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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第6回】「残余利益分割法を採用した場合、合算利益にロケーション・セービングの問題があるときの対応」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第6回】 「残余利益分割法を採用した場合、合算利益にロケーション・セービングの問題があるときの対応」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 残余利益分割法を採用した場合、合算利益にロケーション・セービングの問題があるときはどのように対応すべきか。 〔A〕 関連者の果たす機能、引き受けるリスク及び使用する資産などと関連する事実関係全ての分析に基づいて比較可能性を調整すべきである。 ●●●〔解説〕●●● 1 OECD移転価格ガイドラインによるアプローチ 「OECD 多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン(2017年版)」(以下「ガイドライン」という)では、「ロケーション・セービングは、多国籍企業グループが業務の一部を、当初の業務遂行地よりもコスト(人件費、不動産コスト等)の安価な場所に移管する場合に生じる」(パラグラフ9.126)としている。多国籍企業グループが業務の一部を国外の特定の市場に移管し、その結果、組織再編後に重大なロケーション・セービングが得られる場合、当該利益を複数の関連者間でどのように配分するかについて、ガイドラインは次の検討が必要になると述べている(パラグラフ1.141)。 (※1) 井藤正俊『移転価格の実務Q&A』(清文社・2020年)243頁は、「原価低減部分を、非関連者又はサプライヤーに完全に配分されているか否かを確認します。(中略)ロケーション・セービングのメリットを販売価格に反映させ、進出市場の販売価格を低価とすることで、競合する他社との競争に打ち勝ち、市場を一気に席巻するなどの事業・価格戦略をとる場合などです」と述べている。 識別されたロケーション・セービングの利益について、顧客又はサプライヤーへ配分されず、グループ内に残された場合、機能分析により、信頼し得る比較対象取引が把握可能であれば、それを用いて独立企業間価格を算定することとなる。ガイドラインは、「信頼し得る現地市場の比較対象が存在し、独立企業間価格の算定に利用可能である場合、ロケーション・セービングのためだけの比較可能性の差異調整は特に必要ない」(パラグラフ1.142)と述べる。ただし、比較対象が存在しない場合は、「関連者の果たす機能、引受けるリスク及び使用する資産など関連する事実関係全ての分析に基づくべきである」(パラグラフ1.143)(※2)としている。 (※2) 同パラグラフは2017年版ガイドラインにて新設された。 ガイドラインは、ロケーション・セービングの利益の取扱いの具体例として、次の(1)、(2)を挙げている(パラグラフ9.128~9.131)。 (1) ロケーション・セービングの利益が国外関連者に配分されないケース (2) ロケーション・セービングの利益が国外関連者に配分され得るケース   2 裁判例 《本田技研工業事件》(※3) (※3) 第一審は、東京地裁平成26年8月28日判決(平成23年(行ウ)第164号、TAINSコード:Z264-12520)。その控訴審は東京高裁平成27年5月13日判決(平成26年(行コ)第347号、TAINSコード:Z265-12659)。いずれも判例集未登載。 前回に引き続き、残余利益分割法の適用が争われた本田技研工業事件を取り上げる。事案の概要については、前回記事を参照されたい。 (1) 判決の要旨(基本的利益の算定について) 残余利益分割法の第一段階である基本的利益の算定に際し、比較可能性のある比較対象法人を選定することが基本となるところ、処分行政庁は、マナウス税恩典利益を享受するP1社等の比較対象法人として、マナウスフリーゾーン外のサンパウロ近郊の企業(※4)を選定した。本件の第一審である東京地裁は、マナウス税恩典利益を享受していない企業は、P1社等との比較可能性を有しないと判示した(※5)。 (※4) マナウスは、ブラジル経済の中心地サンパウロから遠く離れたアマゾン川流域の都市とのことである。マナウスでは、外資誘致のため、憲法上の自由貿易地域として税恩典が講じられている。このような地域の企業とサンパウロの企業の営業利益率が同等であるべきとするのは、社会通念上相当に無理があるという見解が多い(水野忠恒・国際税務35巻3号65頁、佐藤修二・租税判例百選[第6版]143頁等)。 (※5) 本件控訴審である東京高裁平成27年5月13日判決(平成26年(行コ)第347号)も、原審判断を支持した。その後、国側が上告しなかったため、本件控訴審判決は確定した。 (2) 処分行政庁の主張について 処分行政庁は、マナウス税恩典利益が基本的利益の算定ではなく、残余利益として認識することが適当な理由として、以下の主張をした。 処分行政庁の考え方は、マナウス税恩典利益を、ロケーション・セービングによる利益として認識し、残余利益分割法の適用上、分割対象となる残余利益に含め、内国法人と国外関連者が有する無形資産の寄与の程度に応じて分割すべしというものと思われる。 しかし、東京地裁は、①マナウス税恩典利益を享受する法人は、事業規模の大小にかかわらず、そのような税恩典利益を享受できない場合と比較して、より高い営業利益率を得られることは明らか、②P1社等がマナウス税恩典利益の享受によって得た利益は、X及びP1社等の有する重要な無形資産の貢献によって初めて得られたものであるとか、X及びP1社等の有する重要な無形資産の貢献と極めて密接な関係にあるということはできない、及び③P1社等が事業規模を拡大するに当たり、X及びP1社等の有する無形資産が寄与したということはできるとしても、そうであるからといって、マナウス税恩典利益を基本的利益の算定において考慮せずに、これを残余利益として認識し、本件国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するのは、残余利益分割法の適用を誤るものというべきであるとして、いずれも処分行政庁の主張を排斥した。 (3) まとめ 本件では、残余利益分割法の適用上、マナウス税恩典利益について、事業活動を行う市場の条件に基づくものとして基本的利益として認識し、国外関連者に帰属し得るものとして捉えるべきか、あるいは、残余利益として認識し内国法人と国外関連者が有する無形資産の寄与の程度に応じて配分すべきかが問題とされ、判決では、基本的利益の算定に係る比較可能性の問題として整理されたと考えることができよう(※6)。 (※6) 本田光宏『ホンダ移転価格課税事件』税務事例(Vol.47 No.4)2015年4月号25頁参照。 (了)

