〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第13回】 「太陽光発電事業が減損に至った経緯」 -建設仮勘定の減損は予測できたか- 公認会計士 石王丸 周夫 〈はじめに〉 【第12回】で、減損損失の発生を予測することができるのかというテーマを扱いました。そこでの結論は、減損処理というのは段階を踏んで慎重に行われるものであり、ある時点において、どの段階まで進んでいるかがわかれば、その資産グループについて、減損が将来実施されるかどうかを感じ取ることができると述べました。そして、その情報源としては、「重要な会計上の見積り」の注記があることを紹介したところです。 本稿でも、同様のアプローチが当てはまる事例を取り上げます。太陽光発電事業に関する減損事例です。 さっそく事例を見ていきましょう。 〈今回の注記事例〉 (出所:第105期(2022年度)四半期報告書(第2四半期)) (※) 下線は筆者 上記事例において、減損損失が発生したのは太陽光発電事業に係る建設仮勘定等とのことです。減損の要因は、事業の見通しが不透明になったためだと記載されています。 建設仮勘定は、現在建設中の未完成の固定資産のことなので、減損損失の認識の判定及び測定に当たっては、今後完成までに要する支出を考慮に入れるところが特徴的なところです。 すなわち、建設仮勘定の将来キャッシュ・フローについて、今後完成までに要する支出、完成後に得られるキャッシュ・イン・フロー、そして完成後の利用や処分に要するキャッシュ・アウト・フローを合理的に見積もることになります。本事例の太陽光発電事業に係る固定資産についても、概ねそのようにして減損損失計上に至ったものと考えられます。 では、この減損損失が過年度の開示書類から予測できたかどうかを確認していきます。 〈重要な会計上の見積りの注記〔前年度〕〉 事例の会社について、本事例の前年度の有価証券報告書で、「重要な会計上の見積り」の注記を見ていきます。 (出所:2022年3月期有価証券報告書) (※) 下線は筆者 上記の注記内容を要約すると、減損の兆候はあったものの、割引前将来キャッシュ・フローの総額が建設仮勘定の帳簿価額を上回っている状況であり、減損損失の計上は不要であった、となります。 ただし、この資産を取り巻く状況は厳しいとみられ、注記の前半部分で、計画の遅れと事業環境の著しい悪化に言及しています。注記の末尾でも、「環境影響評価や周辺住民への対応など、運転開始に向けて解決すべき課題がある」と記載されており、資産の収益性について、不確実性の高い状態になっていることが示唆されています。 〈重要な会計上の見積りの注記〔前々年度〕〉 さらに1年さかのぼります。 減損実施の前々事業年度における有価証券報告書の「重要な会計上の見積り」の注記です。 (出所:2021年3月期有価証券報告書) (※) 下線は筆者 この注記は、前掲の2022年3月期の注記とほとんど同じ内容となっています。すなわち、減損の兆候はあったものの減損損失の計上は不要であるという結論ですが、ここで注目すべきは下線を引いた対象資産の帳簿価額です。「建設仮勘定の帳簿価額9,300百万円」とあります。この金額が前掲の2022年3月期の注記と同額なのです。 ピンときた読者の方もいると思いますが、この点こそ、「運転開始に向けて解決すべき課題がある」と記載している真の意味を理解するヒントであったといえます。 帳簿価額に変化がなかったということは、単純に判断して、当該建設仮勘定の資産は1年間増加しなかったというわけです。つまり、建設が止まっているか、そうでなければ、完成しているが稼働できない状態ではないかと推測できます。もちろん、何かやむを得ない事情があって、設備の完成から稼働に至るまで一定の時間を要することも考えられますが、建設仮勘定の残高に1年間動きが見られないことは、通常、見過ごしてよい現象ではありません。この注記をリアルタイムで読んだ時にそう気がつくことができたかといえば、なかなか難しかったかもしれませんが、これは大事な点ではないかと考えられます。 〈重要な会計上の見積りは注意深く読む〉 太陽光発電事業をめぐっては複雑な背景もあるようなので、本稿ではこれ以上立ち入らないこととしますが、以上を整理すると次のようになります。 (注) 2023年3月期第2四半期で減損実施 「重要な会計上の見積り」は2021年3月期から始まった注記なので、それより前の期についてはわかりませんが、本事例の資産は、減損実施の2期前から減損の兆候「あり」となっており、記載内容も楽観できるようなものではなかったことから、2023年3月期の減損実施は予期しうることだったといえそうです。 