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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第10回】「税法における類推解釈の許容性」-税法解釈原理としての「疑わしきは納税者の利益に」の妥当性-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第10回】 「税法における類推解釈の許容性」 -税法解釈原理としての「疑わしきは納税者の利益に」の妥当性-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 税法の解釈については、租税法律主義の下で、厳格な解釈が要請され、原則として文理解釈によるべきであり、類推解釈は許されないことに異論はない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁等参照)。 一般に、類推解釈という用語は、「類推を拡張解釈などと同様に、体系的解釈の一種とする見解」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)469頁)に従った用語法によるものと解されるが、類推とは「ある事案を直接に規定した法規がない場合に、それと類似の性質・関係をもった事案について規定した法規を間接的に適用すること」(同468頁)をいうところ、「狭義の解釈が法規の文理的意味の範囲内で行われるのに対して、類推は、法の欠缺の存在を前提として、法規を間接推論によって適用する補充作業であるから、両者は法理論的には区別すべきである」(同469頁。下線筆者)とされている。つまり、類推は、法理論的には、狭義の解釈とは異なり、法の欠缺を補充するための法創造と性格づけられるのである。 ただ、類推に係る法規の間接推論においても「解釈的」方法が用いられる点に着目すれば、類推を「広義の解釈」として類推解釈と呼ぶこともできよう。上記の用語法はそのような意味での類推解釈に関するものであろう。以下では、そのような意味ないし用語法において類推解釈という語を用いることにする。   Ⅱ 納税者に有利な類推解釈の許容性 では、前述のとおり類推解釈が原則として許されないことから、税法判例には類推解釈を認めたものはないのであろうか。筆者の知る限り、「類推解釈」を明示的に認めた税法判例としては、最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁がある(以下「昭和45年最判」という。ほかに、明示的にではないが類推解釈を認めたものと解される税法判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号(日本税法学会創立70周年記念号・2021年)377頁、396頁参照)。 昭和45年最判は、所得税法33条1項括弧書に相当する規定がなかった当時において借地権の設定に伴い授受された高額な権利金の所得区分が争われた事案に関するものであり、次のとおり判示した(下線筆者)。 上の引用判示のうち2段落目で説示されているように、本件におけるような借地権の設定に伴う高額の権利金の授受は、昭和25年の旧所得税法改正当時においては立法者の想定外の事実であり、これに適用できる法規が欠缺していたため、昭和45年最判は、その欠缺を補充するために「類推解釈」の名の下で法創造を行ったものと解される。 しかも、本件直後の昭和34年の旧所得税法改正により現行所得税法33条1項括弧書の規定(一定の借地権設定への「譲渡」概念拡張規定)に相当する規定が定められ、上記の法の欠缺が立法によって補充され「今後同様の問題が生ずる余地のなくなった」(富沢達「判解」最判解民事篇(昭和45年度)1041頁、1048頁)後の判断であったことから、昭和45年最判においては、最高裁としては租税法律主義の下でも法創造に対する抵抗感がさほど強くなかったのかもしれない(ただし、前記引用判示の最後の段落からすると、その抵抗感が全くなかったわけではなかったと考えられる)。最高裁がその2年ほど前に示した下記の譲渡所得課税の趣旨(最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁)に照らせば、昭和45年最判が行ったのが法創造といっても、その趣旨の範囲内にある法創造(制定法内在的法創造)であることからすると、尚更である(富沢・前掲「判解」1047頁も参照)。 とはいえ、昭和45年最判が「類推解釈」の名の下で法創造を行ったのは、何よりもまず、それが納税者に有利な類推解釈(法創造)であったからであると考えられる。所得税法上の不動産所得と譲渡所得との区分に関する前記の法の欠缺を立法者が機動的に補充していれば納税者が享受することができたであろう租税利益(二分の一控除の利益)を、その法の欠缺の故に納税者が享受できないという結果は、当該所得区分に関連する規定の解釈適用上は納税者にとって「不当・不合理な結果」というべきである。その結果が租税法律主義の下で厳格な解釈の要請に従って行われる当該関連規定の文理解釈によるものであっても、その結果の不当性・不合理性は変わることはない。 そもそも、文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合、納税者は、当然のことながら立法者とは異なり、自ら直接その結果を除去する権限をもたず、裁判を受ける権利(憲法32条)を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまる以上、裁判所としては、裁判を受ける権利を実質化し司法的救済を実現するために、文理から離れた(とはいえ制定法内在的法創造の枠を超えない)法創造によってその結果を除去し納税者の権利を救済しなければならない(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】、第7回Ⅲ参照)。 この意味で、昭和45年最判は、租税法律主義の内容を構成する司法的救済保障原則の見地から高く評価すべきものである(前掲拙著【27】参照)。   Ⅲ 「疑わしきは納税者の利益に」の意義と解釈原理としての妥当性 ところで、納税者に有利な類推解釈(法創造)は、同様の発想なり考え方を、古くから税法の解釈原理として主張されてきた「in dubio contra fiscum」という法命題の中に見出すことができる。これは直訳すれば「疑わしきは国庫の不利益に」となるが(中川一郎編『税法学体系〔全訂増補〕』(ぎょうせい・1977年)63頁[中川一郎執筆]参照)、しばしば「疑わしきは納税者の利益に」の意味で用いられる(清永・前掲書36頁参照)。この法命題を税法の解釈原理として承認する立場に立てば、それはまさしく納税者に有利な類推解釈(法創造)であると理解することができようが(前掲拙著【49】参照)、このような理解は、昭和45年最判の原審・東京高判昭和41年3月15日行集17巻3号277頁の採用するものである。この判決は次のとおり判示した(下線筆者)。 ここで「疑わしい場合」とは、「税法の規定の意味内容が一義的でなく解釈上直ちに一つの答えを見出すことが困難である場合」(清永・前掲書36頁)をいうものと解されるが、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として承認するかどうかについては、これを肯定する見解(中川編・前掲書66頁[中川執筆]、清永・前掲書37頁等参照)と否定する見解がある。後者の代表的な見解は次のとおり説いている(金子・前掲書125頁)。 確かに、そのような「疑わしき」規定は、憲法論においては、課税要件明確主義に反し無効であり適用できないと考えるべきであろう。しかし、わが国の違憲立法審査制(憲法81条)は抽象的違憲審査権を裁判所に認めるものでないと解されるが(最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁参照)、そうである以上、具体的な訴訟において当該「疑わしき」規定について納税者が課税要件明確主義違反を主張せず、しかも複数の合理的な解釈可能性のうちに納税者の主張する自己に有利な解釈がある場合には、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題は税法の解釈原理として成り立つと考えるべきであろう(前掲拙著【49】参照)。 このように考えることによって、方法論の違いはともかく、納税者に有利な類推解釈(法創造)を許容する場合と同様、司法的救済保障原則の実現に資する結果をもたらすことができよう。   Ⅳ おわりに 以上、今回は、税法における類推解釈の許容性を特に納税者に有利な類推解釈(法創造)に関して検討し、関連して「疑わしきは納税者の利益に」という法命題の、税法の解釈原理としての妥当性についても検討した。 租税法律主義の下では「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)が、「みだりに」ではなく、裁判を受ける権利の実質化・実効的保障という正当かつ合理的な理由に基づく場合には、裁判所が「規定の文言を離れて」納税者に有利な類推解釈(法創造)を行い、あるいは「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として用いる余地を認めるべきであると考えるところである。無論、裁判所がそのような判断をする必要がないように、何よりもまず、立法者に「租税立法の質」を改善する立法力を機動的に発揮することが要請されることはいうまでもない(前掲拙稿400頁参照)。 (了)

