収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第14回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 (4) 法人税法22条の2第2項及び第3項との比較検討 ア 法人税法22条の2第2項及び3項の概要等 法人税法22条の2第2項は次のとおり定めている。 これまで見てきたとおり、法人税法22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の額について、引渡・役務提供基準を採用している(本連載第10回参照)。これに対して、法人税法22条の2第2項は、資産の販売等に係る収益の額について、確定した決算における収益経理など一定の要件を満たした場合には、1項の規定にかかわらず、近接日基準の採用を認める。 すなわち、資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを認める。 また、法人税法22条の2第3項は次のとおり定めている。 上記のとおり、法人税法22条の2第2項は近接日基準に基づく収益計上に当たって確定決算による収益経理を求めているが、3項は、かかる確定決算による経理を経ない申告調整による近接日基準の採用を認める。すなわち、3項は、資産の販売等に係る収益の額について、申告調整において近接日の属する事業年度の益金の額に算入することで、その申告調整額につきその事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして、2項の規定を適用することを認めている。 法人税法22条の2第1項の規律内容を理解する手掛かりを得るとすると、22条の2第2項は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」(公正処理基準準拠要件)、引渡しの日又は役務提供の日に近接する日の属する事業年度の「確定した決算において収益として経理」するという要件(確定決算収益経理要件。ただし、当然のことながら近接日要件の存在も忘れてはならない)を定めている。 法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準の適用に際し、少なくとも形式上、かような公正処理基準準拠要件や確定決算収益経理要件を課していないことが浮き彫りとなる。そして、法人税法22条の2第1項は、2項のような確定決算収益経理要件を課していないため、3項のような申告調整の規定も用意されていないという見方につながる。 なお、法人税法22条の2は、1項だけを見ると、厳格な引渡・役務提供基準を採用しているように見えるが、確定決算による収益経理又は申告調整に基づいて引渡しの日又は役務提供の日の近接する日に収益を計上することを認める2項や3項等の規定と合わせて見ると、全体としては会計基準の線に沿い、会計基準との調和を図っているという指摘がなされている(金子宏『租税法〔第23版〕』357頁(弘文堂2019)参照)。 イ 引渡・役務提供基準の位置付け 上述のとおり、法人税法22条の2第1項には、「確定した決算において収益として経理」するという確定決算収益経理要件が付されていない。法人税法22条の2第2項は確定決算主義を採用しているが、1項は同主義を採用していないのである。 また、法人税法22条の2第2項と異なり、1項には、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」という公正処理基準準拠要件が付されていない(ただし、引渡・役務提供基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」いるとはいえないことを含意するものではない)。このため、無償取引や違法取引などのように、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が存しない(と思われる)取引に対しても、引渡・役務提供基準が適用されることになる。 引渡・役務提供基準には公正処理基準準拠要件が付されていないことを根拠として、引渡・役務提供基準に法人税法独自の性格を見出すことも可能であろう。法人税法22条の2第1項は、(企業会計や会社法会計がどうであれ)法人税法上の収益の計上時期を決する原則的な定めとして、引渡・役務提供基準を採用することを宣明するものである。法人税法22条の2第1項が定める引渡・役務提供基準は収益の計上時期を決する原則的ルールであることは既に述べたところではあるが(本連載第10回参照)、法人税法22条の2第2項との比較においてもかかる結論を導くことができるといってもよい。 なお、仮に、収益認識会計基準が法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当するとしても、本連載第11回で述べたとおり、法人税法22条の2第1項が22条4項の「別段の定め」に該当するとすれば、22条の2第1項は22条4項に優先して適用される(収益認識会計基準が法人税法22条4項を通じて22条の2第1項に優先して適用されることはない)。