《平成27年度改正対応》 住宅取得等資金の贈与税非課税特例 【第3回】 「面積要件の留意点」 税理士 齋藤 和助 前回は、平成27年度改正により一部について認められることとなった「再適用」について、具体例をもとに適用の有無を確認した。今回は特例適用にあたって注意すべき面積要件について、次の具体例を使って確認してみたい。 【具体例】 ~二世帯住宅の場合~ 私は平成27年10月に、父から住宅取得等資金として1,500万円の贈与を受け、父が所有する土地に、父と持分2分の1ずつの二世帯住宅(省エネ等住宅に該当)を5,000万円で新築する予定である。 父は2,500万円を全額自己資金で、私は不足金額1,000万円を金融機関から調達する予定である。 新築家屋の合計床面積は300㎡であるが、住宅取得等資金の贈与税非課税特例(非課税限度額:1,500万円(【第1回】参照))は受けられるか。 【回答】 住宅取得等資金の贈与税非課税特例に係る面積要件は、親子などで共有する住宅の場合、床面積に共有持分を乗じて判断するのではなく、共有部分を含めた建物全体の床面積によって判断する。 したがって、床面積は300㎡となり、特例適用の面積要件50㎡以上240㎡以下に該当しないため、適用できない。 しかし、下図のように父と受贈者の持分部分を区分登記して建築することで、受贈者の専有部分は150㎡となることから、要件を満たすことができる。 ただし、父に相続の開始があった場合には、区分登記の二世帯住宅の父の専有部分は、特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の適用ができないケースも考えられるため、相続を見据えて判断する必要がある。 【解説】 1 対象となる住宅の要件 (1) 住宅用家屋の要件 住宅取得等資金の贈与税非課税特例の対象となる「住宅用家屋」とは、特定受贈者(【第1回】参照)の居住の用に供する家屋で、次の要件を満たすものをいう。 なお、特定受贈者の居住の用に供する家屋が二以上ある場合には、これらの家屋のうち、特定受贈者が主として居住の用に供すると認められる一の家屋に限る。 (2) 建築後使用されたことのある住宅用家屋の要件 この特例の対象となる「建築後使用されたことのある住宅用家屋」とは、特定受贈者の居住の用に供する家屋で、次の要件を満たすものをいう。 なお、特定受贈者の居住の用に供する家屋が二以上ある場合には、これらの家屋のうち、特定受贈者が主として居住の用に供すると認められる一の家屋に限る。 2 床面積の判定 非課税制度の対象となる住宅用家屋は、1棟の家屋で、床面積が50㎡以上240㎡以下であることが要件である。 この床面積基準の判定に当たり、次に掲げる家屋については、それぞれに掲げる床面積により行う。店舗併用住宅や賃貸併用住宅、共有住宅の場合も、床面積の判定では対象物件の全体床面積で判定する。 3 区分登記 上記2(2)により床面積の要件を満たさず特例が適用できないような場合は、【回答】のように、受贈者の持分部分を分割して区分登記すれば、それぞれの専有部分は150㎡となり、面積要件(50㎡以上240㎡以下で、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること)を満たすため、特例適用が可能となる。 4 小規模宅地等の課税価格の評価減特例との関係 ただし、住宅取得時に、3のように特例の適用等のために区分登記すると、土地所有者(【具体例】の場合、父)の相続の際に、小規模宅地等の課税価格の評価減特例(措法69の4、以後「小規模宅地等の特例」)を適用する上で不利になる場合がある。 小規模宅地等の特例を受けることができる特定居住用宅地等の要件である「被相続人と同居していた親族」とは、その親族が、相続開始の直前において宅地上の被相続人の居住用の1棟の建物に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していることが要件である。 ここで、「1棟の建物」とは、当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として、次の部分とされている(措法69の4③二イ)。 つまり、②の共有登記である場合は、父と受贈者はたとえ構造上区分されていたとしても、区分登記ではないため、1棟の建物に同居しているものとされ、特定居住用宅地等の同居要件を満たすことになる。 しかし、①のように区分登記されていた場合は、父の区分登記の専有部分に同居者や適格者がいなければ、父の所有建物部分に係る敷地は特定居住用宅地等に該当しない。 したがって、区分登記のままでは、特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の適用ができない場合がある。 これらのことから、今年度改正による適用要件だけを考えるのではなく、相続までを見据えた判断を行う必要がある。 (了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第9回】 「特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [9] 特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長 1 改正の内容 連結親法人又は連結子法人が、平成14年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に、土地等、建物又は構築物のうち所用期間が10年を超えるものから国内にある土地等(事務所等の敷地の用に供されるもの等で、その面積が300㎡以上のもの)、建物、構築物、機械及び装置等を買換資産として取得した場合に、一定の条件及び手続の下、その譲渡した資産の譲渡益の80%相当額について課税の繰り延べができる「特定資産の買替えの場合の課税の特例」(9号買換え特例)について、適用期限が平成29年3月31日まで2年3ヶ月延長されるとともに、対象資産及び一部の資産について課税繰延べ割合が見直された(措法68の78、68の80、措令39の106)。 (1) 対象資産の見直し 買換えの対象資産から、「機械及び装置並びにコンテナ用の貨車」が除外された(措法68の78①、措令39の106③)。 (2) 課税の繰延べ割合の見直し 「地域再生法の一部を改正する法律」(改正地域再生法)の集中地域以外の地域から集中地域への買換えの課税の繰延べ割合を75%、集中地域以外の地域から特定業務施設の集積の程度が特に著しく高い集中地域への買換えの課税の繰延べ割合を70%(改正前はいずれも80%)に引き下げられた(措法68の78⑭)。 なお、集中地域、特定業務施設の集積の程度が特に著しく高い集中地域、特定業務施設の範囲は、平成27年8月7日付けで公布された地域再生法施行令又は地域再生法施行規則において定められているが、その範囲はおおむね以下のとおりである。 2 適用時期 (1)の改正は、連結親法人又は連結子法人が平成27年1月1日以後に対象資産の譲渡をして、同日以後に買換資産の取得をする場合のその買換資産について適用する(平成27年所法等改正法附則93②)。 (2)の改正は、改正地域再生法の施行日(平成27年8月10日)以後に対象資産を譲渡し、同日以後に買換資産を取得する場合に適用される(平成27年所法等改正法附則93③、①十一)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第49回】 「法人税基本通達9-6-1(4)の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、法人税基本通達9-6-1(2)及び9-6-1(3)の取扱いについて解説を行った。 本稿においては、同通達9-6-1(4)に規定する書面による債権放棄について解説を行う。 4 書面による債権放棄 (1) 概要 法人税基本通達9-6-1(4)では、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」について、貸倒損失として損金の額に算入することが明らかにされている。 すなわち、①債務者の債務超過の状態が相当期間継続している、②金銭債権の弁済を受けることができないと認められる、③書面により明らかにするという3つの要件を満たす必要がある。このうち、③については、第35回で解説したように、昭和42年度の法人税基本通達の改正により、「当事者間の協議により締結された契約で公証力のある書面によるもの」ではなく、「書面により明らか」にされたもので足りることになった(昭和42年法基通78の2(4))。 民法上、債権の放棄は一方的な行為とされていることから(民法519)、書面により明らかにする必要はないはずであるが、客観性の問題もあり、法人税基本通達では書面により明らかにすることが求められている。なお、理論上は、公証力のある内容証明郵便である必要はないものの(※1)、実務的には、立証力を確保するために、内容証明郵便によるべきであると考えられる。 (※1) 渡辺淑夫ほか『法人税基本通達の疑問点』642-643頁(ぎょうせい、5訂版、平成24年) さらに、昭和42年度の法人税基本通達の改正では、「当該契約に基づく切捨てにより当該債務者に対して贈与したこととなると認められる場合において切り捨てられることとなるものを除く。」という文言が削除されたが、「わざわざかっこ書をおかなくても贈与となるものは貸倒れとならないことは当然であることから削除したものです。」(※2)と解説されている。 (※2) 桜井巳津男「貸倒れ・債権償却特別勘定の取扱い」税理11巻3号78頁(昭和43年) そのため、現行の法人税基本通達においても、上記②に掲げるように、金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に限って、貸倒損失として損金の額に算入することができるのであって、寄附金に該当するものについては、損金の額に算入することができず、実務上も問題となる点である。 (2) 債務超過状態の相当期間の継続 前述のように、法人税基本通達9-6-1(4)では、債務者の債務超過の状態が相当期間継続していることを要求している。 この場合における債務超過状態の判定は、言うまでもなく時価ベースである。そして、「相当期間」を何年とすべきかについては、当時の法人税基本通達が定められた背景を考えると、3~5年とするのが通常であるように思えるが、現在の経済環境や金融機関における不良債権の処理状況を考えると、必ずしも、3~5年と考えるのが相当であるわけでなく、より柔軟に考えるべきであろう。 すなわち、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し」という文言は、その後に続く「その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」という文言の枕詞に過ぎないものであり、金銭の弁済を受けることができないと認められるかどうか、換言すれば、寄附金に該当しないかどうかという点が重要であると考えられる。 (3) 消滅時効が完成した債権 消滅時効が完成したとしても、債務者が時効を援用しない場合には、法的に債権が消滅したことにならないため、債務者が時効を援用した場合に限り、貸倒損失として損金の額に算入することができるとされている(※3)。 (※3) 中村慈美『貸倒引当金制度廃止後の不良債権処理の税務 要点解説』34頁(大蔵財務協会、平成24年)、森文人「貸倒損失等の法人税法上の取扱いについて」租税研究743号233頁(平成23年) しかしながら、時効が援用されれば、すべての場合において貸倒損失として損金の額に算入することができるかと言えば、その点については慎重に考えるべきである。 なぜならば、とりわけオーナー社長の親族に対する債権については、請求されないまま放置されているケースが少なからず存在し、容易に消滅時効が完成している場合も少なからず存在する。そのような場合には、当該消滅時効の完成は、やむを得ず生じたものではなく、当初から積極的に回収するつもりがなかったものであり、半ば贈与の意図があったのではないかという疑念が生じることも少なくない。 このような場合には、寄附金又は役員給与として、損金の額に算入することを否定すべきであると思われる。さらに、贈与を受けた債務者としては債務免除益を認識する必要があり、所得税の課税対象になるという問題も生じる。 そのため、実務上、時効を援用させるというよりも、債務者の財産状態や将来所得の状態を考慮しながら、特定調停手続等を用いたうえで、回収不能部分に限って債権放棄を行うことにより、債権者側における損金算入の問題だけでなく、債務者側の債務免除益の問題も同時に解決することを検討すべきであると考えられる。 なお、実務上は、これらの判断はかなり曖昧なものであり、相当に慎重な対応が求められるということは言うまでもない。 (4) 金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合 第48回で解説したように、特定調停手続による法人に対する債権放棄については、法人税基本通達9-4-2で検討することとされたため、同通達9-6-1(3)(4)に該当するケースとしては、債務者が自然人であるケースが主流になると考えられる。 これに対し、債務者が法人である場合に必ずしも同通達9-6-1(3)(4)に該当するケースがないかと言えば、同通達9-4-2は、子会社等に対する債権放棄に限定されており、「子会社等」とは、「当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる」としていることから、これに該当しないものであれば、同通達9-6-1(3)(4)に該当することはあり得よう。 具体的には、かつては取引があった者に対する金銭債権であっても、もはや回収可能性が乏しいことから、弁護士を通じて和解を行ったうえで、回収不能な部分について債権放棄を行った場合には、これに該当する可能性は十分にあり得よう。また、特定調停手続のすべてが同通達9-4-2に該当するわけではなく、事業関連性が乏しくなった者に対する調停であれば、同通達9-6-1(3)(4)に該当することから、特定調停手続により債権放棄を行う場合も該当し得る。 しかしながら、同通達9-6-1(4)の適用は貸倒償却であるという理由から、債権放棄後の経営支援は矛盾することから認められないという指摘があるという点は留意する必要があろう(※4)。 (※4) 高橋俊樹『実例に学ぶ金融機関の債権償却』100-101頁(金融財政事情研究会、第5版、平成24年) また、担保物件が無処分である場合には、原則として、当該担保物件の処分による回収が未確定であり、必ずしも、債権の回収可能性がないとは言い切れない場合があるため、合理的に回収不能見込額を見積もって債権放棄を行ったとしても、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすことはできないという点に争いはないと思われる。しかしながら、国税庁のHPの質疑応答事例では、「担保物がある場合の貸倒れ」として、「担保物の処分による回収可能額がないとは言えないケースであっても、回収可能性のある金額が少額に過ぎず、その担保物の処分に多額の費用が掛かることが見込まれ、既に債務者の債務超過の状態が相当期間継続している場合に、債務者に対して書面により債務免除を行ったときには、その債務免除を行った事業年度において貸倒れとして損金の額に算入されます。」と解説されており、実務上も参考になると考えられる。 (5) 連帯保証人が存在する場合 実務上、連帯保証人が存在する場合には、当該連帯保証人に対する責任追及をどこまで行うのかという点が問題となる。 この点につき、連帯保証人が自己破産等の法的整理を行う場合には、それ以上の保証責任を追及することができなくなるため、特に問題にはならない。 これに対し、自己破産等の法的整理を行わないのであれば、連帯保証人の弁済能力からして最大限の回収を行ったうえで、回収することができない部分について、書面によりこれ以上の保証責任を追及しないことを明らかにするのであれば、貸倒損失として損金の額に算入することができると考えられる。 この場合における回収不能の判断については、貸倒引当金の通達ではあるものの、法人税基本通達11-2-7において、連帯保証人が個人であって、次のいずれにも該当する場合には、個別貸倒引当金の計算において、連帯保証人からの回収可能額を考慮しないことができる旨が明らかにされており、貸倒損失を計上する場合における回収可能性の判断でも参考にすることができると考えられる。 ① 当該保証人が有する資産について評価額以上の質権等が設定されていることなどにより、当該資産からの回収が見込まれないこと。 ② 当該保証人の年収額が当該保証人に係る保証債務の額の合計額の5%未満であること。 すなわち、連帯保証人が有する資産のすべてを換価し、借入金の弁済に充てたうえで、残った保証債務の額が当該連帯保証人の年収の20倍以上である場合には、当該連帯保証人からの回収が見込まれないと考えられるため、書面によりこれ以上の保証責任を追及しないことを明らかにするのであれば、貸倒損失として損金の額に算入することができる可能性はあると考えられる。 (6) 損害賠償金に対する未収債権 法人税基本通達2-1-43において、他の者から支払いを受ける損害賠償金の額は、その支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則とするものの、実際に支払いを受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することも認めている。 そのため、実際に支払いを受けた日の属する事業年度に益金の額に算入するのであれば、損害賠償金に対する未収債権が貸し倒れたとしても、そもそも計上されていない債権に対する貸倒れであるため、法人税の計算上、何ら影響を受けない。 しかしながら、その支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入する手法を選択した場合において、その後の経済状況により当該未収債権の債権放棄を行うときは、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすか否かを別途検討する必要がある。この点については、同通達の要件を満たすか否かの通常の判断と変わらない。 次回では、法人税基本通達9-6-2の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第12回】 「継続的取引の基本となる契約書①(売買契約)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は製造会社です。 商社との間で、商品売買を行うことの基本契約書を作成しましたが、課税文書に該当しますか。 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当し、印紙税額4,000円となる。 なお、納税義務者は売主甲と買主乙であるが、丙の所持する文書も課税の対象となる。 [検討1] 第7号文書の要件(令26①) 第7号文書の要件は、特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する2以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの(令26①抜粋)とされている。 事例の製品売買基本契約書は、第7号文書の要件の、営業者の間において売買に関する2以上の取引を継続して行うために作成される契約書で、2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類(甲の製造する電気器具)、対価の支払方法(月末締切り、翌月10日銀行振込み)を定めるものであり、第7号文書に該当する。 [検討2] 連帯保証人に関する事項 第11条(保証人の義務)において、丙が連帯保証人となる旨の定めがあるが、主たる債務の契約書に併記する保証契約は、第13号文書(債務の保証に関する契約書)から除かれている(第13号文書の課税物件名欄かっこ書)。 ただし、併記された債務の保証契約を変更又は補充する契約書の場合は、債務の保証契約のみが記載されることとなるので、第13号文書に該当することとなる。 (例) ※この場合、債務の保証の変更は第7号文書の重要事項にはあたらないため、第7号文書には該当しない。 ▷ まとめ ◆2以上の取引の意義 令26条第1号に規定する「2以上の取引」とは、契約の目的となる取引が2回以上継続して行われることをいう(基通別表第17号文書4)。 ◆目的物の種類の意義 令26条第1号に規定する「目的物の種類」とは、取引の対象の種類をいい、その取引が売買である場合には目的物の種類が、請負である場合には仕事の種類・内容等が、これに該当する。また、当該目的物の種類には、例えばテレビ、ステレオ、ピアノというような物品等の品名だけでなく、電気製品、楽器というように共通の性質を有する多数の物品等を包括する名称も含まれる(基通別表第17号文書8)。 ◆対価の支払方法の意義 令26条第1号、第2号及び第4号に規定する「対価の支払方法を定めるもの」とは、「毎月分を翌月10日に支払う。」、「60日手形で支払う。」、「借入金と相殺する。」等のように、対価の支払に関する手段方法を具体的に定めるものをいう(基通別表第17号文書11)。 ◆納税義務者 一の課税文書を2以上の者が共同して作成した場合には、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある(法3②)。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第9回】 「重要性の有無の判定方法①」 ~「枝葉末節」は担当者ベースで判断 公認会計士 石王丸 周夫 今回は「明らかに僅少な額」を使った重要性判断について解説します。 