《速報解説》 会計士協会、J-SOXの改訂等に対応した「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を確定 ~コメントを受けて公開草案時の規定から一部修正も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年7月28日付けで(ホームページ掲載日は2023年8月4日)、日本公認会計士協会は、「「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」」を公表した。これにより、2023年4月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。コメントを受けて、公開草案から修正した規定もある。 これは、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)及び監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日付けの改正)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 内部統制の基本的枠組み 1 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」 意見書は、サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展やCOSO報告書の改訂を踏まえ、内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」としている。 内基報第1号では、内部統制報告制度の目的は、あくまで「財務報告の信頼性」であるという前提に基づいているため、特段の対応をしていない。 2 内部統制の基本的要素 内基報第1号では、次の対応を行っている(37項、181項)。 3 経営者による内部統制の無効化 内基報第1号では、次の対応を行っている(126-2項)。 4 内部統制に関係を有する者の役割と責任 内基報第1号では、特段の対応をしていない。 5 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理 意見書では、3線モデル等が例示されているが、内基報第1号では、特段の対応をしていない。 Ⅲ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告 1 経営者による内部統制の評価範囲の決定 意見書では、「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」について機械的に適用しないことや、評価範囲に関する監査人との協議が監査人の指導的機能の一環として行われることが記載されている。 内基報第1号では、次の対応を行っている(66項の修正、74項の削除、75-3項の追加など)。 2 ITを利用した内部統制の評価 内基報第1号では、次の対応を行っている(143-2項、165項など)。 3 財務報告に係る内部統制の報告 内基報第1号では、内部統制の報告に関する改正を行っている(257項、281項)。 Ⅳ 財務報告に係る内部統制の監査 内基報第1号では、次の対応を行っている(56項、75項、76項)。 Ⅴ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度における内部統制監査から適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「監査報告書の文例」及び「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正を公表 ~その他の報告責任区分における報酬関連情報の記載例を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年7月28日付けで(ホームページ掲載日は2023年8月2日)日本公認会計士協会は、「監査基準報告書700 実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700 実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正並びに「公開草案に対するコメントの概要及び対応」」を公表した。 これにより、2023年4月18日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、2022年10月の「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」(監査基準報告書700)の改正を受けて、所要の改正を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 監査報告書の文例の改正 改正倫理規則(2022年7月25日変更)において、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity:PIE)である場合、報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示が要求事項として新設されたことに対応し、その他の報告責任区分における報酬関連情報の記載例を追加する。 倫理規則の規定(セクション410)では、監査報告書において報酬関連情報(監査報酬及び監査以外の業務の報酬並びに報酬依存度)の開示を行うことが示されている。 「監査報告書の文例」では、その他の報告責任(監基報700第39項)として、監査報告書において報酬関連情報を記載する場合、「報酬関連情報」という見出しを付した区分を「利害関係」の直前に設けて記載することとしている(26-2項)。 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年3月27日、内閣府令第21号)は、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示について規定している。 2 監査報告書に係るQ&Aの改正 監査報告書において報酬関連情報の開示を行う場合の具体的な留意事項の解説として、Q1-10「監査報告書における報酬関連情報開示の適用範囲」及びQ1-11「監査報告書における報酬関連情報開示の省略等」を新設している。 フロー図によるパターンの整理がなされている。 Ⅲ 適用時期等 改正後の実務指針は、2023年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査から適用する。 ただし、改正後の実務指針を、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月1日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査から早期適用することを妨げない。 (了)
