日本の企業税制 【第112回】 「新たな国際課税制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 2月3日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が第211回国会に提出された。2月9日の衆議院本会議で法案の趣旨説明が行われ、国会審議が開始した。また、「地方税法等の一部を改正する法律案」も2月7日に国会に提出され、2月14日には衆議院本会議で法案の趣旨説明が行われ、国会審議が開始した。 国際課税に関しては、法人税法の「第二編 内国法人の法人税」の中に「第一章 各事業年度の所得に対する法人税」に続く第二章として「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が設けられることとされている。 これは、OECD/G20の合意を踏まえ、新たな措置(IIR(income inclusion rule):15%に達するまでの軽課税法域・国における所得への課税)を令和6年4月1日以後に開始する会計年度を対象に創設するものであり、新たな制度は3月決算企業であれば令和6年4月1日に開始する会計年度が適用初年度となり、12月決算企業の場合は令和7年1月1日に開始する会計年度が適用初年度となる。なお、その申告及び納付期限は対象会計年度終了の日の翌日から1年3ヶ月(一定の場合は1年6ヶ月)以内とされている。 〇制度の対象 この制度の対象となる「特定多国籍企業グループ等」は基本的には複数の法域・国に子会社等の拠点をおいて事業活動を行う連結グループ全体の売上高(総収入金額)が日本円で約1,000億円(7億5,000万ユーロ相当額)以上の企業グループに属する内国法人(公共法人を除く)である。この売上高の判定にあたっては、直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度においてこの金額以上であることが求められている。 〇税額の計算 今回創設される「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」は、そのタイトル通り、課税ベースを「国際最低課税額」とする法人税である。 「国際最低課税額」は「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」と「共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額」とを合計した金額である。 「構成会社等」には、連結財務諸表で連結される会社等と連結の範囲から除外される一定の会社等が含まれる。また、本体の会社等の所在法域・国以外のところにある恒久的施設等は別個の構成会社等として扱われる。 「共同支配会社等」とは連結財務諸表上は持分法が適用されるが最終親会社が直接又は間接に所有する持分の割合が50%「以上」の会社等である。共同支配会社等については、いったん共同支配会社等自体を最終親会社のように位置付けてその傘下の会社等について、構成会社等に係るグループ国際最低課税額の計算を行い、それを共同支配会社等に直接又は間接に持分を有する本来最終親会社に取り込むこととなる。したがって、計算のプロセスは「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」と同様である。 「国際最低課税額」の計算プロセスは、法域・国別のグループ計算を行った上で個社に配分し、さらに最終親会社において合算するという複雑なものとなっている。具体的には、各法域・国ごとの「国別実効税率」が「基準税率」(15%)を下回っている場合に、15%に達するまでの金額を「当期国別国際最低課税額」とし、これをその法域・国に所在する構成会社等の「個別計算所得金額」の合計額に対する個々の構成会社等の「個別計算所得金額」の割合で按分して構成会社等それぞれの「会社等別国際最低課税額」を計算し、その金額のうち最終親会社の持分割合等による「帰属割合」に応じた金額を合計したものが、課税ベースである「国際最低課税額」となる。 「国別実効税率」は、「国別グループ純所得」に対する「国別調整後対象租税額」の割合で計算される。この計算式の分母・分子とも、同一法域・国に所在する構成会社等の計数の合計額である。分母となる「国別グループ純所得」は、同じ所在地国に所在する各構成会社等の会計上の純損益から一定の受取配当等や国際海運所得等を除外した額(「個別計算所得金額」「個別計算損失金額」)の合計額であり、分子となる「国別調整後対象租税額」は、同じ所在地国に所在する各構成会社等の当期純損益金額に係る対象租税の額及び税効果会計の適用により計上される対象租税の調整額(「調整後対象租税額」)の合計額である。 「当期国別国際最低課税額」は、単に、「国別実効税率」と「基準税率(15%)」との差分を国別グループ純所得に乗じて計算すればいいというわけではない。国別グループ純所得からいわゆる実質ベースの所得除外額を控除した上で、税率の差分を乗じることがポイントである。いわゆる実質ベースの所得除外額は、給与その他の一定の費用の5%相当金額と有形固定資産その他の一定の資産の5%相当金額の合計額である。費用や資産の金額に乗じる割合については導入から10年かけて徐々に減らして最終的に令和15年度に5%となるものである(当初は、費用については9.8%、資産については7.8%)。 このようなプロセスを経て計算された課税ベースに対して1,000分の907の税率で法人税が課税され、法人税額(「特定基準法人税額」という)に対して907分の93の税率で地方法人税が課税される。地方自治体との応益関係がないことから法人住民税・法人事業税の課税は行われない。 〇税効果会計への影響 今回創設されるIIRは、あくまでも法人税・地方法人税であることから、今回の大綱に基づきIIRの創設を含む令和5年度税制改正に係る法案が3月末までに成立すれば、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期決算を含む)において、IIRの適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある可能性がある。 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項の定めによれば、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法・・・に規定されている方法に基づき第8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」とされているからである。 しかし、本年3月期における対応については実務上困難であるとの意見が聞かれている。この点、わが国のみならず国際的にも同様であり、IASBにおいては、本年1月9日に、IAS第12号を修正して、IIRの適用から生じる繰延税金を会計処理する要求からの一時的な例外を導入すること、企業が低課税国・法域で営業を行っているか否かの情報開示を行うこと等を内容とするIAS第12号の修正に関する公開草案が公表された(コメント締め切りは3月10日)。IASBは、この修正を本年第2四半期に最終確定することを目指している。 一方、わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)も、2月8日、実務対応報告公開草案第64号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を公表した(コメント期間は3月3日まで)。この公開草案は、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこと、また、企業間の比較可能性等の観点から、原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用することを提案している。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第46回】 「法人の合併と役員退職給与の勤続年数」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 功績倍率法の再確認 役員退職給与に係る損金算入限度額の計算は、功績倍率法と1年当たり平均額法があることは、本連載でも度々触れている通りである。ここで、その多くは功績倍率法に拠ると思われるため、今回は功績倍率法について改めて確認した上で、功績倍率法を糸口として検討したい。 功績倍率法は、法人税基本通達9-2-27の3(注)で以下のように示されており、これは先般の通達改正にて初めて通達で明記されたものである。 