《速報解説》 国税庁、「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」を公表 ~2割加算の適用対象者や生命保険契約に係る相続財産の判定等14事例~ Profession Journal編集部 本年1月1日以後の相続からは基礎控除額の引下げ等を含むいわゆる“相続増税”の改正が施行されており、すでに増税後初の相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内)を迎えている。 この改正による申告対象者の拡充により、税理士に頼ることなく自己申告をする納税者の増加が見込まれるが、国税庁は11月9日付、ホームページにて「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」(以下「事例集」)を公表し、申告書作成時の誤りやすい項目について事例形式で注意喚起を行っている。 事例集では相続人や相続財産の判定等に関し、各申告書の記載例を含む以下14の誤りやすい事例が示されており、主に基礎的な事項が中心となっているが、課税当局がどのような誤りが多いことを認識しているのか、念のため目を通しておきたい。 なお事例集では「小規模宅地等の評価減特例」や「配偶者の税額軽減」については触れられていないが、両制度については7月に「「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用した相続税申告書の記載例」が公表されているため、そちらを合わせて参照されたい。 (了) ↓お勧め記事↓
《速報解説》 修正国際基準及び改正会社法に係る 「会社法施行規則・会社計算規則」の改正案がパブコメに 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年11月6日、法務省は「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年6月30日に企業会計基準委員会から公表された「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を受けた会社計算規則の改正及び、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行に伴う会社法施行規則の改正を追加的に行うものである。 意見募集期間は、平成27年12月6日までである。 なお、修正国際基準を受けた連結財務諸表規則等の改正は、平成27年9月4日付で、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第52号)として公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会社計算規則の改正 「修正国際基準で作成する連結計算書類に関する特則」(61条、120条の2)として、次の規定が設けられる予定である。 「米国基準で作成する連結計算書類に関する特則」は、会社計算規則120条の3とする予定である。 Ⅲ 会社法施行規則の改正 平成27年5月1日に施行された改正会社法を受け、以下の改正が追加的に予定されている。 Ⅳ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 次の経過措置が設けられる予定である。 (了)
2015年11月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.143を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「山田二郎 氏(弁護士)」 【後編】 〔語り手〕山田 二郎(弁護士) (写真/右) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/左) (2015年9月15日東京都内にて収録) (了)
monthly TAX views -No.34- 「軽減税率問題、欧州型インボイスの導入が決められるか」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 1ヶ月前のこの連載で、「見えない『日本型軽減税率』の行方」と題して、筆者なりの予想をした。 しかしその予想は、見事に外れた。 自民党税制調査会会長を更迭するという荒業を駆使して、安倍官邸は、公明党への配慮を優先させ、消費税率10%引上げ時の軽減税率の導入を決めた。 もっとも「この問題の本質は財源問題だ」という認識は的外れではなさそうで、対象品の線引きを巡る議論が11月中旬まで続く。民主党の主張してきた総合合算制度のとりやめ(財源4,000億円)と軽減税率導入のどちらがわが国にとって重要か、そのような検証は新聞でも一切なされていないまま、突っ走っている。 一方、驚きの展開を見せているのが、インボイスである。 筆者のこれまでの経験では、インボイスの導入は中小事業者が体を張って反対する高度なイシューであり、ちょっとやそこらでは導入は無理、と思っていたのだが、今回のどさくさともいえる議論の中で、導入に向けた議論が続いている。 まずは簡素なインボイス方式を数年続け、その後は欧州型のインボイスを導入する、という仕切りになるのであろうか。 ◆ ◆ ◆ この連載でも以前申し上げたが、筆者の、(欧州型)インボイスに関する見解は以下のとおりである。 第1に、インボイスは軽減税率の導入の是非にかかわらず、消費税、さらには所得税や法人税の信頼向上のためにも必要なツールだという点である。 インボイスによって「益税」だけでなく、「不正」も防止される。それだけに、中小事業者をはじめとした反対は根強く、最後まで予断を許さないのだが。 第2に、インボイスは複数税率に伴う税額計算の手間を緩和するためのもので、インボイス自体に手間がかかるわけではない。 確かに導入時のイニシャルコストはかかるが、事業者は、インボイスさえ入手しておけば、売上にかかる消費税額と仕入れにかかる消費税額を足しあげて、前者から後者を控除して納税すればいいので、複数税率導入の際の消費税額計算は、はるかに楽になる。 手間がかかるのは複数税率・区分経理の導入であって、インボイスではない。 第3に、インボイスにより取引の相手側に消費税額を正確に請求できるので、事業者間の取引では、「価格転嫁が容易になる」ということである。 この点の認識はわが国ではほとんどないが、消費税が間接税であるということは、この転嫁メカニズムをきちんと機能させるということである。 第4に、「免税事業者が排除される」と主張する者があるが、欧州諸国の例を見ると、彼らはむしろ免税特権を放棄し、課税選択をしている。その方が仕入税額控除ができるので得、という判断である。その事務の手間は、インボイスが省力化してくれる。 ◆ ◆ ◆ 軽減税率は、いずれは導入せざるを得ない。むしろ軽減税率があるからこそ消費税の標準税率を上げることができる、これが欧州諸国の現実だ。 そう考えると、欧州型インボイスの導入が本当に決まれば、「(今回の)軽減税率問題は、財務省にとって悪い話ではなかった」ということになる。 (了)
〈平成27年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「海外転勤・外国人の年末調整」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 シリーズ第2回は、海外転勤や外国人に係る年末調整について、留意事項をまとめることとする。 (1) 海外転勤に係る年末調整 ① 年の途中で「非居住者」となる場合(出国者の年末調整) 1年以上の予定で海外転勤する人が非居住者となるのは、出国の日の翌日からである(所令15①一、所基通2-4の3)。 年の途中で出国し非居住者となる従業員等については、それまでに支払われた給与等の金額が2,000万円を超える場合を除き、出国前に支払われる最後の給与等(給与又は賞与)で年末調整を行う必要がある(所法190、所基通190-1(2))。 この場合に注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 対象となる給与等 年末調整の対象となるのは、出国までに支払われた本年中の給与等の総額である。 なお、出国後に支払われる給与等については、その計算期間のうちに出国前の期間が含まれている場合でも、年末調整の対象とはならない(所基通212-3)。 〈例〉 当社は、前月16日から当月15日分の給与を当月25日に支払っている。 次の2つのケースにおいて、10月25日に日本で支払われる給与は年末調整の対象となるか。また、源泉徴収はどのように行うのか。 (イ) 扶養控除等の適用 控除対象配偶者や扶養親族に該当するかどうかの判定は、出国時の現況で行う(所法85③、所基通85-1(1))。 所得要件である「合計所得金額38万円以下」の判定についても、出国時の現況に基づいてその年の1月から12月までの金額を見積もることとなる(所基通85-1(2))。 なお、合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。よって、配偶者が海外赴任に同行し、出国後に海外で所得を得る予定であるとしても、その金額は合計所得金額には含まれない。 また、配偶者控除や扶養控除の額は、期間按分しない。年の途中で行われる年末調整であっても、一般の控除対象配偶者や控除対象扶養親族であれば、38万円をそのまま控除することができる。 (ウ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除の対象となるのは、居住者が支払った保険料に限られる(所法74①、76①、77①)。したがって、出国前に支払った保険料は、各保険料控除の対象となるが、出国後に支払う保険料は、控除の対象とならない。 (エ) 住宅借入金等特別控除の適用 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けることができるのは、居住者に限定されるため、海外赴任中の各年においては、当該税額控除の適用を受けることはできない(措法41①)。 なお、転勤に係る住宅借入金等特別控除の再適用についての詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。 ② 年の途中で「居住者」となった場合(帰国者の年末調整) 海外赴任から帰国した人が居住者となるのは、帰国した日の翌日からである(所基通2-4の3)。 年の途中で帰国し居住者となった従業員等については、居住者となった日以後に支払われた給与等の金額が2,000万円を超える場合を除き、本年最後に支払われる給与等で年末調整を行う(所法190①)。 