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税務判例を読むための税法の学び方【17】 〔第5章〕法令用語(その3)

税務判例を読むための税法の学び方【17】 〔第5章〕法令用語 (その3)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) 4 「するものとする」 立法技術の上で、一定の作為又は不作為の義務を表そうという場合には、通例、「・・・しなければならない(又は「・・・(動詞の未然形)+なければならない」)」又は「・・・してはならない(又は動詞の禁止表現)」という表現を用い、一定の能力、権利、権限、権能などを与え又はこれを否認することを表そうという場合には、通例、「・・・することができる(又は「・・・(動詞の連体形)+ことができる」)」又は「・・・することができない(又は「・・・(動詞の連体形)+ことができない」)」という表現を用いる。 また、一定の行為・事実又は立前を断定的に表そうという場合に、通常の用語の使用法同様に、「・・・する(又は動詞の終止形)」又は「・・・しない(又は動詞の否定形(国語的に言えば未然形+否定語句))」という表現を用いることもある。 類似の内容を示すものとして、「・・・するものとする(又は「・・・(動詞の連体形)+ものとする」)」というような表現もある。 なお上記の括弧書きに示したように「・・・する」が、別の動詞である場合もある。以下では特に括弧書きを付けないが、「・・・する」という中には、他の動詞を含めるものとする。 では、この「・・・するものとする」という表現は、どういう場合に用いられるのであろうか。 この表現は、法令の上で頻繁に出てくる表現ではある。基本的には「しなければならない」という表現と同じように、義務を課する意味の表現となっている。 すなわち行政機関に対して一定の作為又は不作為の義務を課そうという場合に、「しなければならない」とか「してはならない」というきつい表現を避け、「・・・ものとする」というやや緩和的な表現であったとしても、それに従って処理されることが当然期待されるため、この緩和的な表現に置きかえられることが、しばしばみられる。 ただし厳密には、解釈論としては、「・・・しなければならない」よりはやや弱く、合理的な理由があれば、それに従わないことも許されるというような解釈が出てくる余地があり得る。 そこでこのように、合理的な理由があればそれに従わないことも許されると解される場合もあれば、そうでない場合もあり、細かく見ていくと、その用法は、一様ではない。 以下にそれを見ていこう。 ① 原則、方針を示したもの 前記したように、行政機関に対して一定の行為を義務付ける場合である。 「するものとする」という法令用語の意味は、「しなければならない」という義務の意味に近いが、若干の裁量の余地もあり、合理的な理由があればそれに従わないこともあり得ると解されている。 例えば、国税通則法第37条第2項には と規定されている。 また国税通則法第43条第5項においては、 と規定されている。 また、国税徴収法第78条においては と規定されている。 これらは、義務を課されるものが行政機関等であるので、原則を示せば、それによって処理されることが当然期待されるので、きつい表現を避け柔らかい表現に止められている。特に国税徴収法第78条の規定の場合には、「選択により」という表現が入っていて、当該行政機関の判断に委ねている趣旨が表されている。 これらは、仮にその義務違反があっても合理的な理由があれば、通常は違法という問題は生じないと解されている。 このように裁量の余地の有無という解釈上の疑義が生じる可能性があるため、行政機関に明確に義務付ける必要があるときは、「しなければならない」と明記されるのが基本である。 ② 法文上の語感から付されるもの 「ものとする」があってもなくても、その意味が変わらない場合である。 例えば、国税通則法第72条第2項は、 と規定しており、文言としては「ものとする。」が使われているが、その内容は「できないものとする。」であるから、内容的には例外を認める余地があるというような趣旨ではない。 また、所得税法第105条においては、 と規定している。 この「現況によるものとする。」は、「現況によらなければならない。」というのと実質的には同じである。また「確定したところによるものとする。」は「確定したところによらなければならない。」と実質的には同じである。 なお、「する(動詞の終止形)」も、一種の義務を表すのに用いられることがある。 例えば、国税徴収法第111条には、 と規定されている。これは、売却決定を行わなければならないと同趣旨を柔らかく表現しているものである(同旨の規定が、同法第113条にもある)。 また、同法第104条第2項には と規定されている。 これも、第1項の「定めなければならない。」というのと同趣旨であるところ、柔らかい表現にしたものである(同旨の規定が、同法第105条第1項後段の規定にもある)。 また一定の不作為義務を命ずる場合に、「・・・することができない」という表現を用いている例もある。 なお行政機関に対してではなく国民(税法においては納税者)に対しても、立法者としては「・・・する」とか「・・・しなければならない」とかの表現をしたいところ、それでは少し表現がきつ過ぎるという場合に「するものとする」と表現している例もある。 例えば、国税通則法第88条第1項においては、 と規定されている。 最後の「するものとする。」は、「・・・当該行政機関の長に審査請求書を提出しなければならない。」の趣旨であり、例外が認められる余地はない。 (次回に続く)

#No. 33(掲載号)
#長島 弘
2013/08/29

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載33〕 平成25年度税制改正における事業承継税制の改正について

