、執行部門へのコンサルティング機能(助言、支援)、社長のコミットメントに基づく監査対象組織からの協力がより期待できるであろう。 この位置づけの違いは、内部監査の独立性と経営直属による影響力・協力体制、監査機能の一体化と内部知見を活かした経営支援、監査役会のスタッフィング強化と経営戦略との整合性など、一長一短あり、その特徴を踏まえた指示、報告、連携・協力体制が肝である。 次に目につくのは、内部監査部門と連携を図るべきリスク管理部署、事業部門等との関係である。どのような監査体制の企業であっても、図示されているように、各々のリスク管理部署の指示が事業部門等にどの程度浸透するか、指示やリスク認識が内部監査部門と共有、討議され、監査対象の事業部門との間で混乱が生じないようなコミュニケーションが求められる。 ② 監査役(会)(注4) (注4) ここでは、直属の内部監査部門やスタッフ部門を持たず、監査役(会)または監査委員(会)自らの活動を主体とする場合を想定している。 ▷ 通常業務での姿勢 監査役が企業グループの不正リスクについて進んで問題を指摘し、あるいは、監査役会、取締役会で討議することは、不祥事の報告を受ける場面以外ではあまりないのではないか。しかし、それが子会社での重大な会計不正や事故であれば、結果責任は問われないにしても、経営の監視、監査活動の反省材料ではあり、「再発のリスク」を検討しなければならない。何故ならば、企業の管理体制、活動が形式としては整備されているように見えても機能せず、そのどこかに穴があるかもしれないのである。業績の悪化や事業上の失敗を発端として、その報告をためらい、隠ぺいや先延ばしに走った結果、発覚が遅れ損失が膨らむ遅れる事例も散見される。 では、スタッフも少なく、全体としては日々の活動が限られる監査役が不正、不祥事の防止、発見にどのような貢献をし、どの程度の責任を果たせばいいのか。ガバナンスを担う会議体や監査人、各部署、子会社との討議、コミュニケーションの中で十分な情報が得られ、問題の指摘ができるのかである。 残念ながら、社内監査役も含め、相当の覚悟と独立性を保って行動しても、企業グループ全体の重要リスクを網羅的に認識し、洞察することはできないかもしれない。したがって、コミュニケーション活動の姿勢が重要となってくる。 すなわち、まず事業を取り巻くリスクについて、社長、会長、経営陣の認識・対応・指示、取締役会での討議の十分性、経営トップの姿勢や方針、醸成しようとする倫理感などを観察し、監査で得た情報に基づいてリスク認識を共有する必要がある。その上で、各々会議体等においては一方の報告・説明に終始せず、監査役(会)からの質問・確認・助言等を交えた双方向のコミュニケーションがますます求められているのである。 ▷ 不正対処の重要性 不正を含めたリスク管理は、既存の内部統制や特定不正への対策、各々リスク管理部署の活動の総体として行われるので、監査役もその業務過程での違和感を察知し、行動しなければならない。また、過去にコンプライアンス違反や事故等が発生したのであれば、当時の調査や現在までの是正状況が十分かどうかの検討を行うことも有益であり、現状の内部統制や不正リスク管理における課題が見えてくることもあり得る。 あるいは、最近の他社の不正事件を例に取って調査報告書等を通読し、自社でも存在し得る問題点について監査役間で討議し、リスク認識を共有し、日々の監視、監査活動につなげることも効果的であろう。 なお、他社事例の調査報告書を通読する際には、以下の点にも留意してほしい。 (了)

