「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例107(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆役員給与の損金不算入(法法34) 法人が役員に対して支給する給与の額のうち「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「業績連動給与」のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されない。また、上記に該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されない。 ◆定期同額給与(法法34①一、法令69①) 定期同額給与とは、次に掲げる給与をいう。 ◆経営の状況の著しい悪化に類する理由(法基通9-2-13、国税庁「役員給与に関するQ&A(平成24年4月改訂版)」) 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない。このため、例えば、次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化改定事由による改定に該当することになる。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第25回】 「被相続人以外の者が建物を所有している場合の特定居住用宅地等の特例の適否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年2月1日)は、下記の土地及び家屋を所有していました。土地建物の生前の利用状況は、下記の通り、1階部分は甲が居住の用に供し、2階部分は生計を別にする長男乙家族が居住の用に供し、3階部分は生計を別にする被相続人の兄である丙とその内縁の妻である丁が居住の用に供しています。 土地は被相続人が100%所有していますが、建物は、甲が2/10、乙が4/10、丙が3/10、丁が1/10所有しています。建物の各階ごとに玄関があり構造上区分された建物ですが、区分登記はしていません。甲は建物所有者から地代を収受しておらず、建物所有者も建物利用者から賃料は収受していません。 甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地及び建物持分を乙が取得し、引き続き居住の用に供した場合には、乙が適用できる特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 【相続発生前の利用状況】 [A] 特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用面積は、270㎡(300㎡ × 9/10)となります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲 特定居住用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」「用途」に供されていたかが重要となります。 租税特別措置法関係通達69-4-7(被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記の通り定められています(下線筆者)。 上記通達の適用の留意点は下記の通りとなります。 ① 上記(1)について 居住用宅地等に該当するものは、下記のいずれかとなります。 被相続人の所有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合に相当の対価で貸し付けを行っているときは、被相続人の貸付事業の用に供されていたものとして取り扱いますので、特定居住用宅地等の特例の対象にはなりません。 例えば、土地は被相続人が所有し、建物は生計一親族が所有している場合において、土地が使用貸借であり、被相続人がその建物で居住していた場合を考えてみましょう。この場合に被相続人が建物を所有している生計一親族から無償で借り受け、被相続人が居住の用に供している場合には、被相続人の居住の用に供されている宅地等に該当することになります。これに対して、被相続人が建物を所有している生計一親族から相当の対価で借り受けている場合には、その生計一親族の貸付事業の用に供されている宅地等に該当することになりますので、貸付事業用宅地等の特例対象に該当する可能性があっても、特定居住用宅地等の特例対象にはなりません。 したがって、建物の所有者が被相続人以外の者である場合には、土地は使用貸借であり、かつ、被相続人等が無償で建物を借り受けている場合に特定居住用宅地等の特例の対象になります。