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建物(旧定率法)を合併により受け入れた場合の減価償却

建物(旧定率法)を 合併により受け入れた場合の 減価償却   税理士 石井 幸子   Q 当社(A社:3月決算法人)は、平成25年4月1日にB社を被合併法人とする適格吸収合併を行いました。B社から引き継いだ資産の中には次の建物があり、B社はこの建物を旧定率法により償却計算を行っていました。 当社は、建物の償却方法は定額法を選定していますが、引き継いだ建物の償却計算はどのように行えばよいですか。 A 適格合併により移転を受けた建物の償却計算の基礎となる帳簿価額及び取得日は、被合併法人の帳簿価額48,370千円及び取得日平成9年4月1日を引き継ぐ。また、償却方法は、合併法人が選定している方法によることとなる。 耐用年数は、その建物の法定耐用年数によることが原則であるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。 それぞれ次のように考える。 ◆ 解説 ◆   1 取得価額・帳簿価額と取得日の考え方 合併により資産等が移転をしたときは、これらの資産等は、原則として、その合併の時の「時価による譲渡」をしたものとして、時価と被合併法人における帳簿価額との差額は譲渡損益として計上することとしている(法法62①)。 この原則的な取扱いに対する例外として、適格合併による資産等の移転については、被合併法人の合併直前の「帳簿価額による引継ぎ」をしたものとして、移転する資産等の譲渡損益を繰り延べることとしている(法法62の2①)。法人税法では、合併により資産等を移転する前後で経済実態に実質的な変更がないと認められるもの、すなわち、移転する資産等に対する支配が合併後も継続しているなどの「適格要件」を満たす合併を「適格合併」と位置付け、例外的な取扱いを認めているのである。 適格合併により合併法人に引き継いだ資産の取得価額は、被合併法人における取得価額に、合併法人が事業の用に供するために要した費用の額を加算した金額とされている(法令54①五イ)。 したがって、適格合併により移転するこの建物は、被合併法人B社での取得価額及び帳簿価額を引き継いで、A社における取得価額は100,000千円、帳簿価額は48,370千円となる。 このように法人税法では、合併による資産等の移転を、適格要件を満たすか否かにより、「時価による譲渡」と「帳簿価額による引継ぎ」という異なる取扱いをしている。この規定の仕方の違いにより、「譲渡」とすると移転を受ける側は新たな「取得」となり、「引継ぎ」とすると移転を受ける側は被合併法人から「引き継ぐ」という違いが生じる。適格合併による資産等の移転は、被合併法人から、これらの資産等のいわば歴史の「引継ぎ」を受けたものであり、移転によって新たに「取得」したものではないと考える。 そのため、適格合併により移転を受けた建物の取得日は、合併の日である平成25年4月1日ではなく、被合併法人B社の当初の取得日である平成9年4月1日となる。 ところで、法律上の「取得」には、承継取得と原始取得がある。合併による権利の承継は、包括承継であり承継取得に含まれる。合併により資産の移転を受けることは、法人税法上の適格要件を満たすか否かにかかわらず、私法上は「取得」に当たる。 そのため、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたものであり、新たに「取得」したものではないとする考え方は、適格合併等の課税関係を整理するための税法独自のものといえる。 しかしながら、下記2の「減価償却資産の償却方法の届出書」や、3の「中古資産を取得した場合の耐用年数」に関する規定では、適格合併による資産の引継ぎを「取得」に含めるとしている。 このように、税法における「取得」という用語の使い方が、登場する局面により異なる点には注意が必要である。   2 償却方法は引き継げるか 適格合併により移転した資産の取得日や帳簿価額は、被合併法人から引き継ぐこととされているが、償却方法は被合併法人から引き継ぐという規定はない。被合併法人から引き継いだ資産の償却方法は、合併後は、合併法人が選定している償却方法による。 したがって、合併により被合併法人B社から引き継いだ建物は、合併後は、合併法人A社の選定している定額法により償却計算を行うこととなるが、取得日はB社の取得日である平成9年4月1日となるので、平19年3月31日以前に取得した資産に適用される定額法として、旧定額法により償却計算を行う。 このように被合併法人と合併法人の選定している償却方法が異なっていても、「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出することにより、被合併法人が選定していた償却方法を合併後も継続して適用できるケースがある。 この届出書を提出することができるのは、次の2つのケースである(法令51②四・五)。 適格合併により移転を受けた建物が、合併法人が行っていた事業とは独立しているような場合には、上記②に該当することになると考えられる。このような場合には、届出書を提出することにより、合併により引き継いだ建物について、合併法人においても旧定率法による償却計算を行うことが可能である。 この届出書の提出期限は、新たに事業所を設けた日、つまり、合併の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までとなっている(法令51②五)。 したがって、ご質問のケースで、合併後も旧定率法による償却計算を希望する場合における届出書の提出期限は、平成26年3月期の確定申告書の提出期限である平成26年5月31日となる。   3 中古資産の耐用年数を適用できるか 適格合併により引き継いだ資産の償却費を計算する際の耐用年数は、原則として、その資産の法定耐用年数によるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」には、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれるからである(耐令3①)。 この規定は、「適用することができる」規定なので、適格合併により引き継いだすべての資産に適用せず、特定の資産にのみ適用することも可能である。 ところで、この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」に、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれることとされたのは、平成15年度税制改正後のことである。改正前は、旧耐用年数の適用等に関する取扱通達関係1-5-13に、適用できない旨が明記されていた。これは、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたもので、新たに「取得」したものではないとする考えからであり、上記1でも述べたとおり、現在においてもこの考えは変わっていない。 根幹にある考えが変わっていないにもかかわらず、適格合併での適用を認めた背景には、同じ適格組織再編成である適格分社型分割などにより移転を受けた資産に、中古資産を取得した場合の耐用年数の適用が認められていたことにある。適格合併についても適用を認めることは、上記の考えとは矛盾することになるが、適格組織再編成により移転を受けた資産についての取扱いを一本化するために、適格合併により移転を受けた資産についても適用を認めることとしたのである。 中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、定額法や旧定額法により償却計算を行う場合の計算の基礎となる取得価額は、被合併法人における取得価額をそのまま使うことはできない。被合併法人の取得価額から被合併法人で既に損金算入した金額を控除した金額、つまり被合併法人における合併直前の帳簿価額を取得価額として償却計算を行うこととなる(耐令3③)。具体的な計算方法は、下記4(2)の計算例を参照のこと。   4 計算例 (1) 法定耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、法定耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。   (2) 中古資産の耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。   (3) 中古資産の耐用年数を適用して旧定率法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、償却方法の届出書の提出により旧定率法で償却計算を行うと、次のようになる。 (了)