これに対して学説上は、功績倍率法について、同業類似法人を選定した上で、「その功績倍率(退職給与が役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額の何倍にあたるかというその倍率)に当該役員の最終月額報酬および勤続年数を乗じて算出する方法であり」、平均功績倍率法(類似法人の功績倍率の平均値を用いる方法)と最高功績倍率法(類似法人の功績倍率の最高値を用いる方法)があると説明されている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)410頁。 功績倍率について、実務上は納税者の予測可能性等の観点から、代表取締役であれば功績倍率3倍まで認められるという認識が支配的であり(※2)、翻せば判例や裁決例として存在する事例では、この功績倍率自体について争われたものが多い。 (※2) 詳細は【第12回】参照。 これに対して、勤続年数自体が争点となった事例はあまり存在しない。これは、実務上、法人の履歴事項全部証明書等から容易に役員の勤続年数が把握できるためであると思われる。しかし、今回の【質問】のようにその判断に迷うケースもあると思われるため、筆者が抽出することができた、勤続年数自体が問題となった事例を以下に検討する。 (2) 裁判所が示した勤続年数に係る認識 功績倍率法における勤続年数について、東京地裁平成25年3月22日判決では、功績倍率を「当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力など、最終月額報酬及び勤続年数以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数」とし、勤続年数について「施行令70条2号が明文で規定する『当該役員のその内国法人の業務に従事した期間』に相当すること」と示されている(※3)。 (※3) 税務訴訟資料263号順号12178、TAINS:Z263-12178。 これによれば、当該役員の貢献度等は勤続年数に加味するべきではなく、あくまで「法人の業務に従事した期間」をどのように認識すべきかが重要である。その上で、①個人事業から法人成りした場合の個人事業時代の期間、②退職慰労金規程で対象法人の前身の法人の勤続年数の扱いを明記した場合、のそれぞれについて裁判例で示された内容を確認する。 まず①については、個人事業から法人成りした場合において、個人事業時代からの勤続年数が役員退職給与の算定において通算できないことについて、高松地裁平成5年6月29日判決は次の通り判示している(※4)。 (※4) 税務訴訟資料195号709頁、TAINS:Z195-7150。 併せて、通常、役員の個人事業時代の功績は同人の報酬等に反映させるべきである旨も示されている(※5)。 (※5) なお、個人事業時代から使用人であった者が法人成り後に退職した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与の額を損金の額に算入されるとする通達もある(法基通9-2-39)。当該通達につき、「ここでいう『使用人』には個人事業に係る事業主は含まれ」ず、個人事業主が法人を設立し、その法人から退職した場合には本通達の適用は無い旨が解説されており、①で裁判所が示した通りとなっている。髙橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説 十訂版』(税務研究会出版局、2021)926頁。 次に、②については、前身である法人から一切の権利義務を引き継いだ場合の勤続年数につき、役員退職慰労金規程において勤続年数の1/2を役員在任年数に合算する旨の規定がある場合において、東京地裁平成27年2月26日判決では、「原告は、本件有限会社が原告の前身会社であり、原告が本件有限会社・・・の事業を引き継いだことをもって、本件有限会社に対する功績を原告に対する功績と同視しているものと解されるのであり、本件退職慰労金の算定において、原告の本件有限会社における役員勤続年数が考慮されているからといって、本件退職慰労金の一部ないし全部について、労務対価要件が失われるものと解することはできない」等と示し、納税者の主張が認められている(※6)。 (※6) 税務訴訟資料265号順号12613、TAINS:Z265-12613。 この事例は、前身の法人から権利義務の引継ぎがあった場合に、前身の法人の勤続年数を加味することは直ちに否定されるものではないことを示唆したものであるといえる。 (3) 被合併法人における勤続年数の通算の可否 中小企業において合併が行われる場合、そのほとんどが関連グループ内の合併であるため、合併法人と被合併法人の役員が同一であったり、被合併法人の役員が合併を機に合併法人の役員に就任したりというケースが多い。 このような場合において、被合併法人側が役員へ役員退職給与を支給する場合を想定した通達が用意されている(法基通9-2-33及び9-2-34)。 これによれば、上記通達記載の要件を満たす限り、合併を機に被合併法人側で役員退職給与を支給する場合、合理的理由があるとされ、損金算入が可能となる。 しかし、今回の【質問】のように、被合併法人側での対象役員が担っていた業務を引き続き合併法人側の役員として担うこと等に鑑みて、合併時に被合併法人側で役員退職給与を支給しないケースは多いのではないかと推測され、特に合併法人の方が創業歴の短い場合に問題となると思われる。具体的には、将来的には合併法人側で対象役員が退職する際、役員退職給与の適正額の計算において勤続年数が問題となる可能性がある。 この問題に関して、筆者は、ケースバイケースではあるにしろ、勤続年数の通算は認められ得ると考えている。すなわち、上記(2)の①は、個人事業を法人成りした場合において、納税者が実質的経営の一体性や継続性を主張したところ退けられたという事例である。これに対して合併であれば、被合併法人の権利義務の全部が法的根拠を以て合併法人に引き継がれるため(会社法2二十七)、法人成りの事例とは一線を画すこととなるためである。 また、同じく(2)の②の事例にて、退職慰労金規程にて勤続年数の取扱いを定めることで、納税者が、当該役員が現在在籍する法人に対する功績と前身法人への功績とを同視し、それが是認された形となっている。このことから、勤続年数を通算して功績倍率法を用いることにつき、合併承認総会、合併契約書や役員退職慰労金規程等に適正に反映されていれば、税務上の問題は生じない可能性は高いのではないだろうか(※7、8)。 (※7) 別法人の間の勤続年数を通算して役員退職給与を支給することは通常認められないが、合併は実態的に法人格が継続するため、合併承認総会で決議する等の相応の理由があれば差し支えないとする意見として、TKC税務研究所「吸収合併の場合の役員退職給与の支給方法と税務上の取扱いについて」(文献番号43203059、平成31年1月31日収録)がある。 (※8) なお、退職所得控除額の計算の基礎となる勤続年数について示す所得税基本通達30-6は、合併により消滅した法人を含む支払者の下において実際に勤務した期間により計算することが示されている。 (了)
〔令和5年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 (最終回) 「「交際費等の損金不算入制度の特例の延長」 「少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長」 「暗号資産の時価評価」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和4年度税制改正における改正事項を中心として、令和5年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第2回】は、「オープンイノベーション促進税制の拡充と延長」、「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」、「みなし配当の額の計算方法等の見直し」及び「寄附金の損金不算入制度の見直し」について解説した。 最終回となる【第3回】は「交際費等の損金不算入制度の特例の延長」、「少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長」及び「暗号資産の時価評価」について解説する。 1 交際費等の損金不算入制度の特例の延長 令和4年3月31日までに開始する事業年度までの、税務上の交際費等の課税関係は次表の通りである。これが令和4年度税制改正により、2年間(令和6年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されている。 