#No. 454(掲載号)
#谷口 勢津夫
2022/01/27

これからの国際税務 【第29回】「令和4年度与党税制改正大綱にみる国際課税項目」

これからの国際税務 【第29回】 「令和4年度与党税制改正大綱にみる国際課税項目」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 はじめに 昨年12月10日に発表された与党税制改正大綱では、まず総論として、去る10月に最終合意に到達した2つの柱から成る新しい国際課税ルールについて、今後も実施のための国際協調へ取り組む日本の立場を明らかにするとともに、令和5年度以降の法制化に向けた方針も明記された。併せて、国際的な租税回避対応策の見直しや非居住者の給与課税及びこれらを含めた税制の国際化に対応できる国税当局の執行体制の強化を今後の課題として列挙している。 一方で、令和4年度に実施する国際課税関係の改正項目については、体系的な改正事項はなく、総じて既存制度の技術的な手直し項目が列記されている。 本稿では、総論の概要とその背景及び令和4年度改正事項に関して、現時点で把握できる情報をもとに紹介する。   2 2つの柱の国際合意を踏まえた国際課税に対する基本方針 経済のデジタル化の下での新しい国際課税ルール(市場国に新たに課税権を付与する利益Aと軽課税国への所得移転を阻止するグローバルミニマム税の創設。いずれも2022年中の立法化と2023年からの施行を目標)については、我が国政府は、この問題を協議してきたG20/OECDの包摂的枠組国(現在141ヶ国)の中心メンバーとして、昨年10月の最終合意到達に貢献してきた。 わが国の積極姿勢は、マスコミで取り上げられた租税回避事例(大規模テクノロジー企業によるアイルランドを舞台としたアグレッシブな租税回避スキームなど)に手を染めていない我が国多国籍企業にとって、本取組みは、競争条件を平等化できる点で歓迎できるとの評価に加えて、デジタル事業に対する欧州を中心とした1国限りの課税措置(デジタルサービス税の賦課)の拡大がもたらす税制の不確実性を早期に解消せねばならないとの認識を、包摂的枠組国と共有してきたことがその背景にある。 かかる進展を踏まえて、今回の与党大綱では、達成された合意内容の実施と合わせて、今後の国際課税制度の見直しの方向性を、次の通り提言している。 (1) 新しい国際合意の的確な実施 今後予想される多国間条約の策定・批准や国内法改正について、積極的に取り組むが、その際には、「わが国企業等への過度な負担とならないように既存制度との関係などにも配慮しつつ、国・地方の法人課税制度を念頭に置いて検討する」とした。この宣言からは、見直しに際して以下の点に留意するとの含意がくみ取れそうである。 (2) 国際的な租税回避や脱税等への対応 与党大綱では、「国際的な議論や租税回避の態様等を踏まえ必要な見直しを迅速に行っていく」との従来の方針を踏襲している。その際、今後の新しい課題として、次の2点を付け加えている。   3 令和4年度の国際課税に関する主な個別改正項目 (1) 過大支払利子税制の修正 外国法人の法人税の課税対象とされるすべての国内源泉所得金額を、過大支払利子税制の対象とするものである(これまではPE帰属所得のみを対象としていた)。包括的な利子控除制限措置を推奨するBEPS行動4の勧告の趣旨に沿った追加的改正と思われる。 (2) 外国子会社合算税制の見直し 外国関係会社に適用される経済活動基準のうち実体基準と管理支配基準で認められている保険業特例(ロイズ保険事業等が基準を充足するとするもの)の適用要件である「一の保険会社等」について、保険会社に株式を全部保有されている一定の要件を満たす保険会社以外の内国法人を含むとする改正である。課税上弊害のない事例として適用対象が追加されたとみられる。 (3) 子会社株式簿価減額特例の見直し 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避を防止するための措置である「子会社株式簿価減額特例」について、子会社が期中配当する場合や孫会社等を設立後継続支配している場合等に、子会社株式の簿価を減額することなく配当できるようにする見直しである。日本企業の海外での健全な事業活動に過度な負担が及ばないための修正とみられる。 (4) その他 以上の外、グループ通算制度の施行に伴う外国税額控除制度の見直し、金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得が、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことの法令上の明文化、非居住者に係る金融口座情報の自動的情報交換のための報告制度の一定の追加措置、などが提案されている。 (了)

