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これからの国際税務 【第26回】「国際課税に関するG20大枠合意」

これからの国際税務 【第26回】 「国際課税に関するG20大枠合意」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 G20財務相・中央銀行総裁会議の模様 7月9日から10日にかけてイタリアベネチアで開催された表記会議のコミュニケは、同会議はOECD/G20の包摂的枠組みが7月1日に公表した2つの柱からなる国際課税に関する新ルールの大枠に関する声明を承認した、と発表した。同会議は、さらに、「多国籍企業の利得の再配分と効果的なグローバルミニマム税」を内容とする同提案につき、包摂的枠組みに対して、10月のG20の本会合までの間に、残された課題に迅速対応するとともに、合意された枠組み内で、当該案の設計要素をその詳細な実行計画込みで最終決定するよう求めている。 本稿は、承認された7月1日公表の上記声明の内容を紹介するとともに、今後の展開の見通しを予測するものである。   2 包摂的枠組みによる7月1日公表の2つの柱案に関する声明 (注) OECDから本件G20会議に提出された報告書では、上記声明案について、139ヶ国からなる包摂的枠組み参加国のうち、7月5日現在で131ヶ国が合意していると注記している。報道によれば、未合意の8ヶ国中には、低税率国のアイルランド(12.5%)やハンガリー(9%)が含まれているとのことである。 (1) 第1の柱(デジタル経済への課税ルールとしての利益Aの創設等) (2) 第2の柱(グローバルミニマム税の創設等)   3 若干の予備的考察 2015年のBEPS最終報告書で宿題として残されたデジタル経済に対応した国際課税ルールの大枠合意が、2つの柱の改革として、6年の協議を経てついに達成された。新ルールは、「PEなければ課税なし」と「比較対象に基づく独立企業原則」という伝統ルールに抜本的な見直しを行うパッケージとなった。なお、合意枠組みは、バイデン政権の協議復帰を契機として、特に第1の柱について100社グループに適用対象を絞るなど昨年10月の青写真構想に比べて適用対象の再編成が行われている。 政府にとっては、法人税率引下げ競争に歯止めをもたらしつつ、コロナ禍での財政需要にも貢献し、企業にとっては、伝統的ルールの下での予測可能性衰退状況を改善し、さらには、生産国・市場国間や先進国・途上国間での税収の不公平配分の懸念にも答えた今回の合意は、歴史的な成果とも評価できるものであり、G20のリーダーシップが称賛されるであろう。 ただし、上記2で見た通り、政治判断や技術的分析を要する主要項目のいくつかは、10月のG20会合まで結論が引き延ばされた。政治的判断では、グローバルミニマム税の最低税率について、低課税国と「15%以上」を強調する米国との間での協議が難航しそうであるし、優遇税制に頼ってきた途上国に対し、セーフハーバーの制度設計如何も課題となる。また、第1の柱についても、本合意により撤廃が予定されている1国限りのデジタルサービス税とのスムーズな交替のための経過措置が、課題として残っている。”So far, So good”として、これから10月までの包摂的枠組み国間での協調の行方から目が離せない。 (了)

#No. 429(掲載号)
#青山 慶二
2021/07/21

令和3年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】「研究開発税制の拡充(その2)」

令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「研究開発税制の拡充(その2)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   2 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) 3 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) 連結納税制度において、上記の見直し以外にも、単体納税制度と同様に、試験研究費のうち研究開発費として損金経理をした金額で非試験研究用資産の取得価額に含まれるものを税額控除の対象に加えるなど試験研究費の範囲の見直しが行われている(新措法68の9⑧一)。   (了)

