学会(学術団体)の税務Q&A 【第9回】 「学術集会の参加料(法人税)」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学術集会とは、他の発表者の講演を聴講することで最新の知識を吸収したり、自身の研究成果を発表したり、同じ分野の研究者と交流したりすることを目的として開催されるものである。 学術集会においては、他の発表者の講演を聴講する部分があるため、参加料が技芸教授業に該当するか否かという点が論点となる。ここで、技芸教授業に該当する技芸とは、法人税法施行令に掲げられている22種類の技芸をいうため(【第8回】「講習会事業・資格事業(法人税)」参照)、22種類の技芸と全く関係のない分野の学会の場合、技芸教授業(法令5①三十)に該当するか否かを検討する余地はない。 他方で、学会の中には、22種類の技芸に関連するような分野の学会もあり得るため、そのような学会においては、学術集会の参加料が技芸教授業(法令5①三十)に該当するか否かという点が論点となる。 技芸の教授とは、実技等を通じて技芸の習得を教授するものであるため、学術集会において、学術的な講演を聴講する行為が技芸の習得の教授に該当するとは限らないと考える。また、学術集会は、通常、講演会の聴講だけでなく、研究発表や他の研究者との交流も行われるものであるため、単に講演会の聴講ができることをもって、参加料の性格を講演会の収入と判断することはできないと考える。 そのため、たとえ22種類の技芸に関連するような分野の学術集会であったとしても、参加料が技芸教授業に該当するようなケース(「学術集会の参加料=技芸の習得を教授するための参加料」といえるようなケース)は、限定的であると考える。 よって、学術集会の参加料は、原則として法人税法上の収益事業に該当しないと考える。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第41回】 「不動産売却時に未経過固定資産税を売主が負担したことから買主に経済的利益は生じず、売主から交付を受けた商品券は買主の一時所得であり、所得計上時期は不動産の引渡しを受け商品券の交付を受けた日とされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷不動産を売却した場合の固定資産税精算金 固定資産税は、賦課期日である1月1日に土地や家屋及び償却資産を所有している者に課する税金である(地法341一、343①、359)。よって、年中において土地や家屋が売却されたとしても、納税義務があるのは1月1日時点で所有していた売主であり、買主ではない。しかし実務的には、買主が土地や家屋の引渡しを受けた日以後の固定資産税や都市計画税(以下「未経過固定資産税等」という)については、買主が売主に未経過固定資産税等として支払うことがしばしば行われている。 この未経過固定資産税等は、売主にとっては譲渡対価に加えられた譲渡収入の一部であり(所法33、36)、固定資産税は、売主が納税義務者として負担すべき支出であることから、買主は不動産の取得のために要した費用として取得価額に含められる(所令126①一)と考えられる。 それでは、もし、売主と買主の合意のもと、譲渡年分の固定資産税等の一部を売主負担とした場合、買主は、その部分について、経済的利益が生じたとして課税されるのか、また、不動産を引き渡した時点で、売主が買主に商品券を交付した場合、この部分は買主の所得になるのか、そして所得なら何所得に該当するのか、また、課税されるならいつの時点の所得になるのか。このような問題で争われた事例を今回は検討する。 ▷どのような事例か この事例の概要は次のようなものである。 平成30年10月29日、居住用不動産の買主(以下「請求人」という)は、売主との間で居住用マンションについて売買契約を締結した。本体価格を40,472,733円、消費税等を2,507,267円、売買代金を42,980,000円とした。 同日に覚書を作成し、売主負担として固定資産税等概算金(1ヶ月分)等があり、売主が商品券を請求人に交付するとした。 平成31年1月29日、残代金の支払いと引換えに物件が引き渡され、請求人は商品券の交付を受けた。 請求人は、平成30年分の所得税等の確定申告書を提出しなかった。 ところが、処分庁は本件覚書に基づき 固定資産税等概算金の売主負担や商品券の交付により請求人に経済的な利益が生じ、これは雑所得に該当するとして、平成30年分の所得税等の決定処分を行った。この処分に不服な請求人が審査請求をしたのが本事例である。 ▷審判所の判断は 審判所は、原処分の全部を取り消すとし、納税者の全面勝利となった。 ▷未経過固定資産税等について 本件覚書において、未経過固定資産税等のうち、固定資産税等概算金(1ヶ月)を売主の負担とする旨の合意がされたところ、売買価格に加算される未経過固定資産税等につき、実質的にはその一部を減額するものであり、本件物件の売買価格を値引きするものであると認められる。そうすると、固定資産税等相当分の経済的利益は生じていないと解するのが相当である。 処分庁は、固定資産税等概算金を含む本件諸費用負担等について、通常生じるべき請求人の負担を請求人の支払いによらず、売主が負担する旨を合意したものと解するから、経済的利益に該当する旨を主張する。しかし、本件固定資産税等概算金の額は、本来、売主が納税義務者として負担するものであったから、そもそも、通常生じるべき請求人の負担であったとはいえないと審判所は判断した。 ▷所得は雑所得か一時所得か 商品券の取得により買主には経済的利益が生じているが、この経済的利益は、居住用マンションの購入により生じたものであり、請求人が営利を目的として継続的に行った継続行為から生じたとは認められない。また、請求人の具体的役務提供に密接して関連したものと認められない。よって、経済的利益は一時所得に該当する。 処分庁は、本件経済的利益は偶発的に生じた所得とはいえないと主張するが、売買契約及び合意の結果、1回限りのものとして偶発的に生じていたものと審判所は判断した。 ▷収入の計上時期はいつか 請求人が、平成31年1月29日に本件物件の残代金を支払い、商品券を受領したところ、残代金の支払いより前に商品券を受領できたとうかがわせる事情はない。そうすると商品券の交付等に係る経済的利益の収入計上時期は、平成31年1月29日であると認められる。 請求人が平成30年10月29日に合意をした時点では、請求人は本件物件の売買代金の支払いを完了しておらず、請求人が経済的利益を得られる状態にあったというべき事情がないから、同時点で経済的利益の原因となった権利が確定していたとはいえず、合意の時点をもって経済的利益の収入計上時期とすることはできない。 請求人の経済的利益の帰属年分は、平成31年分以後の年であり、平成30年分ではない。したがって、平成30年分の所得税等の決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであると審判所は判断した。 * * * このように本事例は、納税者側の勝利で終わった。固定資産税等について、売主が所有していた期間に対応する部分を売主が負担した場合、なぜ買主に経済的利益が生じていると考えるのか。居住用マンションの購入者に引渡し時に商品券を交付すると契約時に合意したとしても、その契約がキャンセルになった場合は、商品券は交付されないにもかかわらず、なぜ合意した日の一時所得ではなく、雑所得の収入金額と考えたのか。 