《速報解説》 会計士協会が2022年版の「上場会社等における会計不正の動向」を公表 ~売上の過大計上、循環取引等の収益関連の会計不正に係る手口の割合が5年ぶりに50%に届く~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2022年6月27日付けで経営研究調査会研究資料第9号「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。 1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。 2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている、この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。 3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2018年3月期から2022年3月期までの5年間で164社となっている。当該5年間では、2020年3月期の46社が最大であり、2022年3月期における会計不正の公表社数は31社で、前年同期の25社を上回った。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2022年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が81.0%となっている。2022年3月期においては、件数ベースでは83.0%が「粉飾決算」で、前年同期の77.6%から増加しており、年度によってばらつきが見られる。 粉飾決算の割合が8割を超えていることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に則って公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合が2017年3月期の63.0%以来、5年ぶりに50%に達していることが注目される。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2022年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が27社でトップ、以下、卸売業21社、電気機器17社と続いており、公表会社数に変動はあるものの、上位3業種の順位に変動はない。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2022年3月期においては、東証第1部17社(前年同期18社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証第2部4社(2社)、ジャスダック4社(2社)、マザーズ4社(3社)その他2社(0社)となり、前年同期と比較すると、東証第二部、ジャスダック及びマザーズに分類される会社において、会計不正の発覚が増加傾向にある。 また、東証第1部及び東証第2部と新興市場との間で、「上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しており、(中略)不正の発生割合は変わらなかった」という分析は2022年3月期も変わっておらず、「新興市場に上場している会社の会計不正が多い」という一般的な先入観は否定されている。 (5) 会計不正の発覚経路 2022年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、内部統制等が44社、当局の調査等が25社、内部通報が22社、公認会計士監査が18社となっていて、前年との比較では、公認会計士による監査で発覚した会計不正が22社から18社へと減少しているのが気になるところである。一方、発覚経路の「記載なし」、つまり未公表としている会社が20社あり、この点について、研究資料は、「発覚経路の記載は、調査報告書の利用者が不正の未然防止や早期発見を考える上で重要な情報であるため、積極的に公表することが望まれる」とコメントしている。こうした指摘は、2018年版以降、表現に差異は見られるものの、繰り返し表明されているところである。 (6) 会計不正の関与者 2022年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が87社、単独が27社)、非管理職については、単独26社、共謀21社と、単独での会計不正が共謀をわずかながら上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2022年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社、国内子会社及び海外子会社別に分類して集計した結果、上場会社本体が78社、国内子会社が55社、海外子会社が41社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2021年3月期及び2022年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数を国内子会社が上回る状態が続いている一方、海外子会社における会計不正の件数は少ない状態が続いている。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が52.4%、中国を除くアジアと北米・南米がそれぞれ16.7%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2022年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、26社、71社、66社となった。2022年3月期は、「外部専門家のみ」の調査委員会設置数が31社中17社と過半数を超えている。