#No. 454(掲載号)
#青山 慶二
2022/01/27

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第4回】

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第4回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   《疑問点5》 別件裁判例では、外国上場会社の財務諸表上の数値を用いてみなし配当を計算しているのではないか 前回の《疑問点4》で、筆者は、外国上場会社からみなし配当を受領した場合に、同社の「資本金等の額」及び「利益積立金の額」を計算してみなし配当の金額を導出することは事実上不可能であると指摘したが、外国上場会社の「資本金等の額」及び「利益積立金の額」について、米国会計基準に準拠した公表財務諸表の数値を直接用いて計算している裁判例があるので、以下、検討する。 (1) タイコ・インターナショナル事件 本件は米国における組織再編として極めてポピュラーなスピンオフ(※29)を行ったタイコ・インターナショナルLTD(T社)の株主である日本の居住者Aに対し、同スピンオフによって分社化された他の外国法人2社(S1及びS2)の株式が割り当てられたことで、Aが外国証券等取引口座を有する証券会社Bから、Aが割当てを受けた株式の取得は、所得税法(※30)にいう「みなし配当」に該当し、Aの配当所得についてBが源泉徴収義務を負うとして、源泉所得税等及びこれに対する損害賠償金の支払いをAに求めた(※31)事案である。 (※29) 太田洋『スピン・オフ税制の導入と我が国上場会社への影響〔上〕』商事法務No.2133(2017.5.5)63頁は、「米国におけるスピン・オフの件数は、(中略)1990年代から2000年代初頭とリーマン・ショック前の2007年・2008年にピークを迎えた後、2014年・2015年にも大きく増加しており、1989年から2016年に至るまでのその件数の合計は617件に上っている。(中略)このように、米国では、毎年多数の上場会社がスピン・オフを実行している。」と述べている。 (※30) 平成19年度税制改正前の所得税法25条1項3号及び同法施行令61条2項3号。 (※31) AはT社から株式の交付を受けたのであって金銭の交付を受けたわけではないから、証券会社Bは、Aから納税資金の支払いを受けるか、Aからの預り金がある場合はそれを充当しない限り、その源泉徴収義務を履行できないことになる。 この訴えに対し東京地裁は、「Aが本件割当てによって取得した株式のうちT社の利益剰余金を原資とする部分は、株式等の出資者に対し出資者としての地位に基づいて分配した利益に当たるから、利益の配当として配当所得に該当する(所法24①)というべきである」とし、また、「Aが本件割当てによって取得した株式のうちT社の資本剰余金を原資とする部分は、剰余金等の留保利益から成るものであって、その実態において配当所得と異ならないものであるから、T社の資本金等の額のうち払戻しの起因となったAの出資額に対応する部分を超えれば、法人の資本の払戻し(所法25①三)として、みなし配当に該当するというべきである」として、Bの主張を支持した。 (2) T社事件判決の問題点 本件でT社が行ったスピンオフが所得税法25条1項旧3号の資本の払戻しに該当するかどうかについて、T社判決では、T社のForm10‐Kで開示される連結株主資本等変動計算書において、S1及びS2の株式の分配に伴って資本剰余金が減少している事実が認められることから、旧3号の資本の払戻しに該当すると判断している。すなわち、資本の払戻しを行う外国法人の経理処理が、我が国税法上の判断の基準となっている(※32)。 (※32) 増井良啓教授は、『外国会社からの現物分配と所得税-再論』税務事例研究126号(2012年)63頁で、本件裁判例が資本剰余金を原資とする部分につきみなし配当の課税ルールを当てはめていることから、裁判が依拠する「利益剰余金」や「資本剰余金」の有無は、どの国のルールに従って判定すべきか、という問題を提起している。この点につき、同教授は、「考え方の方向性としては、①日本の企業会計基準によるべきであるという考え方と、②一般に公正妥当な基準であればどの法域の主体が形成する会計基準でもよいとする考え方が、分岐する」が、税務執行の安定性を重視すれば①が望ましいと述べている。 T社が行ったスピンオフが旧3号の「資本の払戻し」に該当するとすれば、みなし配当の計算要素である「法人の株式に対応する部分の金額」を算定するため、資本の払出しを行う法人の「資本金等の額」を特定する必要があるが、前回の《疑問点4》で述べたとおり、「資本金等の額」とは、我が国法人税法特有の概念であり、その内容は法人税法施行令8条1項各号で具体的に規定され、会社法上の資本金や資本準備金、その他の資本剰余金とは当然に一致しない。資本の払戻し等を受けた日本の居住者である株主及び取扱証券会社が、外国法人の「資本金等の額」を知るということは事実上不可能である。そこで、Bは、下記〔表3〕のとおり、平成19年9月29日を決算日とするT社の事業年度の第2四半期期末である平成19年3月30日の連結貸借対照表の数値(※33)を基に、以下の合計額をT社の資本金等の額として、みなし配当の額を計算している。 (※33) TYCO INTERNATIONAL LTD. Form 10-Q(March 30, 2007)参照。我が国の四半期報告書に相当するもの。 〔表3〕T社の平成19年(2007年)3月30日現在の株主資本の部 上記の数値は、米国会計基準に準拠した連結貸借対照表上の数値そのものであり、当然我が国の法人税法上の資本金等の額に引き直したものではないばかりか、スピンオフの実行日から約3ヶ月前の時点の数値を用いて計算しているが、東京地裁は、Bの主張をそのまま認めてしまっている。本件は源泉所得税の課税が問題となったケースであり、納税義務者であるBにとって、処理の迅速性が要求された(※34)ため、止むを得ず簡便的に3ヶ月前の時点の数値で処理したものと解されるが、判決文からは、裁判所がこの辺りの事情を考慮しているような痕跡は見られない。 (※34) 源泉所得税の納税義務者であるBが、会社分割の日である6月29日でなく、約3ヶ月前の第2四半期期末の公表数値を用いて計算せざるを得なかったのも、源泉徴収処理のタイミングの問題が背景にあったのではないかと思われる。 いずれにせよ、外国法人から交付される金銭その他の資産についてみなし配当の規定に該当する場合、政令に定めるプロラタ計算において公表財務諸表の数値を用いることについて法令上の根拠は全くない(※35)。しかしながら、税務上の簿価純資産価額や資本金等の額が不明だからといって、みなし配当の計算を放棄することも許されないであろう。Bが採用した公表財務諸表の数値を用いる方法も、次善の策として許容される余地がある(※36)ものと考える。 (※35) 中間報告12頁は、「資本剰余金を原資とする分配が行われたと判断されると、その外国子会社について本邦税法に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の計算が必須となる。この際に、外国の制度に基づく当該分配の会計上・税務上のカテゴリー分類や金額計算方法を考慮することなく、我が国独自の制度に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の再計算を行う必要がある。(中略)このような問題に直面した企業は、現地会社法上(会計上)の資本金プラス資本剰余金及び利益剰余金の金額を、本邦の税務上の資本金等の額及び利益積立金の金額とみなして計算をしているケースが多いのではないかと思われる。実際、現実的にはこの方法しか採り得ない。しかし、これはあくまでも簡便計算であって、法人税法上は原則的には許容されないものである。(下線筆者)」と述べている。 (※36) 前掲(※29)のように、米国に限っても、過去17年間で617件のスピンオフが実行されているということであり、我が国の米国上場企業への投資家(個人・法人)数を考慮すると、その影響は小さくないものといえよう。   おわりに 【第1回】から見てきたとおり、筆者の問題意識は、法人税法24条1項及び所得税法25条1項のみなし配当の計算について、あくまで内国法人からのみなし配当を前提として制度設計されているという点に尽きる。本件では、Xが、配当支払外国子会社の設立以来の決算を我が国法人税法基準に引き直して対応したものと推察されるが、そのような場合であっても、前期期末の利益積立金がマイナスで、別途子会社から配当原資を収受した後、資本配当と利益配当を同時に行ったことで、プロラタ計算に内在する問題点が露呈し、異例ともいえるプロラタ計算を定めた施行令は違法・無効であるという判断が示された。本件裁判により同施行令に違法・無効が確定したことで、今後同施行令が改正されることになると思われるが、本稿で考察した問題への対応についても検討することが望まれる。 ちなみに、本稿で紹介した中間報告13頁では、 と述べている。   (了)

