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プロフェッションジャーナル No.148が公開されました!~今週のお薦め記事~

2015年12月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.148を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2015/12/10

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第36回】「公正処理基準の形成過程と税務通達(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第36回】 「公正処理基準の形成過程と税務通達(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   「公正処理基準の形成過程と税務通達」の議論の締め括りとして、最後に、これまでの議論の延長線上にあると思われる判決を紹介しておくこととしよう。   Ⅳ 東京地裁平成27年2月26日判決(判例集未登載) 1 事案の概要 X社(原告)は、創業者である乙が代表取締役を辞任して非常勤取締役となったこと(以下「本件分掌変更」という。)に伴い、乙に対する退職慰労金として2億5,000万円(以下「本件退職慰労金」という。)を支給することを決定した。 X社は、本件退職慰労金を分割支給することとし、乙に対し、平成19年8月に7,500万円(以下「本件第一金員」という。)、平成20年8月に1億2,500万円(以下「本件第二金員」という。)をそれぞれ支払った。 X社は、かかる金員が退職給与に該当することを前提として、本件第一金員につき平成19年8月期(平成18年9月1日~平成19年8月31日)、本件第二金員につき平成20年8月期(平成19年9月1日~平成20年8月30日)の損金の額にそれぞれ算入して確定申告をした。 これに対して、処分行政庁は、本件第二金員は退職給与に該当せず損金の額に算入することはできないとして、法人税更正処分等(以下「本件更正処分」という。)を行った。 本件は、X社が、処分行政庁の所属する国Y(被告)を相手どり、本件更正処分等の取消しを求めた事案である。 なお、法人税基本通達9-2-28《役員に対する退職給与の損金算入の時期》は、 と通達している(以下「本件通達」という。)。 X社は、役員退職給与について、本件通達ただし書の税務処理(以下「支給年度会計処理」ともいう。)を踏まえ、一般に支給時に費用計上する取扱いが行われているなどと主張した。 2 具体的事実 3 争点 本件第二金員は、X社の法人所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否か。 4 判決の要旨及び解説 本件において、Yは、X社が、取締役会決議において、本件退職慰労金の支給を決議したならば、その時点において、本件退職慰労金に係る債務は確定したのであるから、本件退職慰労金に係る債務は、取締役会の開催日の属する平成19年8月期における損金に算入すべきである旨主張したが、この点に対して、東京地裁平成27年2月26日判決は、次のように論じている。 このように東京地裁は、公正処理基準に該当するかどうかは個別具体的に判断すべきと考えているようである。 そこで、同地裁は、次のような2点を検討して、支給年度損金経理処理が恣意的に租税負担を回避する処理になるとはいえないとしている。 もっとも、東京地裁は、役員退職給与を現実の支給時に費用として計上すべきことを規定した会計基準は見当たらず、例えば、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針は、原則として、収益については実現主義により、費用については発生主義により認識することとしているとした上で、 という。 このような説示に加えて、 とし、 というのである。 ここにいう、企業における実態とは何を指しているのであろうか。実は、同判決は、この説示よりも前の段階で次のような認定を行っているのである。 もとより、法人税基本通達は、課税庁における法人税法の解釈基準や運用方針を明らかにするものであり、行政組織の内部において拘束力を持つものにすぎず、法令としての効力を有するものではない。しかし、通達に法源性がないからといって、通達が、会計慣行の形成に寄与しないというものではない。 すなわち、東京地裁は、このような立場から次のように論じている。次のくだりが同判決の最も重要な意義を有するところであるといえよう。 このような説示を経て、東京地裁は、「本件第二金員を平成20年8月期の損金に算入するという本件会計処理は、公正処理基準に従ったものということができる。」と判示したのである。 通達に基づく処理が広く繰り返し行われると、商法(会社法)上承認された会計慣行を形成することになり、ひいては法人税法22条4項の公正処理基準として、同法上の所得金額の計算の法的根拠となり得るという点を指摘した。上記に紹介した東京地裁平成27年2月26日判決も同様の理論構成によって、公正処理基準の形成が認定された事例であるといえよう。 このように通達が法源性を有するに至るというケースは、今回触れたような法人税法22条4項の公正処理基準を経由する場合に限られるものではない。学説は、通達が行政先例法として承認され得る余地があるとする(金子宏『租税法〔第20版〕』107頁(弘文堂2015))。 もっとも、通説は、通達が行政先例法になり得るのは、納税者にとって有利な場面に限られるとする(金子・前掲書82頁)。他方で、課税上の弊害がない限り適用される通達の存在などを考えると、公正処理基準として法人税法上の所得金額の計算ルールに織り込まれることになる通達は、必ずしも納税者に有利なものとは限らないといえよう。 〔通達が法源性を有するに至る2つのアプローチとその相違〕 なお、この3回の連載において登場した2つの判決のうち、上記に紹介した役員退職金に係る東京地裁判決は、納税者有利の通達として位置づけることが可能であるが、前回紹介した興銀事件控訴審東京高裁平成14年3月14日判決は、貸倒れの認定において、債務者側の事情のみを判断素材とする取扱いを示した通達であり、債権者側の事情をも考慮して貸倒れの判断をすべきと主張する納税者にとっては不利な通達であったといえよう。 (了)

