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《速報解説》 租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について

《速報解説》 租税特別措置(相続財産に係る 譲渡所得の課税の特例)の 適用状況等について   弁護士 木村 浩之 1 はじめに 会計検査院より、財務大臣宛てに、平成24年10月19日付けで、「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」と題する意見の表示が行われた。 これは、会計検査院が、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税相当額を取得費に加算する制度(租税特別措置法39条))の適用状況等について検査した結果、同特例については、平成5年の改正後の状況変化を踏まえて、制度の見直しなどの改善措置が必要であるとの意見を表示するものである。   2 本特例の概要と平成5年改正 今回の意見表示の対象となった特例は、相続税と譲渡所得税の課税の調整を図る(相続財産の譲渡による課税の二重負担を解消する)ことを目的として、昭和45年の税制改正によって創設されたものである。 その内容は、個人が相続財産を取得した後、短期間に当該相続財産を譲渡した場合に、譲渡所得の計算上、当該相続財産に係る相続税相当額を取得費に加算する(その結果、相続税相当額が譲渡所得の金額から控除される)ことを認めるものである。 その後、本特例は幾次の改正を重ねて、平成5年に、当時の地価の高騰等に伴う土地関連の税負担の増大を背景として、取得費に加算される相続税相当額の範囲について、譲渡した土地等に対応する相続税相当額のみならず、相続したすべての土地等に対応する相続税相当額をも対象とするように拡大された。 その結果、実際には譲渡していない土地等に対応する相続税相当額についても、譲渡所得の計算上、取得費に加算されることとなった(下記図参照)。 その後も、本特例については種々の改正を経ているものの、上記の基本的な制度は維持されたまま、現在に至っている。   3 本意見の概要と評価 今回の会計検査院の意見は、平成5年の改正当時から現在に至るまでに、地価は大幅に下落し、土地関連の税負担は大幅に軽減されるなど、状況が大きく変化していることを踏まえて、取得費加算の範囲を拡大する措置は必要性が著しく低下しているとして、制度の見直しが必要であるとの見解を示したものである。 具体的には、本特例の適用に関する確定申告書等の資料が分析された結果、本特例の適用を受ける者については、相続によって取得した土地等のごく一部を譲渡し、大幅な取得費加算を受けることで、税負担が著しく軽減される者が多数に上っているとの実態が把握され、地価の高騰等を背景とした平成5年改正の趣旨からは乖離している現状について論証がなされている。 このように、本意見は、平成5年の改正当時から現在に至るまでの背景事情の変化を踏まえて、具体的なデータをもとにして検査がなされたものであり、説得力を有するものと考えられる。   4 税制改正の見通し 以上のとおり、本意見は説得力を有するものであり、また、会計検査院の意見表示は、法律(会計検査院法36条)の規定に基づいてなされるものであり、財務大臣に対する一定の拘束力を有するものと解される。 そこで、本意見を踏まえて、近い将来において、取得費加算の範囲の見直しを含め、本特例の改正がなされる見込みは十分あると考えられる。特に本年10月19日からは、政府の税制調査会において平成25年度の税制改正に関する議論が開始されており、今後の動きについて注視が必要である。  (了) 【参考】会計検査院ホームページ 「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#木村 浩之
2012/10/29