この場合の無償には、相当の対価に至らない程度の対価の授受がある場合を含みます(措通69の4-4)。民法上の使用貸借の場合には、借主は、通常の必要費を負担することになっています(民法595)ので、固定資産税その他の通常の必要費について借主が負担していたとしても、通達の「無償」に含めて考えることになります。 また、建物所有者は被相続人の親族に限られる点にも注意が必要となります。基本的な考え方として、被相続人又は生計一親族の居住の用に供されていることが要件となっていますので、被相続人又は生計一親族が建物所有者であることが求められますが、被相続人の親族から使用貸借により借り受け、被相続人等の居住の用に供している場合も想定されることから、被相続人又は生計一親族に限らず、被相続人の親族までその範囲を広げています。 親族の範囲については、【第1回】で解説しています。 以上をまとめると、被相続人が有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合には、下記の要件を満たす必要があります。 なお、上記の要件については、特定事業用宅地等の取扱いの考え方と同様となり、【第16回】で解説しています。 ② 上記(2)について 平成25年度の税制改正によって、老人ホーム等に入居した場合において一定の要件(【第20回】で解説)を満たす場合には、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、その被相続人が居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた宅地等については、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することとされています。上記(2)は、老人ホームに入居した場合の居住用宅地等の範囲を明確にしたものですが、考え方は上記(1)と同様になります。 本問の場合において、仮に相続開始前に老人ホームに入居をし、1階部分がそのまま空き家であった場合には、他の要件を満たせば、特例の適用面積は同様に270㎡(300㎡ × 9/10)となります。 通達に記載されている通り、新たに被相続人等以外の者の居住の用に供された宅地等を除くとされていますので、例えば、老人ホームに入居後に新たに1階部分について生計を別にする親族の用に供した場合には、全体の敷地について特例の適用を受けることができなくなりますので、注意が必要となります。 ③ 1棟の建物で区分登記がされていないものについて 被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④)。通達の注意書きではその留意点が記載されています。 2 本問への当てはめ 本問の場合には、1階部分は「被相続人」の居住の用に供されており、2階及び3階部分についても、区分登記がされていない建物の取扱いにより「被相続人」の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います。ただし、丁は被相続人の親族ではありませんので、1/10部分については、特例の対象にすることはできません。取得者の要件については、【第22回】で解説をしていますが、乙は一棟の建物に居住していた者に該当し、同居親族の要件を満たすことになります。 したがって、乙の適用できる特例の適用面積は、270㎡(300㎡ × 9/10)となります。 ★実務上のポイント★ 被相続人以外の者が建物を有している場合には、被相続人の親族が所有し、かつ、土地及び建物共に使用貸借にすることで特例の適用を受けることができますので、生前に持分の買取りや土地契約の見直し等を検討することが重要となります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第14回】 「不動産取得税の課税標準である「固定資産の適正な時価」が何かについて争われた判例」 税理士 菅野 真美 ▷不動産取得税の価格について不服を申し出ることができる人は 不動産取得税は、不動産を取得した者に対して、不動産の価格を課税標準として、その不動産所在の道府県が課する税金である(地方税法第73条の2、第73条の13)。この価格とは、適正な時価とされ(地方税法第73条第1号)、課税標準となる不動産の価格は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、その価格に基づく(地方税法第73条の21第1項)。 