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《速報解説》 タワーマンションの財産評価通達を改正!? ~通達改正は限界アリ、そして個別事案への対応も困難か Profession Journal編集部 昨今、話題となっている相続税の節税策が、タワーマンションを利用したもの。これに対して、政府税制調査会で問題視する意見が出されるなど、規制を求める動きもみられ通達改正が行われるのではないか、との憶測もあるが、現実的には困難といえそうだ。 〇「タワーマンション節税」とは 区分所有するマンション1室の相続税財産評価は、次のようになる。 つまり、路線価は時価の約80%、固定資産税評価額はおよそ時価の40~60%程度に圧縮されるため、現預金などで保有するよりも評価が格段に低くなる。おまけに低層階に比べて取引価格が高くなる高層階でも、床面積が同じなら評価額は同一となる。 この評価の仕組みを利用し、相続開始前に高層階のマンションを購入。相続開始に伴う評価額は上記の評価方法となるために、まず相続税の節税が可能となり、その後にマンションを売却するというのがタワーマンションの節税スキームだ。 〇国税庁はバブル期以来、問題視 タワーマンション節税策は、このように財産評価基本通達による評価額と売買価格の乖離を利用したものだが、この節税策は最近見られるようになったものではなく、国税庁はバブル期以来、これを問題視していた状況にある。 また、最近はタワーマンションに脚光があたっているが、程度の差こそあれ同様の財産評価方法を採る低層階マンション、また一戸建物件であってもそのメリットは引き出せることになる。 〇通達改正には限界あり 国税庁は、数十年にわたって本節税策を問題視していたにもかかわらず、なぜ通達の改正を行わなかったのだろうか。そこには多くの乗り越えられないハードルが存在するからだ。 ハードルの1つは、税務通達の性格にある。 周知のとおり、同通達は、全国統一的な適用を行うことになるため公平性を担保するわけだが、この節税スキームが有効となるのは首都圏でも一部の局地的な対象物件に限定されること。また、課税サイドでは各事案に対して短時間で評価額を算定できる簡便さと、納税者であっても計算できるシンプルな建付けでなければならない。おまけに評価額は原則的に時価で算出される必要があるが、通達を適用した際に決して上回ることがあってはならないという安全性も考慮される。 もう1つのハードルは、通達改正を行う場合の評価の基準の設定だ。 現行通達は、路線価と固定資産税評価という公的・客観的な指標を基準としているわけだが、これを改正してタワーマンションの各階の部屋に応じた評価額を算定する場合に、簡便な評価方法を構築するために採りえる公的・客観的な基準をどう設定するかは大きな課題だ。 また、タワーマンションの評価方法を改正し、評価の減額幅を縮小させた場合には、前述のとおり全国統一的な取扱いとなる。節税策の対象は値上がりが著しい首都圏などのマンションなどの限定的な地域であるにもかかわらず、取引価格と大きな乖離がない地域の、それも節税を目的としていない納税者に対しても課税強化をもたらす。とすると、納税者の反発は相当に大きなものとなろう。 そして最後に控えるハードルが、パブリックコメントだ。 財産評価基本通達に関するパブリックコメントは他の法令解釈通達に比べて多数の意見が寄せられる傾向にあるため、批判意見に耐えられる完成度が求められる。上記の状況を考えると、通達の発出前に避けては通れないパブリックコメントは、とても大きな障害だ。 〇個別事案への対応も困難 国税庁は個別事案をチェックし、行き過ぎた節税策に対して評価通達総則6項で税務否認を行っていく方針を打ち出している。 例えば、相続の開始が想定されるようなケースで、売買契約能力がないと判断される親がタワーマンションを購入、相続開始後に相続税申告期限を待たずに売却したようなケースでは、税務否認を受けても致し方ないと思われる。 だが、上記のような“みえみえ”な事例は、多くは存在しまい。被相続人が居住した実態があり、また相続人が相続開始後も一定期間保有し、売却したケースでは否認を行う根拠は希薄となろう。 また、事例一つひとつの洗い出しに加えて、タワーマンションの時価の算定を行わなければならないことは、限りある国税職員の労力を考えると大きな困難が伴うと想定される。 「タワーマンションの節税効果は物件の高騰が前提で、現在の高騰はバブルの様相にあり、それが弾けるリスクと隣り合わせにある」との指摘も聞かれる。 本節税策は、相続の開始と売買価格が下落しないことが前提。想定どおりに相続が開始せず、また相続の開始前に値崩れが起これば、評価減額効果のみならず資産価値自体が下がるため、目も当てられない状況となるのはバブル経済の崩壊で経験したのと同じ状況だ。 「所詮、タワーマンション節税ブームは、東京オリンピックまで・・・」これは国税OBのつぶやきだが、いつ値崩れが始まるかもしれないタワーマンションの節税スキームは、税務否認以外にも大きなリスクを抱えていることを認識しておきたい。 (了)