〔改正〕継続雇用制度の実務対応

〔改正〕継続雇用制度の実務対応   特定社会保険労務士 佐竹 康男 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され(9月5日公布)、平成25年4月1日以降は、希望者全員を65歳まで雇用しなければならなくなった。 これは、来年度以降60歳になる人(昭和28年4月2日生まれ以降)から老齢厚生年金の支給開始年齢が61歳以降(男性の場合)に引き上げられることに対応し、定年後の一定期間無収入になる人を防止することを目的としている。   1 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、高年齢者雇用確保措置として定年を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次のいずれかの措置を取ることが義務づけられている。 継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、その高年齢者を定年後も引き続いて雇用する制度をいうが、現行の法律では、継続雇用の対象者を限定する基準(健康状態、能力、経験等)を労使協定で定めることができる。 今回の改正によってこの仕組みが廃止され、平成25年4月1日からは、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが必要になる。 ただし、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢に到達した以降の人を対象に、基準を引き続き利用できる経過措置が設けられている。 〈厚生年金保険の支給開始年齢(男性の場合)〉 ※例えば、昭和28年度に生まれた人は、61歳(平成26年度)から老齢厚生年金が支給される。したがって、企業もこの年齢から従来の基準を適用できる。 また、厚生年金保険は、男女で支給開始年齢に差があるが、高年齢雇用確保措置は、男女の年齢による区別はなく、老齢厚生年金の男性の支給開始年齢に対応させている。 (1)企業の対応 ① 労使協定により、継続雇用の対象者を限定する基準を定めている企業は、就業規則の改定が必要になる。 ◎就業規則例 ② 人件費の増加が予想されるため、賃金及び退職金制度の見直しが必要になる。 ③ ワ-クシェアリング等、柔軟な働き方を進めていく必要がある。 (2)労働者に与える影響 ① 必ずしも本人が希望する職種等で勤務できるわけではないのだが、65歳又は少なくとも老齢厚生年金の支給開始年齢までは働くことができる。 ② 人件費の増加を抑制するため、定年年齢に達する前から、賃金・退職金の減額、退職勧奨を行う企業が増加する可能性がある。 ③ 高齢者の雇用の増加により、若年者の雇用が抑制される可能性がある。   2 継続雇用先企業の範囲拡大 高年齢者の継続雇用先を自社だけでなく、グループ内の他の会社(子会社や関連会社など)まで広げることができるようになる。子会社とは、議決権の過半数を有しているなど支配力を及ぼしている企業(関連会社とは、議決権を20%以上有しているなど影響力を及ぼしている企業)である。この場合、継続雇用についての事業主間の契約が必要になる。 詳細は、厚生労働省令で規定される。   3 違反企業に対する企業名公表規定の導入 高年齢者雇用確保措置を実施していない企業は、労働局等が指導・勧告を行い、なお違反が是正されない場合は企業名が公表される場合がある。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#佐竹 康男
2012/10/25

大きく変わる?税務調査手続【その1】「先行的取組を10月から開始」

大きく変わる?税務調査手続 【その1】 「先行的取組を10月から開始」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 平成23年12月2日に国税通則法が改正され(以下、改正通則法)、従来慣行として行われてきた税務調査手続の一部が法律に規定されたほか、更正等不利益処分の理由附記の対象の拡大や、更正の請求の期間の延長(1年から5年に)など重要な改正が行われた。 さらに「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」(以下「手続通達」という)がパブリック・コメントを経て平成24年9月12 日に発遣され、同日付で「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」、「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け・税理士向け)」も発遣されている。 国税庁は、今回の改正は従来実施されてきた調査のやり方を大きく変更するものではないとしている。しかし、事前通知、同一年分の再調査、物件の留置き等、各調査手続の適用要件が法定されており、実際の調査の現場では、要件充足の是非をめぐって納税者と調査官の間で議論になるケースも出てくる可能性がある。 このため、調査対応に当たる企業の担当者や税務代理人は、少なくとも改正法と通達の規定の概要を知っておく必要がある。 調査手続に関する改正法の適用開始時期は基本的に平成25年1月1日以降開始する調査からであるが、国税庁は施行後の円滑な実施を図る観点から、事前通知と修正申告の勧奨の教示については、ホームページ上のお知らせ「税務調査手続等の先行的取組の実施について」で、先行して本年10月1日以降に開始する調査から実施することを明らかにしているので、注意する必要がある。 以下、これらの内容について、2回にわたって解説する。 1回目は、調査手続について10月1日から先行して変わる部分に絞って解説する。 なお、来年1月1日から変わる調査手続、理由附記、及び平成23年12月2日以降終了する事業年度から適用が開始されている更正の請求の期限延長については次回(その2)に譲る。   2 先行して10月1日から変わる部分 (1) 事前通知 本年10月1日以降に開始する調査については、法律で定められた11項目(表1参照)が、予め電話等で納税者と税務代理人の双方に通知されることになる。 表1 事前通知事項 表1のうちNo.5からNo.8は、調査の範囲を明確にする上で重要な項目であり、税務署から電話で事前通知があった場合、正確に書き留めておくと、後日トラブルになった際に役に立つ。事務運営指針では、「通知事項が正確に伝わるよう分かりやすく丁寧な通知を行うよう努める。」と指示している(第2章2(1))。 日時の調整については、事務運営指針では、「調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、…(中略)…事前通知する。この場合、事前通知に先立って、納税義務者及び税務代理人の都合を聴取し、必要に応じて調査日程を調整の上、事前通知すべき調査開始日時を決定することに留意する。」としている(第2章2(1))。いったん日時を決めた後でも、合理的な理由を付して変更申出をすることにより、日時変更は可能である(改正通則法74条の9第2項)。 この点、手続通達(4-6)によれば、「個々の事案における事実関係に即して、当該納税義務者の私的利益と実地の調査の適正かつ円滑な実施の必要性という行政目的とを比較衡量の上判断するが、例えば、納税義務者等の病気・怪我等による一時的な入院や親族の葬儀等の一身上のやむを得ない事情、納税義務者等の業務上やむを得ない事情がある場合は、合理的な理由があるものとして取り扱うことに留意する。」としている。 税理士を通じて連絡を受けることを希望する場合は、その旨を調査官に告げれば、税務代理人経由で通知を受けることもできる(手続通達7-1)。先行実施においては、この場合、表1のNo.1《実地の調査を行う旨》以外について税務代理人に連絡するとしている。 事前通知の内容のうち、移転価格調査を行う場合については、移転価格調査とそれ以外の法人税調査を別々の調査として区分することや連結法人の調査において連結子法人の調査を複数の調査に区分することは、納税義務者の事前の同意があればできることに留意するとしている(手続通達3-1(4))。 区分するかどうかは、再調査ができる範囲に影響するので重要である。手続通達5-6(注2)によれば、この取扱いがある場合には、「移転価格調査を行った後に移転価格調査以外の部分を行うときは、…(中略)…再調査には当たらないことに留意する。」とされている。 「この取扱いがある場合」とは納税者の事前の同意がある場合をいうと解されるので、同意がない場合には「再調査」に該当することになり、納税者が移転価格調査と法人税調査を切り離すことに予め同意していないときには、移転価格調査が終了した後で一般の法人税調査を行うことはできないものと解される。 では、移転価格調査が終了していない段階で一般法人税調査を追加的に行うことは可能なのであろうか。 改正通則法74条の9第4項は「当該調査により当該調査に係る同項第3号から第6号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。」としているので、納税者が移転価格と一般法人税調査の切離しに同意していない以上、移転価格調査の過程で一般法人税の非違が見つかった場合には、その非違については更正できるが、それ以上に本格的な一般法人税調査を開始することはできないものと解される。 以上のような問題が起きることが考えられるので、課税庁は、移転価格調査を行う場合には、通常の法人税調査とは区分することについて、事前に同意を求めるものと思われる。 (2) 修正申告等の勧奨の際の教示文の交付 修正申告の勧奨の際に、修正申告をすると不服申立てはできないが更正の請求をすることはできるという説明が口頭で行われるとともに、その旨を記載した書面が交付される。この書面交付は「交付送達」に該当するので、受取りに署名・押印を求められる。この説明がない場合には、平成25年1月1日以降開始の調査の場合には、手続上の違法があったとして課税処分取消し事由になる可能性もあるので、説明がなかった場合にはその旨を記録しておく必要がある。 【次回は創刊準備4号に掲載予定】 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「「納税環境整備に関する国税通則法等の改正」について」

