《税理士のための》 登記情報分析術 【第3回】 「分筆、合筆登記の基本と活用」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 登記制度における土地の単位 土地は、登記制度において「筆」(ひつ、ふで)という単位でカウントされる。一見すると、1つの土地に見えても、登記としては複数の筆に分かれているということがある。 建物の敷地の権利関係を調査したい場合は、底地となっている土地の登記記録をすべて取得し調査する必要がある。土地の登記記録は筆ごとに作成されるため、同じ建物の敷地であっても所有者が異なっていることもある。 2 分筆、合筆登記とは 分筆(ぶんぴつ)登記とは、1筆の土地を複数の土地に切り分ける登記であり、合筆(がっぴつ)登記とはいくつかの筆に分かれている土地を1筆の土地にまとめる登記である。いずれも土地家屋調査士が対応する分野となる。 【図表:分筆登記(宅地分譲のケース)】 【記載例:表題部(土地・分筆)】 【図表:合筆登記】 合筆登記は、土地の管理を行いやすくする目的や、宅地分譲のために行う分筆登記に先立って行われるケースなどがある。 【記載例:表題部(土地・合筆)】 3 費用やスケジュール 分筆や合筆を行う場合、所要の費用や時間が必要になる。特に分筆登記は、測量や境界標の設置など複雑な作業が必要になり、費用も数十万程度になることが多い。税理士としては、簡単には行えない手続であることを認識し、早い段階で土地家屋調査士と連携することが求められる。 4 税理士としての分筆・合筆登記の提案 分筆・合筆登記について理解しておくと、税理士としても顧客に対して多様な提案が可能となる。例えば次のようなものがある。 (1) 相続対策として土地を承継しやすくするケース 【図表:合筆してから分筆するイメージ】 仮に相続人が2人であるケースで、相続対象となる土地が筆ごとに大きさが異なり価値にも違いがあると、平等に土地を承継させることは困難となる。対象となる土地を合筆で1つにまとめてから、価値が等しくなるように分筆すると平等に承継がさせやすくなる。金銭で調整する方法もあるが、資産のほとんどが不動産で、金銭による調整が難しい場合は、検討してもよいだろう。 (2) 土地の整理を行うケース 【図表:小さな土地が存在するイメージ】 上図のように、所有する土地のなかに、1筆だけ小さな土地があったり、細かく分かれた土地ばかりを所有していたりするケースがある。このような状態だと管理が非常に煩雑になり、相続や売却の際に、うっかり登記するのを見落としてしまうなどのトラブルも起こりうる。一時的にコストはかかるかもしれないが、長い目で見たときには合筆により整理することも有益であろう。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第44回】 「鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価」 ~それぞれの関係~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 昨今、相続税との関係でも不動産の時価がしばしば問題とされますが、ご承知のように一概に時価といっても様々な捉え方があります。税理士の方々にとっては、実務との関係では相続税評価額(相続税の路線価)が比較的馴染みがあるものと思われますが、ケースによっては不動産鑑定士の作成した鑑定評価書に目を通す機会もあることでしょう。また、固定資産税評価額(固定資産税の路線価)も時価の目安を推し測る1つの資料として活用されています。さらに、国土交通省から毎年1回(3月下旬頃)発表される公示価格は、鑑定評価において価格を決定する際にバランスを図ったり、相続税評価額や固定資産税評価額の決定の基となる基礎資料として活用されたりしています。 そこで、今回は、公示価格との関係も踏まえた上で、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の特徴について述べていきます。 2 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点 最初に、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点を掲げれば〈資料1〉のとおりです。 〈資料1〉 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の類似点 (※1) 「規準」とは均衡を保たせるという意味です。その際に、公示地点との諸条件の比較が行われます。 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価は、目的こそ相違するものの、その対象は同じ不動産であり、それぞれの根底には適正な時価が位置しています。 また、平成元年12月に土地基本法が制定される以前は、相続税及び固定資産税の基礎となる評価額(時価)は公示価格とは連動せずに求められていましたが、今日では相続税評価額は公示価格等の80%程度の水準、固定資産税評価額は公示価格等の70%程度の水準を目安とされていることはご承知のとおりです。 