2015年11月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.144を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第35回】 「公正処理基準の形成過程と税務通達(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 税務通達と公正処理基準(承前) 2 公正処理基準と商法(会社法)(承前) 法人税法22条4項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」ともいう。)に従って、法人所得の金額の計算を行う旨規定している。これは一般に企業会計準拠主義とも呼ばれているが、法人税法において、企業会計の処理として慣習化された基準に従うこととしているのは、私法が慣習法を法源として取り込むことと似ているように思われる。 しかしながら、租税法と商法はその目的を異にするものであるから、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについては疑義があるところである。この点は、この事件〔長銀配当損害賠償事件第一審東京地裁平成17年5月19日判決〕において、原告側から批判的主張が展開されたところでもあるが、東京地裁は、次のように判示し、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについて否定的な立場をとってはいない。 このような判示からは、租税法上の取扱いや実務慣行が何らかの形で商法(会社法)上承認された会計慣行となり得る可能性があることをみてとることができる。 なお、商法(会社法)上承認された会計慣行について、東京地裁は上記のとおり、民法92条における「事実たる慣習」と同義であると判示しているが、そもそもそれらが用語を異にしていることからすれば、商法(会社法)上承認された会計慣行の形成は、民法92条における「事実たる慣習」の形成ほど厳格に解すべきではないようにも思われる。 したがって、一般的に広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返し行われている企業会計の処理に関する処理方法があるのであれば、それが商法(会社法)上承認された会計慣行であると認められることは十分に考えられるのであって、その基礎となる広く繰り返し行われてきた処理方法が、租税法上の取扱い、又は税務通達等に沿って行われている租税実務上の処理方法であることも十分にあり得るだろう。 このことは、立法的手当が遅れている課税領域においては、よりその可能性が高まると考えられるところである。 Ⅲ 通達における「課税上の弊害」要件 1 法人税基本通達14-1-2と公正処理基準 ところで、租税法の規定のみではその取扱いが明らかではない点を、税務通達においてカバーしている領域の代表例として、組合課税通達がある。法人税基本通達14-1-2は、次のように通達している。 この取扱いに法律上の根拠があるのか否かについては議論のあるところだが、考えられる法的根拠としては、法人税法22条4項となるだろう。そうであるとすれば、(2)の方法(いわゆる中間方式)及び(3)の方法(いわゆる純額方式)の適用について、通達が「課税上弊害がない限り、これを認める。」としていることは何を意味しているのであろうか。 (注) 類似の組合通達である所得税基本通達36・37共-20《任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等》における中間方式及び純額方式の要件には、法人税基本通達14-1-2のような「多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上の弊害がない限り」という制限は明記されていない。なお、所得税基本通達を基礎とした課税上の取扱いにつき、法人税基本通達と同様に「課税上の弊害」要件が考慮されるべきとの課税庁の主張が排斥された事例として、第一審東京地裁平成23年2月4日判決(裁判所HP)及び控訴審東京高裁平成23年8月4日判決(裁判所HP)を参照。 組合課税に関しては、法人税法上に「別段の定め」がないため、その取扱いについて税務通達においてカバーしているわけであるが、仮に当該通達に基づく処理方法が公正処理基準に昇華したと認めることができるのであれば、素直にその処理方法に従うことが法人税法22条4項における要請なのであり、「課税上の弊害」の有無などを問うような余地はないように思われる。 上述のとおり、税務通達で定められた処理方法が、広く繰り返し行われることで、商法(会社法)上承認された会計慣行を形成する可能性は否定できないであろう。そして、商法(会社法)上承認された会計慣行となった以上は、それがたとえ、もともと税務通達を基礎としてなされた処理方法であったとしても法人税法22条4項にいう公正処理基準となるのである。 商法(会社法)における会計慣行の基礎となる処理方法の要件に、「課税上の弊害」などという租税法独自の観点からの要件を織り込むことが果たして妥当であろうか。差し当たり、通達が行政先例法として認められるかどうかという論点に触れずに措いたとしても、「課税上の弊害」という租税法独自の観点を予め含めた通達の処理基準が、結果的に法人税法22条4項にいう公正処理基準となることには疑問を抱かざるを得ないのである。 〔通達が公正処理基準になるまで〕 2 「課税上の弊害」 上記通達にいう「課税上の弊害」の意味するところはいかなるものであろうか。 