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#小林 正彦
2012/10/25

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第1回】

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第1回】 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 平成24年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が国会で可決され、消費税法の改正として、消費税率(消費税及び地方消費税)が引き上げられることとなった。 なお、今回の法案において確定した規定は、主に消費税の福祉目的税化、消費税率の段階的引上げ、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例、中間申告制度の見直し、請負契約等の経過措置規定であり、逆進性対策としての複数税率の導入、給付付き税額控除、簡易課税制度の見直しなどの項目については検討事項となっており、未だ具体的な内容は確定していないため、今後の法改正についても注意が必要である。 今回の改正により、以下のように消費税率が平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%と2段階で引き上げられることとなるため、この税率変更に伴い、商品価格表示の変更やレジスター等のシステム変更といった、事業者側が事前に行わなければならない対策の必要性が短い期間に二度も生じることとなり、事業者の事務負担が増大することが考えられる。 この税率変更に伴う対応策については、平成9年4月1日において消費税率が導入時の3%から5%へ変更された際に一度行われているが、主な内容としては、以下のようなものがある。 また、平成16年4月の税制改正により、「不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめその資産又はサービスの価格を表示するときは、その資産又は役務の価格に係る消費税及び地方消費税の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない」とする「総額表示義務規定」が創設されたが、この規定により、今回の改正では平成26年4月と平成27年10月の2回にわたって表示の変更をしなければならず、この対応策に多大なる事務負担が考えられるので注意しなければならない。 さらに、この総額表示の義務化により、税率が上がった場合に、1円単位まで消費税を表示して徴収ができるかどうかという消費税の転嫁方法に問題が生じることとなり、税率変更前に十分な検討が必要となる。 次回以降の連載では、上記の税率変更に伴い企業内で起こりうる実務上の問題点について、平成9年4月1日税制改正に伴って生じた事例を踏まえた上で、詳細に確認していく。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#島添 浩
2012/10/25

