収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第36回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (6) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第3項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで立案担当者の解説にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 法人税法22条の2第3項は当初申告における申告調整により近接日基準による収益計上を可能とするものであること 法人税法22条の2第3項に関して、『平成30年度 税制改正の解説』は次のとおり解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 下線部分について、法人税法22条の2第3項を適用する場合の申告調整は、当初申告における申告調整に限られる。修正申告書において初めて、近接日基準に基づく申告調整を行ったとしても、法人税法22条の2第3項の適用はないことを述べているのであろう。 確定申告書とは、法人税法「第74条第1項(確定申告)又は第144条の6第1項若しくは第2項(確定申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)」を指すからである(法人税法2三十一・三十六)(本連載第32回参照)。 イ 法人税法22条の2第3項により、確定決算による収益認識日を申告調整により他の日(収益認識日)に「変更する」ことはできないこと 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、法人税法22条の2第3項により、確定決算による収益認識日を申告調整により他の日(収益認識日)に「変更する」ことはできないと説明する。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 「上記①又は②による収益認識日に収益計上している場合には、申告調整により収益認識日を他の日に変更することはできません。」という部分は、先の事業年度で、引渡・役務提供基準又は近接日基準に基づき確定決算による収益計上(収益認識)が行われていて、後の事業年度で、法人税法22条の2第3項に基づいて、申告調整により、収益計上(収益認識)日を「変更する」ことはできないという趣旨である。 上記以外の場合には収益計上日の変更が認められることを含意しており、同項を収益計上日の変更のための規定と位置付けているか、少なくともそのようなケースを念頭に置いた解説となっている。 先の事業年度で、法人税法22条の2第3項に基づいて、申告調整により、収益を計上し、後の事業年度の確定決算で、やはり引渡日又は役務提供日、あるいは他の近接日において収益計上しようと考えなおすケースの場合に、どのように規定間の優先順位が決まるのかについては触れられていない。 1項との関係では、3項経由で2項を適用する場合でも、2項は1項に優先して適用されることから、当初の3項に基づく処理が優先されるのであろうか。 2項との関係では、2項には公正処理基準準拠要件が付されているから、先の事業年度の近接日で収益計上する場合と後の事業年度の近接日で収益計上する場合のいずれが公正処理基準準拠要件を満たすかによって優先劣後が決定されるのであろうか。そうであるとすると、3項の適用がある場合にも2項の公正処理基準準拠要件の充足が求められるか否かという論点の重要性が増すことになる(本連載第33回参照)。 酒井克彦教授のように、法人税法22条の2第3項こそが2項の「別段の定め」に該当するという見解をとるならば(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』256頁(中央経済社2019)参照)、3項と2項が競合する場面では3項が優先的に適用されるという結論になり、わざわざ2項の公正処理基準準拠要件を持ち出す必然性はなくなるのであろうか。 ウ 申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能であること 続けて、『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能であることに触れる。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 資産の販売等に係る収益の額について、法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には、1項の規定によらずに、すなわち1項が定める引渡・役務提供基準によらずに、その目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入される。法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には「1項に優先して」2項が「強制的に」適用されると言い換えてもよい(本連載第19回参照)。 上記解説の注書き部分は同様の理解から、資産の販売等に係る収益の額につき、法人税法22条の2第2項の適用がないときは1項が適用されることから、会計上その収益を1項が定める引渡日又は役務提供日でもなく、2項が定める近接日でもない日に計上していた場合において、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能である旨を述べているのであろう。 