【交際費等の課税関係】 (注) 1人当たり5,000円以下の接待飲食費(社内飲食費は除く)は、そもそも「交際費等」から除かれ、損金算入される。 この改正は令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、令和5年3月期決算申告には適用されることになる。 2 少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長 中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例については、令和4年3月31日までの取得等が対象とされていたが、令和4年度税制改正により2年間(令和6年3月31日までの取得等まで)延長されている。 また、これと同時に対象資産の見直しが行われ、範囲が縮小されているので注意が必要である。 ① 制度の概要(令和4年3月期まで) 青色申告書を提出する中小企業者等においては、取得価額10万円以上の減価償却資産であっても、30万円未満であれば少額減価償却資産として取得時に全額損金算入できる。 ただし、次の点に注意が必要である。 ② 改正後の適用対象資産 令和4年度税制改正により、対象資産から貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものが除外されることとされた。 さらに、中小企業に限らず、取得価額10万円未満の減価償却資産は即時償却、取得価額20万円未満の減価償却資産は一括償却が可能であるが、これらについても対象資産から貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものが除外されることとされた。 なお、以下の貸付けは主要な事業として行われるものに該当する。 ③ 適用期間 制度自体の適用期間は2年間(令和6年3月31日までの取得等)延長されているため、令和5年3月期の決算申告においては適用される。また、対象資産の範囲の見直しについても、令和4年4月1日以後に取得等する資産について適用されるため、令和5年3月期の決算申告においては適用されることになる。 3 暗号資産の時価評価 令和5年1月20日に、国税庁は「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)」として、暗号資産の期末時価評価の質疑応答事例を公開している。令和5年3月期決算申告においては注意が必要である。 具体的な内容は次の通りである。 ① 暗号資産の期末時価評価 法人が事業年度末に保有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)に限る)は、時価評価金額をもって評価額とする。なお、当該暗号資産を自己の計算において有する場合は、評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。評価損益は翌事業年度で洗替処理をする。 時価評価金額は、暗号資産の種類ごとに次のいずれかに数量を乗じて計算する。 ② 期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産 活発な市場が存在する暗号資産とは、法人が保有する暗号資産で次の全てに該当するものである。 ③ DEX(分散型取引所)で取引される暗号資産 DEXにおいて公表される交換比率が他の取引所において公表される交換比率と著しく異なる等の特殊事情がなく、DEXにおいて継続的に交換取引が成立しているのであれば、②のA~Cの要件を満たす限り、期末時価評価の対象となる。 ④ ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価 ロックアップにより譲渡できない状態ではあるが、ロックアップ期間中もステーキング報酬を得ることができ、将来的な価格変動リスク等を負担するため、自己の計算において暗号資産を有すると考えられる。 したがって、②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産として期末時価評価の対象となり、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。 ⑤ 貸付けをした暗号資産の期末時価評価 保有する暗号資産を貸し付けており、譲渡できない状態にはなっているが、貸付期間中に使用料を得ることができ、また、将来的な価格変動リスク等を負担するため、自己の計算において暗号資産を有すると考えられる。 したがって、②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産として期末時価評価の対象となり、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。 ⑥ 借入れをした暗号資産の期末時価評価 借り入れている暗号資産が②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産となり、さらに暗号資産を「有する」と解される場合においては、期末時価評価の対象となる。 しかし、返還を要する暗号資産の将来的な価格変動リスク等を負担しないことを考慮すると、一般的には自己の計算において暗号資産を有するとは言えないため、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する必要はない。 (連載了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第11回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解②」 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 問2 NFTを組成して知人に贈与した場合(一次流通) 1 贈与した個人の取扱い この問いが想定するのは、デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐付けたNFTを知人に無償で贈与し、これにより、その知人は、そのデジタルアートを閲覧することができるようになるケースであり、他人が製作したNFTを購入して、誰かに贈与するケースではないことに注意が必要である。 FAQの解説では、「所得税法における所得とは、収入等の形で新たに取得する経済的価値と解されており、ご質問の場合、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないことから、所得税の課税関係は生じません。」と説明されている。 収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないのであれば、FAQに記載はないものの、NFTを問1のように譲渡した場合に算入が認められる必要経費の額は、この問2の場合には控除が認められないと解される。 個人が無償で資産を贈与した場合には、贈与した側は対価すなわち収入(所法36)がないので、所得税は課されないのが原則である。ただし、例外規定がいくつかあって、例えば、次の場合には、たとえ対価の受け取りがなくても、譲渡した側(資産を手放した側)に所得税が課されたり、その他特別な課税関係となったりすることがある。 いずれの適用関係を検討する場合にも、FAQの前提がデジタルアートの製作者であることに注意が必要である。 上記①について、国税庁は、問1で紐付いているデジタルアート自体は移転していないと構成したこと(NFTの売上原価にデジタルアートの制作費を含めていないことから推察)と一次流通については(資産の譲渡ではなく)権利の設定と構成したことを前提として、デジタルアートを紐付けたNFTは棚卸資産・準棚卸資産に該当しないと解している可能性がある。 また、トークンそのものに着目して棚卸資産の贈与と解する見解もありうるが、そうすると、トークンであれば何でも、あるいはトークン化してしまえば何でも、棚卸資産・準棚卸資産の贈与になる可能性があるため採用しなかったのであろうか。 これらの点に関して、FAQのシンプルな記載から国税庁の正確な見解を推測することは難しい。 少なくとも、このFAQによれば、国税庁は、上記のようなデジタルアートの製作者が製作したNFTを贈与する場合については、同人の棚卸資産・準棚卸資産の贈与に該当するとは見ていないことが明らかになったといえよう。 この辺りについては、プロの画家による実物絵画の贈与の場合とデジタル絵画の贈与の場合とを比較させて議論する余地がある。 逆にいえば、仮に二次流通におけるNFTの移転がNFTの利用権ないし利用に係る契約上の地位の「譲渡」として構成される場合には、上記②の規定の適用の有無を検討しなければならない。 NFTの贈与を受けた場合の贈与税の課税関係については、問9参照。 