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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第45話】「株式交付制度と税制改正」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第45話】 「株式交付制度と税制改正」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   昼休みに中尾統括官は、机に新聞を広げて、じっと読んでいる。 「会社法の改正か・・・」 中尾統括官は、一人でつぶやく。 「何の記事を読んでいるのですか?」 昼食を終えた浅田調査官が声をかける。 「『資金なくてもM&A推進』・・・?」 浅田調査官は、新聞記事をのぞき込む。 「株式交付制度だよ。」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「株式・・・交付制度?」 今度は、浅田調査官が中尾統括官の顔を見る。 「株式交付制度は、令和元年に会社法が改正され、今年の3月1日から施行となった・・・そして、それに係る税制改正も今年度行われた・・・」 中尾統括官は、新聞記事を見ながら説明する。 「会社法の改正が行われると、その後、税制改正が行われる・・・資産等の移動が伴う場合、キャピタルゲインの課税が発生するから、それを税法で手当てしなければ会社法はワークしない・・・この株式交付制度も、会社法だけではどうしようもない。」 中尾統括官の説明に、浅田調査官はうなずく。 「ところで・・・株式交付制度って何ですか?」 浅田調査官は、照れ笑いをして尋ねる。 「・・・株式交付制度を知らないのか?」 中尾統括官は、呆れた顔をする。 「・・・株式交付制度は、買収に乗り出す会社が対象会社の株主から株式を譲り受け、その代わりに自社株を渡すというものだ・・・」 そう言うと、中尾統括官は机の引出しから罫紙を取り出し、図を描く。 「なるほど・・・でも・・・株式交換でも同じことができるのではないですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「うん、なかなか良い質問だ。」 中尾統括官は、満足そうにうなずく。 「株式交換は、主として、持株会社の設立に用いることを想定した制度で、これを使う場合、買収会社は、被買収会社の発行済株式の100%を取得することになっている・・・そうすると、買収会社が被買収会社を完全子会社化することを予定していない場合、株式交換は使えない・・・」 中尾統括官の説明は、明解である。 「それでは・・・買収会社は、被買収会社の株式を現物出資財産として自社株式の募集をすればよいのでは・・・いわゆる現物出資の手法ですけど・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見ながら言う。 「・・・現物出資は、原則として検査役による調査が必要となる点などが障害となって、実務上、なかなか実行できない・・・そこで、実務界の強い要請を受けて、株式交付制度が導入されたわけだ・・・」 中尾統括官の説明に、浅田調査官は納得した表情でうなずく。 「ところで、株式交付について、税法でどのような改正が行われたのですか?」 浅田調査官が再び尋ねる。 「租税特別措置法で、所得税と法人税について、それぞれ改正されている。」 そう言うと、中尾統括官は「所得税法等の一部を改正する法律案新旧対照表」を取り出して、「租税特別措置法37の13の3」(所得税)と「租税特別措置法66の2の2」(法人税)の条文を見せる。 「例えば、この措置法66の2の2は、次のように書かれている。」 中尾統括官は、括弧書きを飛ばして、条文を読み上げる。 「これを算式にすると、次のようになる。」 中尾統括官は、罫紙に算式を書く。 「この算式から分かるように、現金等の支給がなければ、『株式交付子会社の簿価-株式交付子会社の簿価』となって、キャピタルゲインは発生しないことになる。」 中尾統括官は、措置法66の2の2の条文をもう一度見て、さらに説明を加える。 「・・・そして、括弧書きで・・・交付を受けた金銭等(株式交付親会社の株式を除く)が交付価額の合計額の20%以下であれば、株式交付子会社の株式につき、交付を受けた金銭等に対応する譲渡損益は課税されるが、株式交付親会社の株式に対応する譲渡損益は、課税を繰り延べることができる・・・となっている。」 浅田調査官は、中尾統括官の説明に大きくうなずく。 (つづく)