今回の課税庁側の主張は、税法の基本が理解できているかどうか疑問に思われる点もあったことから納税者側の勝利となったのではないだろうか。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第55回】 「シンガポール居住者該当性訴訟 (地判令1.5.30、高判令1.11.27)(その2)」 ~旧所得税法2条1項5号、5条1項、2項、同法施行令14条1項2号~ 税理士 大野 道千 2 検討 本判決が示した「住所」の解釈について借用概念論を基に検討を行う。なお、本判決は一審判決を全面的に引用したため、一審二審の両判決内容から検討を行う(以下、一審二審の両判決をもって「本件」という)。 租税法規定は「住所」の定義規定をもたない(※2)。よって「『住所』は『借用概念』としての解釈が要求されているもの」と理解せざるを得ない(※3)。 (※2) 占部裕典「租税法における『住所』の意義とその判断基準・考慮要素」同志社法学60巻1号26頁(2008)。 (※3) 占部前掲(※2)書27頁。 わが国では、借用概念の解釈について、かねてより独立説、統一説及び目的適合説の3つの見解が対立してきた(※4)。谷口勢津夫氏によれば、金子宏氏は「租税法と私法-借用概念及び租税回避について-」の中で、各学説について、独立説は「租税法が借用概念を用いている場合も、それは原則として独自の意義を与えられるべきであるとする見解」、統一説は「法秩序の一体性と法的安定性を基礎として、借用概念は原則として私法におけると同義に解すべきである、とする考え方」、目的適合説は「租税法においても目的論的解釈が妥当すべきであって、借用概念の意義は、それを規定している法規の目的との関連において探求すべきである、とする考え方」と説明されるとする(※5)。 (※4) 谷口勢津夫「借用概念と目的論的解釈」『税法創造論-税法における法創造と創造的研究-』(清文社、2022)168頁。 (※5) 谷口前掲(※4)書168頁。谷口氏は独立説、統一説及び目的適合説の3つの対立する見解について、その脚注において「本文で述べた学説分類は、金子宏『租税法と私法-借用概念及び租税回避について-』租税法研究6号(1978)1頁、4頁によるものであるが、そこでは、独立説は『租税法が借用概念を用いている場合も、それは原則として独自の意義を与えられるべきであるとする見解』、統一説は『法秩序の一体性と法的安定性を基礎として、借用概念は原則として私法におけると同義に解すべきである、とする考え方』、目的適合説は『租税法においても目的論的解釈が妥当すべきであって、借用概念の意義は、それを規定している法規の目的との関連において探求すべきである、とする考え方』とされている」とする。 本件で特筆すべきは、「住所」が原告Xの職業活動がどの国を本拠として行われていたかの判断を中心にして決せられている点である。 本件は、所得税法2条1項3号にいう「住所」について、「生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すもの」と述べ、民法上の「生活の本拠」という文言を用いていることから民法上の住所概念を与件としていることが窺える。しかし、本来、各法域には各々に目的があり、民法概念も民法の目的達成のために概念構成されたもので租税法の目的達成のために概念構成されたものではない(※6)。そのため民法概念を租税法目的に照らしてどのように解釈するかを検討するステップが必要となる。 (※6) 村井正「租税法における『借用概念』」『租税法と取引法』(清文社、2003)17頁。 わが国の通説とされる統一説の立場には、私法と異なる意味で用いる旨が規定上明文化されていない場合に当該租税法規定の趣旨目的から別意に解すべきことが明らかであるときはこれを肯定するという見解がある(※7)。この見解では機械的一律的に私法に優位性を認めることをしない。 (※7) 谷口前掲(※4)書210頁、金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019)127頁。 他方、ドイツ借用概念論では、目的適合説には、法律の文言や意味関連から立法者の意思を突きとめようとする「主観的-目的論的解釈」と解釈の基準たる「目的」の中に、税法の根本原則としての担税力原則やその下位諸原則を含める「客観的-目的論的解釈」があり(※8)、「主観的-目的論的解釈」は、立法者の意思を確認することができない場合に法的安定性の観点から借用概念を民事法における同じ意味に解釈することからわが国における統一説の立場と大きな違いはない(※9)とされる。 (※8) 谷口前掲(※4)書189頁。 (※9) 谷口前掲(※4)書209頁。 「客観的-目的論的解釈」は、立法者の意思を確認することができない場合にも目的論的解釈を貫徹して解釈される(※10)。統一説における上記見解と「主観的-目的論的解釈」では、租税法規定の趣旨目的が判然としない場合に法的安定性の観点から私法に譲歩するものであるが、租税法における趣旨目的の追求を第一に必要とする点では「客観的-目的論的解釈」と同様である。租税法の目的に照らして、民法概念と税法概念が異なる場合に民法概念を租税法概念に優位させるものではない点で、租税法に独自性を認めるものといえる。職業活動がどの国を本拠として行われていたかの判断によって住所を決した本件の判断も「その人の生活にもつとも関係の深い一般的生活、全生活の中心をもつてその者の住所」とする民法上の住所概念の解釈と完全には一致しない点で租税法上の趣旨目的に照らして住所概念の検討が行われたものとみることができる。 (※10) 谷口前掲(※4)書208頁。 本件では、所得税法施行令14条及び15条から所得税法2条1項3号の趣旨目的を導き出したのではないか。すなわち、国内に住所を有する者と推定する場合を規定する14条及び国内住所を有しない者と推定する場合を規定する15条はそれぞれ1項に1年以上の居住を要する職業の有無をもって住所推定の規定を置く。 借用概念の解釈については、租税法上の目的達成と租税法律主義の要請の間で慎重な判断が求められる。本件では、住所判定の各考慮要素に決定打を欠いたことで租税法律主義の要請上の影響も少ないという判断があったかもしれない。結果的に目的論的解釈を貫徹させることとなった本件は所得税法2条1項3号における趣旨目的に照らして住所概念の解釈を示したものということができる。住所判断は国際課税上の課税権配分にも影響する。本件を踏まえて今後のケースがどのような解釈を行うか注目される。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第27回】 「その他の注記④」 -資産除去債務に関する注記- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における資産除去債務に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、資産除去債務に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも資産除去債務に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 (※) 個別注記表では、上記の「連結」を「個別」に読み替えた形式で記載上の注意が示されています。 