#No. 418(掲載号)
#霞 晴久
2021/05/06

街の税理士が「あれっ?」と思う税務の疑問点 【第4回】「長屋等のつながっている建物における判断(後編)」~ケーススタディ~

街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第4回】 「長屋等のつながっている建物における判断(後編)」 ~ケーススタディ~   城東税務勉強会 税理士 大塚 進一   問 題 父親所有の土地(面積200㎡)の上に、二世帯住宅があり、父母世帯と長男世帯がそれぞれ別個の独立部分に居住し、家賃や地代の支払はなしとします。父親が死亡した場合に土地と建物をすべて長男が相続し、相続税の申告期限まで居住し所有する時、小規模宅地等の特例はどのようになりますか。なお、母親は存命で長男は「家なき子」ではないとします。 回 答 次のように場合分けし、下記国税庁タックスアンサーの表の左側から適用の有無を考察します。なお、特に記述がない場合、建物内部で行き来できないものとします。 考 察 *  *  * ◎特定居住用宅地等の要件(3の経過措置除く) (注1) 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分②に該当する部分を除きます。)を含みます。 (注2) 「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族」とは、次の(1)又は(2)のいずれに該当するかに応じ、それぞれの部分に居住していた親族のことをいいます。 (1) 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が、区分所有建物である旨の登記がされている場合 被相続人の居住の用に供されていた部分 (2) (1)以外の建物である場合 被相続人又は被相続人の親族の居住の用に供されていた部分 *  *  * (※) 国税庁タックスアンサー「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」より抜粋し、筆者一部改変。 (了)

#No. 418(掲載号)
#城東税務勉強会
2021/05/06

〔Q&Aで解消〕診療所における税務の疑問 【第6回】「医療法人所有不動産の固定資産税の非課税・減免制度」

〔Q&Aで解消〕 診療所における税務の疑問 【第6回】 「医療法人所有不動産の固定資産税の非課税・減免制度」   税理士法人赤津総合会計 税理士・医業経営コンサルタント 赤津 剛史   【Q】 医療法人が所有する不動産には固定資産税がかからないものがあると聞きました。その内容について教えてください。 【A】 医療法人が所有する不動産のうち固定資産税が非課税となるものは、地方税法第348条第2項に規定されています。また、自治体によっては、診療所建物に独自の減免制度を設けている場合もあります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● ① 固定資産税が非課税となるもの 医療法人が所有する不動産で下記の用に供されるものは非課税とされます。   ② 固定資産税が減免されるもの 地方税法では定めがないものの、自治体が独自に減免制度を設けている場合があります。例えば、東京都では、「保険医療機関が診療の用に供する家屋」については、固定資産税の減免を受けることができます(※)。 (※) 東京都主税局ホームページ参照。 固定資産税の「非課税」や「減免」の適用を受けるためには、申請が必要となります。該当の可能性がある不動産を取得する際は、申請方法を確認することが重要です。   ③ 生産性向上特別措置法に基づく固定資産税の減免適用対象者 上記①、②以外にも、生産性向上特別措置法に基づき「先端設備導入計画」の認定を受けた設備は、固定資産税の課税標準を取得後3年間ゼロとする特例規定があります。この適用については、診療所を経営する個人医師は対象となります。一方、医療法人は対象外となりますので注意が必要です。 先端整備等導入計画の認定を受けられる中小企業者は、一定の要件を満たす会社及び個人事業者等です。中小企業者の範囲は中小企業等経営強化法第2条第1項に基づきます。当該条項に該当しない、「一般社団法人」「一般財団法人」「医療法人」」「社会福祉法人」「NPO法人」「農業協同組合」「農事組合法人」「森林組合」「漁業組合」などは、認定対象となりません。 (了)

