中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第10回】 「加給年金の加算」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 65歳から支給される老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分の額に経過的加算額を加算した額だが、その受給権者に65歳未満の配偶者等がいるときは、年金の家族手当である加給年金が加算される。 1 加給年金の受給要件等 (1) 加給年金が受給できる人 加給年金が受給できるのは、厚生年金保険の加入期間(被保険者期間)が20年以上ある老齢厚生年金の受給権者で、生計維持関係(※)のある65歳未満の配偶者又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者又は、20歳未満の1級、2級の障害者)がある人である。 (※) 生計維持関係とは、加給年金が受給できる者(例えば夫)とその対象者(妻)が生計を同じくし、かつ、その対象者(妻)の年収が850万円未満の場合をいう。 (2) 支給開始年齢 加給年金は、65歳からの老齢厚生年金のみならず、特別支給の老齢厚生年金にも加算される。特別支給の老齢厚生年金を受給している人の場合は、定額部分が支給される年齢から加算される(【第2回】参照)。 (3) 加算される期間 加算される期間は、上記(2)の支給開始年齢から、配偶者又は子が下記に該当したときまでである。 (※) 加算の対象になっている配偶者は、65歳になると自分自身の老齢基礎年金に振替加算(【第4回】参照)が加算される。 2 加給年金額 加給年金の額は、下記の通りである。 (※) 特別加算額及び配偶者加給年金額 〈事例1〉加給年金の加算 夫の厚生年金保険の加入期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者がいるので、加給年金が支給される。昭和25年8月生まれの夫は60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できるが、定額部分は支給されないため、加給年金は、夫が65歳になった翌月から妻が65歳に達する月まで、390,100円(月額32,508円)が支給される。 ただし、老齢厚生年金を繰り下げた場合は、その間、加給年金は支給されず、繰下げ受給後も加給年金部分は増額されないので、繰下げを検討されるときには、注意を要する。 3 加給年金が支給されない場合 加算の対象となっている配偶者が下記に該当する場合は、その間、加給年金が停止される。 〈事例2〉加給年金の停止 下記の事例では、夫の加給年金は67歳でストッブする。 《おさらいQ&A》 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第5回】 「戸籍の記載」 ~養子の氏と戸籍~ 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 普通養子縁組と特別養子縁組とでは、その成立要件となる各実質的要件(【第1回】参照)が異なること、特別養子縁組においてはできる限り実子と同様の戸籍の記載をすべきとの配慮等から、以下のとおり、養子の氏や戸籍に関する手続・内容等において差異が生じる。 [2] 普通養子縁組に関する氏と戸籍 1 普通養子の氏 【第2回】([2]普通養子縁組の効果)でも述べたとおり、養子は養親の氏を称することとなる。 ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は養親の氏を称しない(民810ただし書)。 現行民法は夫婦の一方のみが養子となることを認めているため(民796)、例えば(ア)婚姻によって夫の氏を称することとなった妻が単独で養親の養子となったとき、養親の氏を称するのではなく、夫の氏(夫婦の氏)を称し続けていくこととなる。 逆に、(イ)この場合の夫が養子となった場合には本条ただし書の適用はなく養親の氏を称することとなり、夫婦同氏の原則(民750)から妻も養親の氏を称することとなる。 なお、(ア)において、その後、妻が夫と離婚した場合には、婚姻前の氏に復することとなるが(民767①)、この場合、実親の氏が婚姻前の氏となるか、養親の氏が婚姻前の氏となるかが問題となる。 この点、離婚によって一旦、観念的に婚姻前の実親の氏に復すものの、養子縁組が継続していることから、養子は養親の氏を称するとの原則に従い、妻は民法810条本文により直ちに養親の氏を称することになる(昭62・10・1民事(二)発5000号通達)。 もっとも、民法767条第2項に基づき、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することは可能である。 2 普通養子の戸籍 養子は縁組により養親の戸籍に入る。なお、養親が戸籍の筆頭者及びその配偶者以外の者であるときは、養親について新戸籍が編成され(戸法17)、養子はこの戸籍に入る。 しかし、上記(ア)のように、戸籍の筆頭者(夫)の配偶者(妻、すなわち婚姻により氏を改めている者)が養子となる場合には、養子(妻)の戸籍に変動はなく、身分事項欄に養子縁組をしたことが記載されるだけである。この場合、養子の氏(斉藤)と養親の氏(鈴木)は異なることとなる。 また、上記(イ)のように、戸籍の筆頭者(夫、すなわち婚姻により氏を改めていない者)が養子となる場合には、養子(夫)はその縁組によって養親の氏の新戸籍を編成し、養親の戸籍には入らない。そして、養子(夫)の配偶者(妻)も筆頭者である夫に伴ってこの戸籍に入籍する(随従入籍)。これにより、夫婦ともに養親の氏である鈴木を称することとなる。 3 「養子の子」の氏と戸籍 養子は養子縁組により養子の氏を称するが、縁組当時存在する養子の子は当然に養親の氏を称するわけではない(昭23・4・20民事甲209号回答)。養子の子は従前称していた氏を称し続けることとなるが、その場合、改氏した養子と、養子の子の氏が異なるケースが生じる。 養子の子が養子と同じ氏を望む場合には、民法791条に従い、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるとことにより届け出ることで、養子の氏を称することができる。 もっとも、養子の子は、養子夫婦が婚姻を継続している限り、家庭裁判所の許可を得ることなく戸籍法98条の入籍届によって養子の氏を称することができる(民791②)。 4 正当な代諾権者の代諾を欠く養子縁組の効力と戸籍の記載 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人がその者に代わって、養子縁組の承諾をしなければならず(民797①)、これを「代諾養子縁組」という。 ところが、生まれたばかりの子を他人夫婦の嫡出子として出生届をするなどした場合、当該他人夫婦による承諾は、正当な代諾による養子縁組とはならない。 もっとも、最高裁昭和27年10月3日判決により、養子が15歳に達した後、有効にこの縁組を追認できる旨判示したことにより、戸籍実務上でも、たとえ親子関係不存在確認の判決が確定した場合であっても、当該親子関係に関する記載のみにとどめ、養子が15歳に達した後、自ら縁組を追認して追完届を提出した場合には、これを受理し、「養子からの縁組の追完があった」旨戸籍に補記する扱いとされている(昭和34年4月8日民事甲624号通達)。これにより縁組は当初から有効であったものと取り扱われる。 [3] 特別養子縁組に関する氏と戸籍 1 特別養子の氏 特別養子縁組は、養子縁組の特別類型であり、縁組であることには変わりない以上、民法上養子縁組に関する規定は明文で排除されているものや特別養子縁組の規定の趣旨から当然にその適用が排除されるものを除き、特別養子縁組にも適用される。そのため、養子は、養親の氏を称することなる(民810)。 もっとも、特別養子縁組は、原則として6歳未満の児童を対象とする以上、養子となる者が婚姻した後に特別養子縁組がなされることはない。そのため、上記(ア)(イ)のような事態が生ずることはなく、養子の子の氏、戸籍等に関する問題も生じない。 