2020年8月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.383を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第74回】 「法人税低率国に拠点を移す節税を防ぐ方法」 税理士 山本 守之 1 EUによるアップルへの追徴課税 アイルランドの法人税率は12.5%と異常に低く、このような低税率国に巨大IT企業は拠点を移して節税をしています。そのうえ、税優遇まで受けていることをEUの政策執行機関である欧州委員会は問題視していました。 そこで、欧州委員会は2016年にアイルランド政府がアップルに違法な税優遇をしたとして、過去の優遇分や利息を取り戻すように指示しましたが、EU司法裁判所では、この指示を取り消す判断を示しました(2020年7月15日)。 このような判決は出たものの、米国の巨大IT企業(GAFA等)などが、アイルランドやルクセンブルクなどの低税率国に拠点を置いて節税していることを、欧州委員会は引き続き問題視しています。 2 OECDによるデジタル課税の枠組み案 2015年の米国の代表的株価指数であるS&P500の構成企業の市場価値割合は「機械・不動産などの有形資産」が13%、「無形資産」が87%となっています。そこで、OECDは巨大IT企業等を対象とした、次の3ステップで行うデジタル課税の枠組み案の合意を目指しています。 なお、「一定の算定率」をめぐる合意はかなり難しく、「売上高」についても拠点を置く国と消費者がいる国をめぐり、どのようなルールづくりをするのかにおいて注目されます。 米国の巨大IT企業(GAFA等)が法人税率の低いアイルランドやルクセンブルクに拠点を移すことに対して、OECDは一定の算定率で課税することができないので、上記の無形資産による利益を売上高に応じて分割する案などを提出しましたが、いまだ合意できないでいます。 3 日本の場合 グーグルは日本での広告事業収入をシンガポール法人に計上していましたが、2019年12月期から売上高を日本法人に計上しています。また、千葉県内にデータセンターを建設し、これを恒久的施設とするとしました。 現在の法律による恒久的施設の概念は古く、残念ですがまだその基準に基づく課税を考えているのが現状です。 また、グーグルと同様にフェイスブックジャパン(東京)は、日本での広告事業の売上高をアイルランド法人に計上していましたが、日本法人での計上に切り換えます。 巨大IT企業による問題とされている手法をまとめると、次のようになります。 グーグル、フェイスブックが日本において売上高を計上する方針を出したことで、他の法人がこれに追従すると問題は大きく変わります。このような方針とした背景には、企業として持続的成長をするために社会的責任に向き合う必要があったのではないかと考えられます。 4 今後の是正に関する私見 「BEPS(税源浸食と利益移転)」と呼ばれるOECDがまとめた行動計画では、主に次のようになっています。 【企業の過度な節税を防ぐ行動計画】 現実として、恒久的施設(PE)の存在を前提とする古い考え方と各国の納税義務に関する歪みが大きくなっていることは明らかです。 本稿で指摘しているグーグルやフェイスブックより前に、アマゾンは日本法人に売上高を計上する方針に転換しました(2017年と2018年の2年間で計300億円弱の法人税を納付)。 それまで(2014年期)はアマゾン日本法人の売上高は316億円、法人税は4億円でしたが、同期の米国法人の日本事業売上高は8,600億円と大きな差異がありました。いかに「節税」が行われていたか分かると思います。 アマゾンの日本での納税額が増えた理由は、日本事業を日本法人が直接担当するようになったことです(日本での納税額は2014年に比べ2018年は10倍超)。 アマゾン、グーグル、フェイスブックは日本事業の売上高を日本法人に計上し、それまでの高額な節税を是正しました。巨大IT企業として残るのは、アップル、ツイッター、エアビーアンドビー等となります。 このように税務当局が是正するのではなく、企業がデータを日本の恒久的な資産として捉え、是正しているのです。 そこで、私としては当局は次のような是正を行うべきだと思います。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第42回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成⑥【補論】- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回まで22回にわたって「租税法律主義と租税回避との相克と調和」という主題の下、租税回避について様々な観点から検討してきたが、その検討は前回でひとまず擱くこととして、次回からは租税法律主義それ自体の意義、内容等について改めて検討することにしたい。その前に、今回は、第15回の「租税法律主義と実質主義との相克-税法の目的論的解釈の過形成⑥」についてその「補論」として最近の判例を基に改めて検討しておくことにする。 第15回では、法人税法22条4項の規定が採用する企業会計への委任立法の形式が、少なくとも結果的には、税法の目的論的解釈の「過形成」を助長してきたことを明らかにしたが、その背景には、近時ビックカメラ事件等の下級審において裁判所が公正処理基準の法的意義に関して明示的に採用するようになってきた「法人税法独自(固有)観点説」ともいうべき考え方がある旨の理解を述べた。 その際、法人税法独自(固有)観点説は、ビックカメラ事件・東京地判平成25年2月25日訟月60巻5号1103頁が判示するように(控訴審・東京高判平成25年7月19日訟月60巻5号1089頁も同旨)、法人税法1条を参照して同法の目的を「適正な課税及び納税義務の履行の確保」として捉えた上で、「[この目的を有する同法の]公平な所得計算という要請とは別の観点に立って定められた」会計基準を、公正処理基準から除外する、換言すれば、企業会計の観点から定められた会計処理基準のうち、「適正な課税及び納税義務の履行の確保」を目的とする法人税法独自(固有)の観点に適合しないものを、公正処理基準から除外する、という意味・機能を有する旨の理解を述べたところである。 