#No. 422(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/06/03

《速報解説》 国税庁、「在宅勤務(源泉関係)FAQ」に業務命令によるPCR検査費用や在宅スペースの消毒費用の取扱いなど新設4問を追加

《速報解説》 国税庁、「在宅勤務(源泉関係)FAQ」に業務命令によるPCR検査費用や在宅スペースの消毒費用の取扱いなど新設4問を追加   Profession Journal編集部   長期化するコロナ禍を背景に、大企業を中心とした在宅勤務(テレワーク)の浸透に伴い、企業が従業員に対して行う在宅勤務に係る費用負担等の課税関係を明確化するため、国税庁が、2021年1月15日にその取扱いを示すFAQを公表したことは、既報のとおりである。 上記公表後の4月30日には、在宅勤務者に対する食券の支給に関する取扱いを示す2問がFAQに追加されたが、更なる長期化に伴い在宅勤務時における環境整備や感染予防対策の費用負担等について、給与課税の有無を明確にすべきケースが表出していることから、このたび5月31日付けで新たに4問がFAQに追加された。 追加された4問のうちの1つである〔問11〕では、在宅勤務を行う従業員やその家族が感染したケースを想定してか、従業員が負担した在宅勤務を行う自宅スペースの消毒に係る外部業者への委託費用や業務命令で受けたPCR検査の費用等を、企業が従業員に支給した場合については、業務のために通常必要な費用とし、従業員に対する給与として課税する必要はないとしている(ただし、従業員が自己の判断により支出した消毒費用やPCR検査費用など業務のために通常必要な費用以外の費用等については、従業員に対する給与として課税が必要)。 また、上記以外の下記3問についても新たに取扱いを明らかにしている。 ちなみに、上記FAQの更新に合わせて、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」では、同趣旨である下記「問9-5」が追加されている。 (了)

#No. 421(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/06/02

《速報解説》 経済産業省より「人材確保等促進税制」のQ&A集が公表される~改正前制度Q&A集を踏襲しつつ「新規雇用者」に係る新問も~

 《速報解説》 経済産業省より「人材確保等促進税制」のQ&A集が公表される ~改正前制度Q&A集を踏襲しつつ「新規雇用者」に係る新問も~   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 令和3年5月31日、経済産業省のホームページにおいて『「人材確保等促進税制」よくある御質問 Q&A集』が公表された。 人材確保等促進税制は、令和3年度の税制改正により従来の「賃上げ・生産性向上のための税制」の適用要件等を全面的に見直した上でほぼ新たな税制として創設されたものであり、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始される各事業年度において適用されるものである。概要は下記拙稿を参照されたい。 適用要件や控除限度額の計算等、内容は「賃上げ税制」とは全く異なるものとなっているが、教育訓練費の取扱い等は「賃上げ税制」のそれと変わらないものがあることなどから、今回公表されたQ&A集(以下「新Q&A」)は、従来公表されていた『平成30年度創設 賃上げ・生産性向上のための税制 よくあるご質問Q&A集(大企業向け)』(以下「旧Q&A」)の内容を踏襲しつつ、新たに導入された取扱いについての解説を加えたものとなっている。 そこで本稿では、新Q&Aの内容について概観していくこととする。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。   2 Q&A集の構成 新Q&Aは全部で61個の設問から構成されており、その構成は以下の通りである。 【新設】 新Q&Aにおいて新設された設問は以下の通りである。 【従来の設問を踏襲】 また、新Q&Aの設問のうち、旧Q&Aの設問を踏襲しているものは以下の通りである。表中の「ほぼ」という表現は、内容の骨子に変更はないものの、細かい記述の修正が含まれているものである。 (Ⅰ.税制適用の前提) (Ⅱ.用語の定義) (Ⅲ.税額控除の通常要件) (Ⅳ.税額控除の上乗せ要件)   3 新設された項目のポイント 新設された項目のポイント(及びリンク先)をまとめると、以下のようになる。 (了)