この場合に注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 対象となる給与等 年末調整の対象となるのは、帰国後に支払われた本年中の給与等の総額である。 帰国後に支払われた給与等については、その支給対象期間のうちに帰国前の期間が含まれている場合でも、年末調整の対象となる。 〈例〉 当社は、前月16日から当月15日分の給与を当月25日に支払っている。 次の2つのケースにおいて、10月25日に日本で支払われる給与は年末調整の対象となるか。また、源泉徴収はどのように行うのか。 (イ) 扶養控除等の適用 控除対象配偶者や扶養親族に該当するかどうかの判定は、12月31日の現況で行う(所法85③、所基通85-1(2))。 所得要件である「合計所得金額38万円以下」の判定については、その年の1月から12月までの合計所得金額により判定する。 なお、①の(イ)で述べたとおり、合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。よって、配偶者が帰国前に海外で所得を得ているとしても、その金額は合計所得金額の計算上はないものとして扱われる。 また、配偶者控除や扶養控除の額は、期間按分しない。一般の控除対象配偶者や控除対象扶養親族の場合には、38万円をそのまま控除することができる。 (ウ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除の対象となるのは、居住者が支払った保険料に限られる(所法74①、76①、77①)。したがって、帰国後に支払った保険料は、各保険料控除の対象となるが、帰国前に支払った保険料は、控除の対象とならない。 また、外国の生命保険会社と海外で生命保険契約を締結した場合には、当該保険に係る保険料は生命保険料控除の対象とはならない(所法76⑤一)。 (エ) 住宅借入金等特別控除の適用 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けることができるのは、居住者に限定されるため、海外赴任中の各年において当該税額控除の適用を受けることはできない(措法41①)。しかし、帰国後その住宅に再居住したときには、一定の場合に税額控除の再適用を受けることができる。 この場合、家族と共に海外赴任した場合と単身で赴任した場合で取扱いが異なる。詳細は以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 外国人に係る年末調整 所得税法は、課税所得の範囲を居住者か非居住者かによって区分している(所法5①②)。 外国人であっても、国内に住所を有するか又は現在まで引き続き国内に1年以上居所を有する人は居住者に該当する。居住者に該当する場合には、他の従業員等と同様に年末調整の対象者となるかどうかを判定する。 すなわち、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を給与の支払者に提出しており、その年の給与等の金額が2,000万円以下であれば、原則として年末調整の対象者となる。 外国人の年末調整について注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 扶養控除等の適用 平成27年分の所得税までは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記載内容に従って配偶者控除や扶養控除等を適用することとなる。「親族関係書類」や「送金関係書類」の提出や提示が求められるのは、平成28年分の所得税からである。平成28年分以後の取扱いについては、前回をご参照いただきたい。 合計所得金額に含まれる所得の範囲は、(1)の①(イ)に記載のとおりである。ただし、控除対象配偶者や扶養親族は、所得者と生計が一であることが前提となるため、送金の事実等を確認しておくことが望ましい。 (イ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除の対象となる保険料は、日本の各種制度に基づいて負担する保険料である。したがって、外国の制度に基づいて負担する保険料は対象とならない。 また、(1)の②(ウ)で述べたとおり、外国の生命保険会社と海外で契約した生命保険の保険料は、生命保険料控除の対象とならない(外国の生命保険会社でも国内に営業所があり、国内で締結した保険契約の場合には、他の要件を満たしていれば控除の対象となる)。 (ウ) 技能実習生の取扱い 日本と技能実習生の母国が締結している租税条約は、相手国ごとに内容が異なる。租税条約によっては、所得税及び住民税が免除される場合もあるため、年末調整の対象者の中に技能実習生がいる場合には、租税条約の内容を確認し処理を誤らないようにしなければならない。 例えば、中国から来日している技能実習生の場合には、生計や訓練のために受け取る給付又は所得については、日本の租税を免除することとなっている(日中租税協定21)(※)。 (※) 源泉徴収の段階から免除の措置を受けるためには、給与支払者経由で「租税条約に関する届出書」を支払者の所轄税務署長に提出する必要がある(租税条約実施特例省令8)。また、住民税の免除を受けるためには、各市町村へ別途届出書を提出することが必要となる。 なお、租税条約に基づき租税の免除を受ける場合にも「給与所得の源泉徴収票」の作成及び提出は必要となる(所法226①)。この場合、源泉徴収票の支払金額欄には免税となる金額を含めて記載し、摘要欄には「日〇租税条約〇〇条該当」と赤書きすることとされている。 * * * 次回(最終回)は、年末調整について質問を受けることが多い事項をQ&A形式で取り上げる予定である。 (了)
