収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第66回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 オ 立案担当者の見解等 立案担当者は、収益の計上単位(認識単位)に関する論点をどのように考えていたのであろうか。そもそも、この論点に係る実定法上の根拠を、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算を要請する法人税法22条4項に求めるのか、これを肯定して収益認識会計基準の影響があると考えるのか、あるいは法人税法22条の2など他の実定法上の根拠を想定するのかという点にも関心が向けられる。 立案担当者は、どのような会計原則・会計基準・会計慣行のどの取扱いに基づく会計処理が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当するかという点については、様々な判例で断片的に述べられている状況であるが、その状況を考慮すれば、収益認識会計基準に基づく会計処理も、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当し得るという考えの下、次のとおり、収益の認識単位については法人税法22条4項を通じて、同基準の影響があるという見解を示している(『平成30年度 税制改正の解説』280頁)。 収益認識会計基準の内容が一律に法人税法22条4項の公正妥当な会計処理の基準に該当するのかという点は、議論の余地がある。このことは、法人税法がわざわざ22条の2を創設し、とりわけ第4項や第5項に収益認識会計基準と異なる規律を明記したことを起点として論じることもできよう。 しかしながら、国税庁としては(対外的には個人的見解としているものの)財務省主税局の担当者が執筆した『平成30年度 税制改正の解説』の見解に従わざるを得ないであろう。よって、法人税法22条4項を足掛かりとして、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方が法人税法に流入してくることを前提として通達を整備したものと解してよい。 なお、かように、法人税法22条4項を足掛かりとして、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方が法人税法に流入してくると解することについては、議論がないわけではない。 例えば、法人税法22条4項は2項と3項の「収益の額」等の「計算」の定めであって「収益の認識の単位」の定めではないとう見解も示されている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(4)」T&A master753号21頁参照)。 上記とは別に、収益の計上単位については、結局、収益の計上時期や計上額に関係するものであり、そうであれば、法人税法22条の2の規律対象として、同条の解釈論に委ねられるのであり、22条4項の出番はないという見解が考えられる。 収益の計上単位に関するルールについて、法人税法は法令上において明文の規定を設けておらず、本通達が定める原則的取扱いや例外的取扱いの内容及び原則・例外の各位置付け等が法人税法上確かな根拠に裏付けられるものであるかも含めて、今後、個別の事案において、収益の計上単位の問題が争点化する可能性がある。 収益計上の単位を収益の計上時期や計上額の問題と捉えることができる場面があるとするならば、そこでは、法人税法22条の2という22条4項の別段の定めが存在することになるから、同項を根拠規定ないし収益認識会計基準との橋渡し規定とする法人税基本通達の考え方が通らない可能性も出てくる。 収益の計上時期の基準として、法人税法に明定された引渡・役務提供基準を採用しつつ、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方を通達で取り込むことに、何らかの不具合が生じないか、注視しておく必要がある。 カ 契約単位・履行義務単位と申告調整 会計上、履行義務単位で収益を計上していた法人が、法人税の課税所得計算上、申告調整により、契約単位で収益を計上することが認められるか、あるいはその逆のパターンは認められるかという問題がある。 仮に、法人税法22条の2が定める収益の計上時期・計上額と収益の計上単位は、次元の異なるものであること及び収益の計上単位の問題は22条4項により規律されていることという前提を支持するならば、22条4項を軸に個別の事情に応じて解決されるべき問題であると解される。ただし、かかる前提をとること自体の是非については議論の余地がある。 この点に関して、次のような見解が示されている(秋元秀仁「3月決算法人向け『大規模法人の法人税申告の留意点』」週刊税務通信3556号14頁)。 法的根拠の議論は残るとしても、上記は、課税実務上、国税当局において採用することが予想される見解であろう。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第17回】 「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与と顧客により行使されない権利(非行使部分)」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与」と「顧客により行使されない権利(非行使部分)」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与 1 重要な権利を顧客に提供するオプションの付与 顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、当該オプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、当該オプションから履行義務が生じる(収益認識適用指針48項)。 