また、特別養子縁組導入の発端となったとされる菊田医師事件(実母が出産した経歴が戸籍に残らないよう、乳児の出生証明書を医師が偽造し、子供を欲しがっている夫婦に斡旋していた事件)に見られるように、特別養子縁組の成立趣旨からすれば、正当な代諾権者の代諾を欠くような事態は、本来、想定されていない(もっとも、後述のとおり、戸籍の記載により間接的に特別養子縁組がなされたことは判明してしまう)。 2 特別養子の戸籍 戸籍の処理に関しては、できるだけ実子と同様の記載がなされる。 すなわち、特別養子が養親と戸籍を異にしている場合には、特別養子縁組の届出によって、まず特別養子について養親の氏で従前の本籍地に新戸籍を編成した上、直ちにその新戸籍から特別養子を養親の戸籍に入籍させる(戸法20の3①・18③・30③)。 この場合、できるだけ実子と同様の記載をするという配慮から、「特別養子縁組」、「実父母」、「養子」等の字句は使用せず、特別養子の身分事項欄に「〇年〇月〇日民法817条の2による裁判確定」と間接的に記載されることとなる。 これに対し、特別養子が既に養親の戸籍に在籍している場合には(普通養子を特別養子とするような場合)、特別養子縁組の届出によってその戸籍の末尾に特別養子を記載した上、従前特別養子が記載されていた戸籍の一部を削除する(戸法20の3・14③・戸則40③)。 特別養子縁組の審判が確定した場合、審判が確定した日から10日以内に審判の謄本を添付して戸籍の届出をしなければならず(戸法68の2・63①)、この届出を怠ると過料の制裁が科される(戸法135)。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第26回】 「会社法《平成26年改正対応》(その7)」 弁護士 矢野 千秋 第6 監査役 1 監査役の資格、員数、任期、選任・解任 取締役と同様、非公開会社について、定款の定めをもって、監査役の資格を株主に限ることを認めた(335条1項、331条2項)。また、商法で欠格事由とされた「破産手続開始の決定を受け復権していない者」を監査役の欠格事由から外すとともに、金融商品取引法や各種倒産法制に定める罪を犯した者を欠格事由に加え(335条1項、331条1項3号)、さらに、法人などが監査役になれないことを明文化した(335条1項、331条1項1号2号)。 監査役設置会社においては員数の制限はない。監査役会設置会社においては、監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない(335条3項)。 会社法は、監査役の任期を原則4年としながら、非公開会社については、定款に定めることで、監査役の任期を最長で10年まで伸長できることとした。非公開会社では株主構成が変わらないような会社も多いからである。 監査役を選任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない(341条)。 監査役を解任する株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。監査役の独立性である。 2 監査役の権限 監査役は、原則として業務監査権限および会計監査権限を有する(381条)。 監査役は取締役の職務の執行を監査する機関であるから、その職務権限は会計監査を含む業務全般の監査に及ぶ。しかし監査はその性格上消極的・防止的なものに過ぎず、しかも違法又は著しく不当な点を指摘できるだけであって、取締役の裁量的決定に容喙(ようかい)すべきものではない(適法性監査)。 (1) 事業報告請求権、業務財産の調査権(381条2項) 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる(381条2項)。 請求の相手方の「使用人」とは一般的には雇用契約による被用者を指すが、取締役に継続的に従属する地位にあるものも含む。嘱託、相談役、顧問等の名称の如何を問わない。 請求の時期には法文上制限は無いので、それが会社の業務に著しい支障を及ぼすような時間でない限り拒絶はできない。 調査の範囲であるが、取締役が調査を拒否できる範囲は限られている。監査役の職務と関係のない個人的利益のための場合や、必要性を明らかに欠くような場合である。高度の企業秘密等でも、それが監査に必要である以上拒否できない。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役(下記(6)。監査の範囲を会計に関するものに限定されている監査役を便宜上こう呼ぶ)は会計のみ。 (2) 子会社調査権(381条3項) 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる(381条3項)。その場合、子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる(同条4項)。 子会社に対する事業報告請求権・業務財産調査権である。親会社の監査役としての職務を行うために必要である限り、親会社の監査役は子会社の代表取締役に対して事業報告を求め、または子会社の業務財産を調査することができる。子会社を利用した粉飾決算等を監査するためである。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役は会計のみ。 (3) 会計監査人の選任・解任等に関与する権利 監査役(監査役会設置会社では監査役会)は、監査役が2人以上ある場合には、監査役の全員の同意によって、会計監査人が職務上の義務に違反し又は職務を怠ったとき、会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないときのいずれかに該当するときは、その会計監査人を解任することができる(340条)。監査等委員、監査委員全員の同意。 監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会)は、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容についての決定権を有するものとする(344条)。監査等委員会、監査委員会にもあり。限定監査役はなし。 (4) 監査役の任免に関する意見陳述権 取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数。監査役会設置会社では監査役会)の同意を得なければならない(343条)。 監査役は、株主総会において、監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる(345条1項・4項)。 監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる(同条2項・4項)。 以上、いずれも監査役の独立性から認められている。 監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役もあり。 (5) 取締役の違法行為差止請求権 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる(385条)。監査等委員、監査委員も同。限定監査役はなし。 (6) 監査範囲限定の監査役 非公開会社(監査役会設置会社および会計監査人設置会社を除く)で、取締役または取締役会と監査役のみを置く株式会社においては、定款により、監査役の権限を会計監査権限に限定することができる(389条1項)。会計監査権限のみに限定された監査役を置く株式会社については、監査役設置会社に該当しない(2条9号)ため、株主の監督権限が強化されている。 3 監査役の責任 監査役と会社との間の法律関係は委任の規定に従う(330条)ので、監査役は会社に対して善良な管理者としての注意義務を負担する(民644条)。すなわち、会社の業務及び経理等に対して相当程度の知識、経験及び監査能力を有する標準型の人が監査を行うにあたり通常払うであろう注意の程度を指す。 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない(381条1項)。