面接・採用・雇用契約までの留意点 【第4回】 「労働契約時に明示すべき労働条件と 実務上の対応について」 社会保険労務士 菅原 由紀 労働契約とは 労働契約とは、賃金等一定の労働条件のものに、自己の労働を提供する契約を言い、労働者と使用者との間で、賃金その他の労働条件について取り交わすことをいう。 労働契約は、契約期間の定めのないものを除き、原則として契約期間の最長は3年である。 ただし、高度な専門職や、満60歳以上の労働者が労働契約を締結する場合の最長は5年となる。 労働基準法における労働条件の明示義務 労働基準法15条1項及び同施行規則5条は、労働契約締結時に、使用者は労働者に対し、以下の事項を明示することを義務付けている。 この書面による明示は、正規社員以外のパートタイマー、アルバイト、日雇い労働者にも必要である。 ただし、就業規則に当該労働者に適用される条件が具体的に規定されている限り、契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにした上で就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はない。 なお、労働契約は諾成契約であるため、口約束だけでも成立する。また、民事的には「契約自由の原則」から、その契約内容が公序良俗や信義則などに反しない限り、契約当事者間の合意があれば、いかなる内容の契約を締結しても自由である。 しかし、労働法令は、労使間の雇用契約に対して、違約金・賠償予定額・前借金相殺・強制貯金などを定める契約を禁止している。また、労働法令に違反する労働契約内容の部分は、無条件に労働法令で定められた労働基準まで引き上げられる。 また、労働契約で明示された賃金や労働条件が事実と違うときには、労働者はただちにその労働契約を解除することができ、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費等を負担しなければならない。 「雇用契約書」作成の必要性 労働契約締結時の個別具体的な労働条件内容は、その内容が曖昧・不明確な場合は、後々の労使間トラブルの発生原因になることが多々ある。 したがって、労働法令上は、所定の労働条件を記載した書面を交付することで足りるが、後でその書面を「もらっていない」とか「見ていない」等のトラブルとならないように、実務上は、同じ内容の書面を「雇用契約書」として2通作成し、労働者側にも署名又は記名押印させて、労使双方で各々1通ずつ保管することは、トラブルの未然防止のために望ましいと考える。 (連載了)
事例で学ぶ内部統制 【第8回】 「連載前半を振り返って ~各企業の傾向を探る~」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに この連載も8回目を数え、折り返し地点に来た。 そこで、今回は趣向を変え、連載の前半で扱ったテーマを振り返り、内部統制報告制度をめぐる企業の対応の傾向や制度の最新事情を整理し、改めてこの連載の趣旨を読者各位と共に確認してみたい。本稿の最後では、連載の後半で予定しているテーマも紹介する。 前半のラインナップは、以下のとおりとなった。 連載の趣旨 この連載は、制度開始から5年目を迎える今、制度を有効かつ効率的に運用するため各企業が取り組む事例を紹介する趣旨で始めた。 ここで大切なのは、事例を通じて考えることである。 振り返れば、上場企業の経営管理分野に迫られた制度の多くは、会計基準の国際化や内部統制報告制度など、平成不況10年から金融ビッグバン以降のいわゆる“失われた20年”の間に矢継ぎ早に導入されている。 私見を交えて言えば、この20年間は米国に倣って構造改革による資本市場偏重型の制度が導入され、官民こぞって金太郎飴のようにグローバルスタンダードと呼ばれる企業経営システムを追い続けて迷走した20年と呼んでも過言ではない。 内部統制報告制度では、多くの企業は基準の文言をにらみながら、何をどのレベルまで対応するのかという客観的な情報が欠如したまま、監査法人との閉じたコミュニケーションだけで制度対応を進めてきた。 筆者主催の実務家交流会では、企業も監査法人も手探り状態だったことから、自分の頭で考えることを放棄し、ほとんど思考停止の状態で向き合っていたことが、有効かつ効率的な制度運用を阻害していたことが明らかとなった。 筆者は、この課題を乗り越えるには、企業同士が自社の現場で起こっている実務課題と解決策の事例を持ち寄ること、蓄積された事例を咀嚼しながら制度の根底にある普遍的に重要な要素や企業が対応すべき適正レベルを自分の頭で柔軟に考えて見極めるというプラグマティックな姿勢が何よりも有効であると思う。 そこで、この連載でも、実務家交流会で報告された事例を、参加企業間で実際に交わされた言葉で臨場感をもって紹介し、読者の参考に供することを目指してきた。 企業の対応の傾向 連載の前半では、制度全般に対する課題、個別課題として、内部統制を有効に運用する年間スケジュール、限られた人員で経営者評価の独立性をいかにして保つか、監査部員の生産性指標として1名当たりのコントロール数の比較、全社レベルの内部統制(ELC)におけるCOSOモデルの採用実態、プロセスレベルの内部統制(PLC)におけるキーコントロールの比率の比較の事例を紹介した。 各テーマで企業が抱える実務課題や解決策は様々であったが、総括すれば、導入当初は制度の枠組みを杓子定規に捉えて対応していた企業が、その制度がもたらす便益を実感するにつれて、思考停止状態から脱却して、その制度の中身を腹に落として理解し、自分の頭を使って柔軟に対応する傾向が見られる。 その根底にあるのは、リスクのある所に必要なコントロールを設定するというリスクアプローチの原則である。この原則が、組織内部並びに監査法人に対する姿勢に取り込まれ始めた。 組織内部にリスクアプローチを取り込み始めた企業では、自社のリスクは何か、必要なコントロールは何かを考えるという視点で、制度の枠組みを捉え、自社の経営管理システムに落とし込んでいる。 監査法人に対する姿勢も変わってきた。従来は監査法人の指摘に従うだけで必ずしも自分で考えるという姿勢を実践できていなかった企業が、他社事例という交渉材料を武器に自社のリスクとコントロールのあるべき姿を策定し監査法人に提案するという形で、リスクアプローチが具現化されてきた。 内部統制制度をめぐる最新事情 制度をめぐる最新事情を考えるにあたり欠かせない当面の事象は、次の2点と思われる。 まず、冒頭触れた失われた20年における企業経営システムのいわゆるグローバルスタンダード化の流れでこの制度を見れば、同じ流れに位置する会計基準の国際化による影響を外すことはできない。すなわち、国際財務報告基準(IFRS)の対応が内部統制に及ぼす影響である。 平成22年9月に行った実務家交流会で、収益認識基準が当時のIFRSに変更された場合に内部統制に与える影響を意見交換したところ、当時からリスクとコントロールの変更点を整理できている企業が過半数を占めていた。 その後、平成23年6月に金融庁がIFRSの強制適用をめぐり5年から7年の十分な準備期間を設定するとの姿勢に転じ、IFRSの採用のあり方を再検討し始めたため、多くの企業では、IFRSの動向を注視しつつも、IFRSがもたらす内部統制への影響を探りかねている。 次に、平成23年3月に金融庁が公表した実施基準の簡素化案をどのように取り込むかという点である。 簡素化案の内容の多くは、運用評価にかかる業務負荷の軽減に関連している。 簡素化案が公表される1年以上前から実務家交流会で事例交換をしていた参加企業にとって、この簡素化案は解決策を先取りする目新しい内容ではなく、むしろ解決策を試行錯誤した企業がたどり着いた創意工夫を後押しする制度的追認にとどまったと思われる。 なお、企業が簡素化案をどのように取り込んでいるのかという事例は、連載の後半で紹介する予定である。 連載の後半のラインナップ 最後に、次回以降の連載で予定しているテーマを紹介しよう。 決算財務報告プロセス(FSCP)の内部統制をめぐるテーマとして ・個別決算業務プロセスの内部統制の評価 ・連結決算業務プロセスの内部統制の評価 を取り上げる。 また、運用評価のあり方をめぐるテーマとして、 ・効率化のために他社が取り組んだ評価対象部門の集約事例 ・運用評価の対象期間とサンプル数の工夫 ・エラーが発生したときの再評価のやり方の工夫 平成23年3月の簡素化案に関係するテーマとして ・重要な不備は発生しないという思い込み ・平成23年度に他社が取り組んだ内部統制の簡素化事例 を予定している。 読者各位には、引き続き、この連載を参考にしていただきたい。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第1話】 「お客様が本当に知りたいのは……」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 商店街を2人で歩きながら…… 〈ワンポントアドバイス〉 自分の作った細かい資料で一方的に説明しないこと。 まず、経営を語ってもらい、聴くことから始めましょう。 お客様のニーズがわかり、適切なアドバイスにつながります。 (了)