#No. 14(掲載号)
#石井 幸子
2013/04/11

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】「修正申告の勧奨(その1)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】  「修正申告の勧奨(その1)」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「そうか・・・修正申告をしないのか・・・」 田村上席調査官は、隣に座っている山口調査官の話を聞きながら、腕を組む。 「非違事項は、交際費と棚卸資産だけなんですが・・・」 山口調査官は困った顔をしている。 山口調査官は、先週から3日間、太田工業の実地調査をした後、「調査結果の内容の説明等」を納税者に行ったのである。 交際費の否認の内容は、会社が主催した「創立20周年の記念祝賀パーティー」の費用である。パーティーの請求書の金額は、850万円であった。 しかし、招待客から、「祝い金」を合計で198万円を受け取っていたのである。 実地調査で、山口調査官が記念行事の名簿を調べているとき、それぞれの招待客の名前の横に、金額が記されていた。 「ここに書かれている金額は何ですか?」 山口調査官が質問した。 「招待客から頂いた祝い金ですが・・・」 と経理担当者は応えた。 しかし、帳簿には、雑収入として「祝い金」が計上されていない。 会社の伝票では、次のように仕訳がなされていた。 経理担当者は「会社が実質的に負担した費用のみを、交際費として処理した」と答えた。すなわち、198万円は、招待客が負担した費用であるから、交際費の弊社の実際の負担は、652万円であると主張した。 これに対して、山口調査官は、次のような仕訳を書き、経理担当者に示した。 そして、税務上はこのように処理すべきで、交際費は850万円であると述べた。 棚卸資産については、申告書に添付されている決算書の棚卸金額と集計用紙が30枚の綴りとなっている棚卸表の合計金額に900万円の差があった。 「この差の原因は何ですか?」 山口調査官の質問に、経理担当者の表情が変わる。 「ちょっと・・・調べてみます」 山口調査官から棚卸表を経理担当者が受け取ると、そそくさと自分の机に持っていき、計算をし始めた。 しばらくして、少し青ざめながら、山口調査官が調査をしているテーブルにやって来た。 「集計誤りです・・・」 山口調査官は、経理担当者が指で示す一枚の集計用紙の小計欄を見た。 10,000,000円という数字が書かれている右端に、1,000,000円と書かれている。 そして、1,000,000円の数値の上に二重丸◎が付いている。 「どちらの数字が正しいのですか?」 「・・・確か・・・10,000,000円が正しかったと・・・」 経理担当者は困ったような表情をした。 「でも、この集計用紙では、1,000,000円の数値で計算されている」 山口調査官は、もう一度、集計用紙の数値を電卓で叩く。 「・・・おかしいな。どう計算しても、この小計欄の金額は10,000,000円になる・・・」 少し声を大きくして経理担当者に言う。 「・・・なんで、ここに1,000,000円が記載されているのですか?誰が書いたのですか?」 経理担当者は、矢継ぎ早の質問に青ざめて黙っている。 「これが、隠ぺい・仮装だったら、重加算税の対象ですよ」 山口調査官は、少し興奮して、経理担当者に伝えた。 以上の税務調査の状況から、山口調査官は、調査結果の内容の説明等を口頭で行い、交際費と棚卸資産について、「修正申告等の勧奨」を行った。さらに、棚卸資産については、重加算税を賦課決定する旨を伝えた。 山口調査官の調査結果の内容の説明を、社長、経理課長、経理担当者そして若い税理士の4名が机を挟んで聞いている。 しばらくして、若い税理士が尋ねる。 「これって、以前と違って、新しい国税通則法では、修正申告を提出しても、更正の請求ができるはずですよね」 「ええ、それについては、これから説明しようと思って・・・」 山口調査官は、修正申告書を提出した場合、不服申立てはできないが、更正の請求をすることができる旨を記載した「教示文」を鞄から取り出して、机の上に置いた。 4人が一斉に、その教示文の内容を確認するために、前かがみになる。 「申し訳ないのですが・・・この教示文は、国税に関する法律の規定に基づき交付する書面なので、署名・押印を頂きたいのですが・・・」 山口調査官は、4人を前にして、少し頭を下げる。 「修正申告・・・しかも、重加算税か・・・」 社長が横に座っている経理課長をチラッと見る。 「棚卸の洩れは・・・集計ミスで・・・」 そう言いながら、経理課長は、経理担当者の方向をみる。経理担当者は、黙って俯いている。 そのとき、若い税理士は、はっきりした口調で、社長に問うた。 「この際、税務署に更正処分をしてもらいましょうか」 (つづく)

#No. 14(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/04/11

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】「超過利子額の損金算入」

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】 「超過利子額の損金算入」   アースタックス税理士法人 税理士 中村 武   前回までの解説において、「関連者支払利子等の額」「控除対象受取利子等合計額」「関連者純支払利子等の額」「調整所得金額」及び「適用除外」に関して、その意義や算出方法等のポイントを確認してきた。これにより、本制度における「損金不算入額」の計算過程についての解説を終えたこととなる。 今回は、本制度のもう一つの特徴である、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」について解説を行う。   1 超過利子額の損金算入 法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において、本制度により損金の額に算入されなかった金額(この措置及び本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整によりその各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたものを除く)(以下「超過利子額」)がある場合には、その超過利子額(本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整により各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものを除く)に相当する金額は、その法人の各事業年度の調整所得金額の50%に相当する金額から関連者純支払利子等の額を控除した残額に相当する金額を限度として、その法人のその各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされる(措法66の5の3①)。 〈ポイント1〉 損金算入制度の趣旨 前回までの解説のとおり、本制度は「所得金額に比して過大な支払利子」について損金算入を制限し、租税回避を防止するために導入されたものであり、課税の繰延べをその目的とするものではない。 しかしながら、その判断の基礎となる所得金額及び支払利子の水準は、短期的な市況・当該企業の状況等、企業を取り巻く様々な要因により大きく変動する要素となっている。 したがって、当該変動による影響を緩和する目的で、単年度の状況だけでなく、事後の一定期間(7年間)の状況を踏まえて、過大な支払利子に該当するかどうかの判断を行うこととしている。 具体的には、本制度の適用により生じた損金不算入額を翌年度以降に繰り越し、調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度において、その差額に相当する金額を限度として損金算入することとされている。 〈ポイント2〉 翌年度以降の損金算入イメージ 第2回においても簡単な事例を用いて超過利子額の損金算入について概略を解説したが、理解を深めるため、再度二期連続でのイメージを下記に記載する。 〔イメージ図〕 〈ポイント3〉 翌期以降の確認ポイント 上記イメージ図においても確認できるように、当該年度の超過利子額が繰り越され、翌期以降、調整所得金額が多い事業年度(正確には調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度)において、超過利子額が損金算入されることとなる。 したがって、本制度による損金不算入額の最終的な影響を考える際には、当期のみならず、当該企業の経営計画等に基づき、翌期以降の関連者純支払利子等の額及び予想所得金額を考慮する必要がある。 〈ポイント4〉 適格合併等があった場合の超過利子額の引継ぎ 適格合併が行われた場合において、被合併法人の引継対象超過利子額がある時は、合併法人等の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。 また、その法人との間に完全支配関係がある他の法人でその法人が発行済株式等の全部若しくは一部を有するものの残余財産の確定についても、適格合併と同様に超過利子額の引継ぎが行われる。 〈ポイント5〉 連結納税の承認を取り消された場合の超過利子額の引継ぎ 連結納税の承認を取り消された場合等において、その連結納税の承認を取り消された場合等の最終の連結事業年度終了の日の翌日を含む事業年度開始の日前7年以内に開始した各連結事業年度において生じたその法人の連結超過利子個別帰属額があるときは、その連結超過利子個別帰属額は、その連結超過利子個別帰属額が生じた連結事業年度開始の日を含むその法人の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。   2 適用要件 超過利子額の損金算入の規定の適用を受けるには以下の申告要件を満たす必要があり、この規定の適用を受けようとする事業年度だけでなく、超過利子額が発生した過年度の申告書に超過利子額に関する明細書の添付が必要とされていることに留意が必要である。 この規定は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書にその超過利子額に関する明細書の添付があり、かつ、この措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書に、適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り適用する。 この場合において、これらの規定の適用を受ける金額は、当該申告に係るその適用を受けるべき金額に限るものとする(措法66の5の3⑧)。 *  *  * 次回(第7回)においては、本制度と他規定(過少資本税制等)との二重課税の調整について、解説を行うものとする。 (了)

