《速報解説》 ASBJ、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正を確定 ~草案に寄せられたコメントを踏まえ、一部内容を変更し公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年10月28日、企業会計基準委員会は、次の会計基準等の改正を公表した(下記を合わせて「本会計基準等」という)。 これにより、2022年3月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、次の2つの論点についての取扱いを示すものである。 上記の本会計基準等の改正を受けて、2022年10月28日、日本公認会計士協会の実務指針等も改正されている。 2022年10月18日に開催された第489回企業会計基準委員会の審議事項(1)-11では、公開草案に寄せられたコメントを分析し対応案の検討を行った結果、公開草案の提案から変更した箇所があると記載されている。 2022年11月9日、公開草案に対する主なコメントの概要とそれらに対する対応が公表されている。例えば、「論点の項目」の「11)株主資本及びその他の包括利益に計上する金額の算定についてのコメント」のように、具体的なコメントが寄せられるなど、本会計基準等の理解に資する内容のものが多いと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) 1 概要 その他の包括利益に計上された取引又は事象が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 法人税等会計基準は、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分について見直しを行っている。 2 本会計基準等の改正により影響を受けることが想定される企業 その他の包括利益に対して課税される場合に、本会計基準等の改正の影響を受ける例として、次のようなケースが考えられる。 株主資本に対して課税される場合については、すでに「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)等において規定されており、次の③の場合を除いて、本会計基準等の改正による影響はない。 上記のほか、次の例も示されている(改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表の際の「参考」を参照)。 3 会計処理の見直し 原則的な方法として、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等会計基準5項、5-2項)。 例外的な方法として、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等会計基準5-3項(2))。 これに該当する取引として、本会計基準等では、退職給付に関する取引が想定されている。 また、重要性が乏しい場合の取扱いとして、損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができることとする(法人税等会計基準5-3項(1))。 4 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱いとして、次のことを規定している(法人税等会計基準5-4項)。 税効果適用指針28項では、子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合において、親会社の持分変動による差額として計上される資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得や税金の納付額にかかわらず、原則として、親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて計算すると規定されている(法人税等会計基準29-8項)。また、当該取扱いは、税金の納付が生じていない場合に資本剰余金から控除する額をゼロとするなど他の合理的な計算方法によることを妨げるものではないとしている(税効果適用指針118項)。 このような子会社に対する投資の一部売却に関する取扱いは、税務上の繰越欠損金がある場合など複雑な計算を伴う場合があることから、実務に配慮しつつ、個々の状況に応じて適切な判断がなされることを意図したものであると考えられる(法人税等会計基準29-8項)。 子会社に対する投資の一部売却以外の株主資本又はその他の包括利益に対して課税される場合についても、同様に実務上の配慮が必要になると考えられることなどから、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、株主資本又はその他の包括利益に区分して計上する場合についても同様に取り扱うこととしている(法人税等会計基準5-4項、29-8項)。 5 その他の包括利益の組替調整に関する取扱い その他の包括利益の組替調整(リサイクリング)に関する取扱いとして、次のことを規定している(法人税等会計基準5-5項)。 6 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の取扱い 税効果適用指針30項における、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(税効果適用指針9項(3)、30項、31項)。 7 その他の包括利益の開示に関する取扱い 「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)8項における、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という。)及び税効果の金額」に改正している(包括利益会計基準8項)。 Ⅲ グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11))に係る税効果の取扱いについて、以下に述べるように改正している。 なお、本会計基準等の規定する会計処理により影響を受けるのは、100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合が想定されている。 1 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11)、連結財務諸表において次の処理を行う(税効果適用指針39項、143項、143-2項、22項、23項、105-2項、106-2項)。 2 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11)、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、現行の税効果適用指針17項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針8項及び9項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する)を見直さない(税効果適用指針143-2項)。 Ⅳ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 なお、会計方針の変更に関する取扱いに注意する。 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられるため、特段の経過的な規定を定めない。 (了)