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載33〕 平成25年度税制改正における 事業承継税制の改正について   税理士 長谷川 敏也    Q 平成25年度税制改正において、租税特別措置法といわゆる経営承継円滑化法が改正され、事業承継税制が大幅に緩和されたといわれていますが、具体的にどのように改正されたのでしょうか。 A 制度を使いやすくするための抜本的な見直しを行うこととされ、具体的には以下の15項目が改正された。依然として複雑な制度だが、事業承継に当たり検討すべき制度である。 解 説 1 改正の概要 (1) はじめに 中小企業経営者の平均年齢が約60歳となっており、事業承継の円滑化は喫緊の課題となっている。 しかしながら、「非上場株式等に係る相続税等の納税猶予制度」、いわゆる事業承継税制は、平成21年度の創設以来、当初想定していたほどには利用が進んでいない状況にある。平成21年~24年度の4年間で、相続税における経済産業大臣の認定件数は413件、贈与税における認定件数は237件に過ぎなかった(中小企業庁調べ)。 このため、制度を使いやすくするための抜本的な見直しを行うこととされ、平成25年度税制改正において租税特別措置法が改正され、また、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則」(以下「円滑化省令」)の一部改正が行われた。 具体的には、次の見直しが行われた。 (2) 制度の名称変更 租税特別措置法70条の7、70条の7の2、70条の7の4の条文の見出しがそれぞれ「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除」と、いずれも「及び免除」まで明記した制度名称とされた。 改正前には、制度のメリットである「免除」が端的に表現されておらず、「贈与税・相続税が猶予されるだけで、最終的には利子税とともに納付しなければならない」との誤解が生じていることが改正の背景にある。 (3) 適用要件の緩和 (4) 負担の軽減 (5) 手続の簡素化 (6) 適用要件の厳格化 (7) みなし配当課税に係る特例措置の拡充(措法9の7) 相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用対象者の範囲に、相続税法等において相続又は遺贈により非上場株式を取得したものとみなされる個人を加える。 (8) 適用関係 以上の改正は、平成27年1月1日から施行されるが、経済産業大臣の事前確認手続が事業承継税制の適用の前提となる認定の要件から外れる措置については、平成25年4月1日から前倒しで施行されている。 既適用者(平成26年12月31日までの相続等により取得した非上場株式等について事業承継税制の適用を受けた者)も新法(改正後の事業承継税制)の適用を受けることができるが、その場合には、平成27年1月1日以後最初に到来する「継続届出書」の提出期限又は平成27年3月31日のいずれか遅い日までに、税務署に新法選択に係る届出書を提出しなければならない。 このうち、本稿では、現段階で公表されている法令等により、事前確認制度の廃止、雇用確保要件の緩和、親族間承継要件の廃止について取り上げてみる。   2 事前確認制度の廃止とその効果 (1) 相続税・贈与税の納税猶予制度における事前確認制度の廃止 計画的な承継に係る取組み(後継者の確定、株式の計画的承継等)に関して、相続税に関しては先代経営者の存命中に、贈与税に関しては後継者への贈与を実行する前に、「経済産業大臣の確認」(各地域の経済産業局へ申請)を受けておく必要があった。 平成25年度改正において、手続の簡素化を行い使い勝手の良い制度とするため、また、突然、経営者が亡くなった場合にも制度活用が可能になるよう、計画的な承継に係る取組みに関する経済産業大臣の事前確認が、認定の要件から外れることとなった。それに伴い、平成25年4月1日以後に、経済産業大臣に認定申請する申請者は、事前確認を受けていなくても申請が可能となった(旧円滑化省令6①七ト(4)(6)、八ト(3)(5))。 具体的には、相続税に関しては、認定申請期限が相続開始の日の翌日から8月を経過する日までとなっているので平成24年8月1日以降の相続から適用となり、贈与税に関しては、認定の申請期限が贈与の日の属する年の翌年の1月15日までとなっているので平成25年分の贈与からの適用となる。 なお、平成25年3月31日以前に確認書の交付を受けた申請者あるいは平成25年3月31日以前に確認書の交付申請をして平成25年4月1日以後に確認書の交付を受けた申請者は、その確認書を添付して認定の申請を行うことも可能である。 しかし、納税猶予の適用を受けるための基本的な手続である、「認定」手続や、経営(贈与)承継期間における経産大臣への「報告」「確認」、税務署長への「届出」は従前の通り(次項(2)参照)であり、手続の簡素化の効果は限定的である。 (2) 事業継続報告 事業継続報告とは、事業継続期間中贈与税又は相続税の納税猶予制度の適用を引き続き受けるために、その適用の前提となっている経済産業大臣の認定について取消事由に該当しないことを報告するものである。 経済産業大臣の認定を受けた中小企業者は、贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間(当該認定の有効期限。いわゆる「事業継続期間」)、当該申告期限の翌日から1年を経過するごとの日の翌日から3月を経過する日までに、経済産業大臣に事業継続報告をすることが必要である。 事業継続報告の結果取消事由に該当することが判明した場合は、認定が取り消されることになる。また、報告を怠った場合にも認定が取り消されることになる。取消事由に該当しないことが確認された場合には、経済産業大臣から確認書が交付される。 経営承継受贈者又は経営承継相続人は、贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間、当該申告期限の翌日から1年を経過するごとの日の翌日から5月を経過する日までに、税務署長に当該確認書を添付した一定の報告書を提出することが必要となる。 (3) 贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へ切り替える場合の確認制度(切替確認)の存置 切替確認とは、贈与税の納税猶予制度(措法70の7)の適用を受けている経営承継受贈者に係る経営承継贈与者の相続が開始した場合において、租税特別措置法第70条の7の3の規定により相続により取得したものとみなされた非上場株式等に係る相続税につき贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予制度(措法70の7の4)の適用を受けるための前提となる手続である。 中小企業者が、特別贈与認定中小企業者であった場合(認定が取り消された場合を除く)又は現に特別贈与認定中小企業者である場合であって、経営承継贈与者の相続が開始したときには、要件のいずれにも該当していることにつき経済産業大臣の確認(切替確認)を受けることができる。 