#No. 429(掲載号)
#足立 好幸
2021/07/21

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例100(消費税)】 「営業譲渡を受けたドラッグストアの「輸出物品販売場許可申請書」の提出を失念したため、免税売上が認められず、国内における課税売上になってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例100(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税(消法8①) 輸出物品販売場を経営する事業者が非居住者に対し、免税対象物品の譲渡を行った場合には、当該物品の譲渡については、消費税を免除する。なお、当該物品の譲渡を免税とするためには、次のすべての要件を満たす必要がある。 ◆輸出物品販売場の種類 輸出物品販売場には、販売場を経営する事業者自身がその販売場においてのみ免税販売手続を行う「一般型輸出物品販売場」と、その販売場が所在する商店街やショッピングセンター等の特定商業施設内に免税販売手続を代理するための設備(免税手続カウンター)を設置する事業者が、免税販売手続を代理する「手続委託型輸出物品販売場」の2種類がある。 ◆一般型輸出物品販売場の許可に関する手続き等(消令18の2、消規10) 輸出物品販売場を経営する事業者は、「輸出物品販売場許可申請書(一般型用)」に以下の書類を添付して、その納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。 税務署長は、上記申請書の提出があった場合には、遅滞なくこれを審査し、許可又は却下する。 ◆一般型輸出物品販売場の許可要件 一般型輸出物品販売場としての許可を受けるためには、次の要件のすべてを満たす必要がある。 ◆営業譲渡があった場合 輸出物品販売場とは、一定の要件を満たす課税事業者が経営する販売場で、事業者の納税地の所轄税務署長の許可を受けた販売場をいう。このため、輸出物品販売場を経営する事業者が異なることとなる場合には、改めて納税地の所轄税務署長の許可を受ける必要がある。 したがって、輸出物品販売場の営業譲渡を受ける法人が、「輸出物品販売場許可申請書」を、営業譲渡を受ける法人の納税地の所轄税務署長に提出し、改めて輸出物品販売場としての許可を受ける必要がある。       (了)

#No. 429(掲載号)
#齋藤 和助
2021/07/21

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第7回】「地目の認定について異議のある納税者が固定資産評価審査委員会を経ずに直接異議申立てを行った判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第7回】 「地目の認定について異議のある納税者が固定資産評価審査委員会を経ずに直接異議申立てを行った判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の登録価格に不服がある場合の納税義務者のとれる救済方法 固定資産税は、毎年3月31日までに価格等が決定されて固定資産課税台帳に登録され、その後、固定資産の所有者の元に納税通知書が送られてくる。この納税通知書には、固定資産税評価額、課税標準額、税率、税額、納期、各納期における納付額等が記載されている。 これらの事項について疑問がある場合、納税者のとれる救済方法については、その不服の内容によって2つあり、納税者は、納得できない場合は期限までに決められた対応をしないと不服が受け入れられないことになる。 この2つとは、固定資産課税台帳に記載された登録価格(以下「固定資産の価格」という)と、固定資産の価格以外の記載事項や賦課処分である。 固定資産の価格に不服がある場合は、原則的には、公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過する日までの間に固定資産評価審査委員会への審査の申出ができる(地方税法第432条第1項)。申出を受けた日から30日以内に審査決定し(地方税法第433条第1項)、決定のあった日から10日以内に通知しなければならない(地方税法第433条第12項)。そしてこの決定に不服がある場合は、取消しの訴えを提起することができる(地方税法第434条第1項)。 ただし、固定資産の価格について訴えることができるのは、固定資産評価審査委員会への審査の申出を行い、その決定の取消しの訴えによることに限定されている(地方税法第434条第2項)。   ▷固定資産税評価額が決まるまでのプロセス 固定資産税の評価額の算定については固定資産評価基準に基づく。固定資産評価基準第1章第1節によると土地の評価の基本は次のようになる。 つまり、まず、地目が何かを認定して、地目ごとに定められた評価方法により算定していくことになる。 それでは、地目の認定について異議のある納税者が固定資産評価審査委員会を経ずに直接異議申し立てた事案について検討する。   ▷どのような事案か この事案の経緯は以下のようになる。   ▷原告(X)の主張と争点 原告(X)は、次のように主張した。   ▷裁判所の判断 裁判所は、被告(岡山市)の主張にほぼ沿った次のような理由から納税者の請求を棄却した。 また裁判所は、以下のように言及している。 このように、課税地目の認定は固定資産の価格と密接に結びついたものであるから、不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過する日までの間に固定資産評価審査委員会への審査の申出をしなければ、納税者の請求は認められない。 (了)