2022年10月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.492を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第19回】 「課税要件事実の認定における「疑わしきは納税者の利益に」」 -明文の規定がない場合における推計課税の許容性- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 第10回では、「納税者に有利な類推解釈」との関連において「疑わしきは納税者の利益に(in dubio contra fiscum)」が税法の解釈原理として認められるかどうかを検討したが、今回は、課税要件事実の認定において「疑わしきは納税者の利益に」が事実認定原理として認められるかどうか、認められるとして法的に何らかの制約ないし修正を受けることはないのかを検討する。 まず、この問題に関して筆者の知る限りで最も詳細に検討していると思われる次の見解(中川一郎編『税法学体系〔全訂増補〕』(ぎょうせい・1977年)89-90頁[中川一郎執筆]。下線筆者。以下「見解A」という)をみておこう。 この見解Aでは「要件事実の認定について、・・・・・・in dubio contra fiscumを認める者も極めて少ない」と述べられているが、確かに、この問題を意識的に取り上げ論ずる者(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)37頁、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【63】参照)は今日では少ないとはいえ、しかし、「疑わしきは納税者の利益に」を税法の解釈原理として認めない論者(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)125頁参照)でも、次のとおり(同149頁。下線筆者。以下「見解B」という)、これを事実認定原理としては認めていることは、注目すべきである。 この見解Bについてもう1つ注目すべきは、「疑わしきは納税者の利益に」という事実認定原理が推計課税(所税156条、法税131条)との関係で修正を受けるとしている点である。ただ、この点については、見解Aも同様の立場に立つものと考えられる。というのも、見解Aも、「税務行政の段階」において課税庁は、推計課税を認める明文の規定があれば、直接資料から得られる証拠がなくても、その規定に基づき、間接資料から得られる証拠によって要件事実を認定し課税することができるし課税しなければならない、という点については異を唱えるものではないと解されるからである。 なお、ここで注意しておかなければならないのは、見解Bが推計課税によって修正されるとする「疑わしきは納税者の利益に」にいう「疑わしい場合」は、課税要件事実を直接的証拠資料(要件事実、間接事実等の事実を証明する証拠を直接的に示す資料)によって認定することができない場合という意味での「疑わしい場合」であって、見解Aのいう「証拠のない場合」という意味での「疑わしい場合」一般を意味するものではない、ということである。推計課税は、課税要件事実を間接的証拠資料(要件事実、間接事実等の事実を証明する証拠を間接的に示す資料)によって認定して課税するものであり、「証拠がない場合」に課税要件事実を認定して課税するものではないのである。 Ⅱ 明文の規定のない場合における推計課税の許容性とその修正 さて、問題は、推計課税を認める明文の規定がない場合である。この問題については、①そのような場合に推計課税が許容されるかどうかという問題と②許容されるとして、そのような推計課税は「疑わしきは納税者の利益に」という事実認定原理とどのような関係にあると考えるべきかという問題に分けて検討することにする。 まず、前記①の問題については、推計課税を定める明文の規定がなかった昭和25年度改正前の所得税法の下での事件に関する判断であるが、最判昭和39年11月13日訟月11巻2号312頁は次のとおり判示し(下線筆者)、明文の規定のない場合における推計課税の許容性を「当然の事理」として認めた。 また、特別地方消費税(平成12年3月末廃止)に関する事件において、神戸地判平成9年3月24日行集48巻3号188頁は次のとおり判示し(下線筆者)、明文の規定のない場合における推計課税の許容性を「課税負担の公平の見地」から認めた。 これらの判断によれば、推計課税規定の基本的性格は確認規定ということになろう。すなわち、「本条[=所税156条]の意義は、推計課税を創設的に認めたものではなく、青色申告者に対する推計課税を禁止したところにある。」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール所得税法』(第一法規・加除式)7035頁)といえよう。 しかし、推計課税が「租税負担の公平の見地」から「当然の事理」として認められるべきものであるとしても、租税法律主義が支配する税法の分野では、租税負担の公平は租税法律を通じて実現されなければならず、租税法律を離れて実現されてはならないこと(という意味での「含み公平観」については前掲拙著【21】【81】参照)からすると、推計課税については、これを定める明文の規定がやはり必要であると考えられる。 