#No. 421(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2021/06/02

《速報解説》 会社法第140条に基づく自社株買取り時に生じた「みなし配当」に係る源泉所得税の納期限について東京局より文書回答事例が公表される

《速報解説》 会社法第140条に基づく自社株買取り時に生じた「みなし配当」に係る源泉所得税の納期限について 東京局より文書回答事例が公表される   Profession Journal編集部   東京国税局は令和3年4月28日付(ホームページ掲載は5月27日)に文書回答事例「譲渡制限株式(自己株式)の取得対価を会社法第141条の規定に基づき供託した場合のみなし配当に係る源泉所得税の納期限について」を公表した。 本事例は、株式会社(照会者)が自社の発行する譲渡制限株式を取得した内国法人(以下、「請求者」)に対し、その取得に係る承認請求を承認せず、会社法第140条《株式会社又は指定買受人による買取り》に基づき買い取ることとした場合に発生したみなし配当に係る源泉所得税の納期限について照会したもの。 同法による買取りを行う際、株式会社は請求者に対し、①対象となる株式を買い取る旨及び②対象となる株式の数を通知することとされ、この通知をしようとするとき、株式会社は、1株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される金額にその譲渡制限株式の数を乗じて得た金額を供託所に供託し、かつ、請求者に対しその供託を証する書面を交付することとされている(会社法141①②)。対象株式の売買価格は原則として、株式会社と請求者との協議によって決定する(会社法144①)が、裁判所に対して売買価格決定の申立てをすることができる(本事例では後者)(会社法144②)。 なお、決定された売買価格が株式会社の資本金等の額のうちその譲渡制限株式に対応する部分の金額を超える場合、その超える部分の金額はみなし配当に該当するため(所法25①五)、株式会社はこのみなし配当に係る源泉徴収義務を負うことになる。つまり配当等の支払の際、その配当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに納付しなければならない。 ここで配当等の「支払の際」とは「現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれる」(所基通181~223共-1)とされていることから、本事例では、裁判所の決定により売買価格が確定した時に、供託金の額のうちのみなし配当の額に係る支払債務も消滅したことになるため、みなし配当に係る源泉所得税の納期限について、照会者は下記の見解を示し、当局の回答として、貴見のとおりで差し支えないとしている。 なお、上記②のケースにおいて、供託金の額及びその超える部分の額のうちのそれぞれのみなし配当の額に係る源泉所得税の額については、支給総額が確定している給与等を分割して支払う場合の税額の計算の取扱い(所基通183~193共-1)に準じて差し支えないとされている。 〈徴収すべき税額の計算例〉 (注) 「徴収すべき税額」は所得税と復興特別所得税の合計額。 (了)

#No. 421(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/05/28

プロフェッションジャーナル No.421が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年5月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.421を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/05/27

