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中小企業事業主のための年金構築のポイント 【第11回】「標準報酬と老齢厚生年金の額」

中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第11回】 「標準報酬と老齢厚生年金の額」   特定社会保険労務士 古川 裕子   1 標準報酬月額と標準賞与額 【第7回】・【第8回】・【第9回】で示したとおり、老齢厚生年金の額(報酬比例部分)の額は平均標準報酬額(平成15年3月までの期間は平均標準報酬月額)と厚生年金保険の加入期間によって決まる。 なお、「平均標準報酬額」とは、平成15年4月以後の被保険者期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を被保険者期間の月数で除した額である(平成15年3月までの期間は、標準賞与額は含まない)。 【第9回】の《おさらいQ&A》で示した事例のように、過去の報酬が友人よりかなり高額であったにもかかわらず、友人と自分の年金額が変わらないことに疑問を持たれることがあるが、それは平均標準報酬額の基となる標準報酬月額と標準賞与額の限度額が一因となっている。 (1) 標準報酬月額の上限と下限 「標準報酬月額」とは、保険料や保険給付(現金給付)の算定基礎になるものであり、実際の報酬とは異なり、便宜的に決定されたものである。 本稿公開日現在、下限の第1級98,000円から上限の30級620,000円まで定められている。 (2) 標準賞与額 「標準賞与額」とは、その月に支払った賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てたものであり、150万円が上限となっている。 〈事例1〉 AさんよりBさんのほうが総報酬額は多いが、標準報酬月額は上限の62万円で、賞与も上限額が150万円のため、2人の将来の年金額の基礎になる標準報酬月額等は同額となる。 したがって、上限額を超える場合には、報酬及び賞与を多く支給したとしても年金額は変わらない。   2 標準報酬月額と在職老齢年金 在職中に支給される年金(在職老齢年金)は、その人の年金額と総報酬月額相当額(その月の標準報酬月額+標準賞与額の12分の1)によって決まる。 総報酬月額相当額が高いと、在職老齢年金は、全額または一部が停止される。 (1) 標準報酬月額の決定及び改定 標準報酬月額は、資格を取得したときに決定(資格取得時決定)されるが、その後1年に1回見直しをする。これを「定時決定」という。定時決定は、4月、5月、6月の3ヶ月の報酬の平均額で決定され、原則としてその年の9月から翌年の8月までの1年間使用する。 その間に大幅に報酬が変動したときは改定を行う。これを「随時改定」という。随時改定は、報酬が変動した月から3ヶ月間の報酬の平均をとり、現在の標準報酬月額と2等級以上変動があった場合に改定される。改定月は報酬が変動した月から4ヶ月後である。 報酬が減額したことにより随時改定となる場合、実際の報酬が減額しているにもかかわらず、3ヶ月間は従前の高い標準報酬月額のままとなる。したがって、在職老齢年金については、3ヶ月間は従前の在職老齢年金で、4ヶ月目から本来の報酬に見合った標準報酬月額により年金が調整される。 〈事例2〉 報酬が4月から20万円になったとしても、標準報酬月額の改定は、4ヶ月後の7月から行われる。したがって、7月から在職老齢年金の額が増加する。 在職老齢年金の額は、下記早見表を参照。 [60歳台前半の在職老齢年金早見表(一部)] (2) 再雇用などにおける改定 退職後継続して再雇用された場合は、給料が下がることが多々見受けられる。給料が変動した場合は、随時改定により標準報酬月額が改定されるが、改定後の標準報酬月額は、前述のように給料が下がった月の4ヶ月目から適用される。 退職後の再雇用は、原則として社会保険の被保険者資格は継続するので、特に手続は生じないが、60歳以後の再雇用の場合は、一旦退職したとみなして、資格喪失届と資格取得届を同時に提出することもできる(同日得喪という)。この場合、標準報酬月額は資格取得時決定になり、給料が下がった月から標準報酬月額が変わることになる。 その効果としては、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に改定されるので、4ヶ月を待たずに標準報酬月額が改定され、それに基づき社会保険料も計算されることになる。また、在職老齢年金の受給者は、標準報酬月額に応じて年金の受給額が変わるため、再雇用された月から標準報酬月額が改定されることは大きなメリットになる。ただし、再雇用された月の翌月から在職老齢年金の額は改定される。 〈事例3〉 報酬が20万円になった4月から標準報酬月額も20万円になる。したがって、5月から在職老齢年金の額が増加する。   《おさらいQ&A》 (了)