このとき「経済産業大臣の確認」を受け、後継者(相続人等)の要件、対象会社の要件を満たす場合には、そのみなされた非上場株式について相続税の納税猶予の適用を受けることができる(贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へ切替え)。 確認を受けるためには、相続開始の日の翌日から8ヶ月を経過する日までに、所定の申請書を各地域の経済産業局へ提出する。なお、相続税の納税猶予の適用を受けるためには、確認を受けた場合に交付される「確認書」とその他の必要書類を添付して、税務署に相続税の申告を行う必要があるので留意が必要である(円滑化省令12⑬、13①)。   3 雇用確保要件の緩和 (1) 改正前の認定取消事由 経営(贈与)承継期間内に次の雇用確保要件を満たさなくなった場合等一定の事由に該当することとなった場合には、それぞれに定める日から2ヶ月経過日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額を納付しなければならなかった。ただし、2ヶ月経過するまでの間に経営承継受贈者が死亡した場合には、相続の開始日から6ヶ月を経過する日が期限となる(円滑化省令9②、9③、措法70の7④、70の7の2③)。 相続税、贈与税の納税猶予取消事由は類似しているので、ここでは経営贈与承継期間(納税猶予に係る贈与税の申告期限の翌日から5年間)以内の場合を例に取ると、贈与税申告書の提出期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日(以下「第1種贈与基準日」)において、常時使用する従業員の数が、贈与の時における常時使用する従業員の数の80%を下回った場合には、第1種贈与基準日から2ヶ月経過日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額を納付することとされていた。 この常時使用する従業員の数が、贈与の時、相続開始の時における常時使用する従業員の数の80%を下回った場合には納税猶予が取消しという取扱いが、この事業承継税制の最大の障害となっていた。リーマンショックのような景気変動など、いかんともしがたい外的要因がある中で、改正前制度では要件未達成のときに納税猶予が全額打ち切られるのでは、ペナルティーが非常に大きいという指摘があった。 平成25年度税制改正では、この雇用確保要件を緩和し、毎年の景気変動に配慮して、「5年間毎年80%以上確保」を、「経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)における常時使用従業員数の平均が、相続開始時又は贈与時における常時使用従業員数の80%を下回ることとなった場合」に緩和された。 (2) 従業員数証明書 経済産業大臣の確認や認定の申請をする際には、常時使用する従業員の数を証する書類を提出する必要がある。施行規則では、「従業員数証明書」と定義しており、その内容は、次のとおりである(円滑化省令1⑥)。 ① 厚生年金保険の標準報酬月額決定通知書 70歳未満の常時使用する従業員の数を証する書類である。 日雇労働者、短期間雇用労働者及び当該事業所の平均的な従業員と比して労働時間が4分の3に満たない短時間労働者など、厚生年金保険の加入対象とならない者は、常時使用する従業員には該当しない。 ② 健康保険の標準報酬月額決定通知書 70歳以上75歳未満の常時使用する従業員の数を証する書類である。 任意継続被保険者は、被保険者であっても加入事業所における雇用の実態がないため、常時使用する従業員には該当しない。 ③ その他の資料 ④ 常時使用する従業員の数 (3) 改正後の認定取消事由 平成25年度税制改正により、この認定取消しとなる事由のうち、雇用確保要件が次の通り緩和された。 改正認定贈与承継会社の第1種贈与基準日における常時使用する従業員の数の合計を、経営贈与承継期間の末日において、経営贈与承継期間内に存する第1種贈与基準日の数で除して計算した数が認定に係る贈与の時における常時使用する従業員の数に100分の80を乗じて計算した数(その数に一未満の端数があるときは、その端数を切り上げた数)を下回る数となったこと、に改められた(措法70の7④二、措令40の8(22))。贈与者が経営贈与承継期間の途中で死亡した場合で、受贈者が相続税の納税猶予の適用を受けない場合は、途中死亡までの期間内に存する第1種贈与基準日の数で除すこととなる。 例えば、1年目から4年目までの雇用割合が90%、5年目の雇用割合は70%というようなケースでは、5年間の平均の雇用割合86%が80%以上であることから、雇用確保要件が満たされることとなる。 また、先代経営者から後継者に事業の承継が行われる際に、先代経営者の下で働いていた従業員と後継者との関係がうまくいかずに50%が退職してしまっても、2年目から5年目までの雇用割合が90%であれば、5年間の平均の雇用割合82%が80%以上であることから、この場合も雇用確保要件が満たされることになる。後継者が事業承継直後に大量採用したが結果的に離散してしまった場合の計算も同様である。 しかしながら、「雇用確保要件の緩和」がなされたとはいえ、5年間の平均であったとしても承継時の8割の雇用を維持しなければならないということは、中小企業にとっては負担の重い制度であることには変わりない。単に「8割」という形式基準に固執するのではなく、退職の事情や経営状況、雇用維持のための努力などの質的判断も行い、弾力的な運用が望まれる。   4 親族間承継要件の廃止 (1) 改正前の概要 贈与税・相続税の納税猶予制度の認定を受けるためには、経営承継受贈者(相続人)は、贈与の時において、その中小企業者の非上場株式等の贈与者の親族であること(親族とは、6親等内の血族又は3親等内の姻族をいう)又は相続の開始の直前において、その被相続人の親族であった者である要件が規定されていた。 この後継者要件のうち、親族要件である、「相続開始の直前又は贈与の時において、先代経営者の親族であること」が、改正前事業承継税制の大原則となっていたので、親族内に適当な後継者がいない場合に、この事業承継税制が活用できなかった。 また、事業意欲のある若者や、経営能力のある従業員のビジネスチャンスを奪い、事業等を親族に承継させる場合のみを奨励することは適当ではないという議論もあった。 (2) 親族外承継の対象化 平成25年度税制改正では、この後継者の「親族間承継要件」を廃止し、例えば優秀な番頭さんなどの適任者も後継者の対象とし、親族外の後継者への相続又は贈与の場合であっても、相続税・贈与税の納税猶予の適用対象とすることとなった(措法70の7②三、70の7の2②三)。 なお、同時に贈与税の税率構造が改正され、最高税率を相続税の最高税率に合わせる一方で、子や孫等直系卑属が受贈者となる場合の贈与税の税率構造が緩和されているので、直系卑属への承継とそれ以外の者への承継では、猶予税額が異なることとなる。 一方、遺留分に関する民法の特例制度では、制度を利用できる後継者も遺留分の算定に係る合意の当事者となることから、旧代表者の推定相続人であることを要件としているが、この「親族外承継の対象化」には対応していない。相続時に相続人から遺留分の減殺請求を受け、権利関係に異動が生じた場合の課税関係はかなり複雑となり、また、親族外後継者の納税リスクが避けがたいことから、事業承継の任を引き受ける従業員を探すことは容易ではないといえる。 (了)