そして、相続税評価及び固定資産税評価において路線価を付設する際に、利用状況の類似するひとまとまりの地域内において、主要な街路に面し規模や形状が標準的な宅地(=標準宅地)の価格を求める際に公示価格や鑑定評価の結果が活用されています。 3 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点 次に、これらの相違点を掲げれば〈資料2〉のとおりです。 〈資料2〉 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点(※2) (※2) 鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点はこの表に掲げたもの以外にも多くありますが、専門的な内容は割愛させていただきます。 (※3) 評価の「条件」に関しては連載の【第41回】で詳細な解説を行いましたので、併せて参照ください。 以下、税理士の方が比較的馴染みの薄い固定資産税評価について主な特徴を列記しておきます。これと〈資料2〉の表を併せて参照することにより、鑑定評価と相続税評価及び固定資産税評価の相違点が明らかになるものと思われます。 なお、〈資料2〉に登場する鑑定評価の専門用語(限定価格等の価格)については、本稿での説明とは直接関係がないため、解説は割愛させていただきます。 4 まとめ 既に述べたことから察することができると思われますが、一概に土地の価格(時価)といっても様々なものがあり、それぞれ特徴があります。これらの特徴を踏まえた上で、必要な場面に応じて使い分けることが必要と思われます。 公示価格や相続税及び固定資産税の路線価はインターネットでも閲覧でき、しかも料金はかかりませんので、鑑定評価とともに時価を推し測る有用な手段であるといえます。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第4回】 「新しい福利厚生! 「職場NISA」とは」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇従業員のための「職場NISA」 職場環境を整えたい、従業員のモチベーションを上げたい、経営者であればそのような考えをお持ちの方も少なくないでしょう。そのためになにか良い福利厚生制度がないだろうかと、調査検討されることも多いのではないでしょうか。 今回ご紹介したいのは、「職場NISA」という福利厚生制度です。NISAというのは、これまで何回かにわたりお伝えしているとおり、国が推奨する資産形成のための特別な口座です。この口座で生まれる利益には税金がかからないという特徴を持ち、2024年にはさらに規模が拡大し利便性が高まる(【第2回】参照)と期待されている制度です。 職場NISAというのは、企業等が代表して金融機関と契約を結び、そのもとで希望する従業員がNISA口座を設定し資産形成を行っていくものです。財形貯蓄制度をイメージしていただくと分かりやすいかと思います。 〇職場NISAと財形貯蓄 財形貯蓄制度には目的によって一般財形、住宅財形、年金財形の3種類があります。このうち、住宅財形と年金財形については元利合計550万円までの利息部分が非課税で運用可能という税メリットもあります。また企業によっては、従業員の掛金に対して奨励金を出すところもあり、福利厚生制度としては広く知られた仕組みです。 ただ、財形貯蓄制度は預金や保険を用いた資産形成の仕組みであるがゆえに、近年は、低金利が続き税のメリットの対象となる「利益」がほとんど見込めず、利用者数もずいぶん減ってきていました。 そこで、財形貯蓄制度に変わる仕組みとして登場したのが職場NISAです。こちらも財形貯蓄と同様に従業員の掛金に対し企業が奨励金を出すことができます。この奨励金は、福利厚生費として経費計上している場合であっても、給与所得の対象として源泉徴収されます。 それでも企業からの奨励金を自身のNISAとして非課税で運用できるということは大きなメリットですから、これまでも一部の金融機関は積極的に企業側に紹介をしていたようです。とはいえ普及が進んだかというと、残念ながら知る人ぞ知る制度にとどまっていました。 〇賃上げ促進税制の適用 知名度の低い状態が続いていた職場NISAでしたが、2023年の春、職場NISAの奨励金が賃上げ促進税制の対象となる給与等に該当すると国税庁が発表したことにより、今改めて注目されています。 経済産業省のウェブサイトによると、賃上げ促進税制とは、企業等が一定の要件を満たしたうえで前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度と記載されています。実際の手続きについては、税理士の先生にご相談されることをお勧めしますが、国が推奨する「貯蓄から投資へ」の動きは企業の福利厚生制度に法人税圧縮効果を付加しながらも拡大が進んでいることは知っておくとよい情報であると考えます。 〇給与天引き方式と口座振替方式 日本証券業協会のウェブサイトでは、職場NISAにおける奨励金付与のスキームには給与天引き方式と口座振替方式の2種類があるとしていますが、今回の国税庁の発表ではいずれの手段を用いていても賃上げ促進税制における給与等に該当すると明言しています。 