2 注記事項の解説 (1) その他の注記(資産除去債務に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき資産除去債務に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 資産除去債務に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 資産除去債務に関する注記を記載する場合、「資産除去債務に関する会計基準」第16項で定める以下の項目を参考に注記することが実務的には多いです。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社イエローハット 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社イエローハット「第66期定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」14頁より抜粋。 [株式会社ミライト・ワン 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社ミライト・ワン「第14回定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」27頁より抜粋。 * * * 次回の第28回は、「その他の注記(その他追加情報の注記)」をテーマに解説します。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第6回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第4【提出会社の状況】1【株式等の状況】から3【配当政策】の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 【株式等の状況】の作成実務ポイント 第4【提出会社の状況】の1【株式等の状況】では、提出会社の【株式の総数等】、【新株予約権等の状況】、【行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等】、【発行済株式総数、資本金等の推移】、【所有者別状況】、【大株主の状況】、【議決権の状況】、【役員・従業員株式所有制度の内容】について記載する。 (1) 【株式の総数等】 【株式の総数等】では、【株式の総数】と【発行済株式】について記載する。 ① 【株式の総数】 【株式の総数】には、株式の種類ごとに、当事業年度末現在の定款に定められた発行可能(種類)株式総数を記載する。普通株式のみ発行している場合は、普通株式の発行可能株式総数を記載する。 ② 【発行済株式】 【発行済株式】には、発行済株式の種類ごとに、当事業年度末現在発行株式数、提出日現在発行株式数、上場している取引所名、内容(単元株式数の内容等)について記載する。 【事例:日本板硝子(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます(以降同様)。 (2) 【新株予約権等の状況】 【新株予約権等の状況】では、【ストックオプション制度の内容】、【ライツプランの内容】、【その他の新株予約権等の状況】について記載する。 ① 【ストックオプション制度の内容】 【ストックオプション制度の内容】には、取締役、使用人等に対して新株予約権証券を付与する決議がされている場合に、決議年月日、付与対象者の区分及び人数、新株予約権の数、株式の種類・内容・数、行使時の払込金額、行使期間、行使時の発行価格及び資本組入額、行使条件、譲渡に関する事項、組織再編があった場合の事項等について記載する。 【事例:(株)キングジム 2024年6月期の有価証券報告書】 ② 【ライツプランの内容】 買収防衛策(基本方針に照らして不適切な者によって会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み)の一環として、新株予約権を発行している場合には、決議年月日及び付与対象者、当事業年度末日及び有価証券報告書提出日の属する月の前月末現在における新株予約権の数、株式の種類・内容・数、行使時の払込金額、行使期間、行使時の発行価格及び資本組入額、行使条件、譲渡に関する事項、組織再編があった場合の事項等並びに取得条項に関する事項及び信託の設定の状況を記載する。 【事例:日邦産業(株) 2021年3月期の有価証券報告書】 ③ 【その他の新株予約権等の状況】 【その他の新株予約権等の状況】には、①【ストックオプション制度の内容】及び②【ライツプランの内容】に記載した新株予約権以外の新株予約権又は新株予約権付社債を発行している場合に、当該新株予約権又は当該新株予約権付社債の発行に係る決議年月日、当事業年度末日及び有価証券報告書提出日の属する月の前月末現在における新株予約権又は新株予約権付社債の数、株式の種類・内容・数、行使時の払込金額、行使期間、行使時の発行価格及び資本組入額、行使条件、譲渡に関する事項、組織再編があった場合の事項、自己新株予約権の数等を記載する。 【事例:(株)サンマルクホールディングス 2024年3月期の有価証券報告書】 (3) 【行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等】 【行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等】には、当事業年度と第4四半期会計期間に権利行使された内容をそれぞれ記載する。具体的には、権利行使された行使価額修正条項付新株予約等の数、権利行使に係る交付株式数、権利行使に係る平均行使価額等、権利行使に係る資金調達額を記載する。 また、当事業年度末日における権利行使された行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の数の累計、当事業年度末日における当該行使価額修正条項付新株予約権付社債券等に係る累計の交付株式数、当事業年度末日における当該行使価額修正条項付新株予約権付社債券等に係る累計の平均行使価額等、当事業年度末日における当該行使価額修正条項付新株予約権付社債券等に係る累計の資金調達額も記載する。 【事例:(株)三井E&S 2024年3月期の有価証券報告書】 (4) 【発行済株式総数、資本金等の推移】 【発行済株式総数、資本金等の推移】には、当事業年度の前4事業年度及び当事業年度(この間に発行済株式総数、資本金及び資本準備金の増減がない場合には、最後に増減があった日)における発行済株式総数、資本金及び資本準備金の増減を記載する。 (5) 【所有者別状況】 【所有者別状況】には、提出会社の株主総会又は種類株主総会における議決権行使の基準日現在の株主の「所有者別状況」について記載する。 (6) 【大株主の状況】 【大株主の状況】には、提出会社の株主総会又は種類株主総会における議決権行使の基準日現在の「大株主の状況」について記載する。 (7) 【議決権の状況】 【議決権の状況】には、提出会社の株主総会又は種類株主総会における議決権行使の基準日現在の「議決権の状況」について記載する。 【事例:マルハニチロ(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 (8) 【役員・従業員株式所有制度の内容】 【役員・従業員株式所有制度の内容】には、提出会社の役員、使用人その他の従業員又はこれらの者を対象とする持株会(役員・従業員持株会)に提出会社の株式を一定の計画に従い、継続的に取得させ、又は売り付けることを目的として、当該提出会社の株式の取得又は買い付けを行う信託その他の仕組みを利用した制度(役員・従業員株式所有制度)を導入している場合に、当該内容を記載する。 