改正労働契約法 【② 企業の対応策】

改正労働契約法 【② 企業の対応策】 社会保険労務士 桑野 真浩 前回は、改正された労働契約法について、その改正ポイントを解説した。 今回は、改正に伴う企業(使用者)と従業員(労働者)の対応はどうすればよいのか、という点について述べたい。   Ⅰ 無期労働契約への転換 有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールである。 ※5年のカウントは、このルールの施行日以後に開始する有期労働契約が対象。施行日前に既に開始している有期労働契約は5年のカウントに含めない。 【労働者(従業員)の立場から】 現在の有期労働契約期間中に、通算契約期間が5年を超える場合、その契約期間の初日から末日までの間に、無期転換の申込みをすることができる。申込みをすると、使用者が申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約(期間の定めのない労働契約)が成立する。無期に転換されるのは、申込み時の有期労働契約が終了する翌日から。 【使用者(企業)の立場から】 無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となる。つまり、労働契約の期間が、有期から無期に変わるだけと判断して構わない。別段の定め、例えば短時間正社員就業規則により、変更が可能。無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできない。   Ⅱ  「雇止め法理」の法定化 最高裁判例で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定された。一定の場合には、使用者による雇止めが認められないことになるルールである。   Ⅲ 不合理な労働条件の禁止 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールである。 (連載了) 【参考①】厚生労働省ホームページ 「労働契約法が改正されました」 【参考②】厚生労働省ホームページ 「パートタイム労働者の雇用管理の改善のために」

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#桑野 真浩
2012/10/25

IFRSは今、どうなっているのか?【前編】

IFRSは今、どうなっているのか? 【前編】   公認会計士 乾 隆一   2012年10月2日(火)、4ヶ月ぶりに金融庁13階共用第1特別会議室にIFRS関係者が集まった。日本でのIFRS適用に関して議論している企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が開催されたからだ。 2012年7月。IFRSに関して大きな2つの発表があった。 まず7月2日、金融庁が「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」(以下、「中間的論点整理」)を公表した。 そして7月13日、SEC(米国証券取引委員会)が、「Work Plan for the Consideration of Incorporating International Financial Reporting Standards into the Financial Reporting System for U.S. Issuers(スタッフによる最終報告)」(以下、「スタッフ最終報告」)を公表した。 これらの公表から3ヶ月。その間に、金融担当大臣は2回交代した。 しかし、10月2日の会議では目新しいことはなく、IASBの現在の状況報告などがメインであった。 では、IFRSはどのように進んでいくのであろうか。 2009年6月。企業会計審議会は、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(以下、「中間報告」)を公表した。この中で、2010年3月期から一定の条件を満たした上場企業へのIFRS適用が認められた。また、2012年を目途として、IFRSの強制適用の判断を下すことになった。 そして、この「中間報告」を受け、2010年3月期にIFRSによる開示第1号の企業が出た。日本電波工業である。翌2011年3月期からは、HOYA、住友商事がIFRSを適用し始めた。2012年3月期からも2社。2013年3月からは4社がIFRSを適用する予定になっている。 しかし、「中間報告」に明示された2012年を目途としたIFRS適用の判断は、どうやら2012年中にはなされそうにない。 そもそも、米国は2011年にIFRS適用の判断をする予定であった。その判断を受けて日本もIFRS適用の判断をするのではとも言われていた。しかし、米国の判断は延期されて今に至っている。しかも、2012年になっても判断は行われず、7月になってようやく、上記スタッフ最終報告が出されたにすぎない。スタッフ最終報告であるから、SECの最終報告ではない。 つまり、大統領選が終わり、次期政権が確定しない限り、米国におけるIFRS適用戦略は不透明であるとみられている。 そして、そんな米国を見て動いている日本。 2011年6月。自見金融担当大臣(当時)の政治主導の発言のもと始まった企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議。ほぼ毎月会議が開催され、1年の議論の末、公表されたのが、冒頭の「中間的論点整理」である。 企業会計審議会は、過去、いくつもの中間報告と呼ばれる報告書を公表している。しかし、中間的論点整理という名称のついた報告書は初めてである。1年に及ぶ議論にもかかわらず、中間報告になるまで議論をまとめられず、とりあえず出された報告書、それが今回の「中間的論点整理」という印象を抱いてしまったのは、筆者だけであろうか。 【後編へ続く】 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#乾 隆一
2012/10/25