監査等委員会、監査委員会も同。限定監査役は会計のみ。 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない(382条)。なお招集請求権(367条、383条2項3項)。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役はなし。 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。意見陳述義務の範囲は、原則として取締役会審議事項に限られるが、取締役が会社の目的の範囲外の行為、法令定款違反行為をし、又はそのおそれあるときは、審議事項に限らず報告し意見を述べなければならない。またその意見は適法性に関するものに限られる。限定監査役はなし。 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない(384条)。監査等委員も同。監査委員にはない。限定監査役は会計のみ。 非取締役会設置会社の監査役の任務懈怠についても、取締役会設置会社と同様の一部免除制度を導入した(425条~427条)。また、監査役につき、定款の定めに基づく責任限定契約による責任の一部免除を認めた。詳細は前回の取締役の免責の箇所を参照されたい。限定監査役はあり。 4 監査役会 (監査等委員会は399条の8、9、10等。監査委員会は410条、411条、413条等) 監査役全員で監査役会を組織することにより、監査役相互間で職務の分担ができ、かつ情報及び意見を交換させて監査役の組織化、効率化を図り、その業務監査機能を実効あらしめようとするものである。監査役は3人以上、そのうち半数以上は社外監査役でなければならない(335条3項)。監査等委員会および監査委員会は過半数が社外取締役。 監査役会は、監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定をする(390条2項3号)。ただしこの決定は各監査役の権限の行使を妨げることはできない(2項但書)(監査役の独任制)。 (注) 監査役の独任制 監査役が複数存在してもそれぞれ独立して会社全体の業務・財産の状況を調査し監査せねばならない。これを「監査役の独任制」という。 監査役会は、監査役の中から常勤の監査役(職務専念義務を負う監査役。本店機能を有する場所で9時~5時必要とあらばそれを超えてフルタイムで職務に従事する監査役。)を選定しなければならない(同条3項)。 監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない(同条4項)。 監査報告書は、記載事項に関する各監査役の報告を受け、監査役会が多数決(定足数無し)で作成する(同条2項1号)。監査等委員会(399条の2第3項1号)監査委員会(404条2項1号)。定足数が無いのは独任制から個々の監査役の意思を反映させるためである。 監査役会は会計監査人の選解任に関与する。選任、解任、不再任の議案を総会に提出する(344条)。監査等委員会(399条の2第3項2号)監査委員会(404条2項2号)。監査役会の全員の同意(書面も可)で解任できる。 監査役会は、各監査役が招集し、原則として監査役の過半数をもって決する。書面決議(持ち回り決議)議決権代理行使は許されない(393条1項)。受任者性からである。監査等委員会(399条の10第1項2号)、監査委員会(412条1項)。 監査役会設置会社においては、監査役会が各監査役の報告(監査役監査報告)を受け、監査役会が多数決で作成する(390条2項1号、規130条1項3項、計規123条、計規128条)が、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査役監査報告の内容が異なる場合には、各監査役は監査役会監査報告に自己の監査役監査報告の内容を付記することができる(規130条2項後段、計規123条2項後段、計規128条2項後段)。監査等委員会(399条の2第3項1号)、監査委員会(404条2項1号)。 5 監査役の報酬等 報酬等は定款に定めある場合はそれにより、ない場合は株主総会の決議によって、取締役の報酬とは別にその額を定める(387条1項)。監査役の独立性である。その他、取締役の報酬に準ずる。前回の取締役の該当箇所を参照されたい。 (続く)
従業員等からの 『マイナンバー』入手の手順 【第2回】 「本人確認について(その1)」 ~理解するための“おさえどころ”~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 本連載の第2回となる本稿から第3回にかけては、「本人確認」の内容とその方法について解説する。 「本人確認」は、民間の事業者によるマイナンバー制度への対応にあたって最も実務的な負担が大きく、前回解説したような「対処の仕方」を決定するのにも苦慮する領域と考えられる。 そこで以下では、できるだけ理解しやすく、かつ、実務に即した解説をしていきたい。 1 本人確認の基本的な理解 「本人確認」については番号法第16条に定められているが、端的に言うと、民間の事業者が本人から個人番号の提供を受けるときは、 というものである(※1)。 (※1) 一般的には、①を「身元確認」、②を「番号確認」と呼称している。 そこで、これらを実践すべく、「個人番号カード」や「個人番号の通知カード」、運転免許証等の顔写真付き身分証明証等の提示を受けることなどを総称して「本人確認」という。 「本人確認」は、個人番号の提供を受ける場合には、必ず行わなければならない。 後述するとおり、本人確認の方法として具体的に定められている個々の方法によって、そのやりやすさによる違いはあっても、基本的には例外が認められていないという点が重要である。 なお、この本人確認の具体的な方法は、番号法、番号法施行令、番号法施行規則及び個人番号利用事務実施者である行政機関(※2)による告示通達(※3)等により体系化されている。 (※2) 代表的には、税分野については国税庁、社会保障分野については厚生労働省であり、国税庁からは既に告示として公表されている。 (※3) 国税庁の告示については、「国税庁告示について」(国税庁ホームページ)を参照。 2 基本的な「本人確認」の方法 対面で本人の「本人確認」を行うとした場合、内閣府等からの各種説明資料にもあるとおり、大きく分けて、次の2つの方法がある。 (方法1)について、個人番号カードにはその表面に顔写真が表示されており、裏面には個人番号が記載されている(下図参照)。 そこで、本人からその提示を受けた場合、対面で確かにその本人であることを確かめたうえで、個人番号を取得することができる。本人確認を行う民間の事業者側からすると、最もやりやすい手段といえる。 (方法2)にはさまざまな組み合わせがあるが、次の方法が一般的である。 個人番号が記載されるのは、個人番号カードのほかに、通知カードと(個人番号を記載して出力した)住民票のいずれかであることから、個人番号カードの裏面の確認に代わる番号確認は、この「通知カード」もしくは「住民票」のいずれかで行うことになる。 また、基本的に身元確認はその趣旨からは「顔写真付身分証明証」によって行うことが望ましいと考えられることから、個人番号カードの表面の確認に代わる身元確認は、「運転免許証」や「旅券」等の確認によって行われる。 整理すると、以下のようになる。 先ほど述べたとおり、本人確認の具体的な方法は既述のものも含め、番号法、番号法施行令、番号法施行規則及び個人番号利用事務実施者である行政機関による告示通達等により体系化されているが、あらゆる事態を想定してさまざまな書類の組み合わせによることが認められている点が、本人確認を必要以上にややこしく感じさせる一要因であるといえる。 読者の皆様におかれては、個人番号カードによる方法か、通知カード又は個人番号付住民票と運転免許証や旅券等の顔写真付身分証明証の組み合わせによる方法かを、本人確認の方法の基本として、ぜひ理解していただきたい。 次に、少しずつ応用を加えていきたい。 「応用の場面」とは、上述した基本的な方法によることが実務的にあるいは現実的に難しい場合に考えていくケーススタディであると理解されるとよい。 