これを別の観点からいえば、課税要件事実を直接的証拠資料によって認定することができない場合という意味での「疑わしい場合」につき租税負担の公平の見地から推計課税を認めるかどうかは、租税法律主義の下では、立法者が判断すべき問題であるにもかかわらず、それを「調査官の良識」(見解A)に委ねると、推計課税が「租税行政の自己防衛の手段」(南博方『租税争訟の理論と実際〔増補版〕』(弘文堂・1980年)103頁)である以上、「国庫収入を早期に確保し、税務そのものを防衛するために」(同104頁)、「往々にして証拠によらず、調査官の良識により課税要件に該当するように要件事実の認定がなされ」(見解A)、その結果、租税法律主義(合法性の原則)の下での厳格な事実認定の要請(前掲拙著【41】参照)が潜脱されるおそれがあると考えられるのである。 そこで、そのような「疑わしい場合」については、推計課税の実質的根拠である「租税負担の公平の見地」と厳格な事実認定の要請との調整原理として、「疑わしきは納税者の利益に」という事実認定原理が妥当すると考えられる。つまり、明文の規定のない場合における推計課税は、「疑わしきは納税者の利益に」の限度で、その許容性が認められる、換言すれば、「疑わしきは納税者の利益に」によって修正を受けると考えられるのである(納税者に有利な推計課税)。これが、前記②の問題についての筆者の考え方である。 Ⅲ 納税者に有利な推計課税 納税者に有利な推計課税に関しては、推計による仕入税額控除の可否が議論されることがあるが、学説の中には、次のとおりこれを肯定する見解がある(清永・前掲書190頁。以下「見解C」という。これを支持するものとして田中治『田中治 税法著作集 第4巻 租税実体法の諸相と論点-相続税、消費税、地方税』(清文社・2021年)289頁[初出・2010年]参照)。 これに対して、裁判例においては推計による仕入税額控除を認められていない。例えば、神戸地判平成26年7月29日税資264号順号12511は、最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁の次の判示(ⓐ。下線筆者)を引用し、これを前提にして次のとおり判示している(ⓑ)。 このように、見解Cと上掲神戸地判とは結論の点では明らかに異なる。ただ、両者は、その説くところを特に「主語」に着目して読むと、そもそも議論のレベルを異にしているように思われる。すなわち、見解Cは推計による仕入税額控除を租税実体法のレベルで問題にしているのに対して、上掲神戸地判は租税手続法のレベルで問題にしている(はずである)と解される。 仕入税額控除は、税法の体系上、課税要件法の領域に属する措置ではないが、消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額(消税28条1項)に税率(同29条)を適用して算出される税額(成立した納税義務の金額)から控除されるという意味で納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除(拙著【95】参照)であるから、租税実体法の領域に属する措置ではある。見解Cは、仕入税額控除を適用する主体に言及せず推計による仕入税額控除について論じていることからすると、推計による仕入税額控除を納税義務者と国との実体的権利義務関係のレベル(租税実体法のレベル)で問題にしていると解される。 これに対して、前掲神戸地判が前提とする前掲最判は、消費税法30条7項を「税務職員による検査」に関する事実認定規範(事実認定に関する行為規範)として捉え、課税庁は「帳簿又は請求書等」という直接的証拠資料を用いて仕入税額控除の適用のための事実認定を行わなければならないとしたものと解されるが、そうすると、前掲神戸地判はそのような租税手続法のレベルで、課税庁が課税仕入れに係る支払対価の額の推計により仕入税額控除を行うことを認めなかった(はずである)と解されるのである。もっとも、前掲判示ⓑの書きぶりを読むと、推計による仕入税額控除を租税実体法のレベルで認めないかのように思われるかもしれないが、その判示の前提として引用されている前掲最判と併せ読むと、上述のように解することができるように思われるのである。 このように検討してくると、推計による仕入税額控除は、消費税法30条7項による事実認定資料の限定により租税手続法のレベルでは許容されないが、租税実体法のレベルでは許容されると考えられるので、課税処分取消訴訟等の訴訟においては納税者には仕入税額控除に係るいわば「推計反証」が認められると解される。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、事実認定原理としての「疑わしきは納税者の利益に」について検討した。以上の検討を踏まえ、その中で取り上げた見解A、見解B及び見解Cをもう一度整理しておくと、以下のように整理することができよう。 見解Aは、「疑わしきは納税者の利益に」を一般的に論じこれを支持するものであるが、特に「税務行政の段階」におけるこの原理の意義ないし役割を重視するものであるように思われる。 見解Bは、見解Aと基本的に同じ立場に立つが、(明文の規定のある場合の)推計課税による修正を説いていることからすると、その限りでは、租税手続法のレベルにおけるこの原理の妥当性を否定していると解される。 見解Cは、推計による仕入税額控除を租税実体法のレベルで認めているが、ただ、「課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額が推計により計算されるときは」という条件の下で認めていることからすると、消費税の課税上は事実認定原理を「疑わしきは納税者の利益に」に限定しているわけではなく、租税実体法のレベルでは、納税者にとって有利であるかどうかにかかわらず、直接的証拠資料を用いた事実認定だけでなく間接的証拠資料を用いた事実認定をも許容するものと解される。 以上の整理を踏まえ私見を述べておくと、税務行政による事実認定については「疑わしきは納税者の利益に」が、推計課税を認める明文の規定がある場合を除き、妥当する。また、裁判所による事実認定については、直接的証拠資料がなくても間接的証拠資料から得られた証拠がある場合には、それに基づく事実認定の結果は、納税者にとって有利であるかどうかにかかわらず、認められる。 もっとも、「証拠のない場合」という意味での「疑わしい場合」につき、見解Aは「疑わしきは納税者の利益に」を事実認定原理として説くが、しかし、その場合には裁判所は事実認定をすることができないだけのことであり、しかも「証拠のない場合」は納税者が自己に有利な事実を主張する場合にもあり得るのであるから、その場合には「疑わしきは納税者の利益に」という事実認定原理は成り立たないと考えられる。 なお、上記に関連して付言しておくと、見解Aのいう「疑わしい場合」としての「証拠のない場合」は、その3つ前の文章で「往々にして証拠によらず」と述べられていることからすると、「証拠によらない場合(直接的証拠資料の調査だけでなく推計課税においては間接的証拠資料の調査をも十分に尽くしていない場合を含む)」を意味しているのではないかと思われる。