公開日: 2022/04/14 (掲載号:No.465)
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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第13回】「「登録事業者となるような慫慂等」とは」

筆者: 石川 幸恵

〔疑問点を紐解く〕

インボイス制度

【第13回】

「「登録事業者となるような慫慂等」とは」

 

税理士 石川 幸恵

 

【Q】

令和4年1月に財務省等から連名で公表された「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が、3月に改正されたそうですが、そのポイントと対応策を教えてください。

〔ポイント〕

(1) 取引先である免税事業者に対して課税事業者になるよう要請すること自体は、独占禁止法上、問題にはなりません。

(2) 「課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げる」「それにも応じなければ取引を打ち切る」などと一方的に通告することは、独占禁止法上、問題となる恐れがあります。

(3) 要請に従って課税事業者になる事業者に対して、明示的な協議なしに価格を据え置くことも、独占禁止法上、問題となる恐れがあります。

(4) インボイス制度導入に際して新たに課税事業者となる仕入先との価格の再交渉にあたっては、仕入先の税負担・事務負担を考慮する必要があります。

*  *  *

【A】

(1) 「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」の改正

令和4年1月19日に財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の連名で公表された「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」では、免税事業者本人の取引への影響や、自身は課税事業者であるが仕入先が免税事業者である場合の対応に関する考え方について、Q&Aが全7問示され、1月24日には(参考)として下請法等の考え方の2事例、建設業法上の考え方の1事例が提示されています(詳細は下記拙稿を参照ください)。

さらに3月8日付けで、本Q&Aの公表後に事業者から寄せられている質問等に基づき、免税事業者やその取引先の対応に関する考え方が追加されました。具体的には、Q&AのQ7において、免税事業者やその取引先の対応に関する考え方として「登録事業者となるような慫慂等」の追加等が行われました。

 

(2) 「登録事業者となるような慫慂等」とは

Q7では、以下の質問がなされています。

Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。

改正前のQ7では、上記に対する回答として、次の5つの行為類型ごとに、優越的地位の濫用として問題となる恐れがあるかについて、その考え方が示されていました。

1 取引対価の引下げ

2 商品・役務の成果物の受領拒否、返品

3 協賛金等の負担の要請等

4 購入・利用強制

5 取引の停止

今回の改正により、ここに「6 登録事業者となるような慫慂等」が追加されました。

ここで「慫慂(しょうよう)」とは、『新明解国語辞典(第8版)』(2020年、三省堂)によると「そうする方が君のためだと言って、勧めること」とされています。

「6 登録事業者となるような慫慂等」では、次の考え方が示されています。

6 登録事業者となるような慫慂等

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。

したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。

 

(3) 独占禁止法上又は下請法上、問題となるかどうかの整理

「6 登録事業者となるような慫慂等」で示された考えをまとめると、次のようになります。

行為の内容 問題になるかどうか? 取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請する。 問題なし 課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるか、取引を打ち切ると一方的に通告する。 問題になる恐れあり インボイス制度導入にあたり、免税事業者と取引価格の再交渉をして、双方納得の上で、単価11万円だったものを単価10.5万円に引き下げる。 問題なし 要請に従わずに免税事業者に留まる事業者に対し、一方的に、あるいは形式的な再交渉をしたのみで、単価11万円だったものを単価10万円に引き下げる。 問題になる恐れあり 免税事業者に対し、値下げに応じないことを理由に、取引を停止する。 問題になる恐れあり 要請に応じて課税事業者となる事業者に対し、明示的に協議することなく、取引価格を据え置く。 問題になる恐れあり

(注) 表内の金額は例示であり、許容範囲を示すものではありません。

 

(4) 免税事業者が課税事業者になることによる負担増概算

免税事業者が課税事業者となり、簡易課税を選択した場合、売上高に対する消費税の納付税額の割合は、概ね次のようになります。

事業区分 内 容 売上に対する納付税額の割合 年間の課税売上高が800万円である場合の消費税の納付税額概算 第1種 卸売業 約0.9% 約 7 万円 第2種 小売業 約1.8% 約15万円 第3種 製造業等 約2.7% 約22万円 第4種 加工等 約3.6% 約29万円 第5種 サービス業 約4.5% 約36万円 第6種 不動産賃貸等 約5.5% 約44万円

(※) 課税売上高:全て標準税率の場合。

 

(5) 新たに課税事業者となる仕入先との価格の再交渉にあたっての留意点

インボイス制度導入に際して新たに課税事業者となる仕入先との価格の再交渉にあたっては、少なくとも(4)で示した税負担の増加により所得が減少すること、そのほかにも申告や納税の事務負担が新たに生ずることも配慮する必要があると思われます。

(了)

「〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A」は、毎月第2週に掲載されます。

〔疑問点を紐解く〕

インボイス制度

【第13回】

「「登録事業者となるような慫慂等」とは」

 

税理士 石川 幸恵

 

【Q】

令和4年1月に財務省等から連名で公表された「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が、3月に改正されたそうですが、そのポイントと対応策を教えてください。

連載目次

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A

筆者紹介

石川 幸恵

(いしかわ・ゆきえ)

税理士・第一種情報処理技術者
アスエミヲ 石川幸恵税理士事務所(https://as-emiwo.com

名古屋大学大学院 生命農学研究科 博士前期課程修了。
金融系のIT企業に就職後、お金の流れや儲けの仕組みに興味を持ち、税理士業界へ転職。

平成29年 税理士登録・開業。

法人税はもちろん、個人事業者から法人までの消費税を専門的にサポートし、越境EC、非居住者へのサービスなど海外取引に関わる消費税についても相談を受ける。

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