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(44.5%)、「資産の流用」では「社内のみ」で調査に当たる会社が多くなっている(34.6%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2022年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は73社であった。訂正を行った会社のうち67社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 内部統制報告書の訂正割合の変化に注目すると、2021年3月期は28.0%まで減少していたが、2022年3月期は45.2%に増加している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 JICPA、「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料」を公表 ~研究開発費等会計基準設定時には想定になかったソフトウェア関連取引の多様な実務に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会は、「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(会計制度委員会研究資料第7号)を公表した。 これにより、2022年2月24日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。主なコメントの概要では、実務上の課題が多数寄せられている。 これは、ソフトウェアに関するビジネスの環境変化に伴い、多様な実務が生じていることを踏まえ、ソフトウェア及びその周辺の取引に関する会計上の取扱いについて研究したものである。 国際財務報告基準(IFRS)及び米国基準との比較が詳細に行われており、また、ソフトウェアに関連する会計処理などが詳細に検討されているため、実務の参考になるものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 ソフトウェアに関するビジネスの環境変化が生じている中で、研究開発費等会計基準や研究開発費等実務指針の設定時に想定されていないソフトウェア及びその周辺の取引に関して多様な実務が生じていることから、それらで示されていないものに関する実務上の課題を抽出し、検討している。 ただし、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及びリース取引に関する事項については、検討対象としていない。 主に次の内容である。 1 現状の課題 実務の分析、ヒアリング及びアンケート調査を行い、研究開発費等会計基準の開発時に想定されておらず、基準の設定後に新たに生じた取引については、現行の研究開発費等会計基準に従ってどのように会計処理すべきかが必ずしも明らかではないと考えられると述べている。 特に、自社利用のソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアというソフトウェアの分類や、 収益獲得を目的とするソフトウェアを自社利用のソフトウェアとして分類した場合におけるソフトウェアの資産計上の開始時点の取扱いは現行のソフトウェア実務に合わない可能性があるとのことである。 2 クラウドサービスのベンダー側の会計処理 サービス提供のために利用するソフトウェアについて、研究開発費等会計基準における分類を確認したところ、自社利用のソフトウェアに分類(16社)、市場販売目的のソフトウェアに分類(1社)、資産計上していない(9社)という結果であった。 研究開発費等会計基準においてSaaSのベンダーがサービス提供のために利用するソフトウェアをいずれに分類すべきかについては必ずしも明らかではないが、アンケートでは、ソフトウェアそのものを販売しているわけではない点や、 研究開発費等実務指針11項①の「通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより、会社(ソフトウェアを利用した情報処理サービスの提供者)が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得ることとなる場合」 との類似性を挙げて、自社利用のソフトウェアに分類しているとの回答が多く見られたとしている。 次のことが述べられている。 また、次のような意見が聞かれたとのことである。 3 クラウドサービスのユーザー側の会計処理 クラウドサービスのユーザー側の会計処理について、現行の会計基準の体系の中では明確な規定は設けられていない。 クラウドサービスの中でも、特に、実務的に論点となることが多いと考えられる一般事業会社がSaaSを利用するケースを中心に、ユーザー側の会計処理(サービスの提供を受けることに対して継続的に支払う費用及びユーザーが支払う初期設定費用やカスタマイズ費用の会計処理など)について、次のように述べている。 4 コンピューターゲームの制作費用の会計処理 ゲーム業界に適用される我が国の会計基準等については、研究開発費及びソフトウェアQ&Aでゲームソフトの制作に言及した記述はあるものの、ゲーム業界固有の事象について詳細に定めた取扱いはないとのことである。 コンピューターゲーム開発業を主要な事業としている企業の事例を見ると、一般消費者向けのコンピューターゲームの開発活動に係る会計処理にばらつきが見られる(無形固定資産として計上している企業と、流動資産として計上している企業とが混在)。 5 実務上の課題とそれを踏まえた提言 現状認識している具体的な実務上の課題とそれに係る提言として、次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「2021年度 品質管理レビューの概要」等を公表 ~債務超過の会社の買収に関する改善勧告事項など多数の事例解説を掲載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年6月24日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これらは、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、これらに記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがある。 