2 贈与した法人の取扱い NFTを贈与したのが法人である場合のその法人の課税関係について、FAQは、次のとおり、解説している。 寄附金の損金不算入規定の適用に関して述べられているが、これはあくまで典型例であって、法人の役員やその関係者等に贈与した場合には定期同額給与等に該当しない役員給与として損金不算入(法法34)、取引先の従業員に贈与した場合には交際費等の損金不算入(措法61の4)、自社制作NFTやコンテンツの販売促進のために贈与した場合には単純損金(法法22③二)該当性などを検討する必要がある。 問3 非居住者がNFTを組成して、日本のマーケットプレイスで譲渡した場合(一次流通) FAQは、次のとおり解説している。 所得税法161条1項11号は、「国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの」が国内源泉所得に該当することを定めており、同号ロは「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」が上記に含まれることを明らかにしている。 上記について、FAQでは特に触れられていないが、FAQは、「デジタルアートの閲覧に関する権利」は著作物の利用に係る権利ではなく(著作権法63)、上記括弧書の「出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの」にも含まれないと解している可能性がある。 また、NFTは実物絵画などの有体物や不動産などの権利、国内のサーバーに保管されているデータにも紐付けうるため、NFT取引に係る所得の国内源泉所得該当性については、主として、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得や国内にある資産の譲渡により生ずる所得に該当するか(国内にある資産といえるか)、国内においてした行為に伴い取得するものといえるか、という点に関心が向けられる(所法161①二・三・十七、所令281①八、289二・五・六)。 この点について、上記問いは非居住者の有体物ではない「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定に係る取引に該当するためであろうか、踏み込んだ記述はなされていないが、原則として、上記のいずれにも該当しないため、国内源泉所得に該当しないと解している可能性がある。 当該取引から生じた所得は「原則として」国内源泉所得に該当しないと簡潔に述べているにすぎないことからすれば、国税庁内部では詳細な検討が進んでいない(あるいはNFTの課税関係について実務的影響を小さくするため、今回のFAQでは、差し当たり、課税対象外という回答になるような前提事実を設定した)のかもしれないし、あるいは国税庁外部での議論が進展することを待っているのかもしれない。 結局、非居住者や外国法人の課税関係について、NFTにどのような資産や権利が紐付けられているのかなど、個別の事例に応じた検討が必要となる。もちろん、租税条約の適用関係も検討しなければならない。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第49回】 「非適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いについて解説しました。 今回は、非適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いについて解説します。 1 非適格現物分配があった場合の現物分配法人の取扱い (1) 資産の譲渡 現物分配法人が非適格現物分配により被現物分配法人にその有する資産を移転したときは、現物分配時の時価による譲渡をしたものとします(法法22、22の2④)。 (2) 非適格現物分配により減少する利益積立金額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が非適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において交付資産の時価相当額の利益積立金額の減少を認識します。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが非適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が非適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 (3) 非適格現物分配により減少する資本金等の額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が非適格現物分配により行われた場合には、資本金等の額は減少しません。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが非適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が非適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 (4) 源泉徴収 非適格現物分配による配当金の額については、源泉徴収する必要があります。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (※1) 減少する資本金等の額=現物分配直前の資本金等の額(5,000)×減少する資本剰余金の額(1,000)/前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=500 (※2) 減少する利益積立金額=交付資産の時価(2,000)-減少する資本金等の額(500)=1,500 2 非適格現物分配があった場合の被現物分配法人の取扱い (1) 資産の取得 被現物分配法人が非適格現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けたときは、資産の取得価額は時価となります。 (2) 剰余金の配当等 剰余金の配当等が非適格現物分配により行われた場合には、移転を受けた資産の時価相当額が受取配当益金不算入の規定の対象となります(法法23)。 適格現物分配の益金不算入の規定は適用されず、受取配当益金不算入の規定で計算された金額のみが益金不算入となります。 (3) みなし配当 資本の払戻しや自己株式の取得が非適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を計算し、みなし配当相当額は、受取配当益金不算入の規定の対象となります。 みなし配当の金額については、次の算式で計算します。 (4) 現物分配法人株式の譲渡損益 資本の払戻しや自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を認識するとともに、被現物分配法人の有していた現物分配法人株式の一部を譲渡したものとして取り扱います。 ただし、完全支配関係のある内国法人からの非適格現物分配の場合には、現物分配法人株式の譲渡損益は認識されず、譲渡損益相当額は資本金等の額の増減として処理することとなります。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※) 受取配当益金不算入の対象 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※1) 現物分配法人株式の譲渡原価=現物分配直前の帳簿価額(4,000)×B社にて減少する資本剰余金の額(1,000)/B社の前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=400 (※2) みなし配当の金額=移転を受けた資産の時価(2,000)-現物分配法人の資本金等の額のうち払戻しに対応する部分の金額(500)=1,500 (※3) 完全支配関係のない内国法人からの現物分配であるため、譲渡益100円は認識されます。 ◆非適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いのポイント◆ 現物分配法人は移転資産を時価で譲渡したものとされ、譲渡損益が生じます。 現物分配法人において減少する利益積立金額、資本金等の額の計算が必要です。 被現物分配法人に移転する資産の取得価額は時価となります。 被現物分配法人が受ける配当は受取配当益金不算入の規定の対象となり、必ずしも全額益金不算入となりません。 (了)