2023年8月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.530を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.126- 「政府税制調査会中期答申と税制改正」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 政府税制調査会は6月30日、「わが国税制の現状と課題-令和時代の構造変化と税制のあり方-」と題する中期答申を公表した。これまでの税制改正の経緯や今後の進む方向を述べた261ページの労作である。 これに対する新聞各紙の反応(社説)は、「政府税調まで消費税議論から逃げるのか」(日経新聞)、「弱まる『警鐘』の役割」(朝日新聞)、「政府税調の答申 負担先送りは看板倒れだ」(毎日新聞)、「政府税調の答申 議論を喚起し改革を促せ」(産経新聞)などとその発信力を批判する内容となっている。 消費税などのあるべき姿を、総理の諮問機関である政府税制調査会の答申に具体的に書き込むには、官邸や党の了解が必要であり、今はその時期ではない(逆効果になる)と判断したのだろう。 一方驚くべきことに、SNSの世界では、中期答申の記述が、「現在非課税となっている通勤手当などに課税するサラリーマン増税を行おうとしている」「サラリーマンの退職金課税を強化しようとしている」との言説が広がり、総理や官房長官が否定する事態が生じた。 答申は、通勤手当などの例を挙げ、「これらの非課税所得等については、それぞれ制度の設けられた趣旨がありますが、本来、所得は漏れなく、包括的に捉えられるべきであることを踏まえ、経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要です。」と政府税調として当たり前といえる見解を述べたものだ。ちなみに、2000年の中期答申とほぼ同文である。 また退職金課税の見直しについては、「骨太の方針2023」に、「退職所得課税制度の見直しを行う」と明記されており、答申の記述は目新しいものではない。 このような反応を見ると、筆者としては、日頃から財務省に遺恨を持つ者(OBを含む)が意図的にSNSを通じ「財務省がサラリーマン増税を考えている」と発信しているのではと疑いたくもなるが、いずれにせよ冷静な議論に水を差す悪意に満ちたやり方だ。総理や官房長官のサラリーマン増税否定発言が、年末の税制改正議論まで縛ることになれば、彼らの思うつぼになる。SNSの世界が偏見や悪意に満ちているかを改めて認識した。 筆者が答申を読んで、来年度改正に向けて議論すべきと考えたのは金融(資産)所得税制のあり方で、また、大きな議論になると予想されるのは法人税のイノベーションボックス税制である。以下、順に述べてみたい。 * * * 昨年問題となった「一億円の壁」の問題だが、答申は以下のように記述している。 その上で、「令和5年度税制改正においては、NISA制度の抜本的拡充や保有する株式を売却してスタートアップへ再投資する場合の優遇税制とあわせ、『一億円の壁』と指摘される状況に対し、『極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置』が導入され、税負担の公平性の確保が一定程度図られました。」としている。 一方、「今後とも、税務データを有効に活用し、令和5年度税制改正において講じられた各種措置の影響も含め、総合課税分と分離課税分を統合した形で所得税負担率の分布状況を分析していくことが求められます。」と記述している。 この点、税務データの活用には大きな進展があった。国税当局は、わが国の納税者の所得分布などの研究に資することから、匿名化した申告データの活用を認め、早速その成果として、中央大学法学部の國枝繁樹教授及び財務省財務総合政策研究所主任研究官の米田泰隆氏が「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」(税務大学校ディスカッションペーパー)を公表した。 それによると、「我が国の2020年の高額所得者の所得分布のパレート係数の推計値は、過去の水準よりも大幅に低い1.45程度となっているが、これは、超高額所得者への所得集中が、資本所得を中心に進んだことを示している。」とされている。 令和5年度改正の超富裕層への課税強化の対象は300人といわれており、極めて限定的なものだ。前述の研究成果などを活用して、所得格差是正に向けさらなる検討・改正が行われることを期待したい。 * * * 次に、「イノベーションボックス税制」である。この税制は、わが国の研究開発拠点としての立地競争力の強化やイノベーションの促進を目的に、特許等の知的財産から生じる所得に優遇税率を適用するものである。 この税制については、2015年のBEPS(税源浸食と利益移転)最終報告書で、有害税制部分を除外した「実質的な活動基準」(国内で自らが行う研究開発)が合意されたことから、欧州諸国だけでなく、シンガポールやオーストラリアなどのアジア諸国でも検討や導入が進められている。また米国には、内国法人が米国以外の国で獲得した一定の所得について所得控除を認めるFDII(Foreign Derived Intangible Income)というよく似た税制が導入されている。 来年度税制改正では、この税制のわが国への導入が議論となると思われるが、答申は、このような租税特別措置に厳しい目を向けている。 「法人税の租税特別措置は・・・租税の公平原則や中立原則の大きな例外となっています。例えば、減収額が最大である研究開発税制は、その恩恵を享受するのは全納税法人約109万社のうち1万社程度であり、業種別では適用額の80%が製造業・・・に集中し、サービス産業の適用は少なくなっています。」と記述し、「EBPM(※)による適切なデータを用いた効果検証を踏まえ、制度のあり方を不断に見直す必要があります。」と強い調子で租税特別措置の見直しを訴えている。 (※) EBPM・・・Evidence-based Policy Making;証拠に基づく政策立案 知財開発の「インプット」である研究開発投資に対して、上述のように手厚い優遇税制が張り巡らされ、6,500億円(令和3年度)の減収額となっている。 その上、研究開発の成功した「アウトプット」である所得にも優遇税制をということになれば、税制優遇が過剰になる可能性がある。知財の経済に与える重要性には異存はないが、双方の役割分担を整理してEBPMを用いた議論をする必要がある。 年末の決着に向けた議論が秋口から始まる。 (了)
マンション評価に関する通達案の概要と論点整理 ~明らかとなった6割水準評価等への理論・実務的な検証~ 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 1 はじめに 去る7月21日に国税庁から「居住用の区分所有財産の評価について」に係る法令解釈通達の案が公表され、意見公募手続(パブリックコメント)が実施されることとなった(締切は8月20日)。 当該通達案は、昨年4月の最高裁判決(最高裁令和4年4月19日判決・民集76巻4号411頁(TAINSコード:Z888-2406)(※1))を受けて、昨年末の与党税制改正大綱で「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」(※2)という旨が指摘されており、これに呼応する形で国税庁が、主として納税者の予見可能性を確保する観点(※3)から、「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」を本年1月から3回にわたって開催し検討した成果である。 (※1) 判例評釈として、例えば、拙稿「〈判例評釈〉相続マンション訴訟最高裁判決-相続税の節税目的で取得したマンションに対する評基通6項適用の可否が問われた事例【前編】・【後編】」Profession Journal No.472、473等参照。 (※2) 自由民主党・公明党「令和5年度 税制改正大綱」(令和4年12月16日)21頁。 (※3) 国税庁「第1回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年1月30日)別添2資料1頁参照。 本稿では、当該通達案の内容を紹介するとともに、現在考えられる論点や疑問点を理論・実務の双方から検討して、パブリックコメントや今後の実務の参考資料を提供できればと考えている。 