#No. 148(掲載号)
#酒井 克彦
2015/12/10

平成27年度税制改正後の「受取配当等の益金不算入制度」に関する申告実務の留意点~別表8(1)及び8(1)付表の作成に当たって~

平成27年度税制改正後の 「受取配当等の益金不算入制度」に関する申告実務の留意点 ~別表8(1)及び8(1)付表の作成に当たって~   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   1 はじめに 平成27年度税制改正では、実効税率の引下げに伴う代替財源の確保のための一環として、受取配当金の益金不算入制度が大きく見直された。 その内容も、持株比率基準の見直し、継続保有要件の見直し、非支配目的株式等の創設、負債利子控除制度の見直し、証券投資信託の収益の分配金に対する課税の見直しなど多岐にわたっている。この改正の内容は、平成27年4月1日以後開始する事業年度から適用されるため、通常の1年決算法人では、平成28年3月期から適用になると思われる。 そこで本稿では、特に申告書の作成に当たり留意すべき点についてまとめてみる。 なお、この改正の内容については、以下の拙稿も合わせて参照されたい。   2 申告書作成上の留意点 受取配当等の益金不算入に関する明細書である別表8(1)は、従来1枚であったが、平成27年度の税制改正の影響により、付表を含む2枚となった。 改正により「非支配目的株式等」という新たな株式の区分が設けられたため、これを反映させた結果、記載欄が増加し2枚になったと思われる。 Ⅰ 「別表8(1)付表」作成上の留意点 (1) 概要 付表には、株式の区分に応じ益金不算入額の基礎となる配当の額を記載する。従来は、「完全子法人株式等」、「関係法人株式等」、「その他株式等」の3区分であったが、改正後は、「完全子法人株式等」、「関連法人株式等」、「その他株式等」、「非支配目的株式等」の4区分になる。 【参考図】 なお、新しい別表は、「平成27年4月1日以後終了事業年度」に適用されるものとなっている。 したがって、 「平成27年3月31日以前に開始する事業年度」 と 「平成27年4月1日以後に開始する事業年度」 では、使用する別表様式は同じでも、記載要領が異なる点に十分留意が必要である。 本稿では、受取配当金の益金不算入制度の改正内容が適用される平成27年4月1日以後に開始する事業年度を前提に、以下留意点について解説する。 (2) 関連法人株式等 「関連法人株式等」とは、内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く)の総数又は総額の3分の1を超える数又は金額の株式等を有する場合における当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 ただし、単に33%超の株式を保有していればよいわけでなく、一定期間継続して保有することが必要となる。具体的には、配当の計算期間の初日から末日まで継続して3分の1超の株式を保有することが必要となる。 この場合の「計算期間」とは、原則として、前回配当の基準日の翌日から今回配当の基準日までの期間となる。ただし、前回配当の基準日の翌日が、今回配当の基準日から起算して6月前の日以前の日である場合には、その6月前の日の翌日から今回配当の基準日までの期間が計算期間となり、この期間継続保有していればよい。これ以外にも計算期間に関する例外規定があるので、個々の配当ごとに法令を確認する必要がある。 付表では、関連法人株式等の欄の「効力発生日までの保有期間又は受取配当等の額の計算期間」の欄に計算期間を記載することになる。改正前の関係法人株式等の場合には、効力発生日までの保有期間を記載したが、改正後は保有期間ではなく、配当の額の計算期間を記載する点に留意が必要である。 (3) 非支配目的株式等 「非支配目的株式等」とは、内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く)の総数又は総額の100分の5以下に相当する数又は金額の株式等を有する場合における当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 この場合の5%の持株割合の判定は、配当の支払いに係る基準日時点で行うとされている。付表では、[10欄]に基準日を、[11欄]に保有割合を記載することになっている。 なお、基準日において有する株式のうちに、いわゆる短期保有株式等がある場合には、その短期保有株式等を有していないものとして判定を行う。「短期保有株式等」とは、基準日以前1月以内に取得し、かつ、基準日後2月以内に譲渡した株式をいう。したがって、短期保有株式等に該当する株式がある場合には、これを除外した上で算定した保有割合を[11欄]に記載することになる点に留意が必要である。 (4) 特定株式投資信託 平成27年度税制改正により、公社債投資信託を除く証券投資信託については、受取配当等の益金不算入の計算上、その収益の分配金の全額が益金算入とされた。ただし、特定株式投資信託については、非支配目的株式等として、その収益の分配額の20%相当額が益金不算入とされる。 「特定株式投資信託」とは、信託財産を株式のみに対する投資として運用することを目的とする証券投資信託のうち、その受益権が金融商品取引所に上場されているものをいう。特定株式投資信託は、株式等に投資していることと変わらないことから、改正前より、株式等と同等のものとして取り扱われてきた。