商業・サービス業・農林水産業活性化税制の 適用・申告のポイント 【第3回】 「特別償却の事例と付表(7)の書き方」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 ここまでは「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の制度概要や申告書の添付書類として必要な「認定支援機関等からのアドバイスを受けた旨を明らかにする書類」の留意点について確認してきた。今回からは、具体的な申告書・付表の記載方法について確認していく。 今回は特別償却を選択した場合に作成する特別償却の付表(七)〈特定中小企業者等が取得した経営改善設備の特別償却の限度額の計算に関する付表〉ついて、次に掲載した実際の記載例を見ながら、記入方法について確認する。なお、事例の前提条件については、主に前回の添付書類の記載内容をもとにしている。 ▷記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [適用要件等]の枠内 [中小企業者又は中小連結法人の判定]の枠内 [15]~[25]欄については、その経営改善設備を事業の用に供した日の現況により法人の発行済株式等の状況(その法人が連結子法人である場合には、連結親法人の発行済株式等の状況)をそれぞれ記載する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第38回】 「その他の裁判例①」 公認会計士 佐藤 信祐 第38回以降は、組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例について解説することとする。今回、解説する事件は、従業員持株会に対する貸付金の代物弁済により取得した自己株式についてみなし配当が発生するものとして、源泉所得税が課された事件である。 23 みなし配当に係る源泉徴収義務 (1) 平成23年3月17日大阪地裁判決(TAINSコード:Z261-11644) ① 事件の概要 本事件は、株式会社である原告が、その従業員持株会に対する貸付金を回収するため、同会が保有する原告の発行済株式を代物弁済により取得したところ、処分行政庁が、当該代物弁済により消滅した債権のうち、取得した株式に対応する資本等の金額を超える部分は「みなし配当」に該当し、原告には源泉徴収義務があるとして、原告に対し、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたことから、原告がこれらの処分の取消しを求めた事件である。 ② 原告の主張 本件持株会は、原告の従業員の財産形成に資することを目的として組織されたものであるところ、本件代物弁済は、多額の債務(本件借入金債務)を抱え危機に瀕していた本件持株会、ひいては、従業員持株制度を維持することにより従業員の福利厚生対策の危機を救済するために行われたものであり、原告にとって、単なる資本取引としての自己株式取得にゆえんするものではないから、所得税法25条1項5号に該当する事実関係は認められない。 仮に、本件代物弁済がみなし配当に該当するとしても、本件代物弁済が福利厚生目的でされたものであることからすれば、本件代物弁済において消滅した本件借入金債務の金額には、本件株式を取得するための正当な対価(本来の取得価額)に充てられた部分のみが資本等取引としてみなし配当に該当し、その余の部分は福利厚生費に充てられた損益取引とみるべきである。本件株式の時価は類似業種比準価額によれば1株当たり630円と評価することができ、これを上回る部分についてはみなし配当はなかったものとみるべきである。 上記のほか、従業員持株会が民法上の組合なのか、人格のない社団なのかについて争われているが、そもそも、人格のない社団であるとする原告の主張には無理があるし、被告が主張するように、人格のない社団であったとしても、源泉所得税について争われている本事件では結論は変わらないことから、本稿においては、その部分についての解説は省略する。 ③ 被告の主張 原告に対し本件借入金債務を負っており、本件代物弁済によって本件借入金債務が消滅したという事実関係がある以上、このような本件代物弁済は所得税法25条1項柱書き及び5号が規定する要件を充足し、このことは、原告が本件代物弁済を行った目的いかんによって左右されるものではない。 取得の対象とされた自己株式に対応する資本等の金額との間で比較の対象とすべきものは、株主等が交付を受けた金銭の額等であるから、法文上、取得の対象とされた自己株式の時価を比較対象としてみなし配当の額を計算すべきものと解釈する余地はない。 ④ 裁判所の判断 本件代物弁済の時点において、民法上の組合である本件持株会の会員らは、原告に対し本件借入金債務を負っており、本件代物弁済によって本件借入金債務が消滅したという事実関係がある以上、本件代物弁済は所得税法25条1項柱書き及び5号が規定する要件を充足しており、このことは、原告が本件代物弁済を行った目的いかんによって左右されるものではない。 