検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10310 件 / 4251 ~ 4260 件目を表示

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第9回】「役員に対する経済的利益の供与」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第9回】 「役員に対する経済的利益の供与」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 経済的利益の概要 役員に対する給与は金銭により支給されることが一般的であるが、「債務の免除による利益その他の経済的な利益」もこの「給与」に含まれるため(法法34④)、定期同額給与等の諸規制を受けることとなる。 役員に対しての給与とされる経済的利益は、具体的例示として法基通9-2-9に定められているところであるが、所得税法上、経済的な利益として課税されない程度のものであり、かつ、当該法人がその役員等に対する給与として経理しなかった場合には、給与とはされない(同通達9-2-10)。すなわち、法人の選択により法人税法上の取扱いが変わることを意味するため、留意が必要となる。 今回の事例では、役員に不動産を低額で提供しており、今後、低廉価格で譲渡することを予定しているとのことであるが、これらはどちらも経済的利益となる。 例えば、税務上の時価1,000万円の不動産を役員に対して600万円で譲渡した場合、差額の400万円が損金不算入となり、同時に源泉徴収義務が発生することとなる。   (2) 毎月おおむね一定額の経済的利益の場合 上記のように、役員に対する経済的利益は法人税法上の「給与」として取り扱われる。このうち、継続的に供与され、経済的利益の額が毎月おおむね一定である場合は定期同額給与に該当し(法令69①二)、改めて損金算入の可否判断がなされることとなる。 本事例のように、役員に不動産を低額で提供している場合は通常これに該当し、この他にも保険料負担や利息支払いなどが該当する。特に、法人が年払いによりこれらを支払う場合でも、役員にとっては毎月定額のベネフィットを受ける実態があるため、「毎月おおむね一定」であるとされる。翻せば、法人側の費用の支出時期では判断されないこととなる(※)。 (※) 佐藤友一郎編著『法人税基本通達逐条解説 九訂版』(税務研究会出版局、2019)823頁。 ここで、会社法361条1項3号では、「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」を株主総会の決議によって定めるとされている。この意味は、金銭以外の経済的利益の供与についても株主総会で定めておくことが求められているということである。なお、このような議案を株主総会に提出した取締役は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとも示されている(会社法361④)。 上記の会社法の定めは、役員に対する不相当高額給与該当性の判断に影響する。すなわち、本連載の【第3回】で触れた形式基準による不相当高額給与の判定も行われることとなるため、役員に対して経済的利益の供与を行う場合、経済的利益の算定方法やその金額についても株主総会等で決議しておく必要があることに留意すべきである。   (3) 事前確定届出給与の適用可否 それでは、役員に対する経済的利益の供与が事前に確定していたとして、事前確定届出給与の制度を適用し、本事例で予定するような低廉譲渡によって損金算入することはできるのだろうか。 事前確定届出給与は、所定の時期に確定額を支給する定めに基づく給与に限られていた。ここで、現在は削除されている旧・法基通9-2-15では、確定額の意義として現物資産による提供などは「確定額」に含まれず、事前確定届出給与に該当しない旨が示されていた。すなわち、旧来から現物資産による経済的利益の供与は事前確定届出給与が適用できないと解されており、現物給与など経済的利益の供与による給与は変動するものであるため、事前に確定しているとは言えないためであると一般に説かれてきた。 上記の通り、現在では当該通達が削除されているが、この理由は平成29年度税制改正にある。すなわち、事前確定届出給与については、①確定した額の金銭、②確定した数の株式等、③又は確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で一定の要件を満たすものに限られるとされ(法法34①二)、事前確定届出給与の対象は、これら3類型のみである旨が明確化されたためである。 したがって、上記3類型以外の支給は事前確定届出給与が適用できないという整理となり、役員への低廉譲渡を予定していたからといって、事前確定届出給与に関する届出書を提出しておけば損金算入される、というものではない点は、以前と変わりないことは確認しておきたい。 (了)

