《速報解説》 「平成27年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び 業種目別株価等について」 ~日本標準産業分類等の改定等に伴う業種目の見直しに留意~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成27年6月1日付で「類似業種比準価額計算上の業種目及び類似業種の株価等の計算方法等について(情報)」が国税庁から公表された(HP公表日は6月15日)。 なお、平成27年4月分までの類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等は6月11日付で公表されている(HP公表日は6月29日)。 平成27年分の類似業種比準価額計算における考え方は昨年までと変わっていないが、下記のとおり、日本標準産業分類等の改定等に伴い、類似業種比準価額計算上の業種目の見直しが行われているため留意したい。 1 類似業種比準価額計算上の業種目の見直しの背景 類似業種比準価額計算上の業種目は、原則として、日本標準産業分類(※)に基づいて区分されており、また、標本会社の業種目の判定についても、日本標準産業分類に基づいて区分されている。 (※) 日本標準産業分類は、総務省統計局のホームページで閲覧できる。 「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」 日本標準産業分類の第13回改定(平成26年4月1日施行)が行われたことに伴い、平成27年分類似業種比準株価等について、業種目の見直しが行われた。 また、産業構造の変化等に伴い、標本会社が少数となっている業種目については、特定の標本会社の個性が業種目の株価等に強く反映されることとなることから、このような影響を排除するため、類似する業種があり、他の業種目と統合等が可能な業種目については統合等が行われている。 2 平成27年分の類似業種比準価額計算上の業種目分類 平成27年分の類似業種比準価額計算上の業種目分類は、国税庁公表「(別表)日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成27年分)」に従い行う。 なお、平成26年分の業種目と平成27年分の業種目とを比較すると、以下のように見直しが行われている。 (留意事項) 番号のみの変更については記載していない。 平成27年において、類似業種比準価額を用いて株式評価を行う場合には、業種目の見直しが行われていることに留意し、従前に業種目の判定を行っている場合でも、上述の「(別表)日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成27年分)」に従って、業種目を再度確認しておく必要がある。 (了)
《速報解説》 日税連、書面添付制度の定着を目的とした「添付書面記載事例集」を公表 ~意見聴取の機会が与えられない「良好ではない添付書類」の記載事例も~ Profession Journal編集部 〇税務調査の省略・効率化を図る書面添付制度 日本税理士会連合会は6月25日、書面添付制度を定着させ、良好な内容の添付書面を作成することを目的として、「添付書面記載事例集「書面添付制度に係る書面の良好な記載事例と良好ではない記載事例集」」及び「業務チェックリスト(法人税用)」を同会のホームページ(いずれも会員専用)上に公表した。 書面添付制度について、事例集では以下のとおり紹介されている。 上記の書面(税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面)を各申告書提出時に添付した場合は、実地調査前に税務署から顧問税理士への意見聴取の機会があるため、クライアントへの税務調査を事前に回避できる可能性がある。さらに意見聴取における質疑等のみに基因して提出した修正申告書については加算税が課されないなど、そのメリットは大きい。 ただし、「記載内容が良好ではない添付書面」であるとされた場合は、税理士法第33条の2第1項に規定する書面とは認められず、意見聴取は行われないことから、今回の事例集については一度目を通しておきたい。 〇良好な記載例を税目ごとに掲載 今回公表された記載例では、「記載内容が良好である添付書面の記載事例」として以下の5つが掲載されている。 例えば「2 法人税記載事例 製造業」では「4 相談に応じた事項」の「決算賞与の未払計上について」、今期業績好調につき決算賞与の支給をしたい旨の相談を受けた税理士が、決算期末までの全従業員に対する支給額の通知等、税務上の取扱いを説明したうえで、「未払賞与については、決算期末までに支給額を確定・通知して翌月全額支給しており、適正に処理していることを確認した。」といった記載例が示されている。 さらに「5 相続税記載事例」では「3 計算し、整理した主な事項」として、各相続財産(土地・建物・有価証券・現預金など)の評価にあたっての作業手順を説明する記載事例が紹介されている。 〇良好ではない添付書面に共通する9つの事項 事例集には「記載内容が良好ではない添付書面の記載事例」の記載は一例であるが、「添付書面全体に共通する良好ではない添付書面の記載」として、以下の事項が示されている。 税務調査の事前回避はクライアントからの信頼向上だけでなく、税理士事務所の運営負担も軽減されるため、書面添付時には上記に該当する事項がないか確認しておきたい。 なお、良好な内容の添付書面を作成するための「業務チェックリスト(法人税用)」も公表されており、事務所スタッフへの周知等、活用されたい。 (了)