#No. 418(掲載号)
#税理士法人赤津総合会計
2021/05/06

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第28回】「譲渡時に居住している家屋が親族の所有である場合」-生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第28回】 「譲渡時に居住している家屋が親族の所有である場合」 -生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、大阪にあるX所有の家屋に妻Y及び子Zと一緒に居住していました。5年前、東京本社へ転勤となったためYと共に東京のYの父親名義の家屋へ転居して、大阪にある家屋にはZだけが居住し、Zは大阪にある大学にその家屋から通学していました。 本年3月、Zは大学を卒業して東京の会社に就職したことから、同年4月に大阪の家屋を売却したところ多額の譲渡損失が発生し、Xが銀行に住宅ローンを組んで東京に新居を購入、現在、妻子と共に住んでいます。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡資産であるその所有する家屋が、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に定める家屋に該当しない場合であっても、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)に定める全ての要件を満たしているときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができることとされています(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 そして、措通31の3-6(4)において、その所有者の居住の用に供している家屋は、その所有者の所有する家屋でないこととされています。 したがって、本事例の場合、譲渡物件の所有者であるXは、譲渡時において居住している家屋が妻Yの父親名義であることから、つまり、譲渡者が現に居住の用に供している家屋が譲渡者自身の所有に係るものでないことから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

#No. 418(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/05/06

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第87回】「業務委託に関する契約書②(市場調査業務委託契約書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第87回】 「業務委託に関する契約書②(市場調査業務委託契約書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は服飾会社です。〇〇製品に係る市場の状況の調査について、〇〇データ株式会社に委託することとし、下記の契約書を作成する予定ですが、印紙税の取扱いはどうなりますか。 第2号文書(請負に関する契約書)に該当する。   [検討] 請負契約に該当する判断 事例における「市場調査業務委託契約書」は、製品の販売にともなって、その製品に関する市場における調査分析を委託する契約であるが、第2条において、調査結果について、報告書及び販売戦略企画書を作成し、その成果物に対して報酬が支払われることとされている。このことから、仕事の完成を目的としており、請負契約に該当すると判断される。   ▷まとめ 市場調査の実施のみを目的とする場合は、一般的には準委任契約に該当することとなる。しかし、単なる市場調査の実施のみだけでなく、調査結果を、報告書及び販売戦略企画書に取りまとめて提出させることとされ、その成果物をもって報酬を支払うこととされるため、仕事の完成を目的とし、請負契約と判断される。 ただし、委任契約においても、受任者には委任者の請求がある場合又は委任終了後にもその報告をすることを要することとされている(民法645条)。単に結果の報告があるからといって、すべて請負契約に該当するとは限らない。 このような一定の調査分析を委託する契約は、契約条項の内容により、事例のような請負契約と判断される場合がある。 (了)