相続税の実務問答 【第80回】 「各相続人の相続税額を計算するときの「あん分割合」と配偶者の税額軽減」 税理士 梶野 研二 [答] あなたが、亡くなられたご主人から相続することとなった財産の価額は、1億4,200万円であり、1億6,000万円に満たない金額ですので、ご指摘のとおり納付すべき相続税額は算出されないはずです。 そこであなたの計算を確認してみますと、相続税額の総額からあなたの相続税額を算出する際の「あん分割合」は、本来、0.946666・・・となるところ、小数点以下2位未満の端数を切り上げて、0.95としています。これに対して、配偶者の税額軽減額は、相続税の総額に、あなたの課税価格(1億4,200万円)が相続人等全員の課税価格の合計額(1億5,000万円)に占める割合(上の表の③欄)を乗じて求めた金額(上の表の※欄)が上限となります。その結果、あなたが計算した算出相続税額(⑤欄)と配偶者の税額軽減額(⑥欄)との間に差異が生じてしまいました。この差額があなたの納付すべき税額となるもので、計算誤りによるものではありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 配偶者の税額軽減 (1) 配偶者の税額軽減の趣旨 配偶者に対する相続税については、①「配偶者が相続により財産を取得するということは、同一世代間の財産の移転であるので、子が相続により財産を取得した場合に比較して相続の開始が早く生じ相続税が課税されること」及び②「長年共同生活が営まれてきた妻の座に対する配慮及び遺産の維持形成に対する配偶者の貢献に対する考慮」などから、軽減措置が設けられています(武田昌輔監修『DHCコンメンタール相続税法』(第一法規)1393頁)。 (2) 配偶者の税額軽減額の計算 配偶者に対する相続税の軽減税額は、相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、次の①又は②に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が、当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額となります(相法19の2①)。 (3) 配偶者の納付すべき相続税額 配偶者について相続税の総額に「あん分割合」を乗じて算出した相続税額(相続税法第19条の規定による贈与税額の控除が適用される場合には、その贈与税額控除後の税額)が、上記により計算した軽減額以下であるときは、その納付すべき相続税額は発生せず、上記により計算した軽減税額を超えるときは、その超える金額が配偶者の納付すべき相続税額となります。 〈参考図:配偶者の税額軽減額計算の流れ〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 「あん分割合」と配偶者の税額軽減額との関係 (1) 「あん分割合」の調整 第79回「各相続人の相続税額を計算するときの「あん分割合」と更正の請求」で説明しましたように、各相続人等の相続税額を算出する場合に相続税の総額に乗ずる割合(あん分割合)に小数点以下2位未満の端数があるときには、その相続人等の全員が選択した方法により、各相続人等の割合の合計値が1になるようその端数を調整して各相続人等の相続税額を計算する方法が認められています(相基通17-1)。 この取扱いは、相続人等の中に被相続人の配偶者がいる場合であっても適用されます。 (2) 「あん分割合」の調整と配偶者の税額軽減額の計算 配偶者の税額軽減額の計算は上記1の(2)のとおりに行いますが、この計算過程(〈参考図〉の(二)の計算)においては、上記(1)のような端数調整は行いません。これに対して、相続税額の総額から配偶者の算出税額を計算する場合の「あん分割合」については、上記(1)のとおり端数調整をすることができます。 このため、端数調整をしないで計算した場合に比べて高い「あん分割合」を使用した場合には、〈参考図〉の(ホ)の「配偶者の算出税額」が端数調整をしないで計算した場合よりも大きくなってしまいます。そうしますと配偶者の税額軽減額(B)は、〈参考図〉の(二)の金額となりますので、〈参考図〉の(ヘ)のとおり配偶者の納付すべき相続税額が発生してしまうことになります。 3 ご質問の場合 あなたが、亡くなられたご主人から相続することとなった財産の価額は、1億4,200万円であり、1億6,000万円に満たない金額ですので、ご指摘のとおり本来であれば納付すべき相続税額は算出されないはずです。 しかしながら、相続税額の総額からあなたの相続税額を算出する際の「あん分割合」について、0.946666・・・となるところ、上記2の(1)の取扱いにより、小数点以下2位未満の端数を切り上げて、0.95としたことから、この算出相続税額と配偶者の税額軽減額との間に差異が生じてしまったものです。具体的に数値で示しますと、〈参考図〉の(二)に相当する金額が14,152,666円([問]の表の※欄)、同(ホ)に相当する金額が14,202,500円([問]の表の⑤欄))となります。その結果、あなたが相続により取得した財産の価額が1億6,000万円に達していないにも関わらず、納付すべき相続税額49.8千円が生じてしまったものです。 なお、あなたには納付すべき相続税額が発生しますが、「あん分割合」の端数調整の結果、本来の「あん分割合」よりも小さい「あん分割合」により算出税額を計算した長女の納付すべき相続税額が、同額だけ減少します。したがって、あなた方のケースにおけるご家族全体の納付すべき相続税額は、「あん分割合」の端数調整を行ったことによって変わることはありません。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第72回】 (最終回) 「被相続人の建物が贈与されている場合における 小規模宅地等の特例の適用」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(令和5年2月13日相続発生)は建設業であるA株式会社の代表者で100%の株式を所有していました。甲は、令和元年5月に長男である丙に代表権を移譲し、退職金を受け取り、その後は、非常勤取締役の会長として勤務していました。株式については、令和元年8月に丙に全て贈与しています。 また、甲は下記の土地(300㎡)及び建物(600㎡、3階建てであり各階の床面積は同一)を所有し、1階部分はA社に周辺相場で賃貸(A社は建設業本社として使用)し、2階部分は第三者であるB社に周辺相場で賃貸し、3階部分は、甲とその配偶者である乙の居住の用に供していましたが、令和元年9月に建物を丙に贈与しています。 下記のとおり、甲はその土地を無償で丙に使用貸借し、丙は3階部分については無償で甲及び乙に使用貸借しています。 1階及び2階部分の賃貸借契約はそのまま甲から丙が承継しましたが、令和4年3月にB社が退去し、令和4年6月から第三者であるC社に賃貸しています。その後は、引き続きA社及びC社に賃貸しています。 なお、丙は、贈与を受ける前まで他に不動産賃料はありません。 また、乙及び丙はいずれもA社の役員であり、乙は生計一親族で、丙は生計別親族に該当します。 【相続発生前の利用状況】 【A土地の相続税評価】 甲の相続人は、乙と丙の2人ですが、遺言書を下記のとおり遺していました。 乙は相続で取得したA土地の持分1/2については、無償で丙に使用貸借しています。 丙は、相続税の申告期限まで引き続きA社及びC社から賃料を受け取り、今後も賃料を受け取る予定となります。 この場合に乙及び丙の土地に係る相続税評価額、小規模宅地等の特例の減額金額はいくらになりますか。 また、仮に乙が建物の贈与を受けていた場合には、乙及び丙の土地に係る相続税評価額、小規模宅地等の特例の減額金額はいくらになりますか。建物の所有者以外の前提事項は同じであるとします。 [A] 乙及び丙の土地に係る相続税評価額、小規模宅地等の特例の減額金額は、下記のとおりとなります。 ■ 丙が建物の贈与を受けていた場合 (※) 特定居住用宅地等の特例(適用面積50㎡) ■ 乙が建物の贈与を受けていた場合 (※1) 特定居住用宅地等の特例(適用面積50㎡) (※2) 貸付事業用宅地等の特例(適用面積50㎡) (※3) 特定同族会社事業用宅地等の特例(適用面積50㎡) ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 贈与後の土地の評価 被相続人が所有する宅地等の上に被相続人の親族が建物を所有し、その土地が使用貸借である場合には、原則として自用地評価となります(使用貸借通達3)。 ただし、例外として下記の要件を満たす場合には、貸家建付地として評価することになります。 【要件】 (1) 原則的な取扱い 被相続人から使用貸借により土地を借り受け、相続人が建物を賃貸していた場合の土地の財産評価を自用地として評価するべきか貸家建付地と評価するべきかについて争われた事件として、昭和61年12月2日裁決(TAINSコード:J32-4-02)があります。