消費税の軽減税率を検証する 【第5回】 「軽減税率による減収と さらなる標準税率の引上げ」 税理士 金井 恵美子 平成26年6月11日の税制調査会会議においては、ほとんどの委員、特別委員が、軽減税率の導入に反対する発言をし(※1)、7月2日には、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会、日本百貨店協会、日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の9団体は、連名で「消費税の複数税率導入に反対する意見」を公表し、「複数税率制度は導入せず、単一税率を維持すべきである」と主張した。 (※1) 平成26年6月11日第9回税制調査会議事録。ただし、現税制調査会には、消費税の税率構造についての答申はない。 また、平成26年12月30日の27年度与党大綱の公表を受け、同日、日本商工会議所の三村会頭は「導入すべきでない。」(※2)、日本経済団体連合会の榊原会長は「慎重に検討することが必要」(※3)とコメントした。 (※2) 「平成27年度与党税制改正大綱について(三村会頭コメント)」(日本商工会議所) (※3) 「平成27年度与党税制改正大綱に関する榊原会長コメント」(日本経済団体連合会) これらの理由は、軽減税率の導入は、消費税の公平、中立、簡素という良い特徴を後退させるからである。 軽減税率の問題点は、次のように指摘することができる。 今回から3回にわたり、これらの問題点について、考えてみよう。 【1】 軽減税率による減収はさらなる標準税率の引上げを必要とする 消費税率の引上げと軽減税率の導入とは、政策論として矛盾する。 軽減税率は、税率の引上げにより増加するはずの税収を侵食し、標準税率をより高く引き上げる必要を生じさせるからである。 与党税制協議会が平成26年6月5日に公表した「消費税の軽減税率に関する検討について」(以下「検討資料」という)には、「検討資料」は、飲食料品分野に軽減税率を適用することを想定して、次の8種類の線引きのパターンを提示し、それぞれの減収額の消費税率換算を示している。 対象品目の8パターンの減収額と財源の規模を一覧表にすると、次のようになる。 【対象品目8パターンの減収額と財源の規模】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※ 「減収額は、24年家計調査における総世帯の平均消費支出額を基に一定の前提をおいて推計したもの。あくまでも概数であり、線引きの定義を反映したものでもない。」とされている。 与党税制協議会の下に置かれた消費税軽減税率制度検討委員会では、このうち、②の酒を除く全ての飲食料品、③の生鮮食品、⑧の精米の3パターンを検討している。 ②の酒を除く全ての飲食料品に5%の軽減率を適用し、標準税率を10%とした場合の税収は、単一税率で8.4%とした場合に等しい(10%-1.6%=8.4%)。 これでは、何のために税率を引き上げるのかということになる。 また、標準税率を10%、軽減税率を8%とした場合に得られる税収の規模は、単一税率に換算して9.3%である。 さらにこの計算は、平成24年家計調査における総世帯の平均消費支出額を基に推計した概数によるのであり、飲食料品よりもそれ以外の価格弾力性が大きいこと、税率の適用誤り(第7回参照)や追加的な行政コスト(第6回参照)を考慮すれば、実質的な税収の規模は単一税率8%とした場合を下回る可能性もある。 消費税の税率引上げは、「社会保障・税一体改革」における税制面での柱であり、軽減税率によって税収が減少すれば、社会保障制度の持続可能性を損なうことになる。 「検討資料」は、「軽減税率の対象範囲は広ければ広いほど良いということになりがちである。」と指摘しており、その対象範囲が拡大してゆく危険を示唆している。 複数税率制度への移行によって、財政は、軽減税率の適用範囲が拡大してゆくことによる減収の危険を抱えることになる。 * * * 上記のうち【2】から【8】については、次回以降でくわしく取り上げる。 (了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第8回】 「地方拠点強化税制の創設(その2)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 (3) 雇用促進税制の拡充(措法68の15の3、措令39の45の2) 今回の改正により、①現行の雇用促進税制に加えて、次の②及び③を上乗せすることとなった。 ① 現行の雇用促進税制 現行の連結納税制度に係る雇用促進税制は、連結法人のすべて又は連結グループ全体で[要件1]~[要件5]を満たした場合に、連結グループ全体の増加雇用者数に40万円を乗じた金額を連結税額控除額とし、各連結法人の増加雇用者数の割合によって個別帰属額を計算することとなる。 具体的には、連結法人が、適用年度(注1)において、次に掲げる要件のすべてを満たす場合には、適用年度の連結法人税額から、40万円に連結親法人及び各連結子法人の基準雇用者数(注2)の合計(注3)を乗じて計算した金額(税額控除限度額)を控除する(措法68の15の3①)。 この場合において、税額控除限度額が、連結法人税額の10%(連結親法人が中小連結親法人である場合には、20%)に相当する金額を超えるときは、税額控除額はその10%相当額を限度とする(措法68の15の3①)。 (※1) 前連結事業年度とは、適用年度に係る連結事業年度開始日前1年以内に開始した各連結事業年度又は各事業年度をいう(以下、(※5)に同じ)。 (※2) 基準雇用者割合とは、連結親法人及び各連結子法人の基準雇用者数の合計の適用年度に係る連結事業年度開始日の前日における連結親法人及び各連結子法人の雇用者数(適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者を除く)の合計に対する割合をいう(措法68の15の3⑤六)。 (※3) 高年齢雇用者とは、連結親法人又は連結子法人の使用人のうち高年齢継続被保険者(雇用保険法第37条の2第1項に規定する高年齢継続被保険者)に該当するものをいう(措法68の15の3⑤三)。 (※4) 給与等支給額とは、連結親法人又は連結子法人の給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者(他の連結法人を含む)から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)のうち適用年度の連結所得金額の計算上損金の額に算入される金額(適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者に係るものを除く)をいう(措法68の15の3⑤八)。 (※5) 比較給与等支給額とは、連結親法人又は各連結子法人ごとに、次の算式により計算した額をいう(措法68の15の3⑤七)。 (*1) 給与等の支給額とは、給与等の支給額のうち、連結所得の金額の計算上損金の額に算入される金額をいう。また、前連結事業年度と適用年度の月数が異なる場合は所要の調整を行う。 (*2) 前連結事業年度の給与等の支給額には、適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者に対する支給額は含まれない。 (*3) 前連結事業年度とは、適用年度に係る連結親法人事業年度開始日の1年前の日から適用年度開始日の前日までの期間内に開始した各連結事業年度又は各事業年度をいう。 (*4) 適用年度に係る連結親法人事業年度開始日の前日における雇用者数が0である場合には、次の算式により計算した額が比較給与等支給額となる。 また、この制度の適用を受けるためには、連結親法人の事務所の所在地を管轄する都道府県労働局又は公共職業安定所に連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で、[要件2]~[要件4]までの要件についての確認を受け、その際交付される連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写しを連結確定申告書に添付する必要がある(措令39の45の3①、措規22の29①)。 この場合、この雇用促進計画の達成状況の確認に関する手続は、厚生労働省の業務取扱要領にて示されており、連結親法人の事務所の所在地を管轄する公共職業安定所に、適用年度開始2ヶ月以内に雇用者の目標増加数を示した同計画の書類を提出し、適用年度終了後2ヶ月以内に適用年度の雇用者増加数などの要件を充足した内容を追記した同計画の書類を再度提出する必要がある。 また、この制度は、連結確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、控除の対象となる基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用することができる(措法68の15の3⑧)。この場合、控除される金額は、連結確定申告書等に添付された書類に記載された基準雇用者数を基礎として計算した金額に限るものとする(措法68の15の3⑧)。 ② 地方拠点強化実施計画の雇用促進税制 連結法人が、適用年度(注1)において、下記[第1号]に掲げる要件を満たす場合、適用年度の連結法人税額から20万円(その連結法人が下記[第2号]に掲げる要件を満たす場合には50万円)に連結親法人及び各連結子法人(注2)の適用年度の地方事業所基準雇用者数(注3)の合計(注4)を乗じて計算した金額(地方事業所税額控除限度額)を控除する。 この場合において、地方事業所税額控除限度額が、連結法人税額の30%に相当する金額(注5)を超えるときは、税額控除額は、その30%相当額を限度とする(措法68の15の3②)。 ③ 移転型計画の雇用促進税制 「②地方拠点強化実施計画の雇用促進税制」の適用を受ける又は受けた連結法人(注1)のその適用を受ける連結事業年度(注1)以後の各適用年度(注2)において、連結親法人及び各連結子法人が雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業を行っている場合には、適用年度の連結法人税額から、30万円に連結親法人及び各連結子法人(注3)の適用年度の地方事業所特別基準雇用者数(注4)の合計を乗じて計算した金額(地方事業所特別税額控除限度額)を控除する(措法68の15の3③)。 この場合において、地方事業所特別税額控除限度額が、適用年度の連結法人税額の30%に相当する金額(注5)を超えるときは、税額控除額は、その30%相当額を限度とする(措法68の15の3③)。 [雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] そして、上記①②③で計算された連結税額控除額は、次のように、各連結法人に配分計算される(措法68の15の3⑩、措令39の45の3⑳)。 [地方法人税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 法人税における雇用促進税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において、連結法人税額から控除される(地方法6三)。 この場合、各連結法人の雇用促進税制の税額控除額の個別帰属額に4.4%を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(措法68の15の3⑩、地方法15①)。 [住民税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 中小連結親法人又はその各連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における①現行の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額がある場合は、①~③の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除される(連結法人税個別帰属額に加算しない。地方税法附則8⑥、地法23①四の三、292①四の三)。 中小連結親法人に該当しない連結親法人又はその各連結子法人については、個別帰属法人税額から控除されない(連結法人税個別帰属額に加算する)。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第32回】 「非公開裁決事例③」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、法人成りを行った場合において、個人事業の債権と債務の差額を営業権として処理した事件である。 法人成りについては、事業譲渡の手法を採用することも考えられ、いわゆる組織再編成の一形態として取り扱うことも可能である。 