上記解説にいう「会計上その収益を上記①の日でも上記②の近接する日でもない日に計上していた場合」については、法人税法上、そのような会計上の処理を収益計上日として認める受け皿がない(法人税法22条の2第1項及び第2項、あるいは「別段の定め」の適用がない)。よって、法人税法22条の2第3項を適用して、この会計上の収益計上日とは異なるような近接日の属する事業年度において申告調整を行うことの障害はないことになる。 引渡日又は役務提供日において申告調整で収益計上を行うことも可能であることについては、本連載第15回において、次のように解説をしていたところである。 引渡・役務提供基準を定める法人税法22条の2第1項は、確定決算による収益経理を要求していない。よって、差し当たり、法人税法22条の2第1項は、同項に優先して適用される2項の適用がない場合には、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理をしていないとしても、申告調整により、引渡・役務提供基準に基づく収益計上を認める(求める)ものといえそうである。 ただし、上記解説の注書き部分のようなケースにおいて、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすること「も可能」なのか、場合によってはそうすることが「義務」となるのか、あるいは視点を課税庁に移して、課税処分を行う際には「義務」となるのか、という疑問を投げかげる余地は残されている。 エ 法人税法22条の2第3項を適用する際にも公正処理基準準拠要件の充足が求められること 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、法人税法22条の2第3項を適用し、申告調整により収益認識日を変更して2項を適用するためには、その変更後の収益認識日が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った場合の収益認識日である必要があると解説する。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 既に述べたところではあるが(本連載第32回参照)、法人税法22条の2第3項は、2項の適用に当たり、確定決算収益経理要件を満たす効果を発揮するにすぎない。よって、3項の適用がある場合でも、公正処理基準準拠要件をはじめとする2項の他の要件を同時に満たさない限り、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することは認められないと解される。上記解説も同様の立場であろう。 ただし、上記の理解には異論も示されていることに留意する必要がある(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号114頁、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』257頁(中央経済社2019)参照)。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第6回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その3:第三者の買い手に対する視点の転換~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 1 コロナ禍の中小企業M&Aと第三者の存在価値 コロナ禍が中小企業経営のあり方を一変させ、今後の中小企業経営を考える上で大きな影響を与えていることは、これまでの「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」の各回でも触れてきました。 そして今、中小企業M&Aの当事者として、支援機関をはじめとする「第三者」の存在価値が以前にも増して高まっています。 M&Aは買い手と売り手が単に手を結ぶだけではなく、買い手も売り手も相手側の持つ“何か”によって、M&A後の経営維持、成長、発展といった今後に繋げるための手ごたえを期待できるからこそ、各当事者はM&Aの実行に価値を見出すものです。 しかし、コロナ禍はそうした目を曇らせる可能性があります。経営が苦しいことも伴って、安易なM&Aの選択、妥協するM&A、M&Aの躊躇など、普段ならしないであろう行動をとってしまう可能性があるということです。 このような時こそ冷静な視点、判断が欠かせません。会社自身も気づいていないコロナ禍による変化を見過ごさず、コロナ禍前との比較から買い手と売り手の特性を見極める視点を持ち、買い手と売り手の双方にとって的確かつ必要十分な助言のできる第三者が、今ほど求められ期待されるタイミングはありません。 今回は第三者の視点のうち、買い手・売り手への直接の助言に活かすための視点、なかでも下図の②に表される「買い手に対する視点」を中心に解説します。 2 「買い手が必要とする要素が売り手にあるか」を考える あなたが仮に仲介会社、金融機関、顧問といった立場でM&Aを考える買い手に対して助言を行うとすると、きっと、買い手にとってこのM&Aが良い選択かどうかを熟慮の上、考えうる最適な提案を探すでしょう。 中小企業M&Aの買い手からすれば、最も好ましいM&Aの形は、「ウチに無いものを相手(売り手)が持っていて、それを手にすれば今後の経営上プラスになる」と考えられそうな形です。だからこそ対価を支払う価値があると思うわけです。 これまでの経営資源の不足を補う場合や、さらに成長を加速できる足がかりを得られる場合など、様々な成功パターンがイメージされますが、いずれにしても「買い手がM&Aで手に入れたいものは何か」、「売り手は買い手が必要とする要素を持っているか」を明確にするのが基本です。そのためにもコロナ禍の影響を含めて、まずは「買い手に何が足りないか、何を求めているか」をこの状況下で分析することには、大きな意味があります。 (1) 買い手企業の経営状況の大枠を整理する たとえば、次の図などを用意して、買い手企業の足元の経営状況を整理することによって、買い手の経営上の課題克服や今後の目標達成を見据えて何が有効な策になりうるかを、一歩踏み込んで考えることが可能になります。 自力で成長可能な領域があるなら、現在の経営の延長線上に目標到達点があることが分かるでしょうし、M&Aよりも事業計画や中長期経営計画の策定や精緻化、管理といった高い計画性と実行力の方がカギになるでしょう。 M&Aニーズについては、コロナ禍前後に分けて整理しておく方が買い手にとって良い結論を導きやすくなります。コロナ禍に翻弄される中での決断は、必ずしも買い手が真に望む成果をもたらすとは限らないからです。 コロナ禍前からあったニーズについては、大幅な軌道修正は必要ありません。ただし、コロナ禍に伴い経営の方向性自体を変える必要に迫られているのであれば、自ずとニーズも変わっていくはずです。その場合は、経営計画の修正を前提に、M&Aで満たすニーズにも変化が生じるかどうかを再考します。再考しても、M&Aがなお買い手にとって有効な手段として残るのであれば、M&Aを既定路線とする方針に変更はありません。 一方、コロナ禍によって新たに生まれたニーズについては、今後の経営の命運を左右するかもしれませんので、簡単に決めることなく必要十分な時間を割いて慎重に判断します。 M&Aで満たせないニーズについては、資金調達などの各第三者が得意とする別途の対応策の提案がM&Aに優先します。 (2) 買い手企業の経営状況の大枠整理のポイントと例示 上図で分類した4象限別に、第三者として買い手企業について考える際のポイントや一例を挙げましたので、検討の際の参考にしてください。 こうした整理を踏まえた上で、コロナ禍による影響度も考慮して第三者が買い手に助言する際に、次の視点をヒントに買い手に対する提案を検討します。 買い手がM&Aを活用して持続可能な経営を目指すために“今”が良いチャンスと考えられる場合もあれば、コロナ禍だからと焦ることなく買い手の状況をみてじっくり良い相手(売り手)探しをする方が適切という場合もあります。 第三者として、買い手にとって良い売り手候補先を探すことは変わらず重要ですが、このような有事の際には、コロナ禍で買い手がどのような経営状態に変化したかを把握し、買い手視点でM&Aという選択肢自体の良否を再考することが優先されます。 コロナ禍は第三者のかじ取りや判断力がいかに重要か、そして第三者の存在価値の重要性を確認できるまたとない機会です。 * * * 次回も「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」をお送りします。今回の買い手に対する第三者の視点を活かしながら、M&A当事者のもう一方となる「売り手の見方」を中心に解説します。 (了)
〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第4回】 「企業と会社」 -定義するのは会計基準か会社法か- 公認会計士 阿部 光成 ◆はじめに 会計基準を読んでいると、類似する用語があることに気づき、戸惑う方もいらっしゃるのではないだろうか。 「企業」と「会社」もその1つである。 さらにこれらの用語は、会計基準だけでなく、他の法令にも登場するため、同じ扱いをしてよいものか、さらに悩みが深くなる方もおられるだろう。 そこで今回は、「企業」とそれに類似する用語を取り上げることとした。 ◆企業・会社の定義 〇会計基準における定義 会計基準及び財務諸表等規則では、「企業」とそれに類似する用語を次のように定義している。 かつて、「連結財務諸表原則」では、「親会社とは、他の会社を支配している会社をいい、子会社とは、当該他の会社をいう」と定義していた(第三、一、2)。 2008年12月26日の連結会計基準の開発に際して、「会社」から「企業」へと改正され、上記のように「企業」の定義がなされた。 なお、連結会計基準の開発に際しての「公開草案に対するコメント」では、「企業」「事業」「会社」「株主資本」「資本」「持分」について、用語の定義の見直しなどが必要ではないかとのコメントが寄せられた。 当該コメントに対して、「今回の改正については、短期コンバージェンス・プロジェクトによるものであることから、従来からの用語の定義や表現などについて大きく変更していない」との対応が記載されている(コメント対応(46))。 〇会社法における定義 次に会社法及び法務省令では、会社及び会社等について次のように定義している。 * * * このように類似する用語でも、会計基準や法令等によって改めて定義されているものがある。 このため、実務では、会計基準だけを読んで判断したりせず、会計処理等の判断に際しては、法令等に規定されている定義に注意する必要がある。 ◆親会社の定義は? 参考までに、「親会社」についても次のように、会計基準や法令によって改めて定義がなされている。 (了)