事例で学ぶ内部統制【第1回】「5年目の内部統制報告制度、各企業が抱える課題とは?」

事例で学ぶ内部統制 【第1回】 「5年目の内部統制報告制度、 各企業が抱える課題とは?」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 筆者が代表を務める株式会社スタンダード機構は、内部統制報告制度が踊り場に差し掛かった3年目にあたる平成22年6月から定期的に、企業で内部統制を担当されている部課長に参集いただき、内部統制報告制度をどうやって有効かつ効率的に運用するべきかを考える交流会を行ってきた。交流会では、毎回、内部統制をめぐり企業の現場で起こっている実務課題と解決策を持ち寄る。 参加企業は、年商100億円程度の中堅企業から数兆円程度の大企業にまでわたり、業種も、電機、食品、卸、重工業、建設、商社、情報通信など、多種多様である。また、交流会には監査法人は参加しておらず、企業の実務担当者による意見交換となった。 本稿では、交流会で交わされた内容を振り返り、「内部統制の現場で何が問題となっているのか」、「その解決として各企業がどういう知恵を絞っているのか」という視点で、今後の内部統制の運用に役立つ事例を紹介していく。   5年目に入った内部統制報告制度 内部統制報告制度は、平成24年4月から5年目に入った。金融庁が実施基準を公表したのが平成19年2月、内部統制報告の開始が平成21年3月決算からであるから、企業に与えられた準備期間は2年余りであった。経理部門に限らず、企業のさまざまな部門を巻き込んで取り組む制度としては、極めて急ピッチで対応が進められたことになる。 参加企業Aは、「正直、導入2年目までは、監査法人が何をどのレベルまで対応するのかという基準を持ち合わせていなかったし、私たちには知識も経験もなかったので、監査法人からの場当たり的な要望の内容を斟酌しながら対応を進める手探り状態だった」(食品メーカー)と、導入当時を振り返った。 金融庁によれば、初年度の内部統制報告制度で、開示すべき重要な不備があると報告した企業の比率は2.4%、その後もこの比率は低位で推移している。そこで、制度4年目を迎えた平成23年3月、金融庁は早々と実施基準の簡素化案を公表した。 各社で簡素化案をどのように自社に取り込むべきかという議論が交わされる中、平成23年末にオリンパスや大王製紙の巨額会計不正が絡む内部統制の不備が発覚し、現在に至っている。 参加企業Bは、「従来の実施基準は抽象的だったため、わが社が他社よりも過剰な対応をしていないかどうかを検証したくても、物差しがなかった。基準が改定されて簡素化に向けた方法が提示されたが、この簡素化案を他社はどの程度採用しているのだろうか、という新たな疑問も出てきた」(建設会社)と、簡素化案の公表後も依然として基準の適用に悩む実情を吐露した。 参加企業Cは、「日本は米国に比べて内部統制の重要な不備の報告が少ないというが、実態を表しているのだろうか。日本では、内部統制の重要な不備を外部に公表するのは恥を晒すことに等しいと考える企業が多いのではないか。わが社はまさにその思想で、内部統制評価部門が合格を出すまで評価を何度も繰り返すとか、評価される側の部門が、事前にすべての伝票を全件チェックして、不備があれば修正して評価に臨み、不備の発覚を防ぐという対応をしていた。簡素化案に踏み切ることは、わが社の場合は拙速だと思う」(商社)と話し、簡素化の適用には懐疑的だった。 このように、内部統制の開始からこれまでの企業の対応状況は悩ましく、紆余曲折を経ている。   制度がもたらした便益とは 他方、内部統制報告制度が企業に良い効果をもたらした面もある。 参加企業Dは、「株式を公開している企業にとって財務報告の信頼性が重要だということに、経理部だけでなく、経理部以外の従業員が理解を示すようになった」(精密機器メーカー)と、全社的な活動としての内部統制の効果を認めた。 参加企業Eは、「財務諸表監査も含めて、監査法人との付き合い方が変わった。内部統制報告制度が導入される前は、私たちはいわば丸腰で、監査法人に言われるままだった。導入後は、リスクとかアサーションとか、監査法人の思考パターンが分かり、監査法人とのコミュニケーションに必要な武器を持つことができた。そのうち、監査法人の言うことを丸呑みするのではなく、他社の事例も踏まえて監査法人と協議する姿勢が生まれ、効果的な監査につながった」(電機メーカー)と話した。 参加企業Fは、「内部統制に対する理解が高まることで、取引先との関係が健全になった。顧客が上場企業の場合、顧客側が購買業務の内部統制を整備する過程で、わが社に対して無理難題のある取引条件を強いることがなくなり、商売がしやすくなった。他方、わが社の仕入先に対して特別な条件や無理な条件で取引することがなくなり、取引条件の透明性が高まり、業務の効率化が実現できた」(食品メーカー)と話した。 いずれも、当初から内部統制に期待された便益である。   山積する実務上の課題 それでも、参加企業の声を聞くにつけ、依然として企業の現場では、制度全般と個別具体的課題の両面で課題が山積しており、どの指摘も、これからの内部統制の課題として正鵠を射ていると感じる。 参加企業Gは、「内部統制も5年目に入り、現場は監査慣れしてしまった。均一化されたルーティーン運用を続けていて、本当に役立つのだろうか、という悩みや疑問が尽きない。もっと効果のある運用をしたい。でも、監査法人はなかなかメリハリのある評価の方法や簡素化の方法を教えてくれない」(情報通信会社)と、制度全般に対する課題を漏らした。 個別具体的な実務課題は次のようなものだ。 まず、「内部統制評価は、毎年同じ作業の繰り返しだが、どの作業をいつごろから開始すればよいのか」という年間スケジュールの問題がある。 監査組織上の実務課題は数多いが、 「社内の内部監査部門の人員が削減される中、少ない人員で内部監査部門の独立性を保つための工夫は何か」 「そもそも内部監査部門の負荷として、1名あたりいくつのコントロールの評価を担当するのがちょうどよいのか」などだ。 評価の手法をめぐる実務課題としては、 「全社レベルの内部統制で、実施基準はCOSOモデル42項目となっているが、企業の実情に応じて追加した評価項目の事例はあるのか」 「プロセスレベルの内部統制で、評価の対象となる重要なコントロールを絞り込むため、キーコントロールと呼ばれる概念を使う場合、その比率は何%ぐらいか」 「決算プロセスの内部統制の評価は専門性が高く、リスクも高いと言われるが、そもそも、どのようなリスクとコントロールを認識しているのだろうか。また、リスクコントロールマトリクス(RCM)を使わない企業があると聞いたが本当か」 などが挙げられた。 運用評価のあり方は、今回の簡素化に大きく関係しており、 「効率化のために、どのように評価対象となるコントロールの絞込みをするのか」 「効率化のために、どのように評価対象部門の集約をするのか」 「運用テストの対象期間とサンプル数は、本当に各社で同じなのか」 「エラーが発生したときの再評価の方法を工夫したい」 などの重要な実務課題が多い。 今回は、内部統制報告制度の開始からこれまでを振り返り、交流会に参加した各企業が制度の便益を認めながらも、より有効かつ効率的に運用するための実務上の悩みや課題を抱えている実情を紹介した。 次回以降では、交流会で交わされた個別具体的な実務課題と解決に向けた取組みの事例を順次紹介していく。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#島 紀彦
2012/10/25