重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合をいう(収益認識適用指針48項)。 追加の財又はサービスを無料又は値引価格で取得するオプションには、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、ポイント、契約更新オプション、将来の財又はサービスに対するその他の値引き等が含まれる(収益認識適用指針139項)。 上記のオプションが顧客に重要な権利を提供するときには、顧客は実質的に将来の財又はサービスに対して企業に前払いを行っていることから、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識することになる(収益認識適用指針48項、140項)。 2 重要な権利を顧客に提供しないオプションの付与 顧客が追加の財又はサービスを取得するオプションが、当該財又はサービスの独立販売価格を反映する価格で取得するものである場合には、顧客に重要な権利を提供するものではないとされている(収益認識適用指針49項)。 この場合には、既存の契約の取引価格を追加の財又はサービスに対するオプションに配分せず、顧客が当該オプションを行使した時に、当該追加の財又はサービスについて、収益認識会計基準に従って収益を認識することになる(収益認識適用指針49項)。 3 履行義務への取引価格の配分 履行義務への取引価格の配分は、独立販売価格の比率で行うとされている(収益認識会計基準66項)。 追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得られるであろう値引きについて、次の(1)及び(2)の要素を反映して、当該オプションの独立販売価格を見積もる(収益認識適用指針50項)。 4 履行義務への取引価格の配分 契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、当該財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合は、収益認識適用指針50項の定めに基づいたオプションの独立販売価格を見積もらず、提供されると見込まれる財又はサービスの予想される対価に基づき、取引価格を当該提供されると見込まれる財又はサービスに配分することができる(収益認識適用指針51項)。 Ⅲ 顧客により行使されない権利(非行使部分) 1 契約負債 収益認識会計基準78項は、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上すると規定している。 このため、将来において財又はサービスを移転する(あるいは移転するための準備を行う)履行義務については、顧客から支払を受けた時に、支払を受けた金額で契約負債を認識することになる(収益認識適用指針52項)。 そして、財又はサービスを移転し、履行義務を充足した時に、当該契約負債の消滅を認識し、収益を認識する(収益認識適用指針52項)。 2 非行使部分 顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、将来において企業から財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与され、企業は当該財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負うが、顧客は当該権利のすべては行使しない場合がある。この顧客により行使されない権利を「非行使部分」という(収益認識適用指針53項)。 契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込む場合には、当該非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する(収益認識適用指針54項)。 契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込まない場合には、当該非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識する(収益認識適用指針54項)。 次のことに注意する。 (了)
社長のためのメンタルヘルス 【第7回】 「社長にも相談相手が必要」 特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊 1 今回の趣旨 本連載においては先月の第6回まで、厚生労働省や医学会の資料を用いて、客観的・総論的な解説を行った。今後の連載では、メンタル不調の予防や解決のための具体策や事例を挙げ、日常生活に資する内容とする方針である。今回の前半は、社長にも多くの相談相手が必要であることに言及し、後半は外部の相談窓口の紹介に充てる。 一般に、経営者は社内外において事業の責任を負う以上、体調不良等があっても、自身あるいは会社の評判にもかかわるため、そう簡単に「弱みを見せられない」立場にある。これは、個人事業主も同様である。 筆者が企業カウンセリングを行っていても、社長自らが相談者として参加することは珍しくない。