2 通達案の内容 (1) 一室の区分所有権等に係る敷地利用権の価額 財産評価基本通達に「居住用の区分所有財産の評価」に関する規定が新設され、用語の定義を示したのち、①一室の区分所有権等に係る敷地利用権の価額(マンションの敷地部分)と、②一室の区分所有権等に係る区分所有権の価額(マンションの建物部分)の評価方法が定められた。 当該評価方法において中心となる概念は、市場価格と(従来の)相続税評価額との乖離を示した「評価乖離率」である。ここでいう評価乖離率とは、通達案によれば以下の算式で求めた値となるが、当該算式の4つの指数は、相続税評価額が市場価格と乖離する要因である「築年数」、「総階数」、「所在階」及び「敷地持分狭小度」にそれぞれ対応する(※4)。 (※4) 国税庁「第3回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年6月22日)別添2資料2頁参照。 *いずれも小数点以下第4位を切り上げる。 要するに、当該算式は、「築年数」、「総階数」、「所在階」及び「敷地持分狭小度」という4つの指数から統計的に居住用の区分所有財産の市場価格(市場価格理論値)を求めるモデルである。非常に意欲的で興味深い試みであると評価できよう。 次に、一室の区分所有権等に係る敷地利用権の価額についてみると、以下の算式で評価することとなる。 なお、上記算式中の「補正率」は、1を前述の「評価乖離率」で除した「評価水準」(※5)に応じて、以下の区分により算定される。 (※5) 相続税評価額を市場価格(市場価格理論値)で除した値でもある。 上記(ア)及び(イ)の場合、自用地としての価額に評価乖離率を乗じて一旦市場価格を求め、(ア)のケースについては「市場価格 < 相続税評価額」となるため当該市場価格を評価額とし、(イ)のケースについては更に0.6を乗じて最低評価額(市場価格の6割)を求めるという算式になっている。(ウ)の場合は、市場価格と相続税評価額との間の乖離が比較的大きくないため、相続税評価額をそのまま使用する(補正なし)ということになる。 上記(ア)~(ウ)の適用状況を図で示すと、以下の通りとなる(青の実線が見直し前、オレンジの実線が見直し後を示す)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大されます。 (出典) 国税庁「第3回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年6月22日)別添2資料3頁を基に筆者作成 (2) 一室の区分所有権等に係る区分所有権の価額 一室の区分所有権等に係る区分所有権の価額、すなわちマンションの建物部分の価額は、以下の算式で評価することとなる。 なお、上記算式中の「補正率」は、前掲(1)の区分に応じた「補正率」を用いることとなる。 (3) 適用時期 令和6(2024)年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価について適用される見込みである。 3 通達案の論点 (1) 区分所有財産の法的性格 今回の通達案の骨子は、居住用の区分所有財産(マンション)に係る現行の評価方法を維持しつつ、相続税評価額が市場価格を大幅に下回っているもの(60%未満)の評価額を60%まで引き上げることで、乖離を縮小しようということである(※6)。すなわち、現行のマンションの評価方法である、一戸建ての評価方法に準ずる形の、建物部分の価額(固定資産税評価額)に敷地利用権の価額(路線価をベースに評価)を加算するという方法は維持しているのであるが、これは果たして妥当なのだろうか。 (※6) 数は少ないであろうが、相続税評価額が市場価格を上回っているものも市場価格に引き下げられる。 そもそも、建物区分所有法(※7)上、区分所有建物は専有部分と敷地利用権とが一体のものとして扱われている(分離処分の禁止、建物区分所有法22①(※8))。また、両者は分離して処分(売買)することも原則として不可能である。したがって、今回のように抜本的改正を行うのであれば、マンションの一室に係る相続税の評価方法についても、専有部分と敷地利用権とを別個の財産としてそれぞれ評価するのではなく、原則として両者を一体のものとして評価するほうが区分所有財産の法的実態に即しているものと考えられる。 (※7) 建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)。 (※8) 当該規定は、改正前から取引の実際においては専有部分と敷地利用権とが一体で処分されるのが普通であり、かつ、不動産登記上の便宜等のため、1983年改正法で初めて採用された。稲本洋之助・鎌野邦樹『コンメンタールマンション区分所有法(第3版)』(日本評論社・2015年)127-130頁。なお、規約に別段の定めがあるときは分離処分が許されるが(建物区分所有法22①但書)、権利関係や管理が複雑になることから、実際にはそのようなケースはほぼ無視できるものと考えられる。 そうなると、例えば、建物の専有部分と敷地利用権とを1つの権利(仮に「集合住宅持分権」と称する)とみて、当該持分権を核とした評価方法を構築する方が理論的には適切ではないかと考えられる。この場合、国税庁は先に示した評価乖離率を求める統計的モデルで「市場価格理論値」を算出していることから、これを基に各区分所有財産に対応する「集合住宅持分権」を設定(※9)すればよいのではないかと考える。 (※9) 集合住宅持分権の評価割合(市場価格理論値に対する割合)も設定する必要があるが、例えば、一律8割にするという方法が考えられる。 こう考える理由は、区分所有財産に関する現行の評価方法が、2つの異質な評価方法に基づく価額、すなわち建物部分の価額(固定資産税評価額)と敷地利用権の価額(路線価をベースに評価)とを加算することに著しい不合理が生じるためでもある。特に、建物部分の価額(固定資産税評価額)が適正な時価(市場価格)を反映した評価額であるという保証はどこにもない。むしろ、建物部分の価額に対し無理やり固定資産税評価額を当てはめるのは止め、国税庁による区分所有財産に関する相続税・贈与税目的の統一的な評価方法を示して用いるのが、理論的にも実務的にも妥当であると考えられる。 なお、固定資産税では土地と建物とを別個に評価し課税しているため、相続税でもそれに合わせるのが実務上理にかなっているという見解もあり得るが、固定資産税はその前身となる地租及び家屋税においてそれぞれ土地及び家屋に別途課税していたという歴史的経緯(※10)があり、それが現在の課税実務を縛っているという側面がある一方で、相続税に関してはあえて別個に評価し課税しなければならない必然性も必要性もない。今回の見直しの目的は、居住用の区分所有財産の相続税評価額と市場価格との乖離を縮小することであり、その目的を果たすのにどのような手段が最も適切であるのかを示すことが肝要である。居住用の区分所有財産の法的性格を踏まえれば、相続税・贈与税の評価に関し、敷地利用権と建物の専有部分とを分けて評価する意義は乏しいものと考えられる。 (※10) 拙稿「はじめての固定資産税(1) 固定資産税ってなに?」『税』2023年4月号247頁参照。 (2) 現行の評価方法による対処の可否 今回の通達案の公表は、現行の評価方法では都市部のマンション(特にタワーマンション)につき市場価格と相続税評価額との乖離が生じ租税回避行為を誘発するため、それへの対処という側面が強い。筆者もかねてから、市場価格と相続税評価額との乖離が生じているのであれば、それを早急に是正すべきと主張してきたところであるが(※11)、果たして現行の評価方法では当該乖離を埋めることはできなかったのであろうか。 (※11) 拙稿「路線価と時価とが乖離した不動産に対する評基通6項の適用基準」『税理』2020年11月号147-148頁等参照。 