平成24年分 おさえておきたい年末調整のポイント ①今年度適用となる改正事項 (生命保険料控除の改正)

平成24年分 おさえておきたい 年末調整のポイント ① 今年度適用となる改正事項 (生命保険料控除の改正)   公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】改正の概要 平成23年分までの生命保険料控除は、一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除から構成されていた。平成24年分以後は、この2つに介護医療保険料控除が加わることとなる。 これら3つの控除額は、保険契約の締結時期が平成24年1月1日以降(新契約)か平成23年12月31日以前(旧契約)かによって、下記の【2】(1)~(3)の計算式を適用し、別々に計算する。ただし、適用限度額は3つの合計で12万円である。 新契約にかかる保険料は、契約の保障内容に応じ、次のように区分される(支払った保険料が具体的にどの控除の対象となるかは、保険会社から発行される控除証明書に記載される)。    【2】控除額の計算方法 (1)平成24年1月1日以後に締結した保険契約(新契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除、介護医療保険料控除) (2)平成23年12月31日以前に締結した保険契約(旧契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除)=平成23年分までの計算式と同じ (3)新契約と旧契約の双方に加入している場合の計算 一般の生命保険料、個人年金保険料それぞれについて、次の①~③のいずれかを選択 なお、平成23年12月31日以前に締結した保険契約について、平成24年1月1日以後に一定の契約内容の変更(更新、特約の中途付加等)が行われた場合には、変更時点で新契約を締結したものとみなして、その後の控除額を計算する。   【3】具体的な計算例 〈ケース1〉すべての保険契約が旧契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 →生命保険料控除の額:100,000円 ※(50,000円+50,000円=100,000円≦120,000円) 〈ケース2〉すべての保険契約が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(1)より40,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(1)より40,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:115,000円 ※(40,000円+40,000円+35,000円=115,000円≦120,000円) 〈ケース3〉一般の生命保険と個人年金保険が旧契約、介護医療保険が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(50,000円+50,000円+35,000円=135,000円>120,000円よって120,000円) 〈ケース4〉一般の生命保険について旧契約と新契約の双方がある場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(3)より42,500円 ① 新契約のみを対象:32,500円 ② 旧契約のみを対象:42,500円 ③ 新・旧双方を対象:40,000円(32,500円+42,500円=75,000円>40,000円) ①~③のうちの最大控除額は②の42,500円 ・個人年金保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(42,500円+50,000円+35,000円=127,500円>120,000円 よって120,000円)   【4】控除額計算のまとめ   【5】記載例 上記ケース4における「給与所得者の保険料控除申告書」の記載例を示すと、以下のとおりである。 次回は「年末調整について質問の多い事項」について解説する。 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成24年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」 ※PDFファイル