社会保険労務士の業務でお会いしても、社長から個人的な悩みの相談をよく受ける。士業には法定の守秘義務、また、通常、カウンセラーにも契約上の守秘義務があるため、社長にとって相談しやすい相手といえるためだろう。 相談相手の存在が重要であることについては、過去の連載でも触れており、ここでは再確認のため改めて解説する。本稿における「相談」とは、企業経営や人生相談のような重要で深刻なものばかりでなく、愚痴や世間話のようなものも含めたコミュニケーション全般という広い意味合いを持たせる。雑談も気分転換には大切であり、メンタル不調予防の第一歩である。 2 相談の重要性 ストレスチェック制度で使う「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」に4つある、大項目ABCDのうち、Cグループには「あなたの周りの方々」についての質問が並ぶ。社内では同僚、私生活では家族、友人などを指す。質問内容は、「気軽に話せるか」、「頼りになるか」、「相談に乗ってくれるか」といったもので、つまり、相談相手の有無に関する内容であり、これが57項目中の9項目を占めることに留意願いたい。 次は相談の内容について、本連載でも度々登場している以下「NIOSHの職業性ストレスモデル」をもとに見ていきたい。 (出典) 東京都労働相談情報センター「NIOSHの職業性ストレスモデル」 図の左側の「職場のストレス要因」(原因)が、右側のストレス反応(急性又は疾病)に及ぼす影響を、強めたり弱めたりする外部的な要因(個人的要因、仕事以外の要因、緩衝要因)が、3点示されている。上記の相談相手は、図の右下にある「緩衝要因」(社会的支援)である。労使に限らず、どのような相談内容があり得るかというと、もちろんストレス内容(仕事の厳しさや職場の人間関係など)が第一であるが、図上部の「個人的要因」(体の病気や、金銭問題など)、あるいは図の左下にある「仕事以外の要因」(主に家庭事情)と多様である。 予防の段階及び優先度も第4回で解説したように、まず未然防止(一次予防)、次に早期発見・早期対処(二次予防)、再発防止(三次予防)の順であり、これらはストレス要因の対処にとどまらず、他の変動要因についても同様である。メンタル不調になってから、相談相手を探し回ったり、良い人間関係を構築しようと努力することは対処としては遅く、容易ではない。そのため、心身共に元気なときに、日常的にセイフティネットを張っていただきたい。 3 医療へのアクセスについて ここでは医学薬学の専門的事項の詳細には触れないが、2点お伝えしたいことがある。1つは労災の認知基準にもあった国連WHO(世界保健機構)が定める診断のガイドライン「ICD」より、職場に多い精神疾患と言われている「うつ病エピソード」の診断基準の概要から抜粋するので、自身のみならず周囲への気配りにご活用願いたい。本連載の第1回でも触れたとおり、周囲のほうが気付きやすい変調(身だしなみ、表情、誤字脱字の多発など)や対応策もあり、相談の重要性はここにもある。 ICDによれば、うつ病の3つの大きな特徴的症状として、(1)「抑うつ気分」(上掲の調査票では、ゆううつ、面倒など)、(2)「興味と喜びの喪失」(悲しい、気分が晴れない)、(3)「活動性の減退による易疲労感の増大」(ひどい疲れ、だるさ)を挙げている。いずれも、うつ病が広く世に知られてきたため聞き馴染みのある不調かと思うが、これを疾病であると診断する条件として、「重症度の如何にかかわらず、ふつう2週間の持続」が挙げられている。 「重要度の如何」とは、メンタル不調の場合、健康診断のように健康・不調の度合を数値で表すことができない以上、不調の軽重は問わない。原則、軽くても2週間も継続すると通院・服薬が必要であると心がけておき、予防という観点からすれば、2週間を待たず、不調の度合いに応じて早めに対処する必要がある。 そして、お伝えしたいことのもう1つとしては、かかりつけ医や職場によっては産業医に定期的に、もしくはメンタル不調を感じたら早期に相談してほしいということである。「精神科は敷居が高い」というのは、現実問題として多くの人が気にすることであり、身近の医師であれば相談もしやすい。また、かかりつけ医や一般的なオフィスに在籍する職場の産業医は、内科医であることが多い。うつ状態も内科の病気が引き起こすこともあり得るし、軽い薬であれば処方してくれることもある。さらに医師は広く強いネットワークを持っているので、専門医の紹介を依頼することもできる。 4 各種相談窓口 本項では職場でのストレス要因のみならず、個人的な要因(例えば借金など)や、社会的・家庭内のトラブルなど、種類・内容を問わず、相談可能な窓口の代表例を挙げる。 選ぶにあたり、公的機関、経済団体、筆者の所属組織などのうち、広く知られているものや、利用実績のあるものを条件とした。これらに、社長個人あるいは会社で利用しているコンサルタント会社や、地域行政の窓口などを追加のうえ、自身あるいは職場で利用しやすい相談窓口の一覧表の作成に役立つようであれば幸いである。なお、大半はウェブサイトをご案内する。 (1) 人事労務関係 (2) メンタルヘルス関係 (3) そのほか政府関連等 * * * 以上は利用実績もあり、中には筆者が相談窓口として働いたこともある機関・サイトから選んだものだが、言うまでもなく相談とは、人と人との会話(メール等も含め)で成り立つものであるため、相談窓口担当者が必ずしも個々の相談内容に詳しいとは限らず、現実問題として相談者との相性も無視できない。