【事例:マルハニチロ(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 2 【自己株式の取得等の状況】の作成実務ポイント 【自己株式の取得等の状況】には、当事業年度及び当事業年度の末日の翌日から有価証券報告書提出日までの期間(当期間)における自己株式の取得等の状況について、自己株式の取得の事由及び株式の種類ごとに記載する。 【事例:(株)CIJ 2024年6月期の有価証券報告書】 3 【配当政策】の作成実務ポイント 【配当政策】には、配当の基本的な方針、毎事業年度における配当の回数についての基本的な方針、配当の決定機関、当事業年度の配当決定に当たっての考え方及び内部留保資金の使途について記載する。 【事例:(株)アバントグループ 2024年6月期の有価証券報告書】 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例97】 株式会社エルアイイーエイチ 「代表取締役の異動(解職)及び社長交代に関するお知らせ」 (2024.8.23) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社エルアイイーエイチ(以下「エルアイイーエイチ」という)が2024年8月23日に開示した「代表取締役の異動(解職)及び社長交代に関するお知らせ」である。福村康廣氏(以下「福村氏」という)を代表取締役から解職し、取締役経理部長の下岡寛氏(以下「下岡氏」という)を代表取締役に選定したという内容だが、その代表取締役の「異動の理由」は次のとおりである(下線は筆者による)。同社がこれまでどのような会社であったのかがよく分かる。 2 1億円を優に超える役員報酬だが エルアイイーエイチの有価証券報告書の「役員の報酬等」には、個々の取締役の報酬の決定方法について次のように記載されている。 ワンマン経営者のいる会社は総じて経営者に報酬と人事の権限が集中しているが、エルアイイーエイチもそうだったようである。当然、福村氏は自身の役員報酬の額も好きに決められたわけだが、それにしても月額1億円はすごい。年間12億円になり、日本の経営者の役員報酬ランキング上位に入る額である。 なお、2024年3月期の福村氏の役員報酬は月額2,300万円だったとのことである。そうすると、年間で2億7,600万円になる。役員報酬が1億円以上の役員がいる場合、有価証券報告書に記載する必要があるのだが、同社の有価証券報告書には「連結報酬等の総額が1億円以上である者が存在しないため、記載しておりません」と記載されている。虚偽記載を行っていたのだろうか。 3 横領では 福村氏はエルアイイーエイチの筆頭株主であり、36.31%の議決権を所有している。同社の有価証券報告書の「大株主の状況」によると、議決権数が第2位の株主の方が同じ「福村」姓で、住所の記載も同じ「東京都千代田区」であるため、その方は福村氏の親族である可能性が高い。そうである場合、その方の議決権も合わせると、40%超の議決権を所有していることになる。 福村氏は同社の議決権を過半数までは所有していないが、株主総会の出席率次第では実質的な支配株主になり得る。仮に株主総会の出席率が80%だったら、同社を支配できてしまう。そのため、福村氏にとって、同社のお金は自分のお金のような感覚だったのかもしれない。しかし、勝手に同社のお金を出金し、自分の口座に送金すれば、それは横領であり、立派な犯罪である。 4 現金を手渡し 福村氏は2024年3月期に53回出張し、その経費の合計が1億8,900万円になるという。平均すると、1回あたり356万円ほどになる。海外に出張したわけではなく、「地方都市」への出張である。どんな出張の仕方をするとそのような額になるのか、筆者には想像し難い。 金額よりも気になるのは、「福村氏の申請に基づき、当該経費として手渡した現金」とあるように、その額の現金を手渡ししていることである。このご時世になぜ現金を手渡しなのだろうか。しかも少額ではない。おそらく札束を渡していたのだろう。多額の現金が必要な事情があったのだろうか。 なお、その出張経費の多くについて、本来取締役会の承認が必要であるのに、それを得ていないという内部統制の無効化は、然もありなんである。福村氏による内部統制の無効化は、それに限らず他にも多々あったのではないだろうか。 5 飼い犬に手を? 1億3,900万円ものお金を交際接待に費やすことも、筆者には想像し難い。事業との関連性が疑わしいものも含まれるようである。毎晩豪遊を楽しんだのだろうか。エルアイイーエイチは、企業統治も内部統制も機能していない、福村氏のやりたい放題の会社だったようである。同社において福村氏は絶対的な独裁者で、誰も彼には逆らえなかった。 しかし、今回、その彼を代表取締役から解職した。なぜこのタイミングだったのだろうか。代表取締役になった下岡氏は、2024年6月に取締役に就任したばかりである。そして、「経理部長」でもある(経理部長は2023年3月から務めている)。完全に筆者の推測だが、今回の交代劇は、福村氏によるお金の公私混同を目にしていた下岡氏が主導したのではないだろうか。 そうだとすると、取締役を誰にするかも福村氏が決めていたはずなので、福村氏は、自身が取締役に据えた下岡氏によって代表取締役から解職されたことになる。福村氏は飼い犬に手を噛まれた気分だろうか。 当然、福村氏がこのまま黙っているはずがなく、反撃してくるだろう。上述のとおり福村氏はエルアイイーエイチの多くの議決権を所有している。既に準備していると思われるが、下岡氏側が行うことは、速やかに第三者委員会を設置し、福村氏と同社の問題点を徹底的に明らかにすることだろう。 【追 記】 本稿執筆後、エルアイイーエイチは2024年9月11日に「ガバナンス委員会設置のお知らせ」を開示した。 (了)
プラス思考の経済効果 【第28回】 「イベントの経済効果の評価」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 最近、オリンピック・パラリンピック、万博、国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会、花火大会、お祭り、市民マラソン大会など、国や地方自治体が運営面、財政面などで関与するイベントの経済効果、成功・不成功、観客数、影響力などについて議論されることが多くなりました。 今回はそれらのイベントの経済効果と成功・不成功の評価について、客観的視点から分析を行うことにします。 2 イベントの経済効果とは イベントの経済効果とは、以下の3期間において、そのイベントのために投資された金額、消費された金額の合計額に基づく「経済波及効果」(以下では単純に「経済効果」と呼びます)の総計のことです。 時々誤解されますが、経済効果とは、主催者、企業、店舗などの関係者の利益のことではなく、動いたお金の合計額のことで、経済効果から原材料費、人件費、税などを差し引いたものが利益です。 3 イベントの経済効果の大きさ (1) イベント開催前の経済効果が大きいイベント オリンピック・パラリンピックなどは、イベント開催前の投資額の経済効果が非常に大きいと言われています。国立競技場、各種競技場、選手村の建設、道路の整備などの投資額は、イベント開催中の観客や関係者の消費額よりもはるかに大きいと分析されています。 (2) イベント開催期間中の経済効果が大きいイベント 他方、花火大会、お祭り、市民マラソンなどは、イベント開催期間中の観客や関係者の消費額が最も大きいと言われています。 特に、市民マラソン大会は大会開催に関する投資支出よりも経済効果の方がはるかに大きいとの分析が行われたために、日本各地で次々と開催されました。例えば、筆者が計算した2011年の第1回大阪マラソンの経済効果は約133億円でしたが、経費は大阪市が1億円、大阪府が1億円、経済界や市民府民の支援が約8億2,000万円の合計たった10億2,000万円を支出しただけでした。 (3) イベント終了後のレガシー効果が大きいイベント イベント終了後の経済効果(レガシー効果)が大きいのは、国や自治体が積極的に関与するオリンピック・パラリンピックや万博などの大規模なイベントです。1964年の東京オリンピック・パラリンピックと1970年の大阪万博のレガシー効果について述べてみましょう。 4 1964年の東京オリンピック・パラリンピックのレガシー効果 (1) ハード面のレガシー効果 1964年の東京オリンピック・パラリンピックのハード面におけるレガシー効果は非常に大きいものでした。次に主なものを紹介します。 ハード面では、まず競技場として国立競技場、日本武道館、国立代々木競技場、江の島ヨットハーバーなどが建設されました。これらの競技施設は維持費が必要でしたが、大会後の日本の多くのスポーツの発展に貢献しました。 また、交通網では何といっても東海道新幹線の完成です。東海道新幹線のレガシー効果は大会後約60年に渡って、日本の経済、社会の発展に大いに貢献しました。そして、東京モノレール、名神高速道路、東名高速道路、首都高速道路などの整備による経済効果も、大会後長期に渡り日本経済の発展を促しました。 (2) ソフト面のレガシー効果 ① 食生活の変化 大会では毎日約7,000人の選手・関係者の食事を用意するために、生鮮食料品の冷凍技術が進歩しました。そして、大会後、冷凍技術、秘伝のレシピ・料理技術などを公開したことで、冷凍技術を用いたファミリーレストランが急増し、日本で西洋料理が広まっていったのです。 ② 警備会社の設立と急拡大 1962年に日本初の警備会社がわずか2人でスタートしました。その後、大会を挟んで警備会社は急増し、現在では警備会社数は1万674社、警備員数は58万4,868人(警察庁発表、2023年12月末時点)にまで拡大しています。イベントが新しい業界を創った例です。 ③ トイレの図案の創設 大会会場のトイレにおける図案(男性用は青色、女性用は赤色)を考案して、それが世界の空港、駅などのトイレに使われるようになりました。 ④ 翻訳や通訳の人材育成 大会に必要な外国語が話せる人材を育成するために、多くの外国語専門学校、通訳養成学校、塾などが設立され、人材育成に貢献しました。 5 1970年の大阪万博のレガシー効果 次に、1970年の大阪万博のレガシー効果を考察しましょう。 (1) ハード面のレガシー効果 ハード面では、大阪万博に合わせて、関西地域で高速道路が整備されたことが現在の関西地域の高速道路網の発展の起点となりました。また、開発途上ではありましたが、リニアモーターカーの模型が出展され、これが約70年後にリニア中央新幹線として、近い将来実現することになります。 また、技術面のレガシー効果として、動く歩道、温水便座、ワイヤレスフォン(現在の携帯電話)、テレビ電話、電波時計、タイムカプセルなどがあります。現在多くの家庭で温水洗浄便座は使用されており海外にも輸出され高い評価を得ています。さらに、ワイヤレスフォンは現代ではほとんどの人たちが持っている携帯電話へと発展しました。 (2) ソフト面のレガシー効果 ① 食文化の変化 大阪万博では、会場内で長時間待たないで食事・飲食を手軽にできる缶コーヒー、ファーストフード(ピザ、フライドチキン、ハンバーガーなど)、コーヒー味のソフトクリームなどが人気を呼び、万博後日本中に広がっていきました。現在では子どもや若者が好んで食べるファーストフードの多くは大阪万博が出発点でした。 ② 翻訳や通訳の人材育成 大阪万博をきっかけに、翻訳、同時通訳の人材の育成、海外との交流の促進などが進み、その結果万博後に日本が急速に国際化し、国際交流の進展に大いに貢献しました。 6 まとめ 今回の結論は、以下の通りです。 国や自治体が積極的に関与する大規模なイベントは、開催前や開催中の経済効果だけではなく、イベント終了後のレガシー効果が非常に大きいため、それらの効果を十分考慮して、長い時間をかけてイベントの成功・不成功の判断をすべきです。 例えば、1964年の東京オリンピック・パラリンピックは、レガシー効果を考慮すると、大会終了後約60年間をかけて日本に現在価値で数百兆円の経済効果をもたらしたと考えられています。来年の大阪・関西万博について、主催者は入場者数ばかり気にしているようですが、筆者はレガシー効果を含めてどのような経済効果をもたらすかについて注目しています。 (了)
《速報解説》 ASBJが「金融商品会計に関する実務指針(案)」を公表 ~上場企業等保有のVCファンドの出資持分に係る会計上の取扱いを見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年9月20日、企業会計基準委員会は、「金融商品会計に関する実務指針(案)」(移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案))を公表し、意見募集を行っている。 これは、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するようにすみやかに会計基準を改正すべきとの要望を受けたものである。 意見募集期間は2024年11月20日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を中心とする範囲に限定し、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いを見直すものである(公開草案308-2項)。 1 組合等の範囲 対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行っていない(公開草案308-3項)。 一方、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、組合等の範囲に関して、次の要件を設ける(公開草案132-2項)。 2 組合等の運営者 「組合等の運営者」とは、我が国におけるベンチャーキャピタルファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられる。また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられる(公開草案308-3項)。 3 時価をもって評価している場合 「時価をもって評価している」場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられる(公開草案308-3項)。 時価評価の方法としては、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)に基づいた時価で評価する場合のほか、IFRS第13号「公正価値測定」又はFASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれると考えられる(公開草案308-3項)。 