法人税法独自(固有)観点説は、旧武富士事件・東京地判平成25年10月30日訟月60巻12号2668頁及び控訴審・東京高判平成26年4月23日訟月60巻12号2655頁でも採用されたものと解されるが(佐藤英明・判例評論672号(2015年)8頁、9頁参照)、その後、同事件と同様の問題(過年度に収受した制限超過利息の返還に伴う更正の請求の要件該当性)が争われたクラヴィス事件において裁判所の判断に興味深い展開がみられた。 まず結論をみておくと、クラヴィス事件・大阪地判平成30年1月15日判タ1458号139頁(以下「本件大阪地判」という)は請求棄却、控訴審・大阪高判平成30年10月19日判タ1458号124頁(以下「本件大阪高判」という)は原判決取消し、上告審・最判平成2年7月2日(未公刊・裁判所ウェブサイト。以下「本件最判」という)は原判決破棄の各判断を示した。 以下では、これらの判決の比較検討を通じて、法人税法独自(固有)観点説の当否を改めて論じることにしたい。まず本件各判決について公正処理基準に関する判示をみておこう。 Ⅱ 公正処理基準に関する本件各判決の判断内容 1 本件大阪地判 本件大阪地判は、まず、法人税法独自(固有)観点説について次のとおり判示した(❶。下線筆者)。 その上で、次のとおり判示して(下線筆者)、前期損益修正の公正処理基準該当性を認め(❷)、「事業を停止した本件破産会社について継続企業の公準は妥当せず、前期損益修正により当該効果を得ることはできないから、公正処理基準が保障する法的救済の観点から、過年度に遡って益金の減算が認められなければならない旨」の原告の主張を採用しなかった(❸)。 2 本件大阪高判 これに対して、本件大阪高判は、前期損益修正の処理だけでなく過年度遡及会計基準(企業会計基準委員会・企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」[平成21年12月4日])による遡及処理も公正処理基準に合致する余地は十分にあることを認め、さらに、次のように判示して(下線筆者)、それらの処理のみが「公正処理基準に合致する唯一の会計処理としなければならないと解するのは相当ではない。」とし(ⓐ第1段落)、その上で、本件会計処理(過年度の確定した決算を遡及的に修正する会計処理)を公正処理基準に合致するものとして是認した(ⓐ第2段落及びⓑ)。 3 本件最判 これに対して、本件最判は、次のとおり判示して(下線筆者)、前期損益修正の公正処理基準該当性を認め(㋐)、これと異なる本件会計処理のような会計処理について公正処理基準適合性を認めなかった(㋑)。 Ⅲ 過年度課税関係調整事由に係る前期損益修正の「原則的排他性」 1 公正処理基準と前期損益修正の排他性 以上でみたように、本件各判決は、本件(「法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合」(本件最判の前掲判示㋑))のように過年度課税関係調整事由が生じた場合における税務処理として、公正処理基準の枠内で、前期損益修正のみを認めるか又は本件会計処理のような異なる会計処理をも認めるか、という問題につき、それぞれ異なる判断を示した。 この問題は、過年度課税関係調整事由に係る租税手続法上の調整手続についていわれる更正の請求の排他性に擬えていえば(更正の請求の排他性も取消訴訟の排他性に擬えたものであるが)、前期損益修正の排他性の問題といってもよかろう。この問題は、租税実体法(課税要件法)上の問題であるが、前期損益修正の排他性を認めるか否かによって更正の請求の許容範囲が異なってくるという意味において、更正の請求の排他性と密接に関連する問題である。 前期損益修正の排他性につき、本件大阪地判と本件最判はこれを肯定したのに対して、本件大阪高判はこれを否定した。ただ、本件大阪地判と本件最判とは、同じく前期損益修正の排他性を肯定する立場に立ちながら、その理由づけに関する論理構成を異にすると解される。ここでは、まず、両判決の論理構成の違いを検討しておくことにしよう。 本件最判の前掲判示㋑は、「事業年度を超えた課税関係の調整」の可否を専ら実定法人税法の規定に基づいてのみ判断する考え方を示し、この考え方によって本件会計処理の公正処理基準該当性を否定した。確かに、本件大阪地判の前掲判示❸も、その前半では、「事業年度を超えた課税関係の調整」に関する実定法人税法の規定について説示しているが、しかし、その後半で原告による本件会計処理の公正処理基準該当性の主張を斥けるに当たっては、本件最判の上記の考え方ではなく、法人税法独自(固有)観点説にいう「法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする法人税法の公平な所得計算という要請」を援用している。 このように、本件最判と本件大阪地判はともに、本件会計処理の公正処理基準該当性を否定し、少なくともその限りで前期損益修正の排他性を肯定したが、ただ、本件最判は、本件大阪地判の前掲判示❶とは異なり、法人税法独自(固有)観点説には言及せず「法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする法人税法の公平な所得計算という要請」を援用しなかった。 法人税法独自(固有)観点説は、第15回Ⅱで述べたように、税法の目的論的解釈の「過形成」という、租税法律主義の下では許されるべきでない結果をもたらす考え方であることからすれば、本件最判がこの考え方に言及せず、専ら実定法人税法の規定に基づいてのみ判断したのは、租税法律主義の見地からみて妥当である。 本件最判が前期損益修正の排他性を肯定するに当たり、本件大阪地判とは異なり法人税法独自(固有)観点説に言及しなかったことは、公正処理基準にいう「公正妥当」を専ら企業会計の観点からみた「公正妥当」の意味に解する立場に立つことを前提としているものと解されるが(前掲判示㋐も参照)、そのような立場は公正処理基準の「第三者性」の観点からみても妥当である(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【414】【417】参照。