令和2年 年金制度改正のポイント 【第2回】 「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その2)」 ~社会保険の適用拡大が企業に与える影響~ 特定社会保険労務士 佐竹 康男 第2回は、第1回に引き続き短時間労働者の社会保険の適用拡大と、適用事業所の拡大及び期間雇用者の早期加入措置について解説します。 1 短時間労働者の社会保険の適用拡大が企業に与える影響 第1回の記載のとおり、短時間労働者の社会保険への加入が段階的に拡大されます。短時間労働者を多数雇用している企業は、保険料の負担増等、様々な影響が生じます。 (1) 的確な手続の必要性 社会保険は強制加入です。短時間労働者の事情により加入するか否かを決定するものではありませんので、加入意思の確認は必要ありません。該当する短時間労働者を雇用している場合は、的確に加入手続をしなければなりません。加入手続を怠った場合には、最大2年前まで遡って保険料が徴収されますので注意が必要です。 (2) 社会保険料の負担増 社会保険料は原則として労使折半ですので、被保険者になるべき人を雇用すると、社会保険料の企業負担が増加します。健康保険料・厚生年金保険料に加えて、子ども・子育て拠出金の負担もあります。 例えば、対象となる短時間労働者の報酬が10万円(標準報酬月額98,000円)の場合は、下表のとおり社会保険料の企業負担分は、月額約1.5万円となります。 〈東京都の場合(注)の企業負担分(月額)〉 (注) 協会けんぽの保険料率は都道府県別に設定されているため、ここでは東京都の場合の計算例を掲載しています。 2 適用事業所の拡大(健康保険も同様)【2022年10月施行】 厚生年金保険の適用事業所となるのは、法人の事業所及び農林漁業や一定のサービス業等を除く業種(適用業種という)で従業員が 常時5人以上いる個人事業所です。改正後(2022年10月以後)は、個人事業所のうち、現在、適用業種となっていない弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士等の法律・会計業務を取り扱う士業が適用業種に追加されます。 したがって、例えば、税理士事務所で常時5人以上の従業員がいる場合は、改正前は任意の適用でしたが、改正後は、強制的に社会保険が適用されますので、従業員の加入手続が必要になります。 3 期間雇用者の早期加入措置(健康保険も同様)【2022年10月施行】 現在、2ヶ月以内の雇用契約を締結している場合は、その間社会保険に加入することができません。改正後(2022年10月以後)は、雇用契約期間が2ヶ月以内でも、実態として2ヶ月を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間の初日から被保険者になります。2ヶ月以内の短期の雇用契約を締結している企業は注意が必要です。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例26】 「空き家と祭祀承継財産を承継する際の留意点」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - Aは、地方で生活していた父親が他界したため相続処理を進めようと考えています。 父親には、空き家となった実家の建物の他に特に財産はありません。実家の中には仏壇等があり、従来は父親が管理をしていましたが、実家の近くに居住する親戚(相続人ではない)から今後は親戚家族において管理するといった話も聞いています。 Aが空き家の中にある仏壇や仏具等を引き取るにあたって、どのようなことに留意するべきでしょうか。 1 はじめに 空き家が発生する原因の1つとして、相続人が被相続人の実家から離れて生活していることが挙げられるが、同人の死亡によって、同人が居住していた空き家の取扱いだけでなく、祭祀承継財産の取扱いも問題になる。 祭祀承継財産は、民法上、相続財産とは異なる扱いを受けているが、両者は関連する問題でもあるため、空き家の相続に関連させて、祭祀承継財産を承継する際の留意点について検討することとしたい。 2 祭祀承継財産の承継 祭祀承継財産とは、系譜、祭具、墳墓のような祭祀に関する財産のことをいう。この祭祀承継財産は、相続財産には含まれないため遺産分割の対象とはならず、祭祀を主宰するべき者が承継することになっている(民法第897条)。また、祭祀承継者は、相続人や被相続人と同姓である必要まではない。 祭祀の主宰者は、①被相続人による指定(遺言に限られず口頭でも可能)、②慣習による指定、③家庭裁判所の審判による指定の順に決定されることになるが(民法第897条)、同条は、合意に基づいて主宰者を決定することを排除しておらず、このような方法は実務上も少なからず採用されている。 祭祀の主宰者を決定する慣習というと、「長男が家を継ぐ」といったものが想起されるが、同条に規定する「慣習」とは、現行民法が施行されてから新たに育成された慣習と解されており、「長男が家を継ぐ」というようなものは、同条に規定する慣習には該当しないことになる。そのため、実際のところ、被相続人が祭祀承継者を指定していない場合には、関係者による合意か調停・審判を通じて決定することになる。 紛争に発展する事案としては、相続発生後も、遺産分割協議や祭祀承継者を決定する協議等が行われないままの状態が続いており、相続人ではない親族が法事等の行事を取り仕切っているような事案が想定され、都市部に居住する相続人と相続人ではない親族との間で、祭祀承継者が誰であるかをめぐって主張立証を行っていくことになる。 このような紛争事案では、家庭裁判所は、祭祀承継の主宰者は被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対する慕情、愛情を最も強く抱く者にするべきとの価値基準の下で、承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して、祭祀承継者を判断している(東京高判平成18年4月19日判タ1239-289等参照)。 最終的には個別の事情によるが、明示的な合意がない場合でも、被相続人と相続人との関係が疎遠になっているような場合や、親戚のような相続人ではない者が法事等の行事を継続して行っているような場合には、祭祀承継者を相続人ではない者とする黙示の合意があったと評価される余地がある。また、祭祀承継財産を承継することを相続人ではない者が祭祀承継者として認められた場合には、相続人からの空き家の所有権に基づく請求と、祭祀承継者からの祭祀承継財産の所有権に基づく請求とが緊張関係に立つことになる。 