そのため、一回電話して相談が上手くいかず諦めてしまうのではなく、日を変えて再度連絡するといった試みもしてもらいたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第23回】 「収益還元法を適用する際の賃料の捉え方の相違」 ~「自用の建物及びその敷地」と「貸家及びその敷地」~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 鑑定評価において、土地及び建物を一体として評価する場合、 によって、その考え方や適用する手法は異なってきます。 鑑定評価では、上記(ア)に該当する場合を「自用の建物及びその敷地」と呼び、(イ)に該当する場合を「貸家及びその敷地」と呼んで区別しています。また、このような分類は、不動産鑑定評価基準では「類型」と呼ばれています。 今回は、それぞれの類型を評価する際に適用される収益還元法につき、その前提となる賃料の捉え方の相違について解説していきます。 2 不動産鑑定評価基準における収益還元法の位置付け ところで、不動産鑑定評価基準では価格の三面性(費用性、市場性、収益性)という考え方を根底に置いていることから、上記1の(ア)の場合であっても、(イ)の場合であっても原価法における積算価格、取引事例比較法における比準価格及び収益還元法における収益価格を可能な限り求めることとしています(土地建物を一体として捉えた場合、実際には一体としての比準価格を求めるのは難しいケースが多いといえますが)。 そのため、「自用の建物及びその敷地」として評価する場合でも、その土地建物を新たに賃貸することを想定し、これによって将来得ることができると期待される純収益を査定した上で、収益還元法を適用して求めた価格を試算価格の1つとして位置付けています。 これに対し、「貸家及びその敷地」として評価する場合は、あくまでも建物が現に賃貸借に供されている(=賃貸中の)状態を所与とすることから、純収益を査定する際の前提となる賃料は、新規に賃貸借をする際の賃料ではなく、実際に授受されている賃料ということになります。そして、往々にして新規賃料と実際に授受されている賃料との間には差が生じていることが多く(新規賃料 > 実際賃料という傾向あり)、一概に収益還元法を適用するといっても、「自用の建物及びその敷地」の場合と「貸家及びその敷地」の場合とでは結果に差が生ずることから、ここに紛らわしさを感ずる一因があるものと思われます。 3 「自用の建物及びその敷地」への収益還元法の適用例 今まで述べてきたことを確認する意味で、先に、「自用の建物及びその敷地」の価格を求める際の一過程としての収益還元法の適用例を掲げます(対象は事務所とその敷地)。個々の算定根拠は割愛する個所もありますが、本稿においては特に(※1)、(※2)の記載内容にご留意ください。 (1) 総収益 ① 賃料収入 (※1) 近隣で用途の類似する建物の新規貸しの賃料(募集賃料も参考)を参考に査定(満室の状態を想定)。 ② 共益費収入 (※2) 近隣で用途の類似する建物の共益費(募集事例も参考に)を査定の上、これを乗じて月額共益費収入を求める過程が記載されています。 ③ 空室損失相当額 ④ 貸倒れ損失 敷金で担保されるため計上しない(※3)。 (※3) 貸倒れ損失は賃借人の信用状況等を踏まえて計上しますが、敷金又は保証金を賃料の数ヶ月分徴収している場合は計上しないことも多くあります。 ⑤ 敷金の運用益 (※4) 敷金を月額賃料の6ヶ月分、敷金総額の1%相当額を運用益として査定。 ⑥ 総収益 (2) 総費用 ① 維持管理費 (※5) 建物及び設備の管理(エレベーター保守点検、消防設備点検その他)・運営、保安警備、清掃費(外壁、共用部分清掃業務等)、環境衛生費等(共用部分に係る電気・水道・ガス・冷暖房費も含む)。 ② 修繕費 (※6) 対象不動産の使用に伴う軽微な損傷や消耗に対する修繕や取替え等の費用を計上。建物再調達原価の計算過程は省略。 ③ 公租公課(土地建物) (※7) 土地建物の固定資産税、都市計画税の合計額。 ④ 損害保険料 ⑤ プロパティマネジメントフィー (※8) プロパティマネジメントフィーとして、管理会社に対する運営委託費用を査定(総収益の3%)。 ⑥ テナント募集費 (※9) 新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用及びテナントの賃貸借契約の更新等の業務に要する費用等を織り込む(テナントの入替え率を年10%、新規家賃の1ヶ月分が仲介手数料)。 ⑦ 資本的支出 (※10) 対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良のために支出した金額のうち、当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出。 ⑧ 総費用 (3) 純収益 (4) 還元利回り 上記(3)の純収益を土地建物一体の還元利回りで還元して、対象不動産の収益価格を以下のとおり820,000,000円と試算した。 (※11) 対象不動産の用途や特徴及び購入リスク等を考慮して査定。 4 「貸家及びその敷地」の場合の留意箇所 既に述べてきたように、「貸家及びその敷地」で収益還元法を適用する際には、実際に授受している賃料等がベースとなることから、上記3の(1)①及び②の賃料収入及び共益費収入の箇所が実際のものに置き換わることになります。これらに連動して上記3の(1)③の空室損失相当額の計算のベースも置き換わるほか、敷金の金額も想定のものから実際のものとなります。 