「明らかに僅少な額」とは、【第4回】で解説したとおり、一番細かい“ふるい”にもひっかからないような、微小な粒にたとえられる金額のことでした。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 「明らかに僅少な額」という概念は、知っていて損はしません。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《明らかに僅少な額の求め方》 「明らかに僅少な額」とは、重要性の基準値よりごく少額な水準の額のことです。 会計監査の実務では、これを以下のように求めています。 重要性の基準値に対して一定の割合を掛けて、十分に小さな値となるように求めるのです。基本的には、重要性の基準値が変動すれば、それに伴って「明らかに僅少な額」も変動します(⇒したがって、問題9のウの記述は誤りです)。 上の式で気になるのは、「一定の割合」を何%にするかでしょう。 実務的には、5%にしている監査人もいれば2%にしている監査人もいます。イギリスの監査実務では平均4%という調査結果もあります。 ちなみに、日本公認会計士協会から公表されている監査基準委員会報告書450には、以下のように説明されています。 (監査基準委員会報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」A2項) つまり、「何%」ということは書かれていません。「重要性の基準値の一定の割合にしなければいけない」といったことも書かれていません。はっきりとした決まりはないのです(⇒したがって、問題9のアの記述は正しいです)。 《「明らかに僅少な額」が意味すること》 「明らかに僅少な額」が会計監査においてどういう意味を持っているのかということも、ぜひ知っておきましょう。 その点についても、前出の監査基準委員会報告書450で以下のように説明されています。 (監査基準委員会報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」第4項) 監査では、発見された決算数値の誤り(虚偽表示)を集計して、それが決算書に与えている影響を見極めます。その際、「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示は集計対象に含まれないのです。 ごく少額な誤りは決算書への影響を無視できるので、あえて集計しなくてもよいというわけです。 《監査役や経営者にも報告されない》 「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示が虚偽表示として集計されないということが、何を意味するかおわかりでしょうか。 会計監査では、発見事項を監査役や経営者に報告します。その主な内容は、未修正となっている虚偽表示です。監査人が発見した決算書の誤りで、会社側がそれを修正していない事項です。監査役や経営者は、未修正の虚偽表示に関する報告を受けて、それを本当に修正しなくてよいかどうか判断するわけです。 その未修正の虚偽表示に、「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示は含まれません。ということは、「明らかに僅少な額」以下の間違いというのは、監査役や経営者に報告されず、経理担当者レベルで認識されるにとどまるということになります。 以上から、監査人は「明らかに僅少な額」以下の残高や取引を積極的に検証することはしていません(⇒したがって、問題9のイの記述は誤りです)。仮にそこから誤りが検出されたとしても、金額的に問題にならないので、検証の必要性がないのです。 たまたま、他の重要な項目の監査手続を実施している中でそうした誤りを検出した場合は、監査調書に記載し、会社の経理担当者に伝えますが、監査意見の形成に影響が出ることはありません。 《担当者ごとにそれぞれ判断してよい》 「明らかに僅少な額」が監査でこのように取り扱われることを前提とすれば、経理実務ではこれを利用して重要性判断を行うことができます。「明らかに僅少な額」以下のものは、上司に相談せずに、個々の担当者の判断で重要性が乏しいとするのです。 「明らかに僅少な額」は、虚偽表示の集計の対象外であり、監査人も検証しないような金額なので、個々の担当者の判断で重要性が乏しいとみなすことができます。複数の経理担当者が、それぞれこのような判断を行って、明らかに僅少な額以下の虚偽表示の修正を見送ったとしても、それらの集計額は財務諸表の適正表示に影響を与えることはない、そういうロジックなのです。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第91回】 連結会計⑧ 「持分法による損益の取込み」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈仕訳〉(単位:百万円) (※1) 持分法による投資利益の金額の計算 持分法による投資損益200=持分法の対象となる利益800×持分比率 25% 〈会計処理の解説〉 当社は、X1年10月1日よりB社を持分法適用会社としているため、同月日以降のB社の損益(持分法の対象となる利益800百万円)を対象に、持分法による投資利益を算定する必要があります。具体的には、持分法の対象となる利益800百万円に持分比率(25%)を乗じて、持分法による投資損益(200百万円)を算定します。 また、持分法の対象となる損益のうち、当社の持分比率に応じた金額をB社株式の簿価に加減算し、当該金額を当社の損益として計上する必要があります。そのため、持分法の対象となる損益(800百万円)に持分比率(25%)を乗じた金額(200百万円)をB社株式の簿価(連結貸借対照表上、投資有価証券)に加算し、同額を持分法による投資利益として計上します。 ※9月は、人件費に関する会計処理について解説します。 (了)
社外取締役の教科書 【第5回】 「『コーポレート・ガバナンスの実践』 (経済産業省報告書)が示すもの(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 経産省研究会による報告書の公表 経済産業省は、平成27年7月24日、有識者により構成された「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」における議論の成果を「コーポレート・ガバナンスの実践 ~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」という報告書に整理した。 本報告書は、奇しくも、東芝における不適切会計問題が世間に衝撃を与え、我が国におけるコーポレート・ガバナンスのあり方が揺らいでいる状況下で公表される結果となった。 同書の内容は、今後の社外取締役の職務・活動内容等のあり方を考える上でも参考になることから、当初の予定を変更し、今回と次回にかけて、その概要を紹介したい。 2 総論-我が国企業を取り巻く環境の変化と対応の必要性 本報告書は、まず、総論として、次に述べるような一般的状況を確認している。 すなわち、本格的なグローバル競争が熾烈なものとなっている現状において、企業の「稼ぐ力」を向上させていくためには、短期的な業績ではなく中長期的な収益性・生産性を高めることこそが重要であると指摘している。