#No. 418(掲載号)
#山端 美德
2021/05/06

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第14回】「他人事ではいけない調査の心得」~調査機関の会計的視点編~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第14回】 「他人事ではいけない調査の心得」 ~調査機関の会計的視点編~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの調査機関の会計的視点を売り手の実態把握に活かす。 売り手企業 ⇒M&Aの調査で特に見られている取引や調査機関の会計的視点を知る。 支援機関(第三者) ⇒M&Aの調査機関による会計的視点を知ってM&Aの助言と支援に活かす。 その他の対象者 ⇒M&A調査のポイントを通じて対象企業の見方・見られ方のヒントにする。   1 調査で重視する時間軸と評価軸 調査機関が売り手企業に対して実施する調査は、主に財務の視点から売り手の実態把握に努める財務デューデリジェンス(財務DD)という方法が多くとられます。では、財務につながるすべての事項をくまなく調べているかというと、そうとは限りません。通常、調査には時間や人手の制約があるので、何を重視して、何を優先するかの方針を調査機関側であらかじめ決めてから臨む場合が多くなっています。 このとき、重視する項目や優先度合を考えるために欠かせないのが時間軸と評価軸です。時間軸や評価軸の影響を受けやすい勘定科目や取引については、調査機関がより重点的に調査を行います。 (1) 時間軸 時間軸とは、ある取引の会計(経理)処理をする上で早く計上するか遅く計上するかの計上時期を表します。本来計上すべき年月日よりも早く計上しているか遅く計上している場合、正しい年月日に会計処理を修正する必要があります。 時間軸が関係する取引は、収益や費用の計上時期といったP/Lの数値に影響する取引で多く見られ、中小企業M&Aの調査の過程では、修正しなければならない取引として、多く指摘されるものの1つです。このケースで会計処理の修正を伴う取引の中には、うっかりによるミスだけでなく、ごく稀に意図的ではないかと疑われるものも含まれます。 調査“時点”の売り手の実態把握が財務DDの主な目的なので、日付が正確に記録されているかどうかは調査機関にとっての重大な関心事であり、「誤りが多い場合」や「多額の誤りがある場合」、「意図的に計上時期を歪めている場合」は、調査機関や買い手の心証を害する恐れがあります。 調査で計上時期を疑うケースは比較的期末日前後の取引に集中しやすいので、売り手としては、毎年の決算期末日前後の取引については、特に意識して正しい時期に会計処理をするよう気を付けたいものです。 加えて、経過勘定といわれる前払費用、未収収益、前受収益、未払費用といった主に決算整理で使用されるこれらの勘定科目については、毎期、計上漏れや誤りがないかどうかを確認します。 (2) 評価軸 上記(1)の時間軸に比べて、評価軸は、売り手の会計処理自体は誤っているわけではないけれど、調査時点の売り手の実態を数値でよりリアルに表現する必要性から帳簿価額(簿価)を修正する場合が多い性質のものです。売掛金や未収入金について相手先からの代金回収が確実といえない場合に、引当金を積むほどではないので取引時点の簿価のまま計上していたが、調査機関としては回収が不確実な金額を織り込んで、より保守的に損失とみなして修正するようなケースが想定されます。 この軸に該当する取引(勘定科目)としては、ほかにも次のようなケースが想定されます。主にB/Sの資産の部に計上する勘定科目がこの軸の中心になります。 【評価軸に該当する取引(勘定科目)と想定されるケース】 ◆在庫(原材料、仕掛品、商品・製品など) 陳腐化、型落ち、季節外れ、規格変更などの理由で簿価ほどの売値にならない場合に評価損とみなす場合があります。 ◆有価証券・ゴルフ会員権・デリバティブ取引(金融機関に勧められた金利スワップやオプション取引など) 市場価額、実質価額(投資・出資先の1株当たり純資産額)の含み損益を加味した評価額とする場合や、50%以上時価が下落している有価証券に損失があるとみなす場合があります。 ◆貸付金・立替金 長期の未回収や回収が滞っている相手先からの回収が困難なものと判断して損失とみなす場合があります。 ◆預け金・入会金・保証金・出資金・電話加入権 契約書記載の内容や契約実態などから返還予定がないと考えられる取引については、回収されない(換金しがたい)資産と考え、損失とみなす場合があります。 ◆不動産(主に土地・建物) 不動産鑑定評価額、公示価格(相続税路線価などにより把握する場合も含む)、近隣の売買事例による取引価格、固定資産税評価額などの把握を通じて、現在の価額が簿価を上回る又は下回る場合に含み損益を加味した評価額とする場合があります。調査の多くの場合で、含み損=評価損の有無に着目します。 ◆償却資産(減価償却を行う有形固定資産など) 減価償却費の不足又は超過があると考えられる場合に簿価を修正(加減算)する場合があります。 ◆保険積立金 解約返戻金の額などについて、保険会社を通じて確認した結果を踏まえて帳簿価額を修正する場合があります。 (3) 引当金 将来予想される損失や発生しそうな費用の金額を現時点で見積もっておくための引当金について、会計のルール(会計基準など)を踏まえた会計処理を行い、M&Aの調査時点での売り手の実態を表すために反映させる場合があります。 中小企業のM&Aの調査過程で修正がよく見られる引当金の種類は、「賞与引当金」「退職給付引当金」「役員退職慰労引当金」です。帳簿上これらの引当金を計上していない場合が多いですが、過去に役員・従業員に対する賞与や退職金の支払い実績がある、あるいは、今後の支払い予定があるとき、近い将来において会社から支払われる賞与や退職金の予定金額を合理的に見積もることができる場合には、これらの引当金を調査上の必要性から計上する場合があります。   2 「あるのにない」「ないのにある」ように見せる会計処理は論外 取引がないのに架空の取引を装って会計処理がされている(決算書に計上する)ケース、取引があるのに会計処理を避ける(決算書に計上しない)ケースを稀に見かけます。いずれもM&A以前の問題ですから当然にタブーですし、このような取引が発覚すると、買い手の信用はおろか、取引金融機関からの信頼まで失います。M&Aの調査にあたって売り手は過不足なく、すべての取引が網羅的に会計処理を通じて決算書に計上されていて、計上している取引はすべて実在するものであると確証を得られるようにするための普段の心がけが肝心です。 調査機関からすれば、決算書に計上されている取引であれば調査を通じて誤りの発見が可能ですが、計上されていない取引の発見は難しく、過去の資料などを手掛かりに地道な調査を行うしかありません。それだけに発見や発覚による影響は大きく、M&Aの成立にも影響します。 (了)