改正後は、非支配目的株式等として収益の分配額の80%相当額が課税の対象となる。 特定株式投資信託に係る収益の分配金については、非支配目的株式等の欄に記載することになるが、その際、[9欄]の「本店の所在地」には『特定株式投信』と記載し、[10欄]および[11欄]は記載不要である。 Ⅱ 「別表8(1)」作成上の留意点 (1) 概要 改正後の別表8(1)では、控除負債利子の計算を含め、受取配当等の益金不算入額を記載することになる。控除負債利子の計算方法には、原則的な「総資産簿価按分法」と、例外的な「基準年度実績法」があるが、いずれも改正の影響を受けるので注意が必要である。 (2) 総資産簿価按分法 原則法である総資産簿価按分法は、負債利子に期末の総資産価額に対する期末の株式等の帳簿価額の占める割合を乗じて控除される負債利子を計算する方法である。ここで「期末の総資産価額」は、総資産の帳簿価額をもとに一定の調整を加えて計算を行う。この場合の「一定の調整」について改正が行われている。 改正前は、次に掲げる5項目について調整を行うことになっていた。 これに対して、改正後は、上記(エ)及び(オ)については調整を行わないこととなった。つまり、その他有価証券に係る評価損益は考慮する必要がなくなったわけである。 また、総資産簿価按分法で計算する際には、当期末の数値だけでなく、前期末の数値をも使用する。通常、前期末に算定した数値が、そのまま当期に繰り越され前期末の数値となるが、改正後、最初の年度は、前期末の数値を改正後の規定に従い再計算する必要がある。 これは、改正後、最初の年度の前期末の数値は、改正前の規定に従い計算されており、改正後の内容は考慮されていないためである。 具体的には、改正前の総資産簿価はその他有価証券に係る評価損益を考慮して算定したところ、上記の通り改正後は考慮しないため、その他有価証券に係る評価損益を考慮しないところで改めて前期末の総資産簿価を計算しなければならない。 別表8(1)では、総資産簿価を[34欄]から[36欄]を利用して算定する。上記の通り、当期末現在額だけでなく、前期末現在額も再計算の上、記載する必要がある。 (3) 期末関連法人株式等の帳簿価額 改正前は、完全子法人株式等に係る配当を除き、負債利子を考慮する必要があったが、改正後は、関連法人株式等に係る配当のみ負債利子を考慮すればよい。関連法人株式等に係る控除負債利子の算定に当たっては、期末関連法人株式等の帳簿価額を算定する必要がある。 「期末関連法人株式等」とは、内国法人が有する株式等で当該内国法人の事業年度終了の日の6月前の日の翌日を上記Ⅰの(2)関連法人株式等に記載した計算期間の初日とし、当該事業年度終了の日を計算期間の末日とした場合に上記Ⅰの(2)に規定する関連法人株式等となる株式等(期末完全子法人株式等を除く)をいう。 ここでも上記(2)総資産簿価按分法における総資産簿価と同様、関連法人株式等の帳簿価額も当期末だけでなく前期末についても再計算する必要がある。 すなわち、改正後、最初の年度の前期末の数値は、改正前の期末関係法人株式等の帳簿価額であるところ、改正後は期末関連法人株式等の帳簿価額として再計算しなければならない。 (4) 期末その他株式等の帳簿価額 上記(3)で述べた通り、改正後は、負債利子を考慮するのは、関連法人株式等に係る配当だけである。その他株式等に係る配当や非支配目的株式等に係る配当については、負債利子を考慮することはない。 したがって、別8(1)の[38欄]および[39欄]は、平成27年3月31日以前に開始する事業年度については記載する必要があるが、平成27年4月1日以後に開始する事業年度については記載不要である。 (5) 基準年度実績法 「基準年度実績法」とは、基準年度において原則法で計算した場合の控除負債利子を基礎に算定した割合を用いて当年度の控除負債利子を計算する方法である。 ここで「基準年度」とは、改正前は、『平成22年4月1日から平成24年3月31日までの間に開始する各事業年度』であったが、改正後は、『平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度』となる。 1年決算法人の場合、通常は、2事業年度の数値を用いて割合を算定する。しかし、本稿が前提とするのは、「平成27年4月1日以後(最初)に開始する事業年度」であるため、1事業年度の数値だけで割合を計算することになる。 例えば、3月末決算法人であれば、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの1事業年度における原則的な総資産簿価按分法で計算した負債利子を用いて計算する。2事業年度の数値を用いて計算するのは、平成29年3月期以降となる。 別表8(1)では[24欄]から[26欄]を用いて割合を算定することになる。なお、[29欄]から[31欄]は、平成27年3月31日以前に開始する事業年度については記載が必要だが、平成27年4月1日以後に開始する事業年度については記載不要である。 (6) 受取配当等の益金不算入額 改正後は、完全子法人株式等、関連法人株式等、その他株式等、非支配目的株式等の4つに区分し、それぞれ益金不算入額を計算の上、合算して最終的な益金不算入額を求めることになる。 このうち負債利子を考慮するのは関連法人株式等に係る配当のみである。特にその他株式等については、改正後は負債利子を考慮しないため、既に述べた通り、別8(1)の[38欄]および[39欄]、[13欄]および[14欄]、[29欄]から[31欄]の各欄は記載しないように留意が必要である。 (了) ↓関連記事↓