この点に関するこれまでの我が国の取組み・実績は、十分とはいえなかった。 今後は、中長期的な生産性を高めるため、株主や取締役等といった各立場に対するインセンティブをどう付与していくかという制度設計ないし環境整備が重要となるといえる。 以上のような一般論そのものには、特に異論はないところであろう。 【第1回】で説明した近時におけるハード・ローとソフト・ローの両面からのコーポレート・ガバナンスの整備・強化の傾向は、本報告書が示すのと同様の問題意識によるものである。 ここで重要なことは、以上のように共通の問題意識を背景にした提言・立法・ルール化が、あらゆる方向から、重層的になされているという現状である。 これは取りも直さず、コーポレート・ガバナンスの強化が我が国の経済活動の根幹を支えるほどに重要なものと認識されている証拠である。単なる法令遵守という“綺麗ごと”にとどまらず、自由主義経済体制を前提に、企業が「より業績を伸ばす」、「より成長する」という“実利”を獲得していくための基盤づくりとして、コーポレート・ガバナンスの強化が必須だという理解である。 このような観点は、今後よりいっそう各方面で重要さを増していくものと考えられる。 3 各論-中長期的な生産性向上のための基本的考え方と具体策 以上の目的を実現するため、本報告書は次の4つの観点の充実化を挙げている。 4 ここまでのまとめ 以上のように、本報告書は、中長期的な企業価値の向上にはコーポレート・ガバナンスの強化・実践が必要であることを広く論じるものであるが、その中でも社外取締役の役割に寄せられた期待は大きいといえる。 社外取締役制度は、間違いなく、我が国企業を取り巻く“トレンド”の一翼を占めるに至っていると言ってよいであろう。 次回は、より具体的な実践例を参照すべく、本報告書に添付されたプラクティス集より、社外取締役の監督機能の面に関連した取り組み例を紹介する。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第1回】 「税理士が資金調達支援を行うメリット」 ~他の専門家との差別化を図る~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 税理士が資金調達支援を行う大きなメリットは、「他の専門家との差別化を図ることができる」という点にある。そこで、まず同じ税理士との差別化にどう資するのか、さらに税理士以外の専門家との差別化にどう資するのか、解説を行っていく。 1 新規顧客獲得のためのツールとしての資金調達支援業務 税理士業界は年々競争が厳しくなっており、他の税理士と差別化を図ることは多くの税理士にとって重要な問題である。その差別化の一手段として、資金調達支援を検討するわけであるが、実のところ資金調達支援を業務として行うことができる税理士は多くない。 相続税や資産税などの専門分野に特化している税理士が、これまで融資に関する業務に携わったことすらない、というのはよくある話ではあるし、そうでない税理士においても、おおよそ7、8割の税理士は資金調達支援を業務として行ったことがない、行うことができない、というのが実情であろう。 実際に、筆者がこれまで資金調達支援の相談を受けた中小企業で、会計士や税理士が役員を務めていたことも少なくない。つまり、それらの専門家が自らが役員を務める企業の資金調達支援を行うことができなかったということである。 さらに具体的なメリットとして、資金調達支援が直接新規顧客の獲得に繋がるケースもある。筆者の経験談ではあるが、関東圏にある不動産仲介会社から「資金調達支援が必要なのだが、現在の顧問税理士に相談しても『支援したことがない、できない』と言われてしまった。あなたの事務所に支援をお願いできないだろうか?」という依頼を受け、実際に支援を行い、資金調達できたことがあった。それをきっかけとし、その企業は数年来続いていた前任税理士との顧問契約を打ち切り、筆者の事務所に顧問先を変更することになった。 2 資金調達支援は既存顧客に対するサービス向上にも繋がる 1で説明した内容は新規顧客獲得という点からのメリットだが、さらに既存顧客への対応という点でも差別化に資するメリットがある。 税理士の交流会に足を運ぶと、「毎月、毎月、会社に訪問するのだけれども、何を話せば良いか分からない」という声をよく聞くし、筆者も資金調達支援に取り組む前は同じような悩みを持っていた。年に1回、税務申告時に顔を合わせる程度では、経営者との信頼関係も構築しづらく、何かのきっかけで税理士を変えられてしまうのではという不安が払拭できない。 そこで存在感をアピールしようと毎月訪問してはみても、何を話せば良いか分からない。税法改正の説明を毎月繰り返すわけにもいかないし、週刊の税務雑誌に書いてある記事をネタにしても経営者の反応は薄い。決算見込みが固まらないうちは具体的な節税提案も難しい。もちろん税務調査の対応では存在感を示せるかもしれないが、調査は通常数年に一度しかない。さらに調査の結果次第では逆に顧客喪失の危険がある。 こういった悩みを抱える税理士も、資金調達支援を行うことで、既存顧客との信頼関係を深めることができる。業績が悪い時は、運転資金の調達需要があるし、業績が良い時は事業投資や新店舗の出店などの資金需要がある。経営者と会話する機会を増やすことができる。 「金融機関からの借り入れだって毎月あるわけではないだろう」と思われるかもしれない。確かにそのとおりである。しかし、本連載の後半で解説するが、資金調達支援ノウハウは経営改善支援にも応用できる。それを活用すれば、資金需要がない場合でも、経営者に対して存在感を示すことができ、既存顧客への対応の点でも、他の税理士との違いを打ち出すことができる。 3 独占業務ではない資金調達支援における、税理士の持つ優位性 次に、税理士以外の他の専門家との差別化について解説する。 資金調達支援は、特定の資格者に認められた独占業務ではない。他の専門家、例えば中小企業診断士などのコンサルタントや行政書士も、資金調達支援のサービス提供が可能である。 しかし、税理士はこれら専門家との差別化が図りやすい。なぜなら「会計の専門家」という強みを有しているからである。金融機関に提出する財務関係資料の信用度は、他の専門家が関与した場合よりも、税理士が関与した場合の方が高い。金融機関に対する信用面で税理士は有利に立てるのである。 また、通常クライアントである企業と継続的な顧問契約を結んでいる、という点でも税理士は有利である。継続的な関係を結んでいることで、会社に資金調達支援が必要になった場合、迅速に対応することができ、他の専門家に対してスピード面で有利に立てる。 他の専門家は、一時の契約という形が一般的で、迅速な対応は難しい。相談を受けるまでに時間がかかるであろうし、受けた後も、会社の事業内容や資金調達の目的を理解するための時間が必要になる。 つまり、税理士は「信用」と「スピード」の面で他の専門家に対し強みを持ち、優位な立場で資金調達支援を行うことができる。逆にいえば、資金調達支援を行わない税理士は、その資格が持つ強みを活かせていないということである。 4 税理士であるからこそ、資金調達支援を 以上、資金調達支援業務は税理士にとって他の税理士、また他の専門家に対して差別化ができるというメリットがあることを説明した。税理士としての強みを明確にしたいと思う場合は、選択肢の1つになる。 支援業務の経験が無いと、特別な知識が必要なのではないか、敷居が高いのではないか、という印象を持つかもしれない。しかし、会計の専門家であれば、つまり税理士であれば支援業務を行うことは可能である。会社側としても、別の専門家に依頼するよりも、現在の顧問税理士に依頼した方が効率的であることは言うまでもない。 もし資金調達の相談を受ける機会があったら、それを逃さず、一度、取り組んでみるべきである。 * * * 次回は、「資金調達支援における税理士の役割」について、つまり税理士は、会社と金融機関との間で、仲介者としての役割を果たすことができる、という点について述べる。 (了)