そのような立場を支持する傾向が伝統的には強かったこと及び公正処理基準の「第三者性」との関係については、第15回Ⅲ1・2参照)。 なお、本件最判が、本件大阪地判の前掲判示❶と異なり、大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁(以下「大竹貿易事件最判」という)を引用しなかったのは、同じく公正処理基準の問題とはいえ事案が異なること(過年度収益の修正と収益の計上時期)を考慮したからかもしれないが、別の見方として、大竹貿易事件最判にいう「法人税法の企図する公平な所得計算という要請」を「法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする法人税法の公平な所得計算という要請」と読み換え、もってこの要請による公正処理基準の限定解釈(目的論的限定解釈)を正当化しようとする法人税法独自(固有)観点説に対して、消極的な態度を示したものとみることもできるように思われる(上記の2つの「要請」が意味内容を異にすることについては、拙稿「公正処理基準の法的意義-税法における恣意の排除と民主的正統性の確保-」近畿大学法学65巻3・4号(2018年。八ツ尾順一教授ほか退任記念号)213頁、237-243頁参照)。 2 前期損益修正の排他性の例外 ところで、大竹貿易事件最判は、本件大阪地判と反対の結論を示した本件大阪高判でも、その前掲判示ⓐで引用されているが、このことをどのように理解すればよいのであろうか。 本件大阪高判は前掲判示ⓐで、大竹貿易事件最判を引用して「収益・費用等の帰属年度をめぐり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に適合する会計処理は必ずしも単一ではないと考えられる」と述べた上で、そのことから、「本件のよう[な]場合の収益・費用等の帰属年度に関し、前期損益修正による処理又は過年度遡及会計基準による遡及処理のみが公正処理基準に合致する唯一の会計処理としなければならないと解するのは相当ではない。」と判示し、もって「法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り」本件会計処理を公正処理基準に合致するものとして是認した。 そして、その実質的な理由づけについて前掲判示ⓑで、「本件破産会社の場合は、①企業会計基準が全面的に適用されるべき理由はなく、②会社法上も本件計算書類関係諸規定は適用されない上、③過去の確定決算を修正しても、通常の株式会社の場合のような弊害が生じることもないのであるから、本件会計処理は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行と矛盾しないし、④控訴人が本件会計処理を行うことは、本件破産手続の目的に照らして合理的なものというべきであり、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでもない」と判示しているが、これらの理由づけのうち①~③は消極的理由づけであり④は積極的理由づけである(①~③を「許容性」、④を「必要性」を示す理由づけとして理解・整理するものとして西中間浩「判批」税経通信74巻6号(2019年)176頁、181頁参照)。 上記④の積極的理由づけは、本件大阪地判が採用しなかった「公正処理基準が保障する法的救済の観点から、過年度に遡って益金の減算が認められなければならない旨」の原告の主張を肯定的に考慮したものと解されるが、その理論的根拠は金子宏教授の次の見解(同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)350-351頁)に見出すことができよう。 金子教授は、この見解について根拠を明示的には述べておられないが、その根拠は、金子教授が租税法律主義の内容として従来から一貫して説いてこられた「納税者の権利保護」の要請(同・前掲書81頁)にあると解される。金子教授の租税法律主義論について、筆者は、最近、公益財団法人日本税務研究センターの「憲法と租税法」共同研究会(第34回Ⅰ参照)における共同研究の成果の中で、次のとおり述べた(日税研論集77号(近刊)所収の拙稿「租税法律主義(憲法84条)」の「Ⅰ 租税法律主義の法的性格・法的構成」の「4 租税法律主義の機能的考察-法の支配による租税法律主義のコーティング-」(4))。 ここで「法の支配」という観念は、「①法が一般的抽象的であり、②公示され、③明確であり、④安定しており、⑤相互に矛盾しておらず、⑥遡及立法(事後立法)が禁止され、⑦国家機関が法に基づいて行動するよう、独立の裁判所によるコントロールが確立していること」(長谷部恭男『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)19頁)など、「一国の法秩序において、法が法として機能するための条件、言いかえれば人が法に従いうるための最低限の条件となる要請」(同129-130頁)という意味で用いたのであるが、金子教授が説かれる「納税者の権利保護」の要請(特に司法的救済の保障の原理)は、上記⑦に対応するものとして、法が法として具備すべき最低限度の条件といってよかろう。 そうすると、本件大阪高判が公正処理基準に「法的救済の観点」を読み込んだのは、「法的救済の観点」を法人税法が法として具備すべき最低限の条件として認めたからにほかならないと解される。このような理解によれば、本件大阪高判は、本件大阪地判が依拠した法人税法独自(固有)観点説とは異なる「法一般観点説」ともいうべき考え方に依拠して、法の支配の要素としての「法的救済の観点」から、前期損益修正の排他性を否定し本件会計処理を許容したといってよかろう。 法一般観点説は、法解釈方法論の観点からみると、公正処理基準に対して憲法(租税法律主義)適合的解釈を加えることによって、公正処理基準に「法的救済の観点」を読み込むものである。