それだけでなく、総費用の算定においても、総収益や賃料収入を基に査定している項目については同じように置き換えることになります。 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様は鑑定評価書を作成するというよりも、鑑定評価書を読む立場にあることがほとんどであると思われますが、その際、今回述べた点が役立てば幸いです。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和4年の新制度施行を前に、 改正電帳法に関する質問の多い事項16問を公表 ~既存のQ&Aへの補足も~ Profession Journal編集部 令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しに伴い、国税庁が令和3年7月16日に「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~」を整備したことについては既報のとおり。 改正電子帳簿等保存制度の施行(令和4年1月1日)もいよいよ迫るところ、上記公表後において問合せが多かった事項につき追加の質問として整理・集約された資料が、この度11月12日付で下記のとおり公表された。 追加の質問については、下記の全16問となっており、【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】が3問、【スキャナ保存関係】が6問、【電子取引関係】が7問となっている。 【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】 【スキャナ保存関係】 【電子取引関係】 また、既存の一問一答【電子取引関係】への補足として、「問24」「問33」「問34」「問42」に説明が加えられた。 なお、今回の追加質問及び補足説明については、「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)」の次回改訂時に反映が予定されている。 (了)
《速報解説》 金融庁、令和3事務年度の会計監査の在り方に関する議論を整理 ~中小監査事務所への支援や上場会社監査に高い規律を求める制度的枠組みを検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年11月12日、金融庁に設置された「会計監査の在り方に関する懇談会」は、「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)論点整理-会計監査の更なる信頼性確保に向けて-」を公表した。 これは、会計監査の信頼性確保のための取組みについての議論を取りまとめたものであり、大きく、次の事項について記載している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計監査の信頼性確保 1 上場会社の監査に係る取組み 上場会社の監査事務所の異動状況として、大手監査法人から準大手監査法人や中小監査事務所にシフトしている傾向を踏まえ、中小監査事務所等への支援が重要であるとしている。 また、中小監査事務所を含む上場会社の監査の担い手全体の監査品質の向上が急務となっており、高品質な監査の実現に向けた取組みを検討すべきであるとし、現状の自主規制としての上場会社監査事務所登録制度について、法律に基づく制度の枠組みを検討する必要があるとしている。 2 「第三者の眼」によるチェック機能の発揮 公認会計士・監査審査会の検査において、業務の運営の状況の検証に際し、虚偽証明に係る監査手続についても検証を行えるようにするとともに、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況に応じたモニタリングの実施方法について継続的に検討していく必要があるとしている。 Ⅲ 公認会計士の能力発揮・能力向上 1 公認会計士の能力発揮 女性公認会計士を含め、公認会計士が持てる能力を十全に発揮できるような環境の整備に努めていく必要があるとしている。 例えば、監査人の独立性を確保するための、監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限について、監査人の独立性は引き続き確保しながらも、女性活躍の観点も踏まえ、能力ある公認会計士にその能力に見合った活躍の機会を確保できるよう見直すべき点はないか検討される必要があるとしている。 また、いわゆる組織内会計士向けの指導・支援についても述べている。 2 公認会計士の能力向上 環境の変化に対応し、実務で能力を発揮し続けるために、 公認会計士には、公認会計士試験を通じて得た基礎的な知識に加えて、職業専門家として、求められる知識・能力を不断に磨いていくことが期待されている。 監査事務所と企業の人材交流などにより、企業の現場感覚を養う機会を多く持てるようになることが望ましいとしている。 Ⅳ その他の論点 次の事項について述べている。 (了)