《速報解説》 〔総点検〕 平成25年度税制改正大綱 税理士法人トーマツ 税理士 飯塚 信吾 税理士 桑田 智隆 平成25年1月24日に公表された「平成25年度税制改正大綱」の中から、特に注目すべき改正事項を取り上げてまとめました。 詳細については原文をご覧ください。 第一 平成25年度税制改正の基本的考え方 ⇒【大綱P1~9】 円高・デフレ不況の長期化、成長機会や若年雇用の縮小、復興の遅延等の閉塞感を打破するため「成長と富の創出の好循環」を強く意識した民間投資や雇用を喚起する政策的税制措置が盛り込まれた。また、個人税制においては、累進税率のフラット化が進み所得再分配機能が低下している状況を受けて所得税の最高税率の引上げを行う。 相続税については、地価が大幅に下落する中においても、バブル期の地価上昇に対応した基礎控除や税率構造の水準が据え置かれてきた結果、富の再分配機能が低下している。こうした状況を受けて、課税ベースの拡大と税率構造の見直しを行う。また、贈与税の最高税率を相続税に合わせる一方で、高齢者の保有する資産を現役世代により早期に移転させて、その有効活用を通じて「成長と富の創出の好循環」につなげるため相続時精算課税制度の拡充を行う。 自動車取得税及び自動車重量税については、国及び地方を通じた関連税制の在り方の見直しを行い平成26年度税制改正で見直すこととなった。 また、注目されていた消費税軽減税率制度の導入は、10%引上げ時に導入を目指すこととなった。なお、消費税の転嫁対策については独占禁止法及び下請法に関する法制上の措置を講ずることとなった。 第二 平成25年度税制改正の具体的内容 一 個人所得課税 1 最高税率の見直し ⇒【大綱P10】 富裕層に対する課税強化の観点から、現行の所得税の最高税率(課税所得1,800万円超に対する40%)の枠に加え、課税所得4,000万円超に対する45%の税率枠を追加する(平成27年分以後の所得税から適用)。 2 金融・証券税制 (1) 公社債等及び株式等に係る所得(利子・配当・譲渡所得等)に対する課税の見直し ⇒【大綱P10】 上場株式に係る配当及び譲渡所得については20%(平成25年末までは10%の軽減税率)の申告分離課税が原則で、その譲渡損失については配当所得との損益通算が認められている。 一方、公社債等に係る所得については、その分配に係る所得は利子所得とされ20%の源泉分離課税、その譲渡に係る所得は非課税とされている。 これらの課税方式を金融所得の一体課税を進める見地から次のとおり見直しをする(平成28年1月1日以降支払いを受けるべきもの等に適用)。 ① 特定公社債等の課税方式 ⇒【大綱P10】 イ 利子所得等の課税方式 国債、地方債、公募公社債、有価証券報告書を提出している法人が発行する社債などの「特定公社債等」については、これまでの源泉分離課税の対象から、原則的に申告分離課税(所得税15%・住民税5%)の対象とし、源泉徴収が行われるものについては申告不要の選択ができることとする。 ロ 譲渡所得等の課税方式 特定公社債等の譲渡、償還、一部解約による所得について、これまでの非課税の対象から20%の申告分離課税の対象とする。 ハ 損益通算及び繰越控除 現行の上場株式の譲渡所得、配当所得における損益通算、3年間の損失の繰越控除の規定の対象に特定公社債等に係る譲渡所得、利子所得を加え、上場株式に係る所得及び特定公社債等に係る所得間の損益通算及び3年間の損失の繰越しを可能とする。 ニ 特定口座での取扱い 上場株式等と同様に、特定公社債等についても、特定口座への受入れを可能とする。 ② 特定公社債以外の公社債等の課税方式 ⇒【大綱P13】 イ 利子所得等の課税方式 特定公社債以外の公社債、私募公社債投資信託の受益権、証券投資信託以外の私募投資信託の受益権等の「一般公社債等」の利子等については、これまで通り20%の源泉分離課税とされるが、同族会社の発行した社債の利子で同族会社の役員等が支払いを受けるものは総合課税の対象となる。 ロ 譲渡所得等の課税方式 一般公社債等の譲渡、償還、一部解約等に係る所得については、原則的に20%の源泉分離課税の対象となる(従来は非課税)が、同族会社が発行した社債の償還金等でその同族会社の役員等が支払いを受けるものは総合課税の対象となる。 ③ 割引債の課税方式 ⇒【大綱P14】 割引債の償還差益についても譲渡所得として20%の申告分離課税の対象となる。従来の発行時18%源泉徴収の制度は廃止され、個人、普通法人等以外の内国法人、外国法人に支払いを行う場合に、原則的に償還差益にみなし割引率を乗じた金額に対して、所得税15%、住民税5%の税率(法人に対する支払いについては所得税15%のみ)で源泉徴収を行うこととなる。 ④ 株式等に係る譲渡所得等の分離課税の改組 ⇒【大綱P16】 次の2区分となる。 ・特定公社債等及び上場株式等に係る譲渡所得等の分離課税 ・一般公社債等及び非上場株式等に係る譲渡所得等の分離課税 ⑤ 特定管理株式等が価値を失った場合の損失の特例の拡充 ⇒【大綱P16】 特定公社債等について、その発行法人に清算結了等の事実が生じたときに、譲渡による損失が生じたものとして、損益通算・3年間の繰越控除を可能とする。 ⑥ 金融機関等の受ける利子所得等に対する源泉徴収の不適用の特例の改正 ⇒【大綱P17】 従来、公社債等の利子で振替口座簿に記載された期間に生じたものについて、源泉徴収を要しないとするなど、その所有期間に制限があったが、この期間にかかわらず源泉徴収を不適用等としている。 ⑦ 資料情報制度の整備 ⇒【大綱P17】 新たに追加された支払調書等は次の通り。 個人に対する特定公社債等の利子等に係る受領者の告知、支払調書等 特定公社債等の利子等及び特定割引債の償還金の支払者が支払いを受ける者に交付することとされる支払通知書 居住者に対し国内で公社債等の譲渡の対価の支払いをする金融機関等が提出する支払調書 国内にPEを有しない非居住者、普通法人以外の内国法人、外国法人に対し割引債の償還金の交付をする者が提出することとされる支払調書 国内で特定公社債等の利子等、償還金等を金融商品取引業者又は銀行等がその支払事務を行う場合に提出することとされる支払調書及び支払通知書 株式等の譲渡の対価等の支払調書提出省略基準(年間100万円、1回30万円以下)の撤廃 ⑧~⑫ 上記の改正に伴い、源泉徴収義務の整備、道府県民税に係る課税方式の所要の見直しが行われている。 (2) 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税⇒【大綱P20】 平成26年1月1日より導入が予定されている少額投資非課税制度(いわゆる日本版ISA)については次の通りとなる。 非課税口座を開設できる期間・・・平成26年1月1日~平成35年12月31日 非課税期間(非課税口座内の非課税管理勘定を設けた日の属する年1月1日から5年間)内に支払いを受けるべき非課税口座内上場株式の配当等及びその譲渡に係る所得が非課税とされる。 各年100万円までの非課税勘定を設定でき、最大500万円まで非課税勘定が設定できる なお、非課税勘定を開設するためには、納税者は所轄税務署長に対し「非課税適用確認書」の交付申請を行い、これを非課税勘定を設定する金商品取引業者等の営業所に提出することとされ、各設定期間に複数の勘定を設定することはできない。 この少額投資非課税制度の導入に伴い、上場株式等に係る配当等及び譲渡所得に係る10%の軽減税率は平成25年12月31日で廃止される。 (3)~(8) そのほか金融証券税制に係る所要の修正が行われる。 3 住宅税制 ⇒【大綱P23】 平成26年4月から予定されている消費税の引上げに対応するため、以下のとおり住宅取得等に係る税額控除の期間延長を行うとともに、平成26年4月以降の控除額が大幅に増加されている。 なお、以下の控除額は住宅の対価等の額に含まれる消費税等の税率が8%又は10%の場合にのみ適用され、それ以外については従来の限度額となる。 (1) 住宅借入金等特別控除 ⇒【大綱P23】 住宅借入金等特別控除の適用期限を平成29年12月31日まで4年延長し、平成26年4月以降平成29年12月までに入居の場合の控除額等を次の通り引き上げる。 〔一般住宅の場合〕 ・借入限度額・・・4,000万円 ・控除率・・・・1% ・各年の控除限度額・・・40万円(累計最大控除額400万円) 〔認定長期優良住宅等の場合〕 ・借入限度額・・・5,000万円 ・控除率・・・・1% ・各年の控除限度額・・・50万円(累計最大控除額500万円) (2) 認定長期優良住宅の新築等をした場合の特別控除 ⇒【大綱P25】 適用期限を平成29年12月31日まで4年間延長し、平成26年4月以降入居の場合の控除額を以下のとおりとする。 ・控除対象限度額・・・650万円 ・控除率・・・・・・・・10% ・控除限度額・・・・65万円 ・対象住宅に認定低炭素住宅を追加 (3) 既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の特別控除 ⇒【大綱P26】 適用期限を平成29年12月31日まで5年間延長し、平成26年4月以降入居の場合の控除限度額等は次の通りとなる。 なお、税額控除の計算方法について、特定の改修工事に係る標準的な費用の額の10%に相当する金額とすることとされるなど所要の改正が行われる。 〔省エネ改修工事の場合〕 ・改修工事限度額・・・250万円(併せて太陽光発電装置の場合350万円) ・控除率・・・・・・・・・10% ・控除限度額・・・・・25万円(併せて太陽光発電装置の場合35万円) 〔バリアフリー改修工事の場合〕 ・改修工事限度額・・・200万円 ・控除率・・・・・・・・・10% ・控除限度額・・・・・20万円 (4) 既存住宅の耐震改修をした場合の特別控除 ⇒【大綱P28】 適用期限を平成29年12月31日まで4年延長し、平成26年4月以降工事完了の場合の控除限度額等は次の通りとなる。 なお、税額控除の計算方法について、耐震改修工事の標準的な費用の金額の10%とするなど所要の改正が行われる。 ・耐震改修工事限度額・・・250万円 ・控除率・・・・・・・・・・・10% ・控除限度額・・・・・・・25万円 (5) 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の特別控除に関する特例 ⇒【大綱P29】 適用期限を平成29年12月31日まで4年延長し、平成26年4月以降居住の場合の控除額等を以下のとおりとする。 なお、対象となる特定の増改築の工事費要件について、費用の額が50万円を超える場合(現行30万円)とするなど所要の改正が行われる。 ・特定増改築等限度額・・・・250万円 ・控除率・・・・・・・・・・2% ・各年の控除限度額・・・・・5万円 ・その他の借入限度額・・・・750万円 ・控除率・・・・・・・・・・1% ・各年の控除限度額・・・・・7.5万円 ・累計(5年間)最大控除額・・・62.5万円 【地方税関係】 平成26年以降の所得税で住宅借入金等特別控除の適用のある者(平成26年以降入居の者に限る)のうち、その年の住宅借入金等特別控除額がその年の所得税額より大きい場合に、翌年度分の住民税から一定限度内で控除することとされた。 4 復興支援のための税制上の措置 東日本大震災からの復興を支援するため、国税について、次のような措置が盛り込まれている。また、地方税にもこれに対応した措置が盛り込まれている。 (1) 収容交換等の場合の譲渡所得の5,000万円の特別控除を公共事業者が簡易な証明を発行することで適用可能とする資産の範囲の拡大する(平成25年4月1日以降に行う譲渡等に適用) ⇒【大綱P32】 (2) 被災者等が係る住宅借入金を有する場合の特別控除制度の適用期限を平成29年12月31日まで4年延長し、平成26年4月以降入居の場合には、借入限度額を従来の3,000万円から5,000万円とし、累計の最大控除額を600万円とする。 ⇒【大綱P32】 (5) 居住用財産に係る各種特例について、東日本大震災により居住用家屋を居住の用に供することができなくなった者の相続人がその敷地を譲渡した場合にも、適用を可能とする(平成25年1月1日以降の譲渡等に適用)。 ⇒【大綱P34】 5 租税特別措置等 〔新設〕 (1) 中小企業者に該当する内国法人の取締役等である個人でその内国法人の保証人であるものが、現にその内国法人の事業の用に供されている資産でその個人が所有しているものを、その内国法人に係る合理的な再生計画に基づき、平成25 年4月1日から平成28 年3月31 日までの間にその内国法人に贈与した場合には、一定の要件を満たしているときに限り、その贈与によるみなし譲渡課税を適用しないこととする。 ⇒【大綱P35】 〔延長・拡充等〕 (1) 相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用対象者の範囲に、相続税法等において相続又は遺贈により非上場株式を取得したものとみなされる個人を加える(平成27 年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により非上場株式を取得したものとみなされる個人について適用)。 ⇒【大綱P35】 〔廃止・縮減等〕 (1) 社会保険診療報酬の所得計算の特例について、次の措置を講ずる(法人税についても同様)。 ⇒【大綱P37】 ① 適用対象者からその年の医業及び歯科医業に係る収入金額が7,000 万円を超える者を除外する。 (注)上記の改正は、個人は平成26 年分以後の所得税について適用し、法人は平成25 年4月1日以後に開始する事業年度について適用する。 ② 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の施行に伴う規定の整備を行う。 (5) 電子証明書を有する個人の電子情報処理組織による申告に係る所得税額の特別控除制度は、適用期限の到来をもって廃止する。 ⇒【大綱P38】 6 その他 (略) 二 資産課税 1 相続税・贈与税の見直し (1) 相続税の税率構造等の見直し ⇒【大綱P44】 相続税はバブル期の地価上昇等に合わせて基礎控除が増額され税率も低減されたが、その水準が現在まで引き続き維持されてきた結果、課税割合が大幅に減少してきている。 このため、次の通り基礎控除を引き下げ、最高税率を引き上げることにより、課税ベースの拡大を図ることとしている(平成27年1月1日以降に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税に適用)。 〔基礎控除〕 現行・・・・5,000万円+1,000万円×法定相続人 改正後・・・3,000万円+600万円×法定相続人 〔最高税率〕 現行・・・・50%(3億円超の金額) 改正後・・・55%(6億円超の金額) (2) 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し⇒【大綱P45】 相続税の税率構造等の見直しにより課税強化が行われる一方、個人の土地所有者の居住の確保、事業の継続を図る観点から、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について次の通り見直しを行い、課税強化の影響の緩和を図っている。 (平成27年1月1日以降に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税に適用するもの) 特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積を330㎡(現行240㎡)までの部分に拡大 特例の対象として選択する宅地等のすべてが特定事業用宅地等及び特定居住用宅地等である場合には、それぞれの適用対象面積まで適用可能とされる。 (平成26年1月1日以降に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税に適用するもの) 一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるものについて、被相続人及びその親族が各独立部分に居住していた場合には、その親族が相続又は遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分を特例の対象とする。 老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用する。 イ 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。 ロ 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。 (3) 未成年者控除及び障害者控除の引上げ ⇒【大綱P46】 以上の改正に合わせ、未成年者控除、障害者控除の引上げを行うこととしている(平成27年1月1日以降に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税に適用)。 〔未成年者控除〕 ・現行・・・20 歳までの1年につき6万円 ・改正後・・20 歳までの1年につき10 万円 〔障害者控除〕 ・現行・・・85 歳までの1年につき6万円(特別障害者については12 万円) ・改正後・・85 歳までの1年につき10 万円(特別障害者については20 万円) (4) 相続時精算課税の対象にならない贈与財産に係る贈与税の税率構造の見直し ⇒【大綱P46】 贈与税についても、相続税の最高税率に合わせ55%の最高税率とする改正を行うこととしているが、高齢者の保有する資産を早期に若年層に移転させる政策目的から、子や孫が受贈者となる贈与税の税率については、その税率構造を緩和することとしている(平成27年1月1日以降に贈与により取得する財産に係る贈与税に適用)。 (5) 相続時精算課税制度の適用要件の見直し ⇒【大綱P47】 上記と同様、高齢者の保有する資産を早期に若年層に移転させる政策目的から、相続時精算課税の適用要件の緩和を図っている(平成27年1月1日以降に贈与により取得する財産に係る贈与税に適用)。 ・受贈者の範囲に、20 歳以上である孫(現行 推定相続人のみ)を追加する。 ・贈与者の年齢要件を60 歳以上(現行 65 歳以上)に引き下げる。 2 事業承継税制⇒【大綱P47】 相続税の課税強化が行われることから、事業の継続に配慮する必要があり、これまであまり活用されていない非上場株式等に係る納税猶予制度について大幅な見直しを行い、その活用を図ることとしている。 〔見直し事項の一部〕 経営承継相続人等の要件のうち、非上場会社を経営していた被相続人の親族であることとする要件を撤廃する。 贈与税の納税猶予における贈与者の要件のうち、贈与時において認定会社の役員でないこととする要件について、贈与時において当該会社の代表権を有していないことに改める。 役員である贈与者が、認定会社から給与の支給等を受けた場合であっても、贈与税の納税猶予の取消事由に該当しないこととする。 納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件について、経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)における常時使用従業員数の平均が、相続開始時又は贈与時における常時使用従業員数の80%を下回ることとなった場合に緩和する。 経済産業大臣による事前確認制度を廃止する。 (注)上記の改正は、所要の経過措置を講じた上、「1 相続税・贈与税の見直し」の施行の日(平成27 年1月1日)以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。 3 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置⇒【大綱P49】 この制度も、高齢者の保有する資産を早期に若年層に移転させる目的で新たに導入されるもので、その概要は次の通り。 受贈者(30歳未満の者)の教育資金に充てるためその直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関等に信託をした場合、1人1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については500 万円を限度とする)までの金額については平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に拠出されるものついて、贈与税を課さないこととされる。 受贈者はこの特例の適用を受けるための申告書を金融機関を経由し、所轄税務署に提出する。 受贈者は払い出した金銭を教育資金に充当したことを証する証明書を金融機関に提出する。 金融機関は、受贈者が30歳に達した時点で、信託された金銭の合計額と教育資金として払い出した金額の合計額を記載した調書を所轄税務署長に提出する。 拠出額と教育資金として支出した金額の差については、30歳の時点で贈与があったものとされる。 4 復興支援のための税制上の措置 (略) 5 租税特別措置等 〔延長・拡充等〕 (3) 土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年延長する。 ⇒【大綱P52】 (4) 住宅用家屋の所有権の保存登記若しくは移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置について、次の見直しを行った上、適用期限を2年延長する。 ⇒【大綱P52】 ① 適用対象となる中古住宅に係る地震に対する安全性に係る基準の適合要件を証する書類の範囲に、家屋が既存住宅売買瑕疵保険に加入していることを証する書類(加入後2年内のものに限る。)を加え、既存住宅売買瑕疵保険に加入している一定の中古住宅を適用対象に追加する。 ② 適用対象となる中古住宅に該当することを証する書類(耐震基準適合証明書)の証明者の範囲に、住宅瑕疵担保責任保険法人を追加するとともに、書類の様式について見直しを行う (11) 不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置について、その適用期限を5年延長した上、平成26 年4月1日以後に作成される文書に係る税率を次のとおり引き下げる。 ⇒【大綱P53】 6 その他 (5) 金銭又は有価証券の受取書のうち記載された受取金額が5万円未満(現行3万円未満)のものには、印紙税を課さないこととする。 (注)上記の改正は、平成26 年4月1日以後に作成される受取書について適用する。 ⇒【大綱P61】 三 法人課税 1 民間投資の喚起と雇用・所得の拡大 〔新設〕 (1) 国内設備投資を促進するための税制措置の創設 ⇒【大綱P62】 青色申告書を提出する法人が平成25 年4月1日から平成27 年3月31 日までの間に開始する各事業年度において一定の生産設備を取得等し国内にある事業の用に供した場合で、取得価額の合計額が前事業年度において取得した国内生産設備の取得価額の110%と当期の減価償却費の額を超えるときは、その取得価額の30%の特別償却とその取得価額の3%の税額控除との選択適用ができることとする。 (2) 企業による雇用・労働分配(給与等支給)を拡大するための税制措置の創設 ⇒【大綱P63】 青色申告書を提出する法人が、平成25 年4月1日から平成28 年3月31 日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、雇用者給与支給額が前年の雇用者給与支給額を下回らず、平均給与支給額が前年の平均給与支給額を下回らない場合は、雇用者給与支給増加額(給与支給額から基準給与支給額を控除した金額)が基準給与支給額の5%以上であるときに限り、給与支給増加額の10%の税額控除ができることとする。 (3) 商業・サービス業及び農林水産業を営む中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設 ⇒【大綱P63】 青色申告書を提出する中小企業等が平成25 年4月1日から平成27 年3月31 日までの間に、経営改善に関する指導及び助言を受けて行う店舗の改修等に伴い器具備品及び建物附属設備の取得等をして卸売業、小売業、サービス業等の事業の用に供した場合には、その取得価額の30%の特別償却と取得価額の7%の税額控除との選択適用ができることとする(税額控除の対象は資本金等が3,000万円以下の中小企業等に限る)。 〔延長・拡充等〕 (1) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度(研究開発税制) ⇒【大綱P64】 ① 試験研究費の総額に係る税額控除制度、特別試験研究費の額に係る税額控除制度、繰越税額控除限度超過額に係る税額控除制度等について、2年間の時限措置として控除税額の上限を当期の法人税額の30%(現行20%)に引き上げる。 ② 特別試験研究費の範囲に一定の契約に基づき企業間で実施される共同研究に係る試験研究費等を加える。 (2) エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税の特別控除制度(環境関連投資促進制度)⇒【大綱P64】 次の見直しを行った上で、適用期限を2年延長する。 即時償却制度について、対象資産に熱電併給型電力発生措置(コージェネレーション設備)を加える 対象資産に定置用蓄電設備等を加えるとともに、対象資産から補助金等の交付を受けて取得したものを除外する。 (3) 雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除制度 ⇒【大綱P65】 税額控除限度額を増加雇用者数1人あたり40万円(現行20万円)に引き上げるほか、適用要件の判定の基礎となる雇用者の範囲について所要の措置を講ずる。 2 中小企業対策・農林水産業対策 〔新設〕 (2) 中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律の廃止に伴う措置 ⇒【大綱P67】 青色申告書を提出する中小企業者について平成25 年4月1日から平成28 年3月31 日までの間に再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実が生じた場合で、かつ、2以上の金融機関等が有する当該中小企業者に対する債権が特定投資事業有限責任組合の組合財産になる場合において、債務処理に関する計画に従って、資産の評価替えをして、又は債務の免除を受けたときは、資産の評価損益の計上又は期限切れ欠損金の損金算入ができることとする。 〔拡充等〕 (1) 中小企業技術基盤強化税制及び繰越中小企業者等税額控除限度超過額に係る税額控除制度 ⇒【大綱P67】 2年間の時限措置として、控除税額の上限を当期の法人税額の30%(現行20%)に引き上げる (2) 交際費の損金不算入制度 ⇒【大綱P67】 中小法人に係る損金算入の特例について、定額控除限度額を800万円(現行600万円)に引き上げるとともに、定額控除限度額までの交際費の損金不算入措置(現行10%)を廃止する。 3 復興支援のための税制上の措置 (略) 4 その他の租税特別措置等 (略) 5 その他 (1) 投資簿価修正の整備 ⇒【大綱P77】 連結法人が連結子法人株式の譲渡等を行う場合における投資簿価修正について、修正事由がみなし配当事由によるものである場合における投資簿価修正の計算について所要の整備を行う。 (2) 資産の評価損益の計上 ⇒【大綱P77】 再生計画認可決定があったことに準ずる一定の事実が生じた場合における資産の評価損益の計上について、少額資産を加え評価差額が1,000万円未満の資産等であっても評価損益を計上できることとする。 (5) 貸倒引当金 ⇒【大綱P77】 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金制度について、貸倒引当金の繰入事由に手形交換所に相当する一定の電子債権記録機関による取引所停止処分を加える。 (8) 災害損失欠損金 ⇒【大綱P78】 災害損失欠損金が生じた事業年度の確定申告において災害損失額の計算に関する明細の記載がない場合でも、修正申告書又は更正請求書にその明細を記載した書類を添付しているときは災害損失欠損金額の繰越控除制度の適用があることを明確化する。 (9) 債務免除等があった場合の期限切れ欠損金の損金算入制限 ⇒【大綱P78】 民事再生等一定の事実による債務免除等があった場合に期限切れ欠損金を損金算入できる制度について、欠損金控除前の所得金額が債務免除益相当額を超える場合における損金算入額は、青色欠損金等の控除後の所得金額からその超える部分の金額の20%相当額を減算した金額を限度とする。ただし、中小法人については現行通りとする。 (10) 特定資産に係る譲渡等損失の損金不算入制度の見直し⇒【大綱P78】 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度の制限対象について、次の見直しを行う。 対象となる資産の範囲に、特定適格組織再編成等を行った法人がその特定適格組織再編成等の日以前に行われた他の特定組織再編成等によりその法人と支配関係がある他の法人から移転を受けた一定の資産を加える。 適格合併等を行った法人の欠損金額のうち、その適格合併等の日前に行われたみなし共同事業要件を満たさない適格組織再編によりその法人と支配関係がある他の法人から移転を受けた一定の資産の譲渡等により生じた損失とされる部分の金額は、被合併法人が有している場合には合併法人への引継ぎが制限され、合併法人が有している場合にはないものとされる。 適格合併等を行った法人の欠損金額のうち、その適格合併等の日前に行われたみなし共同事業要件を満たさない適格合併等によりその法人と支配関係がある他の法人から引き継いだ一定の欠損金額で特定資産譲渡等損失額から成る部分の金額は、被合併法人が有している場合には合併法人への引継ぎが制限され、合併法人が有している場合にはないものとされる。 (11) 所得税額控除 ⇒【大綱P79】 法人税額から控除する所得税の計算について、公社債等に係る所得に対する課税の見直しに合わせて、公社債の利子、公社債投資信託の収益の分配等に対する所得税の所有期間による按分計算を廃止し、全額を控除する。 (12) 連結留保金課税 ⇒【大綱P79】 連結留保金額に連結法人間で行われた適格現物分配に係る移転資産の価額を含めることとする。現行制度上は連結法人間で適格現物分配が行われた場合には、連結留保金額が減少するという事態が生じていたため、適格現物分配の場合でも連結留保金額が減少しないように手当されるものと思われる。 四 消費課税 (略) 五 国際課税 1 租税特別措置等 (略) 2 その他 (1) 外国税額控除 ⇒【大綱P83】 外国子会社合算税制により合算された無税国に本店の所在する特定外国子会社等の合算所得につき、特定外国子会社等が本店所在地国以外の国(例えば支店所在地国等)で課税される場合には、当該合算所得については外国税額控除の適用上、非課税国外所得に該当しないこととする。 (2) 移転価格税制 ⇒【大綱P83】 独立企業間価格を算定する際の利益水準指標に営業費用売上総利益率(いわゆるベリー比)を加える。 (5) 過大支払利子税制 ⇒【大綱P84】 過大支払利子税制と過少資本税制の双方が適用され得る場合における、重複適用排除に関する規定の整備を行う。 六 納税環境整備 1 延滞税等の見直し ⇒【大綱P84】 延滞税の割合は、原則的に①法定納期限の翌日から2ヶ月経過する日までは7.3%又は特例基準割合のいずれか低い金額、②2ヶ月を経過する日から完納の日までは14.6%とされているが、次の通り改正される 7.3%の部分(①の部分)については、特例基準割合(注)に1%を加算した割合(7.3%を超える場合は7.3%) 14.6%の部分(②の部分)については、特例基準割合に7.3%を加算した割合 (注) 特例基準割合は、これまで前年の11月30日において日本銀行が定める基準割引率+4%として計算することとされていた(平成24年は4.3%)が、各年の前々年の10月から前年の9月までの各月の銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して計算した割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に1%を加算して計算することとされた。 また、還付加算金については、特例基準割合が7.3%に満たない場合は、特例基準割合で計算される(上記改正は、平成26年1月1日以降の期間に対応する延滞税等に適用される)。 2 その他 (略) 七 関税 (略) 第三 検討事項 (略) (了)