#No. 133(掲載号)
#古川 裕子
2015/08/27

養子縁組を使った相続対策と法規制・手続のポイント 【第6回】「外国人との養子縁組と戸籍・国籍への影響」

養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第6回】 「外国人との養子縁組と戸籍・国籍への影響」   弁護士・税理士 米倉 裕樹   [1] はじめに 外国人との養子縁組(以下「渉外養子縁組」という)を検討するに当たっては、その成立要件をどの国の法律に従って判断するかが最初に検討されなければならない。その際に適用される法律を準拠法といい、日本において準拠法を定めているのは「法の適用に関する通則法」である。 法の適用に関する通則法第31条第1項では、渉外養子縁組の成立を検討するに当たり、「養子縁組当時の養親の本国法」を準拠法とすることが規定されている。さらに、養子の本国法が養子縁組の成立について養子もしくは第三者の承諾、同意、または公の機関の許可等を必要とするときはその要件も満たすことが必要とされている(通則法31①後段)。 つまり、渉外養子縁組が成立するためには、養子縁組当時の養親の本国法のすべての要件に加え、養子の本国法上の保護要件をも満たす必要がある。さらに、日本人と外国人の夫婦が外国人を養子とする場合には、準拠法は日本法と外国人配偶者の本国法となり、養親それぞれについて、その本国法により縁組の成立要件が検討されなければならない。 なお、法の適用に関する通則法第34条では、渉外養子縁組の方式に関し、養子縁組当時の養親の本国法による方式、または行為地法(※)の方式のいずれかに従っていれば有効としているため、日本国で養子縁組を行うのであれば、日本の民法や戸籍法等による方式にて養子縁組手続を行うことが可能である。 (※) 法律行為が行われた場所の法律。 以上を前提に、以下、「日本人が外国人を養子とする場合」、「外国人が日本人を養子とする場合」における成立要件と、戸籍・国籍等に与える影響について、それぞれ説明する。   [2] 日本人が外国人を養子とする場合 1 成立要件 養親が日本人であるため、養子縁組の成立要件は、日本法に従って検討されることになるが、養子となるべき者の本国法が養子縁組の成立について、養子もしくは第三者の承諾、同意、または公の機関の許可等を必要とするときは、その要件も満たす必要がある(通則法31①)。 たとえば、中国人を養子とする場合、中国人実父母の同意書(さらに養子となる中国人が満10歳以上の場合には養子となる者の同意書)が必要となる(中華人民共和国養子縁組法10①・11、平成22年6月23日付け法務省民一第1541号民事局第一課長通知)。 2 戸籍・国籍 日本の国籍法では、養子縁組を国籍取得原因としていないため、養子縁組のみでは国籍に変動はなく、養子は依然として外国人のままである。 戸籍は、日本国籍を有する者について編成されるため、外国人である養子は戸籍の構成員として名欄に記載されることはなく、日本人である養親の身分事項欄の中に、国籍〇〇、何某を養子とする縁組届出の旨の記載がなされるだけである。 外国人の養子が日本国籍を取得するには、帰化手続が必要であるが、養子の本国法において縁組時に未成年者である者を養子とした場合には、引き続き1年以上日本に住所を有することで、帰化要件の1つである「生計条件」が免除されている(国籍法8①二・5①一、二、四)。 なお、日本人の養子となった外国人の在留資格については、特別養子は「日本人の配偶者等」に、普通養子で6歳未満の者は「定住者」にそれぞれ該当するものの(入国管理法2の2・別表第二、平成2年法務省告示第132号)、普通養子で6歳以上の者については該当する在留資格はなく、他の在留資格に該当しない限り、日本での在留は認められない。 もっとも、外国人配偶者の連れ子である場合には、その外国人配偶者に扶養されている未成年者の未婚の実子は、原則として定住者の在留資格が与えられる(平成2年法務省告示第132号)。   [3] 外国人が日本人を養子とする場合 1 成立要件 養親が外国人であるため、養子縁組の成立要件は、当該外国人の本国法に従って検討されることになるが、養子となるべき者が日本人であるため、日本法における養子の保護要件も満たす必要がある。 日本法における養子の保護要件としては、①養子が15歳未満である場合に法定代理人が養子本人に代わって行う承諾(民797①)、②法定代理人のほかに監護者がいる場合のその同意(民797②)、③養子が未成年者の場合の家庭裁判所の許可(民798)等が存在する。 養親の本国法において、縁組の成立によって養子と実父母及びその血族との親族関係が終了する、いわゆる断絶型の養子縁組制度が採用されている場合には、養子の日本民法上の保護要件として、特別養子縁組に関する保護要件を満たす必要がある(横浜家横須賀支審平成7年10月11日)。 その場合、日本の家庭裁判所は、養親の本国法における養子縁組の要件をすべて充足しているか否かに加え、特別養子縁組の成立要件である民法817条の6規定の実父母の同意の要件についても審理を行うこととなる。 もっとも、養子の戸籍上は特別養子縁組ではなく、養子について新戸籍が編成された上で、断絶型養子縁組であることを明らかにする記載がなされることになる(平成6年4月28日民二2996号通達)。 2 戸籍・国籍 この場合も、養子縁組のみで国籍に変動はなく、養親は依然として外国籍のままである。 養子が養親の国籍を取得するか否かについては、養親の本国法によることとなり、養親の本国法により養子が養親の国籍を取得する場合であっても、養子の日本国籍は当然には喪失せず、重国籍者となる。重国籍者は、22歳に達するまでに(20歳に達した後に重国籍になった場合には、重国籍となった時から2年以内に)、いずれかの国籍を選択する必要がある。 日本国籍を有しない養親について戸籍が編成されることなく、日本人養子の戸籍の身分事項欄に養子縁組の事実が記載されるに過ぎない。 (了)