#No. 429(掲載号)
#菅野 真美
2021/07/21

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第39回】「従前の土地の隣地を取得している場合」-敷地のうちに所有期間の異なる部分がある場合-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第39回】 「従前の土地の隣地を取得している場合」 -敷地のうちに所有期間の異なる部分がある場合-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、10年前に土地(200㎡)を購入し、同年中に家屋を建築しました。 4年前に、隣地(80㎡)を購入して、従前の土地と共に居住の用に供していましたが、本年になってこれらの土地及び家屋を売却しました。 譲渡物件に係る所有期間5年超以外の他の適用要件が具備されている場合に、Xは、その譲渡の全部について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 10年前に取得した土地(200㎡)及び家屋が、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象となり、4年前に取得した隣地(80㎡)は適用対象となりません。 ●○●○解説○●○● 居住の用に供していた家屋と共にその家屋の敷地の用に供されている土地等の譲渡があった場合において、その土地等のうちに、その年の1月1日における所有期間が5年を超える部分のみが、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象となります(措法41の5⑦一)。 したがって、本事例の場合、4年前に取得した隣地は、当該特例の適用対象となりません。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡資産の所有期間に係る5年超要件が同様に定められています(措法41の5の2⑦一)。 (了)

#No. 429(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/07/21

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第58回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第58回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 法人税基本通達2-2-16(前期損益修正) 法人税法施行令18条の2の条文を確認する前に、法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)と国税庁の解説に目を通しておく。 同通達は次のとおり定める。 資産の販売等に係る収益の額を益金の額に算入した後の事業年度において、契約の解除又は取消し、返品等の事実により、事後的に、対価の額に変動が生じた場合でも、この通達によれば、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、遡及せずに、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入することになる。 一度、売り上げたのに、後で契約解除となった、返品されたというような事実が発生した場合に、遡及せずにその事実が生じた事業年度で損失処理するということである。平成30年度改正に伴う改正前の通達では、これらの事実の中に「値引き」も含まれていたが改正後の通達では削除されている。 では、改正後の通達ではなぜ「値引き」が削除されたのか。 それは、「値引き」に関する取扱いが別途、法令や他の通達で明らかにされたからである。 上記通達の趣旨について、国税庁は、次のように説明している(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」98~99頁参照)。 上記説明によれば、法人税法施行令18条の2について、国税庁は、次のように整理していることがうかがわれる。 【国税庁による法人税法施行令18条の2の整理】   (了)

#No. 429(掲載号)
#泉 絢也
2021/07/21

会計上の見積り注記の事例分析

会計上の見積り注記の事例分析   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   企業会計基準第31項「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が、2021年3月決算より適用されている。2021年3月決算の有価証券報告書では、当該基準が適用された上で提出されているため、それらを元に今回は会計上の見積り注記の事例を分析し、解説を行う。今後の注記の記載にあたって参考とされたい。   1 事例分析 (1) 会計上の見積りの注記数 重要な会計上の見積りの注記の中で記載している項目の数は、以下のとおりである。最も多いのは1個の998社であり、平均は1.4個となっている。 (2) 項目別の注記数 重要な会計上の見積りの注記の項目別の数は以下のとおりである。 (注) 会社によって注記の記載方法は様々である。例えば、1つの注記で1つの項目を記載している場合や1つの注記で複数の項目を記載している場合、1つの項目について注記を分けている場合がある。そのため、上記(1)の表の数の合計と(2)の表の数の合計は一致しない。 なお、上表の項目別の数の集計のなかで以下のような特徴がみられた。   2 特徴的な事例 以下では、今後の注記の記載にあたって参考になると考えられる特徴的な事例を挙げている。 (注) 以下の事例は、2021年3月期の有価証券報告書から抜粋している。なお、各事例における下線は筆者が追記している。 (1) 固定資産の減損 【(株)AOKIホールディングス】 ◎将来の売上の仮定を数値で示している事例及び新店舗及び減損の兆候があったが減損損失を認識していない固定資産の帳簿価額を記載している事例 【(株)イエローハット】 ◎店舗数について詳細に記載している事例 (2) 繰延税金資産の回収可能性 【(株)きもと】 ◎来期の売上増加要因について増加率を数値で示している事例 (3) 退職給付 【古河機械金属(株)】 ◎割引率及び長期期待運用収益率が変動した場合に、どれくらい影響があるか記載している事例 (4) たな卸資産の評価 【森下仁丹(株)】 ◎処分見込価額の算定方法について、具体的な計算式を記載している事例 【(株)カチタス】 ◎たな卸資産の評価損の算出方法及び仮定を具体的に記載している事例 (5) 貸倒引当金 【セコム(株)】 ◎貸付金の回収可能性について、具体的に記載している事例 (6) 工事進行基準 【アイサンテクノロジー(株)】 ◎工事総原価及び進捗度の見積りの際のポイントを箇条書きで記載している事例 (了)