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第2回】「租税立法の違憲審査基準」-大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第2回】 「租税立法の違憲審査基準」 -大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)欄外番号【14】~【20】。以下、見出しでは「大嶋訴訟大法廷判決」といい、本文では「本判決」という)を取り上げる。 本判決については、わが国の税法判例のうち最も重要な基本判例の1つであることに異論がないと思われるが(判例評釈集として定評のある租税判例百選[第6版・2016年]でも本判決に関する金子宏「判批」が冒頭に掲載されている)、筆者は本判決を、税法の解釈適用においても実質主義との相克(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第6回】以下参照)を経て租税法律主義を重視する傾向が強まってきた時期に位置づけ、次のように述べたことがある(拙稿「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(ミネルヴァ書房・2015年)1頁、5頁注17)。 大嶋訴訟の事案の概要は次のとおりである。X(原告・控訴人・上告人)は、同志社大学商学部教授(文学及びスペイン語担当)であったが、昭和39年度分の所得につき確定申告をしなかったところ、給与収入が170万円余であり当時の所得税法では給与所得者が確定申告義務を負う額を超えていたため、所轄税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は、その給与収入から給与所得控除額13万5,000円を控除した給与所得金額157万円余と雑所得金額3万円余とを合計した総所得金額160万円余を基にして算定した課税所得金額114万円余、税額20万円余、納付すべき税額(源泉徴収税額控除後の残額)5万円余とする決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をなした。Xはこれを不服として、異議申立て及び審査請求を経て、処分の根拠となる所得税法の関連規定が憲法14条1項に違反し無効であるが故にそれらの処分を違法としてその取消しを求めて出訴した。 大嶋訴訟における争点は、❶所得税法が事業所得者には必要経費の実額控除を認めるのに対して、給与所得者には必要経費の概算控除しか認めないことは、憲法14条1項に違反しないか、❷給与所得と事業所得等との捕捉率の格差は、憲法14条1項に違反しないか、❸事業所得等については合理的理由のない租税優遇措置が講じられているため、給与所得との間に所得税負担の格差が認められるが、その格差は憲法14条1項に違反しないか、の3つであったが、以下では、中心的な争点である❶に関する判断について検討する(なお、大嶋訴訟の経緯を含め本判決に関する包括的かつ詳細な検討として、金子宏・清永敬次・宮崎直見「〔鼎談〕サラリーマン税制と最高裁判決」ジュリスト837号(1985年)6頁参照)。   Ⅱ 大嶋訴訟大法廷判決の「総論的」妥当性 本判決が税法の分野における最も重要な基本判例の1つといわれるのは、下記のとおり判示し([]・下線筆者)、租税立法の違憲審査基準(下記判示中の下線部⑤)を確立したと一般に考えられているからであるが、その基準に関する判断に先だって示した、租税の意義(同①)や機能(同④)、民主主義国家における租税観(同②)、租税法律主義の意義(同④)等に関する考え方も、当時の学説・判例の到達点を示すものであり、今日においても広く支持されているところである。 租税の意義に関する判示①は、前回検討したように、講学上の租税概念を踏まえたものであり、その後の判例(旭川市国民健康保険条例事件・最[大]判平成18年3月1日民集60巻2号587頁等)においても踏襲されている。また、租税の機能に関する判示④は、講学上租税の機能として一般に説かれているところ(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)1~8頁、前掲拙著【7】)と基本的に同じものである。 民主主義国家における租税観に関する判示②は、「民主政治の下では国民は国会におけるその代表者を通して、自ら国費を負担することが根本原則」という最[大]判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁の判示を踏襲するものであり、学説では「民主主義的租税観」(金子・前掲書24頁、前掲拙著【14】)と呼ばれている。筆者はこれを憲法上の租税根拠論において援用している(前掲拙著【15】)。 租税法律主義の意義に関する判示③も、「租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて前示のとおり法律に基いて定められなければならないと同時に法律に基いて定めるところに委せられていると解すべきである。」という上記の昭和30年最[大]判を踏襲しつつ「明確に」(課税要件明確主義)を加えてより厳格化するものであり、学説上も異論のないところである(租税法律主義に関する筆者の検討については拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁参照)。 以上の判示は、本判決の「総論的」な考え方を示したものであり、いずれも妥当なものである。それらを踏まえ本判決が示した租税立法の違憲審査基準に関する判示⑤は、立法者の広範な裁量的判断を尊重するという考え方(司法消極主義)に基づく、立法目的の正当性の基準、(立法目的を達成するための手段の)合理性の基準及び明白性の原則であるが、判示⑤もそれ自体は議会制民主主義及び租税法律主義の下では民主主義的正統性の観点から正当化される妥当な基準を示したものと考えられる(前掲拙著【15】。ただ、わが国における議会制民主主義の実態や現状を検討する必要があることについては前掲拙著【17】参照)。   Ⅲ 大嶋訴訟大法廷判決の「各論的」問題性 1 給与所得控除の立法目的の正当性に関する判断の問題性 本判決の判断は、このように、「総論的」には妥当であると考えられるが、しかし、争点❶に関する判断の内容を個別的に検討すると、「各論的」には問題のある部分もあるように思われる。