4 任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理 金融商品実務指針132項にかかわらず、上記1の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができる。この場合、評価差額の持分相当額は純資産の部に計上する(公開草案132-2項、308-4項)。 5 公開草案132-2項の適用に際しての留意点 次のことに留意する(公開草案132-3項、132-4項、308-5項、308-6項)。 6 注記 公開草案132-2項の定めを適用する組合等への出資については、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第31号)24-16項で定める事項の注記に併せて、次の事項を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(公開草案132-5項)。 Ⅲ 適用時期等 20XX年改正の本実務指針(以下「20XX年改正実務指針」という)は、20XX年4月1日[公表から1年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から20XX年改正実務指針を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「リースに関する会計基準」等を公表 ~原則、2027.4.1以後開始事業年度から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年9月13日、企業会計基準委員会は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号。以下「リース会計基準」という)、「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第33号。以下「リース適用指針」という)等を公表した。これにより、2023年5月2日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、国際財務報告基準(IFRS)及び米国財務会計基準におけるリースの会計処理等との整合性を考慮して開発されたものであり、新たな会計基準等として公表されている。リース会計基準の適用により、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)の適用は終了することになる。 リース会計基準は、現行の「リース取引」の用語を「リース」の用語へ改正するなど多くの事項を改正しており、また、関連して、「『固定資産の減損に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第35号)の公表や、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及び移管指針など多くの会計基準等を改正している。 後述するように、日本公認会計士協会の実務指針等についても改正している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 1 借手の会計処理 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準BC13項、BC39項、リース適用指針BC4項、BC35項)。 2 貸手の会計処理 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、企業会計基準第13号の定めを踏襲している(リース会計基準BC13項、BC53項)。 Ⅲ 基本的な内容 1 範囲 リース会計基準等は、契約の名称などにかかわらず、次の①から③に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準3項、4項)。 なお、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一としている(リース会計基準BC20項、BC21項)。 上記の規定にかかわらず、無形固定資産のリースについては、リース会計基準等を適用しないことができる(リース会計基準4項)。 2 リースなどの定義 例えば、次の用語の定義が規定されている(リース会計基準6項~14項、リース適用指針4項(8)、(11)、(12))。 リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号と整合させて、借手と貸手の両方に適用する(リース会計基準BC25項)。 3 リースの識別 リースの識別に関する規定として、主に次のものを定める(リース会計基準25項~30項、リース適用指針5項~16項)。 次のことに注意する。 4 借手のリース期間 借手のリース期間は、IFRS第16号の定めと整合的に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定する(リース会計基準31項、リース適用指針17項)。 5 貸手のリース期間 貸手のリース期間は、次のいずれかの方法を選択して決定する(リース会計基準32項)。 ①の方法はIFRS第16号と整合的な方法であり、②の方法は企業会計基準第13号のリース期間の定めを踏襲した方法である。 再リースに関して、我が国の再リースの一般的な特徴は、再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースであることが挙げられる(リース会計基準BC27項)。 Ⅳ 借手のリース 1 借手のリースの会計処理 借手は、IFRS第16号と同様に、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する(リース会計基準33項~35項、リース適用指針18項、19項、24項~26項、28項~37項)。 使用権資産の計上額については、企業会計基準適用指針第16号における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法を踏襲しない(リース適用指針BC36項)。 2 短期リースに関する簡便的な取扱い 借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様。リース適用指針20項、21項、50項)。 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう(リース適用指針4項(2))。 3 少額リースに関する簡便的な取扱い 次の(1)と(2)のいずれかを満たす場合、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針22項、23項、BC39項~BC45項)。 上記(2)①の企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースは、企業会計基準適用指針第16号において定められていたリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下であるかどうかにより判定する方法を踏襲することを目的として取り入れたものである(リース適用指針BC43項)。 