固定資産課税台帳の登録価格(以下「固定資産税評価額」という)について不服がある場合は、固定資産所在地の市町村の固定資産評価審査委員会への審査の申出をしなければならないが、この審査の申出ができるのは、その年1月1日において不動産を取得した者に限られ、年の中途において不動産を売買により購入した者は、固定資産評価審査委員会への審査の申出はできない。 不動産取得税に不服がある場合は、納税者は審査請求をすることができるが、不動産取得税の取得者が、固定資産税評価額より時価が低いとして減額を求める訴訟をしても否定される場合が多い(【第13回】参照)。不動産取得税の課税標準を固定資産税評価額としたのは、固定資産評価基準に基づいた登録価格により画一的に処理をすることにより、膨大な徴税事務コストやトラブルを低減するためと考えられる。しかし、明らかに固定資産税評価額が時価よりも高い場合でも、納税者の主張は認められないのだろうか。 今回は、大量に売れ残った傾斜地の別荘についての不動産取得税の課税標準となる不動産の価額について争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 不動産の固定資産税評価額よりも時価が低いため、時価を超える部分の不動産取得税を取り消すことができるか否かを争った事案である。 問題となった別荘地は、別荘地として開発して30年以上経過しても、総区画数の5%程度しか利用されておらず、その他の土地は山林同様の状態にある土地であったが、固定資産税評価額の算定は、修正前も修正後も通常の別荘地の評価額に基づいて調整したものであった。 時系列に並べると次のようになる。 ▷事案の争点 争点は、2つあり、1つは、不動産取得税の賦課決定について、知事に対する訴えが適法か否かである。もう1つは固定資産税評価額が適正な時価とは言えないにもかかわらず、固定資産課税台帳の登録価格に基づく賦課決定は違法であるか否かの点であるが、本稿においては後者に絞って地裁から最高裁までの流れを検討する。 ▷地裁の判断 地裁は、次のような理由からXの請求を棄却した。 ▷高裁の判断 地裁の判決に不服なXが控訴した。 高裁は、原判決を変更し、違法と認められる限度で賦課決定を取り消すという、不動産取得税の裁判では画期的な判断を下した。具体的な判決理由は次のとおりである。 ▷最高裁の判断 高裁の判決に不服な行政庁Yが上告した。 最高裁は、以下のような理由から、高裁の判決のうち敗訴部分を取り消して、その部分について東京高等裁判所に差し戻すとした。 ▷まとめ このように、本件においては、固定資産税評価額による課税標準が高裁により覆され、最高裁においては、高裁が判断した評価方法は独自の評価方法として否決されたが、急傾斜地であることによる評価減等を考慮すべきとして高裁に差し戻したから、行政庁Yが決定した固定資産税評価額を是認したものでもない。 高裁はXの主張を認めたが、国家としては独自の方法を不動産取得税の評価額として認めることは弊害が大きいので、その部分は認めない。しかし、裁判の過程で固定資産税評価額の算定方法に杜撰な部分も見受けられたことから、現行の評価基準を認めながら、個別に問題がある部分は調整せよというところを落としどころとした。 最高裁の立場を考えると判決は合格点なのだろう。 (了)
〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第1回】 「なぜ内部統制報告制度を導入しても 不正や会計上の誤りはなくならないのか」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 ◆◇ 解 説 ◇◆ 次の3つの問いかけに対し、自社としてどこまで自信を以て応ずることができるだろうか。他社の多くの失敗や躓きに隠された教訓から学びを得ることが大切である。 1 その①:「直訴」の実践的な仕組みが、使いやすく正しく機能しているか ここでいう「直訴」とは、組織上の権限と責任を持つ窓口に、違法あるいは反倫理的な行為について知り得たことを直接通報することをいう。内部統制の仕組みでいえば、内部通報制度がその典型といえる。よく似た仕組みとして、ほかにも経営者(社長)に対し、全社員が電子メールで直接に、相談や通報をできるよう工夫をしている会社もある。 実際に、通報制度によって不正や不祥事が早期に把握され、効果を上げる場面も数多く見聞きする。正しく使えば、誠実な従業員の通報によって早期に不正や不祥事の芽を摘み取ることができる。しかし他方で、せっかく経営者に直接実情を訴えられる仕組みがあっても、実際には使い勝手が良くないために、運用されずお飾りとなってしまっているケースも耳にする。 冒頭の品質検査不正事件に関し、三菱電機株式会社の杉山社長(発覚当時)は、記者会見で社員の通報による情報の迅速な収集について問われ、記者に次のように応じている。 (※) 三菱電機株式会社「鉄道車両用空調装置等の不適切検査/当社の品質風土改革に向けた取り組みに関する会見 質疑応答(報道機関)」7頁より一部引用。 制度を作っただけで安心せず、使い手の使いやすさをしっかりと考慮することが大切だ。次のことを十分加味し、制度の実践をしなければ、効果が半減してしまうことに注意すべきである。 (1) 制度利用の目的を周知して心理的な壁を取り除く 通報すると会社の利益が損なわれ、上司にも迷惑が及ぶと考え、通報をためらう従業員がいる。これではせっかくの制度の趣旨を活かすことはできない。通報制度の趣旨を十分に社内に周知することが肝要である。それに加え、通報には匿名を認め、制度を使う社員の心理的な抵抗感を取り除く工夫も求められる。 (2) 通報の秘匿性を確保する メールによる通報時は、システム上で発信者の特定ができないようにして通報者の秘匿性を確保し、使いやすさを考慮することも大切である。 (3) 通報者の利益を必ず守る約束をする 顕名による通報の場合、会社が通報者に対し不利益を与えないことを約する必要がある。せっかくの制度も社員からの信頼がなければ、いきなり外部のマスコミや監査法人に通報され、会社のリスク管理責任が問われかねない。通報内容が会社の方針等に反することを理由に不利益を与えれば、通報する者はなくなり、制度は形骸化するばかりとなる。 (4) 通報に基づき改善結果をフィードバックする 正しい通報の結果、改善を施した場合はその成果を社内全体に、あるいは通報者(顕名の場合のみ)に必ずフィードバックして制度自体の信頼性を高める努力をすべきである。 (5) 制度の悪用者を厳しく処罰する 他方、偽りの通報で他者を陥れようと企む者は、厳しく処罰する必要がある。内部通報制度は、ナチスや旧社会主義の東欧諸国が用いた密告とは性格を全く異にする。通報制度では、通報内容の真実性が求められ、他者を悪意により陥れる手段では決してない。 (6) リニエンシー制度を併用する リニエンシー制度を用い、複数による不正にも効果的に対応することができる。自らが関わった(複数人による)不正を自主的に通報した者には、懲戒処分などの社内処分の減免をする仕組みをリニエンシー制度といい、これを通報制度と併設して使うことも望ましいと考えられる。 2 その②:教育こそ内部統制報告制度運用のための礎と考えているか 内部統制に関する社員教育を継続することは、口にするのは簡単だが実際に行うとなると難しい。なぜなら教育に対する投資は、一定のコストを要する反面、数値など客観的な物差しによって成果が計りにくいからである。とはいえ、経営者はじめ従業員の意識や日頃の行動に強い影響をもたらし、不正や不祥事を許さない企業風土を培うために、やはり教育の継続を欠かすことができない。 現状を追認するコトナカレ主義、不正や不祥事を見て見ぬふりをする意識や行動様式は、長年にわたり繰り返される因習や行動パターンによって形成されてゆくものである。こうした組織の垢を新陳代謝によって取り払うには、根気強い教育研修に頼らざるを得ない。実際に会社が取り組む次の事例を参考に挙げることができる。 (1) 経営層が自分の言葉でコンプライアンスの大切さを伝える コンプライアンスに関する社内研修は、経営層が直接従業員に訴える場とする。年度初め、期中、期末、予算・決算の発表、節目に応じて定期的に経営層が従業員に向けてコンプライアンスに関するメッセージを送る機会を確保する。メッセージは、経営層自らの言葉で、分かりやすく伝える。間違ってもマスコミや報道が伝える、ありきたりな標語を使うことは避けるべきである。 (2) 感染症の流行を制度定着のチャンスと考える コスト、時間、機会のどれを考慮しても、コロナ禍の今こそ、教育研修に取り組む絶好のチャンスとなり得る。感染症の流行に端を発したテレワークが浸透するにつれて、オンラインによる教育研修を充実させる会社が増えている。物理的な身体の移動はなく、海外や地方などいかに遠方でも旅費等のコストを要せず、研修室や会議室のイスの数に制約されずに多くの参加者が一度に研修を行うことができる。 (3) 研修内容は自社や他社の失敗事例を大いに活用する 研修の内容は、マスコミで報道された他社の事例はもちろんのこと、自社の監査で指摘された案件、場合によっては社内の社内調査委員会や第三者委員会で公知となった不正や不適切事例でも研修材料として用いることが非常に有効である。 3 その③:常に第三者の眼に晒される機会を作っているか 昨今、会社の不正や不適切な会計処理を巡り、調査のために第三者委員会を設ける件数が増大している。モノ言う株主が増加し、ますます企業経営に対する説明責任が厳しく問われている証拠でもある。内部統制上で不備や問題があれば、改善に加え社会に対する説明責任が厳しく求められる。