#No. 33(掲載号)
#長谷川 敏也
2013/08/29

〈適用前に確認したい〉改正「退職給付会計基準」における変更点チェック・ポイント

〈適用前に確認したい〉 改正「退職給付会計基準」における 変更点チェック・ポイント   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   平成24年5月17日に企業会計基準委員会から「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、「改正退職給付会計基準」という)が公表されている。 この改正退職給付会計基準では、主に以下の点について改正が行われている。 改正退職給付会計基準は、原則、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末から順次、適用される。 そこで本稿では、影響の大きい論点を漏れなく事前に検討できるようにチェック・ポイントをまとめたので、3月決算の株主総会、第1四半期決算が終了して手続を確認する余裕もできるこの時期に、来年の3月本決算に向けた検討材料として活用していただきたい。 また、早期適用している会社にとっても、再確認の意味で本稿を利用していただくことは有意義と思われる。 なお、論末には本稿の内容を詳細に確認できる「チェック・シート」についてご紹介しているので、ご参照いただきたい。   1 勘定科目等の名称の変更 連結財務諸表上、「退職給付引当金」は「退職給付に係る負債」に、「前払年金費用」は「退職給付に係る資産」に変更されている。ただし、個別財務諸表上は、改正前と同様に「退職給付引当金」及び「前払年金費用」の名称を用いる(詳細は「5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の変更」を参照)。 また、「過去勤務債務」は「過去勤務費用」に名称が変更されている。「期待運用収益率」も「長期期待運用収益率」に名称が変更されている。この2つについては、名称は変更されているが内容に変更はない。 さらに、「予定昇給率」は「予想昇給率」に名称が変更されている(詳細は「2 予想昇給率の見直し」を参照)。   2 予想昇給率の見直し 予想昇給率は、退職給付見込額の算定の際に用いられるが、改正前では「確実」に見込まれる昇給のみで算定していた。改正後は「確実」な昇給だけでなく、「予想される」昇給をもとに算定する。   3 退職給付見込額の期間帰属方法の見直し 退職給付見込額の期間帰属の方法は、改正前は、原則として期間定額基準であったが、改正後は、期間定額基準と給付算定式基準の選択適用となる。   4 割引率の見直し 割引率の計算の基礎となる期間は、改正前では「従業員の平均残存勤務期間に近似した年数」を用いて割引率を設定することが認められていたが、改正後はこの方法を用いることはできず、退職給付の支払見込期間を反映した割引率を設定する必要がある。   5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の変更 改正前は未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、必ずしも貸借対照表に計上する必要はなかったが、改正後は、連結貸借対照表に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を計上する。また、税効果控除後の金額をその他の包括利益(退職給付に係る調整額)として計上する。 個別貸借対照表上は、改正前と同様に必ずしも未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を計上する必要はない。 また、連結貸借対照表に計上した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、毎期、費用処理(組替調整)を行う。   6 過去勤務費用の費用処理の表示 過去勤務費用の費用処理の表示について、改正前は当期の費用処理額が重要である場合には、特別損失として表示することが認められていたが、改正後は発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であるときのみ特別損失として表示することができる。   7 複数事業主制度の取扱いの見直し 複数事業主制度を採用している場合で、「複数事業主間において、類似した退職給付制度を有している場合」、改正前は年金制度の要拠出額をもって退職給付費用とする会計処理が認められていなかったが、改正後は、制度の内容など実態を踏まえた上で、年金制度への要拠出額をもって退職給付費用とする会計処理が認められている。   8 注記項目の拡充 確定給付制度の注記項目が拡充されている。特に「年金資産に関する事項」は改正前の退職給付に関する注記では求められていなかった情報のため、注意が必要である。また、会計方針の変更の注記や連結財務諸表作成会社の場合の個別財務諸表における取扱いが異なる旨の注記が必要となる。   9 経営指標等への影響 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の積立不足がある場合、税効果考慮後の金額だけ純資産が減少(「5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の見直し」参照)し、「1株当たり純資産」等の経営指標が悪化する。 また、予想昇給率の見直し、退職給付見込額の期間帰属方法の見直し、割引率の見直しにより、利益剰余金が減少し、純資産が減少する可能性がある。費用が増加し、利益が減少する可能性もある。そのため、「1株当たり純資産」や「1株当たり純利益」等の経営指標が悪化する可能性がある。 さらに、純資産の減少、利益の減少により、「財務制限条項等」に抵触する可能性も出てくる。   10 適用時期 改正退職給付会計基準の適用時期は、以下のとおりとなっている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (了)

#No. 33(掲載号)
#西田 友洋
2013/08/29

林總の管理会計[超]入門講座 【第9回】「労務費の費目別計算」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第9回】 「労務費の費目別計算」   公認会計士 林 總   「労働力」という名の時間を買う   なぜ作業時間を管理するのか   「作業日報」を作成する   賃率(労務費単価)とは? (了)