#No. 349(掲載号)
#中尾 隼大
2019/12/19

基礎から身につく組織再編税制 【第11回】「適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限」

基礎から身につく組織再編税制 【第11回】 「適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限について解説します。   1 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限の趣旨 適格合併があった場合には、被合併法人の有する資産は、被合併法人の帳簿価額で合併法人に引き継がれます。この場合、被合併法人から移転を受けた資産の含み損を合併法人側で実現させ、合併法人の所得と相殺する、あるいは、被合併法人から移転を受けた資産の含み益を合併法人側で実現させ、合併法人の含み損と相殺するといった租税回避が想定されます。 このような租税回避を防止する観点から、一定の適格合併があった場合に、その後に含み損を実現したときは、その損失を損金の額に算入しないという規定が設けられています。   2 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限 (1) 内容 完全支配関係又は支配関係がある適格合併があった場合に、次のいずれにも該当しないときは、適用期間((2)参照)に合併法人において生じた一定の特定資産譲渡等損失額((3)参照)が損金不算入となります(法法62の7①、法令123の8①)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令123の8①二)。 (2) 適用期間 「適用期間」とは、次のいずれか早い日までの期間をいいます。 支配関係が生じた時期により、適用期間が下図のように異なることとなります。 又は (3) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、被合併法人の特定資産(特定引継資産)に係る譲渡等損失額と合併法人の特定資産(特定保有資産)に係る譲渡等損失額の合計額をいいます(法法62の7②)。 ① 特定引継資産 「特定引継資産」とは、適格合併により被合併法人から合併法人へ移転した資産で、支配関係発生日前から被合併法人が有していた資産(※)をいいます。 (※) 支配関係が生じた事業年度開始の日以後に有する資産が除外されるため(法令123の8⑤)、特定保有資産と同様に支配関係が生じた事業年度開始の日前から有していた資産となります。 ② 特定保有資産 「特定保有資産」とは、支配関係が生じた事業年度開始の日前から合併法人が有していた資産をいいます。 ③ 特定資産から除かれるもの 特定資産からは、次の資産が除かれています(法令123の8③⑭)。 ④ 1,000万円に満たないかどうかの判定 ③(ハ)における1,000万円の判定は、次のように区分した後の単位で判定することとされています(法規27の15①)。 ⑤ 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するための要件 適格合併の日の属する事業年度の確定申告書にその資産の時価及びその帳簿価額に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、時価の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存する場合に限ります(法規27の15②)。 ⑥ 特定資産譲渡等損失額の計算方法 特定資産譲渡等損失額は、特定引継資産及び特定保有資産について生じた譲渡、評価換え、貸倒れ、除却等の事由(譲渡等特定事由)による損失額から譲渡又は評価換えによる利益の額を控除して計算します。 (※) 特定引継資産の譲渡等損失額と特定保有資産の譲渡等損失額の損益通算は認められません。 (4) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 なお、みなし共同事業要件については、次回詳しく解説します。   3 特定資産譲渡等損失額の損金不算入のみなし規定 適格組織再編成等を利用して特定資産譲渡等損失額の損金不算入の規定を受けないようにする租税回避行為を防止するために、支配関係のある法人間の適格合併の日以前2年以内の期間に適格組織再編成等により移転があった資産でみなし共同事業要件を満たさないものについては、被合併法人又は合併法人が支配関係発生日又は支配関係発生日の属する事業年度開始の日に有する資産とみなされます(法令123の8⑫⑮)。 具体例には下図のような場合、資産bをAの特定資産とみなして、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限規定を適用することとなります。   4 時価評価した場合の特例 (1) 内容 被合併法人において含み益が生じている資産を多額に有しているケースでは、含み益を実現させて含み損と相殺すれば、含み損を自社で利用することができ、租税回避とはいえないため、特定資産の譲渡等損失について制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 時価純資産超過額 「時価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)を超える場合のその超える部分の金額をいいます。 (3) 簿価純資産超過額 「簿価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)に満たない場合のその満たない部分の金額をいいます。 (4) 時価純資産超過額がある場合の特例 被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額がある場合には、特定資産譲渡等損失額の制限はありません。 (5) 簿価純資産超過額がある場合の特例 被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における簿価純資産超過額がある場合には、簿価純資産超過額から繰越欠損金の制限対象金額についての特例で特定資産譲渡等損失額からなる欠損金額とみなされた金額を控除した金額が制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりです。 次回は「みなし共同事業要件」について解説します。   ◆適格合併があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限のポイント◆ 被合併法人の特定資産(特定引継資産)と合併法人の特定資産(特定保有資産)の両方について損金算入制限の規定が設けられています。 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するためには一定の手続きが必要です。 適格合併の日以前2年以内に適格組織再編成等があった場合には、みなし規定があるため留意が必要です。 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。   (了)

#No. 349(掲載号)
#川瀬 裕太
2019/12/19

相続空き家の特例 [一問一答] 【第43回】「被相続人居住用家屋の残存価額と取壊費用の経費性」-資産損失と取壊費用-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第43回】 「被相続人居住用家屋の残存価額と取壊費用の経費性」 -資産損失と取壊費用-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年9月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年12月に6,700万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人住まいをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 なお、その家屋の未償却残高が200万円で、その取壊費用が300万円でした。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用にあたって、その家屋の未償却残高と支出した取壊費用は、譲渡所得の計算上、どのように扱われるのでしょうか。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 A いずれも譲渡費用として控除されます。 ●○●○解説○●○● 土地等の譲渡に際し、その土地の上にある建物等を取り壊し、又は除却したような場合において、その取壊し又は除却がその譲渡のために行われたものであることが明らかであるとき、その取壊し又は除却の損失は譲渡費用となります(所基通33-8(資産の譲渡に関連する資産損失))。 また、取壊費用については、家屋の敷地を譲渡するためにその家屋を取り壊す必要があった場合には、譲渡費用として控除されます(所基通33-7(譲渡費用の範囲))。 したがって、本事例の場合、その家屋の未償却残高200万円とその取壊費用300万円は、いずれも譲渡費用として控除されます。 (了)