#No. 148(掲載号)
#安積 健
2015/12/10

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第4回】「同族会社等の行為計算の否認の歴史①」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第4回】 「同族会社等の行為計算の否認の歴史①」   公認会計士 佐藤 信祐   第4回目以降は、租税回避の否認規定として典型的な同族会社等の行為計算の否認(法法132)の歴史について解説することとする。なお、同族会社等の行為計算の否認は、所得税法、相続税法、地方税法においてもそれぞれ定められているが(所法157①、相法64①、地法72の43①)、本稿では、法人税法に定められている同規定の歴史のみについて解説を行うこととする。   4 同族会社等の行為計算の否認の歴史 (1) 大正12年の規定の創設 大正12年に創設された同族会社等の行為計算の否認は、第一次世界大戦による財政収入の増加を図るために大正9年に所得税法を抜本的に改正したものの、高額所得者が財産保全会社を次々に設立することにより課税の軽減を図る手段を講じ、それが租税負担の公平面より放置できない状態にまでなったことが原因であると言われている(※1)(※2)。 (※1) 村山泰治「同族会社の行為計算否認規定の沿革からの考察」税大論叢11号237頁(昭和52年) (※2) 大正11年7月20日答申の「臨時財政経済調査会答申税制整理案」においても、「法人ト個人トノ課税方法ヲ異ニスル結果、近来資産家中所得税ノ軽減ヲ主タル目的トシテ、財産保全会社ヲ設立スルモノ少ナカラザルガ如シ、此ノ点ヲ改正シテ公平ヲ期スルノ方法ナキヤ。」と述べられている(武田昌輔編『DHCコンメンタール法人税法』第一法規5533頁より抜粋)。 その結果、所得税法73条の2から同条の4において、論末の《補足資料①》(大正12年所得税法)のように規定されることになった(※3)。 (※3) 当時は法人税も所得税法中に定められていた。 具体的には、所得税法73条の2は、現在の法人税法67条に規定する特定同族会社の留保金課税に相当するものであり、その結果として、枝番として導入された所得税法73条の3に規定する同族会社等の行為計算の否認も、同族会社とその株主等との間の取引に限定されていたという特徴がある。さらに、「所得税逋脱ノ目的」があると認められる場合に限定されていたり、同条の4において、その適用にあたり、所得審査委員会の決議を経ることとされていたりしたことから、かなり限定的な適用がなされていたことが推測される(※4)。 (※4) 貴族院特別委員会では、「今次の所得税法改正案は、現行所得税法が綜合課税主義を採用せる結果、所謂合法的脱税を為す目的を以て設立せられたる法人を取締る趣旨に出でたるものなるも、是が実施の暁に於ては却て逋脱の目的を有せざる善意の法人を過当に圧迫するのを嫌あるを以て、政府は改正法規の適用上、現行所得税法実施前に設立せられたる法人にして、特に逋脱の為に利用せざるものは勿論、其他法人に就ても能く其事業の性質を参酌し、税務官吏の専恣を予防する方法を講ぜられんことを希望す。(武田昌輔前掲(※2)5535頁より抜粋)」と附議された。 なお、昭和12年に書かれた矢部俊雄氏の解説によれば、会社と出資者又はその縁故者との間、もしくはその会社自体において適法かつ有効に成立した行為については、たとえその動機が逋脱の目的であったとしても、直ちにこれを否認することは、法律上の根拠に乏しいことから、同族会社等の行為計算の否認が導入されたものとされている(※5)。 (※5) 矢部俊雄『会社の改正所得税・営業収益税・資本利子税とその実際』文精社282頁(昭和2年) そのため、いずれ本連載でも触れるように、本規定が創設規定なのか、確認規定なのかという点について争いがあるが、このような経緯からも、創設規定であるとして捉えることが自然であると考えられる。 このように、制定された当初は、租税回避の意図があったことが明らかである場合に限定して、同族会社等の行為計算の否認が適用されるものとされており、安易に適用されることを想定して導入された規定ではなかったことが推測される。 (2) 大正15年度税制改正 このように制定された同族会社等の行為計算の否認であるが、『明治大正財政史第六巻(大蔵省編纂)』1192頁において、大正15年における所得税法改正の要綱として、 と述べられていることからも、大正12年に制定された同族会社等の行為計算の否認では、十分にその機能を発揮することができていなかったと推定される。 その結果、所得税法73条の4が削られ、同族会社等の留保金課税が同法21条の2に移動するとともに、同族会社等の行為計算の否認が論末の《補足資料②》(大正15年所得税法)のように、同条73条の2に規定されることになった。 村上泰治氏がまとめた大正15年度税制改正の概要を紹介すると、 と説明されている。 (※6) 村山泰治前掲(※1)244頁 このうち、現在まで継続して重要なものとしては、①「行為」に限らず「計算」についても否認し得ることとされたことであろう。この点につき、行為と計算の違いにつき、村上泰治氏はその論考のなかで、志達定太郎氏、武田昌輔氏、矢部俊雄氏及び忠佐市氏の解説をそれぞれ紹介されているが、行為と計算を分けた理由としては、「その原因となった行為は否認しないで、それにより生ずる計算を否認する」(※7)といった説明が最も実務的であろう。すなわち、「行為」を否認したうえで、その結果として生じる「計算」を否認する場合と、「行為」は認めるものの、「計算」のみを否認する場合の2つがあるということができる。 (※7) 武田昌輔前掲(※2)5537頁 さらに、矢内一好教授は、その著書の中で、昭和10年に出版された片岡政一氏の著書『税務会計原理(文精社)』、昭和25年に出版された前尾繁三郎氏の著書『新しい法人税の話(原書房)』をそれぞれ紹介されているが、いずれとも、所得税の逋脱を目的とした行為又は計算に対応するための規定であるものの、逋脱の意思があることの立証は必要ないとしている点が印象的である(※8)。すなわち、次回、解説するように、昭和25年改正により租税回避の意図の立証が不要になったとも言われているが、昭和10年代において、すでにそのような見解が存在していたということができる。 (※8) 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』(財経詳報社)118-119頁(平成27年) このように、大正15年度所得税法において、現在の同族会社等の行為計算の否認の原型というものができあがったということができる。 (3) 昭和15年度税制改正 昭和15年度税制改正では、今まで所得税法の中に規定されていた法人税につき、独立して法人税法が制定されることになった。その内容については、論末の《補足資料③》(昭和15年法人税法)を参照されたい。 (4) 昭和22年度税制改正 昭和22年度税制改正では、終戦に伴う税制改正であり、法人税法も大幅な改正がなされたが、同族会社等の行為計算の否認については、口語体により平仮名に改めるとともに文章の表現がやや改められたことを除いては、それほど大きな改正はなかった。なお、具体的な内容については、論末の《補足資料④》(昭和22年法人税法)を参照されたい。 次回では、昭和25年以降の税制改正について解説を行う予定である。   (了)