#No. 454(掲載号)
#霞 晴久
2022/01/27

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第6回】「試験研究を行った場合の税額控除(前半)」

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第6回】 「試験研究を行った場合の税額控除(前半)」   公認会計士 佐藤 信祐   1 概要 租税特別措置法では、法人税額の特別控除に対する様々な特例が認められており、地方税法でも、同様の特例が定められている。このうち、本稿では、「試験研究を行った場合の税額控除(第6回、第7回)」と「給与等の支給額が増加した場合の税額控除(第8回)」を取り上げることとする。 租税特別措置法では、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除として、以下の3つについて定められている。 さらに、地方税法においても、中小企業者等が試験研究を行う場合には、道府県民税及び市町村民税(法人税割)の課税標準額が特別試験研究費に係る税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制を適用した後の法人税額をもとに計算されることから、道府県民税及び市町村民税(法人税割)も軽減されることになる(地法附則8①)。 上記のいずれの制度であっても、試験研究費の額又は特別試験研究費の額に税額控除割合を乗じることにより税額控除限度額が算定される。そして、税額控除割合の計算上、増減試験研究費割合及び試験研究費割合をそれぞれ計算する必要があることから、組織再編成による影響を受けることになる。 すなわち、増減試験研究費割合とは、増減試験研究費の額(※1)の比較試験研究費の額に対する割合をいい(措法42の4⑧三)、比較試験研究費の額とは、前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額を平均した金額をいう(措法42の4⑧五)。そして、試験研究費割合とは、平均売上金額に占める適用年度の試験研究費の額をいう(措法42の4⑧六)。その結果、比較試験研究費と平均売上金額に対する組織再編成による影響を考慮する必要が生じるのである。 (※1) 適用年度の試験研究費の額から比較試験研究費の額を減算した金額をいう。 なお、令和3年度税制改正により、令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度のうち基準年度比売上金額減少割合が2%以上であり、かつ、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額を超える事業年度の控除税額の上限に適用年度の法人税額の5%を上乗せする特例が設けられたが(措法42の4③三、⑥三)、基準事業年度の売上金額及び基準年度試験研究費の額について、平均売上金額及び比較試験研究費の額と同様の調整を行うこととされている(措令27の4⑭~⑲)。   2 解散事業年度における取扱い 解散の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度においては、試験研究を行った場合の税額控除が認められていない。ただし、合併により解散する法人については、試験研究を行った場合の税額控除が認められている。これは、適格合併を行った場合であっても、非適格合併を行った場合であっても同様である。 これに対し、①分割又は事業譲渡をした日の属する事業年度において分割法人又は事業譲渡法人が解散する場合には、解散の日を含む事業年度において試験研究を行った場合の税額控除を適用することができず、②分割法人となる法人又は事業譲渡法人となる法人が解散した日の翌日に分割又は事業譲渡をする場合には、清算中の事業年度において試験研究を行った場合の税額控除を適用することができない。   3 設立事業年度における取扱い 設立事業年度である場合又は比較試験研究費の額が0である場合には、原則として、試験研究費に係る税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制における税額控除割合が0.085になる(措法42の4①二、⑤)。そして、設立後10年以内の法人については、一定の要件を満たせば、税額控除限度額の上限が法人税額の40%に相当する金額になる(措法42の4③一)。ただし、合併、分割又は現物出資による設立の場合には、これらの特例から除かれている(措法42の4③一、⑧四)。これは、適格組織再編成に該当する場合であっても、非適格組織再編成に該当する場合であっても同様である。さらに、通常の設立であったとしても、後述する組織再編成による調整が行われる場合には、これらの特例から除かれている(措法42の4⑧四、措令27の4⑦)。   4 比較試験研究費 (1) 基本的な取扱い 比較試験研究費の額とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額(※2)の合計額を当該3年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう(措法42の4⑧五)。 (※2) 当該各事業年度の月数と当該適用年度の月数とが異なる場合にはこれらの試験研究費の額に当該適用年度の月数を乗じてこれを当該各事業年度の月数で除して計算した金額とする。 ただし、以下に掲げる合併法人等(合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人をいう)に該当する場合には、以下のように計算を行う(措令27の4⑧)。なお、基準事業年度試験研究費の額についても同様の特例が設けられている(措令27の4⑯)。 (※3) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、当該適用年度開始の日の前日から当該適用年度終了の日の前日までの期間内においてその残余財産が確定したものをいう。 (※4) 原則として、当該適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度のうち最も古い事業年度度開始の日をいうが、未経過法人に該当する場合には特例が定められている。なお、未経過法人とは、当該合併法人等が当該適用年度開始の日においてその設立の日の翌日以後3年を経過していない法人のことをいう。 (※5) 未経過法人に該当する場合には、基準日から合併法人等の設立の日の前日までの期間を当該合併法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 (※6) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、その残余財産の確定の日の翌日。 (※7) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、基準日の前日から当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度終了の日の前日までの期間内においてその残余財産が確定したものをいう。 (※8) 未経過法人に該当する場合には、基準日から合併法人等の設立の日の前日までの期間を当該合併法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 この場合における月別試験研究費の額とは、その合併等に係る被合併法人等の当該合併等の日前に開始した各事業年度の試験研究費の額(分割等(分割、現物出資又は現物分配をいう)の日を含む事業年度(以下、「分割事業年度等」という)にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合の当該分割事業年度等の試験研究費の額)をそれぞれ当該各事業年度等の月数(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数)で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月)の試験研究費の額とみなした場合における当該試験研究費の額をいう(措令27の4⑨)。 なお、現物分配により試験研究用資産の移転を受けていない場合において、当該現物分配により試験研究用資産の移転を受けていない旨の届出をしたときは、上記の特例を適用しないことができる(措令27の4⑫、措規20⑨)。 (2) 分割又は現物出資の特例 分割又は現物出資を行った場合には、分割又は現物出資の日以後2ヶ月以内に「分割等による移転試験研究費の額の計算方法の認定申請書」「分割等による試験研究費の額の区分に関する届出書」を提出することにより、以下のように計算を行うことも認められている(措令27の4⑩、措規20③⑧)。なお、基準事業年度試験研究費の額についても同様の特例が設けられている(措令27の4⑰二、措規20⑩⑮)。 (※9) 移転事業に係る試験研究費の額をいう。 (※10) 未経過法人に該当する場合には、基準日から分割承継法人等の設立の日の前日までの期間を当該分割承継法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 (※11) 未経過法人に該当する場合には、基準日から分割承継法人等の設立の日の前日までの期間を当該分割承継法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 この場合における月別移転試験研究費の額とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度の移転試験研究費の額をそれぞれ当該各事業年度の月数(※12)で除して計算した金額を当該各事業年度に含まれる月(※13)の移転試験研究費の額とみなした場合における当該移転試験研究費の額をいう(措令27の4⑪)。 (※12) 分割等の日を含む事業年度にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数。 (※13) 分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月。 なお、次回では、平均売上金額の調整と適用除外事業者について解説を行う予定である。   (了)