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#篠藤 敦子
2012/10/25

〔会計不正調査報告書を読む〕【第1回】沖電気工業スペイン販社・不正会計事件「外部調査委員会報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第1回】 沖電気工業スペイン販社・不正会計事件 「外部調査委員会報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【資本関係】   【報告書のポイント】 1 不正の内容 販売代理店に対する架空売上の計上 架空売上債権をファクタリングして得た資金を販売代理店に循環して債権回収を偽装 液晶テレビ仲介業者に対する不正な資金支援(債務の肩代わり、売上債権の隠蔽) 同一売掛金をファクタリングした上で手形回収して割引に出す、重複ファイナンス リベート負担額の未計上、前受金を別の社の売掛金消し込みに充当する、等 2 影響額 6年3ヶ月間の累計で、売上高が75億円の減少、営業利益が216億円の損失、当期純利益が308億円の損失、純資産が244億円の減少。   3 不正発生の原因 ODCによる無理な販売計画を達成するため、卸売業者に対して過度な押込販売を行った結果、卸売業者の在庫が増加、購入代金の未払いが続出したため、売上の計上・取消しを繰り返したり、債権回収を偽装したりして、卸売業者を支援したことがきっかけとなる。 スペイン販社代表者Aは、以下の理由により不適切な会計処理ではないと抗弁している。 ① 一部行為に関与していない ② スペインにおける商慣習 ③ 会計監査において長年指摘を受けていなかった Aは、スペイン販社設立当時(1993年)からあらゆる業務を掌握しており、スペインにおけるプリンタのシェアを急伸させた実績を有していた。   4 不正が長期にわたって隠蔽されてきた理由 上述のとおり、Aに対する親会社の信頼は厚く、また、スペイン販社内ではAに対して批判的なことは口に出せなかった。 ODC監査室は、2008年7月、初めての監査を実施したが、往査期間は2日間、実施手続はヒアリング中心で、特段の問題を認識することなく監査を終了し、これ以降内部監査は実施していない。   5 会計監査人の責任 報告書は、スペイン販社の会計監査を長く担当してきたErnst & Young Spainに関して、会計監査において、不自然な取引が検知されていた可能性もあるが、判明した事実のみでは会計監査の適切性を評価できないし、調査の目的でもないから結論表明は差し控える、としている。   6 経営陣による事態の掌握と対策 (1) 2008年度には、OEL傘下のドイツ販売子会社で本件同様大量の流通在庫が累積し、翌年以降買い戻すに至ったことがあったが、その後も流通在庫のモニタリング体制は改善されなかった。 (2) 2011年6月段階で、スペイン販社において、不正の端緒となる事象が、親会社であるOKI副社長、常務に報告されていたこと (3) スペイン販社の実態解明、改善の先頭になっていたD氏は、その手法、改善提案の内容を批判され、わずか半年足らずの在任期間で、退職したこと (4) D氏の退職後、OKI及びODC経営陣は、スペイン販社からの改善報告を漫然と受け入れ、むしろ、タイを襲った大洪水の対策を最優先課題としたこと   7 提言された再発防止策 (1) 再発防止に向けた役職員の意識改革 (2) 子会社管理体制の見直し (3) 関係会社等の事業及びリスクの特性に適合した財務報告に係る内部統制の再構築 (4) 関係会社等の経営状況のモニタリング体制の強化   8 報告書に対する評価 海外子会社による不正は、ここ数年の企業不祥事に多く見られる。親会社、日本国内のグループ会社は、金融商品取引法における内部統制報告制度の導入以来、リスクの評価、リスクに対するコントロールといった考え方が浸透しつつあるようだが、物理的な距離、商習慣や言葉の壁のせいか、海外グループ会社まで目が行き届かないというところか。 本報告書は、沖電気工業が、スペインのプリンタ販売会社(曾孫会社)の会計不正について、外部調査委員会を設置して調査したものである。本報告書の特徴を一言でいえば、全般的に経営者にとって非常に厳しい内容となっている点にある。例えば、「関係者において実態を直視することにより問題が明瞭になることを避けようという考えが働いた可能性は否定できない。」(42頁)における「関係者」とは、OKIの社長、副社長、常務、経理部長、財務部長を含むと考えられ、「任務懈怠」という直接的な表現こそないものの、経営トップとして適切な判断とは言い難いと評価されている。 また経理部門では、アメリカ子会社における会計処理が会計監査の責任者の交代により否認され、2008年に前年度の財務諸表を訂正した経験があることから、こうした事態を回避したいという認識が働いていたことも指摘されている。 スペイン販社は、「全社的な内部統制だけでなく、売上、仕入及び在庫等の重要な業務については業務プロセスに係る内部統制も含めて、経営者による有効性評価を実施すべき会社として区分されている。」(44頁)ということであるが、内部統制プロセスの運用評価はどのように行われていたのか。会計監査人がどのようにして、「財務報告に係る内部統制の評価結果について、すべての重要な点において適正に表示しているものと認める。」という評価ができたのか、不明である(その後、9月14日になって、内部統制報告書が訂正された)。 これまでに取り上げた不正以外にも、スペイン販社は簿外で4.85百万ユーロの手形を振り出していたという記述に続いて、「Q社(テレビ仲介業者)はこの手形を金融機関に持ち込み手形割引を行い換金したが、スペイン販社は手形の決済期日に支払いを行っていない」旨の記述がある(22頁)が、だとしたら、手形は不渡りになっているのではないかと思うのだが、その後の記述が見当たらない。筆者は、スペインの手形制度についての知見を有しないため、結論めいたことは書けないが、気になる記述であった。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#米澤 勝
2012/10/25