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第3回】 「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その3)」 ~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~ 税理士 中野 洋 9 補足意見 本判決には涌井裁判官の補足意見が出されている。これは、P社における事業所得の大部分が株式譲渡益から構成されている点に触れたもので「仮に本件における上告人の日星租税条約違反の主張に理由があるとされた場合においても、それによって本件課税処分が違法とされるのは、そのうち子会社に留保された未処分の『企業の利得』(事業所得)に対応する部分だけであって」という涌井裁判官の補足意見は、事業所得の中に株式の譲渡収益が含まれている場合、7条1項の事業所得の問題ではなく、日星租税条約第13条の譲渡収益(以下、単に「13条」)の問題であることを指摘している(※9)。 (※9) 日星租税条約7条6項では、利子・配当・譲渡収入など、他の特定の所得条項に該当するものについては、7条1項に優先して適用されることが規定されている。 判示がいう株式の譲渡は、平成10年3月にシンガポール法人のP社が、その所有するシンガポール子会社の株式を譲渡した取引を指している。このような株式譲渡は、日星租税条約が適用される場面ではないことから、13条の譲渡収益が問題となる場面ではないとの指摘がある(※10)。 (※10) 前掲(※5)書178頁。「13条は本件の事実関係のような場合に適用されるものではない。」と述べている。 〈図4〉7条1項に優先して適用される所得 10 浅妻論文の紹介 OECDモデル7条1項とCFC税制の関係について、浅妻教授はドイツの議論を紹介する。ミハイル・ラング(Lang)は「ドイツでは、CFC税制の適用が租税条約違反となるという説もあるものの、通説は租税条約第10条(配当条項)の問題であるとし、親会社居住地国のCFC税制の適用は租税条約違反とならない」(※11)という議論であり、ルスト(Rust)によれば「CFC税制が、国内法上、株主を所得獲得者とみなしているならば、租税条約違反とならない・・・・・国内法により所得が外国法人に帰属するとされていても、租税条約は株主レベルでの課税を制約しない」(※12)というものである。 (※11) 浅妻章如「タックス・ヘイヴン対策税制(CFC税制)の租税条約適合性-技術的な勘違いと議論の余地のある領域との整理-」立教法学第73号(2007年)369頁。 (※12) 前掲(※11)書383頁。 11 占部教授の見解 占部教授は、わが国のCFC税制について「『みなし配当』として『配当』に近似するものである」と述べ、「しかし、配当所得としての明文が存しないことから『その他』所得として位置づけることも十分に可能であろう(※13)」とする。確かに、CFC税制の課税ベースが特定外国子会社に留保された所得(課税対象留保・・金額)であるとされてきたことから、事業所得の問題ではなく、配当に類似した所得という理解が腑に落ちる。 (※13) 占部裕典『租税法における文理解釈と限界』慈学社(2013年)431頁。 12 小括 上記10及び11の議論は、CFC税制の本質を考える上で非常に参考になる。すなわち、CFC税制は、法人・株主間取引における株主課税の問題である。株主課税の問題は、居住地国の立法に委ねられているため、租税条約ではそもそも制限の対象として予定していない。 重要なのは、損益取引(事業所得)の問題ではなく、資本等取引の問題として整理できていれば、コメンタリーの解釈に頼らずとも解決できたと思われる点である。すなわち、ドイツにおいては、法人・株主間の所得移転について、資本等取引(出資・配当)とされてきたことから、租税条約7条1項の問題ではなく、みなし配当という整理になろう。法人税法22条2項と寄附金の組合せにより損益取引として課税してきたわが国の国内法とはその土台が異なる。 CFC税制は、軽課税国に設立した子会社へ所得を移転し、わが国の課税を回避することを規制するための租税回避否認規定である(※14)。一方で、CFC税制は、法人・株主間の取引であり、居住地国における株主課税の問題である。わが国の国内法では、法人・株主間の取引について、その本来の性質に応じた整理をしきれないことが、CFC税制の本質論にも混乱を生じさせる要因になっているのではないか。 (※14) 村井正『入門 国際租税法 [改訂版]』清文社(2020年)335頁。 13 総括 最後に、CFC税制の趣旨について、一審(平成19年3月)及び控訴審(平成19年11月)では、わが国への配当を繰り延べることが租税回避であると説明していた。これに対し、平成21年度税制改正では外国子会社からの配当が、わが国で益金不算入となる制度の創設が予定されていた(法人税法23条の2)。そのような流れの中で出された本最高裁の判示は、誠に違和感のある内容であった。 なぜなら、同制度の導入により、配当をせず、海外子会社に所得を留保することをCFC課税の根拠にすること、ましてや、それを租税回避とすることができなくなるからである。最高裁が、CFC税制の本質論を採り上げた理由を考えた場合、平成21年度の税制改正以後は、擬制配当に対する課税という解釈には無理があると考えたからであろう。つまり、CFC税制の本質論に対する明言を避けつつ、原審までの流れを変更する必要があったと考えられ(※15)、そのような点から判示には物足りなさを感じるとする向きもある(※16)。 (※15) 弘中聡浩、采木俊憲「グラクソ事件最高裁判決-租税条約との関係」『タックスヘイブン対策税制のフロンティア』有斐閣(2013年)57頁。本件最高裁の判示について「CFC税制の本質についての説明は殊更に回避し、あえて租税条約の条文の形式的な当てはめと、法的二重課税・経済的二重課税という概念的説明を中心とした論証にとどまっているように読める」と述べる。 (※16) 前掲(※2)書324頁。 しかし、平成21年度税制改正後は「課税対象留保・・金額」という用語が廃止され、特定外国子会社の決算に基づく所得を基礎として親会社で合算されることとなった。合算対象となる所得が「留保した所得」から「決算に基づく所得」に変更され、擬制配当課税の解釈では説明できなくなった。このような点からも、本最高裁においては明確に示されなかったものの、CFC税制が何に対する課税であるのかについては、擬制収益に対する課税と解さざるを得なくなったように思われる。 