#No. 148(掲載号)
#佐藤 信祐
2015/12/10

国境を越えた役務の提供に係る消費税課税の見直し等と実務対応 【第7回】「リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引」

国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第7回】 (最終回)  「リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   6 リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引 (1) 電気通信利用役務の提供に該当するか否かの判定 改正により、「電気通信利用役務の提供」に該当する場合には、当該役務の提供を受けた者の住所等で内外判定を行うこととなった。それでは、「電気通信利用役務の提供」に該当するか否かの判定はどのように行うのであろうか。これについては財務省が事例を挙げているので以下の表で示すこととしたい。 【電気通信利用役務の提供に該当するか否かの判定(事例)】 (出典) 財務省編『平成27年度税制改正の解説』832頁。 (2) 国外登録事業者の登録 前述のとおり、国内において「消費者向け電気通信利用役務の提供」を行う国外事業者は、その役務の提供について消費税の納税義務者となるが、国税庁長官の登録を受けることによって「登録国外事業者」となり、当該「登録国外事業者」から受けた「消費者向け電気通信利用役務の提供」に係る課税仕入れについては、国内事業者において仕入税額控除の適用が認められる(改正法附則38但書)。 平成27年7月1日から受付が始まった登録国外事業者の登録申請に係る申請書の様式は、以下のとおりである。 【登録国外事業者の登録申請書(第36号様式)】 また、登録国外事業者名簿は国税庁ホームページにて以下のように公表されており、平成27年12月1日現在で45の事業者が登録を受けている(なお、当該名簿は不定期で更新されているため留意されたい)。 【登録国外事業者名簿(Registered Foreign Businesses List)】(※一部抜粋) (出典) 国税庁ホームページ   (3) 国外事業者による芸能等の役務提供に係る契約等の見直し リバースチャージ方式の導入により、特定役務の提供を受けている国内の事業者にあっては、外国人スポーツ選手や芸能人等に支払う報酬につき消費税相当分を上乗せする必要がなくなる一方で、自らがリバースチャージ方式による申告納税義務を負うことになる。そのため、今後、対価を含む既存の契約関係の見直しが必要になってくるものと考えられる。これは、事業者向け電気通信利用役務の提供に関しても同様であろう。 (4) 電気通信利用役務の提供を受ける国内事業者の留意事項 電気通信利用役務の提供を行う国外事業者が登録国外事業所の場合、役務提供対価の請求書には登録番号を明記することが義務付けられている(改正法附則38②)。また、事業者向け役務提供の場合には、それを受ける国内事業者がリバースチャージの対象取引に係る納税義務者となることを、国外事業者がその役務提供に際し表示することが義務付けられている(消法62)。 ただしいずれの場合も、当該表示の有無が国内事業者の申告納税義務に影響するわけではないため、国内事業者は自ら取引の内容を確認する必要があるといえよう。 (5) 国外事業者が平成27年3月31日までに締結した電気通信利用役務の提供 国外事業者が平成27年3月31日までに締結した電気通信利用役務の提供で、平成27年10月1日前から同日以後引き続き行う電気通信利用役務の提供については、改正前の消費税法が適用される(経過措置、改正消令附則2①)。 例えば、データ保存等を行うクラウドサービスについて、平成27年3月31日までに、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの1年間の利用契約を締結していた場合などは、改正前の内外判定基準が適用されるため、国外事業者が国外から提供するものであれば、平成28年3月31日までは国外取引として消費税は課されないこととなる(※1)。 (※1) 国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について」(平成27年5月)8頁。   7 まとめ 新たに導入されたリバースチャージ方式は、従来のわが国の制度にはない複雑な制度で、その全体像を把握することはなかなか厄介である。 しかし、課税庁は制度の定着に向け経過措置で適用範囲を絞っており、大部分の税理士にとって関与する顧客がリバースチャージ方式に関わるケースは意外に少ないと考えられ、その意味では多少安心できるかもしれない。 とはいえ、制度が定着すれば経過措置が外され、適用範囲が拡大することも想定されることから、今後の動向を注視する必要があるだろう。 (連載了)