#No. 454(掲載号)
#佐藤 信祐
2022/01/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例106(消費税)】 「法人設立直後に全株式を課税売上高5億円超のグループ他社の100%出資者に譲渡したため、設立2期目が特定新規設立法人に該当し、課税事業者になってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例106(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(消法12の3①) 平成26年4月1日以後に設立される資本金1,000万円未満の新規設立法人のうち、その基準期間がない事業年度開始の日(以下「新設開始日」という)において特定要件(他の者により新規設立法人の発行済株式の50%超を保有されている場合その他一定の場合をいう)に該当し、かつ、新規設立法人が特定要件に該当する旨の判定の基礎となった他の者及びその完全支配法人のうち、いずれかの者のその新規設立法人のその新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として一定の方法により計算した金額が5億円を超えるもの(以下「特定新規設立法人」という)については、その特定新規設立法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間については納税義務が免除されない。       (了)

#No. 454(掲載号)
#齋藤 和助
2022/01/27

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第21回】「老人ホーム入居後に建て替えた場合の特定居住用宅地等の特例の適用」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第21回】 「老人ホーム入居後に建て替えた場合の特定居住用宅地等の特例の適用」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は、A宅地及び家屋を所有し自己の居住の用に供していましたが、相続開始の5年前に有料老人ホームに入居しました。老人ホームの入居前は、A宅地及び家屋にて長男家族と同居していましたが、建物も老朽化していたため、老人ホーム入居後に建替えを行っています。建替え後の利用状況が次のそれぞれの場合には、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の対象にならないものはありますか。 甲の相続人は、長男である乙のみです。乙は会社員であり、持家はありませんが、自己の収入に基づき生活をしており、甲との間に生活費等の援助はありませんので、老人ホーム入居後は被相続人と生計を別にしています。 〈建替え後の利用状況〉 [A] ②及び③のケースについては、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)を受けることができませんが、①及び④のケースについては、他の要件を満たせば特例の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の範囲 特定居住用宅地等は、相続開始の直前において被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等に該当することが必要となりますが、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、一定の要件を満たす場合には、その被相続人が居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた宅地等については、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することとされています(措法69の4①、措令40の2②③、措規23の2②)。 一定の要件については、第20回で解説していますが、本問の場合には、下記の老人ホーム等の入居後の用途制限の要件が関わってきます。 〈老人ホーム等の入居後の利用制限の要件〉 上記の利用制限の規定については、平成25年度の税制改正により法整備されたものですが、税制改正前については、国税庁の質疑応答事例で下記の要件を満たしている場合には、特定居住用宅地等の対象になるとされていました。 平成25年度の税制改正により上記の要件は整理され法令化されましたが、(4)の要件については、終身利用権のない老人ホームを希望しても空きがないため、やむを得ず、終身利用権のある老人ホームに入居した場合には、特例を受けることができないということが問題になったため廃止となり、(2)及び(3)の要件は、事実上、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件になりました。 老人ホーム等の入居後の利用制限の考え方は、老人ホームの入居前に被相続人の居住用宅地等に該当し、かつ、仮に被相続人が老人ホームから退去し、その入居前の宅地等に戻ってきた場合に被相続人が居住できる宅地等と認められるような場合には、特例対象にするという趣旨であると考えられます。 したがって、被相続人と本来同居を前提としない者が新たに居住している場合やその宅地等を事業の用に供した場合には、被相続人の居住用宅地等として考えるのは適当ではないとして特例の対象外とされています。 以上のことを鑑みれば、建替え後の建物について、被相続人が住むことを前提としていない建物構造である場合や生計一親族以外の親族が新たに居住している場合には、特例は認められないことになると考えられます。あくまでも改正後の要件を確認することが重要ですが、その改正の要件の趣旨を考えることも重要になります。   2 本問への当てはめ 〔①の場合〕 乙家族が引き続き居住しているため、他の要件を満たせば特例の対象になります。 老人ホーム入居後は、乙は生計別親族ではありますが、入居前は生計を一にし、引き続き居住していますので、上記の老人ホーム等の入居後の利用制限の要件の括弧書きの親族に該当することになります。 なお、建替えのために「引き続き居住」をしていないため、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を満たさないのではないかとの疑問もあるかもしれませんが、居住の継続という観点から建替えは必要不可欠なものであり、一時的に居住の用に供しなくなったとしても、生活の拠点はA宅地と考えることができるため、乙が建替え後に生活の拠点をA宅地以外に移していると認められる場合を除き、「引き続き居住」をしている者に該当することになります。 したがって、相続開始の直前において生計別親族であったとしても、要件を満たし特例の適用を受けることができます。 