国税庁によれば、現行の評価方法に関し当該乖離が生じる理由として、①建物の効用の反映が不十分な点と、②敷地利用権に関する立地条件の反映が不十分な点の2点を挙げている(※12)。①については、固定資産税評価額の問題でもあるため国税庁単独で解決することは困難であることは分かるが、②については、単に路線価の設定水準に問題があるだけではないかとの疑念がぬぐえない(※13)。すなわち、マンションの敷地持分が狭小となることを見越して、路線価を単純に引き上げれば解消するのではないかと考えられる。今のところ、②に関し、マンションの敷地部分の価額を適正に反映するような路線価とするため、それを引き上げるという単純な対処方法に対する説得力のある反論を聞いたことがないのであるが、何かあるのだろうか。 (※12) 国税庁前掲(※4)資料2頁参照。 (※13) 筆者はかねてからこの点を指摘してきた。拙稿「高層・タワーマンションの相続税財産評価を巡る論点」『税務事例』2014年6月号84-85頁等参照。 (3) 8割評価の放棄? 通達案では、市場価格から乖離した相続税評価額につき、最低の評価水準として0.6(市場価格の60%)という値を設定しているが、国税庁によれば、当該値は「一戸建ての評価の現状を踏まえたもの」(※14)ということである。マンションと一戸建てとで評価水準を合わせるという意図があるものと考えられるが、これまでの国税庁のスタンスを踏まえるとやや解せないところがある。なぜなら、不動産評価の基本となる路線価は、地価税の実施を機に平成4年から地価公示価格の8割で評価することとされてきた(※15)こととの平仄が取れないからである。マンションと一戸建てとで評価水準を合わせるという方針は重要であるが、一戸建ての評価水準が実態調査の結果、市場価格の6割程度に過ぎないということを国税庁が認めたことになり、「路線価は地価公示価格の8割で評価」という基本方針の空洞化が懸念される。 (※14) 国税庁前掲(※4)資料2頁。 (※15) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)739頁脚注8、品川芳宣・緑川正博『徹底討論 相続税財産評価の論点』(ぎょうせい・1997年)60頁、75-76頁等参照。 もっとも、実態として、マンションの敷地に係る地価公示価格が市場価格よりも低いため、仮に8割評価を維持しても、路線価は市場価格よりも相当程度低くなってしまうということなのかもしれない。そうであれば、筆者としては、今回の通達発遣を機に、「路線価は地価公示価格の8割で評価」という方針が何ら変わらないことを国税庁に確認しておきたい。 なお、通達案の評価方法を適用すると、居住用の区分所有財産につき、市場価格に対する評価割合が60%~100%までバラツキが出ることとなるが、これは「容認可能なバラツキ」といえるのかについては、今後検討が必要といえるであろう。 (4) 見直しの頻度 前掲2(1)で示した、評価乖離率を求める算式及び評価割合の下限である0.6については、適宜見直しを行うものとされている(通達案2(注)2参照)。この「適宜」というのはどの程度の頻度を指すのか定かではないが、国税庁の有識者会議で示された資料によれば、「固定資産税の評価の見直し時期に併せて、当該時期の直前における一戸建て及びマンション一室の取引価格に基づいて見直すものとする。」(※16)とされている。すなわち、原則として固定資産税の評価の見直しの時期(3年に一度)に行うということだと思われるが、これは相続税の財産評価制度のメリットを減殺する措置ではないかと考えられる。なぜなら、土地の評価額の基礎となる路線価は毎年見直しがなされているため、固定資産税と比較して、相続税は土地の時価の変動に機動的に対応できるというメリットがあるが、固定資産税と見直しのタイミングを合わせてしまうと、このメリットが消滅してしまうからである。また、評価乖離率は全国平均の値であり、特定の物件の激しい値動きに機動的に対応できない可能性も否めない。 (※16) 国税庁前掲(※4)資料3頁。 評価乖離率を求める算式は、平成30年分の日本全国の中古マンション取引につき、所得税の確定申告書情報と不動産移転登記情報とを突合して抽出したデータ(2,478件)に基づき算出しているとのことである(※17)。これを毎年見直すことにそれほどの事務量がかかるわけでもないと考えられ(※18)、また、路線価は毎年見直しがなされるということを踏まえるならば、わざわざ固定資産税評価のタイミングに合わせることにより「精度」が低くなるような対応を選択する必然性は乏しいだろう。評価割合の下限である0.6についてはともかくとして、評価乖離率を求める算式は、原則として、毎年見直すのが適切と考えられる。 (※17) 国税庁「第2回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年6月1日)別添2資料4頁参照。 (※18) 先に筆者が提案した「集合住宅持分権」は、市場価格理論値を毎年見直すことを前提に、路線価と同様に毎年評価替えがなされ変動することを想定している。 (5) 統計データへのアクセス 今回の統計的手法を用いた評価は、上記(4)の通り、平成30年中の日本全国の中古マンション取引から、異常値を除去した2,478件を抽出して使用しているとのことである(※19)。当該手法が妥当か否かについては、データそのものにアクセスして検証することが不可欠となる。もちろん個人情報にかかわるものは開示すべきでないが、物件の所在都道府県、総階数中の所在階、築年数、専有面積、敷地持分割合、価格といったデータの開示には支障がないものと思われる。そもそも、申告データというものは国税庁が独占的に支配すべき資産などではなく、国民共有の財産である。国税庁の今回の手法の正当性を広く外部から検証し、税務行政の信頼性を高める契機とすること(※20)は、非常に有意義な取り組みであると考えられる。 (※19) 国税庁前掲(※17)資料4頁。 (※20) これは今回の評価手法にとどまるものではなく、例えば過大な役員給与・使用人給与の損金不算入規定(法法34②、36)の適用を判断する際における、申告データから役員給与・使用人給与に係るデータベースを整備するといった取り組みにもつながることとなる。拙稿「諸外国における法人の申告情報開示」『税理』2020年7月号227-228頁参照。 なお、この点は、有識者会議でも「納税者の申告上の利便性を考えると、国税庁ホームページ等において、4指数の基となる計数を入力すると補正率や評価額が自動計算されるツールが提供されるとよいのではないか。」(※21)との指摘がなされており、今回の通達案でも別紙1「『居住用の区分所有財産の評価について』の法令解釈通達(案)の概要」の(参考)に、「納税者が簡易に計算するためのツールを用意する予定です。」とされている。筆者は個人的に、当該ツールの使い勝手がいかなるものか、今から非常に楽しみにしている。 (※21) 国税庁前掲(※4)別添3議事要旨。 (了) ↓お勧め連載記事↓