#No. 349(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/12/19

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第18回】(番外編③)「もしおばあさんが家の前できびだんごを売り始めたら~ポイント制度の取扱い」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第18回】 (番外編③) (最終回) 「もしおばあさんが家の前できびだんごを売り始めたら ~ポイント制度の取扱い」 公認会計士 石王丸 周夫   1 きびだんご屋、大繁盛 桃太郎が鬼退治から帰ってきて、しばらくたった頃のことです。 桃太郎の家の前で、村の子供たちや山の動物たちが、列をなして順番を待っています。 実は、おばあさんが家の前で、きびだんごを売り始めたのです。 桃太郎も戸口から出てきました。 「おばあさん、すごい行列ですね! きびだんごがこんなに人気だとは・・・」 「鬼退治ですっかり有名になったからだろうね。試しにきびだんごを作って売ってみたら、大繁盛なんだよ。」 桃太郎は「へぇ~」と言いながら、売り物のきびだんごを1つ手に取ると、そのまま家に入ろうとしました。それを見たおばあさんはすかさず、横に置いてあったハンコを桃太郎に渡して言いました。 「ほら、桃太郎! 奥になんか引っ込まないで、これを押すのを手伝っておくれよ!」 「なんですか、それは?」 「これはね・・・」おばあさんは得意気に答えました。「『桃印のハンコ』なんだよ。きびだんごを1つ買ってくれたら、紙にこれを1個押して渡してあげるのさ。それでもって、次にまた買いに来てくれた時は、その桃印の紙を出してくれれば、少しおまけしてあげるんだよ。」 「・・・なるほど、みんなも喜びそうだなあ。」 桃太郎はそう言って感心すると、桃印のハンコを押すのを手伝いました。 桃太郎の舞台は岡山です。岡山駅に行くと、お土産コーナーのあちこちで、きびだんごが売られています。桃太郎の家でもきびだんごを作って売っていたのではないでしょうか。そんな勝手な想像をして、今回のお話を設定してみました。 おばあさんは、きびだんごを買ってくれたお客さんに桃印のスタンプを押してあげます。お客さんが、次回以降の買い物時に、それをきびだんごの代金に充当できるのです。 これは、いわゆる「ポイント制度」ですね。 このようなポイント制度を採用して販売する場合、収益認識会計基準では、おばあさんが販売したきびだんごをどのように会計処理するのでしょうか(今回は、おばあさんが収益計上の主体です)。   2 桃印のスタンプも履行義務の1つ 収益認識会計基準では、ポイント制度の会計処理について指針を示しています。 それによると、当該ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合、ポイントを財・サービスの提供とは別個の履行義務として識別します。 上の話でいえば、「①きびだんごの提供」と「②付与した桃印の利用による将来のきびだんごの提供」を別個の履行義務として識別するのです。 1つの契約の中に、2つの履行義務が含まれると理解するわけですね。 その上で、取引価格を2つの履行義務に配分し、各履行義務の充足時点で収益を認識します。きびだんごについては販売時に収益計上し、桃印については顧客の利用時に収益計上します。 この連載の【第3回】で説明したように、履行義務と会計処理を1対1対応させるのです。   3 桃印のスタンプの値段は? では具体的に、数字を当てはめてみましょう。 おばあさんは、きびだんご1つ(定価100円)の売上に対して、桃印1個をお客さんに付与します。お客さんは次回以降の来店時に、桃印1個につき10円で利用できることとします。 今月はきびだんごが1,000個売れて、売上高は100,000円でした。その市場価格も100,000円とします。 おばあさんは、付与した桃印をちゃんと数えていて、今月は1,000個(10,000円分として利用可能)付与したことがわかっています。そして、来月以降利用される見込みの桃印は800個と見積もられました(つまり、利用可能性は80%です)。 桃印はそれ単独で売買されているわけではありませんが、市場価値を見積もったとしましょう。1個10円で利用できる桃印ですが、お客さんによる利用可能性を考慮して、1個につき8円と算定されたとします。そうすると、1,000個では8,000円(8円× 1,000個)となります。 以上を踏まえて、取引価格(契約金額)100,000円を2つの履行義務に配分することになります。以下のとおりです。 きびだんごの売上代金だと思われた100,000円(100円×1,000個)は、きびだんごと桃印の2つの値段の合計だったわけですね。 そう捉えるのが、この会計基準の処理方法です。   4 桃印のスタンプは「契約負債」 以上の情報を使って、当月の会計処理をします。 まずは結論を図表で示しますので、これを見ながら以下の説明を読んでください。 まず、きびだんご販売額の計上です。これは、履行義務①への配分額92,593円を売上高(きびだんご売上)に計上する処理となります。 次に、おばあさんが実際に受け取ったおカネの処理です。契約金額の100,000円ですね。それは、貸借対照表の現金勘定に計上されています。では、この100,000円と売上高92,593円の差額はどうなるのでしょうか。実はそれが、履行義務②への配分額7,407円なのです。 履行義務②の桃印は、おばあさんがお客さんに付与したものであり、来月以降、お客さんが来店した場合に、代金に充当される可能性があります。そのとき、おばあさんは桃印と引き換えに、きびだんごを引き渡す義務を果たさなければなりません。「義務」であるということは、負債ですね。そのことは【第2回】で説明しました。したがって桃印7,407円は、きびだんご販売時点では負債に計上されます。「契約負債」という科目です。 以上が当月末の会計処理です。 ついでに翌月の会計処理も簡単に説明しておきましょう。 翌月に、桃印のスタンプを持ったお客さんがおばあさんのところへやって来て、きびだんごと引き換えていきました。その場合、持ち込まれた桃印のスタンプの数に応じて、契約負債の義務が消滅し、売上に振り替わります。これが桃印使用時の会計処理です。   5 大事なのは基本の考え方 さて、ここまでポイント制度の会計処理を見てきましたが、さほど特殊な会計処理でもないと思いませんでしたか。 この連載の本編では、収益認識会計基準の基本的な処理方法を解説してきましたが、今回のポイント制度の会計処理も、実は、収益認識会計基準の基本に即しているのです。 おばあさんがお客さんにきびだんごを販売する場面は、契約の締結にあたりますよね。そこでまず、契約内容の確認をしました。その契約に2つの履行義務を見出しましたが、これは履行義務の識別です。当該契約による取引の価格も確認しましたが、1つの契約の中に履行義務が複数あるので、取引価格を履行義務①と②に配分しました。取引価格の算定と履行義務への配分です。そして、履行義務①と②について、それぞれの義務が果たされたタイミングで売上を計上しました。いうまでもなく、履行義務充足による収益の認識です。 以上は、本編で解説してきたことそのものです。 つまり、収益認識会計基準というのは、ポイント制度について固有の・・・会計処理方法を提示しているわけではないのです。「収益認識会計基準の基本を適用すると、会計処理はこうなりますよ」という、適用に際しての指針を示したにすぎません。 大事なのは「基本となる考え方」というわけです。 ▷今回のまとめ 付与したポイントは、提供した財・サービスと別個の履行義務と捉え、使用されるまでは契約負債に計上されます。   連載終了にあたって 1年間にわたって連載してきた「〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準」は、これで完結です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 この連載のアイデアは、「収益認識会計基準をやさしく解説してほしい」という編集部からの依頼を受けて考案したものです。といっても、初めから桃太郎の案を思いついたわけではなく、最初に出した案に対して「これでも難しい」と言われ、それならここまでやるしかないと、冗談半分で出した第2案が、この「桃太郎」だったのです。 収益認識会計基準における収益認識の本質を、「約束を果たしたときにほうびが手に入る」と単純化して捉え、それに似ている事柄を身の回りで探していく中で、「桃太郎」を思いつきました。 それでも、これが果たして解説記事として通用するかどうかは未知数でした。しかしながら、編集部の強力なサポートを得て、なんとか読者の皆様に読んでいただけるところまでたどり着いたというわけです。無事に完結できた今、筆者としてはほっとしているところであります。 この連載が読者の皆様の理解にどれだけお役に立てたかわかりませんが、なにせ収益認識会計基準の本文は読んでもわからない代物ですので、少なくとも本連載が収益認識会計基準を学ぶきっかけにでもなってくれればなによりです。 (連載了)