#No. 14(掲載号)
#中村 武
2013/04/11

租税争訟レポート 【第7回】法定外普通税の規定は地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)

租税争訟レポート【第7回】 法定外普通税の規定は 地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 1 神奈川県臨時特例企業税の概要   2 条例成立の経緯 平成13年3月21日、神奈川県議会で可決された神奈川県臨時特別企業条例(平成13年神奈川県条例第37号、平成13年8月1日施行。以下「本条例」という)は、地方税法4条3項及び259条以下の規定に基づく道府県法定外普通税として、臨時特別企業税(以下「特例企業税」という)を定めたものである。 その課税標準は、繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとした場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額であり、かつ、当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合には、当該繰越控除欠損金額に相当する金額であることから、特例企業税は、繰越控除欠損金額に相当する金額を課税標準として課税するものである。   3 訴訟の経緯 本訴訟は、本条例に基づき特例企業税を課された原告(被控訴人、上告人)が、本条例は、法人事業税の課税標準である所得金額の計算上、欠損金額を繰越控除することを定めた地方税法の規定に違反し、違法・無効であると主張して争ったものである。 訴訟では、当事者双方から、行政法、租税法学者を中心とする多数の専門家の意見書が書証として提出され、納税者と神奈川県とのどちらを支持するかで、意見が分かれていた。裁判所の判断も、第一審である横浜地方裁判所は納税者の訴えを認め、東京高等裁判所が神奈川県の主張を認めていた。 本件は、そうした難しい争点に、最高裁判所が判断を示したものである。   【原審(控訴審)の判断】 原審は、条例が法律に違反するか否かは、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかにより決すべきである旨を判示した上で、上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。   【最高裁判所の判断】 地方税法に定める法定普通税についての規定は、別段の定めのあるものを除き、任意規定ではなく強行規定であると解されるから、普通地方公共団体は、地方税に関する条例の規定や改正に当たっては、同法の定めに拘束され、これに従わなければならないというべきである。 したがって、法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも、これと同様に、同法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない。 本件条例の実質は、繰越控除欠損金額それ自体を課税標準とするものにほかならず、法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を一部排除する効果を有するものというべきである。 特例企業税の課税は、各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずるものであり、各事業年度の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。   【解説】 神奈川県のホームページには、「県財政の危機的状況を訴える」と題した黒岩祐治知事の県民への訴えが掲載されている。 そこでは、「危機的状況にある県財政」を立て直すため、「身を削る行政改革の実施」が続けられていることが紹介され、「子や孫の世代のために」に、県民の皆様と危機感を共有し、この難局を乗り越えていきたいという、知事の考えが示されている。 特例企業税が、こうした県の財政難を克服するための一つの政策であったことは間違いない。そして、県として、地方税法の規定に則り、条例を可決し、総務大臣の認可を得て、法定外普通税として課税してきた。 最高裁判決が強調しているのは、地方税法に規定する法定普通税に関する規定は強行規定であり、地方公共団体が法定外普通税に関する条例を定めることによって、法定普通税の内容を変更すること、地方税法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害することは許されないということである。なお、一部報道には、本判決を「課税自主権の侵害である」と捉える声もあるようだが、本判決は、法定外普通税そのものを否定したものではなく、法定外普通税においても強行規定たる地方税法に違反することは許されないとしたものに過ぎず、この批判は当たらないのではないかと筆者は考える。 神奈川県は、最高裁の判断が「違法・無効」となったことで、上告人以外の約1,700社に対しても、利息を含め約635億円を自主返還することを発表した。 (了)