法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項が除外されていることからも同様のことがいえる。 このことに関連して、渡辺徹也教授は、収益認識会計基準が法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当することを前提とされた上で、収益認識会計基準に法人税法22条の2第1項とは異なる考え方を採用している部分があった場合でも、法人税法は、同項による収益計上時期の方を優先することになること、これが同項の存在意義であると論じられる(渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』117頁(弘文堂2019)参照)。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《個別注記表》編 【第3回】 (最終回) 「会計方針や表示方法の変更等がある場合の記載内容」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 【第1回】では、中小企業に多い株式譲渡制限規定を定款に設けている株式会社について、個別注記表にどのような項目が必要かをご紹介しました。 今回は前回に引き続き、そのような会社における個別注記表に、会計方針や表示方法の変更等がある場合の記載内容について解説します。 【設例3】 前回の【設例2】では、当年度において、会計方針の変更や表示方法の変更は行っておらず、また、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準)に基づく会計処理を行っていない場合でしたが、もし、そのような変更や会計処理が行われていれば、具体的に何を注記するのでしょうか。会計方針の変更や表示方法の変更については、記載のサンプル例も示してください。 1 会計方針の変更が行われた場合の注記 会計方針の変更が行われた場合の「会計方針の変更に関する注記」は、次の事項(重要性の乏しいものを除く)です(会計規102の2)。 (1) 当年度より前の年度に遡及適用した場合 当年度より前の年度に遡及適用をした場合、記載サンプルの1つとして、次のような例が挙げられます。 (2) 当年度より前の年度に遡及適用をしなかった場合 当年度より前の年度に遡及適用をしなかった場合、記載サンプルの1つとして、次のような例が挙げられます。 (3) 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区分することが困難な場合 固定資産の減価償却方法に関する会計方針の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区分することが困難な場合に該当し、遡及適用を行わない会計上の見積りの変更と同様に扱われて、遡及適用されません。 この記載サンプルの1つとして、次のような例が挙げられます。 2 表示方法の変更が行われた場合の注記 表示方法の変更が行われた場合の「表示方法の変更に関する注記」は、次の事項(重要性の乏しいものを除く)です(会計規102の3)。 ◎ 表示方法の記載例 3 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準)に基づく会計処理が行われた場合の注記 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準)に基づく会計処理が行われた場合の「誤謬の訂正に関する注記」については、次の事項(重要性の乏しいものを除く)を注記します(会計規102の5)。 誤謬の訂正とは、当事業年度より前の事業年度に係る計算書類における誤謬を訂正したと仮定して計算書類を作成することをいいます(会計規2③六十四)。ここでの誤謬とは、意図的であるかどうかにかかわらず、計算書類の作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと又は誤って使用したことにより生じた誤りをいいます(会計規2③六十三)。実務上は、重要性がある場合に、このような誤謬の訂正が行われるものと思われます。 (《個別注記表》編 終了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q22】 会社分割により承継会社に承継された者には、どの就業規則が適用されるのか 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 会社分割により、分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合は、当該労働契約に関わる権利義務は包括的に承継会社に承継される。よって、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはないため、承継会社に承継された者については、会社分割後も分割会社で適用されていた就業規則がそのまま適用されることとなる。 