3 『代理人』から本人の個人番号を取得する場合の「本人確認」の方法 例えば、国民年金の第3号被保険者関係届については、第3号被保険者に該当する本人(=従業員の配偶者)の個人番号が記載されることになる。そこで、原則的には事業者は、当該従業員の配偶者との対面により、本人確認を行う必要がある。 しかしながら、この取扱いは一般的に実務的ではないと考えられることから、実務上は別の方法を考えることになる。 (注) なお補足すると、当然ながら、当該従業員の配偶者を事業所に呼び、対面で本人確認を行うことが禁じられているわけではない。 具体的には、従業員を「配偶者本人の代理人」として、配偶者本人の個人番号を取得するというケースが考えられる。 このように、本人から個人番号を直接取得することが難しい場合には、本人の代理人を通じて、本人の個人番号を取得するということが考えられる。 この場合の本人確認の方法は、番号法施行令第12条第2項に規定されており、以下のとおり、3つの書類を確認しなければならないとされる。 つまり、代理人が誰であるのか、その身元とともに、本人から確かに適切な委任を受けて本人に代わって個人番号を提出する者であることを確かめたうえで、本人の番号を取得することになるのである。 4 国税庁の告示の位置づけについて 2で述べた原則的な方法によることが難しい場合には、個人番号利用事務実施者として実際に個人番号を利用することになる行政機関が適当と認める方法によることもできるとされている(番号法第16条参照)。当該規定を受け、現時点では税分野において国税庁から本人確認に関する告示(以下、国税庁告示)が公表されている。 つまり、国税庁告示は、原則的な方法による本人確認が困難と認められる場合の、いわば例外的な方法とその内容について定めたものであるといえる。 本稿公表時段階において、厚生労働省からはまだ類似の告示通達等は公表されてはいないものの、概ね国税庁告示と同様の内容になると考えられることから、事業者としては当該国税庁告示を参考に対応を練っていけばよい。 5 最後に 次回(第3回)では、今回解説した基本的な理解をベースに、具体的に企業として検討しなければならないケースにおける本人確認の方法や、本人確認について筆者がよく受ける質問事項をQ&Aの形で紹介していきたい。 (了)
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第11話】 「調査官への道」 税理士 堀内 章典 多楠の決意 年が明けた1月半ば、その日、多楠調査官と淡路調査官の2人は青砥税務署で行われた調査1年目の研修を受けていた。研修の帰り、めずらしく淡路が青砥駅前にあるコーヒーショップに多楠を誘った。 「良太の保育園のお迎えまで少し時間があるから、ちょっと寄って行かない?」 淡路は国税局人事課に勤めるご主人と一人息子の3人で川崎市内の宿舎に住んでいる。青砥駅からは京成線、都営浅草線、京急の直通運転があるため、帰宅は思ったほど時間がかからないという。 先輩ながら、しっかり「割り勘でね!」とブレンドコーヒーを頼む淡路は、やや混雑している手狭なコーヒーショップの奥の席に腰を掛けた。席に着くなり、淡路は周りを見回しながら小声で話はじめた。 「今日の事案発表、多楠君の発表が一番目立ってたわ。そう、例のカバン屋・・・」 淡路の言う「カバン屋」とは、昨年、多楠が単独で調査をした株式会社関東貿易商会の調査のことである(くわしくは第5話を参照)。 淡路が辺りを見回したのは、自分たちの会話に聞き耳を立てている者がいないか、確認するためである。どこで誰が話を聞いて調査の内容が漏れるかわからない。外で話をするときは常に周りに注意を払いながら、具体的な名前や名称を出さずに話をするのが、淡路に限らず、調査官の習いである。 その淡路が続ける。 「それに比べて、ウチのペアは全然ダメ。いつも最初だけ花火が上がったように三浦上席が大騒ぎするけど、結局思い込みが激しすぎて尻つぼみに終わってしまうの。上期(※)部門の事績には全然貢献していないし、完全な敗戦処理班っていう感じよ。しかも件数もそんなに上がっていない・・・、ホント、イヤになるわ。」 (※) 上期とは、7月から12月までのこと(税務署の年度は毎年7月から翌年の6月)。 昨年から城東ブロック9署が持ち回りで数回にわたり行われていた会社調査1年目の調査官研修は、今日が最終日であった。今回は各自が上期で実際に着手した事案を持ち寄り発表することになっていた。 発表した事案についてどこが良かったとか、ここはこうすべきであったとか、青砥署のベテラン上席調査官の岩井が進行役とまとめ役を兼ねてディスカッションを行い、1年目調査官のスキルアップを図るのが、この研修のねらいである。 国税当局は調査ベテラン職員の大量退職による調査能力の低下を防止するため、若手調査官の育成に躍起になっている。今日のような集合研修をはじめOJT研修なども実施され、多大な時間と先輩調査官たちの労力を費やして、調査ノウハウの伝承や調査能力の向上を図っているのだ。 淡路が発表したのは、昨年最初に着手した仏壇屋であった。他の1年目調査官の発表事案も同じように、調査に同行した先輩調査官、ときには統括官が同行し、不正の端緒からまとめまで行った事案ばかりであった。 各自の話している事案の内容を聞いていれば、とても1年目調査官が端緒を見つけたり、まとめられるはずがないといったものばかりであった。 そのような事案の中で、多楠が発表したカバン屋の事案は明らかに異彩を放っていた。誰が聞いても多楠が一人で調査に行き、調査の展開を考え、不正を見つけた事案であることが明らかだった。多楠の説明を聞いていた進行役の青砥署の岩井上席も、多楠の話に聞き入り、その後、事案について熱心にコメントをした。 しかし、多楠には「あの日」以来、頭にこびりついて離れない思いがあった。それは “今年こそ、すし勢の汚名を絶対に晴らしたい。このまま終わるわけには行かない!” まさにその一心であった。 ▼ ▲ ▼ 話を昨年に戻そう。 11月も終わりごろになると、調査官は調査の最盛期を迎える。調査官たちは、年内に良い事績を挙げ、事務処理を終え、正月をすっきりした気持ちで迎えようとする。東上野税務署法人課税第5部門のメンバーも同様に、上期の調査事績の締めに向かい、多忙な時を迎えていた。 いつも尻切れトンボで事案が終わってしまう三浦と淡路ペアも、抱えている事案の年内終結に向け、忙しい日々を送っていた。寡黙な小泉調査官は常に一人で淡々と調査をこなし、新田には及ばないものの、着実に良い事績を挙げるようになっていた。すし勢の調査以来、他の事案でも田村統括官に復命する機会が増え、その時間もかなり長くなっていた。 12月、東上野署3階の法人課税部門全体が慌ただしい雰囲気の中、田村統括官はいつもご機嫌で日に何度も副署長室に入っては、何を話しているかわからないが、安倍副署長と長々と話し込んでいるのだった。 安倍はリョウチョウ(資料調査課)のエースとの評判ながら、細身で長身、リョウチョウが通算12年と長かったせいか、やや強面。だが、常に腰が低く、ベテランから若手職員まで分け隔てなく声をかけるので、職員の間でも評判が良かった。 年末調整説明会や法人会などの年末の各種会合で忙しい中でも、10歳年長の田村にいつも敬意を払い、どんなときでも厭な顔ひとつせず、ニコニコ嬉しそうに会話をするのであった。 そんな2人の姿を見て、淡路がいつものように小声で多楠に言った。 「田村統括もご機嫌よね。隣の特調部門よりも事績が倍近く上がっていて、ウチの部門が法人部門全体でも断然トップらしいから。でも、ウチのペアはまるっきり蚊帳の外だけど。」 多楠はそんな淡路の愚痴を苦笑いしながら聞き流し、イソイソと決議(※)をあげていた。 (※) 「決議」とは調査報告書のようなもので、事案ごとに作成し、上司の決裁を仰ぐ作業をいう。 確かに法人課税第5部門の事績は良い。そしてそれは、新田の成果によるところが大きかった。さらに、すし勢の調査に着手したころからは、俄然小泉が追い込みをかけている。最近の事案では、新田よりも小泉の方が事績を上げているかもしれない。 多楠のすし勢での失態に対する心の傷はまだ癒えないが、その後、多楠と新田はまるで何事もなかったかのように、今までと同じようにペアで調査を行っており、最近は内部での仕事に追われていた。 