#No. 156(掲載号)
#松藤 斉
2016/02/10

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第108回】連結会計⑩「関連会社の債務超過」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第108回】 連結会計⑩ 「関連会社の債務超過」   仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮     〈事例による解説〉   〈会計処理〉(単位:百万円) 1 ×2年度の仕訳 ×2年3月31日(決算日)の連結仕訳 ×2年度のX社が計上した当期純損失50百万円(当社持分△25百万円)は投資額の範囲内であるため、当社は持分に応じて負担します。   2 ×3年度の仕訳 (1) ×2年4月1日(期首利益剰余金の計上)の連結仕訳 (2) ×2年9月1日(期中)の個別仕訳 (3) ×3年3月31日(決算日)の連結仕訳 ① 当期純損失の取り込み(投資額による負担) ×3年度にX社が当期純損失80百万円を計上したことにより、×2年度からの損失額を累計すると130百万円(当社持分65百万円)となり、投資額50百万円を上回るため、投資額を上限として当期純損失を負担します。 ② 投資額を上回る損失の負担 当社はX社に対して運転資金の貸付を行っており、X社が事業を継続していくうえで重要な資金源泉となっていることが考えられます。X社の債務超過額は、確定債務であることから、連結上は見積要素で計上される引当金勘定ではなく、債権を直接減額することになります。 ③ ×3年度の連結仕訳集計   3 ×4年度の仕訳 (1) ×3年4月1日(期首利益剰余金の計上)の連結仕訳 (2) ×4年3月31日(決算日)の連結仕訳 ① 当期純損失の取り込み(投資額による負担) X社は×4年度において80百万円の当期純損失を計上していますが、当社は×3年度までに投資額全額分を負担しているため、投資額による負担はありません。 ② 投資額を上回る損失の負担 ×3年度と同様に、投資額を上回る損失については、貸付金の減額を行います。ただし、X社は当社とZ社からの出資額100百万円及び貸付金80百万円の合計額180百万円を超える累計損失210百万円を計上しています。当社はX社の銀行借入金について債務保証を行っているため、投資額と貸付金を超える負担額について「持分法適用に伴う負債」を計上する必要があります。   〈会計処理の解説〉 前回(連結会計⑨)で解説した通り、会社法上は株主有限責任の原則の見地から株主は出資額以上の責任を負いません。 しかしながら、今回の事例のように、持分法適用関連会社に対して運転資金等の貸付金がある場合には、X社の債務超過について、持分比率に応じて当社及びZ社が事実上負担することになると考えられるため、貸付金を直接減額することになります。 また、投資額や貸付金額を上回る債務超過が発生し、かつ、X社の外部からの借入金について債務保証等を行っている場合にも、持分比率に応じて当社及びZ社が事実上負担する可能性が極めて高いと考えられるため、連結上は「持分法適用に伴う負債」を認識します。 さらに、Z社に資力がなく、当社のみが債務保証を行った場合には、その状況に応じて 「持分法適用に伴う負債」の積み増しが必要になることも考えられます。 (了) ※3月は圧縮記帳を取り上げます。

#No. 156(掲載号)
#田中 良亮
2016/02/10

改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第5回】研修の実施等」

改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第5回】 (最終回) 「研修の実施等」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   最終回となる【第5回】は、研修の実施等、その他の対応について検討する。 1 研修の実施 一般的に、人事部門の担当者は労働者派遣法について改正内容も含めて把握していることが多いが、派遣労働者を受け入れている部署の社員は労働者派遣法の内容を知らないことが多い。しかし、実際に派遣労働者に指揮命令を行うのは、受け入れている部署の社員である。 そこで、受け入れている部署の社員にも労働者派遣法の概要を理解してもらうため、改正のタイミングを活用して社内研修を実施することをおすすめしたい。 特に、「派遣先責任者」、「派遣労働者への指揮命令者」及び「派遣労働者の苦情の申出を受ける者」として労働者派遣契約に氏名が記載されている者には、研修を通じて派遣先で実施すべき事項の概要を把握してもらう必要があるだろう。 研修の方法としては、関係者を対象にした集合研修で人事部門から労働者派遣法の概要等を説明する方法が考えられるが、集合研修を行うことが難しい場合は、下記のような厚生労働省が作成した労働者派遣法関連のパンフレットや指針等を共有することによって、各自で勉強してもらうことから始めてもよいだろう。 なお、今回の改正により、派遣先が適切かつ迅速に処理を図る必要がある苦情の内容にセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントが含まれる点が明示され、指針にその具体例が記載されたので、合わせて確認する機会を設けていただくとよい。   2 派遣会社の扱い 派遣事業は、その健全化を図るため、改正前にあった2つの区分のうち特定労働者派遣事業区分が撤廃され、すべて許可制となっている。 このため、特定労働者派遣事業を行っていた場合は、今後新たに資産要件等の許可基準を満たさなければならず、特に中小の派遣元に大きな影響を与える内容となっている。 経過措置により、改正後3年間は許可基準を満たさなくても引き続き派遣事業を継続することができるが、許可基準を満たすことが難しい場合は、経過措置後は派遣事業からの撤退を余儀なくされる。 そこで、派遣先としては、現在取引がある派遣元の派遣事業の種類を確認した上で、(旧)特定労働者派遣事業の派遣元に対して、今回の法改正を受けた今後の対応方針について、確認しておく必要がある。その上で、派遣元から撤退の方針が示された場合は、別の派遣元との取引や、SEの場合等、派遣労働者が従事する業務自体の外注等の検討が必要となる。 派遣事業を今後継続するか否かについてはすぐに結論が出るものではなく、派遣元への確認は早急に行わなければならないものではないが、会社によっては業務に支障を来す場合も考えられるため、早めの対応が望まれる。   3 派遣社員の位置づけ 今回の改正により、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とする」ことが法律上明記されたが、この改正を契機に、派遣社員の位置づけを社内で明確にすることをおすすめしたい。 「正社員」「契約社員」「パート社員」「嘱託社員」等、会社により呼称は異なるものの複数の社員区分があると思われるが、それぞれの社員区分について、役割や職務、労働条件等の違いは明確になっているだろうか。 自社において最適な人材配置を行うためには、それぞれの違いを明確化する必要があり、派遣社員もその1つとして位置づけ、戦略的に活用していくことが重要と考える。 今回の改正により、意見聴取の手続きを行うことで、実質的に期限なく同一の事業所で派遣労働者の受け入れが可能となったが、派遣社員を受け入れ続けることが自社にとって最適なのか、この機会に改めて長期的な視点で検討していただきたい。 *  *  * 以上、5回にわたり派遣先企業が対応すべき事項について検討してきた。 早急に対応すべき事項だけでなく、今後時間をかけて検討すべき事項も含まれているため、早い段階で自社において実施すべき事項の棚卸を行った上で、計画的に対応していただきたい。 (連載了)