17 平成25年7月19日裁決(TAINSコード:J92-3-13) (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、設立の際に、請求人の株主であり代表取締役でもあるHから事業を譲り受けたとして、個人事業の債権と債務の一部について貸借対照表に計上し、その債権と債務の差額(債務超過分)を営業権として処理し、当該営業権に係る減価償却費及び当該債務のうちの借入金の利息等を損金の額に算入し、当該営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に算入したところ、原処分庁が、当該営業権は財産的価値がなく、借入金利息はHが支払うべきものであるから、当該減価償却費及び当該借入金利息について損金の額に算入できないとして更正処分等を行ったため、請求人が、これらの処分の違法を理由として同処分の全部の取消しを求めた事件である。 本事件の争点は、以下の通りである。 このうち、【争点4】については重要であるように思えるが、認定事実を見てみると、当事者間の債務の引継ぎが否定されていることから、他の事件への射程がほとんど及ばないため、本稿においては、【争点3】についてのみ解説を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 本件事業年度において、請求人がHの債務を明確に引き受けたと認められる事実は存在しないことから、引受債権と引受債務の差額を根拠とする本件営業権は、税法上財産的価値を有しているとは認められず、事実関係においても根拠のないものと判断され、本件営業権に係る減価償却費の損金算入は認められない。 請求人が、Hにおいて借入金の支払が不能であることを認識しながら、Hの借入金を引き受けたのであれば、法人税法第37条(寄附金の損金不算入)に規定する寄附金又は同法第34条(役員給与の損金不算入)に規定する役員給与に該当するものであり、法人税法上の損失に該当するものではない。 (3) 請求人の主張 引受債権と引受債務に差額があれば、会社法計算規則に従い資産又は負債に営業権を立て、それでも貸借に差額があれば、その期の損益に一括計上することは会社法の定める公正妥当な会計処理であり、法人税法に否認する規定がない以上はそのまま法人税法上の処理になる。 本件営業権に係る減価償却費は実質的に債務引受けによる借入金のうち引受債権と相殺された残額が損失の額であり、本件法人税申告書上に本件営業権に係る繰延資産として償却した額はその一部であり、繰延資産計上をして減価償却をすることは法人税法の理論的にも特に奇異なことではない。 (4) 国税不服審判所の判断 請求人に引き継ぐ段階において、将来の超過収益力があり明確に財産的価値があると認定できるような具体的な無形資産は見受けられず、逆に引き継ぐ直前のHの事業経営の内容は極めて悪く、請求人の設立は、Hの行っていた同一内容の営業の継続を図り、H個人の負債整理を円滑に行うことを目的として行われたものと認められる。また、事業の引継ぎに当たり、請求人について特別に考慮して評価すべき事情もないと認められることから、事業等を引き継いだ請求人が財産的価値のある営業権を取得したと認定することはできない。したがって、請求人に償却すべき営業権の額はなく、減価償却費を損金の額に算入することはできない。 (5) 評釈 請求人の主張はかなり奇異なものであり、原処分庁の主張が正しいことは言うまでもない。そのため、営業権償却費の損金算入や、営業権についての仕入税額控除を認めなかった国税不服審判所の判断は相当であり、異論を挟む余地はないと考えられる。 しかしながら、本事件を概観すると、資産調整勘定及び営業権の法体系が整理することができるため、ここでは、裁決書を参考にしながら、制度の解説を行いたい。 まず、平成18年度税制改正により、税務上ののれんの取扱いが明確になり、法人税法62条の8において、資産調整勘定の規定が定められた。しかしながら、法人税法施行令123条の10第1項において、「当該非適格分割等に係る分割法人、現物出資法人又は移転法人の当該非適格分割等の直前において営む事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割等により当該非適格分割等に係る分割承継法人、被現物出資法人又は譲受け法人に移転をするもの」と定められたが、この条文を素直に読めば、法人からの事業譲受のみが資産調整勘定が計上できる場合であり、個人からの事業譲受については資産調整勘定を計上することができないと解することになる。 この点については、やや奇異に感じることから、実務上は両説存在するが、もし、資産調整勘定として認識することができない場合であっても、営業権として認識することが可能であり、いずれにしても、差額概念によって処理されることから、特段の弊害はないと考えられる。 しかしながら、資産調整勘定として処理するにしても、営業権として処理するにしても、対価性のない支払いであれば、寄附金又は過大役員給与として処理されることになり、損金の額に算入することができないという問題が生じる。 本事件については、その点を争点とすべきものであり、原処分庁の主張としても、財産的価値を有しているものに限定されるべきであるとしており、国税不服審判所の判断においても、無形の財産的価値(超過収益力)を有する事実関係が必要であるとしている。しかしながら、納税者はこの点についての立証をほとんど行っておらず、納税者の主張を認める余地は見当たらない。 さらに、納税者からは「債務引受損失」についての主張もなされているが、本事件における事業譲受が法人税基本通達9-4-2に該当する余地が全く存在しないということは言うまでもない。 なお、傍論ではあるが、寄附金又は役員給与に該当する可能性についての原処分庁の主張に対しては、「未払の段階で寄附金として処理することはできない」「役員給与として認定できる具体的事実関係を示す証拠書類も見受けられない」として、採用することができないとしている。 すなわち、本事件においては、重畳的債務引受けがなされているという事実関係すら金融機関との関係から明確ではないとしており、さらに、請求人及びHとの間において、いずれが負担するのかという明確な合意がなかったことや、債務の引受けがなされていたとしても、債務の履行がなされていないということから、「未払の段階」であるという認定がなされている。この点については、通常の寄附金の取扱いであれば分からなくはないが、事業譲受における資産調整勘定の規定を見る限り、事業譲受(すなわち、債務引受け)の段階で寄附金と認定しないと整合性が取れない内容となっていることから、やや妥当ではない。 しかしながら、事業譲渡における重畳的債務引受けは頻繁になされているものであり、どちらが最終的に債務を負担するのかということは明確にしておかないと、事業譲受における債務の引受けがなされていないとして、資産調整勘定を減額させられてしまうなど、税務調査において、やや混乱を招く可能性があるということは留意しておく必要があろう。 