適正公平な課税の実現に何らかの弊害がある場合という意味であろうか、あるいは、租税負担の軽減を図るおそれがある場合をいうのであろうか。前者の場合、仮に租税負担が本来よりも重くなる場合(換言すれば、国がより多くの租税を徴収できることとなる場合)であっても、「課税上の弊害」となるのに対して、後者は租税負担が軽減される場合(国からしてみれば、租税の徴収が減少又はできなくなる場合)のみ「課税上の弊害」に該当することになる。これらの捉え方の違いは極めて大きな意味を有すると思われる。 〔2つの「課税上の弊害」の意味〕 仮に、前者の捉え方が妥当であるとすると、そもそも、組合課税通達(2)の中間方式を採用すると、各組合員は、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用を受けられなくなり、また、(3)の純額方式を採用すれば、各組合員は、受取配当等の益金不算入、所得税額の控除、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はないことになるのであるから、納税者の負担は増え、大いに「課税上の弊害」があるといえそうである。 このように考えると、通達の取扱いそのものが既に「課税上の弊害」を内包していることになり、自己矛盾を起こしているということになる。 したがって、この通達にいう「課税上の弊害」とは、「多額の減価償却費の前倒し計上などの」と前置きされているように、租税の負担を軽減させるような課税逃れ的な意味内容を持ったもの、すなわち後者の考え方と捉えるべきなのであろう。 こうした、課税逃れ対策という課税庁側の思惑が予め織り込まれた通達に基づいた実務上の処理が慣行として定着し、商法(会社法)上の「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」となり、結果的に、法人税法22条4項にいう公正処理基準とされる可能性があることは極めて深刻な問題だと思えてならないのである。 そもそも、前述の興銀事件控訴審東京高裁平成14年3月14日判決が、適正公平な課税の実現という目的を織り込んだかたちで法人税法22条4項を理解しようとする態度に出ていることに対しては批判の強いところである。同法22条4項の解釈についてそれが許容されると、法人税法上、「別段の定め」のない場合であっても、企業会計と異なる処理を同法22条4項により強制することを正面から認めることにもなり、法人税法の基本構造を無視したものになってしまうし、ひいては租税法律主義に反する可能性さえ否定できないのではないだろうか(中里実「貸倒処理一時価主義の下の資産評価」税研104号42頁)。 このような批判とここで取り上げた通達課税などの問題点を併せ考えると、公正処理基準を通して、組合課税通達が法人税法上の「別段の定め」のような機能を果たすことになり、租税法律主義にいう課税要件法定主義を脅かすことにもなりかねないように思われるのである。 (続く)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第2回】 「租税回避の定義」 公認会計士 佐藤 信祐 包括的租税回避防止規定は、租税回避行為を行った場合についてのみ適用されるものであるため、まずは、租税回避の定義を明らかにしていく必要がある。 とりわけ、近年では、租税回避の定義についても争いが生じるようになっているため、本稿では、それぞれの考え方を明らかにしていきたいと思う。 2 租税回避の定義 租税回避の定義は論者によって様々な定義がなされているが、ヤフー・IDCF事件以前においては、金子宏教授の という定義が通説であったといえる。すなわち、「税負担の減少」と「通常用いられない法形式の選択」という2つの点が大きな要素となる。 (※1) 金子宏『租税法』121-122頁(弘文堂、第19版、平成26年) なお、私見ではあるが、「通常用いられない法形式の選択」については、達成しようとする経済的成果に合理的な理由がない場合だけでなく、達成しようとする経済的成果に合理的な理由があるものの当該経済的成果を達成するために選択する法形式に合理的な理由がない場合も含まれるべきであると考えられる(※2)。 (※2) この点につき、太田洋弁護士は、「いかなる場合に『正当な事業目的』が存在すると解すべきかについては、組織再編によって企図されている事業目的を達成するためには複数の手法があり得ることに鑑みると、ⅰ)組織再編を行うこと自体についての正当な事業目的(経済合理性)が存在することだけでなく、ⅱ)他の代替的なスキームではなく当事者が選択した組織再編のスキームを用いることが、特に異常であるとはいえず、また、課税関係以外の点において不合理であるともいえないことまで必要と解するのが適切であるかも知れない」(太田洋・伊藤剛志『企業取引と税務否認の実務』大蔵財務協会46-47頁(平成27年))と解説されている。 また、租税回避と区別すべきものとして節税と脱税がある。すなわち、 と解説されている。 (※3) 金子宏前掲(※1)123頁 これに対し、今村隆教授は、前述の金子宏教授による租税回避の定義に対して、①意図した経済目的がなく、減免規定の充足により、専ら税負担の減少を図る場合が含まれていない、②「通常用いられる法形式」といっても、何が「通常」であるのか断定するのが困難な状況となっており、この基準は限界にきているのではないか、③租税回避は、そもそも「租税法規の濫用」であり、そうすると租税法規の解釈のあり方すなわち租税法規の文言解釈を堅持すべきとする立場を採るか、租税法規の趣旨・目的を考慮してこれに即して解釈すべきとする目的論的解釈をすべきとする立場を採るかの対立でもあることが見失われているのではないかと批判されていた(※4)。 (※4) 今村隆「租税回避とは何か」税務大学校論叢40周年記念論文集13-14頁(平成20年) そして、租税回避の本質を「租税法規の要件を定める規定の文言には形式的には反しないが、当該租税法規の趣旨・目的に反する」(※5)としたうえで、「租税法規の要件を定める規定」には課税根拠規定と課税減免規定の2つがあることから、この2つに分けて検討した結果として、 とされた。 (※5) 今村隆前掲(※4)54頁 (※6) 今村隆前掲(※4)55頁 そのうえで、具体的な租税回避の定義を とされた。 (※7) 今村隆前掲(※4)57頁 このように、租税回避の定義を、経済合理性の有無で判定するのか、租税法規の趣旨・目的に反するか否かで判定するのかという点は従来からも争いがあったが、今村隆教授の解釈を採用したとしても、事業目的よりも税目的が上位にあることが前提となっている。さらに、経済合理性の有無で判定するといっても、少なくとも、実務上は、経済合理性の有無についても組織再編税制の制度趣旨を踏まえたうえで検討する必要があると考えられており(※8)、さらに、条文解釈についても、制度の趣旨・目的、沿革や他の法令との関係、結論の妥当性を踏まえて検討する必要があったことから(※9)、実際に両者の定義の違いによる影響を受けるケースはそれほど多くはないと考えられる(※10)。 (※8) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社35-38頁(平成21年) (※9) 伊藤義一『税法の読み方 判例の見方(改訂新版)』TKC出版67頁(平成19年) (※10) そもそも、ほとんどの事案が税務訴訟に至らないことから、税務訴訟に至っている時点で特殊事案であると言えなくもないからである。 しかしながら、税務訴訟の現場では、少なからず影響を受ける場面が存在し、従前の解釈論では、租税回避を行う納税者に対する対応という意味でも、租税回避を意図しない納税者に対する保護という意味でも不十分であるとも考えられる。そのため、平成19年から平成21年にかけて、朝長英樹氏が代表理事を務める日本税制研究所の国税通則検討委員会において、租税回避否認規定の提案について検討がなされており、酒井克彦教授により、 と述べられていた。また、ヤフー・IDCF事件における朝長英樹氏の鑑定意見書は、租税回避の定義を租税法規の「濫用」や「潜脱」と捉えており、ドイツの一般的否認規定の影響を受けているのではないかという印象を受ける。しかしながら、酒井克彦教授が述べられたのは立法論であり、解釈論として、現在の法制度の下でどこまで租税回避の定義を広げてよいのかという点は慎重な検討が必要となる。 (※11) 酒井克彦「租税回避否認規定の提案と問題点(1)」税大ジャーナル9号2頁(平成20年) (了)
〈平成27年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「質問の多い事項Q&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 シリーズ最終回は、年末調整について、実務上質問を受けることの多い事項をQ&A形式でまとめることとする。 取り上げる事項は以下のとおりである。 なお、以下の拙稿にも事例を紹介しているので、あわせてご参照いただきたい。 - 解 説 - (1) 年末調整の対象者 年末調整の対象者は、年末まで勤務している人のうち、次の2つの要件を満たす人である(所法190)。 この要件を満たすのであれば、1年を通じて勤務している人のほか、年の途中で就職した人も年末調整の対象者となる。 (2) 年の途中で就職した人の年末調整 年の途中で就職した人が、本年中に他の会社に扶養控除等申告書を提出して給与等の支払いを受けている場合には、当該他の会社から支払いを受けた給与等を含めて年末調整を行わなければならない(※2)(所法190一、所基通190-2(3))。 (※2) 通算する必要があるのは、他の会社に扶養控除等申告書を提出して支払いを受けた給与等(甲欄給与等)である。他の会社に同申告書を提出しないで支払いを受けた給与等(乙欄給与等)は、通算の対象に含まれない。 このためには、他の会社から支払いを受けた給与等の金額、給与等から控除された社会保険料等の金額、源泉徴収された所得税額及び復興特別所得税額を確認する必要がある。 通常は、他の会社から交付を受けた源泉徴収票からそれらの金額を確認する。しかし、法令上は源泉徴収票で確認することまでは求められていないため、源泉徴収票で確認することができない場合には、月々の給与明細等を利用して年末調整を行うことも可能である。 ただし、給与明細等を利用する場合には、支払いを受けた給与等の網羅性の確認が難しいので、源泉徴収票による方が確実であると考えられる。 - 解 説 - (1) 国民年金保険料の2年前納制度 平成26年4月から国民年金保険料を2年分前納することができるようになった。