2015年6月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.125が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第12回】 「貸倒損失について」 税理士 山本 守之 1 課税要件法定主義との関係 税法上の「貸倒れ」について、法律では何の規定も置いていないで、法人税法基本通達の9-6-1~3に、次のように取扱いを定めているだけです。 しかし、これでは「課税要件法定主義」に反するではないかという批判があります。これに対して課税庁では、「何が貸倒れか」というのは、専ら事実認定の問題で課税要件ではないから法律に規定を置く必要はないという態度です。 そう言えば、国税庁では解説書(『法人税基本通達逐条解説』税務研究会)で、 としています。国税庁、財務省のOBによる解説もほぼこのようになっています。 ただし、基本通達で定めた経理要件は次のようになっています。 通達で経理要件まで定めながら事実認定とするのは理解できません。 法人税基本通達9-6-1は法律的に金銭債権が消滅したものの取扱いですから、法人が貸倒損失の経理をしていようといまいと絶対的な損金です。そこで「損金の額に算入する」と表現したのです。 一般的には、法人が法人税基本通達9-6-1を適用した場合は、税務調査で「貸倒処理を否認する」という処理はできません。もっとも、回収可能な金銭債権を放棄したような場合は、「寄附金」という処理がなされるでしょう。 法人税基本通達9-6-2については、解説書等に損金経理を要すると書かれていますが、これは誤りです。確かに、昭和55年の通達改正前までは「損金経理した場合はこれを認める」とされていたのを「損金経理することができる」と改めたのです。 この改正理由については、課税庁で、 (『税経通信』Vol.36/No.5/488頁/1981戸島利夫氏) と説明しています。 つまり、回収不能が明確になった事業年度で貸倒処理をすべきで、「当期は赤字だから、次の事業年度で」という処理は認めないということですが、経理処理を「損金経理した場合はこれを認める」から「損金経理することができる」としたのは、貸倒れの経理処理を自由自在に行うのではなく、貸倒れがあった事業年度で貸倒れ処理するということです。 「法人税基本通達9-6-3では、貸倒れ処理をしたらこれを認める」としています。 いずれにしても課税庁は「課税要件法定主義を守る」という考え方をとるべきでしょう。 2 法人税基本通達9-6-1について 法人の有する金銭債権について次に掲げる場合に該当することになったときのその金額は、金銭債権が法律上も消滅したのですから、貸倒れとして損金の額に算入されます。法人が貸倒処理をしていない場合であっても、税務においてはすすんで損金の額に算入するのです(法基通9-6-1)。 注意したいのは、③の「合理的基準」とは何かということです。 課税庁OBの執筆した解説書では、「切捨額は一律でなければならない」としていますが、そのようなことはありません。 『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では としています。 実際に行われている債権者会議では、債務者(子会社)の経営について責任がある親会社(債権者)は切捨額が多く、一般の債権者は切捨額が少ないということはいくらでもあることです。 ④の債務者の債務超過の状態が「相当期間継続」という表現がありますが、「相当期間」という不確定概念は何年かという疑問があります。 気になるのは「相当期間」について、3年~5年と解するとする解説書や質疑応答集があることです。しかし、ここで重要なことは「その貸金の弁済を受けることができない」と認められる場合であり、「債務超過の状態が相当期間継続」は、その弁済不能の判断期間における債務者の状態を表しているに過ぎません。 法人の取引先のなかには、債務超過にあるものが少なからず存在し、それだけで債権者が回収を断念することはないでしょう。 金銭債権の回収に関してはさまざまな方途を講じ、回収に関して努力をするものと思われます。しかし、ある時期には回収を断念しなければならない時期が到来するかもしれません。 「相当期間」は、債務者の経営状態を見るために、ある程度のウォッチ期間が必要であり、最終判断のための見極めをつける期間という意味を持っているのです。 したがって、債務者が天災地変などで回収不能の損害を受け、それが基因となって債務超過の状態になったとすれば、経営状態の判断はごく短期間でつくと考えられます。これに反して、取扱商品に対する消費者のニーズが低下したため慢性的に経営状態が悪化していく場合は、新製品の発売等により反発する機会も十分あるのですから、ある程度長期的に経営状態を判断しなければならないでしょう。 