以上のように、「重要な会計上の見積り」で減損について言及がある場合、将来における減損損失発生の可能性を予測しうるケースもあるので、注意深く読む必要があります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第145回】 KNT-CTホールディングス株式会社 「調査委員会調査報告書(開示版)(2023年8月8日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【KNT-CTホールディングス株式会社調査委員会の概要】 【KNT-CTホールディングス株式会社の概要】 KNT-CTホールディングス株式会社(以下「KNT-CT」と略称する)は、1941年10月、有限会社関急旅行社として創業。1955年9月、前身である近畿日本ツーリスト株式会社設立。2013年1月、純粋持株会社体制に移行して、現商号に変更。旅行業を単一のセグメントとし、連結子会社21社及び関連会社1社を有する。売上高252,152百万円、経常利益12,058百万円、資本金100百万円。従業員数3,343名(2023年3月期連結実績)。近鉄グループホールディングス株式会社が議決権の67%を有する大株主である。本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は有限責任あずさ監査法人東京事務所。 新型コロナウイルスワクチン接種に係る業務において過大請求を行っていたことが発覚した近畿日本ツーリスト株式会社(以下「KNT」と略称する)は、KNT-CTが議決権の100%を所有する完全子会社。売上高159,505百万円、経常利益11,300百万円(2023年3月期実績)。 【調査委員会による調査報告書の概要】 1 調査委員会の設置経緯 (1) 過大請求の発覚 KNTの西日本支社管内の支店が、大阪府東大阪市(調査報告書上は「A地方自治体」と表記)から受託している新型コロナウイルスワクチン接種に係るコールセンター業務について、日によって約定した席数を下回る数でコールセンター業務を再委託していたにもかかわらず、東大阪市に対しては、約定した席数を基準に報酬を請求していたことが、東大阪市によるコールセンターでの再委託先従業員の勤務状況に関する照会によって指摘され、約2億9千万円の過大請求を行っていたことが発覚した。 (2) 調査委員会の設置 KNT-CTは、上記(1)の事案に係る請求差異の発覚を受け、請求差異があった他の事案の有無及び当該事案の事実関係の調査、請求差異が存在する事案においてKNT及びKNT-CTが行った企業活動の適否の評価並びに、仮に不適切な企業活動等であると評価されるものがあるとすれば、請求差異が発生した原因の分析を行い、KNT及びKNT-CTがとるべき再発防止策を含めた必要な対策をとりまとめること等を目的として、4月17日に、利害関係を有しない外部の弁護士2名及びKNT-CT社外取締役(独立役員)2名の計4名により構成される調査委員会を発足させた。 (3) 緊急社内点検 KNT-CTは、KNTにおける過大請求の発覚を受けて、2023年3月期連結決算等の企業会計に与える影響の検証等を行うことを目的として、調査委員会発足に先立つ4月12日から、KNTが関与してきた受託業務として登録されている案件2,924件に加えて、実質的に受託業務とみなされ得る案件209件、社内基幹システムに登録されていない案件19件を合わせて3,152件について緊急社内点検を実施している。 調査委員会は、事実関係の解明及びKNT及びKNT-CTにおけるコンプライアンスを中心とするガバナンスの実態を把握し分析するという観点から、KNTの受託事業の全体像を把握する必要があるため、KNT及びKNT-CTとの間で、社内点検の結果を調査の事実認定の一助として参照することを合意し、また、その前提として、社内点検のプロセスの妥当性を検証しその評価を行うことを、別個の委嘱事項として合意している。 2 緊急社内点検の結果及び調査委員会による評価 (1) 緊急社内点検の概要 社内点検では、3,152件の点検対象案件を次の4種類に分類した。 (※1) 委託元への請求数量が再委託先の稼働数量より少なく、結果として実際の委託元への請求金額が、稼働数量を基に算定された請求金額よりも少なくなっている等の場合に関して、請求内容には齟齬があるものの、委託元に損害を与えるものではない案件のこという。 (2) 調査委員会による評価 調査委員会は、社内点検により分類された案件についてのサンプル調査に基づき、委託元との交渉状況を踏まえての結論として、その目的や趣旨を没却するような問題があるとまでは認められなかったと結論づけた。 その理由として、調査委員会が行ったサンプル調査の結果として算定された請求差異の金額と、対応する事案について本社内点検により算定された請求差異の金額とが相違するところがあるものの、その差の金額規模、割合、KNTにおいて委託元である地方公共団体等と返還金額につき事実上の合意に至っている案件もあることに鑑みれば、請求差異の最終的な金額が、社内点検において算定されている請求差異の金額から大きく乖離する可能性が高いとはいえないことから、今後の委託元との協議状況を注視する必要はあるものの、現状において、社内点検は、請求差異の生じた事案の広がりや大枠の金額といった面を中心に本事案の全体像を把握するうえで、本調査の一助として活用し得るものと評価することができるとした。 