#No. 429(掲載号)
#西田 友洋
2021/07/21

〈事例から学ぶ〉不正を防ぐ社内体制の作り方 【第8回】「牽制と予防の仕組みの限界を考える」~共謀、非定型的な取引、経営者による内部統制の軽視等への対応~

〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第8回】 「牽制と予防の仕組みの限界を考える」 ~共謀、非定型的な取引、経営者による内部統制の軽視等への対応~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   はじめに 人は元来、間違う動物です。そのため、日常の業務のなかで起きる判断の誤り、不注意による人為的なミスや不正に対し、牽制や予防をするために、私たちはさまざまな仕組みや手続をデザインして周到に備えています。しかし、あらゆる仕組みや手続には、常に限界が伴います。つまり、本来の機能が有効に働かず、求められている目的を完全に達成できなくなることが起こります。 たとえば、不注意による人為的なミスや不正を予防する代表的な仕組みに相互牽制の仕組みがあります。合理的な意思に基づき、会社の利益のためにお互いの仕事を確認するという、みなさんご存知の身近で用いられる方法です。 しかし、たとえ相互牽制が図られても、複数の担当者による共謀にあっては、本来の働きが阻害され、不注意による人為的なミスどころか不正にも対抗することができなくなってしまいます。牽制の仕組みは、あらかじめ起こり得る多くの事態を想定したうえでデザインされます。しかし、想定すらしていなかった事態が起こり得るということは、原発事故、地震や洪水などの自然災害に遭遇してきた私たちが、経験から既に学んだことです。 では、こうした仕組みの持つ限界をきちんと理解したうえで、どのようにしたら仕組みの限界を補完し、可能な限り克服するためのヒントを手に入れることができるのでしょうか。以下、内部統制報告制度を例にとって考えます。   《1》 内部統制報告制度の固有の限界 財務報告の信頼性を標榜する内部統制報告制度に関し、詳細を定めている「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(企業会計審議会)(以下「実施基準」という)を参照してみると、内部統制報告制度という仕組みが持つ固有の限界を次のように説明しています。 以上のように明確にされた限界を踏まえたうえで、それらを補完し克服するためのヒントやアプローチが、ビジネスの現場にあるのでしょうか。   《2》 判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀 判断の誤り、不注意に対する対応として、複数人の眼によるチェックが考えられます。ある者が文書を作成すれば、他の者がその内容を確認する。一方がシステムにデータを入力すれば、他方が入力内容に漏れや重複がないかどうかを確認する。このようにして相互牽制の仕組みを用いることで、判断の誤りや不注意による誤りを相当程度、回避あるいは解消することができます。 しかし、相互牽制によって判断の誤りや不注意を回避することを期待される担当者や責任者が、お互いに通じ、自己の利益のために身勝手な行動をとったとしたら、本来の期待を裏切るどころか不正を予防することさえ困難となります。こうした共謀に対抗するためには、どうすべきでしょうか。   《3》 想定しない組織内外の環境変化や非定型的な取引 想定しない組織内外の環境変化や非定型的な取引に対抗するためには、あらかじめ緊急時の定めを用意しておく必要があります。   《4》 費用と便益との比較衡量 牽制と予防の仕組みを導入するにもコストを要します。また、会社が持つ人的な資源(リソース)も無限ではありません。そのため、会社が全てのリスクに対応することは困難です。 たとえば、想定される誤りや不正のリスクが実際に起きる可能性が低く、仮にリスクが現実になった場合に被る実害が僅少と判断されるような場合は、あえてリスクを甘受するという選択肢も考えられます。 あるいは、想定されるリスクに社内で対抗することが困難と判断される場合は、事業から撤退を図るという選択肢もあり得ます。会社が持つ人的な資源(リソース)が有限である以上、牽制と予防の仕組みに要するコストとそこから得られる便益を適切に比較衡量して対処を見極める経営判断が大切になります。   《5》 経営者が自ら社内の仕組みを無視ないし無効ならしめることがある 数年前、ある有名な自動車会社の経営者が、会社の制度や仕組みを自ら蹂躙するという事件が起こりました。その会社の内部統制報告書(上場企業が毎期、自社の内部統制の整備、運用の状況について評価した結果を広く表明する文書のこと)によれば、役員報酬等を調査した結果、代表取締役の役員報酬等が過少に計上されていたこと、会社の資金や経費が私的に流用されていたこと、予算外の支出を管理する制度を用いた不透明な支出の事実が明らかになったこと、経営者自らが内部統制を無効化させたこと、その背景には人事や報酬を含む権限の集中があり、経営者は適切な経営理念や倫理規程から逸脱する行動をとることのできる環境にあったと分析しています。 では、このような経営者の暴走に、どのように対抗したらよいのでしょうか。 全ての仕組みに限界があることを語るのは簡単です。しかし、仕組みにある限界を認識しつつ、他の仕組みを有機的に結びつけ、足りないところを補完して対応を図るというアプローチがあることを認識するのは、とても大切なことです。 (了)