親会社が倒産した場合の子会社の「相当期間」は半年、単なる売上減少の場合は5年ということは十分考えられます。 どちらにしても、「相当期間」は課税庁が一方的に決めることではありません。 3 法基通9-6-2について 法人税基本通達9-6-2では、法律的に金銭債権が消滅した場合でなくとも、債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額の回収不能が明らかになった場合において、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができる(法基通9-6-2)としています。 「資産状況、支払能力からみて」と抽象的に表現したのは、貸倒れに関する事実認定に関し、個々の事案に即した弾力的運用を行うという意味のほか、通常の回収努力も払わずに意識的に貸倒損失にしたというようなものでない限りは、回収不能に陥るまでの動機なり、プロセスを問わないという考え方を表現したものです。 昭和42年の通達改正前では、事実認定に関して破産、和議、強制執行、資産の整理、死亡、行方不明、債務超過の状況が相当期間継続し事業再起の見通しがない場合、天災事故、経済事情の急変など対象となる事実が列挙されていたのです。 しかし「このような基準は・・・一般的には妥当であるが、個々の債権についてその回収不能を認定するに当っては、この基準は多くの場合厳格すぎるきらいがあり、税務官庁と企業との間にこれを巡って争いが絶えない」(昭41年11月「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」)との批判によって列挙しないこととしたのです。 つまり、「資産状況、支払能力からみて」としたのは、貸倒れの判定について国側が弾力的に観察することを意味しています。 4 貸倒れの弾力的運用について 国税庁では平成24年11月2日にホームページ(質疑応答事例)を改訂し、貸倒処理について実質的(弾力的)処理方法を明らかにしました。 これは、従来通達等で硬直的に定めていたことを反省したものです。 その意味では、貸倒れについても通達の表現が硬直的であったのですが、これを実務上の処理として弾力的に改訂されるようになったホームページの記述は評価してよいでしょう。 (国税庁・質疑応答事例「第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ」より) 〈ケース1〉の事例では、B社は債務超過の状態が相当期間継続して回収の見込みがないということですから、貸倒処理は容認されます。 なお、ホームページの説明では、 としていますが、「相当期間」を従来の庁内の研修で「3年~5年」としていた時代よりもかなり進歩しています。 (国税庁・質疑応答事例「担保物がある場合の貸倒れ」より) 貸倒れの一般的取扱いについては、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる(法人税基本通達9-6-2)としています。 しかし、債権に対して担保物がある場合について、国税庁ホームページでは としていますし、基本通達9-6-2でもそのように書かれています。しかし、これでは、担保物が劣後であってもその担保物を処分した後でなければ貸倒処理ができないことになってしまいます。 幸いなことに、今次のホームページ改訂で としています。 〈ケース2〉では、担保物が第5順位で、担保物を処分しても配当が見込めないのですから、貸倒処理は容認されるでしょう。 (国税庁・質疑応答事例「保証人がいる場合の貸倒れ」より) 〈ケース3〉の場合は、金銭債権に保証人がいる場合について、国税庁のホームページでは、「保証人があるときには、保証人からも回収できないときに貸倒処理ができます。」と簡単な回答になっています。 ただ、〈ケース3〉の事情からみると、①保証人の収入は生活保護と変わらない、②有する資産は差押禁止財産(破産法34、民事執行法131)となっているというのですし、実質的に保証人からの回収が見込めない(債務者は自己破産)のですから、貸倒処理は容認されるでしょう。 筆者は今次のホームページの改訂について、次のような意見を持っています。 (了)
消費税の軽減税率を検証する 【第2回】 「税率構造に関する過去の答申」 税理士 金井 恵美子 Ⅰ 税率構造に関する答申 税制調査会においては、これまで消費税の税率構造について累次の検討が行われ、答申は、一貫して単一税率制度を維持すべきであるとしてきた。 主なものを挙げると次のとおりである。 ① 平成5年11月「今後の税制のあり方についての答申-『公正で活力ある高齢化社会』を目指して-」 ② 平成6年6月「税制改革についての答申」 ③ 平成12年7月「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」 ④ 平成14年6月「あるべき税制の構築に向けた基本方針」 ⑤ 平成15年6月「少子・高齢社会における税制のあり方」 ⑥ 平成16年11月「平成17年度の税制改正に関する答申」 ⑦ 平成19年11月「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」 ⑧ 民主党政権下における答申 平成22年度改正から3年間の民主党政権下における税制調査会は、民主党の議員で構成され、その答申は、軽減税率の導入を否定し、低所得者対策として給付付き税額控除を提言した。 ⑩ 現税制調査会での議論 現税制調査会(平成25年6月発足)には、消費税の税率構造に関する答申はない。ただし、平成26年6月11日の第9回会議では、16人の委員、特別委員が軽減税率の導入に反対の意見を述べ(書面提出を含む)、明確な賛意を示したのは1人(新聞社論説委員)であった。 Ⅱ ヨーロッパ諸国の実態 平成19年の答申(上記⑦)は、平成18年9月に任期満了で小泉首相が退任した後に公表されたものである。小泉首相は、「私の任期中は消費税を上げない」(※1)と公約していた。その小泉政権が終了して1年が経過し、財政再建のための消費税率引上げの議論が緊迫した現実性を増す中で、答申は、複数税率制度の検討にあたっては、ヨーロッパ諸国の教訓に学ぶべきことを指摘したのである。 (※1) 平成17年3月2日第162回国会財政金融委員会第9号会議録。 答申が参考にするべきとした「高い税率水準の下で複数税率を採用しているヨーロッパ諸国の実態」とは、どのようなものか。 諸外国では、日本に消費税が創設される以前から、多くの研究者が軽減税率の存在に否定的な見解を示している。たとえば、1981年、ブルッキングズ研究所のヘンリー・J・アーロンは、ヨーロッパ6ヶ国の実例からの教訓として、 と報告している(ヘンリー・J・アーロン編(塩崎潤訳)『付加価値税-ヨーロッパからの教訓-』(今日社、昭和61年)6頁)。 フランスでは、1982年のEgretに、 という意見が見られる(矢野秀利「消費税の政治経済学第18回軽減税率の適用とその問題点-フランスの事例からみる-」税経通信68巻4号15頁(2013年))。 2004年9月の税制調査会海外調査報告では、 とされている。 2010年に公表されたマーリーズ・レビュー(※2)は、軽減税率の理論的な根拠が明確ではないことを指摘し、税務行政的観点から、 再分配の観点から、 としている(藤原一哉「マーリーズ・レビューの世界その1」商学論叢81巻4号200頁(2013年))。 (※2) 「Value Added Tax and Excises」(Ian Crawford、 Michael Keen、 and Stephen Smith)。ノーベル経済学者ジェームズ・マーリーズ卿を座長とする民間シンクタンク Institute for Fiscal Studies の研究グループによって行われたイギリス政府への税制改革の提言レポート。所得課税から消費課税への転換を求めた初の本格的な提言であるミード報告(1978年)の後継と位置付けられる。 2011年5月の社会保障改革に関する集中検討会議においては、EUの付加価値税について研究機関等が公表した資料の概要が報告されている(※3)。その中でも、複数税率制度についてのコメントは多く、マーリーズ・レビューのほか、IMF、欧州委員会、OECDのいずれもが、複数税率制度に否定的である。 (※3) 社会保障改革に関する集中検討会議第9回(平成23年5月30日)資料3-7。 (了)
宅地等に係る固定資産税の軽減措置と 特定空家等の適用除外について 【第2回】 「特定空家等に係る住宅用地の特例の適用除外」 税理士 島田 晃一 1 特定空家等の判定等のためのガイドライン 平成26年11月に国会において可決成立した「空家等対策の推進に関する特別措置法」は、平成27年5月26日において全面施行された。 【第1回】において言及したように、平成27年度の税制改正により、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に定める特定空家等について、市町村長から取り壊しや修繕等をするよう勧告が行われたときは、その空家等に係る土地に係る固定資産税及び都市計画税については住宅用地の特例措置の対象から除外されることになった(地方税法第349条3の2)。 特定空家等については、「空家等対策の推進に関する特別措置法」の第2条においてその詳細が定められている。 具体的には次のとおりである。 特定空家等に該当するか否かについては、同法第9条において、立ち入り調査権が認められているので、今後随時市町村の調査が実行されることになる。この調査により特定空家等に該当した場合は、市町村長から取り壊しや修繕等をするよう「助言又は指導」、「勧告」、「命令」の順で行政指導がなされ、是正されない場合には行政代執行法により所有者に代わり取り壊し等を行うことができるとされている(同法第14条)。 今回の「空家等対策の推進に関する特別措置法」の全面施行にあわせ、ガイドラインが公開されている。このガイドラインは、特定空家等の判定等に対して一般的な判断基準を示したものである。実務的にはこのガイドラインを基本とし、これに各地域の実情等を反映し各市町村固有の判断基準が定められる。 