また、建物名義については、被相続人の親族が所有していたもの(その家屋を所有していた被相続人の親族がその家屋の敷地を被相続人から無償で借り受けており、かつ、被相続人がその家屋をその親族から借り受けていた場合には、無償で借り受けていたときにおけるその家屋に限る。)も含まれます(措通69の4-7)ので、本問の場合にも被相続人の土地が使用貸借である限り、問題ありません。 〔②の場合〕 老人ホームの入居後に、事業の用に供されていた宅地等に該当し、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を充足しませんので、特例を適用することはできません。 また、2階部分は生計を別にする親族である乙の事業の用に供されていた宅地等に該当するため、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例も適用できません。 〔③の場合〕 老人ホームの入居後に、被相続人等以外の者の居住の用に供されていた宅地等に該当し、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を充足しませんので、特例を適用することはできません。 〔④の場合〕 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で、かつ、建物又は構築物の敷地の用に供されていることが要件とされています(措法69の4①)ので、相続開始時点で建築中である場合には、特例の適用を受けることができなくなってしまいます。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、相続開始時点において建築中である場合や、事業の用又は居住の用に供する前に相続が開始した場合については、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。 すなわち、居住用については、相続開始直前においてその被相続人等のその建物等に係る居住の準備行為の状況からみてその建物等を速やかにその居住の用に供することが確実であったと認められるときは、その建物等の敷地の用に供されていた宅地等は、居住用宅地等に該当するものとされています(措通69の4-5、69の4-8)。 具体的には、下記の要件を満たす必要があります。 本問の場合には、建築中の建物は乙名義であり、相続税の申告期限までに乙がA宅地を相続し、居住の用に供していますので、居住用宅地等に該当します。 したがって、他の要件を満たせば、特例の適用を受けることができます。   ★実務上のポイント★ 建替えを行う際には、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件やその趣旨、通達の内容を確認することが重要となります。   (了)

#No. 454(掲載号)
#柴田 健次
2022/01/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第13回】「年の中途に不動産を取得した者が固定資産の価格に不服がある場合に、不動産取得税の課税標準である固定資産の価格の適法性について訴えることができるか否かが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第13回】 「年の中途に不動産を取得した者が固定資産の価格に不服がある場合に、不動産取得税の課税標準である固定資産の価格の適法性について訴えることができるか否かが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の価格について不服を申し出ることができる人は 固定資産税は、毎年1月1日を賦課期日として、土地、家屋、償却資産を所有している者が固定資産課税台帳に記載された登録価格(以下「固定資産の価格」という)を基に算定した税額を固定資産の所在する市町村に納める税金である(地方税法第343条第1項、第349条第1項、第359条)。 この固定資産の価格のうち、土地や家屋については、原則的には、不動産取得税も課税標準として利用している(地方税法第73条の13第1項)。そして、納税義務者は不動産の取得者である(地方税法第73条の2第1項)。 しかし、不動産について増築、改築、損かい、地目の変換その他特別の事情がある場合で固定資産の価格により評価することが難しいときは、例外を認めている(地方税法第73条の21第1項)。 不動産取得税の課税標準である固定資産の価格に不服がある場合の、納税義務者の救済規定は不動産取得税では設けられていない。そのため、賦課処分に不服がある場合は、行政不服審査法の定めるところによる審査請求によることになる(地方税法第19条)。 固定資産の価格に不服がある場合の救済規定が設けられているのは固定資産税の方であり、固定資産評価審査委員会への審査の申出をすることができるのは、原則的には、固定資産税の納税義務者、すなわち、1月1日時点の所有者である(地方税法第343条第1項、第432条第1項)。 では、年の中途に不動産を取得した者は、固定資産の価格に不服がある場合、不動産取得税の課税標準である固定資産の価格について訴えることができるのか。 今回は、この件に関して、争われた事案について検討する。   ▷どのような事案か この事案の経緯は次のようなものである。   ▷事案の争点 争点は、不動産取得税の賦課処分に係る取消訴訟において、不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を争うことができるか否かである。   ▷地裁での原告(X)の主張 地裁において、原告(X)は以下のように主張した。   ▷地裁の判断 地裁は、次のような理由からXの請求を却下した。   ▷高裁でのXの主張 地裁判決に不服なXは控訴した。 Xは、登録価格が時価を上回るという事態が発生している場合は、登録価格そのものを適正な時価ではない旨主張して争うことができると主張した。 例として、「平成16年10月29日の最高裁判決では、評価基準によって決定された価格が、適正な時価を上回る場合には、その決定された価格に基づいてされた不動産取得税の賦課処分は違法となるとして、適正時価を上回ることを違法事由として主張して争うことができるとされた」と主張した。   ▷高裁の判断 高裁は、次のような理由からXの請求を棄却した。   ▷上告の結果 高裁の判決に不服なXは上告したが、不受理確定となった。 このように、不動産を取得した者が、固定資産税の登録価格が時価よりも高い場合においてもその価格について異議を申し出ることは否定された。時価よりも高いということをもって簡単に固定資産の価格が否定されるならば、不動産取得税の租税実務が煩雑となり、結局、国民の負担を増加させることから線引きは必要なのだろう。 では、不動産取得税の賦課処分が違法であると判断された事案はどのようなものだったのか。次回はこの事案について検討する。 (了)