3 調査委員会による事実関係の総括と評価 (1) 請求差異を発生させた行為に対する評価 調査委員会は、本事案における一連の不当・不適切な行為は、もとより、民事的には、KNTの委託元に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任が問題となり得る行為であり、このような問題行為がKNTの日常的な営業活動の中で発生していたということ自体、そもそも企業の業務として甚だ不適切であったと言わざるを得ないと断じたうえで、こうした問題行為は、税金を原資とする地方公共団体が管理する公金を喪失させる結果を招いており、委託元に対する契約違反等の問題にとどまらず、地方公共団体に対して損害を与えることを通じて、民間に委託されて実施される公益性の高い事業に対する市民ないし納税者の信頼をも損なうものであると強く非難している。 そのうえで、調査委員会は、本事案において請求差異を生じさせ公金の喪失を招いた行為は、当該地方公共団体に損害を与えた点で不当・不適切な行為であったのみならず、企業倫理の観点からも著しく不穏当であり、KNTの組織としてのレピュテーションを強く毀損するものであったと言わざるを得ないと締め括った。 (2) 本事案において請求差異を発生させる行為が複数の支店で同時的に行われたことに対する評価 調査委員会は、本事案では、KNTの複数の支店において、しかも同時期に、BPO事業を始めとする受託事業に関して請求差異が発生しているところ、本調査によっても、これらがKNTの組織としての意思決定に基づく指示によるものであったことや各支店間での通謀等により行われたものであったとの事実は確認されなかったとして、組織的な不正ではなかったとしている。 その一方で、調査委員会は、KNTの職員は、公益に関わる社会的にも重要なBPO事業に係る受託業務に携わる自覚に欠けるとともに、会社の利益追求を優先するあまり、契約の内容を正しく理解したうえでこれを誠実に履行するという業務の基本をないがしろにし、コンプライアンスに関する意識が後退していたと評されてもやむを得ないこと、単に特定の地域の支店やそこに所属する職員ら特定の個人に特有の問題が顕在化した事案に過ぎないとして本事案を矮小化するのは相当ではなく、むしろ、KNTの企業体質に関わる根深い問題が本事案の根底にあると見るべきであると評価している。 さらに、調査委員会は、社内点検において、資料等に不備がある等、証憑類が必ずしも整理されていないといったKNTの問題状況が明らかになっていることが、本事案のような行為の発生・継続・拡大に一定程度影響していたことは否定し難いと考えられ、そうした問題状況が、個別調査対象事案に係る支店にとどまらず、その多寡はともかく、その他の支店等にも認められたことからすると、こうした事情も、KNTの全体に通底するその体質に関わる問題状況を考えるうえで、無視することはできないと評価した。 4 原因分析(報告書59ページ以下) 調査委員会は、上記3の問題点を踏まえて、KNTにおいて、広範な地域で、かつ、同時並行的に発生し、長期間にわたって継続した不正請求につき、以下の3点を指摘した。 各項目についての具体的な内容は次のとおりである。 (1) 利益追求への強い指向の中で、各人の行為の妥当性及び適法性に対する意識が希薄化していたこと 調査委員会は、本事案が発生した直接的な原因について、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い受注が激減した旅行業に代わり、KNTの事業上重要な位置を占めるようになったBPO事業に関して、KNTの方針として利益の追求が強く打ち出され、各事案の担当者が、利益を増やす方策として再委託先へ発注する人員数を削減しつつ、委託元へは契約どおりの人員数に基づき請求をするといった業務手法をとるようになり、この手法の妥当性の検証や是正がなされないまま、継続されてきたと指摘した。その背景として、次のような実態を挙げている。 (2) 適切な業務遂行を担保するための管理態勢が極めて脆弱であったこと 調査委員会は、KNT及びKNT-CTにおいては、BPO事業におけるコンプライアンスの徹底を目的としたガイドライン等の整備や周知徹底をはじめとした法務機能、相互の監視・牽制機能、コンプライアンス違反事象の早期発見といった観点からの管理態勢が整備されていたとは言い難い状況にあったとして、次のように指摘した。 (3) 社内組織の各階層間における正確な意思疎通が欠如し、現場の問題を躊躇なく経営陣に進言する風士が醸成されていなかったこと 調査委員会は、KNTの企業体質について、次のように概括している。 そのうえで、KNTの企業風土を次のように評価した。 (4) 総括 調査委員会は、原因分析の最後に、①利益追求の指向、②各人の行為の妥当性及び適法性に対する意識の希薄化、③管理態勢の脆弱性、④階層間の正確な意思疎通や現場の問題を進言する風土の欠如により構成される企業風土(全社的な企業カルチャー)は、本事案の根本的な原因とも位置付けられるとしたうえで、こうした原因が複合的に影響し合うことで、不当な請求行為が、複数の地域で同時多発的に発生し、かつ長期間にわたって継続し是正もされなかった、という事態を招いたと結論づけた。 