納税者が貸家建付地で評価するべきであると主張したのに対し、不服審判所は、下記のとおり、自用地で評価するべきであると判断しています。 (下線部は筆者による) 上記に記載のとおり、借家人の敷地利用権については、建物所有者の敷地利用権に従属し、建物所有者の敷地利用権が土地の使用貸借権である場合には、借家人の敷地利用権も使用貸借権の範囲に留まるため、土地は自用地で評価することになります。 (2) 例外的な取扱い 土地建物を所有し、建物を賃貸している場合には、借家人の敷地利用権については、当然土地所有者にも及ぶことになります。そして、建物を譲渡又は贈与した場合においても借家権の保護の観点から継続借家人の敷地利用権は継続されることになります。したがって、土地建物を所有し、建物を賃貸している場合において、その建物を譲渡又は贈与したときは、その土地については継続借家人の権利が及ぶことになりますので、貸家建付地としての評価になります。 しかしながら、その譲渡又は贈与前の継続借家人が退去した場合には、借家権は消滅し、新たに賃貸する場合には、借家人の敷地利用権も使用貸借権の範囲に留まるため、土地は自用地で評価することになります。なお、通常、借家権は譲渡性・流通性はありませんが、仮に譲渡性がある借家権を継続借家人が譲渡した場合には、その土地については借家人の権利が及ぶことになりますので、貸家建付地としての評価になります。 実務上は、被相続人が貸家建付地に係る建物を譲渡又は贈与している場合には、継続借家人がいるかどうかを確認する必要があります。 本問の場合には、甲が1階及び2階部分の貸家建付地に係る建物を丙に贈与していますが、相続開始時点において、1階部分は継続借家人に該当しますので貸家建付地として評価を行うことになりますが、2階部分は継続借家人ではありませんので、自用地として評価を行うことになります。 2 被相続人が所有する宅地等の上に被相続人の親族が建物を所有している場合の小規模宅地等の特例の適用 被相続人が所有する宅地等の上に被相続人の親族が建物を所有する場合の小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等を除く)の種類ごとの相続開始直前における土地建物に関する要件をまとめると下記のとおりとなります。 共通の要件として、土地は使用貸借であることが要件となっています。 なお、被相続人所有の土地が賃貸借であり、かつ、被相続人の親族が建物を所有している場合には、被相続人の貸付事業用宅地等に該当する可能性があります。 また、土地が使用貸借であり、かつ、被相続人の親族が建物を所有している場合において、建物が賃貸借である場合には、その建物所有者が貸付事業の用に供していたことになりますので、建物所有者が生計一親族であれば、生計一親族の貸付事業用宅地等に該当する可能性があります。 特定同族会社事業用宅地等の特例については、建物所有者は被相続人又は被相続人の生計一親族に限られている点に注意が必要です。特定事業用宅地等及び特定居住用宅地等の特例の場合には、生計一親族以外の親族もその範囲に含まれていますが、特定同族会社事業用宅地等の場合には、生計一親族以外の親族はその範囲に含まれておらず、より厳格な要件となっています。 本問の場合には、丙が生計一親族に該当することになりますので、特定同族会社事業用宅地等には該当しないことになります。 3 特定居住用宅地等の特例の適否 特定居住用宅地等の意義については、【第22回】で解説をしています。本問の場合には、3階部分について、被相続人及び生計一親族である乙の居住の用に供されていた宅地等に該当します。建物所有者が乙又は丙であったとしても、上記2の要件を満たすことになりますので、被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等に該当することになります。 取得者の要件ですが、配偶者である乙は要件はありませんので、乙が取得した部分について特定居住用宅地等の特例の適用を受けることができますが、丙は別居親族の要件を満たさないことになりますので、特定居住用宅地等の特例を受けることはできません。 したがって、3階部分の乙が取得した土地のみが特定居住用宅地等の特例の対象となり、その適用面積及び減額金額は、下記のとおりとなります。 〈乙が取得した土地の特定居住用宅地等の特例の適用面積〉 〈乙が取得した土地の特定居住用宅地等の特例の減額金額〉 4 貸付事業用宅地等の特例の適否 貸付事業用宅地等の意義については、【第38回】で解説をしています。本問の場合には、1階及び2階部分について貸付事業用宅地等の該当の適否を検討することになります。 ■ 丙が建物の贈与を受けていた場合 生計別親族である丙の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当し、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当しませんので、貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることができません。 ■ 乙が建物の贈与を受けていた場合 1階及び2階部分については、生計一親族である乙の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当することになりますが、1階部分については、下記5で解説のとおり、特定同族会社事業用宅地等に該当することになりますので、2階部分が貸付事業用宅地等の特例の対象となります。なお、貸付事業用宅地等については、事業継続要件がありますので、丙が取得した土地については適用を受けることができません。 また、平成30年度税制改正により、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされましたが、継続的に賃貸されていた建物等につき賃借人が退去をした場合において、その退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されていたときは、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えません(措通69の4-24の3、本連載【第37回】で解説)ので、本問の場合には、贈与を受けた令和元年9月から起算して3年の判定を行うことになります。 したがって、2階部分の乙が取得した土地のみが貸付事業用宅地等の特例の対象となり、その適用面積及び減額金額は、下記のとおりとなります。 〈乙が取得した土地の貸付事業用宅地等の特例の適用面積〉 〈乙が取得した土地の貸付事業用宅地等の特例の減額金額〉 5 特定同族会社事業用宅地等の特例の適否 特定同族会社事業用宅地等の意義については、【第45回】で解説をしています。本問の場合には、1階部分について特定同族会社事業用宅地等の特例の適否を検討することになります。 ■ 丙が建物の贈与を受けていた場合 上記2に記載のとおり、生計別親族である丙が建物を所有しているため、法⼈の事業の⽤に供されていた宅地等に該当せず、特定同族会社事業用宅地等の特例を受けることはできません。 ■ 乙が建物の贈与を受けていた場合 建物の贈与を受けた者が丙ではなく、乙であった場合には、下記のとおり、要件を満たし特例の適用を受けることができます。 (1) 相続開始直前における同族過半数要件 相続開始の直前において被相続人の親族である丙が100%の株式を所有していることから、要件を満たすことになります。 (2) 法⼈の事業の⽤に供されていた宅地等であること 1階部分の土地は、A社の建設業の本社で使用していますので、A社の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当せず、かつ、被相続人が所有する土地を使用貸借により借り受けた乙が建物をA社に賃貸していることになり、租税特別措置法関係通達69の4-23(2)に該当し、要件を満たしていることになります。 (3) 清算中の法人非該当要件 A社は清算中の法人に該当しませんので、要件を満たしていることになります。 (4) 取得者の役員要件 乙及び丙は役員ですので要件を満たすことになります。 (5) 取得者の宅地等の保有要件、事業継続要件 乙及び丙が相続税の申告期限まで宅地等を保有し、申告期限まで引き続きA社の事業の⽤に供されていますので、要件を満たすことになります。 土地を取得した丙と建物を所有している乙が生計別であるため、租税特別措置法関係通達69の4-23(2)の要件を満たしていないのではないかという意見もあるかと思いますが、本通達は、あくまでも相続開始の直前の要件を明確にしたものとなりますので、そのまま相続後に当てはめることは適当ではありません。 