#No. 133(掲載号)
#米倉 裕樹
2015/08/27

従業員等からの『マイナンバー』入手の手順 【第4回】「従業員等、企業関係者からのマイナンバーの入手」

従業員等からの 『マイナンバー』入手の手順 【第4回】 「従業員等、企業関係者からのマイナンバーの入手」   仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司   【第2回】及び【第3回】では、「本人確認」の方法について詳しく解説を行った。 周知のとおり、企業がマイナンバーを取得すべき「個人」は、 に大きく分けることができる。 そして、「企業内の個人」と「企業外の個人」とでは、その接触の頻度や親密さから、必然的にマイナンバーの入手にあたっての対処が異なることになる。 そこで、本連載の第4回となる本稿では、前回までの理解を前提に、従業員及びその扶養親族(配偶者含む。以下、「従業員等」とする)からのマイナンバーの入手やその方法について解説し、これまでの知識の有機的な統合を図っていきたい。 なお、従業員等以外の外部の個人からのマイナンバーの入手については、次回(第5回)で解説することとする。   1 従業員等からマイナンバーを入手する際に必要な対応 一部【第1回】で紹介した「最低限準備しておくべき“6つのこと”」と重複するが、企業が従業員等からマイナンバーを入手する際に、以下の事項について企業内で対応・決定ができているか、確認していただきたい。 上記6項目について、以下で詳しく解説する。 ① 通知カードの取扱い等、社内へのアナウンスを行う そもそもマイナンバーについての情報が少ない従業員等にとっては、送付されてくる「個人番号の通知カード」が何を意味するのか、その重要性についても理解が不足していると思われる。結果として、通知カードをぞんざいに扱う、あるいは廃棄してしまうケースも予測される。この場合、顔写真の表示のない「個人番号の通知カード」は、顔写真の表示のある「個人番号カード」に比べ紛失してしまうと手元に戻らない可能性が高い。 企業にとっては、従業員等のマイナンバーを入手する際に、住民票に記載の住所地と現住所が異なり通知カードの到着を認識していない、あるいは、通知カードを紛失・廃棄していた場合などに、本人確認の手続に支障をきたすこととなる。 そこで、手元に届いた「個人番号の通知カード」は、個人番号カードの交付や個人番号カードを取得しない場合の番号確認に必要となることから、大切に保管しておくべきことをアナウンスする必要がある。 なお、個人番号の通知カードを紛失した場合には、個人番号は住民票にも印字されることになるため、住民票によって番号を確認するという方法もある(【第2回】参照)。 つまり企業としては、従業員等から「個人番号カードを紛失して個人番号がわからない」といった問い合わせや主張があった場合には、個人番号が記載された住民票を取得するように要請すればよいことになる。 社内にアナウンスすべき事項をまとめると、以下のようになる。 また、従業員にこれらの事項をアナウンスする場面の文例案を示すと以下のようになる。 〈例示〉マイナンバー制度の開始と個人番号に関するお知らせ文案 ② 利用目的の通知や公表のための書類等を作成する 今後の個人情報保護法の改正も見据えれば、いわゆる個人情報取扱事業者以外の事業者を含むすべての事業者が、個人番号の本人たる個人に対して個人番号の利用目的を通知または公表しなければならないことになる(個人情報保護法第18条第2項参考)。そこで、個人情報保護法の改正を前提に、個人情報取扱事業者以外の事業者も対応を検討しておく必要がある。 具体的には、個人番号は本人に直接的に通知する方法でも、あるいは、従業員であれば容易にアクセスできる社内イントラネットに規程等を掲示する形式で公表してもよい。 また、その書面は、特に特定個人情報保護委員会等から定められたものはなく、既存の就業規則あるいは入社時提出必要資料一覧表を改定するか、あるいは別途「個人番号の提供のお願い」といった社内文書の公表に併せて利用目的を公表するのでもよい。 なお、利用について本人の「同意」は不要とされており、通知または公表すればよいとされている(ガイドラインQ&A1-4参照)。 【図1】はこれらの書類あるいは書面に通常規定することとなる、従業員等からの個人番号の利用目的の一例である。これらを参考に、利用目的の通知または公表の具体的な方法と時期を検討されたい。 【図1】 従業員等からの個人番号の利用目的(例) そこで、以下はこれらの利用目的を仮に個別的に通知することを想定した場合の、文案である。 〈例示〉特定個人情報の利用目的について個別に通知する場合のお知らせ文案 ③ 従業員等の本人確認の方法を決定する 従業員であっても基本的には、個人番号の提供を受ける際にはすべてその本人の本人確認を行わなければならない(番号法第16条)。また、その扶養家族(配偶者含む)についても本人確認が必要なケースがある。 この点については、【第2回】及び【第3回】で詳しく解説したことから、そちらを参考に、どのようにして従業員等の本人確認を行うこととするか、検討されたい(なお、【第2回】・【第3回】は、従業員等から「1年目に」個人番号を取得することを前提とした解説である点に改めて留意されたい)。 ④ 本人確認のためのマニュアルを策定する 本人確認を誰が行っても適切に、また、番号法等が想定する品質レベルで均質に行えるようにするには、④のとおり、本人確認のためのマニュアルを策定し、事前に事務取扱担当者あるいは責任者に十分教育研修を行っておくことが望まれる。 ⑤ 従業員等の特定個人情報等に係る「安全管理措置」の体制を整備する 周知のとおり、特定個人情報は個人情報のなかでも、特に秘匿性が強い情報であることから、これまでと同様、あるいはこれまで以上に厳格に、かつ徹底的に情報管理を行わなければならない。この点については、ガイドライン等で「安全管理措置」として求められている点である。 企業は、本人確認を行い、個人番号や特定個人情報を入手した時点から、当該情報に対しては適切に情報管理を行う義務を負うことになる。本人確認を行った際に、本人確認書類の控えを入手し保管するかどうかは企業の任意であるが、仮に控えを入手し保管することとした場合には当該書類も安全管理措置の対象となる点は、前回(第3回)において言及したところである。 具体的に、「安全管理措置」とは、特定個人情報に関する方針や管理規程の策定、特定個人情報管理体制の整備(組織的安全管理措置)、特定個人情報を取扱う従業員(個人番号取扱事務担当者)に対する教育研修(人的安全管理措置)、特定個人情報の管理方法の整備(物理的安全管理措置)、情報セキュリティ・ソフトの見直し(技術的安全管理措置)などであるが、本連載での安全管理措置についての詳説は割愛し、別の機会に譲ることとする。 なお、安全管理措置の一環として、本人確認を行った記録を残すかどうか、どのようにして記録を残しておくかは、実務的には非常に重要な論点であり、慎重に検討する必要がある。 ⑥ 従業員等から個人番号を「いつ」取得するかを決定する 企業は、従業員等から、個人番号を「いつ」取得するか検討し、決定しておかなければならない。 内閣府の正式な見解として、個人番号の通知カードによる通知以降、順次個人番号を取得してよいことになった(平成27年2月17日付「事業者による個人番号の事前収集について」)。 10月以降から順次個人番号を取得するのであれば、その裏返しとして、上記⑤安全管理措置も含めて、基本的な対応はすべて終えておかなければならない。 安全管理措置の準備・対応スケジュールとの兼ね合いで、「いつ」から取得することとするかを検討し、決定しておかなければならない。 また、具体的にどのタイミングで取得するかについては、以下の【図2】を参照されたい。 【図2】 従業員の種別別の個人番号の取得の要否と取得のタイミング (※) 「要」:取得する必要がある。「不要」:取得してはならない。 なお「内定者」についてであるが、基本的には、試用期間も終わり、雇用契約を締結し社員となる時点で、個人番号関係事務の発生が具体的に想定されるようになることから、内定の段階では個人番号を取得せず、実際に社員となる時点で取得するようにした方がよい(※)。 (※) ただし、ガイドラインQ&Aには、当該内定者が確実に雇用されることが予想される場合には、その時点で個人番号の提供を求めることができるとされている(ガイドラインQ&A4-1参照)。 また、「出向者等」について、「場合による」としているのは、例えば、出向元との間で雇用契約が継続している場合(在籍出向の場合)には、出向先と出向者との間では雇用契約は発生せず個人番号関係事務も発生しないと考えられることから、出向先となる企業においては個人番号を取得してはならないという意味である。   5 よくある質問   6 最後に 本稿では、前回までの解説と理解を前提に、企業内の個人である従業員及びその扶養親族(配偶者含む)からのマイナンバー取得に向けた準備を中心に解説を行った。次回(第5回)では、取引先などの企業外部の個人からのマイナンバーの入手について、さらに詳しく解説を加えていきたい。 (了)