#No. 418(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/05/06

コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点 【第1回】「解雇を行う場合の留意点」

コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点 【第1回】 「解雇を行う場合の留意点」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   はじめに 2020年1月に日本国内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されてからすでに1年3ヶ月が経過している。この間、収束するかに見えた時期もあったものの、2021年1月には再度の緊急事態宣言が発令され、また、3月以降は変異ウイルス感染者の増加がみられるなど、依然として先行きが不透明な状況が続いている。 厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」によれば、新型コロナウイルス感染症に起因する解雇・雇止めの見込み労働者数は累計で102,153人(2021年4月23日時点)であり、この長期混乱の中で、解雇や雇止めを選択せざるを得ない会社が多い状況になっている。しかし、コロナ禍であっても、安易な解雇や雇止めは訴訟などの労務トラブルにつながりかねない。 そこで本稿では、解雇・雇止めについての基本的な考え方やコロナ禍における留意点を2回にわたって確認したい。 第1回は、「解雇」についてその留意点を確認する。   1 解雇 労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定している。 解雇は、使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了であるため、容易には認められず、その実施にあたっては客観的合理性と社会通念上の相当性が求められ厳しく制限されている。   2 整理解雇 解雇には、大きくわけて「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、また、普通解雇の1つに「整理解雇」がある。 整理解雇は、業績不振などの経営上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇用調整の1つである人員削減のために行われる解雇をいうが、裁判例からその有効性は次の4要件(要素)から判断されると解されている。 〈整理解雇の4要件〉 ① 人員削減の必要性 人員削減のための解雇が企業経営上の必要性に基づいているか。 ② 解雇回避努力 人員削減のための解雇を実施する前に、配置転換、出向、一時休業、希望退職の募集などの手段により解雇を回避するための努力をしたか。 ③ 人選の合理性 人員削減のための解雇の対象者の選定基準は、客観的・合理的で、それを公正に適用したか。 ④ 解雇手続の妥当性 労働組合や労働者に対して、人員削減のための解雇の必要性やその時期・規模・方法、解雇対象者の選定基準について納得を得るために説明を行い、誠実に協議したか。   3 コロナ禍における解雇 コロナ禍における業績不振のため人員削減をせざるを得ない場合に行う解雇は、前述の整理解雇にあたる。したがって、解雇するにあたっては、コロナ禍であっても前述の整理解雇の4要件(要素)を踏まえた対応検討が必要になる。 また、以下の点を補足したい。 (注1) 長栄運送事件(神戸地裁平成7年6月26日判決・労判685号60頁):判決理由の中で、「人員整理の必要性について、阪神大震災による道路事情の悪化、港湾施設の甚大な被害による港湾運送業者の業績の悪化を挙げるが、道路事情は震災直後の事情からみれば急速に改善されつつあるし、港湾施設の復旧も急ピッチでなされていることは顕著な事実であり、震災後、(一部省略)解雇までの間に6名が退職している事実もあり、整理解雇の必要性について疎明があるものとはいいがたい」と言及された。 (注2) 雇用調整助成金:事業活動の縮小を余儀なくされた場合に従業員の雇用維持を図るため休業などを実施する事業主に対して休業手当などの一部を国が助成する制度。   4 解雇制限など 整理解雇の4要件(要素)を踏まえて解雇する場合であっても、解雇にあたっては次のルールがあるため注意が必要になる。 (1) 解雇制限(労働基準法19条) 業務上の傷病により療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇することができない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、制限規定が除外される。 (2) 解雇の予告(労働基準法20条) 解雇しようとするときは、30日前に予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、予告規定が除外される。 なお、予告の日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができる。 (3) 再就職援助計画(労働施策総合推進法24条) 事業規模の縮小等に伴い、1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者をいい、自己都合による退職者等は含まれない。ただし、事業規模の縮小等に起因する事情による離職者は含まれる)が見込まれる場合、最初の離職者が生じる日の1ヶ月前までに「再就職援助計画」を公共職業安定所に提出して認定を受けなければならない。 (4) 大量雇用変動届(労働施策総合推進法27条) 1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者のほか、自己都合による退職者等も含まれる)が発生する場合、最後の離職が発生する日の1ヶ月前までに「大量雇用変動届」を公共職業安定所に提出しなければならない。   *   *   * 次回は、「雇止め」の留意点について確認する。 (了)