#No. 349(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/12/19

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第93回】株式会社RS Technologies「特別調査委員会調査報告書(2019年2月1日付)」 

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第93回】 株式会社RS Technologies 「特別調査委員会調査報告書(2019年2月1日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【特別調査委員会の概要】   【株式会社RS Technologiesの概要】 株式会社RS Technologies(以下「RST」と略称する)は、2010(平成22)年12月設立。シリコンウェーハの再生、製造及び販売事業を主たる事業とする。連結子会社は5社(国内及び台湾に各1社、中国に3社)である。売上高25,478百万円、経常利益6,141百万円、資本5,373百万円。従業員数1,159名(いずれも2018年12月期、連結ベース)。本店所在地は東京都品川区。東京証券取引所1部上場。会計監査人は有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という)。   【調査報告書の概要】 RSTは、2018年12月14日、「特別調査委員会の設置に関するお知らせ」というリリースにより、「一部取引において実在性に疑義があるという外部からの指摘」があったことから、特別調査委員会を設置して調査を行うことになったことを適時開示した。この時点で、取引規模は売上高約350百万円及び売上総利益約100百万円であるとしている。 「外部からの指摘」の「外部」が何を意味しているかについては、調査報告書及びその後に公表された改善報告書等でも明らかにされていない。 1 調査委員会による調査結果 (1) 取引の概要 実在性に疑義を指摘された取引は、多結晶ダイヤモンドパウダーを対象商材として、A社を売主、RSTを買主及び転売主、転売先をB社とする取引であった。 特別調査委員会の調査では、RSTは、A社からの仕入代金を注文書交付と同日に支払っており、一方、B社からの売掛金回収は注文書受領後90日(当初は95日)後であったことが判明。同時に、RST社内では、「B´社」の存在を確認していなかった。 (2) 本件取引を始めたきっかけ 調査報告書によると、RST代表取締役社長方永義氏(以下「方社長」と略称する)は、RST設立時の出資者であり、中古ウェーハの仕入先でもあるA社社長に対して商談を持ちかけたところ、A社社長からB社社長を紹介され、ダイヤモンドパウダーを商材とする本件取引の開始を合意するに至った。 方社長は、取引開始にあたって、A社社長とともにB社を訪問して、ダイヤモンドパウダーの商材が保管されていることを確認し、商材が入った瓶の現物を借用して、RST役職員にサンプルとして提示した。 方社長は、本件取引の実務担当者として、経営企画室長をその任に当たらせた。なお、後述のとおり、RSTでは、経営企画室が内部監査を担当していた。 (3) 総額処理から純額処理への変更 2016年1月19日、あずさ監査法人はRSTに対し、本件取引に係る売上認識につき、 一連の営業過程で仕入及び販売行為を行う際、本来、RSTが負担すべき瑕疵担保責任、在庫リスク、信用リスクを負っていないなどの点から、会計基準に照らして、B社との取引金額を純額(ネット)処理とするのが適当ではないかという指摘を行った。その指摘を受け、RSTはその後、開催された取締役会における当該処理方式の変更の報告を経て、本件取引に係る売上認識を、総額処理から純額処理に変更した。 (4) 取引の実在性の確認 特別調査委員会による関係者へのインタビューの結果、B社社長は、本件取引が実在しないことを自認し、エンドユーザーであるX社及びY社による注文書は、B社が作成したものであることを認めた。 一方、委員会のインタビューに対し、A社社長は、方社長に対して本件取引の商談を持ちかけた当初は、本件取引の商流にA社が入る想定はなかったが、方社長からB社との取引実績がなかったことを理由にA社による適切な管理を求められたこと、A社としても0.5%の手数料収入を得たいという思いがあったことから、参画したことを説明し、本件取引には実在性はあると認識していた旨を供述し、A社社長から提供を受けた取引記録が保存されたファイル一式及びA社社長のパソコンから任意提出を受けたメールを調査した限りでは、取引が実在しない架空取引の認識があったと認めるに足りる証拠は検出されなかった。 さらに、委員会は、方社長をはじめRST役職員については、架空取引の認識を有していたことをうかがわせる痕跡は見当たらないと結論づけた。 (5) 過年度決算の修正額 特別調査委員会の調査の結果、2015年12月期から2018年12月期第3四半期までの間で、取り消すべき売上高は314百万円、売上原価は232百万円で、利益は81百万円減少することとなる。 一方、A社に支払った仕入代金のうちB社から回収できなかった金額は2018年12月期第3四半期末現在、161百万円となっており、B社の財政状態、取引基本契約において連帯保証人となっているA社社長及びB社社長の資産の状況等を勘案して、この全額に貸倒引当金を設定する必要があると判断している。 2 原因の分析(報告書41ページ以下) 特別調査委員会は、原因分析として大きく4項目を挙げている。 確認が不足していた事項としては、「商流」「実在性」「証憑類」「情報の共有化」の4点を挙げた。一方、元出資者であり、RSTの創業期を支えたA社社長に対するRST役職員の過度の信頼については、「上場会社における取引可否の判断要因として重きをなすのは、違和感がある」と断じたうえで、こうした過度の信頼が、取引開始時の確認・検証が不足した背景にあるとしている。 また、「内部統制」「監査機能」の脆弱性として、「経営陣の補佐をする経営企画室が内部統制を担当していること自体が、独立性の観点からミスマッチ」であり、さらに、本件取引の実務担当者が経営企画室長であったことも「不可解」と評している。しかも、本件取引開始当時の経営企画室には室長1人しか存在せず、「経営企画室が内部監査をも兼任できる人的体制にないことが明らかである」と締め括っている。 3 再発防止策の提言(報告書46ページ以下) 特別調査委員会による再発防止策の提言は、次の7項目である。 委員会は、「既存取引先の見直し」の項目において、「不適当と認められるものがあれば、取引条件の変更及び取引関係の解消を含めた抜本的な見直し」を求め、「取引先のコンプライアンス体制の確認及び取引先への立入り検査(立入り検査権限の根拠条項の契約書への明記を含む)等を含めた取引先の選定及び管理に関する基準ないし規程類の整備」が必要であると提言している。