ただし、承継会社に複数の就業規則が併存することにより労務管理に混乱をきたすことが想定されるため、会社分割前にできる限り就業規則の統一を図っておくべきといえる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 包括承継 会社分割により、分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合は、当該労働契約に関わる権利義務は包括的に承継会社に承継される。よって、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはないため、承継会社に承継された者については、会社分割後も分割会社で適用されていた就業規則がそのまま適用されることとなる。 したがって、例えば、会社分割によりA社からB社へ労働契約が承継された場合は、会社分割前に分割会社であるA社に在籍していた従業員にはA社の就業規則が適用され、また、承継会社であるB社に在籍している従業員には引き続きB社の就業規則が適用されるため、会社分割後は、B社において、A社の就業規則とB社の就業規則が併存することとなる。 労働条件の統合 会社分割後、承継会社に複数の就業規則が併存し、従業員により適用される就業規則が異なるとすれば、労務管理に混乱をきたすことが想定される。例えば、給与の締・支払日が異なる場合、分割会社の給与の締・支払日が15日〆当月25日払い、承継会社の給与の締・支払日が末日〆翌月10日払いとした場合を想定してみよう。 給与計算事務を担当する部署では、まず、毎月、25日支払分と翌月10日支払分の2回の給与計算を実施しなければならない。また、給与計算のために必要な残業時間等の勤怠集計期間も異なるため、勤怠管理システムの設定を個別に変更する等、勤怠管理もそれぞれ異なる対応をしなければならない。さらに、「離職証明書」や「算定基礎届」等の社会保険の手続きにおいても、締日を踏まえて対象者ごとに手続き書類を作成しなければならい。締・支払日が統一されている場合よりも、混乱してミスが生じやすい状況になるだろう。 このような混乱を避けるためにも、会社分割にあたっては、各社の就業規則を踏まえて、できる限り労働条件の統一を図っておく必要があるといえる。 労働条件の差異分析 各社の就業規則を踏まえて労働条件の統一を図るために必要なプロセスが、労働条件の差異分析である。まずは、各社の就業規則を踏まえて項目ごとに労働条件の洗い出しを行い、その差異を分析して新しい労働条件を検討する。 差異分析の対象となる労働条件の項目は多岐にわたるが、主なものを例示すると以下の通りとなる。 特に休日・休暇は従業員の注目度が高い項目となるため、丁寧な洗い出しが必要となる。また、出張が多い会社においては、出張旅費(日当)の金額も従業員の関心事となるため確認が必要だ。 労働条件の洗い出しは就業規則に記載されている事項を基に行うが、就業規則に記載されている事項だけを洗い出せばよいかというと、そうではない。就業規則に記載されている事項と実態が異なっていたり、就業規則には記載せずに適用している労働条件もあるからだ。労働条件の差異分析においては、それらも含めてすべて洗い出しが必要となる。 労働条件の差異分析後は、それらの結果を踏まえて、会社分割後の労働条件を決定した上で、就業規則を改定する必要がある。また、新しい就業規則で定めた労働条件がこれまでの労働条件を不利益に変更することになる場合には、労働契約法10条を踏まえた対応が求められる。 なお、会社分割までにすべての労働条件を統一することができればよいが、通常、組織再編はスケジュールがタイトな中で進行し、十分な検討時間を確保できない場合も多い。よって、給与制度や退職金制度等の会社分割後の労働条件を検討するために多くの時間を要するものについては、会社分割後、一定期間経過後に統一する対応も実務的にはよくみられる。この場合は、まずは就業規則の一部のみを統一して改定することとなる。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 (最終回) 弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫 ◆むすびに代えて◆ ~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~ 【後編】 「「『損害』とは何か」を弁護士と会計士が考える」 (※1) 「純資産法」とは、資産から負債を差し引いた額である純資産を用いて株価を計算する方法。 (※2) 「DCF法」については財務・税務編【第3回】を参照。 * * * (連載了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第18回】 「M&Aによる第三者への承継」 税理士法人トゥモローズ 中小企業経営者の事業承継の手法として、前回まで、①親族内承継(自社株の贈与や譲渡)、②親族外承継(自社株を自社の役員・従業員が購入(MBOやEBO))について、老後資金確保の観点から見てきた。