従業員等からの 『マイナンバー』入手の手順 【第3回】 「本人確認について(その2)」 ~代表的なケースと求められる手続き~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 前回は、その方法が何通りもあることで逆に企業担当者の頭を悩ませている「本人確認」の手続について、どのような視点で理解すればよいか、そのおさえどころについて紹介したが、今回はその知識を踏まえた上で、3つの代表的なケースをもとに、本人確認についての具体的な方法を解説する。 1 マイナンバーの入手方法が変われば本人確認の方法も変わる 企業の体制・業態によってマイナンバーを入手する方法や対象者は異なるが、これによって必然的に、本人確認の方法も変わることになる。 そこで、まずは各事業者がマイナンバーを入手する際に想定し得る代表的な3つのケースを確認しておきたい。なお、これらのケースは誌面の関係上、マイナンバー入手方法のすべてを網羅しているわけではない点に留意されたい。また、本連載はマイナンバー法が施行された1年目を想定していることから、2年目(2回目)以降の本人確認についての解説は、別の機会に譲ることとしたい。 以下では、これら3つのケースごとに、本人確認の方法と留意点について解説する。 2 〈ケース1〉の「本人確認」方法 〈ケース1〉のように「企業の事業拠点・活動拠点が極めて限定的であり、マイナンバーはすべて本社で直接入手することができる」シンプルなケースでは、すべて本社において直接的にマイナンバーを入手することができるため、基本的に郵送など別の方法による必要性は低い。 そこで、前回解説した方法、すなわち、「個人番号カードあるいは各種書類の組み合わせ」で「対面」によって本人確認を行う方法が原則的であり、また、最も実務的であると考えられる。 以下の【図1】【図2】が、具体的なイメージである。 【図1】 個人番号カードの提供を受けて「対面」で本人確認を行うケース (出典:国税庁「国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】(平成27年3月)」p30) 【図2】 顔写真の表示のある書類とその他の書類(通知カード又は番号付住民票)の2種類の書類の提供を受けて「対面」で本人確認を行うケース (出典:国税庁「国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】(平成27年3月)」p31) 3 〈ケース2〉の「本人確認」方法 上記のように〈ケース1〉の場合は企業の負担も比較的少ないが、実際には、営業活動を全国で展開する〈ケース2〉「企業の事業拠点・活動拠点が広範であり、マイナンバーのすべてを本社が直接入手することが困難なケース」に該当する企業が多いと思われる。 この場合、マイナンバーを入手すべき個人が全国に点在し、かつ、その種類(業務委託先、講演の依頼先、地主や家主、株主等の種別という意味)も多岐にわたり、これら個人との日常的な折衝の窓口が本社ではないことが通例であろう。 そこで、〈ケース2〉ではまず を判断しなければならない。 そして、 をそれぞれ理解する必要がある。 (1) 本社一括で行うべきか、各拠点等で行うべきか これは、本社が一括して行う場合と各拠点等の単位で行う場合において、情報漏えいリスクや対処に要するコストとの兼ね合いにより、企業ごとに判断することになる。 一般的には、本社が一括して行う場合は情報が一元管理されるため漏えいリスクは相対的に低いが、関係する個人と地理的に遠い本社が本人確認を行うことから、相応のコストを要する。 一方、各拠点等の単位で行う場合には、この逆の状況といえ、地理的な問題によるコストは抑えられるものの、情報漏えいリスクが高くなるため、このリスクを限りなくゼロにするためには、各拠点の担当者や責任者への教育研修を確実に、網羅的かつ継続的に行う必要があり、その研修等についてのコストも考慮しなくてはならない。 筆者の経験では、コスト的な観点と実務上の便宜を考慮して、各拠点等の単位で行うとする判断が相対的に多いように思われる。 ここで、本人確認を本社が一括して行う場合と各拠点等の単位で行う場合のメリット・デメリットをまとめると、以下のようになる。 (2) 本人確認を「本社が一括して行う場合」の方法及び留意点 本社の従業員等については、上記〈ケース1〉で述べた原則的な方法によって本人確認を行えばよい。しかしながら、例えば、飲食店の経営を行う会社において、本社が各店舗単位で採用するアルバイトやパート等の本人確認をどのようにして行うのか、といった課題がある。 つまり、地理的制約あるいはコスト的な制約から、対面で本人確認が行えない(あるいは、行うことが現実的ではない)個人について、対面以外の方法で本人確認を行う方法を検討する必要がある。 「対面以外の方法」とは、具体的には によることが考えられる。 【図4】は上記のうち①本人確認用の書類(紙による写し)を郵送して個人番号の提供を受ける場合のイメージであり、国税庁の資料からの引用であるが、非常に特徴的な方法といえる。 【図4】 郵送により個人番号の提供を受け本人確認を行う方法(個人としては、地方に居住する講師を想定) (出典:国税庁「国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】(平成27年3月)」p33(一部変更)) この場合、個人番号の提供を依頼する書類(【図4】では、図の中央にある「個人番号の提供のお願い」)に、当該個人が通知カードや番号付住民票の写しを貼付して返送することで、通知カード等の写しによって個人番号の番号確認を行うとともに、依頼書類に印字した住所及び氏名と貼付されている通知カード等の写しの住所及び氏名が同一であることを確認することにより、身元(実在)確認を行うことができるとされる。そこで、事業者自身が送付した書面が事業者の元に返送される必要があるとされている。 この方法は、個人番号カードの表面や、写真が表示された身分証の写しの送付に抵抗のある個人には、有効な方法であると考えられる。 もしくは、後述する【図5】と同様の考えで、当該個人に個人番号カード等の両面の写しを本社に郵送してもらうことも可能である(あるいは、個人番号カードがない場合には、複数の書類の組み合わせによって本人確認を行うことになることから、当該複数の書類等の写しを郵送してもらうことでもよい)。 筆者が受ける印象としては、本人確認を厳格に行うべきという法の考えからすると、郵送によって実効性のある本人確認が行えるのか若干違和感はあるものの、筆者がマイナンバーコールセンターに照会した結果、「可能」という回答が得られている。 