そのため、企業活動を第三者の眼に晒す努力をすれば、広く公平性や客観性、信頼性を得ることができるのも確かである。 例えば、前述の通報制度も、通報窓口を社内に設置し、社外の弁護士事務所にその運用を委託することで、通報する者が持つ心理的なプレッシャーを和らげる効果が得られ、かつ制度の客観性や信頼性も確保できる。 品質管理問題の場合でいえば、品質に関する外部専門家による検証や検査を定期的に実施し、社内ルールが遵守されていることを客観的に検証することが重要となる。ただし検証や検査は各グループ会社単位では行わず、必ず本社主導でグループの壁を越えて徹底的に実施することが、ものづくりのプライドを守る意識の醸成に繋がるはずである。 * * * 前述した三菱電機株式会社の社長が引責辞任にあたり、報道機関に次のように応じた。あらためて、内部統制が取り組むべき問題の根深さを実感する。 (※) 前掲「質疑応答」13頁より一部引用。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第6回】 「在宅勤務導入に当たっての留意点②(賃金管理)」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 今回は、在宅勤務(テレワーク)における賃金(基本給、通勤手当等の手当)の取扱いについて解説します。 * * 解 説 * * 1 在宅勤務における賃金 通常、在宅勤務における賃金は、基本給は在宅勤務者も変更せず、通勤手当は、月給者の場合、在宅勤務の頻度によって、通勤定期代相当額(定額)か実費で支給するかを決めることになります。 (1) 基本給及び諸手当 在宅勤務においても、基本給及び諸手当(通勤手当については(2)を参照)の減額は、不利益変更になるためできません。 ただし、在宅勤務により、通常の勤務より労働時間が短くなるような場合に、その時間に応じて、基本給を変更することは可能です。 (2) 通勤手当 在宅勤務を月単位で実施し、1日も事務所に出勤しない場合は、就業規則を変更することで定額支給をしなくても問題ありません(〈就業規則規定例〉参照)。 週単位等の場合は、事務所に出勤する日もあることから、その往復に要する費用を実費で支払うことで合理性が満たせると考えられます。ただし、その出勤日の勤務地が自宅であるか事務所であるかにより、社会保険料等を算定する場合の賃金に該当するか否かが変わってきます(後述の「3 社会保険料等の算定基礎に係る在宅勤務(テレワーク)における交通費の取扱い」参照)。 また、在宅勤務の導入に伴い、支給されていた通勤手当が支払われなくなる、支給方法が月額から日額単位に変更される等の固定的賃金に関する変動があった場合には、標準報酬月額の随時改定の対象となる場合がありますので、健康保険と厚生年金保険に加入している事務所は注意が必要です。 〈就業規則規定例〉 2 費用の負担及び情報通信機器・ソフトウェア等の貸与 在宅勤務に係る通信費やパソコン等の費用については、事務所負担ではなく、在宅勤務者が負担することも考えられます。労使のどちらが負担するのかをあらかじめ協議して、就業規則で定めます。 〈就業規則規定例〉 3 社会保険料等の算定基礎に係る在宅勤務(テレワーク)における交通費の取扱い 在宅勤務(テレワーク)を導入した際の交通費を社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるべきか否かについては、厚生労働省年金局の「業務連絡(令和3年4月1日付)」の17ページに以下のように示されています。 〈厚生労働省年金局「業務連絡(令和3年4月1日付)」より抜粋〉 4 結びに 在宅勤務の留意点として、2回にわたり、労働時間管理と賃金管理について、就業規則の規定例を示しながら説明しましたが、労使双方が共通の認識の下、労働関係法令を踏まえ労働条件を協議する必要があります。 コロナ禍への対応のみならず、働き方改革により多様な働き方が求められています。在宅勤務等導入に当たっては、その費用の一部を助成する事業(厚生労働省の助成金等)もありますので、検討してみてはいかがでしょうか。 (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第3回】 「法定相続分に基づく相続登記の後に遺産分割協議が成立した場合の注意点」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 法定相続分に基づく相続登記の後に遺産分割協議が成立しました。この場合に気を付けることを教えてください。 【A】 遺産分割協議の結果、法定相続分を超えて所有権を取得した者は、その遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない。 -《解説》- 本来は、死亡 ➡ 相続人による遺産分割協議 ➡ 遺産分割に基づく相続登記 をすべきだが、相続人間のもめごと等により遺産分割協議がすぐに成立しないこともある。このような場合、相続人全員の関与がなくてもできる法定相続分の相続登記を申請することがある。 法定相続分の相続登記の申請をした場合でも相続登記の申請義務が履行されたことになる。 このような法定相続分による登記がされた後に、さらに遺産の分割があったときは、その遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、その遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない(不動産登記法76条の2第2項、同法164条1項)。 相続実務に関わる税理士としては、上記の追加的義務である遺産分割に関する登記申請義務を依頼者に伝え、司法書士事務所へ取りつなぐことがこれまで以上に求められる。 追加的義務の具体的な内容は以下のとおりである。 例えば、Aが死亡し、その相続人が妻・長男・次男である場合、Aの死亡後に妻1/2、長男1/4、次男1/4の割合で法定相続分の相続登記がなされたとしよう。その後、妻・長男・次男の間で不動産を長男が単独で相続する旨の遺産分割協議が成立した。この場合、長男は遺産分割協議が成立した日から3年以内に、自身を所有権の登記名義人とするための登記を申請する必要がある。この申請は更正の登記(登記事項を訂正する登記のこと)によることができ、長男が単独ですることが可能である。 〈改正前後でどう変わるか〉 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例68】 グレイステクノロジー株式会社 「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」 (2022.1.27) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、グレイステクノロジー株式会社(以下「グレイステクノロジー」という)が2022年1月27日に開示した「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」である。 同社は、2021年11月9日に「特別調査委員会の設置及び2022年3月期第2四半期決算発表の延期に関するお知らせ」を開示し、「会計処理の適切性につき外部からの指摘を受け、事実経緯の確認のために社内調査、検討を進めた結果、一部の取引について、2017年3月期から2022年3月期第1四半期までの期間において、会計処理の適切性に疑念があることを認識」したため、特別調査委員会を設置するとしていた。その調査報告書を受領したのである。 なお、同社は、今回の開示と同時に「2022年3月期第2四半期報告書の提出見込みについてのお知らせ」と「2022年3月期第2四半期報告書の提出未了及び当社株式の上場廃止の見込みに関するお知らせ」を開示し、2022年2月28日に上場廃止となる予定であるとしている。 2022年3月期第2四半期報告書の提出期限を2021年11月15日から2022年1月17日に延長することが認められていたのだが(2021年11月15日開示「2022年3月期第2四半期報告書の提出期限延長申請に係る承認のお知らせ」)、2022年1月17日までに提出することができず(2022年1月14日開示「特別調査委員会による調査の継続、2022年3月期第2四半期報告書の提出遅延及び当社株式の監理銘柄(確認中)指定の見込みに関するお知らせ」)、それから休業日を除いた8日目の日にあたる2022年1月27日になっても提出できなかったからである(東京証券取引所・有価証券上場規程第601条第1項第10号、同・有価証券上場規程施行規則第601条第10項第1号)。 2 売上の前倒しから架空売上へ 調査の結果、2016年3月期以降、不正会計が行われていたことが判明したのだが、その手口は、循環取引や連結子会社外しといった手の込んだものではなく、単純な売上の前倒し計上や架空売上の計上だった。始まりは売上の前倒し計上だった。グレイステクノロジーにおいては、無理のある売上目標が設定され、それを達成するために行われるようになったのである しかし、次第にこの売上の前倒し計上だけでは売上目標を達成することが困難になったため、今度は架空売上の計上が行われるようになった。 3 自己資金による売掛金の回収偽装 不正会計の手口は単純なものであったが、その後始末、すなわち監査法人を欺くための方策は手の込んだものであった。 