#No. 418(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2021/05/06

対面が難しい時代の相続実務 【第1回】「コロナショックがもたらした激変」-コロナ“以前”と“以後”の現場の状況-

対面が難しい時代の相続実務 【第1回】 「コロナショックがもたらした激変」 -コロナ“以前”と“以後”の現場の状況-   クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎   1 2020年コロナショックによる激震 令和の時代は、期せずして「コロナ」という3文字とともに歩みを始めた。 2020年1月のダイヤモンド・プリンセス号の一件から始まった“コロナショック”によって、文字どおり、日本を含めて世界中の、さまざまな場面での日常生活は激変した。 本連載は、現在もまだコロナウイルスの感染拡大が終息しない状況のもとで、①コロナがもたらした「人との接触・対面をできるだけ避けるべき(非対面・非接触)という社会的要請」と、従前からの社会の動きである「IT化・オンライン化」という波が相続実務にどのような影響を与えているか、そして、②このような状況下で、われわれ実務家はどのような工夫ができるかを考えてみたい。 なお、税理士や弁護士といった士業の日常業務で非対面化・非接触化が問題とされる場合、大きく分ければ、 の2つの側面に大別されよう。 本連載では、このうち「(1)事務所の「外」との関係」を取り上げることにしたい。   2 筆者の日常業務において実際に起こった変化 検討の出発点として、第1回では、コロナ下で推移した2020年3月以降において、筆者自身の日常業務に起こった変化を具体的に紹介したい。 相続実務に関係するものとして、次のような場面での変化が挙げられる。 場面①-法律相談・依頼者との打合せ コロナによってまずもって大きく変化した点は、この場面である。 従来も、依頼者が遠方に居住していたり、深夜の時間しか空きがないような場合には電話やメールでの打合せを行ってきたが、大部分は事務所に来所してもらい、直接顔をあわせて打合せを行ってきた。 コロナ前は、Zoom等を利用してオンライン上でお互いの顔が見える形で打ち合わせることは、筆者の事務所では実施した例はなかった(依頼者の側からも特にそのような要望はなかった)。 しかし、コロナ後は、上記のあり方が180度転換した。 相談・打合せは原則として電話やメール、Zoomを利用した非対面方式で実施するようになった。これは、既存の顧客でも新規顧客でも変わりはない。 打合せの内容や依頼者の希望によっては、現在でも面談で打合せを行うこともあるが、会議室のイスの配置や打合せ中・打合せ後の室内の換気やテーブルの消毒等、感染防止に配慮しようとするといろいろな手間がかかるのが実情である。 それもあって、筆者の場合は、極力、来所・面談での打合せは遠慮していただくようお願いをしている。 場面②-相手方弁護士との示談交渉 従来は、たとえば遺産相続に関連して相手方となる本人や代理人弁護士と交渉を行う場合、相手方が遠方のときは別として、事務所や弁護士会館の打合室にて面談し、リアルの場で示談交渉を行うのが常であった。 しかし、コロナ後は、このような示談交渉の場面でも電話やZoom等を利用することで、なるべく対面・面談を避ける形で交渉を行っている。 お互いに東京在住で、会おうと思えば会える距離の弁護士同士がZoom等を使って示談交渉を行うという方式は、コロナ前にはまったく考えつかなかった発想であった。 場面③-民事裁判手続 通常の民事訴訟の場合、大半の事件では1回の裁判期日はおよそ5~20分前後である。このような短時間のやり取りのためだけに、わざわざ電車を乗り継ぎ、遠方であれば移動時間だけでも半日近くを費やすような状況が、長年にわたり当たり前の状態にあった。 しかし、コロナ後は、以前は電話会議システムの利用が許可されなかった近隣の裁判所(筆者の場合であれば、最寄りの東京地裁など)の事件でも、裁判所のほうから積極的に、電話会議や新たに導入されたウェブ会議システムを利用した形での手続進行を打診されるケースが非常に多くなった。 ただし、家事調停事件や高裁の事件は、東京での取扱いを見る限り、2021年5月現在では電話会議やウェブ会議システムへの切替えはまだそれほど進んでいないようである。 場面④-研修・研究会等 筆者が個人的にありがたいと思っていることの1つが、上記の場面である。 コロナ以後は、研修会やセミナー、学会等はほぼ全てがオンラインに切り替わった。従来であれば、開催地が遠方であったりスケジュールが合わない場合には研修等への参加が難しかったが、オンラインで開催・配信されることにより、開催地や移動時間が障害とならずに、自宅で気軽に参加できるようになった。 特に、海外で開催される学会やシンポジウム、海外のスピーカー(演説者)が主催するセミナーについては、従来は長期の休みを取り、飛行機に乗って海外のセミナー会場に出向いて参加するしか方法がなかった。これらがコロナ後はこぞってオンライン開催されることにより、渡航費や宿泊費、移動時間も要せずに自宅にいながらにして参加できる機会が増えたことは非常にありがたい。 コロナが沈静化した後も、ぜひこのような取扱いを続けてほしいと思っている。   3 相続実務の現場に押し寄せる“非対面化の波” 冒頭でも触れたように、もともと社会のIT化の流れによって進んでいた“オンライン化”の波に、コロナによる“非対面・非接触”の社会的要請とが合わさることにより、今後もより一層、相続実務のあらゆる場面で“非対面”方式の導入が進んでいくことは疑いがないものと思われる。 そこで、本連載では、相続実務で頻出するような具体的場面を取り上げ、コロナ後に筆者がどのような取組みや工夫をしているか、また筆者が見聞きした範囲でどのような取組みがなされているかを紹介していきたい。 なお、弁護士と公認会計士・税理士の先生方との業務内容や関心の違いというものが少なからずあると思われるため、連載を読まれての疑問や質問、テーマのご要望等がもしおありであれば、ぜひお寄せいただきたいと思う。 (了)