給与天引き方式では、従業員がそれぞれ定めたNISAへの積立金額を給与天引きで企業が預かります。そこに企業が奨励金を加算し契約をしている金融機関に振り込み、その後各従業員の口座に振り替えられる仕組みです。 一方口座振替方式の場合は、奨励金を給与に上乗せする形で従業員に直接支払い、従業員の口座からNISAの積立金額として指定の金融機関に振り替えられる仕組みです。 また、いずれの方法であっても、奨励金の拠出は毎月でも年に1回でも構わないとされています。財形貯蓄を例に考えると、年に1回従業員の積立額に対して定率で企業が奨励金を拠出するという企業も多くありましたから、職場NISAにおいても同様に考えてよさそうです。いずれにしても、従業員からしたら嬉しい制度ですから、福利厚生制度の導入を考えている企業にとっては検討に値するのではないでしょうか。 〇職場NISAの導入 企業に職場NISAを積極的に紹介している金融機関では、制度導入に際し従業員に対して行う説明会や投資教育までも提供しているところもありますから、一度相談されてみてもよいかと思います。 特に退職金制度を導入するまでは負担が重いと考えている企業にとっては、職場NISAであれば導入時に企業が負担する費用はありませんし、導入に関しては金融機関が丁寧にサポートしてくれているのが現状ですから、忙しい中でも比較的楽に導入ができるといえるでしょう。 奨励金に関しても、必ず付与しなければならないというわけではないため、従業員の資産形成のスタートを応援するという目的のために職場NISAというプラットフォームを設けている企業もあります。 この場合であっても、なかなか1人ではNISAという優れた国の制度に関する情報を手に入れることが難しい方も多い中で、企業が率先し情報提供をしてくれることは従業員にとって大いにメリットがあると考えます。 特に最近では、国民の金融リテラシーの向上のために様々な動きが起こっています。例えば高校生の授業に投資信託などの金融商品が取り上げられるようになったのもその好例でしょう。金融リテラシーとは、なにもマネーゲームに取り組むためのものではありません。経済活動を支える一員として、正しく経済を理解し、経済成長に貢献しさらにその恩恵を受けていくための知識です。 職場NISAを導入することで従業員の金融リテラシーの向上に寄与できれば、人材育成にも一役買うことでしょう。また、法人としての税メリットが明確化されたので、この機会に一度導入を検討されてみてもよいかと思います。参考になりましたら幸いです。 (了)
《速報解説》 監査役協会が「監査報告のひな型」を改定 ~「監査に関する品質管理基準」の改訂への対応とKAMに係る文例に言及する注記を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年8月17日、日本監査役協会は、「監査報告のひな型の改定について」を公表した。 対象となるものは、「監査役(会)監査報告のひな型」、「監査委員会監査報告のひな型」及び「監査等委員会監査報告のひな型」である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 「圧縮記帳と税額控除との調整」について制度間の統一的な取扱いを定めた改正措通案がパブリックコメントに付される Profession Journal編集部 国税庁は8月10日付で下記の通り、「租税特別措置法関係通達(法人税編)関係」含む4件の改正案をパブリックコメントとして公表、意見募集を行っている(受付締切日は9月10日)。 今回の見直しは、圧縮記帳の適用を受け、かつ、税額控除の対象となる機械装置等について、その取得価額に係る規定を整備するもの。 現行制度では、国庫補助金等の交付の目的となり、かつ、税額控除の対象にもなる特定資産を取得した事業年度の翌事業年度以降に国庫補助金等の交付を受けて圧縮記帳を適用する場合、下記のとおり、特定資産の取得価額から国庫補助金等の交付予定金額を控除した金額に基づき税額控除限度額等を算出することとする「圧縮記帳と税額控除との調整に係る取扱い」が設けられている税額控除制度と、設けられていない税額控除制度がある。 (参考) 上記のうち②については圧縮記帳と税額控除の取扱いが不明確なものになっており、とりわけ近年、新型コロナウイルス感染症への対策支援などの観点から特定資産の取得を促進する補助金の交付が増加していることから、今回の見直しに至ったとしている。 改正案では、租税特別措置法等の税額控除制度の税額控除限度額等の計算の基礎となる取得価額に係る共通の取扱いとして、上記②だけでなく①の各制度についても改正が行われている。 具体的には、法人が取得等をした税額控除制度の対象となる特定資産につき、その取得をして事業の用に供した事業年度後において圧縮記帳の適用を受けることが予定されている場合には、その特定資産の取得価額から、圧縮記帳の適用を受けるとしたならば損金の額に算入されることが見込まれる金額(「損金算入見込額」)を控除した金額が、税額控除限度額等の計算の基礎となる特定資産の取得価額となることを明らかにし、その取得価額の算定方法については、現行の上記①の各制度における「交付予定金額を控除する方法」ではなく、令和4年度税制改正で整備された法人税法上の規定(法令54③)によることとなる(詳しくは下記「措通42の5~48(共)-3の2(案)」参照)。 (注) 「「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)」及び「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)及び(所得税編)」においても同趣旨の改正案が示されている。 ただし、国庫補助金等の交付の条件を満たしていないため、その交付額が未だ確定していないこと等により損金算入見込額を適正に見積もることが困難である場合には、損金算入見込額ではなく、これまでどおり国庫補助金等の交付予定金額を控除することが注記されている。 (了)
《速報解説》 国税庁、各個別通達を消基通に統合等する改正を公表 ~インボイス制度開始とともに適用、既存の一部法令解釈通達は同日廃止~ Profession Journal編集部 令和5年8月10日、国税庁は「消費税法基本通達の一部改正等について(法令解釈通達)」を公表し、同年6月1日から30日まで意見募集していた改正案を確定した。 上記と合わせて意見募集の結果も公表されており、寄せられた全14件の意見について、その概要及び意見に対する国税庁の考え方も明らかにしている。 なお、意見募集の結果、改正案からの変更点はないとしている。 1 改正の概要 (1) 統合する個別通達 今回の改正では、令和5年10月1日のインボイス制度の開始を踏まえ、制度開始前から制定し法令解釈を示している軽減税率制度やインボイス制度、総額表示に係る個別通達を廃止した上で、その内容を消費税法基本通達に統合等している。 次の①~③の個別通達を消費税法基本通達に統合するとし、具体的には、各個別通達を消費税法基本通達の該当する箇所に挿入するとともに、一部表現の適正化等を行っている。 (2) 既存の取扱いに係る整備 これまで国税庁は、事業者のインボイス制度対応に資するよう、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下「インボイスQ&A」という)を国税庁ホームページに掲載し、随時、事例の追加・掲載内容の改訂をしてきたところ、今回の統合に合わせ、インボイスQ&Aで示していた内容を踏まえて、消費税法基本通達の改正を行っている。なお、従前のインボイスQ&Aの内容と異なるものではないとしている。 主な改正内容は次のとおりである。 (3) その他消費税法基本通達の整備 上記(1)及び(2)のほか、インボイス制度を踏まえて一部の通達を改正している。また、次のとおり令和5年度税制改正に関する取扱いの明確化等に係る所要の改正を行っている。 2 適用時期 この法令解釈通達による改正後の取扱いは、令和5年10月1日から適用となる。また、上記(1)の①~③の法令解釈通達については同日に廃止される。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年8月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.531を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第122回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その16)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅺ 金融教育としての租税リテラシー教育(承前) 2 金融経済教育研究会 (1) 金融経済教育研究会報告書 金融経済教育研究会は、平成25年4月30日に「金融経済教育研究会報告書」(以下「研究会報告書」という。)を発表した(※)。 (※) 金融経済教育研究会は、金融経済教育の現状を改めて把握するとともに、我が国における金融経済教育の今後のあり方について検討を行うこととして、平成24年(2012年)11月、金融庁金融研究センターに、有識者、関係省庁、関係団体をメンバーとして設置された。研究会報告書は、今後の金融経済教育の進め方について、知識の習得に加え行動面を重視するとともに、最低限習得すべき金融リテラシーを明確化し、関係者で共有を図るべきといった議論を踏まえ、とりまとめられたものである。 研究会報告書は、金融経済教育の意義・目的として、①生活スキルとしての金融リテラシー、②健全で質の高い金融商品の供給を促す金融リテラシー、③我が国の家計金融資産の有効活用につながる金融リテラシーの3つを掲げている。その中でも、①生活スキルとしての金融リテラシーについて、次のように報告している(下線筆者)。 ここでは、「金融商品を適切に利用選択する知識・判断力を身に付けること」の重要性を確認するとともに、「〔金融取引に関する〕習慣・知識・判断力をしっかり持って生活する力(生活スキルとしての金融リテラシー)の向上」を図ることができるような金融教育の必要性が謳われている。 まさに、研究会報告書が示すような「生活する力」、すなわち「生活スキルとしての金融リテラシー」の向上が重要だというわけである。 