新田はというと、当然ながら内部の仕事も早く、仕事が思うように進まない多楠を残し、最近では小泉と一緒に帰る機会が多くなっていた。 多楠はあの日以来、“スナックかわばた”には行っていない。 ▼ ▲ ▼ やがて、決議の締め日も過ぎ、12月も後半を迎えるころ、部門の忘年会が行われた。 さすがに副署長の安倍は多忙を理由に出席を断っていたので、会は田村の独壇場と化していた。会が始まってすぐ、上機嫌の田村は満面の笑みを浮かべながら、部門の皆に話かけた。 「昼の打ち合わせでも皆さんに発表したけど、1月からは1年目の調査官も単独で調査に行ってもらいます。おかげさまで事績はヨソの部門より群を抜いているけど、調査件数は計画していた件数に大幅に届いていません。 だから淡路さんと多楠君は大変だけど、来年からは一人で調査に行ってもらいます。 三浦上席や新田君もそれぞれ自分の事案で忙しくなるから、これからの調査の報告は直接私にするように。」 淡路と多楠は昼の部門の打ち合わせで聞いていた話なので、“わかりました” とうなずく。 田村は、珍しく日本酒をぐびぐびと2、3杯たて続けに飲んだせいか、早くも顔を真っ赤に染めながら話を続けた。 「皆さんには直接関係ないけど、件数が計画通りいかないと主務課(※)の補佐から厳しく叱られるんだよね。せっかく良い事績を出しても退職金が減額になったら元も子もなくなる。頼むよ、皆さん!」 (※) 主務課とは、税務署の法人課税部門の事務運営を取り仕切っている国税局法人税課税課のこと。 「また退職金の話か」と、シラケる部門のメンバーだが、そんなこと意にも介さず、終始田村はニコニコしていた。その後2時間半ほどでお開きとなり、部門の全員が上野駅で散会した。 多楠はてっきり新田から“スナックかわばた”に誘いを受けるものと思っていたが、誘いはなかった。まだ、すし勢の件が尾を引いているのであろうか。 調査部門の冬休みは早い。忘年会が終了した翌日から三浦上席が休暇を取り、12月25日からは5部門のメンバー全員が年末年始の休みに入った。 (次ページへ) (前ページへ) 執念の反面調査 いよいよ後半戦が始まった。 年が明けると、東上野署法人課税の各部門は新年早々に着手する調査先の準備調査を行い、1月の中旬から一斉に調査に出かけた。多楠と淡路も青砥署の研修が終了すると同時に、調査に出始めた。 1月から6月の後半戦は、所得税の確定申告期間が2~3月にあり、5月にはゴールデンウィークがある。所得税の確定申告という繁忙期は、首都圏周辺の税務署では猫の手も借りたいほどの忙しさになるが、東上野署の管内人口は東京局の中でも下から2番目と少ないことから、さほど忙しくはない。 しかし、所得税の確定申告期間と3月決算会社の申告書作成で忙しい5月のゴールデンウィーク明けは、年間で税理士が最も忙しい時期であるため、調査のできる期間が限られており、調査日程の確保にけっこう苦労するのだ。 昨年末に田村から話のあったとおり、下期からは調査件数の処理重視で、多楠も淡路も原則一人で調査に行くことになった。 田村から指令を受けた7件のうち、真っ先に多楠が選んだのが次の会社である。 1月下旬、丸誠紙業の調査に一人着手する多楠。 朝、出かける前に新田が“準備調査の資料を見せろ”というので見せたものの、具体的な指示は何もなかった。出かける多楠の背中を心配そうに見つめる田村、24歳になる自分の長男と多楠の姿が重なってしまい、どうしても感情移入してしまうようだ。田村は内心で叫んだ。 (多楠君頑張れ! 君には将来がある! 部門の皆が君を応援しているよ! だけど本音を言うと、チョット心配なんだけど・・・) 多楠は予定どおり10時に丸誠紙業の前に到着すると、躊躇せず会社事務所兼店舗に入った。 ▼ ▲ ▼ 1階の店舗には人がいない。『御用の方は2階事務室へ』という案内板を頼りに、狭くて古い建物の階段を2階に上がると、天井の低い息が詰まりそうな事務室に専務の丸野と税理士の三村が座っていた。天井がやたら低いのは、この事務所がJR山手線と京浜東北線の高架下にあるからだ。 多楠は心に期すものがあったが、なぜか落ち着いていた。 昨年、関東貿易商会に一人で調査に行き不正を見つけたこと、そして何より半年間、新田の調査を間近に見ながらみっちり鍛えられたこともあってか、自分でも不思議なくらい気負いがなく、平常心であった。 世間話も早々に、丸野から事業概況を聴き出す多楠、この会社はアメ横の事業者向けに、事務用品、時にコピー機などの事務機器を販売している会社だという。前回の調査は5年前、期末の締め後の請求売上が漏れていたので、100万円程度の修正申告で終了していた。 多楠には特に注目した点があった。 それは、専務の丸野が、社長誠の娘明日香の夫、つまり婿養子である、ということだ。 多楠は先日の青砥署での研修会で聞いた、岩井上席の言葉を思い出していた。 調査のベテランで査察にも在籍していたことがあるという、ラグビー選手のように体格の良い岩井上席はこう言った。 「すべてのケースに当てはまるかはわかりませんが、私の経験則からして、社長や専務が婿養子の場合、不正が行われていることが意外に多い。 会社からの役員報酬はそのまま奥さんに入ってしまうからか、遊び金や自分が自由に使えるお金がほしくて義父や奥さんの目を盗んで不正を行い、会社のお金を誤魔化すケースが多いようです。 実は私が横浜西署の特調部門の時に行った会社でも・・・」 さらに岩井は、研修の締めくくりに、熱く、こう語った。 「皆さんは調査1年目です。何もかもわからなくて当然、だが人から指示されて動いているようではダメです。何が不審なのか、矛盾しているのか、自分の五感、そしてときには第六感さえも使って、証拠をつかむように心がける。常日ごろ自らの感性を磨く努力をし、おかしいと思ったら自分を信じて即行動に起こすことです。」 「こういった心がけで常に調査をした人が、一人前の調査官になるのです。優秀な調査官になる道なのです。税務調査に近道も王道もありません。頭で考えているだけではダメです。地道に努力し、想定し、試行錯誤しながら動き回って靴底を減らすしかないのです。」 ▼ ▲ ▼ 丸野が娘婿であると聞いた瞬間、多楠は自分の腕に鳥肌が立つのを覚えた。 “なんていうタイミングだ! 岩井上席から聞いたばかりの『娘婿のパターン』じゃないか!” その腕をワイシャツの上から手で擦りながら、半信半疑ながら多楠は考え “もし丸野専務が不正をしているとしたら、何を誤魔化しているだろう・・・。専務の役員報酬は年間720万円と、役員としては決して多い方じゃない。” 丸野からの概況を聴きながら、多楠は頭の片隅で、様々なシミュレーションを行っていた。 未熟な多楠の思い込みかもしれないが、不正が出そうなときに調査官が感じると言われている“何とも言えない、ゾクゾクするような、くすぐったいような感覚”が多楠を襲っていた。 丸野紙業は売上と仕入以外に、大きな取引はない。仕入先は事務機の大手メーカーであったり、かなりの規模と思われる事務用品の卸売会社が主であり、誤魔化すなら売上しかないはずだ。 “新年早々の事案で面白そうなのに当たったようだ。” はやる気持ちを抑え、帳簿や証拠書類の何を確認すべきか、多楠の頭の中は早くもフル回転を始めていた。 ▼ ▲ ▼ 店舗はほとんど無人、呼び鈴が鳴れば2階から社員が下りていくといった具合で、店の売上はあまりなさそうだ。話によると、丸野専務が店に出るケースはまずないとのこと。 丸野専務は今の会社に入る十数年前、中堅の総合商社で営業をしていた。商社を辞め丸誠紙業に入社した当初は営業部長として勤務、次に専務となり、5年前に義父の社長が病気で体調を崩してからは、いつ社長に就任してもおかしくない状況にあると三村税理士は言う。 多楠は想定した。 娘婿である丸野が誤魔化すとしたら売上、しかも自分が営業でまわっている会社の売上ではないだろうか。しかし、午前中の概況聴取から昼食を挟んでの帳簿調査の間、立ち会っている丸野の素振りを見ても、常に落ち着き払った態度で温厚そうな性格、岩井上席が言った経験則が当たっているのか、信じがたい気持ちの方が強かった。 しかし、それでは調査にならない。多楠はExcelで管理されている売上帳3期分の確認作業に入った。 ▼ ▲ ▼ 電車が数分おきに頭上を通過するたび、思わず耳をふさぎたくなるほどの騒音の中、多楠はひたすら帳簿調査に没頭した。