公開日: 2015/10/29 (掲載号:No.142)
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海外先進事例で学ぶ「統合報告」~「情報の結合性」と「簡潔性」を達成するために~ 【紹介事例③】「ARM Holdings plc社」(ARM「Strategic Report 2014」)

筆者: 若松 弘之

海外先進事例で学ぶ「統合報告」

~「情報の結合性」と「簡潔性」を達成するために~

【紹介事例③】
(最終回) 

「ARM Holdings plc社」

(ARM「Strategic Report 2014」)

内容要素【リスクと機会】の記載に関して、3つの指導原則【戦略的焦点と将来志向】、【情報の結合性】及び【簡潔性】における先進事例

 

 公認会計士 若松 弘之

 

  • ARM Holdings(以下「ARM社」)は、半導体の知的所有権の世界的なリーディング・サプライヤであり、2014年度に販売されたスマート電子機器(スマートフォンやデジタルカメラ等)の約37%においてARM社の技術が使用される(同社「Strategic Report 2014」Non-financial highlightsより)など、デジタル電子製品開発分野の中核的な企業である。
  • イギリスのケンブリッジに本社があり、約3,200人以上の社員を擁し、世界各地にオフィスを構え、台湾、フランス、インド、スウェーデン及びアメリカにデザインセンターを置くグローバル企業である。
  • ARM社は、アニュアルレポートとして同社の主要情報を包括的かつ簡潔に記載した「戦略報告書(注)」と同社の業績等をより詳細に記載した「ガバナンス及び財務報告書」の2つを開示している。今回統合報告の先進事例としてご紹介するのは、同社の2014年戦略報告書(Strategic Report 2014)である。

(注) 戦略報告書
イギリスでは、英国会社法に基づき上場企業に対して、株主に企業のビジネスモデル、戦略、実績、及び将来の見通しについての全体像を提供することを目的とする戦略報告書の作成が義務づけられている。この報告書のガイダンスを適用するFRC(英国金融再生委員会)が、企業報告についてIIRCと同じゴールを目指していることから、ここでは統合報告事例として取り上げている。

 「企業が長期にわたり価値をどのように創造してゆくのか」。企業の長期的な価値創造を株主や債権者をはじめとする多様なステークホルダーに分かりやすく示すことが統合報告書の主たる目的である。今回紹介するARM社の2014年戦略報告書は、この将来の価値創造の道筋である企業戦略を、同社が直面している主要なリスク及びその対処と関連付けながら記載している点が特徴的といえる。

ARM社はなぜこのような記載スタイルをとっているのか。その背景には、同社が事業を行う半導体業界が常に激しい競争と絶え間ない技術革新という変化の波にさらされており、自社技術やノウハウの陳腐化、新規参入による市場シェアの喪失などが常に起こりうることが考えられる。

このような変化の著しい事業環境下では、企業の長期的な成長戦略は、環境変化によってもたらされる成長を阻害する可能性のあるリスクを迅速に識別し対処すること、すなわちリスク管理との密接な関連付けが重要となると筆者は考えている。

IIRCの統合報告データベースは、ARM社の2014年戦略報告書の32ページから37ページを、内容要素【リスクと機会】について、【戦略的焦点と将来志向】、【情報の結合性】、【簡潔性】3つの指導原則に沿った先進事例として掲載している。以下その詳細をご紹介する。

 

(1) 企業戦略とリスク管理の結び付け

ARM社は、2014年戦略報告書の企業戦略の記載(P22以降)において、まず長期成長戦略を「エネルギー効率の良い技術を開発及び展開すること」とし、そのための成長ドライバーとして 長期成長市場におけるシェアの獲得、 スマート電子機器の付加価値の増進、 新技術による更なる収益源の獲得、 長期成長に対する投資を挙げている(P22-23: )。

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海外先進事例で学ぶ「統合報告」

~「情報の結合性」と「簡潔性」を達成するために~

【紹介事例③】
(最終回) 

「ARM Holdings plc社」

(ARM「Strategic Report 2014」)

内容要素【リスクと機会】の記載に関して、3つの指導原則【戦略的焦点と将来志向】、【情報の結合性】及び【簡潔性】における先進事例

 

 公認会計士 若松 弘之

 