それは、1つには、給与所得控除の立法目的の正当性に関する下記の判示である(下線筆者)。 上記の判示については判決直後から種々の問題点が指摘されてきたが、それらは次のように総括されている(清永敬次「判批」民商法雑誌94巻1号(1986年)97頁、107-108頁)。 2 給与所得控除の合理性に関する判断の問題性 もう1つの問題として以上の問題よりも更に重大な問題と考えられるのは、給与所得控除の合理性に関する次の判示である(下線・傍点筆者)。 上記の判示の論理展開を整理すると、次のようになろう(宍戸常寿「租税立法の合憲性審査の基準」日税研論集77号(2020年)221頁、231頁)。 このように本判決は給与所得控除規定の違憲審査において概算控除の合理性審査(手段審査)を概算額の相当性審査として捉え直すものであるが、その理由については次のような「疑問」が述べられている(清永・前掲「判批」109-110頁)。 これらの「疑問」はいずれも十分に説得力のあるものであり、次の調査官解説(泉徳治「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和60年度)74頁、94頁。下線筆者)によっても解消されないように思われる。 この調査官解説は、給与所得に係る必要経費との比較を給与所得控除の「全額」と行うか又は「必要経費の概算控除部分」とのみ行うかを問題にしながら、「給与所得控除の枠内で必要経費の実質的な控除が行われる限りは」として論点をすり替えているように思われるが、その点は措くとしても、この調査官解説からすると、(多くの論者が指摘してきたところであるが)やはり、担税力の調整、捕捉率の調整及び金利の調整という3つの調整を「立法政策の問題」として「考慮の外に置く」(宍戸・前掲論文231頁)「論理操作」こそが、給与所得控除規定の違憲審査において「給与所得控除を専ら給与所得に係る必要経費の控除ととらえて事を論ずるのが相当である」との判断を支えていると考えられる。ここで、先に本判決の前記の論理展開を整理したときとは異なり敢えて「論理操作」としたのは、以下で述べるように、本判決が「違憲判断回避の意図」をもって論理展開を操作したのではないかという疑念を払拭することができないからである。 確かに、前記の3つの調整は「立法政策の問題」であるが、しかし、本判決が前記Ⅱの「総論的」判示(⑤)において「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。」として、立法裁量を尊重する考え方を宣明している以上、たとえ「立法政策の問題」であっても裁判所が違憲審査において「考慮の外に置く」ことは、論理一貫性が疑わしい判断に帰結することになる。清永敬次教授が先に引用した「疑問」の(2)(3)で正当にも述べておられるように、必要経費控除も基本的には「立法政策の問題」であることに加え、担税力の調整も租税立法上考慮すべき重要な事実であることからすれば、尚更である。 本判決がそのような論理一貫性に関する疑義を生む危険を敢えて冒してまで前記のような「論理操作」をしたのは、そうすることで給与所得に係る必要経費の控除額を給与所得控除の全額とした上で給与所得控除額の相当性を審査し(以下「全額相当性審査」という)これを肯定しやすくするためではなかったかと思われるのである。 もっとも、本判決が次のような「一般的」判示をもって給与所得控除額の相当性を肯定するのであれば、敢えて前記のような「論理操作」をしなくても、換言すれば、もし前記の3つの調整に関する立法者の裁量的判断を尊重し、それらの調整を金額の点でも給与所得控除額に反映させ、「給与所得に係る必要経費との比較は、給与所得控除の全額と行うのではなく、その中の必要経費の概算控除部分のみと行う」(泉・前掲「判解」94頁)こととした上でその相当性審査をすること(以下「部分額相当性審査」という)にしたとしても、同じ結論が得られたようにも思われる。 しかし、本判決には、適用違憲の余地を認める伊藤正己裁判官の次の補足意見(これに木下忠良裁判官、長島敦裁判官が同調し、谷口正孝裁判官、島谷六郎裁判官も基本的に同調した)が付されたことからすると、もし最高裁が部分額相当性審査を行っていたとすれば、適用違憲の可能性がなかったとは言い切れないように思われる。 この補足意見は、全額相当性審査を前提としているので、本件について適用違憲を認めなかったが、本判決が部分額相当性審査を行っていたとすれば、本件における適用違憲の判断について異なる結論に至っていたかもしれない。 そうすると、まさに「立証技術の巧拙」(Ⅲ1冒頭引用判示)が問題になるが、その点は措くとして、ともかく、本判決は、「総論的」判示(立法裁量の尊重)との論理一貫性を犠牲にする危険を敢えて冒して全額相当性審査を行う「論理操作」によって、法令違憲の判断も適用違憲の判断も回避しようとしたのではないかと思われるのである。   Ⅳ おわりに 以上、本判決は、「総論的」判断においては、租税法律主義の確立など税法学の発展にも大きく貢献したが、ただ、「各論的」判断においては、問題のある判決でもあった。とりわけ立法裁量の尊重の点では、「総論的」判断(のうち合理性審査)と「各論的」判断(相当性審査)との間の論理一貫性に疑義があるといわざるを得ないのである。 最後に、清永敬次教授が述べられた「疑問」(Ⅲ2)のうち(2)(3)は本件当時(昭和39年)においても問題になったと思われるが、その後、本判決当時においては既に(5)が問題になっていたし、今日においては(4)の問題も顕在化している(その意味で「疑問」はまさに慧眼によるものである)。給与所得控除に加え選択による一定の「実額」控除として昭和62年度税制改正により導入された特定支出控除(所税57条の2)について、平成24年度税制改正によって、給与所得控除が「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」から成るという二分論を前提にして、その適用基準が給与所得控除額の2分の1(「勤務費用の概算控除」)の額とされた(同条1項)。その意味で、「疑問」(1)の問題は解消されたといえ、したがって、今日ではもはや全額相当性審査を採用することはできないであろう。 (了)