改正「退職給付会計」の要点と実務上のポイント 【第2回】「主要な改正ポイント(その2)」

改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第2回】 「主要な改正ポイント(その2)」 有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕 2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 このうち前回は、会計処理に関する(1)、開示に関する(2)について取り上げた。今回は、年金数理計算に関する(3)と、それ以外の変更点、適用時期について取り上げる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことを、あらかじめお断りしておく。   退職給付債務及び勤務費用の計算方法 〈退職給付見込額の期間帰属方法の見直し〉 改正前基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準を原則とし、その他の方法(給与基準、支給倍率基準、ポイント基準)は一定の場合にのみ認められていた。 改正後基準では、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかの方法を選択適用することとなる。給付算定式基準とは、「退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積もった額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法」であり、国際的な会計基準と同様な方法であるとされている。 なお、給付算定式基準による場合、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従わなければならない。 改正後基準の適用にあたり、その適用前に期間定額基準を採用していた場合でも、給付算定式基準を選択することができる。ただし、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかを採用した後は、原則として、これを継続して適用しなければならない。 〈割引率の見直し〉 改正前基準では、割引率の基礎となる期間について、退職給付の見込支払日までの平均期間を原則とするが、実務上は従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることもできるとされていた。 改正後基準では、割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとされ、「従業員の平均残存勤務期間に近似した年数」といった表現が削除された。 具体的には、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれるとしている。 なお、「割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる」といういわゆる「重要性基準」については、改正後基準においても変わらず残されている。 〈予想昇給率の見直し〉 改正前基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「確実に見込まれる」昇給等が含まれるものとされていた。 改正後基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「予想される」昇給等が含まれるものとされた。   その他の変更点 〈複数事業主制度の取扱いの見直し〉 「複数事業主制度のうち、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないケースでは、要拠出額をもって費用処理される」という従来からの取扱いは変更されない。 このケースにあたらないものとして、改正前基準では、「親会社等の特定の事業主に属する従業員に係る給付等が制度全体の中で著しく大きな割合を占めている場合」、「複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合」があげられていたが、改正後基準においては、このうち前者のみが引き継がれ、後者については、一律にあたらないとはみなさず、制度の内容を勘案して判断することとされた。 〈長期期待運用収益率の考え方の明確化〉 改正前基準における「期待運用収益率」は、改正後基準において「長期期待運用収益率」に名称が変更された。 この長期期待運用収益率の設定の際に考慮すべき事項は、改正前基準における取扱いを引き継いでいるが、長期期待運用収益率の算定は、退職給付の支払いに充てられるまでの期間等を考慮して設定することを明らかにしている。 なお、これは従来の考え方を改めるものではなく、取扱いの明確化にすぎないため、会計方針の変更には該当しないとされている。   適用時期 改正後基準は、平成25年4月1日以降開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。ただし「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」の改正については、平成26年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用する。 「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」の改正を適用することが実務上困難な場合には、一定の注記を条件に、平成27年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用することができる。 早期適用は、前記のいずれも平成25年4月1日以降開始する事業年度の期首から認められる(「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」以外の早期適用は、「平成24年4月1日以降開始する事業年度の年度末」からではないことに留意しなければならない)。 (了)

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#堀田 晃裕
2012/10/25
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