そのうえで、本事案の原因については、一部の職員層のコンプライアンス意識の低さ等の部分的・局所的なものとして捉えるのは適切ではなく、全社的な体質や制度設計といったより根源的な問題として捉える必要があると考えられると締め括っている。 5 再発防止策の提言(報告書74ページ以下) 調査委員会は、再発防止策の提言として、以下の項目を挙げた。 ここでは、調査委員会による再発防止策の提言における最後の項目、「内部監査部門の強化と社内での地位向上」について、具体的に見ておきたい。 調査委員会は、不正請求が発覚しなかった原因の1つとして、KNTの内部監査において、BPO事業が内部監査対象から外され、又はBPO事業における契約の業務遂行過程の適正性が監査対象となっていなかったことから、その業務遂行過程の適正性を確保できなかったと指摘したうえで、是正するために、BPO事業に限らず、業務遂行の役割分担のうち、全社的に統一すべき部分は統一的な業務遂行がなされているか(現場担当者の裁量で決定されていないか)という点を含め、業務遂行過程の適正性について的確な監査が可能となるよう、社内における内部監査部門の地位を向上させ、権限を強化することが肝要であると提言している。さらに、KNTの内部監査は、社内ルールが遵守されているかどうかを確認することに主眼が置かれ、社内ルールが存在しない場合は、そもそも監査対象としないという運用をしていた点でも不備があったと指摘している。 そのうえで、調査委員会は、内部監査部門を強化し、社内での地位を向上させることは、不正を発見することを会社全体として積極的に期待するという強い意思を示すこととなり、不正の芽を発見した場合には内部監査部門に相談、報告、通報等すれば適切に調査がなされるという期待を全社的に共有させ、逆に有耶無耶にされるのではないかという懸念や諦観を低減させるという効果も有し得るのであり、レポートライン及び内部通報制度の強化の一環ともいえると結んでいる。 【調査報告書の特徴】 本件は、KNTの不正請求が連日報道され、警察の捜査が入り、従業員4名が、詐欺容疑で逮捕・起訴されるという異常事態の中で進められた調査であり、開示された調査報告書にも黒塗りが目立ち、さらに「第4 本事案における個別調査対象事案等の事実関係」(調査報告書45ページ)には、次のような記述がある(同様の記述は、「第6 本委員会の把握したその他の事実関係」(調査報告書58ページ)にも見られる)。 1 代表取締役内定の取消 KNT-CTは、3月24日付で、「代表取締役の異動に関するお知らせ」をリリースして、代表取締役社長の米田昭正氏が代表権のない取締役会長となり、後任の代表取締役社長に代表取締役専務である小山佳延氏が就任することを公表していたが、本事案発覚後の4月25日に、「代表取締役内定の取消に関するお知らせ」をリリースして、これを取り消した。 その理由は次のとおりである。 なお、6月26日開催のKNT-CT第86回定時株主総会で、米田昭正氏、小山佳延氏はともに取締役に選任されて、株主総会後の取締役会で、米田昭正氏が引き続き、代表取締役社長となっている(※2)。 (※2) 「第86回株主総会決議ご通知」参照。 2 緊急社内点検によって判明した過大請求額の推移 KNT-CTが緊急社内点検の進捗に応じて、経過報告として公表した過大請求額の推移をまとめておきたい。 緊急社内点検が進むにしたがって、「十分な証憑が整わないことから過大請求の疑義がある」とした事案について、疑義が晴れて「過大請求ではない」と判断した事案が増加していることがうかがえるとともに、KNTと委託元である地方公共団体等と返還金額について合意に至っている案件も増加した結果、過大請求の見積額が減少しているようである。 3 KNT-CTによる再発防止策の策定方針 KNT-CTは、調査委員会による調査報告書受領の公表とともに、再発防止策の策定方針を公表した。その骨子は以下のとおりである。 (了)
給与計算の質問箱 【第44回】 「最低賃金と給与の設定」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 2023年10月以降に最低賃金が上がる見通しですが、当社も最低賃金を下回らないよう給与を設定しなければなりません。具体的な設定方法をご教示ください。 なお、当社の情報は以下のとおりです。 A 東京都の最低賃金は、2023年10月以降に1,113円になると見込まれる。 時給制はもちろんのこと、日給制や月給制においても時給に換算して最低賃金である1,113円を下回らないように給与を設定しなければならない。 以下、時給制、日給制、月給制のそれぞれの場合について解説する。 * * 解 説 * * 1 時給制の場合 時給1,113円以上に設定しなければならない。 2 日給制の場合 最低賃金を下回らないための日給設定の計算は、次のとおりである。 