「品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」は、改善勧告事項を社会一般に分かりやすく伝えることを目的として、品質管理レビュー制度の概要と改善勧告事項の意義を説明し、改善勧告事項の中で基本的かつ重要な項目を取り上げている。 「品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」は、主として日本公認会計士協会の会員の監査実務に資することを目的として、改善勧告事項の多くの領域を取り上げている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 「2021年度 品質管理レビューの概要(本編)」では、従来と同様に、「会計上の見積りの監査」に関して、下記の指摘事項が記載されている。 また、「2021年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」及び「2021年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」では、次のような改善勧告事項が記載されている。 具体的な内容は、「2021年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」及び「2021年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」をお読みいただきたい。 Ⅲ 品質管理レビューの概要(資料編) 「2021年度 品質管理レビューの概要(資料編)」では、会計監査人の異動理由の分析や、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)による上場会社の監査業務における品質管理の項目別の指摘なども記載されている。 監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和3年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2022(令和4)年6月21日、「令和3年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、所得税法が3件、相続税法が1件で、合わせて4件と非常に少なくなっている。 今回の公表裁決では、国税不服審判所が、原処分庁の課税処分等の全部又は一部を取り消した裁決が3件、納税者の審査請求を棄却した裁決が1件となっている。 【表:公表裁決事例令和3年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、所得区分が争点となった2件の裁決について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 1 不動産売買契約に基づき受領した金員の一部を「不動産所得」であると認定した事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、賃貸不動産を売却した審査請求人が、原処分庁の調査を受け、当該賃貸不動産の売却代金とされた金額のうち賃貸借契約の解約金相当の金額について、不動産所得として所得税等の修正申告書を提出した後、当該金額については臨時所得に該当し、平均課税が適用できるとして、また、当該金額の所得区分は不動産所得ではなく譲渡所得に該当するとして、それぞれ更正の請求をしたところ、原処分庁がいずれも更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 ① 〔争点1〕について 〔争点1〕について、国税不服審判所は、事実認定に基づき、請求人とP氏との間の売買契約は、売買代金総額396,480,000円の全てを本件不動産の譲渡対価とする趣旨のものであったとは解し難いとしたうえで、本件売買契約では、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位も移転されているところ、①不動産賃貸借契約に基づく賃貸人の地位が、不動産所有権とは別個の債権契約上の地位であり、不動産所有権から離れて譲渡可能なものであること、②本件解約金相当額が、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位に包含されるものであり、本件売買契約の締結前に、本件賃貸借契約が合意解約され中途解約金が支払われることが確定していた本件では、「賃貸人の地位」の交換価値が、本件不動産そのものの交換価値から独立した「本件解約金相当額を受領する地位」の価値として客観的に把握することができること等からすれば、本件売買契約は、売買代金396,480,000円のうち本件解約金相当額の部分を、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位の移転に対する反対給付として定める趣旨のものであったと解するのが相当であることから、解約金相当額を不動産所得に該当するものと判断して、請求人の主張を斥けた。 ② 〔争点2〕について 一方、〔争点2〕については、国税不服審判所は、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位に包含されるものであり、本件賃貸借契約の「残賃貸借期間の賃料の補償」としての性質を有するものであること、平成29年7月14日時点において、本件賃貸借契約の残賃貸借期間は3年以上あり、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約に基づく賃料の3年分を上回る金額であることからすると、本件解約金相当額は、所得税法施行令第8条第3号に規定する「業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金」に該当すると認められることから、解約金相当額に係る所得は、臨時所得に該当し、平均課税の適用対象とされるべきであると判断して、原処分庁の主張を斥けた。 2 医師が健康診断業務に係る役務の提供の対価として受領した報酬は「給与所得」であると認定した事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、医師である審査請求人が、①健康診断業務及び意見書作成業務に係る収入について、事業所得に係る収入であるとして所得税等の確定申告書を提出し、また、②健康診断業務に係る収入が給与所得に係る収入であるとして所得税等の確定申告書を提出した年分について、当該収入は事業所得に係る収入であったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、①については、健康診断業務に係る収入は給与所得、意見書作成業務に係る収入は雑所得に該当するとして所得税等の更正処分等を行い、②については、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 ① 〔争点1〕について 〔争点1〕について、国税不服審判所は、事実認定に基づき、請求人がG会、H研究所、J財団、K診療所、L協会、M協会及びN事業団から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、これらの診療所等の指揮命令に服し、空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当であるという判断を示した。 ② 〔争点2〕について 国税不服審判所は、〔争点1〕の判示を受けて、本件所得①はいずれも給与所得に該当することから、本件意見書作成業務のみで「事業」として認められるか否かを判断すると前置きしたうえで、本件意見書作成業務を開始した平成28年以降も、請求人の主たる収入は、一貫して健康診断業務等に係る給与収入であり、本件意見書作成業務に係る収入が占める割合は、1割にも満たない状況であったという事実に基づき、請求人が本件意見書作成業務に費やした精神的、肉体的労力の程度は限定的であったものと認定した。 その結果、請求人が本件意見書作成業務のみから相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があるとは認められず、請求人の本件意見書作成業務が社会的客観性をもって「事業」であるとまで認めることはできないと判示して、本件所得②は、事業所得に該当せず、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、所得税法第35条第1項に規定する雑所得であるという判断を示した。 (了)
2022年6月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.475を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第11回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その3)」 -容積率②- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 第10回では、容積率について下記に掲げる事項を確認しました。 上記を受けて、今回は、容積率に関して応用的な知識を確認してみることにします。 解決への指針 (1) 2以上の道路に接する敷地である場合の容積率の計算 取扱い 基準容積率は、前面道路の幅員が12m未満である場合にその適用があるものとされています。この場合において、前面道路が2以上あるときは、それらの道路幅員のうち最大であるものを選択するものとされています。 計算例 下記の評価対象地に係る建築基準法上の容積率は、いくらになりますか。 (計算) (2) 制限の異なる2以上の地域にわたって存する場合の容積率の計算 取扱い 基準容積率を計算する場合において、制限(前面道路幅員に乗ずる割合)が異なるときには、いわゆる『加重平均容積率』(制限の異なるそれぞれの敷地に対する延床面積の合計が敷地全体の面積のうちに占める割合をいいます。(下記算式を参照してください。))を求めることになります。 (算式) 計算例 下記の評価対象地に係る建築基準法上の容積率は、いくらになりますか。 (計算) (3) 2以上の道路に接する敷地が制限の異なる2以上の地域にわたって存する場合の容積率の計算 取扱い 基準容積率を計算する場合において、前面道路が2以上あり、かつ、制限の異なる2以上の地域にわたって存するときには、上記(1)及び(2)に掲げる取扱いを併用して求めることになります。 計算例 下記の評価対象地に係る建築基準法上の容積率はいくらになりますか。 (計算) (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第42回】 「「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかの判断 (貸付事業用宅地等の特例の適否)」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲は令和4年6月20日に相続が発生し、その所有するAマンションの1室と、B宅地を配偶者である乙が相続し、引き続き、貸付事業の用に供しています。 不動産の利用状況は下記の通りですが、被相続人の貸付事業はいわゆる「準事業」に該当します。 