近年、空き家の管理責任が指摘されるようになったことに起因して、居住地から遠方に存在する空き家の処分や祭祀承継財産を移動させることを検討する機会も増えており、今後、これに伴う紛争も増加する可能性があるように思われる。 3 祭祀承継と相続の留意点 祭祀承継財産は、一般的な相続と異なるルールに服するため、相続放棄をしたとしても祭祀承継財産を承継することは可能である。もっとも、空き家から生じる種々の管理責任を免れるために相続放棄や空き家の取壊し等を検討しているような場合には、少なくとも法定単純承認事由に該当しないように留意しておく必要がある。 近年は、祭祀承継財産を改葬等の手続を講じて移動させることも増えており、祭祀承継財産を移動させる一環で、相続放棄前に空き家の取壊しや売却等を行うと、法定単純承認(民法第921条第1号)となるため、安易にこのような手段をとることはできない。この点、屋根や外壁の補修などの保存行為の限度であれば法定単純承認事由とはならず、相続放棄をすることに支障はないが、管理費を支出し続けるよりも安い費用で建物の収去が完了できるのであれば、相続をした上で空き家を取り壊し、祭祀承継財産も移動させる選択肢も視野に入ってくる。 もっとも、被相続人に債権者がいるような場合には、相続人が空き家の管理を超えて売却や取壊し等を行うことは、法定単純承認事由(民法第921条第3号)に該当し、債務の履行を求められる可能性があるので、このような場合には相続放棄を行うべきであろう。 4 本件の場合 Aは都市部で生活をしているため、相続をする場合には、空き家の管理を継続していく必要があるとともに、親戚から今後の法事等を主宰する旨連絡を受けていることから、これらの問題を総合的に検討しておく必要がある。 空き家の管理責任を免れるためには、管理費や解体費用等のコストを踏まえながら、相続放棄をするか、相続をするかを選択することになるだろう。その際、Aが祭祀承継財産の承継を希望するのであれば、親戚との間で、仏壇等を誰が所有するか、どこに仏壇を設置するかといった事項を決めておく必要がある。 (了)
〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第6回】 「個別計画の作成手順(その1)」 税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸 今回から個別計画の作成について解説し、また、個別計画の中心となる売上計画の作成ポイントについて確認する。 1 決算書と個別計画の関連性 (1) 予想損益計算書 予想損益計算書は、売上高、売上原価、販売費一般管理費、支払利息、法人税等などの項目からなる。これらの数値は、次のように売上計画、売上原価計画、人員計画、設備計画、経費計画、借入計画、納税計画などの個別計画がベースとなる。また、これら個別計画の中で、売上計画が中心となり、売上計画と各個別計画との整合性を保つことが重要となる。 《決算書と個別計画の関連性》 (2) 予想貸借対照表 予想貸借対照表は、最終的に予想損益計算書(経営活動)の結果として作成される。現金預金、売上債権、棚卸資産、仕入債務などの数値は経営活動の影響により変動するからである。 ① 純資産の残高の確定 予想損益計算書(税引後利益)の確定により、予想貸借対照表の純資産の部(繰越利益剰余金)の残高を確定する。 ② 負債の残高の確定 借入計画より短期借入金及び社債・長期借入金の残高を、納税計画より未払法人税等及び未払消費税等の残高を、そして仕入債務回転期間をベースにして仕入債務の残高を確定する。 ③ 資産の残高の確定 設備計画より有形固定資産の残高、売上債権回転期間及び棚卸資産回転期間をベースにして売上債権及び棚卸資産の残高を確定する。また、敷金、投資有価証券、任意積立金など事業活動の影響を受けない科目は、過去の貸借対照表の数値をベースに設定する。 ④ 現金預金の残高の確定 現金預金以外の資産の残高を固めて、最後に貸借差額で現金預金を試算する。 《予想貸借対照表の作成》 なお、あらかじめ事業活動の影響により変動しない設備計画及び借入計画から、固定資産及び借入金の残高を確定させても良い。 2 売上計画 (1) 売上計画の意義 第5回では、新規顧客層の開拓、Webによる集客向上などのアクションプランにより売上高、利益などが改善するという試算をした。 《課題解決前後の製品・サービスの損益状況》 ※[割合]及び[比率]等については、小数点第2以下は四捨五入している(以下同様)。 目標とする売上高が「絵に描いた餅」にならないよう、具体的なアクションプランに結び付けなければならない。たとえば、目標とする売上高を1億円と設定したとしても、それを達成するためのアクションプランがイメージできなければ、現場のメンバーを動かすことはできない。 (2) 売上計画の作成手順 ① 構成要素の分解 まず、売上高を「販売単価(平均単価)」×「販売数量(来店客数)」のように構成要素に分解する。目標の売上高あるいは目標の利益に達成するため、製品・サービスをいくらで(販売単価)、どれぐらい販売すれば(販売数量)よいかを積み上げて試算する。 《売上高の構成要素》 ② KPIの明確化 次に、分解した構成要素の中から、重要な構成要素(KPI:Key Performance Indicators)を明確にする。KPIは、重要業績指標とも呼ばれ、目標の売上高を達成するために、事業活動が適切に実行されているかどうかを計測する役割を持つ。 KPIは、「結果指標のKPI」と、その原因となる「アクション指標のKPI」がある。アクション指標のKPIは、たとえば、購入率、来店客数などでコントロールが可能なものである。これらの指標を高めるために広告・DMなどの販売促進、店舗改装などのアクションが考えられる。一方、結果指標のKPIは、たとえば、販売単価など直接コントロールができないものでのアクションの結果としての指標である。 