特定同族会社事業用宅地等の特例の趣旨は、その法人の事業の継続の保護にありますので、その宅地等が申告期限まで引き続きA社の事業の用に供されている状態であれば、事業継続の要件は満たすことになると考えられます。 したがって、1階部分の乙及び丙が取得した土地が特定同族会社事業用宅地等の特例の対象となり、その適用面積及び減額金額は、それぞれ下記のとおりとなります。 〈乙が取得した土地の特定同族会社事業用宅地等の特例の適用面積〉 〈乙が取得した土地の特定同族会社事業用宅地等の特例の減額金額〉 〈丙が取得した土地の特定同族会社事業用宅地等の特例の適用面積〉 〈丙が取得した土地の特定同族会社事業用宅地等の特例の減額金額〉 ★実務上のポイント★ 本問の場合には、建物を贈与しないで被相続人である甲が所有していれば、1階部分の全部について特定同族会社事業用宅地等の特例が適用可能で、2階部分の全部について貸付事業用宅地等の特例が適用可能となります。建物を贈与することで財産評価及び小規模宅地等の特例に大きな影響がありますので、建物を贈与する時には、慎重に判断する必要があります。 (連載了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第138回】 株式会社KADOKAWA 「ガバナンス検証委員会調査報告書(公表版)(2023年1月23日付)」「ガバナンス検証委員会調査報告書(要約版)(2023年1月23日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社KADOKAWAガバナンス検証委員会の概要】 【株式会社KADOKAWAの概要】 株式会社KADOKAWA(以下「KADOKAWA」と略称する)は、2014(平成26)年10月、当時の株式会社KADOKAWAと株式会社ドワンゴの共同持株会社として設立。設立時の社名は株式会社KADOKAWA・DWANGO。2019年7月に連結子会社であった株式会社KADOKAWAのすべての事業を吸収分割によって承継するとともに、現商号に変更。出版事業、映像事業、ゲーム事業及びWebサービス事業などを主たる事業とする。売上高221,208百万円、経常利益20,213百万円、資本金40,624百万円。従業員数5,349名(2022年3月期連結実績)。本店所在地は東京都千代田区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人東京事務所。 【ガバナンス検証委員会による調査報告書の概要】 1 外部弁護士による危機管理委員会の設置と調査報告 KADOKAWAは、2022年8月上旬、東京2020オリンピック・パラリンピック(東京五輪)に関連する贈賄疑惑により、上級幹部を含む複数の関係者が東京地方検察庁特別捜査部による任意の事情聴取を受けたことを契機として、外部の弁護士のみで構成される危機管理委員会を設置し、贈賄疑惑に関する調査を行った。 調査結果の要旨は次のとおりであった。 10月5日、KADOKAWA取締役会は、こうした調査報告を受けて、ガバナンス検証委員会の設置を決議した。 2 KADOKAWA役職員の逮捕及び起訴 3 ガバナンス検証委員会が認定した不適切行為 (1) 贈賄に該当する可能性が高い行為 ガバナンス検証委員会は、調査によって認定した事実に基づき、KADOKAWAが、大会組織委員会理事の高橋治之氏(以下「高橋理事」と略称する)側からの提案を、そのまま応諾している以上、その後、外観上、高橋理事が安価な金額でTier3のスポンサーとなれること及び公表時期について便宜を図ることとの関連性が表現されていない契約書が締結されたとしても、本契約に基づきコモンズ2に支払われた金銭の実質は、高橋理事による便宜供与の対価というべきであり、KADOKAWAが、コモンズ2との間で、2019年6月17日付にて契約を締結し、当該契約に基づき、コモンズ2に対し、7,000万円(消費税別)を支払った行為は、贈賄に該当する可能性が高い行為であったと断言した。 (2) 当該行為が経営トップの意思により行われ、又は看過されたこと ガバナンス検証委員会は、取締役会長であった角川氏、当時、代表取締役社長であった松原眞樹取締役副会長(以下「松原氏」と略称する)、取締役専務執行役員であった芳原氏は、高橋理事側からの提案の内容を明確に認識し、それに応じる形でコモンズ2と本契約を締結することについて、これを止め、又は問題がないことを確認する行動をとっていないことから、KADOKAWAによるコモンズ2との契約締結、報酬の支払いという一連の行為は、実質的に経営トップの意思により行われ、又は少なくとも経営トップが問題を認識し若しくはその十分な機会がありながら看過されたものであると指摘した。 (3) 社内決裁規程に違反する行為 さらに、社内決裁規程違反について、ガバナンス検証委員会は、KADOKAWAによるコモンズ2との契約締結、報酬の支払いという一連の行為に関し、社内決裁規程に基づいて必要と考えられる経営会議の決議、稟議といった手続が行われていなかったことを不適切であったと評価している。 4 原因(調査報告書114ページ以下) ガバナンス検証委員会は、原因を大きく3つの角度から分析している。 ガバナンス検証委員会による原因分析では、「上席者(とりわけ会長)の意向への過度の忖度」が注目される。報告書では、2021年室の室長・担当者、知財法務部の担当者は、角川氏が推進意向であり、その意向に違和感を覚えた松原氏ですらそれを止められないという事実認識によって、各自が抱いた違和感、リスク認識にも拘らず、一定の段階で、もはや本件を止めることはできないという諦念に陥っており、内部通報等の手段に出ることもなかったと指摘して、本件を止められる契機が幾度も存したにも拘らず止まらなかったことには、上席者(とりわけ会長)の意向への過度の忖度とそれを醸成した企業風土が大きく影響していると結論づけている。 5 改善策の提言(調査報告書134ページ以下) ガバナンス検証委員会は、改善策の提言として以下の5項目について、具体策を挙げている。 【調査報告書の特徴】 新聞報道などによると、東京地検特捜部は、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者について、株式会社AOKIホールディングス、KADOKAWA、株式会社大広の3ルートで口利きして、多額の金銭を得たとみて全容解明を進めているとのことであるが、最も多額の金員が動いたとされるのがKADOKAWA事案である。 東証プライム市場に上場している著名な出版社の会長が贈賄容疑で逮捕・起訴され、本校執筆現在、保釈が認められていない事件について、会社が設置したガバナンス検証委員会の調査報告は、角川歴彦会長のワンマンぶりと、取締役以下の過剰な忖度が、同社を贈賄事件に追い込んでしまったという構図を描き出している。 1 KADOKAWA知財法務部所属の社内弁護士の意見(調査報告書46ページ以下) コモンズ2とのコンサルティング業務委託契約締結に当たって、2021年室長の馬庭氏から相談を受けたKADOKAWA知財法務部は、顧問弁護士への相談などを通じて、次のような認識を共有していた。作成者は社内弁護士でもある知財法務部社員I氏である。 2017年2月21日の時点で、これだけ明解に「贈収賄罪の成立」を断言しているにもかかわらず、その後、知財法務部はコモンズ2との業務委託契約を作成し、2019年6月17日に契約が締結されている。しかも契約締結に当たって本来必要であったはずの稟議起案はなく、押印申請書に基づき、芳原氏が承認する形で押印が行われ、さらに東京五輪との関連をうかがわせる記載が削除されたうえで、承認後の押印申請書は馬庭氏が自宅で保管していたことが明らかになっている。 ガバナンス検証委員会は、経営企画局長でもあった当時の知財法務部部長が、「攻めの法務が知財法務部、守りの法務が内部統制部。知財法務部の役割は事業を前に進めることであり、止めるのは内部統制部」といった認識を有していたこと、芳原氏が、2021年室と知財法務部を含む経営企画局の双方を管掌していたことなどについて、「内部統制における問題、組織間牽制機能の不備」の具体例として挙げているが、的確な指摘であると思料する。 2 KADOKAWAによる再発防止に向けた今後の対応 KADOKAWAは、2023年2月2日、「ガバナンス検証委員会の調査報告・提言を受けた当社の今後の対応について」をリリースして、取締役会の経営に対する監督機能強化のため、2023年6月開催予定の第9期定時株主総会において承認されることを前提に、 を臨時取締役会にて決議するとともに、新たに経営改革推進委員会を設置することを決議し、これまで実施してきた取り組みのさらなる強化に加え、ガバナンス検証委員会のすべての提言項目に対応すべく、再発防止に向けた検討課題を具体化し、迅速に実行することを公表した。 3 KADOKAWAによる再発防止に向けた今後の対応に関する記者会見 上記2のリリース公表と同日に、KADOKAWAは、代表取締役社長の夏野剛氏、代表取締役山下直久氏、取締役村川忍氏の経営陣及びガバナンス検証委員会の委員長中村直人弁護士と委員の山田和彦弁護士が出席した記者会見の模様をライブ配信しており、録画映像が公開されていた(本稿掲載時点では公開期間終了)。 記者会見では、冒頭の夏野氏による謝罪に引き続き、中村弁護士が調査結果を報告し、続いて、夏野氏によってKADOKAWAの今後の対応策が説明された。質疑応答では、角川氏の弁護団による抗議文の話題が取り上げられ、松原氏が取締役副会長職を辞任する意向を示していることなど、適時開示がされていない事実に関する言及があった。最後の質問者に答えて、中村弁護士は、本件の教訓として、強いリーダーシップを持つトップが有しているガバナンス上の欠点や弱点を、取締役会などの周囲が適切にフォローする体制づくりが必要であると答えたところで、会見は終了した。 (了)