ここでは、今回示されたガイドラインのうち、特定空家等に該当するか否かの判断に関わる事項のうち、特に参考になると思われる部分を抜き出してみた。内容的には本年4月にパブリックコメントを募集する際に公開されたものと同一である。 (1) そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態 空家等対策の推進に関する特別措置法の第2条第2項における「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」とは、「建物が著しく保安上危険となるおそれがある」又は「擁壁が老朽化し危険とるおそれがある」に該当するか否かにより判断される(将来そのような状態になることが予見される場合を含む)。 「建物が著しく保安上危険となるおそれがある」に該当するか否かは、次の①建築物が倒壊等するおそれがある又は②屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある状態に該当するどうかによって判定される。 ① 建築物が倒壊等するおそれがある 次のイ又はロに掲げる事項に該当するか否かにより判定される。 イ 建築物の著しい傾斜 ロ 構築物の構造耐力上主要な部分の損傷 (イ) 基礎及び土台 (ロ) 柱、はり、筋かい、柱とはりの接合等 ② 屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある イ 屋根ふき材、ひさし又は軒 ロ 外壁 ハ 看板、給湯設備、屋上水槽等 ニ 屋外階段又はバルコニー 一方、「擁壁が老朽化し危険となるおそれがある状態」に該当するか否かの例示は次のとおりである。 (2) そのまま放置すれば倒壊等著しく衛生上有害となる状態 空家等対策の推進に関する特別措置法の第2条第2項における「そのまま放置すれば倒壊等著しく衛生上有害となる状態」とは、次の①又は②に掲げる状態(将来そのような状態になることが予見される場合を含む)に該当するか否かにより判断される。 ① 建築物又は設備等の破損等が原因で以下の状態にある。 ② ゴミ等の放置又は不法投棄が原因で以下の状態にある。 2 勧告を受けた場合の税負担の増加 立入調査等の結果、上記の要件に該当し特定空家等であると判定された場合、前述したように市町村長はその特定空家等の所有者に対し除却、修繕、立竹木の伐採その他生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう「助言又は指導」、「勧告」及び「命令」と段階を経て手続きが進行し、是正されない場合には行政代執行法により所有者に代わり取り壊し等を行うことができるとされている。 ただし、上記の行政指導に至るには、特定空家等に該当する建築物が、周辺建築物や通行人に悪影響を及ぼすおそれがある可能性や危険の切迫性の高低など、その建築物の立地やその地域の気象条件等を勘案し総合的に判断されることになるため、特定空家等であると判定された場合、必ずこれら行政指導が行われるとは限らないことにも留意したい。 税務上においては「勧告」の段階で住宅用地の特例の適用がなくなり商業地等として取り扱われることになる。例えば、次の宅地を例にとって住宅用地の特例の適用を除外された場合どのくらい負担増になるかを見てみよう。 この土地の平成27年度の固定資産税は98,000円(=700万円×1.4%)、都市計画税(税率は0.3%とする)は42,000円(=1,400万円×0.3%)で、合計14万円になる。 仮に、この土地が特定空家等の敷地に該当し是正勧告を受けた場合、平成28年度の固定資産税額および都市計画税の合計額は次のとおりになる。ただし、商業地等に該当した際の負担水準は70%であるものとし、商業地等に係る条例減額制度(前回参照)の適用はないものとする。 結果として、この例の宅地に関しては、特定空家等の敷地に該当し市町村長から修繕等を行うよう勧告を受けた場合には、平成28年度は前年度より約36万円の負担増になる。 3 特定空家等であると判定されることが予想される場合の対応 特定空家等であると判定され行政指導が行われる場合、「勧告」の前段階である「助言又は指導」の内容が当該建物の修繕等による対応を求めているのであれば、その段階で必要な修繕を行えば固定資産税・都市計画税の増加を免れることができる。 一方、「助言又は指導」について家屋等の取り壊しが必須であるときは、当該土地に関して家屋を取り壊して駐車場にしたり、取り壊し後の土地に賃貸物件を新築するなど、土地活用の見直しを図るといった選択肢が考えられる。また、家屋を取り壊して更地にしたうえで第三者に売却することで固定資産税・都市計画税の負担をなくし現預金を得ることも選択肢の1つとなる。もちろんこれらの選択肢については、修繕等で対応できる場合であっても検討を行う必要がある。 結果として、クライアントは市町村から「助言又は指導」を受けた段階で、どのような方針を採るかを選択する必要があるため、特定空家等に該当すると見込まれる家屋をクライアントが所有しているときは、「助言又は指導」を受ける前に、固定資産税等の増加見込額、修繕・解体費用の見積額、および当該土地の売却見込額などクライアントに提供できる判断材料を多く収集しておくことを心がけておきたい。 (連載了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第2回】 「欠損金の繰越控除制度の見直し(その1)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [2] 連結欠損金の控除限度額の段階的引下げ (1) 連結欠損金の控除限度額の段階的引下げ 連結欠損金の繰越控除制度における控除限度額について、次のとおり、段階的に引き下げる(法法81の9①、平成27年所法等改正法附則30②)。 (※1) 平成29年4月1日以後開始連結事業年度に生じる連結欠損金について10年間繰越が可能となる。 (※2) 中小法人等については、改正前と同様に連結所得金額の100%について控除が可能となる。また、その場合でも、繰越期間については、大法人と同様、平成29年4月1日以後開始連結事業年度に生じる連結欠損金については10年になる。 〈連結欠損金の繰越控除額の計算例〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 連結所得金額の100%を控除限度額とする特例 改正前と同様に連結親法人が中小法人等に該当する場合は、連結欠損金の控除限度額を連結所得金額の100%とする特例が適用できるほか、経営再建中の法人や新設法人についても、連結所得金額の100%を控除限度額とする特例が創設された。 具体的には、連結親法人が次に掲げる法人に該当する場合、それぞれ次に定める連結事業年度について、連結欠損金の控除限度額を連結所得金額の100%とする(法法81の9⑧⑨⑩、66⑥二・三、59②、法令155の21の2、117二~五、法規37の3の3)。 ① 中小法人等 連結親法人が連結事業年度終了の時において中小法人等に該当する場合は、その連結事業年度については、連結欠損金の控除限度額を連結所得金額の100%とする。 ここで、中小法人等とは、普通法人のうち、連結事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの又は資本若しくは出資を有しないもの(次に掲げる法人を除く)をいう。 ② 経営再建中の法人 連結親法人が、更生手続開始の決定があったこと、再生手続開始の決定があったこと等次に掲げる事実が生じた法人(連結事業年度終了の時において中小法人等に該当するものを除く)に該当する場合は、それぞれ次に定める各連結事業年度については、連結欠損金の控除限度額を連結所得金額の100%とする。 なお、この特例は、連結確定申告書、修正申告書又は更正請求書に次に掲げる事実が生じたことを証する書類の添付がある場合に限り、適用する。ただし、この書類の添付がなかった場合であっても、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは、この特例を適用することができる。 (了)
「結婚・子育て資金の一括贈与に係る 贈与税非課税特例」の活用ポイント 【第3回】 「結婚・子育て資金管理契約の終了時の取扱い」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 結婚・子育て資金贈与特例について、今回は結婚・子育て資金管理契約の終了時の取扱いにつき、説明を行う。 1 結婚・子育て資金管理契約の終了要件 次に掲げる事由に該当した場合には、結婚・子育て資金管理契約は終了する。 上記イ又はロに掲げる事由に該当したことにより結婚・子育て資金管理契約が終了した場合において非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、これらの事由に該当した日に当該残額の贈与があったものとして受贈者に贈与税を課税する。 前回において、結婚・子育て資金管理契約終了前に、贈与者が死亡した場合には、当該死亡の日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額については、受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、当該贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算することを説明した。ここでは、贈与者死亡時課税と、結婚・子育て資金管理契約終了時課税との関係につき、整理を行う。 2 結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合 このケースでは、贈与者死亡時に、非課税拠出額から結婚・子育て資金拠出額を控除した残額(管理残額)は、贈与者から受贈者が相続・遺贈により取得したものとみなして、相続税が課税される。 その後、管理残額が未使用の状態のまま、結婚・子育て資金管理契約が終了した場合に、贈与税課税が行われると、相続税・贈与税の二重課税となってしまう。この点については、結婚・子育て資金管理契約終了時の贈与税計算において、贈与税の課税価格に算入される金額から、管理残額は、下記算式のように除くこととされている(措置法70の2の3⑫)。 