平成24年分 贈与税申告書の記載と改正のポイント ~直系尊属から住宅取得等資金を受けた場合の 贈与税の非課税措置について~ ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 1 はじめに 国税庁は、平成24年12月14日に「平成24年分贈与税の申告書等の様式一覧」及び「平成24年分贈与税の申告のしかた」を公表した。 本稿では、贈与税の平成24年度税制改正の改正項目のうち、実務において比較的適用頻度の高いと考えられる「直系尊属から住宅取得等資金を受けた場合の贈与税の非課税措置」(措法70の2(以下「本特例」という))に焦点を絞り、平成24年度税制改正と申告書の添付書類である「住宅取得等資金の非課税の計算明細書」(第1表の2)の記載上のポイントを解説する。 2 本特例の改正のポイント 本特例の改正の主なポイントは、以下のとおりである。 (1) 非課税限度額の変更 本特例の非課税限度額は、改正前は1,000万円とされていたが、以下のように、住宅の種類ごとに限度額が変更されている。 出典:「平成24年分贈与税の申告のしかた」一部加工(国税庁HP) (2) 床面積の上限設定 平成24年度税制改正により、本特例の適用対象となる住宅用家屋の床面積に関して240㎡以下という上限が設けられた。その結果、対象家屋の床面積(登記簿上)の要件は、50㎡以上240㎡以下となっている。 (3) 適用期間の延長 本特例の適用期間は、平成24年1月1日から平成26年12月31日までとされた。 3 明細書記載上のポイント 税制改正による非課税限度額の変更に伴い、「住宅取得等資金の非課税の計算明細書」(第1表の2)の記載方法が、以下のとおり、取得する住宅の種類の応じた記載(1,500万円又は1,000万円)に変更されている。 〔凡例〕 措法・・・租税特別措置法 (了) 【参考】 国税庁ホームページ ・「平成24年分贈与税の申告書等の様式一覧」 ・「平成24年分贈与税の申告のしかた」
平成24年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「平成24年分の申告から適用される 改正事項②」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回に引き続き、平成24年分の所得税から適用される改正事項について解説する。 今回は譲渡所得関係(土地建物の譲渡)、その他の改正について主な項目を取り上げることとする。 【1】 譲渡所得関係(土地建物の譲渡) (1) 居住用財産の譲渡に関する特例の改正(買換え・交換) 「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」及び「特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例」について、譲渡対価の要件が引き下げられ、適用期限が2年延長された。 所有期間10年以上の居住用財産で一定の要件を満たすものを、一定の日までに買換え又は交換した場合には、その居住用財産を譲渡した年において譲渡益に対する課税は行われない。買換えや交換により新たに取得した居住用財産を譲渡するまで課税が繰り延べられる(措法36の2、36の5)。 この特例に係る譲渡資産の譲渡対価の要件が1億5,000万円以下(改正前は2億円以下)とされ、適用期間が平成25年12月31日まで2年延長された。 なお、譲渡対価の要件の引下げは、平成24年1月1日以後に行う居住用財産の譲渡に適用される(平24改措法等附12③)。 (2) 居住用財産の譲渡に関する特例の改正(譲渡損失の損益通算、繰越控除) 「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」及び「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」について、適用期限が2年延長された。 次の各場合において、その年の合計所得金額が3,000万円以下であれば、譲渡損失を給与所得等の他の所得と損益通算することができる。 また、損益通算を行っても控除しきれない譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内(合計所得金額が3,000万円を超える年は除く)に繰越控除することもできる(措法41の5、41の5の2)。 ① 居住用財産を買い換えたときに、旧居住用財産の譲渡について一定の譲渡損失が生じた場合 ② 住宅借入金等のある特定の居住用財産を住宅借入金等の債務残高を下回る譲渡対価で売却し、一定の譲渡損失が生じた場合 この特例の適用期間が、平成25年12月31日まで2年間延長された。 (3) 特定事業用資産の買換えの特例の改正 「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の対象となる買換資産の要件が見直され、適用期限が3年延長された。 譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超える事業用の土地等、建物又は構築物を譲渡し、別の事業用の土地等、建物、構築物、機械装置に買い換えた場合には、一定の条件を満たした事業用資産の買換えに係る譲渡である限り、譲渡益の80%部分について課税を繰り延べることができる(措法37①九)。 この特例について、買換資産の土地等の範囲が、事務所等の一定の施設の敷地の用又は一定の駐車場の用に供されるもので、面積が300㎡以上のものに限定された(改正前は、国内にある土地等であれば用途や面積等に制限はなかった)。また、この適用期限が平成26年12月31日まで3年延長された。 なお、この改正は、平成24年1月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、買換資産の取得をする場合におけるその譲渡について適用される。同日前に譲渡資産の譲渡をした場合及び同日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、同日前に買換資産の取得をした場合については、改正前の取扱いとなる(平24改措法等附12④)。 【2】 その他の改正 (1) 減価償却(定率法)の改正 定率法の償却率が、定額法償却率を2倍(改正前2.5倍)した割合とされた。 平成24年4月1日以後に取得する減価償却資産の定率法の償却率が、定額法償却率を2倍した割合とされた(所令120の2)。 この改正には、定率法を選定している場合における実務上の煩雑さを回避するために、次の経過措置が設けられている。 ① 平成24年1月1日から同年12月31日までに取得した減価償却資産については、平成24年3月31日以前に取得したものとみなして、改正前の償却率により償却費の計算をすることができる(平成23年12月改所令附2②)。 ② 平成24年分の確定申告期限までに所定の届出書を所轄税務署長に提出したときは、平成24年分又は平成25年分以後の各年分の償却費計算を改正後の償却率により行うことができる(平成23年12月改所令附2③)。 (2) 資本的支出をした場合の取得価額の特例の改正 減価償却資産と資本的支出の金額を合計して一の減価償却資産を取得したものとする特例の適用ができなくなった。 平成19年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として資本的支出の対象となった減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却を行う(原則法)。 特例として、平成19年4月1日以後に取得した定率法を選定している減価償却資産に同日以後資本的支出を行った場合には、資本的支出を行った翌年1月1日において、資本的支出の対象となった減価償却資産の期首未償却残高と原則法により新たに取得したものとされた減価償却資産(資本的支出部分)の期首未償却残高の合計額を取得価額とする一の減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却を行うことができる。 【2】(1)の改正により、平成24年3月31日以前に取得した減価償却資産には250%定率法、平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産には200%定率法が適用されることから、平成24年3月31日以前に取得した減価償却資産に平成24年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、減価償却資産と資本的支出部分の金額を合算する特例の適用はできないものとされた(所令127)。 (3) 雇用者数が増加した場合の所得税額の特別控除の創設 一定の事業を行う青色申告書を提出する個人について、基準雇用者数、基準雇用者割合等の条件を満たした場合には、20万円に基準雇用者数を乗じた金額を特別税額控除できることとなった。 青色申告書を提出する個人(一定の事業を行っている者に限る)で、本年及び前年において離職者がいないことを証明され、平成24年から平成26年までの各年において、基準雇用者数が5人以上(中小企業者は2人以上)及び基準雇用者割合が10%以上であり、給与等支払額が比較給与等支給額以上である場合には、20万円に基準雇用者数を乗じた金額を所得税から控除できることとされた。ただし、その年分の事業所得に係る所得税額の10%(中小企業者は20%)相当額が限度とされる(措法10の5)。 【基準雇用者数】 適用年の12月31日における雇用者数から当該適用年の前年12月31日における雇用者数を減算したもの 【基準雇用者割合】 当該適用年の前年12月31日における雇用者数に対する基準雇用者数の割合 (4) 先物取引に係る雑所得等の課税の特例の改正 「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」及び「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」の適用対象が追加された。 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び損失の繰越控除の適用対象に、次のものが追加された。これにより、改正前は総合課税の対象となっていた店頭デリバティブ取引も取引所取引と同様に特例(所得税率15%の申告分離課税、損失の3年間繰越控除)の対象となった(措法41の14)。 ① 商品先物取引法2条14項1号から5号までに掲げる取引で同法に規定する店頭商品デリバティブ取引の差金等決済 ② 金融商品取引法2条22項1号から4号までに掲げる取引で同法に規定する店頭デリバティブ取引の差金等決済 ③ 金融商品取引所に上場されていない金融商品取引法2条1項19号に掲げる有価証券に表示される権利の行使若しくは放棄又はその有価証券の譲渡 この改正は、平成24年1月1日以後に行われる先物取引に係る差金等決済に適用される(平成23年6月改所法等附43)。 次回は所得金額の計算について、実務上の誤りやすい点を解説する予定である。 (了)