取得の対象とされた自己株式に対応する資本等の金額との間で比較の対象とすべきものは、株主等が交付を受けた金銭の額等であって、法文上、取得の対象とされた自己株式の時価を比較対象としてみなし配当の額を計算すべきものと解釈する余地はなく、本件代物弁済の結果、原告の株主としての地位に基づき、本件借入金債務が消滅するという利益が発生しているのであるから、上記資本等の金額を上回る部分をみなし配当とみるほかないというべきである。 (2) 平成24年2月16日大阪高裁判決(TAINSコード:Z262-11882) ① 控訴人の主張 所得税法、法人税法で用いられる「資産」とは、少なくとも将来において便宜をもたらす能力としての用役潜在力を有するもので、かつ譲渡性があるものをいう。上記の資産の意義・性質から、この「資産」に「債務の消滅」が当たらないことは、明らかである。 本件代物弁済には、債務者である本件持株会が、本来の給付である借り入れた金銭の支払に代えて、債権者である控訴人の発行済株式を給付したところに特殊性がある。本件代物弁済において、本件借入金債務の消滅を享受するのは、源泉徴収義務者とされる控訴人ではなく本件持株会である。控訴人は、本件持株会に対し、私法上の支払債務を負担しているわけではないし、本件代物弁済によって、その「利益の配当」に係る支払債務が消滅したわけでもない。よって、本件代物弁済は所得税法181条1項の「支払」に当たらない。 上記のほか、第1審と同様に、「本件代物弁済にみなし配当に該当する部分があるとしても、その該当する部分(所得税法1条、法人税法24条1項)は、本件未配分株式と対価関係に立つ正常な時価の範囲に限られる」旨の主張がなされているが、第1審と同様の内容であるため、本稿ではその解説を省略する。 ② 被控訴人の主張 所得税法25条1項柱書きにいう「金銭その他の資産の交付を受けた場合」とは、金銭その他の資産が実際に交付された場合だけでなく、同様の経済的効果をもたらす債務の消滅等があった場合も含む。 同法181条1項が、「居住者に対し国内において・・・第24条第1項(配当所得)に規定する配当等・・・の支払をする者」と規定するとおり、同法24条が規定する「配当等」の支払をした者は、同法181条1項に基づく源泉徴収義務を負うとされている。そうすると、同法25条1項が規定するみなし配当に該当する場合は、同項柱書きにより、同法24条が定める「利益の配当」がされたものとみなされ、その結果、「利益の配当」をした場合の源泉徴収義務を定めた同法181条1項が当然に適用されることになる。 ③ 裁判所の判断 同柱書きにいう「金銭その他の資産の交付を受けた場合」とは、金銭その他の資産が実際に交付された場合だけでなく、同様の経済的利益をもたらす債務の消滅等があった場合も含むものと解される。 所得税法181条1項は、源泉徴収義務者を「居住者に対し国内において・・・第24条第1項(配当所得)に規定する配当等‥の支払をする者」と規定している。上記規定は、文理上、「配当等の支払」をする者が、源泉徴収義務者となるという趣旨であり、それ以上に、「配当等」と「支払」を分けた上、「支払」とは、源泉徴収義務者自身が株主等に対して負う支払債務を消滅させる場合に限られると解すべき根拠は、見当たらない。 (3) 評釈 このように、納税者の主張は、第1審でも、控訴審でも退けられ、敗訴している。さらに、最高裁判所に上告受理の申立てを行ったが、事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであるとして、受理されなかった(最高裁平成26年1月16日決定・TAINSコード:Z888-1843)。 実務上、代物弁済により自己株式を取得した場合であっても、源泉所得税の徴収が必要であるということは言うまでもない。すなわち、100百万円の債権がある場合には、源泉所得税を加味したうえで、例えば、110万円に相当する自己株式を取得する必要がある。この場合、自己株式の取得により相殺される債権が増加すると、源泉所得税も同時に増加する関係にあるため、いわゆるグロスアップ計算が必要になってくる。 これに対し、納税者側の主張としては、代物弁済による自己株式の取得につき、対価として「資産」を交付したわけではない、「支払」には該当しないといった主張をしているが、このような主張が認められないことは容易に想像できる。 それよりも重要なのは、本事件が時価で自己株式を取得したのかどうかという点をほとんど裁判所は検討しておらず、仮に時価を超える金額で取得したとしても、みなし配当の金額は時価を基礎に計算を行うのではなく、代物弁済により消滅した債務の金額を基礎に計算するものとしているという点である。すなわち、1株当たり時価が30円で、1株当たりの資本金等の額が10円である場合において、100円で自己株式を取得したときは、みなし配当の金額は70円ではなく、90円ということになる。 この点については、稲見誠一先生との共著である『組織再編における株主課税の実務Q&A(中央経済社、平成20年)』73-75頁にて、同族会社等の行為計算の否認の適用を受けるような特殊事案を除いては、実際の買取価額でみなし配当の金額を計算すべきであるということを指摘させていただいた。 