#No. 421(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/05/27

これからの国際税務 【第25回】「バイデン政権の国際課税改革とデジタル課税」

これからの国際税務 【第25回】 「バイデン政権の国際課税改革とデジタル課税」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 Made in America Tax Planの発表 本年3月末に米国バイデン大統領は、今後8年間にわたる2兆2,500億ドル規模のインフラ投資計画を発表し、そのための財源措置として財務省は”Made in America Tax Plan(以下「プラン」と略す)“と呼ばれる法人税増税措置案を4月に公表した。 その中心をなす施策は、トランプ前政権が行った大幅な法人税率引下げ(35%から21%へ)規模を半分に縮小する(中間点である28%に逆戻り)ものであるが、その際に、米国企業や米国労働者の税負担面での国際競争力維持にも配慮しながら、利益の海外流出の阻止を徹底化する方向での重要な国際課税ルールの改正も付加している。また、これらの国際課税ルールの改正案からは、現在G20/OECDが最終合意に向けて取り組んでいるデジタル経済の課税ルール作りを、米国がリードして合意に至りたいとの強い意欲もうかがわれる。 今回は、その同プランの国際課税改革の骨格を検証して、デジタル課税についての現在進行中の政治折衝に及ぼす影響を予測してみたい。   2 トランプ政権下での改正国際課税ルールに対する評価 トランプ政権による米国国際課税ルールの抜本改正(米国企業の国際競争力を確保するための法人税率引下げ及び外国子会社配当益金不算入制度(テリトリアル方式)の導入と、これに合わせた無形資産の海外移転を防止する趣旨を中心とするGILTI(グローバル無形資産低課税所得対策税制)、BEAT(税源浸食・濫用防止税)、FDII(外国由来無形資産所得税制)の3点セット税制の創設)に対して、今回のプランは、各種の統計データを示しつつ、以下の否定的な評価を行っている。   3 プランに含められた国際課税ルール改定案 (1) GILTI/FDII税制関係 以上の提案の背景には、トランプ改正が許容した国外投資の優遇扱い(実質10.5%までの税負担軽減)により、米国多国籍企業の利益の海外移転は高止まりしたままになっているとの認識がある。また、グローバルベースのGILTI所得のブレンディング計算についても、底辺への競争対策として不十分とされた。 (2) 法人の全世界ベースの会計上利益に対する代替ミニマム税(税率15%)の創設 トランプ税制で廃止されていた法人の代替ミニマム税を、全世界ベースで課すものである。米国では、純利益20億ドル以上の法人(200社)の多くは法人税を納付しておらず、この結果発生している、企業及びそのステークホールダーと、一般の勤労者との間の税負担格差を埋める方策として提案されたものである。 なお、G20/OECDで協議中の全世界ミニマム税のバックストップとしての機能も期待されている。 (3) BEAT税制の廃止 売上原価を控除し、適用対象を総控除の3%以上をBEAT支払いが占めるという閾値を設けた本税制は、立法目的に沿った成果が認められず、かつ予定された税収も上げられていないことから廃止すると提案した。代わりに、効果的なミニマム税を有しない国の関連者への支払いに適用される損金不算入制度(SHIELD)への置換えが提案されている。 なお、BEAT税制が目的としていた底辺への競争対応は、多国間の枠組みでのミニマム税(G20/OECD青写真中の第2の柱(本連載【第22回】参照))に期待するとした。   4 デジタル課税の協議に及ぼす影響 米国の税制改正の帰趨は、議会の審議にかかっており、これからロビー活動も本格化するものと思われる。両院でかろうじて多数を確保した民主党政権にとっても、法案成立までには協議の難航が予測されるという前提で、本プランがOECDでのデジタル課税ルールの国際協調に及ぼす影響を見通してみたい。 上記の提案のうち、デジタル課税の多国間協議に影響を及ぼすものは、なんといっても、GILTI改革(特別控除の引下げによる合算課税する際の実効税率の引上げ(21%)等)である。国際協調への復帰を宣言した米国にとっては、上述の青写真で、第2の柱の合算課税ルール(IIR)と併存しうると位置づけられていたGILTI税制について、同プランの内容がG20/OECDで達成される最終合意と平仄が合わせられることが望ましいであろう。 