架空売上を計上する場合、架空の売掛金も併せて計上することになるが、それをそのまま放置しておくと、長期間回収されない売掛金ということで、貸倒引当金の計上や貸倒れの処理が必要になってしまう。それを避けるために売掛金の回収偽装が行われるようになるのだが、グレイステクノロジーにおいては、同社の役職員がストックオプションの行使により得た同社株式の売却益が原資とされた。なお、その株式の売却益は、架空売上により株価が上がったため、得られたものである(不正会計で市場を欺き、それにより得られた利益でさらに不正会計を)。 文中の「A氏」とは、同社の創業者であり、代表取締役会長だった松村幸治氏(以下「松村氏」という)だが、記載のとおり、2021年4月13日に他界している(2021年4月14日開示「代表取締役会長の逝去および異動に関するお知らせ」)。 同社の架空の売掛金への対処方法は、回収を偽装するだけにとどまらなかった。どこから入金するのかについても注意を払っていた。監査法人に怪しまれないように、わざわざ顧客の本店のある地域まで行き、そこにある銀行から入金していたのである。 4 様々な偽造 架空売上の計上の後始末としては、文書等の偽造も行われる。グレイステクノロジーにおいても、監査法人から架空の売掛金の相手先へと送付された残高確認状を、「弊社の監査法人からの連絡で、今年の残高確認(売掛金書類)を間違えて発送してしまったことが判明致しました。大変恐縮なのですが、封を開けないまま、私に戻して頂けますと非常にありがたく存じます。」などと言って引き取り、回答を記入した上で、偽造した社印を押印して、監査法人に送付するといったことが行われていた。 そうした文書偽造は、これまでの架空売上の計上の事例でも見られたのだが、同社では、さらに顧客担当者のメールも偽造されていた。 また、次のような方法によるメールの偽造も行われていた。 監査法人は、同社の取引に対して強い疑念を抱いていたようである。調査報告書の記載からも、慎重な監査手続が行われていたことがうかがえる。しかし、グレイステクノロジーのあの手この手の嘘により、残念ながら欺かれてしまった。その無念は察するに余りある。 5 なぜここまで? グレイステクノロジーは、なぜここまでしたのだろうか(その知恵とエネルギーを正しい方向に用いればよかったのにと思えてくるのだが)。根本原因は松村氏にある。 社外取締役や社外監査役に公認会計士や弁護士が入っていれば(少なくともまともな専門家の方が入っていれば)、牽制できたのかもしれないが、当然、こうした松村氏がそうした専門家を役員に入れるはずがなく、自分の言うことを聞く者だけを役員に据えていた。 松村氏は、会社の成長のために同社を上場させたはずだが、上場後は投資家からの評価を得ることに囚われるようになってしまったようである。松村氏は会議の場で以下のような発言をしていた。 本来、きちんと事業を行い、会社が成長し、その結果として投資家から評価されることになるはずだが、同社の場合、投資家から評価されることだけが目的となり、成長を偽っていた。松村氏の急死の原因には、ストレスもあるのかもしれない。まったく同情はできないが、哀れではある。 松村氏は、決して特異な経営者ではない。むしろ、上場後、本来の目的を忘れ、数字に取り憑かれて、というのは、よくあるパターンかもしれない。同様な経営者は他に存在しているかもしれないし、今後も現れるはずである。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「監査人のためのIT教育カリキュラム」の改正を公表 ~IT環境における監査の実施能力の修得やCPE、実務補習においての利用を想定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年2月17日付けで(ホームページ掲載日は2022年2月21日)、日本公認会計士協会は、「IT委員会研究報告第27号「監査人のためのIT教育カリキュラム」の改正」を公表した。 これは、IT委員会研究報告第57号「ITの利用の理解並びにITの利用から生じるリスクの識別及び対応に関する監査人の手続に係るQ&A」を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 目的 監査人が活躍できる業務分野において、ITの役割を無視することはできない。 監査人は、ITと情報システムの利用についての能力を保持する必要があり、その能力についての内容を明確にしておく必要がある。 研究報告は、監査事務所が、IT環境において監査を実施する公認会計士の育成を図る上で参考となるIT教育カリキュラムの例を記載している。 研究報告は、次のような利用を想定している。 2 構成 監査人に必要なITに関する一般的知識と技能について、カリキュラムⅠとカリキュラムⅡの2段階に分けて記述している。 3 カリキュラムⅠ カリキュラムⅠは、次の5つの分野(大分類)から構成されている。 各分野について詳細に説明されている。 4 カリキュラムⅡ カリキュラムⅡは、次の4つの分野(大分類)から構成されている。 各分野について詳細に説明されている。 (了)