《速報解説》 経産省が「非財務情報の開示指針研究会」による中間報告を公表 ~持続的な価値創造を伝達するサステナビリティ関連情報開示を実現するための4つの提言を記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年11月12日、経済産業省は、「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて-「非財務情報の開示指針研究会」中間報告-」(非財務情報の開示指針研究会)を公表した。 これは、経済産業省に設置された「非財務情報の開示指針研究会」において、我が国や世界において質の高い非財務情報の開示を実現するために求められる方向性に関する議論を取りまとめたものである。 最近の非財務情報を巡る動向についても詳細に記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 中間報告では、「サステナビリティ関連情報開示」を、サステナビリティ項目(ESG事項(環境・社会・ガバナンス)や戦略、リスクマネジメント等)のうち、企業価値に関連する情報の開示としている。 また、「企業価値」とは、企業が将来にわたって生み出すキャッシュ・フローの見通しやその実現能力を、企業が環境・社会・経済に与える外部性に対する資本市場参加者等のステークホルダーからの評価も加味した価値としている。 中間報告は、持続的な価値創造を伝達するサステナビリティ関連情報開示を実現するために、情報の作成者及び利用者が意識する必要があるポイントとして、次の4つの提言を記載している。 1 サステナビリティ関連情報開示における価値関連性の重視 サステナビリティ関連情報開示においては、企業価値との関連性(Value relevance)を重視することが必要である。 そして、中長期的な時間軸の中で重要性(マテリアリティ)のある事項を特定し、経営判断・経営戦略の検討と一体のものとして、統合的かつ連続的に開示に取り組まなければならないとしている。 2 サステナビリティ開示基準の適用におけるオーナーシップ(主体性)の発揮 企業価値を伝達する開示を実現する観点から、企業は自らの開示内容についてオーナーシップ(主体性)を発揮することを通じて、開示情報の客観性・比較可能性確保と、独自性発揮とのバランスを取るための最適解を見出す必要がある。 サステナビリティ開示基準の適用に際しては、企業は開示内容に対するオーナーシップ(主体性)を発揮し、「Apply or Explain(基準の適用か、説明か)」アプローチを原則とすべきである。 3 企業価値とサステナビリティ情報の関連性に関する認識の深化 どのようなサステナビリティ情報が企業価値や財務情報と高い関連性を有するかについては、作成者・利用者における共通理解の醸成の途上にあり、今後、国際的な議論等において検討が重ねられていくことに加え、関連性に関する分析の深化も期待される。 4 ステークホルダーとの「対話」に繋がるサステナビリティ関連情報開示の実施 持続的な企業価値創造を実現するためには、上記の3つの提言の方向性に沿った開示を通じて、投資家・ステークホルダーとの連続的な対話を行うことで、サステナビリティ関連情報開示と持続的な価値創造の好循環を生み出すことが重要である。 (了)
2021年11月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.444を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第101回】 「節税義務が争点とされた事例(その4)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅰ 事案の概要 1 事実 本件は、税理士が考案した相続税対策を、同税理士やその関係会社の勧誘・指導に基づき実行した納税者らが、後にそれと反する課税処分を受けたとして、同税理士らを相手取り損害賠償請求等を行った事案である。 Aは、B社、税理士であるY1(被告)、Y1を代表者とするY2社(被告)及びY3社(被告)から、Y1が考案した相続税対策の教示を受けた。すなわち、①AがC社株式を購入して、②Aの相続人のうち財産を多く相続させようとする相続人にC社株式を贈与し、③受贈者である相続人が一定期間後にY2社が紹介する業者に時価で売却する方法によれば、相続税の支払を少なくすることができるとの相続税対策の勧誘、指導を受けて、これを実行することとした。 そこで、Aは、D社から借り入れた金員でC社株式を購入して、一定期間保有した後、Aの相続人の一人である子X1(原告)に対してC社株式を贈与し、X1はC社株式の価格を配当還元方式で評価した上で贈与税の申告をなし、また、X1はY2社が紹介したY4社(被告)に対してC社株式を売却した。しかしながら、Aの死亡後、E税務署長は、X1の贈与税の申告につき、C社株式の価格は配当還元方式で評価すべきではなく、Aの購入代金額と同額と評価すべきであるとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。 そこで、まず、Aの相続人であるX1ないしX5(それぞれ原告)は、Y1税理士、Y2社及びY3社に対し、現行の課税実務において通用する合法的な相続税対策を助言、指導する委任契約上の債務を怠った、又は、現行の課税実務において通用する合法的な相続税対策を助言、指導する注意義務に違反したものであり、不法行為責任を免れないと主張して、C社の株式購入のための借入金の金利の内金等につき損害賠償を請求した。 次に、X1ないしX5は、Y3社はAが相続税対策に伴いB社に支払った手数料等の内金を紹介料名目で受領していると主張して、Y3社に対し、不当利得返還請求として、右紹介料名目の金員の返還を求めた。 更に、X1ないしX5は、更正処分等を受けることを知っていれば、AはX1に対してC社の株式の贈与はしなかったことから、かかる贈与は動機の錯誤により無効であるとして、X1からC社株式を買い受けたY4社に対して、C社株券の返還を求めた。 