Excel表を見る限り、不審な箇所は特に見当たらない。 売上決済のほとんどが振込であり、アメ横商店街の魚屋、肉屋などの現金商売の店は、頑なに昔ながらの現金決済を行っているところもある。多楠は関東貿易商会の時と同じように領収証の控と計上されている売上をチェックしたが、柳の下にドジョウは二匹いなかった。 さすがに今回、売上の漏れは見当たらない。 丸野はますます落ち着き払っている。 税理士の三村は忙しいのか、盛んに携帯に電話が入ってきて、その都度1階まで降り、通りに出てはクライアントらしき相手と話をしているようであった。50歳前くらい、紳士的で調査にも協力的である。 調査1日目の午後と2日目のほとんどを売上の確認に費やした多楠であったが、売上計上漏れは一切出てこなかった。 その間も、元商社の営業マンであった専務は、終始調査に協力的であった。 岩井上席が言っていたように、“すべてのケースに当てはまるかはわかりません”の例外の事案なのか、2日目の夕方、相変わらず落ち着いて表情ひとつ変えない専務の顔を見ながら多楠は思った。いつの間にか事務所内には、近くの飲み屋で焼いている焼き鳥の臭いが漂っていた。 ▼ ▲ ▼ 2日目の調査が終わり、3年間の売上を管理しているexcel表の写しをもらい受け、多楠は署に戻ると、田村に事案の報告をした。 「特に何がおかしいというわけではないのですが、専務の役員報酬が年間720万円と会社の規模に比して少なく、商社マン出身の専務は自分のテリトリーの得意先の売上を誤魔化しているように思えてならないのですが・・・。 明日から月末で調査の予約が入っていないので、丸誠紙業の得意先何件かに反面調査を行いたいのですが、よろしいでしょうか。」 多楠の意識の高さ、成長ぶりに思わず顔がほころぶ田村 「多楠君がそういうなら、ぜひやってみなさい。ただし、何件か反面調査に行って見込みがないようだったら、直ちに撤収すること。いいね。」 田村が意外とあっさり反面調査に了承したことを受け、喜ぶ多楠 「ありがとうございます!ではさっそく明日から反面調査に行ってきます!」 田村 「そうそう、あと、反面に行くにしても、新田調査官に相談して反面先を選んだらどうかな。」 「わかりました」とうなずき、多楠は後ろを振り向いたが、さっきまでいた新田は席を外していなかった。 多楠は思う。 “どうせ新田さんに相談しても何も指示が出るわけではない。このまま新田さんには黙ったまま、明日、反面調査に行こう。そうだ、それが良い!” 翌日から多楠は、丸誠紙業の得意先に無予告の反面調査を実施した。 最初はセオリーどおり、ある程度規模が大きいところから反面に着手、張り切って行った反面初日、2日目と多楠は精力的に岩井上席いわく“靴底が減るくらい”アメ横を中心に動き回ったが、1件の売上漏れも把握することはできなかった。 訪れたとある玩具店では、ある国の国家元首の大きな写真が壁一面に掲げられている部屋に案内され、帳簿の提示までしばらく待たされた。部屋に案内された当初は、壁の写真を見てビックリした多楠であったが、結局帳簿の提示があり突合の結果、残念ながら売上の漏れはなかった。 反面調査を行う場合、立て続けに5件も行って何も問題点が出ないと、調査官のマインドは落ち、諦めるケースが多い。しかし、このときの多楠は違っていた。昨年喫したあの屈辱を晴らすという強い一念が、多楠を奮い立たせていた。 ▼ ▲ ▼ 予定していた2日間もあっという間に過ぎ、2日目は午前午後と5件まわったが何の問題も発見できず、昼過ぎから天気はミゾレ模様、すでに時刻は3時を過ぎていた。 丸誠紙業はやはり岩井上席が言っていた例外事案なのか、さすがの多楠にも精神的、肉体的な疲労を感じ始めていた。 多楠は心に決めた。 “よし、これから中野区にある三本木商会に行って、何もなかったらこの事案は諦めよう。” 多楠が最後に目指す反面先、三本木商会株式会社は、アメ横でも有名なスポーツ用品店で、アメ横内にいくつか小売店を有していた。だが、丸誠の調査で三本木商会の本社事務所が中野にあることを把握していたので、アメ横近隣を反面先として優先的に選んだ多楠は、訪れる順を後にしたのだ。 JR中野駅からほど近い三本木商会に4時過ぎに着いた多楠は、古い茶色いタイル貼りの事務所の2階にある経理部に向かった。アメ横の会社といっても業種業態、規模は様々である。三本木商会はテレビのコマーシャルにも出てくるような、アメ横では名の知れた大きな会社であった。 多楠は2階のドアを開け、入口の応接電話越しに経理担当者に面会を求めた。しばらくすると中から中年の男が機嫌悪そうに出てきた。来意を告げ、協力を求める多楠、2日間で10件以上の反面調査を行っていたので、そのあたりの会話には馴れていた。 多楠に名刺を差し出した経理課長の峰岸は40歳前半、いきなりこう言い放った。 「東上野税務署? いつもなら連絡があるのに急に来て、こんな時間に何の用?? 来るなら事前に連絡してくれればいいのに・・・」 再度丸誠の反面調査であるとの来意を告げる多楠、「明日にしてくれ」とでも言われるかと思ったが、 「あっそう、それなら少し待ってて、書類を持ってくればいいのね。」 と言いながら、峰岸は近くのパーティション内に多楠を案内し、事務室内に戻って行った。多楠が来た趣旨が理解できたからか、5分ほど経ってから戻った峰岸は、先ほどより少しだけ応対が丁寧になったものの、相変わらず馴れ馴れしい。 「ウチは中野中央税務署の所轄だけど、いつも予告してから来るよ。ヨソの税務署が来るなんて何事かと思ったよ。ましてこんな夕方、突然にさ。」 多楠は素直に頭を下げ 「お忙しいところお伺いして恐縮です。」 峰岸 「ウチじゃなくて、丸誠さんの調査だよね。何かあったんですか、丸誠さんに。あそこの専務さん、そうそう、婿養子の。」 いきなり核心を突かれた多楠だったが、落ち着いたまま 「いえ、先ほども申し上げましたように、今日は御社と丸誠さんの取引を確認するためにお伺いしただけです。」 峰岸はまだ解せないというように 「ふーん、そうなんだ。はい、これがウチの支払の明細、とりあえず1年分、ウチは6月決算なので、あるのは去年の6月分までだけど・・・」 多楠は峰岸に礼を言い、さっそくチェックを始めた。しかし、丸誠から入手した売上を管理しているexcelの写しと突合するも、すべての売上が合致した。 “やはりダメか・・・。どうやら丸誠は例外の会社だったようだ。” 多楠はため息とともに肩を落とした。 書類をカバンにしまって帰り支度をしようとしたとき、峰岸が思い出したようにポツリと言った。 「そうそう、今調査官に見せた経費帳は第1営業部のもの。」 “えっ!” 驚く多楠に一瞬、稲妻が走る、 この峰岸の機転が、思わぬ展開をもたらすことになるのだった。 (続く)
此の国にも『日本企業』! 【第8回】 「《ベトナム》 自分で動けることの大切さを、ベトナムで、そして日本で ~(株)TESS~」 中小企業診断士 西田 純 今月は、ベトナムで「足こぎ車いす」の普及に取り組む東北のベンチャー企業・(株)TESSを取り上げます。 〈障害を持つ人、リハビリ中の人のための「足こぎ車いす」〉 事情を知らない人からは「足こぎ車いす」というと、車いすに乗る人の足が動くのか?という矛盾を指摘されることも多いそうですが、実物は車いすと自転車を融合させたような機械で、歩けない人でも、膝とかかとの関節が片足でも動けば、動くほうの足を使って自転車をこぐ要領で動かすことができる、というものです。 発進・停止や左右旋回も自由自在ですし、何より麻痺した体の部分を固定するベルトや、歩くときに使う杖を留めるためのホルダー、足こぎ車いすを固定するためのアタッチメントなどのオプション品が充実している点は、ユーザーにとって福音だろうと思います。 宮城県・仙台市に本社がある(株)TESSが、JICAの支援制度を活用してベトナムでの普及に取り組み続けた結果、現在ではベトナム全土の国立病院でリハビリメニュー化を目途として、足こぎ車いすはベトナム政府保健省の認可を受けるところまでこぎつけたと伺いました。 〈ベンチャーとしての出発、そしてベトナムへ〉 さて、そんな(株)TESSの成り立ちは一風変わっています。 元々は20年ほど前に東北大学で開発された技術だった足こぎ車いすを、当時山形県で小学校教諭をされていた現社長の鈴木堅之さんがテレビニュースで偶然目にすることがあったのだそうです。