もちろん、理想論としては、同意できる項目であるが、「立入り検査権限」を契約書で明記することが、実務的に、果たして可能かどうか、疑問の残るところである。 また、「牽制機能の強化」の項目では、当然のことながら、「独立性のある内部監査専属の部門の創設」を求めている。 4 RSTによる再発防止策 RSTが3月26日に公表した「特別調査委員会の調査報告に基づく再発防止策について」というリリースには、次のとおり、6項目の再発防止策が記載されている。 さすがに特別調査委員会の提言にあった「立入り検査」の文言について言及はされていないが、それ以外は、委員会による提言に沿ったものであると理解できる。 ただ、一点苦言を呈する箇所があるとすれば、「通報窓口」として、「中立性・公平性のある顧問弁護士による外部通報窓口」という表記がある点である。消費者庁が公表している「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(平成28年12月9日)」には、「利益相反関係の排除」(5ページ)という項目があり、外部委託窓口として、「中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所」の起用は避けることが求められており、この項目は、顧問弁護士は会社の利益を守る立場であることから、通報内容によっては、通報者との間で利益相反が生じる恐れがあるという理解が一般的である。 RSTがいう「外部通報窓口」は、のちに公表された「改善報告書」と「改善状況報告書」を読む限りでは、「内部からの通報の受付窓口の外部委託」であると理解できるため、通報内容によっては、顧問弁護士としての立場と通報を受けて調査を行う窓口としての立場の間に、利益相反が生じる可能性は存在する。たとえば、経営者の不正行為に関する通報があった場合などである。「顧問弁護士=中立性・公平性」という等式は必ずしも成立しないことを附言しておきたい。   【調査報告書の特徴】 中国から輸入されたダイヤモンドパウダーを国内のエンドユーザーに販売する一連の取引が架空であり、証券取引等監視委員会(以下「監視委」と略称する)からも課徴金納付命令の勧告を受けた事案である。架空取引は資金繰りに窮したB社社長が単独で企図して行われたものであり、特別調査委員会による原因分析のとおり、RST社内の内部統制が不十分であったことから、架空取引であることに気づかないまま、取引を継続したものであった。 本連載では、なるべく公表されてから時日の過ぎていない調査報告書を中心に取り上げているが、本調査報告書の公表は2019年2月のことであり、その点では少し時宜を逸した形となっている。そこをあえて取り上げることを決めたのは、こうした単純な架空取引の被害に遭う上場会社が後を絶たないことに対する警鐘と、10月に公表された監視委の「開示検査事例集」でも本件が取り上げられていることから、調査報告書の内容と開示検査で問題視されている内容とを読み比べてみたいという意図に基づくものである。 1 RSTの内部統制 本件取引が開始された時期の有価証券報告書(2015年12月期)によれば、内部監査を担務することとされている経営企画室は、代表取締役の直轄とされ、かつ、室員は室長ただ1人であった(2018年12月期の有価証券報告書では室員は2名とされている)。 調査報告書の概要でも見てきたとおり、問題となった取引の事務手続きは、経営企画室長の主導のもと行われており、本来、業務の適正性を管理監督する部門長が、実務をしているのでは、「実効的な監査をおよそ期し難い客観的状況にあった」(調査報告書45ページ)ことは言うまでもない。 ところが、調査報告書を読む限り、方社長がなぜ経営企画室長を本件取引の窓口としていたかについて、方社長からヒアリングをしている様子がうかがわれない。また、内部監査を担務する経営監査室長が取引の窓口となっていたことをあずさ監査法人が知っていたのか、調査報告書では明らかになっていない。 さらには、特別調査委員会は、こうしたRSTの内部監査体制を批判して、「経営企画室が内部監査をも兼任できる人的体制にないことが明らかである」と評しているのであるが、こちらもあずさ監査法人がこうした体制についてどのような考えを有していたのか、報告書では明言されていない。 2 監視委「開示検査事例集」 監視委が10月23日に公表した「開示検査事例集」において、本件は、「事例3」(17ページ)として取り上げている。そこでは、(1)法令違反の概要として、次のように記載されている。 こうした問題点に関しては、特別調査委員会のものと相違点はない。「開示検査事例集」が一歩踏み込んだ見解を示していると考えられるのは、架空売上が問題となった「事例1」から「事例3」までの解説を行った後に掲載されている「監視委コラム 架空取引(資金循環取引)の気付き」(20ページ)の中の次のような表現である。 RSTの会計監査人であるあずさ監査法人も、取引量の拡大に伴って、売上計上をネットにするように指導したものの、監査上問題視したのはそこまでで、売上の実在性について更なる証拠収集をしたという記述は、調査報告書には存在しない。 なお、前述のとおり、「事例1」から「事例3」は架空売上の計上による有価証券報告書虚偽記載事件であるが、3つの事例に共通しているのは、仕入先と販売先の代表取締役が実は同一人物だったということである。RSTの取引は、本来の仕入先との間にさらに1社、商流に参加しているために代表取締役が同一人物であるという事実が見えづらくなってはいるが、商流に参加しているすべての会社について、商業登記簿を確認したり、調査会社のレポートを取得したりして、取引先のデューデリジェンスを行うことが、こうした架空取引(資金循環取引)の被害に遭わないためには必須であることを、改めて強調しておきたい。 3 東京証券取引所による公表措置及び改善報告書の徴求 2019年4月12日、東京証券取引所は、「公表措置及び改善報告書の徴求について」を公表して、RSTの過年度決算短信等の修正について、公表措置を行った理由を次のように説明した。 さらに、改善報告書の徴求については、RSTの適時開示体制について改善の必要性が高いと認められることから、RSTが2019年3月26日に明らかにした再発防止に向けた取組みの徹底を促す視点から、その経緯と改善措置を記載した報告書の提出を求めることとしたと説明している。 これを受けて、RSTは、4月26日に「改善報告書」を、11月8日に「改善状況報告書」をそれぞれ提出している。 内部監査体制については、以下のような改善の記述がある(改善状況報告書15ページ)。 そのうえで、RSTは、「専任者の追加により、内部統制監査及び業務監査に集中でき、内部監査体制を強化できた」と評価している。 (了)