なお、複数の製品・サービスを取り扱っている、あるいは地域別に事業展開している場合は、製品・サービス別、あるいは地域別に分解して試算する。 《売上高の構成要素》 《その他の分解パターン》 (3) 売上計画の試算 課題解決前後における製品別の損益状況を以下に示す。簡便的に、4種類の製品について原価率を同率として試算する。 《アクションプランの内容と効果》 (第5回より一部抜粋) 《課題解決前の製品別の損益状況》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 《課題解決後の製品別の損益状況》 ※製品Aの計算過程(製品B~Dの計算過程も同様) (続く)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第36話】 「コロナ禍における税理士試験」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「ほんとに・・・やれるのかな・・・」 中尾統括官は、パソコンの画面を見ながらつぶやく。 「東京オリンピックですか?」 机の上の申告書を整理していた浅田調査官は、振り向いて尋ねる。 「いや、税理士試験のことだよ。」 中尾統括官は、大きな声で応える。 「えっ、こんな時に・・・試験をするのですか?」 浅田調査官は、驚いた表情をする。 「大学でも・・・コロナの感染を嫌って、オンラインなどの遠隔授業を行っているのに・・・税理士試験って、何万人も受験するのでしょ?」 浅田調査官は中尾統括官の顔を見る。 「税理士試験の受験者数は毎年減っているといわれているが、2019年の受験者数は29,779人で、延べ人数は41,158人らしい・・・」 パソコンの画面を見ながら、中尾統括官は説明する。 「それはともかく・・・今年は受験生に対して、国税庁は「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を踏まえた注意事項」をホームページで公開している・・・」 中尾統括官は、浅田調査官にパソコンの画面を見せる。 「これって・・・どう思う?」 中尾統括官の傍らにやって来た浅田調査官の顔を下から覗く。 「・・・次に該当する方は、他の受験者への感染のおそれがあるため、受験できません・・・となっていますね。」 浅田調査官は注記事項に記載された説明を読み上げる。 「①③④はともかく・・・問題は、この②の項目だな。この体温については、試験会場でサーモグラフィー等による計測を行い、これによって37.5度以上の発熱が認められた場合は、受験できないとなっている。」 中尾統括官は、再び浅田調査官の顔を覗く。 「・・・しかし、この『37.5度以上の発熱』という形式的な基準で、一律に受験者を排除することについては・・・問題があるのでは・・・」 浅田調査官はつぶやく。 「そうなんだ・・・厚労省が発表している新型コロナ疑いでの相談・受診の目安は、5月11日の事務連絡では次のような表現に変わっており、『37.5度以上の発熱が4日以上』という具体的な基準は削除されている・・・」 「受験生だったら・・・息苦しさや強いだるさがたとえあったとしても、受験したいという気持ちが強ければ、結局、黙って受験するだろう・・・そして、試験官は、受験生の呼吸困難や倦怠感を外見から発見することは難しいと思う。」 中尾統括官は、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」を見ながら言う。 「・・・その意味では、受験資格に37.5度以上の発熱という形式的な基準を設けるメリットはあるのかもしれない・・・」 中尾統括官は、苦笑いをする。 「しかし、1年間、受験勉強をしてきた受験生に対して、37.5度以上の発熱という形式基準を適用して、受験資格を剥奪するというのも、少しかわいそうな気がしますが・・・」 浅田調査官は、真面目な顔になる。 「そうだなあ・・・たまたまその日、コロナ以外の何らかの原因で37.5度以上になるということもありうる・・・また、もともと体質的に平熱が高く、37.5度であっても体調として問題はないという人もいるだろう・・・」 そう言いながら、中尾統括官は、パソコンの検索で「日本人の平均体温」について、次の記述を発見する。 「そうですよね・・・平熱に個人差があることから、37.5度以上の発熱という形式基準を設けること自体、問題がありそうですね・・・」 浅田調査官は、頸を傾げる。 「この基準を厳格に貫くと、試験会場で受験生とのトラブルが多発するかもしれない。」 中尾統括官は、渋い顔をする。 「・・・ところで、中尾統括官は、もう税理士資格は持っているのでしたね。」 浅田調査官は、笑いながら尋ねる。 「私は、税務職員の勤務が23年以上あるから、税理士法8条1項10号イの規定で、税理士の資格は取得しているよ・・・」 中尾統括官は、税理士の資格取得の根拠条文をスラスラと言う。 「僕はまだ勤務年数が短いので・・・税理士資格を取得するためには、税務職員として働き続けなければなりません・・・」 浅田調査官は、舌を出して、頭を掻く。 (つづく)