#No. 454(掲載号)
#菅野 真美
2022/01/27

〔コロナ禍で気をつけたい〕固定資産管理のポイント

〔コロナ禍で気をつけたい〕 固定資産管理のポイント   公認会計士・税理士 喜多 弘美   1 はじめに 2020年から新型コロナウイルス感染症により、ビジネスのあり方が大きく変化している。特に大きく変わったのは、テレワークが多くの企業に導入されたことではないだろうか。東京のオフィス空室率は上昇し、電通やエイベックスなど本社ビルを手放す企業も一部出てきている。感染者数は一時減少したものの、変異株が発見され、再び感染者数が増加している。企業が保有する固定資産の価値を見直す良い時期ともいえるだろう。 そこで今回は、コロナ禍で気をつけたい固定資産管理のポイントをまとめた。   2 固定資産管理のポイント 固定資産は一般的に投資金額が大きく、長期的に保有するものが多いため、一度購入すると会社に与える影響が大きい。具体的には、一度購入するとメンテナンスが必要な場合が多く、盗難のリスクもあるので、コンディションの確認が必要になる。そのため、購入した時だけでなく、保有し続けるためにも資金が必要になる。購入費用やメンテナンス費用など固定資産にかかるコスト以上に、収入を得ることができるかも重要だ。また、メンテナンスがきちんとできていないと事故なども起きる可能性があり、修理代だけでなく、従業員などの安全も意識することが必要になる。 このように、固定資産を購入することで、時間や資金、また、管理する人件費も必要になる。以下では、コロナ禍における固定資産の管理のポイントを(1)現物管理、(2)資産評価の視点からまとめる。 (1) 現物管理 固定資産は大きく分けると「有形固定資産」と「無形固定資産」に分類される。「有形固定資産」は故障や破損などのリスクがあるため、現物管理が必須になる。今回は、特にコロナ禍で気をつけたい有形固定資産の現物管理のポイントを記載する。 ① 現物があるか、実地棚卸の実施 冒頭でも記載した通り、コロナ禍になってからはテレワークが普及している。そのため、コロナ禍前より従業員が出社する機会が減っており、会社にいる人も少ない。つまり、コロナ禍前に比べて盗難などが起きやすい環境になっている。 よって、現物があるかどうかの確認として、実地棚卸の重要性が高くなってくるといえるだろう。コロナ禍前は実地棚卸の担当者が現物を確認することができた有形固定資産も、テレワークが普及した今は、従業員が自宅に持ち帰っている場合も多い。そのため、場合によっては現物の写真を各自に送ってもらうなど、現物確認の代替方法を検討することも必要になる。 ② 各資産の利用状況、コンディションの確認 次に、各資産の利用状況を把握することが大切になる。後述の(2)資産評価の話にもつながるが、製造業の機械装置などはコロナ禍前と現在で稼働状況が変わっているものもあるだろう。例えば、コロナ禍前より固定資産の稼働時間が短くなっている場合は、ずっと持ち続けるよりも手離す方が保全の手間やコスト、時間を省くことができる可能性がある。この場合、会社としては今後も固定資産を持ち続けるかの判断が必要になる。 また、コロナ禍前より稼働時間が長くなっている場合は、当初の予定よりも固定資産の劣化が早く、修繕や買替えの時期を早めたり、修繕費が多くかかったりする可能性がある。この場合、会社としては修繕にかかるコスト以上に、当該固定資産を保有し続けることで収益を得ることができるかを検討する必要がある。 上記のように、経営者が固定資産を保有し続けるか、また、修繕や買替えの資金繰りの検討をしやすい資料の提供を、財務経理担当者には求められる場合がある。この場合、現場担当者・管理者が確認した固定資産のコンディション(良好、修繕が必要、買替えが必要など)、今までの修繕時期と修繕にかかったコスト、固定資産の取得日・耐用年数・取得価額・現在の帳簿価額を一覧にすると判断しやすくなるだろう。 ③ 各資産の管理者の確認 上記のとおり、実地棚卸もコンディションの確認も、固定資産の管理には人が欠かせない。責任の所在を明らかにするためにも、管理者を決めておくことが重要になる。コロナ禍前も管理者は決めていたと思うが、テレワークが続き、従業員が自宅に持ち帰っているものがあったりすると、管理者が現物を管理できない場合がある。 工場にある機械装置は、コロナ禍で稼働時間を変更するなど今までとは異なる稼働の仕方をしている場合は、機械装置のコンディションも今までと異なる可能性がある。そのため、実際に該当する資産を使用している者や該当する機械装置の仕組みなどを把握している者を管理者に再設定する必要がある。効率良く管理するためにも、適切な管理者の指定が重要になる。 (2) 資産評価(減損) 次に、収益性の観点からも固定資産管理をする必要がある。固定資産は使用することで収益獲得につながると考えられるため、今後の収益性が著しく減少した場合には、収益性が著しく減少したことを帳簿価額に反映させる必要がある。いわゆる減損である。減損は、以下のステップにより実施される。 ④の減損損失の認識判定では、②でグルーピングをした資産グループが生み出す割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回っている場合に減損損失を認識することになる。⑤では回収可能価額を算定し、帳簿価額を回収可能価額まで減少させる。④、⑤で大事なのが、将来キャッシュ・フローである。将来キャッシュ・フローは、今後、当該資産グループから得られるキャッシュ・フローのことになる。また、将来キャッシュ・フローは固定資産を購入する際の検討材料になる。 コロナ禍でビジネスモデルも変わっている場合、今まで使用していた固定資産を使わなくなり、購入時点で想定していたキャッシュ・フローを得ることができなくなったり、固定資産自体の価値が下がったりする場合がある。そのため資産評価を適切に実施する必要がある。   3 令和3年度における固定資産税の負担調整措置について 固定資産に関係する税金として、固定資産税がある。固定資産税は、固定資産を保有するために必要な経費であるため、購入時や資産を保有し続けるかの判断材料に含める必要がある。 令和3年度の税制改正では、新型コロナウイルス感染症により経済活動を取り巻く環境が大きく変化したため、納税者の負担感を軽減する目的で、令和3年度に限り、土地の課税標準額の据え置きの措置が講じられている。固定資産税評価額が上がった土地は前年度と同額の評価額に基づく課税に据え置かれ、固定資産税評価額が下がった土地は下がった評価額に基づく課税になる。 令和3年度は3年に1度の固定資産税評価額の評価替えの年度にあたるため、固定資産税評価額が上がった土地は、本来なら前年度より高い評価額に基づく課税となり、納付する固定資産税は増加するが、固定資産税が前年度よりも高くならないように措置が講じられている。 固定資産税については、令和4年度の税制改正大綱でも負担調整措置があげられているため、財務経理担当者は、引き続き注視しておく必要がある。具体的には、固定資産税の納税通知書(納税明細書)が届いたら、固定資産税評価額などを確認し、負担調整措置の対象になるか検討することで、資金繰りの面で役立てられる可能性がある。   4 まとめ コロナ禍で気をつけたい固定資産管理のポイントとして、会計・税務の視点から以上のとおりまとめた。新型コロナウイルス感染症で働き方が変わったことにより、固定資産管理についても意識することが増えたかもしれない。 事業継続のためには、社会・経済の変化に柔軟に対応することが大事だといわれるが、固定資産管理については現物管理を重視すること、財務経理担当者として固定資産の投資や保有の経営判断の材料になる資料を作成すること、また、税務署などから送られてくる通知書をただ受け取るだけでなく、会計・税務の面から会社に有利になることを考えることで、会社全体への貢献につながる。また、自身の視野を広げ、知識を深めるチャンスに変えることもできるだろう。 (了)