以上より、日給8,904円以上に設定しなければならない。 3 月給制の場合 最低賃金を下回らないための月給設定の計算は、次のとおりである。 (※) 1ヶ月の平均所定労働時間 =(365日-年間休日125日)× 1日の所定労働時間8時間 ÷ 12ヶ月 = 160時間 以上より、月給178,080円以上に設定しなければならない。 なお、以下の賃金等は最低賃金の対象外となっているため、178,080円に含まれない。 以上を踏まえると、月給を基本給160,000円、職務手当10,000円、通勤手当20,000円とした場合、これらの総額は190,000円となるが、通勤手当20,000円は最低賃金の対象外であるため、170,000円となってしまい178,080円を下回るため、月給として設定できない。 一方で、月給を基本給160,000円、職務手当20,000円、通勤手当10,000円とした場合、上記と同様に総額は190,000円となるが、最低賃金の対象外である通勤手当10,000円を除いても180,000円となり178,080円を上回るため、月給として設定できる。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第3回】 「分筆、合筆登記の基本と活用」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 登記制度における土地の単位 土地は、登記制度において「筆」(ひつ、ふで)という単位でカウントされる。一見すると、1つの土地に見えても、登記としては複数の筆に分かれているということがある。 建物の敷地の権利関係を調査したい場合は、底地となっている土地の登記記録をすべて取得し調査する必要がある。土地の登記記録は筆ごとに作成されるため、同じ建物の敷地であっても所有者が異なっていることもある。 2 分筆、合筆登記とは 分筆(ぶんぴつ)登記とは、1筆の土地を複数の土地に切り分ける登記であり、合筆(がっぴつ)登記とはいくつかの筆に分かれている土地を1筆の土地にまとめる登記である。いずれも土地家屋調査士が対応する分野となる。 【図表:分筆登記(宅地分譲のケース)】 【記載例:表題部(土地・分筆)】 【図表:合筆登記】 合筆登記は、土地の管理を行いやすくする目的や、宅地分譲のために行う分筆登記に先立って行われるケースなどがある。 【記載例:表題部(土地・合筆)】 3 費用やスケジュール 分筆や合筆を行う場合、所要の費用や時間が必要になる。特に分筆登記は、測量や境界標の設置など複雑な作業が必要になり、費用も数十万程度になることが多い。税理士としては、簡単には行えない手続であることを認識し、早い段階で土地家屋調査士と連携することが求められる。 4 税理士としての分筆・合筆登記の提案 分筆・合筆登記について理解しておくと、税理士としても顧客に対して多様な提案が可能となる。例えば次のようなものがある。 (1) 相続対策として土地を承継しやすくするケース 【図表:合筆してから分筆するイメージ】 仮に相続人が2人であるケースで、相続対象となる土地が筆ごとに大きさが異なり価値にも違いがあると、平等に土地を承継させることは困難となる。対象となる土地を合筆で1つにまとめてから、価値が等しくなるように分筆すると平等に承継がさせやすくなる。金銭で調整する方法もあるが、資産のほとんどが不動産で、金銭による調整が難しい場合は、検討してもよいだろう。 (2) 土地の整理を行うケース 【図表:小さな土地が存在するイメージ】 上図のように、所有する土地のなかに、1筆だけ小さな土地があったり、細かく分かれた土地ばかりを所有していたりするケースがある。このような状態だと管理が非常に煩雑になり、相続や売却の際に、うっかり登記するのを見落としてしまうなどのトラブルも起こりうる。一時的にコストはかかるかもしれないが、長い目で見たときには合筆により整理することも有益であろう。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第44回】 「鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価」 ~それぞれの関係~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 昨今、相続税との関係でも不動産の時価がしばしば問題とされますが、ご承知のように一概に時価といっても様々な捉え方があります。税理士の方々にとっては、実務との関係では相続税評価額(相続税の路線価)が比較的馴染みがあるものと思われますが、ケースによっては不動産鑑定士の作成した鑑定評価書に目を通す機会もあることでしょう。また、固定資産税評価額(固定資産税の路線価)も時価の目安を推し測る1つの資料として活用されています。さらに、国土交通省から毎年1回(3月下旬頃)発表される公示価格は、鑑定評価において価格を決定する際にバランスを図ったり、相続税評価額や固定資産税評価額の決定の基となる基礎資料として活用されたりしています。 