#No. 349(掲載号)
#米澤 勝
2019/12/19

企業結合会計を学ぶ 【第32回】「①単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理、②単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理、③単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第32回】 「①単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理、 ②単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理、 ③単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の3つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理 単独株式移転は次のようなケースである。 1 個別財務諸表上の会計処理 単独株式移転により株式移転設立完全親会社を設立した場合の株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は、親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価の算定(結合分離適用指針239項(1)①)に準じて処理する(結合分離適用指針258項)。 結合分離適用指針239項(1)①は次のように規定しており、当該規定に準じて処理することになる。 ◎親会社(株式移転設立完全親会社) 株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式)の取得原価は、次のように算定する。 《株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)》 【原則的な取扱い】 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。 【簡便的な取扱い】 株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、結合分離適用指針121項(1)②と同様に、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(結合分離適用指針404-3項)。 2 連結財務諸表上の会計処理 親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理(結合分離適用指針240項)に準じて処理する(結合分離適用指針259項)。 結合分離適用指針240項は次のように規定しており、当該規定に準じて処理することになる。 (1) 投資と資本の消去 株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧親会社)の株主資本を相殺する。 (2) 株主資本項目の調整 株式移転設立完全親会社の株主資本の額は、株式移転直前の連結財務諸表上の株主資本項目とする。   Ⅲ 単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理 単独新設分割は次のようなケースである。 1 個別財務諸表上の会計処理 単独新設分割により子会社を設立した場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する。 ◎親会社(新設分割会社) 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(結合分離適用指針226項)に準じて処理する(結合分離適用指針260項)。 ◎子会社(新設分割設立会社) 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割設立会社(子会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理(結合分離適用指針227項)に準じて処理する(結合分離適用指針261項、409項)。 2 連結財務諸表上の会計処理 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の連結財務諸表上、事業の移転取引及び子会社の増加すべき株主資本に関する取引は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する(結合分離適用指針262項)。   Ⅳ 単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理 1 新設分割会社の個別財務諸表上の会計処理 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(結合分離適用指針233項)に準じて処理する(結合分離適用指針263項)。 2 新設分割設立会社の個別財務諸表上の会計処理 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割設立会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社から子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)(結合分離適用指針234項)に準じて処理する(結合分離適用指針264項、409項)。 (了)

#No. 349(掲載号)
#阿部 光成
2019/12/19

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q24】「会社分割した場合、分割前に締結した36協定は分割後も有効か」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q24】 会社分割した場合、分割前に締結した36協定は分割後も有効か   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 事業場の同一性が認められる場合には、分割前に締結した36協定は分割後も有効だと考えられる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。   36協定とは 労働基準法では、原則として時間外労働及び休日労働を禁止しているが、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と書面による協定をし、これを所轄の労働基準監督署へ届け出た場合に限り、例外として当該協定で定めた範囲内で時間外労働及び休日労働が可能となる。この協定は労働基準法第36条を根拠にしていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれている。   免罰的効力 36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、原則として禁止されている時間外労働及び休日労働をさせたとしても、36協定の範囲内である限り、法違反とはならないとする免罰的効力を生じさせるものであって、会社と従業員との権利義務を定めたものではない。よって、36協定は会社分割によって包括的に承継される権利義務にはあたらない。   事業場の同一性が認められる場合 会社分割時の労使協定の取扱いについては、「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成12年労働省告示第127号)」(第2の3の(3)ロ)で、次の通り記載されている。 よって、事業場の同一性が認められる場合には、分割前に締結した36協定は分割後も有効だと考えられる。 なお、「事業場の同一性」については、労働者の構成、事業場の場所、事業の実態等が実質的に同一であるか否かにより判断されると解されている。 (了)