#No. 133(掲載号)
#岡田 健司
2015/08/27

現代金融用語の基礎知識 【第21回】「フィンテックと金融持株会社」

現代金融用語の基礎知識 【第21回】 「フィンテックと金融持株会社」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 フィンテックとは フィンテック(Fin Tech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を合わせた言葉であり、ITを活用した金融サービスを指す。この連載の【第2回】でとり上げた「クラウドファンディング」も、広い意味ではフィンテックに含まれるかと思われるが、現在、フィンテックの中心とされるのは、スマートフォンなどを活用した個人間の送金・決済サービスであり、フィンテックと言うと、専らそうしたサービスを指す。   2 金融持株会社とは 金融持株会社とは、金融業を運営する子会社(銀行、証券会社、保険会社など)を持つ持株会社である。金融持株会社を設立している金融機関は多く、3大メガバンクはいずれも金融持株会社を設立している(三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)。 戦後、持株会社は、戦前のような財閥ができることを防ぐため、禁じられていたが、1997年の独占禁止法改正により解禁された。そして、翌1998年、いわゆる金融ビッグバンにより金融持株会社も解禁されたのだが、銀行による産業支配を防ぐため、金融持株会社が子会社として持てるのは、銀行や証券会社などに制限された。   3 フィンテックと金融持株会社 しかし、そうした規制を緩和しようという動きがある。金融持株会社が持つことができる子会社の範囲を広げようというのである。フィンテック事業を運営する子会社も持てるようにして、銀行にフィンテック事業に参入させるのが目的のようである。銀行がフィンテック事業に参入すれば、銀行口座を持つ顧客に利用者が一気に広がり、フィンテック事業の成長を促す可能性があるからである。早ければ2016年の通常国会に法案が提出されるとのことである。 確かに銀行がフィンテック事業に参入すれば、フィンテック事業の成長が加速するだろう。しかし、銀行の参入は、現在フィンテック事業を運営しているIT企業(楽天、ヤフー、LINEなど)にとっては脅威のはずである。おそらく早晩フィンテック事業は銀行が一人勝ちということになるのは目に見えている。それでいいのだろうか。それについては対立する意見があるはずであり、規制緩和に当たっては対立する意見の調整が必要になるだろう。 【規制緩和のイメージ】   (了)