プランでは、G20/OECDが想定していた税率閾値レベルよりも高めではないかと思われる21%を提案していることもあって、イエレン財務長官によるミニマム税合意に向けた国際社会への働きかけが、最近強化されている。ミニマム税構想については、青写真でその骨格が煮詰まりつつあるとはいえ、根幹となる税率閾値を中心に、各国にとっては自国CFC税制との整合性を図るなどの視点があり、制度設計についての各論選択肢は必ずしも集約されていない。グローバルミニマム税構想の詳細設計と税率閾値を巡る議論は、米国が先出しした本件プランを踏み台にした政治折衝が続くと想定される。 なお、プランにみられる①GILTIの合算課税計算のベースとして、これまでのグローバルブレンディングから、青写真と同様の国別ブレンディングに修正されている点と、②BEAT廃止によって青写真の適用序列(IIRを優先しUTPR(軽課税支払いルール)をバックストップとする)とは整合性がとれている点は、合意促進の観点からは評価されると思われる。   〔追記〕 米国財務省は5月20日、デジタル課税の第2の柱で主張される全世界ミニマム税の税率を「少なくとも15%以上」とする提案をOECDに提出した。これは、プランのGILTIの閾値(21%)ではなく、代替ミニマム税の閾値(15%)まで譲歩しうるとしたもので、アイルランドなど欧州の低税率国への配慮を示したものとみられている。 なお、第1の柱のデジタル課税対象企業についても、利益率と売上高規模で全世界100社程度に限定する米国案をベースにOECDが最終調整に入ったとの報道がされている。 (了)

#No. 421(掲載号)
#青山 慶二
2021/05/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例98(所得税)】 「「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例」の適用ができたにもかかわらず、届出書の提出を失念したため、適用できなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例98(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆配当等とみなす金額(所法25①) 法人の株主等が当該法人の自己株式の取得により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額の合計額が当該法人の資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、利益の配当等とみなされ、課税される。 ◆相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例(措法9の7) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその相続又は遺贈につき納付すべき相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を当該非上場株式の発行会社に譲渡した場合には、非上場株式の譲渡の対価として発行会社から交付を受けた金銭の額が発行会社の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額についてはみなし配当課税は行わず、一般株式等に係る収入金額とみなして、一般株式等に係る譲渡所得の課税の特例を適用する。 ◆相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(措令5の2②・③) 「みなし配当課税の特例」の適用を受けようとする個人は、その非上場株式をその発行会社に譲渡する時までに、一定の事項を記載した書面を、その発行会社を経由してその発行会社の所轄税務署長に提出しなければならない。上記書面の提出を受けた発行会社は、一定の事項を記載した書類を、当該譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、上記書面とあわせて所轄税務署長に提出しなければならない。 〈みなし配当課税の特例の具体例〉 ※所得税及び復興特別所得税15.315%+住民税5%       (了)