#No. 33(掲載号)
#林 總
2013/08/29

有効な解雇手続とは 【第4回】「適正な解雇プロセス」

有効な解雇手続とは 【第4回】 (最終回) 「適正な解雇プロセス」   社会保険労務士 井下 英誉   1 はじめに 前回は解雇事由の必要性と解雇手続の実務ポイントについて解説したが、最終回である今回は、実際に解雇事案が発生したときに、その事案がトラブルに発展しないようにするための適正なプロセスについて解説する。   2 有効な解雇プロセス   上図のうち、プロセス1~3は、本連載の第2回「解雇に関する法規制」と第3回「就業規則の作成と運用」で解説したとおりである。 つまり、使用者が「見える化(明文化)されている」法律や就業規則を正しく理解し運用していれば、多くの場合、解雇トラブルは防げるものと考えられる。 しかしながら、第1回の「4 解雇をめぐるトラブルの現状」で述べたとおり、解雇トラブルの件数は他のトラブル件数と比べても非常に多いのが現状である。 その原因がどこにあるのか、それは法律上(労働契約法第16条)でも「見える化されていない」ルール(プロセス4)に隠されている。   3 「客観的に合理的な理由」を判断するための基準 当該解雇事由が「客観的に合理的な理由」であると認められるためには、次の3つの要素を満たしている必要がある。 ① 真実性 当該解雇事由とされた労働者の作為、不作為(職務怠慢等)が事実として存在すること。 ② 客観性 当該解雇事由とされた事実が、外部的に検証・認識するに足りる出来事であること。 すなわち、証拠や証言等によって外部の第三者からみても認識することが可能なものであること。 ③ 解雇基準該当性 当該解雇事由とされた事実が就業規則に規定する解雇事由に該当するか少なくともそれに準じないし類する事由に当たるものであること。   4 「社会通念上の相当性」を判断するための基準 当該解雇事由が「社会通念上の相当性」を有するか否かについては、以下の要素に基づいて判断される。   (連載了)

#No. 33(掲載号)
#井下 英誉
2013/08/29

民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第8回】「請負、委任等その他の契約」

民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第8回】 「請負、委任等その他の契約」   弁護士 中西 和幸   請負、委任等その他の契約についても、判例等の明確化がほとんどであるので、今回はその要点に絞って解説する。 1 請負契約 請負契約については、その大半が判例等の明文化である。 (1) 仕事完成不能時の報酬 請負契約は、仕事の完成を目的とする契約であるため、仕事が完成しなければ報酬が全く発生しないという原則がある一方、現行法下でも、仕事が完成しなくなった原因(注文者による解約、物理的な不可能等)によっては、報酬や費用の請求を認めてもよいのではという解釈があり、これを明文化することになった。 そこで、以下の場合は、既に行った仕事の報酬と費用を請求できるとしている。 ① 報酬の一部請求が可能な場合 これは、当事者間の公平性の問題と考えられ、注文者に一定の利益があれば、注文者の帰責性は問わず、報酬の一部履行を認めるものである。例えば、注文者が材料提供をしなかったり、災害等により仕掛品のさらなる加工が困難となった場合でも、その段階での完成度で一応一定の使用が可能である場合などが考えられる。 また、契約が解除された場合(請負人の債務不履行も含む)も同様とされている。 ② 報酬の全額請求が可能な場合 現行法上の民法536条2項の規律を維持する(すなわち請負契約では改正しない)とするものである。 (2) 瑕疵修補請求等 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の規定である。 以下の通り整理されている。 (3) 実務への影響等 ① 注文者の優位性 請負契約の改正については、現行法を一部改正し、また、解釈上不明確な部分を明確化したのであるが、中間試案段階で確定しているわけではない。 請負契約上問題となりやすい場面での問題として、契約の趣旨と目的物の完成に齟齬がある場合の修補等について規定を整理するなどしており、その結果、請負人の強い従属性が若干緩和されたという効果はある。 しかし、請負人と注文者の力関係は大きく差があり、この点についての配慮は十分でないため、請負人としては、注文者の地位が強いことに引き続き留意しなければならない。 ② 「契約の趣旨」 また、瑕疵修補等に関連して、「契約の趣旨」に沿っているかどうかという視点からの改正案が提案されている。 現行法下でも、契約の趣旨通りに必ずしも仕事が完成するとは限らず、トラブルの中心になっている。しかし、その原因は、注文者と請負人のコミュニケーション不足や想定外の事態に注文者と請負人が足並みをそろえて対処できないこと等が考えられる。 瑕疵修補について、「契約の趣旨」を法改正で前面に出すと、売買契約と同様、契約前の説明や、契約書の作成などに相当の手間やコストが取られる可能性があるのではないかと予想される。   2 委任契約 (1) 全体像 委任契約については、自己執行義務を原則とすること、受任者が受けた損害の賠償義務(専門家が受任者の場合、委任者は損害賠償義務を負わない)、委任契約の終了(委任者が破産しても委任契約は当然に終了しないこと)などについて、改正案が提示される一方、改正しない提案も検討されている。 その中で、報酬請求及び準委任については、比較的まとまった方向性が提示されているので、概略を説明する。 (2) 報酬請求 まず、現行の委任契約において無報酬が原則とされているが、この規定が削除されている。 ただし、有償が原則とされているわけではないことに注意が必要である。 次に、委任事務の一部の履行ができなくなった場合の報酬請求権について、受任自行の履行の割合に応じて報酬を請求することができることを原則としている(成果報酬を定めた場合は、報酬の成果が可分であり委任者が利益を有する場合か、委任者の必要な協力がなかったために委任事務ができなかった場合のいずれかの場合に限定している)。 (3) 準委任 準委任契約は、法律行為以外の事務処理の委託であり適用場面が多い一方、現行法上は、委任契約の条項が準用されるとだけ規定されているにすぎない。 そこで、中間試案では、自己執行義務、委任者の自由な契約解除及び破産の場合の契約解除について準用しないこととし、解除に関して以下の通り定めている。 (4) 実務上の留意点 委任契約については、実務上の不都合を解消する方向での改正がいくつか見られるところである。また、準委任契約については、契約書が作成されないような例が少なくないため、一定の配慮がなされているように見受けられる。 ビジネス実務上も、委任契約や準委任契約は必ずしも書面化されるとは限らない場面が多いと考えられるため(例えば「ちょっと○○をお願いしていい?」とある者にお願いし、その者が依頼を引き受ければ、どんなに小さな依頼であっても委任や準委任契約が成立することが多いのである)、この改正は、比較的有効に機能するのではないかと考えられる。 委任や準委任が重要な契約になれば、各種契約の書面化、特に報酬に関する契約の書面化が重要である一方、書面化により一定の目的を実現でき、またリスクをコントロールできるのではなかろうか。   3 雇用 雇用については、実務上は労働基準法により規律される場面がほとんどであり、民法の規定はあまり重視されてこなかった。こうした経緯もあり、あまり重要な改正は見られない。 もっとも、民法536条2項の規定、すなわち、使用者の責めに帰すべき事由により就労できなかった場合は、労働者は使用者に報酬を請求できる、という解釈が一般化している。民法改正では、危険負担の条項(民法536条2項)が削除されたため、細かな改正よりも、この実務が変更されないよう、雇用の規定で手当てをしている。   4 寄託 (1) 概要 寄託契約については、要物契約(寄託物を引き渡して初めて契約が成立する)から諾成契約(合意により契約が成立する)に変更し、これに関する規定を整備している。 この他に、自己執行義務、有償寄託の場合の受寄者の善管注意義務、第三者が権利主張してきた場合の対応、損害賠償責任などについて解釈を明文化している。 また、報酬については無償性の原則を排除することなど、委任に関する規律を準用するものとしている。 さらに、寄託物の一部滅失等に関する損害賠償請求権の短期消滅時効(1年)を定めている。 この他に、混合寄託や消費寄託についても明確化をはかっている。 (2) 実務への影響 寄託については、委任(準委任)契約の改正とおおむね足並みがそろうことになった。 これは、寄託契約が「物の保管」という準委任契約としての性質を有することから、おおむね整合的に整理できることになる。 ビジネス上は、引渡物の確認、契約内容の確認等、慎重になされることが多く、契約書が作成されることが少なくないことから本改正の影響を大きく受けるとは思われないが、細部についてどこまで影響してくるかは不明確である。   5 組合 (1) 改正の概要 組合については、組合財産の独立性について、新たな規定を設けるが、その他は判例等を明文化するものであり、特段目新しいものはないようである。 また、組合債権者が組合員の固有財産に対して権利行使をすることができる場合については、改正により均等割合を原則とし、組合の債権者がその債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合によってのみその権利を行使することができるものとされている。 (2) 実務への影響 組合については、判例が積み重なっていることもあり、かかる判例の明確化である限り、特段実務への影響はないように思われる。 また、投資事業組合等のビジネス目的の場合は、契約書を作成し詳細に定める例も多く、こうした契約書の効力を左右するような改正がなされない限り、法改正についてさほど心配する必要はないように思われる。   6 今回のまとめ 請負、委任、雇用、寄託、組合等の各契約については、特段大きな変更はなく、判例等の明文化が中心のようである。そのため、慌てて対応するのではなく、まずは改正の方向を確かめてからでも十分間に合うのではなかろうか。 (了)