#No. 133(掲載号)
#鈴木 広樹
2015/08/27

《速報解説》 措置法通達(相続税法の特例関係)の改正により「結婚・子育て資金贈与の贈与税非課税特例」に係る規定が新設

《速報解説》 措置法通達(相続税法の特例関係)の改正により 「結婚・子育て資金贈与の贈与税非課税特例」に係る規定が新設   税理士事務所ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成27年6月26日付で、国税庁から「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された(以下、改正通達という)。これは平成27年度税制改正における相続税の改正に伴う一部改正である。 具体的には、(1)相続税法基本通達に関する改正、(2)「税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」(租税特別措置法(相続税法の特例関係)の通達)に関する改正、に区分することができる。 (1)相続税法基本通達に関する改正は、主として相続税法における条文番号等の変更に対応するものであり、また(2)「税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」に関する改正は、《直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税》(租税特別措置法第70条の2の3)の創設に伴う規定の新設が中心となっている。 以下では、(2)税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」に関する改正のうち、結婚・子育て資金贈与の贈与税非課税特例(以下、本特例という)に関する部分(創設規定のためすべて新設)を見ていくこととする。 なお本制度の詳細については、下記拙稿をご覧いただきたい。 【ポイント】 「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」における用語の定義を行っている。上記改正通達における用語の定義は、租税特別措置法の用語の定義と同じである旨、示されている。   【ポイント】 本特例の対象となる個人については、租税特別措置法第70条の2の3第1項に適用要件が定められている。この適用要件には、日本国籍を有する者、日本の居住者であることは求められておらず、適用される個人は日本国籍を有する者、日本に住所を有する者に限定されないと解釈される。 上記改正通達では、外国国籍を有する者、相続税法の施行地に住所を有しない者について、いずれも、他の適用要件を満たしていれば、本特例の対象となることが留意的に示されている。   【ポイント】 本特例の対象者は、直系尊属から結婚・子育て資金贈与を受けた一定の個人である(措法70の2の3①)。この直系尊属の範囲については、租税特別措置法第70条の2の3に定義はないため、民法等の借用概念と解釈される。 上記改正通達では、直系尊属の範囲は、住宅取得等資金の贈与税非課税特例に係る措置法通達70の2-1(直系尊属の範囲)を準用することが示されている。 なお、参考までに当該通達を以下に記載しておく。   【ポイント】 追加贈与を行い、本特例の適用を受ける場合には、既に結婚・子育て資金非課税申告書を提出した取扱金融機関の営業所等を経由して、追加結婚・子育て資金非課税申告書を提出することとされている(措法70の2の3④)。 結婚・子育て資金非課税申告書を提出した取扱金融機関の営業所等以外の金融機関の営業所等を通じて、追加結婚・子育て資金非課税申告書を提出した場合、租税特別措置法上の取扱いとしては効力を有せず、本特例の適用はないことが留意的に示されている。   【ポイント】 結婚・子育て資金非課税申告書又は追加結婚・子育て資金非課税申告書に記載された非課税拠出額が1,000万円を超えていた場合、これらの結婚・子育て資金非課税申告書又は追加結婚・子育て資金非課税申告書につき、取扱金融機関の営業所等は受理することができないこととされている(措法70の2の3⑥)。 これに反して上記のように結婚・子育て資金非課税申告書又は追加結婚・子育て資金非課税申告書が提出・受理された場合、そのような結婚・子育て資金非課税申告書や追加結婚・子育て資金非課税申告書は、租税特別措置法上の取扱いとして効力を有せず、本特例の適用がないことが示されている。   【ポイント】 信書便により、取扱金融機関の営業所等へ、結婚・子育て資金非課税申告書、追加結婚・子育て資金非課税申告書、結婚・子育て資金非課税取消申告書、結婚・子育て資金非課税廃止申告書又は結婚・子育て資金管理契約に関する異動申告書が提出された場合、信書便の発信日(信書便に表示された通信日付印による日)に受理されたものとして取り扱われることが示されている。   【ポイント】 本特例が適用され、贈与税の課税価格に算入されない価額は、租税特別措置法第70条の2の3、租税特別措置法施行令第40条の4の4、租税特別措置法施行規則第23条の5の4に規定される適用要件を充足した価額である。 上記改正通達では、本特例が適用され、贈与税の課税価格に算入されない価額について、非課税拠出額(1,000万円までの金額に限る)の範囲内であること、かつ、措置法施行令第40条の4の4第4項及び第5項の要件を満たしている部分に限定されることが、留意的に示されている。 なお、(1)贈与者が複数である場合には、贈与者ごとに判定を行うこと、(2)結婚・子育て資金贈与特例が適用されない金額については贈与税が課され、その場合には、贈与税は暦年課税・相続時精算課税のいずれかにより課税されることが留意的に示されている。   【ポイント】 領収書等に記載された金額が外国通貨により表示されている場合、支払年月日における最終為替相場(取扱金融機関などの金融機関が公表する対顧客直物電信売相場)で邦貨換算した金額で記録を行うことが示されている。   【ポイント】 結婚・子育て資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合、管理残額について、受贈者は贈与者から相続・遺贈により取得したものとして、相続税が課税される(措法70の2の3⑩二)。 このように課税が行われる理由について、財務省立法担当者は以下のように解説している(財務省「平成27年度 税制改正の解説」567頁)。 なお、この場合において、改正通達では以下の点が留意的に示されている。 (1) 複数の贈与者から結婚・子育て資金贈与を受けた場合の管理残額 結婚・子育て資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合、管理残額について、受贈者は贈与者から相続・遺贈により取得したものとして、相続税が課税されるが、複数の贈与者から結婚・子育て資金贈与を受けている場合には、贈与者ごとに管理残額を算定する必要が生じる。この場合、非課税拠出額合計に占める、死亡した贈与者が贈与した金額の占める割合を、管理残額合計に乗じることで算定する(比例按分計算)。 (2) 結婚・子育て資金贈与特例の適用を受けた贈与 本特例の適用を受けた贈与は、贈与者が死亡した場合、管理残額について相続税の対象となるが、贈与税(暦年課税・相続時精算課税)は適用されない。したがって、本特例の適用を受けた贈与価額については、相続開始前3年以内贈与の加算(相法19)、相続時精算課税(相法21の15、21の16)の対象とはならない。 (3) 相続税2割加算の適用 結婚・子育て資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合、管理残額について、受贈者は贈与者から相続・遺贈により取得したものとして、相続税が課税されるが、管理残額に対応する相続税については、相続税の2割加算(相法18)の適用はない。 (4) 相続開始前3年以内贈与 結婚・子育て資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合、管理残額について、受贈者は贈与者から相続・遺贈により取得したものとして、相続税が課税されるが、管理残額以外の財産を取得しなかった受贈者は、本特例の適用を受けた贈与以外の財産を贈与されていた場合であっても、相続開始前3年以内贈与(相法19)として相続税の対象に加算されない。   【ポイント】 結婚・子育て資金管理契約が終了した場合、その終了事由によって、管理残額の課税は異なる(措法70の2の3⑫⑬)。 (1) 受贈者が死亡したこと(措法70の2の3⑬) 管理残額について贈与税の課税は行われない。これについて、財務省立法担当者によれば以下のように説明されている(財務省「平成27年度 税制改正の解説」(570・571頁)。 なお、管理残額については贈与税の課税は行われないが、受贈者の死亡時における実際の口座残高については、受贈者の相続財産として、受贈者の死亡に係る相続税の対象となる。 (2) 受贈者が死亡したこと以外(受贈者が50歳に達したこと、結婚・子育て資金管理契約を終了させる合意があったこと)(措法70の2の3⑫) 管理残額について、贈与税の課税が行われる。この場合、受贈者が、管理残額を贈与者からその終了の日において贈与により取得したものとみなして、相続税法その他贈与税に関する法令の規定が適用される(措令40の4の4第25項)。また、贈与者が複数である場合には、贈与者ごとに贈与額を算定し、課税が行われる。 したがって、管理残額について贈与税が課税される場合、他の贈与と同様に、暦年課税又は相続時精算課税により、課税が行われることとなる。   【ポイント】 受贈者が死亡したこと以外(受贈者が50歳に達したこと、結婚・子育て資金管理契約を終了させる合意があったこと)の事由により結婚・子育て資金管理契約が終了した場合、管理残額について、贈与税の課税が行われ、この場合、受贈者が、管理残額を贈与者からその終了の日において贈与により取得したものとみなして、相続税法その他贈与税に関する法令の規定が適用される。 その後、贈与者が死亡した場合、その贈与者に係る相続税については、管理残額については、(1)管理残額の贈与税課税が暦年課税である場合、相続開始前3年以内贈与の加算(相法19)の適用があり、(2)管理残額の贈与税課税が相続時精算課税である場合、相続時精算課税の精算(相法21の15、21の16)が行われる。 なお、改正通達において、管理残額以外の結婚・子育て資金贈与額(すでに支出した部分)については、贈与税課税(暦年課税・相続時精算課税)はなく、結果として、贈与者が死亡したときの相続税課税として相続開始前3年以内贈与の加算、相続時精算課税の精算は行われないことが留意的に示されている。   【ポイント】 結婚・子育て資金非課税申告書を提出した受贈者が、その提出後、当該結婚・子育て資金非課税申告書に係る結婚・子育て資金管理契約に基づく事務を取り扱う取扱金融機関の営業所等に対して当該事務の全部を移管前の営業所等以外の営業所等に移管すべきことを依頼し、かつ、その移管があつた場合には、当該受贈者は、遅滞なく、その旨その他財務省令で定める事項を記載した申告書を、移管前の営業所等を経由し、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措令40の4の4第33項)。 この場合において、結婚・子育て資金管理契約に基づく事務の移管が可能な取扱金融機関の営業所等は、同一の取扱金融機関内の営業所等に限定されることが留意的に示されている。 (了) ↓お勧め記事↓