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第23回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 (3) 国会における議論①:譲渡所得該当性を否定する根拠 暗号資産の譲渡による所得の所得区分の問題、とりわけ譲渡所得該当性について、国会の議論を参照することで、暗号資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性を否定する国税庁の論拠が少しずつ明らかになってくる。 平成30年3月22日の参議院財政金融委員会において、藤巻健史議員は、「仮想通貨を物と考えれば、これ譲渡所得という考え」もありえたが、「改正資金決済法でこれは仮想通貨を支払手段と位置付けた」ため、国税庁の取扱いは雑所得が原則となったという理解で正しいかという質問を行い、国税庁の見解を確認した。 これに対して、藤井健志国税庁次長は、要旨次のとおり答弁した。 上記答弁は、譲渡所得の課税の趣旨としての清算課税説に言及している。この点は、判例や学説が採用するところであり、特筆すべき点はない。 また、上記答弁のうち、譲渡所得は資産の譲渡による所得である点、BTCなどの暗号資産(仮想通貨)については、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられているという点は、いずれも法令の内容を述べたにすぎない。 他方、外貨(外国通貨)と同様に、暗号資産の売却又は使用により生ずる利益は、資産の値上がりによる譲渡所得とは性質を異にするものであるとした上で、資金決済法の改正によって位置付けがなされたことも考慮し、暗号資産の売却又は使用により生じた利益は譲渡所得には該当せず、どの所得にも属さないということで雑所得に該当すると答弁されている点は注目してよい。 暗号資産が直ちに外貨に該当しないことは理解できるが、国税庁が、少なくとも外貨と暗号資産との間に共通点を見いだしている、あるいは暗号資産の課税関係を外貨に寄せて捉えている点に関心が寄せられる。 また、外貨については、暗号資産が登場するずっと以前から存在し、国税庁内部において、どのような課税関係になるかはほぼ固まっていたであろうことを考慮すると(国税庁は、外貨の使用や交換等に伴う為替差損益は原則として雑所得として課税対象になると理解しつつ、執行できない多くのケースを黙認しているのが現状であるというべきかもしれない)、暗号資産の課税関係について、外貨の課税関係と平仄を合わせるべきであるという価値判断が国税庁内部で強く働いているのではないか。ここでは、暗号資産は通常、外貨であるとは評価されていないこと及び行政先例にならう場面において、国税庁はある種の思考停止に陥る危険性があることを指摘しておく。 かような外貨と暗号資産との関係について、前述の参議院財政金融委員会において、星野次彦財務省主税局長も、要旨次のとおり答弁している。 さらに、藤井氏の上記答弁では、資産の値上がりによる譲渡所得とは性質を異にするものであって雑所得であると解する論拠として、BTCなどの暗号資産については、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられている点を強調していることに注意を要する。 これらの答弁の内容と、これまで国税庁は外貨の譲渡(交換)による損益を譲渡所得ではなく雑所得として扱ってきたことを併せ考慮すると、次のような推察が成り立つ。 この段階では、国税庁は暗号資産が譲渡所得の基因となる資産に該当しないと明言しているわけではないものの、譲渡所得の基因となる資産とは資産の値上がり益を生むような資産であるところ、暗号資産はそれ自体、資産の値上がり益を発生させるようなものではないため、譲渡所得の基因となる資産に該当しない(よって、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当することはない)というロジックを上記の答弁越しに見ることができる。 ただし、国税庁がこのようなロジックを採用していることを明言していないこと、自身の見解を論理立てて説明しないことに歯がゆさが残る。 なお、所得税法は、外貨建取引については「換算」という語を用いており、この点に外貨の特殊性を見いだすことは可能ではあるが、暗号資産については「換算」という語を用いていないことを指摘しておく(所法57の3)。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q81】 「保有株式がTOB成立後に買い取られた場合の申告手続き」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等の譲渡等に係る譲渡益に対する課税方法 (1) 申告分離課税制度 上場株式等の売却により生じる益は、一般株式等(いわゆる上場株式等以外の株式等)の譲渡所得とは区別して、「上場株式等の譲渡による事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額」として申告分離課税が適用されます。原則として、確定申告が必要となり、適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。上場株式等について譲渡損が生じた場合には、他の上場株式等の譲渡益との通算や3年間の繰越控除、また、上場株式等の配当との損益通算が認められています。なお、上場株式等に該当しない一般株式等の譲渡益との通算は認められていません。 この「上場株式等」は、株式等のうち次に掲げるものをいいます。 (2) 特定口座制度 特定口座とは、居住者等が金融商品取引業者等に設定する証券口座で、これを通じて行われた株式等の譲渡について、金融商品取引業者等が譲渡対価と取得費等の計算を行い、口座の保有者に特定口座年間取引報告書を交付することとされているものです。さらに、居住者等が特定口座内で生じる所得について源泉徴収されることを選択した場合(源泉徴収選択口座)には、金融商品取引業者等が譲渡益及び配当等に対して20.315%の税率で計算した所得税(復興特別所得税を含みます)及び地方税を源泉徴収することにより、当該居住者等は、原則として、確定申告が不要となります。 また、特定口座での保管が認められる株式等は、一定の上場株式等に限られています。 2 本件へのあてはめ A社株式が上場株式であることから、特定口座で保管されている期間内に譲渡が行われ、かつ、当該特定口座が源泉徴収選択口座に該当する場合には、原則として、確定申告を要しません。しかしながら、TOBの成立後にA社が上場廃止になると、A社株式は上場株式ではなくなり、特定口座で保管される上場株式等の範囲に含まれなくなります。 したがって、上場廃止後にA社株式を譲渡する場合には、源泉徴収選択口座内の譲渡ではなくなり、その譲渡益については確定申告が必要となります。さらに、上場株式等ではなく、一般株式等の譲渡による事業所得、雑所得及び譲渡所得等の金額に区分されることになりますので、上場株式等に認められた特典(譲渡損の3年間の繰越控除、配当との損益通算)も適用されませんので注意が必要です(譲渡損が生じた場合は、他の一般株式等の譲渡益とは通算されます)。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第32回】 「保険業に係る非関連者基準適用の可否」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 平成7年度の税制改正で租税特別措置法施行令39条の117第8項5号(当時)に「当該収入保険料が再保険料に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る。」(本件括弧書き)が付加された理由は何でしょうか。 〔A〕 保険業に係る非関連者基準については、特定外国子会社等とその関連者との取引が再保険の形で非関連者が介在する場合の取扱いが不明確であるとの指摘があったことから、特定外国子会社等の総保険料収入に占める非関連者からの保険料収入が過半か否かを判定する際に、保険契約によって担保される保険危険の過半が非関連者の財産等に係るものか否かという判断基準を明示することにより、その所在する国又は地域で行うことにつき経済合理性が認められない事業活動について外国子会社合算税制の潜脱を防止するという趣旨によるという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 平成7年度税制改正の意義 (1) 非関連者基準の趣旨について 非関連者基準は、保険業等を営む特定外国子会社等(現行制度では「特定外国関係会社等」)については、当該事業の性質上、事業活動の範囲が必然的に本店所在地国以外にも及ぶことが想定されるため、所在地国基準によることは相当ではなく、取引の相手方に着目し、当該事業が主として関連者以外の者との取引から成り立っている場合には、そのことをもって、その地に所在することの経済合理性を認めることができると考えられることから、所在地国基準に代わる適用除外要件の1つとされたものである。 (2) 立法担当者の解説 大蔵省編『平成7年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・1995年)297頁では、租税特別措置法施行令39条の117第8項5号に本件括弧書きを付加した趣旨について、次のように述べている。 以下では、平成29年度税制改正前の外国子会社合算税制に係る適用除外基準のうち、保険子会社について非関連者基準適用の可否が争われた日産自動車事件を検討する。 2 過去の裁判例 《日産自動車事件》(※1) (※1) (第一審) 東京地裁令和4年1月20日判決(令和2年(行ウ)第86号)・TAINSコード:Z272-13661 (控訴審) 東京高裁令和4年9月14日判決(令和4年(行コ)第36号)〈上告受理申立て中〉・TAINSコード:Z272-13755 (1) 事案の概要 連結納税の承認を受け、自動車等製造業を営む内国法人X(原告・控訴人)は、平成29年(2017年)3月期の連結事業年度の法人税等の確定申告をしたところ、処分行政庁から、英領バミューダ諸島において設立されたXの子会社(A社)が、非関連者である保険会社との間で締結した再保険契約に係る収入保険料は、当時の租税特別措置法施行令39条の117第8項5号括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当せず、外国子会社合算税制の適用除外要件のうちいわゆる非関連者基準を満たさないなどとして、更正処分等を受けたため、その一部の取消しを求める事案である。 メキシコで金融業を営むB社(Xの関連者(※2))は、Xの企業グループが製造する自動車を割賦で購入する顧客とクレジット契約(本件クレジット契約)を締結し、同契約には、B社を最優先の受益者(※3)とする保険契約を締結しなければならないとされており、B社は、メキシコの保険会社C社(非関連者)との間で「債務者の死亡と失業に関する保険契約(元受保険契約)」を締結し、上記顧客が他の保険に加入しない場合は元受保険契約に加入させ、顧客からは元受保険契約に係る保険料に相当する金額を徴収し、その保険料をC社に支払っていた。一方、C社は、A社との間で、元受保険契約で引き受ける全保険リスクの70%をB社が引き受ける内容の保険(再保険契約)を締結していた。 (※2) Xは、B社の発行済株式総数を間接保有していた。 (※3) 未回収のクレジット債権に係る損失を優先的に補填することを意味していると思われる。 2016年3月期のA社の収入保険料の総額は5億2,521万米ドル余であったところ、C社から受領した再保険契約に基づく収入保険料の総額(1,149万米ドル余)を、仮に関連者からのものとした場合には、A社の収入保険料(※4)のうちに占める非関連者からの収入保険料の割合は50%を下回り、非関連者基準を満たさないという状況であった。 (※4) A社のバミューダにおける所得に対する租税の負担割合は0%であった。 (2) 第一審の判断 本件第一審である東京地裁は、以下のように判示して、再保険契約に係る収入保険料は「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しないとして、課税庁の処分を適法と判断した。 (3) 控訴審の判断 上記の地裁判決を受け、これを不服としてXが控訴したところ、以下のとおり、東京高裁は一転、Xの主張を認め、原判決を取り消した。 国側は、かかる控訴審判決を受け、現在最高裁に対し上告受理申立てを行っている。 (4) 第一審二審判決の検討 東京地裁は、再保険契約に係る収入保険料は本件括弧書きに規定する収入保険料には該当しないと判断してXの請求を棄却したが、東京高裁は、保険料の実質的負担者は本件各顧客であると認定し、「本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険である」と判断した。 しかしながら、そもそもB社がC社と本件元受保険契約を締結した目的は、B社の債権回収リスクをカバーするためであって、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険というのは、本件元受保険契約に基づき、その給付が実行されるきっかけに過ぎないというべきである(※5)。したがって、控訴審の判旨はやや無理筋かと思われる。外国子会社合算税制の趣旨からいっても、メキシコ国内で保険によるリスクのカバーがなしえるところ、わざわざバミューダに再保険に出すというところに、異常性が見出される(※6)のであり、最高裁がこの先どういう結論を示すのか、注目されるところである。 (※5) 袴田裕二「外国子会社合算税制の非関連者基準の適用について争われた例」ジュリストNo.1582(2023年4月)124頁は、「本件でB社は、本件各顧客の資金を預かってそれをC社に送金しているのではなく、本件元受け保険契約者として同契約に基づく保険料を支払っていることから、タックス・ヘイブンに入ってくる収入保険料の支払者は、本件各顧客(非関連者)ではなく、B社(関連者)である。」と述べている。 (※6) 前掲(※5)は、「保険の機能はメキシコ国内で果たすこともできたところ、その機能をバミューダに移しそれに伴って所得をB社から(C社を介して)A社へと関連者間でバミューダに移しており、その部分については税負担の軽減以外に経済合理性を認めがたいということになる。」と述べている。 (了)
租税争訟レポート 【第68回】 「税理士損害賠償請求事件~善管注意義務違反 (東京地方裁判所令和2年2月20日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 【事案の概要】 本件は、原告の顧問税理士であった被告が、原告代表者Aによる横領を認識し、あるいは、認識し得たにもかかわらず、原告に対する報告や是正・指導を行わなかったことについて、それらが被告との間の業務委託契約に係る善管注意義務に反すると主張し、原告が、被告に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、横領された金銭の合計額1億1,677万6,000円の一部である3,000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告が確定申告を行うに当たり原告に適用されるべき税額控除制度の適用を失念して同制度に基づく税額控除をしないまま確定申告をしたことが、契約上の善管注意義務に違反するものであると主張し、確定申告に基づいて納付した税額と税額控除制度を適用して計算された納付すべき税額との差額等合計1,038万4,048円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 【東京地方裁判所による判決の概要】 1 争点 2 原告と被告との間の業務契約 判決によれば、原告と被告との間の業務契約(本件顧問契約)においては、以下のような定めがあったとのことである。 3 確定申告における所得拡大促進税制適用の失念(当事者間に争いがない) 判決によれば、原告は、平成26年3月期、平成28年3月期及び平成29年3月期の各確定申告において、租税特別措置法に規定する所得拡大促進税制の適用要件を満たしていたが、被告は、これらの各期の申告において、税額控除をしなかった。 