#No. 14(掲載号)
#米澤 勝
2013/04/11

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第2回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第2回】   弁護士 木村 浩之   (前回はこちら) 4 貸倒損失等との区分 (1) 総論 損失については、通常は「任意に」生じるものでないことから、寄附金には該当しない。例えば、貸し付けていた債権が債務者の資力の悪化によって回収不能になった場合には、その損失は「任意に」生じたものではなく、債権放棄をしたとしても、貸倒損失として損金算入が認められる。 これに対して、法人が特段の理由なくして、債権放棄、債務引受などの損失負担をする場合には、その損失は「任意に」生じたものであり、単なる利益の移転行為として寄附金に該当することになる。 このように、債権放棄等には、貸倒損失等として寄附金には該当しない場合と任意の利益移転として寄附金に該当する場合とがあり得ることになる。そこで、それらの区分が問題となる。 この点、一般には、寄附金に該当するか否かは、債権放棄等が「任意に」なされたものか否かという観点から区別されるのであり、その任意性については実質的に判断されることになる。実質的に判断して、その債権放棄等に任意性がないと評価される場合には、寄附金には該当せず、貸倒損失等として損金算入が認められる。 そのように任意性がないものとして寄附金の範囲から除かれる貸倒損失等には、次のようなものがあり得る。 以下では、それぞれの要件等について解説することしたい。   (2) 事実上の貸倒債権の放棄 ア 要件 貸倒損失として寄附金の範囲から除かれるための要件は、債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであることが必要であり、そのことは、 などを踏まえて、社会通念に従って総合的に判断されるべきものであると解されている(最判平成16年12月24・民集58巻9号2637頁)。 なお、通達においても、貸倒損失の計上が認められる場合が具体的に定められている(法基通9-6-1ないし3)が、必ずしもそれに限られるものではなく、上記判例が掲げる要素に照らして、その全額が回収不能であると認められれば、貸倒損失の計上は認められる。 イ 具体的な方法 債権の全額が回収不能であることを客観的に明らかにするためには、例えば、次のような方法が考えられる。 ① 執行不能 債権回収のために訴訟等の法的手続を踏んだ上で、強制執行を実施し、それが執行不能に終わった場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ② 無資力 債務者の財産等を調査した結果、換価可能な資産がなく、その収入状況等から今後も支払いの見込みがないことが判明した場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 なお、その調査の程度については、債権者として相当な範囲の調査(債権額との比較において、過分な費用や労力がかからない程度の調査)を行った結果、資産等の把握ができないということで足りるものと解される。 ③ 所在不明 債務者の所在を調査した結果、その所在が不明であり、補足可能な資産がないことが判明した場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 なお、その調査の程度については、②に準じて考える。 ④ 長期不払い 債務者の客観的な状況が明らかではない場合であったとしても、支払いがない状態が長期間継続しているという状況で、債権者が債権回収を断念したという事実も一事情として考慮することができるものと解される。 そこで、債権の回収や管理に要する費用を踏まえた上で、債権放棄の処理をする(債権放棄通知書を債務者に送付する、あるいは、取締役会等において債権放棄の意思決定をし、帳簿上の貸倒処理をする)ことにより、客観的に貸倒れが明らかになったものとして、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ⑤ 費用倒れ 債務者の状況から、仮に何らかの回収が可能であると考えられたとしても、費用倒れに終わる可能性が高い場合には、④に準じて、債権放棄の処理をすることにより、客観的に貸倒れが明らかになったものとして、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ウ 損益両建て処理が必要な場合 なお、損失そのものは任意に生じたものでないとしても、その原因となる行為が任意になされた場合(典型的には、貸倒れが予想される状況で敢えて貸付けを実行した場合)については、債権放棄等によって後に現実の損失が生じたとしても、直ちに損失計上のみの処理ができない場合があり得る。 すなわち、会社に損害を与えたことにつき、役員等に過失があり、その者に対する損害賠償債権が同時に発生するとみられる場合には、損益を両建てすることになる。その場合、役員等に対する責任追及をしないのであれば、その損害賠償債権を放棄したものとして、当該役員等に対する認定賞与の処理をすることになると考えられる(拙稿《役員給与》編・6(5)参照)。   (3) 債務整理手続における債権放棄等 破産、民事再生その他の債務者の法的な債務整理手続(倒産処理手続)において債権の一部又は全部の回収ができないことが確定した場合には、その時点において回収不能額についての損失処理が認められる。 また、任意の債務整理手続であっても、その処理が法的な手続に準じてなされるものであり、債務の整理として合理的な内容を有するものである場合には、同様に、債権の一部又は全部の回収ができないことが確定した時点において、回収不能額についての損失処理が認められる(法基通9-6-1(3)参照)。   (4) 子会社等の再建支援のための損失負担 ア 要件 やむを得ない理由により子会社等の再建支援をする場合には、その支援のための損失負担は寄附金には該当しない。それが認められるための要件としては、 ことが必要であると解される(法基通9-4-1、9-4-2参照)。 イ 子会社等の範囲 ここでいう子会社等には、出資関係のみならず、取引関係その他の事業関連性を有するものも含まれており、支援者と経済的な結び付きのある者が広く含まれることになる。 ウ 支援の必要性 債務超過に陥っており、倒産するおそれがあることなど、子会社等が経済的に困窮していることが必要である。 エ 支援者の利益 子会社等を支援することにより、支援者にも経済的利益がもたらされる場合である必要がある。 例えば、子会社等が重要な販路を握っていることや主要な商品の仕入先であることなどにより、子会社等の事業継続が支援者の利益にもなる場合、現在の損失を負担して子会社等の整理をしなければ今後より大きな損失負担を求められる可能性がある場合などが考えられる。 オ 相当な範囲 支援が相当な範囲にとどまる(支援によって支援者が得られる利益と負担との均衡を失しない)場合は、その支援のための損失負担は寄附金には該当しないことになる。 例えば、事業継続のメリットがある子会社等を再建するために合理的な再建計画に基づいて支援する場合、支援をしない場合の損失負担に関する分析結果に基づいてその損失を超えない範囲で支援する場合などは、相当な範囲の支援として寄附金には該当しない。 (了)