#No. 349(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2019/12/19

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第20回】「不動産を会社に賃貸している場合」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第20回】 「不動産を会社に賃貸している場合」   税理士法人トゥモローズ   前回までは事業承継時にできる老後資金準備策について、施策ごとに検討を行ってきたが、今回からは承継後における資金確保策を検討することとしたい。 中小企業の経営者は、創業当初は個人で事業を行い、事業の拡大に伴い会社を設立するケースが多いことから、個人で所有している土地建物を会社が賃貸する形式を取ることがある。 その場合、会社から賃貸料収入が入るため安定した収入源が確保される一方、まとまった資金調達や税対策という面から個人所有の不動産を会社に売却するという選択について検討する必要がある。 今回は、事業承継後、月々の給与収入がなくなるという心理的不安も考慮し、ある程度の賃貸料収入を得つつ、税対策を行うという両方の側面から、建物のみを売却した場合にフォーカスを当てて解説する。   1 土地評価の主要パターン まずは相続税における土地の評価について、想定できる主要なパターンを示す。 (1) 建物を個人で所有していた場合 (2) 建物を会社に売却し、土地を会社に貸し付けた場合   2 小規模宅地等の特例の適用可否 続いて、相続税における小規模宅地等の特例の適用可否について、パターンを示す。 (1) 建物を個人で所有していた場合 (2) 建物を会社に売却し、土地を会社に貸し付けた場合 (※) 措置法40条の2第1項に掲げる相当の対価を指す。   3 パターンと検討 上記1・2をまとめると、以下の通りとなる。 上記の通り、会社との契約や毎月の支払金額により相続税評価額が異なるため、毎月の収入金額と相続税対策を考え、どの方法がより最適であるかを検討する必要がある。 安定した収入が必要ない場合、相当の対価未満で会社に貸し出すことにより会社の資金が増え、事業承継を受けた親族などの資金繰りが楽になるが、その状態で相続を迎えた場合には、相続税負担が重くなることが懸念される。   4 その他 その他、安定した収入や相続税以外にも、建物を会社に売却することについて、検討する必要がある。それは、事業承継後の会社の自由度である。 会社に建物を賃貸している状態で建物の改装等を行う場合には、家主である個人とのやり取りが発生し、会社としての自由度が下がる可能性がある。 それに比べ、会社が建物を所有していた場合には、建物の改装等を行う際の自由度が高くなるため、会社の意思決定や行動が迅速に行えることは、事業承継後の会社としてメリットではないだろうか。 事業承継後は、なるべく先代の関与度を下げ、後継者の自由度を上げることにより、新たな発展や技術革新が見込まれることがある。 代表権や株式だけでなく、不動産による関与度も下げることにより、よりスムーズな事業承継が行えるのではないだろうか。 (了)

#No. 349(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/12/19

令和時代の幕開けに思い馳せる会計事務所経営 【第9回】「社員の定着に不可欠な評価制度とその運用方法」~目標設定の明確化と透明性の担保~(組織論⑤:人事評価制度編)