本事件においては、やや杜撰に過ぎる処理が行われていたため、国税不服審判所の裁決書も分かりにくいものとなっているが、主たる論点としては、超過収益力が認められない資産調整勘定及び営業権は認識することができないという点であり、実務においても留意しておく必要があると考えられる。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第32回】 「プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社がスポンサーになり、東京・後楽園ホールで7月10日にプロレスの試合、7月20日にプロボクシングの試合を開催しました。8月6日に当社からプロレスラーとプロボクサーへ報酬(ファイトマネー)を支払う予定です。具体的な金額は、次の通りです。なお、全員、日本人です。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 プロレスラーの報酬は、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。1回に支払う額が100万円超の場合、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収しなければならない(所法204条1項4号、205条1項)。 プロボクサーの報酬は、5万円を差し引いた上、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。5万円を差し引く点と、1回に支払う額が100万円超でも税率は10.21%のままである点で、プロレスラーと異なる(所法204条1項4号、205条2項、所令322条)。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 ① プロレスラーA ② プロレスラーB 1回に支払う額が100万円超のため、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収する。 ③ プロボクサーC 報酬から5万円を差し引く点で①と異なる。 ④ プロボクサーD 1回に支払う額が100万円超であるが、税率は10.21%のままである点で②と異なる。 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税275,670円(10,210円+142,940円+5,105円+117,415円=275,670円)を9月10日までに納付しなければならない。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【66】 〔第8章〕判決を読む (その2) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 判決をみるポイント ① 当事者の主張をしっかり読む 判決の全文を入手しても、その量が多い場合には、判決部分である「裁判所の判断」だけを見て、当事者の主張は軽視しがちである。 しかし、結論である判決は当然当事者の主張を背景にしたものであるから、これを見落としてはいけない。 というのも、民事訴訟においては弁論主義が採られており、裁判所はあくまでも当事者の主張したことの中で判決を下さなければならないからである。 租税訴訟は、地裁に関して言えば、東京地裁や大阪地裁(その他の幾つかの大都市の地裁にもある)といった行政事件を専門に扱う部署がある裁判所を除き、刑事・民事に大別した中では民事に属するため(【第49回】参照)、普段民事訴訟を審理している裁判官が裁判に当たることになる。 租税訴訟の手続法としては国税通則法や行政事件訴訟法によるが、この行政事件訴訟法第7条において、特に行政事件訴訟法に規定がない場合には民事訴訟法による旨が規定されており、民事訴訟と同様、弁論主義をベースにした審理がなされているからである(これに対し、刑事事件の場合には当事者の主張如何により結論が左右されてはいけないため、職権探知主義が採られている)。 もっとも、租税訴訟については、私見としては、本来、弁論主義ではなく職権探知主義によるべきものと思っている。 以下にその点を少し詳しく記していこう。 当事者の提出した主張と資料のみに基づいて判断を行うのが弁論主義(不干渉審理主義)であり、これは、私的自治を尊重する民事訴訟の基本原則とされている。 私人間の訴訟においては、自己に有利な主張・資料を提出するインセンティブが双方に存在するから、弁論主義を採っても十分な資料が法廷に提出されることを期待でき、もし十分な証拠が提出されず真偽不明の状態になった場合においても、立証責任の分配により、判決を行うことが可能であるとされている。したがって取消訴訟(行政行為の取消しを求める訴訟。租税訴訟として最も多い更正処分の取消しを求めるものは、これにあたる。)についても、基本的には、弁論主義が妥当するとされている 。 しかし、取消訴訟においては行政処分が取り消されるべきかが争点になり、公益と関わる面が大きいため、訴訟における勝敗を当事者の主張・証拠提出の努力にのみ委ねてしまうことは適切とは思われない。 このことから行政事件訴訟法第23条の2には「釈明処分の特則」が、そして第24条には「職権証拠調べ」が設けられている。 行政事件訴訟法第23条の2は平成16年改正で設けられたものであり、改正前は裁判所の釈明権については民事訴訟法第149条に、釈明処分は第151条に依っていたが、取消訴訟における訴訟関係を明瞭にし、審理の充実・迅速化を実現させるために、訴訟の早期の段階で処分又は裁決の理由を明らかにすることが必要であるという認識に基づき、設けられたものとされている。 なお第23条の2については、その他の抗告訴訟としては無効等確認の訴えについて準用されており(同法第38条第3項)、さらに当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出についても準用されている(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 また行政事件訴訟法第24条は、行政事件訴訟法の「第二章 抗告訴訟」中「第一節 取消訴訟」にあるものであるが、その他の抗告訴訟にも準用されている(同法第38条第1項)。また当事者訴訟も同様である(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 なお、この職権証拠調べの規定は、昭和37年施行の行政事件訴訟法制定前に施行されていた行政裁判法第38条第1項や行政事件訴訟特例法第9条においても明文で規定されていたものである。 