その上で、研究会報告書は、「『生活スキルとしての金融リテラシー』を身に付けることが金融経済教育の目的の一つであり、金融や経済についての知識のみならず、家計管理や将来の資金を確保するために長期的な生活設計を行う習慣・能力を身に付けること、保険商品、ローン商品、資産形成商品といった金融商品の適切な利用選択に必要な知識・行動についての着眼点等の習得、事前にアドバイス等の外部の知見を求めることの必要性を理解することが重要である」と指摘している。 (2) 最低限習得すべき金融リテラシーへのフォーカス化 上記のような金融教育の趣旨目的を確認した上で、研究会報告書は、「金融経済教育は、・・・学校段階、社会人・高齢者段階とも、金融経済教育に充てることができる機会・時間には制約があり、効率的・効果的に金融経済教育を推進するためには、推進体制の整備・・・と併せ、まずは最低限習得すべき金融リテラシーにフォーカスしていくことが重要」としている。 そして、生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシーを整理した上で、(a)家計管理、(b)生活設計、(c)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択、(d)外部の知見の適切な活用、の4分野にフォーカスすべきとしているのである(研究会報告書では、それらのフォーカスされた4分野に15の項目が示されている。)。 特に、ここでは、(c)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択について確認しておきたい。 まず、「金融取引の基本としての素養」として、「契約にかかる基本的な姿勢の習慣化」を挙げている。すなわち、「我が国の金融取引におけるトラブルの原因の一つは、入手した情報を吟味せず、あるいは、相手に言われるがまま、内容について自身で十分に理解しないまま取引(契約)してしまうこと、また、取引(契約)後も業者等に委ねたままとし、保有する金融商品を巡る状況の悪化等に気が付かないことである。」という。まさに、節税商品取引における問題と共通している問題点というべきであろう。 具体的には、次のような素養の重要性が指摘されている。 次に、「情報の入手先や契約の相手方である業者が信頼できる者であるかどうかの確認の習慣化」については、以下のとおりである。 また、「インターネット取引は利便性が高い一方、対面取引の場合とは異なる注意点があることの理解」として、次のように指摘する。 加えて(d)の「外部の知見の適切な活用」についても見ておこう。そこでは、次のように、金融商品を利用するに当たり、外部の知見を適切に活用する必要性の理解が重要であるとする。 このような、最低限身に付けるべき金融リテラシーについては、学校段階、社会人・高齢者段階のいずれにおいても、無駄や隙間を生じさせないよう、体系的に習得させることが、効率的・効果的な金融経済教育の推進にとって重要であろう。そこで、同報告書は、「体系的な教育内容のスタンダードの確立」を謳っている。 まさに、租税リテラシー教育においても同様のフォーカスポイントを吟味した上での体系的教育内容のスタンダードの確立が急がれるように思われるところである。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第17回】 「国税通則法35条(34条~34条の7)」 -申告納税方式による国税等の納付- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法35条(申告納税方式による国税等の納付) 1 国税の納付の意義、方式及び手続 国税通則法は、「第2章 国税の納付義務の確定」に続き「第3章 国税の納付及び徴収」を定め、同章の中で「第1節 国税の納付」、「第2節 国税の徴収」及び「第3節 雑則」を定めている。今回は国税の納付についてその意義、方式及び手続を概説した後、特に申告納税方式による国税等(国税及び加算税)の納付(35条)について若干の検討を行うことにする。 国税の納付とは、国税に係る納税義務の確定に基づく当該納税義務の履行のうち納税者が任意に行うものをいう。ここでいう「納付」は「債務の弁済にあたる行為」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1006頁)であり、納税義務の本来的な消滅原因である(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【104】【149】参照)。 国税の納付についていわれる「任意に」は、納税義務の履行が滞納処分等の強制手続によらないことを意味しており、税務官庁からの請求を前提としないことを意味する「自主的に」とは区別されるべき概念である。すなわち、国税の納付は、①納税者が税務官庁からの請求をまたずこれを行う場合と②納税者が税務官庁からの請求をまってこれを行う場合とに大別されるが(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)265頁参照)、ここでいう「税務官庁からの請求」は納税の告知(税通36条)の手続により行われるので、①の納付方式が自主納付方式と呼ばれるのに対して、②の納付方式は納税告知方式と呼ばれることがある(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])F1頁[村上義弘執筆]参照)。 