#No. 148(掲載号)
#安部 和彦
2015/12/10

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第7回】「国税関係書類のスキャナ保存(2)」

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第7回】 「国税関係書類のスキャナ保存(2)」   税理士 袖山 喜久造   前回は、国税関係書類のスキャナ保存制度のこれまでの経緯について解説した。国税関係書類の電子化要件は今後さらに要件の緩和が予定されており、導入する企業等もますます増加することと思われる。 今回は平成27年度税制改正後のスキャナ保存制度の法的要件のうち、入力、出力に関する要件について解説する。   1 スキャナ保存の対象となる国税関係書類 電帳法第4条第3項では、財務省令で定める一部を除き、国税関係書類の全部又は一部についてのスキャナ保存をすることができる旨を規定している。 スキャナ保存から除かれる国税関係書類は規則第3条第3項で、棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに計算、整理又は決算に関して作成されたその他の書類とされている。これら決算関係書類はスキャナ保存ではなく電帳法第4条第2項によりデータの保存の申請ができることになっていることから、スキャナ保存からは除かれているのである。 なお、今年度の改正以前においては、国税関係書類のうち、決算関係書類と契約書のうち契約金額の記載のない契約書及び契約書、領収証の契約金額若しくは記載金額が3万円以上のものについては、スキャナ保存から除かれていたが、改正によりこれらの書類についてもスキャナ保存をすることが可能となり、現在はすべての取引関係書類のスキャナ保存の申請が可能となっている。   2 入力・出力に関する要件 スキャナ保存の申請を行うためには、真実性や可視性を確保するための各要件を満たす必要がある。これらの要件は規則第3条第4項以降の規定に定められており、承認済国税関係書類の電子化により、原本であった紙の書類は廃棄することが可能となる。紙の原本の保存に代えてデータが原本となるのである。 したがって、紙の原本との同等性を確保した入力と書類のスキャンデータの真正性を確保するための措置が電帳法では規定されている。以下、各保存要件について解説する。 (1) 入力方法 「入力」とは、単なるスキャニング作業を指すのではなく、スキャナで読み取った後、国税関係書類に係る電磁的記録にタイムスタンプを付与し、当該電磁的記録に係る訂正又は削除の履歴等が確保された状態にする作業が完了するまでをいい、申請する書類の区分により、以下の期間内に入力を完了する必要がある。また書類に係るスキャンデータは、整然とした形式で明瞭な状態で確認できることが必須である。 イ 速やかに入力 承認済国税関係書類は、受領後又は作成後、1週間以内(7日以内)に入力を行うことが原則的な入力方法である。 ロ 業務処理サイクル後速やかに入力 国税関係書類の作成又は受領からスキャナで読み取り可能となるまでの業務処理サイクルの期間を経過した後、速やかに行う入力方法であり、業務サイクル期間は1ヶ月とされ、その後速やかに(7日以内)に入力する方法である。この方法を採用するには、申請書類の作成又は受領から入力までの各事務の処理に関する規程を定めておく必要がある。 ハ 適時入力 上記「イ」、「ロ」の方法は国税関係書類をスキャナ保存する際の一般的な入力に関する期間であるが、規則第3条第6項においては、国税庁長官が指定する国税関係書類に係る電磁的記録についてはこれらの期間によらないでいいとしている(※1)。 (※1) 平成17年1月31日国税庁告示第4号で規定されている。 この方法により入力する場合には、当該事務の責任者が定められている当該電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類を備え付けることが必要である。 適時入力が認められる国税関係書類の場合には、他の要件を満たす限り、過去において作成又は受領した書類についてもスキャナ保存することが可能となる。 「国税庁長官が指定した書類」とは、例えば、「人」、「物」、「金」の流れに直結しない次のような書類が該当する。 (2) タイムスタンプ(※2) 規則第3条第5項第2号ロにより、スキャナ保存を行う国税関係書類をスキャナで読み取る際には「一の入力単位」ごとのスキャンデータにタイムスタンプを付すこととしている。「一の入力単位」とは、複数枚で構成される個々の国税関係書類はそのすべてのページをいい、台紙に複数枚のレシート等を貼付した書類は、その台紙ごとである。 また、タイムスタンプは有効期間内であること、一括検証ができること、申請書類に係るスキャンデータの解像度・階調及び訂正や削除した場合の事実等が確認できることが必要となる。 (※2) タイムスタンプとは、一般財団法人日本データ通信協会のタイムビジネス信頼・安心認定制度の時刻認証業務の認定事業者の発行するタイムスタンプをいう。 (3) 入力者情報等の確認 申請する書類のスキャナ入力者又はその者を直接監督する者が誰であるかについて確認できる措置が取られていることが必要となる。この場合の確認方法は、書面、データのどちらでも構わない。ここでいう「入力者」とは、スキャンデータと原本を確認する者をいい、「直接監督する者」とは、当該入力者の直属の上長等をいう。 (4) 入力機器等の要件 入力に使用するスキャナ機器は、原稿台と一体となっている形状のスキャナ機器でなくてはならない。スマートフォン、デジタルカメラ、ハンディスキャナなど、原稿台と一体となっていない入力装置は認められていない。 また、スキャナ入力に当たり解像度が200dpi以上、カラースキャナで各色256階調以上で読み取ることが必要である。 なお、適時入力が認められる書類については、グレースケールで入力することも認められている。 (5) 出力機器の要件 国税関係書類に係る電磁的記録の保存場所に、この電磁的記録を閲覧することができるプログラムを備えたパソコンと14インチ以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ、これらの操作説明書を備え付ける必要がある。出力時には拡大や縮小ができることも必要となる。 *   *   * 次回は、スキャンデータの作成にあたってのルール等を定めた規程等の要件、スキャンデータの保存に関する要件、そして今年度の改正により新たに要件として加えられた適正事務処理要件について解説する。 (了)