これに対し、Y1税理士、Y2社及びY4社は、Aが相続税対策を決意したのは専らB社の勧誘があったからであり、Y1税理士及びY2社とAとの間で現行の課税実務において通用する合法的な相続税対策を助言、指導する委任契約が締結されたことはない、また、E税務署長の更正処分等は不合理であり、予見可能性がなかったことから、Y1税理士及びY2社に不法行為責任が生じることはない、更に、Y4社は善意無過失でX1からC社株券を買い受けたものであるから、同株券を善意取得したものであると主張した。 また、Y3社は、Aに対してB社を紹介したに過ぎず、相続税対策の内容を知らされていなかったことから、不法行為責任を負う理由はなく、また、Y3社がB社を介して受領した金員は、B社に対してAを紹介した手数料であるから、不当利得ではないなどと反論した。 2 東京地裁平成10年11月26日判決(判タ1067号244頁) Ⅱ 税理士の注意義務 本件においては、税理士が課税庁から否認されるような節税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をさせていることについて過失が認められるとしている。すなわち、節税として適当でない対策を考案し、これを節税対策として税務相談において勧めたことに過失があるとされたと理解することができる。 ここでは、課税庁に否認されるような租税回避の対策の考案は、税理士に要求されるレベルの注意義務に反するとしているが、そもそも税理士に要求される注意義務とはどのようなものであろうか。税理士は、租税専門家として、課税上の取扱い等についての専門的知識を有していることから、顧客は通常税理士に対して専門的知識を駆使して節税となるように処理することを期待しているものとも思われる(※1)。 (※1) 例えば、東京地裁平成13年2月27日判決(判例集未登載)において、「国が資格を付与し、税法に違反する行為を法律で禁止され、懲戒をも課される我が国の税理士制度の下では、納税者は、税理士に対し、税務申告手続の煩わしさから解放されると共に、法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように専門的知識と経験を発揮していわゆる節税をすることをも期待して委任する」と説示されている。 このような理解に立って、本件地裁判決も、「Y1は、税理士であり、租税立法、通達及び課税実務等について専門的知識を有するのであるから、右立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をすべき注意義務があるというべきである。」としているのであろう。 通常は、例えば、特例の適用を受ける場合と受けない場合といったような課税上の選択肢があった場合に、何らかの特段の事情がない限り特例の適用を受ける場合を選択する必要があるという文脈において、節税措置義務が肯定されているように思われる。しかしながら、本件における判示は、かような選択し得る最良の手段を講じなかったというような、いわば不作為について税理士が注意義務を負っているというよりは、より積極的な節税上の対策を考案することまでをも税理士に課される注意義務の範囲内であると捉えているように思われる。 税理士は、税理士法1条《税理士の使命》において、「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」とされている。そうであるとすれば、果たして課税庁から否認されるような節税対策の考案までをも包摂したところで、税理士の注意義務が及んでいると理解することができるかは一概には定かではない。 もっとも、判決は「課税実務において認められる内容の相続税対策」を考案することを、認められない相続税対策との対比として判示していると理解すれば、他の裁判例で判示されている節税措置義務と何ら異なるところはないのかも知れない。そもそも「課税実務において認められる内容の相続税対策」が何を意味するのか、租税専門家としての法的素養があればあるほど、これほど不安定なものはないことを知るのであるが、この辺りの責任構成についても、更に検討を加える必要がありそうである。 Ⅲ 注意義務違反の基礎~予見可能性と損害回避義務~ このような事例においては、次のような責任構成が一般的であろうと思われる。 すなわち、①課税庁に否認されるような行為を税理士がとったこと自体を問題とするのではなく、課税庁に否認される危険性があることを知りながら、適正にその危険性に係る説明義務を尽くさなかったことを問題とする構成と、②そもそも課税庁に否認されるような適法でない租税回避策を考案したこと及びそれを節税対策として勧誘したことに注意義務違反を求める構成である。 ①の構成は、税務否認リスクの説明義務違反を専門家に問うケースといえよう。例えば、東京地裁平成9年7月10日判決(判時1636号96頁)は、「少額の減価償却資産によるリースバック取引のスキーム自体については、税務当局の了解(お墨付き)を得ていること、もっとも、この取引による税の繰り延べは、節税効果が大きいので、所轄税務署から調査を受ける可能性があり、これまでにも税務調査を受けた例があるが、税務否認されたことはなく、税務通達上も問題がないと考えていること及び将来、法改正があれば、この取引はできなくなるが、改正前の取引についてまで問題となることはないなどを説明」したリース業者に対して、「本件リース取引に基づいて納税申告を行った場合の税務否認のリスクについて具体的に説明すべき義務があった」と判示している(※2)。 (※2) 税務否認リスクに係る説明義務については、酒井克彦「節税商品の特殊性と説明義務(上)-節税商品取引における勧誘の在り方を求めて-」税経通信58巻15号197頁(2003)参照。 