そこで、今回は、公示価格との関係も踏まえた上で、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の特徴について述べていきます。 2 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点 最初に、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点を掲げれば〈資料1〉のとおりです。 〈資料1〉 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点 (※1) 「規準」とは均衡を保たせるという意味です。その際に、公示地点との諸条件の比較が行われます。 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価は、目的こそ相違するものの、その対象は同じ不動産であり、それぞれの根底には適正な時価が位置しています。 また、平成元年12月に土地基本法が制定される以前は、相続税及び固定資産税の基礎となる評価額(時価)は公示価格とは連動せずに求められていましたが、今日では相続税評価額は公示価格等の80%程度の水準、固定資産税評価額は公示価格等の70%程度の水準を目安とされていることはご承知のとおりです。 そして、相続税評価及び固定資産税評価において路線価を付設する際に、利用状況の類似するひとまとまりの地域内において、主要な街路に面し規模や形状が標準的な宅地(=標準宅地)の価格を求める際に公示価格や鑑定評価の結果が活用されています。 3 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点 次に、これらの相違点を掲げれば〈資料2〉のとおりです。 〈資料2〉 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点(※2) (※2) 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点はこの表に掲げたもの以外にも多くありますが、専門的な内容は割愛させていただきます。 (※3) 評価の「条件」に関しては連載の【第41回】で詳細な解説を行いましたので、併せて参照ください。 以下、税理士の方が比較的馴染みの薄い固定資産税評価について主な特徴を列記しておきます。これと〈資料2〉の表を併せて参照することにより、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点が明らかになるものと思われます。 なお、〈資料2〉に登場する鑑定評価の専門用語(限定価格等の価格)については、本稿での説明とは直接関係がないため、解説は割愛させていただきます。 4 まとめ 既に述べたことから察することができると思われますが、一概に土地の価格(時価)といっても様々なものがあり、それぞれ特徴があります。これらの特徴を踏まえた上で、必要な場面に応じて使い分けることが必要と思われます。 公示価格や相続税及び固定資産税の路線価はインターネットでも閲覧でき、しかも料金はかかりませんので、鑑定評価とともに時価を推し測る有用な手段であるといえます。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第4回】 「新しい福利厚生! 「職場NISA」とは」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇従業員のための「職場NISA」 職場環境を整えたい、従業員のモチベーションを上げたい、経営者であればそのような考えをお持ちの方も少なくないでしょう。そのためになにか良い福利厚生制度がないだろうかと、調査検討されることも多いのではないでしょうか。 今回ご紹介したいのは、「職場NISA」という福利厚生制度です。NISAというのは、これまで何回かにわたりお伝えしているとおり、国が推奨する資産形成のための特別な口座です。この口座で生まれる利益には税金がかからないという特徴を持ち、2024年にはさらに規模が拡大し利便性が高まる(【第2回】参照)と期待されている制度です。 職場NISAというのは、企業等が代表して金融機関と契約を結び、そのもとで希望する従業員がNISA口座を設定し資産形成を行っていくものです。財形貯蓄制度をイメージしていただくと分かりやすいかと思います。 〇職場NISAと財形貯蓄 財形貯蓄制度には目的によって一般財形、住宅財形、年金財形の3種類があります。このうち、住宅財形と年金財形については元利合計550万円までの利息部分が非課税で運用可能という税メリットもあります。また企業によっては、従業員の掛金に対して奨励金を出すところもあり、福利厚生制度としては広く知られた仕組みです。 ただ、財形貯蓄制度は預金や保険を用いた資産形成の仕組みであるがゆえに、近年は、低金利が続き税のメリットの対象となる「利益」がほとんど見込めず、利用者数もずいぶん減ってきていました。 そこで、財形貯蓄制度に変わる仕組みとして登場したのが職場NISAです。