では、本件最判が前期損益修正の排他性を肯定し本件会計処理を許容せず本件大阪高判を破棄したのは、公正処理基準の憲法(租税法律主義)適合的解釈によると、問題のある判断であるということになるのであろうか。 この問題については、「法の支配は、法が備えるべき条件の一つにすぎず、他の要請の前に譲歩しなければならない場合もあることに注意しなければならない。」(長谷部・前掲書20頁)といわれるように、租税法律主義の他の要請との関係をも視野に入れて、検討する必要があると考えられる。とりわけ課税要件法定主義及び合法性の原則との関係では、納税者の権利保護の要請も、原則として、これを認める明文の規定が実定税法上定められている限りにおいて、妥当すると考えるべきである。このような考え方は、判例が従来から採用してきたところである。 例えば、第1に、納税申告の錯誤無効の主張について最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁は次の判断を示した(下線筆者)。 第2に、金銭債権の後発的貸倒れに伴う課税関係の是正について最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁は次の判断を示した(下線筆者)。 第3に、租税法律関係における信義則の適用について最判昭和62年10月30日訟月34巻4号853頁は次の判断を示した(下線筆者)。 第4に、延滞税の法定外免除(不発生)について最判平成26年12月12日集民248号165頁は次の判断を示した(下線筆者)。 以上の4つの例をみても、判例は、納税者の権利保護を実定税法上の明文の規定の枠内で認めることを原則とし、「特段の事情がある」・「正義公平の原則にもとる」・「特別の事情が存する」・「明らかに課税上の衡平に反する」等の場合に例外的に、法定外の救済の余地を認める、という判断枠組みを採用してきたといえよう。 本件では、法人税法22条4項が定める公正処理基準の解釈によって前期損益修正以外にも法的救済の余地が認められるか否か(前期損益修正の排他性の有無)が争点となっていたのであって、法定外の救済の余地が認められるか否かが争点となっていたのではない。したがって、本件最判は上記の判断枠組みの下で前期損益修正の排他性を肯定したわけではない。ただ、法人税法22条4項は「一般に公正妥当」という不確定概念を用いる一般条項であることから、その解釈が緩やかに自由に行われ、ひいては法定外の救済の余地を認めるのと実質的に同じ結果をもたらすおそれがあること(問題状況は異なるが一般条項の「危険」については第30回Ⅲも参照)を考えると、本件最判が上記の争点について専ら実定法人税法の規定に基づいてのみ判断したのは、思考方法のレベルでは、従来の判例の前記判断枠組みを踏襲したものといってよいであろう。 本件最判は前掲判示㋑で、「同法[=法人税法]は、破産者である法人であっても、特別に定められた要件と手続の下においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているものと解される。」(下線筆者)と判示し、本件について「上記原則に対する例外」(同)を認めなかったが、それでも、別の事案であれば、前期損益修正の排他性について「例外」が認められる余地を残したものと解される。その意味で、本件最判は、前期損益修正について「原則的排他性」を認めたものというべきであろう。 Ⅳ おわりに 最後に、以上の検討を簡単にまとめておこう。 本件大阪地判が依拠した法人税法独自(固有)観点説は、本件最判によって採用されなかった。また、本件大阪高判が依拠した法一般観点説も、本件については本件最判によって採用されなかった。本件最判は、「事業年度を超えた課税関係の調整」の可否を専ら実定法人税法の明文の規定に基づいてのみ判断する考え方を示したのである。 本件最判の示したこの考え方は、「法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする法人税法の公平な所得計算という要請」という法人税法独自(固有)の観点も、法人税法が法として具備すべき最低限の条件という意味での法の支配の要素としての「法的救済の観点」も、「事業年度を超えた課税関係の調整」に関する実定法人税法の明文の規定の中で具体化されていることを前提とする考え方であるといってよかろう。 このような考え方は、租税法律主義の見地から妥当であり、公正処理基準に関していえば、これにいう「公正妥当」を専ら企業会計の観点からみた「公正妥当」の意味に解する立場に立つという意味でも、妥当である。 もっとも、公正処理基準の憲法(租税法律主義)適合的解釈の観点からは、事案によっては、例外的に、実定法人税法の枠外でも「事業年度を超えた課税関係の調整」を行う余地が認められるべきであろう。本件最判は、本件についてはその余地を認めなかったが、事案によってはその余地が認められ得ることを排除してはいないものと解される。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第10回】 「〔第1表の1〕株主判定と遺産分割のやり直し」 税理士 柴田 健次 Q 乙は甲から相続により、非上場会社であるA社の議決権総数のうち6%の株式を取得しています。筆頭株主は戊であり、議決権総数の94%の株式を有しています。A社の役員は、戊のみであり、甲の相続人である乙及び丙はいずれもA社の役員には該当していません。 甲の相続人から依頼を受けて相続税の申告を行ったB税理士法人は特例的評価方式(配当還元価額)によりA社の株式の評価を行いましたが、その後、甲の相続税の税務調査によりA社株式については、特例的評価方式(配当還元価額)は適用できず、原則的評価方式により評価するべきとして、増額更正処分を受けました。 遺産分割協議においては、乙がA社株式を取得する代わりに、丙に代償金を支払うことが前提となっており、代償金の算定においては、配当還元価額で評価したA社株式評価額の2分の1相当額で計算がなされていました。 