かつて最高裁一小昭和28年12月24日判決 は「証拠につき充分の心証を得られない場合、職権で、証拠を調べることのできる旨を規定したものであつて、原審が証拠につき十分の心証を得られる以上、職権によって更に証拠を調べる必要はないのである」と判示している。このことからこれは「職権証拠調べは裁判所の権限であるが義務ではない」とされている。 しかし、必要があると認めながら調べないという選択肢が許されるはずはない(【第25回】参照)。もっとも必要があると認めるか否かについては裁量が許されるであろう。上記判決においても、証拠につき充分の心証が得られたため必要と認めなかったからであり、必要と認めながら裁量がある旨判示したわけではない 。 ところで、税法においては、重要な原則として「合法性の原則」がある。 この合法性の原則については とされている(金子宏『租税法(第19版)』2014年、弘文堂、79-80頁)。 すなわち、租税負担の公平が要請されているのであるが、当事者の主張如何により訴訟の勝敗が決せられ、租税負担の公平性が害されることは、この合法性の原則上許されないはずである。そうであるならば、租税訴訟においては、行政訴訟一般よりも職権探知主義によるべきことが強く要請されるものと思われる。 そもそも、税法が侵害法規である以上、民法よりも刑法に近い性質を持つものであるから、刑事訴訟と同様に、職権探知主義によるべきであろう。 しかしながら、現実には、この行政事件訴訟法第24条の職権証拠調べはあまり機能していないとも言われており、通常は弁論主義に基づいて判断が為されているようである。 したがって、裁判所の判断が、当事者(原告、被告)のどのような主張に基づくものなのかという点は、判決を考えるうえで重要な意味を持つのである。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第34回】 株式会社東芝 「第三者委員会調査報告書(平成27年7月21日付)」 (後編) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 株式会社東芝(以下「東芝」という)は、平成27年7月20日に第三者委員会調査報告書を受領した旨、及びその要約版(以下「要約版」という)を公表し、翌21日には約300ページの大部となった調査報告書全文(以下「全文」という)を公表するとともに、取締役代表執行役社長である田中久雄氏以下8名の取締役と相談役で元社長の西田厚聰氏の辞任が伝えられた。 本稿では、公表された調査報告書に基づき、先週、前編としてお届けした会計不正の手口や原因分析に引き続き、後編として、再発防止策、調査報告書の特徴、調査報告書によっても明らかにならなかった事実について、検討することとしたい。 【第三者委員会調査報告書受領に至るまでの経緯】(再掲) 【第三者委員会の概要】(再掲) 【株式会社東芝の概要】(再掲) 株式会社東芝は、1875(明治8)年創業。日本を代表する総合電機メーカー。売上高6兆5,000億円余。営業利益2,900億円余、総資産額6兆2,400億円、純資産額1兆6,500億円を超える企業規模を誇り、連結子会社は598社に上る。従業員数約20万名(平成27年3月期)。本店所在地は東京都港区。東証、名証1部上場。 【再発防止策】 1 第三者委員会による提言 第三者委員会は、再発防止策として、「直接的な原因については原因それ自体の除去を目的」として、また「間接的な原因についてはハード面及びソフト面の双方から是正を行うことを目的」とするという考え方のもとに、以下の提言を行っている。 2 東芝による対応 7月21日のリリースで、東芝は、「経営責任の明確化」と「経営刷新委員会の設置」を公表した。「経営責任の明確化」について、本稿の冒頭で取り上げたように、歴代3人の社長が辞任、その他の取締役及び執行役についても、「調査報告書を精査、検討し、別途判断のうえで」経営責任を公表するとしている。 一方、「今後の経営体制、ガバナンス体制、再発防止策等について前社外取締役が社外専門家の助言も受けつつ集中的に検討」することを目的に経営刷新委員会を設置することを決定している。経営刷新委員会はまた、内部統制システム及びコンプライアンス体制の抜本的な見直しを含む再発防止策の具体的な内容を検討するとされている、 また、監査委員会委員長には、辞任した久保誠取締役(元CFO)に代わり、社外取締役の伊丹敬之氏を選定し、取締役会の過半数を社外取締役とすること等を含めて、慎重かつ迅速に検討するとしている。 3 再発防止策の検討 第三者委員会によって提言された再発防止策は、認定した発生原因に対応するものとはいえ、残念ながらあまり具体的なものではない。 唯一実効性がありそうな施策として、「経営監査部を発展的に解消」したうえで、「各事業部門・カンパニー等から独立した立場」で、「社外取締役などを統括責任者とする」「強力な内部監査部門」を新設することが挙げられている。 この組織が実現すれば、「経営トップによる不正が行われた場合においても監査権限を適切に行使できるような体制」と権限、予算措置までが講じられるということである。 実現できるかどうかは、東芝経営陣にかかっていると言えようが、本稿執筆時点においては、上述のように経営刷新委員会の設置、委員の人選などは進んでいるが、「強大な内部監査部門」の新設については、まだ進行状況は不明である。 【調査報告書の特徴】 1 第三者委員会委員の人選について 第三者委員会の委員選定を公表した際のリリースには、以下のようなコメントがあり、就任時から、「東芝との利害関係」を指摘する声も多く見られた。 弁護士の松井秀樹氏に関しては、次のような記述がある。 報道では、顧問契約の解約は5月13日付、第三者委員会の委員就任が5月15日付であるから、「委員就任に際して」解約されたのではなく、「委員就任のために」解約したというのが実情であり、いくら「独立性・中立性を阻害する要因とはならない」と強弁したところで、委員会設置前から会計不正の疑いが濃いと思われていた電力事業に関連する連結子会社の顧問弁護士に、あえて、第三者委員会の委員を委嘱したことに何らかの理由なり、思惑なりを感じざるを得まい。 また、公認会計士の山田和保氏に関しても、次のように記されている。 こちらも、あえて取引関係にあった監査法人の出身者を第三者委員会に加えることについて、会社側の意図がなかったと言えるのだろうか。 こうした断り書きなしに第三者委員への就任を依頼できる弁護士・公認会計士はいくらでも存在すると思われるのであるが、委員就任を要請した積極的な理由があるのであればそちらを強調すればいいわけで、こうした弁解じみたリリースを出さざるを得ない人選がなぜ行われたのかは不明のままである。 