#No. 429(掲載号)
#打田 昌行
2021/07/21

収益認識会計基準を学ぶ 【第9回】「履行義務の充足による収益の認識①」

収益認識会計基準を学ぶ 【第9回】 「履行義務の充足による収益の認識①」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回(第9回)は、履行義務の充足による収益の認識について解説する。 履行義務の充足により収益が認識されるので、どの時点で履行義務が充足されるのかを理解することが重要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務の充足 企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することにより、①履行義務を充足した時に又は②充足するにつれて、収益を認識する(収益認識会計基準35項、38項、39項)。   Ⅲ 一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識会計基準) 次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(収益認識会計基準38項)。 〈収益認識会計基準38項の要件〉   Ⅳ 一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識適用指針) 収益認識会計基準38項については、次のように収益認識適用指針において詳細な規定が設けられている。 1 顧客による便益の享受(収益認識会計基準38項(1)の要件) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受する履行義務(収益認識会計基準38項(1))の単純な例は、日常的又は反復的なサービス(例えば、清掃サービス)に関するものである(収益認識適用指針115項)。 顧客が便益を享受するかどうかを容易に識別できない場合には、収益認識適用指針9項の定めを考慮する(収益認識適用指針115項)。 収益認識会計基準38項(1)の要件に該当するかどうかを判定するにあたっては、仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に、企業が現在までに完了した作業を当該他の企業が大幅にやり直す必要がないときには、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するものとする(収益認識適用指針9項)。 他の企業が作業を大幅にやり直す必要がないかどうかを判定する場合には、次の①及び②の仮定を置く(収益認識適用指針9項)。 2 履行により、別の用途に転用することができない資産が生じること(収益認識会計基準38項(3)①の要件) 収益認識会計基準38項(3)①に定める資産を別の用途に転用することができるかどうかの判定は、契約における取引開始日に行う(収益認識適用指針10項)。 次のことに注意する(収益認識適用指針10項、116項~120項) 3 履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること(収益認識会計基準38項(3)②の要件) 収益認識会計基準38項(3)②に定める履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有しているかどうかの判定は、契約条件及び当該契約に関連する法律を考慮して行う(収益認識適用指針11項)。 履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有している場合とは、契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で顧客又は他の当事者が契約を解約する際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を企業が有している場合である(収益認識適用指針11項)。 次のことに注意する(収益認識適用指針11項、121項~122-2項) 4 履行を完了した部分についての補償額(収益認識会計基準38項(3)②の要件) 履行を完了した部分についての補償額は、合理的な利益相当額を含む、現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額である(収益認識適用指針12項)。 合理的な利益相当額に対する補償額は、次の①又は②のいずれかである(収益認識適用指針12項)。 5 履行を完了した部分について対価を収受する権利(収益認識会計基準38項(3)②の要件) 履行を完了した部分について対価を収受する権利の有無及び当該権利の強制力の有無を判定するにあたっては、契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等を考慮する(収益認識適用指針13項)。 当該考慮にあたっては、例えば、次の①から③を評価することが含まれる。   (了)