そこで、当初の遺産分割協議において錯誤があったものとして取消しを主張し、A社の議決権総数6%の株式のうち、3%ずつを乙と丙が取得する旨の遺産分割協議書を作成すれば、更正の請求により特例的評価方式(配当還元価額)は認められるのでしょうか。また、遺産分割協議のやり直しとして、乙から丙に3%の株式の贈与があったものとして贈与税の課税対象になるのでしょうか。 A 特例的評価方式(配当還元価額)は認められないと考えられます。課税負担の錯誤を理由とする更正の請求については、過去の裁判事例において原則として認められないものとされています。なお、更正の請求が認められない場合においても、民法上の錯誤に該当すれば、贈与税の課税は生じません。 ◆ ◆ ◆ ① 同族株主の判定 乙の同族関係者として戊も含まれますので、乙は同族株主に該当し、議決権割合5%以上となる株式を取得していますので、原則的評価方式が適用されます。同族株主がいる場合の株主判定の手順については、本連載【第1回】の「同族株主がいる場合の株主判定の手順」をご確認ください。 乙及び丙が議決権割合5%未満となる株式を取得している場合には、乙及び丙は中心的な同族株主に該当せず、戊が中心的な同族株主に該当しますので、特例的評価方式(配当還元価額)の適用が可能となります。 ② 錯誤の有無と贈与税の課税関係 錯誤があったか否かについては、民法95条(令和2年4月1日施行の改正民法)で下記の通り規定がされており、錯誤があった場合には、表意者は意思表示の取消しをすることができるとされています。民法改正前は、錯誤の効果は「無効」でしたが、改正後は「取消し」となりました。 遺産分割のやり直しに対する課税関係については、平成17年12月15日の裁決事例(TAINSコード:J70-4-17)において、次のように判断しています。 したがって、税務上は、錯誤により取消し等がない場合には、当初の遺産分割協議により相続財産が確定的に帰属することになり、新たな遺産分割協議は、贈与として取り扱われることになりますが、無効又は取り消し得べき原因がある場合には、当初の遺産分割協議による財産の取得が失われますので、贈与税の課税関係はないものとされています。 本問の場合においては、遺産分割協議という法律行為の基礎とした事情について錯誤(基礎事情の錯誤)があったかどうか(民法95①二)、その事情が表示されているかどうか(民法95②)、重大な過失はなかったか(民法95③)が問題になります。 まず配当還元価額を前提として遺産分割協議の話し合いが行われていますので、法律行為の基礎とした事情に錯誤があったことになります。次に、配当還元価額を基に代償金の算定がなされていますので、基礎事情の意思表示があったことになると考えられます。 したがって、重大な過失がなければ錯誤として認められることになります。 ③ 更正の請求が認められるかどうか 課税負担の錯誤については、民法上の錯誤に該当した場合であっても、原則として更正の請求はできないと解されています。 平成18年2月23日の高松高裁(TAINSコード:Z256-10328)では、課税負担の錯誤について更正の請求が認められなかった事例となりますが、次のように判示しています。 これに対して、平成21年2月27日の東京地裁(TAINSコード:Z259-11151)では、課税負担の錯誤については、原則として更正の請求を認めないとしつつ、更正請求期間内にされた更正の請求を認めても弊害が生ずるおそれがない特段の事情がある場合には、例外的に認められる場合があるとして、下記の通り判示しています。 本問については、仮に民法上の錯誤に該当した場合においても、自ら誤信に気づき更正の請求をしたものではなく、税務署の増額更正によるものであるため、更正の請求は認められないものと考えられます。 なお、上記の高松高裁及び東京地裁はいずれも民法改正前の「錯誤」で改正後の「錯誤」ではありませんので、改正後の「錯誤」が国税通則法の更正の請求事由にあたるかどうかについては、今後の税制改正や判例で注視すべき内容となりますが、申告納税制度の趣旨・構造を鑑みると、改正後の「錯誤」についても、課税負担の錯誤を理由とする更正の請求は、原則として認められないと考えられます。 ☆実務上のポイント☆ 課税負担の錯誤を理由とする遺産分割協議のやり直しについては、民法上の錯誤に該当しない場合には、贈与税の課税問題が発生し、民法上の錯誤に該当する場合でも原則として更正の請求をすることができないため、実務上は、相続税の申告期限までに株主判定を正確に行い、申告を行うことが重要となります。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例89(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆消費税の課税対象と資産の譲渡等(消法4、2①八) 消費税の課税対象となる取引は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等及び外国貨物の引取り(輸入取引)である。ここで「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為を含む)をいう。 ◆代物弁済による資産の譲渡(消基通5-1-4) 上記の「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいう。 ◆簡易課税制度と消費税の還付 消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算し、控除しきれない部分があるときは、確定申告により還付される。ただし、みなし仕入率による簡易課税制度を選択した者については、消費税の還付を受けることはできない。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第9回】 (最終回) 「「適用時期」 「経過措置」」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [13] 適用時期 グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(令和2年所法等改正法附則14)。 [14] 経過措置 連結納税制度からの移行に伴う経過措置は次のとおりとなる。 (連載了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第4回】 「税務当局による課税処分(更正処分等)の意義」 弁護士 下尾 裕 読者の皆様は、税務訴訟における「事件名」を見られたことがあるだろうか。 税務訴訟の多くは、裁判所に課税処分の取消しを求めるものであるが、例えば、法人税の更正処分を争う税務訴訟であれば、「法人税更正処分等取消請求事件」といった名称(事件名)が付けられている。 今回は、この事件名における「更正処分等」の詳細、すなわち、税務当局が強制的に納税者の税額を確定しようとすることの意義について、改めて確認してみたい。 1 税務当局による税額確定手続の種類と区別 普段あまり意識することはないと思われるが、税務当局が納税者の税額を強制的に確定しようとする場合の手続については、①更正処分、②更正決定、③賦課決定の3つが存在する。 これらの違いを簡単に整理すると下表のとおりとなるが、大別すると(ⅰ)対象税目が申告納税方式であるか賦課課税方式であるか、(ⅱ)(対象税目が申告納税方式である場合には)税務申告を行っているか否かという2点で区別される。 【税額確定手続の整理表】 改めてご説明するまでもないかもしれないが、申告納税方式の租税としては、法人税及び所得税等の所得課税や消費税が挙げられ、賦課課税方式の租税としては、各種附帯税のほか、多くの地方税(個人住民税、個人事業税、不動産取得税、固定資産税等)が該当する。 これらの手続は、納税者側から見ればあまり変わらないものであるが、敢えてその差異を挙げるなら、更正処分及び更正決定については、前提として税務当局による調査が必要であるという点に違いがある。 なお、国税については、現行の国税通則法において、いずれの税額確定手続についても理由附記が要求されており(国税通則法第74条の14第2項本文、行政手続法第8条、第14条)、理由附記に不備のある処分ないし決定は違法とされる。 ここで要求される理由付記の程度については、「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える」という趣旨との関係で決せられるが(最高裁昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決等参照)、現在では理由附記の程度について、結論のみならず、原因事実や法令適用といった判断過程についても言及しなければならないという考え方が支配的であると考えられる。 私見を前提に、誤解を恐れずに言えば、なぜ自らが課税されるのかということが、納税者の目から見て最低限理解できる程度の理由附記が要求されているということであろう。 2 不服申立てにおける取消請求の対象 では、ここで一つ設問を考えてみたい。 結論から述べると、このような場合に税務訴訟において裁判所に求める判断の内容(請求の趣旨)は、例えば以下のように記載され、当該記載からも明らかなとおり、①更正処分(本税の課税処分)及び、②加算税の賦課決定処分のみが取消請求の対象になっている。 【請求の趣旨の例】 延滞税がここでの取消請求の対象に含まれていない理由は、延滞税については、本税につき増差税額がある場合において納税完了までの間、自動的に発生する税であり(国税通則法第15条第3項第6号)、逆に更正処分が取り消されれば自動的に発生しなかったことになるという意味で、裁判所による取消しを要しないものであるからである。 それゆえ、仮に納税者が延滞税の支払いを求める趣旨で送付されてくる催告通知を課税庁側の税額確定手続に準じるものとして取消請求訴訟を提起したとしても、不適法なものとして却下される(東京地裁昭和41年6月16日判決税資第44号789頁等)。 これに関連して、読者の中には、法人税の更正処分がなされた場合には法人住民税(所得割)等も追って増額更正されることから、これら地方税の更正処分についても取消しを求める必要があるのではないか、という疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれない。 このような疑問は、実は理論的には正しいのであるが、実務的には、地方税については、国税における更正処分等が取り消されれば、自動的にこれに沿った減額更正がなされるのが通常であり、また、国税につき取消しを求める判決が出た場合には更正の請求等も可能であるから、地方税についてまで取消しを求める請求はなされていないのが一般的である。 3 青色申告承認取消処分との関係 最後に、更正処分等に関連して、青色申告承認取消処分との関係についても少し説明をしておきたい。 読者の皆様も目にされたことがあるかもしれないが、税務当局による法人税又は所得税の更正処分と同時に、青色申告承認取消処分が行われるケースがある。なぜ、この取消しが同時になされるのかということを考えたことはあるであろうか。 端的に言えば、その理由は、青色申告による納税者の特典、具体的には欠損金の繰越控除等を適用する権利をはく奪するということであるが、その中でも特に実務上重要なのは、青色申告承認を取り消すことによって、推計課税(所得税法第156条、法人税法第131条)を可能にすることである。 ここで推計課税とは、納税者の「財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、授業員数その他事業の規模により」納税者の所得等を推計して課税することをいう。 青色申告承認者については、複式帳簿を備えることが前提となっていることから、まずは帳簿書類を調査することを前提に、推計課税を行うことはできない仕組みになっている(所得税法第155条第1項、法人税法第130条第1項)。 上記青色申告承認の取消しは、帳簿が保存されていない又はその内容が虚偽であるなどの納税者について、限られた資料からの推計による課税を可能にするという意味合いがある。 * * * 次回は、納税者からの税負担軽減手続である更正の請求について取り上げたい。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第44回】 「外国債の利子に係る個人の課税関係と救済措置」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 日本の金融機関を通じて支払を受けた外国の国債の利子について、外国税額控除の適用を忘れていました。 更正の請求をすることで、税金の還付を受けることができますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷債券とは 株式会社が事業を運営するための資金を集める方法としては、増資や借入れ(借金)などがある。金融機関から借入れをする場合、期間に応じて利息を支払い、期間満了日までに借りたお金(元本)を返すことになる。 一般に国債や社債といわれるものがあるが、これらは簡単に言えば、発行した組織体(国や企業)の借金を紙の上に載せて、簡単に取引できるようにしたものである。紙の上に載せた借金であるから、紙(借金の額)を小分けにして買いやすい金額にすることにより、多数の投資家から大きな資金を集めることができる。この借金を載せた紙のようなものを債券という。 債券を発行した組織体は、約束した日に利息を支払い、約束した日に元本を返済する。投資家は利息を受け取るが、もし期日前に資金が必要となった場合は、この債券を売却することにより回収することができる。 ▷特定公社債と一般公社債 この債券の利子に係る個人の所得税の課税関係については、現行税制では「特定公社債」と「一般公社債」によって取扱いが異なる。 特定公社債とは、国債、地方債、外国国債、外国地方債、公募公社債、上場公社債などであり、一般公社債は特定公社債以外の公社債となる(なお、平成27年12月31日以前に発行された公社債で同族会社によって発行されたもの以外は特定公社債に分類される)。 日本の国内外の債券については、この枠組みによって課税されることになる。 ▷債券の利子課税(個人)の基本 債券の利子を受け取った個人の課税関係について、特定公社債の場合は申告分離課税が原則であるが、確定申告不要制度を選択することができる。申告分離課税の場合、上場株式等の譲渡損益との損益通算が可能となる。 一方、一般公社債の場合は、源泉分離課税となる。ただし、同族会社が発行した社債の利子で同族株主等が受けるものについては総合課税となり、源泉分離課税の適用を受けることはできない。 ▷外国の債券の課税関係 外国の債券の課税関係も、上記で述べた課税関係に添うものであるが、日本国内にある金融機関を通じて債券の利子が支払われるか否かで、課税関係が異なる。 ▷国内の金融機関を通じて利子が支払われた場合 国内の金融機関を通じて外国の債券の利子が支払われた場合、利子の支払い時に源泉所得税等が差し引かれることから、特定公社債の場合は、申告分離課税が原則だが、申告不要を選択できる。また、金融機関を通じて外国の一般公社債の利子が支払われた場合、実際にこのようなケースは見受けられないようであるが、源泉分離課税となる。 ▷国内の金融機関を経由せずに直接取得した場合 国内の金融機関を通さずに直接外国債券を取得している場合は、通常、利子について源泉徴収を行う機会がないことから、日本での課税を申告により完結させる必要がある。 したがって、利子について特定公社債の場合は申告分離課税、一般公社債の場合は総合課税を行わなければならないと考える。 ▷外国所得税と外国税額控除 外国債の利子について、現地で外国所得税等が課せられる場合があるが、この場合、以下のような取扱いとなる。 まず、日本国内の金融機関を通じて利子の支払いを受ける場合は、外国所得税とともに日本での源泉所得税等も課されることになる。 特定公社債の利子の場合は、利子の金額から外国所得税額を差し引いた残額について20.315%の税率(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)が課せられる。他方、一般公社債の場合は、利子の金額に20%の税率(所得税15%、地方税5%)(※)を乗じた金額を求め、そのうち、既に支払われた外国所得税額を控除した残額が、日本の源泉所得税等として徴収されることになる。 (※) 復興特別所得税は国内源泉徴収所得税額が生じた場合のみ、所得税額に基づいて2.1%の税率で課される。 特定公社債について申告分離課税として確定申告した場合、外国税額控除を適用して二重課税を精算することができる。一般公社債の場合は源泉分離課税であることから、確定申告による精算を行うことができない。 なお、前述の通り、国内の金融機関を通さずに取得した外国債券の利子は、特定公社債、一般公社債のいずれも確定申告を行わなければならないことから、確定申告により外国税額控除を適用することができる。 また、租税条約により実際に外国で徴収された税額を超えて、租税条約で定められた方法により算定した税額まで外国税額控除をすることが認められる場合があるが(みなし外国税額控除)、これは申告をする必要がある。 ▷更正の請求ができる場合、できない場合 それでは今回の事例のように、誤った処理によって多額の税額を納めていたような場合、どのような解決方法があるか。 この場合、更正の請求があるが、公社債の利子に係る更正の請求は、できる場合とできない場合があるため、注意が必要である。 例えば、申告分離課税で日本の金融機関を通じて支払を受けた外国国債の利子の申告をしていたが、外国税額控除の適用を忘れていた場合、更正の請求をすることはできる。しかし、確定申告不要制度を選択した場合には、更正の請求で外国税額控除を行うことはできない。これは2つの選択肢(申告分離課税・確定申告不要制度)のうち納税者自身が申告不要を選択したことによるもので、選択しなかった一方(申告分離課税)を再選択することはできないということである。 