今回は全くの第三者への事業承継であるM&A(Mergers and Acquisitions)について確認したい。 M&Aとは「企業の合併・買収」を意味し、具体的には経営者が持つ自社株を第三者に売却し経営権を引き渡すことである。つい先日も、アパレルのオンラインショップ大手の有名経営者がIT企業に自社の株式を譲渡したが、まさにM&Aの一形態といえる。 昨今の少子高齢化・人材難の時代にあって、特に中小企業経営者にとって後継者不足は頭の痛い問題である。その点、M&Aによって買収企業を見つけることができれば、自社株の売却による老後資金の確保及び会社の事業承継問題を一気に解決させることができる。 1 M&Aのメリット・デメリット まずはM&Aを実施した場合のメリットとデメリットを見ていきたい。ここでの登場人物は、中小企業(対象企業)、中小企業経営者(売り手)、買収企業(買い手)、FA(フィナンシャルアドバイザー)の4者となる。 2 M&A実行時に係る税制 次に、M&Aを行った際に関係する税制について見ていきたい。M&A実行時の中小企業経営者(売り手)にとっての税負担は注視する必要がある。 (1) 株の売却益 自己が保有する株式を買収企業に売却した場合、その他の所得と区分して(申告分離課税)(※)、売却益に対する税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)となる。 (※) その他の非上場株式との損益通算は可能。上場株式との損益通算は認められない。 (2) 退職金 1の①のとおり、経営から退くことにより役員退職金を受給する場合の税負担(所得税額)は下記のとおりである。 (図1)退職所得控除 (図2)退職所得の源泉徴収税額の速算表 (注)Aは千円未満切捨て (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第7回】 「マネジメントの醍醐味は人材育成にあり」 ~社員が辞めない、人が育つ組織作りとは~ (組織論③:人材育成編) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 未曽有の人材不足に直面し、そもそも採用の本来の目的を忘れていることはないでしょうか。 「面接時に見込んだ能力で、最高のパフォーマンスを仕事で発揮してもらうこと」 これが採用の本来の目的のはずなのに、どうも採用ばかりに躍起になってしまって、本末転倒の状態になってしまってはいませんか? さらに、採用した社員がただ単に個のパフォーマンスのみを追求するような組織風土では、そもそも組織である必要すらありません。 組織とは様々な個性のある人達が、たった1つの目的を達成するために力を合わせるから「組織」というのではないでしょうか。 「一人社長」、「一人事務所」ならまだしも、2人以上いればそれは「組織」です。 一人一人にそれぞれ人格があり、一人一人に価値観があり、一人一人に得手不得手があります。 先生は経営者として、その「人」の個性を大切に育んでいますか? 仮にチームがまとまらないと悩みを持っているのであれば、それはその「個」を尊重していないことに原因があるのかもしれません。 ➤「押しつけ」から「引き出す」育成へ 「教育」を英訳すると「education」ですが、その語源はどこからきているかご存知でしょうか? 実は、ラテン語の「educare」から来ていると言われています。そもそも「educare」は「引き出す」という意味です。 だから育成とはすなわち、能力を「発揮させる」「引き出す」ことにあるのです。 さて、先生方の育成で社員の能力を「引き出せ」ていますか? 「教える」ならまだしも「押しつけ」になってはいませんか? 私も20年近くマネジメントを経験してきました。 その中で人材育成には大いに悩み苦しみ、そして大いに喜び楽しみを味わってきました。 そんな中で転機となった、ある「事件」がありました。 「事件」の話はここでは触れませんが、これが今の私に大きく影響を及ぼしたと言ってよいと思います。 それはまさに、育成が「押しつけ」から「引き出し」に変わった瞬間でもありました。 ➤自身のモノサシだけで人を図るという愚かさ サラリーマン時代の私は幸いにも営業マンとして輝かしい成果を挙げました。 そして、拠点長としても社史に残るほどの実績を残すことができました。 しかし、その「事件」が起こるまでは、これらの成果はすべて私の力だけで成し得たものだと思っていたのです。 まだ40歳手前の頃で、ずいぶん鼻息も荒かったと記憶しています。 しかしながらその「事件」があって、自身の愚かさを痛感しました。 大いに部下に気づかされ、猛省し、自身の生き方、そしてマネジメント方法、育成方法にも大きな変化が起こりました。 それまでの私は、自身のモノサシでしか人を図ることができなかったのです。 私は営業マン、そして拠点長としての実績から、まさに自身を成功の教本だと思い込み、「自分を真似れば全員が成功する」という大きな勘違いをしていたのです。 それは前述した「押しつけ」そのものだったと思います。 