国税の納付の方式を納税義務の確定の方式(第10回4参照)との関係で整理しておくと、①自主納付方式は、申告納税方式による国税(税通35条)及び自動確定方式による国税(同36条1項2~4号参照)について採用され、②納税告知方式は、賦課課税方式による国税(同項1号)について採用されている。ただし、加算税については納税義務の確定は賦課課税方式によるものとされている(税通16条2項2号)のに対して、納付は自主納付方式よるものとされている(同35条3項。36条1項1号括弧書参照)。また、自動確定方式による国税のうち源泉徴収等による国税、自動車重量税及び登録免許税については、法定納期限までに自主納付がされないときは、納税の告知がされるものとされている(税通36条1項2号~4号)。 なお、国税の納付の方式については、納税の告知を「行政下命」とみて、前記の①②をそれぞれ「行政下命をま[待]たずに自主納付するもの」と「行政下命をまって[待つて]納付するもの」と表現する解説(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)432頁、[]内は武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1841頁)もされているが、この解説は誤解を招くおそれがある。というのも、納税の告知を「行政下命」とすると、納税の告知が行政行為の分類上命令的行為ないし義務賦課行為のうち「下命」すなわち「相手方に対する一定の作為・給付または受忍の義務の発生を法効果とする行為」(芝池義一『行政法総論講義〔第4版補訂版〕』(有斐閣・2006年)127頁)に該当するかのように思われるかもしれないが、そうではなく、納税の告知については「その性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者等に履行を請求する行為、すなわち徴収処分」(最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁)とみるべきものであるからである。しかも、徴収処分といっても、これにより「確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるもの」(上掲最判。志場ほか共編・前掲書1090頁参照)であって、「その性質上実体的な行政処分(・・・・・・)に当たらないが、訴訟上の取扱いとして、行政処分性を認められる行為」すなわち「形式的行政処分」(芝池義一『行政救済法』(有斐閣・2022年)36頁。52頁も参照)であるからである。 最後に、国税の納付の手続については、以上でみた納税者による自主納付方式及び納税告知方式での納付だけでなく、国税の保証人又は第二次納税義務者による納付(税通52条1項、税徴32条1項)及び第三者の納付(税通41条1項)も含め、国税通則法34条1項が規定するところであり、その意味でこの規定は国税の納付手続に関する通則規定といってよかろう。 そこでは、金銭納付、有価証券納付及び電子納付が定められているが、一定の租税については印紙納付(税通34条2項)及び物納(同条3項)も定められているほか、国外納付者については納付用国内預金口座への払込納付(同条4項)も定められている。そのほか、口座振替納付ほか納付委託について多様な手続及び関連規定の整備により、納税者の利便性の向上を図るとともに弊害の防止のための厳格な諸措置が定めている(税通34条の2~34条の7)。 2 申告納税方式による国税等の納付 申告納税方式は国税においては納税義務の確定について(税通16条1項1号・2項1号)だけでなく、これと連動する形でその履行としての納付についても採用され(同35条1項)、両手続を併せて申告納税制度を形成している。 申告納税制度は、「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきもの」(下線筆者)という「見地」(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)すなわち民主主義的租税観(金子・前掲書22頁、前掲拙著【14】)に適合した、民主主義国家における課税制度の理想型としてシャウプ勧告によって国税について広く導入された(金子・前掲書56頁、60頁、前掲拙著【121】参照)。 国税通則法はその制定に当たって、従来から申告納税制度の対象とされていた国税だけでなく新たにその対象とされた酒税・物品税等の間接税も含む国税の納付に関する通則規定として35条1項を定めるとともに、同条2項及び3項を定めたが、これらの規定によって「納税者の自主性を尊重する申告納税方式の建前を更正・決定の場合にも貫くこととし、また加算税については、本税について一切納税の告知を要しないこととしたのに伴つて、告知制度を廃止し、賦課決定通知書を発するのみで、自主的に納付すべきことに改められた。」