#No. 156(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2016/02/10

2016年株主総会における実務対応のポイント

2016年株主総会における実務対応のポイント   三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 担当部長 斎藤 誠   2015年5月に改正会社法が施行され、同年6月にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始された。2016年株主総会はこれらの改正対応については2年目となって、さらなるブラッシュアップが望まれることとなる。むしろ改正会社法やコーポレートガバナンス・コード対応は今年が本番といえるであろう。 本稿では、これらを踏まえた2016年株主総会の実務対応について解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。   1 招集通知について 事業報告および株主総会参考書類を含めた招集通知の作成は、株主総会準備のかなりのウェイトを占めている。個人株主および機関投資家への情報提供のツールとして招集通知の重要性は近年改めて注目されている。 コーポレートガバナンス・コード(以下、コードという)においても、【原則1-2.株主総会における権利行使】を中心に招集通知による情報提供も含めた株主の権利行使についての環境整備に留意すべきこととされており、継続的な対応が必要となっている。コードへの対応に関して今年の招集通知に関する主なポイントは下記のとおりである。 改正会社法も踏まえた招集通知等の具体的な記載事項については以下に解説するが、全国株懇連合会や日本経済団体連合会がひな形を作成しており、それらも参照されたい。   2 事業報告の作成について 改正会社法による事業報告の主な記載事項の変更は以下のとおりである。3月決算会社は経過措置により、概ね今年からの適用となるため注意が必要である。   3 株主総会参考書類の作成について 株主総会参考書類に関しては、主に社外取締役・社外監査役の要件の厳格化等に伴う改正事項がある。主な改正事項については、以下のとおり。 なお、【原則3-1.情報開示の充実】において、経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明を開示すべきとされている。役員選任議案では社外役員候補者の選任理由の記載が法定されているが(同74条4項2号、同76条4項2号)、今後はいわゆる社内の役員候補者の個々の選任理由についても、選任議案に記載する事例が増加するであろう。   4 その他社外取締役関係 (注1) 独立性は問わないとされる。 (注2) ISS 2016年版 日本向け議決権行使助言基準 (注3) 東証上場会社における社外取締役の選任状況(確報) 2015.7.29   5 おわりに 本年の総会対応について、改正会社法およびコードへの対応を中心に述べてきた。 特にコードへの対応に関しては機関投資家に関心のある事項が多く、対応の程度は各社の株主構成によるところが大きい。また、総会当日においては来場する個人株主への対応がメインとなり、当日の株主質問にいかに説明責任を果たすべく回答していくかがポイントになる。 かように株主総会準備は多様性を増しており、特に本年は機関投資家と個人株主の双方を意識した総会準備が必要となろう。 (了)

#No. 156(掲載号)
#斎藤 誠
2016/02/10
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