#No. 33(掲載号)
#中西 和幸
2013/08/29

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第12回】「売上・売掛債権管理のKPI(その③ 請求)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第12回】 「売上・売掛債権管理のKPI (その③ 請求)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、売上・売掛債権管理を構成する業務プロセスから、「請求」のKPIを取り上げる。 このKPIは、売上・売掛債権管理を担当する人員配置を適正なレベルにするにはどうするか、もしこの業務を社内の人員ではなく経理サービスを提供する外部の会社に委託するなら支払うべきサービス価格はいくらが妥当かという判断を可能にし、社内の人員による業務処理と外部委託のどちらが妥当かという経営意思決定に役立つKPIである。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを確認しよう。 前回も述べたが、売上・売掛債権管理において、会社が担う一般的な機能は、「売上業務」、「債権残高管理」、「滞留債権対応」、「値引・割戻」の4つになる。今回解説するKPIは、売上業務のうち、「請求」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 請求に関連する業務プロセスは、売上業務の一連の流れの中では、販売管理情報システムに入力を行うことにより売上計上が行われた後、販売先から代金の決済が行われる前に現れるのが一般的である。 〈経済産業省スタンダード:売上・売掛債権管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、請求に関連する業務プロセスを請求書の作成と承認という業務の流れと考え、次のような単純な業務プロセスをまとめている。 今回のKPIは、請求書の枚数が売上・売掛債権管理の業務量に比例する傾向があることに着目し、効率性の観点から、売上・売掛債権管理担当者1人あたりの請求書枚数を問うものである。 〈経済産業省スタンダード:1.4.1請求〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 KPIの算出式の分母にあたる「売上・売掛債権管理担当者のべ人数」とは、売上を計上し、請求書を発行し、決済を確認するまでに費やす時間をのべ人数で表したものをさす。担当者が、売上・売掛債権管理業務とそれ以外の業務を兼務している場合、合理的な比率で売上・売掛債権管理業務にかかるのべ人数を算出する。 例えば、1人の担当者が1ヶ月の業務時間の全時間を、もう1人の担当者が1ヶ月の業務時間の半分の時間を売上・売掛債権管理業務に費やしている場合、「1.5人月」と記入する。 「請求書枚数」や、「売上・売掛債権管理担当者のべ人数」のデータを取る場合、1年のデータを取ることが望ましいが、1年を通して季節性や変動が少ない場合は、調査対象となる月として、最も平均的業務量と思われる1ヶ月を選んでデータを取り、12倍して算出してかまわない。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 スコアリングモデルでは、売上・売掛債権管理にかかる人員を適正なレベルに保ち、もし余剰人員が生じている場合は、より付加価値の高い活動に人的資源を配分することが望ましいと考えている。そこで、売上・売掛債権管理という業務により処理される取引量を反映する請求書枚数を会社間で比較し、効率性のレベルを測ることにしたのである。 このKPIは、1人あたり請求書枚数を算出したものであるが、さらに進んで、売上・売掛債権管理にかかる人員の適正配置を考えるには、売上・売掛債権管理にかかる人件費を測定できていることが望ましい。そこで、財務会計上の勘定科目である人件費を、日常的管理になじむ活動の単位で再集計する管理会計の視点が必要となる。 管理会計では、売上・売掛債権管理にかかる人件費という再集計結果を「コストプール」と呼び、活動の単位で再集計する方法を「活動基準原価計算」と呼ぶ。また、売上を計上し、請求書を発行し、決済を確認するという一連の活動量に影響を与え比例的に変動すると考えられる請求書枚数を、「コストドライバー」と呼ぶ。 コストドライバーとコストプールを使って請求書1枚あたりの人件費を算出することにより、自社で売上・売掛債権管理を処理した場合のサービス原価が算出される。その結果、売上・売掛債権管理を自社の人員で処理するのが良いのか、それとも外部の経理サービス会社に委託するのが良いのか、そのときに支払うべき対価はどの程度が適正か、社内の人員配置と外部委託をどのように行うのが良いかを判断できるようになる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、売上・売掛債権管理に隠れている非効率が発見されず、過剰な人員配置が放置されたままになる可能性がある。また、例えば、グループ内に経理業務受託サービス会社を設置する場合、その会社が提供できる売上・売掛債権管理サービスの処理量やコストを適正に把握することができないため、適正な利益を確保するサービス価格を設定することが困難となるだろう。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の売上・売掛債権管理の業務量を測るために適切な資料を特定していただきたい。 例えば、請求書枚数を確認するため、請求書控の枚数を閲覧する。1ヶ月の売上・売掛債権管理担当者のべ人数を確認するため、業務時間実績報告表に記録された売上・売掛債権管理にかかった時間を1人あたり所定労働時間で割り戻した数値を算出する。 合併や買収を経験したまま業務が統合されていない会社の場合、事業所や部門ごとに枚数を測定してみると、大きな差が出てこれまで見えなかった非効率を発見できる可能性がある。 読者の顧問先において、売上・売掛債権管理担当者1人あたりの請求書枚数は何枚になっただろうか。 *  *  * 次回は、売上・売掛債権管理を構成する複数のKPIのうち、滞留債権対応に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)