2 調査対象の絞り込み(全文p.15以下、要約版p.11以下) 通常の第三者委員会であれば、すでに顕現している会計不正と同種の、あるいは異なる手段による不正が存在しないかどうか、網羅的な調査が要請される。 また、そうした網羅性が、社内調査ではない独立した第三者による調査が必要であるという論拠の1つにも挙げられるのであるが、東芝の第三者委員会は、委嘱された調査しか行わないことを報告書冒頭に明記し、報告書の中でも繰り返し「委嘱されていない」として、「調査を行ったのかどうか」明言を避けている箇所が散見された。 3 異例の「調査の前提条件」(全文p.18以下、要約版p.13以下) 「2 調査の前提」には10項目の記載があるが、きわめて異例といっても過言ではない項目が少なくとも2つ存在している。それぞれ引用する。 この記述は、明らかに第三者委員会の設置目的に適合しないものであろう。実際、東芝も、「第三者委員会設置のお知らせ(5月8日付)」の中で、第三者委員会による調査への移行の理由として、「調査結果に対するステークホルダーの皆様からの信頼性をさらに高めるため」と明記している。 「東芝のためだけに」という文言は、果たして何を避止するために挿入されたものであるのか、報道では、アメリカにおける訴訟で証拠開示請求を避けるためなどという憶測も出ているようだが、不明である。 さらに、前提条件は続く。 第三者委員会は「派生的な修正項目」と評しているが、報告書公表後、さまざまなメディアが報じているように、東芝の会計不正の真の動機は、固定資産(特に「のれん」)の減損による損失計上を避けるためであったり、繰延税金資産の計上が認められない「連結資本欠損」の状態になることを避けるためであったりしたかもしれないのであるが、こうした分析を「派生的」として切り捨ててしまったことが、会計不正の真の動機を明らかにできないまま、調査を終えた一因ではないかと思料する。 第三者委員会の調査が何を目的として行われたのかという点について、前項ともども、疑問に感じるところである。 【調査報告書によっても明らかになったと言えない事実】 1 会計不正を実行するに至った本当の理由(動機) 歴代社長が、部下である社内カンパニーの社長らに対して「チャレンジ」と称する高い目標を課し、それに応える形で社内カンパニーでは不適切な会計処理が繰り返され、莫大な架空利益が計上されてきた。これをもって、第三者委員会は「組織ぐるみ」の会計不正を認定したというのが、長文の調査報告書の要約になるわけだが、それでは、歴代社長はなぜ「チャレンジ」を命じ続けてきたのか。残念ながら、その回答は調査報告書から読み取れない。 一方、調査報告書に記載がない真の動機に関するメディアの報道をまとめると、概ね、次の4点に絞られそうである。 もちろん、これらの要因が各事業年度において複雑に錯綜して、会計不正の真の動機を醸成したものであろうが、第三者委員会による調査報告書にこうした記述がないことは、かえって奇異に映ってしまうのではないだろうか。 2 会計不正はいつから始まっていたのか この疑問点についても、第三者委員会は、調査対象期間を「2009年度から2014年度第3四半期」と設定し、2009年度において会計不正が行われていたことは認定しているものの、その前年以前については言及がなく、最初に会計不正が行われた時点における「動機」とその後の「動機の変遷」が判明しないことも、調査報告書を読み終えた後の納得感が得られない原因になっていると言えよう。 3 会計監査人はどうして不正を見抜けなかったのか(全文p.286、要約版p.69) 会計監査人である新日本監査法人の監査が機能しなかったことについては、今回の会計不正の「間接的な原因」」の1つとして位置づけられている。 そして、機能しなかった理由として、第三者委員会は、以下のように会計監査人を擁護するような記述をしている。 しかし、工事進行基準を悪用した会計不正が繰り返されてきたことは、「健全な懐疑心」を有する会計監査人であれば、当然に知っておくべき事実であったはずだし、PC事業の月次損益状況を見れば、売上高を超える利益が計上されていることなど、明らかに異常点が表面化していたわけであり、第三者委員会として、会計監査人がそのことを問題視しなかった理由を検証することなしに、「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めてしまっていいのか、疑問が残るところである。 しかも、同じ項目で、第三者委員会はこうも語っている。 ここでも、第三者委員会は、「委嘱事項ではない」という理由で、「監査手続や監査判断」における問題点を調査しないとしているわけだが、であるとするならば、なぜ「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めるという判断が可能だったのであろうか。明らかに、理路が一貫していないように感じられる。 4 新日本監査法人の対応 調査報告書の全文が公表された翌日である7月22日、新日本有限責任監査法人は理事長名で、「株式会社東芝の第三者委員会調査報告書公表を受けて」というタイトルのリリースを公表した。以下に全文を引用する。 新日本監査法人が、会計監査人として監査先に騙されてきたという第三者委員会の事実認定を前提にすれば、会計監査人を辞任しないという選択は理解に苦しむ。 会計監査人に対して虚偽の資料を提示し、説明を行うことは明らかに契約違反事由であるし、監査先の会計不正を発見できなかったことで新日本監査法人の評価も下がっていることからすれば、いったん、会計監査人を辞任したうえで、「報告書の内容を詳細に分析、検討」して、「必要な対策を講じる」べきではないだろうか。 また、東芝の修正後の有価証券報告書等の信頼性を高め、株主をはじめとするステークホルダーの会計監査制度に対する信用度を増すためにも、別の監査法人が会計監査を行うべきではなかったか。 本来であれば、証券取引所が介入して、「過年度の有価証券に修正すべき事由を生じた場合には、別の監査法人による会計監査を受けること」を上場維持の要件にすることを制度化すべきなのかもしれない。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第8回】 「金融資産及び金融負債の評価(時価)」 公認会計士 阿部 光成 前回までは金融資産・金融負債の消滅の認識を解説してきたが、今回は、金融資産及び金融負債の評価について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 当初認識時の測定 金融資産又は金融負債の当初認識は、時価により測定する(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)29項)。 