(中川=清永編・前掲書F35頁[村上義弘執筆]。志場ほか共編・前掲書483頁、武田監修・前掲書1932頁も参照) こうして、申告納税方式による国税等の納付については、自主納付の期限として法定納期限(税通35条1項、2条8号)だけでなく具体的納期限(同条2項)が定められたのである。この点で、同じく自主納付方式が定められている国税でも、自動確定方式による国税については法定納期限しか定められていないのと異なる(なお、源泉徴収等による国税、自動車重量税及び登録免許税については納税の告知によって具体的納期限が設定される。税通36条1項2号~4号参照)。また、加算税の賦課決定がされるのは法定申告期限=法定納期限の経過後である以上、賦課課税方式による加算税の自主納付については、具体的納期限のみが問題になる(税通35条3項)。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第29回】 「少額特例の適用を受ける課税仕入れの経理処理」 税理士 石川 幸恵 【Q】 令和5年度の税制改正において、経過措置として、少額特例(一定規模以下の事業者は1万円未満の課税仕入れについて、一定期間、適格請求書の保存を要しないとする制度。インボイスQ&A問108)が設けられました。少額特例を適用すれば、仕入先が免税事業者であっても仕入税額控除できますが、税抜経理方式を適用する場合、仮払消費税等の額はどのような扱いになるのでしょうか。 〔ポイント〕 新経理通達では、仮に法人が適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについてインボイス制度導入前のように仮払消費税等の額として経理した金額があっても、税務上はその仮払消費税等の額を取引の対価の額に算入して法人税の所得金額の計算を行うことを明らかにしています(新経理通達Q&A問1)。 国税庁より新経理通達の改正が令和5年6月20日付で公表され、その中で、少額特例の適用を受ける場合の仮払消費税等の額に関する経理処理についても明らかにされました。 * * * 【A】 免税事業者からの課税仕入れであっても少額特例の適用を受ける場合は、適格請求書発行事業者からの課税仕入れと同様に経理処理することとなります(新経理通達経過的取扱い(2))。 以下で、税抜経理方式により経理した場合の仕訳例により、免税事業者を含めた適格請求書発行事業者以外の者からの取扱いを(1)原則的な取扱い、(2)80%控除の経過措置の適用を受ける場合、(3)少額特例の適用を受ける場合に分けて比較、解説します。 (1) 原則的な取扱い インボイス制度導入後で免税事業者からの仕入れに係る経過措置(28年改正法附則52、53)の適用も終了した後は、税務上は適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについて仮払消費税等の額はないこととなります。そのため、仮に法人が会計において仮払消費税等の額として経理した金額があっても、その金額を対価の額に含めて法人税の課税所得の計算を行うことになります(新経理通達Q&A問7、新経理通達14の2)。事例に当てはめると次のような取扱いとなります。 (例) 福利厚生目的で免税事業者が営む国内の店舗にて飲食を行い、110,000円を支払った場合 仮払消費税等10,000円として経理していますが、税務上は仮払消費税等の額はないので、法人税の課税所得の計算上、福利厚生費の額に算入することになります(新経理通達Q&A問7)。 この取扱いによる影響がわかりやすく顕れるのが、固定資産の取得です。適格請求書発行事業者以外の者から購入した固定資産につき、取得時に110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理し、決算時にこの仮払消費税等の額を雑損失に振り替えても、法人税の課税所得の計算上は減価償却超過額として加算調整します(新経理通達Q&A問5)。 (2) 80%控除の経過措置(28年改正法附則52)の適用を受ける場合 上記(1)のとおり免税事業者からの課税仕入れについては仮払消費税等の額はないのですが、新経理通達には経過的取扱いが定められており、インボイス制度導入前の仮払消費税等の額の80%相当額を仮払消費税等の額として経理します(新経理通達3の2、経過的取扱い(2))。事例に当てはめると次のような取扱いとなります。 (例) 令和5年11月3日に免税事業者に修理代165,000円を支払った場合 仮払消費税等の額は165,000円 ×(10÷110)× 80% = 12,000円と計算されます。 (3) 少額特例の適用を受ける場合 免税事業者からの課税仕入れであっても少額特例の適用を受ける場合は適格請求書発行事業者からの課税仕入れと同様に経理処理することとなります(新経理通達経過的取扱い(2))。 (例) 令和5年11月3日に5,500円の消耗品を購入した場合 仮払消費税等の額につき、法人税の課税所得の金額の計算上、消耗品費に算入する必要はありません。 令和5年6月20日付で公表された新経理通達の改正で、経過的取扱い(2)にこの少額特例の適用を受ける場合が追加されました。 (了)