なお、国税庁告示によれば、上記の方法を応用して、依頼書類に予め住所及び氏名を印字したうえで当該書類を本人に「交付」して当該書類の提出を受ければ、上記と同様当該書類の整合性の確認により身元(実在)確認を行い、通知カード等の写しで番号確認を行うことができるとされている。 次に、【図5】は上記②の本人確認用の書類(データ化した写し)を「電子メール等によって送信する電子的な方法」のイメージである。 【図5】 電子メールにより個人番号の提供を受け本人確認を行う方法(個人としては地方に居住する講師を想定) (出典:国税庁「国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】(平成27年3月)」p37) この場合、個人番号カードの表面で身元(実在)確認、裏面で番号確認を行うことになる。そこで、当該個人には個人番号カードの両面を撮影して送信してもらうことになる(あるいは、個人番号カードがない場合には、複数の書類の組み合わせによって本人確認を行うことになることから、当該複数の書類等を撮影して送信してもらうことになる)。また、この場合、スキャナを使用してイメージデータ化した書類をパソコンから送信することも可能である。 なお、この場合には、メールによる送受信の際の情報漏えいのリスクがつきまとう。そこで、書類等にはパスワードを設定してメールの送受信を行うとするなど、必要な措置を講ずる必要がある。 (3) 本人確認を「各拠点等の単位で行う場合」の方法及び留意点 各拠点等の単位で本人確認を行う場合、本社の従業員(営業所等で勤務する本社採用の従業員なども含む)や、本社が直接やりとりを行う個人(例えば、顧問弁護士や顧問税理士など)については本社で本人確認を行うことになる。 また、【図3】内の例で挙げた飲食店を経営する会社であれば、各店舗に関係する個人、例えば、各店舗単位で採用されるパートやアルバイト等については各店舗単位で本人確認を行うことになるであろう。 つまり、本人確認の単位が基本的に各拠点になることの結果として、特定個人情報等が各拠点等に点在するというリスクが生じることになる。 そこで、情報漏えいを防止すべく、以下の点を検討しなければならない。 (※) 法的には本人確認書類の保管は求められていないが、次年度以降の本人確認のことを考えると保管しておくのが便宜的である。ただし、保管する場合には安全管理措置の検討が必要であり、さらに廃棄のタイミングや方法についても検討しなければならない。 情報漏えいリスクを限りなくゼロにすべく、各拠点等に情報管理意識を浸透させるとともに、適切に特定個人情報等の管理を行う体制をいかにして構築維持するかが重要となる。 4 〈ケース3〉の「本人確認」方法 〈ケース3〉「契約を前提とした個人への業務委託(契約書を締結して個人へ業務委託を行う場合)について、当該個人からマイナンバーを入手しなければならないケース」の場合、〈ケース1〉〈ケース2〉を踏まえ、「対面」で本人確認を行うのが可能で現実的である場合には【図1】あるいは【図2】による方法で、「対面」で本人確認を行うことが困難な場合あるいは現実的ではない場合には【図4】(郵送による方法)、【図5】(電子メール等の電子的な方法)を参考にされたい。 いずれにしても外部の個人については、社内の従業員等と違って個人番号の取得や本人確認には困難が伴うと考えられることから、前もってアナウンスやお願いをしておくことも含めて、事前の準備が重要である。 この点については、本連載の【第5回】で「個人番号の提供をお願いする書面」のひな形の例示も含めて、留意点等を解説する予定である。 5 よくある質問 6 最後に 本稿では、前回に引き続き、マイナンバー入手の際に必要となる「本人確認」について、代表的なケースをもとに解説を行った。上述したように本稿内ですべてのケースを取り上げているわけではないが、〈ケース1〉から〈ケース3〉を元に、自社での入手方法・体制作りについて検討していただきたい。 次回は、ここまでの理解を元に「従業員からのマイナンバーの入手について」、【第5回】では、取引先などの「外部の個人からのマイナンバーの入手について」、さらに詳しく解説を加えていきたい。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第11回】 「建設業界との比較でみるIT業界のビジネス構造」 公認会計士・税理士 小田 恭彦 はじめに 今回は、IT業界のビジネス構造についてまとめてみたい。ひと言に『IT業界』と言ってもさまざまな分野があるため、今回は筆者が実際に現場に身を置いている会計、人事、販売、購買、製造などのいわゆる「業務系システム」の導入や運用保守に関する分野に絞ることにする。 ▼建設業界的ビジネス構造▼ 「IT土方」という微妙な言葉を聞いたことがあるのは、もしかしたらIT業界内部の人だけだろうか。 業務系システムの導入や保守運用に関連する業界(ここでは以下「業務系システム業界」と表現する)は、多くの人が参加して、役割分担しながら、長い期間をかけて大きな1つのものを作り上げるという点で、ビルや住宅の建設によく似ており、さらにそのビジネス構造もよく似ていると日頃感じている。 そこで、今回はIT業界よりもずっと歴史もあり、市場も大きく、一般にイメージしやすいだろう建設業界になぞらえながら、さらに、投資規模や顧客企業の大きさなどから便宜的・感覚的に大規模、中規模、小規模の3つに分類したうえで考察してみることにする。 ▼大規模案件▼ 大規模な案件とは、建設業界で言えば、〇〇ヒルズのような地上数十階建てのビルや、今話題の国立競技場のような大規模な建造物をイメージしていただければと思う。業務系システム業界でいうと、大規模案件とは、各業界の大手企業の業務系システムのリニューアルのような案件で、投資規模イメージとしては数十億円のような案件である。 これらの案件は建設業界ではほぼ大手ゼネコンが受託するように、業務系システム業界でもゼネコンに相当する大規模は総合ITベンダーが受託することがほとんどである。 具体的にはN社、F社、H社のような総合電機ないし総合エレクトロニクスメーカー系の大手や、ND社のような通信事業者系の大手などである。 この規模の案件で最も重要になってくるのが、受託ベンダー側の体力である。日本の建設業界では、「完成したビルがちょっと傾いている」というような話はあまり聞いたことはないが、業務系システムの導入現場では、「(程度の差こそあれ)ちょっと傾いている」微妙なシステムができあがってしまう事例も少なくないため、「最後までやりきる」「瑕疵担保力がある」などの体力的な要素が必要になってくる。 上記のような大手総合SI(※)ベンダーは受託案件の内容に応じた多くのSI子会社を持っているため、実際の導入や運用保守はそれら子会社が担当するケースが多い。また、それら子会社も親会社が受託した案件以外にも各社独自で営業活動をしており、親会社と子会社の間で顧客規模などにより住み分けを行っていることが多い。 (※) SI=システムインテグレーション 企業の情報システム導入に際し、その全般を組織的に設計・開発すること。 このため、ベンダー選定の際などに といった会話をすることもしばしばである。ちなみに、案件や顧客の規模に対して提案書の名義が子会社メインか親会社メインかで、その案件に対する「本気度」が伺えたりする。 