なお、結婚・子育て資金管理契約終了時の贈与税課税において、課税対象から除外される管理残額は、「相続・遺贈により取得したものとみなされた管理残額」であり、条文を解釈する限り、実際に相続税額が発生しているか否かは影響がないこととなる。 つまり、贈与者の死亡時に、管理残額が相続税の課税対象となったが、他の相続財産と合算したところ、基礎控除以下で相続税額は生じていないケースにおいても、結婚・子育て資金管理契約終了時の贈与税課税の計算上、管理残額は贈与税の課税対象から除外されることと考えられる。 3 結婚・子育て資金管理契約の終了の日後に、贈与者が死亡した場合 このケースにおいては、贈与者の死亡は、結婚・子育て資金管理契約終了時においては発生していない。したがって、結婚・子育て資金管理契約終了時においては、贈与者死亡に伴い相続税の課税は発生していないため、二重課税の問題は生じていない。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例27(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成X2年3月期から平成X6年3月期の法人税につき、香港に所在する依頼者の100%子会社の所得につき、外国子会社合算税制における適用除外に該当しているにもかかわらず、申告書にその旨を記載した別表及びその証拠資料の添付をしなかったため、税務調査により合算課税の対象とされてしまった。これにより、法人税等につき過大納付が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X1年4月 関与開始。 平成X2年5月 平成X2年3月期の申告書を別表等を添付しないまま香港の100%子会社の所得を外国子会社合算税制における適用除外に該当するものとして提出。以後平成X6年3月期まで同様。 平成X6年8月 税務調査により、当初申告に添付していなかった適用除外基準を満たす旨を記載した別表の提出を求められる。 平成X6年9月 上記別表を提出。 平成X6年1月 上記別表の添付もれを理由に、特定外国子会社等に係る課税対象金額について合算課税を適用した修正申告を慫慂される。 平成X7年1月 平成X2年3月期からX6年3月期の5期分について修正申告書提出。 平成X7年3月 関与先より賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額等の益金算入(措法66の6~9) 外国子会社合算税制とは、軽課税国に子会社を設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図ることに対処するため、内国法人に係る外国関係会社(居住者、内国法人及び特殊関係非居住者によってその発行済株式数の50%を超える数の株式等を保有されている等の法人をいう。)で、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税負担が、日本の税負担に比して著しく低い(所得に対する税率が20%未満(平成27年度税制改正前は20%以下))とされる外国関係会社の所得のうち、その外国関係会社の発行済株式等の10%以上を直接・間接に保有する内国法人のその保有する持分に対応する部分を、その内国法人の所得に合算して課税するものである。 ◆適用除外(措法66の6③) 外国子会社等が、以下のすべての条件(適用除外基準)を満たす場合には、合算課税の対象とならない。 ただし、確定申告書に適用除外基準を満たす旨を記載した別表(※)を添付し、かつ、適用除外基準を満たすことを明らかにする書類等を保存しなければならない。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は軽課税国である香港に100%子会社を所有していた。しかし、実体のある会社であり、適用除外基準の要件をすべて満たしていた。しかし、税理士は別表添付を失念したまま申告をし続け、税務調査で指摘を受け、別表の添付もれを理由に適用除外が認められず、合算課税を適用して修正申告をすることになってしまった。 当初申告において、適用除外基準を満たす旨を記載した別表を添付していれば適用除外となり、合算課税を受けずに済んだことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 担当者の変更 本事例のように外国子会社があるような特殊な関与先は、ついつい慣れた担当者に任せがちである。そうすると、本事例のように長年にわたってミスに気づかず、気づいた時には損害額も多額になっていたというケースが多い。 このようなケースの場合には、定期的に担当者を変更することによって、新しい担当者が先入観なく一から確認ができる機会を作ることも必要である。 [ポイント②] チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築 申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第29回】 「裁決例⑨」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、連結納税加入に伴う時価評価において、債務超過となっている子会社株式をマイナス評価したのに対し、零円未満であることはあり得ないとして、零円以上であるとした事件である。 