貸付事業用宅地等の対象となる準事業は「相当の対価を得て継続的に行うもの」とされていますので、上記不動産に係る賃料については、利益が生じていることから相当の対価を得ているものとして、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の対象になると考えていいでしょうか。 [A] Aマンションの1室は、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の対象になりませんが、B宅地は特例の対象になると考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 「相当の対価を得て継続的に行うもの」の要件 貸付事業用宅地等の特例は、相続開始の直前において被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の用に供されていた宅地等に適用されますが、貸付事業は、下記の通り準事業と特定貸付事業に分類することができます(措法69の4③四、措令40の2①⑦⑲)。 本問の場合には、準事業に該当することになりますので、「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかが問題となります。 2 「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかの判断 「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかについては明確な基準があるわけではありませんので、他の法令等や過去の裁判事例等を基に検討する必要がありますが、判断基準として下記の2つの方法があります。 (1) 相当の利益を算定する方法 所得税における特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用において「相当の対価を得て継続的に行う」の意義が租税特別措置法関係通達37-3に記載されています。これによれば、相当の対価とは、収入から必要経費を差し引いてなお相当の利益が生じるような対価を得ているかどうかにより判定することになっています。また、継続的か否かの判断は、貸付契約時にその貸付等が相当期間継続して行われることが予定されているかどうかで判定することとされています。 租税特別措置法関係通達37-3 (下線部は筆者による) 当然、所得税における特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例と小規模宅地等の特例では、その制度趣旨も異なりますが、過去の裁決や裁判事例において、相当の利益を算定して判断されていることが少なくありません。 例えば、平成27年10月1日の裁決(TAINSコード:F0-3-445)は、被相続人が生計一親族と法人に定期借地権設定契約に基づき土地を賃貸している事例で、生計一親族の貸付部分の特例の適否が争われた事件です。被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当するかどうかの判断を下記の通り判示しています。 また、平成9年11月19日の裁決(TAINSコード:J54-4-22)は、下記の通り判示しています。 上記の裁決事例の判断から考察しても、租税特別措置法関係通達37-3に基づき判定を行うことは、合理性があるといえます。 (2) 周辺相場と比較する方法 貸付けの対価が周辺相場と比較して低額である場合には、相当の対価を得ていないとする考えです。特に親族間の取引の場合には、通常の相場よりも低額で賃貸することも少なくないため、注意が必要となります。 平成7年1月25日の裁決(TAINSコード:J49-4-25)は、長女に対する駐車場の土地賃貸料が周辺地域の賃貸料に比し著しく低額であると認められたため、相当な対価を得て貸し付けられていたとはいえないとされた事例です。具体的には、長女への駐車場の賃貸に伴う賃貸料は、1平方メートル当たり4,825円に対して、周辺地域における賃貸料は、1平方メートル当たり13,447円又は18,181円であり、第三者に賃貸している賃貸料と比較して著しく低額であるため、相当な対価を得て行われたものとはいえないと判断された事例となります。 また、平成18年12月7日の裁決(TAINSコード:F0-3-201)は、親子間の土地の貸付けが権利金の支払いではなく、保証金の支払いが行われ、地代も通常の相場よりも低い場合に賃貸借であるのか、使用貸借であるかについて争われた事例ですが、最終的に使用貸借と認定され、特例も否認されました。 当該裁決では、本件地代が低額であるか否かを判断するにあたって、継続地代の平均的活用利子率(継続地代の収集事例のうち、客観的な時価(近隣公示価格等を規準として求めた土地の正常価格)が判明したものについてその時価に対する継続地代(支払地代年額)の割合を求め、それらの平均値を算定したもの、すなわち土地を元本としたときの地代との比率。以下「既存借地地代率」 という)が用いられました。具体的には下記のとおり判示しています。 本件は保証金の設定自体が被相続人から本件土地を確実に承継するためのいわば担保として設定されたもので実質的には親子という特殊な関係に基づく使用貸借契約であると認定がされた特殊な事例ではありますが、世間相場の比較に公表されている継続地代の平均的活用利子率が用いられた点については、地代を決めるに当たって参考となる事例となります。 上記(1)(2)より「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかを考察すると、下記の点に留意する必要があります。 3 本問への当てはめ 不動産ごとに特例の適否を判断した場合には、下記の通りとなります。 〔Aマンション1室〕 相当の利益を得ていたかどうかの判断ですが、毎月6万円ですので、年間の収入は72万円となります。必要経費は管理費、固定資産税及び都市計画税15万円及び減価償却費40万円の合計55万円ですので、毎年17万円の利益を得ていたことになります。 建物賃貸借契約書はありませんので、いつでも使用貸借に変更も可能であり、継続性の観点から問題があります。