では、本来ならば、申告不要か申告分離課税しか選択できない外国国債について、勘違いをして総合課税の利子所得として申告した場合はどうか。この場合は更正の請求をすることはできると考える。なぜなら、総合課税による申告は納税者の選択ではなく誤りであり、更正の請求事由に該当するからである。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第25回】 (最終回) 「非課税承認が取り消された場合の課税関係」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 譲渡所得税の非課税承認が取り消された場合、どのような課税が生じますか。 - 回 答 - 受贈法人が、寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供する前に非課税承認が取り消されたときは、寄附者に対して所得税が課税され、公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されたときは、受贈法人に対して所得税が課税されます(措法40②③、措令25の17⑩~⑱)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 現物寄附を行った財産に対し、寄附を行った個人が非課税承認をいったん受けても、その後、定められた要件(【第13回】参照)を満たさなくなった場合には、その時点で承認が取り消され、本来課されたであろう所得税の課税が行われることになります。 (1) 一般特例の場合 一般特例に係る申請について非課税承認を受けた場合であっても、次の①~③に該当するとその承認が取り消され、非課税承認が取り消された日の属する年分の所得として所得税が課されることになります。 (2) 承認特例の場合 承認特例に係る申請について非課税承認を受けた場合であっても、次の④~⑥に該当するとその承認が取り消され、非課税承認が取り消された日の属する年分の所得として所得税が課されることになります。 (連載了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第50回】 「建設協力金の会計処理」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 建設協力金とは、ある土地及び建物を借りるにあたって、賃借人が賃貸人(土地の所有者)に建物の建設費用を預託する金銭のことをいう。一般的には、一定期間据え置き後に、利息とともに分割返済される(又は賃料と相殺される)のが一般的である。 今回は、賃借人の建設協力金の会計処理について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 建設協力金は、契約により、将来返還される部分と返還されない部分に分かれる(場合がある)。 そして、ぞれぞれで会計処理が異なるため、将来返還される部分については、【STEP2】及び【STEP3】を検討し、将来返還されない部分について、【STEP4】を検討する。 賃借人が建設協力金を支払った際には、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値を時価として認識する。そのため、割引計算が必要となる。 そして、支払額と当該時価との差額は、長期前払家賃として計上し、契約期間にわたって各期の損益に合理的に配分する(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」133)。 (※1) キャッシュ・フローの割引現在価値 (※2) 差額 (※3) 支払額 【留意点】 ➤建設協力金に関して、差入企業が対象となった土地建物に抵当権を設定している場合、現在価値に割り引くための利子率は、原則としてリスク・フリーの利子率(例えば、契約期間と同一の期間の国債の利回り)を使用する。ただし、返済期日までの期間が短いもの等、その影響額に重要性がないものは、現在価値に割り引かないことができる(実務指針133)。 ➤現在価値に割り引かない建設協力金は債権に準じて会計処理するため、貸倒引当金の計上を検討する必要がある。 建設協力金は、一般的に一定期間後に返還されるため、返還される前と後で会計処理が異なる。 (1) 建設協力金の返還が始まる前 長期貸付金は、割引計算された金額のため、契約期間に応じて利息をプラスする必要がある(利息法により計算する)。一方、長期前払家賃は、契約期間で均等に費用処理する必要がある。 (※1) 長期貸付金の残高 × 割引率 (※2) 長期前払家賃の残高 ÷ 契約残存期間 (2) 建設協力金の返還が始まった後 上記(1)の会計処理に加えて、契約利率に応じた利息を受け取るため、受取利息を計上する。また、元本返還された金額を会計処理する必要がある。 (※3) 長期貸付金の残高 × 割引率 (※4) 建設協力金残高(= 建設協力金の支出額 - 元本返還額)× 契約利率 (※5) (※3)+(※4) (※6) 建設協力金の元本返還額 (※7) 長期前払家賃の残高÷契約残存期間 将来返還されない部分の額については、支払額で資産計上し、その後、賃借期間にわたり定額法により償却する(実務指針133)。 (1) 支払時 (※1) 支払額 (※2) 勘定科目は各社の状況に応じて適切に設定することが考えられる。 (2) 支払後 (※3) 残高 ÷ 賃借残存期間 《設例》 X社は入居予定の建物の建設資金1,100を、地主A社に建設協力金として支払った。 〈会計処理〉 1 X0年4月1日 (※1) 割引現在価値 (※2) 支払額 (※3) 差額 (※4) 返還されない部分 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 X1年3月31日 (※5) 利息法で計算 (※6) 162 ÷ 10年間 = 16 (※7) 100 ÷ 10年間 = 10 3 X6年3月31日 * * * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)