4 借地権の設定に係る権利金等 借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う(リース適用指針27項)。 ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、一定の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができる(リース適用指針27項ただし書き)。 5 利息相当額の各期への配分 リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額は、利息相当額として取り扱い、当該利息相当額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は利息法による(リース会計基準36項、リース適用指針38項~42項。企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合についての簡便的な取扱いが規定されている。 6 使用権資産の償却 使用権資産の償却について、基本的に企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を行う(リース会計基準37項、38項、リース適用指針43項)。 7 セール・アンド・リースバック取引 「セール・アンド・リースバック取引」とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下「リースバック」という)する取引をいう(リース適用指針4項(11))。 次のことが規定されている。 Ⅴ 貸手のリース 1 ファイナンス・リースの会計処理 ファイナンス・リースの会計処理について、収益認識会計基準において対価の受取時にその受取額で収益を計上することが認められなくなったことを契機としてリースに関する収益の計上方法を見直した結果、企業会計基準適用指針第16号で定められていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」を廃止している(リース会計基準45項~47項)。 リース会計基準等では、貸手の基本となる会計処理について、次の場合に分けて規定している(リース適用指針71項~81項)。 利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法による(リース会計基準47項、リース適用指針73項、79項)。 ただし、リースを主たる事業としていない企業による所有権移転外ファイナンス・リースに重要性が乏しいと認められる場合、利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に定額で配分することができる(リース適用指針74項)。 2 オペレーティング・リースの会計処理 企業会計基準第13号では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めている。 リース会計基準等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にして収益認識会計基準との整合性を図るため、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとする(リース会計基準48項、リース適用指針82項、BC120項、BC121項)。 3 セール・アンド・リースバック取引 セール・アンド・リースバック取引におけるリースバックが、ファイナンス・リースに該当するかどうかの貸手による判定は、リース適用指針59項から69項に示したところによる(リース適用指針87項)。 当該リースバックがファイナンス・リースに該当する場合の会計処理は、リース適用指針70項から81項までと同様とし、当該リースバックがオペレーティング・リースに該当する場合の会計処理は、リース適用指針82項と同様とする(リース適用指針88項)。 Ⅵ サブリース取引及び転リース取引 1 サブリース取引 「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下「サブリース」という)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引をいう(リース適用指針4項(12))。 当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」という(リース適用指針4項(12))。 サブリース取引は、IFRS第16号と同様に、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行う(リース適用指針89項~91項)。 リース会計基準等では、サブリース取引の例外的な定めとして、中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の取扱いと転リース取引の取扱いを規定している。 2 転リース取引 サブリース取引のうち、ヘッドリースの原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引という(リース適用指針93項)。 リース会計基準等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに踏襲している(リース適用指針BC132項)。 Ⅶ 開示(表示及び注記) 1 借手の開示(表示及び注記) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(リース会計基準49項)。 リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準50項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準51項)。 借手の注記として、次のものを注記する(リース会計基準55項)。 2 貸手の開示(表示及び注記) 貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除いて、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、企業会計基準第13号を踏襲する(リース会計基準BC63項)。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準52項。重要性が乏しい場合の規定あり)。 リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には、流動資産に表示する(リース会計基準52項)。 当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する(リース会計基準52項)。 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準53項)。 貸手の注記として、次のものを注記する(リース会計基準55項)。 3 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示及び注記事項 リース会計基準等では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、リース会計基準55項に掲げる事項のうち、(1)②及び(2)①の「リース特有の取引に関する情報」並びに(1)③及び(2)②の「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」について注記しないことができる(リース適用指針110項)。 