#No. 14(掲載号)
#木村 浩之
2013/04/11

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる試験研究費の範囲と税務調整

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる 試験研究費の範囲と税務調整   税理士 鈴木 達也   1 研究開発税制の概要 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除は、大法人及び中小法人でも活用できる制度である。また、大法人は平成24年4月1日開始事業年度から青色欠損金の損金算入制限(法法57①)が適用され、青色欠損金額を有していても、課税所得が生じることがあるため、研究開発税制による税額控除により納税額を軽減することができる。 この税額控除の制度は、青色申告書を提出する法人の各事業年度において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、試験研究費の12%相当額をその法人のその事業年度の所得に対する法人税の額から控除することとされている(措法42の4①)。   2 試験研究費の意義 税務上の試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用(措法42の4⑫一)で一定のものをいう。 この試験研究は、工学的・自然科学的な基礎研究※1、応用研究※2及び工業化研究※3(開発・工業化等)を意味するもので、新製品や新技術の試験研究に加え、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象となる。例えば、製造現場における量産化のための試験研究も含まれる。 逆に、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に当たらない人文・社会科学関係の研究は対象とはならない。したがって、例えば、次のような費用は含まれない※4。 なお、会計上は試験研究費という文言がなく、研究開発費等に係る会計基準(以下「会計基準」という)では、研究開発費が定義されている。研究開発費とは、新製品の計画・設計又は既存製品の著しい改良等のために発生する費用(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(以下「実務指針」という)4)をいい、税務上の試験研究費に含まれる製造現場における量産化のための試験研究や現に生産している製品の改良のために継続的に行われる試験研究は、研究開発費に含まれない。 ※1 自然現象に関する実験等によって法則を決定するための研究 ※2 基礎研究の結果を具体的な物質、方法等に実際に応用して工業化の資料を作成する研究 ※3 基礎研究及び応用研究を基礎として工業化又は量産化をするための研究 ※4 国税庁『Q&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)』(平成15年10月)   3 試験研究費の範囲 製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で一定のものとは、他社への委託研究費、その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)及び経費をいう(措令27の4⑥一、二)。会社の経理処理によっては、試験研究費が各勘定科目に計上されているため、集計漏れがないように注意が必要である。 その試験研究費のうち損金算入されない金額及び試験研究に充てるために他者から受けた金額を除いたものが、税額控除の対象となる試験研究費となる。 以下、実務を想定して試験研究費を考察していく。 (1) 委託研究費 例えば、製造子会社が基礎研究を親会社に委託している場合など、他社に試験研究を委託する費用は、試験研究費の対象となる(措令27の4⑥二)。 なお、委託研究費は、研究開発の内容について検収(中間検収を含む)を行った時点で費用として処理すべきであり、契約金等は前渡金として処理しなければならないが、その契約金等の支払時に費用処理しているケースが散見されるので、研究開発の委託契約や検収書を確認した上で適切な処理をする必要がある。 なお、自社で行う試験研究費を集計することが難しい場合には、この委託研究費のみを申告することもできる。 (2) 新製品の開発に係る試験研究費 自社の試験研究費を把握する上で、まず次の事項を確認し、あわせてその会計処理も知っておきたい。 ① 研究プロジェクトとスケジュール 新製品の開発に係る試験研究の研究プロジェクトとそのスケジュールにより全体像を把握する。会社の経理担当者も、どのような試験研究が行われているかを知らない場合がある。そのようなときは経理担当者を同席の上、開発責任者から試験研究の内容を聞くようにすると、経理担当者の試験研究に対する意識も高まる。 ② 試験研究の開始時期 試験研究の開始時期は、機関決定の書類や稟議書等により確認できる。一般的に試験研究には多額の費用が投じられるため、会社として研究テーマや研究内容を決めている。中小企業では少人数で試験研究を行うため機関決定をしていない場合もあるかもしれないが、税務調査に備え書類を用意しておくことがよいであろう。 ③ 量産化の決定時期 会計上、製品の量産化の決定をもってその製品の研究開発は終了する。それまでの経費は費用処理とされ、それ以降の経費はその製品の製造原価となる。そのため、量産化の決定時期は会計処理をする上での重要なメルクマールとなる。量産化が決定するときには、その試験研究により開発された製品が一定レベルに達しているかどうかの評価会議が開かれ、その会議で量産化の承認がされる。なお、このような会議が開かれない場合には、取締役会や稟議書等の書類によりその時期を明らかにしておくのがよいであろう。 また、ソフトウェア開発における量産化の決定時期は、製品マスターの完成時点、具体的には、機能評価版のソフトウェアであるプロトタイプが完成した時点とされ、量産化の決定前の費用は、研究開発費となる。また、プロトタイプを制作しない場合には、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消した時点とされる(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A Q10)。 ④ 量産化後、新製品発売までの期間における業務 会計上、量産化のための開発が行われ、新製品が発売されるまでに生じた費用(試験研究費を含む)は、新製品の製造原価としてその新製品の棚卸資産に配賦されることとなる。また、この期間中に事業年度末が到来した場合には、仕掛品として資産計上しなくてはならない。 この期間に行われる量産化のための試験研究は、製品の製造又は技術の改良のための試験研究に該当するため、試験研究費となる(会計上の研究開発費には該当しない)。ただし、すべての研究者が試験研究を行っているわけではなく、試験研究以外の業務(例えば、営業への説明や顧客対応)を行うことがあるため、その業務の有無を確認しておく必要がある。 【新製品の製造に係る試験研究】 【ソフトウェア開発に係る試験研究】   (3) 原材料費 試験研究のために要した原材料費は、試験研究費となる。なお、その原材料を用いて試作品を製作した場合に、その試作品が販売可能なものであれば、棚卸資産として評価すべきであろう。一方で、試作品が転用・売却できず廃棄するしかないものであれば、棚卸資産として評価する必要もない。 (4) 人件費 ① 試験研究の専従者とそれ以外の者 開発部門に属する人件費のうち、試験研究費の対象となる人件費は、専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られる(いわゆる直接人件費)。そのため開発部門に所属する者であっても、例えば事務職員、守衛、運転手等のように試験研究に直接従事していない者に係るもの(いわゆる間接人件費)はこれに含まれないこととなる(措通42の4(1)-3)。 また、評価や分析などの業務を行い開発部門に属さない者であっても、相当期間試験研究の業務に従事する者の人件費であれば、試験研究費の対象となる。なお、「専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者」については、下記の個別通達が出ているので参考にしていただきたい。 ② 管理職の人件費 開発部長など、その部門を管理する業務が多い者であっても、実態として専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に該当するのであれば、その者の人件費は試験研究費に含まれる。一般的に開発部長は、研究者として専門的知識を持ちプロジェクト全般にわたり業務を担当していると考えられる。 中小企業の場合には、役員が研究プロジェクトの中心な役割を果たすことも少なくない。このような場合には、その役員が専門的知識をもってプロジェクトに参加し、その職務や従事状況が明確であれば、その人件費(他の研究者と比べ同程度の役員報酬部分に限る)は試験研究費に含まれると考えられる。 ③ 従事比率 新製品の製造に係る試験研究を行う者であっても、常に試験研究をしているわけではない。既に発売された製品の保守や簡単な改良、営業サポートをすることがある。そのため、すべての時間を試験研究に費やしているということにならず、試験研究に従事していない時間を除く必要がある。 原則的には、各人別に作業日報を作成し、明確に試験研究への従事状況を管理するのが理想であるが、大企業であってもそこまでは管理できていないようである。このような場合には、月次単位で各人別に作業内容を明確することで合理的な試験研究費が集計できる。 ④ 賞与引当金・退職給付引当金 試験研究費のうち損金算入されない金額は、税額控除の対象とならないため、人件費のうち期末に税務調整をしている賞与引当金(その社会保険料を含む)や退職給付引当金について、試験研究費の調整が必要である。 つまり、試験研究の業務に専ら従事する者の人件費を計算する上で、これらの者の期首の賞与引当金等を加算し、期末の賞与引当金等を減算して、損金に算入された人件費を計算する。 (5) 試験研究に係る経費 試験研究に係る経費とは、開発部門や試験研究をする者の家賃、光熱費、交通費など間接的に試験研究に要した経費をいう。これらの経費に特許申請費用、工業所有権の実施権の取得費用など試験研究後の経費が含まれている場合には、これらの費用を試験研究費から除く必要がある。加えて、上記(4)で試験研究に従事していない期間に対応する経費についても試験研究費に該当しないこととなる。 また、税額控除の対象となる試験研究費は、損金算入された金額に限られる(措法42の4①)ため、交際費や寄附金が損金不算入となる法人では、これらの損金不算入とされる金額を除くこととなる。 なお、増加試験研究費の特別控除(措法42の4⑨一)の適用にあたっては、比較年度、基準年度及び適用年度の試験研究費の範囲、試験研究費を計算する場合の共通経費の配賦基準等については、継続して同一の方法によることとなる(措通42の4(1)-2)。 (6) 補助金や他社から受けた受託研究費 その試験研究費に充てるため他の者(その法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が税額控除の対象となる試験研究費となる(措法42の4①)。 その他の者から支払いを受ける金額には、次のものが含まれる(措通42の4(1)-1)。 上記(1)~(6)を図で示すと、アミかけ部分が税額控除の対象となる試験研究費となる。 ※1 量産化後の製品の保守対応に係る人件費、税務調整した賞与引当金等 ※2 上記※1の人件費に対応する間接費や交際費損金不算入部分など (次ページへ続く)   4 税務調整が必要な試験研究費 次に掲げる項目については、試験研究費の会計上と税務上の処理が異なることがある。 税務調査においても調査項目となることがあるので、注意が必要である。 (1) 製造原価となる研究開発費 会計上、研究開発費はすべて発生時に一般管理費又は当期製造費用として費用処理することとされている(会計基準3、同注2)。一般的な研究開発費は、原価性がないと考えられるため一般管理費として処理し、工場などの製造現場で発生する研究費であっても、製造原価に含めることが不合理であると認められるときは、当期製造費用に算入してはならないとされている(実務指針4)。 一方、法人税基本通達では、試験研究費を基礎研究、応用研究及び工業化研究に分け、そのうち工業化研究に該当することが明らかなものは製造原価に算入し、それ以外のものは、製造原価に算入しないことができることとされている(法基通5-1-4(2))。ここでいう「工業化研究に該当することが明らかなもの」とは、特定の製品の製造に係る研究、採用している製造技術や製法の改良を目的として継続的・経常的に行われる研究が該当すると考えられる。 つまり、工業化研究に該当することが明らかな試験研究費については、会計で費用処理され、税務上は製造原価に算入しなければならず、この部分で税務調整が必要となる。会計上一時の費用として処理された製造原価となる試験研究費は原価差額として税務調整することとなる。 具体的には、その試験研究費を他の原価差額に加算し、その加算後の原価差額がプラスのときは、期末棚卸資産に対応する部分の金額をその期末棚卸資産に加算することとなる(法基通5-3-1)。また、その原価差額を一括して次に掲げる算式により期末棚卸資産に配賦する方法も認められている(法基通5-3-5)。 この税務調整した金額は、損金の額に算入されていないため、控除対象となる試験研究費に含まれないので注意が必要である。 (2) 自社利用ソフトウェアの開発費用 ① 税務調整 会計上、ソフトウェアの開発費用のうち、試験研究に該当する部分は、費用処理する(会計基準3)。 一方、法人税基本通達では、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができるものとして、研究開発費の額を挙げている(法基通7-3-15の3(2))。ただし、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額については、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされている(同括弧書)。 実務上、自社利用のソフトウェアが開発中止になるまでは、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかになることはないため、自社利用のソフトウェアの開発費用の全額がソフトウェアの取得価額とされる。 そのため、自社利用のソフトウェアの開発費用で、会計上、研究開発費として費用処理された部分は、税務調整が必要となる。もっとも、会計監査上、ソフトウェアの資産計上については、厳密な処理が行われているとは言い難く、研究開発費であっても資産計上されている部分が多いように見受けられる。 ② 税額控除の対象金額 ここで問題となるのは、上記①の通達によりソフトウェアの取得価額とされた部分が税額控除の対象となる試験研究費に該当するか否かである。 この通達の趣旨は、次のとおりである。 『法人税基本逐条解説(六訂版)』(税務研究会)P550 私見ではあるが、試験研究費がソフトウェアの取得価額となったとしても試験研究であることに変わりはないため、試験研究費として税額控除の対象となる余地があるのではないか。ただし、税額控除の対象となる試験研究費は損金算入されることが条件となっているため、ソフトウェアの取得価額になったときには税額控除の対象とならず、そのソフトウェアが減価償却され損金算入された時点で税額控除の対象になると考えられる。 過去においても試験研究費が法人税法上の繰延資産とされていたときには、法人の選択により繰延資産とすることができた。この場合には、その繰延資産である試験研究費の償却額が、税額控除の対象となる試験研究費とされていたようである。 (3) 特定の研究開発目的の機械装置等 会計上、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の研究に使用できない機械装置や特許権等を所得した場合には、取得時に研究開発費として処理することとされている(実務指針5)。 一方、税務上は他に使用ができないものであっても、減価償却資産として実態を備えているものであれば、研究開発用減価償却資産(耐用年数省令別表六)として法定耐用年数で償却する必要がある。そして、その機械装置等が役目を終え除却したときに、未償却残高を費用処理することとなる。 この除却費用が試験研究費に該当するかどうかについては、その除却が試験研究の継続過程において通常行われる取替更新に基づくものであれば試験研究費に含まれ、災害、研究項目の廃止等に基づき臨時的、偶発的に発生するものであれば試験研究費に含まれない(措通42の4(1)-5)。 (了)