#No. 132(掲載号)
#根岸 二良
2015/08/26

プロフェッションジャーナル No.132が公開されました!~今週のお薦め記事~

2015年8月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.132を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -イケプロが実践するPJの活用術、第一線で活躍するプロフェッションからの声を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2015/08/20

日本の企業税制 【第22回】「BEPS行動14:紛争解決」

日本の企業税制 【第22回】 「BEPS行動14:紛争解決」   一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久     1 はじめに 行動14「相互協議の効果的実施」は、国際課税紛争を国家間の相互協議や仲裁により効果的に解決する方法を策定するものである。 2014年12月18日、OECD租税委員会より公開討議草案「効果的な紛争解決メカニズムの策定」が公表されており、経団連では、2015年1月16日にコメントを提出している。 移転価格課税等による国際的二重課税の解決手段としては、租税条約の相互協議条項に従って、納税者の要請に基づき租税条約締結国の権限ある当局間で行われる政府間協議があるが、合意義務はなく、そもそも、租税条約の中に相互協議に関わる条項が存在しない国もある。 また、相互協議において解決できない事案を、納税者の申立てにより第三者である仲裁人が解決し、両国当局はその決定に拘束される「仲裁」の規定をもつ租税条約も増えており、日本では、アメリカ、オランダ、香港、ポルトガル、ニュージーランド、イギリスとの租税条約で仲裁条項を設けている。 すべての租税条約に義務的仲裁条項が導入されれば紛争解決に大きく前進することとなるが、未だBEPSプロジェクトの全参加国間でコンセンサスが取れてはいない。 そこで、まずは相互協議の利用を妨げている障壁を取り除き、有効に機能させようとするのが、OECDの方針であり、公開討議草案は参加国がコミットできるミニマムスタンダードに到達すべく、相互協議を有効に機能させる際の障壁の分析、及びそれに対処するオプションを提示するものとなっている。   2 公開討議草案の概要 公開討議草案では、相互協議=MAP(Mutual Agreement Procedure)を妨げている障壁に対処すべく、以下の3つの側面からのアプローチを行っている。 行動14は、結果として相互協議を改善する政治的なコメットメントとなることが期待され、以下の4つの原則に基づき、各国が対応すべき22項目にわたる34のオプションが提示され、うち12のオプションについてはコメントが求められている。 以下、各オプションの概要を整理して示す。   3 経団連の考え 国際的二重課税は、納税者に大きな経済的負担を強いるものであり、速やかに解決されるべきである。 特に、移転価格税制においては条約に適合しない課税が発生し、本来二重課税の排除に資するはずの租税条約に基づく二国間相互協議が多くの国において必ずしも実質的に機能していない状況にあることから、多数の納税者が長期にわたる国内法上の訴訟による解決を余儀なくされている。 かかる状況の中、相互協議の利用を妨げている様々な障壁を取り除き、相互協議を有効に機能させようとするOECDの今回の取り組みを全面的に評価する。 とりわけ、他の行動計画の結果、新たな二重課税、紛争の増加が予想されることから、それらの行動計画の導入前に、強い政治的コミットメントをもって、行動14で示される相互協議の効率性の改善が達成されることが必須である。例えば、義務的仲裁条項も含め相互協議の改善が達成されない限りは、行動13で示された文書化についても実施しない、ということも考えられる。 国際的二重課税の解決手段としては、すべての租税条約における相互協議条項に義務的仲裁条項を導入することが何より重要であり、導入されれば相互協議の促進、紛争解決に大きく前進する。 仲裁は仲裁人による中立的な判断を得ることができ、また仲裁人を使うことにより権限のある当局の紛争解決にかかるリソース軽減にも繋がることから、先進国のみならず、新興国にとってもメリットの大きいものであり、企業にとっても、公表された事例の蓄積による予見可能性を高めることができると考えられる。 ただし、条約は各国の主権が係る問題でもあり、義務的仲裁条項の導入はBEPSプロジェクトの参加国の間でコンセンサスが取れていないという状況を今回の議論によりOECDが乗り越えることを期待している。 今回の公開討議草案では、参加国がコミットできる義務的でないミニマムスタンダードを設定することを目指して、相互協議を有効に機能させる際の障壁に対処するオプションが提示されている。これは効果的な紛争解決メカニズム策定に向けた重要なステップであり、OECDのアプローチを評価するが、望むべくは、より実効性のある方策(義務的仲裁条項導入)の検討を期待する。 最終的には、OECDモデル条約仲裁条項の二国間租税条約への織り込みにとどまらず、WTO同様の国際仲裁専門機関の設立により、相互協議事案の中の個別問題を仲裁裁定することで、事案解決の迅速化と問題解決の事例蓄積による予測可能性・法的な裁定の安定性を高めることが必要であると考える。 なお、各オプションに関する具体的コメントについては、下記の経団連ホームページをご覧いただきたい。 (了)  