こちらも財形貯蓄と同様に従業員の掛金に対し企業が奨励金を出すことができます。この奨励金は、福利厚生費として経費計上している場合であっても、給与所得の対象として源泉徴収されます。 それでも企業からの奨励金を自身のNISAとして非課税で運用できるということは大きなメリットですから、これまでも一部の金融機関は積極的に企業側に紹介をしていたようです。とはいえ普及が進んだかというと、残念ながら知る人ぞ知る制度にとどまっていました。 〇賃上げ促進税制の適用 知名度の低い状態が続いていた職場NISAでしたが、2023年の春、職場NISAの奨励金が賃上げ促進税制の対象となる給与等に該当すると国税庁が発表したことにより、今改めて注目されています。 経済産業省のウェブサイトによると、賃上げ促進税制とは、企業等が一定の要件を満たしたうえで前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度と記載されています。実際の手続きについては、税理士の先生にご相談されることをお勧めしますが、国が推奨する「貯蓄から投資へ」の動きは企業の福利厚生制度に法人税圧縮効果を付加しながらも拡大が進んでいることは知っておくとよい情報であると考えます。 〇給与天引き方式と口座振替方式 日本証券業協会のウェブサイトでは、職場NISAにおける奨励金付与のスキームには給与天引き方式と口座振替方式の2種類があるとしていますが、今回の国税庁の発表ではいずれの手段を用いていても賃上げ促進税制における給与等に該当すると明言しています。 給与天引き方式では、従業員がそれぞれ定めたNISAへの積立金額を給与天引きで企業が預かります。そこに企業が奨励金を加算し契約をしている金融機関に振り込み、その後各従業員の口座に振り替えられる仕組みです。 一方口座振替方式の場合は、奨励金を給与に上乗せする形で従業員に直接支払い、従業員の口座からNISAの積立金額として指定の金融機関に振り替えられる仕組みです。 また、いずれの方法であっても、奨励金の拠出は毎月でも年に1回でも構わないとされています。財形貯蓄を例に考えると、年に1回従業員の積立額に対して定率で企業が奨励金を拠出するという企業も多くありましたから、職場NISAにおいても同様に考えてよさそうです。いずれにしても、従業員からしたら嬉しい制度ですから、福利厚生制度の導入を考えている企業にとっては検討に値するのではないでしょうか。 〇職場NISAの導入 企業に職場NISAを積極的に紹介している金融機関では、制度導入に際し従業員に対して行う説明会や投資教育までも提供しているところもありますから、一度相談されてみてもよいかと思います。 特に退職金制度を導入するまでは負担が重いと考えている企業にとっては、職場NISAであれば導入時に企業が負担する費用はありませんし、導入に関しては金融機関が丁寧にサポートしてくれているのが現状ですから、忙しい中でも比較的楽に導入ができるといえるでしょう。 奨励金に関しても、必ず付与しなければならないというわけではないため、従業員の資産形成のスタートを応援するという目的のために職場NISAというプラットフォームを設けている企業もあります。 この場合であっても、なかなか1人ではNISAという優れた国の制度に関する情報を手に入れることが難しい方も多い中で、企業が率先し情報提供をしてくれることは従業員にとって大いにメリットがあると考えます。 特に最近では、国民の金融リテラシーの向上のために様々な動きが起こっています。例えば高校生の授業に投資信託などの金融商品が取り上げられるようになったのもその好例でしょう。金融リテラシーとは、なにもマネーゲームに取り組むためのものではありません。経済活動を支える一員として、正しく経済を理解し、経済成長に貢献しさらにその恩恵を受けていくための知識です。 職場NISAを導入することで従業員の金融リテラシーの向上に寄与できれば、人材育成にも一役買うことでしょう。また、法人としての税メリットが明確化されたので、この機会に一度導入を検討されてみてもよいかと思います。参考になりましたら幸いです。 (了)
《速報解説》 監査役協会が「監査報告のひな型」を改定 ~「監査に関する品質管理基準」の改訂への対応とKAMに係る文例に言及する注記を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年8月17日、日本監査役協会は、「監査報告のひな型の改定について」を公表した。 対象となるものは、「監査役(会)監査報告のひな型」、「監査委員会監査報告のひな型」及び「監査等委員会監査報告のひな型」である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 「圧縮記帳と税額控除との調整」について制度間の統一的な取扱いを定めた改正措通案がパブリックコメントに付される Profession Journal編集部 国税庁は8月10日付で下記の通り、「租税特別措置法関係通達(法人税編)関係」含む4件の改正案をパブリックコメントとして公表、意見募集を行っている(受付締切日は9月10日)。 