#No. 14(掲載号)
#鈴木 達也
2013/04/11

会計リレーエッセイ 【第4回】「IFRS雑感」

会計リレーエッセイ 【第4回】 「IFRS雑感」   有限責任あずさ監査法人パートナー (前IASB理事) 山田 辰己   1 アジアにおけるIFRS採用国の拡大 筆者は、2001年4月から2011年6月まで国際会計基準審議会(IASB)の理事を務めた。その後、有限責任あずさ監査法人に勤め、そこでは、アジア地域の国際財務報告基準(IFRS)の普及に関する仕事をしている。 その関係で、韓国、マレーシア、インドネシア及び台湾といった国々を訪問する機会がある。これらの国々では、2011年又は2012年からIFRSが導入され、少なくともすべての上場企業に強制適用されている。また、韓国やマレーシアの場合には、IASBが新設・改訂する都度自国で適用しているIFRSに反映されている。 しかし、インドネシアの場合には、2009年版のIFRSが、台湾では2010年版が、2012年に導入されている。最新IFRSとのタイムラグを埋めるため、今後どのようにキャッチアップするかが、これらの国では大きな課題となっている。さらに、インドネシアやマレーシアでは、一部のIFRSのカーブアウトをしているため、厳密には、IFRSと完全に同一ではない。 ただし、このような多様性があるものの、香港やシンガポールも全面的な採用に動いており、アジア諸国では、IFRSの採用が着実に進んでいる。また、これらの国々では、IFRSの設定における日本のより積極的なリーダーシップに対する期待は強く、我が国が、アジア諸国のこの期待に応えてほしいものと感じている。   2 我が国のIFRSの任意適用 我が国は、2010年3月期からIFRSの任意適用を認めている。任期適用を行う企業は、金融庁長官が指定する「指定国際会計基準(現時点では、2012年10月までのIFRSがそのまま指定されている)」を適用しなければならない(IFRSのアドプション)。 一方、任意適用をしない企業は、日本基準に基づいて連結財務諸表を作成しなければならないが、この日本基準を、2007年8月にIASBと企業会計基準委員会(ASBJ)との間で結ばれた「東京合意」に基づいて、IFRSと同じにする努力が継続して行われている(コンバージェンス)。 2009年には、企業会計審議会から2012年を目処に、日本の上場企業にIFRSを採用するかどうかの意思決定を行うというロードマップが示され、日本でのIFRS導入の機運が高まったが、2011年6月の内閣府特命担当大臣(金融担当)の発言以降は、その機運が急激に冷めている。 そのような背景には、のれんの非償却、開発費の資産認識、非上場株式の公正価値測定及び企業年金の会計処理といった日本の経営者の感覚に合わないIFRSの処理に対する反対がある。筆者は、このような反対がある現状では、当面は、強制適用に向かうより、任意適用の継続の方がベストと考えている。   3 モニタリング・ボードのプレスリリースのインパクト(2013年3月) モニタリング・ボードは、IASBが所属するIFRS財団の組織の一部を構成しており、評議員の選任の承認や評議員の責任の遂行のレビューを行うとともに助言を提供するなどといった権限を持っている。モニタリング・ボードは、現在5名(EC(欧州委員会)、金融庁長官、SEC(米国証券取引委員会)委員長、IOSCO(証券監督者国際機構)の新興市場委員会議長及びテクニカル委員会議長)のメンバーで構成されているが、これを最大11名まで拡大することが2012年2月に公表されている。 そして、今年3月には、既存のメンバーが、今後もメンバーであるために満たさなければならない要件が示され、その中に、そのメンバー国の国内市場で、IFRSが「顕著な適用(prominent application)」をされていることが含まれた。また、メンバーとしての資格要件の評価は、2013年から開始され、3年に1度見直すこととされており、この要件を満たすためには、IFRSを任意適用する(又は任意適用を行う意向を表明する)企業が、2016年までにかなり増大する必要があると考えられる。それを達成できない場合には、日本の国際的な地位に影響が出ると予想される。   4 IFRS問題は経営上の大きな問題 冒頭にも触れたように、IFRSは、現在アジア諸国で相次いで採用されている。世界で100を超える国々が何らかの形でIFRSを受け入れている現状から見ると、米国の今後の動向いかんという面もあるが、今後10年といった長さで見ると、IFRS採用国が減少することはあまり考えられない。 日本では今後とも任意適用が続くとしても、IFRSが世界標準として定着すると予測するなら、この問題は、各企業が投資家などの外部関係者とどのようにコミュニケーションをはかるかという経営方針に係る大きな問題だと言える。 また、モニタリング・ボードのメンバーの要件を満たすためには、2016年までにIFRS採用企業数が拡大する必要があるが、現在の適用企業数は10社を超える程度である。 任意適用の拡大には、日本の経営者が納得しないIFRSの会計処理についてIASBとどのように折り合いをつけるかという方向性が重要だと思われるが、この問題に対処している関係者には、この困難な方程式を短期間に解いてもらいたいと願っている。 (了)

#No. 14(掲載号)
#山田 辰己
2013/04/11

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第2回】金融商品会計②「満期保有目的の債券の期末評価」―額面より低い価額で債券を取得した場合の会計処理(償却原価法)

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第2回】 金融商品会計② 「満期保有目的の債券の期末評価」 ─額面より低い価額で債券を取得した場合の会計処理(償却原価法)   仰星監査法人 公認会計士 石川 理一   〈事例による解説〉 期中の満期保有目的の債券の取得取引の概要は、以下のとおりです。 取得価額と額面との差額は、すべて金利の調整部分とします。 〈決算において必要となる会計処理〉 〈会計処理の解説〉 償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいいます。この場合、取得価額に加減した額は受取利息又は支払利息に含めて処理します(金融商品会計基準(注5))。 取得価額に取得差額を加減する「一定の方法」には、利息法と定額法の2つの方法があり、原則としては利息法によるものとされていますが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することも認められています。今回の事例では、定額法での会計処理を示しています。 原則的方法である利息法とは、債券のクーポン受取総額と金利調整差額の合計額を債券の帳簿価額に対し一定率となるように、複利をもって各期の損益に配分する方法です。定額法と比較して、計算が複雑になります。 [定額法による償却原価法]   (了)

#No. 14(掲載号)
#石川 理一
2013/04/11

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の主な改正点と留意点 【第4回】「各論における改正事項『貸倒引当金』」及び「チェックリスト利用上の注意点」