一方、本件は、税理士が課税庁に否認されるような節税対策を講じ、それを勧誘したこと自体を問題としているところからすれば、②の法律構成が採用されているのではないだろうか。さすれば、適正な課税の実現という税理士の使命(税理士法1)とベクトルは同じ方向になりそうである。 適正でない節税対策かどうかについての絶対的な基準がないことを前提とすれば、適正でない節税対策かどうかは、税理士がどこまで課税実務に精通しているかという税理士の有する専門的知識の程度の問題と、課税庁からの否認をどこまで予見し得る状況にあったかという予見可能性の問題として整理することができそうである。したがって、かかる法的構成は予見可能性との関係を抜きにして論じることはできないのではないかと思われる。 不法行為法における過失とは、「損害発生の予見可能性があるのにこれを回避する行為義務(結果回避義務)を怠ったこと」とか(※3)、「予見義務を基礎とする予見可能性・・・を前提として損害発生の危険を回避すべき義務(損害回避義務)が生じ、具体的な加害行為がこの義務によって定立される・あるべき行為に従ってなされていないならば、過失あり」と説明される(※4)。このように「過失」は、一定の事実を認識し得る場合に、不注意によりそれを認識しないこととか、結果発生の可能性を認識したとしても危険性を回避しないことなどと理解することができる。 (※3) 内田貴『民法Ⅱ〔第3版〕』339頁(東京大学出版会2011)。 (※4) 平井宜雄『債権各論Ⅱ』28頁(弘文堂2019)。 つまり、課税庁から否認される予見可能性が認められる場合には、かかる予見可能性を基礎としてその危険を回避しなかったことに注意義務違反を見出すことができるのである。 (了)
〈令和3年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「令和3年分から適用される改正事項」 ~押印義務の見直しと源泉徴収関係書類の電磁的提供に係る改正~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 11月も半ばとなり、今年も年末調整に向けた準備を始める時期となった。令和3年分の年末調整から適用される改正事項は少ないが、令和2年分の年末調整から適用されている改正事項に注意しておく必要がある。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。第1回は、令和3年分の年末調整から適用される改正事項について解説を行う。 なお、本年分の記事に加え、論末の連載目次に掲載された過去の拙稿もご参照いただきたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 ◎ 令和3年分の年末調整から適用される改正事項 令和3年分の年末調整に影響のある改正事項は、押印義務の見直しと源泉徴収関係書類の電磁的提供に係る改正である。 (1) 押印義務の見直し 令和3年4月1日以降、税務署長等に提出される税務関係書類について、次のものを除き押印を要しないものとされた。 ① 担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付が求められている書類 (※) 国税庁「押印(実印)及び印鑑証明書の添付を要する「担保提供関係書類」及び「物納手続関係書類」」より ② 相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類 (※) 国税庁「押印(実印)及び印鑑証明書の添付を要する「財産の分割の協議に関する書類」【相続税・贈与税の特例関係】」より したがって、令和3年分の年末調整関係では、各種申告書に従業員等から押印を受ける必要はなくなった。国税庁ホームぺージにも、押印欄のない各種申告書の様式が掲載されている。 ◆様式例:令和2年分と令和3年分の保険料控除申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和2年分 給与所得者の保険料控除申告書」及び「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」よりそれぞれ抜粋の上作成。 (2) 源泉徴収関係書類の電磁的提供に係る改正 給与等の支払者が、従業員等から提供される源泉徴収関係の各種申告書を電子データで受け取る場合、従来は「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を所轄税務署長へ提出し、事前に承認を受ける必要があった。この取扱いについて、令和3年4月1日以降に電子データで提供を受ける場合には、事前承認が不要とされた。 事前承認が不要となったことで、タイミングを逸することなく電子化を図ることができるようになったが、従業員等から各種申告書を電子データにより提供を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要がある(所法198②、所令319の2①)。 また、上記のほか、電子化に際しては次の措置を講じておく必要もある(所法198②、所規76の2②)。 ① 従業員等から電子データの提供を受けるための方法を定めておくこと 具体的な方法としては主に次のとおり。 ② 提出された電子データが本人から提出されたことが確認できるよう担保しておくこと 以下のいずれかの措置が必要となる。 * * * 次回(第2回)は、令和2年分から適用されている改正事項についての再確認を行う予定である。 (了)