#No. 418(掲載号)
#栗田 祐太郎
2021/05/06

空き家をめぐる法律問題 【事例34】「空き家を売買する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例34】 「空き家を売買する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、相続した建物を所有していますが、売却をしようと考えています。空き家バンクに登録をして買主を見つけようと思いますが、空き家バンクの場合、買主と直接交渉する必要があると聞いたこともあります。 空き家バンクを利用して売却をする場合、どのようなことに留意すればよいでしょうか。   1 はじめに 空き家を売却しようとする場合、まず問題となるのは、どのようにして買主を見つけ、どのような条件で売却するかであろう。また、空き家は老朽化しており、売買契約後に法的紛争が発生するリスクも新築物件に比べて高いと思われるため、紛争発生を予防する方法も検討しておく必要がある。 そこで、今回は、空き家のような中古住宅を売却する場合の留意点について検討することとしたい。   2 空き家バンクの利用と媒介契約の要否 近年、地方公共団体の中に、空き家の売却等を促すため、空き家バンクを設置し、空き家の売主と買主とのマッチング事業を行うところが増えている。地方公共団体の位置付けは、空き家情報の登録と情報提供に留まるが、宅地建物取引業者の媒介を受けることを空き家バンクの登録の条件としているところもあれば、当事者間で直接交渉を認めるところもある。 仲介手数料を支払う必要がなくなるため、特にコストを下げることを希望している契約当事者からすれば直接交渉による方法を選択することにメリットがあると思われる。一方で、中古住宅に関する紛争予防の観点からも、媒介契約の要否を検討しておく必要がある。 この点に関して、中古住宅に関する建物状況調査(※)に関する平成28年の宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)の改正が注目される。宅地建物取引業者は、①媒介契約締結時に、依頼者に対して、建物状況調査を実施する者のあっせんの有無を説明するとともに(同法第34条の2第1項第4号)、②建物状況調査を実施したときは、重要事項説明時に、その結果を説明する義務を負う(同法第35条第1項第6号の二イ)。また、宅地建物取引業者は、③売買契約の締結時に、基礎、壁、柱のような構造耐力上主要な部分の状況を双方当事者と確認し、その結果を書面で交付することとなった(同法第37条第1項第2号の2)。 (※) 建物状況調査とは、建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の侵入を防止する部分として国土交通省令で定めるものの状況の調査であり、同省令で定める者によって行われるものをいう(宅建業法第34条の2第1項第4号)。なお、実務上、インスペクションとも呼ばれている。 このように、中古住宅については、宅建業法上、建物状況調査を実施するか否かを検討する機会が保障されており、実際に調査が行われる場合には、当該建物の状態を当事者の共通認識とすることができる。このことは、下記3で言及する紛争予防の観点から有益であり、直接交渉によるよりも媒介契約を利用した方が適当であるように思われる。   3 現状有姿条項と瑕疵担保責任・契約不適合責任 従来、売買の目的物に瑕疵がある場合、売主は、買主に対して、瑕疵担保責任を負う旨規定(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)第570条)されており、当該瑕疵の有無は、当該売買契約において予定されていた品質・性能に照らして、売買契約当時の取引観念等を踏まえて判断するものと解されていた(最判平成22年6月1日民集64巻4号953頁)。 具体的には、瑕疵の有無は、当該目的物の利用目的やこれに対する各種規制等を踏まえて、当該空き家が通常有すべき品質や性能を有しているかを判断することになる。なお、東京地判平成29年1月12日判タ1455-241は、シェアハウスについて、一般的な居宅であるもののシェアハウスとして利用されている性状の目的物と認定した上で、契約締結当時、シェアハウスが建築基準法上の寄宿舎に該当する旨の国土交通省の通知が発出されていなかったことを理由に、同法に関する公法的規制を考慮することなく、瑕疵の有無を判断しており、瑕疵の有無の判断方法を理解する上で参考となる。 また、不動産の売買契約においては、目的物を現状有姿で引き渡す旨の条項(現状有姿条項)が設けられることがあるところ、現状有姿条項がある場合に、売主は、そのことを理由に瑕疵担保責任を負わない旨主張できるだろうか。 裁判例では、現状有姿条項は、契約締結後から引渡しまでの間に、目的物の状態に変化があったとしても、売主は引渡時の状態で引き渡せば足りることを意味するに留まり、当該条項があるからといって、売主の瑕疵担保責任が免除されることまでは意味しないと解される傾向にある。 そのため、瑕疵担保責任の免除条項がない場合には、買主は、売主に対して瑕疵担保責任を追及できる可能性がある。逆に言えば、瑕疵担保責任の免除条項がない場合には、現状有姿条項が瑕疵担保責任を免除する意味まで含んでいるかどうかを、契約に至る目的や経緯等から解釈して判断することになる(もっとも、実際には、経年劣化等は、瑕疵の対象から外れるものと解釈される傾向にあるように思われる)。 現行民法においては、瑕疵担保責任は削除され、売主は、種類、品質、数量に関して、契約の内容に適合しないものである場合に責任(契約不適合責任)を負うルールに変更された(民法第562条)。そのため、契約不適合責任の判断に当たっては、当事者間において、どのような内容が合意されていたのかを、売買の経緯や目的、当事者の目的物の状態に関する認識等を考慮して判断していくことになる。 そうすると、どのような目的や前提で売買契約を締結したのかを事後的に確認できるかが重要となる。この点、前掲東京地判が買主の利用目的を考慮したように、契約書に買主の利用目的を記載しておくことも有益であろう。 また、上記2のとおり、宅地建物取引業者の媒介がある場合には重要事項説明が行われ、建物状況調査が行われるような場合には、当事者間が前提とした目的物の状態を特定することも比較的容易である。これに対して、当事者間のみで直接交渉をして契約書を作成するような場合には、代替的な方法として、少なくとも目的物の状態等を買主との間で直接確認して書面化するような対応が望まれる。 (了)