14 平成23年7月7日裁決 (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、連結納税への加入に伴う連結加入直前事業年度終了の時に有する時価評価資産の評価損益の算定に当たり、債務超過となっている子会社の株式の時価評価額を零円を下回る価額(以下「マイナス価額」という)として、時価評価損益を算定し確定申告をしたところ、原処分庁が、当該時価評価額を零円と認定し時価評価損益を算定するなどして更正処分等をしたため、請求人が、当該子会社の株式の時価評価額はマイナス価額となるなどとして、当該更正処分等の一部取消しを求めた事件である。 なお、本件各株式は、売買実例がなく、公開途上にある株式でもない。また、本件において、売買実例のない本件各株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるとは認められない。 (2) 原処分庁の主張 連結加入直前事業年度における時価評価資産である有価証券の時価評価額は、資産の譲渡が一般的に有償又は無償で行われていることにかんがみれば、譲渡する場合における通常取引されると認められる価額として零円を下回ることはなく、また、会社法第104条《株主の責任》において、株主の責任はその有する株式の引受け価額を限度とする旨規定されていることからしても、本件各株式の発行法人が債務超過となっている場合であっても、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額は零円である。 (3) 請求人の主張 連結加入直前事業年度における時価評価資産である有価証券の時価評価額の算定において、当該有価証券の発行法人が債務超過となっている場合は、以下の理由から、当該債務超過に相当する金額をマイナス評価するのが、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額として妥当である。 (4) 国税不服審判所の判断 本件各株式は、上場有価証券等以外の株式であるから、本件各株式を時価評価するに当たっては、法人税基本通達9-1-13に定める方法により評価すべきものと認められるところ、本件各株式は、売買実例のあるもの、公開途上にあるもの、売買実例のない類似法人の株式の価額があるもののいずれにも該当しないものと認められるから、本件事業年度終了の日における「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」をもって、その時価評価額とするのが相当である。 そして、本件各株式の純資産価額はいずれも零円を下回っているところ、本件各株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等が零円を下回る場合の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、零円以上と認めるのが相当であるから、本件各株式の本件事業年度における時価評価額は零円以上とすべきである。 (5) 評釈 子会社株式の時価評価について、零円未満であるマイナス価額はあり得ないとした事件であり、法令上は、そのように解さざるを得ないと考えられる。 このような問題は、他の税目においても生じるところであり、例えば、相続税法において、保有する非上場会社の時価を零円としたとしても、金融機関に対する連帯保証については、「主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合」まで認められず(相基通14-3)、実際に、当該規定の適用を受けるためには、保証債務が確定的なものになっている必要があるため、当該規定の適用を受けるためのハードルは極めて高いというのが実態である。 連結納税加入に伴う時価評価課税についても同様に、本来であれば、非適格組織再編成と同様に、負債性引当金や負ののれんを含めた上での時価評価を導入すべきであったのに対し、資産サイドにしか時価評価を要請しなかったという立法上の問題がある。この点については、制度の簡素化という理由で説明されることが多いが、そのような制度の簡素化についての納税者の要請は存在せず、グループ法人税制については、帳簿価額1,000万円未満の資産については譲渡損益の繰延べの対象から除外されることから(法法61の13①、法令122の14①三)、帳簿価額の存在しない営業権については譲渡損益の繰延べにならず、実務上、100%グループ内の事業譲渡において営業権の譲渡益課税が生じるという問題があり、制度の簡素化が弊害をもたらしているという実態も存在する。今後の制度改正が望まれるところである。 第21回からこの第29回までにおいては、国税不服審判所が公表している裁決例について取り上げた。次回以降においては、TAINS(タインズ)で紹介されている非公開裁決事例をいくつか取り上げる予定である。 (了)