#No. 454(掲載号)
#喜多 弘美
2022/01/27

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2022年1月】第3四半期決算(2021年12月31日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2022年1月】 第3四半期決算(2021年12月31日)   公認会計士 阿部 光成     Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第3四半期決算(2021年12月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 2021年10月1日から12月31日までに公開した速報解説を対象としている。 第3四半期決算でも、第1四半期決算及び第2四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会計関係 記述情報の開示に関連する事項として、次のものが公表されている。 四半期報告書の作成に際しても参考になる部分があると考えられる。 ① 「記述情報の開示の好事例集2021」(サステナビリティ情報に関する開示)(金融庁。内容:「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例を取りまとめたもの) ② 「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて-「非財務情報の開示指針研究会」中間報告-」(経済産業省。内容:質の高い非財務情報の開示を実現するために求められる方向性について記載)   Ⅲ 監査関係(監査法人等) 1 令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直し 日本公認会計士協会から、「令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しを受けた監査上の対応について(お知らせ)」が公表されている。 企業のスキャナ保存制度下において作成されたスキャン文書の利用を前提とした監査計画の策定、監査手続の実施などについて記載している。 電子帳簿等保存制度の見直しは2022年1月1日からの施行であるが、本稿で紹介した。 2 監査報告書関係 日本公認会計士協会は、監査報告書に関係する事項として、次のものを公表している。 ① 「監査報告書に係るQ&A」(監査基準委員会研究報告第6号)の改正(内容:監査報告書について、「自署・押印」から「署名」へ改正することなどを記載。改正公認会計士法は2021年9月1日から施行)。 ② 「EDINETで提出する監査報告書の欄外記載について(お知らせ)」(内容:EDINETで提出する監査報告書の欄外記載について、改正公認会計士法施行後の記載例を示す) 3 監査手続関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査手続などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正(内容:「収益認識に関する会計基準」などに対応する改正) ② 監査・保証実務委員会報告第83号「四半期レビューに関する実務指針」の改正(内容:監基報580「経営者確認書」の改正に対応)   Ⅳ 監査関係(監査役等) 日本監査役協会から、次のものが公表されている。 期中における監査役等の監査業務に資するものがあると考えられる。 ① 「「監査役監査基準」等及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」等の改定」(内容:会社法の改正及び改正会社法に係る法務省令の改正、コーポレートガバナンス・コードの改訂等に対応) ② 「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について」(内容:KAM強制適用初年度となる2021年3月期決算の監査役等の監査対応を記載) ③ 「企業におけるコロナ禍の影響および監査役等の監査活動の変化について」(内容:コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を記載) (了)

#No. 454(掲載号)
#阿部 光成
2022/01/27

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第2回】「相続登記の義務化の内容と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第2回】 「相続登記の義務化の内容と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 相続登記が義務化されたと聞きましたが、具体的な内容について教えてください。 【A】 相続により不動産の所有権を取得した者は、自身のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務を負うことになった。 -《解説》- もともと相続登記は相続人の義務ではなく、相続人が必要に応じて行えばよかった。 ところが、相続登記がなされないことが所有者不明土地問題の主な原因であることが国土交通省の調査から分かってきた。平成29年度の調査では、所有者不明土地は22.2%(筆数ベース)であり、その発生原因として相続登記が未了であることが66%を占めることが判明した。 (※) 法務省資料より抜粋。 このような問題を解消するために、 政府は、国策として相続登記の促進に乗り出した。結果として、所有者不明土地の発生の予防のために相続登記の申請が義務付けされることとなった。 具体的な内容は以下のとおりである。 また、相続登記の義務化にあたり注意しておきたい点は以下のとおりである。 *  *  * (了)

#No. 454(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/01/27
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