4 争点に対する原告と被告の主張 (1) 被告が顧問契約に基づき横領等の不正を報告、調査確認するなどして、適正な申告書を作成する義務を負っていたか。また、被告による義務の不履行の結果、原告に損害が生じたか〔争点1〕 ① 原告の主張 原告は、被告は、本件顧問契約に基づき、財務諸表や税務申告書類を作成するに当たって、税務の専門家としての高度な善管注意義務を負担していたと主張した。このことに加えて、税理士法1条及び41条の3(※1)の趣旨に照らせば、被告は、不正を発見した場合には、これを報告すべき義務を負っていたということができることはもとより、税理士としての専門知識や技能に基づいて、依頼者である原告の要望内容が適切か否かについて、調査・確認すべき義務(調査確認義務)、さらには、原告の要望や報告内容に不足や不審な点があればこれを明らかにし、不適切な要望は改めるよう助言・指導して適正な申告書を作成するべき義務(助言指導義務)をも負っていたと考えるべきであるにもかかわらず、被告は、Aによる不正行為(横領)を認識し、あるいは認識し得たにもかかわらず、上記義務を果たさず、原告に損害を与えたと主張した。 (※1) 税理士法による規定は以下のとおりである。 そのうえで、原告は、Aによって横領された1億1,677万6,000円は、被告による本件顧問契約に基づく義務の不履行(債務不履行)によって生じたものであるから、原告に生じた損害は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると主張した。 ② 被告の主張 被告は、本件顧問契約に基づく被告の義務の内容は、税務書類の作成、税務代理業務、仕訳帳、総勘定元帳等の作成であり、原告の財産の管理や保護は含まれておらず、したがって、現金の実在性の確認やAの不正の発見は、本件顧問契約に基づく善管注意義務の内容ではないと主張した。 一方、被告は、原告において、創業の翌年頃から頻繁に数十万円単位で原告の預金及び現金が引き出され、原告が、これらの引き出しをAへの仮払金として会計処理し、これらの仮払金のほとんどについて、Aが現金で全額精算(返金)したものとして処理してきたこと、Aがそのような処理をした上で現金を横領していたことについては認めている。 (2) 原告が被告に対し、被告の債務不履行を理由に、損害賠償請求をすることが信義則に違反し、権利の濫用として許されないものであるか〔争点2〕 ① 被告の主張 被告は、原告の監査役や取締役会が、取締役であるAが仮払金名目で会社の現金を使い込み、それを隠ぺいするために仮払金の不正会計処理を経理担当者に指示していたにもかかわらず、10年以上にわたって「適正かつ正確である」と公に認めてきた会計処理について、原告の経営内部の事情を知ることができず、原告側の認定を覆すだけの資料を持ち合わせていない被告が不自然なものとして疑わなかったとしても、被告が責められるべき筋合いのものではなく、むしろ、仮払金の不正処理という問題が存在する会計処理を自ら適正かつ正確であるとしてきた原告が、被告に対して過払金の不正処理について注意義務違反を問うなどというのは、権利の濫用又は信義則に違反するものであると主張した。 ② 原告の主張 原告は、被告の主張については「争う」とした。 (3) 被告が本件各申告の際に本件税額控除制度に基づく税額控除をしなかったことによって、原告に生じた損害の内容及び金額〔争点3〕 ① 原告の主張 原告は、被告は、本件顧問契約に基づき、原告の税務書類の作成、確定申告に際し、必要な税制や特例を適用して、原告の税負担を軽減すべき注意義務又は原告の税負担が過大とならないように必要かつ適正な税務申告をするべき注意義務を負っていたところ、原告の平成26年3月期、平成28年3月期及び平成29年3月期の各確定申告において、租税特別措置法に規定する所得拡大促進税制の適用要件を満たしていたにもかかわらず、何ら検討せず、原告に対して本件税額控除制度について説明したり、資料の提供を求めたりすることなく、漫然と、税額控除をしないまま申告を行ったことから、次に掲げる損害を受けたと主張した。 ② 被告の主張 被告は、原告の法人税等の過大納付分については「不知」であり、税理士費用については、本件債務不履行と相当因果関係のある損害であるといえる部分があるとしても、原告が税理士に対して支払った報酬は業務内容と比較して過大であると主張するとともに、損害賠償金相当額に法人税や地方税が課税されたとしても、それは法人税及び地方税が損害賠償金を益金として見る結果にすぎず、本件債務不履行との間に相当因果関係はないと主張した。 5 東京地方裁判所の判断 東京地方裁判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 被告が顧問契約に基づき横領等の不正を報告、調査確認するなどして、適正な申告書を作成する義務を負っていたか。また、被告による義務の不履行の結果、原告に損害が生じたか〔争点1〕 裁判所はまず、被告について、被告が原告の会計書類上現金の残高が年々増加していたことを把握していたとしても、そのことから直ちにAが横領行為に及んでいることを被告が認識していたことにはならないし、被告が仮払元帳を作成するに当たって基礎としていた資料が経理担当者の決裁を経た会計原票であることからしても、被告がそのような認識を有していたことには大きな疑問があるという前提を述べた。 そのうえで、裁判所は、本件顧問契約上、被告に会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し、不正があればこれを是正指導する義務があったかという点については、本件顧問契約には、会計不正の調査業務は明示されていないうえ、被告が会計原票の基となる原資料に当たることも予定されていなかったということができることから、会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し、不正があればこれを是正指導する義務が被告にあったものと直ちに解することは困難であるとの判断を示した。 さらに、裁判所は、税理士法の規程との関係でも、税理士法2条2項に定める財務に関する業務の中に、公認会計士法2条1項に定めるような「財務書類の監査又は証明」業務や、その業務の前提として行うべき不正や誤謬があり得ることを念頭においた監査や指導業務が含まれていると一般的に解することはできないうえ、税理士法41条の3の規定は、脱税等の税理士の本来的な業務である税務に関する不正についてこれを認識した場合に助言するべき義務を規定したものにすぎないから、税理士法を根拠に本件顧問契約の解釈を補い、本件顧問契約上、会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し、不正があればこれを是正指導する義務が被告にあったと解釈することも困難であるとの判断を示した。 以上の判断から、裁判所は、本件顧問契約において、会計書類の内容を調査・確認し、不審点を明らかにして助言・指導するなどの義務が被告にあったと解することはできないとして、原告の主張を斥けた。 (2) 被告が本件各申告の際に本件税額控除制度に基づく税額控除をしなかったことによって、原告に生じた損害の内容及び金額〔争点3〕 裁判所は、原告が、平成26年3月期、平成28年3月期及び平成29年3月期の各確定申告において、租税特別措置法に規定する所得拡大促進税制の適用要件を満たしていたにもかかわらず、被告が、税額控除をしなかったことには、本件顧問契約に基づく善管注意義務違反、すなわち本件債務不履行があったものと評価せざるを得ないとしたうえで、本件債務不履行と相当因果関係のある損害について検討した結果、次の損害金額を認定した。 ① 過大納付分 原告は、各期の申告に基づき、合計3,542万800円を納税したが、被告が申告の際に、税額控除制度を適用していれば、その納税額は合計2,925万1,200円で足りたと認められるから、その差額である616万9,600円は、本件債務不履行と相当因果関係のある損害である。 ② 税理士費用 原告は、本件各申告において本件税額控除制度の適用があるか、本件税額控除制度が適用された場合に納付すべき税額の検証作業を税理士に委任して行い、その報酬として69万6,852円を支出したことが認められ、原告が、被告以外の別の税理士に検証作業を依頼すること自体はやむを得ないことではあるものの、原告が支出した税理士費用は、税務申告のみならず、記帳代行業務も含む本件顧問契約に係る1年分の報酬合計75万円と比較しても高額であることから、その全額を本件債務不履行と相当因果関係のある損害であると評価することは相当とは言い難く、原告が支出した税理士費用のうち本件債務不履行と相当因果関係のある税理士費用は、30万円とするのが相当である。 ③ 損害賠償金に課せられる税金 被告から取得する過大納付分及び税理士費用に関する損害賠償金等に法人税及び地方税が課税されて納付すべき税額が発生するのは、損害を填補する損害賠償金が確実に発生したことを益金として扱うこととした租税制度の結果にすぎず、その発生した税額は、填補されるべき原告の損害とは性質を異にする純然たる租税債務として観念すべきであり、本件債務不履行と相当因果関係のある損害ではない。 (3) 結論 裁判所は、結論として、被告には、本件顧問契約に基づく善管注意義務違反(本件債務不履行)があり、原告の請求には、本件債務不履行による損害賠償請求権に基づき646万9,600円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲でこれを認容して、その余は理由がないから棄却する判決を言い渡した。 【解説】 本件で争われたのは、「税理士に顧問先代表者による不正の発見義務があるかどうか〔争点1ー1〕」と「適用可能な税額控除を失念した場合に、その債務不履行と相当因果関係のある損害はどの範囲まで認められるか〔争点3〕」という2点であった。東京地方裁判所は、これまでの判決を踏襲して、〔争点1ー1〕については税理士の義務を認めなかったものの、〔争点3〕については、過大に納付することとなった税額にとどまらず、税額控除できる金額の算定を依頼した他の税理士に支払った費用の一部について、債務不履行との相当因果関係を認める判決を言い渡した。 1 多額の現金残高を確認しなかったことに、税理士の善管注意義務違反はないのか 東京地方裁判所は、顧問契約の条項から、会計書類の内容を調査・確認し、不審点を明らかにして助言・指導するなどの義務が被告にあったと解することはできないことを理由に、税理士には善管注意義務違反はないという判断を示した。 しかし、同業の税理士としては、本当に、1億円を超える現金残高が実在するのかという疑問を抱くことなく、申告していたのかが気になるところである。税理士による確認がおざなりになっていた原因として考えられるのは顧問料が低額であったということかもしれない。原告が所得拡大促進税制の適用要件を満たしていた3年間に納付した法人税額等が3,500万円を超えていた事実から、原告には相当額の課税所得があったはずだが、税理士が受け取っていた顧問報酬は年間75万円と相当に低額であったことがわかっている。もちろん、顧問報酬が低額であることを理由に、決算や申告に手を抜くことは許されるものではないが、顧問先に対する関心が薄れてしまい、その結果、多額の現金残高を見て見ぬふりをしたり、所得拡大促進税制の適用を失念したりしてしまったのではないかと思料する。 2 類似事案との比較 2021年6月21日に公表された、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社が設置した第三者委員会による調査報告書(※2)でも、多額の現金取引を利用した取締役CFOによる不正が問題となっている。さすがに多額の現金残高が期末にあったわけではなく、ソフトウェア等の資産に振り替えていたのだが、会計監査人であった有限責任監査法人トーマツ東京事務所は、2020年3月24日付監査覚書(マネジメントレター)において、2019年1月1日から同年12月31日までの間、現金取引として通常想定されない多額の取引が発生していることについて指摘を行っていたものの、不正を発見するまでには至らなかった。 (※2) 詳細は、本誌で連載中の「会計不正調査報告書を読む」【第117回】を参照いただきたい。 本判決で、東京地方裁判所は、公認会計士の職務について、公認会計士法2条1項に定める「財務書類の監査又は証明」業務や、その業務の前提として行うべき不正や誤謬があり得ることを念頭においた監査や指導業務が含まれているとの踏み込んだ見解を示しているところは興味深い。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第8回】 「相続税法附則第3項の「被相続人の死亡の時における住所地」の判定」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 相続税法における納税地の規定 相続税法第62条第1項は、納税義務者の法施行地にある住所地(居所地)をもって納税地とする旨の規定である。 しかし、施行日(昭和25年4月1日)当時から存在する附則第3項は、「当分の間、(略)相続税に係る納税地は、第62条第1項(略)の規定にかかわらず、被相続人の死亡の時における住所地とする」旨規定し、これが70年以上継続している。 相続税の納税義務者が複数存在する場合に同一の被相続人に係る相続税申告書が分散して提出されることの税務行政の非効率の解消、全ての納税義務者の課税価格が共有されなければ相続税の総額及び各納税義務者の納付すべき相続税額が算出できないという法定相続分課税方式の計算体系に照らせば妥当な運用であろう。 ここで論点となるのが「被相続人の死亡の時における住所地」であり、これの特定は事案によっては微妙な問題をはらむ。 2 大阪国税不服審判所平成28年5月17日裁決(TAINSコード:F0-3-453) (1) 事実関係の概要 (2) 双方の主張の概要(重加算税の課税要件に係る主張は省略) ① 原処分庁 ② 審査請求人 (3) 「住所」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・原処分庁の主張の排斥 3 法令解釈の出所と考察 上記2(3)の法令解釈は、最高裁第二小法廷平成23年2月18日判決(TAINSコード:Z261-11619)を基礎とし(「その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心」という表現は最高裁第三小法廷昭和35年3月22日判決(TAINSコード:Z999-5105)にも見られる)、生活の本拠が老人ホームにあるとして小規模宅地等の特例の特定居住用宅地等に該当しないと判断した東京地裁平成23年8月26日判決(TAINSコード:Z261-11736)を参考にした印象がある。 本件は、被相続人の老人ホームに転居した後の自宅の所在地を(所得税及び)相続税の納税地として申告していたにもかかわらず、被相続人の死亡の時における生活の本拠たる実体を積極的に調査しなければ、課税処分の基礎が崩壊して加算税の賦課決定処分の取消しの可能性があるという原処分庁にとっては相当酷な印象を持つ裁決であるが、それほどに税法における「住所地」の判断は納税者も課税庁も慎重に行わなければならないことを教訓とする裁決であろう。 「住所地」については、納税地の他にも、所得税法における居住者・非居住者の判断、相続税(贈与税)における納税義務者(課税財産の範囲)の判断などにも影響する。 (了)