#No. 33(掲載号)
#島 紀彦
2013/08/29

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第15回】「外来診療単価に差が生じる理由」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第15回】 「外来診療単価に差が生じる理由」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 外来診療単価に差が生じる要因 病院収入の約3割を占めるのが外来収入であり、外来収入を増加させるためには、患者1人1日当たりの外来診療収入(以下「外来診療単価」とする)を向上させることが重要である。 外来診療単価が高いということは、それだけ濃厚な治療が必要な重症な患者を診ていることを意味しており、病院と診療所の機能分化という観点から病院にとって適切な役割を果たしていると捉えることもできる。また、外来患者のキャパシティには制約があるため、経済性を向上させるためにも外来診療単価を高めることには重要な意味がある。 この外来診療単価は、図表1に示すように、病床数と一定の相関がみられ、規模が大きいほど高くなる傾向がみられる(この点は入院診療単価と同様である)。規模が大きい病院ほど、高額な画像診断機器等を保有するケースが多いことが影響しているのであろう。 図表1 外来診療単価と病床数 その他、外来診療単価を考えるに当たっては、院外処方率の影響も見過ごすことができない。 院内処方の場合には、薬剤費が多くなり、結果として外来診療単価も高くなる。院外処方といってもその割合は様々であり、院外処方率が70%程度の病院もあれば90%を超える病院もある。ただし、外来診療単価に与える影響は、5,000円程度であろう。 院内処方を行えば診療収入に占める材料費の割合(以下「材料費率」とする)が高くなることは言うまでもない。気付いていない方もいるが、このことは人件費率にも影響を及ぼす。 図表2に示すように、材料費率と人件費率には有意な負の相関関係がみられる。つまり、材料費率が高くなると人件費率が低くなる傾向がみられる。 図表2 人件費率と材料費率 人件費率が30%台あるいは、40%の前半という病院が財務的に優れているかというと必ずしもそうではなく、それは院内処方の影響を受けていることが少なくない。 院内処方を実施するということは、院内で医薬品を販売していることを意味するため、診療収入に占める材料費の割合が多くなる。   2 診療行為別の外来診療単価への影響 図表3は、外来診療単価の構成比を病床規模別でみたものである。院内と院外処方の病院が混在しているため、投薬料についてはここでは除いて考えていく。 図表3 病床規模別 外来診療単価の構成比 全体的な傾向としては、検査料、画像診断料、注射料の割合が多く、この3項目で全体の50%以上を占めている。手術・処置料は、全体的にみると約6%程度と金額的なウェイトが高くない。 今後、手術の外来化が進むことが予想されるが、現状でこの項目に含まれ影響を与えるのは後述する透析に係る処置料であろう。 金額的な影響が大きく、病床規模別でみたときに100床未満と700床以上で4倍以上の開きがあるのが、注射料である。外来における注射で金額的な影響が大きいのは化学療法であり、化学療法のベッド数と外来注射料には一定の相関がみられる(図表4)。 図表4 外来注射料と外来化学療法 病床数 外来化学療法は高額な抗がん剤を投与するのであるから外来診療単価が上昇するのは当然であり、その結果が反映されている。ただし、同じベッド数でも外来注射料にはバラつきがあるのも事実であり、診療内容の違いを意味するのか、外来化学療法加算が影響しているのか、稼働率の高低など個別の施設でさらなる検証を行うことが期待される。 その他、外来診療単価を押し上げるものとして、人工透析が思い浮かぶ。慢性維持透析の患者が多数いれば、外来診療単価が上昇することは想像に難しくない。 図表5は、透析装置台数と外来処置料の状況をみたものである。透析装置台数が少ない病院は外来処置料が少なく、透析に重点的に投資していればその分だけ外来処置料が多くなる傾向がみられる。 図表5 外来処置料と透析装置台数   3 外来診療単価と医師1人1日当たり受け持ち患者数 外来診療単価が高い病院は、院内処方率が多い、外来化学療法が多い、慢性維持透析患者が多い傾向がみられた。つまり、病院の戦略が外来診療単価に影響を与えることを意味している。ただし、これらの施策に取り組まない限り外来診療単価が向上しないというわけではない。 図表6に示すように、医師1人1日当たり受け持ち患者数が少ない病院ほど、外来診療単価が有意に高いという傾向がある(入院についてはより顕著な傾向がみられる)。 図表6 外来診療単価と医師1人1日当たり受け持ち患者数 外来患者を絞り込めばより重症者だけを扱うことになり、診療の密度が高くなることを意味している。外来を絞り込むためには、再診患者を減らすべく逆紹介を積極的に推進し、紹介患者を中心とした外来医療を展開することが求められる。 地域性によっては、病床の2倍を遥かに超えた外来患者を受け入れざるを得ないという病院も存在することであろう。その場合には、患者数という量で勝負することになり、高い外来診療単価は期待しづらい。自院の置かれた現状を踏まえて、何をすべきかを考えることが求められている。   4 DPC/PDPSと外来シフト DPC/PDPSという環境下では入院中の検査、投薬そして画像診断等が包括評価されるため、外来シフトを行う病院も多い。予定入院ならば一定程度は外来化が可能であろうし、それが経済性の向上にもつながる。無理のない範囲で外来シフトを進めることは、時代の求める方向性であり自然なことであろう。 ただし、筆者は外来シフトすべき理由についてDPC/PDPSだからという理由ではなく、在院日数を短縮するために入院前後にできることがないかを探ることの方が大切だと考えている。 患者の肉体的・経済的負担を軽減するためにも、入院診療単価を高めるためにも在院日数の短縮は必須であり、今後も医療政策において強く求められることであろう。入院しないとMRIの予約が入らないからという理由で入院中に画像診断を行う病院も少なくないようだが、それは非効率的である。 外来と入院を一気通貫で捉えた効率的な診療プロセスが、結果として外来診療単価を高めることにつながる。 (了)