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#羽柴 研吾
2021/05/06

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第44話】「中尾統括官、Twitterにハマる」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第44話】 「中尾統括官、Twitterにハマる」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「何をしているのですか?」 浅田調査官は、うつむきながら、しきりにスマートフォンの画面に指を走らせている中尾統括官に声をかける。 中尾統括官は、驚いたように顔をあげる。 「いや・・・」 中尾統括官は、照れ笑いをして、頭をかく。 浅田調査官は中尾統括官に近づき、スマホの画面を覗く。 「Twitter・・・ですか?」 浅田調査官は、真面目な顔をして、尋ねる。 スマホの画面には、Twitterのロゴマークである「青い鳥」が映っている。 「しかし、これは・・・面白いものだな・・・」 そう言うと、中尾統括官は満足そうに画面を見る。 「私のツイートに対して、実に反応が早いんだ。」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「この前なんて、こんなツイートをしたら・・・すごい反応があったんだ。」 中尾統括官は、自身がツイートした画面を浅田調査官へ自慢げに見せる。 「納税者に、租税回避をそそのかすようなことをツイートしては駄目ですよ。」 画面を見た浅田調査官は、渋い顔をする。 「問題点を指摘しているだけだよ。ただ・・・反応はすごいだろう・・・」 中尾統括官は、自慢そうに言う。 「まあでも・・・このImpressionsは、統括官のツイートがユーザーに表示された回数ですから、かなりの人が見た・・・ということですね。」 浅田調査官が感心したようにコメントする。 「ツイートには140字の文字制限があるから、ダラダラとは書けない・・・その意味で、Twitterは、文章力を鍛えるのに適している『場』であると思うんだ。」 中尾統括官は、ニヤリと笑う。 「それに、Total engagementsは、クリック、リツイート、返信、フォロー、いいね、などの好感度の合計数を示しているから、1,178という数字は、立派ですね。」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は満足そうに頷く。 「・・・ところで・・・所得税法56条は、なぜ、租税回避になるのですか?」 浅田調査官は、真面目な顔で質問する。 「それは、所得税法56条を適用すると、子は母親から地代を受け取るが、その地代は課税されない代わりに、母親の不動産所得の必要経費にもならない・・・結果的に子は無税で地代を受け取ることができる。・・・もちろん、母親は子の分まで税金を払うことになるが・・・母親の財産を減らして、子に財産を多く渡すという、相続税対策になるのでは・・・」 中尾統括官は、ペンを取り、図を描き始める。 「所得税法56条の適用がなければ、母親と子がそれぞれ申告し、次のようになる。」 「そして、所得税法56条が適用されると、子の税金については、結果として、母親が負担することになるから、次のようになる。」 中尾統括官は、ペンを動かしながら、説明する。 「そうすると、所得税法56条を適用することによって、母親の財産の一部が無税で子に移転したことが、これを見れば分かるだろう。」 中尾統括官は、満足そうに、自分の図を見る。 「・・・ということは、納税者は、所得税法56条を使って、相続税対策ができる・・・ということなのですね。」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「私は・・・以前から、ここが所得税法56条の問題点だと思っていたから・・・つい余計なことをツイートしてしまったんだ。」 中尾統括官は、頭を掻きながら、苦笑いをした。 (つづく)

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