〈図5〉CFC税制は国内法の問題 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例115(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法70の2) 平成27年1月1日から令和5年12月31日までの間に、直系尊属から一定の住宅用家屋の新築又は取得等のための金銭の贈与を受け、贈与年の翌年3月15日までに住宅用家屋の新築又は取得等をして同日までに居住の用に供し、又はその後遅滞なく居住の用に供することが確実であると見込まれる場合で、同年12月31日までに居住の用に供し、一定要件を満たす場合には、贈与を受けた金銭のうち以下の金額までは贈与税が非課税となる。なお、この特例の適用を受けるためには期限内申告(贈与年の翌年3月15日まで)が要件となる。 【消費税率10%適用者】 【上記以外の者】 (注) 令和4年1月以降については、新築等に係る契約時期にかかわらず、住宅用家屋の区分に応じ、以下の金額になる。なお、消費税率10%適用者か否かの判定が不要になる。 ◆相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額(相法19) 相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に被相続人から暦年課税贈与により財産を取得した場合には、その取得財産の価額を相続税の課税価格に加算する。 ◆加算しない贈与財産の範囲 被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算しない。 ◆相続の放棄等をした者が相続開始前3年以内に贈与を受けた財産(相基通19-3) 相続開始前3年以内に被相続人から暦年課税贈与により財産を取得した者が被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合には、生前贈与加算の適用はない。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第57回】 「一次相続時に賃貸部分があった場合における敷地所有権者の相続に係る貸付事業用宅地等の特例の適用 (配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」 税理士 柴田 健次 [Q] 甲の相続(一次相続)では、下記のとおり甲の所有する建物(1階部分は甲乙の居住用、2階部分は甲の貸付事業用)について配偶者居住権が設定され、甲の配偶者である乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権は、甲の長男である丙が取得しました。 甲の相続後は、乙がしばらくの間、居住の用に供していましたが、乙が老人ホームに入所するのを契機として、乙は丙の承諾を得て、第三者に1階部分を賃貸することになりました。乙が貸付の用に供した後、3年経過後に丙に相続が発生しました。丙の相続開始前の建物の利用状況は、1階も2階も第三者に賃貸しています。1階部分は配偶者居住権に基づき、乙が賃借人と賃貸借契約を締結していますが、2階部分は甲の相続開始前からの賃借人に引き続き賃貸しているため、丙が賃借人と賃貸借契約を締結しています。 丙の遺言書には、土地及び建物については丙の子である丁に相続させる旨が記載されています。乙及び丁は丙と生計を一にしていました。この場合に丁が適用できる小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 【相続関係図】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【丙の相続時における土地に係る相続税評価額】 [A] 丁は他の要件を満たせば、2階部分の162㎡について小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③一かっこ書、相令5の7)。 したがって、本問の場合には、1階部分について配偶者居住権及び敷地利用権が設定されることになります。 なお、老人ホームに入所して居住の用に供しなくなった場合においても、下記の配偶者居住権の消滅事由に該当しなければ、配偶者居住権は存続することになります。第三者に居住建物の使用をさせるときは、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法1032)。この場合の賃料の帰属は、居住建物について使用及び収益をすることができる配偶者居住権者となります。 なお、配偶者居住権の消滅事由の例としては、下記のものがあります。 2 二次相続に係る配偶者居住権及び敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の設定後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した配偶者居住権の目的となっている建物及び敷地所有権の相続税評価額については、相続税法23条の2の規定に準じて計算することになります(相基通23の2-6)。 具体的には、二次相続発生時において配偶者居住権の設定があったものとして計算しますので、二次相続開始時における乙の平均余命年数等を使用することになります。当然ですが、乙の平均余命年数は、一時相続時よりも二次相続時の方が短くなっていますので、敷地利用権の相続税評価額は、路線価の上昇等がない場合には、二次相続時の方が低くなります。 上記1の解説のとおり、居住建物の一部が賃貸用である場合には、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています。ただし、そのような取扱いは配偶者居住権設定時(本問の場合には一次相続時)に賃貸している場合であり、配偶者居住権設定後に賃貸している場合には、配偶者居住権に基づき賃貸していますので、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外しないで配偶者居住権及び敷地利用権を計算することになります。 したがって、本問の場合には、1階部分については配偶者居住権に基づき賃貸していますので、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外する必要はありません。2階部分については、配偶者居住権に基づき賃貸していないため、換言すれば、対抗力を有する継続賃借人に配偶者居住権の主張をすることができないため、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外する必要があります。 