#No. 33(掲載号)
#井上 貴裕
2013/08/29

女性会計士の奮闘記 【第8話】「お客様の状況はどんどん変わる」

女性会計士の奮闘記 【第8話】 「お客様の状況はどんどん変わる」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の状況は、刻々と変わります。一喜一憂している暇はありません。その状況を的確に把握し、どのような情報がお客様にとって役に立つのかを考えなければなりません。 そのためには、常にアンテナを張っておき、税制改正があれば、お客様別に該当する項目をまとめておきます。 その備えがあれば、突然お客様からの質問があっても即座に答えることができ、「さすが」と言ってもらえるのではないでしょうか。 (了)

#No. 33(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/08/29

神田ジャズバー夜話 「4.プレイGさん」

「次はこれ、ぼくの愛聴盤。トニー・ベネット」 Gさんは自分で持込んだCDを次々と私にかけさせ、店中に響く大きな声で解説を続けている。これじゃ音楽は聴こえない。 「M子さあ、これ最高なんだよ」 いつもはよく喋るM子も今夜はあらぬ方角をじっと睨み、Gさんが話し掛けても返事もしない。話し掛けたGさんもM子の方を見ようとしない。 「トニー・ベネット、いいねえ、ナイアンデ〜」Gさんはとうとう歌いだした。もう黙らせようと思ったら、M子がいきなり喋りだした。 「信じられない、E江とホテル行くなんて、しかも2回目よ」 なるほどね。いつもと違うふたりの理由が分った。浮気のバレたGさんは周囲を巻き込み、M子の怒りをソフト・ランディングさせようとしているのだ。顔を突き合わせないで済むカウンターを選んだのも作戦のうちだろう。 「この人さあ、E江は『B』で、あたしはここって使い分けてんのよ。でもさ、ここにもE江連れて来たことあるでしょ、ねえマスター」 M子の鉾先が私に向けられた。『B』は隣り街のジャズカフェだ。 「え、誰ですか、ないと思いますけど・・・」 私は必死でとぼけた。前にGさんからE江と来たことはM子には喋るなといわれた。それはこういう店では決してしてはいけないことで、ルール違反だと厳命された。 「うそ、絶対来てるわよ」 「いやあ、どうでしたかね・・・」 これはマズい。 カウンターにはこのときM子、Gさん、その隣に奥さん(名字が奥という)太田さんが並んでいた。奥さんはGさんの解説に頷いたり、「へえ、そうですか」などとたまに言葉を挟んでいたが、M子が喋りだすと暫く沈黙があり、今は太田さんと何やら小さな声で話している。 「奥さん、トニー・ベネットってビル・エバンスとやってますよね」 「うん、ああそうだね」と奥さん。 「2回やってるね」と太田さん。 突然話し掛けた私に太田さんも奥さんも話を合わせてくれた。 「信じられない」 M子は正面を向いてまだつぶやいている。Gさんは目を閉じ酒と音楽に酔い痴れたふりをしている。 CD3枚を聴き終わるころM子は根負けしたようで、引きつりながらも笑みを浮かべGさんとの間に対話が成立し出した。これからふたりで近くのデニーズへパンケーキを食べに行くらしい。奥さんと太田さんはとっくの昔に逃げてしまった。 「マスターいくら?」 「4,500円です」 「はい、じゃあ5,000円。お釣はいいよ」 「当然です」 「そうだよね」 70代のじいさんは笑いながら50代のM子と店を出た。 (了)

#No. 33(掲載号)
#山本 博一
2013/08/29
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