鈴木さんはそれを足の不自由な子供たちに使わせたいと一念発起して仕事を辞め、2009年に同社を立ち上げたのだそうですが、現在でも社員10名弱という正真正銘のベンチャー企業です。 ところがビジネス立ち上げ当初までの日本では、重度の障害者に対するリハビリ導入の必要性が必ずしも強調されておらず、医療現場ではリスク回避の考え方が優先される時代が長かったこともあって、なかなか普及が進まずビジネスでもご苦労が多かったとのこと。 それでもリハビリの現場に近い人から寄せられる期待の声が絶えることはなく、ベトナムとの縁も元々は「現地でリハビリのボランティアをしていた方からの問い合わせ」だったのだそうです。 ベトナム戦争当時に使われた枯葉剤の影響もあってか、現地では今でも多くの肢体不自由児が生まれており、リハビリのニーズは高いものがありました。そこで前述のJICA事業を活用し、足こぎ車いすの実機を見せたところ、国立病院の担当医師からの評価は大変高く、それまで難しいのではと考えられていたリハビリメニュー化の話が一気に進んだということでした。 〈海外に必要とされる技術で進出し、日本にないものを持ち帰る〉 ベトナムの良い点としては、医師を始めとして理学療法士・作業療法士・看護師・技師を一つのチームとしてヨコの連携を重視する考え方があるそうで、足こぎ車いすのような新しい技術をベトナムでどのように取り入れて行けばよいかという課題については、むしろチームがベトナムの事情に合わせた実施方法を考えてくれる、のだそうです。そうすることで、たとえ重度の障害があっても、死ぬまでの日々を有意義に過ごす“Quality of Death”を向上させられるというのがベトナム流の取り組み方だそうです。 ユーザーのことを考えれば、これは日本でも学ぶべき点だということで、鈴木さんは「たとえ小さなベンチャー企業でも、世界にはその技術を必要としてくれるところがあるとするなら、そこでビジネスモデルを作って日本に逆輸入するパターンもありだろう」と考えて、この事業に期待しているとのこと。 〈足こぎ車いすのさらなる普及へ向けて〉 相前後して、日本でもこの技術が評価されるようになってきており、昨年以降急激に出荷台数が伸びて、現在までに日本国内では5,000台以上の足こぎ車いすが各地で使われるようになっているのだそうです。併せてEUやアメリカでも公的な認証を取得し、今後の市場拡大が期待される状況にあるとのことです。 今後の(株)TESS、そして足こぎ車いすに注目です。 (了)
《速報解説》 相続税の取得費加算特例に係る措置法通達が改正 ~本年1月1日に遡って適用~ 税理士 齋藤 和助 平成27年7月7日付で国税庁のホームページにおいて「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)が発遣され(公表日は7月17日)、租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》関係について、すでに本年1月1日より施行されている法改正に伴う一部改正が行われた。 本稿ではこの改正通達につき、重要な点をピックアップした。 なお、制度改正の内容については下記の拙稿を参照されたい。 1 廃止となった通達 今回の改正で廃止となった通達項目は以下のとおりである。 このうち、改正法令の明確化(いわゆる格上げ)に伴い廃止されたものとしては、以下のものがある。 39-2(資産の譲渡に含まれる不動産等の貸付け)は、対象となる相続財産の譲渡には譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含むこととされ(措法39①)、39-3(換地処分等により取得した資産を譲渡した場合)は、適用対象となる相続財産に含むものとし(措法39⑦)、39-7(農地等について相続税の納税猶予を受ける場合の相続税額)は、適用後の相続税額とする旨が法令で定められた(措法39⑥、措令25の16 ③)。 また、39-15(所得税の確定申告後に確定する相続税額)は、相続税申告書を提出した日の翌日から2月以内に限り、更正の請求により取得費加算の特例の適用を受けることができる旨が法律で定められた(措法39④)。 上記以外のものについては、譲渡した土地等に対応する相続税相当額のみを取得費に加算することとなったために廃止されたものである。 2 改正となった通達 改正となった通達のうち、改正法令の明確化に伴うものは以下になる。 39-11(土地等以外の資産を2以上譲渡した場合の取得費に加算する相続税額)については、取得費に加算する金額はその譲渡をした資産ごとに計算する旨を法律で規定し(措法39⑧)、新たに39-5(相続財産を2以上譲渡した場合の取得費に加算する相続税額)として残され、39-17(修正申告等により相続税額が異動した場合)については、政令で修正申告後の相続税額と規定し(措令25の16 ②)、新たに39-9(判決等により相続税額が異動した場合)として残された。 3 適用時期 この改正後通達は、平成27年1月1日以後に開始した相続又は遺贈により取得した財産につき遡及適用され、同日前に開始した相続又は遺贈により取得した財産については、改正前通達が適用される。 (了)
《速報解説》 「国境を越えた役務提供に係る消費税制度」の 経理処理等の取扱いに関する個別通達が改正 ~特定課税仕入れに係る消費税等額の仮勘定処理を認容、 登録国外事業者以外の者との取引に係る仮払消費税等は全額控除対象外消費税額等に~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 10月からの適用がせまる「国境を越えた役務提供に係る消費税制度」については、すでに消費税法基本通達が改正され関係様式の変更点も明らかとなっているが、先日公表された法人税(平成27年6月30日公表)及び所得税(平成27年7月7日公表)の個別通達の改正において、本制度の創設に基づく経理処理方法等の取扱いが明らかにされた。 具体的には、以下の個別通達の各項目が改正・創設された。 以下、それぞれの項目につき解説をしていくが、法人税の個別通達と所得税の個別通達の規定は、内容的には同様のものであるため、「特定課税仕入れに係る消費税等の額」「仮受消費税等及び仮払消費税等の清算」「登録国外事業者以外の者との取引に係る仮払消費税等の金額」の3つの規定をまとめて検討する。 1 特定課税仕入れに係る消費税等の額(5の2) 特定課税仕入れ(※)の取引については、取引時において消費税等の額に相当する金銭の受払いがないことから、その取引の都度行う経理処理において当該特定課税仕入れの取引の対価の額と区分すべき消費税等の額はないことに留意する。 ただし、法人又は個人事業者が当該特定課税仕入れの取引の対価の額に対して消費税等が課せられるものとした場合の消費税等の額に相当する額を、例えば、仮受金及び仮払金等としてそれぞれ計上するなど仮勘定を用いて経理処理することとしても差し支えない。 ▷解説 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供を受けた国内の事業者が、リバースチャージ方式によりその対価に係る消費税額の納税義務が生じる場合には、国外の事業者に対して支払う消費税がないことから、その国内事業者が税抜経理方式を適用している場合であっても仮払消費税等が計上されることはない。 しかしながら、経理処理の方法として、その消費税額につき仮受金と仮払金を両建てして仕訳を行うことも個別通達の「ただし書き」により認めることとしている。 【リバースチャージ方式の考え方及び仕訳例】 ◆事業者向け電気通信利用役務の提供(広告の配信)を受け、国外事業者に100万円支払った。 (支払い時の仕訳:通常) (支払い時の仕訳:通達ただし書き) (※) この仮払金及び仮受金は、通常取引の仮払消費税等及び仮受消費税等と同様の取扱いとなる(リバースチャージ方式の場合、課税売上げと課税仕入れが同額で生じることとなる)。 