そんな私が、そのあと80名もの部下を持つまでに至ったのは、恐らく人を育てる上での基本方針が180度変わったからに他なりません。 「押しつけ」から「引き出し」へ、本当の教育である「個」を育てるということに気がついたからです。 ➤人材育成のための5つのポイント 今回はこの「educare」、つまり「人材育成」について、ポイントを5つに絞ってお伝えします。多少なりとも参考になれば幸いです。 以上、5つのポイントはいかがだったでしょうか。 これらを十分に押さえられていると思う先生は、どうぞ根気よく続けてください。 できていなかったと気づいた先生は、どうぞこのような「引き出す」人材育成に挑戦してみてください。 このたった5つのポイントをしっかりとオペレーションできれば、人材は育ち、強い組織になると思います。 * * * 「組織力」とは個の力を存分に発揮させることで生まれます。 その個の力を余すことなく発揮させる環境を作るのが、リーダーである先生方の仕事です。 マネジメントと聞くと「管理」と言う言葉が頭に浮かびますが、人は「管理」では決して育ちません。 先生の強いリーダーシップを感じるからこそ、人は育つのです。 (了)
《編集部レポート》 第46回日税連公開研究討論会が札幌で開催 Profession Journal 編集部 日本税理士会連合会(神津信一会長)は、第46回日税連公開研究討論会を札幌で開催した。 札幌での公開研究討論会の開催は15年ぶり。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 今回の担当は、第1グループ =北海道税理士会、東北税理士会の2税理士会が担当し、それぞれ次のテーマで発表を行った。 当日はおよそ1,000名の税理士が全国から集い、研究発表の成果に耳を傾け、来賓として灘野正規札幌国税局長と鈴木直道北海道知事が来場し、花を添えた。 (北海道会の発表の様子) 東北会は、QRコードを活用した会場内アンケートを実施し、瞬時に結果を公開するなど新たな試みもみられた。 (東北会の発表の様子) 当日の北海道会と東北会の研究発表の模様は、日税連HP(会員専用ページ)から視聴できる。 次回第47回は第6グループ(四国税理士会、中国税理士会)が担当し松山で開催される。 (了)
《速報解説》 監査役協会、「監査役(会)の視点から見たコーポレートガバナンス改革」を公表 ~監査役会の機能強化等を提言~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年8月7日付で、(公社)日本監査役協会関西支部 監査実務研究会は、「『監査役(会)の視点から見たコーポレートガバナンス改革』~現状の課題とより機能するためへの提言~」を公表した。 これは、コーポレートガバナンスの取組みが進む中、東証上場会社のうち約7割に当たる監査役(会)設置会社に期待される役割・機能に関する議論があまり聞こえてこないとの問題意識から、コーポレートガバナンス改革の中で、監査役がその真価を発揮するために何がなされるべきかを議論したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 表紙を含めて23ページある。 以下では、報告書の「Ⅲ.監査役の視点から見たガバナンス改革」で述べられている主な内容について解説する。 ガバナンスの強化が行われた一方で、長年にわたり行われてきた監査役制度改革の効果が十分な効果をあげられなかったのか、もしそうだとするとその要因は何かについて、未だ明確なコンセンサスが得られたとはいえない中で、ただ国際競争力強化を旗頭に、英米型の企業統治の導入が促進されようとしている感は否めないのではなかろうかとし、従来型の監査役会設置会社は、依然として我が国の主流であり、その監査役から見た基本的な課題を述べている(9ページ)。 1 モニタリング化する取締役会との機能の未整合 非業務執行者である監査役の監査は、基本的に執行者たる取締役に対する監査を基本としており、「監督」者たる非業務執行取締役の職務妥当性をどのような観点から監査するのかについて、十分な整理ができているとはいえない(10ページ)。 議案をチェックするのは、第一義的には社外取締役か、監査役なのか、また、社外取締役も取締役として監査対象であるなら、「社外取締役との連携を確保すべき」(CGコード「補充原則4-4①」)についてどのように整理されるのかなどである。 2 「守り」の機能と取締役化への懸念 コーポレートガバナンス・コードでは、社外取締役の役目としては「攻めのガバナンス」に焦点が当てられる一方、監査役は、「守り」を中心にこれを担うという対比した文脈に置かれている(10ページ)。 しかしながら、経営を競技に例えるならば「攻め」と「守り」は不可分であり、取締役は両面でのガバナンス構築に責任があるとし、監査役は競技を離れた立場から、その双方が機能しているかを監視する職務がある。 