付随費用については、次のように規定されている(金融商品実務指針56項)。 取得時における付随費用を、取得した金融資産の取得価額に含めることとしたのは、金融資産以外の資産の場合、原則としてその付随費用を資産の取得価額に計上しており、金融資産についてもその処理方法と同様にすることが適当であると考えたためである(金融商品実務指針261項)。 なお、付随費用に関しては、「金融商品会計に関するQ&A」のQ15-2において、「有価証券の取得の付随費用と取得関連費用」としても述べられている。 Ⅱ 金融商品の「時価」 金融商品会計において、「時価」とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(以下「市場価格」という)に基づく価額をいう(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)6項)。 市場価格がない場合には、合理的に算定された価額を公正な評価額とする。 次のことに注意が必要である。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第90回】 連結会計⑦ 「持分法の適用」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈仕訳〉(単位:百万円) (※1) 持分法による投資利益の金額の計算 持分法による投資利益375=B社当期純利益1,500×持分比率25% 〈会計処理の解説〉 A社は、当社の持分比率が60%であり、当社にとって子会社に該当します。そのため、当社はA社を連結の範囲に含めています(連結財務諸表に関する会計基準13)。 B社は、当社の持分比率が25%であることから、子会社以外の他の企業の議決権の100 分の20 以上を自己の計算において所有している場合に該当し、当社にとって関連会社に該当します。ここで関連会社とは、企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含みます)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業をいいます(基準5)。関連会社には持分法を適用する(基準6)ことから、当社はB社に持分法を適用します。 C社は、当社の持分比率が100%でありますが、C社の資産や売上等が当社と比して僅少であることを考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しいと判断し、連結の範囲に含めていません。そのため、当社にとってC社は非連結子会社に該当します。ここで、非連結子会社に対する投資については、原則として持分法を適用します。しかし、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には持分法の適用会社としないことができる(基準6但書き)ため、当社はC社を持分法適用会社としていません。 以上のように、非連結子会社C及び関連会社Bに対する投資については、原則として持分法を適用しますが、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができます。 * * * 次回は、持分法の会計処理について解説します。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第10回】 「加給年金の加算」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 65歳から支給される老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分の額に経過的加算額を加算した額だが、その受給権者に65歳未満の配偶者等がいるときは、年金の家族手当である加給年金が加算される。 1 加給年金の受給要件等 (1) 加給年金が受給できる人 加給年金が受給できるのは、厚生年金保険の加入期間(被保険者期間)が20年以上ある老齢厚生年金の受給権者で、生計維持関係(※)のある65歳未満の配偶者又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者又は、20歳未満の1級、2級の障害者)がある人である。 (※) 生計維持関係とは、加給年金が受給できる者(例えば夫)とその対象者(妻)が生計を同じくし、かつ、その対象者(妻)の年収が850万円未満の場合をいう。 (2) 支給開始年齢 加給年金は、65歳からの老齢厚生年金のみならず、特別支給の老齢厚生年金にも加算される。特別支給の老齢厚生年金を受給している人の場合は、定額部分が支給される年齢から加算される(【第2回】参照)。 (3) 加算される期間 加算される期間は、上記(2)の支給開始年齢から、配偶者又は子が下記に該当したときまでである。 (※) 加算の対象になっている配偶者は、65歳になると自分自身の老齢基礎年金に振替加算(【第4回】参照)が加算される。 2 加給年金額 加給年金の額は、下記の通りである。 (※) 特別加算額及び配偶者加給年金額 〈事例1〉加給年金の加算 夫の厚生年金保険の加入期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者がいるので、加給年金が支給される。昭和25年8月生まれの夫は60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できるが、定額部分は支給されないため、加給年金は、夫が65歳になった翌月から妻が65歳に達する月まで、390,100円(月額32,508円)が支給される。 ただし、老齢厚生年金を繰り下げた場合は、その間、加給年金は支給されず、繰下げ受給後も加給年金部分は増額されないので、繰下げを検討されるときには、注意を要する。 3 加給年金が支給されない場合 加算の対象となっている配偶者が下記に該当する場合は、その間、加給年金が停止される。 〈事例2〉加給年金の停止 下記の事例では、夫の加給年金は67歳でストッブする。 《おさらいQ&A》 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第5回】 「戸籍の記載」 ~養子の氏と戸籍~ 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 普通養子縁組と特別養子縁組とでは、その成立要件となる各実質的要件(【第1回】参照)が異なること、特別養子縁組においてはできる限り実子と同様の戸籍の記載をすべきとの配慮等から、以下のとおり、養子の氏や戸籍に関する手続・内容等において差異が生じる。 [2] 普通養子縁組に関する氏と戸籍 1 普通養子の氏 【第2回】([2]普通養子縁組の効果)でも述べたとおり、養子は養親の氏を称することとなる。 ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は養親の氏を称しない(民810ただし書)。 現行民法は夫婦の一方のみが養子となることを認めているため(民796)、例えば(ア)婚姻によって夫の氏を称することとなった妻が単独で養親の養子となったとき、養親の氏を称するのではなく、夫の氏(夫婦の氏)を称し続けていくこととなる。 逆に、(イ)この場合の夫が養子となった場合には本条ただし書の適用はなく養親の氏を称することとなり、夫婦同氏の原則(民750)から妻も養親の氏を称することとなる。 なお、(ア)において、その後、妻が夫と離婚した場合には、婚姻前の氏に復することとなるが(民767①)、この場合、実親の氏が婚姻前の氏となるか、養親の氏が婚姻前の氏となるかが問題となる。 この点、離婚によって一旦、観念的に婚姻前の実親の氏に復すものの、養子縁組が継続していることから、養子は養親の氏を称するとの原則に従い、妻は民法810条本文により直ちに養親の氏を称することになる(昭62・10・1民事(二)発5000号通達)。 もっとも、民法767条第2項に基づき、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することは可能である。 2 普通養子の戸籍 養子は縁組により養親の戸籍に入る。なお、養親が戸籍の筆頭者及びその配偶者以外の者であるときは、養親について新戸籍が編成され(戸法17)、養子はこの戸籍に入る。 しかし、上記(ア)のように、戸籍の筆頭者(夫)の配偶者(妻、すなわち婚姻により氏を改めている者)が養子となる場合には、養子(妻)の戸籍に変動はなく、身分事項欄に養子縁組をしたことが記載されるだけである。この場合、養子の氏(斉藤)と養親の氏(鈴木)は異なることとなる。 また、上記(イ)のように、戸籍の筆頭者(夫、すなわち婚姻により氏を改めていない者)が養子となる場合には、養子(夫)はその縁組によって養親の氏の新戸籍を編成し、養親の戸籍には入らない。そして、養子(夫)の配偶者(妻)も筆頭者である夫に伴ってこの戸籍に入籍する(随従入籍)。これにより、夫婦ともに養親の氏である鈴木を称することとなる。 3 「養子の子」の氏と戸籍 養子は養子縁組により養子の氏を称するが、縁組当時存在する養子の子は当然に養親の氏を称するわけではない(昭23・4・20民事甲209号回答)。養子の子は従前称していた氏を称し続けることとなるが、その場合、改氏した養子と、養子の子の氏が異なるケースが生じる。 養子の子が養子と同じ氏を望む場合には、民法791条に従い、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるとことにより届け出ることで、養子の氏を称することができる。 もっとも、養子の子は、養子夫婦が婚姻を継続している限り、家庭裁判所の許可を得ることなく戸籍法98条の入籍届によって養子の氏を称することができる(民791②)。 4 正当な代諾権者の代諾を欠く養子縁組の効力と戸籍の記載 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人がその者に代わって、養子縁組の承諾をしなければならず(民797①)、これを「代諾養子縁組」という。 ところが、生まれたばかりの子を他人夫婦の嫡出子として出生届をするなどした場合、当該他人夫婦による承諾は、正当な代諾による養子縁組とはならない。 もっとも、最高裁昭和27年10月3日判決により、養子が15歳に達した後、有効にこの縁組を追認できる旨判示したことにより、戸籍実務上でも、たとえ親子関係不存在確認の判決が確定した場合であっても、当該親子関係に関する記載のみにとどめ、養子が15歳に達した後、自ら縁組を追認して追完届を提出した場合には、これを受理し、「養子からの縁組の追完があった」旨戸籍に補記する扱いとされている(昭和34年4月8日民事甲624号通達)。これにより縁組は当初から有効であったものと取り扱われる。 [3] 特別養子縁組に関する氏と戸籍 1 特別養子の氏 特別養子縁組は、養子縁組の特別類型であり、縁組であることには変わりない以上、民法上養子縁組に関する規定は明文で排除されているものや特別養子縁組の規定の趣旨から当然にその適用が排除されるものを除き、特別養子縁組にも適用される。そのため、養子は、養親の氏を称することなる(民810)。 もっとも、特別養子縁組は、原則として6歳未満の児童を対象とする以上、養子となる者が婚姻した後に特別養子縁組がなされることはない。そのため、上記(ア)(イ)のような事態が生ずることはなく、養子の子の氏、戸籍等に関する問題も生じない。 また、特別養子縁組導入の発端となったとされる菊田医師事件(実母が出産した経歴が戸籍に残らないよう、乳児の出生証明書を医師が偽造し、子供を欲しがっている夫婦に斡旋していた事件)に見られるように、特別養子縁組の成立趣旨からすれば、正当な代諾権者の代諾を欠くような事態は、本来、想定されていない(もっとも、後述のとおり、戸籍の記載により間接的に特別養子縁組がなされたことは判明してしまう)。 2 特別養子の戸籍 戸籍の処理に関しては、できるだけ実子と同様の記載がなされる。 すなわち、特別養子が養親と戸籍を異にしている場合には、特別養子縁組の届出によって、まず特別養子について養親の氏で従前の本籍地に新戸籍を編成した上、直ちにその新戸籍から特別養子を養親の戸籍に入籍させる(戸法20の3①・18③・30③)。 この場合、できるだけ実子と同様の記載をするという配慮から、「特別養子縁組」、「実父母」、「養子」等の字句は使用せず、特別養子の身分事項欄に「〇年〇月〇日民法817条の2による裁判確定」と間接的に記載されることとなる。 これに対し、特別養子が既に養親の戸籍に在籍している場合には(普通養子を特別養子とするような場合)、特別養子縁組の届出によってその戸籍の末尾に特別養子を記載した上、従前特別養子が記載されていた戸籍の一部を削除する(戸法20の3・14③・戸則40③)。 特別養子縁組の審判が確定した場合、審判が確定した日から10日以内に審判の謄本を添付して戸籍の届出をしなければならず(戸法68の2・63①)、この届出を怠ると過料の制裁が科される(戸法135)。 (了)