#No. 148(掲載号)
#袖山 喜久造
2015/12/10

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第20回】「誤って納付した印紙税の還付」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第20回】 「誤って納付した印紙税の還付」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は塗装会社です。 塗装工事の依頼があり、注文請書を作成しましたが、作成の途中で請負金額600万円のところを500万円と誤って記載してしまいました。そのため、金額を訂正した請書を作り直して5,000円の印紙を貼付し、相手方に交付しましたが、先方に渡すことなく不要になった請書の印紙はどのようにしたらよいでしょうか。   印紙税は課税文書の作成があった時に納税義務が成立するものであり、相手方に交付することを目的として作成される文書の作成の時とは、相手方に交付した時となる。 この場合のように、あらかじめ文書に印紙を貼付したものの、納税義務が成立しなかった場合の印紙は過誤納金として税務署において還付の手続きを行うこととなる。   [検討1]  印紙税の還付が受けられる要件 ① 印紙の納付の必要のない不課税文書や非課税文書に誤って印紙を貼り付け又は納付印を押印した場合 ② 本来貼付すべき印紙税額よりも多く印紙を貼付してしまった場合 ③ 契約書作成時に印紙を貼付したが、作成途中で損傷、汚染、書損等により、使用する見込みのなくなった場合で、契約書として成立していない場合 [検討2] 印紙税の還付が受けられる範囲 収入印紙は、印紙税のみでなく、登録免許税や諸手数料の納付等多くの用途に用いられている。印紙税の過誤納の還付の対象になるのは、印紙税の納付の必要がない文書に誤って印紙を貼り付けたり、課税文書に所定の金額を超える印紙を貼り付けたりした場合で、印紙により納付することとなっている印紙税以外の租税又は国の歳入金を納付するための文書に誤って過大な印紙を貼り付けたものは、印紙税の還付の対象にはならない。 [検討3] 手続き 印紙税の過誤納金の還付を受けようとする場合は、「印紙税過誤納確認申請書」(3部複写)と過誤納となっている文書を、過誤納となっている文書を作成した日から5年以内にその印紙税の納税地の所轄税務署長に提出し、印紙税の過誤納の事実の確認を受けて、後日銀行振込みにより、還付を受けることとなる。   ▷ まとめ   ◆ 国税の納税義務の確定(国税通則法15②十一) ◆作成等の意義(基通44) ◆ 還付金等の消滅事項(通則法74①) (了)

#No. 148(掲載号)
#山端 美德
2015/12/10

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第5回】「興銀事件」~最判平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第5回】 「興銀事件」 ~最判平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 148(掲載号)
#菊田 雅裕
2015/12/10

[子会社不祥事を未然に防ぐ]グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第5回】「グループ企業管理に関わる基本的方針(その2)」~親会社はグループ会社のリスク管理にどのように関与するのか?~