本判決は、実際の税務実務における取扱いと変わらず、かつ、その理論構成にも問題がないことから、妥当な判決であったということができる。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第6回】 「契約書の記載内容と異なる合意が 当事者間で成立していたとされた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 納税者は、A社との間で中古賃貸マンションを購入する旨の売買契約を締結した。 当該マンションは、12階建であるが、1階部分は第三者が区分所有し、残る部分をA社が区分所有していた。利用状況は、2階及び3階はA社事務所、4階以上は共同住宅38戸として使用される等していた。なお、売買対象となった区分所有部分の土地建物を併せて「本件不動産」という。 納税者は、本件賃料等については清算せず売主(A社)に帰属させる旨の合意があったことを前提とし、それを不動産所得の総収入金額に含めずに平成19年分の所得税及び消費税等の確定申告をした。 これに対して課税庁は、本件賃料等は納税者に帰属するとして平成19年分の所得税の更正処分をした。さらに、消費税に関して、本件賃料等を資産の譲渡等の対価の額に算入すると課税売上割合が95%未満になるとして、更正処分を行った。 〔事実関係〕 (1) 納税者は、平成19年11月29日付けで、A社との間で、本件不動産を購入する旨の不動産売買契約を締結した。その契約内容には、売買代金総額が2億8,288万円であること、所有権移転・引渡・登記手続の日が平成19年12月10日であること、手付金を除いた残代金は平成19年12月10日までに支払うことが含まれていた。 (2) 上記売買契約に係る契約書には、本件不動産から生ずる収益の帰属及び管理費、地代等各種負担金の分担については、引渡日の前後で売主(A社)及び買主(納税者)に帰属する旨の条項(13条)が含まれていた。 (3) 納税者、A社及び仲介業者は、平成20年8月20日付けで、上記売買契約に関して、納税者が平成19年12月分の固定資産税の日割分をA社に支払うほかは、賃料その他一切の清算をしないこと等を合意して、その旨を確認する旨の確認書(本件確認書)を締結した。 ▷解説 上記(2)のとおり、本件賃料等は、売買契約書(13条)によれば、引渡日(12月10日)の前後で、それぞれA社と納税者に帰属が分かれることになるが、本件確認書によれば上記(3)のとおり、全て売主(A社)に帰属することとなる。 課税庁は、売買契約書の13条を根拠に、本件賃料等を日割計算すべきと主張しており、一方、納税者は、本件確認書に基づき本件賃料等を清算しない旨の合意が成立していたと主張している。 〔双方の主張(要旨)〕 〔東京地裁の判断(要旨)〕 (1) 裁判所が認定した主な事実 (2) 裁判所の判断 以下のことからすると、本件合意の成立を認めることができる。 また、その時期については、納税者から12月分の賃料を清算しないことにしたい旨の提案をした((1)の①)後、間もなくA社から売渡承諾書が出ている((1)の②)ことからすれば、遅くとも平成19年11月初旬と推認することができる。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、言うまでもなく本件合意の成立が認められたことである。 一般に、契約書は当事者間の合意の成立とその内容を証する証拠といえるが、本件では、他の事実関係(上記(2)の①~⑤の事情や、「納税者から12月分の賃料を清算しないことにしたい旨の提案をした後、間もなくA社から売渡承諾書が出ていること。」)から、契約書に記載された内容とは異なる当事者間の合意(本件合意)の成立があったと認められた。 〔本判決が示唆するもの〕 当事者間でどのような合意が成立していたのかが争われる場合、通常は、契約書が証拠となり、その記載内容どおりの事実が認定されることになる。しかし、契約は当事者間の意思表示の合致によって成立するものであるから、納税者が契約書の記載内容と矛盾する合意の存在を主張するのであれば、その主張に沿った意思表示の合致があったことが証明できればよい。本件では、納税者はその証明に成功した。 調査の際、調査担当者が、契約書の記載内容のみから形式的に事実を認定しようとした場合には、この基本に立ち返って反論することが重要である。 なお、課税庁の判決情報によれば、調査担当者向けに、次のようなポイントが記載されている。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【72】 〔第8章〕判決を読む (その8) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (2 判決をみるポイント) (③ 判例の射程を見極める) (承前) 給与所得についての判断基準である従属性要件は、この最高裁昭和56年4月24日判決だけではなく、かの大島訴訟の最高裁大法廷昭和60年3月27日判決においても判示されているものである(もっともこの部分は主論部分ではないであろう)。 この判決の4ページ目下段に「給与所得者は、事業所得者等と異なり、自己の計算と危険とにおいて業務を遂行するものではなく、使用者の定めるところに従って役務を提供し、提供した役務の対価として使用者から受ける給付をもってその収入とするものである」と記されている。 