さらに、個人から親族に対して家賃等を収受する場合には、周辺相場相当の家賃を収受しているかどうかが問題となり、通常の相場の4分の1しか収受していませんので、「相当の対価」を得ていないと判断できます。 したがって、継続性の観点、周辺相場との比較の観点から「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当しないことになりますので、特例の適用を受けることはできないと考えられます。 〔B宅地〕 固定資産税及び都市計画税の合計の3倍程度の地代となりますので、相当の利益を得ていたということになります。土地賃貸借契約書もあり、毎年、地代の支払いもされていますので、継続性の観点からも問題ないといえます。 周辺相場としての比較ですが、個人と法人の「土地の無償返還に関する届出書」を賃貸借としている場合の地代の設定は、通常、固定資産税及び都市計画税の合計の3倍程度であれば問題ないかと考えます。したがって、「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当し、特例の対象になります。 ★実務上のポイント★ 「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当するかどうかの判断については、明確な基準はありませんが、相当の利益が生じているかどうか、賃貸借契約から継続性に問題ないかを基本としつつ、周辺相場との比較についても留意しておく必要があります。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例111(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆仕入控除税額の計算方法(消法30②) 消費税の原則課税における仕入税額控除を計算する際、課税売上高5億円超又は課税売上割合が95%未満の場合には、全額控除は認められず、(1)個別対応方式と(2)一括比例配分方式のいずれかを選択しなければならない。 (1) 個別対応方式 その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額のすべてを、①課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「課税対応」という)、②非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「非課税対応」という)、③課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの(以下「共通対応」という)に区分が明らかにされている場合には、次の計算式により仕入控除税額を計算することができる。 したがって、「課税対応」の課税仕入れが大きい場合には、個別対応方式が有利になる。 (2) 一括比例配分方式 個別対応方式のように課税仕入れ等に係る消費税額が区分されていない場合、又は区分されていてもこの方式を選択する場合に適用し、次の計算式により仕入控除税額を計算する。なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間の継続適用要件がある。 したがって、「非課税対応」の課税仕入れが大きい場合には、一括比例配分方式を選択すると、課税売上割合分の控除ができるため、有利になる場合がある。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第18回】 「塩田跡地を造成してゴルフ場用地とした土地について 鑑定評価額をもって登録価格としたことは違法か否かが争われた事例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産税の課税標準となるものは 固定資産税の課税標準となるものは、土地の場合は、賦課期日における価格で土地課税台帳もしくは土地補充課税台帳に登録されたものとするとされている(地法349①)。 課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という)は、固定資産評価基準(以下「評価基準」という)に基づいて算定されることになる。 基本的には登録価格は、評価基準に基づく価格となるが、異なる場合もある。最高裁平成25年7月12日判決によると、登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合は、当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録価格の決定は違法なものとされる。 つまり、固定資産税においては評価基準に基づいて算定された価格が絶対的な尺度と考えられる。しかし、土地の形や立地は多様であり、評価基準は、必ずしもすべての土地の適切な評価ができるように網羅されているものではない。それでは、評価基準で適切な評価ができないような場合は、何に基づいて評価すれば合理的なのだろうか。 今回は、当初塩田であった土地を造成してゴルフ場にした案件にかかる固定資産税評価額について、評価基準ではなく鑑定評価に基づいて登録価格を算定したことから争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か ゴルフ場の用に供された一団の土地についてK市が平成27年度に登録した価格について、Xは不服であるとして固定資産税評価委員会に審査の申出をしたところ、棄却されたために訴訟となり適正な時価を超える部分の取消しを求めて訴えた事案である。 このゴルフ場用地は、当初塩田跡地であったものを造成してゴルフ場用地としたものであるが、造成してからかなりの期間がある。平成27年1月1日のゴルフ場用地の評価について、K市は、不動産鑑定士の鑑定評価に基づいて付近の工場用地に比準する方法により工場用地として取得価額を評定し、造成費を加算せず、合計32億933万8,607円と決定して土地台帳に登録したが、これが、評価基準に定める評価方法に従って算定されたものではないとして、Xは取消しを求めた。 ▷評価基準におけるゴルフ場用地の評価方法は 評価基準におけるゴルフ場用地の評価方法は次のとおりである。 (※) 総務省「固定資産評価基準」第1章第10節二 つまり、ゴルフ場用地は、原則的には、取得価額+造成費に基づいて算定し、取得後価格変動がある場合は、附近の土地の価額又は最近の造成費から評定するとされている。 また、これだけではわかりにくいことから平成11年9月1日付で自治省税務局資産評価室長「ゴルフ場の用に供する取扱いについて」(以下「ゴルフ場通知」という)を発出したが、これは、周辺地域が宅地化されているゴルフ場用地の評定に関し、ゴルフ場の近傍の宅地に比準しながら山林の価額を評定する方法を示している。 ▷高裁の判決は 高裁は、評定されるべき取得価額は、ゴルフ場用地に造成される前の塩田跡地の客観的な時価と解すべきだが、鑑定によってこれを求めることができないので、登録価格が評価基準の定める評価方法に従って算定されたものということはできない。登録価格が評価基準によって決定される価格を上回らないとはいえないとして、K市の決定は全部取り消すべきものと判断した。 ▷最高裁の判決は しかし、最高裁は、高裁の判断は是認できないとした。造成前の状態である塩田跡地としての取得価額を評定していないことをもって、登録価格が評価基準の定める評価方法に従っていないと解すべき理由が見当たらない。造成から長期間経過しているから、造成前の状態を前提に取得価額を正確に算定できないことも想定できる。また、ゴルフ場通知も、山林を造成したことを前提にしているから、本件とは異なる。 そのため、高裁の判断は、固定資産の評価に関する法令の解釈適用を誤っており、更に審理を尽くすために、高裁に差し戻すとした。 * * * このように最高裁は、鑑定評価でゴルフ場用地を登録価格としたことをもって違法であるとはいえないとして、高裁の判断を否定した。相続税において借入による不動産の取得につき総則6項を適用する課税処分が令和4年4月19日の最高裁判決で認められたが、適用された価額は鑑定評価額であった。固定資産税の世界においては、適正な時価よりも評価基準が重視されている。評価基準では対応不能な場合は、鑑定価格に基づかれるものなのか、差戻し審の判示に注目したい。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第81回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 〈Q5〉 出荷基準・到着(着荷)基準と引渡基準 売主であるA社(3月決算)は、X1年3月末に、買主であるB社に、B社が購入したA社の商品を出荷した(配送業者に引き渡した)。その後、A社は、X1年4月1日にB社に商品が到着したことを配送業者のウェブサイト上の追跡サービスを利用して確認した。この場合、A社は、その販売に係る収益をその商品を出荷した日の属する事業年度(X1年3月期)の収益に計上することが認められるか。 また、A社は、その販売に係る収益を出荷日ではなくウェブサイトの確認によって把握した商品のB社への到着日(着荷日)の属する事業年度(X2年3月期)の収益に計上することも認められるか。 〈A5〉 A社は、その販売に係る収益をその商品を出荷した日の属する事業年度(X1年3月期)の収益に計上することが認められる。ただし、次に掲げるケースなど一定の場合には認められない可能性がある。 また、通常、到着日(着荷日)基準は引渡基準に含まれる。よって、その販売に係る収益をウェブサイトの確認によって把握した商品のB社への到着日(着荷日)の属する事業年度(X2年3月期)の収益に計上することも認められる。ただし、上記出荷の場合と同様の理由により、一定の場合には認められない可能性がある。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 商品を出荷した日は、法人税法22条の2第1項の引渡日に含まれるため、出荷した日の属する事業年度(X1年3月期)の収益として計上することが認められる。しかし、商品を出荷した日をもって常に収益計上の日として認められるわけではないことなど、いくつか注意点がある。 出荷基準が法人税法22条の2第1項の引渡基準に含まれる場合(A社における出荷した日が同項の引渡しの日に含まれる場合)には、一定の要件を満たして法人が近接日基準の採用を選択しない限り、引渡基準としての出荷基準による収益計上が認められる。近接日基準を定める2項の適用要件を満たす場合には、1項よりも2項が優先適用されるということである(本連載第79回及び第80回参照)。 一定の要件とは、基本的には、法人が、契約の効力が生ずる日を含む近接日基準を採用し、その日の属する事業年度の確定決算で収益経理することを選択し、かつ、それが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従っていることである。 注意点として、これまで継続して出荷日以外の日に収益を計上している場合において、出荷日に収益を計上するように変更する合理的な理由が認められないとき(法人税基本通達2-1-2参照)や、課税庁から課税処分を受ける場面で出荷日よりも合理的な基準があると認められるときには、出荷日以外の日に収益を計上することを求められる可能性もある。 着荷基準は引渡基準の一種であると考えられるため、A社が、その販売に係る収益をウェブサイトの確認によって把握した商品のB社への到着日(着荷日)の属する事業年度(X2年3月期)の収益に計上することも認められるが、出荷基準に関する上記の注意点を共有する。 ただし、出荷基準、着荷基準、あるいは検収基準と一口にいっても棚卸資産の種類や性質、個々の契約や商慣習等により、その具体的内容や状況は異なりうる。 このため、個別の事例に対峙する場面では、このような抽象的な基準ないし中間概念を通さずに、より直接的に、個々の日が法人税法22条の2第1項の引渡しの日に該当するか否かを精査する必要が出てくる。 (了)