#No. 132(掲載号)
#阿部 泰久
2015/08/20

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第32回】「租税法の解釈における厳格性(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第32回】 「租税法の解釈における厳格性(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     2 租税法にみる財産権の侵害規範性 前述のとおり、租税法律主義とは、国民の財産権の絶対に対する国家の課税権による侵害を、国民の意思たる法律によってのみ制限し得るとする原則である。 租税の賦課徴収に関する実体的手続的規定はすべて国民の代表者で構成されている議会で制定する法律によって定められなければならず、法律の定める要件と手続によってのみ国家は租税を賦課徴収することができる。これは、上記のとおり、憲法の要請するところである。 換言すると、課税範囲を法律によって明らかにすることにより、その範囲内においては国家の課税権行使が適法化されることになる。 また、これを国民の側からいうと、かかる範囲を超えては租税を賦課徴収されない、すなわち財産権を侵害されないということになるであろう。 この点につき、退職慰労金がみなし相続財産に含まれるか否かが争点となった事例において、大阪地裁昭和37年2月16日判決(民集26巻10号2030頁)は、次のように示す。 つまり、租税法とは、財産権の保障原則を一定の範囲において制限する租税の賦課徴収を認める一方、その租税の賦課徴収の限界を定めている法規であるといえるであろう。 すなわち、あくまで、憲法29条の要請する財産権の保障が大原則である中、その例外として機能するのが租税の賦課徴収である。その例外たる範囲を定めるものが租税法ということになる。 かように理解するものとして、いわゆる金属マンガン事件仙台高裁昭和50年1月22日判決(行裁例集26巻1号3頁)を確認しておきたい。   3 非課税規定・減免規定に関する解釈姿勢 (1) 素朴な疑問 前述のように、財産権の保障が大原則であるところ、その例外として機能するのが租税の賦課徴収に係る租税法であるとすれば、財産権が侵害されない非課税規定・減免規定の解釈に関していえば厳格な解釈の必要がないのではなかろうか。 しかし、通説・判例はそうとは考えていないのが現状である。なぜであろうか? こうした現状を理解するため、たとえば、租税の賦課徴収を原則的規定とし、これに対する例外的規定として非課税規定・減免規定を捉える考え方があり得る。 要するに、課税が原則であれば、課税をしないという例外の場合にはさらに厳格でなくてはならないという理解である。 たとえば、この点について、前述の金属マンガン事件仙台高裁判決は次のように判示する。 すなわち、こうした解釈姿勢は次の【図1】のように整理される。 【図1】 (2) 「例外の例外」 上記のような「例外の例外」だから「より厳格に」という理論構成はたしかに分からなくもなく、一見妥当であるようにも思える。しかし、かような整理の仕方は、やや形式論的な理解に過ぎてはいないか。 【図1】のように、まず原則としての財産権の保障があり、その例外たる租税の賦課徴収が続き、そしてさらにその例外に非課税規定・減免規定があるとするならば、「例外の例外」は、裏返しとして財産権の保障と同レベルの厳格性に戻るというような反論も考えられないわけではない(【図2】参照)。 【図2】 このように、形式論的側面からの説明だけでは限界があるように思われる。むしろ、ここでは、より実質論的側面からの理解をすべきではなかろうか。 実質論的側面からの理解とは、すなわち、対象となる租税法の規定の趣旨や目的からの検討である。そこには、差し当たり次の2つのアプローチが考えられる。 1つは、非課税規定・減免規定が政策的目的から用意されているところ、こうした政策上の配慮により本来のあるべき課税が歪められているならば、その歪みはできるだけ小さくすべきとする考えによるアプローチである(①)。そして、もう1つのアプローチは、解釈は政策の趣旨・目的の範囲内に限定されるべきとする考えによるアプローチである(②)。 これらのアプローチは、いずれも、いわゆる目的論的解釈の考え方に接近するものといえる。すなわち、アプローチ①は、非課税規定・減免規定の制定が税制を歪めていることを解釈の中に織り込む考え方であり、アプローチ②は、これらの規定の解釈に当たっては立法趣旨に合致させるべきとの配慮が働いているとする考え方であるといえよう。一般的には、後者の考え方が目的論的解釈といわれるものである。すなわち、後者は、「なぜに政策上、非課税規定・減免規定が用意されたのか」という趣旨からのアプローチである。  (続く)