#No. 429(掲載号)
#阿部 光成
2021/07/21

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例61】株式会社東芝「定時株主総会の決議結果に関するお知らせ」(2021.6.25)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例61】 株式会社東芝 「定時株主総会の決議結果に関するお知らせ」 (2021.6.25)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社東芝(以下「東芝」という)が2021年6月25日に開示した「定時株主総会の決議結果に関するお知らせ」である。同日開催された定時株主総会において、取締役候補者のうち永山治氏(以下「永山氏」という)と小林伸行氏(以下「小林氏」という)の2名の選任案が否決されたという内容である。 この連載で同社の開示を取り上げるのは【事例21】以来なので、かなり久しぶりである。それまでは【事例1】【事例11】【事例16】と取り上げていて(もちろん最多)、さすがにもう取り上げることはないかと思っていたのだが。   2 調査報告書 東芝は、2021年6月10日に「会社法第316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書受領のお知らせ」を開示している。会社法第316条第2項は、株主の請求により招集された株主総会では、その決議により会社の業務及び財産の状況を調査する者を選任できるという規定である。同社は、2021年3月18日開催の臨時株主総会でその調査者を選任しており(同日「臨時株主総会の決議結果に関するお知らせ」を開示)、その調査報告書を受領したという内容である。 その調査の対象は、2020年7月31日に開催された定時株主総会が公正に運営されたか否かであり、議決権集計問題と圧力問題の2つの疑義について分析されている。議決権集計問題とは、定時株主総会の議決権行使の集計において不正があったのではないかという疑義であり、圧力問題とは、株主に圧力をかけて定時株主総会の議決権行使を断念させたのではないかという疑義である。 調査報告書は、議決権集計問題については同社の認識及び関与はなかったと結論付けているが、圧力問題については次のように結論付けている。   3 監査委員会 東芝は指名委員会等設置会社であり、企業統治優等生のように見えるのかもしれないのだが、以前この連載で同社の開示を取り上げていたときはそうではなかった。現在も変わっていないようである。調査報告書は、定時株主総会の不公正な運営に至った「原因の一端」として、監査委員会の機能不全をあげている。なんと監査委員長は圧力問題を認識していたという。調査報告書は、「そうであるにもかかわらず」として、次のように続けている。   4 選任されなかった2名 2021年3月18日開催の臨時株主総会に付議された調査者の選任案は、株主の提案によるものである。それに対して、東芝は2021年2月17日に「臨時株主総会の開催日時及び場所、付議議案並びに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」を開示し、反対意見を表明していた。その理由は、監査委員会による調査の結果、圧力問題は認められなかったから(議決権集計問題についても更なる調査は不要)、というものだった。 同社は、調査報告書を受領した後、2021年6月13日に「調査報告書を受けた当社の対応等について」を開示し、役員候補者を変更した。2021年5月14日に開示した「役員候補者決定のお知らせ」では取締役候補者とされていた太田順司氏と山内卓氏が外されたのだが、両名は監査委員だった。 そして、定時株主総会で選任案が否決された2名のうち、小林氏も監査委員だった。もう1人の永山氏の選任案が否決されたのは、彼が指名委員会委員長だったからかと思われる。監査委員だった小林氏を取締役候補者から外さなかった責任を問われたのだろう。報道によると(2021年6月29日付日本経済新聞)、公認会計士が取締役に必要との理由で小林氏(公認会計士)を取締役候補者から外さなかったらしいのだが。   5 あのときも 【事例21】では、東芝の特設注意市場銘柄指定解除が公正な判断によるものだったのか、それとも、同社側に立った判断によるものだったのかについて検討した。本当のところはわかり得ないとしても、今回の圧力問題を見ると、「やはりあのときも」と思えてくる。 今回の事態は、あのとき上場を維持させた結果だろう。同社は、2017年10月12日に特設注意市場銘柄指定が解除となり、その約1月後の11月19日に「第三者割当による新株式の発行に関するお知らせ」を開示し、約6,000億円を調達した。同社と対立することとなる物言う株主は、その増資の結果、同社の株式を持つこととなったのである。 上場を維持し、大規模増資を行った場合にどういうことが起きるか想像できなかったのだろうか。相変わらず株主のことを、金は出しても口を出さない存在と見ていたのだろうか。それとも、いざというときは再び誰かが助けてくれる(今度は経済産業省?)とでも思っていたのだろうか。やはり、あのとき上場廃止になっていた方が、同社にとっては良かったのではないだろうか。 (了)

#No. 429(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/07/21
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