給与計算の質問箱 【第38回】 「社会保険の料率の変更」 ~令和5年度対応~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和5年度において各種社会保険の料率の変更はあるでしょうか。 A 労災保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の料率の変更はない。雇用保険、健康保険、介護保険(第2号被保険者)の料率は変更がある。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生年金保険料を給料から天引きされる。 〔令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより (3) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 子ども・子育て拠出金の料率は、0.36%である。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。 例えば厚生年金の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。 2 料率の変更があるもの (1) 雇用保険 令和5年4月1日~令和6年3月31日までの一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.95%(令和4年10月1日~令和5年3月31日は0.85%)、従業員負担が0.6%(令和4年10月1日~令和5年3月31日は0.5%)である。従業員は、給料の総支給額×0.6%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.6%=1,800円の雇用保険料を給料から天引きされる。 〔令和5年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内」より (2) 健康保険 協会けんぽに加入の東京都の会社の令和5年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.81%を折半して会社負担が4.905%、役員・従業員負担が4.905%だった。令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、0.19%引上げの10.00%を折半して会社負担が5%、役員・従業員負担が5%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×5%=健康保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×5%=15,000円の健康保険料を給料から天引きされる。 (3) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京都の会社の令和5年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.64%を折半して会社負担が0.82%、役員・従業員負担が0.82%だった。令和5年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、0.18%引上げの1.82%を折半して会社負担が0.91%、役員・従業員負担が0.91%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×0.91%=介護保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.91%=2,730円の介護保険料を給料から天引きされる。 (了)
〈税理士が知っておきたい〉 相続土地国庫帰属法施行規則のポイント 司法書士 丸山 洋一郎 ◆はじめに◆ 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、「相続土地国庫帰属法」という)及び相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令の施行に必要な事項を定めるために、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則(以下、「規則」という)が、令和5年1月13日(金)に公布された。 そこで本稿では、本Web情報誌の中心的読者であり、かつ、相続実務に関わることが多いと思われる税理士、公認会計士、企業の実務担当者(以下、「税理士等」という)を主な対象に、規則が各自の実務にどのような影響を与えるのか、規則のポイントをできるだけ簡潔に、かつ、分かりやすく解説することを目的とする。 なお、本稿と合わせて下記拙稿を一読いただくとより理解が深まるため、ご参照いただきたい。 1 承認申請書の作成者 まず、今回の規則の公布に伴い知っておいてほしいポイントは、相続土地国庫帰属制度(以下、「国庫帰属制度」という)における承認申請書の作成者に関する事項である。 国庫帰属制度における承認申請手続は、原則として、申請者が任意に選んだ第三者に申請手続の全てを依頼する手続の代理は認められない。そのため、申請手続は申請者本人が行う必要がある。もっとも、申請手続に関する一切のことを申請者本人が行う必要はない。 そこで、申請者が申請書や添付書類(以下、「申請書等」という)を作成することが難しい場合には、申請書等の作成を代行してもらうことができる。その場合、業務として申請書等の作成の代行をすることができるのは、専門の資格者である弁護士、司法書士及び行政書士に限られる。 注目すべきは、申請書等の作成に関する専門家として行政書士が挙げられている点である。行政書士登録をしている税理士や公認会計士は、行政書士業務を通じて申請書等の作成の代行をすることができる。実際に自身が申請書等を作成するかどうかはさておき、行政書士登録をしていれば自身で作成できることは覚えておいた方がよいだろう(パブコメ回答No.3)。 また、任意に選んだ第三者ではなく、法定代理人ならば承認申請者等として申請手続を行うことができる(規則2条1項本文)。 この法定代理人には、成年後見人も当たると考えられている(パブコメ回答No.10)。成年後見人を業務とする税理士もいると思われるので、この点も押さえておくべきだろう。 このように、税理士等が行政書士登録をしていること又は成年後見人の資格を通じて、承認申請書の作成に関与することは十分に考えられる。そこで、承認申請書の提出先と承認申請書に添付すべき書面について必要な知識を以下で説明していく。 2 承認申請書の提出先と添付書類 (1) 承認申請書の提出先 承認申請書は、承認申請に係る土地の所在地を管轄する法務局に提出をする(規則1条)。 (2) 承認申請書の添付書類 承認申請書に添付すべき書面は、相続土地国庫帰属法3条1項により法務省令により定められるとされた。この定めを受けて規則2条3項及び3条各号により承認申請書に添付すべき書面が明らかになった。以下各号を具体的に検討していく。 * * * 以上のように、規則により添付書面が明らかになったが、まだ不明点も多い。 そこで、今後は通達や法務省ホームページ等で書面のひな形等、その具体的な内容がさらに明確になっていくはずである。そのため、今後の動向にはさらに注目していきたい。 最後に、本稿の記載以上に規則の詳細を知りたい場合は、下記の相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則案の概要及びパブリックコメントの結果をご参照いただきたい。 (了) 『新版 一問一答 税理士が知っておきたい登記手続き』 好評販売中 ↓お勧め連載記事↓