#No. 132(掲載号)
#酒井 克彦
2015/08/20

『社外取締役』をめぐる「交際費」の取扱い

『社外取締役』をめぐる 「交際費」の取扱い   公認会計士・税理士 新名 貴則     1 社外取締役とは 「社外取締役」とは、会社の取締役であって、次のすべてに該当する者のことである。 取締役相互間の馴れ合い等から、取締役の経営監督機能が充分に機能しなくなる可能性があるため、社外の者を取締役に起用し、第三者的視点からチェックさせることで、取締役会の監督機能の強化を図ることが、社外取締役を設置する目的である。 会社法において、次の会社は、社外取締役の設置が義務付けられている。 また、上記に該当しない会社であっても、様々な目的のために社外取締役を任意で選任する会社が増加している。   2 社外取締役と交際費 ① 社外取締役をめぐる交際費課税上の問題点 平成26年度税制改正後の交際費課税の概要については、下記の拙稿を参照いただきたい。 現在の交際費課税では、いわゆる「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」の適用に関して、社外取締役の取扱いが問題となる。 なお、「5,000円基準」の概要と、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」の関係については、下記拙稿を参照されたい。 ここで、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」は、社内の者だけで行われる会食等には適用されず、会食等に「社外の者」が参加している場合にのみ適用される。 この点、「社外取締役」は名称に『社外』と付いてはいるが、その会社の取締役として選任されている以上、あくまで「社内の者」である。 したがって、会食等に社外取締役が参加したことを理由として、「5,000円基準」や「接待飲食費の50%損金算入」を適用することはできない。 ② 出向者の取扱いを確認 国税庁が公開している「接待飲食費に関するFAQ」のQ5(社内飲食費-出向者)では、出向者に関する取扱いについて解説されている。 その要点は次のとおりである。 この場合、次のとおりXが「どの立場で参加したか」によって、取扱いが異なる。 このように、出向者については、「出向元」あるいは「出向先」のどちらの役員等の立場で会食等に参加したのかによって、「社内の者」か「社外の者」かの判定が異なるとしている。 ③ 社外取締役の取扱いを検討する ここで、社外取締役についても、出向者の取扱いと同様に解することができると考えられる。つまり、社外取締役が会食等に「どのような立場で参加したか」で取扱いが異なると考えられる。 実務上、社外取締役として選任される者には、他社の現役役員や役員経験者、大学教授、弁護士・公認会計士等の有資格者などが多い。つまり、普段は全く別の立場を有し、業務を行っている場合も多いのである。 このような場合、「社外取締役としての立場」ではなく、「全く別の立場」で会食等に参加することもあるだろう。 具体的には、次のような事例である。 この場合、次のとおりXが「どの立場で参加したか」によって、取扱いが異なると考えられる。 このように、社外取締役についても出向者と同様、「自社の社外取締役」あるいは「別会社の役員等」のどちらの立場で会食等に参加したかによって、「社内の者」か「社外の者」かの判定が異なると考えられる。 なお、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」を適用する場合、「飲食等に参加した得意先等の氏名又は名称及びその関係」を領収書等の書類に記録して保存する必要がある。 上記のように社外取締役としてではなく、あくまで取引先の役員等「社外の者」として参加していたことを理由に「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」を適用する場合、課税庁から誤解を受けることのないよう、「社外の者」としての立場やその会食の目的等を明確に記録しておくべきであろう。 (了)

#No. 132(掲載号)
#新名 貴則
2015/08/20

多様化する『生前贈与』の選択肢~大幅拡充の平成27年度改正を受け、どういう視点で検討すべきか~

多様化する『生前贈与』の選択肢 ~大幅拡充の平成27年度改正を受け、どういう視点で検討すべきか~   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   平成27年1月1日以後に生じる相続について、相続税の基礎控除額の引下げや最高税率の引上げなど大増税となる改正が行われ、今後は相続税の納税義務者となる人の数が増加し、さらに相続税の納付税額も従来よりも多額となることが想定される。 これら相続税の増税に対し、贈与税については納税者有利となる改正が行われ、生前に贈与した場合の非課税規定である住宅取得等資金の贈与や教育資金の贈与につき適用期限の延長、非課税枠の拡大が行われることとなった。 これらの規定以外にも、暦年贈与につき直系尊属からの贈与における特例税率の創設や相続時精算課税制度・事業承継税制の拡充が行われ、さらに平成27年4月1日からは、結婚・子育て資金を贈与した場合の非課税規定が創設されている。 したがって、従来からある贈与税の配偶者控除も含めると、生前に贈与した場合に非課税となる規定が多数存在することとなり、どの規定を選択するのかという観点から、慎重に対応しなければならない。 このように、相続税の増税規定と贈与税の非課税規定の改正がなされたことから、今後は、相続税の節税対策として各種の生前贈与規定を活用する生前贈与対策を検討することが有効的な手段となる。ただし、規定によっては、贈与者や受贈者に年齢制限があったり、贈与後の用途に制限があったりすることから、それぞれの規定の適用要件等を明確に把握した上で、顧客のニーズに合った規定を選択し、生前贈与対策を実施する必要がある。 以下では各規定の概要をまとめることとしたい。 上記のように、一言で「生前贈与対策」といっても様々な規定が存在し、どの規定を選択するのか、またはどの規定を組み合わせて適用するのかといった観点から多種多様の生前贈与対策が存在する。適用する規定によってはその対策の実施時期が重要となる場合もあるので、生前贈与対策を検討する際に注意が必要である。 また近年は、税制改正が頻繁に行われており、従来の生前贈与対策では節税効果を高めることができなくなる可能性もあることから、相続税や贈与税の改正はもちろん、他の税目の税制改正も確認した上で対策を講じなければならない。 具体的には、平成27年7月1日から施行された国外転出時課税制度や平成28年より施行されるジュニアNISA制度についても、生前贈与を前提とした規定が含まれていることに留意する必要がある。 (了) プロフェッションネットワーク主催の「最旬情報!『生前贈与対策』はこう使う~平成27年度税制改正にともなう4つの活用スキーム~」。 9月4日(火)開催のお申込み受付中です! お申込みは終了しました。 ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。

#No. 132(掲載号)
#島添 浩
2015/08/20
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