2022年2月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.457を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第100回】 「第1の柱の利益Aに係る 「ネクサスとソースルールに関するモデルルール案」の公表」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 OECD/G20包摂的枠組みは、2月4日、第1の柱の利益Aに係る「ネクサスとソースルールに関するモデルルール案」を公表した。今回のモデルルール案に対するコメントの募集締切りは2月18日前となっている。 第1の柱に関しては、昨年12月に公表された第2の柱のモデルルール(前回参照)のように、最終版が決定されたわけではなく、制度のパーツごとにモデルルール案が策定されコンサルテーションに順次付されていく途上にある。今回のモデルルール案に続き、課税ベース、二重課税除去、セグメンテーションなどに関するモデルルール案の提示も順次行われる見込みである。 〇ネクサス 「ネクサス」とは法域としての課税権の有無、すなわち利益の配分を受けることができるかどうかを判定する基準である。従来の国際課税の原則では恒久的施設(PE)の存在の有無が決め手となっていたのであるが、第1の柱は、恒久的施設がなくとも売上の生じている市場国に利益を配分するという新しい考え方に基づくものであることから新しい基準が必要となったのである。 ネクサスに関しては、対象となる多国籍企業グループの一定期間の売上高が100万ユーロ(GDPが400億ユーロ未満の法域においては25万ユーロ)以上の法域に利益Aの配分が行われる。一定期間が12ヶ月に満たない場合や12ヶ月を超える場合には、それに比例して売上高の基準を調整することとされている。 〇ソースルール ソースルールとは、上記のネクサスの有無を判定するとともに、どの法域にどれだけの利益を配分するのかを割り出すため、売上の源泉地(ソース)を特定するためのルールである。 ソースルールは、実務上の関心が非常に高い事項であり、今回のルール案でも、別紙(Schedule A)にて詳細な設計が提示されている。 (1) 取引類型 それぞれの取引ごとに(transaction-by-transaction basis)、その主たる取引の実質的な性格に応じて次の7種類の取引類型に分け、それぞれに応じた配分方法(Reliable Method)が提示されている。なお、付随的取引は主たる取引の分類に準じることとされている。 (2) 配分方法 配分方法は、「信頼できる指標(Reliable Indicator)」によって決定されることが原則である。 例えば完成品の販売(直販)であれば最終消費者への配送宛先あるいは最終消費者への販売を行う店頭の場所が「信頼できる指標」となる。 完成品の販売であっても、独立販社を経由した販売の場合には、「信頼できる指標」は、原則として、直販の場合と同じく、最終消費者への配送宛先となるが、独立販社が多国籍企業グループとの間の契約により、独立販社の所在する法域でのみ販売することが認められている場合や、独立販社が完成品の最終消費者への配送宛先の法域に所在すると推定することが合理的な場合には、独立販社の所在地をもって「信頼できる指標」とすることができる。 また、部品の販売の場合には、原則として、部品が組み込まれた完成品の配送宛先が「信頼できる指標」となる。 ただし、上記の部品の販売のように完成品のメーカーに問い合わせなければ完成品の配送宛先は判明できないが、そのような情報を確実に得られるかどうかはわからない。そこで、多国籍企業グループが「信頼できる指標」を見いだすのに合理的な手段(Reasonable Steps)を講じたにもかかわらず、「信頼できる指標」により源泉地の特定が困難であると結論付けられる場合には、最終消費支出額や従業員数等などのマクロ指標に基づいた配分キー(Allocation Key)を用いることが許容され、さらに適切な配分キーが見いだせない場合には、国連貿易開発会議が公表している最終消費支出額やGDP比によって按分するグローバル配分キー(Global Allocation Key)という最終手段も用意されている。 (了)