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の 主な改正点と留意点 【第4回】 「各論における改正事項『貸倒引当金』」 及び「チェックリスト利用上の注意点」   税理士 永橋 利志   1 貸倒引当金計上の留意点 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、その取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。 この「取立不能のおそれがある場合」とは、債務者の財政状態や取立てのための費用や手続の困難さ等を総合的に判断することになるが、会計上、取立不能見込額の算定方法は、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分し、それぞれの区分に応じて貸倒引当金を算定する。 実際の算定に当たっては、過去の貸倒実績率等の合理的基準により算定することが求められる等、中小企業にとってはハードルの高いものとなっている。 中小会計指針では、このような状況に照らして、平成23年12月税制改正前の法人税法の区分に基づいて算定される貸倒引当金の繰入限度額が、明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、その繰入限度額を後期の貸倒引当金繰入金額とすることができるとしている。 なお、「法人税法上の区分」とは、まず、一括評価金銭債権と個別評価金銭債権に区分され、さらに、個別評価金銭債権は、法律による長期棚上げ債権、債務超過が1年以上継続し事業好転の見通しのない場合等の回収不能債権、破産申立てや更正手続等の開始申立て等があった場合の金銭債権に区分され、それぞれ法人税法上の規定に基づき、繰入限度額が計算されることになる。 ※「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」p.11より ただし、中小会計指針を適用している企業でも、資本金の額が1億円を超えるような場合には、上記の税制改正により、旧規定による繰入限度額を計上した場合には申告調整をする必要があり、今般の改正により、中小会計指針では、その注意点を脚注に示すこととした。   2 差額補充法と洗替法 中小会計指針を含め会計では、引当金が毎期継続的に計上される場合の処理は、差額補充法によることとしているが、法人税法では、洗替法による処理を原則としていることから、中小企業において、引当金の計上は、洗替法により計上することが多くある。 これに対し、前期末決算に計上した貸倒引当金に係る金銭債権が、当期に当該債権が貸倒れとなった場合の処理として、まず、当該貸倒引当金を充当し、当期末決算において、要計上額と貸倒引当金残高の差額を当期繰入金額とすることは、洗替法による場合より費用収益対応の観点からも合理的であると考えられる。 ただし、差額補充法は、法人税法上認められている処理ではないため、差額補充法によった場合の対応として「法人が貸倒引当金その他法に規定する引当金につき当該事業年度の取崩額と当該事業年度の繰入額との差額を損金経理により繰り入れ又は取り崩して益金の額に算入している場合においても、確定申告書に添付する明細書にその相殺前の金額の金額に基づく繰入れ等であることを明らかにしているときは、その相殺前の金額によりその繰入れ及び取崩しがあったものとして取り扱う。」(法基通11-1-1)としている。 つまり、法人税法上の貸倒引当金に係る明細書に洗替法による場合の金額に基づく繰入等であることを明らかにしているときは、洗替法による処理であるとして取り扱われ、損金算入が認められる。 中小会計指針上も定められた規定ではないが、個別注記項目として、貸倒引当金の繰入れについて、差額補充法によることを明記した上で、例えば、法人税法に定められている洗替法に拠った場合の戻入額と繰入額を記載することでの対応も可能であろう。 今般の中小会計指針の改正により、この点について、本通達の規定を関連規定として掲載することで、法人税法上の損金算入が可能となる場合を明確にしている。   3 チェックリスト作成の留意点 (1) チェックリストの見直しに際しての基本的考え方 現行の「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」は、平成20年5月に改訂されたものが、今日まで使用されている。 これは、この間にチェックリストの項目に係る大幅な改正がなかったことの証左であるが、今般の中小会計指針の改正により、チェックリストについても項目等の見直しが図られるであろう。 その見直しに際しても、チェックすべき項目数を大幅に見直すのではなく、中小会計指針が適用されていれば、昨年公表された「中小企業の会計に関する基本要領」(以下「中小会計要領」という)の内容も包摂していることを明確にするべきであると考える。 これまで、中小会計指針を適用してきた企業が、あえて中小会計要領を適用することは、中小企業会計の健全性等から考えても、何ら意義を見出すことができないことから、中小会計指針が中小会計要領を包摂する位置にあることを認識し、中小会計指針を継続的に適用することが大事である。 今般の中小会計指針の改正に伴うチェックリストの見直しも、そのような方向に沿ったものでなければならない。 (2) チェックリスト作成の注意点 上記(1)の基本的考え方を認識した上で、チェックリスト作成に際し注意すべき点を確認することとする。 まず、チェックリストは、計算書類を作成した中小企業から提供された会計情報(帳簿書類等)に基づき、当該企業の関与税理士等が中小会計指針の各規定に照らして、適正に処理がされているかどうかを判断し、その結果を当該中小企業に報告するものであることを認識すべきである。 したがって、チェックリストは、監査報告としての機能を持つものでもなく、当該中小企業の会計の正確性を税理士が担保するものではない。 次に、個別のチェック項目について、「無」の欄が設けられている項目と設けられていない項目の違いを確認する。 「無」の欄があるものは、確認事項欄について、「~がある場合」という前提条件が付加されている。例えば、「引当金:No.34」では「将来発生する可能性の高い費用又は損失が特定され、発生原因が当期以前にあり、かつ、設定金額を合理的に見積ることができるものがある場合」としている。 前回述べた「引当金計上の4要件」に合致しない場合には、引当金を計上することはできないので、チェックリストでは「無」となる。このことは、他の項目にも共通しており、確認事項欄に「~がある場合」となっている項目には、「無」の欄が設けられている。 これに対し、「無」の欄がないものは、「預貯金:No.1」のように、預貯金があれば、必ず通帳等が存在するものであり、「~ある場合」という前提条件を付加する必要がないものであるので、その場合には、「YES」か「NO」の選択をすることとなる。 チェックリストは、すべての項目について、「YES」や「NO」を付すべきものではなく、前提条件に合わないものがある場合には、「無」であることを意思表示しなければならない。 また、「無」の多寡と中小会計指針の適用に係る判断とは別物であることを改めて確認する必要がある。   4 まとめにかえて 中小企業の会計のあり方に係る議論が活発になってから、10年余りが経過した。 中小会計指針は、平成17年の制定後、毎年、改正することとされている。今般の改正は、規定の大幅な見直しではなく、中小企業にとって、利用しやすくするための、表現ぶりの見直し等が主な内容である。 これまで確認してきたような、今般の改正の趣旨や注意点を十分に理解し、多くの中小企業が、企業経営に会計情報を積極に取り込めるよう中小会計指針を積極的に採用することを願ってやまない。 【参考】 日本税理士会連合会ホームページ ・「「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」の公表について」 ・「中小企業の会計に関する基本要領」 ・「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」 (連載了)

#No. 14(掲載号)
#永橋 利志
2013/04/11

税効果会計を学ぶ 【第7回】「一時差異等に係る税効果の認識」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第7回】 「一時差異等に係る税効果の認識」   公認会計士 阿部 光成   第7回となる本稿では、一時差異等に係る税効果の認識について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 一時差異等に係る税効果の認識 税効果会計の適用に伴い、次のように会計処理される(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)15項)。   Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性 1 収益力に基づく課税所得の見積り 一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払いが見込まれない税金の額を控除し、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない(個別税効果会計実務指針16項)。 個別税効果会計実務指針21項では、大きく分けて を規定している。 我が国では、税法上、将来加算一時差異をもたらすケースはそれほど多くはない。このため、繰延税金資産の可能性を判断する際には、上記①収益力に基づく課税所得の十分性がポイントになることが多いと考えられる。 これに関して、個別税効果会計実務指針21項は次の要件を示し、課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積もる必要があると述べている。 監査上の取扱いとして、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)がある。 同委員会報告では、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いとし、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針を示している(監査委員会報告第66号5)。 2 繰延税金資産の回収可能性の見直し 繰延税金資産の回収可能性は、毎決算日現在で見直すことになる(個別税効果会計実務指針23項)。 このため、過年度に計上していた繰延税金資産が回収不能と判断されることとなった場合には、回収不能分について繰延税金資産を取り崩すこととなる。 また、過年度に未計上であった繰延税金資産について回収可能と判断されることとなった場合には、回収されると見込まれる金額まで新たに繰延税金資産を計上することとなる。   Ⅲ 繰延税金負債の支払可能性 繰延税金負債について、「その支払いが見込まれない場合」とは、事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合に限られると規定されている(個別税効果会計実務指針24項)。 このため、将来加算一時差異に関しては、繰延税金負債は基本的に計上されることとなり、それが計上されないことは極めて稀なケースということになると考えられる。 (了)

#No. 14(掲載号)
#阿部 光成
2013/04/11
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