前納した国民年金保険料を所得控除するときには、以下のいずれかの方法を選択することができる(所基通74・75-1、74・75-2)。 国民年金保険料の2年前納制度の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 各年の社会保険料控除額 ① 納めた年に全額控除する方法による場合 保険料控除申告書に納付額を記入し、日本年金機構から送付される控除証明書(※3)を添付する。 (※3) 控除証明書には、2年前納分を含めその年中に納めた国民年金保険料の合計額が記載されている。 ② 各年分の保険料に相当する額を各年において控除する方法による場合 各年分の控除額は、次の算式で計算する。 この方法により年末調整で社会保険料控除の適用を受けるためには、上記算式で計算した控除額を保険料控除申告書に記載し、「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書(平成27年前納者用)」と控除証明書を添付する必要がある。 なお、2年分を前納した初年度に②の方法で社会保険料控除の適用を受けた場合には、2年目以降に①の方法に戻すことはできない。また、2年目に2年目と3年目の分をまとめて控除することもできない。 また、②の方法による場合には、2年目と3年目の年末調整のときにも、保険料控除申告書に「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書(※4)」と初年度納付分の控除証明書(※5)を添付しなければならない。 (※4) 平成27年前納者の場合 ・2年目:「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書(平成27年前納者/平成28年用)」 ・3年目:「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書(平成27年前納者/平成29年用)」 (※5) 平成27年前納者の場合は、平成27年納付分の控除証明書を添付する。当該証明書は、給与所得者本人が最寄りの年金事務所に発行を依頼し入手する。初年度に受け取った控除証明書のコピーを使うことは認められない。 - 解 説 - 転勤等のやむを得えない事由がある場合の住宅借入金等特別控除の適用については、前回をご参照いただきたい。 住宅借入金等特別控除の適用を受けることができるのは、その年の12月31日まで引き続きその家屋に居住していることが要件となる(※6)(措法41①)。しかし、転勤等のやむを得ない事由によりその家屋に居住できなくなる場合には、所定の手続きを行うことを条件に、再居住後残りの適用期間について制度の再適用を受けることができる(措法41⑱⑲)。 (※6) 居住者でなければ適用を受けることはできない。また、その年の合計所得金額が3,000万円超える場合は除かれる。 制度の再適用を受けることができるのは、家屋を再び居住の用に供した日の属する年からである。ただし、再居住した日の属する年において、その家屋を賃貸している期間がある場合には、再適用が認められるのはその翌年からとなる(措法41⑱)。したがって、Eが制度の再適用を受けることができるのは、来年以降となる。 なお、再適用を受ける最初の年は、所定の方法により確定申告を行うこととされているため、年末調整で制度の適用を受けることはできない(措法41⑲)。年末調整で制度の適用を受けることができるのは、確定申告を行った年の翌年からとなる。 - 解 説 - 同居老親等とは、老人扶養親族(※7)のうち、所得者又はその配偶者の直系尊属(父母、祖父母等)で、所得者又はその配偶者のいずれかとの同居を常況としている人をいう(措法41の16①)。すなわち同居老親等に該当するためには、次の2つの要件を満たす必要がある。 (※7) 老人扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人をいう。 Fの母は、①の要件は満たしている。しかし、扶養親族等の判定時期である本年の12月31日において、Fとその配偶者のいずれとも同居していないため、②の要件は満たさない。したがって、Fの同居老親等には該当しないこととなる。 なお、同居特別障害者は、控除対象配偶者又は扶養親族が特別障害者で、所得者又はその配偶者若しくは所得者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている人をいう(所法79③)。 同居していることを求められる人の範囲が同居老親等の場合とは異なるので、注意が必要である。 (連載了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第5回】 「国外事業者申告納税方式と登録国外事業者制度」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 (6) 消費者向け電気通信利用役務の提供に対する消費税の課税 「消費者向け電気通信利用役務の提供」については、「消費者向け電気通信利用役務の提供」を行う国外事業者が消費税の納税義務者とされる(国外事業者申告納税方式)。これは、B to C取引に関して、一般消費者に消費税の納税義務を課すことは現実的ではないためである(※1)。 (※1) 2014年6月27日政府税制調査会第10回総会資料「〔国境を越えた役務の提供に対する消費税について〕―制度案について―」7頁参照。 【B to C取引に関する消費税課税】 ① 国内事業者の対応 ところで、国内事業者であっても、電子書籍の購入など国外事業者から「消費者向け電気通信役務の提供」を受けることがある。この場合、当分の間、国内事業者は国外事業者から受けた当該「消費者向け電気通信利用役務の提供」について、その課税仕入れに係る消費税につき仕入税額控除の適用が受けられない(改正法附則38①)。 これは、国外事業者に消費税の申告納税義務があるとしても、その履行を促すことにはおのずと限界があり、一方で仕入れた側の国内事業者において仕入税額控除を認めると、結果として「納税なき仕入税額控除」という事態を招きかねないことを防止するための措置と考えられる(※2)。 (※2) 政府税制調査会前掲(※1)資料6頁参照。 ただし、新たに導入される登録国外事業者制度(後述③参照)に基づき、国税庁長官の登録を受けた国外事業者である「登録国外事業者」から受けた「消費者向け電気通信役務の提供」については、その「登録国外事業者」の登録番号等が記載された請求書等の保存等を要件として、その課税仕入れに係る消費税につき仕入税額控除の適用が受けられる(改正法附則38①但書)。 ② 国外事業者の対応 国内において「消費者向け電気通信利用役務の提供」を行う国外事業者は、その役務の提供について消費税の納税義務者となる(消法4③三、五①)。 ③ 登録国外事業者制度の概要 以下の要件を満たす一定の国外事業者(事業者免税点制度の適用を受けない者に限る)は、納税地を所轄する税務署長を経由して国税庁長官に申請書を提出することで、国税庁長官の登録を受けた事業者(「登録国外事業者」)となることができる。これを「登録国外事業者制度」という(改正法附則38①但書、39)。 (ア) 国内において行う「電気通信利用役務の提供」に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地が国内にあること、または、消費税に関する「税務代理人(国税通則法第74条の9第3項第2号に規定する税務代理人をいう)」がいること。なお、国税通則法第117条第1項(納税管理人)の規定の適用を受ける事業者にあっては、納税管理人を指定している場合に限るものとする。 (イ) 国税の滞納がないこと、及び、登録国外事業者の登録取消から1年を経過していること。 上記「登録国外事業者」の登録申請は、平成27年7月1日以後に行うことができるようになった。 【登録国外事業者制度】 登録国外事業者制度は、国外事業者に「自主的に」登録を求める制度であるため、果たして現実に機能するのかという疑問が生じ得るが、先行して導入したEUでは、大手事業者がいわゆる“reputation risk(社会的評価リスク)”を気にしてスムーズに登録したという実績があるため、わが国においても概ね同様の経緯をたどるものと推測される。 ④ 登録国外事業者制度の運用 登録国外事業者制度の運用に関し、以下の措置が講じられている。 (ア) 国税庁のホームページで「登録国外事業者」に関する以下の項目が登録後速やかに公表される(後述【第7回】6(2)参照)。 1) 氏名又は名称 2) 住所もしくは居所又は本店もしくは主たる事務所の所在地 3) 登録番号 等 (イ) 「登録国外事業者」が、登録の取消を求める届出書を納税地を所轄する税務署長を経由して国税庁長官に提出した場合には、届出書の提出があった日の属する課税期間(当該届出書の提出が一定の日以後なされた場合には翌課税期間)の末日の翌日以後は、当該登録は失効する。 (ウ) 登録を受けた日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、上記(イ)による登録の取消を求める届出書の提出が行われない限り、事業者免税点制度は適用されない。 【登録国外事業者制度と事業者免税点制度の適用関係】 ⑤ 事業者免税点制度の特例 事業者の課税期間の基準期間の初日が平成27年10月1日前であるときは、その基準期間の初日からこの制度の見直しが行われていたものとして、事業者免税点制度の規定が適用される(改正法附則36①)。 ただし、事業者が国外事業者であるため過年度の帳簿書類にアクセスできないケースなど、上記の方法で課税売上高を計算することが困難な事情があるときは、基準期間における課税売上高を、平成27年4月1日から同年6月30日までの間においてこの制度の見直しが行われていたものとして計算した課税売上高に4を乗じて計算した金額によることが認められる(改正法附則36③)。 【課税売上高を計算することが困難な事情があるときの計算式】 (7) 電気通信役務の提供に係る判定フロー 国内及び国外の事業者が日本国内において役務の提供を受ける場合の判定フローを図示すると、以下のようになる。 (出典) 財務省編『平成27年度税制改正の解説』838頁。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第5回】 「国税関係帳簿書類のデータ保存の承認申請(3)」 税理士 袖山 喜久造 前回は、国税関係帳簿書類に係るデータ保存の申請の方法について解説した。今回は、電子帳簿保存法(以下、「電帳法」)の要件に基づいた国税関係帳簿書類の保存にあたっての問題点と解決策及び税務調査対策、そしてこれら国税関係帳簿書類の承認申請にあたっての留意事項、申請方法について解説する。 