また、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、リース会計基準55項(1)①の「会計方針に関する情報」を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができる(リース適用指針111項)。 「公表にあたって」の「別紙2」では、リース会計基準等に基づく連結財務諸表における開示の定めと個別財務諸表との関係について整理されている。 Ⅷ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 経過措置に注意する(企業会計基準第13号を適用した際の経過措置など。リース適用指針113項~137項)。 Ⅸ 日本公認会計士協会の実務指針等の改正 次の実務指針等が改正されている。 「公開草案に対するコメントの概要及び対応」も公表されている。 * * 以下、追補部分 * * Ⅹ 「リースに関する会計基準(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応 前述のとおり、全文が321ページあるので、特に気になったコメントについて紹介する。 1 サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェア、クラウドサービス取引 サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアに対する顧客のアクセス権に関する取扱いを定めるべき(コメントNo.25)、クラウドサービス取引について、リースに該当するか否かを設例で明確にすべき(コメントNo.47)とのコメントに対しては、いずれも個々の取引の実態に応じて判断されるものであるため、本会計基準等には定めていないとしている。 2 リース料の受取時に売上高と売上原価を計上する方法(いわゆる第2法)の廃止 リース料の受取時に売上高と売上原価を計上する方法(いわゆる第2法)を維持すべきであるとのコメントに対しては、第2法の廃止により従来の会計処理に基づく財務数値と新たな会計処理に基づく財務数値の継続性がなくなったとしても、より有用な情報が提供されるため、新たな会計処理を求めることとしている(コメントNo.196等)。 3 「合理的に確実」の閾値 延長オプション又は解約オプションの行使可能性に関する「合理的に確実」の閾値に関するコメントに対して、次のことを記載している(コメントNo.66~68)。 IFRS 第16号では「合理的に確実」に関する具体的な閾値の記載はなく、各企業の判断に委ねられているものと考えられるところ、実務上の判断に資することを目的としてTopic842の閾値の考え方を本適用指針案BC22項(本適用指針BC29 項)において紹介している。 この点、Topic 842で示されている「合理的に確実」の閾値に関する記載は、「合理的に確実」の閾値の高さに関する判断の参考として記載しているものであり、Topic 842の考え方に基づき判断することを求めることは意図していない。 他の会計基準における蓋然性に関する表現との比較よりも、本会計基準案等で適用される蓋然性の高さが理解されることが重要であると考えられる。 この点、本適用指針案BC22項(本適用指針BC29項)においてTopic 842で示されている「合理的に確実」の閾値の高さに関する判断の参考として記載しており、当該記載により閾値の高さの程度は明らかになっているものと考えられる。 また、合理的に確実の蓋然性に関して、借手のリース期間の判断に資するように本適用指針案[設例8](本適用指針[設例8])を修正することとした。 4 社宅に関する不動産賃貸借契約 社宅に関する不動産賃貸借契約についても、他のリースと同様、企業が事業遂行上必要と認めて契約を行っているものと考えられるため、他のリースとの相違はないと考えられる(コメントNo.128)。 5 契約期間満了後の1年間の自動延長オプションと再リース 本適用指針案第49項(本適用指針第52項)における再リースは、いわゆるフルペイアウトの要件を満たすファイナンス・リースにおいて「当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリース」が追加的に設定されるリース取引であると考えられることから、不動産の賃貸借における契約延長とは取引の性質が異なるものと考えられる(コメントNo.164)。 6 サブリースに係る損益の表示、転リースのできる規定の転リース差益の表示 サブリースを業として行っている場合、サブリースから生じる(純額の)利益を収益として計上することを妨げてはいない(コメントNo.224)。 また、転リース差益について(純額の)利益を収益として計上することを妨げてはいない(コメントNo.225)。 7 有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等 不動産業界においては借地に建物を建て借地権付建物として売却するという取引が行われており、その場合の借地に係る使用権資産は棚卸資産に該当する。しかしながら本会計基準案第47項(2)の記述「対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産又は投資その他の資産)において使用権資産として区分する方法」は棚卸資産への表示を禁じているように見られかねないとのコメントが寄せられている(コメントNo.230)。 当該コメントを受けて、「対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法」に修正している(アンダーラインが修正箇所)。 8 適用初年度の期首時点の使用権資産の減損 適用初年度の期首時点の使用権資産に減損会計を適用する場合の取扱いについて、本適用指針案117項に従い、適用初年度の期首時点の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」を適用した結果、減損損失の計上が必要となった場合、適用初年度の損益計算書を通すのではなく期首の利益剰余金から減額するという理解でよいかとのコメントが寄せられている(コメントNo.280)。 当該コメントに対して、本適用指針案第117項(本適用指針第123項)では、本適用指針案第114項(本適用指針第118項)ただし書きの方法を選択し、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の期首の利益剰余金に加減する場合の会計処理を定めている。このため、適用初年度の期首時点の使用権資産に減損損失が計上される場合には、その影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することは明らかであると考えられると記載されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2024年9月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.586を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。