2 仮払消費税等及び仮受消費税等の清算(6) 法人(又は個人事業者)が消費税等の経理処理について税抜経理方式を適用している場合において、簡易課税の規定の適用を受けたこと等により、課税期間の終了の時における仮受消費税等の金額(特定課税仕入れの消費税等の経理金額を含む)から仮払消費税等の金額(特定課税仕入れの消費税等の経理金額を含み、控除対象外消費税額等に相当する金額を除く)を控除した金額と当該課税期間に係る納付すべき消費税等の額又は還付を受ける消費税等の額(個人事業者が行う業務のうちに税込経理方式を適用しているものがある場合には、当該業務に係る取引がないものとして計算した納付すべき消費税等の額又は還付されるべき消費税等の額とする)に差額が生じたときは、当該差額については、当該課税期間を含む事業年度(又はその年の事業所得等の計算)において益金の額(若しくは総収入金額)又は損金の額(若しくは必要経費)に算入するものとする。 なお、特定課税仕入れの消費税等の経理金額とは、個別通達5の2(特定課税仕入れに係る消費税等の額)のただし書により、特定課税仕入れの取引に係る消費税等の額に相当する額として経理した金額をいう。 ▷解説 消費税の計算が原則として税込で計算することとなるため、事業者が税抜経理方式を適用している場合には、決算時に仮受消費税等の合計額と仮払消費税等の合計額を相殺した残額と実際に納付又は還付する消費税額が、端数処理上の関係で必ずしも一致しない。 また、簡易課税制度を適用した場合には、仕入税額控除の計算が実際に支払った消費税額(仮払消費税等)ではなく、課税標準額に対する消費税額に一定の率を乗じて計算することから、仮受消費税等の合計額と仮払消費税等の合計額を相殺した残額と実際に納付する消費税額に差額が生じることとなる。 この差額については、従来においても法人税又は所得税の計算上、益金又は総収入金額(損金又は必要経費)に算入することとしているが、上記1で解説した個別通達のただし書きによりリバースチャージ方式により仮受金及び仮払金として処理した金額を含めて計算した場合であっても差額が生じた部分は益金又は総収入金額(損金又は必要経費)に算入することを規定している。 なお、ここでいう差額には、仕入税額控除を個別対応方式又は一括比例配分方式を適用して生じる控除対象外消費税額等(下記3参照)は、含めないので留意しなければならない。 【仕訳例】 ◆決算時の残高が仮受消費税等の合計額1,550,000円、仮払消費税等の合計額520,000円、リバースチャージ方式による仮受金80,000円、仮払金80,000であり、その課税期間の消費税の納付税額が1,000,000円となる場合の清算の仕訳は以下のようになる。 (※) 差額の30,000円は、益金又は総収入金額に算入する。 3 登録国外事業者以外の者との取引に係る仮払消費税等の金額(法人税14の2、所得税11の2) 税抜経理方式を適用している法人又は個人事業者が行う取引のうち、登録国外事業者以外の国外事業者から受けた事業者向け以外の電気通信利用役務の提供の取引に係る仮払消費税等の金額(以下「未登録国外事業者に対する仮払消費税等の金額」という)は、全額が控除対象外消費税額等となることに留意する。 なお、当該仮払消費税等の金額が資産に係るものである場合には、法人税においては法人税法施行令第139条の4、所得税においては所得税法施行令第182条の2の規定の適用を受けることができる。 また、法人の場合において、当該仮払消費税等の金額がその法人が支出した交際費等に係るものである場合には、個別通達12(交際費等に係る消費税等の額)の注2の取扱いによる。 ▷解説 国境を越えた役務提供に係る消費税制度において、国内の事業者が未登録の国外事業者から受ける事業者向け以外の電気通信利用役務の提供については、リバースチャージ方式の適用はなく、その国外事業者に消費税を支払うこととなるが、経過措置により当分の間、その支払った消費税につき仕入税額控除を行うことができないこととされている。 したがって、国内事業者が税抜経理方式を適用している場合において、決算時に仮受消費税等と仮払消費税等を清算する際に差額が生じることとなるが、この差額は控除対象外消費税額等(※)として法人税法又は所得税法の規定を適用することを規定している。 (了)
2015年7月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.130が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《平成27年度改正対応》 住宅取得等資金の贈与税非課税特例 【第2回】 「再適用の取扱い」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 前回は住宅取得等資金に係る贈与税の非課税特例について、平成27年度税制改正の内容を概観した。今回はその中から、改正により一部について認められることとなった「再適用」について、具体例を使って確認してみたい。 2 再適用の内容 平成27年1月1日から平成28年9月30日までに住宅を取得等して住宅取得等資金の贈与税非課税特例(住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が8%である場合)(以下「新法8%」という)の適用を受けた者が、平成28年10月以降にも住宅取得等資金の贈与税非課税特例(住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合)(以下「新法10%」という)が適用される者として新たに住宅を取得等した場合には、原則として、再び特例の適用を受けることができる。 しかし、平成26年以前に改正前の旧法で特例の適用を受けている者は、平成28年10月以降に消費税率10%で新しく住宅を取得等しても、新法10%の適用を受けることはできない(【具体例1】)。 ①において既に旧法による非課税特例の適用を受けているため、②において消費税10%が適用される工事に係る住宅取得等資金の贈与を受けても非課税特例の適用はできない。 3 再適用が受けられる場合の非課税限度額 特別住宅資金非課税限度額(住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合)及び住宅資金非課税限度額(住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が8%である場合)は、それぞれ次図のとおりである。 再適用については、新法8%において、住宅資金非課税限度額(上図の部分)まで特例の適用を受けた場合でも、新法10%により特別住宅資金非課税限度額(上図の部分)まで特例の適用を受けることができる(【具体例2】)。 ①の1,500万円及び②の3,000万円の合計4,500万円に非課税特例が適用される。 この場合の新法10%の特別住宅資金非課税限度額には、新法8%の住宅資金非課税限度額までの過不足分は考慮されない。つまり、新法8%で非課税限度額以上の贈与を受けた場合でも、その超過額は新法10%の非課税限度額から控除することはできず(【具体例3-1】)、また、新法8%で非課税限度額未満の贈与を受けた場合でも、その余裕額を新法10%の非課税限度額に上乗せすることはできない(【具体例3-2】)。 ①のうち非課税限度額の1,500万円まで、②のうち1,000万円に非課税特例の適用ができる。①の超過額500万円を②の余裕額500万円に充当することはできない。 ①の1,000万円、②のうち非課税限度額の1,500万円まで非課税特例の適用ができる。①の余裕額500万円を②の超過額500万円に充当することはできない。 なお、平成28年1~9月までの間に、新法8%の適用を受け、平成28年10~12月までの間に新法10%の適用を受ける場合(上図の(※)の部分)は、いずれの契約における贈与も平成28年中のものとなるため、いずれか多い金額までの適用となる(【具体例4】)。 ①②共、平成28年中の贈与になるため、①の1,200万円と②の3,000万円とのいずれか多い金額、つまり、3,000万円に非課税特例の適用ができる。 ただし、②において、契約だけが平成28年中に行われ、その資金の贈与が平成29年に行われた場合には、①の1,200万円及び②の3,000万円の合計4,200万円に非課税特例の適用ができる。 (了)