《速報解説》 「会社法改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正案」がパブコメに付される ~原則、令和3年3月1日からの施行を予定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年9月1日、法務省は、「会社法改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」に関する改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは、「会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)の施行に伴い、会社法施行令、会社法施行規則、会社計算規則などについて改正するものである。 意見募集期間は2020年9月30日までである。 本稿では、会社法施行規則及び会社計算規則の改正に関する事項について解説する。なお、以下で引用する法令の条番号は、改正会社法、改正整備法又は、特に断らない限り、本政省令改正案による改正後のものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会社法施行規則関係 1 定義規定の改正 社外取締役を置くことが義務付けられること(会社法327条の2)、業務執行の社外取締役への委託に関する規定が設けられたこと(会社法348条の2)から、次の定義規定を改正する。 2 株式交付子会社に関する規定の新設 「株式交付」(会社法2条32号の2)について、同号の委任に基づき、株式交付により他の株式会社を子会社としようとする場合における子会社(株式交付子会社)の範囲を定める規定(会社法施行規則4条の2)を新設する。 3 全部取得条項付種類株式の取得及び株式の併合における事前開示事項に関する規定の改正 全部取得条項付種類株式の取得又は株式の併合を利用し、現金を対価として少数株主の締出しをする場合における端数処理手続(会社法234条及び235条)について、開示事項を拡充する改正を行う(会社法施行規則33条の2第2項4号及び33条の9第1号ロ)。 4 株主総会参考書類に関する規定の改正 5 取締役等の報酬等に関する規定の新設 6 役員等賠償責任保険契約に関する規定の新設 「役員等賠償責任保険契約」(会社法430条の3第1項)に該当しない保険契約を定める規定を新設する(会社法施行規則115条の2)。 7 事業報告に関する規定の改正 次の改正を行うとともに、所要の規定の整備を行う(会社法施行規則133条3項1号など)。 8 社債に関する規定の改正 9 株式交付に関する規定の新設及び改正 株式交付に関する規定の新設(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)に伴い、株式交付計画の承認に関する議案を株主総会に提出する場合における株主総会参考書類に記載すべき事項に関する規定(会社法施行規則91条の2)を新設するほか、次の改正を行う。 10 株主総会資料の電子提供制度に関する規定の新設及び整備 株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)の新設に伴い、電子提供措置をとる方法に関する規定(会社法施行規則95条の2)、電子提供措置をとる場合における招集の通知の記載事項に関する規定(会社法施行規則95条の3)及び書面交付請求をした株主に対して交付する書面(電子提供措置事項記載書面)に記載することを要しない事項に関する規定(会社法施行規則95条の4)を新設するほか、所要の規定の整備を行う(会社法施行規則41条7号、54条7号等)。 Ⅲ 会社計算規則関係 1 株式交付に関する規定の新設及び整備 株式交付に関する規定の新設(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)に伴い、次の改正を行うほか、所要の規定の整備を行う(会社計算規則54条2項及び55条2項10号)。 2 取締役等の報酬等として株式を交付する場合に関する規定の新設及び整備 取締役又は執行役の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができる(会社法202条の2、205条3項から5項まで、209条4項、445条6項等)ことに伴い、その場合に増加する資本金の額等について定める規定(会社計算規則2条3項34号、42条の2、42条の3及び54条の2)を新設するほか、所要の規定の整備を行う。 3 株主総会資料の電子提供制度に関する規定の新設 株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)の新設に伴い、連結計算書類に係る監査報告又は会計監査報告に記載され、又は記録された事項に係る情報についての電子提供措置に関する規定を新設する(会社計算規則134条3項)。 Ⅳ 施行時期及び経過措置 本政省令改正案については、改正法の施行日(令和3年3月1日を予定)から施行する予定である(改正省令案附則1条本文)。 ただし、弁護士会登記令、独立行政法人等登記令及び組合等登記令の改正規定は、整備法附則第2号に掲げる規定の施行の日(同年2月15日を予定)から、会社法施行規則、会社計算規則及び一般法人法施行規則に係る改正規定のうち、株主総会資料の電子提供制度に関する改正規定(改正省令案附則1条ただし書に規定する規定)は、改正法附則1条ただし書に規定する規定の施行の日から(改正省令案附則1条ただし書)施行することを予定している。 経過措置が規定される予定である。 (了)
《速報解説》 5G導入促進税制、関連法の施行に合わせ本日(令和2年8月31日)より制度開始 Profession Journal編集部 令和2年度税制改正で創設された5G導入促進税制が、関連する法令(特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(以下、5G導入促進法)及び同政省令等)の施行に合わせ、令和2年8月31日より制度が開始された。 5G導入促進税制(認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(措法42の12の5の2、10の5の4の2、措令27の12の5、5の6の4)は、青色申告法人で5G導入促進法の認定(導入計画が必要)を受けた事業者(認定導入事業者)が、認定特定高度情報通信技術活用設備(※)を取得等し事業供用(貸付けの用に供した場合を除く)した場合に、その供用年度において下記①②のいずれかを受けられる制度のこと。 (※) その法人の認定導入計画に記載された機械及び装置、器具及び備品、建物附属設備並びに構築物で、特定高度情報通信技術活用システムを構成する上で重要な役割を果たすものとして経済産業大臣及び総務大臣が定めるもの。 5G導入促進税制の対象期間は5G導入促進法の施行の日から令和4年3月31日までとされていたが、このたび8月28日付け官報(号外第178号)で同法の施行日を「令和2年8月31日」と定める政令及び関連する法令が公布された。 〈イメージ図〉 (※) 国税庁ホームページより また、同じ8月28日付け官報第321号では、本税制に関する改正省令(租税特別措置法施行規則の一部を改正する省令)も公布されている(措規20の10の2、5の12の2)。 なお、本税制の適用手続のページ(計画ひな形や申請書等様式)は、本稿公開時点ではまだ公表されていない模様。 (了)
《速報解説》 国税庁、パブコメを経て所得税基本通達59-6を改正 ~令和2年3月の最高裁判決を受け表記を見直し~ 税理士 菅野 真美 国税庁は令和2年8月28日付けで「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」を公表、本年2月の最高裁判決に係る補足意見を受け所得税基本通達59-6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》の見直しを行った。なお本改正は6月30日付けでパブリックコメントに付されていた。 〔所得税基本通達59-6はどのような通達か〕 所得税法59条において、個人が法人に対して著しく低い価額で資産を譲渡した場合は、その時における価額に相当する金額(時価)により、資産の譲渡があったものとみなすと定められていることから、譲渡した資産の譲渡時の時価がいくらなのかが重要である。 取引相場のない株式の場合は、所得税基本通達59-6により、原則として、財産評価基本通達により算定した価額とされている。つまり、所得税における取引相場のない株式の時価の算定方法は、相続税や贈与税のための算定方法が借用されている。しかし、所得税は 財産を譲渡した者に課税され、相続税や贈与税は財産を取得した者に課税されることから、同通達(1)において定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することと定められていた。 〔通達の改正点は何か〕 今回、財産評価基本通達188の(1)に定められる「同族株主」だけでなく、「取得した株式」や「株式の取得者」、「株式取得後」については、「譲渡又は贈与した株式」、「株式を譲渡又は贈与した個人」、「株式の譲渡又は贈与直前」と読み替えるような改正が行われた。この改正により所得税法上の取引相場のない株式の時価は、譲渡又は贈与した者の議決権等に基づくことが明確化された。なお国税庁は、今回の改正により「これまでの取扱いに変更を生じさせるものではない」としている。 〔改正の原因となった最高裁判決はどのような事案だったのか〕 この改正の原因となったのは、令和2年3月24日の最高裁判決(TAINSコード:Z888-2296)である。これは代表取締役であった個人が持株を法人に配当還元価額(1株あたり75円)で売却したが、課税庁が、類似業種比準価額(1株あたり2,505円)が時価であるとして更正処分等をしたことから、その個人の相続人(納税者)が不服であるとして訴えたものである。なお、株式発行法人は同族株主のいない会社で、譲渡直前の議決権割合は譲渡人単独で15.88%、同族関係者を含めると22.79%であり、譲渡後は、譲受法人が7.88%であった。つまり、所得税法上の時価は、譲渡人を基準とすると類似業種比準価額となるが、譲受人を基準とすると配当還元価額となる。 納税者は、所得税基本通達において同族株主の判定は譲渡前と定められているが、同族株主のいない会社の議決権割合に基づく株主区分の判定は定められていないから、取得後の議決権割合で判断すべきと主張した。地裁(東京地判平成29年8月30日)は譲渡直前の譲渡人の議決権割合によるとして納税者の主張を退け、不服な納税者が控訴したところ、高裁(東京高判平成30年7月19日)では、通達で株主区分について譲渡前の議決権によるという明文の定めがないことから原判決を変更、課税処分を取り消し、不服な課税庁が上告した。 〔最高裁判決のどこが改正につながったのか〕 最高裁は、譲渡所得は、譲渡人が保有していた期間の増加益に対する課税だから、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきとして、国の敗訴部分を破棄して高裁に差し戻した。 なお 宇賀、宮崎裁判官が、相続税法の通達を借用して作成した所得税法の通達について、わかりやすくするような改善が望まれるという補足意見(※)を述べたことが今回の通達改正につながったと考える。 (※) 補足意見の一部は上記パブコメページ(参考法令等)にて閲覧可能。 〔類似業種比準価額の斟酌割合について〕 今回の改正につき意見募集をしたところ、通達59-6(2)で、株式を譲渡又は贈与した個人が、発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは「小会社」として株式を評価するが、評価方法として類似業種比準価額と純資産価額の折衷が認められており、この類似業種比準価額の算定上の斟酌割合について明確化の要望があった。 この要望に対して国税庁は、大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5の斟酌割合であることが文理上明らかなため通達の見直しは行わず、ホームページで解説を掲載する予定であると述べた。 (了)