小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第3話】 「留置き」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「ごくろうさん」 渕崎統括官が山口調査官に声をかける。 山口調査官は軽く会釈して、自分の机の上に、分厚く膨らんだ鞄を置いた。 山口調査官は、疲れ切った表情で、黒い鞄の中から書類を無造作に出している。 「今日の調査は・・・どうだった?」 渕崎統括官は、調査から帰ってきた山口調査官の机の傍までやってきて尋ねる。 山口調査官は、曖昧な笑みを浮かべている。 「・・・最悪ですよ・・・納税者が・・・極めて・・・税務調査に非協力で・・・」 顔は微笑んでいるが、ゆっくり話す言葉には怒りが含まれていた。 「・・・私が・・・提示を求める書類について、いちいちその理由を聞くため、時間がかかって、調査が一向に進まないし、おまけに税理士も納税者と一緒になって、こちらの依頼することをすぐにやってくれない・・・本当に、腹立たしいですよ!」 山口調査官の顔からは、既に、笑みは消えていた。 「・・・そりゃあ、この世の中、税務調査に協力的な納税者ばかりいるわけでもないからな」 今度は、渕崎統括官が苦笑いする。 「本当に、あんな対応をされたら、1ヶ月間ぶっ続けて税務調査をするため、会社に臨場しようかとも思いますよ・・・」 山口調査官の眼差は鋭くなる。 「まあ、落ち着け。こちらが先に興奮したら負けだ。ここは、冷静に税務調査をしなけば、是正事項を発見することはできないよ」 渕崎統括官は、若い頃、ベテランの調査官から「税務調査では納税者を興奮させて、興奮した納税者の言葉の端々から不正を発見しなければならない」と教わったことを思い出した。 「それで、今日の調査の感触は?」 渕崎統括官が、少し落ち着いた山口調査官の横顔を覗きながら尋ねる。 「ええ・・・、外注費が前年に比べて、かなり増加してまして、それは売上と比較してもかなり多いので、外注費を中心に、今日調べたんですが・・・」 法人課税第三部門は、業種として、建設業を担当している。 今日、山口調査官が税務調査をした会社も、土木を中心(80%)とした建設業である。他に、建築(20%)を行っている中堅規模の会社である。 「そうだったな、準備調査の時に、その旨を、僕も指示事項の箇所に書いていたな・・・」 渕崎統括官は、調査における指示事項を思い出した。 「・・・それで、どうだった?」 渕崎統括官が聞く。 「・・・ええ、外注費の件数が多くて、その請負契約とか支払明細書とか領収書などの提示を求めても、なかなか持ってこなかったので、時間がとてもかかり・・・」 山口調査官は、今日の税務調査の状況を思い出したのか、再び言葉のトーンが高くなってきた。 「結局、全部の外注費を調べることができなくて・・・それで、外注費関係の書類を預かろうとしたのですが・・・それを相手がひどく拒否しましてね」 山口調査官のテンションは、さらに高くなる。 「留置きか?」 渕崎統括官が呟く。 「改正の国税通則法74条の7では、質問検査権の中に、必要があるときは当該調査において提出された物件を留置くことができるとされたのですよね」 山口調査官は、しっかりとした口調で渕崎統括官に確認する。 「その・・・必要があるときは、当然ながら、その調査をしている私が判断をするということですよね」 自信のある言葉だった。 「まあ、この留置きは、従来、慣行として行われていた、税務調査官が納税者の許可を得て帳簿書類等を税務署に持ち帰るということなんだが・・・」 渕崎統括官が付け加える。 「しかし、納税者が留置きを拒否した場合、どうなるんです?」 山口調査官は、質問をしながら、言葉を続ける。 「・・・国税通則法74条の7の条文をそのまま読むと、税務調査官が、留置きを必要と認めた場合には、できることになっているのだから、仮に、納税者が留置きを拒否しても税務調査官の判断によって、留置きすることが可能だということなんですよね・・・」 山口調査官は、机の上に置かれている鞄の柄を強く握りしめる。 「そりゃ、そうだが・・・」 渕崎統括官の声が小さくなる。 「・・・ただし、『必要と認めるとき』の解釈だけれど・・・「調査官が主観的に必要と考えるだけでは足りず、合理的な理由が必要である」とされ、税務調査官が当該物件を留置きする場合には合理的な理由がなければならない・・・」 渕崎統括官の声が再び大きくなる。 「もちろんてす」 山口調査官は、大きく頷く。 「それに・・・これについては、別に、罰則規定があるんですよね。たしか、納税者が税務職員の物件の提示や提出要求に対して、正当な理由がなく拒否した場合、又は、虚偽記載の帳簿書類その他の物件を提示・提出した者に対しては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せさせられることになっている。この規定は・・・国税通則法127条3号に書かれていますね」 山口調査官が、机の上に置かれている鞄から取り出した書類は、調査対象会社の外注費関係のものだった。 「統括官・・・今日中にこの外注費を調べたいので、帰るのが少し遅れます・・・」 山口調査官は、机の上に上積みされた外注費の資料を整理し始めた。 「ともかく、預かった書類はきちんと管理し、決して紛失などしないように・・・」 渕崎統括官は、そう言うと、自分の席に、ゆっくりと戻った。 (つづく)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第3回】 弁護士 木村 浩之 3 定期同額給与 (1) 定期同額給与の意義 役員に対する一般的な給与(報酬)について損金に算入するためには、その給与が ⅰ) 定期同額給与 ⅱ) 事前確定届出給与 ⅲ) 利益連動給与 のいずれかに該当する必要があるが、多くの法人では、役員に対して毎月定期的な報酬が支払われるのが通常である。したがって、この毎月の定期報酬が「定期同額給与」の要件に該当するか否かがもっとも重要な問題となる。 毎月の定期報酬が「定期同額給与」の要件に該当するためには、原則として、法人の事業年度中に支払われる毎月の支給額が常に同額で固定されている必要がある。ただし、次のとおり、一定の場合には、法人税法上も、事業年度の途中に支給額を増減額する「給与改定」が認められている。 これらのいずれかに該当する給与改定の場合には、その給与改定がなされた前後で区分し、改定前後の各支給時期における支給額が定期同額であれば、それぞれ定期同額給与に該当することになる。また、上記の要件を満たすものである限り、複数回の給与改定がなされたとしても、定期同額給与に該当し得ることになる。 以上を具体的なイメージにすると次のとおりである。 ※ ①②③のそれぞれの期間ごとに、定期同額の支給がなされているかどうかを判断する。 以下では、この「給与改定」をめぐる問題を中心として、定期同額給与に関する論点について整理し、検討することとしたい。 (2) 3ヶ月経過後の通常改定 ア 通常改定の趣旨 定期同額給与は、支給される金額が固定され、支給額が事前に明確に定められたものとして、恣意性が排除されていると考えられることから、法人税法上、損金算入が認められている。そして、事業年度の途中になされる役員給与の改定であっても、事業年度開始から3ヶ月以内の改定であれば、定時株主総会の開催時期や役員の任期などの関係から、通常の改定時期になされる定期的な改定とみられることから、特段、恣意性は認められない。 そこで、3ヶ月内改定については、通常改定として、その前後において支給される給与が定期同額のものである限り、それぞれ定期同額給与に該当するとされている。 この趣旨をさらに広げて、事業年度開始から3ヶ月経過後になされる給与改定であったとしても、それが継続して毎年所定の時期になされる改定であり、その時期に改定がなされることについてやむを得ないと認められる「特別の事情」がある場合には、そのような改定については、特段、恣意的な改定を企図するものではないと考えられることから、これも通常改定の範囲に含まれるものとされている。 イ 「特別の事情」に該当する事由 3ヶ月経過後の給与改定が認められる「特別の事情」とは、上記趣旨に照らし、定期的な給与改定の時期がその時期にならざるを得ないことをもっともとさせる、組織面、予算面、人事面などからの継続的な制約を意味する。 なお、通達では、この「特別の事情」に該当する事由として、次のものが挙げられている(法基通9-2-12の2)。 