1 帳簿書類のデータ保存にあたっての問題点 業務システムや会計システムは、利用システムのサポート期間やライセンスの関係で、法定保存期間の間、同じシステムにおいてデータを見られる状況にするにはコストパフォーマンス上、困難な状況にあることが多く、保存媒体についても、通常業務で使用しているシステム内のサーバに7年間以上保存することは現実的ではない。 国税関係帳簿書類に係るデータの保存媒体については、ファイルサーバ、Webサーバをはじめ、CDやDVDといった光ディスクや磁気テープなど様々な保存媒体が考えられるが、電帳法では、このような保存媒体についての規定は無く、保存義務者の任意の選択に委ねられている。 いずれの媒体に保存することとしても、保存義務者は、その媒体の管理手続等を事務処理規程において明確にするとともに、管理責任者を定めるなどにより記録媒体が紛失、消失しないように一定の措置を行い、適切に管理・保管しなければならない。 また、帳簿データの保存形式については、電帳法では特に規定されていないため、電帳法施行規則(以下、「規則」)第3条第1項各号に規定されている保存要件が満たされる保存状態が保持されていればよい。 帳簿書類のデータ量が多い法人においては、帳簿データを保存する場合に、通常業務で使用しているシステム内のサーバに7年間以上保存している法人は多くはないと思われる。特に大規模法人においてはデータ量が膨大となり、保存領域の問題もあり、2年から3年が経過すると当該サーバから磁気テープに退避したりアーカイブして別管理する場合がある。 このような場合に帳簿データ等の保存を「電子帳票システム」というシステムにより保存している法人が電帳法の適用法人である場合には、税務調査時に帳簿の保存状況について問題となるケースが多くなっている。次項で電子帳票システムと電帳法の関係について解説する。 2 電子帳票システムとの関係について 一般的に「電子帳票システム」という名称で販売されているシステムは、業務システムや会計システム等で作成・蓄積された会計データ等を「帳票」として出力するための帳票作成ツールであり、業務システムや会計システムで作成された帳簿や書類の数あるデータ項目の中から、その帳票として表示させるごく一部分のデータ項目を抽出して編集した「印刷データ」、「帳票データ」、「オーバーレイデータ」といういわゆるPDF形式などのイメージデータ形式で保存しているものである。 電帳法では、帳簿書類のデータの保存媒体やデータ形式に関する規定はないが、規則第3条第1項各号に規定された保存要件どおりにデータが保存されていれば問題はない。ただし、電子帳票システムには、保存対象とする帳簿書類の電磁的記録として保存されるべきすべてのデータ項目やデータが保存されない場合がある。 例えば、業務システムや会計システムで作成されたデータのうち、電帳法の作成システムの要件である「訂正・削除の履歴データ」は電子帳票システムでは保存されない場合が多い。電子帳票システムでは、帳票の形で画面、又は紙に出力する関係で、訂正・削除されたあとのデータだけを保存している場合が多く、このような場合には電帳法の帳簿保存の要件が満たされているとはいえないのである。 また、訂正・削除が反対仕訳で行われる場合には、訂正後のデータに当初の入力データを特定できる情報が付加されていることも要件となるが、これらの要件が満たされる電子帳票システムを運用しているケースはほとんど見られない。なぜなら、電子帳票システムで表示されるデータは、帳票として見やすく便利に利用されるために編集された紙の帳票と同等のものだからである。 このような理由から、電子帳票システムによる電帳法の帳簿データの保存は認められないケースが多くなっており、既に電子帳票システムで帳簿データ等を保存している法人は税務調査で指導を受けるケースが多くなっているのである。 それでは「どのように帳簿データを保存すればいいのか」である。先に述べたように、電帳法では帳簿データを作成するシステムで法定保存年数の期間中、データが見られる状況にあることは義務付けされていないことから、帳簿データ等はデータベースの形で別媒体に移動させ、そこで法定保存年数保存すれば問題ない。保存形式はデータベースの形で保存することとしてもよいし、サブDBシステムとして別途データベースを構築してもよい。こうした製品も数社のベンダーから販売されている(注)。この場合には、保存するデータ項目や期間を正しく設定し、帳簿データの抽出を行う必要がある。 (注) サブDBシステムの機能を持った製品としては、例えば次のものが挙げられる。 JFEシステムズ「DataDelivery(データデリバリー)」 日鉄日立システムエンジニアリング「PaplesWeb(パピレスウェブ)」 NTTデータビジネスブレインズ「Pandra-AXデータアーカイブ」 3 国税関係帳簿書類の承認申請 (1) 国税関係帳簿の承認申請 電帳法第6条第1項では、国税関係帳簿の電磁的記録の承認申請の方法を規定している。承認申請書は、承認を受けようとする国税関係帳簿の備付けを開始する日(以下、「備付開始日」)の3月前の日までにその承認を受けようとする国税関係帳簿の種類を記載した承認申請書に添付書類を添付し、納税地等の所轄の税務署長等に提出しなければならない。 