[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第5回】 「グループ企業管理に関わる基本的方針(その2)」 ~親会社はグループ会社のリスク管理にどのように関与するのか?~   弁護士 遠藤 元一   事業活動は多様なリスクを伴う。市場リスク(為替リスク、金利変動その他、企業が保有する資産価値、原材料・資金の調達コスト等に影響を与えるリスク)、信用リスク(企業、業種、地域、国)、流動性リスク、プロダクトマーケット・リスク、コンプライアンスリスク(法令等が遵守されないリスク)、自然災害・天候災害(地震、台風、津波、大雪、長雨等)、インシデント(事故、情報漏洩、大規模テロ)等、企業の事業活動はこれらの多様なリスクに晒されている。 今回は、親会社によるグループ会社のリスク管理を検討してみよう。   1 リスクベース・アプローチによるリスク管理 グループ会社は、事業内容・事業規模・事業特性・事業を展開する地域等を異にする様々な会社から構成され、これらの相違により当該会社が晒されるリスクの内容や程度等も異なる。すなわち、グループ会社といっても会社により内包するリスクがそれぞれ異なる。 グループ会社のリスク管理を行うには、上記のいわば当たり前のことを親会社・グループ会社各社が共に認識し、このような認識に立ってグル―プ会社が内包しているリスクの発生を防止し、発生する場合でも被害を最小限に抑えるようなリスク管理体制を整備することが必要である。 その際、リスクベース・アプローチでの対応、すなわちリスクの発生する頻度と、発生した場合に会社、ステークホルダー及び社会に及ぼす損害の程度とを考慮して、会社として優先的に取り組むべきリスクと重大とはいえない(低い)リスクとを区別し、優先順位を付け、優先順位の高いリスクから重点を置いてリスクの発生の防止・低減等、リスクをコントロール対応策を構築する手法を実施すること、メリハリをつけて取り組むことが肝要である。 このリスクベース・アプローチは、会社単体についてだけでなく、グループ会社にも適用されることが合理的である。すなわち、親会社は、グループ会社各社の事業内容・事業規模・事業特性等を考慮して、市場リスク、信用リスク、コンプライアンスリスクその他の多岐にわたる様々なリスクを洗い出し、評価・分析を行い、グループ会社が抱えるリスクが連結経営に及ぼす影響の大小等を分析した上で、大きな影響を及ぼし、親会社の企業価値を毀損しうるような重大リスクに重点を置いて、そのリスクが発生することを防止する対応策をグループ会社に展開・実施させ、グループ会社の頂点にある親会社として抱えるリスクを適正に制御することが求められる。   2 リスクベース・アプローチの実施主体と対応策の策定 グループ会社のリスクについてリスクベース・アプローチの手法で取り組むとして、次の問題は、そのリスクベース・アプローチの実施主体をどうするかである。 もちろん、これはグループ会社の管理態様(【第4回】で触れた一元管理型か分散管理型か)、グループ企業の具体的な状況によっても異なりうる。しかし、リスクの重大性に応じて、次のように考えるべきであろう。 (1) 重点リスクのピックアップ まず、グループ内部統制の整備・運用プロセスを活用してグループ会社の事業に伴うリスクをリスクベース・アプローチで洗い出し、そのリスクを評価して優先的に取り組むべきリスク(以下「重点リスク」という)をピックアップする。 (2) グループ全体における重点リスク管理対応策の共有 次に、ピックアップした重点リスクは、親会社の存続や企業価値に重要な影響を及ぼすものであることから、重点リスク管理については親会社が主導して行うこととし、親会社が全社的・統一的なリスク管理の観点からグループ会社のリスク管理対応策を積極的・能動的に関与して、グループ会社に導入させることになる。 重点リスクの典型であるコンプライアンスリスクを例とすると、近年、いわゆる「法化」社会が浸透している。「法化」社会とは、社会に生じる様々な問題を法律の適用により処理・解決する必要があると考えられる事例が増加し、その結果、法適用が積極的に行われ、現実に生起する新たな問題にも法適用をするために、法改正や施行規則等の改正が頻繁に行われることをいう。 「法化」社会の進展に伴い、事業活動に関する法規制も頻繁に改正されるが、これらの法規制の改正を適時的確にキャッチアップすることを、マンパワー等の人的資源が限られるグループ会社各社に委ねるのは適当とはいえない。 親会社の法務部門により、グループ会社のビジネスに関わる法令等の重要点の解説や事業遂行に関する留意点等を整理した資料や、様々な取引に関する契約書ひな形を策定し、グループ会社に対するセミナー、研修(eラーニングを含む)、コミュニケーション等を通じてグループ会社の法務部門に浸透させ、さらに必要に応じて親会社の法務部門が直接、グループ会社の事業部門に対し上記やコンサルテーション等を実施する等して、コンプライアンスリスクに対する法的知識の維持・整備、法務部門のスキル向上等を講じることが有用な場合もある。 そして、法令の改正や実務指針、自主ルール等の策定・改正がある場合には、タイムリーにグループ会社に情報を発信して最新の情報を共有できるような体制を継続することが肝要である。 (3) 重点リスク以外のリスクへの対応策は親会社が支援して構築 これに対して(2)の重点リスク以外のリスクについては、グループ会社を管掌・担当する親会社の事業部門が中心となって、親会社の法務部門の協力・支援を受けながら、グループ会社自身によるコンプライアンス体制の整備を支援・監督する態様で関与・実施する。 グループ会社でリスクの発生の防止・対応策を決定する場合、親会社としては、現場であるグループ会社のリスク対応策を支援する仕組みをあらかじめ構築することが重要である。 (4) 策定したリスク対応策の見直しは過去の事例を参考に さらに、リスク対応策は策定した後も常時見直しを行うことが重要である。見直しに際しては、当該グループ会社に過去発生した事件・事故や同業他社で生起した事件・事故を参考にしながら更新していくのがよい。 2015年7月、調布飛行場から飛び立った小型機が住宅地に墜落し火災が発生した事故が起きたことは記憶に新しい。住宅密集地での事故であり、また飛行場管理者による近隣住民対策等も十分でなかったことも重なり、近隣住民が飛行場からの飛行機の離着陸に強い反対の意向を示したことはメディアでの報道でご存知の方も多いだろう。 しかし、その後飛行場管理者は、住民心理に対する配慮等から、事故から2ヶ月以上、調布飛行場から飛行機を離着陸させず、調布飛行場を拠点として航空機を利用した事業活動を行う他の会社が多大な影響を受けたことを知る人は少ないのではないだろうか。 筆者が知る航空測量を事業として行う会社も、上記事故の影響を受け、調布飛行場からの離着陸が許されず、撮影期間が限定されていた業務を遂行できないリスクに直面した。今まで、撮影用航空機等の墜落事故等のリスクは認識していたものの、他の航空機の事故により、調布飛行場からの離着陸ができなくなるリスクを認識し、BCP(事業継続計画)として八尾の飛行場等を積極的・機動的に活用する等の工夫をする等、対応策を講じるとともに、同社のリスク管理委員会として、同様の事態を認識すべきリスクに追加したとのことである。リスクの定期的な見直しの具体例の1つとして紹介させていただく。 (了)

#No. 148(掲載号)
#遠藤 元一
2015/12/10
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