全国組織の協同組合連合会等でその役員が下部組織である協同組合等の役員から構成されるものであるため、当該協同組合等の定時総会の終了後でなければ当該協同組合連合会等の定時総会が開催できないこと 監督官庁の決算承認を要すること等のため、3ヶ月経過日後でなければ定時総会が開催できないこと 法人の役員給与の額がその親会社の役員給与の額を参酌して決定されるなどの常況にあるため、当該親会社の定時株主総会の終了後でなければ当該法人の役員の定期給与の額の改定に係る決議ができないこと これらは、いずれも3ヶ月経過後に定期的な給与改定がなされることについてやむを得ない制約があるものといえるが、これら以外のものであっても、毎年その時期に給与改定がなされることについて、組織面、予算面、人事面などからの継続的な制約があると認められる場合には、「特別の事情」がある場合に該当し、3ヶ月経過後の給与改定が認められる。 (3) 臨時改定事由 ア 臨時改定の趣旨 以上のような定期的な改定としての通常改定に該当しないものであっても、「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」(臨時改定事由)がある場合には、臨時の給与改定が認められている。 これは、通常改定においては反映させることが困難な給与の改定を必要とする事情が事後的に生じた際に、臨時に給与改定をすることがその役員と法人との関係においてやむを得ないと認められる場合には、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないことから、3ヶ月経過後の給与改定が認められているものである。 イ 臨時改定事由に該当する場合 臨時改定事由として認められるためには、上記の趣旨から、その役員についての給与改定の必要性をある程度強く基礎付ける事情が必要である。 この点、法令が規定する「職制上の地位の変更」の典型例は、社長に就任して代表取締役に昇格した場合、あるいは逆に、代表取締役を辞任して平取締役に降格した場合などが挙げられ、「職務の内容の重大な変更」の典型例は、合併・会社分割等の組織再編によって職務内容が変更になった場合などが挙げられる。 そのほか、例えば、役員が何らかの不祥事を起こしたことにより、一時的な給与の減額が必要となる場合、転勤等によって追加の手当の支給が必要となる場合なども、「これらに類するやむを得ない事情」に該当すると解される。 これらはいずれも、通常改定においては反映させることが困難な事後的に生じた事情であり、その役員についての給与改定の必要性をある程度強く基礎付けるものといえる。 以上に対して、役員の分掌変更がなされたものの職務内容には大きな変更がないような場合などは、給与改定の必要性はそれほど強いとはいえず、臨時改定事由には該当しないと解される。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【2】 〔第2章〕法令の解釈方法 (その1) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 1 法的安定性と具体的妥当性 人々は法令の文言を信頼して行動しているのであるから、法令の文言をそのまま読んで理解される内容を画一的に適用した方が、それを信頼して行動した人々の予測可能性を裏切らないことになる。 法的安定性とは、法や法の適用を安定させ、人々の信頼を保護する原則であるが、この法的安定性の観点からは、法令の文言をそのまま読んで理解される内容を画一的に適用することが望まれる。 しかし条文を、事案の情況等の差異を考慮せず、画一的に適用する場合には、法律全体の目的・趣旨や社会的正義に反するような結論しか出せない場合も起こりうる。 そこで、法令の文言を画一的に適用するのではなく、個々の事案に即した解釈をすべきという具体的妥当性が要請されることになる。 このように、法令解釈にあたっては、法的安定性と具体的妥当性が要請されるが、この両者は基本的には相反する内容となっているため、両者の調和をとることが必要になる。 2 法令解釈の種類 法令の解釈とは、成文法の規範的意味内容を解明する作業をいうが、大別すると法規的解釈(立法(的)解釈、有権(的)解釈)と学理解釈に分けられ、学理解釈はさらに文理解釈と論理解釈に大別される。 法令解釈の方法は、条文の文言をそのまま読んでその文理(文字ないし文章の意味)を解釈するだけではない。その法律全体の目的・趣旨や制度趣旨(その条文が現在期待されている目的・役割)や立法趣旨(その条文が成立した当時の立法目的)等考慮して解釈することになる。 法的安定性の観点からは、法令の文言をそのまま読んで理解される意味内容をその条文解釈とする(これを文理解釈という)ことが望まれる。 しかし、立法当時に想定していなかった事象が起こった場合などに、条文の文言をそのまま読んで適用したのでは、結論が出せない場合も起こりうる。また条文を、事案の情況等の差異を考慮せず、画一的に適用する場合には、法律全体の目的・趣旨や社会的正義に反するような結論しか出せない場合も起こりうる。 このため、法令の文言を手がかりにして、法令の意図を考察しながら、解釈を通じて法令を社会に適応させていく必要が出てくる。そこでは、法文の字句のみならず、道理や筋道に力点を置いて解釈することも必要となってくるが、この解釈方法を論理解釈という。 これら文理解釈・論理解釈は、学問上の立場から各人が法令のもつ意味を判断し解釈を行うことから、共に「学理解釈」に含まれるが、この学理解釈に対し、法令の解釈を法令によって明確に解決してしまおうとするものが法規的解釈である。 3 法規的解釈 法規的解釈は、ある法令の規定の意味を明らかにするために、その法令中の他のところ又は別の法令の中に特別の規定を設け、規定の解釈を示すことで行われる。法令自体が法令の形で自ら解釈を下しているため確定的な権威をもつという点に、この解釈の特色がある。 この解釈規定自体が1つの法令規定であるため、その解釈が、法令の文言の上から、あるいは論理的に多少無理だと思われるような場合であっても、その解釈規定自体が1つの法令だという意味において、裁判所も、これに拘束されるのである。 ただし、解釈規定が置かれているのがその法令自体や同順位の法令ではなく、下位の法令に置かれている場合には、その適用が問題となる(詳細は下記④定義の委任で述べる)。 ① 定義規定 法規的解釈の典型は、定義規定である。税法では、各税法とも第2条において相当多くの用語の定義を定めている。 ② 括弧書による定義付け 具体的な規定の中で、特定の用語の後に括弧書きで定義付けすることも、税法では多く見られる。 例えば、法人税法第64条 において「内国法人が、長期大規模工事(工事(製造及びソフトウエアの開発を含む。以下この条において同じ。)のうち、その着手の日から当該工事に係る契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること、政令で定める大規模な工事であることその他政令で定める要件に該当するものをいう。以下この条において同じ。)の請負をしたときは、・・」と括弧書きで定義付けしている。 ③ みなし規定 ある事柄をそれとは別の事柄と同視して取り扱うという意味の「みなす」という法令用語を用いて、その用語の意味を確定する方法がある。 なおこれには「・・・とみなす」という規定のものだけではなく、例えば、法人税法第3条のように「人格のない社団等は、法人とみなして、この法律(略)の規定を適用する。」というような書き方のものもある。 ④ 定義の委任 法律の規定を命令で解釈するということも時に行われるが、法規的解釈が裁判所を拘束するのは、法規的解釈を行った法令と解釈された用語や規定をもつ法令とが同順位の形式的効力をもつ法令であるからである。 法律の解釈を命令で行った場合には、法律に委任の根拠があれば格別、それがない限りは、内閣以下の行政機関が下した一種の行政解釈にすぎないことになる。その意味では、訓令や通達の形による解釈と効力において大差はないことになる。 もっとも、訓令や通達は、国家・地方公共団体職員等を規律するものであるのに対し、命令は一般国民をも拘束する。しかし、裁判所に対しては、実施命令による解釈は一種の行政解釈としての効果しかもたない。 ただし法律で、命令によって解釈する旨の委任規定を置いている場合は、その委任が包括的白紙的委任として問題となる場合は格別、有効な法規的解釈として裁判所も拘束することになる。 ⑤ 目的規定・趣旨規定 立法目的や立法趣旨を明らかにすることにより、個々の条文の解釈の基準又は指針としたものをいう。 法令の冒頭に、「(この法律の目的)」又は「(目的)」、あるいは「(この法律の趣旨)又は「(趣旨)」という見出しを掲げて設けられる規定で、立法目的や立法趣旨を明らかにすることにより、個々の条文の解釈の基準又は指針としたものである。 この前者を目的規定、後者を趣旨規定というが、目的規定の方は、その法律がその法律を通じて達成しようとする目的、つまり立法目的を掲げたものをいい、趣旨規定の方は、その法律が定めようとしている事柄を要約して掲げたものをいう。 各税法の第1条において、これが掲げられている。 ⑥ 解釈規定 ある法律全体又はある法律の中の特定の規定について、解釈の方向ないし指針を示した規定であり、その法令の解釈の仕方について、立法者がどのように考えているかを明らかにしたものである。 特に、その法律の解釈の仕方が問題となるような場合に置かれる。 例えば、所得税法234条第2項、法人税法第156条、消費税法第62条第6項、相続税法第60条第6項には、「・・・質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」とする規定がある。 これは、各税法の質問検査はあくまでも行政目的上の調査であり、納税者の租税に係る刑事責任追及のための調査ではないことを明らかにしている。 ⑦ 確認(的)規定 なお、これらのほかに、法規的解釈の1つの方法として、確認規定というものが各種の法令に置かれている。 その法令の新設に伴って既存の法令との関係において解釈上の疑義が生じそうな場合や、既存の規定に解釈上の疑義があるときにその疑問を解消する場合に、このような確認規定が置かれる。 (了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第7回】 税率変更の問題点(6) 「棚卸資産の管理」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 在庫管理システムの変更 事業者が仕入れた原材料や商品等の棚卸資産につきその在庫管理をシステム等で処理している場合には、今回の税率改正によりそのシステム等を変更しなければならない。 