また、本連載【第56回】でも解説していますが、配偶者居住権に基づき賃貸されている場合には、配偶者居住権の権利内に賃借権も包括されているため、1階部分について借家権控除を考慮する必要はありません。 2階部分については、丙が第三者に賃貸していますので、貸家建付地として借家権控除の対象となります。 以上、本問についてまとめると下記のとおりとなります。 ◆配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と借家権控除の可否 なお、本問の場合には継続賃借人がいるため2階部分については配偶者居住権の主張をすることができませんが、継続賃借人が退去し、乙が丙の承諾を得て、新たな賃借人との間で賃貸借契約を締結した場合には、2階部分についても配偶者居住権に基づき賃貸したことになりますので、1階と同様の取扱いとなります。 3 相続税評価額の算定と面積の計算 敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。上記2で解説のとおり、配偶者居住権に基づき賃貸している場合には、賃貸されている部分を除外する必要はなく、借家権控除を考慮して計算する必要もありません。 (1) 1階部分の相続税評価額と面積 ・敷地利用権の相続税評価額: ・敷地所有権の相続税評価額: ・敷地利用権の面積: ・敷地所有権の面積: (2) 2階部分の相続税評価額と面積 ・相続税評価額: ・面積: (3) 各人ごとの相続税評価額と面積 敷地利用権16,335,000円は、乙の財産であるため、丙の相続時において丙の相続財産に計上する必要はありません。乙の相続時においては、民法の規定により配偶者居住権は消滅し、相続を原因とする財産の移転もないため、配偶者居住権及び敷地利用権の価額を乙の相続財産に計上する必要はありません。 4 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等の範囲 貸付事業用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」、そして何の「用途」に供されていたかが重要となります。 本問の場合には、1階部分については、配偶者居住権に基づき賃貸されていますので、乙の貸付事業用宅地等(措通69の4-4の2)となり、2階部分については、丙の貸付事業用宅地等(措通69の4-4)となります。 本問の場合における配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と特例判定の判断となる通達についてまとめると下記のとおりとなります。 ◆配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と特例の判定 (※) 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かの判断 (※) 下線部は筆者による。 5 本問の場合の特例適用の可否 貸付事業用宅地等の意義は、本連載【第39回】で解説していますが、特例の適否については、下記のとおりとなります。 (1) 2階部分 被相続人である丙の貸付事業の用に供されていた宅地等を相続人である丁が相続し、相続税の申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつ、引き続き貸付事業の⽤に供していれば、特例の対象となります。 (2) 1階部分 被相続人の生計一親族である乙の貸付事業の用に供されていた宅地等ですが、乙は宅地等を取得していませんので、特例の対象にはなりません。 したがって、丁は2階部分の162㎡について特例の適用を受けることができます。 なお、仮に乙が丙の所有する土地建物の所有権を遺贈により取得した場合には、2階部分は被相続人の貸付事業用宅地等として特例の対象(措通69の4-4)となり、1階部分は生計一親族の貸付事業用宅地等として特例の対象(措通69の4-4の2)となります。その場合には、特例対象宅地等の面積は、2階部分(162㎡)と1階の敷地所有権部分(89.1㎡)となりますが、限度面積(200㎡)を超えるため、200㎡までの面積内で選択適用することになります。特例金額が大きくなるように選択する場合には、自用地である1階の敷地所有権部分(89.1㎡)から優先的に適用し、残りの面積110.9㎡(200㎡-89.1㎡)について2階部分から選択することになります。 乙が取得した場合には、特例は200㎡について適用できますが、配偶者居住権は消滅(本連載【第56回】で解説)し、乙の相続時に土地建物の所有権として評価が必要になります。 ★実務上のポイント★ 配偶者居住権に基づき賃貸しているか否かにより賃料の帰属者が異なり、特例の判定方法も異なりますので、賃料の帰属者と適用される通達を確認することが重要となります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第22回】 「介護付き有料老人ホーム等の附属駐車場が、特例の適用のある「住宅用地」に該当するか否かで争われた事例」 税理士 菅野 真美 ▷住宅用地の減額と併用住宅の場合の特例 土地や家屋を課税標準とする固定資産税であるが、住宅用地に対しては特に税負担を軽減する必要があるとの考慮から(※1)、課税標準の特例という軽減措置が設けられている。すなわち、小規模住宅用地(住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分)については、価格の6分の1相当額が固定資産税の課税標準に、小規模住宅用地以外の住宅用地については、価格の3分の1相当額が固定資産税の課税標準となる。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)788頁。 それでは、「住宅用地とは何か」という点につき確認する。まず、土地が専用住宅の敷地の用に供されているか、併用住宅の敷地の用に供されているかに区分される。専用住宅(専ら人の居住の用に供する家屋)の敷地は、原則的には、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地が住宅用地となれる。 併用住宅(一部が居住の用に供されている家屋)の敷地の用に供されている土地は、原則的には家屋の種類に応じて区分し、それぞれの家屋のうち居住部分の割合に応じた率を乗じた面積(土地の面積が、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地)が住宅用地として軽減対象となる(地方税法第349条の3の2、地方税法施行令第52条の11)。 (※) 居住部分の割合 = 一部を人の居住の用に供する家屋のうち居住の用に供する部分の床面積/家屋の床面積 住宅用地の範囲について併設されている駐車場がある場合の取扱いはどうなっているのか。 東京都においては、住宅用家屋の敷地と一体となっている自家用駐車場は住宅用地に含まれているが、外部貸駐車場(月極駐車場、コインパーキング、カーシェアリングやシェアサイクルの用地など)は住宅用地に該当しないとされている(※2)。 (※2) 東京都主税局ホームページ「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」を参考としている。 それでは、介護事業者が介護老人ホームや小規模多機能型居宅介護施設の運営のために借りた家屋の敷地に併設された附属駐車場は住宅用地に該当するのか。この件について争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。 ▷事案の争点 争点は、駐車場が住宅用地に該当しないという東京都の賦課決定処分は違法であるか否かである。 ▷東京都の主張 東京都は次のような理由から駐車場は住宅用地に該当しないと主張した。 ▷裁判所の判断 地裁は、Xの請求を認めた。判決の要旨は次のようなものである。 この判決に不服な東京都は控訴したが、高裁も同様に東京都の控訴は理由がないとして棄却した。 併用住宅に附属した駐車場の利用者が居住者以外の併用住宅利用者であったとしても、住宅用地の計算の基礎となる敷地の用に供されている土地に該当する。駐車場を含めた契約の主体が家屋を利用したYであり、その事業の関係者が利用していたからである。 (了)
株式需給緩衝信託の概要と会計処理の現状 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 2022年2月14日に野村証券株式会社及び野村信託銀行株式会社より、「株式需給緩衝信託®のサービス提供開始について」が公表された。今回は、この株式需給緩衝信託に対応する会計基準がない現状を鑑み、この信託の概要を確認し、導入事例を参考に会計処理について解説していきたい。 1 株式需給緩衝信託®の概要 株式需給緩衝信託®とは、大株主等が保有する株式を、発行会社が設定する信託を通じて取得し、株式市場の需給に配慮しながら流動化させていく仕組みで、野村證券株式会社と野村信託銀行株式会社が開発した信託スキームである。 このスキームにより、以下のような効果がもたらされることにより、上場会社のガバナンス向上に資する株式売却が可能となる。 【株式需給緩衝信託®の取引の流れ】 (出所:野村グループホームページ「株式需給緩衝信託®のサービス提供開始について」) 2 株式需給緩衝信託®の事例 EDINET上で以下の期間の有価証券報告書及び四半期報告書について、Key Word「株式需給緩衝信託」で検索した結果、以下の3社が該当した。 (1) 株式会社クロス・マーケティンググループ(有価証券報告書 決算日:2022年6月30日) 連結財務諸表に対する監査報告書の監査上の主要な検討事項(KAM)、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の注記において、会計処理について以下のような記載がある。 (2) 株式会社近鉄百貨店(第2四半期報告書 決算日:2022年8月31日) 追加情報注記において、以下の記載がある(下線筆者)。 株式会社近鉄百貨店においては、株式会社クロス・マーケティンググループとは異なり、信託が保有した株式は自己株式として認識し、売却した際の取得価額と売却価額の差額は、その他資本剰余金として会計処理していると考えられる。 (3) 株式会社ヨシックスホールディングス(第1四半期報告書 決算日:2022年6月30日) 追加情報注記において、以下の記載がある(下線筆者)。なお、市場への売却については、第2四半期連結会計期間以降に実施しているため、追加情報注記に、自己株式の処分の影響に関する記載はなかった。 株式会社ヨシックスホールディングスにおいては、株式会社近鉄百貨店と同様に、信託が保有した株式は自己株式として認識し、売却した際の取得価額と売却価額の差額は、その他資本剰余金として会計処理していると考えられる。 3 結論 株式会社クロス・マーケティンググループは信託が取得した株式について、自己株式として取り扱わず、「投資有価証券」として取り扱っている。一方、株式会社近鉄百貨店及び株式会社ヨシックスホールディングスは、「自己株式」として取り扱っている。 現状では、株式需給緩衝信託®に対する会計基準がないため、会社ごとに会計処理が異なる状況となった。 今後、会計基準が作成されるかどうかは明らかではないが、上記事例、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」等をもとに、監査人とも十分に協議し、会計処理を判断することが必要であると考えられる。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第4回】 「収益認識に関する注記③」 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における収益認識に関する注記のうち「当該事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報」について、何を記載すればいいか教えてください。 Answer 連結注記表では、契約資産及び契約負債の残高や残存履行義務に配分した取引価格の金額などを注記することが求められます。なお、連結計算書類を作成する場合、個別注記表では収益の分解情報に関する注記は省略できます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2021年3月9日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 注記事項の全体像 まずは【第2回】で説明した内容のおさらいです。 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき注記事項は次のとおりです(会社計算規則第115条の2第1項)。 (※) 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表において注記を要しません。なお、連結計算書類の作成義務のある株式会社(会社法第444条第3項の株式会社)以外の株式会社は、連結計算書類を作成していなくても個別注記表において注記を省略できます。 (2) 個々の注記事項の解説 上記(1)の③では、「収益認識に関する会計基準」で次の2つが項目として記載されており、実務的にこの2つについて注記している会社が多い印象です。 (「収益認識に関する会計基準」第80-20項、第80-21項より抜粋) 詳細な注記事項は、細かい内容となるため「収益認識に関する会計基準」第80-20項~第80-24項を参照してください。 ここでは、実際の注記事例を見て、注記のイメージを掴んでもらいましょう。 [オカダアイヨン株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※オカダアイヨン株式会社「第63回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」5頁より抜粋。 [住友電気工業株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※住友電気工業株式会社「第152期(2021年4月1日から2022年3月31日まで)定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」12頁より抜粋。 * * * 今回のテーマの「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」は、将来の業績予測等につながる情報を記載するため、財務諸表利用者にとっても比較的関心が高い項目ではないでしょうか。それだけに、重要なものは不足がないよう注意しなければならない分野だと考えられます。 次回は、「会計上の見積りに関する注記」をテーマに解説します。 (了)
〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第9回】 「社内情報の漏えいや不正利用等を防ぐためにはどのような整備が必要か」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 退職者等のIDが放置されるリスク 退職者や休職者のユーザーIDをシステム内から削除せず、そのまま放置しておくと、なりすましをはじめ、企業の重要な情報の持ち出しなど、不正に悪用されるリスクがあることを、まず認識しなければならない。 とりわけ、従業員の入退社の頻度が比較的高く、社内の陣容が流動的である場合には、ユーザーIDの登録はもちろん、権限の変更や削除に関わる手続をあらかじめ整備しておくことが大切になる。例えば次の手続を参考にしてほしい。 例えば、②を人事部門の責任者が担い、③及び④を情報部門の責任者や担当者が行うことで、部門間での相互けん制を実現させることもできよう。 2 ユーザーIDの棚卸を実施する 上記の手続を定め、たとえ部門間の連携を図ったとしても、繁忙期などはユーザーIDに関する権限の変更や削除に関わる情報のやりとりが不完全になることも想定される。このため、定期的に、登録IDの棚卸を行うことを勧める。 実在しない幽霊社員にユーザーIDが付与されたままになっていないか、部門間の人事異動があったにもかかわらず、以前に所属した部門が持つ情報へのアクセスの遮断が実施されないままになってはいないかなど、社員の在籍とアクセス権限の割り当てに関わる正確性や網羅性を検証することが必要である。これは、念のためを想定した発見的な統制ともいえる。 棚卸の間隔は、会社の規模やシステム活用の程度に応じて異なるため、業務の効率性とシステムの活用の重要度に応じて、各社で判断が異なるであろう。 3 既存ユーザーIDの使い回しや共有の問題 退職者が発生した場合、社員に付与したユーザーIDを削除せずに、便宜的に他者にユーザーIDを転用して活用する会社を、実はよく見かける。冒頭の質問に見られるように、エンジニアや同じグループ内の関係する会社からの出張者など、頻繁に会社に出入りする外部の関係者に、臨時に既存のユーザーIDを使わせるといった場合がこれに該当する。 あるいは、1つの部門や事業所内で使う端末にアクセスする際、部門や事業所内の社員に共通するユーザーIDを与え、更に権限も同一に持つというケースも見られる。これらは、いずれも情報漏えいや情報の不正操作に陥りかねない危ういケースとなる。 (1) 既存のユーザーIDの使い回し 不要となったユーザーIDを削除せずに、当初の目的と異なる利用に供するということを行っている会社はないだろうか。不要となったユーザーIDは、必ず削除手続を経たうえで、新たな用途が発生する都度、発行手続をとるべきである。 一見手間に見える手続だが、退職者のほかにも一時的にユーザーIDを使った外部の者が、それを改めて使い、不正に会社の情報にアクセスしないという保証はどこにもない。ひとたび大切な企業情報が流出し、仮にそれが競合企業に売却されていたとしたら、一体どのような事態に発展するかを想像してほしい。使い回しはくれぐれも避けるべきである。 (2) ユーザーIDの共有 部門や営業所など、1つの端末を全ての従業員が利用し、アクセスに用いられるIDやパスワードも全て共有されているといったことはないだろうか。そのうえアクセス権限の階層化が行われておらず、業務に関わるあらゆる処理画面を、全ての従業員が閲覧でき、入力処理などが可能になっている場合は、情報管理上極めて危険な状況にあると言わざるを得ない。 端末を使って新規の顧客登録、請求書の作成や売上データの修正等の処理ができるような場合、それは架空の顧客登録や架空売上、売上の水増し計上などのリスクを見過ごしていることに他ならない。たとえ端末は共有しても、アクセスのためのIDやパスワードを各人に付し、権限と業務の範囲にふさわしいアクセス権限を付与して、業務内容を限定するルールづくりを行うべきである。 4 特権IDの取扱いとログの管理 これまで述べたように社内の情報を適切に管理し、システムを適切に運用するには、規程、規則やマニュアルづくりとその順守が欠かせない。そして従業員は、原則として業務を実施する上で必要な情報にのみ、アクセスが許されるのが通常である。しかし、システムの円滑な運用を保証するために、この原則に対して例外的なIDの取扱いを認めておくことも大切になる。 つまり、プログラムやデータベースに対してあらゆるアクセスの権限が認められ、設定の変更やバッジ処理、緊急の場合にはデータを直接変更できる権限を創設しておく必要がある。情報部門が持つオールマイティーな特権IDがそれに当たる。特権IDはシステムを適切に運用、保守をするうえで必要不可欠な権限になるが、考え方によっては、システム全般を統制するルールを破ることが可能となる強大な特権である。 したがって、必要性がある半面で、権限の付与とその後の運用において濫用を防止するために、下記の手続を定めて慎重に管理することが大切である。 (了)