#No. 421(掲載号)
#齋藤 和助
2021/05/27

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第31回】「第三者を介在させて特殊関係者へ譲渡した場合」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第31回】 「第三者を介在させて特殊関係者へ譲渡した場合」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、20年間居住の用に供して来た家屋とその土地を不動産業者Fに2,000万円で売却しました。 その約2ヶ月後に、Fは、その家屋と土地をXの長男であるZに30万円上積みして2,030万円で売却しました。 なお、登記は、XからZに直接しました。 他の適用要件が具備されている場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A その取引が名実共に、X⇒F、F⇒Zと譲渡されたものであれば、その譲渡損失について、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができますが、X⇒Zが真実の取引であるところ、特例を受けるために仮装したものである場合には、特例の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある親族などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 そして、その譲渡が適用除外の譲受者への譲渡に該当するかどうかについては、真実の事実関係に従って判定されることとなります。 なお、適用を受ける目的のもとで架空の契約書を作成するなど、真実の取引を仮装した場合には、その申告は、重加算税(国税通則法第68条)の対象となります。 おって、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められており(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)、真実の事実関係に基づきその適用の是否が判定されます。 (了)

#No. 421(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/05/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第5回】「造成中の墓地の固定資産税は非課税か否かで争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第5回】 「造成中の墓地の固定資産税は非課税か否かで争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の非課税 第4回において、学校法人等がその設置する学校において直接保育又は教育の用に供する固定資産の非課税(地方税法第348条第2項第9号)が争われた事案を検討したが、今回は、墓地(地方税法第348条第2項第4号)の非課税が争われた事案について検討する。 なぜ墓地が非課税かというと、今回検討する判決において「土地を死体や遺骨を埋葬し得る墓地としての現況を備え公共の用に供することによって、当該土地の所有者によるその他の使用収益の可能性がなくなり、ひいてはその資産価値を見い出せないから」と述べられている。 墓地として使用することが認められるためには、まず、墓地埋葬法第10条による許可が必要となる。造成工事が完了し、検査を受け、適合と証されてはじめて墓地としての使用が可能となる。   ▷どのような事案か この事例の経緯を時系列で並べると次のようになる。   ▷争点は何か 争点は、本件土地が、平成18年1月1日現在、固定資産税法上の「墓地」に該当していたか否かである。 ① 原告(X)の主張のポイント 固定資産税は、許可を受けて墓地としての用に供するために使用していれば非課税とされるべきだ。 平成18年1月1日の時点において、墓地にするべく造成中だから、墓地としての用に供するために使用されていた。だから、課税処分を行ったのは違法だ。 工事完了検査を受けていないことを理由にさいたま市は非課税を認めないが、検査は許可内容に適合しているかどうかの確認の手続であり、墓地該当性を認めるための要件ではない。 不動産取得税については、埼玉県大宮県税事務所から非課税とする旨の通知を受けており、非課税とされた趣旨は固定資産税も同様であると解されるから、固定資産税も非課税とされるべきだ。 ② 被告(さいたま市)の主張のポイント 固定資産税が非課税であるためには、賦課期日現在の土地が、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設として使用可能な状態であるとともに、墓地として使用するために必要な手続が行われていなければならない。 墓地等の経営許可を受けた者は、許可に係る墓地の工事が完了した場合は検査を受ける必要があり、検査が完了するまでは土地の使用が認められない。 賦課期日である平成18年1月1日現在、本件土地は造成工事中であり、墓地として使用できるようになったのは、検査後の平成18年3月27日以降のことである。したがって、賦課期日現在、墓地には該当せず、固定資産税は非課税とならない。   ▷裁判所の判断 裁判所は、以下のように言及し、原告の主張を退けた。 このように、今回の判決では、不動産取得税と固定資産税において造成中の墓地について非課税と課税の差がでてきたことにより、軽減や非課税の適用について賦課期日現在の状況で厳格に判断を求めている固定資産税の本質が見えやすい。 (了)

#No. 421(掲載号)
#菅野 真美
2021/05/27
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