我が国において、企業の公正さを外部へ保証するには監査役への信頼をベースに、監査報告に包括的に委ねるものであったが、これも英米型の、より詳細を開示することを通しての保証へと急速に変化しつつあるとの認識を示し、監査役が経営執行の片輪としての「守り」にとらわれれば、会社法の想定する客観性・独立性を放棄し、その信頼を自ら損なう危険性があるのではないかと述べている(11ページ)。 3 監査役の独立性の脆弱性 監査役の人事に関する例を示し、報酬や教育とともに、監査役(会)の独立性をいかに担保するかは依然として大きな課題であると述べている(11ページ)。 4 監査役がより機能するための提言 次の提言を行っている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる 実務上の論点をまとめた研究報告を公表 ~各社の有報・プレスリリース等公表資料を抜粋した参考事例も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年10月7日、日本公認会計士協会は、「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」(租税調査会研究報告第35号)を公表した。 これは、上場企業における役員報酬制度改革の更なる推進の一助となるため、また、日本公認会計士協会の会員の実務に資することを目的として、役員給与に関する税務上の論点を検討したものである。導入例や実務上の留意点、裁判例なども具体的に記載されており、実務に資するものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究報告は表紙を含めて93ページあり、また、「参考事例資料」として80ページある。 検討している主な内容は次のとおりである。 以下では、主な内容について解説する。 1 金銭報酬(業績連動の金銭報酬)(P11) コーポレート・ガバナンスの強化のためには、短期だけではなく、中長期的な企業価値の向上が求められ、株式報酬のほか、次のような金銭報酬について、概要、導入例、税務上(法人税法、所得税法)の取扱いが述べられている。 2 株式報酬(事前交付)(P19) 事前交付型の株式報酬は、インセンティブとして機能するように、職務執行の開始時に譲渡制限付株式を交付し、一定の条件を満たした場合に譲渡制限を解除する設計が一般的に利用される。 法人税法上、事前交付型の株式報酬については、業績連動給与に該当するものについては、一定の要件を充足しない限り、その全額を損金算入することはできない。 他方、業績連動給与に該当するもの以外の株式報酬については、①特定譲渡制限付株式であり、かつ②事前確定届出給与の要件を満たした場合に、損金算入が可能である。 事前交付型の株式報酬の場合は、事前確定届出給与に当たるものとして設計されることが多いと思われるとのことである。 損金算入要件、損金算入時期、損金算入額などについて詳細に述べられている。 3 株式報酬(事後交付)(P25) 在任時の事後交付型株式報酬は、現物株式を事後(一定期間経過後又は業績評価期間終了後)に役員に交付されるものである。 初年度(スキーム導入時)に対象となる役員等への金銭報酬債権付与の決議を行い、一定の業績等連動期間後に、当該金銭報酬債権が現物出資財産として払い込まれ、株式が発行される。 次のものがある。 また、報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該資金を原資に市場等から株式を取得した上で、一定期間経過後に役員に株式を交付する、いわゆる株式交付信託の仕組みによる設計もある。 パフォーマンス・シェア・ユニット、株式交付信託、リストリクテッド・ストック・ユニットについて、制度の概要、導入例、税務上の取扱いなどが述べられている。 4 インセンティブ報酬に関する退職給与(P39) 平成29年度税制改正前においては、役員退職給与は法人税法34条1項の規制対象外であり、退職した役員に対する退職給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額を除いて(法人税法34条1項本文括弧内及び2項)、全額が損金算入対象であったが、平成29年度税制改正以後は、役員退職給与であっても、「業績連動給与」に該当するものは法人税法34条1項の規制対象とされ、同項3号に定める要件を充足しない限り、損金不算入となっている(法人税法34条1項本文)。 研究報告では、①インセンティブ報酬に関する退職給与に係る税務と②その他の退職給与に係る税務に区分してその概要、論点(裁判例を含む)について述べている。 5 役員給与の減額・返還-クローバック-(P64) 「クローバック」(clawback)とは、一般に、財務諸表の修正再表示や不祥事などの、あらかじめ定められたトリガーとなる事由が生じた場合に行われる、すでに支給された報酬の取戻しをいう。 クローバックの法的性質、税務上の論点などについて述べられている。 (了)
2019年10月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.339を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。