今回の見直しは、圧縮記帳の適用を受け、かつ、税額控除の対象となる機械装置等について、その取得価額に係る規定を整備するもの。 現行制度では、国庫補助金等の交付の目的となり、かつ、税額控除の対象にもなる特定資産を取得した事業年度の翌事業年度以降に国庫補助金等の交付を受けて圧縮記帳を適用する場合、下記のとおり、特定資産の取得価額から国庫補助金等の交付予定金額を控除した金額に基づき税額控除限度額等を算出することとする「圧縮記帳と税額控除との調整に係る取扱い」が設けられている税額控除制度と、設けられていない税額控除制度がある。 (参考) 上記のうち②については圧縮記帳と税額控除の取扱いが不明確なものになっており、とりわけ近年、新型コロナウイルス感染症への対策支援などの観点から特定資産の取得を促進する補助金の交付が増加していることから、今回の見直しに至ったとしている。 改正案では、租税特別措置法等の税額控除制度の税額控除限度額等の計算の基礎となる取得価額に係る共通の取扱いとして、上記②だけでなく①の各制度についても改正が行われている。 具体的には、法人が取得等をした税額控除制度の対象となる特定資産につき、その取得をして事業の用に供した事業年度後において圧縮記帳の適用を受けることが予定されている場合には、その特定資産の取得価額から、圧縮記帳の適用を受けるとしたならば損金の額に算入されることが見込まれる金額(「損金算入見込額」)を控除した金額が、税額控除限度額等の計算の基礎となる特定資産の取得価額となることを明らかにし、その取得価額の算定方法については、現行の上記①の各制度における「交付予定金額を控除する方法」ではなく、令和4年度税制改正で整備された法人税法上の規定(法令54③)によることとなる(詳しくは下記「措通42の5~48(共)-3の2(案)」参照)。 (注) 「「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)」及び「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)及び(所得税編)」においても同趣旨の改正案が示されている。 ただし、国庫補助金等の交付の条件を満たしていないため、その交付額が未だ確定していないこと等により損金算入見込額を適正に見積もることが困難である場合には、損金算入見込額ではなく、これまでどおり国庫補助金等の交付予定金額を控除することが注記されている。 (了)
《速報解説》 国税庁、各個別通達を消基通に統合等する改正を公表 ~インボイス制度開始とともに適用、既存の一部法令解釈通達は同日廃止~ Profession Journal編集部 令和5年8月10日、国税庁は「消費税法基本通達の一部改正等について(法令解釈通達)」を公表し、同年6月1日から30日まで意見募集していた改正案を確定した。 上記と合わせて意見募集の結果も公表されており、寄せられた全14件の意見について、その概要及び意見に対する国税庁の考え方も明らかにしている。 なお、意見募集の結果、改正案からの変更点はないとしている。 1 改正の概要 (1) 統合する個別通達 今回の改正では、令和5年10月1日のインボイス制度の開始を踏まえ、制度開始前から制定し法令解釈を示している軽減税率制度やインボイス制度、総額表示に係る個別通達を廃止した上で、その内容を消費税法基本通達に統合等している。 次の①~③の個別通達を消費税法基本通達に統合するとし、具体的には、各個別通達を消費税法基本通達の該当する箇所に挿入するとともに、一部表現の適正化等を行っている。 (2) 既存の取扱いに係る整備 これまで国税庁は、事業者のインボイス制度対応に資するよう、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下「インボイスQ&A」という)を国税庁ホームページに掲載し、随時、事例の追加・掲載内容の改訂をしてきたところ、今回の統合に合わせ、インボイスQ&Aで示していた内容を踏まえて、消費税法基本通達の改正を行っている。なお、従前のインボイスQ&Aの内容と異なるものではないとしている。 主な改正内容は次のとおりである。 (3) その他消費税法基本通達の整備 上記(1)及び(2)のほか、インボイス制度を踏まえて一部の通達を改正している。また、次のとおり令和5年度税制改正に関する取扱いの明確化等に係る所要の改正を行っている。 2 適用時期 この法令解釈通達による改正後の取扱いは、令和5年10月1日から適用となる。また、上記(1)の①~③の法令解釈通達については同日に廃止される。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年8月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.531を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。