これによれば、給与所得が、「非独立的な労務」ではなく、使用者の定めるところに従って提供する労務という従属的な労務の対価であることが示されている。 もっともこの前段赤字下線部分には、「自己の計算と危険とにおいて業務を遂行するものではな」いという独立性要件に該当しない点(すなわち「非独立性」)を指摘する。しかしそれは冒頭にある「事業所得者と異なり」を具体的に述べたものである。そのため事業所得の判断基準を示し、それを否定しているのである。 もっともこの書き振りからは、非独立性が前提条件と示され、従属性が直接的な判断基準とされているともいえる(すなわち給与所得といえるためには、非独立性と従属性が必要要件となるが、非独立性が最初のフィルターとして、いわば前提条件となっている)。この点からも、従属性要件を満たしていないにもかかわらず、非独立性要件を満たせば給与所得となり得るという見解に疑問を感じる。 ところで、この大島訴訟最高裁判決は、多くの税法判例集で必ず取り上げる最重要判例である。そこでこの大島訴訟最高裁判決を見てみよう。 なお、この大島訴訟最高裁判決において、もっとも注目すべき判示部分は、上記引用部分の直前にある判決に下線が記された以下の部分である。 もっとも大島訴訟は、私立大学の教授であった大島教授が、所得税法(昭和40年改正前の旧法である)の給与所得に関する諸規定が、給与所得者を他の所得者より不公平に扱うものであり憲法14条1項に違反するなどと主張した事案であり、判決は、①租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取り扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が当該目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することはできないとし、また、②所得税法が給与所得者の必要経費の控除について概算控除を採用し、事業所得者との間に区別を設けたことは、合理的なものであると判示している。 この①についての判示部分が上記引用箇所であるが、この判示の前提として、その前のページに「憲法の右規定〔憲法14条1項:筆者注〕は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない」と過去の2つの最高裁大法廷判決(昭和25年10月11日、昭和39年5月27日判決)を踏襲し、各自の事実上の差異に相応した法的取扱いの区別を肯定する。 そのうえで、「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができ」ないと、租税立法については合憲性の推定に基づき、著しく不合理であることが明らかでない限り合憲となる「ゆるやかな合理性の基準」(金子宏「判批」別冊ジュリスト207号『租税判例百選(第5版)』7頁)を示している(しかし「性別や精神的自由・市民的自由に関連を有する租税法規の違憲性の審査にあたっては、より厳格な審査基準が必要」(金子宏『租税法(第20版)』2015年弘文堂103頁)であるとされる)。 そしてその根拠として、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」点を挙げている。 そしてこの「ゆるやかな合理性の基準」に基づいて、5ページ下線部分「旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ、右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ、租税負担を国民の間に公平に配分するとともに、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することは、租税法の基本原則であるから、右の目的は正当性を有するものというべきである」と、給与所得における実額控除を排した概算控除制度を、合憲と判断している。 この大島訴訟最高裁判決は、直接的には、この給与所得における実額控除を排した概算控除制度の合憲性を巡る争いであったが、租税立法における裁量的判断の尊重、そしてそれゆえ、違憲審査基準として、租税立法においては合憲性の推定に基づく「ゆるやかな合理性の基準」によることが示されており、この意味で大きな意義を持っている。 またこの判決の射程は、租税立法の合憲性が争われた場合の様々な事案において、判例として判断基準を提供している。 古くは資産所得の合算課税制度の合憲性が争われた最高裁三小昭和61年4月22日判決、自己消費を目的とする酒類製造の酒税法における処罰規定の合憲性が争われた最高裁一小平成元年12月14日判決、最近では施行日前になされた不動産譲渡に係る譲渡損失の損益通算を認めない改正規定が不利益遡及立法となるか合憲性が争われた東京高平成21年3月11日及び東京地裁平成20年2月14日、社会保険診療等 については制度上消費税の転嫁が不可能であることから不平等であるとして合憲性が争われた神戸地平成24年11月27日等、非常に多くの裁判で判断基準として機能している。 * * * なお、次回からは章を改め、実践編として、代表的な税務判例について、具体的に考察を進めていく。 (第8章 了)