令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第9回】 「社員の定着に不可欠な評価制度とその運用方法」 ~目標設定の明確化と透明性の担保~ (組織論⑤:人事評価制度編)   株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊   組織論についてだいぶ長くお伝えさせていただきましたが、今回の評価制度編をもって、いったん「人」に関する事務所経営のお話については終わりとさせていただきます。 経営において、「人」がいかに重要な要素を占めているか、これまでの連載からご理解いただけたのではないでしょうか。 さて、人が定着しない問題に「社員間のコミュニケーション」や「働きがい」、「働きやすさ」など「組織風土」から生じるものがあるとともに、給与等に影響のある「評価制度」にも問題があるケースが多いのではないかと思います。 「組織風土」の問題については、前回のチームビルディングにおいてほぼエッセンスはお伝えできたように思いますので、今回は「評価制度」の問題に焦点を当ててお話していきます。   ➤離職の原因となる「人事評価制度」 さて、先生方の事務所では、評価制度がきちんと存在していますか? また、その評価制度はしっかりと運用されていますでしょうか? せっかくコストをかけて採用した社員が、育っては辞めるということが繰り返されてはいないでしょうか? もしかするとその原因は、「人事評価制度」にあるもしれません。 2015年の日本経済新聞社とNTTコムリサーチの行った「人事評価に関する調査」において、調査対象社員の約4割が評価制度の仕組みに不満を持っていると報じられました。 「不満」と回答した方の意見の中で、次のような4点が挙げられています。 1 なぜ「評価基準が不明確」と感じるのか なぜ被評価者は、評価基準が不明確と感じるのでしょうか? 評価制度には、「定量評価」と「定性評価」(※)なる評価軸がありますが、後者は評価基準が曖昧になる要素が多くあります。 (※) 「定量評価」と「定性評価」・・・「定量評価」は数値に基づいて達成度を評価することであり、「定性評価」は数値では表すことのできないものに対して評価をすることです。 会計事務所で社員に営業予算が存在していなければ、定量評価することは困難です。 しかし、業務それぞれに時間に対して費用を当てはめる取組みをしてみると、定量化が測れたりしませんか? なお、定量評価においても評価者と被評価者が話し合った上での予算設定と合意形成による透明性と納得感が、十分必要です。 2 なぜ「好き嫌いで評価されている」と感じるのか なぜ被評価者は、評価者の好き嫌いで評価されていると感じるのでしょうか? 評価制度の運用において中小零細事業者では評価者が1名のみであることが往々にしてあり、特に会計事務所においては所長先生1人であることが多いと思われます。 例えば、お酒が好きな先生が社員を食事に誘う場合を考えてみましょう。 先生からの誘いを断らないお酒が飲める社員がいる一方で、当然お酒が飲めない社員もいると思います。 お酒が飲めない社員が宴席にいることで場が盛り上がらないと先生が感じるのか、はたまた気を遣って誘うこともないのか。 このような環境では、被評価者は好き嫌いで評価されていると感じてもおかしくはないのではないでしょうか? 3 なぜ「自分の仕事ぶりが理解されていない」と感じるのか なぜ被評価者は、自分の仕事ぶりが理解されていないと感じるのでしょうか? 同じ達成度合いの社員への評価でも年度末に顕著な数字を挙げた社員をより評価してしまうような、評価者のバイアスによって冷静な評価ができていないケースも想定されます。 こんな偏った評価が行われれば、その社員は不満を持ったとしても仕方ないと思いませんか? 4 なぜ「上司から助言や指導がない」と感じるのか 最後に、なぜ被評価者は、上司から助言や指導がないと感じるのでしょうか? それは評価制度の運用に際し、しっかりとコミュニケーションが取れていないことに起因します。 評価者が被評価者に何を求めているのか、何がよくできていて、何に不足があるのか。 その不足を埋めるために何を改善すればよいのか。 逆に社員は会社から何を求められていて、どこに貢献できているのか、そしてどの部分を改善できればもっと成長するのか。 そういったコミュニケーションをしっかりと取る必要があります。 評価の世界では「1on1」というミーティングスタイルがあります。 互いが「評価」という1つの共通項目を通じてコミュニケーションをすることです。 毎日、毎週が叶わずとも毎月1回たった5分でも構いません。 年度末には社員が最高の評価結果を得るために、それはすなわち事務所として最高の結果を迎えるために、しっかりと膝を付け合わせる時間を設けることです。 そして、もちろん半期や通期にはしっかりと時間を確保して面談を実施することです。   ➤「究極のコミュニケーションツール」としての評価制度 どんなに素晴らしい評価制度も、運用如何では全く体をなさないこともあります。 例え高額な投資をして素晴らしい評価制度を導入したとしても、その運用を疎かにすればその投資自体が無駄になりかねません。 「評価制度」を単なる事務所運営のためのシステムとして考えてはいないでしょうか? 実は、人事評価制度の本当の役割とは「経営者と社員が理解し合える究極のコミュニケーションツール」であることです。 評価者と被評価者の互いがレベルアップを重ね、会社自体が成長していくための資源なのです。 現在ではAIやソフトウエアを活用した評価の仕組みがたくさんあります。 しかしながら、人・人材に関しては、デジタルなコミュニケーションでは解決できないことも実際は数多くあります。 アナログなコミュニケーションを大切にした制度、運用作りを考えてみませんか?   ➤人事評価制度における大切な土台 この連載の1つのキーワードですが、続けて読んでいただいている方には想像できるかもしれません。 ブランディングもマーケティングも採用も、そしてこの評価においても一番大切な土台は事務所の「理念」なのです。 経営者である先生の思想や価値観である経営理念が人事評価制度に反映されていますか? 総務人事部任せ、業者任せになってはいないでしょうか? ミッション、ビジョン、バリューを反映させた仕組みになっていますか? 評価制度が会社の成長を助けるツールであるとするならば、まさにその目的はミッションやビジョンを叶えることにあるのではないでしょうか。   ➤「社員の声」こそ経営課題 さらに人事制度を作るにあたって、働く社員の声を聞いて反映してみるのはいかがですか? 「社員が報酬やその体系を決めるなんてとんでもない」と思うかもしれませんが、それは早合点です。 「社員の声」そのものが会社の経営課題であると捉えることは、できませんか? 経営者の視点と社員の視点では、同じ問題でも、着眼点が全く違うことがあります。 社員が持つ不満や課題が、実は経営課題そのものであり、その経営課題を克服するために社員が協力する、そしてその協力そのものを目標として設定することはできないでしょうか? 社員も経営者と同じように「働く会社を良くしたい」、そう思っているはずです。 社員自身が関わることで会社が成長するならば、それは所属欲求を満たすことになります。 事務所の経営課題、すなわち社員自身の目標をクリアすることで満足感を得て、その満足感が報酬として社員に反映される、社員はまた頑張ろうと仕事に取り組むというサイクルができると理想的です。   ➤オンリーワンの人事評価制度 社員は一人一人個性があり、一人一人魅力が異なります。 個を尊重する組織作りとは、その一人一人の能力を最大限に発揮させてこそ成り立つものです。会社での役割は十人十色、その十人十種の評価テーブルをちゃんと機能させてこそ、オンリーワンの人事評価制度ができるのではないでしょうか。 それができれば、社員は感激するはずです。 「ウチの事務所は個人個人を大切にする素晴らしい会社なんだ」と家族に友人に知人に自慢するでしょう。 そんな社員がその事務所を辞めるなどあろうはずがありません。 むしろ、その言葉に共感した新しい仲間をきっと連れてきてくれることでしょう。 (了)

#No. 349(掲載号)
#杉山 豊
2019/12/19

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減特例の延長、印紙税に係る改正事項~令和2年度税制改正大綱~

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減特例の延長、 印紙税に係る改正事項 ~令和2年度税制改正大綱~   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   令和元年12月12日、「令和2年度税制改正大綱(与党大綱)」が公表された。 印紙税については、不動産譲渡契約書及び工事請負契約書に係る印紙税の税率の特例措置が延長される。   【概要】 高額な負担となっている建設工事請負や不動産譲渡に係る印紙税について、消費者の負担を軽減し、建設工事や不動産流通コストを抑制することによって、更なる建設投資の促進、不動産取引の活性化を図ることを目的とし、租税特別措置法第91条による「不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例」の適用期間が、令和4年3月31日までの2年間延長されることとなった。 【軽減税率】 ① 第1号の1文書に該当する「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 ② 第2号文書(請負に関する契約書)のうち、建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるもので、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 348(掲載号)
#山端 美德
2019/12/18
#