  • ARM Holdings(以下「ARM社」)は、半導体の知的所有権の世界的なリーディング・サプライヤであり、2014年度に販売されたスマート電子機器(スマートフォンやデジタルカメラ等)の約37%においてARM社の技術が使用される(同社「Strategic Report 2014」Non-financial highlightsより)など、デジタル電子製品開発分野の中核的な企業である。
  • イギリスのケンブリッジに本社があり、約3,200人以上の社員を擁し、世界各地にオフィスを構え、台湾、フランス、インド、スウェーデン及びアメリカにデザインセンターを置くグローバル企業である。
  • ARM社は、アニュアルレポートとして同社の主要情報を包括的かつ簡潔に記載した「戦略報告書(注)」と同社の業績等をより詳細に記載した「ガバナンス及び財務報告書」の2つを開示している。今回統合報告の先進事例としてご紹介するのは、同社の2014年戦略報告書(Strategic Report 2014)である。

(注) 戦略報告書
イギリスでは、英国会社法に基づき上場企業に対して、株主に企業のビジネスモデル、戦略、実績、及び将来の見通しについての全体像を提供することを目的とする戦略報告書の作成が義務づけられている。この報告書のガイダンスを適用するFRC(英国金融再生委員会)が、企業報告についてIIRCと同じゴールを目指していることから、ここでは統合報告事例として取り上げている。

 「企業が長期にわたり価値をどのように創造してゆくのか」。企業の長期的な価値創造を株主や債権者をはじめとする多様なステークホルダーに分かりやすく示すことが統合報告書の主たる目的である。今回紹介するARM社の2014年戦略報告書は、この将来の価値創造の道筋である企業戦略を、同社が直面している主要なリスク及びその対処と関連付けながら記載している点が特徴的といえる。

ARM社はなぜこのような記載スタイルをとっているのか。その背景には、同社が事業を行う半導体業界が常に激しい競争と絶え間ない技術革新という変化の波にさらされており、自社技術やノウハウの陳腐化、新規参入による市場シェアの喪失などが常に起こりうることが考えられる。

このような変化の著しい事業環境下では、企業の長期的な成長戦略は、環境変化によってもたらされる成長を阻害する可能性のあるリスクを迅速に識別し対処すること、すなわちリスク管理との密接な関連付けが重要となると筆者は考えている。

IIRCの統合報告データベースは、ARM社の2014年戦略報告書の32ページから37ページを、内容要素【リスクと機会】について、【戦略的焦点と将来志向】、【情報の結合性】、【簡潔性】3つの指導原則に沿った先進事例として掲載している。以下その詳細をご紹介する。

 

(1) 企業戦略とリスク管理の結び付け

ARM社は、2014年戦略報告書の企業戦略の記載(P22以降)において、まず長期成長戦略を「エネルギー効率の良い技術を開発及び展開すること」とし、そのための成長ドライバーとして 長期成長市場におけるシェアの獲得、 スマート電子機器の付加価値の増進、 新技術による更なる収益源の獲得、 長期成長に対する投資を挙げている(P22-23: )。

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連載目次

「海外先進事例で学ぶ「統合報告」~「情報の結合性」と「簡潔性」を達成するために~」(全3回)

  • 紹介事例①
    「ユニリーバ社」(UNILEVER 「Annual Report and Accounts 2013」)
  • 紹介事例②
    「Vodacom社」(Vodacom「Integrated Report 2013」)
  • 紹介事例③
    「ARM Holdings plc社」(ARM「Strategic Report 2014」)

筆者紹介

若松 弘之

(わかまつ・ひろゆき)

公認会計士 若松弘之事務所 代表
公認会計士・税理士

1995年 東京大学経済学部卒業後、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。監査部門にて、国内及び海外上場企業の法定監査業務とともに中小企業等の株式上場準備業務にも従事。
2008年 有限責任監査法人トーマツを退職し、公認会計士若松弘之事務所を独立開業。
各種実務セミナーや企業研修、早稲田大学大学院講師など、会計関連の人材育成に注力。
その他、上場企業等の社外監査役や地方自治体の各種委員をつとめるなど幅広く活動。

【著書】
『こんなときどうする 会社の経理 Q&A』(共著、第一法規)

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