この場合、承認を受けようとする国税関係帳簿が複数ある場合で、それぞれの備付開始日が異なる場合には、その中で一番始めに到来する備付開始日の3月前の日までに承認申請書を提出することとなる。 新設法人が承認を受けようとする場合には、設立の日から6月を経過する日までの間を備付開始日とするならば、承認申請書を設立の日から3月を経過する日までに提出しなければならない。 国税関係帳簿の備付開始日とは、当該国税関係帳簿を備え付けることとなる日をいい、所得税及び法人税の保存義務者については、課税期間の初日、つまり事業年度の初日が当該国税関係帳簿を備え付けることとなる日となる。 (2) 国税関係書類の承認申請 電帳法第6条第2項では、国税関係書類の電磁的記録の承認申請の方法を規定している。この承認申請は、電帳法第4条第2項で規定する国税関係書類に係る電磁的記録の保存、及び同条第3項で規定する国税関係書類に係るスキャナ保存に係る承認申請書が対象になる。 承認申請書は、国税関係書類に係る電磁的記録に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代える日(以下、「保存に代える日」)の3月前の日までにその承認を受けようとする国税関係書類の種類を記載した承認申請書に添付書類を添付し、納税地等の所轄の税務署長等に提出しなければならない。 この場合、承認を受けようとする国税関係書類が複数ある場合で、それぞれの保存に代える日が異なる場合には、その中で一番始めに到来する保存に代える日の3月前の日までに承認申請書を提出することとなる。 新設法人が承認を受けようとする場合には、設立の日から6月を経過する日までの間を保存に代える日とするならば、承認申請書を設立の日から3月を経過する日までに承認申請書を提出しなければならない。 * * * 次回(第6回)では、国税関係書類(取引関係書類)のスキャナ保存について、その第1回目として本年3月に改正された政令の内容について解説する。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第18回】 「請負に関する契約書②(機械の売買契約~取付工事を伴う場合)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は大型機械製造会社です。 大型機械を販売するにあたり、機械の引渡しは、一定の場所に取り付けた後に検収後引渡しとしていますが、カタログ品を販売する場合と、注文者から指示があった規格により製作し販売する場合(特別注文品)では、印紙税の取扱いに違いはありますか。 なお、両者とも大型機械のため、取付工事費を請求することとしています。 【事例1】 カタログ品を販売する場合(機械代金:取付料区分記載) 【事例2】 カタログ品を販売する場合(機械代金:取付工事一式と記載) 【事例3】 特別注文品を製作し、販売する場合(機械代金:取付料区分記載) 【事例4】 特別注文品を製作し、販売する場合(機械代金:取付工事一式と記載) 【事例1】は第2号文書(請負に関する契約書)、記載金額100万円で印紙税額200円となり、【事例2】【事例3】【事例4】も第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、記載金額は1,300万円で20,000円となる。 [検討1] 請負に関する契約書と物品の譲渡に関する契約書(基通別表1第2号文書2) 注文者の指示に基づき一定の仕様又は規格等に従い、製作者の労務により工作物を建設することを内容とするものは「請負」に該当し、カタログ商品のように、あらかじめ一定の規格で統一された物品を、注文に応じ製作者の材料を用いて製作し、供給することを内容とするものは「物品の譲渡」に該当する。 その文書が請負契約に該当するかどうかについては、文書の標題にかかわらず、契約の内容が請負なのか単なる物品の譲渡なのかにより判断する。 したがって、【事例1】【事例2】における機械についてはカタログ商品であることから、物品の譲渡に該当する。また、【事例3】【事例4】については特別注文品であり、注文者の指示に基づき、一定の仕様又は規格等に従い製作されたものであることから請負に該当する。 [検討2] 取付工事料が区分記載されているか否か 【事例1】の場合における機械本体は物品の譲渡であり、取付工事料部分が請負に該当することとなり、取付工事料部分である100万円が記載金額となる。 【事例2】については、【事例1】同様に機械本体は物品の譲渡で取付工事料部分は請負であるが、機械代金は「機械本体、取付工事料一式」として区分記載されていないため、契約書に記載されている1,300万円が記載金額となる。 また、【事例3】【事例4】については機械本体、取付工事料ともに請負に該当することになる。区分記載されいるいないにかかわらず、合計金額である1,300万円が記載金額となる。 ▷ まとめ ◆請負に関する契約書と物品又は不動産の譲渡に関する契約書との判別(基通別表1第2号文書2) (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第3回】 「アルゼグループ事件」 ~最判平成18年1月19日(民集60巻1号65頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)