なお、業務系システム業界では、建設業界にある「JV(共同事業体)」のような、複数の異なる企業等が共同で事業を行う受託形態はほとんどない。複数のSI会社が、ソフトウエア、ハードウエア、ミドルウエア、ネットワークなど各社の製品を持ち合い全体として1つの提案を行うことはあるが、顧客との契約はあくまで各SI会社と個別に契約するか、上記のゼネコン的大手SIベンダーが一括して窓口になることが多い。 ▼中規模案件▼ 中規模な案件とは、建設業界で言えば、地上数階~十数階建てのビルや、区民館のような中規模な建造物をイメージしていただければと思う。業務系システム業界でいう中規模案件とは、各業界中堅企業の業務系システムの導入のような案件で、投資規模イメージとしては数億円単位である。 便宜上「中規模」と表現しているが、それなりの規模感である。このレンジの案件は、建設業界では中堅建設メーカーや工務店が受託することが多いのであろうか。一方、業務系システム業界も「準大手」といわれるITベンダーが対応することになるが、建設業界と比べると少し特徴がある。具体的には、上記の大手総合SIベンダーの子会社、コンサルティングファーム、業界大手の情報子会社(商社、メーカーなど)、シンクタンクなど、各SIベンダーがそれぞれのバックグラウンドと得意分野が明確である点である。 この規模で最も重要になってくるのは、各SIベンダー側の得意分野やノウハウである。顧客企業側の投資体力的にも安易な追加費用の発生は許されないことが多く、事前に定めた予算の範囲内で業務系システムを導入する必要があるため、「自社の業種や商慣習をよく知っている」「自社の業界向けのテンプレートを持っている」などシステム導入失敗のリスクを極力排除し、効率的に導入ができるベンダーを選定する傾向がある。 メーカーはメーカー系ベンダー、商社は商社系ベンダー、経営管理システムや会計システムなどマネジメント層に近いシステムを導入する場合は、コンサルティングファーム系やシンクタンク系などが選ばれることが多い印象がある。 ▼小規模案件▼ 小規模な案件とは、建設業界で言えば、戸建て住宅や、賃貸アパートをイメージしていただければと思う。業務系システム業界でいう小規模案件とは、いわゆる中小企業が使用する業務系システムの導入のような案件で、投資規模イメージは数百万円~数千万円である。 このレンジの案件は、主にパッケージシステムをそのまま導入するか、パッケージに少しカスタマイズを行って導入する場合が多い。 建設業界では、ハウスメーカーや賃貸物件を専門とする建設メーカーが受託することが多いのであろうか。業務系システム業界もパッケージベンダーが直接対応するか、会計事務所などが窓口となる場合が多い。 この規模の案件で最も重要になってくるのは、受託ベンダー側としての機動性とネームバリューである。ユーザーである中小企業側は、ITに詳しい人や専任者がいない場合も多く、一方で、規模的にも業種固有の慣行に対しては手作業によるフォローが可能な場合も多いため、システムそれ自体に対する要求は相対的に低く、システム選定の基準は、「導入後のフォローアップ体制が充実していること」「導入実績が多いほうが安心」などを重視する傾向にある。 そのため、各パッケージベンダーは、TVCMなどにより認知度を高め、地場の会計事務所や中小SIベンダーと連携して導入時やその後の運用保守に対する機動的継続的サポート体制を構築しようとする傾向にある。 建設業界の、TVCMや住宅展示場による広告宣伝、長期保証制度、賃貸用物件であれば一括借り上げなど、建設後のフォローアップ体制などを用意するビジネス構造とよく似ている。 ▼その他の特徴-下請け構造とリスク管理▼ 業務系システム業界も建設業界と同じで、元請ベンダーもすべての案件をすべて自社の社員で対応するのは不可能なので、必要に応じて適宜、準大手ベンダー(2次請け)に要員を依頼し、準大手ベンダーでも人手が足らない場合はさらにその下請け(3次請け)に発注をする構造である。 システム業界も以前は4次、5次請けのような多重下請け構造もあったが、最近は主に情報漏えいなどの観点から、階層の深い下請けに対して厳しくなってきている。 あまり階層が深いと「どこの誰かもよくわからない技術者」になりがちになり、元請けもコントロールが難しく、また、階層が深いと何か事故が起きた際に責任の所在が不明確になりがちなる。特に業務系システムの場合、顧客の社内情報(取引先情報、財務データなど)を扱うことが多く、また、その情報はファイルコピーにより一瞬でコピーできてしまうため、リスクが高い。 よって、元請けや2次請けあたりから階層についての指示や限定がある場合も多く、また、最終請けのSIベンダーは情報管理体制について審査や報告を求められることもある。 また、業務で使用するパソコンも、以前は持ち込みパソコンを使用する場合もあったが、最近は顧客や元請けが用意したパソコンを使うことがほとんどであり、「USBメモリなどは使用できない」「メールの添付ファイルはチェックされている」という環境が多い。 ▼フリーランスについて▼ 業務系システム業界も建設業界と同じで、現場の最前線で昼夜活動する業務系システムの技術者は相応のITスキルと業務知識を持った「職人」であり、企業に勤務する以外に「フリーランス」として働く選択肢がある。 つまり、個人事業主として独立し、SI企業から下請けとして仕事を受託して案件に入ることになる。ひとり親方である。 フリーランスのメリットとしては、報酬面と時間的な自由度である。 報酬面に関していえば、発注先のSI会社からは給与ではなく外注費として支払われるため、相対的に多くの報酬を得ることができる。また、業務系システム業界の場合、日雇いや数日間という働き方は基本的になく、契約期間は数ヶ月から数年という単位であるため、ひとたび案件に入ると長期にわたり、安定して仕事を確保することができる。 さらに、時間的な自由に関しても、ある案件が終了し、次の案件に入る間に長期の休暇をとるなど、自分で自分の仕事の量をコントロールすることもできる。 良いことばかりのようなフリーランスだが、一方で、相応のリスクがある。不安定な身分と成長機会の減少である。 景気の良い時は上記のメリットを受けることができるが、景気が下向きになると下請け外注は真っ先に切られるのが世の常であり、状況によっては「仕事がない」という状況も発生しないとも言えず、企業勤務とは比べ物にならないほど不安定である。また、フリーランスの場合、社内研修などの教育研修の機会もほとんどなくなり、新しい業務領域や技術領域へチャレンジする機会も少なくなるため、意識的に自己投資を行い、トレンドや技術の変化についていく必要がある。 最近の動向として、多重下請け構造の回避や、情報管理の観点からフリーランスに発注することに慎重である傾向があるため、なんらかの形でSI会社に属する形態、言い方を変えると、何かあった際にそのSI会社が責任を負える契約形態をとる必要があるケースが増えてきている。 このように フリーランスで働くことは多くの魅力がある一方で、相応のリスクもあるため慎重に検討する必要があるが、極論的には「自己の技術や知識が現在及び将来の市場で必要とされるか」である。 個人であっても、上述の中規模案件にある各SIベンダーのように、得意分野や得意業種などを明確にして特色を持つことが重要であり、その1つとして特定の業種や職能に対して深い業務知識を持つことも有効な戦略であろう。 (了)