具体的には、その棚卸資産の仕入れに係る消費税について、施行日前に仕入れたものは旧税率、施行日後に仕入れたものは新税率により課税されることから、その在庫がいつ仕入れたものなのかを明確に区分する必要がある。 また、その棚卸資産につき返品をした場合や値引き等を受けた場合には、『仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例(消費税法32条1項)』の規定を適用することとなり、仕入れた際の消費税額により調整をしなければならない。 したがって、在庫の管理については、その棚卸資産の金額等の把握をするだけでなく、その在庫の仕入時期も確認しなければならず、従来よりも事務負担が増えることとなる。 さらに、短期間に税率が2段階にわたって引き上げられることから、回転率の悪い商品等については、5%部分、8%部分、10%部分の棚卸資産が存在する可能性があり、さらにその管理が複雑になるため注意が必要である。 また、棚卸資産を海外から輸入する事業者の場合、その輸入した課税貨物を保税地域から引き取る際に支払った消費税額について税額控除を行うこととなるが、その輸入に係る消費税額についても施行日前に輸入したものは旧税率、施行日後に輸入したものは新税率により課税される。 したがって、課税貨物を保税地域から引き取る際に発行されるインボイス(請求書等)に記載されている税率が旧税率なのか新税率なのかを確認し、明確に区分して処理する必要がある。 また、輸入した課税貨物を返品したり、廃棄した場合で税関長から消費税額の還付を受けたときは、『保税地域からの引取りに係る課税貨物に係る消費税額の還付を受ける場合の仕入れに係る消費税の控除の特例(消費税法32条4項)』規定を適用することとなり、その場合の適用税率は、その返品等に係る課税貨物を引き取った際に適用された税率により処理しなければならない。 棚卸資産につき国内仕入れと輸入仕入れの両方を行っている事業者は、国内分と輸入分に区分した上でそれぞれの適用税率の管理を行い、また、その棚卸資産の返品等があった場合には、国内分の課税仕入れの対価の返還等の処理と輸入分の課税貨物に係る消費税額の還付の処理をそれぞれの適用税率により処理しなければならず、在庫管理システムの変更について、その構築に相当の時間がかかり、コストも多額となる可能性がある。 さらに、8%だけではなく10%の税率変更も含めてシステムを構築する場合や在庫管理システムが販売管理システムや会計システムと連動している場合には、さらに時間とコストがかかることとなるため、設備投資資金も踏まえて事前に検討しておく必要がある。 なお、仕入れに係る対価の返還等があった場合及び課税貨物に係る消費税の還付があった場合の仕入税額控除の特例規定については、仕入税額控除の計算方法(全額控除方式、個別対応方式、一括比例配分方式)によってそれぞれ計算式が異なるため、注意しなければならない(下記2参照)。 また、消費税の納税義務の免除を受けていた、いわゆる免税事業者が新たに課税事業者となった場合には、『納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整(消費税法36条1項)』の規定により、課税事業者となる課税期間の初日に在庫となっている期首棚卸資産に係る消費税額について、課税事業者となった課税期間において仕入税額控除の対象として処理をすることとなる。 この規定を適用する場合においても、その棚卸資産の仕入れを行った日が施行日前であれば旧税率、施行日後であれば新税率で処理することとなり、棚卸資産の仕入時期を明確に管理する必要がある(下記3参照)。 上記以外にも棚卸資産の会計処理において、税抜経理方式を採用しているのか、税込経理方式を採用しているのかによっても、その処理方法が異なることとなる。 具体的には、税抜経理方式の場合の期首や期末の棚卸高の計算は税抜(本体価格のみ)で処理することとなり、税込経理方式の場合の期首や期末の棚卸高の計算は税込(本体価格+消費税)で処理することとなる。 したがって、税率変更があった場合には、税込の棚卸高と税抜の棚卸高の差額が従来よりも多額となり、損益にも大きく影響することから処理方法を間違えないように注意しなければならない。 このように、在庫管理システムについては、税率変更に伴って留意すべき項目が多く、消費税の計算だけでなく法人税の計算にも影響を及ぼす可能性があり、そのシステム構築にあたっては十分に検討する必要がある。 2 「仕入れに係る対価の返還等を受けた場合」「引取りに係る課税貨物に係る消費税額の還付があった場合」の仕入税額控除の特例規定 商品等を仕入れた事業者が、その取引後に販売業者から値引きや割戻しを受けたり、仕入れた商品等を販売業者へ返品したことにより、買掛金等の全部又は一部の減額を受けた場合、その事業者は、その返還等を受けた日の属する課税期間において仕入れ係る対価の返還等に係る消費税額につき調整しなければならない。 なお、債務免除として事業者が課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部につき免除を受けたものは調整不要である。 また、商品等を海外から輸入する事業者が、その取引後に販売業者へ返品したり、その商品等が品違いであるため廃棄したことにより輸徴法(輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律)の規定に基づいて税関長から課税貨物に係る消費税額の還付を受けた場合、その事業者は、その還付を受けた日の属する課税期間において還付された消費税額につき調整しなければならない。 なお、この規定は、あくまで税関長から消費税額の還付を受けた場合の規定であり、海外の取引先から直接受けた値引きや割戻しについては調整不要である。 上記2つの規定により調整しなければならない具体的な取引は、以下のとおりである。 また、上記規定の適用がある場合には、以下の区分に応じ、それぞれの計算式により算出した金額を控除対象仕入税額として消費税を計算することとなる。 ① 全額控除方式の場合 【課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 -【仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】※1 -【還付を受けた消費税額の合計額】※2 ※1 新税率と旧税率が混在する場合は、以下のように計算する。 ※2 税関長から還付を受けた消費税額の合計額で国税部分に係るもの(旧税率の場合は4%部分、新税率の場合は6.3%部分) ② 個別対応方式の場合 イ + ロの金額 イ 【課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 -【課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 -【課税資産の譲渡等にのみ要する課税貨物につき還付を受けた消費税額の合計額】 ロ 【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税貨物につき還付を受けた消費税額の合計額】 × 課税売上割合 ③ 一括比例配分方式の場合 【課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【還付を受けた消費税額の合計額】 × 課税売上割合 ただし、上記算式によらず、課税仕入れ等の金額からその課税仕入れに係る対価の返還等の金額を直接控除する経理処理(いわゆる純額主義)を継続して行っている場合には、その処理も認めることとしている。 前回で述べたように、この仕入れに係る対価の返還等を受けた場合、相手先である販売業者は、売上げに係る対価の返還等として税額控除を行うこととなり、売上側の適用税率と仕入側の適用税率を一致させなければならず、返品伝票や請求書等にて税率等をどのように明示するかなども含め、当事者間で事前に検討しなければならない可能性があるので注意しなければならない。 3 棚卸資産に係る消費税額の調整 免税事業者が新たに課税事業者となった場合、課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産(いわゆる期首棚卸資産)のうちに、納税義務が免除されていた期間において仕入れた棚卸資産がある場合には、その棚卸資産に係る消費税額を課税事業者になった課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなして仕入税額控除を計算することとしている(消費税法36条1項)。 また、課税事業者が新たに免税事業者となった場合、課税事業者であった課税期間の末日において所有する棚卸資産(いわゆる期末棚卸資産)のうち、その課税期間中に仕入れた棚卸資産がある場合には、その棚卸資産に係る消費税額をその課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含めないこととしている(消費税法36条5項)。 この規定の対象となる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で現に所有しているものをいい、保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものも含むこととしている。また、棚卸資産の取得費用の額には、その棚卸資産の購入金額に引取運賃や荷造費用など、その棚卸資産を購入するために要した費用の額が含まれる。 上記規定の棚卸資産に係る消費税額(調整税額)の計算において、旧税率と新税率が混在する場合には、以下のような計算式となる。 ① 免税事業者が課税事業者となった場合〔加算調整〕 ※棚卸資産の消費税額の調整の計算では、引き取った課税貨物についても国内の課税仕入れと同様に棚卸資産の取得費用の金額に税率を乗じて計算する。 ② 課税事業者が免税事業者となった場合〔減算調整〕 上記のように、この規定を適用する場合においても、その棚卸資産の仕入れを行った日が施行日前であれば旧税率、施行日後であれば新税率で処理することとなり、さらに2段階で税率が変更されることから施行日後については8%部分(国税6.3%)の仕入れと10%部分(国税7.8%)の仕入れに区分しなければならず、棚卸資産の仕入時期については明確に管理しなければならないので注意が必要である。 (了)